説明

歯車装置における潤滑剤のシール構造

【課題】第二回動体11とケーシング23との回動部に、歯車機構を潤滑する潤滑剤が容易に浸入することがないように、潤滑剤の侵入を抑制する抑制手段を備えた歯車装置における潤滑剤のシール構造を提供することを目的とする。
【解決手段】ケーシング23内に配設され、噛合部Qに潤滑剤が充填され、駆動源の駆動力を受けて回動する歯車機構と、外周がケーシング23の内周に間隙を介して同軸状に配設されると共にケーシング23の内周に転動体15を介して回動自在に支持され、歯車機構の回転駆動力が伝達されて回動する第二回動体11とを備え、前記間隙が、転動体15を介して軸方向に延出し、且つ、径方向に屈曲するように構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ケーシング内に、潤滑剤が充填されて回動する歯車機構と、歯車機構の回転駆動力が伝達されて回動する回動体とを備えた、歯車装置における潤滑剤のシール構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ケーシング内に、潤滑剤が充填されて回動する歯車機構と、ケーシングの周壁に間隙を介して同軸状に配設されると共に、その外周がケーシングの内周にベアリング(所謂、転動体である)を介して回動自在に支持され、歯車機構の回転駆動力が伝達されて回動する回動体と、を備えた歯車装置が知られている。
【0003】
例えば、前記の歯車装置として、ケーシング内に、駆動源の駆動力を受けて回動する回転軸に接続されこの回転軸とともに回動する太陽歯車と、太陽歯車に空隙を介して同軸状に配設された内歯車と、空隙に配設され太陽歯車及び内歯車に螺合する複数の遊星歯車と、遊星歯車を回転自在に支持すると共に太陽歯車と同軸状にベアリング(所謂、転動体である)回転自在に支持されたキャリア(所謂、回動体である)と、を備え、内歯車を固定し、太陽歯車の回転速度をキャリアを介して減速する遊星歯車減速機が知られている。
【0004】
そして、前記の遊星歯車減速機において、太陽歯車と遊星歯車との噛合部、遊星歯車と内歯車との噛合部にグリースや潤滑油等の潤滑剤が充填され、回動体とケーシングとの間隙からオイルがケーシングの外部に漏れることがないように、ベアリングを介して歯車機構とは反対側に、ケーシングの内周とキャリアの外周にオイルシールが装着された潤滑剤のシール構造がある(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2002−181139
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載の遊星歯車減速機における潤滑剤のシール構造によれば、キャリアとケーシングとの間に間隙が構成され、この間隙を介してベアリングに向かって、歯車機構を潤滑した潤滑剤が浸入し、歯車機構を潤滑した潤滑剤には歯車機構における磨耗粉や塵埃等が混入しているので、キャリアの円滑な回動を損なう虞があった。
【0006】
そこで、本発明は、転動体を介して回動自在に支持される回動体とケーシングとの回動部に、歯車機構を潤滑する潤滑剤が容易に浸入することがないように、潤滑剤の侵入を抑制する抑制手段を備えた歯車装置における潤滑剤のシール構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
かかる目的を達成するためになされた請求項1に記載の発明は、歯車装置における潤滑剤のシール構造において、ケーシング内に配設され、噛合部に潤滑剤が充填され、駆動源の駆動力を受けて回動する歯車機構と、外周が前記ケーシングの内周に間隙を介して同軸状に配設されると共に前記ケーシングの内周に転動体を介して回動自在に支持され、該歯車機構の回転駆動力が伝達されて回動する回動体と、を備え、前記間隙が、前記転動体を介して軸方向に延出し、且つ、径方向に屈曲するように構成されている、ことを特徴とする。
【0008】
請求項1に記載の歯車装置における潤滑剤のシール構造によれば、ケーシングの内周と回動体の外周によって構成される間隙が、転動体を介して軸方向に延出すると共に径方向に屈曲するように構成されているので、間隙を介して軸方向に向かう潤滑剤の流動抵抗が大きくなり、歯車機構を潤滑した潤滑剤が転動体の回動部に浸入することがないように抑制できる。
【0009】
また、請求項1に記載の歯車装置における潤滑剤のシール構造は、請求項2に記載の発明のように、前記間隙が、前記転動体から前記歯車機構に向かって軸方向に延出する第一の間隙と、前記第一の間隙の端部に連結され内径方向に延出する第二の間隙と、前記第二の間隙の端部に連結され前記歯車機構に向かって軸方向に延出する第三の間隙と、前記第三の間隙の端部に連結され外径方向に延出する第四の間隙とによって構成されていることにより、これらの間隙を介して潤滑剤が転動体の回動部に浸入することがないように、ラビリンス効果を発現させることができる。また、請求項1に記載の歯車装置における潤滑剤のシール構造によれば、第四の間隙が外径方向に延出しているので、回動体の回動に伴って、潤滑剤が遠心力により第四の間隙に沿って外径方向に流れ易く、軸方向に向かって流れる潤滑剤の流動抵抗が大きくなり、転動体の回動部への潤滑剤の浸入を抑制できる。
【0010】
また、請求項1又は請求項2に記載の歯車装置における潤滑剤のシール構造は、請求項3に記載の発明のように、前記転動体を介して前記歯車機構とは反対側に、前記ケーシングの内周と前記回動体の外周との間に装着され、該ケーシングと該回動体とを密閉する環状のシーリング部材を備え、前記間隙が、前記転動体から前記シーリング部材に向かって軸方向に向かって延出する第五の間隙と、前記第五の間隙の端部に連結されて外径方向に延出する第六の間隙と、によって構成され、前記シーリング部材の前記転動体側に位置する端面が前記ケーシングに対して離間し、この離間部を前記第六の間隙として備えた、ことにより、万が一、潤滑剤が転動体を介してシーリング部材に向かって流出しても、転動体からシーリング部材に至る間隙が屈曲しているので、シーリング部材を介して転動体とは反対側に潤滑剤が流出することがないように抑制できる。また、第六の間隙がシーリング部材の端面を一端として構成されているので、シーリング部材の軸方向への装着位置を変化させ、第六の間隙の寸法を容易に調整できる。
【0011】
また、請求項3に記載の歯車装置における潤滑剤のシール構造は、第六の間隙が第五の間隙の端部より外径方向に延出しているので、第六の間隙に到達した潤滑剤が遠心力によって外径方向に流れ易く、シーリング部材を介して軸方向への潤滑剤の流出を抑制できる。
【0012】
また、請求項1乃至請求項3の何れか記載の歯車装置における潤滑剤のシール構造は、請求項4に記載の発明のように、前記第三の間隙が、前記第一の間隙、第二の間隙、第四の間隙よりも狭く構成されていることにより、軸方向へ向かう潤滑剤の流動抵抗が大きくなり、転動体の回動部への潤滑剤の浸入を抑制できる。
【0013】
次に、請求項5に記載の発明は、請求項1乃至請求項4の何れか記載の歯車装置における潤滑剤のシール構造において、前記ケーシングの内周と前記回動体の外周に沿って、相対向するV溝状の軌道面が形成され、前記転動体は、前記V溝状の軌道面に沿って互いに直交して配設された複数の円筒状ころである、ことを特徴とする。
【0014】
請求項5に記載の歯車装置における潤滑剤のシール構造によれば、転動体が、V溝状の軌道面に沿って互いに直交して配設された複数の円筒状ころであって、ケーシングの内周と回動体の外周との間に請求項1乃至請求項4の何れかの間隙が備えられているので、V溝状の軌道面に至る潤滑剤の浸入を抑制し、複数の円筒状ころによる負荷容量の優れた歯車装置を得ることができる。
【0015】
次に、請求項6に記載の発明は、請求項1乃至請求項5の何れか記載の歯車装置における潤滑剤のシール構造において、前記歯車装置は、駆動源の駆動力を受けて回動する太陽歯車と、該太陽歯車に空隙を介して同軸状に配設された内歯車と、前記空隙に配設され、前記太陽歯車及び前記内歯車に噛合すると共に前記回動体に回動自在に支持された遊星歯車と、を備え、前記第三の間隙が、前記内歯車と前記遊星歯車との噛合部よりも内径側に配設されている、ことを特徴とする。
【0016】
請求項6に記載の歯車装置における潤滑剤のシール構造によれば、第三の間隙が、内歯車と遊星歯車との噛合部よりも内径側に配設されているので、内歯車と遊星歯車との噛合部における潤滑剤が、回動体の回動による遠心力によって外径側に向かって流れ易く、第三の間隙への浸入を抑制でき、延いては、転動体の回動部への潤滑剤の浸入を防止できる。
【発明の効果】
【0017】
本発明の歯車装置における潤滑剤のシール構造は、ケーシングの内周と回動体の外周によって構成される間隙が、転動体を介して軸方向に延出すると共に径方向に屈曲するように構成されているので、この間隙を介して転動体に向かう潤滑剤の流動抵抗が大きくなり、歯車機構を潤滑した潤滑剤が転動体の回動部に浸入することがないように抑制できる。
【0018】
また、本発明の歯車装置における潤滑剤のシール構造によれば、外径方向に延出する第四の間隙を備えているので、回動体の回動に伴って、潤滑剤が遠心力により第四の間隙に沿って外径方向に流れ易く、軸方向へ向かう潤滑剤の流動抵抗が大きくなり、転動体の回動部への潤滑剤の浸入を抑制できる。
【0019】
また、本発明の歯車装置における潤滑剤のシール構造によれば、万が一、潤滑剤が転動体を介してシーリング部材に向かって流出しても、このシーリング部材を介して転動体とは反対側に潤滑剤が流出することがないように抑制できる。
【0020】
また、本発明の歯車装置における潤滑剤のシール構造によれば、歯車装置として、駆動源の駆動力を受けて回動する太陽歯車と、該太陽歯車に空隙を介して同軸状に配設された内歯車と、前記空隙に配設され、前記太陽歯車及び前記内歯車に噛合すると共に前記回動体に回動自在に支持された遊星歯車とを備えた際に、第三の間隙が、内歯車と遊星歯車との噛合部よりも内径側に配設されているので、内歯車と遊星歯車との噛合部における潤滑剤が、回動体の回動による遠心力によって外径側に向かって流れ易く、第三の間隙への浸入を抑制でき、延いては、転動体の回動部への潤滑剤の浸入を防止できる。また、本発明の歯車装置における潤滑剤のシール構造によれば、転動体が、V溝状の軌道面に沿って互いに直交して配設された複数の円筒状ころであって、ケーシングの内周と回動体の外周との間に請求項1乃至請求項4の何れかの間隙が備えられているので、V溝状の軌道面に至る潤滑剤の浸入を抑制し、複数の円筒状ころによる負荷容量の優れた歯車装置を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
次に、本発明の一実施例の、歯車装置における潤滑剤のシール構造を、図面にもとづいて説明する。図1は本発明の歯車装置における潤滑剤のシール構造が適用された遊星歯車減速機の全体構成を表す断面図である。また、図2は同実施例の遊星歯車減速機における、潤滑剤のシール構造の詳細を表す拡大断面図である。
【0022】
図1に表したように、遊星歯車減速機1は、図示されない駆動モータ(所謂、駆動源である。)の駆動力を受けて回動する回転軸2、回転軸2に接続され回転軸2と共に回動する太陽歯車3、太陽歯車3に空隙を介して同軸状に配設された内歯車6、前記空隙に配設され太陽歯車3及び内歯車6に噛合する遊星歯車5、遊星歯車5を連結ピン21を介して回転自在に支持すると共に太陽歯車3と同軸状に回転自在に支持された第一回動体7、第一回動体7のボス部7cに一体に接合された第二太陽歯車8、第二太陽歯車8に空隙を介して同軸状に配設された第二内歯車9、前記空隙に配設され第二太陽歯車8及び第二内歯車9に噛合する第ニ遊星歯車10、第ニ遊星歯車10を第ニ連結ピン22を介して回転自在に支持すると共に第ニ太陽歯車8と同軸状に回転自在に支持された第ニ回動体11、ケーシング23、24、歯車機構の潤滑剤をシールするためのシーリング部材25等を備えている。また、太陽歯車3、内歯車6、遊星歯車5、第二太陽歯車8、第二内歯車9、第ニ遊星歯車10等は、はすば歯車によって形成されている。
【0023】
回転軸2は、一端がケーシング24に形成された開口穴24aに突出し、その突出部に中空部26とネジ孔2aを備え、中空部26に駆動モータの回転軸(図示せず)が挿入され、ネジ孔2aを介して駆動モータの回転軸に固定される。
【0024】
ケーシング23、24、内歯車6、第ニ内歯車9等は、ボルト27によって一体に固定されている。内歯車6、第二内歯車9は、夫々、遊星歯車5、第二遊星歯車10に噛合する歯車としての機能と、太陽歯車3、遊星歯車5、内歯車6、第二太陽歯車8、第二遊星歯車10、第二内歯車9等からなる歯車機構を収納するケーシングとしての機能とを備えている。
【0025】
次に、遊星歯車減速機1は、遊星歯車5にスラスト方向に貫通する貫通孔に回動自在に係合すると共に一端が第一回動体7に固定された複数の連結ピン21と、第一回動体7を介して遊星歯車5の反対側において、複数の連結ピン21の他端が固定された第一環状部材28とを備えている。また、第一環状部材28は、軸方向に突出するボス28aを備え、ボス28aの周囲にスラスト軸受19が装着され、スラスト軸受19を介してケーシング24に、回動自在にスラスト方向に支持されている。また、連結ピン21は、ベアリング12を介して遊星歯車5に回動自在に係合している。そして、遊星歯車5は、その内周にベアリング12が係合し、連結ピン21及びベアリング12を介して、第一回動体7に回動自在に支持されている。
【0026】
また、第一回動体7は、軸方向の一端側が、連結ピン21、遊星歯車5、太陽歯車3、回転軸2等を介して、図示されない駆動モータの回転軸に連結し、軸方向の他端側が、第ニ太陽歯車8、第ニ遊星歯車10、第ニ連結ピン22等を介して、第ニ回動体11に連結し、回転自在に支持されている。
【0027】
次に、遊星歯車減速機1は、第二遊星歯車10にスラスト方向に貫通する貫通孔に回動自在に係合すると共に一端が第二回動体11に固定された複数の連結ピン22と、第二回動体11を介して第二遊星歯車10の反対側において、複数の連結ピン22の他端が固定された第二環状部材29とを備えている。また、第二環状部材29は、内周が第一回動体7のボス部7cの外周に間隙を介して配設されている。また、連結ピン22は、ベアリング13を介して第二遊星歯車10に回動自在に係合している。そして、第二遊星歯車10は、その内周にベアリング13が係合し、連結ピン22及びベアリング13を介して、第二回動体11に回動自在に支持されている。
【0028】
また、第ニ回動体11は、転動体15を介して、ケーシング23に回動自在に支持されている。詳しくは、ケーシング23の内周と第二回動体11の外周に沿って、相対向するV溝状の軌道面が形成され、V溝状の軌道面に沿って、複数の円筒状ころを互いに直交させて配設し、転動体15が構成されている。
【0029】
また、遊星歯車減速機1は、第二太陽歯車8と第二回動体11との軸方向における間隙に、第二太陽歯車8の端部が当接するスライド板17と、スラスト軸受18が装着され、第二太陽歯車8が、スライド板17、スラスト軸受18を介して第二回動体11に、回動自在にスラスト方向に支持されている。また、第二回動体11の端部には、被駆動体に連結するための、ねじ孔11a、11b、位置決め穴11c等が形成されている。
【0030】
次に、遊星歯車減速機1は、前記の歯車機構の噛合部の磨耗を低減し円滑な回動を行うために、ケーシング23、24、内歯車6、9に囲まれる空隙内に、所定量の潤滑剤が充填され、且つ、この潤滑剤が外方に漏れないように、ケーシング24側には、開口穴24aを密閉するように、図示されない駆動モータのブラケットが取り付けられ、一方、ケーシング23側には、ケーシング23の内周と第二回動体11の外周との間にシーリング部材25が装着されている。
【0031】
また、本実施例の遊星歯車減速機1は、歯車機構を潤滑する潤滑剤が転動体15の回動部に浸入しないように、潤滑剤の浸入を抑制する抑制手段を備えている。以下に、前記の抑制手段の構成を図2に基づいて説明する。
【0032】
図2に表したように、ケーシング23と第二回動体11の外周との間には、第二回動体11が転動体15を介して回動するように間隙が構成されている。そして、この間隙が、転動体15から歯車機構に向かって軸方向に延出する第一の間隙T1と、第一の間隙T1の端部に連結され内径方向に延出する第二の間隙T2と、第二の間隙T2の端部に連結され歯車機構に向かって軸方向に延出する第三の間隙T3と、第三の間隙T3の端部に連結され外径方向に延出する第四の間隙T4とによって構成されている。また、間隙T4は、ケーシング23の端面と第二内歯車9との端面とによって構成され、且つ、第二内歯車9と第二遊星歯車8との噛合部Qよりも外径側に延出するように構成されている。
【0033】
また、転動体15を介して歯車機構とは反対側に、ケーシング23の内周と第二回動体11の外周との間に装着され、ケーシング23と第二回動体11とを密閉する環状のシーリング部材25を備え、転動体15からシーリング部材25に向かって軸方向に向かって延出する第五の間隙T5と、シーリング部材25の軸方向の端面とケーシング23の端面の間に構成され、第五の間隙T5の端部に連結されて外径方向に延出する第六の間隙T6とによって構成されている。また、この際、第三の間隙T3が、第一の間隙T1、第二の間隙T2、第四の間隙T4よりも狭く構成されている。
【0034】
また、第三の間隙T3は、第二内歯車9と第二遊星歯車10との噛合部Qよりも内径側に位置するように構成されている。また、ケーシング23と第二内歯車9との突合せ面には、弾性を有するOリング(シール材である)30が装着されている。
【0035】
以下に、前記の構成を有する実施例の、遊星歯車減速機1における潤滑剤のシール構造の作用効果を記載する。
【0036】
本実施例に記載の遊星歯車減速機1における潤滑剤のシール構造によれば、ケーシング23の内周と第二回動体11の外周によって構成される間隙が、転動体15を介して軸方向に延出すると共に径方向に屈曲するように構成されているので、この間隙を介して転動体15に向かう潤滑剤の流動抵抗が大きくなり、歯車機構を潤滑した潤滑剤が転動体15の回動部に浸入することがないように抑制できる。また、一般に、各歯車がはすば歯車である際に、各歯車が平歯車であるよりも、潤滑剤が軸方向に流れ易いが、本実施例に記載の遊星歯車減速機1における潤滑剤のシール構造によれば、歯車機構を潤滑した潤滑剤が転動体15の回動部に浸入することがないように抑制できる。
【0037】
また、本実施例に記載の遊星歯車減速機1における潤滑剤のシール構造によれば、転動体15から歯車機構に向かって軸方向に延出する第一の間隙T1と、第一の間隙T1の端部に連結され内径方向に延出する第二の間隙T2と、第二の間隙T2の端部に連結され歯車機構に向かって軸方向に延出する第三の間隙T3と、第三の間隙T3の端部に連結され外径方向に延出する第四の間隙T4とを備えているので、潤滑剤がこれらの間隙を介して転動体15の回動部に浸入することがないように、ラビリンス効果を発現させることができる。
【0038】
また、本実施例に記載の遊星歯車減速機1における潤滑剤のシール構造によれば、第四の間隙T4が外径方向に延出しているので、第二回動体11の回動に伴って、潤滑剤が遠心力により第四の間隙T4に沿って外径方向に流れ易く、潤滑剤の転動体15に向かう流動抵抗が大きくなり、転動体15の回動部への潤滑剤の浸入が抑制される。
【0039】
また、本実施例に記載の遊星歯車減速機1における潤滑剤のシール構造によれば、転動体15からシーリング部材25に向かって軸方向に向かって延出する第五の間隙T5と、シーリング部材25の軸方向の端面とケーシング23の軸方向の端面とによって構成され、第五の間隙T5の端部に連結されて外径方向に延出する第六の間隙T6とを備えているので、万が一、潤滑剤が転動体15を介してシーリング部材25に向かって流出しても、転動体15からシーリング部材25に至る間隙が屈曲しているので、シーリング部材25を介して転動体15とは反対側に流出することがないように抑制できる。また、第6の間隙T6が第五の間隙の端部T5より外径方向に延出しているので、第六の間隙T6に到達した潤滑剤が遠心力によって外径方向に流れ易く、シーリング部材25を介して軸方向への流出を抑制できる。
【0040】
また、本実施例に記載の遊星歯車減速機1における潤滑剤のシール構造によれば、第三の間隙T3が、第一の間隙T1、第二の間隙T2、第四の間隙T4よりも狭く構成されていることにより、軸方向への流動抵抗が大きくなり転動体15に向かう潤滑剤の浸入を抑制できる。
【0041】
また、本実施例に記載の遊星歯車減速機1における潤滑剤のシール構造によれば、第三の間隙T3が、第二内歯車9と第二遊星歯車10との噛合部Qよりも内径側に配設されているので、噛合部Qにおける潤滑剤が、第二回動体11の回動による遠心力によって外径側に向かって流れ易く、第三の間隙T3への浸入を抑制できる。
【0042】
また、本実施例に記載の遊星歯車減速機1における潤滑剤のシール構造によれば、転動体15に至る潤滑剤の浸入を抑制し、第二回動体11をケ−シング23に円滑に回動自在に支持でき、延いては、負荷容量の優れた歯車装置を得ることができる。
【0043】
以上、本発明の一実施例について説明したが、本発明は、上記実施例に限定されるものではなく、種々の態様をとることができる。例えば、本実施例において、転動体15とケーシング23の歯車機構側の端面との間に、径方向に延出する間隙T2を一つ備えたが、これを複数並設してもよい。転動体15とシーリング部材25との間に径方向に延出する間隙T6を一つ備えたが、これを複数並設してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】本発明の歯車装置における潤滑剤のシール構造が適用された実施例の遊星歯車減速機の全体構成を表す断面図である。
【図2】同実施例の遊星歯車減速機における、潤滑剤のシール構造の詳細を表す拡大断面図である。
【符号の説明】
【0045】
1…遊星歯車減速機、2…回転軸、2a…ネジ孔、3…太陽歯車、5…遊星歯車、6…内歯車、7…第一回動体、7c…ボス部、8…第二太陽歯車、9…第二内歯車、10…第ニ遊星歯車、11…第ニ回動体、12,13…ベアリング、15…転動体、17…スライド板、18,19…スラスト軸受、21…連結ピン、22…第ニ連結ピン、23,24…ケーシング、24a…開口穴、25…シーリング部材、26…中空部、27…ボルト、28…第一環状部材、28a…ボス部、29…第二環状部材、30…Oリング、T1…第一の間隙、T2…第二の間隙、T3…第三の間隙、T4…第四の間隙、T5…第五の間隙、T6…第六の間隙、Q…噛合部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ケーシング内に配設され、
噛合部に潤滑剤が充填され、駆動源の駆動力を受けて回動する歯車機構と、
外周が前記ケーシングの内周に間隙を介して同軸状に配設されると共に前記ケーシングの内周に転動体を介して回動自在に支持され、該歯車機構の回転駆動力が伝達されて回動する回動体と、
を備え、
前記間隙が、前記転動体を介して軸方向に延出し、且つ、径方向に屈曲するように構成されている、
ことを特徴とする歯車装置における潤滑剤のシール構造。
【請求項2】
前記間隙が、
前記転動体から前記歯車機構に向かって軸方向に延出する第一の間隙と、
前記第一の間隙の端部に連結され内径方向に延出する第二の間隙と、
前記第二の間隙の端部に連結され前記歯車機構に向かって軸方向に延出する第三の間隙と、
前記第三の間隙の端部に連結され外径方向に延出する第四の間隙とによって構成されている、
ことを特徴とする請求項1に記載の歯車装置における潤滑剤のシール構造。
【請求項3】
前記転動体を介して前記歯車機構とは反対側に、前記ケーシングの内周と前記回動体の外周との間に装着され、該ケーシングと該回動体とを密閉する環状のシーリング部材を備え、
前記間隙が、
前記転動体から前記シーリング部材に向かって軸方向に向かって延出する第五の間隙と、
前記第五の間隙の端部に連結されて外径方向に延出する第六の間隙と、
によって構成され、
前記シーリング部材の前記転動体側に位置する端面が前記ケーシングに対して離間し、この離間部を前記第六の間隙として備えた、
ことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の歯車装置における潤滑剤のシール構造。
【請求項4】
前記第三の間隙が、前記第一の間隙、第二の間隙、第四の間隙よりも狭く構成されている、
ことを特徴とする、
請求項1乃至請求項3の何れか記載の歯車装置における潤滑剤のシール構造。
【請求項5】
前記ケーシングの内周と前記回動体の外周に沿って、相対向するV溝状の軌道面が形成され、
前記転動体は、前記V溝状の軌道面に沿って互いに直交して配設された複数の円筒状ころである、
ことを特徴とする請求項1乃至請求項4の何れか記載の歯車装置における潤滑剤のシール構造。
【請求項6】
前記歯車装置は、
駆動源の駆動力を受けて回動する太陽歯車と、該太陽歯車に空隙を介して同軸状に配設された内歯車と、前記空隙に配設され、前記太陽歯車及び前記内歯車に噛合すると共に前記回動体に回動自在に支持された遊星歯車と、
を備え、
前記第三の間隙が、前記内歯車と前記遊星歯車との噛合部よりも内径側に配設されている、
ことを特徴とする請求項1乃至請求項5の何れか記載の歯車装置における潤滑剤のシール構造。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−250260(P2006−250260A)
【公開日】平成18年9月21日(2006.9.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−68526(P2005−68526)
【出願日】平成17年3月11日(2005.3.11)
【出願人】(000107147)日本電産シンポ株式会社 (104)
【Fターム(参考)】