説明

湿気反応性組成物及び有機EL素子

【課題】 有機EL素子等の吸水剤として用いることができる、透明でありかつ吸湿性がある組成物を提供する。
【解決手段】 ポリシロキサンの主鎖の末端又は側鎖に、下式
−MXmn
(上式中、Mは2価以上の金属原子又はBもしくはP=Oより選ばれ、Xは水素、又は置換されたもしくは未置換のアルキル基、アルケニル基もしくはアルコキシ基であり、Yは置換されたもしくは未置換のアルコキシ基、シロキシ基、カルボキシル基またはジケトレートであり、mは1〜3であり、nは0〜2である)
で表される基を含有する化合物を含む湿気反応性組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、透明でかつ柔軟性のある湿気反応性組成物及びこの組成物を水分補足剤として内部に配置した有機EL素子に関する。
【背景技術】
【0002】
有機材料のエレクトロルミネッセンス(electroluminescence、以下ELと記す)を利用した有機EL素子は、陽極と陰極との間に有機電荷輸送層や有機発光層を積層させた有機層を設けてなり、低電圧直流駆動による高輝度発光が可能な発光素子として注目されている。またこの有機EL素子は、すべての材料を固体で構成することが可能であるため、フレキシブルディスプレーとして期待されている。
【0003】
一方有機EL素子は、一定期間駆動した場合、発光輝度、発光効率、発光均一性等の発光特性が初期の場合に比べて著しく劣化するという問題がある。このような発光特性の劣化の原因としては、有機EL素子内に侵入した酸素による電極の酸化、駆動時の発熱による有機材料の酸化分解、有機EL素子内に侵入した空気中の水分による電極の酸化、有機物の変性等を挙げることができる。さらに、酸素や水分の影響で構造体の界面が剥離したり、駆動時の発熱や駆動時の環境が高温であったこと等が引き金となって、各構成要素の熱膨張率の違いにより構造体の界面で応力が発生し、界面が剥離する等の構造体の機械的劣化も発光特性の劣化の原因として挙げることができる。
【0004】
このような問題を防止するため、有機EL素子を封止し、水分や酸素との接触を抑制する技術が多数検討されている。例えば、図1に示すように、基板1上に透明電極3、有機機能層4及び金属カソード電極5からなる有機EL素子を配列形成してなる画素エリアに対し、吸水剤6を内壁に貼り付けた封止キャップ2を被せ、内部を窒素ガスで満たし、さらに基板1に接着剤7で固定することにより、有機EL素子への水分の到達を防止する方法が開示されている(例えば特許文献1参照)。また、吸水剤のかわりに酸素吸収剤を用いることにより酸素の影響を低減する方法も開示されている(例えば特許文献2参照)。
【0005】
この吸水剤としてさまざまな物質が検討されてきたが、なかでも酸化バリウム(BaO)や酸化カルシウム(CaO)といったアルカリ土類金属酸化物は、シリカゲルやゼオライトのような物理的に水を吸着させる吸水剤とは異なり、化学反応により確実に水分子を捕らえることができ、高温での水分子の放出がないため広く検討されている。
【0006】
しかしながら、これらの吸水剤は無機化合物の粒子であり、素子内に貼り付けるために凹状の基板を必要とするため、素子が厚くなるといった欠点がある。また、アルカリ土類金属酸化物は不透明であるため、基板1側から表示光を取り出す、いわゆるボトムエミッション型の表示装置には適用できるものの、基板1と反対側の封止キャップ2側から表示光を取り出す、いわゆるトップエミッション型の表示装置に適用する場合には、吸水剤4によって表示光の放出が妨げられるため、吸水剤4を画素エリアにかからないように配置しなければならず、配置場所を新たに設けなければならないといった制限がある。
【0007】
このようなトップエミッション型の表示装置に吸水剤を適用するためにいくつかの提案がなされている。例えば、ポリビニルアルコールやナイロンといった透明でかつ吸水性を有するポリマーを吸水剤として適用することが容易に想像できるが、これらのポリマーは水を物理的に吸着するものであり、上記のように吸水性が十分ではない。また、トップエミッション構造の有機EL素子において、粒子状の吸水剤を光透過性が妨げられない程度に配置することが提案され(特許文献3参照)、さらに有機EL素子の発光波長よりも小さい粒径を有する吸水剤を分散させたプラスチック基板を用いることが提案されている(特許文献4参照)。ところがいずれにおいても吸水剤として無機粒子を利用しており、配置方法が困難であること、及び一次粒子まで均一に分散させることが困難であり、光の散乱による透過の低下は避けられない。
【0008】
これらの問題を解決する手段として、可視光吸収の少ない捕水膜を用いることが開示されている(特許文献5参照)。この捕水膜は、特殊な金属化合物を溶剤コーティングすることにより形成することができ、十分な透明性を持っている。しかしながら、この捕水膜をフレキシブル基板に適用しようとした場合には、低分子化合物から構成されているため柔軟性に欠けるという問題がある。またさらに、水分及び酸素の両方から素子を保護するためには、それぞれの捕捉剤を使用しなければならず、これらの配置場所はますます制限されてしまうという問題がある。
【0009】
【特許文献1】特開平9−148066号公報
【特許文献2】特開平7−169567号公報
【特許文献3】特開2001−357973号公報
【特許文献4】特開2002−56970号公報
【特許文献5】特開2003−142256号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、以上のような問題点を解決するためになされたものであって、その課題とするところは、有機EL素子等の水分や酸素の影響を受けやすい素子の水分及び/又は酸素の捕捉剤として用いることができ、透明であり光をさえぎることなく発光面側に設置することができ、さらに柔軟性がありフレキシブル基板にも適用することができる組成物を提供すること、及び長期にわたって発光特性を維持する有機EL素子を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するため、本発明によれば、ポリシロキサンの主鎖の末端又は側鎖に、下式
−MXmn
(上式中、Mは2価以上の金属原子又はBもしくはP=Oより選ばれ、
Xは水素、又は置換されたもしくは未置換のアルキル基、アルケニル基もしくはアルコキシ基であり、
Yは置換されたもしくは未置換のアルコキシ基、シロキシ基、カルボキシル基またはジケトレートであり、
mは1〜3であり、
nは0〜2である)
で表される基を含有する化合物を含む湿気反応性組成物が提供される。
【0012】
また本発明によれば、上記の湿気反応性組成物より形成されたフィルム状基材を含む吸湿性積層体が提供される。
【0013】
さらに本発明によれば、有機材料からなる有機発光材料層が互いに対向する一対の電極間に挟持されてなる積層体と、この積層体を外気から遮断する気密性構造体と、この気密性構造体内に配置された乾燥手段とを有する有機EL素子であって、前記乾燥手段が上記の湿気反応性組成物より形成されていることを特徴とする有機EL素子が提供される。
【発明の効果】
【0014】
本発明の組成物は、水分と反応する金属と、透明性、可撓性を有するポリシロキサンから構成される化合物を含有し、有機EL素子等の水分の影響を受けやすい素子の水分捕捉剤として使用することができる。またこの化合物は水分のみならず、場合によっては酸素とも反応するため、この組成物を酸素捕捉剤としても使用することができる。この組成物より形成されたフィルムは透明であるため、積層体として発光素子の発光面上に配置することができ、さらに可撓性を有するため、フレキシブルなディスプレーに使用することができる。この組成物を水分捕捉剤として配置した本発明の有機EL素子は、水分や酸素による劣化が抑制され、長期にわたって発光特性を維持することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
上記のように、本願発明の湿気反応性組成物は、ポリシロキサンの主鎖の末端又は側鎖に、下式
−MXmn
(上式中、Mは2価以上の金属原子又はBもしくはP=Oより選ばれ、
Xは水素、又は置換されたもしくは未置換のアルキル基、アルケニル基もしくはアルコキシ基であり、
Yは置換されたもしくは未置換のアルコキシ基、シロキシ基、カルボキシル基またはジケトレートであり、
mは1〜3であり、
nは0〜2である)
で表される基を含有する化合物を含む。
【0016】
好ましくは、この化合物は下式
【化1】

(上式中、各Rは同一であっても相異なっていてもよく、互いに独立に、水素、置換されたもしくは未置換の、炭素数1〜20の直鎖もしくは脂環式アルキル基もしくはアルケニル基、又は置換されたもしくは未置換の、炭素数1〜10のアリール基であり、
Zはポリシロキサンである2価の連結基であり、
各Xは同一であっても相異なっていてもよく、互いに独立に、水素、又は置換されたもしくは未置換のアルキル基、アルケニル基もしくはアルコキシ基であり、
各Yは同一であっても相異なっていてもよく、互いに独立に、置換されたもしくは未置換のアルコキシ基、シロキシ基、カルボキシル基またはジケトレートであり、
mは1〜3であり、
nは0〜2である)
で表される化合物である。
【0017】
上記化合物において、前記Rは好ましくは互いに独立に、水素、メチル基、エチル基、ブチル基、ヘキシル基、オクチル基、フェニル基、又はビニル基であり、より好ましくはメチル基又はフェニル基である。
【0018】
Zは好ましくはポリジメチルシロキサン、ポリジフェニルシロキサン、ポリフェニルメチルシロキサン又はポリトリフルオロプロピルメチルシロキサンであり、より好ましくはポリジメチルシロキサン又はポリフェニルメチルシロキサンであり、実際には末端にシラノール基を有するポリシロキサンとして、例えばGE東芝シリコーン株式会社から、YF3800、YF3057、YF3897、YF3804等が市販されている。またその分子量は組成物の物性にあわせて適宜選択することができるが、一般に200〜3,000,000である。
【0019】
Mは好ましくは、互いに独立に、Al、B、Ti又はZrであり、さらに好ましくはAl又はTiである。
【0020】
Xは好ましくは、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ヘキシル基、オクチル基等のアルキル基;メトキシ基、エトキシ基、ブトキシ基、ヘキシルオキシ基、シクロヘキシルオキシ基、オクチルオキシ基、2−エチルヘキシルオキシ基、デシルオキシ基、ラウリルオキシ基、ミリスチルオキシ基、セチルオキシ基、イソステアリルオキシ基、2−オクチルドデシル基、イソボルネオキシ基、コレステロキシ基等のアルコキシ基;ポリオキシエチレンモノラウリルエステルオキシ基、ポリオキシエチレンモノメチルエーテルオキシ基、ポリオキシプロピレンモノブチルエーテルオキシ基、ポリテトラヒドロフランモノメチルエーテルオキシ基等のポリオキシアルキレンモノアルキルエステル又はエーテルオキシ基;又はポリジメチルシロキサン骨格を有するアルコキシル基である。Xはより好ましくはオクチル基、n−オクチルオキシ基、2−エチルヘキシルオキシ基、イソステアリルオキシ基、2−オクチルドデシルオキシ基、ポリオキシエチレンモノメチルエーテルオキシ基、ポリオキシプロピレンモノブチルエーテルオキシ基、ポリテトラヒドロフランモノメチルエーテルオキシ基、又はポリジメチルシロキサン骨格を有するアルコキシル基である。このポリジメチルシロキサン骨格を有するアルコキシル基としては具体的には、チッソ株式会社製FM2221、FM2241、FM2245が挙げられる。
【0021】
Yは硬化速度及び硬化前後での組成間の相溶性を調整するために用いられる。Yは好ましくは、アルキルカルボキシル基であり、さらに好ましくは2−エチルヘキシルカルボキシレート、イソステアリルカルボキシレート、ステアリルカルボキシレート、シクロヘキサンカルボキシレート、又はナフテンカルボキシレートである。
【0022】
上記化合物は、金属部分(−MX−)とシラノール基部分(−Si−O−)を有しており、金属部分は水や酸素と速やかに反応し、シラノール基部分はこの化合物の反応性、流動性、柔軟性、相溶性を調整する。
【0023】
上記化合物は、金属化合物あるいはそのルイス塩基付加物と、シラノール基を有するポリシロキサンとの反応により形成される。この反応は、両者を混合することにより達成され、その混合割合は、金属化合物の水分と反応する部分、すなわちXmnがすべてシラノール基に消費されない程度にする。
【0024】
具体的には、金属MがAlであり、Xがオクチル基であり、Yが存在しない、すなわちnが0である場合について説明すると、下式で示すようにトリオクチルアルミニウムをシラノール基を有するポリシロキサンと反応させることにより製造される。
【0025】
【化2】

【0026】
アルキル金属化合物MXは、金属ハロゲン化物とグリニャール試薬を反応させる方法等により合成することができる。また例えば、アルキルアルミニウム化合物の場合、トリイソブチルアルミニウムとオレフィンから合成することができる。市販の化合物としては、例えばトリメチルアルミニウム、トリエチルアルミニウム、トリプロピルアルミニウム、トリブチルアルミニウム、トリヘキシルアルミニウム、トリオクチルアルミニウム、ジイソブチルアルミニウムハイドライド、ジエチルアルミニウムエトキシド等のアルミニウム化合物が東ソーファインケム株式会社又は日本アルキルアルミ株式会社から入手することができる。
【0027】
アルコキシ金属化合物は、金属ハロゲン化物に金属アルコキシドを反応させる方法、又は上記のようなアルキル金属化合物に酸素もしくはアルコールを反応させる方法により合成することができる。
【0028】
Yを有する化合物は、上記の方法で得られたアルキル金属化合物又はアルコキシ金属化合物にアルコール、シラノール及びカルボン酸等を加えることにより合成することができる。
【0029】
上記の方法で製造された湿気反応性化合物は下式に示されるように、水分と化学的に反応して水分子を捕捉する。この際、金属と結合していた基Xを放出するが、基X(式中ではオクチル基)は不活性であり、EL素子内の電極等を腐食することがない。また、有機EL素子に使用する場合には、水分との反応により生成した揮発成分が素子に影響を与える可能性があるため、炭素数の大きなX基を用いることが好ましい。
【0030】
【化3】

【0031】
また、Xがアルキル基である場合、この化合物は水分のみならず酸素とも反応するため、酸素捕捉剤としても使用することができる。この反応は下式に示されるように進行し、酸素を捕捉する。
【0032】
【化4】

【0033】
本発明の組成物は、上記シリコーン化合物に加え、未反応の金属化合物を含んでいてもよい。この金属化合物の割合は、上記シリコーン化合物1質量部に対して1000質量部以下であることが望ましい。これより多い場合には、膜としての強度が十分得られなくなったり、吸湿後に相分離し、透明性が悪くなる可能性がある。
【0034】
また本発明の組成物は、上記シリコーン化合物に加え、硬化物の物性及び未硬化物の粘度を調整するため、シラノール基を含まないポリシロキサンや充填材を含有していてもよい。このシラノール基を含まないポリシロキサンとしては、水素、置換されたもしくは未置換のアルキル基、アリル基またはアリール基を有するポリシロキサンまたはその共重合体であり、具体的にはポリジメチルシロキサン、ポリジフェニルシロキサン、ポリメチルフェニルシロキサン等を用いることができる。充填材としては、上記金属化合物と反応し得る水酸基を含む無機充填材が好ましく、シリカ、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム等の金属酸化物;窒化ホウ素、窒化アルミニウム等の窒化物;モンモリロナイト等の粘土類、又はカーボンブラック等を挙げることができる。
【0035】
本発明の組成物は、粒子状であってもよく、その粒径は透明性を損なわない限り任意に選択することができ、一般に1〜1000nmである。
【0036】
本発明の組成物は、有機EL素子等の水分の影響を受けやすい素子において水分捕捉剤として適用することができる。本発明の組成物は透明であるため、光をさえぎることなく素子の発光面、受光面側に配置することができる。また、本発明の組成物は架橋速度及び硬化速度も速いため、速硬化性のシール剤、コーティング剤としても使用することができる。
【0037】
本発明の組成物より形成したフィルムは透明であるため、積層体として各種の光学素子等に用いることができる。すなわち、本発明の第二の態様は、この組成物より形成されたフィルム状基材を含む積層体である。上記のようにこの組成物は水分を捕捉することができ、従ってこの積層体も吸湿性を示す。
【0038】
また、本発明の第三の態様は、この組成物を乾燥手段として内部に配置した有機EL素子である。この有機EL素子の構成は、図1に示す従来の有機EL素子と同様の構成をとることができ、すなわち有機材料からなる有機機能層4が互いに対向する一対の電極3及び5間に挟持されてなる積層体と、この積層体を収納して外気を遮断する気密性容器2と、この気密性容器内に配置された乾燥手段6とを有し、この乾燥手段が上記組成物より形成されている。この組成物は透明であるため、乾燥手段6を配置する位置には制限がなく、図2に示すように、水蒸気遮断性のあるプラスチックフィルム等に塗布し、電極3を覆うように皮膜6として直接貼り付けてもよい。あるいは、図3に示すように、基板1上の電極3及び5並びに有機機能層4の全体を覆うようにしてこの組成物6を配置し、さらにその上を接着剤7で覆ってもよい。
【実施例】
【0039】
実施例1
両末端にシラノール基を有するポリジメチルシロキサン(YT3807、GE-Toshiba Silicone社製)4.0gを20mLのスクリュー管内で4.0gのトリオクチルアルミニウム(Sigma Aldrich社製)のヘキサン溶液に加え、激しく攪拌し、溶液組成物を得た。
【0040】
実施例2〜17
表1に示す材料を用いて実施例1と同様にして溶液組成物を得た。なお、実施例17ではフッ素系溶剤(住友スリーエム株式会社製、HFE7200)を用いた。また化合物5〜7は以下のようにして合成した。
【0041】
化合物5(トリ(2-オクチルドデシルオキシ)アルミニウム)の合成
窒素置換した200mLのシュレンク管に、シリンジを用いてトリイソプロピルアルミニウム25%トルエン溶液(Sigma Aldrich社製)20gを加えた。さらに2−オクチルドデカンアルコール(株式会社花王製、カルコール200GD)20.5gを徐々に加えた。発熱及びブタンの発泡が観察され、無色透明溶液が得られた。生成物は取り出さず、そのまま湿気反応性組成物の調製に用いた。
【0042】
化合物6(トリ(ポリジメチルシロキサンオキシ)アルミニウム)の合成
トリイソプロピルアルミニウム25%トルエン溶液(Sigma Aldrich社製)16g、ポリジメチルシロキサン骨格を有するアルコール(チッソ株式会社製、サイラプレーンFM0411)5.0gを用いた以外は化合物5の合成と同様にして操作を行った。無色透明な溶液を得た。
【0043】
化合物7(トリ(プロピレングリコールモノブチルエーテルオキシ)アルミニウム)の合成
トリイソプロピルアルミニウム25%トルエン溶液(Sigma Aldrich社製)20g、ポリプロピレングリコールモノブチルエーテル(Sigma Aldrich社製)2.0gを用いた以外は化合物5の合成と同様にして操作を行った。無色透明な溶液を得た。
【0044】
比較例1〜4
表1に示す材料を用いて実施例1と同様にして溶液組成物を得た。
【0045】
【表1】

【0046】
吸湿性の測定
上記の溶液組成物を内径100mm×70mmの市販のポリプロピレン製のトレーに、乾燥後の固形分が1gとなるように入れ、減圧下で溶媒を留去した。得られたサンプルをトレーごと容積420mLのガラス瓶内に入れ、すぐに温湿度計(testo Co.、605-H1)を装着した金属製のふたを閉めた。ガラス瓶内の相対湿度が10%低下するまでの時間及び12時間後の相対湿度を測定した。室温は25℃であった。この測定結果を表2に示す。
【0047】
透過性の測定
日立製Spectorophotometer U-4000を用いて透過率を測定した。測定用のサンプルは上記の溶液組成物を市販のポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム(ルミラーT-60、厚み50μm、東レ製)上に窒素雰囲気でナイフコーターを用いて塗布し作成した。乾燥後の膜厚は50μmであった。得られたフィルムを30mm×40mmのサイズに切り取り、相対湿度50%の空気中に25℃で3日間放置し、十分硬化したものを用いた。解析ではPETフィルムをベースラインとした。波長域400nm〜800nmの範囲の最低透過率を表2に示す。
【0048】
可撓性の測定
上記で用いたフィルムを鉄棒(R=10mm)に沿って曲げ、目視により観察した。10回すり返した。表2に示すように、実施例1〜17のフィルム表面にはクラックの発生はまったく見られなかった。
【0049】
【表2】

【0050】
上記表2に示す結果から明らかなように、実施例1〜17の組成物は十分な湿気反応性を有し、水分捕捉剤として使用することができる。また、これらの組成物から形成したフィルムは十分な可撓性も有している。さらには、可視光域において十分な透明性を有している。一方、比較例1及び2の組成物では、吸湿後には非常にもろく、曲げることは困難であった。また、塗布直後は透明であったが、12時間放置後には白化した。比較例3及び4では、相分離するため透明性が悪く、吸湿しても硬化しないため、液状であった。
【0051】
実施例18(有機EL素子の製造)
図1に示すように、基板1としてガラス基板を用い、ITO膜付ガラス基板(山容真空社製、ITO膜厚150nm、シート抵抗<14Ω/□、ガラス厚み0.7mm、外形寸法40mm×40mm)をフォトリソグラフィー法によりパタニングし、基板上に電極3としてITO電極パタンを形成した。この基板を溶媒洗浄により表面洗浄を行った後、ITO電極3上に有機機能層4及び金属電極層5を真空蒸着法により製膜した。この真空蒸着層の蒸着速度及び厚さは、水晶振動子を用いた膜厚センサー(INFICON社製、IC6000)を用いて監視した。真空槽の背景圧力はおよそ1×10-7トルであった。
【0052】
有機機能層4は以下に示す3種類の有機低分子から構成され、総膜厚t=130nmであった。まず、ITO電極3の上に、正孔注入層として厚さ15nmの銅フタロシアニン(CuPc)を蒸着した。次にCuPuの上に正孔輸送層として厚さ55nmのビス[N−(1-ナフチル)-N-フェニル]ベンジジン(NPD)を蒸着した。次いでNPDの上に電子輸送兼発光層として厚さ60nmのトリス(8−ヒドロキシキノリナト)アルミニウム(III)(Alq3)を蒸着した。蒸着速度はいずれの材料もすべて約3Å/s程度であった。これらの有機材料は新日鉄化学株式会社製のものを用いた。
【0053】
このAlq3上に金属電極層5を真空蒸着法により製膜した。この金属電極層5は以下に示す2種類の無機材料から構成され、総膜厚t=101nmであった。まず、電子注入層として厚さ1nmのフッ化リチウム(フルウチ化学社製、99.99%)を蒸着した。次にフッ化リチウム上に電極金属として厚さ100nmのアルミニウム(高純度化成社製、99.99%)を蒸着した。蒸着速度はフッ化リチウムが約0.3Å/s、アルミニウムが約5Å/sであった。
【0054】
次に、封止キャップ2(ガラス製、外形寸法40mm×40mm、厚み3mm、凹部内寸法40mm×40mm、深さ1.5mm)の凹部内に実施例1で調製した湿気反応性組成物62.5wt%含有溶液を、水分及び酸素を極力取り除いた窒素ガスによる不活性雰囲気下で塗布乾燥した。こうして乾燥手段としての吸水剤6として、透明な厚さ約0.5mmの湿気反応性組成物の膜を封止キャップ2内に形成した。
【0055】
この封止部材と上記の有機EL素子を、水分及び酸素を極力取り除いた窒素ガスによる不活性雰囲気下で対向させ、接着剤7として二液型硬化性エポキシ樹脂(コニシ社製、ボンドクイック5)を塗布乾燥して有機EL素子を密封した。
【0056】
この有機EL素子について、25℃、湿度50%の大気中にて保存試験を行った。まず、封止後、この有機EL素子を不活性雰囲気から大気中に取り出し、ITO電極3を陽極に、金属電極5を陰極として9V程度の直流電圧を印加しながらCCDカメラを接続した光学顕微鏡(オリンパス社製、BX60)にて観察し、撮影した有機EL素子の発光写真像より発光部に対する初期非発光面積の割合を算出した。本実施例の有機EL素子では非発光部分は見られなかった。
【0057】
次に、この有機EL素子を25℃、湿度50%の大気中で3600時間保存し、初期非発光面積の算出と同様の方法で非発光面積の割合を算出した。本実施例の有機EL素子における3600時間保存後の発光面積は初期発光面積と同じであり、非発光面積の増加率は0%であった。この結果は、本実施例の湿気反応性組成物が封止接着部材7を透過して封止キャップ2内に侵入してくる水分や酸素を効果的に取り込み、有機EL素子の劣化を抑制する効果があることを示している。
【0058】
比較例5
実施例18における有機EL素子に、乾燥手段6としての湿気反応性組成物の膜を用いず、封止キャップ2のみを前記有機EL素子と対向するようにして二液型エポキシ樹脂で密封した。この有機EL素子について、実施例18と同様の方法で有機EL素子の初期発光面積を測定した。本比較例の有機EL素子における初期非発光面積の割合は3.1%であり、封止直後から劣化していた。次に、この有機EL素子を25℃、湿度50%の大気中で3600時間保存し、実施例18と同様の方法で保存後の非発光部分の割合を算出した。本比較例の有機EL素子における3600時間保存後の非発光面積の割合は91.3%であり、非発光面積の増加率は295%と非常に高い値を示した。この結果は、封止接着部材7を透過して封止キャップ2内に侵入する水分や酸素が存在し、有機EL素子の劣化を引き起こしてしまうことを示している。
【0059】
比較例6
乾燥手段としてBaO(フルウチ化成製、粒状、99.9%)を用いた以外は実施例18と同様な方法で有機EL素子を調製した。BaOは乳鉢で粒子を十分に砕いた後、両面テープ(3M社製、ST-415)を用いて封止キャップ2の凹部に固定した。この有機EL素子について、実施例18と同様の方法で有機EL素子の初期発光面積を測定した。本比較例の有機EL素子における初期非発光面積の割合は0.1%であった。次に、この有機EL素子を25℃、湿度50%の大気中で3600時間保存し、実施例18と同様の方法で保存後の非発光部分の割合を算出した。本比較例の有機EL素子における3600時間保存後の非発光面積の割合は0.1%であった。非発光面積の増加率は0%であり、実施例18と同等であった。
【0060】
比較例7
乾燥手段としてアルミニウムオキサイドオクチレート(ホープ製薬社製、液状オリープAOO)を用いた以外は実施例18と同様な方法で有機EL素子を調製した。AOOの48wt%含有溶液を、水分及び酸素を極力取り除いた窒素ガスによる不活性雰囲気下で封止キャップ2の凹部内部に塗布乾燥した。乾燥後のAOO膜の厚みは約0.5mmであった。この有機EL素子について、実施例18と同様の方法で有機EL素子の初期発光面積を測定した。本比較例の有機EL素子における初期非発光面積の割合は0.4%であった。次に、この有機EL素子を25℃、湿度50%の大気中で3600時間保存し、実施例18と同様の方法で保存後の非発光部分の割合を算出した。本比較例の有機EL素子における3600時間保存後の非発光面積の割合は6.5%であった。非発光面積の増加率は163%であり、実施例18よりも高い値を示した。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】本発明及び従来の有機EL素子の構造を模式的に示す断面図である。
【図2】本発明の有機EL素子の構造を模式的に示す断面図である。
【図3】本発明の有機EL素子の構造を模式的に示す断面図である。
【符号の説明】
【0062】
1 基板
2 封止キャップ
3 電極
4 有機機能層
5 電極
6 吸水剤
7 封止接着剤

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリシロキサンの主鎖の末端又は側鎖に、下式
−MXmn
(上式中、Mは2価以上の金属原子又はBもしくはP=Oより選ばれ、
Xは水素、又は置換されたもしくは未置換のアルキル基、アルケニル基もしくはアルコキシ基であり、
Yは置換されたもしくは未置換のアルコキシ基、シロキシ基、カルボキシル基またはジケトレートであり、
mは1〜3であり、
nは0〜2である)
で表される基を含有する化合物を含む湿気反応性組成物。
【請求項2】
前記化合物が下式
【化1】

(上式中、各Rは同一であっても相異なっていてもよく、互いに独立に、水素、置換されたもしくは未置換の、炭素数1〜20の直鎖もしくは脂環式アルキル基もしくはアルケニル基、又は置換されたもしくは未置換の、炭素数1〜10のアリール基であり、
Zはポリシロキサンである2価の連結基であり、
各Xは同一であっても相異なっていてもよく、互いに独立に、水素、又は置換されたもしくは未置換のアルキル基、アルケニル基もしくはアルコキシ基であり、
各Yは同一であっても相異なっていてもよく、互いに独立に、置換されたもしくは未置換のアルコキシ基、シロキシ基、カルボキシル基またはジケトレートであり、
mは1〜3であり、
nは0〜2である)
で表される、請求項1記載の湿気反応性組成物。
【請求項3】
前記MがAl、B、Ti又はZrより選ばれる、請求項1又は2記載の湿気反応性組成物。
【請求項4】
Rがメチル基又はフェニル基であり、かつ前記Zがポリジメチルシロキサン又はポリフェニルメチルシロキサンである、請求項2又は3記載の湿気反応性組成物。
【請求項5】
前記Xが炭素数1〜20のアルキル基である、請求項1〜4のいずれか1項に記載の湿気反応性組成物。
【請求項6】
前記Xが炭素数8〜1000のアルコキシ基である、請求項1〜4のいずれか1項に記載の湿気反応性組成物。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項に記載の湿気反応性組成物より形成されたフィルム状基材を含む吸湿性積層体。
【請求項8】
有機材料からなる有機発光材料層が互いに対向する一対の電極間に挟持されてなる積層体と、この積層体を外気から遮断する気密性構造体と、この気密性構造体内に配置された乾燥手段とを有する有機EL素子であって、前記乾燥手段が請求項1記載の湿気反応性組成物より形成されていることを特徴とする有機EL素子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−241273(P2006−241273A)
【公開日】平成18年9月14日(2006.9.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−57523(P2005−57523)
【出願日】平成17年3月2日(2005.3.2)
【出願人】(599056437)スリーエム イノベイティブ プロパティズ カンパニー (1,802)
【Fターム(参考)】