説明

液体吐出装置及び液体吐出方法

【課題】バッテリーの残量が低下したときの電圧低下が抑制され、バッテリーの消耗により残量がある程度低下したときにも、好ましい液体吐出状態が維持される、液体吐出装置及び液体吐出方法を提供する。
【解決手段】ヘッド駆動部へ電力を供給するバッテリーから吐出素子へ供給される電圧を検出する電圧検出部と、検出電圧が所定の基準電圧以上の場合は第1のクロック信号100に基づいて決められた同一のタイミングで複数のインクジェットヘッドの駆動を開始させ、検出電圧が所定の基準電圧未満の場合は複数のインクジェットヘッドごとに生成された第2のクロック信号102〜108に基づいて決められたそれぞれのタイミングで複数のインクジェットヘッドの駆動を開始させるので、複数のインクジェットヘッドの駆動開始が重複せずに、電力消費の集中によるバッテリーの出力電圧の低下が回避される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は液体吐出装置及び液体吐出方法に係り、特に電源としてバッテリー(電池)が用いられるインクジェット記録装置に具備されるインクジェットヘッドの駆動技術に関する。
【背景技術】
【0002】
汎用の画像形成装置として、インクジェット記録装置が知られている。インクジェット記録装置は、インクジェットヘッドに設けられて多数のノズルからインク液滴を吐出させて、記録媒体上の所望のカラー画像を形成しうる。
【0003】
インクジェットヘッドからインク液滴を吐出させる方式として、圧電素子などの電気機械変換素子を用いてインクが収容されている圧力室を加圧し、圧力室と連通されるノズルから圧力室の体積変化に対応する体積を有するインク液滴を吐出させる圧電方式や、圧力室内に収容されているインクを加熱して、膜沸騰現象を利用して圧力室と連通されるノズルから圧力室の体積と略同一の体積を有するインク液滴を吐出させるサーマル方式が挙げられる。
【0004】
一般に、カラー画像を形成するインクジェット記録装置は、K(黒)、C(シアン)、M(マゼンタ)、Y(イエロー)の4色インクのそれぞれに対応するインクジェットヘッドが備えられ、各インクジェットヘッドが共通の吐出タイミングで駆動されて、各色のインクが吐出されるように構成されている。
【0005】
高速の画像形成を実現するために、各インクジェットヘッドに具備されるノズル数は増加する傾向にある。そうすると、同時に動作するノズル数が増加し、インクジェットヘッド全体として消費電力が増加し、インクジェットヘッドの駆動電力を供給するためのバッテリーの消耗が進み、寿命が極めて短くなってしまう。
【0006】
特許文献1に記載された時分割駆動装置は、複数の印字素子を複数のブロックに区分し、各ブロック内の印字素子が同時に駆動される構成において、印字ヘッド近傍の温度情報と、駆動パルスのデューティ比に基づいて、3ブロック同時駆動、2ブロック同時駆動、ブロックごとに駆動を切り換える構成が開示されている。
【0007】
かかる構成によって、最大消費電流をより小さく抑えることで電池寿命の長期化を図るとともに、瞬間的に流れる最大電流が電池の許容範囲を超えることによる電圧低下に起因する画像品質の劣化の防止が図られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2000−263774号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、バッテリーの残量が低下していくに従い、該バッテリーの出力電圧が低下してしまい、インクジェットヘッドの吐出状態に影響を与えてしまう。特に、圧電素子などの容量性負荷を駆動する場合の容量性負荷の充電時に発生する突入電流は、バッテリーの出力電圧を著しく低下させてしまう。
【0010】
特許文献1に記載された時分割駆動装置は、印字ヘッドの温度(発熱量)、動作ディユーティなどに基づく演算により駆動波形が生成されるため、印字モードが設定されるたびに、印字ヘッドの温度(発熱量)、動作ディユーティなどに基づいて駆動波形を生成するための複雑な演算を行う必要がある。
【0011】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたもので、バッテリーの残量が低下したときの電圧低下が抑制され、バッテリーの消耗により残量がある程度低下したときにも、好ましい液体吐出状態が維持される、液体吐出装置及び液体吐出方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するために、本発明に係る液体吐出装置は、液滴を吐出させる複数のインクジェットヘッドと、前記複数のインクジェットヘッドのそれぞれに具備される吐出素子を略同一のタイミングで動作を開始させる動作開始タイミングを規定する第1のクロック信号を生成するとともに、前記複数のインクジェットヘッドに具備される吐出素子をインクジェットヘッドごとに別々のタイミングで動作を開始させる動作開始タイミングを規定する第2のクロック信号を生成するクロック信号生成部と、前記第1のクロック信号又は前記第2のクロック信号に基づいて決められたタイミングで前記吐出素子へ駆動電圧を供給する駆動電圧供給部と、前記駆動電圧供給部へ電力を供給するバッテリーと、前記バッテリーから前記吐出素子へ供給される電圧を検出する電圧検出部と、前記電圧検出部により検出された電圧が所定の基準電圧以上の場合は、前記第1のクロック信号に基づいて決められた同一のタイミングで前記複数のインクジェットヘッドの駆動を開始させ、前記電圧検出部により検出された電圧が所定の基準電圧未満の場合は、前記第2のクロック信号に基づいて決められたそれぞれのタイミングで前記複数のインクジェットヘッドの駆動を開始させるように前記駆動電圧供給部を制御する駆動制御部と、を備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、バッテリーから供給されるインクジェットヘッドを駆動させるための電源電圧が所定の基準値未満になると、複数のインクジェットヘッドを同一タイミングで駆動開始させる第1のクロック信号から、複数のインクジェットヘッドを互いに別々のタイミングで駆動開始させる第2のクロック信号に切り換えられるので、複数のインクジェットヘッドの駆動開始タイミングが重なることによるインクジェットヘッドを駆動するための電源電圧の低下が抑制され、該電源電圧の低下に起因する吐出状態の変動を回避することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の実施形態に係るインクジェット記録装置の概略構成を示す構成図
【図2】図1に示すインクジェットヘッドのノズル配置を示す平面図
【図3】図1に示すインクジェットヘッドに具備される吐出素子の立体構造を示す断面図
【図4】図1に示すインクジェット記録装置の制御系の概略構成を示すブロック図
【図5】図4に示すヘッド駆動部の構成例を示すブロック図
【図6】図1に示すインクジェットヘッドの駆動制御(クロック信号)の説明図
【図7】図1に示すインクジェットヘッドの駆動制御の流れを示すフローチャート
【図8】本発明の応用例に係るインクジェットヘッドの駆動制御(クロック信号)の説明図
【図9】図4に示すヘッド駆動部の他の構成例を示すブロック図
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、添付図面に従って本発明の好ましい実施の形態について詳説する。
【0016】
〔インクジェット記録装置の全体構成〕
図1は、本発明の実施形態に係るインクジェット記録装置(液体吐出装置)の概略構成を示す構成図である。同図に示すインクジェット記録装置10は、バッテリー(電池)が搭載され、該バッテリーから供給される電力により動作するバッテリー駆動型のインクジェット記録装置である。
【0017】
同図に示すインクジェット記録装置10は、主走査方向(符号Mを付した両矢印線により図示)沿って配設される搬送ガイド12に支持されるキャリッジ14に搭載されたインクジェットヘッド16K,16Y、16M,16Cから、K(黒)、Y(イエロー)、M(マゼンタ)、C(シアン)の各色インクを吐出させて、記録媒体18上にカラー画像を形成する。
【0018】
すなわち、図1に示すインクジェット記録装置10は、主走査方向に沿ってインクジェットヘッド16K,16Y、16M,16Cを走査させながら、同方向についてインクジェットヘッド16K,16Y、16M,16Cが通過する領域の画像形成を行い、同方向への一回の走査が終わると、記録媒体18を副走査方向(符号Sを付した矢印線により図示)に所定量移動させて、次の領域について主走査方向への画像形成を行い、この動作を繰り返しながら記録媒体18の画像形成領域の全域に画像を形成する、シリアル方式が適用される。
【0019】
図1に示す態様では、KYMCの各色に対応するインクジェットヘッド16K,16Y、16M,16Cが、主走査方向についてこの順番で並べられているが、インクジェットヘッド16K,16Y、16M,16Cの並び順は、適宜変更可能である。
【0020】
また、LC(ライトシアン)、LM(ライトマゼンタ)に対応するインクジェットヘッドや、透明インク、白インクに対応するインクジェットヘッドを備える態様も可能である。以下の説明では、インクジェットヘッド16K,16Y、16M,16Cを総称して「インクジェットヘッド16」と記載することがある。
【0021】
図2(a),(b)は、インクジェットヘッド16のノズル配置を示す平面図である。なお、図2(a),(b)では、複数のノズル20のうち、一部のノズルの図示が省略されている。
【0022】
図2(a)に示すインクジェットヘッド16は、副走査方向に沿って複数のノズル20が等間隔に一列に並べられた構造を有している。本例に示すインクジェットヘッド16のノズル20の配置ピッチは、25.4mm(100dpi相当)であり、一つのインクジェットヘッド16に具備されるノズル数は48ノズルである。もちろん、ノズル20の配置ピッチ、一つのインクジェットヘッド16あたりのノズル数を変更することが可能である。
【0023】
図2(b)に示すインクジェットヘッド16’のように、複数のノズル20を千鳥状に配置することで、副走査方向における実質的なノズル配置ピッチが高密度化された形態も可能である。また、図示は省略するが、ノズル20を二次元状にマトリクス配置する形態も可能である。
【0024】
図3は、インクジェットヘッド16に具備される1チャンネル分の吐出素子(1つのノズル20に対応したインク室ユニット)の立体構造を示す断面図である。同図に示す吐出素子22は、各ノズル20のそれぞれと連通する圧力室23の天井面に圧電素子24が配設された構造を有している。
【0025】
圧電素子24は、上部(個別)電極24Aと下部(共通)電極24Bとの間に圧電体24Cがはさまれた構造を有し、上部電極24Aと下部電極24Bとの間に所定の駆動電圧(駆動波形)が印加されるとたわみ変形が生じる。圧電素子24のたわみ変形によって圧力室23が変形して、圧力室23内のインクが加圧される。
【0026】
このように、圧電素子24のたわみ変形によって圧力室23内のインクが加圧されると、圧力室23体積減少分に相当する体積を有する液滴化されたインクがノズル20から吐出される。
【0027】
ノズル20からインクが吐出された後に、圧電素子24がたわみ変形状態からが静定状態に戻されると圧力室23の変形が元に戻り、供給口25を介して共通流路26から新たなインクが圧力室23内へ充填される。
【0028】
本例では、圧電素子24のたわみ変形により圧力室23内のインクを加圧して、ノズル20からインク液滴を吐出させる圧電方式を例示したが、圧力室23内のインクを加熱して膜沸騰現象を利用してノズル20からインク液滴を吐出させるサーマル方式を適用することも可能である。
【0029】
図4は、図1に示すインクジェット記録装置10の制御系の概略構成を示すブロック図である。図4に示すように、インクジェット記録装置10は、通信インターフェース30、システム制御部32、搬送制御部34、画像処理部36、ヘッド駆動部38を備えるとともに、画像メモリ40、ROM42を備えている。
【0030】
通信インターフェース30は、ホストコンピュータ44から送られてくる画像データを受信するインターフェース部である。通信インターフェース30は、USB(Universal Serial Bus)などのシリアルインターフェースを適用してもよいし、セントロニクスなどのパラレルインターフェースを適用してもよい。通信インターフェース30は、通信を高速化するためのバッファメモリ(不図示)を搭載してもよい。
【0031】
システム制御部32は、中央演算処理装置(CPU)及びその周辺回路等から構成され、所定のプログラムに従ってインクジェット記録装置10の全体を制御する制御装置として機能するとともに、各種演算を行う演算装置として機能し、さらに、画像メモリ40及びROM42のメモリコントローラとして機能する。
【0032】
すなわち、システム制御部32は、通信インターフェース30、搬送制御部34等の各部を制御し、ホストコンピュータ44との間の通信制御、画像メモリ40及びROM42の読み書き制御等を行うとともに、上記の各部を制御する制御信号を生成する。
【0033】
ホストコンピュータ44から送出された画像データは通信インターフェース30を介してインクジェット記録装置10に取り込まれ、画像処理部36によって所定の画像処理が施される。画像処理部36は、画像データから印字制御用の信号を生成するための各種加工、補正などの処理を行う信号(画像)処理機能を有し、生成した印刷データ(ドットデータ)をヘッド駆動部38に供給する制御部である。
【0034】
ドットデータは、一般に、多階調の画像データに対して色変換処理、ハーフトーン処理を行って生成される。色変換処理は、sRGBなどで表現された画像データ(例えば、RGB各色について8ビットの画像データ)をインクジェット記録装置10で使用するインク各色の色(KYMC)データに変換する処理である。
【0035】
ハーフトーン処理は、色変換処理により生成された各色の色データに対して、誤差拡散法や閾値マトリクス等の処理で各色のドットデータに変換する処理である。ハーフトーン処理の手段としては、誤差拡散法、ディザ法、閾値マトリクス法、濃度パターン法など、各種公知の手段を適用できる。
【0036】
ハーフトーン処理は、一般にM値(M≧3)の階調画像データをN値(N<M)の階調画像データに変換する。最も簡単な例では、2値(ドットのオンオフ)のドット画像データに変換するが、ハーフトーン処理において、ドットサイズの種類(例えば、大ドット、中ドット、小ドットなどの3種類)に対応した多値の量子化を行うことも可能である。
【0037】
こうして得られた2値又は多値の画像データ(ドットデータ)は、各ノズルの駆動(オン)/非駆動(オフ)、さらに、多値の場合には液滴量(ドットサイズ)を制御するインク吐出データ(吐出制御データ)として利用される。
【0038】
画像処理部36において所要の信号処理が施されると、該印刷データ(ドットデータ)に基づいて、ヘッド駆動部38を介してインクジェットヘッド16の吐出液滴量(打滴量)や吐出タイミングの制御が行われる。これにより、所望のドットサイズやドット配置が実現される。
【0039】
なお、図4に示すヘッド駆動部38には、インクジェットヘッド16の駆動条件を一定に保つためのフィードバック制御系を含んでいてもよい。
【0040】
搬送制御部34は、画像処理部36により生成された印刷データに基づいて、インクジェットヘッド16K,16Y、16M,16Cが搭載されているキャリッジ14(図1参照)の走査を制御するとともに、記録媒体18(図1参照)の搬送タイミング及び搬送速度を制御する。
【0041】
図4における搬送駆動部46は、キャリッジ14の移動機構に取り付けられるモータや、記録媒体18を搬送する搬送機構に取り付けられるモータが含まれており、搬送制御部34はこれらのモータのドライバーとして機能している。
【0042】
画像メモリ(一時記憶メモリ)40は、通信インターフェース30を介して入力された画像データを一旦格納する一時記憶手段としての機能や、ROM42に記憶されている各種プログラムの展開領域及びCPUの演算作業領域(例えば、画像処理部36の作業領域)としての機能を有している。画像メモリ40には、逐次読み書きが可能な揮発性メモリ(RAM)が用いられる。
【0043】
ROM42は、システム制御部32のCPUが実行するプログラムや、装置各部の制御に必要な各種データ、制御パラメータなどが格納されており、システム制御部32を通じてデータの読み書きが行われる。ROM42は、半導体素子からなるメモリに限らず、ハードディスクなど磁気媒体を用いてもよい。また、外部インターフェースを備え、着脱可能な記憶媒体を用いてもよい。
【0044】
ヘッド駆動部38は、バッテリー48から供給された電力を駆動電圧(駆動波形)としてインクジェットヘッド16に具備される吐出素子22(図3参照)へ供給するブロックである。すなわち、画像データに応じて生成(選択)された駆動波形は、電圧増幅処理及び電流増幅処理が施されて、吐出素子22を駆動することができる電圧(電力)を有する駆動電圧に変換される。
【0045】
この駆動電圧は、後述するクロック信号によって規定される駆動タイミングに同期して、吐出素子22(圧電素子24、図3参照)に印加される。吐出素子22は所定の駆動タイミングで駆動電圧に応じた吐出動作を開始する。
【0046】
バッテリー48は、一次電池を適用してもよいし、充電可能な二次電池を適用してもよい。一次電池の例として、マンガン乾電池、アルカリ乾電池などが挙げられる。また、二次電池の例として、ニッケルカドミウム電池、ニッケル水素電池、リチウムイオン電池などが挙げられる。
【0047】
バッテリー48の出力電圧は、圧電素子24の絶対最大定格電圧を超えない範囲とされる。例えば、12V、24V、48Vなどが挙げられる。
【0048】
電圧検出部50は、バッテリー48の出力電圧(吐出素子22に印加される電源電圧)を検出し、検出結果をシステム制御部32へ送出する。システム制御部32は、検出電圧が所定の基準値未満となっているか否かを判断する。
【0049】
すなわち、バッテリー48の出力電圧に基づいてバッテリー48の残量が把握され、バッテリー残量が所定の基準を下回った場合には、インクジェットヘッド16の駆動タイミング(インク吐出タイミング)を規定しているクロック信号が生成(変更)される。
【0050】
クロック信号生成部52は、インクジェットヘッド16K,16Y、16M,16Cの駆動タイミングを規定しているクロック信号を生成する。クロック信号生成部52は、インクジェットヘッド16K,16Y、16M,16Cを同一のタイミングで吐出動作させる第1のクロック信号(図6(a)に符号100を付して図示)を生成するとともに、インクジェットヘッド16K,16Y、16M,16Cをそれぞれ個別のタイミングで吐出動作させる第2のクロック信号(図6(b)〜(e)に符号102〜108を付して図示)を生成する。
【0051】
図4に示すクロック信号生成部52の構成例として、数MHzの周波数を有する基準クロック信号を発生させる発振部と、基準クロック信号を分周して所定の周波数を有するクロック信号を生成する分周部と、該クロック信号に対して波形整形処理を施す波形整形部と、を含む形態が挙げられる。
【0052】
また、クロック信号生成部52は、負荷側の入力インピーダンスとの整合を取るインピーダンス整合部や、ノイズを除去するためのノイズ除去部(例えば、バイパスコンデンサ)を具備する形態も好ましい。
【0053】
図5は、図4に示すヘッド駆動部38の概略構成及び、ヘッド駆動部38の周辺の構成を示すブロック図である。図5に示すヘッド駆動部38は、K(黒)に対応するKヘッド16Kを駆動するKヘッド駆動部38Kと、Y(イエロー)に対応するYヘッド16Yを駆動するYヘッド駆動部38Yと、M(マゼンタ)ヘッド16Mに対応するMヘッド駆動部38Mと、C(シアン)ヘッド16Cを駆動するCヘッド駆動部38Cと、を具備している。
【0054】
なお、Kヘッド駆動部38K、Yヘッド駆動部38Y、Mヘッド駆動部38M、及びCヘッド駆動部38Cは同一の構成を有しているので、ここでは、Kヘッド駆動部38Kについて説明し、他のヘッド駆動部の説明は省略する。
【0055】
Kヘッド駆動部38Kは、シリアル形式のデジタル画像データを受信するデジタル画像受信部60(図4の通信インターフェース30に相当する構成)を介して取得された画像データを所定のクロック信号に基づいてラッチする遅延(ラッチ)回路62Kと、ラッチされたデジタル形式の画像データをアナログ形式に変換するD/A変換部64Kと、アナログ形式に変換された画像データからアナログ波形(駆動波形)を生成するアナログ波形生成部66Kと、アナログ波形生成部66Kによって生成された駆動波形を増幅する増幅部(ヘッドドライバー)68Kと、を備えて構成されている。
【0056】
なお、Yヘッド駆動部38Y、Mヘッド駆動部38M、及びCヘッド駆動部38Cを構成する各部には、Kヘッド駆動部38Kと同じ数字に色を表すアルファベットを付加した符号を付して図示する。
【0057】
図5に示すヘッド駆動部38は、クロック信号生成部52によって生成されたクロック信号によって、シリアル形式のデジタル画像データがラッチされるように構成されている。このクロック信号は各インクジェットヘッド16K,16Y、16M,16Cの吐出タイミングを規定しており、クロック信号に同期して各インクジェットヘッド16K,16Y、16M,16Cの吐出動作が開始される。
【0058】
すなわち、クロック信号生成部52によって生成されたラッチ信号によってデジタル画像データがラッチされ、ラッチされたデジタル画像データはアナログデータに変換され、アナログ波形(駆動波形)が生成される。
【0059】
なお、予めいくつかのアナログ波形を生成して記憶しておき、画像データに基づいてアナログ波形を読み出すように構成してもよい。アナログ波形を予め生成してアナログ波形記憶部(駆動波形記憶部)に記憶しておく態様では、異なる吐出量(例えば、大ドット、中ドット、小ドット)に対応した複数のアナログ波形を準備しておくことが考えられる。
【0060】
〔インクジェットヘッドの駆動方法(クロック信号)の説明〕
次に、本例に示すインクジェット記録装置10におけるインクジェットヘッドの駆動方法(クロック信号の生成、クロック信号の選択的な切換)について説明する。
【0061】
図6(a)は、通常動作時に適用されるクロック信号100(第1のクロック信号)を示す図であり、図6(b)〜(e)は、バッテリー48(図4参照)残量が所定の基準を下回ったときに適用されるクロック信号102,104,106、108(第2のクロック信号)を示す図である。
【0062】
先に述べたように、図6(a)に示すクロック信号100は、通常の画像形成(通常印刷)に適用されるものである。通常印刷とは、本装置の電源として機能するバッテリー48(図4参照)の出力電圧が所定の基準値以上の場合に実行される印刷であり、かかる通常印刷時において、インクジェットヘッド16K,16Y、16M,16Cは、所定の吐出周期(例えば、数十マイクロ秒から数百マイクロ秒)による同一のタイミングで吐出が行われる。
【0063】
図6(f)に、通常印刷時における駆動波形110を図示する。図6(f)に図示された駆動波形110は、圧電素子24(図3参照)を引き押し動作させる波形であり、クロック信号100の立ち上がりエッジに同期して圧電素子を引き動作させた後に押し動作させ、押し動作中にノズル20(図3参照)からインク液滴が吐出される。
【0064】
図6(b)〜(e)に示すクロック信号102,104,106、108は、互いに立ち上がりエッジ及び立ち下がりエッジが一致しないように位相がずらされており、図6(a)に示すクロック信号100の4倍の周期を有している。
【0065】
すなわち、図6(b)に図示されたクロック信号102は、図6(a)に図示されたクロック信号100の一番左の波形要素、左から5番目の波形要素、左から9番目の波形要素、といったように、クロック信号100の波形要素が一番左の波形要素から4つ(インクジェット記録装置10に具備されるインクジェットヘッドの数)おきに取り出されている。
【0066】
同様に、図6(c)に図示されたクロック信号104は、図6(a)に図示されたクロック信号100の波形要素が左から2番目の波形要素から4つおきに取り出され、図6(d)に図示されたクロック信号106は、図6(a)に図示されたクロック信号100の波形要素が左から3番目の波形要素から4つおきに取り出され、図6(e)に図示されたクロック信号108は、図6(a)に図示されたクロック信号100の波形要素が左から4番目の波形要素から4つおきに取り出されている。
【0067】
本例に示すインクジェット記録装置10は、バッテリー48の残量に余裕がある通常動作時は、各インクジェットヘッド16K,16Y、16M,16Cに共通のクロック信号100が適用され、すべてのインクジェットヘッド16K,16Y、16M,16Cはクロック信号100に基づいて同一のタイミングで駆動波形が印加され、吐出動作が実行される。
【0068】
一方、バッテリー48が消耗して、出力電圧が所定の基準値未満になると、各インクジェットヘッド16K,16Y、16M,16Cには個別に、図6(b)〜(e)に図示されたクロック信号102〜108のいずれかが適用される。
【0069】
例えば、図6(b)に示すクロック信号102はKヘッド16Kに適用され、図6(c)に示すクロック信号104はYヘッド16Yに適用され、図6(d)に示すクロック信号106はMヘッド16Mに適用され、図6(e)に示すクロック信号108はCヘッド16Cに適用される。
【0070】
そうすると、各インクジェットヘッド16K,16Y、16M,16Cは、適用されたクロック信号の立ち上がりエッジに同期して駆動波形(図6(f)参照)が印加され、吐出動作が実行される。
【0071】
インクジェットヘッド16K,16Y、16M,16Cごとに異なるタイミングで駆動が開始されることで電力消費の集中が回避され、バッテリー48の残量低下時における電力消費の集中に起因するバッテリー48の出力電圧の低下が防止される。
【0072】
また、駆動電圧が印加されるタイミングを規定しているクロック信号を変更することで、各インクジェットヘッド16K,16Y、16M,16Cを異なるタイミングにおいて吐出動作を開始させるので、駆動電圧を変更することなく、各インクジェットヘッド16K,16Y、16M,16Cの駆動開始タイミングの変更が可能である。
【0073】
なお、各インクジェットヘッド16K,16Y、16M,16Cの駆動開始タイミングが、通常動作時のクロック信号100の1周期分ずつずれるとともに、各インクジェットヘッド16K,16Y、16M,16Cの吐出周期が4倍になるので、キャリッジ14(図1参照)の走査速度は、基準となるクロック信号100が適用される場合に対して1/4に調整される。
【0074】
また、キャリッジ14の走査速度の変更に対応して、記録媒体18の搬送制御(搬送タイミング、搬送速度)が変更される。バッテリー48の消耗の有無を判断する基準値として、バッテリー48の「定格電圧」が挙げられる。例えば、バッテリー48の定格電圧が24V±10%の場合の基準値は、24×0.9=21.6Vとなる。
【0075】
さらに、バッテリーの定格電圧の80%(19.2V)未満の場合は、印刷不可と判断され、その旨が報知される態様が好ましい。
【0076】
図7は、本例に示すインクジェット記録装置10の画像形成の流れを示すフローチャートである。印刷(画像形成)が開始されると(ステップS10)、シリアル形式のデジタル画像データ(各画素の濃度値を表すデータ)が受信され(ステップS12)、該画像データに基づいて印刷データ(ドットデータ)が生成される(ステップS14)。
【0077】
次に、ステップS16において、バッテリー48の出力電圧が検出され、検出電圧と所定の基準値が比較される。ステップS16において、検出電圧が所定の基準値以上であると判断されると(Yes判定)、図6(a)に示すクロック信号100が適用される通常印刷が開始される(ステップS18)。
【0078】
一方、ステップS16において、検出電圧が所定の基準値未満であると判断されると(No判定)、ステップS20に進み、インクジェットヘッド16K,16Y、16M,16Cごとにクロック信号が生成される(図6(b)〜(e)に図示したクロック信号102〜108が適用される)。
【0079】
ステップS20において、インクジェットヘッド16K,16Y、16M,16Cごとのクロック信号が決められると、キャリッジ14の走査速度が変更され(ステップS24)、記録媒体18の搬送制御が変更され(ステップS26)、インクジェットヘッド16K,16Y、16M,16Cの同時駆動による電力消費の集中が回避される低速印刷が開始される(ステップS28)。
【0080】
ステップS18における通常印刷、及びステップS28における低速印刷により、所定の画像形成がされると、当該印刷(画像形成)は終了される(ステップS30)。
【0081】
上記の如く構成されたインクジェット記録装置10によれば、バッテリー48の消耗によって出力電圧が所定の基準値未満となった場合に、色ごとのインクジェットヘッド16K,16Y、16M,16Cを同一のタイミングによる同時駆動開始から、インクジェットヘッド16K,16Y、16M,16Cごとに異なるタイミングで個別に駆動を開始することで、電力消費の集中によるバッテリー48の電圧低下が回避され、バッテリー48の電圧低下に起因するインクジェットヘッド16K,16Y、16M,16Cの吐出状態の変動が防止される。
【0082】
また、インクジェットヘッド16K,16Y、16M,16Cに適用されるクロック信号の変更のみによりインクジェットヘッド16K,16Y、16M,16Cの駆動開始タイミングの変更が可能であり、インクジェットヘッド16K,16Y、16M,16Cの駆動開始タイミングを変更するために、ヘッド駆動部38(38K,38Y,38M,38C)の構成を変更する必要がない。
【0083】
また、バッテリー48の残量の検出結果のみによって一義的にインクジェットヘッド16K,16Y、16M,16Cの駆動開始タイミングを変更することができるので、駆動パルスのデューティ、吐出素子の発熱量などを算出するための複雑な演算処理が不要であり、隣接又は近接する吐出素子間のタイミング制御も不要である。
【0084】
本例に示すシリアル方式のインク吐出を行うインクジェット記録装置10において、各インクジェットヘッド16K,16Y、16M,16Cの駆動開始タイミングが重ならないようにインクジェットヘッド16K,16Y、16M,16Cの駆動が制御されると、インク吐出タイミングに適合させて走査速度を調整(低速化)することにより、印字品質を保つことが可能である。
【0085】
さらに、記録媒体18の搬送タイミング及び搬送速度をインクジェットヘッド16K,16Y、16M,16Cの走査速度に適合させ、通常よりも搬送タイミングを遅らせるとともに搬送速度を低速化することで、印字品質を保つことが可能である。
【0086】
〔応用例〕
次に、本発明の応用例に係るインクジェットヘッドの駆動制御について説明する。図8(a)〜(e)は、本発明の応用例に係るインクジェット記録装置に適用されるクロック信号を示す説明図である。
【0087】
図8(a)に示すクロック信号100(第1のクロック信号)は、図6(a)に図示したクロック信号100であり、通常印刷時に使用され、同一の吐出タイミングでインクジェットヘッド16K,16Y、16M,16Cの吐出動作を開始させるものである。また、図8(a)に示すクロック信号101は、クロック信号100の反転信号である。
【0088】
図8(b)〜(e)に示すクロック信号122〜128(第2のクロック信号)は、バッテリー48(図4参照)の残量が所定の基準を下回った場合に、Kヘッド16K、Yヘッド16Y、Mヘッド16M、Cヘッド16Cのそれぞれに適用される。
【0089】
図8(b)〜(e)に示すクロック信号122〜128は、図8(a)に示すクロック信号120,121が二逓倍され、さらに、二逓倍後に合成されて形成されている。
【0090】
クロック信号122〜128は、同一の周期(クロック信号100の2倍の周期)を有し、図8(b)に示すクロック信号122と、図8(c)に示すクロック信号124とは、位相が約1/4周期ずれており、図8(c)に示すクロック信号124と、図8(d)に示すクロック信号126とは、位相が約1/4周期ずれている。また、図8(d)に示すクロック信号126と、図8(e)に示すクロック信号128とは、位相が約1/4周期ずれている。
【0091】
図8(b)〜(e)に示すクロック信号122〜128は、波形要素が重複する部分があるものの、吐出動作が開始される立ち上がりエッジが互いに異なるので、吐出素子に駆動電圧が印加された瞬間に生じる突入電流の集中が回避されるとともに、通常動作の吐出周期に対する吐出周期の変更が2倍に抑えられる。
【0092】
なお、図示は省略するが、図8(a)に示すクロック信号120,121を四逓倍した後に合成して、バッテリー48(図5参照)の残量が所定の基準を下回った場合の各インクジェットヘッド16K,16Y、16M,16Cに適用されるクロック信号を生成すると、これらの周期は同一となるので、キャリッジ14の走査速度及び記録媒体18の搬送制御を変更しなくてもよい。
【0093】
〔ヘッド駆動部の他の構成例の説明〕
次に、図5に図示したヘッド駆動部38の他の構成例について説明する。図9は、ヘッド駆動部38’の概略構成を示すブロック図である。なお、図9には、1ヘッドに対応するヘッド駆動部38’が図示されており、かかるヘッド駆動部38’がインクジェットヘッド16の数だけ具備される。
【0094】
また、以下の説明において、これまでに説明した部分と同一又は類似する部分には同一の符号を付し、その説明は省略する。
【0095】
図9に示すヘッド駆動部38’は、ヘッドコントローラ202(図4の通信インターフェース30、図5のデジタル画像受信部60に相当)から伝送されるシリアル形式のデジタル画像データに基づいてアナログ形式の波形信号(駆動波形)を生成する波形生成部204と、該駆動波形を電圧増幅及び電流増幅する増幅部206と、を具備している。増幅部206は、増幅回路206Aと、出力回路206Bとを含んで構成され、出力回路206Bはバッテリー48から電力が供給される。
【0096】
駆動波形生成部204によって生成される駆動波形は、複数の波形要素が含まれる。この複数の波形要素の中から一つ又は複数の波形要素を選択することで、レジスト溶液の打滴量を段階的に変更することが可能となっている。
【0097】
図9には、出力回路206Bの一例として、2つのパワートランジスタがトーテムポール接続された出力回路が図示されている。出力回路206Bによって、バッテリー48から供給された電力は、圧電素子24を駆動するための駆動電圧に変換される。
【0098】
ヘッドコントローラ202から伝送されるシリアル形式のデジタル画像データは、クロック信号に同期してクロック信号とともにシフトレジスタ208へ伝送される。
【0099】
シフトレジスタ208に記憶された画像データは、ラッチ信号に基づいてラッチ回路210へラッチされる。ラッチ回路210にラッチされた信号はレベル変換回路212においてスイッチIC214を構成するスイッチ素子216を駆動可能な所定の電圧に変換される。
【0100】
このレベル変換回路212の出力信号によってスイッチ素子216のオンオフが制御することで、複数の波形要素の中から少なくとも1つの波形要素が選択されて打滴量が決められ、ヘッドコントローラ202から送出されるセレクト信号及びイネーブル信号によって駆動される圧電素子24(ノズル20)が選択される。
【0101】
シフトレジスタ208に入力されるクロック信号、及びラッチ回路210に入力されるラッチ信号(図6(a)のクロック信号120、図6(b)〜(e)のクロック信号122〜128に対応)は、クロック信号生成部52によって生成される。
【0102】
先に説明したように、ラッチ信号(クロック信号)はバッテリー48の残量に応じて変更され、該ラッチ信号によって決められた吐出動作開始タイミングに応じて、インクジェットヘッド16(16K,16Y、16M,16C)の吐出動作が開始される。
【0103】
なお、図9における波形生成部204は、図5のアナログ波形生成部66K,66Y,66M,66Cに対応し、増幅部206は、図5の増幅部(ヘッドドライバー)68K,68Y,68M,68Cに対応している。
【0104】
本例では、シリアル方式の画像形成について説明したが、本発明は記録媒体18の全幅に対応する長さにわたって複数のノズルが配置されたフルライン型のインクジェットヘッドを用いて、記録媒体18とインクジェットヘッドとを一回だけ相対的に移動させて、記録媒体18の画像形成領域の全域にわたって画像を形成するシングルパス方式の画像形成にも適用可能である。
【0105】
また、液体吐出装置の一例としてインクジェット記録装置を例示したが、本発明の適用範囲はインクジェット方式の液体吐出装置に広く適用することができる。
【0106】
以上、本発明の実施形態に係るインクジェット記録装置及びインクジェットヘッド制御方法について詳細に説明したが、上述した構成は本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、適宜変更が可能である。
【0107】
〔付記〕
上記に詳述した発明の実施形態についての記載から把握されるとおり、本明細書は少なくとも以下に示す発明を含む多様な技術思想の開示を含んでいる。
【0108】
(発明1):液滴を吐出させる複数のインクジェットヘッドと、前記複数のインクジェットヘッドのそれぞれに具備される吐出素子を略同一のタイミングで動作を開始させる動作開始タイミングを規定する第1のクロック信号を生成するとともに、前記複数のインクジェットヘッドに具備される吐出素子をインクジェットヘッドごとに別々のタイミングで動作を開始させる動作開始タイミングを規定する第2のクロック信号を生成するクロック信号生成部と、前記第1のクロック信号又は前記第2のクロック信号に基づいて決められたタイミングで前記吐出素子へ駆動電圧を供給する駆動電圧供給部と、前記駆動電圧供給部へ電力を供給するバッテリーと、前記バッテリーから前記吐出素子へ供給される電圧を検出する電圧検出部と、前記電圧検出部により検出された電圧が所定の基準電圧以上の場合は、前記第1のクロック信号に基づいて決められた同一のタイミングで前記複数のインクジェットヘッドの駆動を開始させ、前記電圧検出部により検出された電圧が所定の基準電圧未満の場合は、前記第2のクロック信号に基づいて決められたそれぞれのタイミングで前記複数のインクジェットヘッドの駆動を開始させるように前記駆動電圧供給部を制御する駆動制御部と、を備えたことを特徴とする液体吐出装置。
【0109】
本発明によれば、バッテリーから供給されるインクジェットヘッドを駆動させるための電源電圧が所定の基準値未満になると、複数のインクジェットヘッドを同一タイミングで駆動開始させる第1のクロック信号から、複数のインクジェットヘッドを互いに別々のタイミングで駆動開始させる第2のクロック信号に切り換えられるので、複数のインクジェットヘッドの駆動開始タイミングが重なることによるインクジェットヘッドを駆動するための電源電圧の低下が抑制され、該電源電圧の低下に起因する吐出状態の変動を回避することができる。
【0110】
本発明では、インクジェットヘッドの数と同数の第2のクロック信号が生成される。例えば、第1のインクジェットヘッドと第2のインクジェットヘッドを具備する態様では、第1のインクジェットヘッド用の第2のクロック信号と、第2のインクジェットヘッド用の第2のクロック信号が生成される。
【0111】
(発明2):発明1に記載の液体吐出装置において、前記クロック信号生成部は、前記複数のインクジェットヘッドのそれぞれについて個別の前記第2のクロック信号を生成し、前記第2のクロック信号は、前記第1のクロック信号の周期に前記複数のインクジェットヘッドのヘッド数を乗じた周期を有し、前記第1のクロック信号の一周期分ずつ位相がずらされていることを特徴とする。
【0112】
かかる態様によれば、複数のインクジェットヘッドは、別々のタイミングで吐出動作が開始されるので、複数のインクジェットヘッドが同時に駆動されることによる電力消費の集中が回避される。
【0113】
(発明3):発明1に記載の液体吐出装置において、前記クロック信号生成部は、前記複数のインクジェットヘッドに対応して前記第1のクロック信号の波形要素を順に取り出して、前記複数のインクジェットヘッドごとに前記第2のクロック信号を生成することを特徴とする。
【0114】
かかる態様において、第1のインクジェットヘッドと第2のインクジェットヘッドとを備える場合は、第1のクロック信号の奇数番目の波形要素が取り出されて第1のインクジェットヘッドに対応する第2のクロック信号が生成され、第1のクロック信号の偶数番目の波形要素が取り出されて第2のインクジェットヘッドに対応する第2のクロック信号が生成される。
【0115】
(発明4):発明1に記載の液体吐出装置において、前記クロック信号生成部は、前記第1のクロック信号に2逓倍処理を施すとともに、2逓倍処理された第1のクロック信号と、2逓倍処理がされた前記第1のクロック信号の反転信号と、を合成して、前記複数のインクジェットヘッドのそれぞれについて、前記第1のクロック信号の2倍の周期を有し、それぞれの位相が1/4周期ずらされた前記第2のクロック信号を生成することを特徴とする。
【0116】
かかる態様によれば、複数のインクジェットヘッドの駆動開始タイミングをずらすことによって電力消費の集中が回避され、一方、第2のクロック信号間の一部を重複させることによって画像形成時間全体の長時間化が抑制される。
【0117】
(発明5):発明1に記載の液体吐出装置において、前記クロック信号生成部は、前記第1のクロック信号に4逓倍処理を施すとともに、4逓倍処理された第1のクロック信号と、4逓倍処理がされた前記第1のクロック信号の反転信号と、を合成して、前記複数のインクジェットヘッドのそれぞれについて、前記第1のクロック信号の2倍の周期を有し、それぞれの位相が1/4周期ずらされた前記第2のクロック信号を生成することを特徴とする。
【0118】
かかる態様によれば、複数のインクジェットヘッドの駆動開始タイミングをずらすことによって電力消費の集中が回避され、一方、第2のクロック信号間の一部を重複させることによって、第1のクロック信号が適用される場合と同じ画像形成時間とすることが可能となる。
【0119】
(発明6):発明1から4のいずれかに記載の液体吐出装置において、前記複数のインクジェットヘッドを主走査方向に沿って走査させる走査手段と、前記インクジェットヘッドと記録媒体とを主走査方向と略直交する副走査方向に相対的に移動させる移動手段と、前記インクジェットヘッドに前記第2のクロック信号が適用される場合には、前記インクジェットヘッドの駆動開始タイミングに合わせて前記走査手段の走査速度を変更するように前記走査手段を制御する走査制御手段と、前記インクジェットヘッドに前記第2のクロック信号が適用される場合には、前記インクジェットヘッドの駆動開始タイミングに合わせて、前記移動手段の動作を制御する移動制御手段と、を備えたことを特徴とする。
【0120】
かかる態様によれば、複数のインクジェットヘッドのそれぞれの動作開始タイミングをずらした後の動作開始タイミングに適合するように、インクジェットヘッドを走査させる走査手段、及びインクジェットヘッドと記録媒体とを相対移動させる移動手段を通常よりも低速で動作させることで、画像品質を保つことができる。
【0121】
(発明7):発明1から6のいずれかに記載の液体吐出装置において、前記吐出素子は、所定の駆動電圧に応じてたわみ変形する圧電素子を含むことを特徴とする。
【0122】
かかる態様によれば、容量性負荷を充電する際の突入電流の集中によるバッテリー出力電圧の低下を回避しうる。
【0123】
(発明8):発明1から7のいずれかに記載の液体吐出装置において、前記駆動制御部は、前記電圧検出部により検出された電圧が前記バッテリーの定格電圧未満の場合に、前記第2のクロック信号に基づいて決められたそれぞれのタイミングで前記複数のインクジェットヘッドの駆動を開始させるように前記駆動電圧供給部を制御することを特徴とする。
【0124】
かかる態様によれば、バッテリーの消耗状態を確実に把握することができ、バッテリーの出力電圧の低下に起因するインクジェットヘッドの吐出状態の変動を回避しうる。
【0125】
(発明9):発明1から8のいずれかに記載の液体吐出装置において、デジタル形式の吐出データを取得する吐出データ取得部と、前記第1のクロック信号又は前記第2のクロック信号のいずれかによって前記吐出データを保持する吐出データ保持部と、前記保持された吐出データに基づいて駆動波形を生成する駆動波形生成部と、を備え、前記駆動電圧供給部は、前記生成された駆動波形に増幅処理を施して前記駆動波形に対応する駆動電圧を生成することを特徴とする。
【0126】
かかる態様において、デジタル形式の吐出データから駆動波形を生成するとともに、駆動波形に含まれる複数の波形要素の中から1つ又は複数の波形要素を選択する駆動信号を生成する態様も可能である。
【0127】
かかる態様では、駆動信号によって各吐出素子に具備されるスイッチ部をオンオフさせることで、各吐出素子に駆動電圧を印加するか否かが制御される。
【0128】
(発明10):液滴を吐出させる複数のインクジェットヘッドのそれぞれに具備される吐出素子を略同一のタイミングで動作を開始させる動作開始タイミングを規定する第1のクロック信号を生成するとともに、前記複数のインクジェットヘッドに具備される吐出素子をインクジェットヘッドごとに別々のタイミングで動作を開始させる動作開始タイミングを規定する第2のクロック信号を生成するクロック信号生成工程と、前記第1のクロック信号又は前記第2のクロック信号に基づいて決められたタイミングで前記吐出素子へ駆動電圧を供給する駆動電圧供給工程と、前記駆動電圧供給工程において電力を供給するバッテリーから前記吐出素子へ供給される電圧を検出する電圧検出工程と、前記検出された電圧が所定の基準電圧以上の場合は、前記第1のクロック信号に基づいて決められた同一のタイミングで前記複数のインクジェットヘッドの駆動を開始させ、前記検出された電圧が所定の基準電圧未満の場合は、前記第2のクロック信号に基づいて決められたそれぞれのタイミングで前記複数のインクジェットヘッドの駆動を開始させるように前記駆動電圧の供給を制御する駆動制御工程と、を含むことを特徴とする液体吐出方法。
【符号の説明】
【0129】
10…インクジェット記録装置、16,16K,16Y、16M,16C…インクジェットヘッド、18…記録媒体、20…ノズル、22…吐出素子、38…ヘッド駆動部、48…バッテリー、50…電圧検出部、52…クロック信号生成部、62K,62Y,62M,62C…遅延(ラッチ)回路、66K,66Y,66M,66C,204…アナログ波形生成部、68K,68Y,68M,68C、206…増幅部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液滴を吐出させる複数のインクジェットヘッドと、
前記複数のインクジェットヘッドのそれぞれに具備される吐出素子を略同一のタイミングで動作を開始させる動作開始タイミングを規定する第1のクロック信号を生成するとともに、前記複数のインクジェットヘッドに具備される吐出素子をインクジェットヘッドごとに別々のタイミングで動作を開始させる動作開始タイミングを規定する第2のクロック信号を生成するクロック信号生成部と、
前記第1のクロック信号又は前記第2のクロック信号に基づいて決められたタイミングで前記吐出素子へ駆動電圧を供給する駆動電圧供給部と、
前記駆動電圧供給部へ電力を供給するバッテリーと、
前記バッテリーから前記吐出素子へ供給される電圧を検出する電圧検出部と、
前記電圧検出部により検出された電圧が所定の基準電圧以上の場合は、前記第1のクロック信号に基づいて決められた同一のタイミングで前記複数のインクジェットヘッドの駆動を開始させ、前記電圧検出部により検出された電圧が所定の基準電圧未満の場合は、前記第2のクロック信号に基づいて決められたそれぞれのタイミングで前記複数のインクジェットヘッドの駆動を開始させるように前記駆動電圧供給部を制御する駆動制御部と、
を備えたことを特徴とする液体吐出装置。
【請求項2】
前記クロック信号生成部は、前記複数のインクジェットヘッドのそれぞれについて個別の前記第2のクロック信号を生成し、
前記第2のクロック信号は、前記第1のクロック信号の周期に前記複数のインクジェットヘッドのヘッド数を乗じた周期を有し、前記第1のクロック信号の一周期分ずつ位相がずらされていることを特徴とする請求項1に記載の液体吐出装置。
【請求項3】
前記クロック信号生成部は、前記複数のインクジェットヘッドに対応して前記第1のクロック信号の波形要素を順に取り出して、前記複数のインクジェットヘッドごとに前記第2のクロック信号を生成することを特徴とする請求項1に記載の液体吐出装置。
【請求項4】
前記クロック信号生成部は、前記第1のクロック信号に2逓倍処理を施すとともに、2逓倍処理された第1のクロック信号と、2逓倍処理がされた前記第1のクロック信号の反転信号と、を合成して、前記複数のインクジェットヘッドのそれぞれについて、前記第1のクロック信号の2倍の周期を有し、それぞれの位相が1/4周期ずらされた前記第2のクロック信号を生成することを特徴とする請求項1に記載の液体吐出装置。
【請求項5】
前記クロック信号生成部は、前記第1のクロック信号に4逓倍処理を施すとともに、4逓倍処理された第1のクロック信号と、4逓倍処理がされた前記第1のクロック信号の反転信号と、を合成して、前記複数のインクジェットヘッドのそれぞれについて、前記第1のクロック信号の2倍の周期を有し、それぞれの位相が1/4周期ずらされた前記第2のクロック信号を生成することを特徴とする請求項1に記載の液体吐出装置。
【請求項6】
前記複数のインクジェットヘッドを主走査方向に沿って走査させる走査手段と、
前記インクジェットヘッドと記録媒体とを主走査方向と略直交する副走査方向に相対的に移動させる移動手段と、
前記インクジェットヘッドに前記第2のクロック信号が適用される場合には、前記インクジェットヘッドの駆動開始タイミングに合わせて前記走査手段の走査速度を変更するように前記走査手段を制御する走査制御手段と、
前記インクジェットヘッドに前記第2のクロック信号が適用される場合には、前記インクジェットヘッドの駆動開始タイミングに合わせて、前記移動手段の動作を制御する移動制御手段と、
を備えたことを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の液体吐出装置。
【請求項7】
前記吐出素子は、所定の駆動電圧に応じてたわみ変形する圧電素子を含むことを特徴とする請求項1から6のいずれか1項に記載の液体吐出装置。
【請求項8】
前記駆動制御部は、前記電圧検出部により検出された電圧が前記バッテリーの定格電圧未満の場合に、前記第2のクロック信号に基づいて決められたそれぞれのタイミングで前記複数のインクジェットヘッドの駆動を開始させるように前記駆動電圧供給部を制御することを特徴とする請求項1から7のいずれか1項に記載の液体吐出装置。
【請求項9】
デジタル形式の吐出データを取得する吐出データ取得部と、
前記第1のクロック信号又は前記第2のクロック信号のいずれかによって前記吐出データを保持する吐出データ保持部と、
前記保持された吐出データに基づいて駆動波形を生成する駆動波形生成部と、
を備え、
前記駆動電圧供給部は、前記生成された駆動波形に増幅処理を施して前記駆動波形に対応する駆動電圧を生成することを特徴とする請求項1から8のいずれか1項に記載の液体吐出装置。
【請求項10】
液滴を吐出させる複数のインクジェットヘッドのそれぞれに具備される吐出素子を略同一のタイミングで動作を開始させる動作開始タイミングを規定する第1のクロック信号を生成するとともに、前記複数のインクジェットヘッドに具備される吐出素子をインクジェットヘッドごとに別々のタイミングで動作を開始させる動作開始タイミングを規定する第2のクロック信号を生成するクロック信号生成工程と、
前記第1のクロック信号又は前記第2のクロック信号に基づいて決められたタイミングで前記吐出素子へ駆動電圧を供給する駆動電圧供給工程と、
前記駆動電圧供給工程において電力を供給するバッテリーから前記吐出素子へ供給される電圧を検出する電圧検出工程と、
前記検出された電圧が所定の基準電圧以上の場合は、前記第1のクロック信号に基づいて決められた同一のタイミングで前記複数のインクジェットヘッドの駆動を開始させ、前記検出された電圧が所定の基準電圧未満の場合は、前記第2のクロック信号に基づいて決められたそれぞれのタイミングで前記複数のインクジェットヘッドの駆動を開始させるように前記駆動電圧の供給を制御する駆動制御工程と、
を含むことを特徴とする液体吐出方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−143910(P2012−143910A)
【公開日】平成24年8月2日(2012.8.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−2444(P2011−2444)
【出願日】平成23年1月7日(2011.1.7)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】