液体吐出型記録ヘッド及び液体吐出装置
【課題】 液体吐出型記録ヘッドの信頼性を向上させる。
【解決手段】
液体吐出エネルギ発生素子33aが形成されると共に液体を供給する流路の一部を構成する基板33と、基板33上に形成され、流路の一部を構成すると共に液体を吐出する液体吐出口35を有する被覆樹脂層36とを有し、被覆樹脂層36を分子中に少なくとも1個のオキセタニル基を有するオキセタン化合物と光カチオン重合開始剤とを必須成分とするオキセタン樹脂組成物で形成する。
【解決手段】
液体吐出エネルギ発生素子33aが形成されると共に液体を供給する流路の一部を構成する基板33と、基板33上に形成され、流路の一部を構成すると共に液体を吐出する液体吐出口35を有する被覆樹脂層36とを有し、被覆樹脂層36を分子中に少なくとも1個のオキセタニル基を有するオキセタン化合物と光カチオン重合開始剤とを必須成分とするオキセタン樹脂組成物で形成する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、低応力、耐薬品性を有し、紫外線照射などによるパターン成形で形成された高精度な流路を有する液体吐出型記録ヘッド及び液体吐出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
液体吐出装置としては、液体として例えばインクを吐出するインクジェット記録方式(液体噴射記録方式)を適用したインクジェットプリンタ装置がある。このインクジェットプリンタ装置は、インクを吐出するインクジェット記録ヘッドを備える。インクジェット記録ヘッドは、インクを微細な状態にして吐出する吐出口(オリフィス)と、この吐出口に連通する流路と、流路の一部に設けられたインク吐出圧力発生素子とからなる構成単位を複数備えている。そして、このようなインクジェット記録ヘッドで高品位の画像を得るためには、吐出口から吐出されるインクの小滴がそれぞれの吐出口より常に同じ体積、吐出速度で吐出されることが好ましい。
【0003】
このような吐出条件を実現するインクジェット記録ヘッドとしては、例えば下記の特許文献1〜特許文献3等に記載されているものがある。特許文献1〜特許文献3に記載されているインクジェット記録ヘッドは、インク吐出圧力発生素子が形成された基板上にインク流路及びオリフィス部からなるノズルが感光性樹脂材料やフォトレジストでパターン形成され、インク流路やノズルを形成する部材の上にガラス板などの蓋が接合されたものである。感光性樹脂材料やフォトレジストとしては、例えば、ジアゾレジン、P−ジアゾキノン、ビニルモノマーと重合開始剤を使用する光重合フォトポリマー、ポリビニルシンナメート等と増感剤を使用する二量化型フォトポリマー、オルソキノンジアジドとフェノールノボラック樹脂との混合物、ポリビニルアルコールとジアゾ樹脂の混合物、4−グリシジルエチレンオキシドとベンゾフェノンやグリシジルカルコンとを共重合させたポリエーテル型フォトポリマー、N,N−ジメチルメタクリルアミドと例えばアクリルアミドベンゾフェノンとの共重合体、不飽和ポリエステル系感光性樹脂、不飽和ウレタン系感光性樹脂、二官能アクリルモノマーに光重合開始剤とポリマーとを混合した感光性組成物、重クロム酸フォトレジスト、非クロム系水溶性フォトレジスト、ポリケイ皮酸ビニル系フォトレジスト等が用いられる。
【0004】
また、上記吐出条件を実現する他のインクジェット記録ヘッドとしては、下記の特許文献4に記載されている製造方法によって得られたインクジェット記録ヘッドがある。特許文献4に記載されているインクジェット記録ヘッドの製造方法は、基板上のインク流路となる部分に溶解可能な樹脂でインク流路のパターンを形成し、このインク流路のパターンをエポキシ樹脂等で被覆し、基板を切断後にインク流路のパターンを形成している溶解可能な樹脂を溶出除去することによってインクジェット記録ヘッドが得られる。
【0005】
特許文献1〜特許文献4に記載されているインクジェット記録ヘッドでは、いずれもインク流路の一部に設けられたインク吐出圧力発生素子となる例えば発熱抵抗体がインクの流れる方向と平行に設けられている。インクを吐出する吐出口は、インク流路の端部に設けられており、インクの流れる方向と垂直に設けられている。インクジェット記録ヘッドでは、発熱抵抗体に対して、吐出口がほぼ垂直に位置するため、発熱抵抗体上に形成される気泡の成長方向に対して、インクの吐出方向が垂直となり、気泡の成長方向とインクの吐出方向が異なる。
【0006】
このようなインクジェット記録ヘッドでは、インク流路の端部に位置する吐出口の一部が基板の端部より形成されるため、基板を切断することによりインク吐出圧力発生素子と吐出口との距離が設定される。このため、インク吐出圧力発生素子と吐出口との間の距離の制御においては、基板の切断精度が非常に重要となる。基板の切断は、ダイシングソー等の機械的手段にて行うことが一般的であり、このような機械的手段では高い精度を実現することは困難である。
【0007】
また、インクジェット記録ヘッドでは、特許文献1〜特許文献4とは異なり、インク吐出圧力発生素子である例えば電気熱変換素子と、吐出口とが対向して設けられており、電気熱変換素子上に形成される気泡の成長方向とインクの吐出方向とがほぼ同じ方向となっているものがある。このようなインクジェット記録ヘッドには、例えば下記の特許文献5及び特許文献6に記載されているものがある。特許文献5に記載されているインクジェット記録ヘッドは、電気熱変換素子が設けられた基板上に、オリフィスプレートとなるドライフィルムをパターニングされた別のドライフィルムで接合し、オリフィスプレートとなるドライフィルムの電気熱変換素子と対向する位置にフォトリソグラフィによって吐出口が形成される。特許文献6に記載されているインクジェット記録ヘッドは、インク吐出圧力発生素子が形成された基板と、電鋳加工により製造されるオリフィスプレートとをパターニングされたドライフィルムを介して接合したものである。
【0008】
この特許文献5及び特許文献6に記載されているインクジェット記録ヘッドでは、いずれもオリフィスプレートが薄く、例えば厚さ20μm以下であり、かつ均一に作製することは困難である。また、このインクジェット記録ヘッドでは、たとえオリフィスプレートを作製できたとしても、インク吐出圧力発生素子が形成された基板との接合工程はオリフィスプレートの脆弱性により極めて困難となる。
【0009】
また、インクジェット記録ヘッドでは、インクを吐出口から同じ体積、吐出速度で吐出するという吐出条件の他に、微小なインク滴を正確な位置に吐出する必要がある。インクジェット記録ヘッドは、正確な位置にインクを吐出するため、吐出エネルギ発生部に設けられた電気熱変換素子と吐出口との距離(以下、「OH距離」と記す。)が短い方が好ましい。
【0010】
高精度のOH距離を有するインクジェット記録ヘッドの製造方法としては、特許文献7に記載されているような製造方法がある。特許文献7には、インク吐出圧力発生素子が形成された基板上に、溶解可能な樹脂にてインク流路となるインク流路パターンを形成する工程と、常温にて固体状のエポキシ樹脂を含む被覆樹脂を溶媒に溶解させたものを、インク流路パターンを形成している溶解可能な樹脂層上にソルベントコートすることによって、溶解可能な樹脂層上にインク流路壁となる被覆樹脂層を形成する工程と、インク吐出圧力発生素子の上方の被覆樹脂層に吐出口を形成する工程と、インク流路パターンを形成している溶解可能な樹脂層を溶出する工程とを有するインクジェット記録ヘッドの製造方法について記載されている。特許文献7に記載されているインクジェット記録ヘッドの製造方法では、高アスペクトのパターンを形成すること及び耐インク性の観点から、被覆樹脂に脂環式エポキシ樹脂のカチオン重合物が用いられる。
【0011】
また、インクジェット記録ヘッドでは、特許文献7及び特許文献8に記載された方法及び材料を用いることにより、新たに以下のような問題も生じている。
【0012】
これらの脂環式エポキシ樹脂のカチオン重合硬化物は、下地となる基板との接着力は優れているものの、内部応力が高いため、下地となる基板からの剥離が発生してしまう。また、脂環式エポキシ樹脂のカチオン重合硬化物は、膜自体の特にパターンエッジのようなコーナー部の応力集中が発生する部分には、クラック(膜割れ)も発生して、インクジェット記録ヘッドとしての信頼性を大きく低下させてしまう。また、これらの材料によっては、パターニング性能が不十分で、インクジェット記録ヘッド用構造体として必要な微細なパターニング性能が得られないものも多々含まれている。
【0013】
インクジェット記録ヘッドでは、特に長尺状に形成した場合やインク流路壁となる被覆樹脂層の厚みが厚くなる場合、さらにはインク流路の構造が微細化、複雑化することにより、被覆樹脂層の剥離が生じたり、クラックが生じやすい。また、インクジェット記録ヘッドでは、画像品質を保持するため、インクが吐出されるヘッド表面をヘッドクリーニングして、ヘッド表面に付着した余分なインクを除去することが欠かせない。インクジェット記録ヘッドでは、ヘッドクリーニングする際に、クリーニング部材でヘッド表面をワイピングしたりするため、ヘッド表面にメカニカルな負荷がかかり、基板からの被覆樹脂層の剥離を助長してしまう虞がある。
【0014】
【特許文献1】特開昭56−123869号公報
【特許文献2】特開昭57−208255号公報
【特許文献3】特開昭57−208256号公報
【特許文献4】特開昭61−154947号公報
【特許文献5】特開昭58−8658号公報
【特許文献6】特開昭62−264957号公報
【特許文献7】特開平6−286149号公報
【特許文献8】特開平7−214783号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明は、低応力であり、紫外線照射などによるパターン成形が正確かつ容易である塗膜を有する液体吐出型記録ヘッド及び液体吐出装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明に係る液体吐出型記録ヘッドは、液体を吐出するものであり、液体吐出エネルギ発生素子が形成されると共に液体を供給する流路の一部を構成する基板と、基板上に形成され、流路の一部を構成すると共に液体を吐出する液体吐出口を有する被覆樹脂層とを有する。この液体吐出型記録ヘッドの被覆樹脂層は、分子中に少なくとも1個のオキセタニル基を有するオキセタン化合物と光カチオン重合開始剤とを必須成分とするオキセタン樹脂組成物により形成されている。
【0017】
また、本発明に係る液体吐出装置は、上記液体吐出型記録ヘッドを備える。
【0018】
さらに、本発明に係る液体吐出型記録ヘッドは、液体を吐出するものであり、液体を供給する共通流路の一部を構成する凹部を有する液体供給部材と、液体供給部材の凹部の一方の側に接着され、端面が共通流路の一部を構成し、表面に液体吐出エネルギ発生素子が形成された第1の基板と、第1の基板上に形成され、共通流路から供給された液体を液体吐出エネルギ発生素子の周囲に供給する個別流路と液体を吐出する液体吐出口とを有する第1の被覆樹脂層と、液体供給部材の凹部の他方の側に接着され、端面が共通流路の一部を構成する第2の基板と、第2の基板上に形成される第2の被覆樹脂層と、第1の被覆樹脂層上及び第2の被覆樹脂層上に設けられ、共通流路の吐出面側を閉塞する天板とを有する。この液体吐出型記録ヘッドの第1の被覆樹脂層は、分子中に少なくとも1個のオキセタニル基を有するオキセタン化合物と光カチオン重合開始剤を必須成分とするオキセタン樹脂組成物により形成されている。
【0019】
また、本発明に係る液体吐出装置は、上記液体吐出型記録ヘッドを備える。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、流路の一部を構成し、液体吐出口を有する被覆樹脂層や個別流路及び液体吐出口を有する第1の被覆樹脂層をオキセタン樹脂組成物で形成することにより、オキセタン化合物の持つ低ストレス材料としての特性から、被覆樹脂層を低応力化でき、クラックの発生を防止でき、基板からの剥離も防止することができ、耐久性に優れている。また、本発明によれば、被覆樹脂層及び第1の被覆樹脂層をオキセタン樹脂組成物で形成することにより、耐薬品性が得られる。これらのことから、本発明では、製造歩留まり及び品質が向上し、長期にわたって高い信頼性が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明が適用された液体吐出型記録ヘッド及び液体吐出装置について、図面を参照して説明する。液体吐出装置は、液体として例えばインクを吐出するインクジェットプリンタ装置であり、液体吐出型記録ヘッドであるインクジェット記録ヘッドは、このプリンタ装置に設けられる。
【0022】
インクジェットプリンタ装置(以下、プリンタ装置という。)1は、図1に示すように、対象物となる例えば記録紙Pに対して上述したインクiを吐出するインクジェットプリンタヘッドカートリッジ(以下、ヘッドカートリッジという。)2と、このヘッドカートリッジ2が装着される装置本体3とを備える。このプリンタ装置1は、記録紙Pの幅方向、すなわち図1中矢印W方向にインク吐出口(ノズル)が略ライン状に1列以上並設した、いわゆるライン型のプリンタ装置である。プリンタ装置1は、ヘッドカートリッジ2が装置本体3に対して着脱可能である。
【0023】
先ず、プリンタ装置1を構成するヘッドカートリッジ2について説明する。ヘッドカートリッジ2は、例えば圧力発生素子として電気熱変換式を用いた発熱抵抗体を用いて上述したインクiを吐出し、記録紙Pの主面にインクiを着弾させる。ヘッドカートリッジ2には、図2及び図3に示すように、インクiが収容された容器であるインクカートリッジ11が装着される。インクカートリッジ11は、イエローインク、マゼンタインク、シアンインク、ブラックインクの色毎に、イエローインクのインクカートリッジ11y、マゼンタインクのインクカートリッジ11m、シアンインクのインクカートリッジ11c、ブラックインクのインクカートリッジ11kを備える。インクカートリッジ11は、記録紙Pの幅方向の寸法と略同じ寸法をなす略矩形状に形成されている。具体的に、インクカートリッジ11は、図3に示すように、インクiを収容するインク収容部12を有し、このインク収容部12の下面にヘッドカートリッジ2のカートリッジ本体21にインクiを送り出すためのインク供給部13が設けられている。
【0024】
インク収容部12には、上面中央部に外部の空気を取り込む際の孔となる外部連通孔14が設けられている。インクカートリッジ11では、インクiがカートリッジ本体21に供給された際に、減少したインクiの分に相当する空気が外部連通孔14を介して空気が取り込まれる。
【0025】
インク供給部13は、インク収容部12の下側略中央部に設けられている。このインク供給部13は、インク収容部12と連通した略突形状のノズルであり、このノズルの先端が後述するヘッドカートリッジ2の接続部25に嵌合されることにより、インクカートリッジ11のインク収容部12とヘッドカートリッジ2のカートリッジ本体21とを接続する。
【0026】
インク供給部13は、インクカートリッジ11の底面側にインクiをカートリッジ本体21側に供給する供給口が設けられ、詳細を図示しない弁機構により供給口を開放、閉塞する。インクカートリッジ11は、カートリッジ本体21に装着され、インク供給部13とヘッドカートリッジ2の接続部25が接続されると、弁が供給口から離れ、供給口が開放され、ヘッドカートリッジ2側にインクiが送り出される。
【0027】
インクカートリッジ11が装着されるヘッドカートリッジ2は、図2及び図3に示すように、カートリッジ本体21を有する。カートリッジ本体21には、インクカートリッジ11が装着される装着部22と、インクiを吐出するインクジェット記録ヘッド23と、インクジェット記録ヘッド23を保護するヘッドキャップ24とを備える。
【0028】
装着部22の長手方向略中央には、装着部22に装着されたインクカートリッジ11のインク供給部13と接続される接続部25が設けられている。この接続部25は、装着部22に装着されたインクカートリッジ11のインク供給部13からカートリッジ本体21の底面に設けられたインクiを吐出するインクジェット記録ヘッド23にインクiを供給する供給路となる。接続部25は、インクカートリッジ11からインクジェット記録ヘッド23へのインクiの供給を弁機構で調整している。
【0029】
接続部25からインクiが供給されるインクジェット記録ヘッド23は、カートリッジ本体21の底面に沿って配設されている。インクジェット記録ヘッド23は、接続部25から供給されるインクiを吐出する吐出口である後述するノズル35が記録紙Pの幅方向、すなわち図3中矢印W方向に略ライン状に並設されている。インクジェット記録ヘッド23は、インクiを吐出する際に、記録紙Pの幅方向に移動することなく、ノズルライン毎にインクiを吐出する。
【0030】
インクジェット記録ヘッド23は、図4及び図5に示すように、共通流路31の一部を構成する凹部32aが形成されたインク供給部材32と、このインク供給部材32の凹部32aの一方の側に設けられる第1の基板33と、この第1の基板33上に形成され、個別流路34とノズル35とが形成された第1の被覆樹脂層36と、インク供給部材32の凹部32aの他の側に設けられ、第1の基板33と高さを揃える第2の基板37と、この第2の基板37上に形成され、第1の被覆樹脂層36と高さを揃える第2の被覆樹脂層38と、第1の被覆樹脂層36及び第2の被覆樹脂層38上に設けられ、共通流路31を閉塞する天板39とを有する。
【0031】
インクジェット記録ヘッド23は、インク供給部材32と、第1の基板33の端面と、第1の被覆樹脂層36の端面と、第2の基板37の端面と、第2の被覆樹脂層38の端面と、天板39とで囲まれた共通流路31が形成され、第1の基板33及び第1の被覆樹脂層36で吐出エネルギ発生素子33aを囲んだ液室となる個別流路34が形成される。インクジェット記録ヘッド23では、インクカートリッジ11からのインクiが共通流路31に供給され、共通流路31に供給されたインクiが各個別流路34に供給される。
【0032】
共通流路31の一部を構成するインク供給部材32は、耐インク性の樹脂等で形成され、共通流路31の一部を構成する凹部32aが形成されている。
【0033】
第1の基板33は、例えばシリコン基板であり、表面の所定の箇所に複数の吐出エネルギ発生素子33aとして電気熱変換素子が半導体プロセスにより形成されている。また、第1の基板33には、吐出エネルギ発生素子33aを制御する制御回路33bが形成されている。第1の基板33は、共通流路31側の端面が共通流路31の一部を構成している。また、第1の基板33は、吐出エネルギ発生素子33aが設けられた面が個別流路34の底面を構成している。なお、吐出エネルギ発生素子33aとして、電気的熱変換素子に限定されず、ピエゾ素子といった電気機械変換素子等であってもよい。
【0034】
第1の被覆樹脂層36は、第1の基板33上にパターン形成され、共通流路31からインクiを第1の基板33上に設けられた吐出エネルギ発生素子33aの周囲に供給する個別流路34と、吐出エネルギ発生素子33aと対向する位置にインクiを吐出するノズル35とが形成されている。個別流路34は、吐出エネルギ発生素子33a毎に設けられ、共通流路31の深さ方向と直交する方向に凹状をなし、共通流路31側の端部に共通流路31と接続するための供給口40が形成されている。
【0035】
ノズル35は、個別流路34と接続されており、吐出エネルギ発生素子33aで発生したエネルギによって加熱、押圧された個別流路34内のインクiを吐出する。
【0036】
具体的に、第1の被覆樹脂層36は、分子中に少なくとも1個のオキセタニル基を有するオキセタン化合物と、光カチオン重合開始剤とを必須成分とするオキセタン樹脂組成物を第1の基板33上の吐出エネルギ発生素子33aが設けられている面にパターン形成し、オキセタン樹脂組成物を硬化させることにより形成される。
【0037】
ここで、第1の被覆樹脂層36を形成するオキセタン樹脂組成物について説明する。オキセタン樹脂組成物中のオキセタン化合物は、エポキシのオキシラン環に炭素が1つ増えた4員環をもつものである。このオキセタン化合物は、エポキシ化合物と比べて、カチオン硬化性が良好である。このオキセタン化合物のカチオン硬化物は、エポキシ硬化物よりはるかに大きな分子量をもち、強靱性と伸びをもった信頼性の高い機械的強度が出せ、より優れた耐水性や耐薬品性を示す。このオキセタン化合物のカチオン硬化物の特徴は、堅くて脆いエポキシ硬化物の特徴と大きく異なる。また、オキセタン化合物のカチオン硬化物は、4員環のオキセタニル基由来の変異原生はなく安全性に関しても、低分子量の光硬化性エポキシ樹脂より優位である。
【0038】
オキセタン化合物には、分子中に1つのオキセタニル基を有する単官能オキセタン化合物、分子中に2つ以上のオキセタニル基を有する多官能オキセタン化合物がある。単官能オキセタン化合物は、下記の一般式(1)で表わされる。
【0039】
【化1】
【0040】
一般式(1)において、R1は、水素原子、メチル基、エチル基、プロピル基又はブチル基等の炭素数1〜6個のアルキル基、炭素数1〜6個のフルオロアルキル基、アリル基、アリール基、フリル基若しくはチエニル基である。R2は、メチル基、エチル基、プロピル基又はブチル基等の炭素数1〜6個のアルキル基、1−プロペニル基、2−プロペニル基、2−メチル−1−プロペニル基、2−メチル−2−プロペニル基、1−ブテニル基、2−ブテニル基又は3−ブテニル基等の炭素数2〜6個のアルケニル基、フェニル基、ベンジル基、フルオロベンジル基、メトキシベンジル基又はフェノキシエチル基等の芳香環を有する基、エチルカルボニル基、プロピルカルボニル基又はブチルカルボニル基等の炭素数2〜6個のアルキルカルボニル基、エトキシカルボニル基、プロポキシカルボニル基又はブトキシカルボニル基等の炭素数2〜6個のアルコキシカルボニル基、若しくはエチルカルバモイル基、プロピルカルバモイル基、ブチルカルバモイル基又はペンチルカルバモイル基等の炭素数2〜6個のN−アルキルカルバモイル基等である。
【0041】
2つのオキセタニル基を有する2官能オキセタン化合物は、下記一般式(2)および一般式(3)で表わされる。
【0042】
【化2】
【0043】
一般式(2)において、R1は、一般式(1)におけるものと同様である。
【0044】
【化3】
【0045】
一般式(3)において、R1は、一般式(1)におけるものと同様である。R3は、炭素数1〜12の線状又は分岐状飽和炭化水素類、炭素数1〜12の線状又は分岐状不飽和炭化水素類、下記式(A)、(B)、(C)、(D)及び(E)で示される芳香族炭化水素類、式(F)及び(G)で示されるカルボニル基を含む直鎖状又は環状のアルキレン類、式(H)及び(I)で示されるカルボニル基を含む芳香族炭化水素類から選択される2つの原子価を持った基である。その他の2官能オキセタン化合物としては、カルド型、ナフタレン型などが挙げられる。
【0046】
【化4】
【0047】
【化5】
【0048】
【化6】
【0049】
【化7】
【0050】
【化8】
【0051】
式(A)〜(E)において、R4は、水素原子、炭素数1〜12のアルキル基、アリール基、又はアラルキル基を表わし、R5は、−O−、−S−、−CH2−、−NH−、−SO2−、−CH(CH3)−、−C(CH3)2−、又は−C(CF3)2−を表わし、R6は、水素原子又は炭素数1〜6のアルキル基を表わす。
【0052】
【化9】
【0053】
式(F)において、nは1以上の整数を表わす。
【0054】
【化10】
【0055】
【化11】
【0056】
【化12】
【0057】
3官能以上のオキセタン化合物としては、下記の一般式(4)に示すフェノールノボラック型オキセタン化合物、下記の一般式(5)に示すクレゾールノボラック型オキセタン化合物、や下記の一般式(6)及び一般式(7)に示すトリアジン骨格を持つオキセタン化合物が挙げられる。その他の3官能以上のオキセタン化合物としては、ポリ(ヒドロキシスチレン)、カリックスアレーン類、又はシルセスキオキサン等のシリコーン樹脂類などの水酸基を有する樹脂とのエーテル化物、オキセタン環を有する不飽和モノマーとアルキル(メタ)アクリレートとの共重合体等も挙げられる。
【0058】
【化13】
【0059】
【化14】
【0060】
一般式(4)〜一般式(5)において、R1は一般式(1)におけるものと同様であり、nは1以上の整数を表す。また、このようなノボラック型オキセタン化合物は、その数平均核体数が3〜10(nは、1〜8)であることが好ましい。この数平均核体数が10を超えると、粘度が高くなって立体障害により架橋密度が上がらないからである。
【0061】
【化15】
【0062】
一般式(6)において、R1は一般式(1)におけるものと同様である。
【0063】
【化16】
【0064】
一般式(7)において、R1は前記一般式(1)におけるものと同様であり、R7は、下記式(J)、(K)及び(L)で示されるような炭素数1〜12の分岐状アルキレン基、式(M)、(N)及び(P)で示される芳香族炭化水素類である。また、nは、R7に結合している一般式(7)に示された官能基の数を表わす。
【0065】
【化17】
【0066】
【化18】
【0067】
【化19】
【0068】
【化20】
【0069】
【化21】
【0070】
【化22】
【0071】
式(P)において、R8は、水素原子、炭素数1〜6のアルキル基、又はアリール基を表わす。
【0072】
これらオキセタン化合物は単独または2種以上を混合して用いられる。選択としてより強い耐薬品性や耐久性を求めるのであれば、多官能オキセタン化合物の使用が好ましい。また、多官能オキセタン化合物の使用で要望の粘度が得られない場合は、単官能オキセタン化合物で希釈することも可能である。
【0073】
また、オキセタン化合物は、最終的にカチオン硬化度が高い硬化物が得られるが、エポキシ化合物やビニルエーテル化合物などを適切な量で添加することにより、反応初期の硬化速度を向上させることができる。この場合の添加量は、オキセタン化合物に対して5重量%から95重量%とすることが望ましい。
【0074】
また、第1の被覆樹脂層36には、オキセタン樹脂組成物を硬化させた硬化物構造体で形成されるため、オキセタン樹脂組成物中に上述したオキセタン化合物の他にカチオン重合開始剤が含有される。オキセタン樹脂組成物に紫外線等の活性エネルギ線を照射によるパターニングする場合には、光カチオン重合開始剤が用いられ、単独で又は2種類以上を組み合わせて用いることができる。
【0075】
市販されているものとしては、例えばユニオン・カーバイト社製のCYRACURE UVI−6950、UVI−6970、旭電化工業社製のオプトマーSP−150、SP−151、SP−152、SP−170、SP−171、日本曹達社製のCI−2855、デグサ社製のDegacere KI 85 B等のトリアリールスルホニウム塩や非置換又は置換されたアリールジアゾニウム塩、ジアリールヨードニウム塩が挙げられる。また、スルホン酸誘導体としては、みどり化学社製のPAI−101等が挙げられる。
【0076】
これらの光カチオン重合開始剤の配合割合としては、上述したオキセタン化合物100重量部当たり、2〜40重量部が適当である。2重量部よりも少ない場合には、活性エネルギ線の照射により生成する酸が少なく、パターン形成が困難になるからである。一方、40重量部よりも多い場合には、光カチオン重合開始剤自身の光吸収により感度が低下し易くなるからである。また、より硬化度を向上させたい場合には、熱重合カチオン開始剤や光カチオン増感剤を併用してもよい。
【0077】
第1の被覆樹脂層36は、分子中に少なくとも1個のオキセタニル基を有するオキセタン化合物と、光カチオン重合開始剤とを必須成分とするオキセタン樹脂組成物により形成されることによって、強靱性と伸びをもった信頼性の高い機械的強度が出せ、第1の基板33から剥離したり、クラックが生じたりといった不具合が生じることを防止できる。
【0078】
また、第1の被覆樹脂層36には、上述したオキセタン化合物及び光カチオン重合開始剤から構成されるオキセタン樹脂組成物の他に、必要に応じて各種添加剤等を適宜添加することが可能である。添加剤としては、特にオキセタン樹脂組成物と下地となる第1の基板33との更なる密着力を向上させるために、カップリング剤を添加することが好ましい。カップリング剤には、アルミネート系、チタネート系、ジルコネート系、シラン系など選択可能で、シラン系が最も好ましい。
【0079】
アルミネート系カップリング剤としては、アセトアルコキシアルミニウムジイソプロピレート、アルミニウムジイソプロボキシモノエチルアセトアセテート、アルミニウムトリスエチルアセトアセテート、アルミニウムトリスアセチルアセトネート等が挙げられる。
【0080】
チタネート系カップリング剤としては、イソプロピルトリステアロイルチタネート、イソプロピルトリス(ジオクチルパイロホスフェート)チタネート、イソプロピルトリ(N−アミノエチル・アミノエチル)チタネート、テトラオクチルビス(ジトリデシルホスフェイト)チタネート、テトラ(2−2−ジアリルオキシメチル−1−ブチル)ビス(ジトリデシル)ホスフェイトチタネート、ビス(ジオクチルパイロホスフェート)オキシアセテートチタネート、ビス(ジオクチルパイロホスフェート)エチレンチタネート等が挙げられる。
【0081】
ジルコネート系カップリング剤としては、ジルコニウムテトラキスアセチルアセトネート、ジルコニウムジブトキシビスアセチルアセトネート、ジルコニウムテトラキスエチルアセトアセテート、ジルコニウムトリブトキシモノエチルアセトアセテート、ジルコニウムトリブトキシアセチルアセトネート等が挙げられる。
【0082】
シラン系カップリング剤としては、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、2−(3,4エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、3−クロロプロピルトリメトキシシラン、3−イソシアネートプロピルトリエトキシシラン等が挙げられる。
【0083】
シラン系カップリング剤のうちアミン系のものは、光カチオン開始剤から出される酸を吸収して感度低下を起こすので望ましくない。また、添加剤の添加量は、オキセタン樹脂組成物等を含む第1の被覆樹脂層36を形成する材料全体に対して、0.1wt%以上、1wt%未満である。添加量が0.1wt%未満では、密着に対する効果が少なく、1wt%以上では現像速度が著しく低下してしまい、現像残りが発生したり、又は解像性が低下してしまう。
【0084】
第1の被覆樹脂層36では、最適な添加剤、即ちシラン系カップリング剤等を使用することで、無機成分が主体となる第1の基板33と有機材料であるオキセタン樹脂組成物との界面における密着強度が向上し、インクiに曝された状態でも第1の基板33に対する密着性を保持することが可能となり、インクジェット記録ヘッド23の信頼性向上につながる。
【0085】
また、第1の被覆樹脂層36を形成する場合には、オキセタン樹脂組成物を溶剤に溶解させて使用することも可能である。オキセタン樹脂組成物を溶剤に溶解させることにより、第1の基板33上に第1の被覆樹脂層36を必要な膜厚でコーティングするにあたり、最適な粘度と塗布特性を得ることができるからである。
【0086】
使用する溶剤としては、オキセタン化合物やその他の添加物を溶解させることができるものであればよい。例えば、メチルエチルケトンやシクロヘキサノン等のケトン類、トルエンやキシレン、テトラメチルベンゼン等の芳香族炭化水素類、セロソルブやメチルセロソルブ、ブチルセロソルブ、カルビトール、メチルカルビトール、ブチルカルビトール、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、ジプロピレングリコールジエチルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテル等のグリコールエーテル類、酢酸エチルや酢酸ブチル、セロソルブアセテート、ブチルセロソルブアセテート、カルビトールアセテート、ブチルカルビトールアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート等の酢酸エステル類、エタノールやプロパノール、エチレングリコール、プロピレングリコール等のアルコール類、オクタン、デカン等の脂肪族炭化水素類、石油エーテルや石油ナフサ、水添石油ナフサ、ソルベントナフサ等の石油系溶剤類、リモネン等のテルペン類などが挙げられ、オキセタン樹脂組成物の良好な溶解性が得られる。これらの中でも、後述するインクジェット記録ヘッド23の個別流路34のパターンを形成するために使用される溶解可能な樹脂層のインク流路パターン41を溶解させず、オキセタン樹脂組成物を溶解させることができる溶媒としては、脂肪族炭化水素類及び石油系溶剤類を用いることができる。石油系溶剤類においては、個別流路34のパターンを形成するために使用される溶解可能な樹脂層に対して、溶解性が低く、これによってインク流路パターン41の形状の型崩れが起きにくくなるからである。
【0087】
以上のように第1の被覆樹脂層36では、分子中に少なくとも1個のオキセタニル基を有するオキセタン化合物と、光カチオン重合開始剤とを必須成分とするオキセタン樹脂組成物によって形成されることにより、低応力化され、強靱性と伸びをもった信頼性の高い機械的強度が出せ、第1の基板33から剥離したり、クラックが生じたりといった不具合が生じることを防止できる。インクジェット記録ヘッド23では、このような第1の被覆樹脂層36により、製造歩留まりや品質が向上し、長期にわたって高い信頼性が得られる。
【0088】
また、第1の被覆樹脂層36は、オキセタン樹脂組成物の硬化物によって形成されることによって、オキセタン樹脂組成物の硬化物はエポキシ樹脂の硬化物と比べて応力が小さいため、エポキシ樹脂の硬化物で第1の被覆樹脂層36を形成した場合よりも第1の基板33から剥離することを防止できる。また、第1の被覆樹脂層36は、オキセタン化合物により耐水性や耐薬品性を有する。
【0089】
また、第1の被覆樹脂層36では、オキセタン樹脂組成物で形成されているため、長尺状や厚みを厚く形成でき、複雑で微細な個別流路34やノズル35も正確かつ容易に形成することができる。
【0090】
さらに、第1の被覆樹脂層36では、オキセタン樹脂組成物の他に、最適な添加剤、即ちシラン系カップリング剤等を含有することで、第1の基板33との密着性がさらに向上し、第1の基板33からの剥離をより防止することができる。
【0091】
インク供給部材32の凹部32aの他方に接着される第2の基板37は、インク供給部材32に対して接着剤で接着される。この第2の基板37は、第1の基板33が接着された凹部32aの一方の側と、他方の側との高さを同一にするため設けられ、第1の基板33と同じ厚みに形成されている。この第2の基板37は、第1の基板33と同様にシリコン基板で形成されていてもよく、材料は限定されない。
【0092】
この第2の基板37上に形成する第2の被覆樹脂層38は、第2の基板37上にスピンコート等により形成され、第1の被覆樹脂層36が設けられているインク供給部材32の凹部32aの一方の側と高さを同一にするため設けられ、第1の被覆樹脂層36と同じ厚みで形成されている。この第2の被覆樹脂層38は、第1の被覆樹脂層36と同様にオキセタン樹脂組成物で形成されていてもよく、材料は限定されない。なお、凹部32aの一方の側の高さと、他方の側の高さとを調整する際に凹部32aの他方の側に設ける部材としては、第2の基板37及び第2の被覆樹脂層38に限定されず、凹部32aの一方の側の高さと同一の高さとすることができるものであれば、材料や構成は限定されない。
【0093】
天板39は、第1の被覆樹脂層36のインクiが吐出される側の吐出面36a上及び第2の被覆樹脂層38上に接着され、共通流路31の吐出面36a側の開口部を閉塞し、共通流路31の一部を構成する。
【0094】
以上のような構成からなるインクジェット記録ヘッドは、インク供給部材32の凹部32aの一方の側に第1の基板33及び第1の被覆樹脂層36が設けられ、凹部32aの他方の側に第2の基板37及び第2の被覆樹脂層38が設けられ、第1の被覆樹脂層36及び第2の被覆樹脂層38上に天板39が取り付けられる。インクジェット記録ヘッド23は、インク供給部材32と、第1の基板33の端面と、第1の被覆樹脂層36の端面と、第2の基板37の端面と、第2の被覆樹脂層38の端面と、天板39とで囲まれた共通流路31が形成され、第1の基板33と第1の被覆樹脂層36とで吐出エネルギ発生素子33aを囲んだ液室となる個別流路34が共通流路31と連続して形成される。このインクジェット記録ヘッド23では、インクカートリッジ11からのインクiが共通流路31に供給され、共通流路31に供給されたインクiが各個別流路34に供給される。
【0095】
インクジェット記録ヘッド23では、インクカートリッジ11からインクiが共通流路31に流れ込み、共通流路31から供給口40を介してインクiが個別流路34に供給され、供給されたインクiを吐出エネルギ発生素子33aで加熱、押圧し、ノズル35よりインクiを液滴の状態にして吐出する。
【0096】
具体的に、インクジェット記録ヘッド23では、図6に示すように、吐出エネルギ発生素子33aに対してパルス電流を供給し、吐出エネルギ発生素子33aを急速に加熱すると、図6(A)に示すように、吐出エネルギ発生素子33aと接するインクiに気泡bが発生する。そして、インクジェット記録ヘッド23は、図6(B)に示すように、気泡bが膨張しながらインクiを加圧し、押圧されたインクiを液滴の状態にしてノズル35より吐出する。また、インクジェット記録ヘッド23は、液滴の状態でインクiを吐出した後、インクカートリッジ11から共通流路31にインクiが流れ、供給口40を介して個別流路34にインクiを供給することによって、再び吐出前の状態へと戻る。これを繰り返し行い、連続的にインクiを吐出する。
【0097】
次に、このインクジェット記録ヘッド23の製造方法について説明する。
【0098】
先ず、図7に示すように、第1の基板33としてSi基板を用意する。この第1の基板33の表面に、所定の個所に吐出エネルギ発生素子33aとしての電気熱変換素子を半導体プロセス等で形成する。
【0099】
次に、この第1の基板33の吐出エネルギ発生素子33aが設けられた面に、溶解可能な樹脂層として例えばノボラック樹脂を主成分としたポジ型レジスト(東京応化工業株式会社製 PMER−P−LA900PM)を、スピンコーターの回転数を調整しながら塗布する。そして、例えば110℃にて6分間ホットプレート上でプリベークした後、キヤノン製ミラープロジェクションアライナー露光機(MPA−600FA)等にて個別流路34のパターン露光を行い、図8に示すように、溶解可能な樹脂層で個別流路34となる部分にインク流路パターン41を形成する。この際の露光量は、例えば800mJ/cm2とする。
【0100】
次に、上記レジストを現像する。現像は例えばP−7G専用現像液(TMAH(水酸化アンモニウム溶液)3%)にてディップ現像を行い、続いて純水の流水でリンスを行う。この溶解可能な樹脂で形成されたインク流路パターン41は、共通流路31と吐出エネルギ発生素子33aとの間に設けられる個別流路34を確保するためのものである。なお、現像後の該ポジ型レジストの膜厚が例えば10μm程度となるようにする。
【0101】
次に、図9に示すように、ポジ型レジストで形成されたインク流路パターン41を溶解させない石油ナフサ等に、上述したオキセタン樹脂組成物を例えば50wt%程度の濃度で溶解させ、他の添加剤等も含有した溶液を作製する。そして、この溶液をスピンコートし、インク流路パターン41上にオキセタン樹脂組成物や添加剤等を含む感光性の第1の被覆樹脂層36を形成する。この感光性の第1の被覆樹脂層36は、例えばインク流路パターン41上における膜厚が、例えば20μm程度となるようにする。
【0102】
次に、図10に示すように、キヤノン製ミラープロジェクションアライナー露光機(MPA−600FA)等にて、ノズル35及びインク供給口40を形成するためにパターン露光を行う。パターン露光を行う際は、ノズル35及びインク供給口40が形成される部分が露光されないようにパターン形成したマスク42を介して活性エネルギ線43を第1の第1の被覆樹脂層36に照射する。なお、この際の露光量は、例えば800mJ/cm2であり、アフターベークは65℃、60分間程度行う。
【0103】
次に、図11に示すように、石油ナフサで、露光していない感光性の第1の被覆樹脂層36の現像を行い、その後、続いて現像残りを除去するためにイソプロピルアルコール(IPA)浸漬にてリンスを行い、露光していない部分の第1の被覆樹脂層36を除去し、ノズル35及びインク供給口40とを形成する。なお、ノズル35は、約直径15μmである。また、このときインク流路パターン41は、石油ナフサに溶解しないため、ほとんど溶解されず残存するようになる。
【0104】
さらに、第1の基板33上には複数の同一または異なる形状の第1の被覆樹脂層36が一括して作りこまれるため、この段階で、図12に示すように、ダイサー44、例えばディスコ社製のDAD−561等によりそれぞれ切断する。なお、ここでは、前述の通り、インク流路パターン41が残存しているため、第1の基板33の切断時に発生するゴミが個別流路34内に侵入することを防止できる。
【0105】
次に、切断したものをチップトレー等にセットし、ポジ型レジストを溶解させることが可能な、例えば極性を有する溶剤としてプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート溶液を用い、このプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート溶液中に超音波を付与しつつ浸漬し、図13に示すように、残存しているインク流路パターン41を溶出する。
【0106】
次に、150℃で1時間程度、ポストキュアのための加熱を行い、感光性の第1の被覆樹脂層36を完全に硬化させる。
【0107】
次に、図1に示すように、インク供給部材32の凹部32aの一方の側に第1の被覆樹脂層36が積層された第1の基板33を接着し、他方の側に第2の被覆樹脂層38が積層された第2の基板37を接着し、さらに第1の被覆樹脂層36の吐出面36a及び第2の被覆樹脂層38にインク供給部材32の吐出面36a側を閉塞する天板39を接着し、インクジェット記録ヘッド23を作製することができる。
【0108】
このインクジェット記録ヘッド23の吐出面36aを保護するためのヘッドキャップ24は、インクiを吐出せず、印刷をしない間、インクジェット記録ヘッド23の吐出面36aを閉塞し、ノズル35を乾燥等から保護している。印刷を行う際には、ヘッドキャップ24は、ヘッドカーリッジ2の底面から移動する際に、吐出面36aに付着している余分なインクiをクリーニングローラ24aで抜き取り、吐出面36aをクリーニングする。
【0109】
インクジェット記録ヘッド23では、吐出面36aをクリーニングローラ24aでクリーニングした際に、吐出面36aに負荷がかかっても、被覆樹脂層35が強靱性と伸びをもったオキセタン樹脂組成物により形成されているため、基板33から剥離することを防止できる。
【0110】
ヘッドカートリッジ2が装着される装置本体3には、図1に示すように、ヘッドカートリッジ装着部51にヘッドカートリッジ2が装着される。また、装置本体3には、前面下側に設けられた給紙口52に印刷される前の記録紙Pが積層して収納された給紙トレイ53が取り付けられ、前面上側に設けられた排紙口54に印刷後の記録紙Pを収納する排紙トイレ55が取り付けられている。
【0111】
装置本体3には、図14に示すように、記録紙Pを搬送する給排紙機構56及びヘッドカートリッジ2の吐出面36aに設けられたヘッドキャップ24を開閉するキャップ開閉機構57が設けられている。
【0112】
以上のような構成からプリンタ装置1は、外部に設けられた情報処理装置から入力された印刷データに基づき、給排紙機構56、ヘッドキャップ開閉機構57、インクジェット記録ヘッド23に供給する電流の供給を制御する制御回路に設けられた制御部によって制御される。
【0113】
具体的に、プリンタ装置1では、先ず、装置本体3に設けられた操作ボタン3aの操作により制御部に印刷開始の命令がされると、制御部からの制御信号により給排紙機構56、ヘッドキャップ開閉機構57が駆動して、図14に示すように、印刷が可能な状態となる。
【0114】
プリンタ装置1では、ヘッドキャップ開閉機構57により、ヘッドキャップ24をヘッドカートリッジ2に対して給紙トレイ53及び排紙トレイ55が設けられている前面側に移動する。これにより、プリンタ装置1では、インクジェット記録ヘッド23の吐出面36aに設けられたノズル35が外部に露出し、インクiが吐出できるようになる。
【0115】
また、プリンタ装置1では、給排紙機構56により、給紙トレイ53から給紙ローラ61によって記録紙Pを引き出し、互いに反対方向に回転する一対の分離ローラ62a,62bによって1枚だけ引き出された記録紙Pを反転ローラ63に搬送して搬送方向を反転させて、インクジェット記録ヘッド23の吐出面36aと対向する位置に設けた搬送ベルト64に記録紙Pを搬送する。プリンタ装置1では、搬送ベルト64に搬送させた記録紙Pをプラテン板65で所定の位置に支持し、記録紙Pを吐出面36aと対向させる。
【0116】
次に、プリンタ装置1では、インクジェット記録ヘッド23に設けられた吐出エネルギ発生素子33aに印刷データの制御信号に基づいて、吐出エネルギ発生素子33aを加熱する。プリンタ装置1では、吐出エネルギ発生素子33aを加熱することによって、図6に示すように、印刷位置に搬送された記録紙Pに対してノズル35より上述したインクiが液滴の状態にして吐出され、インクドットからなる画像や文字等が印刷される。
【0117】
そして、プリンタ装置1では、インク液滴iをノズル35より吐出すると、インクiを吐出した量と同量のインクiがカートリッジ11から接続部25を介してインクジェット記録ヘッド23に補充される。
【0118】
次に、プリンタ装置1では、印刷された記録紙Pを排紙口54方向に回転する搬送ベルト64と、搬送ベルト64と対向し、排紙口54側に設けられた排紙ローラ66とによって記録紙Pを排紙口54に送り出す。
【0119】
以上のようにしてプリンタ装置1では、記録紙Pに印刷を行う。プリンタ装置1では、インクジェット記録ヘッド23の個別流路34及びノズル35を形成している第1の被覆樹脂層36がオキセタン樹脂組成物によって形成されているため、第1の被覆樹脂層36が低応力化され、強靱性と伸びをもった信頼性の高い機械的強度が出せ、基板33から剥離したり、クラックが生じたりといった不具合が生じることを防止できる。これにより、プリンタ装置1では、個別流路34の形状が変化することを防止できるため、インクiをノズル35から同じ体積、吐出速度で所定の方向に吐出することができる。
【0120】
また、プリンタ装置1では、第1の被覆樹脂層36をオキセタン樹脂組成物により形成することによって、耐水性や耐薬品性が得られる。
【0121】
さらに、プリンタ装置1では、オキセタン樹脂組成物の他に、最適な添加剤、即ちシラン系カップリング剤等を含有することで、基板33との密着性がさらに向上し、基板33からの剥離をより防止することができる。
【0122】
これらのことから、プリンタ装置1では、高品位な印字物を得ることができ、長期に亘って高い信頼性も得られる。
【0123】
なお、上述したプリンタ装置1では、吐出エネルギ発生素子33aとして電気熱変換素子を用いたものを例に挙げて説明したが、このことに限定されず、例えばピエゾ素子といった電気機械変換素子等によってインクiを電気機械的にノズルより吐出させる電気機械変換方式であってもよい。
【0124】
また、上述では、プリンタ装置を例に挙げて説明したが、このことに限定されず、他の液体吐出装置に広く適用することが可能である。例えばファクシミリやコピー機等にも適用可能である。
【0125】
また、上述では、ライン型のプリンタ装置1を例に挙げて説明したが、このことに限定されることはなく、例えばヘッドカートリッジが記録紙Pの走行方向と略直交する方向に移動するシリアル型のプリンタ装置にも適用可能である。
【実施例】
【0126】
以下に、第1の被覆樹脂層を形成するオキセタン樹脂組成物の物性の検討及びこのオキセタン樹脂組成物を用いた第1の被覆樹脂層を有するインクジェット記録ヘッドの耐インク性及び印画品質評価を行った。
【0127】
〈オキセタン樹脂組成物の物性の検討〉
樹脂においての問題点、即ち樹脂の硬化後の内部応力について確認するため、以下の実験を行った。内部応力の確認は、樹脂の硬化前の膜厚と、硬化後の膜厚とを観測することにより行う。両者の膜厚が等しいときには、樹脂の硬化に伴う体積変化による内部応力が極めて少ないものと考えることができる。
【0128】
〈実施例1〉
実施例1では、以下の表1に示すオキセタン樹脂組成物を含有する溶液を6インチウェハにスピンコートし、ホットプレートで90℃、5minのプリベーク後に、20μmになるよう塗布し、ミラープロジェクション露光機(MPA600FA:キャノン社製)で1J/cm2露光し、ホットプレートで90℃、5minのポストベーク後、200℃1時間の硬化を行い、オキセタン樹脂組成物の硬化膜を得た。
【0129】
【表1】
【0130】
〈比較例1〉
比較例1では、以下の表2に示す脂環式エポキシ樹脂組成物を含有する溶液を用いて、実施例1と同様にして脂環式エポキシ樹脂組成物の硬化膜を得た。
【0131】
【表2】
【0132】
実施例1及び比較例1で得られたそれぞれの硬化膜について、200℃で1時間ホットプレートにて硬化後の膜厚をそれぞれ測定した。測定した結果、表1に示すオキセタン樹脂組成物が含有された硬化膜では、膜厚の減少が観測されなかったが、表2に示す脂環式エポキシ樹脂組成物が含有された硬化膜では、膜厚の減少が観測された。
【0133】
また、得られたそれぞれの硬化膜について、薄膜ストレス測定装置で測定したところ、表2に示す脂環式エポキシ樹脂組成物を含有する硬化膜よりも、表1に示すオキセタン樹脂組成物を含有する硬化膜の方が応力が格段に低下していた。
【0134】
〈インクジェット記録ヘッドの耐インク性及び印画品質評価〉
〈実施例2〉
実施例2では、次のようにして、図4に示すようなインクジェット記録ヘッド23を作製した。先ず、図7に示す吐出エネルギ発生素子33aが形成された基板33上に、溶解可能な樹脂層として例えばノボラック樹脂を主成分としたポジ型レジスト(東京応化工業株式会社製 PMER−P−LA900PM)を塗布した。そして、このポジ型レジストを110℃にて6分間ホットプレート上でプリベークした後、キヤノン製ミラープロジェクションアライナー露光機(MPA−600FA)にて個別流路34のパターン露光を行い、図8に示すように、溶解可能な樹脂層で個別流路34となる部分にインク流路パターン41を形成した。この際の露光量は、800mJ/cm2とした。
【0135】
次に、上記レジストをP−7G専用現像液(TMAH(水酸化アンモニウム溶液)3%)にてディップ現像を行い、続いて純水の流水でリンスを行った。現像後の該ポジ型レジストの膜厚は10μmであった。
【0136】
次に、図9に示すように、インク流路パターン41を溶解させない石油ナフサに、上記表1に示すオキセタン樹脂組成物を約50wt%の濃度で溶解させた溶液を作製した。この溶液をスピンコートにて、インク流路パターン41上に塗布し、表1に示すオキセタン樹脂組成物により感光性の第1の被覆樹脂層36を形成した。この第1の被覆樹脂層36は、インク流路パターン41上における膜厚が20μmであった。
【0137】
次に、図10に示すように、第1の被覆樹脂層36に対して、キヤノン製ミラープロジェクションアライナー露光機(MPA−600FA)にて、ノズル35及び供給口40を形成のためにパターン露光を行った。パターン露光を行う際は、ノズル35及びインク供給口40が形成される部分が露光されないようにパターン形成したマスク42を介して活性エネルギ線43を第1の被覆樹脂層36に照射する。なお、この際の露光量は、800mJ/cm2であり、アフターベークは65℃、60分間行った。
【0138】
次に、図11に示すように、石油ナフサで露光していない感光性の第1の被覆樹脂層36の現像を行い、その後、続いて現像残りを除去するためにIPA浸漬にてリンスを行い、露光していない部分の第1の被覆樹脂層36を除去し、ノズル35及びインク供給口40とを形成した。なお、ノズル35は、直径15μmとした。また、このときインク流路パターン41はほとんど溶解されず残存していた。
【0139】
さらに、図12に示すように、ダイサー44(ディスコ社製のDAD−561)で所定の大きさに切断した。なお、ここでは、インク流路パターン41が残存していたため、基板33の切断時に発生するゴミが個別流路34内に侵入することを防止できた。
【0140】
次に、切断したものをチップトレー等にセットし、ポジ型レジストを溶解させることが可能な例えば極性を有する溶剤としてプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート溶液中に超音波を付与しつつ浸漬し、図13に示すように、残存しているインク流路パターン41を溶出させた。
【0141】
次に、150℃で1時間、ポストキュアのための加熱を行い、感光性の第1の被覆樹脂層36を完全に硬化させた。
【0142】
次に、図4及び図5に示すように、インク供給部材32の凹部31aの一方の側に第1の被覆樹脂層36が積層された第1の基板33を接着し、他方の側に、第2の被覆樹脂層38が積層された第2の基板37を接着し、さらに第1の被覆樹脂層36の吐出面36a上及び第2の被覆樹脂層38上に天板39を接着し、インクジェット記録ヘッド23を作製した。
【0143】
〈比較例2〉
比較例2では、第1の被覆樹脂層36を表2に示す脂環式エポキシ樹脂組成物で作製し、第2の被覆樹脂層36の現像にキシレンを用い、実施例1と同様にインクジェット記録ヘッド23を作製した。
【0144】
得られた実施例2及び比較例2のインクジェット記録ヘッド23を黒インクに60℃、1週間浸漬させ、インク浸漬テストを行った。ここで、黒インクには、純水、エチレングリコール、黒色染料等で構成されたものであり、LPR−5000用のインクを用いた。
【0145】
インク浸漬テストを行った結果、第1の被覆樹脂層36を形成する材料に表1に示すオキセタン樹脂組成物を含有させた実施例2のインクジェット記録ヘッドでは、第1の基板33から第1の被覆樹脂層36が剥離する等の変化は何も見られなかった。一方、第1の被覆樹脂層36を形成する材料に表2に示す脂環式エポキシ樹脂組成物を含有させた比較例2のインクジェット記録ヘッド23では、インクへの浸漬後に第1の被覆樹脂層36の一部に硬化による応力が原因と考えられる剥がれがみられた。
【0146】
また、印画品質評価は次のようにして行った。実施例2及び比較例2のインクジェット記録ヘッド23を上述したプリンタ装置に装着し、純水/ジエチレングリコール/黒色染料=80/17.5/2.5からなるインクを用いて記録を行った。実施例2のインクジェット記録ヘッド23では、安定な印字が可能であり、得られた印字物は高品位なものであった。一方、比較例2のインクジェット記録ヘッド23では、印画品質の乱れがあった。また、比較例2のインクジェット記録ヘッド23では、長期間使用した後に、ヘッドの状況を光学顕微鏡にて観察したところ、被覆樹脂の剥がれと見られる干渉縞が見られた。
【図面の簡単な説明】
【0147】
【図1】本発明を適用したインクジェットプリンタ装置の斜視図である。
【図2】同インクジェットプリンタ装置に設けられるヘッドカートリッジの斜視図である。
【図3】同ヘッドカートリッジの断面図である。
【図4】インクジェット記録ヘッドの一部を示す斜視図である。
【図5】同インクジェット記録ヘッドの断面図である。
【図6】同インクジェット記録ヘッドを示しており、同図(A)は吐出エネルギ発生素子上に気泡が発生した状態を模式的に示す断面図であり、同図(B)はノズルよりインクを吐出される状態を模式的に示す断面図である。
【図7】吐出エネルギ発生素子が設けられた基板の断面図である。
【図8】基板上に溶解可能な樹脂でインク流路パターンを形成した状態を示す断面図である。
【図9】インク流路パターン上に第1の被覆樹脂層を形成した状態を示す断面図である。
【図10】第1の被覆樹脂層に活性エネルギ線を照射している状態を示す断面図である。
【図11】第1の被覆樹脂層をパターン形成した状態を示す断面図である。
【図12】第1の基板上にインク流路パターン及び第1の被覆樹脂層を形成したものをダイサーで切断している状態を示す断面図である。
【図13】インク流路パターンを形成して溶解可能な樹脂を溶解させた状態を示す断面図である。
【図14】インクジェットプリンタ装置の一部を透視した状態を示す側面図である。
【符号の説明】
【0148】
1 インクジェットプリンタ装置、2 ヘッドカートリッジ、3 装置本体、11 インクカートリッジ、21 カートリッジ本体、22 装着部、23 インクジェット記録ヘッド、24 ヘッドキャップ、31 共通流路、32 インク供給部材。33 第1の基板、33a 吐出エネルギ発生素子、34 個別流路、35 ノズル、36 第1の被覆樹脂層、36a 吐出面、37 第2の基板、38 第2の被覆樹脂層、39 天板、40 供給口、41 インク流路パターン、42 マスク、43 活性エネルギ線、44 ダイサー
【技術分野】
【0001】
本発明は、低応力、耐薬品性を有し、紫外線照射などによるパターン成形で形成された高精度な流路を有する液体吐出型記録ヘッド及び液体吐出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
液体吐出装置としては、液体として例えばインクを吐出するインクジェット記録方式(液体噴射記録方式)を適用したインクジェットプリンタ装置がある。このインクジェットプリンタ装置は、インクを吐出するインクジェット記録ヘッドを備える。インクジェット記録ヘッドは、インクを微細な状態にして吐出する吐出口(オリフィス)と、この吐出口に連通する流路と、流路の一部に設けられたインク吐出圧力発生素子とからなる構成単位を複数備えている。そして、このようなインクジェット記録ヘッドで高品位の画像を得るためには、吐出口から吐出されるインクの小滴がそれぞれの吐出口より常に同じ体積、吐出速度で吐出されることが好ましい。
【0003】
このような吐出条件を実現するインクジェット記録ヘッドとしては、例えば下記の特許文献1〜特許文献3等に記載されているものがある。特許文献1〜特許文献3に記載されているインクジェット記録ヘッドは、インク吐出圧力発生素子が形成された基板上にインク流路及びオリフィス部からなるノズルが感光性樹脂材料やフォトレジストでパターン形成され、インク流路やノズルを形成する部材の上にガラス板などの蓋が接合されたものである。感光性樹脂材料やフォトレジストとしては、例えば、ジアゾレジン、P−ジアゾキノン、ビニルモノマーと重合開始剤を使用する光重合フォトポリマー、ポリビニルシンナメート等と増感剤を使用する二量化型フォトポリマー、オルソキノンジアジドとフェノールノボラック樹脂との混合物、ポリビニルアルコールとジアゾ樹脂の混合物、4−グリシジルエチレンオキシドとベンゾフェノンやグリシジルカルコンとを共重合させたポリエーテル型フォトポリマー、N,N−ジメチルメタクリルアミドと例えばアクリルアミドベンゾフェノンとの共重合体、不飽和ポリエステル系感光性樹脂、不飽和ウレタン系感光性樹脂、二官能アクリルモノマーに光重合開始剤とポリマーとを混合した感光性組成物、重クロム酸フォトレジスト、非クロム系水溶性フォトレジスト、ポリケイ皮酸ビニル系フォトレジスト等が用いられる。
【0004】
また、上記吐出条件を実現する他のインクジェット記録ヘッドとしては、下記の特許文献4に記載されている製造方法によって得られたインクジェット記録ヘッドがある。特許文献4に記載されているインクジェット記録ヘッドの製造方法は、基板上のインク流路となる部分に溶解可能な樹脂でインク流路のパターンを形成し、このインク流路のパターンをエポキシ樹脂等で被覆し、基板を切断後にインク流路のパターンを形成している溶解可能な樹脂を溶出除去することによってインクジェット記録ヘッドが得られる。
【0005】
特許文献1〜特許文献4に記載されているインクジェット記録ヘッドでは、いずれもインク流路の一部に設けられたインク吐出圧力発生素子となる例えば発熱抵抗体がインクの流れる方向と平行に設けられている。インクを吐出する吐出口は、インク流路の端部に設けられており、インクの流れる方向と垂直に設けられている。インクジェット記録ヘッドでは、発熱抵抗体に対して、吐出口がほぼ垂直に位置するため、発熱抵抗体上に形成される気泡の成長方向に対して、インクの吐出方向が垂直となり、気泡の成長方向とインクの吐出方向が異なる。
【0006】
このようなインクジェット記録ヘッドでは、インク流路の端部に位置する吐出口の一部が基板の端部より形成されるため、基板を切断することによりインク吐出圧力発生素子と吐出口との距離が設定される。このため、インク吐出圧力発生素子と吐出口との間の距離の制御においては、基板の切断精度が非常に重要となる。基板の切断は、ダイシングソー等の機械的手段にて行うことが一般的であり、このような機械的手段では高い精度を実現することは困難である。
【0007】
また、インクジェット記録ヘッドでは、特許文献1〜特許文献4とは異なり、インク吐出圧力発生素子である例えば電気熱変換素子と、吐出口とが対向して設けられており、電気熱変換素子上に形成される気泡の成長方向とインクの吐出方向とがほぼ同じ方向となっているものがある。このようなインクジェット記録ヘッドには、例えば下記の特許文献5及び特許文献6に記載されているものがある。特許文献5に記載されているインクジェット記録ヘッドは、電気熱変換素子が設けられた基板上に、オリフィスプレートとなるドライフィルムをパターニングされた別のドライフィルムで接合し、オリフィスプレートとなるドライフィルムの電気熱変換素子と対向する位置にフォトリソグラフィによって吐出口が形成される。特許文献6に記載されているインクジェット記録ヘッドは、インク吐出圧力発生素子が形成された基板と、電鋳加工により製造されるオリフィスプレートとをパターニングされたドライフィルムを介して接合したものである。
【0008】
この特許文献5及び特許文献6に記載されているインクジェット記録ヘッドでは、いずれもオリフィスプレートが薄く、例えば厚さ20μm以下であり、かつ均一に作製することは困難である。また、このインクジェット記録ヘッドでは、たとえオリフィスプレートを作製できたとしても、インク吐出圧力発生素子が形成された基板との接合工程はオリフィスプレートの脆弱性により極めて困難となる。
【0009】
また、インクジェット記録ヘッドでは、インクを吐出口から同じ体積、吐出速度で吐出するという吐出条件の他に、微小なインク滴を正確な位置に吐出する必要がある。インクジェット記録ヘッドは、正確な位置にインクを吐出するため、吐出エネルギ発生部に設けられた電気熱変換素子と吐出口との距離(以下、「OH距離」と記す。)が短い方が好ましい。
【0010】
高精度のOH距離を有するインクジェット記録ヘッドの製造方法としては、特許文献7に記載されているような製造方法がある。特許文献7には、インク吐出圧力発生素子が形成された基板上に、溶解可能な樹脂にてインク流路となるインク流路パターンを形成する工程と、常温にて固体状のエポキシ樹脂を含む被覆樹脂を溶媒に溶解させたものを、インク流路パターンを形成している溶解可能な樹脂層上にソルベントコートすることによって、溶解可能な樹脂層上にインク流路壁となる被覆樹脂層を形成する工程と、インク吐出圧力発生素子の上方の被覆樹脂層に吐出口を形成する工程と、インク流路パターンを形成している溶解可能な樹脂層を溶出する工程とを有するインクジェット記録ヘッドの製造方法について記載されている。特許文献7に記載されているインクジェット記録ヘッドの製造方法では、高アスペクトのパターンを形成すること及び耐インク性の観点から、被覆樹脂に脂環式エポキシ樹脂のカチオン重合物が用いられる。
【0011】
また、インクジェット記録ヘッドでは、特許文献7及び特許文献8に記載された方法及び材料を用いることにより、新たに以下のような問題も生じている。
【0012】
これらの脂環式エポキシ樹脂のカチオン重合硬化物は、下地となる基板との接着力は優れているものの、内部応力が高いため、下地となる基板からの剥離が発生してしまう。また、脂環式エポキシ樹脂のカチオン重合硬化物は、膜自体の特にパターンエッジのようなコーナー部の応力集中が発生する部分には、クラック(膜割れ)も発生して、インクジェット記録ヘッドとしての信頼性を大きく低下させてしまう。また、これらの材料によっては、パターニング性能が不十分で、インクジェット記録ヘッド用構造体として必要な微細なパターニング性能が得られないものも多々含まれている。
【0013】
インクジェット記録ヘッドでは、特に長尺状に形成した場合やインク流路壁となる被覆樹脂層の厚みが厚くなる場合、さらにはインク流路の構造が微細化、複雑化することにより、被覆樹脂層の剥離が生じたり、クラックが生じやすい。また、インクジェット記録ヘッドでは、画像品質を保持するため、インクが吐出されるヘッド表面をヘッドクリーニングして、ヘッド表面に付着した余分なインクを除去することが欠かせない。インクジェット記録ヘッドでは、ヘッドクリーニングする際に、クリーニング部材でヘッド表面をワイピングしたりするため、ヘッド表面にメカニカルな負荷がかかり、基板からの被覆樹脂層の剥離を助長してしまう虞がある。
【0014】
【特許文献1】特開昭56−123869号公報
【特許文献2】特開昭57−208255号公報
【特許文献3】特開昭57−208256号公報
【特許文献4】特開昭61−154947号公報
【特許文献5】特開昭58−8658号公報
【特許文献6】特開昭62−264957号公報
【特許文献7】特開平6−286149号公報
【特許文献8】特開平7−214783号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明は、低応力であり、紫外線照射などによるパターン成形が正確かつ容易である塗膜を有する液体吐出型記録ヘッド及び液体吐出装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明に係る液体吐出型記録ヘッドは、液体を吐出するものであり、液体吐出エネルギ発生素子が形成されると共に液体を供給する流路の一部を構成する基板と、基板上に形成され、流路の一部を構成すると共に液体を吐出する液体吐出口を有する被覆樹脂層とを有する。この液体吐出型記録ヘッドの被覆樹脂層は、分子中に少なくとも1個のオキセタニル基を有するオキセタン化合物と光カチオン重合開始剤とを必須成分とするオキセタン樹脂組成物により形成されている。
【0017】
また、本発明に係る液体吐出装置は、上記液体吐出型記録ヘッドを備える。
【0018】
さらに、本発明に係る液体吐出型記録ヘッドは、液体を吐出するものであり、液体を供給する共通流路の一部を構成する凹部を有する液体供給部材と、液体供給部材の凹部の一方の側に接着され、端面が共通流路の一部を構成し、表面に液体吐出エネルギ発生素子が形成された第1の基板と、第1の基板上に形成され、共通流路から供給された液体を液体吐出エネルギ発生素子の周囲に供給する個別流路と液体を吐出する液体吐出口とを有する第1の被覆樹脂層と、液体供給部材の凹部の他方の側に接着され、端面が共通流路の一部を構成する第2の基板と、第2の基板上に形成される第2の被覆樹脂層と、第1の被覆樹脂層上及び第2の被覆樹脂層上に設けられ、共通流路の吐出面側を閉塞する天板とを有する。この液体吐出型記録ヘッドの第1の被覆樹脂層は、分子中に少なくとも1個のオキセタニル基を有するオキセタン化合物と光カチオン重合開始剤を必須成分とするオキセタン樹脂組成物により形成されている。
【0019】
また、本発明に係る液体吐出装置は、上記液体吐出型記録ヘッドを備える。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、流路の一部を構成し、液体吐出口を有する被覆樹脂層や個別流路及び液体吐出口を有する第1の被覆樹脂層をオキセタン樹脂組成物で形成することにより、オキセタン化合物の持つ低ストレス材料としての特性から、被覆樹脂層を低応力化でき、クラックの発生を防止でき、基板からの剥離も防止することができ、耐久性に優れている。また、本発明によれば、被覆樹脂層及び第1の被覆樹脂層をオキセタン樹脂組成物で形成することにより、耐薬品性が得られる。これらのことから、本発明では、製造歩留まり及び品質が向上し、長期にわたって高い信頼性が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明が適用された液体吐出型記録ヘッド及び液体吐出装置について、図面を参照して説明する。液体吐出装置は、液体として例えばインクを吐出するインクジェットプリンタ装置であり、液体吐出型記録ヘッドであるインクジェット記録ヘッドは、このプリンタ装置に設けられる。
【0022】
インクジェットプリンタ装置(以下、プリンタ装置という。)1は、図1に示すように、対象物となる例えば記録紙Pに対して上述したインクiを吐出するインクジェットプリンタヘッドカートリッジ(以下、ヘッドカートリッジという。)2と、このヘッドカートリッジ2が装着される装置本体3とを備える。このプリンタ装置1は、記録紙Pの幅方向、すなわち図1中矢印W方向にインク吐出口(ノズル)が略ライン状に1列以上並設した、いわゆるライン型のプリンタ装置である。プリンタ装置1は、ヘッドカートリッジ2が装置本体3に対して着脱可能である。
【0023】
先ず、プリンタ装置1を構成するヘッドカートリッジ2について説明する。ヘッドカートリッジ2は、例えば圧力発生素子として電気熱変換式を用いた発熱抵抗体を用いて上述したインクiを吐出し、記録紙Pの主面にインクiを着弾させる。ヘッドカートリッジ2には、図2及び図3に示すように、インクiが収容された容器であるインクカートリッジ11が装着される。インクカートリッジ11は、イエローインク、マゼンタインク、シアンインク、ブラックインクの色毎に、イエローインクのインクカートリッジ11y、マゼンタインクのインクカートリッジ11m、シアンインクのインクカートリッジ11c、ブラックインクのインクカートリッジ11kを備える。インクカートリッジ11は、記録紙Pの幅方向の寸法と略同じ寸法をなす略矩形状に形成されている。具体的に、インクカートリッジ11は、図3に示すように、インクiを収容するインク収容部12を有し、このインク収容部12の下面にヘッドカートリッジ2のカートリッジ本体21にインクiを送り出すためのインク供給部13が設けられている。
【0024】
インク収容部12には、上面中央部に外部の空気を取り込む際の孔となる外部連通孔14が設けられている。インクカートリッジ11では、インクiがカートリッジ本体21に供給された際に、減少したインクiの分に相当する空気が外部連通孔14を介して空気が取り込まれる。
【0025】
インク供給部13は、インク収容部12の下側略中央部に設けられている。このインク供給部13は、インク収容部12と連通した略突形状のノズルであり、このノズルの先端が後述するヘッドカートリッジ2の接続部25に嵌合されることにより、インクカートリッジ11のインク収容部12とヘッドカートリッジ2のカートリッジ本体21とを接続する。
【0026】
インク供給部13は、インクカートリッジ11の底面側にインクiをカートリッジ本体21側に供給する供給口が設けられ、詳細を図示しない弁機構により供給口を開放、閉塞する。インクカートリッジ11は、カートリッジ本体21に装着され、インク供給部13とヘッドカートリッジ2の接続部25が接続されると、弁が供給口から離れ、供給口が開放され、ヘッドカートリッジ2側にインクiが送り出される。
【0027】
インクカートリッジ11が装着されるヘッドカートリッジ2は、図2及び図3に示すように、カートリッジ本体21を有する。カートリッジ本体21には、インクカートリッジ11が装着される装着部22と、インクiを吐出するインクジェット記録ヘッド23と、インクジェット記録ヘッド23を保護するヘッドキャップ24とを備える。
【0028】
装着部22の長手方向略中央には、装着部22に装着されたインクカートリッジ11のインク供給部13と接続される接続部25が設けられている。この接続部25は、装着部22に装着されたインクカートリッジ11のインク供給部13からカートリッジ本体21の底面に設けられたインクiを吐出するインクジェット記録ヘッド23にインクiを供給する供給路となる。接続部25は、インクカートリッジ11からインクジェット記録ヘッド23へのインクiの供給を弁機構で調整している。
【0029】
接続部25からインクiが供給されるインクジェット記録ヘッド23は、カートリッジ本体21の底面に沿って配設されている。インクジェット記録ヘッド23は、接続部25から供給されるインクiを吐出する吐出口である後述するノズル35が記録紙Pの幅方向、すなわち図3中矢印W方向に略ライン状に並設されている。インクジェット記録ヘッド23は、インクiを吐出する際に、記録紙Pの幅方向に移動することなく、ノズルライン毎にインクiを吐出する。
【0030】
インクジェット記録ヘッド23は、図4及び図5に示すように、共通流路31の一部を構成する凹部32aが形成されたインク供給部材32と、このインク供給部材32の凹部32aの一方の側に設けられる第1の基板33と、この第1の基板33上に形成され、個別流路34とノズル35とが形成された第1の被覆樹脂層36と、インク供給部材32の凹部32aの他の側に設けられ、第1の基板33と高さを揃える第2の基板37と、この第2の基板37上に形成され、第1の被覆樹脂層36と高さを揃える第2の被覆樹脂層38と、第1の被覆樹脂層36及び第2の被覆樹脂層38上に設けられ、共通流路31を閉塞する天板39とを有する。
【0031】
インクジェット記録ヘッド23は、インク供給部材32と、第1の基板33の端面と、第1の被覆樹脂層36の端面と、第2の基板37の端面と、第2の被覆樹脂層38の端面と、天板39とで囲まれた共通流路31が形成され、第1の基板33及び第1の被覆樹脂層36で吐出エネルギ発生素子33aを囲んだ液室となる個別流路34が形成される。インクジェット記録ヘッド23では、インクカートリッジ11からのインクiが共通流路31に供給され、共通流路31に供給されたインクiが各個別流路34に供給される。
【0032】
共通流路31の一部を構成するインク供給部材32は、耐インク性の樹脂等で形成され、共通流路31の一部を構成する凹部32aが形成されている。
【0033】
第1の基板33は、例えばシリコン基板であり、表面の所定の箇所に複数の吐出エネルギ発生素子33aとして電気熱変換素子が半導体プロセスにより形成されている。また、第1の基板33には、吐出エネルギ発生素子33aを制御する制御回路33bが形成されている。第1の基板33は、共通流路31側の端面が共通流路31の一部を構成している。また、第1の基板33は、吐出エネルギ発生素子33aが設けられた面が個別流路34の底面を構成している。なお、吐出エネルギ発生素子33aとして、電気的熱変換素子に限定されず、ピエゾ素子といった電気機械変換素子等であってもよい。
【0034】
第1の被覆樹脂層36は、第1の基板33上にパターン形成され、共通流路31からインクiを第1の基板33上に設けられた吐出エネルギ発生素子33aの周囲に供給する個別流路34と、吐出エネルギ発生素子33aと対向する位置にインクiを吐出するノズル35とが形成されている。個別流路34は、吐出エネルギ発生素子33a毎に設けられ、共通流路31の深さ方向と直交する方向に凹状をなし、共通流路31側の端部に共通流路31と接続するための供給口40が形成されている。
【0035】
ノズル35は、個別流路34と接続されており、吐出エネルギ発生素子33aで発生したエネルギによって加熱、押圧された個別流路34内のインクiを吐出する。
【0036】
具体的に、第1の被覆樹脂層36は、分子中に少なくとも1個のオキセタニル基を有するオキセタン化合物と、光カチオン重合開始剤とを必須成分とするオキセタン樹脂組成物を第1の基板33上の吐出エネルギ発生素子33aが設けられている面にパターン形成し、オキセタン樹脂組成物を硬化させることにより形成される。
【0037】
ここで、第1の被覆樹脂層36を形成するオキセタン樹脂組成物について説明する。オキセタン樹脂組成物中のオキセタン化合物は、エポキシのオキシラン環に炭素が1つ増えた4員環をもつものである。このオキセタン化合物は、エポキシ化合物と比べて、カチオン硬化性が良好である。このオキセタン化合物のカチオン硬化物は、エポキシ硬化物よりはるかに大きな分子量をもち、強靱性と伸びをもった信頼性の高い機械的強度が出せ、より優れた耐水性や耐薬品性を示す。このオキセタン化合物のカチオン硬化物の特徴は、堅くて脆いエポキシ硬化物の特徴と大きく異なる。また、オキセタン化合物のカチオン硬化物は、4員環のオキセタニル基由来の変異原生はなく安全性に関しても、低分子量の光硬化性エポキシ樹脂より優位である。
【0038】
オキセタン化合物には、分子中に1つのオキセタニル基を有する単官能オキセタン化合物、分子中に2つ以上のオキセタニル基を有する多官能オキセタン化合物がある。単官能オキセタン化合物は、下記の一般式(1)で表わされる。
【0039】
【化1】
【0040】
一般式(1)において、R1は、水素原子、メチル基、エチル基、プロピル基又はブチル基等の炭素数1〜6個のアルキル基、炭素数1〜6個のフルオロアルキル基、アリル基、アリール基、フリル基若しくはチエニル基である。R2は、メチル基、エチル基、プロピル基又はブチル基等の炭素数1〜6個のアルキル基、1−プロペニル基、2−プロペニル基、2−メチル−1−プロペニル基、2−メチル−2−プロペニル基、1−ブテニル基、2−ブテニル基又は3−ブテニル基等の炭素数2〜6個のアルケニル基、フェニル基、ベンジル基、フルオロベンジル基、メトキシベンジル基又はフェノキシエチル基等の芳香環を有する基、エチルカルボニル基、プロピルカルボニル基又はブチルカルボニル基等の炭素数2〜6個のアルキルカルボニル基、エトキシカルボニル基、プロポキシカルボニル基又はブトキシカルボニル基等の炭素数2〜6個のアルコキシカルボニル基、若しくはエチルカルバモイル基、プロピルカルバモイル基、ブチルカルバモイル基又はペンチルカルバモイル基等の炭素数2〜6個のN−アルキルカルバモイル基等である。
【0041】
2つのオキセタニル基を有する2官能オキセタン化合物は、下記一般式(2)および一般式(3)で表わされる。
【0042】
【化2】
【0043】
一般式(2)において、R1は、一般式(1)におけるものと同様である。
【0044】
【化3】
【0045】
一般式(3)において、R1は、一般式(1)におけるものと同様である。R3は、炭素数1〜12の線状又は分岐状飽和炭化水素類、炭素数1〜12の線状又は分岐状不飽和炭化水素類、下記式(A)、(B)、(C)、(D)及び(E)で示される芳香族炭化水素類、式(F)及び(G)で示されるカルボニル基を含む直鎖状又は環状のアルキレン類、式(H)及び(I)で示されるカルボニル基を含む芳香族炭化水素類から選択される2つの原子価を持った基である。その他の2官能オキセタン化合物としては、カルド型、ナフタレン型などが挙げられる。
【0046】
【化4】
【0047】
【化5】
【0048】
【化6】
【0049】
【化7】
【0050】
【化8】
【0051】
式(A)〜(E)において、R4は、水素原子、炭素数1〜12のアルキル基、アリール基、又はアラルキル基を表わし、R5は、−O−、−S−、−CH2−、−NH−、−SO2−、−CH(CH3)−、−C(CH3)2−、又は−C(CF3)2−を表わし、R6は、水素原子又は炭素数1〜6のアルキル基を表わす。
【0052】
【化9】
【0053】
式(F)において、nは1以上の整数を表わす。
【0054】
【化10】
【0055】
【化11】
【0056】
【化12】
【0057】
3官能以上のオキセタン化合物としては、下記の一般式(4)に示すフェノールノボラック型オキセタン化合物、下記の一般式(5)に示すクレゾールノボラック型オキセタン化合物、や下記の一般式(6)及び一般式(7)に示すトリアジン骨格を持つオキセタン化合物が挙げられる。その他の3官能以上のオキセタン化合物としては、ポリ(ヒドロキシスチレン)、カリックスアレーン類、又はシルセスキオキサン等のシリコーン樹脂類などの水酸基を有する樹脂とのエーテル化物、オキセタン環を有する不飽和モノマーとアルキル(メタ)アクリレートとの共重合体等も挙げられる。
【0058】
【化13】
【0059】
【化14】
【0060】
一般式(4)〜一般式(5)において、R1は一般式(1)におけるものと同様であり、nは1以上の整数を表す。また、このようなノボラック型オキセタン化合物は、その数平均核体数が3〜10(nは、1〜8)であることが好ましい。この数平均核体数が10を超えると、粘度が高くなって立体障害により架橋密度が上がらないからである。
【0061】
【化15】
【0062】
一般式(6)において、R1は一般式(1)におけるものと同様である。
【0063】
【化16】
【0064】
一般式(7)において、R1は前記一般式(1)におけるものと同様であり、R7は、下記式(J)、(K)及び(L)で示されるような炭素数1〜12の分岐状アルキレン基、式(M)、(N)及び(P)で示される芳香族炭化水素類である。また、nは、R7に結合している一般式(7)に示された官能基の数を表わす。
【0065】
【化17】
【0066】
【化18】
【0067】
【化19】
【0068】
【化20】
【0069】
【化21】
【0070】
【化22】
【0071】
式(P)において、R8は、水素原子、炭素数1〜6のアルキル基、又はアリール基を表わす。
【0072】
これらオキセタン化合物は単独または2種以上を混合して用いられる。選択としてより強い耐薬品性や耐久性を求めるのであれば、多官能オキセタン化合物の使用が好ましい。また、多官能オキセタン化合物の使用で要望の粘度が得られない場合は、単官能オキセタン化合物で希釈することも可能である。
【0073】
また、オキセタン化合物は、最終的にカチオン硬化度が高い硬化物が得られるが、エポキシ化合物やビニルエーテル化合物などを適切な量で添加することにより、反応初期の硬化速度を向上させることができる。この場合の添加量は、オキセタン化合物に対して5重量%から95重量%とすることが望ましい。
【0074】
また、第1の被覆樹脂層36には、オキセタン樹脂組成物を硬化させた硬化物構造体で形成されるため、オキセタン樹脂組成物中に上述したオキセタン化合物の他にカチオン重合開始剤が含有される。オキセタン樹脂組成物に紫外線等の活性エネルギ線を照射によるパターニングする場合には、光カチオン重合開始剤が用いられ、単独で又は2種類以上を組み合わせて用いることができる。
【0075】
市販されているものとしては、例えばユニオン・カーバイト社製のCYRACURE UVI−6950、UVI−6970、旭電化工業社製のオプトマーSP−150、SP−151、SP−152、SP−170、SP−171、日本曹達社製のCI−2855、デグサ社製のDegacere KI 85 B等のトリアリールスルホニウム塩や非置換又は置換されたアリールジアゾニウム塩、ジアリールヨードニウム塩が挙げられる。また、スルホン酸誘導体としては、みどり化学社製のPAI−101等が挙げられる。
【0076】
これらの光カチオン重合開始剤の配合割合としては、上述したオキセタン化合物100重量部当たり、2〜40重量部が適当である。2重量部よりも少ない場合には、活性エネルギ線の照射により生成する酸が少なく、パターン形成が困難になるからである。一方、40重量部よりも多い場合には、光カチオン重合開始剤自身の光吸収により感度が低下し易くなるからである。また、より硬化度を向上させたい場合には、熱重合カチオン開始剤や光カチオン増感剤を併用してもよい。
【0077】
第1の被覆樹脂層36は、分子中に少なくとも1個のオキセタニル基を有するオキセタン化合物と、光カチオン重合開始剤とを必須成分とするオキセタン樹脂組成物により形成されることによって、強靱性と伸びをもった信頼性の高い機械的強度が出せ、第1の基板33から剥離したり、クラックが生じたりといった不具合が生じることを防止できる。
【0078】
また、第1の被覆樹脂層36には、上述したオキセタン化合物及び光カチオン重合開始剤から構成されるオキセタン樹脂組成物の他に、必要に応じて各種添加剤等を適宜添加することが可能である。添加剤としては、特にオキセタン樹脂組成物と下地となる第1の基板33との更なる密着力を向上させるために、カップリング剤を添加することが好ましい。カップリング剤には、アルミネート系、チタネート系、ジルコネート系、シラン系など選択可能で、シラン系が最も好ましい。
【0079】
アルミネート系カップリング剤としては、アセトアルコキシアルミニウムジイソプロピレート、アルミニウムジイソプロボキシモノエチルアセトアセテート、アルミニウムトリスエチルアセトアセテート、アルミニウムトリスアセチルアセトネート等が挙げられる。
【0080】
チタネート系カップリング剤としては、イソプロピルトリステアロイルチタネート、イソプロピルトリス(ジオクチルパイロホスフェート)チタネート、イソプロピルトリ(N−アミノエチル・アミノエチル)チタネート、テトラオクチルビス(ジトリデシルホスフェイト)チタネート、テトラ(2−2−ジアリルオキシメチル−1−ブチル)ビス(ジトリデシル)ホスフェイトチタネート、ビス(ジオクチルパイロホスフェート)オキシアセテートチタネート、ビス(ジオクチルパイロホスフェート)エチレンチタネート等が挙げられる。
【0081】
ジルコネート系カップリング剤としては、ジルコニウムテトラキスアセチルアセトネート、ジルコニウムジブトキシビスアセチルアセトネート、ジルコニウムテトラキスエチルアセトアセテート、ジルコニウムトリブトキシモノエチルアセトアセテート、ジルコニウムトリブトキシアセチルアセトネート等が挙げられる。
【0082】
シラン系カップリング剤としては、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、2−(3,4エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、3−クロロプロピルトリメトキシシラン、3−イソシアネートプロピルトリエトキシシラン等が挙げられる。
【0083】
シラン系カップリング剤のうちアミン系のものは、光カチオン開始剤から出される酸を吸収して感度低下を起こすので望ましくない。また、添加剤の添加量は、オキセタン樹脂組成物等を含む第1の被覆樹脂層36を形成する材料全体に対して、0.1wt%以上、1wt%未満である。添加量が0.1wt%未満では、密着に対する効果が少なく、1wt%以上では現像速度が著しく低下してしまい、現像残りが発生したり、又は解像性が低下してしまう。
【0084】
第1の被覆樹脂層36では、最適な添加剤、即ちシラン系カップリング剤等を使用することで、無機成分が主体となる第1の基板33と有機材料であるオキセタン樹脂組成物との界面における密着強度が向上し、インクiに曝された状態でも第1の基板33に対する密着性を保持することが可能となり、インクジェット記録ヘッド23の信頼性向上につながる。
【0085】
また、第1の被覆樹脂層36を形成する場合には、オキセタン樹脂組成物を溶剤に溶解させて使用することも可能である。オキセタン樹脂組成物を溶剤に溶解させることにより、第1の基板33上に第1の被覆樹脂層36を必要な膜厚でコーティングするにあたり、最適な粘度と塗布特性を得ることができるからである。
【0086】
使用する溶剤としては、オキセタン化合物やその他の添加物を溶解させることができるものであればよい。例えば、メチルエチルケトンやシクロヘキサノン等のケトン類、トルエンやキシレン、テトラメチルベンゼン等の芳香族炭化水素類、セロソルブやメチルセロソルブ、ブチルセロソルブ、カルビトール、メチルカルビトール、ブチルカルビトール、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、ジプロピレングリコールジエチルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテル等のグリコールエーテル類、酢酸エチルや酢酸ブチル、セロソルブアセテート、ブチルセロソルブアセテート、カルビトールアセテート、ブチルカルビトールアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート等の酢酸エステル類、エタノールやプロパノール、エチレングリコール、プロピレングリコール等のアルコール類、オクタン、デカン等の脂肪族炭化水素類、石油エーテルや石油ナフサ、水添石油ナフサ、ソルベントナフサ等の石油系溶剤類、リモネン等のテルペン類などが挙げられ、オキセタン樹脂組成物の良好な溶解性が得られる。これらの中でも、後述するインクジェット記録ヘッド23の個別流路34のパターンを形成するために使用される溶解可能な樹脂層のインク流路パターン41を溶解させず、オキセタン樹脂組成物を溶解させることができる溶媒としては、脂肪族炭化水素類及び石油系溶剤類を用いることができる。石油系溶剤類においては、個別流路34のパターンを形成するために使用される溶解可能な樹脂層に対して、溶解性が低く、これによってインク流路パターン41の形状の型崩れが起きにくくなるからである。
【0087】
以上のように第1の被覆樹脂層36では、分子中に少なくとも1個のオキセタニル基を有するオキセタン化合物と、光カチオン重合開始剤とを必須成分とするオキセタン樹脂組成物によって形成されることにより、低応力化され、強靱性と伸びをもった信頼性の高い機械的強度が出せ、第1の基板33から剥離したり、クラックが生じたりといった不具合が生じることを防止できる。インクジェット記録ヘッド23では、このような第1の被覆樹脂層36により、製造歩留まりや品質が向上し、長期にわたって高い信頼性が得られる。
【0088】
また、第1の被覆樹脂層36は、オキセタン樹脂組成物の硬化物によって形成されることによって、オキセタン樹脂組成物の硬化物はエポキシ樹脂の硬化物と比べて応力が小さいため、エポキシ樹脂の硬化物で第1の被覆樹脂層36を形成した場合よりも第1の基板33から剥離することを防止できる。また、第1の被覆樹脂層36は、オキセタン化合物により耐水性や耐薬品性を有する。
【0089】
また、第1の被覆樹脂層36では、オキセタン樹脂組成物で形成されているため、長尺状や厚みを厚く形成でき、複雑で微細な個別流路34やノズル35も正確かつ容易に形成することができる。
【0090】
さらに、第1の被覆樹脂層36では、オキセタン樹脂組成物の他に、最適な添加剤、即ちシラン系カップリング剤等を含有することで、第1の基板33との密着性がさらに向上し、第1の基板33からの剥離をより防止することができる。
【0091】
インク供給部材32の凹部32aの他方に接着される第2の基板37は、インク供給部材32に対して接着剤で接着される。この第2の基板37は、第1の基板33が接着された凹部32aの一方の側と、他方の側との高さを同一にするため設けられ、第1の基板33と同じ厚みに形成されている。この第2の基板37は、第1の基板33と同様にシリコン基板で形成されていてもよく、材料は限定されない。
【0092】
この第2の基板37上に形成する第2の被覆樹脂層38は、第2の基板37上にスピンコート等により形成され、第1の被覆樹脂層36が設けられているインク供給部材32の凹部32aの一方の側と高さを同一にするため設けられ、第1の被覆樹脂層36と同じ厚みで形成されている。この第2の被覆樹脂層38は、第1の被覆樹脂層36と同様にオキセタン樹脂組成物で形成されていてもよく、材料は限定されない。なお、凹部32aの一方の側の高さと、他方の側の高さとを調整する際に凹部32aの他方の側に設ける部材としては、第2の基板37及び第2の被覆樹脂層38に限定されず、凹部32aの一方の側の高さと同一の高さとすることができるものであれば、材料や構成は限定されない。
【0093】
天板39は、第1の被覆樹脂層36のインクiが吐出される側の吐出面36a上及び第2の被覆樹脂層38上に接着され、共通流路31の吐出面36a側の開口部を閉塞し、共通流路31の一部を構成する。
【0094】
以上のような構成からなるインクジェット記録ヘッドは、インク供給部材32の凹部32aの一方の側に第1の基板33及び第1の被覆樹脂層36が設けられ、凹部32aの他方の側に第2の基板37及び第2の被覆樹脂層38が設けられ、第1の被覆樹脂層36及び第2の被覆樹脂層38上に天板39が取り付けられる。インクジェット記録ヘッド23は、インク供給部材32と、第1の基板33の端面と、第1の被覆樹脂層36の端面と、第2の基板37の端面と、第2の被覆樹脂層38の端面と、天板39とで囲まれた共通流路31が形成され、第1の基板33と第1の被覆樹脂層36とで吐出エネルギ発生素子33aを囲んだ液室となる個別流路34が共通流路31と連続して形成される。このインクジェット記録ヘッド23では、インクカートリッジ11からのインクiが共通流路31に供給され、共通流路31に供給されたインクiが各個別流路34に供給される。
【0095】
インクジェット記録ヘッド23では、インクカートリッジ11からインクiが共通流路31に流れ込み、共通流路31から供給口40を介してインクiが個別流路34に供給され、供給されたインクiを吐出エネルギ発生素子33aで加熱、押圧し、ノズル35よりインクiを液滴の状態にして吐出する。
【0096】
具体的に、インクジェット記録ヘッド23では、図6に示すように、吐出エネルギ発生素子33aに対してパルス電流を供給し、吐出エネルギ発生素子33aを急速に加熱すると、図6(A)に示すように、吐出エネルギ発生素子33aと接するインクiに気泡bが発生する。そして、インクジェット記録ヘッド23は、図6(B)に示すように、気泡bが膨張しながらインクiを加圧し、押圧されたインクiを液滴の状態にしてノズル35より吐出する。また、インクジェット記録ヘッド23は、液滴の状態でインクiを吐出した後、インクカートリッジ11から共通流路31にインクiが流れ、供給口40を介して個別流路34にインクiを供給することによって、再び吐出前の状態へと戻る。これを繰り返し行い、連続的にインクiを吐出する。
【0097】
次に、このインクジェット記録ヘッド23の製造方法について説明する。
【0098】
先ず、図7に示すように、第1の基板33としてSi基板を用意する。この第1の基板33の表面に、所定の個所に吐出エネルギ発生素子33aとしての電気熱変換素子を半導体プロセス等で形成する。
【0099】
次に、この第1の基板33の吐出エネルギ発生素子33aが設けられた面に、溶解可能な樹脂層として例えばノボラック樹脂を主成分としたポジ型レジスト(東京応化工業株式会社製 PMER−P−LA900PM)を、スピンコーターの回転数を調整しながら塗布する。そして、例えば110℃にて6分間ホットプレート上でプリベークした後、キヤノン製ミラープロジェクションアライナー露光機(MPA−600FA)等にて個別流路34のパターン露光を行い、図8に示すように、溶解可能な樹脂層で個別流路34となる部分にインク流路パターン41を形成する。この際の露光量は、例えば800mJ/cm2とする。
【0100】
次に、上記レジストを現像する。現像は例えばP−7G専用現像液(TMAH(水酸化アンモニウム溶液)3%)にてディップ現像を行い、続いて純水の流水でリンスを行う。この溶解可能な樹脂で形成されたインク流路パターン41は、共通流路31と吐出エネルギ発生素子33aとの間に設けられる個別流路34を確保するためのものである。なお、現像後の該ポジ型レジストの膜厚が例えば10μm程度となるようにする。
【0101】
次に、図9に示すように、ポジ型レジストで形成されたインク流路パターン41を溶解させない石油ナフサ等に、上述したオキセタン樹脂組成物を例えば50wt%程度の濃度で溶解させ、他の添加剤等も含有した溶液を作製する。そして、この溶液をスピンコートし、インク流路パターン41上にオキセタン樹脂組成物や添加剤等を含む感光性の第1の被覆樹脂層36を形成する。この感光性の第1の被覆樹脂層36は、例えばインク流路パターン41上における膜厚が、例えば20μm程度となるようにする。
【0102】
次に、図10に示すように、キヤノン製ミラープロジェクションアライナー露光機(MPA−600FA)等にて、ノズル35及びインク供給口40を形成するためにパターン露光を行う。パターン露光を行う際は、ノズル35及びインク供給口40が形成される部分が露光されないようにパターン形成したマスク42を介して活性エネルギ線43を第1の第1の被覆樹脂層36に照射する。なお、この際の露光量は、例えば800mJ/cm2であり、アフターベークは65℃、60分間程度行う。
【0103】
次に、図11に示すように、石油ナフサで、露光していない感光性の第1の被覆樹脂層36の現像を行い、その後、続いて現像残りを除去するためにイソプロピルアルコール(IPA)浸漬にてリンスを行い、露光していない部分の第1の被覆樹脂層36を除去し、ノズル35及びインク供給口40とを形成する。なお、ノズル35は、約直径15μmである。また、このときインク流路パターン41は、石油ナフサに溶解しないため、ほとんど溶解されず残存するようになる。
【0104】
さらに、第1の基板33上には複数の同一または異なる形状の第1の被覆樹脂層36が一括して作りこまれるため、この段階で、図12に示すように、ダイサー44、例えばディスコ社製のDAD−561等によりそれぞれ切断する。なお、ここでは、前述の通り、インク流路パターン41が残存しているため、第1の基板33の切断時に発生するゴミが個別流路34内に侵入することを防止できる。
【0105】
次に、切断したものをチップトレー等にセットし、ポジ型レジストを溶解させることが可能な、例えば極性を有する溶剤としてプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート溶液を用い、このプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート溶液中に超音波を付与しつつ浸漬し、図13に示すように、残存しているインク流路パターン41を溶出する。
【0106】
次に、150℃で1時間程度、ポストキュアのための加熱を行い、感光性の第1の被覆樹脂層36を完全に硬化させる。
【0107】
次に、図1に示すように、インク供給部材32の凹部32aの一方の側に第1の被覆樹脂層36が積層された第1の基板33を接着し、他方の側に第2の被覆樹脂層38が積層された第2の基板37を接着し、さらに第1の被覆樹脂層36の吐出面36a及び第2の被覆樹脂層38にインク供給部材32の吐出面36a側を閉塞する天板39を接着し、インクジェット記録ヘッド23を作製することができる。
【0108】
このインクジェット記録ヘッド23の吐出面36aを保護するためのヘッドキャップ24は、インクiを吐出せず、印刷をしない間、インクジェット記録ヘッド23の吐出面36aを閉塞し、ノズル35を乾燥等から保護している。印刷を行う際には、ヘッドキャップ24は、ヘッドカーリッジ2の底面から移動する際に、吐出面36aに付着している余分なインクiをクリーニングローラ24aで抜き取り、吐出面36aをクリーニングする。
【0109】
インクジェット記録ヘッド23では、吐出面36aをクリーニングローラ24aでクリーニングした際に、吐出面36aに負荷がかかっても、被覆樹脂層35が強靱性と伸びをもったオキセタン樹脂組成物により形成されているため、基板33から剥離することを防止できる。
【0110】
ヘッドカートリッジ2が装着される装置本体3には、図1に示すように、ヘッドカートリッジ装着部51にヘッドカートリッジ2が装着される。また、装置本体3には、前面下側に設けられた給紙口52に印刷される前の記録紙Pが積層して収納された給紙トレイ53が取り付けられ、前面上側に設けられた排紙口54に印刷後の記録紙Pを収納する排紙トイレ55が取り付けられている。
【0111】
装置本体3には、図14に示すように、記録紙Pを搬送する給排紙機構56及びヘッドカートリッジ2の吐出面36aに設けられたヘッドキャップ24を開閉するキャップ開閉機構57が設けられている。
【0112】
以上のような構成からプリンタ装置1は、外部に設けられた情報処理装置から入力された印刷データに基づき、給排紙機構56、ヘッドキャップ開閉機構57、インクジェット記録ヘッド23に供給する電流の供給を制御する制御回路に設けられた制御部によって制御される。
【0113】
具体的に、プリンタ装置1では、先ず、装置本体3に設けられた操作ボタン3aの操作により制御部に印刷開始の命令がされると、制御部からの制御信号により給排紙機構56、ヘッドキャップ開閉機構57が駆動して、図14に示すように、印刷が可能な状態となる。
【0114】
プリンタ装置1では、ヘッドキャップ開閉機構57により、ヘッドキャップ24をヘッドカートリッジ2に対して給紙トレイ53及び排紙トレイ55が設けられている前面側に移動する。これにより、プリンタ装置1では、インクジェット記録ヘッド23の吐出面36aに設けられたノズル35が外部に露出し、インクiが吐出できるようになる。
【0115】
また、プリンタ装置1では、給排紙機構56により、給紙トレイ53から給紙ローラ61によって記録紙Pを引き出し、互いに反対方向に回転する一対の分離ローラ62a,62bによって1枚だけ引き出された記録紙Pを反転ローラ63に搬送して搬送方向を反転させて、インクジェット記録ヘッド23の吐出面36aと対向する位置に設けた搬送ベルト64に記録紙Pを搬送する。プリンタ装置1では、搬送ベルト64に搬送させた記録紙Pをプラテン板65で所定の位置に支持し、記録紙Pを吐出面36aと対向させる。
【0116】
次に、プリンタ装置1では、インクジェット記録ヘッド23に設けられた吐出エネルギ発生素子33aに印刷データの制御信号に基づいて、吐出エネルギ発生素子33aを加熱する。プリンタ装置1では、吐出エネルギ発生素子33aを加熱することによって、図6に示すように、印刷位置に搬送された記録紙Pに対してノズル35より上述したインクiが液滴の状態にして吐出され、インクドットからなる画像や文字等が印刷される。
【0117】
そして、プリンタ装置1では、インク液滴iをノズル35より吐出すると、インクiを吐出した量と同量のインクiがカートリッジ11から接続部25を介してインクジェット記録ヘッド23に補充される。
【0118】
次に、プリンタ装置1では、印刷された記録紙Pを排紙口54方向に回転する搬送ベルト64と、搬送ベルト64と対向し、排紙口54側に設けられた排紙ローラ66とによって記録紙Pを排紙口54に送り出す。
【0119】
以上のようにしてプリンタ装置1では、記録紙Pに印刷を行う。プリンタ装置1では、インクジェット記録ヘッド23の個別流路34及びノズル35を形成している第1の被覆樹脂層36がオキセタン樹脂組成物によって形成されているため、第1の被覆樹脂層36が低応力化され、強靱性と伸びをもった信頼性の高い機械的強度が出せ、基板33から剥離したり、クラックが生じたりといった不具合が生じることを防止できる。これにより、プリンタ装置1では、個別流路34の形状が変化することを防止できるため、インクiをノズル35から同じ体積、吐出速度で所定の方向に吐出することができる。
【0120】
また、プリンタ装置1では、第1の被覆樹脂層36をオキセタン樹脂組成物により形成することによって、耐水性や耐薬品性が得られる。
【0121】
さらに、プリンタ装置1では、オキセタン樹脂組成物の他に、最適な添加剤、即ちシラン系カップリング剤等を含有することで、基板33との密着性がさらに向上し、基板33からの剥離をより防止することができる。
【0122】
これらのことから、プリンタ装置1では、高品位な印字物を得ることができ、長期に亘って高い信頼性も得られる。
【0123】
なお、上述したプリンタ装置1では、吐出エネルギ発生素子33aとして電気熱変換素子を用いたものを例に挙げて説明したが、このことに限定されず、例えばピエゾ素子といった電気機械変換素子等によってインクiを電気機械的にノズルより吐出させる電気機械変換方式であってもよい。
【0124】
また、上述では、プリンタ装置を例に挙げて説明したが、このことに限定されず、他の液体吐出装置に広く適用することが可能である。例えばファクシミリやコピー機等にも適用可能である。
【0125】
また、上述では、ライン型のプリンタ装置1を例に挙げて説明したが、このことに限定されることはなく、例えばヘッドカートリッジが記録紙Pの走行方向と略直交する方向に移動するシリアル型のプリンタ装置にも適用可能である。
【実施例】
【0126】
以下に、第1の被覆樹脂層を形成するオキセタン樹脂組成物の物性の検討及びこのオキセタン樹脂組成物を用いた第1の被覆樹脂層を有するインクジェット記録ヘッドの耐インク性及び印画品質評価を行った。
【0127】
〈オキセタン樹脂組成物の物性の検討〉
樹脂においての問題点、即ち樹脂の硬化後の内部応力について確認するため、以下の実験を行った。内部応力の確認は、樹脂の硬化前の膜厚と、硬化後の膜厚とを観測することにより行う。両者の膜厚が等しいときには、樹脂の硬化に伴う体積変化による内部応力が極めて少ないものと考えることができる。
【0128】
〈実施例1〉
実施例1では、以下の表1に示すオキセタン樹脂組成物を含有する溶液を6インチウェハにスピンコートし、ホットプレートで90℃、5minのプリベーク後に、20μmになるよう塗布し、ミラープロジェクション露光機(MPA600FA:キャノン社製)で1J/cm2露光し、ホットプレートで90℃、5minのポストベーク後、200℃1時間の硬化を行い、オキセタン樹脂組成物の硬化膜を得た。
【0129】
【表1】
【0130】
〈比較例1〉
比較例1では、以下の表2に示す脂環式エポキシ樹脂組成物を含有する溶液を用いて、実施例1と同様にして脂環式エポキシ樹脂組成物の硬化膜を得た。
【0131】
【表2】
【0132】
実施例1及び比較例1で得られたそれぞれの硬化膜について、200℃で1時間ホットプレートにて硬化後の膜厚をそれぞれ測定した。測定した結果、表1に示すオキセタン樹脂組成物が含有された硬化膜では、膜厚の減少が観測されなかったが、表2に示す脂環式エポキシ樹脂組成物が含有された硬化膜では、膜厚の減少が観測された。
【0133】
また、得られたそれぞれの硬化膜について、薄膜ストレス測定装置で測定したところ、表2に示す脂環式エポキシ樹脂組成物を含有する硬化膜よりも、表1に示すオキセタン樹脂組成物を含有する硬化膜の方が応力が格段に低下していた。
【0134】
〈インクジェット記録ヘッドの耐インク性及び印画品質評価〉
〈実施例2〉
実施例2では、次のようにして、図4に示すようなインクジェット記録ヘッド23を作製した。先ず、図7に示す吐出エネルギ発生素子33aが形成された基板33上に、溶解可能な樹脂層として例えばノボラック樹脂を主成分としたポジ型レジスト(東京応化工業株式会社製 PMER−P−LA900PM)を塗布した。そして、このポジ型レジストを110℃にて6分間ホットプレート上でプリベークした後、キヤノン製ミラープロジェクションアライナー露光機(MPA−600FA)にて個別流路34のパターン露光を行い、図8に示すように、溶解可能な樹脂層で個別流路34となる部分にインク流路パターン41を形成した。この際の露光量は、800mJ/cm2とした。
【0135】
次に、上記レジストをP−7G専用現像液(TMAH(水酸化アンモニウム溶液)3%)にてディップ現像を行い、続いて純水の流水でリンスを行った。現像後の該ポジ型レジストの膜厚は10μmであった。
【0136】
次に、図9に示すように、インク流路パターン41を溶解させない石油ナフサに、上記表1に示すオキセタン樹脂組成物を約50wt%の濃度で溶解させた溶液を作製した。この溶液をスピンコートにて、インク流路パターン41上に塗布し、表1に示すオキセタン樹脂組成物により感光性の第1の被覆樹脂層36を形成した。この第1の被覆樹脂層36は、インク流路パターン41上における膜厚が20μmであった。
【0137】
次に、図10に示すように、第1の被覆樹脂層36に対して、キヤノン製ミラープロジェクションアライナー露光機(MPA−600FA)にて、ノズル35及び供給口40を形成のためにパターン露光を行った。パターン露光を行う際は、ノズル35及びインク供給口40が形成される部分が露光されないようにパターン形成したマスク42を介して活性エネルギ線43を第1の被覆樹脂層36に照射する。なお、この際の露光量は、800mJ/cm2であり、アフターベークは65℃、60分間行った。
【0138】
次に、図11に示すように、石油ナフサで露光していない感光性の第1の被覆樹脂層36の現像を行い、その後、続いて現像残りを除去するためにIPA浸漬にてリンスを行い、露光していない部分の第1の被覆樹脂層36を除去し、ノズル35及びインク供給口40とを形成した。なお、ノズル35は、直径15μmとした。また、このときインク流路パターン41はほとんど溶解されず残存していた。
【0139】
さらに、図12に示すように、ダイサー44(ディスコ社製のDAD−561)で所定の大きさに切断した。なお、ここでは、インク流路パターン41が残存していたため、基板33の切断時に発生するゴミが個別流路34内に侵入することを防止できた。
【0140】
次に、切断したものをチップトレー等にセットし、ポジ型レジストを溶解させることが可能な例えば極性を有する溶剤としてプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート溶液中に超音波を付与しつつ浸漬し、図13に示すように、残存しているインク流路パターン41を溶出させた。
【0141】
次に、150℃で1時間、ポストキュアのための加熱を行い、感光性の第1の被覆樹脂層36を完全に硬化させた。
【0142】
次に、図4及び図5に示すように、インク供給部材32の凹部31aの一方の側に第1の被覆樹脂層36が積層された第1の基板33を接着し、他方の側に、第2の被覆樹脂層38が積層された第2の基板37を接着し、さらに第1の被覆樹脂層36の吐出面36a上及び第2の被覆樹脂層38上に天板39を接着し、インクジェット記録ヘッド23を作製した。
【0143】
〈比較例2〉
比較例2では、第1の被覆樹脂層36を表2に示す脂環式エポキシ樹脂組成物で作製し、第2の被覆樹脂層36の現像にキシレンを用い、実施例1と同様にインクジェット記録ヘッド23を作製した。
【0144】
得られた実施例2及び比較例2のインクジェット記録ヘッド23を黒インクに60℃、1週間浸漬させ、インク浸漬テストを行った。ここで、黒インクには、純水、エチレングリコール、黒色染料等で構成されたものであり、LPR−5000用のインクを用いた。
【0145】
インク浸漬テストを行った結果、第1の被覆樹脂層36を形成する材料に表1に示すオキセタン樹脂組成物を含有させた実施例2のインクジェット記録ヘッドでは、第1の基板33から第1の被覆樹脂層36が剥離する等の変化は何も見られなかった。一方、第1の被覆樹脂層36を形成する材料に表2に示す脂環式エポキシ樹脂組成物を含有させた比較例2のインクジェット記録ヘッド23では、インクへの浸漬後に第1の被覆樹脂層36の一部に硬化による応力が原因と考えられる剥がれがみられた。
【0146】
また、印画品質評価は次のようにして行った。実施例2及び比較例2のインクジェット記録ヘッド23を上述したプリンタ装置に装着し、純水/ジエチレングリコール/黒色染料=80/17.5/2.5からなるインクを用いて記録を行った。実施例2のインクジェット記録ヘッド23では、安定な印字が可能であり、得られた印字物は高品位なものであった。一方、比較例2のインクジェット記録ヘッド23では、印画品質の乱れがあった。また、比較例2のインクジェット記録ヘッド23では、長期間使用した後に、ヘッドの状況を光学顕微鏡にて観察したところ、被覆樹脂の剥がれと見られる干渉縞が見られた。
【図面の簡単な説明】
【0147】
【図1】本発明を適用したインクジェットプリンタ装置の斜視図である。
【図2】同インクジェットプリンタ装置に設けられるヘッドカートリッジの斜視図である。
【図3】同ヘッドカートリッジの断面図である。
【図4】インクジェット記録ヘッドの一部を示す斜視図である。
【図5】同インクジェット記録ヘッドの断面図である。
【図6】同インクジェット記録ヘッドを示しており、同図(A)は吐出エネルギ発生素子上に気泡が発生した状態を模式的に示す断面図であり、同図(B)はノズルよりインクを吐出される状態を模式的に示す断面図である。
【図7】吐出エネルギ発生素子が設けられた基板の断面図である。
【図8】基板上に溶解可能な樹脂でインク流路パターンを形成した状態を示す断面図である。
【図9】インク流路パターン上に第1の被覆樹脂層を形成した状態を示す断面図である。
【図10】第1の被覆樹脂層に活性エネルギ線を照射している状態を示す断面図である。
【図11】第1の被覆樹脂層をパターン形成した状態を示す断面図である。
【図12】第1の基板上にインク流路パターン及び第1の被覆樹脂層を形成したものをダイサーで切断している状態を示す断面図である。
【図13】インク流路パターンを形成して溶解可能な樹脂を溶解させた状態を示す断面図である。
【図14】インクジェットプリンタ装置の一部を透視した状態を示す側面図である。
【符号の説明】
【0148】
1 インクジェットプリンタ装置、2 ヘッドカートリッジ、3 装置本体、11 インクカートリッジ、21 カートリッジ本体、22 装着部、23 インクジェット記録ヘッド、24 ヘッドキャップ、31 共通流路、32 インク供給部材。33 第1の基板、33a 吐出エネルギ発生素子、34 個別流路、35 ノズル、36 第1の被覆樹脂層、36a 吐出面、37 第2の基板、38 第2の被覆樹脂層、39 天板、40 供給口、41 インク流路パターン、42 マスク、43 活性エネルギ線、44 ダイサー
【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体を吐出する液体吐出型記録ヘッドにおいて、
液体吐出エネルギ発生素子が形成されると共に液体を供給する流路の一部を構成する基板と、
上記基板上に形成され、上記流路の一部を構成すると共に上記液体を吐出する液体吐出口を有する被覆樹脂層とを有し、
上記被覆樹脂層は、分子中に少なくとも1個のオキセタニル基を有するオキセタン化合物と光カチオン重合開始剤とを必須成分とするオキセタン樹脂組成物により形成されている液体吐出型記録ヘッド。
【請求項2】
上記オキセタン化合物は、分子内に芳香環を含むものである請求項1記載の液体吐出型記録ヘッド。
【請求項3】
上記オキセタン化合物の骨格がノボラック型である請求項2記載の液体吐出型記録ヘッド。
【請求項4】
上記オキセタン化合物の数平均核体数が3〜10である請求項3記載の液体吐出型記録ヘッド。
【請求項5】
上記被覆樹脂層には、カップリング剤が含有されている請求項1記載の液体吐出型記録ヘッド。
【請求項6】
上記カップリング剤は、シラン系カップリング剤である請求項5記載の液体吐出型記録ヘッド。
【請求項7】
上記シラン系カップリング剤の含有量は、0.1wt%以上、1wt%未満である請求項6記載の液体吐出型記録ヘッド。
【請求項8】
液体を吐出する液体吐出型記録ヘッドにおいて、
液体を供給する共通流路の一部を構成する凹部を有する液体供給部材と、
上記液体供給部材の凹部の一方の側に接着され、端面が上記共通流路の一部を構成し、表面に液体吐出エネルギ発生素子が形成された第1の基板と、
上記第1の基板上に形成され、上記共通流路から供給された液体を上記液体吐出エネルギ発生素子の周囲に供給する個別流路と上記液体を吐出する液体吐出口とを有する第1の被覆樹脂層と、
上記液体供給部材の凹部の他方の側に接着され、端面が上記共通流路の一部を構成する第2の基板と、
上記第2の基板上に形成される第2の被覆樹脂層と、
上記第1の被覆樹脂層上及び第2の被覆樹脂層上に設けられ、上記共通流路の吐出面側を閉塞する天板とを有し、
上記第1の被覆樹脂層は、分子中に少なくとも1個のオキセタニル基を有するオキセタン化合物と光カチオン重合開始剤を必須成分とするオキセタン樹脂組成物により形成されている液体吐出型記録ヘッド。
【請求項9】
上記オキセタン化合物は、分子内に芳香環を含むものである請求項8記載の記載の液体吐出型記録ヘッド。
【請求項10】
上記オキセタン化合物の骨格がノボラック型である請求項9記載の液体吐出型記録ヘッド。
【請求項11】
上記オキセタン化合物の数平均核体数が3〜10である請求項10記載の液体吐出型記録ヘッド。
【請求項12】
上記第1の被覆樹脂層には、カップリング剤が含有されている請求項8記載の液体吐出型記録ヘッド。
【請求項13】
上記カップリング剤は、シラン系カップリング剤である請求項12記載の液体吐出型記録ヘッド。
【請求項14】
上記シラン系カップリング剤の含有量は、0.1wt%以上、1wt%未満である請求項13記載の液体吐出型記録ヘッド。
【請求項15】
液体を吐出する液体吐出型記録ヘッドを有する液体吐出装置において、
上記液体吐出型記録ヘッドは、液体吐出エネルギ発生素子が形成されると共に液体を供給する流路の一部を構成する基板と、
上記基板上に形成され、上記流路の一部を構成すると共に上記液体を吐出する液体吐出口を有する被覆樹脂層とを有し、
上記被覆樹脂層は、分子中に少なくとも1個のオキセタニル基を有するオキセタン化合物と光カチオン重合開始剤とを必須成分とするオキセタン樹脂組成物により形成されている液体吐出装置。
【請求項16】
上記オキセタン化合物は、分子内に芳香環を含むものである請求項15記載の液体吐出装置。
【請求項17】
上記オキセタン化合物の骨格がノボラック型である請求項16記載の液体吐出装置。
【請求項18】
上記オキセタン化合物の数平均核体数が3〜10である請求項17記載の液体吐出装置。
【請求項19】
上記被覆樹脂層には、カップリング剤が含有されている請求項15記載の液体吐出装置。
【請求項20】
上記カップリング剤は、シラン系カップリング剤である請求項19記載の液体吐出装置。
【請求項21】
上記シラン系カップリング剤の含有量は、0.1wt%以上、1wt%未満である請求項20記載の液体吐出装置。
【請求項22】
液体を吐出する液体吐出型記録ヘッドを有する液体吐出装置において、
上記液体吐出型記録ヘッドは、液体を供給する共通流路の一部を構成する凹部を有する液体供給部材と、上記液体供給部材の凹部の一方の側に接着され、端面が上記共通流路の一部を構成し、表面に液体吐出エネルギ発生素子が形成された第1の基板と、上記第1の基板上に形成され、上記共通流路から供給された液体を上記液体吐出エネルギ発生素子の周囲に供給する個別流路と上記液体を吐出する液体吐出口とを有する第1の被覆樹脂層と、上記液体供給部材の凹部の他方の側に接着され、端面が上記共通流路の一部を構成する第2の基板と、上記第2の基板上に形成される第2の被覆樹脂層と、上記第1の被覆樹脂層上及び第2の被覆樹脂層上に設けられ、上記共通流路の吐出面側を閉塞する天板とを有し、
上記第1の被覆樹脂層は、分子中に少なくとも1個のオキセタニル基を有するオキセタン化合物と光カチオン重合開始剤を必須成分とするオキセタン樹脂組成物により形成されている液体吐出装置。
【請求項23】
上記オキセタン化合物は、分子内に芳香環を含むものである請求項22記載の液体吐出装置。
【請求項24】
上記オキセタン化合物の骨格がノボラック型である請求項23記載の液体吐出装置。
【請求項25】
上記オキセタン化合物の数平均核体数が3〜10である請求項24記載の液体吐出装置。
【請求項26】
上記第1の被覆樹脂層には、カップリング剤が含有されている請求項22記載の液体吐出装置。
【請求項27】
上記カップリング剤は、シラン系カップリング剤である請求項26記載の液体吐出装置。
【請求項28】
上記シラン系カップリング剤の含有量は、0.1wt%以上、1wt%未満である請求項27記載の液体吐出装置。
【請求項1】
液体を吐出する液体吐出型記録ヘッドにおいて、
液体吐出エネルギ発生素子が形成されると共に液体を供給する流路の一部を構成する基板と、
上記基板上に形成され、上記流路の一部を構成すると共に上記液体を吐出する液体吐出口を有する被覆樹脂層とを有し、
上記被覆樹脂層は、分子中に少なくとも1個のオキセタニル基を有するオキセタン化合物と光カチオン重合開始剤とを必須成分とするオキセタン樹脂組成物により形成されている液体吐出型記録ヘッド。
【請求項2】
上記オキセタン化合物は、分子内に芳香環を含むものである請求項1記載の液体吐出型記録ヘッド。
【請求項3】
上記オキセタン化合物の骨格がノボラック型である請求項2記載の液体吐出型記録ヘッド。
【請求項4】
上記オキセタン化合物の数平均核体数が3〜10である請求項3記載の液体吐出型記録ヘッド。
【請求項5】
上記被覆樹脂層には、カップリング剤が含有されている請求項1記載の液体吐出型記録ヘッド。
【請求項6】
上記カップリング剤は、シラン系カップリング剤である請求項5記載の液体吐出型記録ヘッド。
【請求項7】
上記シラン系カップリング剤の含有量は、0.1wt%以上、1wt%未満である請求項6記載の液体吐出型記録ヘッド。
【請求項8】
液体を吐出する液体吐出型記録ヘッドにおいて、
液体を供給する共通流路の一部を構成する凹部を有する液体供給部材と、
上記液体供給部材の凹部の一方の側に接着され、端面が上記共通流路の一部を構成し、表面に液体吐出エネルギ発生素子が形成された第1の基板と、
上記第1の基板上に形成され、上記共通流路から供給された液体を上記液体吐出エネルギ発生素子の周囲に供給する個別流路と上記液体を吐出する液体吐出口とを有する第1の被覆樹脂層と、
上記液体供給部材の凹部の他方の側に接着され、端面が上記共通流路の一部を構成する第2の基板と、
上記第2の基板上に形成される第2の被覆樹脂層と、
上記第1の被覆樹脂層上及び第2の被覆樹脂層上に設けられ、上記共通流路の吐出面側を閉塞する天板とを有し、
上記第1の被覆樹脂層は、分子中に少なくとも1個のオキセタニル基を有するオキセタン化合物と光カチオン重合開始剤を必須成分とするオキセタン樹脂組成物により形成されている液体吐出型記録ヘッド。
【請求項9】
上記オキセタン化合物は、分子内に芳香環を含むものである請求項8記載の記載の液体吐出型記録ヘッド。
【請求項10】
上記オキセタン化合物の骨格がノボラック型である請求項9記載の液体吐出型記録ヘッド。
【請求項11】
上記オキセタン化合物の数平均核体数が3〜10である請求項10記載の液体吐出型記録ヘッド。
【請求項12】
上記第1の被覆樹脂層には、カップリング剤が含有されている請求項8記載の液体吐出型記録ヘッド。
【請求項13】
上記カップリング剤は、シラン系カップリング剤である請求項12記載の液体吐出型記録ヘッド。
【請求項14】
上記シラン系カップリング剤の含有量は、0.1wt%以上、1wt%未満である請求項13記載の液体吐出型記録ヘッド。
【請求項15】
液体を吐出する液体吐出型記録ヘッドを有する液体吐出装置において、
上記液体吐出型記録ヘッドは、液体吐出エネルギ発生素子が形成されると共に液体を供給する流路の一部を構成する基板と、
上記基板上に形成され、上記流路の一部を構成すると共に上記液体を吐出する液体吐出口を有する被覆樹脂層とを有し、
上記被覆樹脂層は、分子中に少なくとも1個のオキセタニル基を有するオキセタン化合物と光カチオン重合開始剤とを必須成分とするオキセタン樹脂組成物により形成されている液体吐出装置。
【請求項16】
上記オキセタン化合物は、分子内に芳香環を含むものである請求項15記載の液体吐出装置。
【請求項17】
上記オキセタン化合物の骨格がノボラック型である請求項16記載の液体吐出装置。
【請求項18】
上記オキセタン化合物の数平均核体数が3〜10である請求項17記載の液体吐出装置。
【請求項19】
上記被覆樹脂層には、カップリング剤が含有されている請求項15記載の液体吐出装置。
【請求項20】
上記カップリング剤は、シラン系カップリング剤である請求項19記載の液体吐出装置。
【請求項21】
上記シラン系カップリング剤の含有量は、0.1wt%以上、1wt%未満である請求項20記載の液体吐出装置。
【請求項22】
液体を吐出する液体吐出型記録ヘッドを有する液体吐出装置において、
上記液体吐出型記録ヘッドは、液体を供給する共通流路の一部を構成する凹部を有する液体供給部材と、上記液体供給部材の凹部の一方の側に接着され、端面が上記共通流路の一部を構成し、表面に液体吐出エネルギ発生素子が形成された第1の基板と、上記第1の基板上に形成され、上記共通流路から供給された液体を上記液体吐出エネルギ発生素子の周囲に供給する個別流路と上記液体を吐出する液体吐出口とを有する第1の被覆樹脂層と、上記液体供給部材の凹部の他方の側に接着され、端面が上記共通流路の一部を構成する第2の基板と、上記第2の基板上に形成される第2の被覆樹脂層と、上記第1の被覆樹脂層上及び第2の被覆樹脂層上に設けられ、上記共通流路の吐出面側を閉塞する天板とを有し、
上記第1の被覆樹脂層は、分子中に少なくとも1個のオキセタニル基を有するオキセタン化合物と光カチオン重合開始剤を必須成分とするオキセタン樹脂組成物により形成されている液体吐出装置。
【請求項23】
上記オキセタン化合物は、分子内に芳香環を含むものである請求項22記載の液体吐出装置。
【請求項24】
上記オキセタン化合物の骨格がノボラック型である請求項23記載の液体吐出装置。
【請求項25】
上記オキセタン化合物の数平均核体数が3〜10である請求項24記載の液体吐出装置。
【請求項26】
上記第1の被覆樹脂層には、カップリング剤が含有されている請求項22記載の液体吐出装置。
【請求項27】
上記カップリング剤は、シラン系カップリング剤である請求項26記載の液体吐出装置。
【請求項28】
上記シラン系カップリング剤の含有量は、0.1wt%以上、1wt%未満である請求項27記載の液体吐出装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【公開番号】特開2007−44928(P2007−44928A)
【公開日】平成19年2月22日(2007.2.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−229902(P2005−229902)
【出願日】平成17年8月8日(2005.8.8)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成19年2月22日(2007.2.22)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年8月8日(2005.8.8)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】
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