説明

流量制御弁の制御装置

【課題】流量制御弁の制御装置に関し、簡素な構成で、流量制御弁の中立位置を学習するとともに、学習値を補正する。
【解決手段】作動流体によって作動するアクチュエータ12と、作動流体を供給する作動流体供給源11と、アクチュエータ12のストローク量を検出するストロークセンサ14と、弁体19を有するとともに、弁体19の移動によってアクチュエータ12と連通もしくは遮断される流量制御弁15と、ストロークセンサ14の検出値に応じて弁体19を制御する制御部20とを備え、制御部20は、中立位置を学習する学習部22と、中立位置におけるストロークセンサ14の検出値と中立位置における目標ストローク量とのずれ量に応じて予め作成したマップに基づいて、学習部22による学習値を補正する学習値補正部23とを有するようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、流量制御弁の制御装置において、特に流量制御弁の中立位置を学習するとともに、学習値を補正する流量制御弁の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に、エンジンのトルクを機械式自動変速機に伝達するクラッチ装置の係合をクラッチアクチュエータによって制御する車両が開発・実用化されている。このような車両においては、エンジンと機械式自動変速機との間にクラッチ装置を設けている。クラッチ装置は、空気圧又は油圧で作動するクラッチアクチュエータのピストンの移動によって断接されるようになっている。また、クラッチアクチュエータの作動は、電磁ソレノイドを備えた流量制御弁により、クラッチアクチュエータ内の作動流体を供給又は排出することで行われる。
【0003】
この流量制御弁には、クラッチアクチュエータに連通する給気通路と、エアタンク等の作動流体圧力源に連通する圧力源通路と、クラッチアクチュエータから作動流体を排出する排気通路とが接続され、それぞれの通路に開口する給気ポート,圧力源ポート,排気ポートの三個のポートが所定の間隔で形成されている。また、流量制御弁の中空部には弁体が遊嵌されており、この弁体が移動することによって、前述の給気ポート,圧力源ポート,排気ポートがそれぞれ連通・遮断されるように構成されている。
【0004】
具体的には、クラッチ装置の係合を切断する場合(完断)は、給気ポートと圧力源ポートとを連通し、かつ、排気ポートを遮断する給気位置に弁体を移動させ、作動流体をクラッチアクチュエータ内へと供給する。また、クラッチ装置を接続する場合(完接)は、給気ポートと排気ポートとを連通し、かつ、圧力源ポートを遮断する排気位置に弁体を移動させて、作動流体をクラッチアクチュエータ内から排出する。また、クラッチ装置の係合を所定の断位置で保持する場合(断保持)は、給気ポートを遮断する中立位置に弁体を移動させ、作動流体をクラッチアクチュエータ内に保持するようになっている。
【0005】
例えば、特許文献1には、この種の流量制御弁を適用したクラッチの制御装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第3417823号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、車両の変速時には、迅速かつ変速ショックの少ないクラッチ装置の断接を実行することが好ましい。そのため、迅速な制御を実現すべく、流量制御弁をコントロールするECUに、電磁ソレノイドへの通電量と作動流体の流量との関係を示す流量特性等を予め記憶させておき、この流量特性等に応じて実際のストローク量が目標ストロークとなるように流量制御弁を制御することが行われている。また、正確な制御を実現すべく、流量制御弁の中立位置を学習し、係る学習値に基づいて流量制御弁を制御することも行われている。
【0008】
しかしながら、流量制御弁の流量特性は、流量制御弁の経年変化等の影響により変化することがある。また、流量制御弁の中立位置には、流量制御弁の弁体が給気位置から中立位置へと移動した場合と、排気位置から中立位置へと移動した場合とに、僅かながら差異が生ずることがある。このように、流量特性や中立位置に変化や差異が生ずると、ストローク量が目標ストローク量に対してオーバーシュートやアンダーシュートしてしまい、流量制御弁を迅速かつ正確に制御することが困難であるといった課題がある。
【0009】
本発明のこのような課題に鑑みてなされたもので、簡素な構成で、流量制御弁の中立位置を学習しつつ、学習値を正確に補正することができる流量制御弁の制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するため、本発明の流量制御弁の制御装置は、作動流体によって作動するアクチュエータと、前記作動流体を供給する作動流体供給源と、前記アクチュエータのストローク量を検出するストロークセンサと、中空部を移動可能な弁体を有するとともに、前記弁体の移動によって前記アクチュエータと連通もしくは遮断される流量制御弁と、前記ストロークセンサの検出値に応じて、前記弁体の移動量を制御する制御部とを備え、前記制御部は、前記ストロークセンサの検出値により、前記弁体の移動によって前記アクチュエータと遮断される中立位置と判断されたときの前記弁体の移動量を学習する学習部と、前記中立位置における前記ストロークセンサの検出値と前記中立位置における目標ストローク量とのずれ量に応じて予め作成したマップに基づいて、前記学習部による学習値を補正する学習値補正部とを有することを特徴とする。
【0011】
また、前記マップは、前記ずれ量が増加するにつれて、前記学習値を補正する補正量が減少するとともに、前記ずれ量が減少するにつれて、前記学習値を補正する補正量が増加するように設定されるようにしてもよい。
【0012】
また、前記マップは、前記ずれ量が増加するにつれて、前記学習値を補正する補正量が所定のステップで減少するとともに、前記ずれ量が減少するにつれて、前記学習値を補正する補正量が所定のステップで増加するように設定されるようにしてもよい。
【0013】
また、前記マップには、前記中立位置において、前記弁体の移動によって前記アクチュエータと遮断される範囲に応じて、前記学習値を補正する補正量に上限値と下限値とが設けられるようにしてもよい。
【0014】
また、前記制御部は、前記ストロークセンサの検出値の変化量が、一定時間継続して所定値以下となったときに、前記弁体が中立位置と判断するようにしてもよい。
【0015】
また、前記流量制御弁は、前記作動流体供給源に連絡する供給部と前記アクチュエータから前記作動流体を排出する排出部と前記アクチュエータに連通する連通部とを有するとともに、前記学習部は、前記ストロークセンサの検出値により、前記弁体が前記排出部側から移動して前記連通部を遮断する中立位置と判断されたときの前記弁体の移動量と、前記弁体が前記供給部側から移動して前記連通部を遮断する中立位置と判断されたときの前記弁体の移動量とから、前記弁体の中立位置としての移動量を学習するようにしてもよい。
【発明の効果】
【0016】
本発明の流量制御弁の制御装置によれば、簡素な構成で、流量制御弁の中立位置を学習しつつ、学習値を正確に補正することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の一実施形態に係る流量制御弁の制御装置と、車両の駆動系とを示すブロック図である。
【図2】本発明の一実施形態に係る流量制御弁の詳細を示す断面図である。
【図3】図2の流量制御弁が作動した状態を示す断面図である。
【図4】図2の流量制御弁の中立位置を示す断面図である。
【図5】本発明の一実施形態に係る流量制御弁の流量特性を示す図である。
【図6】本発明の一実施形態に係る流量制御弁の制御装置によるストローク制御の一態様を示す図である。
【図7】本発明の一実施形態に係る流量制御弁の制御装置によるストローク制御のその他の態様を示す図である。
【図8】本発明の一実施形態に係る流量制御弁の制御装置による学習値補正量を示す図である。
【図9】本発明の一実施形態に係る流量制御弁の制御装置による学習制御を示すフローチャートである。
【図10】本発明の一実施形態に係る流量制御弁の制御装置による学習値補正制御を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面により、本発明に係る一実施形態について説明する。
【0019】
図1〜10は、本発明の一実施形態を説明するものである。同一の部品には同一の符号を付してあり、それらの名称および機能も同じである。したがって、それらについての詳細な説明は繰返さない。
【0020】
まず、図1を用いて、本発明の一実施形態に係る流量制御弁の制御装置10が適用される車両1の駆動系を説明する。本実施形態に係る車両1の駆動系は、図1に示すように、エンジン(駆動源)100と、クラッチ装置(クラッチ機構)200と、機械式自動変速機(変速機)300とを有する。
【0021】
エンジン100は、図示しないエンジンECUによって、車両1の運転状態に応じたトルクを発生させるように燃焼制御される。また、エンジン100の出力軸110は、後述するクラッチ装置200によって、機械式自動変速機300の変速機入力側310と断接可能に構成されている。
【0022】
クラッチ装置200は、図1に示すように、乾式単板クラッチ装置であって、フライホイール210と、クラッチディスク220と、リターンスプリング230とを有する。
【0023】
フライホイール210は、図示しないボルトとナットとによって、エンジン100の出力軸110に固定されている。クラッチディスク220は、その周辺部に図示しない摩耗板が設けられており、後述する機械式自動変速機300の変速機入力軸310に摺動可能にスプライン嵌合されている。また、クラッチディスク220には、後述するレリーズフォーク13の一端部が取り付けられている。リターンスプリング230は、クラッチディスク220の一端部と機械式自動変速機300との間に設けられ、クラッチディスク220をエンジン100の方向(図1の矢印X方向)に付勢するように取り付けられている。
【0024】
機械式自動変速機300は、フライホイール210とクラッチディスク220とが係合することにより、このフライホイール210,クラッチディスク220を介して伝達されるエンジン100のトルクを、所望の回転速度に変速調整した後に、図示しないプロペラシャフト等へと伝達するように構成されている。
【0025】
以下、図1〜10を用いて、本発明の一実施形態に係る流量制御弁の制御装置10について説明する。
【0026】
本実施形態に係る流量制御弁の制御装置10は、図1,2に示すとおり、圧力供給源(作動流体供給源)11と、クラッチアクチュエータ(アクチュエータ)12と、レリーズフォーク13と、ストロークセンサ14と、流量制御弁15と、給気通路16と、圧力源通路17と、排気通路18と、クラッチ制御ECU(制御部)20とを有する。
【0027】
圧力供給源11は、空圧タンク等であって、図1に示すように、作動流体を流量制御弁15へと供給する。また、圧力供給源11には、後述する流量制御弁15の圧力源ポート17aと連通する圧力源通路17が接続されている。
【0028】
クラッチアクチュエータ12は、図1に示すように、シリンダ室を備えたシリンダ本体12aと、このシリンダ室に摺動自在に嵌挿されたピストン12bとを有する。シリンダ本体12aの側面には、流量制御弁15の排気ポート18aと連通する排気通路18が接続されており、シリンダ室内の作動流体を流量制御弁15を介して排出するように構成されている。また、シリンダ本体12aの側面には、流量制御弁15の給気ポート16aと連通する給気通路16が接続されており、圧力供給源11から流量制御弁15を介して送り込まれる作動流体の流体圧よって、ピストン12bが図1の矢印X方向へと移動されるように構成されている。
【0029】
レリーズフォーク13は、図1に示すように、一端部をクラッチアクチュエータ12のピストン12bの先端に支持され、他端部をクラッチディスク220に取り付けられている。また、レリーズフォーク13は、その中心部を支軸13aによって回動可能に軸支されている。すなわち、クラッチアクチュエータ12のシリンダ室内に作動流体が供給されて、ピストン12bが車両1の前方(図1の矢印X方向)へと移動すると、このレリーズフォーク13は、車両1の前方(図1の矢印X方向)へと付勢される。そして、レリーズフォーク13が、支軸13aを中心に図1中の左回りに回動することで、クラッチ装置200の係合を切断するように構成されている。また、レリーズフォーク13は、クラッチアクチュエータ12のシリンダ室内の作動流体が排出されると、リターンスプリング230の付勢力によって、車両1の後方(図1の矢印Y方向)へと付勢され、支軸13aを中心に図1中の右回りに回動することで、クラッチ装置200の係合を接続するように構成されている。
【0030】
ストロークセンサ14は、図1に示すように、クラッチアクチュエータ12のストローク量を検出するもので、その検出値Sは、後述するクラッチ制御ECU20に出力される。
【0031】
給気通路16は、図1,2に示すように、一端をクラッチアクチュエータ12のシリンダ室に接続され、他端を後述する流量制御弁15の給気ポート16aに接続されている。
【0032】
圧力源通路17は、図1,2に示すように、一端を圧力供給源11に接続され、他端を後述する流量制御弁15の圧力源ポート17aに接続されている。
【0033】
排出通路18は、図1,2に示すように、一端をクラッチアクチュエータ12のシリンダ室に、他端を後述する流量制御弁15の排気ポート18aに接続されている。
【0034】
流量制御弁15は、図2に示すように、内部に中空部を備えた制御弁本体15aと、この中空部に摺動可能に嵌挿される弁体19と、電磁ソレノイド15bと、スプリング15cとを有する。また、制御弁本体15aの側部には、前述の給気通路16,圧力源通路17,排出通路18と接続される、給気ポート(連通部)16a,圧力源ポート(供給部)17a,排気ポート(排出部)18aが所定の間隔で形成されている。本実施形態において、給気ポート16aは、圧力源ポート17aと排気ポート18aとの間に位置するように配置されている。
【0035】
弁体19には、所定の移動位置で前述の給気ポート16a,圧力源ポート17a,排気ポート18aをそれぞれ遮断すべく、三個のランド、すなわち給気遮断部19a,圧力源遮断部19b,排出遮断部19cが所定の間隔で設けられている。また、弁体19は、一端を電磁ソレノイド15bの可動ヨークに連結され、他端をスプリング15cによって図2の矢印X方向に付勢されている。
【0036】
すなわち、弁体19は、電磁ソレノイド15bの可動ヨークに作用する磁力とスプリング15cの付勢力とのバランスによってその位置が決定されるように構成されている。例えば、電磁ソレノイド15bへの通電を停止(通電量0%)したときは、弁体19は、スプリング15cに付勢されて図3(a)の位置(排気位置)となる。これにより、給気ポート16aと排気ポート18aとが連通して、クラッチアクチュエータ12のシリンダ室内の作動流体が排出されることで、クラッチ装置200の係合を接続(完接)する。ソレノイド15bへの通電量を最大値(100%)とすると、弁体19は、スプリング15cを圧縮して図3(b)の位置(給気位置)となり、給気ポート16aと圧力源ポート17aとが連通する。これにより、圧力供給源11の作動流体が給気ポート16aからクラッチアクチュエータ12のシリンダ室内に送り込まれ、クラッチ装置200の係合を切断(完断)する。電磁ソレノイド15bへの通電量を50%とすると、弁体19が図3(c)の位置(中立位置)となり、給気ポート16aが圧力源ポート17a及び排気ポート18aと遮断されて、クラッチ装置200の接続量を所定量に保持(断保持)する。
【0037】
制御ECU(制御部)20は、公知のCPUやROM等から構成されており、作動制御部21と、中立位置学習部(学習部)22と、学習値補正部23とを機能要素として備えている。
【0038】
なお、これら各機能要素は、本実施形態では一体のハードウェアである制御ECU20に設けられているが、これらのいずれか一部を別体のハードウェアに設けることもできる。
【0039】
作動制御部21は、車両1の変速時にクラッチ装置200が完接〜完断〜断保持〜完接と作動するように、流量制御弁15の電磁ソレノイド15bへの通電量である制御信号を出力する。この制御出力値は、フィード・バック制御値(FB制御値)+フィード・フォワード制御値(FF制御値)で設定される。
【0040】
作動制御部21には、電磁ソレノイド15bへの通電量と作動流体の流量との関係を表す図5の実線A0に示す流量特性マップ(予め作成したマップ)が記憶されている。また、車両1の変速時において、図6の実線α0に示すクラッチストローク(接続量)を実現すべく、図6の破線β0に示す目標波形(目標ストローク量)が予め記憶されている。FB制御値は、この図6の破線β0に示す目標波形を用いて、現在のストローク量(検出値S)と目標ストローク量との差に応じて、例えば、公知のPID制御などのフィード・バック制御式により算出される。
【0041】
また、FF制御値は、後述する中立位置学習部22から出力される学習値に、図5の流量特性マップを用いて初期値を加算することで算出される(FF制御値=学習値+初期値)。
【0042】
中立位置学習部(学習部)22は、クラッチ装置200の係合が断保持にある時、すなわち弁体19が流量制御弁15の作動流体の流れを遮断する中立位置(図3(c)参照)にある時の学習値を算出する。この学習値は、クラッチ装置200の係合が断保持にある時に、流量制御弁15の固体差や経年変化に関わらず、ストローク量が目標ストローク量となるように初期値を修正する値である。また、初期値は、例えば作動制御部21に予め記憶されている図5の流量特性マップ等に基づいて算出される。具体的には、学習値は流量制御弁15の弁体19が中立位置にあると判断された際の電磁ソレノイド15bへの通電量E1から初期値を減算することで学習されるようになっている。
【0043】
なお、本実施形態において、この通電量(FF制御値)は、図6に示すように、流量制御弁15の弁体19が排気位置〜給気位置〜中立位置(クラッチ装置200は完接〜完断〜断保持)と移動する際の、給気側の中立位置(図4(a)参照)における通電量E1を用いているが、例えば、図7に示すように、流量制御弁15の弁体19を排気位置〜給気位置〜中立位置と移動させ、次いで中立位置〜排気位置〜中立位置〜排気位置と移動させる場合は、流量制御弁15の弁体19が中立位置〜排気位置〜中立位置〜排気位置と移動する際の排気側の中立位置(図4(b)参照)における通電量E2も算出し、これら給気側の通電量E1と排気側の通電量E2との平均値EAveをFF制御値として用いてもよい。
【0044】
流量制御弁15が中立位置にあるか否かの判断は、ストロークセンサ14から出力される検出値Sに基づき、ストロークの変化速度が実質的にゼロである場合に流量制御弁15が中立位置にあると判定する。本実施形態において、この中立位置の判定は、ストローク量の微分値に基づいて行われる。具体的には、ストロークS1と、このストロークS1が検出された時から一定時間tが経過した後のストロークS2を検出し、この一定時間tの経過時におけるストロークの変化速度である微分値D(D=(S1−S2)/t)が所定値以下であれば、ストロークの変化速度は実質的にゼロであると判定する。なお、よりストロークの変化速度が安定した状態を判定すべく、微分値Dの演算周期を、所定時間tの間に継続して複数設け、その全ての微分値Dが所定値以下である場合にのみ、ストロークの変化速度が実質的にゼロであると判定するようにしてもよい。
【0045】
中立位置学習部22は、上述のように学習した学習値を作動制御部21に出力する。また、作動制御部21は、この出力された学習値に初期値を加算してFF制御値を算出(FF制御値=初期値+学習値)して記憶する。具体的には、図5の流量特性マップの実線A0(初期値)を、この学習値に応じて移動させた破線B1に修正して記憶する。
【0046】
学習値補正部23は、流量制御弁15が作動制御部21から出力される制御信号(FF制御値+FB制御値)によって中立位置へと制御された際の実際のストローク量(検出値S)と、目標ストローク量との差であるずれ量Xを算出し、このずれ量Xに応じてFF制御値を補正する。
【0047】
具体的には、中立位置学習部22には、実験等によって予め定められたずれ量XとFF制御値への補正量Yとの関係を示した図8(a)の線形マップが記憶されており、この線形マップから、ずれ量Xに応じた補正量Yを読み取ることでFF制御値を補正する。例えば、ずれ量Xが正の値(プラス値)を示した場合は、ストローク量は図6の実線α1に示すようにオーバーシュートしているため、補正量Yは負の値(マイナス)、すなわちFF制御値から補正量Yを減算することになる(FF制御値−Y)。一方、ずれ量Xが負の値(マイナス)を示した場合は、ストローク量は図6の実線α2に示すようにアンダーシュートしているため、補正量Yは正の値(プラス)、すなわちFF制御値に補正量Yを加算することになる(FF制御値+Y)。本実施形態において、ずれ量Xと補正量Yとの関係は図8(a)の線形マップを用いて説明したが、例えば図8(b)に示すように、流量制御弁15の中立位置の範囲に応じて、補正量Yの上限値Ymaxと下限値Yminとを設けたマップや、図8(c)に示すように、ずれ量Xと補正量Yとを所定の範囲で段階的に変化(所定のステップで増減)させたマップ等、非線形マップを用いることもできる。
【0048】
また、学習値補正部23は、この補正されたFF制御値(FF制御値±Y)を、新たなFF制御値として出力制御部21に出力する。すなわち、出力制御部21に記憶されているFF制御値は、この補正された新たなFF制御値(FF制御値±Y)に置き換えられる。その後、置き換えられた新たなFF制御値(FF制御値±Y)に応じて、図5の流量特性マップの破線B1が、破線B2や破線B3へと修正される。
【0049】
本発明の一実施形態に係る流量制御弁の制御装置10は、以上のように構成されているので、車両1の変速操作時には、例えば図9,10に示すフローチャートに従って以下のような制御が行われる。
【0050】
まず、図9のフローに従って、本発明の一実施形態に係る流量制御弁の制御装置10による中立位置の学習制御を説明する。
【0051】
操作者によって、車両1の変速操作がなされると、まず、ステップ(以下、ステップを単にSと記載する)100では、流量制御弁15の弁体19が作動制御部21から出力される制御信号に応じて、排気位置〜給気位置〜中立位置(クラッチ装置200は、接続〜切断〜断保持)と移動する。
【0052】
S110では、中立位置学習部22が、ストロークセンサ14から出力される検出値Sに基づいて、ストロークの変化速度である微分値Dが所定値以下(ストロークの変化速度は実質的にゼロ)であるか否を判定する。微分値Dが一定時間継続して所定値以下であれば、流量制御弁15は中立位置にあると判定し、ステップ120へと進む。一方、微分値Dが一定時間継続して所定値以下でない場合は、流量制御弁15は中立位置にないと判定し、中立位置学習制御はリターンされる。
【0053】
S120では、中立位置学習部22によって、前述のS110で中立位置にあると判定した際の通電量E1が読み込まれる。
【0054】
S130では、前述のS120で読み込まれた通電量E1から初期値を減算した学習値が記憶される。
【0055】
S140では、作動制御部21によって、図5の流量特性マップの実線A0(初期値)が、この学習値に応じて破線B1に修正されて本制御はリターンされる。
【0056】
次いで、図10のフローに従って、本発明の一実施形態に係る流量制御弁の制御装置10による学習値補正制御を説明する。
【0057】
操作者によって、車両1の変速操作がなされると、まず、S200では、流量制御弁15にFF制御値(学習値+初期値)とFB制御値との制御信号が出力され、この出力値(FF制御値+FB制御値)に応じてクラッチ装置200が接続〜切断〜断保持と作動する。
【0058】
S210では、中立位置学習部22が、ストロークセンサ14から出力される検出値Sに基づいて、ストロークの変化速度である微分値Dが所定値以下(ストロークの変化速度は実質的にゼロ)であるか否を判定する。微分値Dが一定時間継続して所定値以下であれば、流量制御弁15は給気側の中立位置にあると判定し、S220へと進む。一方、微分値Dが一定時間継続して所定値以下でない場合は、流量制御弁15は中立位置にないと判定し、学習値補正制御はリターンされる。
【0059】
S220では、学習値補正部23によって、中立位置にあると判定した際の実際のストローク量(検出値S)が読み込まれ、この検出値Sと目標ストロークとの比較が行われる。検出値Sと目標ストローク量とのずれ量X(絶対値)が閾値以上である場合は、S230へと進む。一方、ずれ量X(絶対値)が閾値未満である場合は、学習値の補正は不要と判定され本制御はリターンされる。なお、ここで閾値はクラッチ装置200の特性に応じて、任意の値に設定することができる。
【0060】
S230では、ずれ量Xが正の値であるか、もしくは、負の値であるかが判定される。ずれ量Xが正の値である場合はS240へ進む。一方、ずれ量Xが負の値である場合はS260へと進む。
【0061】
S240では、前述のS230で算出されたずれ量Xが正の値であることに基づいて、図8(a)の線形マップから、FF制御値から減算する補正量Yが読み込まれ、学習値の補正が行われる。すなわち、ストローク量がオーバーシュートしている場合なので、FF制御値から補正量Yを減算した補正値(FF制御値−Y)が、新たなFF制御値として記憶されて、S250へと進む。
【0062】
S250では、作動制御部21に、前述のS250で記憶された新たなFF制御値(FF制御値−Y)が取り込まれ、図5の流量特性マップが破線B2へと修正され、本制御はリターンされる。
【0063】
一方、前述のステップ230で、ずれ量Xが負の値と判定された場合は、S260にて、図8(a)の線形マップから、FF制御値に加算する補正量Yが読み込まれ、学習値の補正が行われる。すなわち、ストローク量がアンダーシュートしている場合なので、FF制御値に補正量Yを加算した補正値(FF制御値+Y)が、新たなFF制御値として記憶されて、S270へと進む。
【0064】
S270では、作動制御部21に、前述のS260で記憶された新たなFF制御値(FF制御値+Y)が取り込まれ、図5の流量特性マップが破線B3へと修正され、本制御はリターンされる。
【0065】
上述のような制御により、本発明の一実施形態に係る流量制御弁の制御装置10によれば以下のような作用・効果を奏する。
【0066】
すなわち、中立位置学習部22による流量制御弁15の中立位置の学習は、ストロークセンサ14から出力される検出値Sに基づいて、ストロークの変化速度が実質的にゼロであると判定された場合に行われる。
【0067】
したがって、ストロークが変化せず、クラッチ装置200の挙動が安定した状態で、流量制御弁15の中立位置を学習するので、学習値のばらつきを低減することができる。
【0068】
また、中立位置学習部22による流量制御弁15の中立位置の学習は、流量制御弁15の弁体19が排気位置〜給気位置〜中立位置と移動する際の給気側の中立位置における通電量E1と、流量制御弁15の弁体19が中立位置〜排気位置〜中立位置〜排気位置と移動する際の排気側の中立位置における通電量E2との平均値EAveを算出して、この平均値EAveを流量制御弁15の中立位置に対応するFF制御値として学習してもよい。
【0069】
したがって、図4(a),(b)に示すように、弁体19の給気遮断部19aの径L1が給気ポート16aの開口径L2よりも大径(L1>L2)であり、給気側の中立位置と排気側の中立位置とに僅かながら差異Lが生ずる場合であっても、流量制御弁15の中立位置を正確に学習することができる。
【0070】
また、学習値補正部23は、流量制御弁15が作動制御部21から出力されるFF制御値(初期値+学習値)+FB制御値に応じて中立位置へと制御された際の実際のストローク量(検出値S)と、目標ストローク量とのずれ量Xを算出し、このずれ量Xに応じてFF制御値(初期値+学習値)を補正する。
【0071】
したがって、学習値補正部23によって、中立位置学習部22の学習値を補正することで、中立位置の学習精度を更に向上できる。当然ながら、補正後は、この補正された学習値に応じてクラッチ制御がなされるので、車両1の変速時の変速ショック発生を効果的に抑制することができる。
【0072】
また、学習値補正部23は、ずれ量Xが正の値を示した場合(ストローク量がオーバーシュート)は、FF制御値から補正量Yを減算(FF制御値−Y)し、ずれ量Xが負の値を示した場合(ストローク量がアンダーシュート)は、FF制御値に補正量Yを加算(FF制御値+Y)する。
【0073】
したがって、補正後の学習値に基づいて制御を実行することにより、ストローク量のアンダーシュートやオーバーシュートを効果的に低減することができるとともに、当然ながら、変速時の変速ショックの発生を効果的に抑制することができる。
【0074】
なお、本発明は、上述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、適宜変形して実施することが可能である。
【0075】
例えば、上述の実施形態において、本発明の流量制御弁の制御装置10はクラッチ装置200に適用されるものとして説明したが、定量比例弁で制御される制御系全般に適用することが可能である。
【0076】
また、本実施形態において、流量制御弁15には、給気ポート16a,圧力源ポート17a,排気ポート18aが設けられ、ぞれぞれのポートに給気通路16,圧力源通路17,排気通路18が接続されるものとして説明したが、例えば、流量制御弁15と作動流体供給源11とクラッチアクチュエータ12とを隣接して設け、これら給気通路16や圧力源通路17、排気通路18を省略して構成してもよい。
【0077】
また、本実施形態において、給気ポート16aは、圧力源ポート17aと排気ポート18aとの間に配置されるものとして説明したが、各ポートの位置関係はこれに限定されるものではなく、例えば、圧力源ポート17aを給気ポート16aと排気ポート18aとの間に位置するように配置してもよい。
【0078】
また、クラッチアクチュエータ12を作動させる作動流体の流体圧は、空気圧であるか油圧であるかを問わず、本発明の流量制御弁の制御装置10に適用することができる。
【0079】
また、本実施形態において、流量制御弁15は電磁ソレノイドへの通電量によって制御されるものとして説明したが、例えば、パルスモータを使用し、パルス数を変更することで制御されるものを適用することもできる。
【符号の説明】
【0080】
1 車両
10 流量制御弁の制御装置
11 圧力供給源(作動流体供給源)
12 クラッチアクチュエータ(アクチュエータ)
14 ストロークセンサ
15 流量制御弁
16a 給気ポート(連通部)
17a 圧力源ポート(供給部)
18a 排気ポート(排出部)
19 弁体
20 制御ECU(制御部)
21 作動制御部
22 中立位置学習部(学習部)
23 学習値補正部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
作動流体によって作動するアクチュエータと、
前記作動流体を供給する作動流体供給源と、
前記アクチュエータのストローク量を検出するストロークセンサと、
中空部を移動可能な弁体を有するとともに、前記弁体の移動によって前記アクチュエータと連通もしくは遮断される流量制御弁と、
前記ストロークセンサの検出値に応じて、前記弁体の移動量を制御する制御部とを備え、
前記制御部は、前記ストロークセンサの検出値により、前記弁体の移動によって前記アクチュエータと遮断される中立位置と判断されたときの前記弁体の移動量を学習する学習部と、
前記中立位置における前記ストロークセンサの検出値と前記中立位置における目標ストローク量とのずれ量に応じて予め作成したマップに基づいて、前記学習部による学習値を補正する学習値補正部とを有する
ことを特徴とする流量制御弁の制御装置。
【請求項2】
前記マップは、前記ずれ量が増加するにつれて、前記学習値を補正する補正量が減少するとともに、
前記ずれ量が減少するにつれて、前記学習値を補正する補正量が増加するように設定される
ことを特徴とする請求項1記載の流量制御弁の制御装置。
【請求項3】
前記マップは、前記ずれ量が増加するにつれて、前記学習値を補正する補正量が所定のステップで減少するとともに、
前記ずれ量が減少するにつれて、前記学習値を補正する補正量が所定のステップで増加するように設定される
ことを特徴とする請求項1記載の流量制御弁の制御装置。
【請求項4】
前記マップには、前記中立位置において、前記弁体の移動によって前記アクチュエータと遮断される範囲に応じて、前記学習値を補正する補正量に上限値と下限値とが設けられる
ことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の流量制御弁の制御装置。
【請求項5】
前記制御部は、前記ストロークセンサの検出値の変化量が、一定時間継続して所定値以下となったときに、前記弁体が中立位置と判断する
ことを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の流量制御弁の制御装置。
【請求項6】
前記流量制御弁は、前記作動流体供給源に連絡する供給部と前記アクチュエータから前記作動流体を排出する排出部と前記アクチュエータに連通する連通部とを有するとともに、
前記学習部は、前記ストロークセンサの検出値により、前記弁体が前記排出部側から移動して前記連通部を遮断する中立位置と判断されたときの前記弁体の移動量と、前記弁体が前記供給部側から移動して前記連通部を遮断する中立位置と判断されたときの前記弁体の移動量とから、前記弁体の中立位置としての移動量を学習する
ことを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の流量制御弁の制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−2236(P2012−2236A)
【公開日】平成24年1月5日(2012.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−119860(P2010−119860)
【出願日】平成22年5月25日(2010.5.25)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第3項適用申請有り 博覧会名:自動車技術展「人とくるまのテクノロジー展2010」 主催者名:社団法人自動車技術会 開催日:平成22年5月19日
【出願人】(000000170)いすゞ自動車株式会社 (1,721)
【Fターム(参考)】