説明

気相分解装置ならびにそれを用いた試料前処理装置および蛍光X線分析システム

【課題】 基板表面に形成された膜の表面または膜中に存在する被測定物を溶解、乾燥させて基板表面に保持する気相分解装置などにおいて、基板表面に形成された膜が厚くてもマッピング分析が可能なものを提供する。
【解決手段】 基板表面1aに形成された膜の表面または膜中に存在する被測定物を前記膜とともに反応性ガスにより溶解し、反応副生成物である水を不活性ガスおよび/または減圧により乾燥させて、被測定物を基板表面1aに保持する気相分解装置20であって、前記溶解と乾燥を繰り返すことにより、被測定物の基板表面1aにおける位置を維持する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基板表面に形成された膜の表面または膜中に存在する被測定物を溶解、乾燥させて基板表面に保持する気相分解装置ならびにそれを用いた試料前処理装置および蛍光X線分析システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば特許文献1に記載されているように、半導体基板に付着した微量の汚染物質などを蛍光X線分析するために、気相分解装置および試料回収装置を有する試料前処理装置と、蛍光X線分析装置とを備えた蛍光X線分析システムがある。
【0003】
このシステムのVPDモードでは、気相分解装置において、基板表面などに存在する被測定物を反応性ガスにより溶解後乾燥させ、試料回収装置において、基板に溶液を滴下して保持具で保持しながら基板表面全体にわたって移動させ、被測定物を回収後乾燥させて基板表面に保持する。そして、蛍光X線分析装置において、回収した被測定物に1次X線を照射して発生する蛍光X線の強度を測定する。VPDモードでは、被測定物が基板表面全体にわたって回収されることにより濃縮されるので、分析の感度が大幅に向上するが、基板表面における被測定物の分布を分析すること、つまりマッピング分析はできない。
【0004】
一方、同システムのVPTモードでは、気相分解装置において、基板表面などに存在する被測定物を反応性ガスにより溶解後乾燥させて基板表面に保持し、試料回収装置による回収を行わずに、蛍光X線分析装置において、基板表面に保持された被測定物に1次X線を照射して発生する蛍光X線の強度を測定する。VPTモードでは、試料回収装置による回収を行わないので、被測定物が濃縮されず、分析における感度はVPDモードほど大きく向上しないが、基板表面における被測定物の位置情報が失われないので、マッピング分析が可能である。また、VPTモードにおいても、被測定物が溶解後乾燥されることより微小な粒状になり、分析における感度が向上する。
【0005】
ところで、基板が例えばシリコンウエハで、その表面に酸化膜が形成されており、その膜の表面または膜中に被測定物が存在する場合には、気相分解装置において、被測定物が膜とともに例えばフッ化水素である反応性ガスにより溶解され、膜が溶解される際に水が生成されて液滴になる。
【特許文献1】特開2002−75374号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、膜が厚すぎると、水が多量に生成されて、液滴が大きくなりすぎるとともにくずれて拡がり、被測定物が基板表面に沿って移動するので、VPTモードにおいても、基板表面における被測定物の位置情報が失われて、マッピング分析ができなくなる。また、そのように膜が厚すぎる基板について、仮にVPDモードで被測定物を基板表面の一部について回収したとしても、回収以前に基板表面における被測定物の位置情報が失われているので、基板表面における所定の部分単位での被測定物の分布を分析すること、つまり所定の部分単位でのマッピング分析もできない。
【0007】
本発明は、このような問題に鑑みてなされたもので、基板表面に形成された膜の表面または膜中に存在する被測定物を溶解、乾燥させて基板表面に保持する気相分解装置などにおいて、基板表面に形成された膜が厚くてもマッピング分析が可能なものを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記目的を達成するために、本発明の第1構成は、基板表面に形成された膜の表面または膜中に存在する被測定物を前記膜とともに反応性ガスにより溶解し、反応副生成物である水を不活性ガスおよび/または減圧により乾燥させて、被測定物を基板表面に保持する気相分解装置であって、前記溶解と乾燥を繰り返すことにより、被測定物の基板表面における位置を維持する。
【0009】
第1構成の気相分解装置においては、膜の溶解と反応副生成物である水の乾燥が繰り返し行われ、液滴が大きくなりすぎてくずれて拡がることが防止されるので、被測定物が、基板表面に沿って移動してしまうようなことがなく、基板表面における位置を維持する。したがって、基板表面に形成された膜が厚くてもマッピング分析が可能となる。
【0010】
本発明の第2構成は、基板表面に形成された膜の表面または膜中に存在する被測定物を前記膜とともに反応性ガスにより溶解し、反応副生成物である水を基板への加熱により乾燥させて、被測定物を基板表面に保持する気相分解装置であって、前記溶解と乾燥を同時に行うことにより、被測定物の基板表面における位置を維持する。
【0011】
第2構成の気相分解装置においては、膜の溶解と反応副生成物である水の乾燥を同時に行うことにより、液滴が大きくなりすぎてくずれて拡がることを防止するので、被測定物が、基板表面に沿って移動してしまうようなことがなく、基板表面における位置を維持する。したがって、基板表面に形成された膜が厚くてもマッピング分析が可能となる。
【0012】
本発明の第3構成は、前記第1構成または第2構成の気相分解装置と、表面に被測定物が存在する基板に溶液を滴下して保持具で保持しながら基板表面で移動させ、被測定物を回収後乾燥させて基板表面に保持する試料回収装置とを有する試料前処理装置である。ここで、試料回収装置は、基板表面の所定の部分ごとに被測定物を回収する。
【0013】
第3構成の試料前処理装置においては、第1構成または第2構成の気相分解装置により、基板表面における位置を維持して被測定物を基板表面に保持し、試料回収装置により、基板表面全体にわたってではなく、基板表面の所定の部分ごとに被測定物を回収して基板表面に保持できる。したがって、基板表面に形成された膜が厚くても、被測定物が所定の部分単位での位置情報を失わずに濃縮されるので、分析の感度を向上させつつ、基板表面における所定の部分単位での被測定物の分布を分析すること、つまり所定の部分単位でのマッピング分析が可能となる。また、試料回収装置を使用せず、気相分解装置のみを使用する場合には、第1構成または第2構成の気相分解装置と同様の作用効果がある。
【0014】
本発明の第4構成は、前記第3構成の試料前処理装置と、その試料前処理装置により基板表面に保持された被測定物に1次X線を照射して発生する蛍光X線の強度を測定する蛍光X線分析装置とを備えた蛍光X線分析システムである。第4構成の蛍光X線分析システムにおいても、第3構成の試料前処理装置と同様の作用効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明の第1実施形態である蛍光X線分析システムについて、構成から説明する。図1(a),(b)の一部を破断した平面図、正面図に示すように、このシステムは、まず、気相分解装置20および試料回収装置30を有する試料前処理装置10と、試料台41に載置された基板1上の被測定物2にX線源42から1次X線43を照射して発生する蛍光X線44の強度を検出手段45で測定する蛍光X線分析装置40と、前記試料前処理装置10から蛍光X線分析装置40へ基板1を搬送する搬送装置50とを備える。
【0016】
この実施形態では、試料に対し1次X線を微小な入射角で照射する全反射蛍光X線分析装置40を採用し、X線源42は、X線管、単色化のための分光素子などを有し、検出手段45には、SSDなどを用いる。蛍光X線分析装置40は、ロボットハンドなどの搬送手段46を有しており、導入室のカセット47と試料台41との間で、基板1を搬送する。
【0017】
前記搬送装置50は、レールの上で本体が前後に移動自在なロボットハンドであり、そのハンド部50aに基板1を載置して、基板1を、システムのカセット台5に載置されたカセット3(所定の投入位置)から試料前処理装置10の分解室21または回収室31へ、分解室21から回収室31へ、分解室21または回収室31から蛍光X線分析装置40の導入室のカセット47へ、導入室のカセット47からもとのカセット台5に載置されたカセット3へ、搬送する。カセット台5には、複数のカセット3を載置できる。
【0018】
システムは、半導体製造装置などが置かれるクリーンルーム6とそこで製造された半導体基板1を分析する分析室7とを隔てる壁8を突き抜けるように設置され、カセット台5のみがクリーンルーム内にある。カセット台5に載置されたカセット3と搬送装置50との間には図示しないシャッターが設けられている。
【0019】
システムは、前記試料前処理装置10、蛍光X線分析装置40、搬送装置50、カセット台5に載置されたカセット3と搬送装置50との間のシャッターなどを共通の環境(ソフトウエア)で制御するコンピュータなどの制御装置60を、例えば蛍光X線分析装置40内に配置して備える。各装置は、共通の基台上で、全体として一つの筐体に一体的に設けられている。
【0020】
試料前処理装置10のうち、気相分解装置20は、基板表面に存在する被測定物または基板表面に形成された膜の表面もしくは膜中に存在する被測定物を分解室21内で反応性ガスにより溶解後乾燥させて基板表面に保持する。特に、基板表面に形成された膜の表面または膜中に存在する被測定物については、膜とともに反応性ガスにより溶解し、反応副生成物である水を不活性ガスおよび/または減圧により乾燥させて、基板表面に保持するが、前記溶解と乾燥を繰り返すことにより、被測定物の基板表面における位置を維持する。試料回収装置30は、分解室21の上に配置された回収室31内で、表面に被測定物が存在する基板に溶液を滴下して保持具で保持しながら基板表面で移動させ、被測定物を回収後乾燥させて基板表面に保持するが、基板表面の所定の部分ごとに被測定物を回収する動作も可能である。
【0021】
ここで、気相分解装置20の構成について詳細に説明する。図2(a),(b)の平面図、正面図に示すように、この気相分解装置20の分解室21は、例えばPTFE(ポリ四フッ化エチレン、テフロン(登録商標))製の箱であり、搬送装置のハンド部50aに対向する側に、開閉自在の内側シャッター21aを有している。さらに、その内側シャッター21aから、上方の回収室31からの空気が流れ落ちる空間を隔てて、気相分解装置20の外壁に開閉自在の外側シャッター27が設けられている。分解室21内には、配管22aから反応性ガスとしてフッ化水素(またはフッ化水素酸)が導入され、例えばシリコンウエハである基板表面1aに形成された酸化膜を溶解するとともに、膜の表面または膜中に存在する汚染物質などの被測定物を溶解し、配管22bから排出される。基板表面1aに膜が形成されていない場合には、基板表面1aに存在する被測定物が溶解される。なお、膜が溶解される際には、次の反応式(1)に示すように、水が生成される。
【0022】
6HF+Si O → HSi F+2H
【0023】
気相分解装置20は、分解室21内に洗浄液として超純水を流して洗浄する分解室洗浄手段23、すなわち、洗浄液導入配管23aおよび排出配管23bを有している。また、分解室21内に不活性ガスとして清浄な窒素を流して、フッ化水素を追い出すとともに、膜の溶解の際に生成された水を乾燥させる分解水乾燥手段24、すなわち、窒素導入配管24aおよび排出配管24bを有している。
【0024】
この気相分解装置20では、前記制御手段60で反応性ガスの導入配管22aおよび排出配管22bと窒素導入配管24aおよび排出配管24bとが開閉制御されて、膜の溶解と反応副生成物である水の乾燥を繰り返し行うことにより、液滴が大きくなりすぎてくずれて拡がることを防止するので、被測定物が、基板表面1aに沿って移動してしまうようなことがなく、基板表面1aにおける位置を維持する。被測定物の基板表面1aにおける位置を維持するための適切な、1回の溶解時間、1回の乾燥時間、溶解および乾燥の繰り返し回数は、あらかじめ実験により、膜の厚さに応じた数値として求めておくことができる。なお、分解水乾燥手段では、不活性ガスを流す代わりに、または不活性ガスを流すことに加えて、分解室内を減圧(真空排気)して、水を乾燥させてもよい。この場合、真空排気と不活性ガスの導入を繰り返し行ってもよい。
【0025】
さらに、気相分解装置20は、装置の下部において、図5に示すような、分解室21へのフッ化水素および窒素の配管22a,24aを外側から加熱する加熱手段28、すなわち、ヒーターなどを含む恒温水槽を有している。なお、この加熱は配管内部にヒーターなどを設けて行ってもよく、配管の途中にトラップを設けてそこで加熱してもよい。また、図2において、基板1が分解室21内の所定の位置に載置されるように、内周に下向き狭小のテーパ25aが付いた基板台25を有している。すなわち、基板台25は、搬送装置のハンド部50aに干渉しないように一部を切り欠いた輪状で、内周に下向き円錐側面の一部をなすテーパ面25aが形成され、仕切り板26を介して分解室21内に固定されている。
【0026】
次に、試料回収装置30の構成について詳細に説明する。図3(a),(b)の平面図、正面図に示すように、この試料回収装置30の回収室31は、上部にファン11およびフィルター12が設けられた例えばPVC(ポリ塩化ビニル)製の箱であり、分解室21の上に配置され、搬送装置のハンド部50aに対向する側に、開閉自在のシャッター31aを有している。そのシャッター31a近傍(図3(a)中1点鎖線で囲む範囲)において回収室31の底板には多数のパンチング孔31bがあけられており、ファン11およびフィルター12を介して回収室31に流入した清浄な空気が、分解室21の内側シャッター21aの外側へ流れ落ちるようになっている。試料回収装置30は、以下の回収液移動手段32、回収液乾燥手段33、保持具洗浄手段34および回転台35を有している。
【0027】
回収液移動手段32は、その先端部下側にある保持具32aを、回転台35に載置された基板1の上方において基板1の外側と中心間で円弧状に移動させるアームであり、保持具32aを上下方向にも移動させることができる。保持具32aは例えばPTFE製のノズルであり、分解室21のさらに下方のタンクから、フッ化水素酸溶液4が供給される。回転台35は、載置された基板1を水平面内で回転させる。すなわち、試料回収装置30は、保持具32aから基板1の外周近傍に滴下した例えば100μリットルのフッ化水素酸溶液4を、基板1を回転させながら、保持具32aと基板1で挟むようにして保持しつつ基板1上で中心まで移動させて、基板表面1aに存在する被測定物を回収する。ただし、この試料回収装置30では、前記制御手段60で回収液移動手段32および回転台35の動作が制御されて、基板表面1a全体にわたってではなく、基板表面1aの所定の部分ごとに被測定物を回収することもできる。
【0028】
回収液乾燥手段33は、その先端部に下向きに設けられたランプ33aを、基板1の上方において基板1の外側と中心間で円弧状に移動させるアームである。すなわち、試料回収装置30は、基板1の中心上方にランプ33aを移動させ、被測定物を回収した溶液4を加熱して被測定物を乾燥させる。この乾燥時にも、回転台35で基板1を水平面内で回転させる。
【0029】
保持具洗浄手段34は、図4(a)に示すように、底付き円筒状の内槽34aとその外側の輪状の外槽34bとを有する容器において、内槽34a上方に洗浄液として超純水を供給してオーバーフローさせる配管34cを設け、外槽34b下部にオーバーフローした洗浄液を排出する配管34dを設けたものである。図3において、試料回収装置30は、回収液移動手段32により、保持具32aを基板1の外周からさらに外側にある保持具洗浄手段34の内槽34a上方にまで移動させ、図4(a)のように上下に移動させる。すなわち、保持具32aの少なくとも下端部を洗浄液に浸漬させて洗浄する。供給側の配管34cは、洗浄後の内槽34a内の洗浄液に含まれる汚染物を流入させないために、図示のように内槽34a内の洗浄液と非接触にすることが好ましい。なお、洗浄は、洗浄液を保持具32aに吹き付けて行ってもよい。この場合には、図4(b)のように、供給側の配管34cを開口が上向きになるように設け、下方から保持具32aに洗浄液を吹き付ける。
【0030】
次に、第1実施形態の蛍光X線分析システムの動作について説明する。図1のクリーンルーム6内において、カセット台5に基板1、例えば汚染物質を分析すべきシリコンウエハを収納したカセット3が載置され、そのカセット3内(所定の投入位置)の基板1を所定の条件で前処理、分析すべき旨が図示しない入力手段から制御装置60に入力されると、システムの各装置が以下のように動作するよう制御される。ここで、前処理および分析の条件は、基板1ごとに、制御装置60の表示手段(図示せず)を見ながら、入力手段(図示せず)により設定可能であり、試料前処理装置10、蛍光X線分析装置40、搬送装置50の各装置が共通の環境で制御されるので、システム全体の操作が容易である。
【0031】
さて、背景技術の欄で説明したように、基板1に形成された膜を溶解する必要がある場合には、前処理および分析の条件として、大別してVPDモード、VPTモードの2種類のモードがあるが、マッピング分析に対しては、従来は、膜が十分に薄く、乾燥をともなわずに一気に溶解させても基板表面における被測定物の位置が維持されるような場合にしか、適用できなかった。
【0032】
例えば、図8(a)に示すように、基板1がシリコンウエハで、その表面1aに酸化膜9が形成されており、その膜9の表面9aまたは膜9中に被測定物2A,2B,2Cが存在する場合に、従来の気相分解装置では、被測定物2A,2B,2Cを膜9とともに例えばフッ化水素である反応性ガスにより一気に溶解する。すると、図8(b)に示すように、膜9が溶解される際に水が生成されて液滴13になるが、もとの膜9が厚すぎると、水が多量に生成されて、液滴13が大きくなりすぎるとともにくずれて拡がり、被測定物2A,2B,2Cが基板表面1aに沿って移動する。したがって、液滴13を乾燥させても、図8(c)に示すように、基板表面1aにおける被測定物2A,2B,2Cの位置情報が失われているので、マッピング分析を正しく行うことができない。
【0033】
これに対し、第1実施形態のシステムでは、以下のように、厚膜用VPDモード、厚膜用VPTモードにより、基板表面1aに形成された膜が厚くてもマッピング分析が可能である。
【0034】
最初に、厚膜用VPD(Vapor Phase Decomposition)モードでのシステムの動作を説明する。まず、図1の搬送装置50が、基板1を分解室21へ搬送し、図2の基板台25に載置する。搬入の際、気相分解装置20のシャッター21a,27が自動的に開く。基板台25には、内周に下向き狭小のテーパ25aが付いているので、基板1がハンド部50a上で所定の位置から多少ずれていても、基板1を基板台25に載置するだけで、自重で滑ってはまり込むようにして適切に位置決めされるので、続く回収、分析が正確に行われる。
【0035】
次に、シャッター21a,27が閉じて密閉された分解室21内にフッ化水素が配管22aから導入され、基板表面1aに形成された酸化膜を溶解するとともに、膜の表面または膜中に存在する汚染物質などの被測定物を溶解し、配管22bから排出される。フッ化水素導入の際、排出側の配管22bのバルブが導入側の配管22aのバルブよりも先に開くことが好ましいが、逆でも同時でもよい。分解室21内に導入されるフッ化水素は、加熱手段28により配管22aを介して外側から汚染されることなく加熱されているので(図5)、分解室21での酸化膜の分解が適切かつ迅速に行われる。このフッ化水素による気相分解は、膜の厚さに応じた所定時間だけ行われる。
【0036】
所定時間の気相分解が終了すると、分解水乾燥手段24により分解室21内が排気されながら窒素が流され、フッ化水素が追い出されるとともに、溶解により生成された水が乾燥される。ここで、前述したように、第1実施形態の気相分解装置20においては、溶解と乾燥を繰り返すことにより、被測定物の基板表面における位置を維持する。
【0037】
例えば、図6(a)に示すように、基板1がシリコンウエハで、その表面1aに酸化膜9が形成されており、その膜9の表面9aまたは膜9中に被測定物2A,2B,2Cが存在する場合に、この気相分解装置では、被測定物2A,2B,2Cを膜9とともに例えばフッ化水素である反応性ガスにより、水が多量に生成されて液滴が大きくなりすぎないような所定時間だけ、溶解し、生成された水が残らないような所定時間だけ、乾燥する。
【0038】
すると、図6(b)に示すように、被測定物2A,2B,2Cの基板表面1aにおける位置が維持されつつ、膜9が厚さにおいてもとの3分の1程度消滅する。この溶解および乾燥をもう1回繰り返すと、図6(c)に示すように、被測定物2A,2B,2Cの基板表面1aにおける位置が維持されつつ、膜9が厚さにおいてさらにもとの3分の1程度消滅する。この溶解および乾燥をさらにもう1回繰り返すと、図6(d)に示すように、被測定物2A,2B,2Cの基板表面1aにおける位置が維持されつつ、膜9がすべて消滅する。
【0039】
このような乾燥により、以降の搬送において、液滴に図2の搬送装置のハンド部50aが接触して腐食されることがなく、ハンド部50a上で基板1が滑って搬送が不正確になることもない。また、フッ化水素が、搬送装置50側や蛍光X線分析装置40(図1)側に流入して、腐食などの原因となることもない。ここでも、加熱手段28により窒素が汚染されることなく加熱されているので(図5)、分解室21での水の乾燥が適切かつ迅速に行われる。また、定期的に、分解室洗浄手段23により分解室21内に超純水が流されて洗浄される。このように、分解室21内の洗浄も自動化されるので、システムの操作がいっそう容易になる。
【0040】
次に、搬送装置50が、基板1を図3の回収室31へ搬送し、基板1の中心が回転台35の回転中心に合致するように載置する。搬送の際、気相分解装置20および試料回収装置30のシャッター21a,27,31aが自動的に開閉する。このように、分解室21から回収室31への基板1の搬送も搬送装置50で行うので、人手による汚染が回避されて正しい分析ができる。続いて、試料回収装置30が、保持具32aから基板1に滴下したフッ化水素酸溶液4を、基板1を回転させながら、保持具32aで保持しつつ基板表面1aで移動させて、基板表面1aに存在する被測定物(気相分解装置20により基板表面1aに保持された被測定物)を回収する。ここで、前述したように、従来のVPDモードでは、試料回収装置において、被測定物を基板表面全体にわたって回収するので、マッピング分析ができなかった。
【0041】
これに対し、第1実施形態のシステムの厚膜用VPDモードでは、試料回収装置30におけるフッ化水素酸溶液4の滴下位置や保持具32aの移動方向および移動量、基板1の回転方向および回転量は、種々に設定して制御でき、基板表面1aの所定の部分ごとに被測定物を回収することができる。例えば、図7(a)に示すように、基板表面1aの中心部分14Aについて溶液4Aに被測定物を回収し、基板表面1aの周辺部分14Bについて溶液4Bに被測定物を回収することができる。この場合、中心部分14Aと周辺部分14Bの間の中間部分14Cについては、被測定物を回収しなくてもよい。また例えば、図7(b)に示すように、基板表面1aを扇形に4等分し、各部分14D,14E,14F,14Gについて、溶液4D,4E,4F,4Gに被測定物を回収することもできる。
【0042】
回収後、図3の保持具32aを上昇させ保持具洗浄手段34の内槽34a上方にまで移動させて上下させ、洗浄液に浸漬させて洗浄する。このように、保持具32aの洗浄も自動化されるので、システムの操作がいっそう容易になる。
【0043】
次に、試料回収装置30は、基板1の中心上方にランプ33aを移動させ、被測定物を回収した溶液4を加熱して被測定物を乾燥させる。この乾燥時にも、回転台35で基板1を水平面内で回転させる。これにより、被測定物が、基板1上で偏って乾燥して拡がりすぎることがないので、いっそう正しい分析ができる。また、回収室31が分解室21の上に配置され、ファン11およびフィルター12を介して回収室31に流入した清浄な空気が、パンチング孔31bを通って分解室21の内側シャッター21aの外側へ流れ落ちるようになっているので、システム全体の設置面積が十分に小さくなるとともに、回収室31が清浄に保たれる。なお、保持具32aが被測定物を回収した溶液4の上方から退避した後であれば、保持具32aの洗浄と被測定物の乾燥は、どちらを先に行ってもよく、並行して行ってもよい。
【0044】
次に、図1において、搬送装置50が、被測定物2(図1では簡単のため1つだけ記載している)を回収した基板1を蛍光X線分析装置40の導入室のカセット47へ搬送する。搬送の際、試料回収装置30のシャッター31aが自動的に開閉する。蛍光X線分析装置40は、搬送手段46で基板1を試料台41へ搬送して載置し、全反射蛍光X線分析を行う。
【0045】
第1実施形態のシステムの厚膜用VPDモードでは、前述したように、気相分解装置20により、基板表面1aにおける位置を維持して被測定物を基板表面1aに保持し、試料回収装置30により、基板表面1a全体にわたってではなく、基板表面1aの所定の部分ごとに被測定物2を回収して基板表面1aに保持できる。したがって、基板表面1aに形成された膜が厚くても、被測定物2が所定の部分単位での位置情報を失わずに濃縮されるので、分析の感度を向上させつつ、基板表面1aにおける所定の部分単位での被測定物2の分布を分析すること、つまり所定の部分単位でのマッピング分析が可能となる。
【0046】
分析後、基板1は搬送手段46により導入室のカセット47へ搬送され、さらに、搬送装置50によりカセット台5に載置されたもとのカセット3へ搬送される。なお、最初の基板1の分析中に、次の基板の回収、その次の基板の分解を同時に行えば、全体の前処理および分析作業をいっそう迅速に行える。
【0047】
さて、以上が厚膜用VPD(Vapor Phase Decomposition)モードでのシステムの動作説明であるが、次に、厚膜用VPT(Vapor Phase Treatment)モードでの動作を説明する。厚膜用VPTモードでは、試料回収装置30による被測定物の回収を行わないので、被測定物が濃縮されず、分析における感度は厚膜用VPDモードほど大きく向上しないが、基板表面1aにおける被測定物の詳細な分布を知ることができる。また、厚膜用VPTモードにおいても、被測定物が、気相分解装置20で溶解および乾燥を繰り返されることより微小な粒状になり、全反射蛍光X線分析において感度が向上する。
【0048】
厚膜用VPTモードでの動作は、図2で気相分解装置20において膜の溶解と反応副生成物である水の乾燥を繰り返す段階まで、厚膜用VPDモードと同じである。厚膜用VPTモードでは、この次に、搬送装置50が、被測定物2を保持した基板1を蛍光X線分析装置40の導入室のカセット47(図1)へ搬送する。搬送の際、気相分解装置20のシャッター21a,27が自動的に開閉する。この後、図1の蛍光X線分析装置40による分析、搬送装置50によるもとのカセット3への搬送が、厚膜用VPDモードと同様になされる。
【0049】
なお、このシステムでは、試料に応じて、厚膜用VPDモード、厚膜用VPTモードの他に、従来のVPDモード、VPTモード、TXRFモード、DADD(Direct acid Droplet Decomposition)モードも設定可能である。
【0050】
次に、本発明の第2実施形態の蛍光X線分析システムについて説明する。このシステムは、図2の気相分解装置20の構成および動作が以下のように前記第1実施形態のシステムと異なるが、その他の点については同様であるので説明を省略する。
【0051】
第2実施形態のシステムでは、気相分解装置20は、基板1を加熱する分解水乾燥手段29、例えば分解室21の上部に設けられたヒーターを有し、基板表面1aに形成された膜の表面または膜中に存在する被測定物を膜とともに反応性ガスにより溶解し、反応副生成物である水を分解水乾燥手段29による基板1への加熱で乾燥させて、被測定物を基板表面1aに保持する。ここで、溶解と乾燥を同時に行うことにより、被測定物の基板表面1aにおける位置を維持する。なお、第2実施形態のシステムにおける気相分解装置20は、分解室21内のフッ化水素を追い出すために、第1実施形態のシステムにおける分解水乾燥手段24、すなわち、窒素導入配管24aおよび排出配管24bをも有している。
【0052】
第2実施形態のシステムにおける気相分解装置20では、膜の溶解と反応副生成物である水の乾燥を同時に行うことにより、第1実施形態で図6に示したのと同様に、液滴が大きくなりすぎてくずれて拡がることを防止するので、液滴が大きくなりすぎてくずれて拡がることを防止するので、被測定物2A,2B,2Cが、基板表面1aに沿って移動してしまうようなことがなく、基板表面1aにおける位置を維持する。したがって、第1実施形態のシステムと同様に、厚膜用VPDモード、厚膜用VPTモードにより、基板表面1aに形成された膜9が厚くてもマッピング分析が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】(a)は、本発明の第1、第2実施形態である蛍光X線分析システムの平面図、(b)は、同システムの正面図である。
【図2】(a)は、同システムの気相分解装置の平面図、(b)は、同装置の正面図である。
【図3】(a)は、同システムの試料回収装置の平面図、(b)は、同装置の正面図である。
【図4】(a)は、同システムの試料回収装置の保持具洗浄手段であって保持具を洗浄液に浸漬させるものの正面図、(b)は、同手段であって保持具に洗浄液を吹き付けるものの正面図である。
【図5】同システムの気相分解装置の加熱手段を示す正面図である。
【図6】(a)から(d)は、同システムの気相分解装置により、基板表面に形成された膜が溶解され、反応副生成物である水が乾燥される様子を経時的に示す図である。
【図7】(a)は、同システムの試料回収装置により、基板表面の所定の部分ごとに被測定物を回収した基板の一例を示す図であり、(b)は、別の例を示す図である。
【図8】(a)から(c)は、従来の気相分解装置により、基板表面に形成された膜が溶解され、反応副生成物である水が乾燥される様子を経時的に示す図である。
【符号の説明】
【0054】
1 基板
1a 基板表面
2 被測定物
4 溶液
9 膜
9a 膜の表面
10 試料前処理装置
14A〜14G 基板表面の所定の部分
20 気相分解装置
30 試料回収装置
32a 保持具
40 蛍光X線分析装置
43 1次X線
44 蛍光X線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板表面に形成された膜の表面または膜中に存在する被測定物を前記膜とともに反応性ガスにより溶解し、反応副生成物である水を不活性ガスおよび/または減圧により乾燥させて、被測定物を基板表面に保持する気相分解装置であって、
前記溶解と乾燥を繰り返すことにより、被測定物の基板表面における位置を維持する気相分解装置。
【請求項2】
基板表面に形成された膜の表面または膜中に存在する被測定物を前記膜とともに反応性ガスにより溶解し、反応副生成物である水を基板への加熱により乾燥させて、被測定物を基板表面に保持する気相分解装置であって、
前記溶解と乾燥を同時に行うことにより、被測定物の基板表面における位置を維持する気相分解装置。
【請求項3】
請求項1または2の気相分解装置と、
表面に被測定物が存在する基板に溶液を滴下して保持具で保持しながら基板表面で移動させ、被測定物を回収後乾燥させて基板表面に保持する試料回収装置であって、基板表面の所定の部分ごとに被測定物を回収する試料回収装置とを有する試料前処理装置。
【請求項4】
請求項3の試料前処理装置と、
その試料前処理装置により基板表面に保持された被測定物に1次X線を照射して発生する蛍光X線の強度を測定する蛍光X線分析装置とを備えた蛍光X線分析システム。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2006−214877(P2006−214877A)
【公開日】平成18年8月17日(2006.8.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−28042(P2005−28042)
【出願日】平成17年2月3日(2005.2.3)
【出願人】(000250351)理学電機工業株式会社 (44)
【Fターム(参考)】