湿式摩擦板
【課題】 潤滑性能は低減させずに、摩擦面への潤滑油の回り込み量を低減させ、空転時における引き摺りトルクを大幅に低減できる湿式摩擦板を提供する。
【解決手段】 ほぼ環状のコアプレートに複数の摩擦材セグメントを固着して形成された摩擦面を有する湿式摩擦板であって、摩擦材セグメント間には、内径から外径へと貫通する溝が設けられ、溝を画成する摩擦材セグメントの円周方向の側面のコアプレート側に凹部が形成されていることを特徴としている。
【解決手段】 ほぼ環状のコアプレートに複数の摩擦材セグメントを固着して形成された摩擦面を有する湿式摩擦板であって、摩擦材セグメント間には、内径から外径へと貫通する溝が設けられ、溝を画成する摩擦材セグメントの円周方向の側面のコアプレート側に凹部が形成されていることを特徴としている。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【０００１】
本発明は、車両の自動変速機（ＡＴ）のクラッチやブレーキなどに用いられる湿式摩擦板に関する。より詳細には、湿式摩擦板の摩擦面に形成する油通路の改良に関する。
【背景技術】
【０００２】
一般に、ペーパ摩擦材からなる湿式摩擦板を用いた多板クラッチは、摩擦面に加える荷重により、伝達トルクが制御できること、また、トルク伝達時のスムースな係合ができる等の利点があり、主に、自動変速機の変速装置や、トルクコンバータ、発進クラッチに多く使用されている。
【０００３】
湿式多板クラッチは、クラッチもしくはブレーキのドラムとハブ間に摩擦板（フリクションプレート）と、セパレータプレートとが交互に配置されており、クラッチピストンの押圧と解除によりクラッチの係合と解除が行われる。
【０００４】
近年、自動車の省燃費の要求に対し自動変速機には、より効率化が要求され、自動変速機に使用される湿式多板クラッチには、空転時における一層の引き摺りトルク低減が要求されている。
【０００５】
一般に、自動変速機（ＡＴ）に用いられる湿式多板クラッチは、動力損失を軽減させるため、摩擦板の内周側から外周へと潤滑油が抜けやすいような構造とし、引きずりトルクの低減をしていることが多い。このような引き摺りトルク低減の手法としては、例えば、特許文献１に開示のものが知られている。特許文献１に開示のクラッチでは、係合時における摩擦面の潤滑油が抜け易いように油供給用の内外径方向に貫通した油通路が摩擦板に設けられている。
【０００６】
しかし、近年、燃費向上と同時に、動力性能向上をねらいとしての変速応答性向上のため、摩擦板とセパレータプレートの間のクリアランスは従来に比較して、小さくなっており、空転時において、介在する油膜による引き摺りトルクも大きくなる傾向にあった。
【０００７】
内径側から外径側に貫通する油通路に供給される油は、回転により摩擦材に引き込まれ、引き込まれた油は、摩擦板とセパレータプレートの間に入ると、なかなか排出されず、特に、摩擦板とセパレータプレート間のクリアランスが小さく、回転数の小さな領域では顕著であり、摩擦材と相手セパレータプレート間の粘性による引き摺りトルクは大きなものとなる。
【０００８】
この出願の発明に関連する先行技術文献情報としては次のものがある。
【特許文献１】特開２００２−１３０３２３
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【０００９】
一般に、空転時における引き摺りトルクは摩擦材の貼られた摩擦板の摩擦面と、相手材である金属板であるセパレータプレート間に介在するオイルの粘性抵抗により生ずる。
【００１０】
多板クラッチに供給された潤滑油は、主に摩擦板に設けられた溝より摩擦面に供給される。しかし、潤滑油量が多い場合、溝部より摩擦面に過剰のオイルが供給され、空転時における引き摺りトルクの増大を引き起こす恐れがあった。
【００１１】
従って、潤滑性能は低減させずに、摩擦面への潤滑油の過剰な回り込みを抑制することが求められていた。
【００１２】
従って、本発明の目的は、潤滑性能は低減させずに、摩擦面への潤滑油の過剰な回り込みを抑制し、空転時における引き摺りトルクを大幅に低減できる湿式摩擦板を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【００１３】
上記目的を達成するため、本発明の摩擦板は、
ほぼ環状のコアプレートに複数の摩擦材セグメントを固着して形成された摩擦面を有する湿式摩擦板であって、
摩擦材セグメント間には、内径から外径へと貫通する溝が設けられ、溝を画成する摩擦材セグメントの円周方向の側面の前記コアプレート側に凹部が形成されていることを特徴としている。
【発明の効果】
【００１４】
本発明によれば、以下のような効果が得られる。
【００１５】
内径から外径へと貫通する溝を画成する摩擦材セグメントの円周方向の側面のコアプレート側に凹部を形成したので、溝から摩擦面へ潤滑油が過剰に回り込むことを抑制できる。従って、油通路から摩擦面に引き込まれる潤滑油を低減でき、潤滑油がスムースに外径側に排出され、空転時において、引き摺りトルクの低減が可能となる。特に低回転時においては、引き摺りトルク低減の効果が大きい。
【００１６】
摩擦材セグメント側に凹みを有するセグメントにより、摩擦材セグメント間に溝を形成する。これにより、摩擦材セグメント間の溝に供給された潤滑油が過剰に摩擦面に供給されることがなくなり、空転ドラグを抑制することができる。
【００１７】
また、摩擦面より下に凹部を形成することは、摩擦材セグメントを使用する場合、容易に加工することができるという利点がある。
【実施例】
【００１８】
以下、添付図面を参照して本発明を詳細に説明する。尚、図面において同一部分は同一符号にて示してある。
【００１９】
図１は、本発明の摩擦板を備えた湿式多板クラッチ１０の軸方向部分断面図である。
【００２０】
湿式多板クラッチ１０は、軸方向の一端部で開放したほぼ円筒形のドラム、すなわちクラッチケース１と、クラッチケース１の内周に配置され、同軸上で相対回転するハブ４と、クラッチケース１の内周に設けられたスプライン８に軸方向で移動自在に配置された環状のセパレータプレート２と、ハブ４の外周に設けられたスプライン５にセパレータプレート２と軸方向で交互に配置され、摩擦材が貼着された環状の摩擦板３とからなっている。セパレータプレート２と摩擦板３とはそれぞれ複数個設けられている。
【００２１】
湿式多板クラッチ１０は、セパレータプレート２と摩擦板３とを押圧し締結させるピストン６と、セパレータプレート２及び摩擦板３を軸方向の一端で固定状態に保持するため、クラッチケース１の内周に設けられたバッキングプレート７とそれを保持する止め輪１７とを備えている。
【００２２】
図１に示すように、ピストン６は、クラッチケース１の閉口端内で軸方向摺動自在に配置されている。ピストン６の外周面とクラッチケース１の内面との間にはＯリング９が介装されている。また、ピストン６の内周面とクラッチケース１の円筒部（不図示）の外周面との間にもシール部材（不図示）が介装されている。従って、クラッチケース１の閉口端の内面とピストン６との間に油密状態の油圧室１１が画成される。
【００２３】
ハブ４に軸方向摺動自在に保持された摩擦板３は、その両面に所定の摩擦係数を有する摩擦材１２が固定されている。しかしながら、摩擦材１２は、摩擦板３の片面のみに設けることもできる。また、ハブ４には径方向に貫通した潤滑油供給口１３が設けられ、湿式多板クラッチ１０の内径側から外径側へと潤滑を供給している。
【００２４】
以上のように構成された湿式多板クラッチ１０は、次のようにクラッチの締結及び解放をする。図１の状態は、クラッチ解放状態を示しておりセパレータプレート２と摩擦板３とはそれぞれ離れている。解放状態では、不図示のリターンスプリングの付勢力により、ピストン６はクラッチケース１の閉口端側に当接している。
【００２５】
この状態でクラッチを締結するには、ピストン６とクラッチケース１との間に画成された油圧室１１に油圧を供給する。油圧の上昇に伴い、リターンスプリング（不図示）の付勢力に抗して、ピストン６は、図１において軸方向右に移動し、セパレータプレート２と摩擦板３とを密着させる。これによりクラッチが締結される。
【００２６】
締結後、クラッチを再度解放するには、油圧室１１の油圧を解除する。油圧が解除されると、ピストン６はリターンスプリング（不図示）の付勢力により、クラッチケース１の閉口端に当接する位置まで移動する。すなわち、クラッチが解放される。
【００２７】
図２は、本発明の各実施例の摩擦板３の正面図である。摩擦板３は、ハブ４のスプライン５に係合するスプライン２０ａを内径に備えた環状のコアプレート２０に、複数の摩擦材セグメント１２を周方向等配に固着して形成されている。摩擦材セグメント１２間には、溝２１（３１）が画成されている。複数の摩擦材セグメント１２で摩擦面３５を形成している。図２では、摩擦材セグメント１２は全て同一の形状であるが、異形状のものを固着することもできる。
【００２８】
（第１実施例）
図３は、本発明の第１実施例を示す、周方向に沿った摩擦板３の部分断面図である。摩擦板３は、コアプレート２０上に複数の摩擦材セグメント１２を接着剤などで固着して形成されている。
【００２９】
摩擦材セグメント１２間には、内径から外径へと貫通する溝２１が設けられ、溝２１を画成する摩擦材セグメント１２の円周方向の側面２２には、コアプレート２０側に凹部が形成されている。
【００３０】
凹部は、側面２２から摩擦材セグメント１２の内部へ向かって傾斜するテーパ部２３として形成されている。図３から分かるように、溝２１のコアプレート２０側の周方向幅は、溝２１の開口部２６の周方向幅より大きくなっている。テーパ部２３が互いに対向して溝２１を画成している。
【００３１】
従って、狭くなった開口部２６が溝２１内の潤滑油を溝内に保持し、潤滑油が開口部２６を介して摩擦面３５に過剰に供給する、すなわち回り込むことを抑制する。このとき、溝２１は内径から外径へと貫通しているので、潤滑油は内径から外径へと、すなわち湿式多板クラッチ１０の係合要素方向にスムースに流れ、クラッチを潤滑する性能も良好である。
【００３２】
（第２実施例）
図４は、本発明の第２実施例を示す、周方向に沿った摩擦板３の部分断面図である。第１実施例と同様に摩擦板３は、コアプレート２０上に複数の摩擦材セグメント１２を接着剤などで固着して形成されている。
【００３３】
第２実施例においても、摩擦材セグメント１２間には、内径から外径へと貫通する溝３１が設けられ、溝３１を画成する摩擦材セグメント１２の円周方向の側面２２には、コアプレート２０側に凹部が形成されている。
【００３４】
第２実施例では、凹部は、側面２２から摩擦材セグメント１２の内部へ向かって刻設された孔として形成されている。図４から分かるように、溝３１のコアプレート２０側の周方向幅は、溝３１の開口部２６の周方向幅より大きくなっている。孔２８が互いに対向して溝３１を画成している。
【００３５】
溝１は、コアプレート２０の表面、隣接する摩擦材セグメント１２の側面２２を切削して形成された壁面２５と、壁面２５に切削されずに残った突出部２４とで構成される孔２８として形成されている。突出部２４の下面２７が、溝３１内の潤滑油が開口部２６から摩擦面３５へと過剰に回り込むことをより効果的に抑制できる。
【００３６】
第１実施例と同様に、溝３１は内径から外径へと貫通しているので、潤滑油は内径から外径へと、すなわち湿式多板クラッチ１０の係合要素方向にスムースに流れ、クラッチを潤滑する性能も良好である。
【００３７】
第１実施例と第２実施例の凹部、すなわちテーパ部２３と、壁面２５及び下面２７で形成される孔２８は、それぞれプレスによる押圧により形成されが、切削により形成することもできる。
【００３８】
上述の各実施例において、凹部としてのテーパ部２３や孔２８は、摩擦材セグメント１２をコアプレート２０に固着した後に形成することもできるが、ここでは固着前に形成している。
【００３９】
また、第１実施例のテーパ部２３と第２実施例の孔２８を、円周方向で組み合わせて形成することができる。すなわち、溝２１と溝３１を円周方向で交互に配置したりして混在させることもできる。
【００４０】
同様に、テーパ部２３と孔２８とを混在させることもできる。すなわち、溝の周方向の一面をテーパ部２３とし、他面を孔２８として形成することができる。また、コアプレート２０に固着する摩擦材セグメント１２の数や溝の数も任意に設定できることは言うまでもない。
【００４１】
摩擦材セグメント１２は、コアプレート２０に接着剤を塗布して固着するが、裏面に接着剤を塗布したシール状の摩擦材セグメント１２をコアプレート２０に載置し、押圧加熱することで固着することもできる。
【００４２】
また、上述の各実施例では、同一の周方向幅の溝２１と溝３１を設けているが、幅の異なる溝を同一のコアプレートに設けることもできる。
【図面の簡単な説明】
【００４３】
【図１】図１は、本発明の摩擦板を備えた湿式多板クラッチの軸方向部分断面図である。
【図２】本発明の各実施例の摩擦板の正面図である。
【図３】本発明の第１実施例を示す、周方向に沿った摩擦板の部分断面図である。
【図４】本発明の第２実施例を示す、周方向に沿った摩擦板の部分断面図である。
【符号の説明】
【００４４】
１ ドラム
２ セパレータプレート
３ 摩擦板
４ ハブ
５ スプライン
６ ピストン
８ スプライン
１０ 湿式多板クラッチ
１２ 摩擦材セグメント
２１ 溝
２２ 側面
２３ テーパ部
２５ 摩擦面
２８ 孔
３１ 溝
【技術分野】
【０００１】
本発明は、車両の自動変速機（ＡＴ）のクラッチやブレーキなどに用いられる湿式摩擦板に関する。より詳細には、湿式摩擦板の摩擦面に形成する油通路の改良に関する。
【背景技術】
【０００２】
一般に、ペーパ摩擦材からなる湿式摩擦板を用いた多板クラッチは、摩擦面に加える荷重により、伝達トルクが制御できること、また、トルク伝達時のスムースな係合ができる等の利点があり、主に、自動変速機の変速装置や、トルクコンバータ、発進クラッチに多く使用されている。
【０００３】
湿式多板クラッチは、クラッチもしくはブレーキのドラムとハブ間に摩擦板（フリクションプレート）と、セパレータプレートとが交互に配置されており、クラッチピストンの押圧と解除によりクラッチの係合と解除が行われる。
【０００４】
近年、自動車の省燃費の要求に対し自動変速機には、より効率化が要求され、自動変速機に使用される湿式多板クラッチには、空転時における一層の引き摺りトルク低減が要求されている。
【０００５】
一般に、自動変速機（ＡＴ）に用いられる湿式多板クラッチは、動力損失を軽減させるため、摩擦板の内周側から外周へと潤滑油が抜けやすいような構造とし、引きずりトルクの低減をしていることが多い。このような引き摺りトルク低減の手法としては、例えば、特許文献１に開示のものが知られている。特許文献１に開示のクラッチでは、係合時における摩擦面の潤滑油が抜け易いように油供給用の内外径方向に貫通した油通路が摩擦板に設けられている。
【０００６】
しかし、近年、燃費向上と同時に、動力性能向上をねらいとしての変速応答性向上のため、摩擦板とセパレータプレートの間のクリアランスは従来に比較して、小さくなっており、空転時において、介在する油膜による引き摺りトルクも大きくなる傾向にあった。
【０００７】
内径側から外径側に貫通する油通路に供給される油は、回転により摩擦材に引き込まれ、引き込まれた油は、摩擦板とセパレータプレートの間に入ると、なかなか排出されず、特に、摩擦板とセパレータプレート間のクリアランスが小さく、回転数の小さな領域では顕著であり、摩擦材と相手セパレータプレート間の粘性による引き摺りトルクは大きなものとなる。
【０００８】
この出願の発明に関連する先行技術文献情報としては次のものがある。
【特許文献１】特開２００２−１３０３２３
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【０００９】
一般に、空転時における引き摺りトルクは摩擦材の貼られた摩擦板の摩擦面と、相手材である金属板であるセパレータプレート間に介在するオイルの粘性抵抗により生ずる。
【００１０】
多板クラッチに供給された潤滑油は、主に摩擦板に設けられた溝より摩擦面に供給される。しかし、潤滑油量が多い場合、溝部より摩擦面に過剰のオイルが供給され、空転時における引き摺りトルクの増大を引き起こす恐れがあった。
【００１１】
従って、潤滑性能は低減させずに、摩擦面への潤滑油の過剰な回り込みを抑制することが求められていた。
【００１２】
従って、本発明の目的は、潤滑性能は低減させずに、摩擦面への潤滑油の過剰な回り込みを抑制し、空転時における引き摺りトルクを大幅に低減できる湿式摩擦板を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【００１３】
上記目的を達成するため、本発明の摩擦板は、
ほぼ環状のコアプレートに複数の摩擦材セグメントを固着して形成された摩擦面を有する湿式摩擦板であって、
摩擦材セグメント間には、内径から外径へと貫通する溝が設けられ、溝を画成する摩擦材セグメントの円周方向の側面の前記コアプレート側に凹部が形成されていることを特徴としている。
【発明の効果】
【００１４】
本発明によれば、以下のような効果が得られる。
【００１５】
内径から外径へと貫通する溝を画成する摩擦材セグメントの円周方向の側面のコアプレート側に凹部を形成したので、溝から摩擦面へ潤滑油が過剰に回り込むことを抑制できる。従って、油通路から摩擦面に引き込まれる潤滑油を低減でき、潤滑油がスムースに外径側に排出され、空転時において、引き摺りトルクの低減が可能となる。特に低回転時においては、引き摺りトルク低減の効果が大きい。
【００１６】
摩擦材セグメント側に凹みを有するセグメントにより、摩擦材セグメント間に溝を形成する。これにより、摩擦材セグメント間の溝に供給された潤滑油が過剰に摩擦面に供給されることがなくなり、空転ドラグを抑制することができる。
【００１７】
また、摩擦面より下に凹部を形成することは、摩擦材セグメントを使用する場合、容易に加工することができるという利点がある。
【実施例】
【００１８】
以下、添付図面を参照して本発明を詳細に説明する。尚、図面において同一部分は同一符号にて示してある。
【００１９】
図１は、本発明の摩擦板を備えた湿式多板クラッチ１０の軸方向部分断面図である。
【００２０】
湿式多板クラッチ１０は、軸方向の一端部で開放したほぼ円筒形のドラム、すなわちクラッチケース１と、クラッチケース１の内周に配置され、同軸上で相対回転するハブ４と、クラッチケース１の内周に設けられたスプライン８に軸方向で移動自在に配置された環状のセパレータプレート２と、ハブ４の外周に設けられたスプライン５にセパレータプレート２と軸方向で交互に配置され、摩擦材が貼着された環状の摩擦板３とからなっている。セパレータプレート２と摩擦板３とはそれぞれ複数個設けられている。
【００２１】
湿式多板クラッチ１０は、セパレータプレート２と摩擦板３とを押圧し締結させるピストン６と、セパレータプレート２及び摩擦板３を軸方向の一端で固定状態に保持するため、クラッチケース１の内周に設けられたバッキングプレート７とそれを保持する止め輪１７とを備えている。
【００２２】
図１に示すように、ピストン６は、クラッチケース１の閉口端内で軸方向摺動自在に配置されている。ピストン６の外周面とクラッチケース１の内面との間にはＯリング９が介装されている。また、ピストン６の内周面とクラッチケース１の円筒部（不図示）の外周面との間にもシール部材（不図示）が介装されている。従って、クラッチケース１の閉口端の内面とピストン６との間に油密状態の油圧室１１が画成される。
【００２３】
ハブ４に軸方向摺動自在に保持された摩擦板３は、その両面に所定の摩擦係数を有する摩擦材１２が固定されている。しかしながら、摩擦材１２は、摩擦板３の片面のみに設けることもできる。また、ハブ４には径方向に貫通した潤滑油供給口１３が設けられ、湿式多板クラッチ１０の内径側から外径側へと潤滑を供給している。
【００２４】
以上のように構成された湿式多板クラッチ１０は、次のようにクラッチの締結及び解放をする。図１の状態は、クラッチ解放状態を示しておりセパレータプレート２と摩擦板３とはそれぞれ離れている。解放状態では、不図示のリターンスプリングの付勢力により、ピストン６はクラッチケース１の閉口端側に当接している。
【００２５】
この状態でクラッチを締結するには、ピストン６とクラッチケース１との間に画成された油圧室１１に油圧を供給する。油圧の上昇に伴い、リターンスプリング（不図示）の付勢力に抗して、ピストン６は、図１において軸方向右に移動し、セパレータプレート２と摩擦板３とを密着させる。これによりクラッチが締結される。
【００２６】
締結後、クラッチを再度解放するには、油圧室１１の油圧を解除する。油圧が解除されると、ピストン６はリターンスプリング（不図示）の付勢力により、クラッチケース１の閉口端に当接する位置まで移動する。すなわち、クラッチが解放される。
【００２７】
図２は、本発明の各実施例の摩擦板３の正面図である。摩擦板３は、ハブ４のスプライン５に係合するスプライン２０ａを内径に備えた環状のコアプレート２０に、複数の摩擦材セグメント１２を周方向等配に固着して形成されている。摩擦材セグメント１２間には、溝２１（３１）が画成されている。複数の摩擦材セグメント１２で摩擦面３５を形成している。図２では、摩擦材セグメント１２は全て同一の形状であるが、異形状のものを固着することもできる。
【００２８】
（第１実施例）
図３は、本発明の第１実施例を示す、周方向に沿った摩擦板３の部分断面図である。摩擦板３は、コアプレート２０上に複数の摩擦材セグメント１２を接着剤などで固着して形成されている。
【００２９】
摩擦材セグメント１２間には、内径から外径へと貫通する溝２１が設けられ、溝２１を画成する摩擦材セグメント１２の円周方向の側面２２には、コアプレート２０側に凹部が形成されている。
【００３０】
凹部は、側面２２から摩擦材セグメント１２の内部へ向かって傾斜するテーパ部２３として形成されている。図３から分かるように、溝２１のコアプレート２０側の周方向幅は、溝２１の開口部２６の周方向幅より大きくなっている。テーパ部２３が互いに対向して溝２１を画成している。
【００３１】
従って、狭くなった開口部２６が溝２１内の潤滑油を溝内に保持し、潤滑油が開口部２６を介して摩擦面３５に過剰に供給する、すなわち回り込むことを抑制する。このとき、溝２１は内径から外径へと貫通しているので、潤滑油は内径から外径へと、すなわち湿式多板クラッチ１０の係合要素方向にスムースに流れ、クラッチを潤滑する性能も良好である。
【００３２】
（第２実施例）
図４は、本発明の第２実施例を示す、周方向に沿った摩擦板３の部分断面図である。第１実施例と同様に摩擦板３は、コアプレート２０上に複数の摩擦材セグメント１２を接着剤などで固着して形成されている。
【００３３】
第２実施例においても、摩擦材セグメント１２間には、内径から外径へと貫通する溝３１が設けられ、溝３１を画成する摩擦材セグメント１２の円周方向の側面２２には、コアプレート２０側に凹部が形成されている。
【００３４】
第２実施例では、凹部は、側面２２から摩擦材セグメント１２の内部へ向かって刻設された孔として形成されている。図４から分かるように、溝３１のコアプレート２０側の周方向幅は、溝３１の開口部２６の周方向幅より大きくなっている。孔２８が互いに対向して溝３１を画成している。
【００３５】
溝１は、コアプレート２０の表面、隣接する摩擦材セグメント１２の側面２２を切削して形成された壁面２５と、壁面２５に切削されずに残った突出部２４とで構成される孔２８として形成されている。突出部２４の下面２７が、溝３１内の潤滑油が開口部２６から摩擦面３５へと過剰に回り込むことをより効果的に抑制できる。
【００３６】
第１実施例と同様に、溝３１は内径から外径へと貫通しているので、潤滑油は内径から外径へと、すなわち湿式多板クラッチ１０の係合要素方向にスムースに流れ、クラッチを潤滑する性能も良好である。
【００３７】
第１実施例と第２実施例の凹部、すなわちテーパ部２３と、壁面２５及び下面２７で形成される孔２８は、それぞれプレスによる押圧により形成されが、切削により形成することもできる。
【００３８】
上述の各実施例において、凹部としてのテーパ部２３や孔２８は、摩擦材セグメント１２をコアプレート２０に固着した後に形成することもできるが、ここでは固着前に形成している。
【００３９】
また、第１実施例のテーパ部２３と第２実施例の孔２８を、円周方向で組み合わせて形成することができる。すなわち、溝２１と溝３１を円周方向で交互に配置したりして混在させることもできる。
【００４０】
同様に、テーパ部２３と孔２８とを混在させることもできる。すなわち、溝の周方向の一面をテーパ部２３とし、他面を孔２８として形成することができる。また、コアプレート２０に固着する摩擦材セグメント１２の数や溝の数も任意に設定できることは言うまでもない。
【００４１】
摩擦材セグメント１２は、コアプレート２０に接着剤を塗布して固着するが、裏面に接着剤を塗布したシール状の摩擦材セグメント１２をコアプレート２０に載置し、押圧加熱することで固着することもできる。
【００４２】
また、上述の各実施例では、同一の周方向幅の溝２１と溝３１を設けているが、幅の異なる溝を同一のコアプレートに設けることもできる。
【図面の簡単な説明】
【００４３】
【図１】図１は、本発明の摩擦板を備えた湿式多板クラッチの軸方向部分断面図である。
【図２】本発明の各実施例の摩擦板の正面図である。
【図３】本発明の第１実施例を示す、周方向に沿った摩擦板の部分断面図である。
【図４】本発明の第２実施例を示す、周方向に沿った摩擦板の部分断面図である。
【符号の説明】
【００４４】
１ ドラム
２ セパレータプレート
３ 摩擦板
４ ハブ
５ スプライン
６ ピストン
８ スプライン
１０ 湿式多板クラッチ
１２ 摩擦材セグメント
２１ 溝
２２ 側面
２３ テーパ部
２５ 摩擦面
２８ 孔
３１ 溝
【特許請求の範囲】
【請求項１】
ほぼ環状のコアプレートに複数の摩擦材セグメントを固着して形成された摩擦面を有する湿式摩擦板であって、
前記摩擦材セグメント間には、内径から外径へと貫通する溝が設けられ、前記溝を画成する前記摩擦材セグメントの円周方向の側面の前記コアプレート側に凹部が形成されていることを特徴とする湿式摩擦板。
【請求項２】
前記凹部は、プレスによる押圧により形成されていることを特徴とする請求項１に記載の湿式摩擦板。
【請求項３】
前記凹部は、切削により形成されていることを特徴とする請求項１に記載の湿式摩擦板。
【請求項４】
前記凹部は、前記側面から前記摩擦材セグメント内部へ向かって傾斜するテーパ部であることを特徴とする請求項１乃至３の何れか１項に記載の湿式摩擦材。
【請求項５】
前記凹部は、前記側面から前記摩擦材セグメント内部へ向かって刻設された孔であることを特徴とする請求項１乃至３の何れか１項に記載の湿式摩擦材。
【請求項１】
ほぼ環状のコアプレートに複数の摩擦材セグメントを固着して形成された摩擦面を有する湿式摩擦板であって、
前記摩擦材セグメント間には、内径から外径へと貫通する溝が設けられ、前記溝を画成する前記摩擦材セグメントの円周方向の側面の前記コアプレート側に凹部が形成されていることを特徴とする湿式摩擦板。
【請求項２】
前記凹部は、プレスによる押圧により形成されていることを特徴とする請求項１に記載の湿式摩擦板。
【請求項３】
前記凹部は、切削により形成されていることを特徴とする請求項１に記載の湿式摩擦板。
【請求項４】
前記凹部は、前記側面から前記摩擦材セグメント内部へ向かって傾斜するテーパ部であることを特徴とする請求項１乃至３の何れか１項に記載の湿式摩擦材。
【請求項５】
前記凹部は、前記側面から前記摩擦材セグメント内部へ向かって刻設された孔であることを特徴とする請求項１乃至３の何れか１項に記載の湿式摩擦材。
【図１】
【図２】
【図３】
【図４】
【図２】
【図３】
【図４】
【公開番号】特開２００８−２５６０１８（Ｐ２００８−２５６０１８Ａ）
【公開日】平成２０年１０月２３日（２００８．１０．２３）
【国際特許分類】
【出願番号】特願２００７−９６４８７（Ｐ２００７−９６４８７）
【出願日】平成１９年４月２日（２００７．４．２）
【出願人】（０００１０２７８４）ＮＳＫワーナー株式会社 (149)
【Ｆターム（参考）】
【公開日】平成２０年１０月２３日（２００８．１０．２３）
【国際特許分類】
【出願日】平成１９年４月２日（２００７．４．２）
【出願人】（０００１０２７８４）ＮＳＫワーナー株式会社 (149)
【Ｆターム（参考）】
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