説明

液体封入式防振装置

【課題】床を歩行する際の歩行感の改善を図るとともに、床衝撃音の遮音性能の向上を図り得る液体封入式防振装置を提供する。
【解決手段】第1取付部材1と、第1取付部材1に一端側が固着され他端側に開口する凹部21を有するゴム弾性体2と、ゴム弾性体2の他端側に固着された第2取付部材3と、ゴム弾性体2の凹部21の開口を閉塞して凹部21との間に液体Lが封入された液体室45を形成するダイヤフラム4と、凹部21の開口部近傍に配設されて液体室45を上段及び下段オリフィス通路53、54により相互に連通された主液室46と副液室47とに仕切る仕切部材5とから構成されている。上段及び下段オリフィス通路53、54の通路長さを長くすることにより、床の歩行振動の周波数域である10〜30Hzにおけるロスファクタの値を1〜10の範囲に設定し、減衰が高くなるようにする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば一般住宅や集合住宅(アパート、マンション)等の建築構造物の床梁と床材との間に設置されて、床に発生する振動や衝撃音を低減する液体封入式防振装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般住宅等においては、床に飛び跳ねや踏み台からの降下等による衝撃が加わると振動が発生し、その振動が不快音や不快震動等の原因となることから問題となる。さらに、戸建住宅やマンション等においては、居室や廊下の床に発生する振動や衝撃音が階下に直接的に伝搬されるため、階下の住人にとっては甚だしい騒音となる場合がある。
【0003】
そこで、一般住宅等の床に発生する振動や衝撃音を抑制するために、従来より種々の対策が講じられており、例えば特許文献1〜4に開示されているように、建築構造物の床梁に衝撃等の振動を吸収する液体封入防振ゴム手段や液封ダンパ等の液体封入式防振装置を介して床パネルが載置固定される床構造が知られている。この場合、床梁の上面に固定された液体封入式防振装置の上に床パネルが載置固定されたり、床梁の側面部に取付けられたブラケットに液封マウントを介して床パネルの周端部が載置固定される。この床構造においては、床パネルに発生した振動が液体封入式防振装置により吸収されるため、階下に伝搬される63Hz帯域(45〜90Hz)の衝撃音や振動を低減することができる。
【0004】
なお、ここで用いられる液体封入式防振装置は、一般に、ゴム弾性体の内部に、液体が封入され且つオリフィス通路により互いに連通する複数の液室が設けられている構造のものである。この液体封入式防振装置に床パネル等からの衝撃が加わると、ゴム弾性体が上下に圧縮変形することによりその衝撃が緩和されるとともに、各液室の容積変化に伴ってオリフィス通路を流動する液体の液柱共振作用によりその振動が効果的に吸収されるようになっている。
【0005】
ところで、建築構造物の床の遮音性能は、JIS・A1418−2「建築物の床衝撃音遮断性能の測定方法・第2部:標準重量衝撃源による方法」に基づいて測定された重量床衝撃音等級により一般に評価されている。この評価において、上記のような液体封入式防振装置を採用した場合には、重量床衝撃音等級でLH60〜LH65の遮音性能にすることができる。しかし、液体封入式防振装置の動的ばね定数を低くすると、液体封入式防振装置の緩衝作用によって防振効果や防音効果が高くなる反面、床の変位が大きくなることから、床を歩行する際の歩行感がフラフラする歩行感になって損なわれてしまうため、動的ばね定数を低く下げるにも限界がある。
【特許文献1】特開平9−72035号公報
【特許文献2】特開平10−183847号公報
【特許文献3】特開平11−13193号公報
【特許文献4】特開2003−194137号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は上記実状に鑑みてなされたものであり、床を歩行する際の歩行感の改善を図るとともに、床衝撃音の遮音性能の向上を図り得る液体封入式防振装置を提供することを解決すべき課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本願発明者等は、液体封入式防振装置のロスファクタに着目して鋭意研究を重ねた結果、床の歩行振動の周波数域である10〜30Hzにおいて減衰が大幅に高くなる液体封入式防振装置を用いれば、床を歩行する際の歩行感が良好になり、更に重量床衝撃音や軽量床衝撃音の遮音性能が向上することを見い出し、本発明を完成した。
【0008】
即ち、上記課題を解決する本発明は、建築構造物の床梁と床材との間に設置されて該床材を弾性支持する液体封入式防振装置であって、前記床梁又は前記床材との接触面側に開口する凹部を有するゴム弾性体と、該ゴム弾性体の前記凹部の開口を閉塞して前記凹部との間に液体が封入された液体室を形成するダイヤフラムと、前記凹部の開口部近傍に配設されて前記液体室をオリフィス通路により相互に連通された主液室と副液室とに仕切る仕切部材と、を備え、床の歩行振動の周波数域である10〜30Hzにおけるロスファクタが1〜10に設定されていることを特徴としている。
【0009】
本発明の液体封入式防振装置は、床の歩行振動の周波数域である10〜30Hzにおけるロスファクタが1〜10の高い値に設定されていることから、この液体封入式防振装置が設置されている床構造においては、床を歩行する際に発生する振動が液体封入式防振装置によって大きく効果的に減衰される。即ち、振動の加速度のピ−クが低くなり、且つ振動の収束時間も短くなることにより、床を歩行する際のフラフラ感が解消され、歩行感が良好になる。また、歩行感が改善されるのみではなく、床を歩行する際に発生する衝撃に基づく重量床衝撃音や軽量床衝撃音の遮音性能が向上することが、本願発明者等が行った試験により確認された。
【0010】
本発明において、ロスファクタとは、減衰性の指標であって、(損失ばね定数)/(動的ばね定数)から求められる値である。本発明におけるロスファクタの値の範囲(1〜10)は、従来において通常設定される値(0.2〜0.5程度)に比べて大幅に高いレベルのものである。このように、ロスファクタを高い値にして、減衰を大幅に高めることによって、歩行感が改善されるのみではなく、床を歩行する際に発生する重量床衝撃音や軽量床衝撃音の遮音性能も向上させることができる。なお、ロスファクタの値が1未満の場合には、歩行感が悪くなり、逆にロスファクタの値が10を超える場合には、床衝撃音の遮音性能が低下するのである。
【0011】
また、本発明においては、床の歩行振動の周波数域である10〜30Hzにおける動的ばね定数が700N/mm以上に設定されていることが好ましい。このようにすれば、歩行感の性能と重量床衝撃音及び軽量床衝撃音の遮音性能との三つの性能を、よりバランス良く満足させることができる。
【0012】
なお、床の歩行振動は、10〜30Hzの周波数域に最大の成分を有するが、15〜20Hzの周波数域を中心に最大の成分を有する場合が多いことから、本発明においては、15〜20Hzにおけるロスファクタを1〜10に設定するようにしてもよい。
【発明の効果】
【0013】
本発明の液体封入式防振装置は、床の歩行振動の周波数域である10〜30Hzにおけるロスファクタが1〜10に設定されていることから、床を歩行する際の歩行感の改善を図ることができるとともに、重量床衝撃音や軽量床衝撃音の遮音性能の向上も図ることができる。
また、床の歩行振動の周波数域である10〜30Hzにおける動的ばね定数が700N/mm以上に設定されていれば、歩行感と重量床衝撃音と軽量床衝撃音の三つの性能を、バランス良く満足させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
図1は本実施形態に係る液体封入式防振装置の軸方向に沿う断面図である。
本実施形態の液体封入式防振装置は、図1に示すように、第1取付部材1と、第1取付部材1に一端側が固着され他端側に開口する凹部21を有するゴム弾性体2と、ゴム弾性体2の他端側に固着された第2取付部材3と、ゴム弾性体2の凹部21の開口を閉塞して凹部21との間に液体Lが封入された液体室45を形成するダイヤフラム4と、凹部21の開口部近傍に配設されて液体室45を上段及び下段オリフィス通路53、54により相互に連通された主液室46と副液室47とに上下に仕切る仕切部材5と、から構成されている。
【0015】
第1取付部材1は、金属板により円形に形成されて中央部に厚さ方向に貫通する円孔を有する取付基板11と、取付基板11の円孔に軸部が上方に突出するようにして嵌着固定された取付ボルト12とからなる。取付基板11の外周縁部には、プレス加工を施すことにより、断面が略V字状で周方向に一周するリング状の屈曲部11aが形成されている。
【0016】
ゴム弾性体2は、ゴム材料を加硫成形することにより、一端が閉口した厚肉の円筒状に形成されている。このゴム弾性体2は、閉口した一端側(上方側)が第1取付部材1の取付基板11の下面に加硫接着されており、取付ボルト12の頭部の部分を除いて取付基板11の下面全体を覆うように液密的に固着されている。このゴム弾性体2の内部には、他端側(下方側)に開口する凹部21が形成されている。また、ゴム弾性体2の外周面には、取付基板11の外径よりも少し大きい略一定の内径を有する短い円筒状に形成された筒状金具25が加硫接着されている。
【0017】
第2取付部材3は、金属板により有底円筒状に形成された取付金具31と、取付金具31の底部に固定された取付ボルト32とから構成されている。取付金具31は、円形の底部31aと、底部31aの周端部から上方に延出する円筒部31bとからなる。底部31aの中央部には、下方に凹んだ円形の窪み部が形成されており、窪み部の中央には厚さ方向に貫通する円孔が設けられている。この窪み部の円孔には、軸部が下方に突出するようにして取付ボルト32が嵌着固定されている。底部31aの窪み部を囲む環状部分は平坦部とされている。円筒部31bは、筒状金具25の外径よりも少し大きい略一定の内径を有し、筒状金具25よりも長く形成されている。
【0018】
この第2取付部材3は、円筒部31bがゴム弾性体2の凹部21の開口側から筒状金具25の外周側に嵌着された後、円筒部31bの先端部に径方向内方へのかしめ加工を施すことにより、第1取付部材1及びゴム弾性体2に組み付けられている。なお、この組み付けを行う際には、取付金具31の底部31aの周端部に形成された平坦部とゴム弾性体2の開口側端部との間に、ダイヤフラム4及び仕切部材5の周端部が挟持された状態で組み付けられる。
【0019】
ダイヤフラム4は、円形のゴム薄膜により形成されており、その周縁部がリング状に形成された保持金具41の内周端部に加硫接着されて保持されている。保持金具41は、リング板状に形成されて内周側の端部に下方に屈曲された屈曲部を有する基部41aと、基部41aの外周端から上方に屈曲延出する外側筒部41bとからなり、基部41aの内周端部にダイヤフラム4の周縁部が固着保持されている。
【0020】
ダイヤフラム4は、保持金具41の基部41aが仕切部材5の周端部(フランジ部51e、52e)と重ね合わされて、取付金具31の底部31aの平坦部とゴム弾性体2の開口側端部との間に挟持された状態に配設されている。これにより、ゴム弾性体2の凹部21の開口はダイヤフラム4によって閉塞され、ダイヤフラム4と凹部21との間には密閉状の液体室45が形成されている。この液体室45には、例えば水やアルキレングリコール、シリコンオイル等の非圧縮性の液体Lが封入されている。
【0021】
仕切部材5は、図2〜図7に示すように、金属板により中央部側が上方へ段階的に突出するようにドーム形状に形成された下側仕切金具51と、金属板により下側仕切金具51よりも一回り大きいドーム形状に形成された上側仕切金具52とからなる。
【0022】
下側仕切金具51は、図2及び図3に示すように、円形の天井壁部51aと、天井壁部51aの周端部から下方に延出する略円筒状の上段壁部51bと、上段壁部51bの下端から径方向外方へ延出するリング状の段部51cと、段部51cの外周端から下方に延出する略円筒状の下段壁部51dと、下段壁部51dの下端から径方向外方へ延出するリング状のフランジ部51eとからなる。フランジ部51eは、幅方向中央から少し内側寄り位置に短い傾斜部51fが設けられていることにより浅い段差が形成されている。上段壁部51bの周方向における一箇所には、段部51cの幅方向中央部付近まで径方向外方へ膨出するように上段膨出部51gが設けられている。
【0023】
また、下段壁部51dの周方向における一箇所には、フランジ部51eの内周端から傾斜部51fまでの間の略中央部付近まで径方向外方へ膨出するように下段膨出部51hが設けられている。上段膨出部51gと下段膨出部51hは、周方向において少し位相がずれた位置に設けられている。下段壁部51dの下段膨出部51h近傍には、厚さ方向に貫通する矩形の下側導通孔51iが設けられている。また、天井壁部51aの中央部とフランジ部51eの4箇所には、上側仕切金具52と溶接される接合凸部51j、…、51jが設けられている。
【0024】
上側仕切金具52は、図4及び図5に示すように、円形の天井壁部52aと、天井壁部52aの周端部から下方に延出する略円筒状の上段壁部52bと、上段壁部52bの下端から径方向外方へ延出するリング状の段部52cと、段部52cの外周端から下方に延出する略円筒状の下段壁部52dと、下段壁部52dの下端から径方向外方へ延出するリング状のフランジ部52eとからなる。フランジ部52eは、下側仕切金具51のフランジ部51eと同様に、短い傾斜部52fが設けられていることにより浅い段差が形成されている。
【0025】
天井壁部52aの周端部には、厚さ方向に貫通する矩形の上側導通孔52gが設けられている。また、上段壁部52bの周方向における一箇所には、下段壁部52dまで径方向外方へ膨出するように膨出部52hが設けられている。上側導通孔52gと膨出部52hは、周方向において少し位相がずれた位置に設けられている。天井壁部52aの中央部とフランジ部52eの4箇所には、下側仕切金具51の接合凸部51j、…、51jと接合される接合孔52j、…、52jが設けられている。
【0026】
この下側仕切金具51と上側仕切金具52は、図6及び図7に示すように、天井壁部51a、52aどうし、段部51c、52cどうし、フランジ部51e、52eどうしがそれぞれ当接するように重ね合わされた状態で、下側仕切金具51の接合凸部51j、…、51jが上側仕切金具52の接合孔52j、…、52jに嵌合されて溶接により接合されている。これにより、上側仕切金具52の天井壁部52aと下側仕切金具51の段部51cとの間であって上段壁部51b、52bどうしの間には、上側導通孔52gから膨出部52hに至る周方向に略一周する上段オリフィス通路53が形成されている。また、上側仕切金具52の段部52cと下側仕切金具51のフランジ部51eとの間であって下段壁部51d、52dどうしの間には、膨出部52hで上段オリフィス通路53と連通し、膨出部52hから下側導通孔51iに至る周方向に略一周する下段オリフィス通路54が形成されている。
【0027】
この仕切部材5は、図1に示すように、フランジ部51e、52eが保持金具41の基部41aと重ね合わされて、取付金具31の底部31aの平坦部とゴム弾性体2の開口側端部との間に挟持された状態に配設されている。これにより、仕切部材5は、液体室45を第1取付部材1側の主液室46とダイヤフラム4側の副液室47とに上下に仕切っている。これら主液室46と副液室47は、上側導通孔52gを介して主液室46に開口する上段オリフィス通路53と、下側導通孔51iを介して副液室47に開口する下段オリフィス通路54とにより連通されている。
【0028】
本実施形態では、上段オリフィス通路53と下段オリフィス通路54によって周方向に略二周するように1本の長いオリフィス通路(265mm)が形成されている。このように、上段及び下段オリフィス通路53、54の長さを通常の4〜5倍程度に長くすることにより、床の歩行振動の周波数域である10〜30Hzにおけるロスファクタが1〜10の範囲の高い値(本実施形態では9.5)に設定され、減衰が大きくなるようにされている。また、10〜30Hzにおける動的ばね定数は700N/mm以上に設定されている。そして、本実施形態では、上段及び下段オリフィス通路53、54の長さを長くするとともにその断面積を小さくすることによって、上段及び下段オリフィス通路53、54を流動する液体Lの共振周波数が15Hz付近になるようにチューニングされている。
【0029】
以上のように構成された本実施形態の液体封入式防振装置70は、図8に示すように、例えば鉄骨系集合住宅等における上階の床梁72と床材74との間に設置され、床材74を弾性支持するようにして使用される。この場合、床梁72は、複数本のH型鋼により矩形に組まれており、床梁72の内側面の所定の複数箇所(通常、6又は8箇所)にはL型ブラケット72aが取付けられている。床梁72上に配設される床材74は、並列状に配置された複数枚の軽量気泡コンクリート(ALC)製の床パネル74aと、並列状に配置された各床パネル74aを一体的に連結する連結部材(C型チャネル鋼)74bと、床パネル74a上に配置されたパーティクルボード74cとからなる。
【0030】
液体封入式防振装置70は、床梁72のL型ブラケット72aの支持面に設けられた取付孔(図示せず)に対して挿通された第2取付部材3の取付ボルト32にナット32aを螺着して第2取付部材3の取付金具31がL型ブラケット72aの支持面に着座するように取付けられるとともに、床材74の連結部材74bの下面に設けられた取付孔(図示せず)に対して挿通された第1取付部材1の取付ボルト12にナット12aを螺着して第1取付部材1の取付基板11が連結部材74bの下面に着座するように取付けられる。このようにして、複数個の液体封入式防振装置70が各L型ブラケット72aに対してそれぞれ設置されることにより、床材74が複数個の液体封入式防振装置70により弾性支持された状態で床梁72上に配設される。
【0031】
上記のように本実施形態の液体封入式防振装置70が設置された床構造において、床材74上で人が歩行したり子供が飛び跳ねる等することによって振動や衝撃音が発生すると、その振動や衝撃音が床材74を介して液体封入式防振装置70に伝播される。これにより、液体封入式防振装置70のゴム弾性体2が圧縮変形を繰り返すことによって、主液室46の液体Lが上段及び下段オリフィス通路53、54を通って副液室47との間で往来する。このとき、上段及び下段オリフィス通路53、54を流動する液体Lの液柱共振作用により、上記の振動や衝撃音が効果的に吸収され減衰される。これにより、床を歩行する際のフラフラ感が解消され、歩行感が良好になる。また、歩行感が良好になるのみではなく、重量床衝撃音や軽量床衝撃音の遮音性能も向上する。
【0032】
以上のように、本実施形態の液体封入式防振装置70は、床の歩行振動の周波数域である10〜30Hzにおけるロスファクタの値が9.5(1〜10の範囲)に設定されて、10〜30Hzにおいて減衰が高くなるようにされているため、床を歩行する際のフラフラ感を解消して、歩行感を良好にすることができるとともに、重量床衝撃音や軽量床衝撃音の遮音性能も向上させることができる。
【0033】
特に、本実施形態の液体封入式防振装置70は、10〜30Hzにおける動的ばね定数が700N/mm以上に設定されていることから、歩行感の性能と重量床衝撃音及び軽量床衝撃音の遮音性能との三つの性能を、よりバランス良く満足させることができる。
【0034】
なお、本実施形態においては、液体封入式防振装置70は、第1取付部材1が床材74に固定され、第2取付部材3が床梁72に固定されているが、液体封入式防振装置70を上下に反転させた状態で、第1取付部材1を床梁72に固定し、第2取付部材3を床材74に固定して設置するようにしてもよい。
【0035】
〔試験〕
上記実施形態の液体封入式防振装置70が設置された床構造を実施例として、歩行感の改善効果を調べるために試験を行った。比較例1として、液体封入式防振装置を使用しない点でのみ異なる床構造を準備した。また、比較例2として、10〜30Hzにおけるロスファクタの値が0.3程度に設定されている点でのみ異なる液体封入式防振装置を実施例と同じ条件で設置した床構造を準備した。この試験は、重量床衝撃音の測定に使用する加振源(バングマシン)で床の複数箇所を加振し、床面の9箇所で振動加速度レベルを測定するものである。同一の1箇所での測定は3回づつ行い、測定した9箇所の中の1箇所のデータを図9〜図12に示した。図9には実施例、比較例1及び比較例2のデータが示され、図10には比較例1のデータが示され、図11には比較例2のデータが示され、図12には実施例のデータが示されている。
【0036】
図9〜図11から明らかなように、比較例2の場合には、初期に現れる加速度のピークが比較例1に比べて500gal 程度大きくなっているものの、時間の経過に伴う加速度の収束は比較例1に比べて早いことが判る。
これに対して、図9〜図12から明らかなように、実施例の場合には、初期に現れる加速度のピークが比較例1に比べて200gal 程度小さくなっており、時間の経過に伴う加速度の収束も比較例1及び比較例2に比べて早いことが判る。よって、実施例の場合には、床を歩行する際にフラフラする歩行感がなく、充分に良好な歩行感が得られることが判る。
【0037】
次に、上記実施例及び比較例1についての重量床衝撃音の遮音性能を比較するため、JIS・A1418−2「建築物の床衝撃音遮断性能の測定方法・第2部:標準重量衝撃源による方法」に則って試験を行ったところ、図13に示す結果が得られた。
図13から明らかなように、比較例1は、63Hz帯域の衝撃音レベルが89.4dBであった。これに対して、実施例は、63Hz帯域の衝撃音レベルが83.8dBであり、比較例1に比べてΔ5.6dBの大幅な衝撃音低減効果があることが判った。また、Δ5dBが床衝撃音レベルの1ランクに相当するため、実施例の遮音性能が比較例に比べて1ランク向上していることが判る。
【0038】
さらに、上記実施例及び比較例1についての軽量床衝撃音の遮音性能を比較するため、JIS・A1418−1「建築物の床衝撃音遮断性能の測定方法・第1部:標準軽量衝撃源による方法」に則って試験を行ったところ、図14に示す結果が得られた。
図14から明らかなように、比較例1は、500Hz帯域の衝撃音レベルが66.2dBであった。これに対して、実施例は、500Hz帯域の衝撃音レベルが51.9dBであり、比較例1に比べてΔ14.3dBの飛躍的な衝撃音低減効果があることが判った。また、実施例の遮音性能が比較例に比べておよそ3ランク向上していることが判る。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】本発明の実施形態に係る液体封入式防振装置の軸方向に沿う断面図である。
【図2】本発明の実施形態に係る下側仕切金具の平面図である。
【図3】図2に示す下側仕切金具の断面図であって図2におけるIII −III 線矢視断面図である。
【図4】本発明の実施形態に係る上側仕切金具の底面図である。
【図5】図4に示す下側仕切金具の断面図であって図4におけるV−V線矢視断面図である。
【図6】本発明の実施形態に係る仕切部材の平面図である。
【図7】図6に示す仕切部材の断面図であって図6のVII −VII 線矢視断面図である。
【図8】本発明の実施形態に係る液体封入式防振装置が床に設置された状態を示す説明図である。
【図9】試験における実施例、比較例1及び比較例2の床加速度と時間の関係を示すグラフである。
【図10】試験における比較例1の床加速度と時間の関係を示すグラフである。
【図11】試験における比較例2の床加速度と時間の関係を示すグラフである。
【図12】試験における実施例の床加速度と時間の関係を示すグラフである。
【図13】試験における実施例と比較例1の重量床衝撃音の測定結果を示すグラフである。
【図14】試験における実施例と比較例1の軽量床衝撃音の測定結果を示すグラフである。
【符号の説明】
【0040】
1…第1取付部材 2…ゴム弾性体 3…第2取付部材 4…ダイヤフラム
5…仕切部材 11…取付基板 11a…屈曲部 12…取付ボルト
21…凹部 25…筒状金具 31…取付金具 31a…底部
31b…円筒部 32…取付ボルト 41…保持金具 41a…基部
41b…外側筒部 45…液体室 46…主液室 47…副液室
51…下側仕切金具 51a、52a…天井壁部 51b、52b…上段壁部
51c、52c…段部 51d、52d…下段壁部
51e、52e…フランジ部 51f、52f…傾斜部 51g…上段膨出部
51h…下段膨出部 51i…下側導通孔 51j…接合凸部
52g…上側導通孔 52h…膨出部 52j…接合孔
53…上側オリフィス通路 54…下側オリフィス通路 L…液体
70…液体封入式防振装置 72…床梁 72a…L型ブラケット
74…床材 74a…床パネル 74b…連結部材
74c…パーティクルボード

【特許請求の範囲】
【請求項1】
建築構造物の床梁と床材との間に設置されて該床材を弾性支持する液体封入式防振装置であって、
前記床梁又は前記床材との接触面側に開口する凹部を有するゴム弾性体と、該ゴム弾性体の前記凹部の開口を閉塞して前記凹部との間に液体が封入された液体室を形成するダイヤフラムと、前記凹部の開口部近傍に配設されて前記液体室をオリフィス通路により相互に連通された主液室と副液室とに仕切る仕切部材と、を備え、
床の歩行振動の周波数域である10〜30Hzにおけるロスファクタが1〜10に設定されていることを特徴とする液体封入式防振装置。
【請求項2】
床の歩行振動の周波数域である10〜30Hzにおける動的ばね定数が700N/mm以上に設定されている請求項1に記載の液体封入式防振装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2006−144398(P2006−144398A)
【公開日】平成18年6月8日(2006.6.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−336454(P2004−336454)
【出願日】平成16年11月19日(2004.11.19)
【出願人】(000219602)東海ゴム工業株式会社 (1,983)
【出願人】(000198787)積水ハウス株式会社 (748)
【Fターム(参考)】