説明

気体圧縮機

【課題】気体圧縮機において、貯油部に溜められた冷凍機油の飛沫化を抑制して、ハウジング内での油分の保持性能を向上させる。
【解決手段】ケース(11)の内部に、冷媒ガスGを圧縮する圧縮機本体と、圧縮機本体により圧縮して吐出された冷媒ガスGを通過させて、冷媒ガスGから冷凍機油Rを遠心分離する円筒内壁面61およびこの円筒内壁面61に連続する底壁面62で囲まれた円柱状空間64を有するサイクロンブロック60とを備え、サイクロンブロック60には、円柱状空間64内で分離された冷凍機油Rを排出する排油孔65が形成され、排油孔65と圧縮機本体の冷凍機油Rを供給する導油路23とが直接接続されて、排油孔65から排出される冷凍機油Rが、吐出室21の底部に溜められた冷凍機油Rを吹き付けるのを防止する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は気体圧縮機に関し、詳細には、圧縮機本体から吐出された圧縮気体から油分離器で分離された油分の通路の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、空気調和システム(以下、空調システムという。)には、冷媒ガスなどの気体を圧縮して、空調システムに気体を循環させるための気体圧縮機(コンプレッサ)が用いられている。
【0003】
ここで、一般的なコンプレッサの1つとして例えばベーンロータリ形式のコンプレッサが知られている。このベーンロータリ形式のコンプレッサは、ハウジングの内部に、圧縮機本体が収容された構成となっている。
【0004】
圧縮機本体は、回転軸と一体的に回転する略円柱状のロータと、ロータの外方を取り囲むシリンダと、ロータに埋設されて、突出側の先端が、断面輪郭形状が略楕円形のシリンダの内周面に追従するように該ロータの外周面からの突出量が可変とされた板状のベーンと、ロータやベーンを、ロータの両端面側から覆う2つのサイドブロックとを備えている。
【0005】
そして、ロータの回転方向について相前後する2つのベーン、シリンダの内周面、ロータの外周面および両サイドブロックの端面により画成された圧縮室が、回転軸回りに複数設けられ、これら各圧縮室は、回転軸と一体的に回転するロータの当該回転に伴ってその容積が変化し、内部に吸入された気体を圧縮して吐出するように構成されている。
【0006】
また、ハウジングの内面と圧縮機本体の外面とにより、圧縮機本体を挟んで一方の側に、圧縮機本体に吸入される気体が通過する低圧雰囲気の吸入室が形成されているとともに、圧縮機本体を挟んで他方の側に、圧縮機本体から吐出された気体が通過する高圧雰囲気の吐出室(油分が分離された気体の通過する空間)が形成されている。
【0007】
ここで、吐出室を画成するサイドブロックには、圧縮室で圧縮された高圧の気体を、吐出室に導くための吐出路が形成されているとともに、吐出された気体に混じった冷凍機油等の油分を遠心分離するための油分離器が取り付けられている。
【0008】
この油分離器は、圧縮された気体が吐出されたときの勢いで油分を遠心分離する内壁面およびこの内壁面に連続する底壁面で囲まれた内部空間を有し、内部空間内で分離された油分は、排油孔を通って貯油部(吐出室の底部)に排出される。
【0009】
そして、この油分は、ベーン突出用背圧をかけたり、摺動部分の潤滑や清浄、冷却等のために、貯油部からサイドブロック等に形成された導油路を通って、再び圧縮室内に導かれる。
【0010】
一方、油分離器で油分が分離された後の高温高圧の気体が、冷凍サイクル用の冷媒ガスであるときは、気体圧縮機の外部に吐出され、コンデンサで冷却されて中温高圧の液化冷媒となり、リキッドタンクで気相冷媒から分離された液相冷媒は、膨張弁で急激に膨張させられて低温低圧の霧状の液化冷媒となり、エバポレータで、エバポレータの外面に接する空気と熱交換して気化し、低温低圧の気相冷媒として圧縮機に吸入される(特許文献1)。
【0011】
なお、スクロール形式等他の形式の気体圧縮機にあっても、同様の油分離器が備えられている。
【特許文献1】特開2003−090286号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
ところで、上述した気体圧縮機の油分離器の排油孔から排出された油分は、貯油部に溜められた油分の表面(油面)に勢いよく衝突するため、この衝突のエネルギによって、貯油部表面の油分が飛沫化し、その飛沫化した油分の一部は、吐出室内を浮遊し、吐出室から外部に吐出される気流によって、気体とともに外部に吐出される虞があり、結果的に、ハウジング内での油分の保持性能を確保することができない。
【0013】
本発明は上記事情に鑑みなされたものであり、吐出室の底部に溜められた油分の飛沫化を防止して、ハウジング内での油分の保持性能を向上させることができる気体圧縮機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明に係る気体圧縮機は、油分離器の排油孔と圧縮機本体の油分を供給する導油路とが直接接続された構造により、油分が油分離器から吐出室に噴出しないようにして、吐出室底部の油分の飛沫化を防止し、ハウジング内での油分の保持性能を向上したものである。
【0015】
すなわち、本発明に係る気体圧縮機は、ハウジングの内部に、気体を圧縮する圧縮機本体と、前記圧縮機本体により圧縮して吐出された圧縮気体を通過させて該圧縮気体から油分を遠心分離する内壁面およびこの内壁面に連続する底壁面で囲まれた内部空間を有する油分離器とを備え、前記油分離器には、前記内部空間内で分離された前記油分を排出する排油孔が形成された気体圧縮機において、前記排油孔と前記圧縮機本体の前記油分を供給する導油路とが直接接続されていることを特徴とする。
【0016】
このように構成された本発明に係る気体圧縮機によれば、油分離器内で分離された油分は、排油孔から圧縮機本体の導油路に直接流入し、吐出室に吹き出されることがない。
【0017】
したがって、吐出室の底部に溜められた油分に吹き付けてその油分を飛沫化させることがなく、従来のように、飛沫化された油分が気流によって吐出室から流出するのを防止することができる。よって、ハウジング内での油分の保持性能を向上することができる。
【0018】
なお、本発明に係る気体圧縮機において、排油孔は、その導油路側における開口が、油分離器の内部空間側における開口よりも上方に形成されていることが好ましい。
【0019】
油分離器の内部空間から油分を排出するには、内部空間のうち最も低い底面部分に開口しているのが好ましい。一方、圧縮機本体の、例えばサイドブロックに形成された導油路は、摺動部である回転軸の軸支部分まで形成されており、この軸支部分は、油分離器の内部空間側の開口よりも、上下方向について高い位置となる。そのため、排油孔の導油路側の開口を、内部空間側の開口よりも高い位置に形成することで、油分離器の内部空間の油分を、排油孔を経由して、円滑に導油路に合流させることができ、油分の流れによる抵抗を抑制することができる。
【0020】
また、本発明に係る気体圧縮機において、上記内壁面が、圧縮気体が沿って旋回する円筒内周面であり、内壁面および底壁面からなる遠心分離本体部と、円筒内周面に囲まれた円柱状空間(内部空間)内にこの円柱状空間の軸に沿って配設され、旋回した気体を底壁面とは反対側の端面側から遠心分離本体部の外部に導く筒状の気体排気部とを備えた形式の油分離器を適用するのが好ましい。
【0021】
この形式の油分離器は、排油孔からの油分の排出の勢いが強いため、この形式の油分離器を備えた従来の気体圧縮機では、吐出室底部の貯油部に溜められた油分が飛沫化されやすく、したがって、本発明による上述した効果を一層顕著に発揮させることができるからである。
【発明の効果】
【0022】
本発明に係る気体圧縮機によれば、貯油部に溜められた油分の飛沫化を防止して、ハウジング内での油分の保持性能を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、本発明の気体圧縮機に係る最良の実施形態について、図面を参照して説明する。
【0024】
図1は本発明に係る気体圧縮機の一実施形態であるベーンロータリ式コンプレッサ100(気体圧縮機)を示す縦断面図、図2は図1におけるA−A線に沿った断面を示す図、図3は図1におけるサイクロンブロック60(油分離器)を拡大した断面図である。
【0025】
図示のコンプレッサ100は、例えば、冷却媒体の気化熱を利用して冷却を行なう空気調和システム(以下、単に空調システムという。)の一部として構成され、この空調システムの他の構成要素である凝縮器(コンデンサ)、膨張弁、蒸発器(エバポレータ)等(いずれも図示を省略する。)とともに、冷却媒体の循環経路上に設けられている。
【0026】
そして、コンプレッサ100は、空調システムの蒸発器から取り入れた気体状の冷却媒体としての冷媒ガスGを圧縮し、この圧縮して得られた高温高圧の冷媒ガスGを空調システムの凝縮器に供給する。
【0027】
凝縮器は、高温高圧の冷媒ガスGを冷却することで、中温高圧の液化冷媒とし、この液化冷媒は膨張弁で急激に膨張されて低温低圧の霧状となり、蒸発器で蒸発することで、気化熱に相当する熱を周囲の空気から奪い、これにより周囲の空気を冷却し、一方、蒸発により気化した低温低圧の冷媒ガスGはコンプレッサ100に戻り、冷凍サイクルを形成している。
【0028】
また、コンプレッサ100は、ケース11とフロントヘッド12とからなるハウジングの内部に収容された圧縮機本体と、フロントヘッド12に取り付けられ、図示しない動力源からの駆動力を圧縮機本体に伝える伝達機構13とを備える。そして、圧縮機本体は、複数のボルトによってフロントヘッド12に固定され、伝達機構13は、ラジアルボールベアリング14を介して、フロントヘッド12に回転自在に支持されている。
【0029】
ケース11は、一端開放の筒状体を呈し、フロントヘッド12は、このケース11の開放された部分を覆うように組み付けられている。また、フロントヘッド12には、蒸発器から低圧の冷媒ガスGが吸入される吸入ポート12aが形成され、この吸入ポート12aには、冷媒ガスGの逆流を防ぐ逆止弁12bが設けられている。一方、ケース11には、圧縮機本体で圧縮された高圧の冷媒ガスGを凝縮器に吐出する吐出ポート11aが形成されている。
【0030】
ハウジング内に収容された圧縮機本体は、伝達機構13を介して供給された駆動力によって軸回りに回転する回転軸51と、この回転軸51と一体的に回転する円柱状のロータ50と、ロータ50の外周面の外方を取り囲む断面輪郭略楕円形状の内周面49aを有するとともに、両端が開放されたシリンダ40と、ロータ50の外方に向けて突出可能にロータ50に埋設され、その突出側の先端がシリンダ40の内周面49aに追従するように突出量が可変とされ、回転軸51回りに等角度間隔で配置された5枚の板状のベーン58と、シリンダ40の両側開放端面の外側からそれぞれ開放端面を覆うように固定されたフロントサイドブロック30およびリヤサイドブロック20とからなる。
【0031】
そして、2つのサイドブロック20,30、ロータ50、シリンダ40および回転軸51の回転方向(図2において時計回りの矢印方向)に相前後する2つのベーン58,58によって画成された各圧縮室48の容積が、回転軸51の回転にしたがって増減を繰り返すことにより、各圧縮室48に吸入された冷媒ガスGを圧縮して吐出するように構成されている。
【0032】
なお、ロータ50の両端面50a,50bからそれぞれ突出した回転軸51の部分のうち一方の部分は、フロントサイドブロック30の軸受部32に軸支されるとともに、フロントヘッド12を貫通して外方まで延び、この貫通部分がフロントヘッド12により軸支され、外方に延びた部分が伝達機構13に連結されている。
【0033】
同様に回転軸51の突出部分のうち他方の側は、リヤサイドブロック20の軸受部22により軸支されており、これらによって、回転軸51は、リヤサイドブロック20およびフロントサイドブロック30に対して回転自在とされている。
【0034】
また、回転軸51のうち、フロントサイドブロック30の軸受部32よりも外側部分であってフロントヘッド12よりも内側の部分には、リップシール15が配置されて、冷凍機油Rが、回転軸51とフロントヘッド12との隙間からフロントヘッド12の外部に漏れるのを阻止している。
【0035】
そして、フロントヘッド12による回転軸51の支持と、ボルトによるフロントヘッド12へのフロントサイドブロック30の固定と、両サイドブロック20,30の外周部がOリングによるケース11,フロントヘッド12の内周面への保持とによって、圧縮機本体はハウジング内の所定位置に保持されている。
【0036】
また、圧縮機本体がケース11の内部に収容された状態で、リヤサイドブロック20とケース11とにより、圧縮機本体から高圧の冷媒ガスGが吐出される高圧雰囲気の吐出室21(冷凍機油R(油分)が分離された冷媒ガスGの通過する空間)が形成され、一方、フロントサイドブロック30とフロントヘッド12とにより、圧縮機本体に低圧の冷媒ガスGを供給する低圧雰囲気の吸入室34が形成され、吐出室21は吐出ポート11aに連通し、吸入室34は吸入ポート12aに連通している。そして、吸入室34と吐出室21とは、前述したOリング等によって気密に隔絶されている。
【0037】
また、リヤサイドブロック20には、冷凍機油Rを冷媒ガスGから分離するためのサイクロンブロック60(油分離器)が取り付けられており、このサイクロンブロック60は吐出室21内に、その外面が露出して配置されている。なお、リヤサイドブロック20とサイクロンブロック60との間には、回転軸51の軸に平行な軸を有する短円柱状の軸背圧空間68が形成されている。
【0038】
吐出室21の下部には、このコンプレッサ100の摺動部等を潤滑、冷却、清浄するとともに、ベーン58をシリンダ40の内周面49aに向けて突出させて、その先端を内周面49aに当接させた状態に付勢するように、ベーン58に背圧を作用させる冷凍機油Rが溜められている。
【0039】
ここで、コンプレッサ100の吸入ポート12a側等の潤滑を適度に確保するために、冷凍サイクル内には、運転時においても有る程度の量の冷凍機油Rが循環しているが、コンプレッサ100の運転を停止すると、冷凍サイクル内の温度や圧力の変化の影響により、冷凍サイクル内の冷凍機油Rがコンデンサ側から逆流したり、また、圧縮機本体内に供給されていた冷凍機油Rが逆流するなどして、冷凍機油Rは、吐出室21の底部に溜められる。
【0040】
また、サイクロンブロック60により冷凍機油Rが分離された後の冷媒ガスGであっても、多少の冷凍機油Rが混在しているため、吐出ポート11aから吐出される以前に、吐出室21の内壁面やサイクロンブロック60の外面、リヤサイドブロック20の外面等に冷媒ガスGが接触した際に、混在している冷凍機油Rの一部がこれらの面に付着し、この付着した冷凍機油Rの油滴が吐出室21の底部に流れ落ちて、底部に冷凍機油Rが溜められる。
【0041】
ロータ50には、図2に示すように、スリット状のベーン溝56が放射状に、かつロータ50の回転中心回りに等角度間隔で5つ形成され、これらのベーン溝56に、前述のベーン58が挿入され、各ベーン58は、ロータ50の回転によって生じる遠心力と、ベーン溝56およびベーン58の底面によって画成された背圧室59(背圧空間の一部)に加えられる冷凍機油Rの油圧(背圧)とにより、シリンダ40の内周面49aに向けて突出し、このベーン58の突出した先端がシリンダ40の内周面49aに当接した状態に付勢され、回転軸51の回転に伴って、この先端は内周面49aに追従する。
【0042】
これにより、シリンダ40と、ロータ50と、回転軸51の回転方向について相前後する2つのベーン58,58と、フロントサイドブロック30と、リヤサイドブロック20とにより画成された各圧縮室48は、ロータ50の回転にしたがって容積の変化を繰り返す。
【0043】
また、フロントサイドブロック30には、吸入室34と圧縮室48とを連通させるフロント側吸入口31が開口しており、吸入ポート12aから吸入室34に導入された冷媒ガスGは、このフロント側吸入口31を介して圧縮室48に吸入される。
【0044】
一方、シリンダ40の外周の一部には凹部が形成され、この凹部は、両サイドブロック20,30の各内側端面とケース11の内周面とによって囲まれた吐出チャンバ45を形成している。
【0045】
そして、この吐出チャンバ45が形成されて薄肉化されたシリンダ40のうち、冷媒ガスGの圧縮行程に対応した圧縮室48に臨む部分に、圧縮室48内の冷媒ガスGを圧縮室48の外部、すなわち吐出チャンバ45に吐出させる吐出口42が設けられているとともに、圧縮室48の内部圧力に応じて吐出口42を開閉するリードバルブ43が配設されている。
【0046】
リードバルブ43は板ばね状であって、圧縮室48の冷媒ガスGから吐出口42を通じて作用する圧力(詳細には、この圧力と吐出チャンバ45の内部の圧力(さらに、リードバルブ43を吐出口42に付勢している場合には、その付勢力に応じた初期負荷圧力も加算した圧力)との差)に応じて吐出チャンバ45の側に撓むように弾性変形し、この弾性変形によって、閉止されていた吐出口42を開放する。
【0047】
また、このリードバルブ43が過大な撓みにより破損したり、大きな撓みの持続によって永久変形が生じるのを防止するために、リードバルブ43の変形量を規制するバルブサポート44が、リードバルブ43に重ね合わされて、シリンダ40に共締め固定されている。
【0048】
そして、圧縮室48から吐出口42、リードバルブ43を通って吐出チャンバ45に吐出された高圧の冷媒ガスGは、リヤサイドブロック20を介して、サイクロンブロック60の内部に導入される。
【0049】
サイクロンブロック60は、吐出チャンバ45から吐出した高温高圧の冷媒ガスGを旋回させる円筒内壁面61(内壁面、円筒内周面)およびこの円筒内壁面61に連続する底壁面62で囲まれた円柱状空間64(内部空間)を有する、冷媒ガスGに含有された冷凍機油Rを遠心分離する遠心分離本体部63と、この円柱状空間64内に、この円柱状空間64の中心軸と同軸に配設され、底壁面62とは反対側の端面(図1において上面)側から遠心分離本体部63の外部に旋回した冷媒ガスGを導く内筒状の気体排気部66とを有する構成である。
【0050】
サイクロンブロック60の遠心分離本体部63の上部には、吐出チャンバ45から吐出されリヤサイドブロック20を通過した冷媒ガスGを、円筒内壁面61に沿って円柱状空間64の内部に導入する導入孔61aが形成され、遠心分離本体部63の下部には、円柱状空間64内で分離された冷凍機油Rを、この円柱状空間64から排出する排油孔65が形成されている。
【0051】
排油孔65は、詳しくは図3に示すように、後述するリヤサイドブロック20に形成された導油路23に直接接続されている。
【0052】
また、この排油孔65は、導油路23側における開口65bが、遠心分離本体部63の円柱状空間64側における開口65aよりも上方に位置して、全体として一定の角度で傾斜している。
【0053】
一方、気体排気部66は、導入孔61aから遠心分離本体部63に導入された冷媒ガスGが、円筒内壁面61に沿って下方に螺旋状に旋回して冷凍機油Rを遠心分離した後の冷媒ガスGを、遠心分離本体部63の上部から遠心分離本体部63の外部に排気する上部開口66aの形成された中空筒部66bを有している。
【0054】
そして、この中空筒部66bを通って遠心分離本体部63の外部に排気された高温高圧の冷媒ガスGは吐出室21、吐出ポート11aを通って、冷凍サイクルを構成する空調システムの凝縮器に吐出される。
【0055】
また、コンプレッサ100には、回転軸51と軸受部22,32との間の潤滑、ロータ50の各端面と各サイドブロック20,30の内側端面との間の潤滑等する目的と、ベーン58をシリンダ40の内周面49aに付勢すべく油圧(背圧)を背圧空間(背圧室59、後述するサライ溝25および軸背圧空間68)に供給等する目的とにより、吐出室21の下部に貯留した冷凍機油Rを各部位に導く構造を備えている。
【0056】
すなわち、リヤサイドブロック20に、軸受部22に至る導油路23が形成され、また、リヤサイドブロック20の内側端面26(ロータ50の端面50aに向いた面)には、軸受部22における導油路23の開口から、軸受部22と回転軸51との間の微小隙間(絞り)を通って、ロータ50の背圧室59に連通する凹部であるサライ溝25が形成されている。
【0057】
導油路23は詳しくは、吐出室21の底部から軸受部22まで延びた導油路23aと、排油孔65の開口65bに接続され、導油路23aに合流する導油路23bと、導油路23aから分岐して後述するシリンダ40の貫通孔46に接続される導油路23cとにより構成されている。
【0058】
導油路23aは、吐出室21内の圧力によって、吐出室21の底部に溜められた冷機油Rを、その底部側の開口から軸受け22まで供給し、導油路23bは、サイクロンブロック60の円柱状空間64内で分離され、この円柱状空間64内の圧力と旋回流とによって排油孔65から排出された冷凍機油Rを全て、導油路23aに圧送された冷凍機油Rに合流させ、一部を軸受け22等に供給し、導油路23cは、導油路23aから分岐して、導油路23aに供給された冷凍機油Rをフロントサイドブロック30側に供給する。
【0059】
導油路23aは、軸受部22と回転軸51との間の微小隙間(絞り)を介して、リヤサイドブロック20とサイクロンブロック60との間に形成された空間である軸背圧空間68にも連通し、この軸背圧空間68は背圧連通路28を介してサライ溝25に、圧力損失なく連通している。
【0060】
これにより、背圧室59、サライ溝25、背圧連通路28および軸背圧空間68は、略同一の圧力Pvとなり、ベーン58の背圧空間を構成している。
【0061】
この背圧空間に作用する圧力Pvは、具体的には、低圧雰囲気の吸入室34の圧力Psよりも高い圧力であって、軸受部22と回転軸51の周面部分との間の微小隙間(絞り)を通過した分だけ、高圧雰囲気の吐出室21の圧力Pdよりも低い中間圧(Ps<Pv<Pd)となる。
【0062】
サライ溝25は、軸受部22の中心回りの所定角度範囲に亘って、略扇形状の輪郭(図2において破線で示す)を有する凹部であり、上述した微小隙間を通過して中間圧Pvまで低下した冷凍機油Rが溜められる。
【0063】
そして、ロータ50の回転に伴って、ロータ50の端面50aに露呈しているベーン溝56の背圧室59がリヤサイドブロック20のサライ溝25を通過している間だけ、ベーン溝56の背圧空間59とサライ溝25とが連通して、ベーン溝56の背圧空間59にサライ溝25の中間圧Pvの冷凍機油Rが供給され、ベーン58はこの供給された冷凍機油Rの中間圧Pvを受けて、シリンダ40の内周面49aに向かって突出する。
【0064】
また、シリンダ40の底部側には、リヤサイドブロック20の油路23に接続する貫通孔46が設けられ、フロントサイドブロック30に、この貫通孔46のフロントサイドブロック30側の開口と軸受部32とを連通させる導油路33が形成され、冷凍機油Rは、軸受部32と回転軸51との間の微小隙間を通過して中間圧Pvまで降圧され、フロントサイドブロック30の内側端面に形成された凹部であるサライ溝35等に導かれる。
【0065】
なお、フロントサイドブロック30のサライ溝35も、リヤサイドブロック20のサライ溝25と同様、ロータ50の背圧室59に連通している。
【0066】
サライ溝25,35に供給された冷凍機油Rは、ロータ50のベーン溝58の背圧室59が連通したときに、この背圧室59にベーン58の突出力を作用させるが、背圧室59が連通しない角度範囲も含めて、ロータ50の端面50a,50bと各サイドブロック20,30の端面との間などにそれぞれ浸透して、これら互いに向かい合う端面間同士や、サイドブロック20,30の端面とベーン58の側面との間、ベーン58の先端とシリンダ40の内周面49aとの間など、相対的な動きにより摺動する部分における摺動摩擦力を低減させている。
【0067】
そして、各摺動部分に浸透した冷凍機油Rは、圧縮室48内の冷媒ガスGに混入し、冷媒ガスGとともに圧縮室48から吐出され、サイクロンブロック60を介して、導油路23に供給されたり、吐出室21の底部に溜められる。
【0068】
このように構成された本実施形態に係るコンプレッサ100によれば、吐出チャンバ45から吐出された高圧の冷媒ガスGは、リヤサイドブロック20を通り、導入孔61aから、遠心分離本体部63の円柱状空間64の内部に導入される。
【0069】
この円柱状空間64内に導入された冷媒ガスGは、吐出チャンバ45からの吐出時の冷媒ガスGの気流の勢いにより、円筒内壁面61の周方向に沿いつつ下方Dに向けて螺旋状に降下する。この結果、円筒内壁面61において、冷媒ガスGに含まれていた冷凍機油Rが遠心分離され、分離された冷凍機油Rは、底壁面62に流れ、開口65aから排油孔65に流入し、開口65bから導油路23に流入する。
【0070】
これにより、サイクロンブロック60内で冷媒ガスGから分離された冷凍機油Rが、吐出室21の底部(貯油部)に溜まった冷凍機油Rの油面を吹き付けることがない。
【0071】
したがって、貯油部に溜まった冷凍機油Rの油面を、サイクロンブロック60から排出された冷凍機油Rが吹き付けることによって生じる冷凍機油Rの飛沫化を防止することができ、そのように飛沫化した冷凍機油Rが、吐出室21の気流によって吐出室21から流出するのを防止することができる。よって、サイクロンブロック60のハウジング(ケース11およびフロントヘッド12)内での油分の保持性能を向上することができる。
【0072】
また、サイクロンブロック60の円柱状空間64から冷凍機油Rを排出するには、排油孔65の円柱状空間64側の開口65aが円柱状空間64のうち最も低い底壁面62部分に開口しているのが好ましい。一方、圧縮機本体の、サイドブロック20に形成された導油路23aは、摺動部である回転軸51の軸受け22まで形成されており、この軸受け22は、サイクロンブロック60の円柱状空間64側の開口65aよりも、図示上下方向について高い位置となる。
【0073】
そして、本実施形態のコンプレッサ100は、排油孔65の導油路23側の開口65bが、遠心分離本体部63の円柱状空間64側における開口65aよりも高い位置に形成されているため、遠心分離本体部63の円柱状空間64内の冷凍機油Rを、排油孔65を経由して、導油路23(特に導油路23a)に円滑に合流させることができ、導油路23bに流れ込んだ冷凍機油Rが、導油路23aを圧送される冷凍機油Rの流れの抵抗になるのを抑制することができる。
【0074】
また、本実施形態に係るコンプレッサ100は、円筒内壁面61および底壁面62からなる遠心分離本体部63と、円筒内壁面61に囲まれた円柱状空間64内にこの円柱状空間64の軸に沿って配設され、旋回した冷媒ガスGを底壁面62とは反対側の端面側から遠心分離本体部63の外部に導く筒状の気体排気部66とを備えた形式のサイクロンブロック60を有するが、この形式のサイクロンブロック60は、排油孔65からの冷凍機油Rの排出の勢いが強いため、この形式のサイクロンブロック60を備えた従来の気体圧縮機では、貯油部の冷凍機油Rを飛沫化させやすく、したがって、他の形式のサイクロンブロックに上述した構成を適用した場合よりも、一層顕著な効果を発揮させることができる。
【0075】
なお、上述した各実施形態のコンプレッサ100は、ベーンロータリ形式の気体圧縮機であるが、本発明に係る気体圧縮機は、この実施形態であるベーンロータリ形式のものに限定されるものではなく、他の形式の気体圧縮機、例えば、斜板形式やスクロール形式の気体圧縮機にも適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0076】
【図1】本発明に係る気体圧縮機の一実施形態であるベーンロータリ式コンプレッサを示す縦断面図である。
【図2】図1におけるA−A線に沿った面による断面図である。
【図3】図1におけるサイクロンブロックの拡大を示す図である。
【符号の説明】
【0077】
21 吐出室
23,23a,23b,23c 導油路
60 サイクロンブロック(油分離器)
61 円筒内壁面(内壁面、円筒内周面)
62 底壁面
63 遠心分離本体部
64 円柱状空間(内部空間)
65 排油孔
65a 円柱状空間側の開口
65b 導油路側の開口
100 コンプレッサ(気体圧縮機)
G 冷媒ガス(気体)
R 冷凍機油(油分)
Rs 油面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハウジングの内部に、気体を圧縮する圧縮機本体と、前記圧縮機本体により圧縮して吐出された圧縮気体を通過させて該圧縮気体から油分を遠心分離する内壁面およびこの内壁面に連続する底壁面で囲まれた内部空間を有する油分離器とを備え、前記油分離器には、前記内部空間内で分離された前記油分を排出する排油孔が形成された気体圧縮機において、
前記排油孔と前記圧縮機本体の前記油分を供給する導油路とが直接接続されていることを特徴とする気体圧縮機。
【請求項2】
前記排油孔は、前記導油路側における開口が、前記内部空間側における開口よりも上方に形成されていることを特徴とする請求項1に記載の気体圧縮機。
【請求項3】
前記内壁面は、前記圧縮気体が沿って旋回する円筒内周面であり、
前記油分離器は、前記内壁面および前記底壁面からなる遠心分離本体部と、前記円筒内周面に囲まれた円柱状空間内に該円柱状空間の軸に沿って配設され、前記旋回した気体を前記底壁面とは反対側の端面側から前記遠心分離本体部の外部に導く筒状の気体排気部とを有することを特徴とする請求項1または2に記載の気体圧縮機。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2008−157172(P2008−157172A)
【公開日】平成20年7月10日(2008.7.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−349287(P2006−349287)
【出願日】平成18年12月26日(2006.12.26)
【出願人】(504217742)カルソニックコンプレッサー株式会社 (101)
【Fターム(参考)】