説明

油圧制御装置

【課題】切換専用のON−OFF電磁弁を設けることなく、ライン油圧制御弁の制御とロックアップ制御弁の制御とを1つの電磁弁によって行うことが可能な油圧制御装置を提供する。
【解決手段】油圧制御装置は、ベルト式無段変速機40と、トルクコンバータ20に設けられるロックアップクラッチ26と、各部の油圧の元圧となるライン油圧PLを調圧するプライマリレギュレータバルブ110と、ロックアップクラッチ26の係合・解放制御の際に切り換えられるロックアップコントロールバルブ140とを備える。プライマリレギュレータバルブ110の制御とロックアップコントロールバルブ140の制御とが1つのリニアソレノイドバルブSLTによって行われる。この場合、プライマリレギュレータバルブ110の制御とロックアップコントロールバルブ140の制御が異なる範囲で行われる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用動力伝達装置の油圧制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両に搭載される動力伝達装置として、油圧によりベルトを挟圧して動力を伝達するとともにベルト掛かり径を変更して変速比を変化させるベルト式無段変速機と、動力伝達経路に設けられた流体式動力伝達装置に備えられ、動力源側とベルト式無段変速機側とを直結する油圧式のロックアップクラッチとを有するものが知られている。
【0003】
このような車両用動力伝達装置の油圧制御装置には、各種の制御弁やそれを制御する電磁弁などが多数設けられる。例えば、各部の油圧の元圧となるライン油圧を調圧するライン油圧制御弁や、その元圧となるライン油圧を調圧して、ベルト式無段変速機の変速比を制御する変速油圧をベルト式無段変速機の駆動側プーリ(プライマリプーリ)へ供給する変速油圧制御弁、同じく元圧となるライン油圧を調圧して、ベルト式無段変速機のベルト挟圧を制御する挟圧油圧をベルト式無段変速機の従動側プーリ(セカンダリプーリ)へ供給する挟圧油圧制御弁、ロックアップクラッチの係合・解放制御の際に切り換えられるロックアップ制御弁などが設けられている。また、それらの各制御弁を制御するためのリニア電磁弁やON−OFF電磁弁などが設けられている。
【0004】
そして、従来では、1つのリニア電磁弁の制御油圧を、ライン油圧制御弁およびロックアップ制御弁に供給して、1つのリニア電磁弁によりライン油圧制御弁の制御およびロックアップ制御弁の制御を行うようにしている。この場合、ロックアップクラッチの係合・解放に応じて油路を切り換えることによって、リニア電磁弁の制御油圧を、ライン油圧制御弁およびロックアップ制御弁のいずれか一方に供給するようにしている。なお、特許文献1には、1つのリニア電磁弁によってライン油圧制御弁の制御のみを行う技術が示されている。
【特許文献1】特開2000−130574号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上述したように、ロックアップクラッチの係合・解放に応じて油路を切り換える構成とした場合、その油路を切り換えるための専用のON−OFF電磁弁を設けなければならない。つまり、ライン油圧制御弁の制御とロックアップ制御弁の制御とを切り換えるための電磁弁が別途必要になる。その結果、コストアップや装置の大型化を招くという問題点がある。
【0006】
本発明は、そのような問題点を鑑みてなされたものであり、ライン油圧制御弁の制御とロックアップ制御弁の制御とを切り換えるための専用の専用のON−OFF電磁弁を設けることなく、ライン油圧制御弁の制御とロックアップ制御弁の制御とを1つの電磁弁によって行うことが可能な油圧制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上述の課題を解決するための手段を以下のように構成している。すなわち、本発明は、油圧制御装置であって、油圧によりベルトを挟圧して動力を伝達するとともにベルト掛かり径を変更して変速比を変化させるベルト式無段変速機と、動力源と前記ベルト式無段変速機との間に設けられた流体式動力伝達装置に備えられ、前記動力源側とベルト式無段変速機側とを直結する油圧式のロックアップクラッチと、各部の油圧の元圧となるライン油圧を調圧するライン油圧制御弁と、前記ロックアップクラッチの係合・解放制御の際に切り換えられるロックアップ制御弁とを備えている。そして、前記ライン油圧制御弁の制御と、前記ロックアップ制御弁の制御とが、1つの電磁弁によって行われ、前記ライン油圧制御弁の制御と前記ロックアップ制御弁の制御とが互いに重なり合わない異なった範囲で行われることを特徴としている。
【0008】
上記構成によれば、1つの電磁弁によって、ライン油圧制御弁の制御範囲ではライン油圧の調圧制御が、ロックアップ制御弁の制御範囲ではロックアップクラッチの係合・解放制御が、それぞれ行われることになる。これにより、ライン油圧制御弁の制御とロックアップ制御弁の制御とを切り換えるための切換弁や、その切換弁を制御するための専用のON−OFF電磁弁を設ける必要がなくなる。したがって、ライン油圧制御弁の制御とロックアップ制御弁の制御とを切り換えるための専用のON−OFF電磁弁を設けることなく、ライン油圧制御弁の制御とロックアップ制御弁の制御とを1つの電磁弁によって行うことが可能になる。その結果、コストアップや装置の大型化を回避することが可能になる。
【0009】
ここで、前記電磁弁の制御油圧の一定範囲に前記ライン油圧制御弁の制御範囲を設定し、残りの範囲に前記ロックアップ制御弁の制御範囲を設定することが好ましい。
【0010】
また、前記ロックアップ制御弁の制御範囲では、前記電磁弁以外の他の電磁弁によって、前記ライン油圧制御弁の制御を行うことが好ましい。この場合、前記他の電磁弁としては、例えば、前記ベルト式無段変速機の従動側プーリへこのベルト式無段変速機のベルト挟圧を制御する挟圧油圧を供給する挟圧油圧制御弁を制御する電磁弁が挙げられる。こうすれば、ロックアップ制御弁の制御範囲において、ライン油圧の調圧制御が行われない状況を回避することが可能になる。
【0011】
そして、前記電磁弁の制御油圧の一定範囲に前記ライン油圧制御弁の制御範囲を設定し、残りの範囲に前記ロックアップ制御弁の制御範囲を設定するための具体構成としては次の2つの態様が挙げられる。
【0012】
第1の態様として、前記ライン油圧制御弁と前記電磁弁との間に、前記ロックアップ制御弁の制御範囲では、前記ライン油圧制御弁への出力油圧を「0」に設定可能な減圧弁を設ける構成が挙げられる。この場合、ライン油圧制御弁への出力油圧が「0」である間は、ロックアップ制御弁の範囲が行われる一方、ライン油圧制御弁への出力油圧が「0」を超えると、ライン油圧制御弁が行われるようになる。
【0013】
第2の態様として、ライン油圧制御弁を、前記ロックアップ制御弁の制御範囲では、このライン油圧制御弁によるライン油圧の制御に寄与する、前記電磁弁の制御油圧が「0」になるように構成することが挙げられる。この場合、ライン油圧の制御に寄与する電磁弁の制御油圧が「0」である間は、ロックアップ制御弁の範囲が行われる一方、ライン油圧の制御に寄与する電磁弁の制御油圧が「0」を超えると、ライン油圧制御弁が行われるようになる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、油圧制御装置において、ライン油圧制御弁の制御とロックアップ制御弁の制御とを切り換えるための専用の電磁弁を設けることなく、ライン油圧制御弁の制御とロックアップ制御弁の制御とを1つの電磁弁によって行うことが可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明を実施するための最良の形態について添付図面を参照しながら説明する。
【0016】
図1は、実施形態に係る車両用駆動装置の概略構成を示す図である。
【0017】
図1に例示する車両用駆動装置は、FF(フロントエンジン・フロントドライブ)型車両に好適に採用されるものである。この車両用駆動装置は、走行用動力源であるエンジン(内燃機関)10、トルクコンバータ20、前後進切換装置30、ベルト式無段変速機(CVT)40、減速歯車装置50、および、差動歯車装置60を備えている。この車両用駆動装置において、エンジン10の出力は、トルクコンバータ20から前後進切換装置30、ベルト式無段変速機40、および、減速歯車装置50を介して差動歯車装置60に伝達され、左右の駆動輪70L,70Rへ分配される。上記トルクコンバータ20、前後進切換装置30、ベルト式無段変速機40などによって動力伝達機構が構成されている。
【0018】
トルクコンバータ20は、流体(フルード)を介して動力伝達を行う流体伝動装置であって、エンジン10の出力軸11が連結されたフロントカバー21に一体的に設けられるポンプインペラ22と、このポンプインペラ22に対向しフロントカバー21の内面に隣接して設けられるとともにタービン軸28を介して前後進切換装置30に連結されるタービンランナ23とを備えている。具体的に、ポンプインペラ22とタービンランナ23とには、多数のブレード(図示せず)が設けられており、ポンプインペラ22が回転することによりフルードの螺旋流を生じさせ、その螺旋流をタービンランナ23に送ることによりタービンランナ23にトルクを与えて回転させるようになっている。
【0019】
ポンプインペラ22とタービンランナ23との内周側の部分には、タービンランナ23から送り出されたフルードの流動方向を変化させてポンプインペラ22に流入させるステータ24が配置されている。このステータ24は、一方向クラッチ25を介して所定の固定部に連結されている。また、ポンプインペラ22には、油圧制御回路100(図3参照)の各部に作動油を供給したりするための油圧をエンジン10により回転駆動されることによって発生する機械式のオイルポンプ(油圧発生源)27が設けられている。
【0020】
トルクコンバータ20は、ロックアップクラッチ26を備えている。ロックアップクラッチ26は、ポンプインペラ22とタービンランナ23とステータ24とからなる実質的なトルクコンバータに対して並列に配置されたものであって、フロントカバー21の内面に対向した状態でタービンランナ23に保持されている。そして、ロックアップクラッチ26は、油圧によってフロントカバー21の内面に押し付けられることにより、入力部材であるフロントカバー21から出力部材であるタービンランナ23に直接、トルクを伝達するようになっている。ここで、その油圧を制御することによりロックアップクラッチ26のクラッチ容量を制御できるようになっている。具体的には、ロックアップクラッチ26は、油圧制御回路100(図3参照)のロックアップコントロールバルブ140により、係合側油圧室261に供給されるロックアップ係合油圧PONと解放側油圧室262に供給されるロックアップ解放油圧POFFとの差圧(ロックアップ差圧)ΔPを制御することによって、完全係合・半係合(スリップ状態での係合)または解放される。
【0021】
ロックアップクラッチ26を完全係合させることにより、フロントカバー21(ポンプインペラ22)およびタービンランナ23が一体回転する。また、ロックアップクラッチ26を所定のスリップ状態(半係合状態)で係合させることにより、駆動時には所定のスリップ量でタービンランナ23がポンプインペラ22に追従して回転する。一方、ロックアップ差圧ΔPを負に設定することによりロックアップクラッチ26は解放状態となる。油圧制御回路100によるロックアップクラッチ26の係合・解放については後述する。
【0022】
前後進切換装置30は、ダブルピニオン型の遊星歯車機構31と、前進用クラッチC1と、後進用ブレーキB1とを備えている。
【0023】
遊星歯車機構31のサンギヤ32は、トルクコンバータ20のタービン軸28に一体的に連結されており、キャリヤ36は、ベルト式無段変速機40の入力軸47に一体的に連結されている。キャリヤ36およびサンギヤ32は、前進用クラッチC1を介して選択的に連結されるようになっている。また、リングギヤ33は、後進用ブレーキB1を介してハウジングに選択的に固定されるようになっている。
【0024】
サンギヤ32とリングギヤ33との間には、サンギヤ32に噛合する内側のピニオンギヤ34と、この内側のピニオンギヤ34およびリングギヤ33に噛合する外側のピニオンギヤ35とが配置されている。これらピニオンギヤ34,35は、キャリヤ36によって自転かつ公転自在に保持されている。
【0025】
前進用クラッチC1および後進用ブレーキB1は、ともに油圧アクチュエータによって係合・解放される油圧式の走行用摩擦係合要素である。前進用クラッチC1が係合されるとともに後進用ブレーキB1が解放されることにより、前後進切換装置30は一体回転状態となり、前後進切換装置30において前進用動力伝達経路が成立する。この状態では、前進方向の駆動力がベルト式無段変速機40側へ伝達される。一方、後進用ブレーキB1が係合されるとともに前進用クラッチC1が解放されることにより、前後進切換装置30において後進用動力伝達経路が成立する。この状態では、入力軸47はタービン軸28に対して逆方向へ回転し、この後進方向の駆動力がベルト式無段変速機40側へ伝達される。また、前進用クラッチC1および後進用ブレーキB1がともに解放されると、前後進切換装置30は、エンジン10とベルト式無段変速機40との間の動力伝達を遮断するニュートラル(遮断状態)になる。
【0026】
より詳細には、前進用クラッチC1および後進用ブレーキB1は、油圧制御回路100(図3参照)のマニュアルバルブ170がシフトレバー87(図2参照)の操作にしたがって機械的に切り換えられることにより、係合・解放されるようになっている。シフトレバー87は、例えば、運転席の横に配設されて運転者により切換操作されるもので、駐車のためのパーキング位置「P」、後進走行のためのリバース位置「R」、動力伝達を遮断するニュートラル位置「N」、前進走行のためのドライブ位置「D」などの各シフト位置に選択的に操作されるようになっている。パーキング位置「P」およびニュートラル位置「N」では、前進用クラッチC1および後進用ブレーキB1はともに解放される。リバース位置「R」では、後進用ブレーキB1が係合される一方、前進用クラッチC1が解放される。ドライブ位置「D」では、前進用クラッチC1が係合される一方、後進用ブレーキB1が解放される。油圧制御回路100による前後進切換装置30の走行用摩擦係合要素(前進用クラッチC1、後進用ブレーキB1)の係合・解放については後述する。
【0027】
ベルト式無段変速機40は、油圧により伝動ベルト45を挟圧して動力を伝達するとともにその伝動ベルト45の掛かり径を変更して変速比を変化させるものである。ベルト式無段変速機40は、上記入力軸47に設けられた駆動側プーリ(プライマリプーリ)41と、出力軸48に設けられた従動側プーリ(セカンダリプーリ)42と、これらの両プーリ41,42に巻き掛けられた金属製の伝動ベルト45とを備えている。そして、ベルト式無段変速機40は、両プーリ41,42と伝動ベルト45との間の摩擦力を介して動力伝達が行われるように構成されている。
【0028】
駆動側プーリ41は、有効径が可変な可変プーリであって、入力軸47に固定された固定シーブ411と、入力軸47に軸方向のみの摺動が可能な状態で配設された可動シーブ412によって構成されている。従動側プーリ42も同様に、有効径が可変な可変プーリであって、出力軸48に固定された固定シーブ421と、出力軸48に軸方向のみの摺動が可能な状態で配設された可動シーブ422によって構成されている。駆動側プーリ41の可動シーブ412側には、固定シーブ411と可動シーブ412との間のV溝幅を変更するための油圧アクチュエータ413が配置されている。また、従動側プーリ42の可動シーブ422側にも同様に、固定シーブ421と可動シーブ422との間のV溝幅を変更するための油圧アクチュエータ423が配置されている。
【0029】
そして、ベルト式無段変速機40において、駆動側プーリ41の油圧アクチュエータ413の油圧(変速油圧)PINを制御することにより、両プーリ41,42のV溝幅が変化して伝動ベルト45の掛かり径(有効径)が変更され、変速比γ(=入力軸回転速度NIN/出力軸回転速度NOUT)が連続的に変化する。また、従動側プーリ42の油圧アクチュエータ423の油圧(挟圧油圧)POUTは、伝動ベルト45の滑りが生じない範囲で伝達トルクを伝達する所定のベルト挟圧力(摩擦力)を発生させるように制御される。
【0030】
駆動側プーリ41の油圧アクチュエータ413の変速油圧PIN、および、従動側プーリ42の油圧アクチュエータ423の挟圧油圧POUTは、電子制御装置80(図2参照)からの指令にしたがってそれぞれ調圧される。ここで、変速油圧PINは、油圧制御回路100(図3参照)の変速油圧コントロールバルブ120によって調圧制御される。また、挟圧油圧POUTは、油圧制御回路100の挟圧油圧コントロールバルブ130によって調圧制御される。油圧制御回路100によるベルト式無段変速機40の変速油圧PINおよび挟圧油圧POUTの調圧については後述する。
【0031】
図2は、上述した車両用駆動装置の動力伝達機構の制御系統の一例を示すブロック図である。
【0032】
図2に例示する電子制御装置80は、CPU801、ROM802、RAM803、バックアップRAM804を備えている。そして、CPU801がRAM803の一時記憶機能を利用しつつ予めROM802に記憶されたプログラムにしたがって信号処理を行うことにより、ベルト式無段変速機40の変速油圧PINおよび挟圧油圧POUTの調圧制御、前後進切換装置30の走行用摩擦係合要素(前進用クラッチC1、後進用ブレーキB1)の係合・解放の制御、トルクコンバータ20のロックアップクラッチ26の係合・解放の制御、各部の油圧の元圧となるライン油圧PLの調圧制御などの各種制御が実行されるようになっている。
【0033】
詳しく説明すれば、ROM802には、各種制御プログラムや、それら各種制御プログラムを実行する際に参照されるマップ等が記憶されている。CPU801は、ROM802に記憶された各種制御プログラムやマップに基づいて演算処理を実行する。また、RAM803は、CPU801での演算結果や各センサから入力されたデータ等を一時的に記憶するメモリであり、バックアップRAM804は、エンジン10の停止時にその保存すべきデータ等を記憶する不揮発性のメモリである。これらCPU801、ROM802、RAM803、および、バックアップRAM804は、双方向性バス807を介して互いに接続されるとともに、入力インターフェース805および出力インターフェース806に接続されている。
【0034】
入力インターフェース805には、上記車両用駆動装置を搭載した車両の動作状態(あるいは走行状態)を検出するために各種のセンサが接続されている。具体的に、入力インターフェース805には、レバーポジションセンサ81、アクセル操作量センサ82、エンジン回転速度センサ83、車速センサとしても機能する出力軸回転速度センサ84、入力軸回転速度センサ85、タービン回転速度センサ86などが接続されている。レバーポジションセンサ81は、例えば、パーキング位置「P」、リバース位置「R」、ニュートラル位置「N」、ドライブ位置「D」などのシフト位置にシフトレバー87が操作されたことを検出する複数のON−OFFスイッチ等を備えている。
【0035】
そして、電子制御装置80には、これらの各種センサからそれぞれシフトレバー87のレバーポジション(操作位置)PSH、アクセルペダル等のアクセル操作部材の操作量(アクセル操作量)θACC、エンジン10の回転速度(エンジン回転速度)NE、ベルト式無段変速機40の出力軸48の回転速度(出力軸回転速度)NOUT、ベルト式無段変速機40の入力軸47の回転速度(入力軸回転速度)NIN、トルクコンバータ20のタービン軸28の回転速度(タービン回転速度)NTなどを表す信号が供給されるようになっている。タービン回転速度NTは、前後進切換装置30の前進用クラッチC1が係合させられた前進走行時には入力軸回転速度NINと一致する。出力軸回転速度NOUTは車速Vに対応する。また、アクセル操作量θACCは運転者の出力要求量を表している。
【0036】
出力インターフェース806には、油圧制御回路100のリニアソレノイドバルブSLP,SLS,SLT、ON−OFFソレノイドバルブSL1などが接続されている。電子制御装置80は、油圧制御回路100のリニアソレノイドバルブSLP,SLS,SLTの励磁電流を制御して、これらのリニアソレノイドバルブSLP,SLS,SLTから出力される制御油圧PSLP,PSLS,PSLTをそれぞれ調圧するとともに、油圧制御回路100のON−OFFソレノイドバルブSL1のON状態(励磁状態)とOFF状態(非励磁状態)とを切り換える。これにより、ベルト式無段変速機40の変速油圧PINおよび挟圧油圧POUTの調圧制御、前後進切換装置30の走行用摩擦係合要素の係合・解放制御、ロックアップクラッチ26の係合・解放制御、ライン油圧PLの調圧制御などが行われるようになっている。
【0037】
図3は、上述した車両用駆動装置の動力伝達機構を制御するための油圧制御回路の一例を示す回路図である。
【0038】
図3に例示する油圧制御回路100は、上述したオイルポンプ27、変速油圧コントロールバルブ120、挟圧油圧コントロールバルブ130、ロックアップコントロールバルブ140、マニュアルバルブ170を含み、さらに、プライマリレギュレータバルブ110、ガレージシフトバルブ160、減圧バルブ180を含む。また、油圧制御回路100は、上述した電子制御装置80に接続されるリニアソレノイドバルブSLP,SLS,SLT、ON−OFFソレノイドバルブSL1を含む。なお、図3に示す油圧制御回路100は、車両用駆動装置の動力伝達機構の油圧制御回路の一部分について概略的に示したものであり、実際の油圧回路は、この図3に示すもの以外に図示しないバルブや油路なども含んでいる。
【0039】
油圧制御回路100において、オイルポンプ27により発生された油圧は、プライマリレギュレータバルブ110により各部の油圧の元圧となるライン油圧PLに調整される。プライマリレギュレータバルブ110によって調圧されたライン油圧PLは、油路101を介して、変速油圧コントロールバルブ120や挟圧油圧コントロールバルブ130などの油圧制御回路100の各部に供給される。
【0040】
プライマリレギュレータバルブ110は、軸方向へ移動可能な第1スプール111aおよび第2スプール111bと、第1スプール111aおよび第2スプール111bを一方へ付勢する付勢手段としてのスプリング112とを備えている。図3においては、上側に設けられた第1スプール111aと下側に設けられた第2スプール111bとがともに上下に摺動可能に設けられている。プライマリレギュレータバルブ110には、制御ポート115a,115b,115cと、入力ポート116と、出力ポート117とが設けられている。
【0041】
第1スプール111aによって、入力ポート116と出力ポート117とが連通・遮断される。スプリング112は、第2スプール111bの一端側(図3では下端側)に設けられた制御油圧室113cに圧縮状態で配置されている。つまり、この制御油圧室113cは、スプリング112が配置されるスプリング室になっている。スプリング112の付勢力によって、入力ポート116と出力ポート117とを遮断する方向(図3では上方)に第2スプール111bおよび第1スプール111aが押圧されている。
【0042】
制御ポート115aは、第1スプール111aの他端側(図3では上端側)に設けられる制御油圧室113aに接続されている。また、制御ポート115aは、油路101に接続されている。この制御ポート115aを介して、制御油圧室113aにライン油圧PLが供給される。
【0043】
制御ポート115bは、第1スプール111aの一端側と第2スプール111bの他端側との間に設けられる制御油圧室113bに接続されている。また、制御ポート115bは、油路102を介してリニアソレノイドバルブSLSの出力ポートSLSbに接続されている。この制御ポート115bを介して、制御油圧室113bにリニアソレノイドバルブSLSの出力油圧(制御油圧)PSLSが供給される。
【0044】
制御ポート115cは、上記制御油圧室113cに接続されている。また、制御ポート115cは、油路103を介して減圧バルブ180の出力ポート187に接続されている。この制御ポート115cを介して、制御油圧室113cに減圧バルブ180の出力油圧PCTLが供給される。
【0045】
入力ポート116は、油路101に接続されている。この入力ポート116を介してライン油圧PLが入力されるようになっている。出力ポート117は、図示しないセカンダリレギュレータバルブに接続されている。
【0046】
第1スプール111aは、制御油圧室113aに導入される上記ライン油圧PLと、制御油圧室113bに導入される上記制御油圧PSLSまたは制御油圧室113cに導入される減圧バルブ180の出力油圧PCTL、および、スプリング112の付勢力の合成力とのバランスにより上下に摺動する。そして、上記合成力が上記ライン油圧PLによる力に勝っている間は、入力ポート116と出力ポート117とが遮断された状態になっている。一方、上記ライン油圧PLによる力が上記合成力に勝ると、第1スプール111aが図3において下方に移動して、入力ポート116と出力ポート117とが連通されるようになる。これにより、油路101からの油圧が出力ポート117を介してドレーンされることで、ライン油圧PLの調整が行われる。したがって、リニアソレノイドバルブSLSの制御油圧PSLSおよび減圧バルブ180の出力油圧PCTL(言い換えれば、リニアソレノイドバルブSLTの制御油圧PSLT)の少なくとも一方の油圧を制御することで、ライン油圧PLの調圧制御を行うことが可能になっている。
【0047】
ここで、第1スプール111aと第2スプール111bとが同径に形成されている。そして、制御ポート115bを介して供給される上記制御油圧PSLSの第1スプール111aへの作用面積(受圧面積)と、上記制御油圧PSLSの第2スプール111bへの作用面積(受圧面積)と、制御ポート115cを介して供給される上記出力油圧PCTLの第2スプール111bへの作用面積(受圧面積)とが同じになっている。
【0048】
これにより、上記合成力には、制御油圧室113bに導入される上記制御油圧PSLSおよび制御油圧室113cに導入される減圧バルブ180の出力油圧PCTLのうち高いほうの油圧が寄与する。つまり、プライマリレギュレータバルブ110は、上記制御油圧PSLSおよび上記出力油圧PCTLのうち高いほうの油圧を選択して、ライン油圧PLの調圧制御を行うように構成されている。具体的に、プライマリレギュレータバルブ110は、上記出力油圧PCTLに比べ上記制御油圧PSLSのほうが高いとき、第1スプール111aは第2スプール111bに対し離間した状態で上下に移動する一方、上記制御油圧PSLSに比べ上記出力油圧PCTLのほうが高いとき、両スプール111a,111bが接触して一体的な状態で上下に移動するように構成されている。このように、ライン油圧PLの制御の際、2つの制御油圧PSLS,PSLTの演算などを行わなくても、2つの油圧PSLS,PCTLのうち高いほうの油圧が自動的に選択されるので、ライン油圧PLの制御を容易に行うことが可能になる。
【0049】
変速油圧コントロールバルブ120は、軸方向へ移動可能なスプール121と、そのスプール121を一方へ付勢する付勢手段としてのスプリング122とを備えている。変速油圧コントロールバルブ120は、リニアソレノイドバルブSLPの出力油圧(制御油圧)PSLPをパイロット圧として、元圧となるライン油圧PLを連続的に調圧制御するように構成されている。そして、変速油圧コントロールバルブ120により調整された油圧(変速油圧PIN)は、油路109aを介して駆動側プーリ41の油圧アクチュエータ413に供給される。
【0050】
したがって、変速油圧PINの調圧制御は、リニアソレノイドバルブSLPの制御油圧PSLPを制御することによって行われるようになっている。上記制御油圧PSLPは励磁電流に応じてリニアに変化するため、この制御油圧PSLPに応じてベルト式無段変速機40の変速比γが連続的に変更される。この場合、例えば、ROM802に予め記憶された変速マップから実際の車速Vおよびアクセル開度θACCで示される車両状態に基づいて設定される目標入力軸回転速度と、実際の入力軸回転速度NINとが一致するように、それらの回転速度差(偏差)に応じてベルト式無段変速機40の変速比γが変更される。変速マップは、変速条件を示すもので、例えば、アクセル開度θACCをパラメータとして車速Vとベルト式無段変速機40の目標入力回転速度である目標入力軸回転速度との関係である。
【0051】
挟圧油圧コントロールバルブ130は、軸方向へ移動可能なスプール131と、そのスプール131を一方へ付勢する付勢手段としてのスプリング132とを備えている。挟圧油圧コントロールバルブ130は、リニアソレノイドバルブSLSの制御油圧PSLSをパイロット圧として、元圧となるライン油圧PLを連続的に調圧制御するように構成されている。そして、挟圧油圧コントロールバルブ130により調整された油圧(挟圧油圧POUT)は、油路109bを介して従動側プーリ42の油圧アクチュエータ423に供給される。
【0052】
したがって、挟圧油圧POUTの調圧制御は、リニアソレノイドバルブSLSの制御油圧PSLSを制御することによって行われるようになっている。上記制御油圧PSLSは励磁電流に応じてリニアに変化するため、この制御油圧PSLSに応じてベルト式無段変速機40のベルト挟圧力が連続的に変更される。この場合、例えば、ROM802に予め記憶された挟圧力マップから実際の変速比γおよびアクセル開度θACCで示される車両状態に基づいて設定される必要な目標変速油圧が得られるように従動側プーリ42の油圧アクチュエータ423の挟圧油圧POUTが調圧され、この挟圧油圧POUTに応じてベルト式無段変速機40のベルト挟圧力が変更される。挟圧力マップは、アクセル開度θACCをパラメータとして変速比γと必要とされる目標変速油圧との関係であり、ベルト滑りが生じないように予め実験的により求められる関係である。
【0053】
ここで、変速油圧PINおよび挟圧油圧POUTは元圧となるライン油圧PLを調圧して得られるので、ライン油圧PLは少なくとも変速油圧PINおよび挟圧油圧POUT以上であることが必要である。このため、ベルト式無段変速機40の変速比γおよび挟圧力の制御を行うのに必要とされる目標変速油圧および目標挟圧油圧以上のライン油圧PLが得られるように、オイルポンプ27を駆動する必要がある。この場合、必要とされる目標変速油圧および目標挟圧油圧は、例えば、図6に示すように設定される。この図6は、入力軸回転速度NINおよび入力トルクを一定とした条件下で、ベルト式無段変速機40の変速比γに応じて必要とされる目標変速油圧および目標挟圧油圧の設定値の変化の一例を示している。図中の破線は目標変速油圧の変化を示し、一点鎖線は目標挟圧油圧の変化を示している。
【0054】
変速比γがγ1よりも低い増速側(図中左側)では、目標挟圧油圧に比べ目標変速油圧が高く設定され、その差は増速度が高くなるほど大きくなる。一方、変速比γがγ1よりも高い減速側(図中右側)では、目標変速油圧に比べ目標挟圧油圧が高く設定され、その差は減速度が高くなるほど大きくなる。つまり、目標変速油圧および目標挟圧油圧の設定値は変速比γの変化にともなって(上記変速比γ1を切換点として)逆転する。そして、オイルポンプ27の駆動損失を抑制するためには、変速比γがγ1よりも高い場合、ライン油圧PLを目標挟圧油圧に比べ同じもしくは僅かに高く設定することが好ましく、また、変速比γがγ1よりも低い場合、ライン油圧PLを目標変速油圧に比べ同じもしくは僅かに高く設定することが好ましい。なお、その変速比γ1の具体的な値としては変速比「1」が挙げられるが、これに限定されるものではない。
【0055】
減圧バルブ180は、上記プライマリレギュレータバルブ110の制御油圧室113cに導入される油圧を調整する調圧弁である。減圧バルブ180は、プライマリレギュレータバルブ110とリニアソレノイドバルブSLTとの間に設けられている。具体的に、減圧バルブ180は、軸方向へ移動可能なスプール181と、そのスプール181を一方へ付勢する付勢手段としてのスプリング182とを備えている。図3においては、スプール181が上下に摺動可能に設けられている。減圧バルブ180には、制御ポート185と、入力ポート186と、出力ポート187と、フィードバックポート188と、ドレーンポート189とが設けられている。
【0056】
スプール181によって、入力ポート186と出力ポート187とが連通・遮断される。スプリング182は、スプール181の一端側(図3では下端側)に設けられたスプリング室184に圧縮状態で配置されている。スプリング182の付勢力によって、入力ポート186と出力ポート187とを遮断する方向(図3では上方)にスプール181が押圧されている。
【0057】
制御ポート185は、スプール181の他端側(図3では上端側)に設けられる制御油圧室183に接続されている。また、制御ポート185は、油路104を介してリニアソレノイドバルブSLTの出力ポートSLTbに接続されている。この制御ポート185を介して、制御油圧室183にリニアソレノイドバルブSLTの出力油圧(制御油圧)PSLTが供給される。
【0058】
入力ポート186は、図示しない第1モジュレータバルブに接続されている。この入力ポート186を介して、ライン油圧PLを元圧として第1モジュレータバルブにより調圧された第1モジュレータ油圧PM1が入力されるようになっている。出力ポート187は、油路103を介して上述したプライマリレギュレータバルブ110の制御ポート115cに接続されている。そして、この減圧バルブ180によって減圧された油圧(出力油圧PCTL)が出力ポート187から出力されるようになっている。
【0059】
フィードバックポート188は、上記スプリング室184に接続されている。また、フィードバックポート188は、油路103に接続されている。このフィードバックポート188を介して、スプリング室184に上記出力油圧PCTLと等しい油圧が供給される。
【0060】
スプール181は、制御油圧室183に導入される上記制御油圧PSLTと、スプリング室184に導入される上記出力油圧PCTLおよびスプリング182の付勢力の合成力とのバランスにより上下に摺動する。この場合、スプリング182の付勢力が上記制御油圧PSLTによる力に勝っている間は、スプール181が他端側に固定された状態になっており、入力ポート186と出力ポート187とが遮断されている。この状態では、上記出力油圧PCTLは、スプリング室184およびプライマリレギュレータバルブ110の制御油圧室113cへは導入されず、かつ、ドレーンポート189と出力ポート187が連通するため、この部位の油圧は0となる。
【0061】
一方、上記制御油圧PSLTによる力がスプリング182の付勢力に勝ると、スプール181の一端側への移動が許容されるようになる。これにともない、入力ポート186と出力ポート187とが連通され、これにより、上記出力油圧PCTLが、油路103を介して、スプリング室184およびプライマリレギュレータバルブ110の制御油圧室113cへ導入されるようになる。
【0062】
出力ポート187から出力される出力油圧PCTLは、スプリング182の付勢力(荷重)をW1、フィードバックポート188を介して供給される上記出力油圧PCTLのスプール181への作用面積(受圧面積)をS1とすると、[PSLT−W1/S1]、となる。したがって、図4に示すように、リニアソレノイドバルブSLTの制御油圧PSLTを制御することで、減圧バルブ180の出力油圧PCTLの調圧制御を行うことが可能になっている。
【0063】
このように、減圧バルブ180により、上記出力油圧PCTLは、リニアソレノイドバルブSLTの制御油圧PSLTに対しスプリング182の付勢力に相当する油圧だけ減圧されたものとなっている。これにより、リニアソレノイドバルブSLTを、後述するように、ライン油圧PLの調圧制御のためだけではなく、ロックアップクラッチ26の係合・解放制御のためにも用いることが可能になっている。
【0064】
マニュアルバルブ170は、シフトレバー87の操作にしたがって前後進切換装置30の前進用クラッチC1および後進用ブレーキB1への油圧供給を切り換える切換弁である。マニュアルバルブ170は、シフトレバー87のパーキング位置「P」、リバース位置「R」、ニュートラル位置「N」、ドライブ位置「D」などの各シフト位置に対応して切り換えられる。
【0065】
マニュアルバルブ170が、シフトレバー87のパーキング位置「P」およびニュートラル位置「N」に対応して切り換えられている場合、前進用クラッチC1の油圧サーボおよび後進用ブレーキB1の油圧サーボへは油圧は供給されない。前進用クラッチC1の油圧サーボおよび後進用ブレーキB1の油圧サーボの作動油は、マニュアルバルブ170を介してドレーンされる。これにより、前進用クラッチC1および後進用ブレーキB1がともに解放される。
【0066】
マニュアルバルブ170が、シフトレバー87のリバース位置「R」に対応して切り換えられている場合、後進用ブレーキB1の油圧サーボへは油圧が供給される一方、前進用クラッチC1の油圧サーボへは油圧は供給されない。前進用クラッチC1の油圧サーボの作動油は、マニュアルバルブ170を介してドレーンされる。これにより、後進用ブレーキB1が係合されるとともに、前進用クラッチC1が解放される。
【0067】
マニュアルバルブ170が、シフトレバー87のドライブ位置「D」に対応して切り換えられている場合、入力ポート176および出力ポート177が連通され、前進用クラッチC1の油圧サーボへ油圧が供給される。一方、後進用ブレーキB1の油圧サーボへは油圧は供給されない。後進用ブレーキB1の油圧サーボの作動油は、マニュアルバルブ170を介してドレーンされる。これにより、前進用クラッチC1が係合されるとともに、後進用ブレーキB1が解放される。前進用クラッチC1の係合にともなう油圧供給は、次に述べるガレージシフトバルブ160を介して行われる。
【0068】
ガレージシフトバルブ160は、ガレージシフトの際、前後進切換装置30の走行用摩擦係合要素(前進用クラッチC1、後進用ブレーキB1)の係合過渡時と係合時(完全係合時)とに対応して油路を切り換える切換弁である。このガレージシフトバルブ160の切り換えにより、例えば、車両発進時などにシフトレバー87がパーキング位置「P」やニュートラル位置「N」などの非走行位置からドライブ位置「D」などの走行位置へ操作された際、前進用クラッチC1の油圧サーボへの供給油圧が、係合過渡時に対応する係合過渡油圧と、完全係合時に対応する係合保持油圧とに切り換えられる。同様に、シフトレバー87がリバース位置「R」に操作された際にも、ガレージシフトバルブ160の切り換えにより、後進用ブレーキB1の油圧サーボへの供給油圧が、係合過渡時に対応する係合過渡油圧と、完全係合時に対応する係合保持油圧とに切り換えられる。なお、以下では、ガレージシフトバルブ160により、前進用クラッチC1の油圧サーボへの供給油圧を切り換える場合について代表して説明する。
【0069】
具体的には、ガレージシフトバルブ160は、前進用クラッチC1の係合過渡時には、図3の左半分に示すコントロール位置に切り換えられ、前進用クラッチC1の完全係合時には、図3の右半分に示すノーマル位置に切り換えられるように構成されている。ガレージシフトバルブ160の切り換えは、ON−OFFソレノイドバルブSL1の出力油圧(制御油圧)を制御することによって行われる。
【0070】
ガレージシフトバルブ160は、軸方向へ移動可能なスプール161と、そのスプール161を一方へ付勢する付勢手段としてのスプリング162とを備えている。図3においては、スプール161が上下に摺動可能に設けられている。スプリング162は、スプール161の一端側(図3では下端側)に設けられたスプリング室164に圧縮状態で配置されている。スプリング162の付勢力によって、ガレージシフトバルブ160を上記ノーマル位置に保持する方向(図3では上方)へスプール161が押圧されている。ガレージシフトバルブ160には、制御ポート165と、入力ポート166a,166bと、出力ポート167と、ドレーンポート169とが設けられている。
【0071】
制御ポート165は、スプール161の他端側(図3では上端側)に設けられる制御油圧室163に接続されている。また、制御ポート165は、ON−OFFソレノイドバルブSL1の出力ポートSL1bに接続されている。この制御ポート165を介して、制御油圧室163にON−OFFソレノイドバルブSL1の制御油圧が供給される。
【0072】
入力ポート166aは、図示しない第2モジュレータバルブに接続されている。この入力ポート166aを介して、ライン油圧PLを元圧として第2モジュレータバルブにより調圧された第2モジュレータ油圧PM2が入力されるようになっている。入力ポート166bは、油路105を介してリニアソレノイドバルブSLTの出力ポートSLTcに接続されている。この入力ポート166bを介して、リニアソレノイドバルブSLTの制御油圧PSLTが入力されるようになっている。なお、上記第2モジュレータバルブはプライマリレギュレータバルブ110の下流側に設けられ、この第2モジュレータバルブの下流側に上記第1モジュレータバルブが設けられる。このため、上記第2モジュレータ油圧PM2は、上記第1モジュレータ油圧PM1に比べ高く設定されるようになっている。
【0073】
出力ポート167は、油路107を介してマニュアルバルブ170の入力ポート176に接続されている。ドレーンポート169は、スプリング室164に接続されている。
【0074】
続いて、ガレージシフトバルブ160の切り換え動作について説明する。
【0075】
この実施形態では、ガレージシフトバルブ160の切り換えを行うための制御弁として、ON−OFFソレノイドバルブSL1が設けられている。ON−OFFソレノイドバルブSL1は、電子制御装置80から送られる指令にしたがって、ON状態とOFF状態とを切り換えるように構成されている。ON−OFFソレノイドバルブSL1として、以下に述べるようなノーマルクローズタイプの電磁弁を用いることが可能であるが、ノーマルオープンタイプの電磁弁を用いる構成としてもよい。なお、ガレージシフトバルブ160の切り換えを行うための制御弁として、ON−OFFソレノイドバルブSL1の代わりに、リニアタイプの電磁弁や、デューティタイプの電磁弁、三方弁タイプの電磁弁などを用いることが可能である。
【0076】
具体的には、ON−OFFソレノイドバルブSL1が通電時であるON状態のとき、所定の制御油圧が出力ポートSL1bから出力され、その制御油圧がガレージシフトバルブ160へ供給される。そして、その制御油圧によってスプール161がスプリング162の付勢力に抗して下方に移動する。これにより、ガレージシフトバルブ160がコントロール位置に保持される。一方、ON−OFFソレノイドバルブSL1が非通電時であるOFF状態のとき、その制御油圧の出力が停止される。そして、スプリング162の付勢力によってスプール161が上方に移動する。これにより、ガレージシフトバルブ160がノーマル位置に保持される。なお、ON−OFFソレノイドバルブSL1には、上記第1モジュレータバルブにより調圧された上記第1モジュレータ油圧PM1が、入力ポートSL1aを介して導入される。
【0077】
そして、ON−OFFソレノイドバルブSL1は、前後進切換装置30の前進用クラッチC1の係合過渡時、言い換えれば、前進用クラッチC1の係合動作が開始されてから前進用クラッチC1が完全係合状態に至るまでの間は、ON状態に制御される。これにともない、ON−OFFソレノイドバルブSL1の制御油圧が制御ポート165を介して制御油圧室163に導入され、ガレージシフトバルブ160がコントロール位置に保持される。これにより、入力ポート166bおよび出力ポート167が連通される。
【0078】
この場合、マニュアルバルブ170の入力ポート176および出力ポート177が連通されているので、入力ポート166bおよび出力ポート167の連通により、リニアソレノイドバルブSLTの制御油圧PSLTが前進用クラッチC1の油圧サーボへ供給されるようになる。したがって、前進用クラッチC1の係合過渡時に油圧サーボに供給される係合過渡油圧が上記制御油圧PSLTになっている。こうして、リニアソレノイドバルブSLTにより前進用クラッチC1の係合過渡制御が行われる。ここで、係合過渡油圧としてのリニアソレノイドバルブSLTの制御油圧PSLTは励磁電流に応じてリニアに変化するため(図5参照)、ガレージシフトの際、前進用クラッチC1のスムーズな係合が可能になり、前進用クラッチC1の係合にともなうショックの抑制が可能になる。
【0079】
一方、ON−OFFソレノイドバルブSL1は、前進用クラッチC1が完全に係合した完全係合時(例えば、定常走行時など)にはOFF状態に制御される。この場合、制御油圧室163へのON−OFFソレノイドバルブSL1の制御油圧の供給が停止されるので、ガレージシフトバルブ160はノーマル位置に保持される。これにより、入力ポート166aおよび出力ポート167が連通される。この場合、マニュアルバルブ170の入力ポート176および出力ポート177が連通されているので、入力ポート166aおよび出力ポート167の連通により、上記第2モジュレータ油圧PM2が前進用クラッチC1の油圧サーボへ供給されるようになる。したがって、前進用クラッチC1の完全係合時に油圧サーボに供給される係合保持油圧が上記第2モジュレータ油圧PM2になっている。ここで、上記第2モジュレータ油圧PM2は、上記制御油圧PSLT以上の一定油圧(クラッチ圧)に設定されており、前進用クラッチC1を完全係合状態で確実に保持することが可能になる。
【0080】
なお、上記以外の場合(係合過渡時と完全係合時以外の場合)には、ON−OFFソレノイドバルブSL1はOFF状態に制御され、ガレージシフトバルブ160はノーマル位置に保持される。しかし、シフトレバー87のドライブ位置「D」などの走行位置以外の位置に対応してマニュアルバルブ170が切り換えられていれば、マニュアルバルブ170の入力ポート176および出力ポート177が遮断されるため、上記第2モジュレータ油圧PM2が前進用クラッチC1の油圧サーボへ供給されることはない。
【0081】
ロックアップコントロールバルブ140は、ロックアップクラッチ26の係合・解放を制御するものである。具体的には、ロックアップコントロールバルブ140は、ロックアップ差圧ΔP(ΔP=ロックアップ係合油圧PON−ロックアップ解放油圧POFF)を制御することによって、ロックアップクラッチ26の係合・解放を制御するように構成されている。ロックアップコントロールバルブ140によるロックアップ差圧ΔPの制御は、リニアソレノイドバルブSLTの制御油圧PSLTを制御することによって行われる。
【0082】
ロックアップコントロールバルブ140は、軸方向へ移動可能なスプール141と、そのスプール141を一方へ付勢する付勢手段としてのスプリング142とを備えている。図3においては、スプール141が上下に摺動可能に設けられている。スプリング142は、スプール141の一端側(図3では下端側)に設けられたスプリング室144に圧縮状態で配置されている。スプリング142の付勢力によって、ロックアップコントロールバルブ140を図3の左半分に示すOFF位置に保持する方向(図3では上方)へスプール141が押圧されている。ロックアップコントロールバルブ140には、制御ポート145aと、バックアップポート145bと、入力ポート146a,146bと、解放側ポート147aと、係合側ポート147bと、フィードバックポート148と、ドレーンポート149a,149bとが設けられている。
【0083】
制御ポート145aは、スプール141の他端側(図3では上端側)に設けられる制御油圧室143に接続されている。また、制御ポート145aは、油路105を介してリニアソレノイドバルブSLTの出力ポートSLTcに接続されている。この制御ポート145aを介して、制御油圧室143にリニアソレノイドバルブSLTの制御油圧PSLTが供給される。
【0084】
バックアップポート145bは、上記スプリング室144に接続されている。また、バックアップポート145bは、油路108を介してON−OFFソレノイドバルブSL1の出力ポートSL1bに接続されている。このバックアップポート145bを介して、スプリング室144にON−OFFソレノイドバルブSL1の制御油圧が供給される。
【0085】
入力ポート146a,146bは、プライマリレギュレータバルブ110の出力ポート117に接続された図示しないセカンダリレギュレータバルブにそれぞれ接続されている。入力ポート146a,146bを介して、セカンダリレギュレータバルブによって調圧されたセカンダリ油圧PSECが入力されるようになっている。
【0086】
解放側ポート147aは、油路106aを介してロックアップクラッチ26の解放側油圧室262に接続されている。係合側ポート147bは、油路106bを介してロックアップクラッチ26の係合側油圧室261に接続されている。
【0087】
フィードバックポート148は、上記スプリング室144に接続されている。また、フィードバックポート148は、油路106bに接続されている。このフィードバックポート148を介して、スプリング室144にロックアップ係合油圧PONと等しい油圧が供給される。
【0088】
続いて、ロックアップコントロールバルブ140によるロックアップクラッチ26の動作について説明する。
【0089】
リニアソレノイドバルブSLTの制御油圧PSLTが制御ポート145aを介して制御油圧室143に導入されると、ロックアップコントロールバルブ140は、その制御油圧PSLTに応じてスプール141がスプリング142の付勢力に抗して下方に移動した状態(ON状態)となる。この場合、上記制御油圧PSLTを高くするほど、スプール141が下方に移動する。図3の右半分には、スプール141が最大限下方に移動した状態を示している。この図3の右半分に示す状態では、入力ポート146bおよび係合側ポート147b、解放側ポート147aおよびドレーンポート149aがそれぞれ連通される。このとき、ロックアップクラッチ26は完全係合状態になっている。
【0090】
ロックアップコントロールバルブ140がON状態のとき、スプール141は、制御油圧室143に導入される上記制御油圧PSLTおよび解放側ポート147aに作用するロックアップ解放油圧POFFの合成力と、スプリング室144に導入されるロックアップ係合油圧PONおよびスプリング142の付勢力の合成力とのバランスにより上下に摺動する。ここで、ロックアップクラッチ26はロックアップ差圧ΔPに応じて係合される。ロックアップ差圧ΔPの制御は、リニアソレノイドバルブSLTの制御油圧PSLTを制御することによって行われるようになっている。上記制御油圧PSLTは励磁電流に応じてリニアに変化するため(図5参照)、ロックアップ差圧ΔPを連続的に調整することが可能になる。これにともない、そのロックアップ差圧ΔPに応じてロックアップクラッチ26の係合度合い(クラッチ容量)を連続的に変化させることが可能になる。
【0091】
より詳細には、上記制御油圧PSLTを高くするほど、ロックアップ差圧ΔPが大きくなり、ロックアップクラッチ26の係合度合いが大きくなる。この場合、上記セカンダリレギュレータバルブからの作動油が、入力ポート146b、係合側ポート147b、油路106bを介してロックアップクラッチ26の係合側油圧室261に供給される。一方、解放側油圧室262の作動油が、油路106a、解放側ポート147a、ドレーンポート149aを介して排出される。そして、ロックアップ差圧ΔPが所定値以上になると、ロックアップクラッチ26は完全係合に至る。
【0092】
逆に、上記制御油圧PSLTを低くするほど、ロックアップ差圧ΔPが小さくなり、ロックアップクラッチ26の係合度合いが小さくなる。この場合、上記セカンダリレギュレータバルブからの作動油が、入力ポート146a、解放側ポート147a、油路106aを介して解放側油圧室262に供給される。一方、係合側油圧室261の作動油が、油路106b、係合側ポート147b、ドレーンポート149bを介して排出される。そして、ロックアップ差圧ΔPが負の値になると、ロックアップクラッチ26は解放状態となる。
【0093】
一方、リニアソレノイドバルブSLTの制御油圧PSLTの制御油圧室143への供給が停止されると、ロックアップコントロールバルブ140は、図3の左半分に示すように、スプール141がスプリング142の付勢力によって上方へ移動して原位置に保持された状態(OFF状態)となる。このOFF状態では、入力ポート146aおよび解放側ポート147a、係合側ポート147bおよびドレーンポート149bがそれぞれ連通される。このとき、ロックアップクラッチ26は解放状態となっている。
【0094】
また、ON−OFFソレノイドバルブSL1がON状態である場合には、上述のようなロックアップクラッチ26の係合・解放制御は行われず、ロックアップクラッチ26を強制的に解放状態とする制御が行われる。言い換えれば、ガレージシフトバルブ160がコントロール位置に保持されており、前進用クラッチC1の係合過渡制御が行われる場合には、ロックアップクラッチ26が強制的に解放状態とされる。
【0095】
上述したように、ON−OFFソレノイドバルブSL1がON状態のとき、このON−OFFソレノイドバルブSL1の制御油圧がスプリング室144に導入される。このON−OFFソレノイドバルブSL1の制御油圧により、スプリング142の付勢力と同じ方向の力がスプール141に与えられるので、制御油圧室143へのリニアソレノイドバルブSLTの制御油圧PSLTの供給の有無にかかわらず、ロックアップコントロールバルブ140が、図3の左半分に示すOFF状態に保持されるようになる。これにともない、ロックアップクラッチ26が強制的に解放状態にされる。
【0096】
このようなロックアップクラッチ26の強制OFFにより、例えば、車両発進時などのガレージシフトの際、リニアソレノイドバルブSLTのONフェールなどが発生しても、ロックアップクラッチ26を確実に解放状態に戻すことができ、エンジンストールが発生することを防止できる。なお、ロックアップクラッチ26を確実に解放状態に戻すには、ON−OFFソレノイドバルブSL1の制御油圧による力とスプリング142の付勢力との合成力が、リニアソレノイドバルブSLTの制御油圧PSLTによる力に比べて大きくなるようにすればよい。この場合、ON−OFFソレノイドバルブSL1の制御油圧が上記制御油圧PSLTの最大値に比べて小さければ、例えば、ON−OFFソレノイドバルブSL1の制御油圧のスプール141への作用面積(受圧面積)を、上記制御油圧PSLTのスプール141への作用面積(受圧面積)に比べ大きく設定することで、ロックアップクラッチ26を確実に解放状態に戻すことが可能になる。
【0097】
リニアソレノイドバルブSLT,SLP,SLSは、例えば、ノーマルオープンタイプの電磁弁とされている。つまり、非通電時には、入力ポートと出力ポートとが連通されて入力された油圧が出力ポートより制御油圧として出力される。一方、通電時には、入力ポートから入力された油圧を電子制御装置80から送られるデューティ信号によって決まる励磁電流に応じて調圧制御した油圧が出力ポートより制御油圧として出力される。この場合、励磁電流が大きくなるほど、制御油圧が小さくなるように調圧制御される。そして、励磁電流が所定値以上になると、制御油圧が「0」になり、制御油圧の出力が停止される。例えば、リニアソレノイドバルブSLTの制御油圧PSLTは、図5に示すように、励磁電流に応じてリニアに変化する。同様に、リニアソレノイドバルブSLP,SLSの制御油圧PSLP,PSLSも励磁電流に応じてリニアに変化する。なお、リニアソレノイドバルブSLT,SLP,SLSとして、ノーマルクローズタイプの電磁弁を用いる構成としてもよい。
【0098】
リニアソレノイドバルブSLTは、ライン油圧PLの調圧制御、ロックアップクラッチ26の係合・解放制御、および、前進用クラッチC1の係合過渡制御(係合過渡油圧の制御)を行うために設けられている。なお、これらの制御を行うための制御弁として、リニアソレノイドバルブSLTの代わりに、デューティタイプの電磁弁を用いる構成としてもよい。
【0099】
詳細には、リニアソレノイドバルブSLTには、上記第2モジュレータバルブにより調圧された上記第2モジュレータ油圧PM2が、入力ポートSLTaを介して導入される。このため、非通電時には、上記第2モジュレータ油圧PM2が制御油圧PSLTとして出力され、通電時には、上記第2モジュレータ油圧PM2を励磁電流に応じてリニアに調圧制御した油圧が制御油圧PSLTとして出力される。
【0100】
出力ポートSLTbから出力される制御油圧PSLTは、油路104を介して減圧バルブ180へ供給される。ライン油圧PLの調圧制御は、その制御油圧PSLTに基づいて直接行われるのではなく、その制御油圧PSLTに応じて減圧バルブ180により減圧された出力油圧PCTLに基づいて行われる。また、出力ポートSLTcから出力される制御油圧PSLTは、油路105を介してロックアップコントロールバルブ140およびガレージシフトバルブ160へそれぞれ供給される。ロックアップクラッチ26の係合・解放制御、および、前進用クラッチC1の係合過渡制御は、その制御油圧PSLTに基づいて行われる。
【0101】
リニアソレノイドバルブSLPは、ベルト式無段変速機40の変速油圧PINの調圧制御を行うために設けられている。なお、変速油圧PINの調圧制御を行うための制御弁として、リニアソレノイドバルブSLPの代わりに、デューティタイプの電磁弁を用いる構成としてもよい。
【0102】
詳細には、リニアソレノイドバルブSLPには、上記第2モジュレータバルブにより調圧された上記第2モジュレータ油圧PM2が、入力ポートSLPaを介して導入される。このため、非通電時には、上記第2モジュレータ油圧PM2が制御油圧PSLPとして出力され、通電時には、上記第2モジュレータ油圧PM2を励磁電流に応じてリニアに調圧制御した油圧が制御油圧PSLPとして出力される。出力ポートSLPbから出力される制御油圧PSLPは、変速油圧コントロールバルブ120へ供給される。ベルト式無段変速機40の変速油圧PINの調圧制御は、その制御油圧PSLPに基づいて行われる。
【0103】
リニアソレノイドバルブSLSは、ライン油圧PLの調圧制御、および、ベルト式無段変速機40の挟圧油圧POUTの調圧制御を行うために設けられている。なお、これらの制御を行うための制御弁として、リニアソレノイドバルブSLSの代わりに、デューティタイプの電磁弁を用いる構成としてもよい。
【0104】
詳細には、リニアソレノイドバルブSLSには、上記第2モジュレータバルブにより調圧された上記第2モジュレータ油圧PM2が、入力ポートSLSaを介して導入される。このため、非通電時には、上記第2モジュレータ油圧PM2が制御油圧PSLSとして出力され、通電時には、上記第2モジュレータ油圧PM2を励磁電流に応じてリニアに調圧制御した油圧が制御油圧PSLSとして出力される。出力ポートSLSbから出力される制御油圧PSLSは、油路102を介してプライマリレギュレータバルブ110および挟圧油圧コントロールバルブ130へそれぞれ供給される。ライン油圧PLの調圧制御、および、ベルト式無段変速機40の挟圧油圧POUTの調圧制御は、その制御油圧PSLSに基づいて行われる。
【0105】
上記構成の油圧制御回路100では、単一の電磁弁(リニアソレノイドバルブSLT)によって、ライン油圧PLの調圧制御、ロックアップクラッチ26の係合・解放制御、および、前進用クラッチC1の係合過渡制御を行うようにしている。そして、この実施形態では、リニアソレノイドバルブSLTによるライン油圧PLの調圧制御の制御範囲(ライン油圧制御範囲)と、ロックアップクラッチ26の係合・解放制御の制御範囲(ロックアップ制御範囲)とがそれぞれ設定されている。つまり、ライン油圧PLの調圧制御とロックアップクラッチ26の係合・解放制御とが同時には行われないようになっている。なお、リニアソレノイドバルブSLTによる前進用クラッチC1の係合過渡制御は、ON−OFFソレノイドバルブSL1がON状態である場合に行われ、OFF状態である場合には行われないようになっている。
【0106】
図4、図5により、ライン油圧制御範囲とロックアップ制御範囲について説明する。ここでは、ON−OFFソレノイドバルブSL1がOFF状態になっていることとする。なお、ON−OFFソレノイドバルブSL1がON状態になっている場合、上述したロックアップクラッチ26を強制的に解放状態とする制御が行われ、ロックアップクラッチ26の係合・解放制御は行われない。
【0107】
図4、図5に示すように、リニアソレノイドバルブSLTへ通電される励磁電流に対し、ライン油圧制御範囲X1とロックアップ制御範囲X2とが設定されており、リニアソレノイドバルブSLTの制御油圧PSLTに対し、ライン油圧制御範囲Y1とロックアップ制御範囲Y2とが設定されている。ライン油圧制御範囲X1(Y1)とロックアップ制御範囲X2(Y2)とは互いに重なり合わないような異なった範囲に設定されている。ここでは、切換点X3(Y3)を境に、ライン油圧制御範囲X1(Y1)とロックアップ制御範囲X2(Y2)とが分けられている。
【0108】
具体的に、リニアソレノイドバルブSLTへの励磁電流が切換点X3よりも小さい範囲にライン油圧制御範囲X1が設定され、大きい範囲にロックアップ制御範囲X2が設定されている。また、リニアソレノイドバルブSLTの制御油圧PSLTが切換点Y3よりも大きい範囲にライン油圧制御範囲Y1が設定され、小さい範囲にロックアップ制御範囲Y2が設定されている。なお、上記制御油圧PSLTの最小値は「0」、最大値はPSLTmaxとなっている。
【0109】
このようなライン油圧制御範囲X1(Y1)とロックアップ制御範囲X2(Y2)との設定は、リニアソレノイドバルブSLTとプライマリレギュレータバルブ110との間に設けられた減圧バルブ180によって行われる。
【0110】
上述したように、減圧バルブ180の出力油圧PCTLは、上記制御油圧PSLTが減圧バルブ180のスプリング182の付勢力による圧力(W1/S1)以下の場合、「0」に設定されるため、出力油圧PCTLがプライマリレギュレータバルブ110の制御油圧室113cへ導入されることはない。この場合、ライン油圧PLの調圧制御は上記制御油圧PSLTに基づいて行われず、ロックアップクラッチ26の係合・解放制御だけが上記制御油圧PSLTに基づいて行われる。また、この場合、ライン油圧PLの調圧制御は、リニアソレノイドバルブSLSの制御油圧PSLSに基づいて行われるので、ロックアップ制御範囲X2(Y2)において、ライン油圧PLの調圧制御が行われなくなる状況が未然に回避されるようになっている。
【0111】
したがって、上記制御油圧PSLTがスプリング182の付勢力による圧力(W1/S1)以下となる範囲が、ロックアップ制御範囲X2(Y2)として設定される。ここで、上記切換点X3(Y3)は、上記制御油圧PSLTがスプリング182の付勢力による圧力(W1/S1)と等しいときに対応しており、この場合、減圧バルブ180の出力油圧PCTLが「0」と等しくなる。ロックアップ制御範囲X2(Y2)の大きさ(幅)は、スプリング182の付勢力による圧力(W1/S1)に応じて設定される。この場合、その圧力(W1/S1)が大きいほど、上記切換点X3(Y3)が励磁電流の小さい側(制御油圧PSLTの大きい側)に設定され、その結果、ロックアップ制御範囲X2(Y2)が大きく設定されるようになる。
【0112】
一方、減圧バルブ180の出力油圧PCTLは、上記制御油圧PSLTがスプリング182の付勢力による圧力(W1/S1)を上回ると、プライマリレギュレータバルブ110の制御油圧室113cへ導入されるようになる。この場合、上述したように、ライン油圧PLの調圧制御は、出力油圧PCTLおよびリニアソレノイドバルブSLSの制御油圧PSLSの高いほうの油圧に基づいて行われる。
【0113】
したがって、上記制御油圧PSLTがスプリング182の付勢力による圧力(W1/S1)以上となる範囲が、ライン油圧制御範囲X1(Y1)として設定される。ここで、ライン油圧制御範囲X1(Y1)の大きさ(幅)は、スプリング182の付勢力による圧力(W1/S1)に応じて設定される。この場合、その圧力(W1/S1)が小さいほど、上記切換点X3(Y3)が励磁電流の大きい側(制御油圧PSLTの小さい側)に設定され、その結果、ライン油圧制御範囲X1(Y1)が大きく設定されるようになる。
【0114】
このライン油圧制御範囲X1(Y1)では、ロックアップクラッチ26の係合・解放制御が行われず、ロックアップクラッチ26は完全係合状態で保持されている。このため、ライン油圧制御範囲X1(Y1)では、上記制御油圧PSLTが変化しても、ロックアップコントロールバルブ140のスプール141が最大限下方に移動した状態(図3の右半分に示す状態)で保持される。なお、上記切換点X3(Y3)において、スプール141が最大限下方に移動した状態が得られるようにしてもよいし、ロックアップ制御範囲X2(Y2)中で既にスプール141が最大限下方に移動した状態が得られるようにしてもよい。
【0115】
上記構成によれば、リニアソレノイドバルブSLTによって、ライン油圧制御範囲X1(Y1)ではライン油圧PLの調圧制御が行われ、ロックアップ制御範囲X2(Y2)ではロックアップクラッチ26の係合・解放制御が行われる。この場合、減圧バルブ180によって、ライン油圧制御範囲X1(Y1)とロックアップ制御範囲X2(Y2)とが設定されるため、ライン油圧PLの調圧制御とロックアップクラッチ26の係合・解放制御とを切り換えるための切換弁や、その切換弁を制御するための専用のON−OFF電磁弁を設ける必要がなくなる。これにより、コストアップや装置の大型化を回避することが可能になる。
【0116】
ここで、上述したように、変速比γがγ1よりも高い場合には(図6参照)、ライン油圧PLを目標挟圧油圧に比べ同じもしくは僅かに高く設定することが好ましいが、この場合には、ライン油圧PLの調圧制御をリニアソレノイドバルブSLSの制御油圧PSLSに基づいて行うことで、オイルポンプ27の駆動損失を抑制することができる。一方、変速比γがγ1よりも低い場合には、ライン油圧PLを目標変速油圧に比べ同じもしくは僅かに高く設定することが好ましいが、この場合には、ライン油圧PLの調圧制御を減圧バルブ180の出力油圧PCTL(リニアソレノイドバルブSLTの制御油圧PSLT)に基づいて行うことで、オイルポンプ27の駆動損失を抑制することができる。
【0117】
以上、本発明の実施形態について説明したが、ここに示した実施形態は一例であり、さまざまに変形することが可能である。その一例を以下に挙げる。
【0118】
上記実施形態では、リニアソレノイドバルブSLTの制御油圧PSLT(リニアソレノイドバルブSLTへ通電される励磁電流)の一部の範囲にライン油圧制御範囲を設定し、残部の範囲にロックアップ制御範囲を設定する場合について説明したが、ライン油圧制御範囲とロックアップ制御範囲とが重なり合わない範囲に設定されていれば、上述した場合だけに限定されない。要するに、ライン油圧制御範囲とロックアップ制御範囲とは、ライン油圧PLの調圧制御とロックアップクラッチ26の係合・解放制御とが同時に行われないような範囲に設定されていればよい。具体的には、リニアソレノイドバルブSLTの制御油圧PSLTの一部の範囲にライン油圧制御範囲を設定した場合、残部の範囲のうち、全部分をロックアップ制御範囲として設定するのではなく、その残部の範囲のうち、一部分だけをロックアップ制御範囲として設定してもよい。例えば、ライン油圧制御範囲とロックアップ制御範囲との境界に所定の幅のヒステリシスを設ける構成としてもよい。
【0119】
上記実施形態では、リニアソレノイドバルブSLTによって、ライン油圧PLの調圧制御、ロックアップクラッチ26の係合・解放制御、および、前進用クラッチC1の係合過渡制御を行う場合について説明したが、前進用クラッチC1の係合過渡制御は、別のリニアソレノイドバルブによって行う構成としてもよい。
【0120】
上記実施形態では、ライン油圧制御範囲とロックアップ制御範囲との設定を、リニアソレノイドバルブSLTとプライマリレギュレータバルブ110との間に設けられた減圧バルブ180によって行う場合について説明したが、例えば、図7に示すように、そのような減圧バルブの機能を有するプライマリレギュレータバルブ210を用いる構成としてもよい。図7には、油圧制御回路100’の一部のみを示しているが、減圧バルブの機能を有するプライマリレギュレータバルブ210に関わる部分を除いて、図3に示す油圧制御回路100とほぼ同様の構成となっている。
【0121】
このプライマリレギュレータバルブ210は、軸方向へ移動可能な第1スプール211aおよび第2スプール211bと、付勢手段としての第1スプリング212aおよび第2スプリング212bとを備えている。図7においては、上側に設けられた第1スプール211aと下側に設けられた第2スプール211bとがともに上下に摺動可能に設けられている。プライマリレギュレータバルブ210には、制御ポート215a,215b,215c,215dと、入力ポート216と、出力ポート217とが設けられている。
【0122】
第1スプール211aによって、入力ポート216と出力ポート217とが連通・遮断される。第1スプリング212aおよび第2スプリング212bは、第1スプール211aの一端側(図7では下端側)と第2スプール211bの他端側(図7では上端側)との間に設けられた制御油圧室213bに配置されている。第1スプリング212aは、第1スプール211aと第2スプール211bとの間に圧縮状態で配置されている。この第1スプリング212aの付勢力によって、入力ポート216と出力ポート217とを遮断する方向(図7では上方)に第1スプール211aが押圧されている。第2スプリング212bは、第2スプール211bの他端側とバルブボディとの間に圧縮状態で配置されている。この第2スプリング212bの付勢力によって、第2スプール211bが一端側に向けて押圧されている。
【0123】
制御ポート215aは、第1スプール211aの他端側に設けられる制御油圧室213aに接続されている。また、制御ポート215aは、油路101’に接続されている。この制御ポート215aを介して、制御油圧室213aにライン油圧PLが供給される。制御ポート215bは、上記制御油圧室213bに接続されている。また、制御ポート215cは、第2スプール211bとバルブボディとの間に設けられる制御油圧室213cに接続されている。制御ポート215b,215cは、それぞれ油路102’を介してリニアソレノイドバルブSLSの出力ポートSLSbに接続されている。制御ポート215b,215cを介して、制御油圧室213b,213cにリニアソレノイドバルブSLSの制御油圧PSLSがそれぞれ供給される。
【0124】
制御ポート215dは、第2スプール211bの一端側に設けられた制御油圧室213dに接続されている。また、制御ポート215dは、油路103’を介してリニアソレノイドバルブSLTの出力ポートSLTbに接続されている。この制御ポート215dを介して、制御油圧室213dにリニアソレノイドバルブSLTの制御油圧PSLTが供給される。入力ポート216は、油路101’に接続されている。この入力ポート216を介してライン油圧PLが入力されるようになっている。出力ポート217は、図示しないセカンダリレギュレータバルブに接続されている。
【0125】
このプライマリレギュレータバルブ210では、制御油圧室213dに供給されるリニアソレノイドバルブSLTの制御油圧PSLTが第2スプリング212bの荷重以下のとき、その制御油圧PSLTはライン油圧PLの調圧制御には寄与しない。その制御油圧PSLTが第2スプリング212bの荷重を上回ったときから、その制御油圧PSLTがライン油圧PLの調圧制御に寄与することになる。この場合、その制御油圧PSLTに対し第2スプリング212bの付勢力に相当する油圧だけ減圧された油圧がライン油圧PLの調圧制御に寄与することになる。したがって、ライン油圧PLの調圧制御に寄与する制御油圧PSLTが「0」である間は、ロックアップクラッチ26の係合・解放制御が行われるロックアップ制御範囲となっており、ライン油圧PLの制御に寄与する制御油圧PSLTが「0」を上回ると、ライン油圧PLの調圧制御が行われるライン油圧制御範囲となっている。ライン油圧制御範囲では、制御ポート215bを介して供給される上記制御油圧PSLSの第1スプール211aへの作用面積(受圧面積)と、制御ポート215dを介して供給される上記制御油圧PSLTの第2スプール211bへの作用面積(受圧面積)とが同じになっているため、上記制御油圧PSLS,PSLTのうち高いほうの油圧によってライン油圧PLの調圧制御が行われる。
【図面の簡単な説明】
【0126】
【図1】実施形態に係る車両用駆動装置の概略構成を示す図である。
【図2】図1の車両用駆動装置の動力伝達機構の制御系統の一例を示すブロック図である。
【図3】図1の車両用駆動装置の動力伝達機構を制御するための油圧制御回路の一例を示す回路図である。
【図4】リニアソレノイドバルブの制御油圧に対する減圧バルブの出力油圧の特性を示す図である。
【図5】リニアソレノイドバルブの励磁電流に対する制御油圧の特性を示す図である。
【図6】ベルト式無段変速機の変速比に応じた目標変速油圧および目標挟圧油圧の設定値の変化を示す図である。
【図7】他の実施形態に係る油圧制御回路の一部を示す図である。
【符号の説明】
【0127】
20 トルクコンバータ
26 ロックアップクラッチ
40 ベルト式無段変速機
80 電子制御装置
100 油圧制御回路
110 プライマリレギュレータバルブ(ライン油圧制御弁)
140 ロックアップコントロールバルブ(ロックアップ制御弁)
180 減圧バルブ
SLS,SLT リニアソレノイドバルブ
SL1 ON−OFFソレノイドバルブ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
油圧によりベルトを挟圧して動力を伝達するとともにベルト掛かり径を変更して変速比を変化させるベルト式無段変速機と、
動力源と前記ベルト式無段変速機との間に設けられた流体式動力伝達装置に備えられ、前記動力源側とベルト式無段変速機側とを直結する油圧式のロックアップクラッチと、
各部の油圧の元圧となるライン油圧を調圧するライン油圧制御弁と、
前記ロックアップクラッチの係合・解放制御の際に切り換えられるロックアップ制御弁とを備えた油圧制御装置において、
前記ライン油圧制御弁の制御と、前記ロックアップ制御弁の制御とが、1つの電磁弁によって行われ、前記ライン油圧制御弁の制御と前記ロックアップ制御弁の制御とが互いに重なり合わない異なった範囲で行われることを特徴とする油圧制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載の油圧制御装置において、
前記電磁弁の制御油圧の一定範囲に前記ライン油圧制御弁の制御範囲が設定され、残りの範囲に前記ロックアップ制御弁の制御範囲が設定されていることを特徴とする油圧制御装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の油圧制御装置において、
前記ロックアップ制御弁の制御範囲では、前記電磁弁以外の他の電磁弁によって、前記ライン油圧制御弁の制御を行うように構成されていることを特徴とする油圧制御装置。
【請求項4】
請求項3に記載の油圧制御装置において、
前記他の電磁弁が、前記ベルト式無段変速機の従動側プーリへこのベルト式無段変速機のベルト挟圧を制御する挟圧油圧を供給する挟圧油圧制御弁を制御する電磁弁であることを特徴とする油圧制御装置。
【請求項5】
請求項2〜4のいずれか1つに記載の油圧制御装置において、
前記ライン油圧制御弁と前記電磁弁との間には、前記ロックアップ制御弁の制御範囲では、前記ライン油圧制御弁への出力油圧を「0」に設定可能な減圧弁が設けられていることを特徴とする油圧制御装置。
【請求項6】
請求項2〜4のいずれか1つに記載の油圧制御装置において、
前記ライン油圧制御弁は、前記ロックアップ制御弁の制御範囲では、このライン油圧制御弁によるライン油圧の制御に寄与する、前記電磁弁の制御油圧が「0」になるように構成されていることを特徴とする油圧制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−68524(P2009−68524A)
【公開日】平成21年4月2日(2009.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−234596(P2007−234596)
【出願日】平成19年9月10日(2007.9.10)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】