説明

流路形成用ガラス組成物、その組成物で形成される微細流路を備える石英ガラスマイクロリアクター及びその流路形成方法

【課題】石英ガラス基板の両板の対向面にガラスペーストを印刷してリブを形成しても、焼成で熔解により崩壊せずに、高さが50〜500μmの流路形成用ガラス組成物から成る微細流路が形成でき、石英ガラス基板を強固に接合でき、クラックが発生しない線熱膨張係数の小さな、ホウ珪酸塩ガラスを含有する流路形成用ガラス組成物を提供する。
【解決手段】本発明の流路形成用ガラス組成物は、ホウ珪酸塩ガラスのガラスフリット及びβスポジュメン、コーディエライト、熔融シリカ、酸化アルミニウム又は酸化ジルコニウムを含み、該ホウ珪酸塩ガラスのガラスフリットが、B、SiO、ZnO、アルカリ金属酸化物及びアルカリ土類金属酸化物を必須成分として含み、これらの含有量が前記流路形成用ガラス組成物の全重量に対して68〜84重量%の範囲にあり、上記βスポジュメン、コーディエライト、熔融シリカ、酸化アルミニウム又は酸化ジルコニウムの含有量が上記全重量に対して4〜22重量%の範囲にあることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一対の石英ガラス基板の両板の対向面に、スクリーン印刷法でガラスペーストを印刷して焼成により該両板間に微細流路を形成する流路形成用ガラス組成物、その組成物で形成される微細流路を備える石英ガラスマイクロリアクター、及びその石英ガラスマイクロリアクターの流路形成方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
2枚のガラス基板の間に流路を形成するガラス製マイクロリアクターには、従来、ガラス基板を、例えば、レーザー加工やエッチング加工して、それにより溝が形成されたガラス基板を主に樹脂などで接着して流路を形成する方法、又は、ガラス基板に樹脂により流路パターンを築きそれ自身により接着することで流路を形成する方法が知られている。図7は上記レーザー加工やエッチング加工により流路が形成されたガラス製マイクロリアクターの模式図である。図6(A)は、両ガラス基板70、71の両面にレーザー加工又はエッチング加工して形成された溝72を示している。図6(B)は、上記ガラス基板70、71の面に樹脂73を塗布して接着することで形成された微細流路74を示している。
【0003】
しかし、前者の方法で流路を形成するには、加工機が高価なこと、その加工時間がかかること等により加工コストが高く、また、加工時の作業方法から流路デザインの自由度が限定される等の問題が指摘されている。後者の方法で流路を形成するには、樹脂の耐熱性、耐薬品性の欠点が指摘されている。こうした状況において、ガラス基板に流路を形成するため、溶媒により溶解した有機樹脂中に、ガラス組成物の粉末を分散させたペースト状物(以下、「流路形成用ガラスペースト」という)を活用することで、コストの低減、加工時間の短縮、耐薬品性等の改善を図ることが検討されている。
【0004】
例えば、特許文献1のガラス組成物は、2枚のソーダ石灰ガラス板に上記ガラスペーストを焼成したリブ(隔壁)を築き、その2枚のガラス体を接着することで微細流路を形成するもので、具体的には、上記ガラス組成物は、ホウ珪酸塩ガラスのガラスフリット単体とセルロース系樹脂又はアクリル系樹脂を含有したものであり、それを上記ソーダ石灰ガラス板にスクリーン印刷法で印刷してリブを形成し、リブ同士を接合した状態で300℃〜600℃の温度で焼成することで、両ガラス板との間に微細流路を形成できることが開示されている(特許文献1参照)。図7は上記ガラスペーストによりリブを築きそれ自身により接着することで微細流路を形成された、特許文献1のソーダ石灰ガラス製マイクロリアクターの模式図である。図7(A)は2枚のソーダ石灰ガラス板80、81にガラスペーストでリブ82を築くことで形成された溝83を示している。図7(B)は上記リブ82同士を接着することで形成された微細流路85を示している。上記スクリーン印刷法は、マイクロリアクターの技術分野において、精度、費用対効果及び流路設計の自由度に優れた塗布方法として知られている。
【0005】
上記ホウ珪酸塩ガラスは低融点ガラス(石英ガラスに比べて著しく低い温度で軟化・変形するガラス)といい、該低融点ガラスはその低融性を利用して、ガラス部品の接合、ガラス基板に配置された金属配線上への被覆など主に電気・電子分野の用途で利用されている。従来、低融点ガラスは酸化鉛を主成分としたものであったが、主に国内外の鉛規制(特に欧州においてはRoHS規制)から無鉛化が求められ、耐薬品性、汎用性や安定性があり、酸化鉛を含まない実用性の高いホウ珪酸塩ガラスのガラスペーストを用いた利用分野が広がっており、例えば、上記ガラスペーストを用いて基板(ソーダ石灰ガラス)上に配置した配線のオーバーコート膜として、また基板上に形成されたPDP用ブラックストライプの利用例が報告されている(非特許文献1参照)。
このように、ホウ珪酸塩ガラスは無鉛であり、耐候性、耐薬品性、汎用性や安定性、安全性があることから、ホウ珪酸塩ガラス含有のガラスペーストは、各種の用途に利用できる有望なガラス部品の接合等の材料である。そのホウ珪酸塩ガラスが一対の石英ガラス基板の接合に用いられた例を以下に示す。
【0006】
特許文献2には、一対の石英ガラス基板の接合を行うホウ珪酸塩ガラス(PbOを含まず)を含む、接合用ガラス組成物及びガラスペーストが開示されており、そのガラス組成物の線熱膨張係数は、49×10−7/K〜98×10−7/K(実施例1〜11のデータ)であり、石英ガラスの熱膨張係数の5.6×10−7/Kと大きく相違するにも拘らず、接合厚を薄くすることにより、石英ガラス体を強固に接合することができること、およびPbOを含まないにも拘らず、石英ガラス体を1000℃以下の温度で接合できることを見出して本発明を完成させた旨の記載がある。そして、そのガラス組成物の線熱膨張係数を調整するために、線熱膨張係数調整剤としてコージェライト10.0重量%を配合したことで、線熱膨張係数が98×10−7/Kで、加熱処理後のガラスペーストの接合厚さが15μmである実施例11(他の実施例1〜10より最も厚い)が記載されている。また、そのペーストを用いて接合された一対の石英ガラス体の接合部を調べたが、いずれも全面で均質に接合されていて、接合状態は良好であり、クラックは発生していなかったことが示されている。
なお、ガラスとして、例えば、ソーダ石灰ガラスは線熱膨張係数が75×10−7〜120×10−7/Kであるのに対して、石英ガラスのそれが5.6×10−7/Kとソーダ石灰ガラスより1〜2桁のオーダーで小さいことは良く知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2006−255634号公報
【特許文献2】特開2008−297162号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】「無鉛低融点ガラスの開発」、田中 実、他4名、東京都立産業技術研究センター研究報告,第1号,2006年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1のマイクロリアクターの基材は、石英ガラスではなくソーダ石灰ガラスを用いており、このソーダ石灰ガラスとガラス組成物の線熱膨張係数は比較的類似しているが、石英ガラスに上記ガラスペーストを用いて流路の形成のために加熱処理を試みたとすれば、接合部から該石英ガラスが破損すると推測される。この破損は、石英ガラスの線熱膨張係数が5.6×10−7/Kとソーダ石灰ガラスより1〜2桁のオーダーで小さいことが原因であり、このことから、石英ガラスに流路を形成するには、上記ガラスペーストより線熱膨張係数の小さいガラス組成物を用いる必要があり、従って、特許文献1のガラス組成物を石英ガラスに利用できないことは明らかである。
【0010】
特許文献2の一対の石英ガラスを接合するガラスペーストは、一対の石英ガラスの接合する厚さを15μm以下にすることにより、一対の石英ガラス体を強固に接合できること、そして、その接合状態が良好であり、クラックが発生しないことを示しているが、ガラスペーストは、一対の石英ガラス基板間に流路を形成するのに、例えばマイクロリアクターの微細流路が50〜500μmの範囲の高さ(厚さ)を形成できるものを必要としており、特許文献2のガラスペーストは、一対の石英ガラス体を強固に接合するためのもので、その高さを50〜500μmの範囲にある高さにできるものではない。
【0011】
ところで、石英ガラス基板の両板の対向面にリブを形成するためには、スクリーン印刷法が精度、費用対効果及び流路設計の自由度に優れており、この印刷法で流路形成用ガラス組成物を石英ガラス基板の両板の対向面に印刷してリブを形成することが好ましい。しかし、スクリーン印刷法でリブを形成するには、形成されたリブ中のホウ珪酸塩ガラスを焼成炉でその軟化点以上の適度の温度で焼成して、上記リブ中に主にペーストに使われた樹脂および溶媒由来の気泡が残存しないように焼成する必要があるが、ホウ珪酸塩ガラスは低融性であるために焼成温度が高すぎるとリブが熔解により崩壊して流路が形成できない。一方、石英ガラスの熱膨張係数は5.6×10−7/Kと非常に小さいことから、流路形成用ガラス組成物の線熱膨張係数も小さくする必要があるが、線熱膨張係数の小さな流路形成用ガラス組成物は、熱的特性が高温側に移動して高融性となり、石英ガラス体の接合に必要な熱処理温度が必然的に高くなるという問題がある。このように、ホウ珪酸塩ガラスを含有した流路形成用ガラス組成物は、低融性により焼成温度が低い状態で焼成を行うことが好ましいが、しかしながら、ガラス基材である石英ガラスは、その線熱膨張係数が5.6×10−7/Kと非常に小さいので、線熱膨張係数の小さな流路形成用ガラス組成物を用いて焼成を行いたいが、線熱膨張係数の小さなガラス組成物は、高融性の特性を有するものとなってしまうという問題がある。上述したように、流路形成用ガラス組成物は、線熱膨張係数の小さなもので、低い焼成温度でリブが熔解しない特性を有するものが好ましいが、この両方の特性を有する流路形成用ガラス組成物を調製することは、二律背反に陥り解決が困難な問題である。
【0012】
以上述べたように、両方の特性を有する流路形成用ガラス組成物を調製することは、二律背反に陥り解決が困難な問題ではあるが、ホウ珪酸塩ガラスは低融性、無鉛であり、耐候性、耐薬品性、汎用性や安定性等の優れた特性を有するので、流路形成用ガラス組成物をガラスペーストとして利用することが期待されている。そのガラス組成物を含有するガラスペーストを石英ガラス基板の両板の対向面にスクリーン印刷してリブを形成し、その後の焼成で該リブが熔解により崩壊せずに高さが50〜500μmの上記ガラス組成物から成る微細流路が形成でき、一対の石英ガラス基板を強固に接合でき、そして、その接合状態が良好であり、クラックが発生しない流路形成用ガラス組成物が希求されている。そして、その流路形成用ガラス組成物で形成された微細流路を備えた石英ガラスマイクロリアクターは、ホウ珪酸塩ガラスの上記優れた特性、特にケミカルリアクターとして必須の耐薬品性に優れた特性を有する流路の形成ができるので、上記石英ガラスマイクロリアクターの製品化が強く望まれている。
【0013】
それ故に、本発明の課題は、上記両方の特性を有する流路形成用ガラス組成物を調製することの困難な問題点に鑑み、石英ガラス基板の両板の対向面にガラスペーストを印刷してリブを形成しても、焼成で熔解により崩壊せずに、高さが50〜500μmの流路形成用ガラス組成物から成る微細流路が形成でき、石英ガラス基板を強固に接合でき、クラックが発生しない線熱膨張係数の小さな、ホウ珪酸塩ガラスを含有する流路形成用ガラス組成物、その組成物で形成される微細流路を有する石英ガラスマイクロリアクター、及びその流路形成方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者等は、上記両方の特性を有する流路形成用ガラス組成物の調製が困難な問題に対して鋭意検討を重ねたところ、最初に、スクリーン印刷法を用いて石英ガラス基板の両板の対向面に流路形成用ガラスペーストを印刷して焼成する際の該流路形成用ガラスペーストに関して、該ガラスペースト中のホウ珪酸塩ガラスのガラス成分の配合量を決めるために、様々なガラス成分の配合を試行錯誤しながら試みて、一対の石英ガラス基板を強固に接合でき、その接合状態が良好であり、クラックが発生しないもの、そして片面5回の2面重ね刷りを行い目的の高さのリブが形成でき、そしてそのリブを焼成したところ、ホウ珪酸塩ガラスのガラスフリットがB、SiO、ZnO、アルカリ金属酸化物及びアルカリ土類金属酸化物を必須成分として含み、その配合量が86.5重量%であれば、焼成により一部リブが崩壊し微細流路に歪みが生じるものの、焼成によりリブが熔解により完全に崩壊することがないことを見出した。その後に、上記ガラスフリットにβスポジュメン、コーディエライト、熔融シリカ、酸化アルミニウム又は酸化ジルコニウムのフィラーを含有し、上記流路形成用ガラス組成物の全重量に対して上記ガラスフリットの配合量を68〜84重量%と上記フィラーの配合量を4〜22重量%とすることで、得られた配合量の流路形成用組成物で焼成した高さ100μmの焼成リブの微細流路は、歪みがなくその焼成リブが全く崩壊することがないことを見出した。
【0015】
その高さ100μmの焼成リブの微細流路が形成により、石英ガラス基板を強固に接合でき、クラックが発生しないことを見出した。そこで、リブが熔解により崩壊しなかったのは、例えば、βスポジュメンが線熱膨張係数調整剤としての機能の発揮により、線熱膨張係数を低下させたためと考え、βスポジュメンを含有しないガラスペーストと、5重量%及び20重量%のβスポジュメン含有のガラスペーストの線熱膨張係数を測定したところ、含有しないガラスペーストのそれが72.8×10−7/Kの値を示し、5重量%のそれが70.9×10−7/Kの値を示し、20重量%のそれが63.3×10−7/Kの値を示した。後述するビスマス系ガラス組成物と同じように、βスポジュメンを含有することで線熱膨張係数が30×10−7/Kの幅で低下するものと予測していたが、その予測に反して、上記βスポジュメン20重量%を含有した結果は、βスポジュメンを含有しないガラスペーストに対して9.5×10−7/Kの幅しか下がらず、5重量%の添加に対して4倍の量、20重量%を増やしたのにも拘わらず、線熱膨張係数は7.6×10−7/Kの幅で殆ど低下しないことを示した。他のフィラーでも試みたが同じ傾向を示した。
【0016】
上記の結果から、本発明者等は、更にβスポジュメンの含有量が10及び15重量%のガラスペーストを調合して、その各線熱膨張係数を計測して得られた結果を検討したところ、βスポジュメンを含有しないガラスペーストとβスポジュメンの含有量が25重量%のガラスペーストの、線熱膨張係数の差は8.5×10−7/K前後であること、そして、上記βスポジュメンを含有する全てのガラスペーストで形成されたリブが焼成温度での熔解により崩壊しないことが判った。このことは、βスポジュメンは、線熱膨張係数調整剤としての本来の機能よりリブの熔解により崩壊を抑制する熔解抑制の機能が強く働くものと推測される。
以上のことから、ホウ珪酸塩ガラスのガラスフリット及び上記フィラーを含み、該ホウ珪酸塩ガラスのガラスフリットが、B、SiO、ZnO、アルカリ金属酸化物及びアルカリ土類金属酸化物を必須成分として含み、これらの含有量が上記流路形成用ガラス組成物の全重量に対して68〜84重量%の範囲にあり、上記βスポジュメン、コーディエライト、熔融シリカ、酸化アルミニウム又は酸化ジルコニウムのフィラーの含有量が上記全重量に対して4〜22重量%の範囲にある流路形成用ガラス組成物を調整することで、このβスポジュメンは、線熱膨張係数調整剤としての機能が働くより、焼成時にリブの熔解により流路が崩壊するのを抑制する熔解抑制の機能が働き、流路の形成性を良くすることを見出して本発明を完成した。
【0017】
すなわち本発明は、以下の通りのものである。
請求項1に係る発明の流路形成用ガラス組成物は、一対の石英ガラス基板の両板の対向面にガラスペーストを印刷して焼成により該両板間に微細流路を形成してなる流路形成用ガラス組成物であって、前記流路形成用ガラス組成物は、ホウ珪酸塩ガラスのガラスフリット及びβスポジュメン、コーディエライト、熔融シリカ、酸化アルミニウム又は酸化ジルコニウムを含み、該ホウ珪酸塩ガラスのガラスフリットが、B、SiO、ZnO、アルカリ金属酸化物及びアルカリ土類金属酸化物を必須成分として含み、これらの含有量が前記流路形成用ガラス組成物の全重量に対して68〜84重量%の範囲にあり、上記βスポジュメン、コーディエライト、熔融シリカ、酸化アルミニウム又は酸化ジルコニウムの含有量が上記全重量に対して4〜22重量%の範囲にあることを特徴とする。
請求項2に係る発明の流路形成用ガラス組成物は、前記ガラスフリットのガラス転移点が450〜530℃の範囲にあることを特徴とする。
請求項3に係る発明の流路形成用ガラス組成物は、前記流路形成用ガラス組成物が50〜500μmの範囲の高さの前記微細流路の焼成リブを形成することを特徴とする。
請求項4に係る発明の石英ガラスマイクロリアクターは、一対の石英ガラス基板の両板間に微細流路を形成してなる石英ガラスマイクロリアクターであって、前記微細流路の焼成リブがホウ珪酸塩ガラスのガラスフリット及びβスポジュメン、コーディエライト、熔融シリカ、酸化アルミニウム又は酸化ジルコニウムの流路形成用ガラス組成物からなり、上記ホウ珪酸塩ガラスのガラスフリットが、B、SiO、ZnO、アルカリ金属酸化物及びアルカリ土類金属酸化物を必須成分として含み、これらの含有量が前記流路形成用ガラス組成物の全重量に対して68〜84重量%の範囲にあり、上記βスポジュメン、コーディエライト、熔融シリカ、酸化アルミニウム又は酸化ジルコニウムの含有量が上記全重量に対して4〜22重量%の範囲にあることを特徴とする。
請求項5に係る発明の石英ガラスマイクロリアクターは、前記微細流路の高さが50〜500μmの範囲にあることを特徴とする。
請求項6に係る発明の石英ガラスマイクロリアクターは、前記微細流路の幅が100μm〜1mmの範囲にあることを特徴とする。
請求項7に係る発明の流路形成方法は、一対の石英ガラス基板の両板の対向面にガラスペーストを印刷して、該両板間に微細流路を形成するマイクロリアクターの流路形成方法であって、少なくともホウ珪酸塩ガラスのガラスフリット及びβスポジュメン、コーディエライト、熔融シリカ、酸化アルミニウム又は酸化ジルコニウムを含む前記ガラスペーストを、流路成形用スクリーンで印刷して乾燥させてリブを形成する工程と、上記印刷して乾燥させる工程を複数回繰り返して上記リブの高さを増加する工程と、上記リブ同士の面を接触する状態で焼成によりガラスフリット及びβスポジュメン、コーディエライト、熔融シリカ、酸化アルミニウム又は酸化ジルコニウムからなる焼成リブの微細流路を形成する工程と、を含んでおり、上記微細流路を形成する工程で形成される上記焼成リブの高さが50〜500μmの範囲にあることを特徴とする。
請求項8に係る発明の流路形成方法は、前記ガラスペーストのホウ珪酸塩ガラスのガラスフリットが、B、SiO、ZnO、アルカリ金属酸化物及びアルカリ土類金属酸化物を必須成分として含み、これらの含有量が前記流路形成用ガラス組成物の全重量に対して68〜84重量%の範囲にあり、前記ガラスペーストのβスポジュメン、コーディエライト、熔融シリカ、酸化アルミニウム又は酸化ジルコニウムの含有量が上記流路形成用ガラス組成物の全重量の4〜22重量%の範囲にあることを特徴とする。
請求項9に係る発明の流路形成方法は、前記リブを形成する工程における前記ガラスペーストが有機樹脂及び溶媒を含んでいることを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
本発明の流路形成用ガラス組成物は、そのガラス組成物の全重量の68〜84重量%の範囲のB、SiO、ZnO、アルカリ金属酸化物及びアルカリ土類金属酸化物を必須成分として含み、該組成物合計の含有量の4〜22重量%の範囲のβスポジュメン、コーディエライト、熔融シリカ、酸化アルミニウム又は酸化ジルコニウムのフィラーを含有することで、焼成の際にリブの熔解により崩壊が抑制できることで、石英ガラスマイクロリアクターとして実用的な高さの微細流路を形成することができ、また、石英ガラス基板を強固に接合でき、焼成リブにクラックが発生しない微細流路を形成することが可能となった。
本発明の石英ガラスマイクロリアクターは、石英ガラス基板で流路が実現でき、分光分析などで並板ガラスでは実現不可能であったUV波長域での分光測定が可能になる。また、樹脂の利用と異なり無機物ゆえに耐熱性、耐薬品性の欠点が克服され、特にケミカルリアクターとして必須な耐薬品性の著しい向上が見込まれる。
本発明のマイクロリアクターの流路形成方法は、レーザー加工などと比較して、低コスト化が実現できる。高価な機械を使用せず、加工時間を短縮して量産できるスクリーン印刷法により著しくコスト低減化が図られ、また、流路デザインを任意に設計することができ、流路デザインの自由度が大幅に改善できる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】微細流路の形成過程を示す模式図とマイクロリアクターの模式図である。
【図2】マイクロリアクターの石英ガラス基板を分解した分解斜視図である。
【図3】マイクロリアクターの一例を示す外観斜視図である。
【図4】流路成形用スクリーンの一例の正面図である。
【図5】流路成形用スクリーンの一例を用いて作製されたマイクロリアクターの写真である。
【図6】レーザー加工やエッチング加工により流路が形成されたガラス製マイクロリアクターの模式図である。
【図7】ソーダ石灰ガラス製マイクロリアクターの模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の流路形成用ガラス組成物を含む流路形成用ガラスペーストは、一対の石英ガラス基板の両板の対向面に、スクリーン印刷法を用いて該ガラスペーストをメッシュスクリーンである流路成形用スクリーンで印刷して焼成により両板間に微細流路を形成するものであり、ガラスフリット及びβスポジュメン、コーディエライト、熔融シリカ、酸化アルミニウム又は酸化ジルコニウムのフィラー(以下、これらの各フィラーを「熔融抑制フィラー」という。)からなる上記ガラス組成物と有機樹脂及び溶媒を含有している。上記ガラスフリットはホウ珪酸塩ガラスであって、B、SiO、ZnO、アルカリ金属酸化物及びアルカリ土類金属酸化物を必須成分として含み、これらの含有量が上記ガラスフリットの全重量に対して68〜84重量%の範囲にあり、表1に示す12種類のガラス成分から構成されている。上記全重量に上記熔融抑制フィラーの重量を加えた全重量に対して、この熔融抑制フィラーは4〜22重量%の範囲にある重量が含まれている。上記ホウ珪酸塩ガラスは低融点ガラスであって、アルカリ金属酸化物及びアルカリ土類金属酸化物を含むことでその低融性の特性を備えるものである。
なお、上記ガラスペーストは上記ガラス組成物を、石英ガラス基板に塗布しやすくするために、ヴィヒクルとして有機樹脂及び溶媒を用いてペースト状にしている。このヴィヒクルは印刷されたリブを焼成する過程で熱分解されるもので、焼成後に形成された焼成リブは上記ガラス組成物だけで構成されている。
なお、「微細流路」の用語は、流路の幅又は高さの何れかがミクロンオーダーの単位の長さのものを意味している。
【0021】
【表1】

【0022】
本発明のホウ珪酸塩ガラス(PbOを含まず)が、B、SiO、ZnO、アルカリ金属酸化物及びアルカリ土類金属酸化物を必須成分として含み、これらの含有量が上記ガラスフリットの全重量に対して68〜84重量%の範囲の重量である理由は、ホウ珪酸塩ガラスのガラス成分の配合量を決めるために、様々なガラス組成分の配合を試行錯誤しながら試みて、一対の石英ガラス基板を強固に接合でき、その接合状態が良好であり、クラックが発生しないもの、そして片面5回の2面重ね刷りを行い目的の高さのリブを形成できるものを選別して得られたものが、以下の表3に示す比較例11のガラス成分の必須成分の配合量が86.5重量%のものである。この配合量であれば焼成により微細流路に歪みがあるものの、リブが熔解により崩壊することがなかったので、その比較例11のガラス組成分の配合量を基礎として、その配合量に熔融抑制フィラーの配合量を4〜22重量%に増やすことで、その熔融抑制フィラーの配合量を増やした分だけホウ珪酸塩ガラスの配合量から減らして得られた配合量を流路形成用組成物として用いた。
上記成分の含有量が65重量%未満以下であると、流動物性が低下するためにリブが崩壊する恐れが生じ、また、上記成分の含有量が84重量%未満以上を超えると、接着強度が保てないためにリブが崩壊する恐れが生じる。
【0023】
本発明の熔融抑制フィラーが流路形成用組成物の全重量に対して、4〜22重量%の範囲の重量を必要とする理由は、熔解状態の上記ガラスペーストと石英ガラス基板の成形性が向上し、その線熱膨張係数が石英ガラスのそれよりも大きい62.00〜72.00×10−7/Kの範囲の値であっても、上記一対の流路形成用ガラスペーストは焼成の際に熔解によりリブが崩壊されずに、最大で500μmの高さの微細流路を形成した実験データに基づいている。熔融抑制フィラーが4重量%未満以下であると、ガラスフリットに均一に分散されないために焼成により微細流路に歪みが生じる恐れがあり、また、22重量%未満以上であると、上下の石英ガラス基板のリブ同士が融着されずに強固に接合されない恐れが生じる。
【0024】
ホウ珪酸塩ガラスのBは、一対の石英ガラス基板を良好に接合させるための必須成分であり、線熱膨張係数を大きく上昇させずに該ガラスの熔融性及び粘性を低下させる必須のガラス網目形成成分であり、その含有量は20〜45重量%が好ましい。20重量%未満では、ガラスの熔融性及び粘性を低下させる効果が発揮されにくくなり、45重量%を超えると、該ガラスの粘性、化学的耐久性を著しく悪化し、該ガラスの結晶化傾向が強まり、流動性が悪化する恐れがある。Bの含有量は、22〜40重量%がより好ましい。
【0025】
ホウ珪酸塩ガラスのSiOは、該ガラスの耐失透性を維持させる必須のガラス網目形成成分であり、その含有量は5〜35重量%が好ましい。5重量%未満では、ガラスの耐失透性が不十分となりやすく、耐薬品性も劣る。35重量%を超えると、熱的特性が高くなり、該ガラスが高融性となって、650℃以下の焼成温度では流路形成用ペーストが熔融せずに、一対の流路形成用ガラスペーストの接合ができにくくなる。SiOの含有量は、10〜30重量%がより好ましい。
【0026】
ホウ珪酸塩ガラスのZnOは、一対の石英ガラス基板を良好に接合させるための付加的な必須成分であり、線熱膨張係数を上げずにガラスの耐失透性を良くし、粘性を低下させるのに有用であり、その含有量は3〜40重量%が好ましい。3重量%未満では、上記石英ガラス基板の良好な接合状態が得られにくくなり、耐失透性を悪くし、粘性を低下させる。40重量%を超えると、該ガラスの結晶化傾向が強まり、流動性が悪化するため、上記石英ガラス基板の良好な接合状態が得られにくくなる。ZnOの含有量は5〜35重量%がより好ましい。
【0027】
ホウ珪酸塩ガラスは、上述の必須成分であるB、SiO及びZnOと共に、LiO、NaO及びKOから選ばれる一価金属酸化物ROのうちの少なくとも1種を含有し、CaOの二価金属酸化物R’Oを含有することができる。一価金属酸化物ROは、粘性温度、ガラス転移点、屈伏点等を低下させる効果を有し、その含有量は3〜15重量%が好ましい。3重量%未満では、粘性を低下させる効果が発揮されにくくなり、15重量%を超えると、該ガラスの耐失透性や化学的耐久性が低下する。ROの含有量は、5〜13重量%がより好ましい。
【0028】
二価金属酸化物R’OのCaOは、その原料として、脱泡促進効果を有するものであり、その含有量は1〜5重量%が好ましい。5重量%を超えると、ガラスの耐失透性が悪化し、安定にガラスを生産できなくなり、その結果、石英ガラス基板との良好な接合状態が得られにくくなる。
【0029】
ホウ珪酸塩ガラスは、さらにAl3、Gdの三価金属酸化物R’’を含有することができる。
Alは、少量の添加でガラスの耐失透性や化学的耐久性を改善する効果を有するが、多量の添加は結晶化傾向、粘性流動温度、ガラス転移点、ガラス屈伏点を上昇させるため、その含有量は1〜14重量%が好ましく、3〜12重量%がより好ましい。
Gdは、少量の添加でガラスの耐失透性を改善し、接合温度域でのガラスの溶融性を改善する効果を有するが、多量の添加は、ガラスの熔融性を悪化させるため、含有量は1〜6重量%が好ましい。
【0030】
本発明の熔融抑制フィラーであるβスポジメンは、上記ガラス組成物の4〜22重量%の範囲の含有量を含んでおり、その成分を表3に示す。上記βスポジュメンは、一般的に線熱膨張係数調整剤として用いられている組成のものと同じ配合量で調合したものを用いている。
【0031】
【表2】

【0032】
上記ガラスフリットは上記熔融抑制フィラー、有機ヴィヒクルを混合して適当なペースト状形態に調整してガラスペーストとして使用する。ここで、用いる有機ヴィヒクルとしては、通常樹脂と溶媒からなっている。この有機ヴィヒクルの成分は、リブの焼成温度以下で熱分解するものであることが好ましい。該当樹脂としては、セルロース系樹脂及びアクリル系樹脂が好ましいものとして例示できる。このセルロース系樹脂には、例えば、エチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ニトロセルロース等が含まれ、アクリル系樹脂には、例えば、ポリブチルアクリレート、ポリイソブチルメタクリレート等が含まれる。上記樹脂は、一般には調整されるガラスペースト組成物中にその1種を単独で又は2種以上を併用して、合計量が0.5重量%〜20重量%程度の範囲で配合するのがよい。
【0033】
上記溶媒も通常知られている各種のものでよく、特に限定されない。通常、樹脂の溶解性に優れ、粘稠性を得るものが好ましい。これには中沸点及び高沸点のエステル系溶媒、エーテル系溶媒、石油系溶媒等が含まれる。具体的には、例えば、ブチルセロソルブアセテート、ブチルカルビトールアセテート等のエステル系溶媒、ブチルカルビトール等のエーテル系溶媒、ナフサ、ミネラルターペン等の石油系溶媒等が例示できる。これらは1種単独で用いてもよく、2種以上を併用することもできる。
【0034】
(流路形成用ガラスペースト)
本発明の流路形成用ガラス組成物を石英ガラス基板に塗布し易くしたガラスペーストは、上記ホウ珪酸塩ガラスのガラス組成物、熔融抑制フィラー、有機樹脂及び溶媒とから構成されている。
上述したように、上記ホウ珪酸塩ガラスのガラスフリットの含有量は、上記流路形成用ガラス組成物の全重量に対して68〜84重量%の範囲にあり、また、上記熔融抑制フィラーの含有量は、その全重量の4〜22重量%の範囲にある。
有機樹脂及び溶媒は、流路形成用ガラス組成物のヴィヒクルを形成するとともに、流路形成用ガラスペーストを石英ガラス基板の対向面に塗布するのに、ペースト状にするために用いられるものであり、その具体例として、これに限定されるものではないが、エチルセルロース樹脂、アクリル樹脂およびニトロセルロース樹脂などが挙げられる。溶媒は、具体例として、ブチルカルビトールアセテート、テルピネオール、ブチルカルビトール、トルエンおよびキシレンなどが挙げられる。
【0035】
本発明の流路形成用ガラスペーストは、上記ガラス組成物の主成分であるホウ珪酸塩ガラスのB、SiO、ZnO、アルカリ金属酸化物及びアルカリ土類金属酸化物から作製したガラスフリット及び熔融抑制フィラー、そして、有機樹脂、溶媒を加熱攪拌して得たヴィヒクルとともにロールミルにて混合することにより得ることができる。
なお、ガラスフリットの作製は、以下に示す表3〜7に記載したホウ珪酸塩ガラスの原料を、1380℃に熱した白金壺に入れ、熔融炉内で加熱熔融した熔融液を鋼鉄製ロールに巻き込ませ急冷し粉砕工程を経てガラスカレットを得た。リブ形成に用いるスクリーン印刷のメッシュは200メッシュを用いてスクリーン印刷をするので、そのメッシュを確実に通過させるために、ガラスフリットをアルミナミルで粉砕して200メッシュを通過する粉体を得た。
上記流路形成用ガラスペーストのガラスフリットは、ホウ珪酸塩ガラスであって、B、SiO、ZnO、アルカリ金属酸化物及びアルカリ土類金属酸化物を必須成分として含み、これらの合計含有量が68〜84重量%の範囲にある。当然ながら、鉛、水銀、クロム、砒素、カドミウムが検出されない原料を選定した。
【0036】
熔融抑制フィラーは、リブの熔解により崩壊を抑制する熔解抑制の機能が強く働くので、全重量に対して4〜22重量%の範囲の値のものをガラスフリットに加え、その上に、有機樹脂及び溶媒を混合してペースト状物を得た。有機樹脂及び溶媒の具体例として、これに限定されるものではないが、エチルセルロース樹脂、アクリル樹脂およびニトロセルロース樹脂などが挙げられ、溶媒は、ブチルカルビトールアセテート、テルピネオール、ブチルカルビトール、トルエンおよびキシレンなどが挙げられる。上記ガラスフリットとヴィヒクルの混合比を一般的な混合比である2:1とし、有機樹脂と溶媒の混合比を1:10とした。
【0037】
(流路の形成方法)
本発明の流路の形成方法は、上述した流路形成用ガラスペースト、即ち、溶媒により溶解した有機樹脂中に流路形成用ガラス組成物の粉末を分散させたペースト状物を、一対の石英ガラス基板の対向面同士に、スクリーン印刷法で所定のパターンからなる流路成形用スクリーンで印刷して乾燥させる手順を繰り返してリブの高さ(厚さ)を増加することで目的とする高さのリブを形成し、そのリブ同士の対向面を接触させた状態で焼成により該両板間に微細流路を形成することを特徴とするものであるが、その微細流路を石英ガラス基板に形成する方法を最初に模式図で説明する。
【0038】
図1は微細流路の形成過程を示す模式図とマイクロリアクターの模式図である。この図1の(A)は、一対の石英ガラス基板1、2の対向面同士に、スクリーン印刷法で所定のパターンからなる流路成形用スクリーンで重ねて複数回印刷して、目的とする高さのペースト状のリブ3が形成され、リブ3同士の対向面を対向させた状態を示すもので、そのリブには溶媒により溶解した有機樹脂中にホウ珪酸塩ガラスのガラスフリット31、熔融抑制フィラー32が配合されている。図1の(B)はマイクロリアクターの模式図である。焼成リブはペースト状リブに含まれた樹脂と溶媒が熱で分解されて、ホウ珪酸塩ガラスのガラスフリット4及び熔融抑制フィラー32からなる流路形成用ガラス組成物5となり、一対の石英ガラス基板1、2間に微細流路6が形成される。
【0039】
図2は図3に示すマイクロリアクターの石英ガラス基板を分解した分解斜視図を示し、図2及び図3と同一又は相当部分に同一符号を付してある。図3は本発明のマイクロリアクターの一例を示す外観斜視図である。
これらの図において、マイクロリアクター7は、石英ガラス基板1、2との間の焼成されたリブ3に形成されたY字状の微細流路6と、その微細流路6内へ反応液や溶媒等を投入し、微細流路6から混合物等を取り出すためのアセンブリ81、82、83とで構成されている。微細流路6の大きさは、幅が100μm〜1mmで、高さ(厚さ)が50〜500μmの空間からなり、焼成されたリブ6′の幅は1mmである。そして、石英ガラス基板1、2の高さ(厚さ)は1mmである。
【0040】
マイクロリアクターは、界面で起こる液体と液体、気体と液体の反応や混合、抽出、相分離等の単位操作において全体の体積を縮小することで、界面の占める割合を増大させ、効率の良い反応や単位操作を行うもので、反応基質や生成物の種類等は特に制限されない。又、体積に占める表面積が極めて大きいことは、温度分布が極めて均一になりやすく、混合や反応に伴う局所加熱の防止に大きく寄与する。
【0041】
例えば、Y字状の微細流路6を備えたマイクロリアクター7は、アセンブリ81、82の2方向から異なる種類の気体又は液体を流し、合流が起こることで反応や混合がマイクロ空間で行われる。その際の反応形態は、例えば、アルコールからアルデヒドやケトンへの酸化やオレフィンのエポキシ化に代表される酸化反応や、アルデヒドやケトンからのアルコールへの還元に代表される還元反応、C−アルキル化やホルミル化に代表される結合の生成やエポキシドの開裂や脱ホルミル、カルボキシルに代表される結合の切断反応やエピ化やシグマトロピー転移や水酸基からハロゲン基の転換に代表される官能基変換反応等がある。
【0042】
(流路成形用スクリーン)
流路成形用スクリーンの一例の正面図を図4に示す。この流路成形用スクリーンは、スクリーンメッシュ41の上に微細流路43が描かれたフィルム42が載置された状態で接合されたもので、その流路成形用スクリーンの版厚が所定の厚さ(例えば約60μm)で所定のメッシュ(例えば200/inchメッシュ)のスクリーンを用いて、一対の石英ガラス基板の対向面にガラスペーストの印刷を行う。詳細には、一方の石英ガラス基板に上記流路成形用スクリーンを重ねて流路形成用ガラスペーストをインキベラでその上に載置して、スキージでスクリーンおよび石英ガラスに押し付け、スクリーンの孔からガラスペーストを押し出すことで石英ガラス基板に印刷、塗布する。スクリーンと石英ガラス基板との間の距離は0mm〜5mm以下である。5mmを越えると、スクリーン紗(メッシュ)が伸びて寸法精度が低下する。ガラスペーストはそのペーストの降伏値と粘度の関係などにより印刷および乾燥中に形状が崩れやすくなり、垂直なリブを作ることが難しくなる。また、印刷と乾燥を交互に繰り返すことでリブの高さを高くできると共にリブの高さを調整することができる。スクリーンと石英ガラス基板との距離は、0(ゼロ)に近い状態で印刷することが、パターンの精度を維持するために好ましい。スクリーンを石英ガラス基板に接触させることで石英ガラス基板に押し出されたガラスペーストは転移する。この際のガラスペーストの量(インキ膜厚)は、スクリーンメッシュ数、メッシュの糸径、版厚、により調整できる。リブの高さはスクリーンメッシュ数、メッシュの糸径、版厚、印刷と乾燥の繰り返し回数により調整できる。また、スクリーンメッシュ数、メッシュの糸径によりリブの頭部の面を平坦に形成させることもできる。
【0043】
次に、高さ調整されたリブが形成された両方のリブ面同士を接合させて、ガラスペースト中の有機樹脂が熱酸化分解する温度(例えば430℃)で所定時間(例えば40分)加熱し、次いで所定の昇温速度(例えば10℃/分)で、ガラスペースト中のガラス組成物が熔融する温度(例えば550℃)に昇温し、同温度で所定時間(例えば20分)保持することにより行われ、炉内で自然冷却を行う。
焼成は一般的な炉中で行うが、熱源は電気、ガス等特に拘わらず、均一性保持の観点から熱容量が大きいものが望ましい。焼成の際の温度はガラスペーストの軟化温度(例えば520〜545℃)まで温度を上げることでガラス成分を熔融させ、上下の石英ガラス基板のリブ同士を融着させる。その際の温度上昇パターンは、上記ヴィヒクルの熱分解温度よりも30℃程度高い温度で一定時間保持して分解を進めた後にガラス成分の溶融に入る方法が好ましい。ヴィヒクル成分はセルロース系樹脂、アクリル系樹脂ともに概ね400℃で熱分解する。
【0044】
(マイクロリアクター)
図5は図4で示した流路成形用スクリーンの一例を用いて作製されたマイクロリアクターの写真である。このマイクロリアクターは、以下に示す実施例2のホウ珪酸塩ガラスのガラス成分と熔融抑制フィラーを用いて作製されてものである。
本発明の流路形成用ガラス組成物を用いて形成された微細流路の大きさは、幅が100μm〜1mmで、高さ(厚さ)が50〜500μmの空間からなり、焼成されたリブの幅は1mmのものを形成することができる。そして、一対の石英ガラス基板の高さ(厚さ)はそれぞれ1mmである。
【実施例】
【0045】
以下、実施例により本発明をさらに説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、表3〜7に示す実施例及び比較例の値は、試料数をN=3としてその算術平均で求めた。
<βスポジュメン>
(実施例11)
ホウ珪酸塩ガラスのガラス組成分の配合は、表3の実施例11に示す通りのもので、そのガラスフリットを用いて常法により11〜16μm程度の平均粒径に粉末化した。次いで、そのガラスフリット95.0重量%にβスポジュメン5.0重量%を配合して流路形成用ガラス組成物を調整した。このβスポジュメンの平均粒径は15〜24μm程度のものを使用した。
流路形成用ガラス組成物を有機ヴィヒクル成分と重量比2:1で混合し、自転・公転方式ミキサーで5〜10分間攪拌しながら脱気も行い、均一に混合して適当なペースト状形態に調整してガラスペーストを形成した。ここで、用いた有機ヴィヒクルとしてはセルロース系樹脂を用いた。
【0046】
版厚が約60μmで200/inchメッシュのスクリーンを用いて印刷を行った。一方の石英ガラス基板に上記スクリーンを重ねて流路形成用ガラスペーストをインキベラでその上に置き、スクリーンと石英ガラス基板との間の距離はほぼ0mmの状態で、スキージでスクリーンおよび石英ガラスに押し付け、スクリーンの孔からガラスペーストを押し出して石英ガラス基板に印刷、塗布した。スクリーンを石英ガラス基板に接触させることで石英ガラス基板に押し出されたガラスペーストは転移する。この際のガラスペーストの量(インキ膜厚)は約50μmであった。ガラスペーストが塗布された一対の石英ガラス基板を、120℃に保った高温槽(日陶科学(株)製高温槽NHK−170型)に入れて乾燥させた。その後、同じパターンで片面5回重ね刷りを行い高さ約250μmのリブを形成した。
【0047】
その高さ約250μmのリブが形成された両方のリブ面同士を重ねて、ガラスペースト中の有機樹脂が熱酸化分解する温度である430℃で40分間加熱し、次いで10℃/分の昇温速度で、ガラスペースト中の流路形成用ガラス組成物が熔融する温度600℃に昇温し、同温度で20分間保持して行った。焼成は熱源が電気である炉中で行った。焼成の際の温度はガラスペーストの軟化温度545℃まで温度を上げることでガラス成分を熔融させ、上下の石英ガラス基板のリブ同士を融着させた。その後、130℃/時間の降下速度で冷却して常温まで戻した。そして、片面5回の2面重ね刷りで形成されたリブの高さを、印刷後と焼成後とで測定すると高さが1/5に縮み、分解能1μmのマイクロゲージで測定して約100μmであった。そのリブの幅は0.5mmであった。
上記したように、幅が0.5mm、高さが100μmである微細流路のリブが焼成により崩壊することなく石英ガラスマイクロリアクターを形成することができた。
【0048】
(実施例12)〜(実施例14)
リブとして表3に記載の実施例12〜実施例14のガラスフリットとβスポジュメンの流路形成用ガラス組成物を用いて、実施例11に準じてそれぞれの微細流路を形成した。
βスポジュメンの配合量は実施例11が5重量%であるのに対して、実施例ごとに配合量を5重量%ずつ増やしており、実施例14が20重量%である。
【0049】
(比較例11)
比較例11は、実施例11と同様にガラスフリットを用いて常法により11〜16μm程度の平均粒径に粉末化したものを使用し、そのガラスフリットにβスポジュメンは配合されていない。流路形成用ガラス組成物を有機ヴィヒクル成分と重量比1:1で混合し、実施例11と同じ方法でセルロース系樹脂を用いてガラスペーストを形成した。
比較例11のホウ珪酸塩ガラスのガラス成分の配合は、表3の比較例11に示す通りのものである。このガラス組成分の配合は、様々なガラス成分の配合を試行錯誤しながら試みて、一対の石英ガラス基板を強固に接合でき、その接合状態が良好であり、クラックが発生しないもの、そして、実施例11と同じに片面5回の2面重ね刷りを行い目的の高さのリブを形成できるものを選別して得られたものである。しかし、上記ガラス成分の配合のリブは、焼成により焼成リブが変形し歪んだ状態が発生して目的の微細流路を形成できなかったが、焼成によりリブが熔解により崩壊することがなかったので、上記ガラス成分の配合のホウ珪酸塩ガラスを比較例とした。
【0050】
表3は、βスポジュメンを含有する流路形成用ガラス組成物のガラス成分の配合量を示す表である。
【0051】
【表3】

【0052】
<コーディエライト、熔融シリカ、酸化アルミニウム又は酸化ジルコニウム>
コーディエライト、熔融シリカ、酸化アルミニウム又は酸化ジルコニウムの熔融抑制フィラーの実施例は、その配合量が5、10、20重量%の3種類である。上記4種類の熔融抑制フィラーのガラスペーストの成形方法、及び石英ガラスマイクロリアクターの形成方法は、βスポジュメンの実施例及び比較例と同じなのでその説明を省略する。
表4はコーディエライト、表5は熔融シリカ、表6は酸化アルミニウム又は表7は酸化ジルコニウムの各熔融抑制フィラーを含有する流路形成用ガラス組成物のガラス成分の配合量を示す表である。
【0053】
【表4】

【0054】
【表5】

【0055】
【表6】

【0056】
【表7】

【0057】
表8は表3のβスポジュメンの配合量と線熱膨張係数を抜き出して示した表である。その配合量が増えるに従って線熱膨張係数が低下している傾向が見られる。線熱膨張係数が約100×10−7/Kであるビスマス系ガラス組成物に線熱膨張係数調整剤のコージライト10重量%を含有させると、その線熱膨張係数が約70×10−7/Kとなり、30×10−7/Kも大幅に低下することが良く知られている。ところが、流路形成用ガラス組成物は、βスポジュメンを含有しないガラス組成物と比べて、βスポジュメンを5重量%配合した実施例11よりその4倍の20重量%を配合している実施例14は、その線熱膨張係数の差が7.6ポイントと小さく、そして、上記βスポジュメンが配合された全ての流路形成用ガラス組成物で形成されたリブが焼成温度での熔解により崩壊しなかったことから、上記βスポジュメンは、線熱膨張係数調整剤としての本来の機能よりもリブの熔解により崩壊を抑制する熔解抑制の機能が有効に働くものと推測される。
【0058】
【表8】

【0059】
表4〜7の各熔解抑制フィラーのうち、熔融シリカは、βスポジュメンと同じくその配合量が増えるに従って線熱膨張係数が低下する傾向が見られた。しかしながら、他の熔解抑制フィラーにはその傾向がみられなかったが、コーディエライト、熔融シリカ、酸化アルミニウム又は酸化ジルコニウムを含有したペーストで形成されたマイクロリアクターは、リブの熔解により崩壊することがなく微細流路が形成できた。従って、本発明の各熔解抑制フィラーは、熔解による崩壊を抑制する熔解抑制の機能が有効に働くものと推測される。
一方、各熔解抑制フィラーを含有しない比較例は、リブの熔解により崩壊したり、微細流路が封鎖される。
【0060】
(マイクロリアクター)
上記マイクロリアクターは、一対の石英ガラス基体との間の焼成されたリブに形成されたY字状の微細流路と、その微細流路内へ反応液や溶媒等を投入し、微細流路から混合物等を取り出すための3個のアセンブリとで構成されている。微細流路の大きさは、幅が0.5mmで、高さ(厚さ)が100μmの空間からなり、焼成されたリブ3の幅は1mmである。そして、石英ガラス基体の高さ(厚さ)は1mmである(図5のマイクロリアクターの写真を参照)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一対の石英ガラス基板の両板の対向面にガラスペーストを印刷して焼成により該両板間に微細流路を形成してなる流路形成用ガラス組成物であって、
前記流路形成用ガラス組成物は、ホウ珪酸塩ガラスのガラスフリット及びβスポジュメン、コーディエライト、熔融シリカ、酸化アルミニウム又は酸化ジルコニウムを含み、該ホウ珪酸塩ガラスのガラスフリットが、B、SiO、ZnO、アルカリ金属酸化物及びアルカリ土類金属酸化物を必須成分として含み、これらの含有量が前記流路形成用ガラス組成物の全重量に対して68〜84重量%の範囲にあり、上記βスポジュメン、コーディエライト、熔融シリカ、酸化アルミニウム又は酸化ジルコニウムの含有量が上記全重量に対して4〜22重量%の範囲にあることを特徴とする流路形成用ガラス組成物。
【請求項2】
前記ガラスフリットのガラス転移点が450〜530℃の範囲にあることを特徴とする請求項1に記載の流路形成用ガラス組成物。
【請求項3】
前記流路形成用ガラス組成物が50〜500μmの範囲の高さの前記微細流路の焼成リブを形成することを特徴とする請求項1に記載の流路形成用ガラス組成物。
【請求項4】
一対の石英ガラス基板の両板間に微細流路を形成してなる石英ガラスマイクロリアクターであって、
前記微細流路の焼成リブがホウ珪酸塩ガラスのガラスフリット及びβスポジュメン、コーディエライト、熔融シリカ、酸化アルミニウム又は酸化ジルコニウムの流路形成用ガラス組成物からなり、上記ホウ珪酸塩ガラスのガラスフリットが、B、SiO、ZnO、アルカリ金属酸化物及びアルカリ土類金属酸化物を必須成分として含み、これらの含有量が前記流路形成用ガラス組成物の全重量に対して68〜84重量%の範囲にあり、上記βスポジュメン、コーディエライト、熔融シリカ、酸化アルミニウム又は酸化ジルコニウムの含有量が上記全重量に対して4〜22重量%の範囲にあることを特徴とする石英ガラスマイクロリアクター。
【請求項5】
前記微細流路の高さが50〜500μmの範囲にあることを特徴とする請求項4に記載の石英ガラスマイクロリアクター。
【請求項6】
前記微細流路の幅が100μm〜1mmの範囲にあることを特徴とする請求項5に記載の石英ガラスマイクロリアクター。
【請求項7】
一対の石英ガラス基板の両板の対向面にガラスペーストを印刷して、該両板間に微細流路を形成するマイクロリアクターの流路形成方法であって、
少なくともホウ珪酸塩ガラスのガラスフリット及びβスポジュメン、コーディエライト、熔融シリカ、酸化アルミニウム又は酸化ジルコニウムを含む前記ガラスペーストを、流路成形用スクリーンで印刷して乾燥させてリブを形成する工程と、
上記印刷して乾燥させる工程を複数回繰り返して上記リブの高さを増加する工程と、
上記リブ同士の面を接触する状態で焼成によりガラスフリット及びβスポジュメン、コーディエライト、熔融シリカ、酸化アルミニウム又は酸化ジルコニウムからなる焼成リブの微細流路を形成する工程と、を含んでおり、
上記微細流路を形成する工程で形成される上記焼成リブの高さが50〜500μmの範囲にあることを特徴とする流路形成方法。
【請求項8】
前記ガラスペーストのホウ珪酸塩ガラスのガラスフリットが、B、SiO、ZnO、アルカリ金属酸化物及びアルカリ土類金属酸化物を必須成分として含み、これらの含有量が前記流路形成用ガラス組成物の全重量に対して68〜84重量%の範囲にあり、前記ガラスペーストのβスポジュメン、コーディエライト、熔融シリカ、酸化アルミニウム又は酸化ジルコニウムの含有量が上記流路形成用ガラス組成物の全重量の4〜22重量%の範囲にあることを特徴とする請求項7に記載の流路形成方法。
【請求項9】
前記リブを形成する工程における前記ガラスペーストが有機樹脂及び溶媒を含んでいることを特徴とする請求項8に記載の流路形成方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−82129(P2012−82129A)
【公開日】平成24年4月26日(2012.4.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−202620(P2011−202620)
【出願日】平成23年9月16日(2011.9.16)
【出願人】(506209422)地方独立行政法人 東京都立産業技術研究センター (134)
【出願人】(505114422)日本琺瑯釉薬株式会社 (4)
【Fターム(参考)】