説明

火花点火式エンジンの点火制御装置

【課題】火花点火式の直噴エンジンEにおいて、シリンダC毎にセンタープラグ16の他に、冷却の難しいサイドプラグ18を設けた場合でも、熱害によるエンジンの信頼性低下やプレイグニッションを抑制する。
【解決手段】エンジンEの低ないし中回転域において、燃焼性向上のためにセンター及びサイドプラグ16,18により、位相差を持たせて混合気に点火するときに、サイドプラグ18及びその周辺が高温の火炎に曝される時間ができるだけ短くなるよう、その点火時期を相対的に遅角側に制御する(ステップS6)。燃料の推定オクタン価が91ron未満であり、かつ吸気温度が所定以上に高いときにはセンタープラグ16のみの点火とする(S7)。高回転域においてもセンタープラグ16のみの点火とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は火花点火式エンジンの点火制御装置に関し、特に、気筒毎に複数の点火プラグを設けたものに係る。
【背景技術】
【0002】
従来より、火花点火式エンジンにおいて気筒毎に複数の点火プラグを設けることは知られており、例えば特許文献1に記載の2点点火内燃機関では、気筒内の燃焼室に臨む2つの吸気ポート開口部にそれぞれ対応するように、2つの点火プラグを配設している。そして、一方の吸気ポートにのみEGRガスを還流させ、この吸気ポートに対応する点火プラグによりEGRガスの多く含まれる混合気に先に点火することによって、燃焼性を確保するようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−009661号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、昨今の火花点火式エンジンにおいては気筒毎に吸気弁及び排気弁を2つずつ設けた、所謂4バルブのものが一般的であり、また、気筒内の燃焼室に燃料を直接、噴射する直噴タイプのものも実用化が進んでいる。4バルブ化によって吸気抵抗を低減しやすくなるとともに、気筒の吸気行程で噴射する燃料の気化潜熱によって吸気が冷却されて、その充填効率が向上する。
【0005】
そのような4バルブ直噴エンジンでは、燃焼室の天井部に開口する4つの吸排気ポートに囲まれて、その中央付近に点火プラグ(センター点火プラグ)が配設されるとともに、比較的熱負荷の少ない吸気側の周縁部には燃料噴射弁が配設されるので、そこに追加する点火プラグは、燃焼室の周縁部において周方向に隣接する吸排気ポートの開口間に配設せざるを得ない(サイド点火プラグ)。
【0006】
しかしながら、気筒毎に周方向に隣接する吸排気ポートの開口間というのは、互いに隣接する気筒間であり、ここは構造上、冷却水の流れが悪くて過熱しやすいという難がある。そのため、サイド点火プラグによって混合気に点火すると、その周辺が過熱してライナーの変形やシール性の悪化等、信頼性の低下を招く虞がある。また、サイド点火プラグ自体の過熱によって混合気の自着火(プレイグニッション)が誘発される虞れもある。
【0007】
斯かる点に鑑みて本発明の目的は、冷却の難しい燃焼室の周縁部にも点火プラグを配設した場合に、前記のようなエンジンの信頼性低下やプレイグニッションを抑制することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記の目的を達成するために本発明では、燃焼性の向上のためにセンター及びサイド点火プラグの両方を点火作動させるときには、そのサイド点火プラグが高温の火炎に曝される時間ができるだけ短くなるよう、点火時期を相対的に遅角側にしたものである。
【0009】
すなわち、請求項1の発明は、気筒内の燃焼室の天井部において中央付近にセンター点火プラグを、また周縁部にサイド点火プラグをそれぞれ配設してなる火花点火式エンジンの点火制御装置を対象として、エンジンの暖機後に少なくとも低回転側の運転域において燃焼室温度の高くなる所定の条件下では、前記センター点火プラグ及びサイド点火プラグを、該サイド点火プラグが相対的に遅角側となるよう位相差を持たせて点火作動させるようにしたものである(以下、位相差点火制御ともいう)。
【0010】
斯かる構成のエンジンが暖機後に少なくとも低回転側の運転域にあって、前記の位相差点火制御が行われると、まず、センター点火プラグによって混合気に点火され、これにより生成された火炎が燃焼室周縁に向かって伝播する途中で、サイド点火プラグによる点火が行われる。こうして複数箇所で点火が行われることで、燃焼期間が全体として短縮されるとともに、ノッキングの抑制も図られる。
【0011】
しかも、サイド点火プラグによる点火が遅角側なので、その周辺が高温の火炎に曝される時間は前記のように短縮された燃焼期間の一部に過ぎない。よって、サイド点火プラグの点火作動による過熱を抑制することができ、これに起因するエンジンの信頼性の低下やサイド点火プラグの過熱によるプレイグニッションの誘発を抑制できる。
【0012】
ここで、エンジンの低回転側の運転域においても負荷や回転数、或いは吸気温度の高いときほど燃焼室温度は高くなりやすく、サイド点火プラグの点火作動に起因する弊害が起きやすいので、それらの少なくとも1つに応じて、それが高いときほどセンター及びサイド点火プラグの作動時期の位相差を大きくし、サイド点火プラグ及びその周辺が高温の火炎に曝される時間が短くなるようにするのが好ましい(請求項2)。
【0013】
また、特に燃焼室温度の高くなりやすい所定の高回転域においては、サイド点火プラグの点火作動は行わず、センター点火プラグのみによって混合気に点火するのがよい(請求項3)。特に、プレイグニッションの発生しやすい高圧縮比仕様の(幾何学的な圧縮比が12以上の)エンジンでは、供給される燃料のオクタン価が所定値未満で自着火の起きやすいとき、或いは吸気温度が所定値以上のときにも、サイド点火プラグの点火作動を行わないようにするのがよい(請求項4、5)。
【0014】
ところで、一般に火花点火式エンジンにおいては、ノッキングの発生状況に応じて点火時期を進角、遅角させる所謂ノック制御が行われ、エンジンの運転状態や吸気温度、燃料性状等、種々の要因によって点火時期が大幅に遅角されることがある。こうして点火時期を遅角させると燃焼温度が低下するので、ノッキングを抑制できるとともに、前記したサイド点火プラグの点火作動に起因する弊害も起き難くなるが、その一方で燃焼変動は大きくなってしまう。
【0015】
そこで、ノック制御によって点火時期を所定以上に遅角させたときには、本来、前記のようにセンター点火プラグのみの点火とするのがよい状況にあっても、即ち、エンジンが前記所定の高回転域にあっても、また、燃料の推定オクタン価が所定値未満であっても、或いは吸気温度が所定値以上であっても、センター及びサイド点火プラグを点火作動させることによって、燃焼安定性を確保することができる(請求項6、7)。
【0016】
さらに、例えばイオン電流センサや気筒内圧センサのようなセンサを設けて、これにより実際にプレイグニッションの発生を検知したときは、サイド点火プラグの点火作動を禁止することが好ましい(請求項8)。
【発明の効果】
【0017】
以上、説明したように本発明に係る火花点火式エンジンの点火制御装置によると、気筒内の燃焼室天井部において中央付近にセンター点火プラグを、また、周縁部にサイド点火プラグを配設し、少なくとも低回転側の運転域において基本的には両方の点火プラグによって混合気に点火するものにおいて、サイド点火プラグの点火時期をセンター点火プラグよりも遅角側とすることで、冷却の難しいサイド点火プラグ及びその周辺部が高温の火炎に曝される時間を短くして、エンジンの信頼性の低下やプレイグニッションの発生を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】実施形態に係る火花点火式エンジンの概略構成図。
【図2】シリンダ内の燃焼室の構成を概略的に示す斜視図。
【図3】#1〜#4シリンダ毎の点火プラグの配置を示す模式図。
【図4】プレイグニッションによるイオン電流の説明図。
【図5】エンジンの点火制御マップの概要を示す説明図。
【図6】点火制御の手順を示すフローチャート図。
【図7】位相差点火による燃焼室温度の低下を示すグラフ図。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。尚、以下の好ましい実施形態の説明は本質的に例示に過ぎず、本発明、その適用物或いはその用途を制限することを意図するものではない。
【0020】
−エンジンの概略構成−
図1は、本発明に係る火花点火式直噴エンジンEの概略図である。このエンジンEは、複数のシリンダC,C,…(気筒:図1には1つのみ示す)が形成されたシリンダブロック1と、その上に組み付けられたシリンダヘッド2とを備えている。個々のシリンダCには、その軸線c1(図2参照)に沿って上下に往復動するようにピストン3が収容されている。ピストン3はコネクティングロッドによって、シリンダブロック1の下部に回転自在に収容されているクランク軸4に連結されている。
【0021】
より詳しくは図2に示すように、各シリンダC毎に往復動するピストン3の上方に燃焼室5が形成されている。燃焼室5の天井部5aは、シリンダヘッド2の下面に各シリンダC毎に形成された窪みであり、図の例では、吸気側及び排気側の2つの傾斜面からなる浅い三角屋根形状とされている。つまり、この例では燃焼室5は所謂ペントルーフ型のものである。
【0022】
その天井部5aの形状に対応するように、燃焼室5の床部であるピストン3の頂面は吸排気の中央部が隆起する台形状とされ、これによりシリンダCの幾何学的圧縮比がかなり高く(一例として12以上に)設定されている。また、その隆起部において、後述するセンタープラグ16の電極に対応するように半球状のキャビティ3aが形成されており、その電極付近からの火炎の伝播をできるだけ阻害しないようになっている。
【0023】
また、前記燃焼室天井部5aの吸気側の傾斜面、即ち図2において奥側の傾斜面には、第1、第2の2つの吸気ポート6a,6bが横並びに、即ちクランク軸方向に並んで開口している。一方、同図には手前側に開口部のみを示すが、燃焼室天井部5aの排気側傾斜面にも同様に2つの排気ポート7,7が横並びに開口している。
【0024】
そうして燃焼室5に臨む吸気ポート6a,6bの開口部にはそれぞれ吸気弁8,8が配設されており、そこから斜め上向きに延びた吸気ポート6a,6bは、図1にも示すようにシリンダヘッド2の側面に開口して、吸気通路10に接続されている。図3には、複数のシリンダC,C,…(図の例では#1〜#4の4つのシリンダ)への吸気通路10の連通状態を模式的に示しており、サージタンク11とシリンダC,C,…との間は、各吸気ポート6a,6b毎の分岐通路10a,10bによって個別に連通されている。
【0025】
図の例では、シリンダC毎の分岐通路10a,10bのうちの一方(図2に示す#1、#3シリンダC,Cでは左側の第1吸気ポート6aに連通する分岐通路10a)に、シリンダC内の流動を制御するための制御弁12(Tumble Swirl Control Valve:以下、TSCVと略称する)が配設されている。このTSCV12が閉じられると吸気は第2吸気ポート6bのみから燃焼室5に流入して、スワール流を生成するようになる。
【0026】
尚、図3に示すように、この実施形態の場合、#1、#3シリンダC,CではそれぞれTSCV12がエンジンEの長手方向後側(図の左側)の吸気ポート6aに配設される一方、#2、#4シリンダC,CではTSCV12はエンジンEの前側(図の右側)の吸気ポート6aに配設されている。
【0027】
前記のように独立に設けられた一対の吸気ポート6a,6bに対し、各シリンダC毎の排気ポート7,7は下流側で一つに合流して、図1に示すように、シリンダヘッド2の排気側の側面に開口している。この排気側の側面には各シリンダC毎に分岐して排気ポート7に連通するように排気マニホールド13が接続されていて、燃焼室5から既燃ガス(排気ガス)を排出するようになっている。
【0028】
また、各シリンダC毎の2つの吸気ポート6a,6bの下方には、それらの開口部の中間に噴口を臨ませて、そこから燃焼室5の中央付近に向かって燃料を噴射するようにインジェクタ14(燃料噴射弁)が配設されている。このインジェクタ14の基端部には4つのシリンダC,C,…に共通の燃料分配管15(図1にのみ示す)が接続されていて、図示しない高圧燃料ポンプや高圧レギュレータから供給される燃料が分配されるようになっている。
【0029】
さらに、各シリンダC毎にシリンダヘッド2には、シリンダ軸線c1に沿って延びるようにセンター点火プラグ16(以下、センタープラグと略称)が配設され、その先端の電極は、4バルブエンジンの常として天井部5aの中央付近で燃焼室5に臨んでいる。一方、第1点火プラグ16の基端側には、図1にのみ示すが点火コイルユニット17が接続され、各シリンダC毎に所定のタイミングで通電するようになっている。
【0030】
そうしてセンタープラグ16を燃焼室5の中央寄りに配置して、ここで混合気に点火するようにすれば、火炎面の燃焼室壁との接触による損失を減らして、良好な火炎の伝播を実現する上で好ましい。これに加えてこの実施形態では、燃焼室5の周縁部に別の点火プラグ(サイド点火プラグ18、以下ではサイドプラグと略称)を配設し、前記のように燃焼室5中央から火炎が伝播する途中で点火作動させるようにしている。
【0031】
一例としてサイドプラグ18は、図2において左側に位置する第1吸気ポート6aと、これに対向する排気ポート7(図示せず)との間に即ち、シリンダCの周方向に隣接する2つの吸排気ポート6a,7の開口部間から燃焼室5に臨むようにして配設されている。また、図3に示すようにサイドプラグ18は、エンジンEの長手方向に隣接するシリンダC,C間に2つずつ近接して配設されていて、図示は省略する共通の点火コイルユニットに接続されている。
【0032】
そのようなサイドプラグ18の配置には以下の理由がある。すなわち、この実施形態のような4バルブ直噴エンジンでは、燃焼室5の天井部5aに4つの吸排気ポート6,…,7,…が開口し、それらに囲まれて天井部5aの中央付近にはセンタープラグ16が配設されている。また、比較的熱負荷の少ない吸気側の周縁部(図3の上側周縁部)にはインジェクタ14が配設されている。
【0033】
そして、熱負荷の高い排気側の周縁部に点火プラグを配設することは好ましくないので、結局、サイドプラグ18は、前記の如く周方向に隣接する吸排気ポート6,7の開口間に、即ち図3ではシリンダC毎の左右いずれか一側の周縁部に配設せざるを得ないのである。尚、図の例ではサイドプラグ18は、TSCV12の設けられている第1吸気ポート6aの側に位置している。これは、TSCV12によって制御されるスワール流との関係も考慮したものである。
【0034】
上述の如き構成のエンジンEにおいてTSCV12の開閉作動、インジェクタ14による燃料の噴射、センター及びサイドプラグ16,18による点火等は、エンジン・コントロールユニット(ECU)20によって制御される。このECU20には、図1に模式的に示すように、少なくとも、エンジン水温センサ21、クランク角センサ22に加えて、エアフローセンサ23、アクセル開度センサ24、車速センサ25等からの信号が入力される。
【0035】
また、図の例ではサージタンク11よりも下流の吸気通路10に吸気温度センサ26が設けられるとともに、イオン電流センサ27(図2を参照)やノックセンサ28も設けられており、これらのセンサ26〜28からの信号もECU20に入力される。ノックセンサ28は、従来周知の如くエンジンブロック1の側壁等に配設された振動センサからなり、ノッキングによるシリンダC内の共振を検出するように設けられている。
【0036】
また、イオン電流センサ27も公知のものであるが、一例として図2の右上に模式的に示すように点火コイルユニット17に内蔵され、イグニッションコイル17aの2次側に直列に接続された電源部27aと、検出回路27bとからなる。燃焼室5において混合気の着火によりイオンが発生するとセンタープラグ16の電極間を電流が流れて、検出回路27bからECU20へ信号が出力される。
【0037】
そうして検出されるイオン電流の一例を図4に示す。通常の燃焼時にはイグニッションコイル17aの1次側で電流を遮断することにより(点火)、その2次側に高電圧が発生して、センタープラグ16の電極間で火花放電が起きる(絶縁破壊)。この火花によって点火された混合気の燃焼に伴い発生するイオン(ラジカル)を媒体として、図の右側に実線で示すようにイオン電流が流れる。
【0038】
また、点火の前にイグニッションコイル17aの1次側に電圧が印加されているとき、2次側には誘導電圧が発生するので、このときにプレイグニッションが発生すると、これにより燃焼する混合気中のイオンを媒介として、図には仮想線で示すようにイオン電流が流れる。よって、点火前の所定期間においてイオン電流が検出されれば、プレイグニッションの発生を検知することができる。
【0039】
−点火制御の概要−
前記各種センサからの信号を入力してECU20は、一例として図5に示すような制御マップを参照し、エンジンEの負荷や回転数、即ち運転状態に基づいてセンター及びサイドプラグ16,18の点火制御を行う。また、ノックセンサ28からの信号によって点火時期を進角ないし遅角させて、ノッキングの発生しないぎりぎりの点火進角とする。このような周知のノック制御を行うことでECU20は、特許請求の範囲に記載のノック制御手段を構成する。
【0040】
また、図の例では例えば5500rpm未満の低回転域ないし中回転域において、センター及びサイドプラグ16,18を両方によって混合気に点火し、燃焼期間を短縮するようにしている。こうするとエンジンEの出力を向上し燃費を低減できるとともに、ノッキングの抑制も図られるが、その一方でサイドプラグ18やその周辺の過熱に起因して種々の弊害が生じる虞れがある。
【0041】
すなわち、この実施形態では、前記したように各シリンダC毎にサイドプラグ18が、燃焼室5の周縁部において周方向に隣接する吸排気ポート6,7の開口部間に配設されているが、このことは、サイドプラグ18,18が2つずつ近接してエンジンEの長手方向に互いに隣接するシリンダC,C間に位置することを意味する(図3を参照)。
【0042】
そうして互いに隣接するシリンダC,C間は構造上、冷却水の流れが悪くて過熱しやすい。よって、前記のようにセンター及びサイドの両方のプラグ16,18によって点火すると、サイドプラグ18の周辺が過熱してシリンダライナーの変形やシリンダヘッド2との間のシール性の悪化等、信頼性の低下を招く虞がある。また、サイドプラグ18自体が過熱すると混合気の自着火(プレイグニッション)を誘発する虞れがある。
【0043】
斯かる点に鑑みてこの実施形態では、前記のようにセンター及びサイドプラグ16,18によって混合気に点火する5500rpm未満の運転域において、サイドプラグ18及びその周辺が高温の火炎に曝される時間をできるだけ短くするために、サイドプラグ18をセンタープラグ16よりも遅角側で点火作動させるようにしている。また、センター及びサイドプラグ16,18の点火時期の位相差は、燃焼室5の温度が相対的に高い高負荷、高回転側ほど大きくするようにしている。
【0044】
一方、図の例では斜線を入れて示す5500rpm以上の高回転域において特に燃焼室5の温度が高くなることを考慮して、ここではサイドプラグ18の点火作動を禁止し、基本的にセンタープラグ16のみによって混合気に点火するようにしている。尚、図に破線で示す低負荷低回転側の領域ではTSCV12を閉じて、燃焼室5にスワール流が生成されるようにする。
【0045】
以下に、具体的な点火制御の手順を図6のフローチャートに基づいて説明する。まず、スタート後のステップS1では、エンジン水温センサ21、クランク角センサ22、エアフローセンサ23、アクセル開度センサ24、車速センサ25、吸気温度センサ26、イオン電流センサ27、ノックセンサ28等からの信号を入力し、続くステップS2では、エンジンEの運転状態を判定する。例えば、クランク角センサ22からの信号によりエンジン回転数を演算し、それが5500rpm未満かどうか判定する。
【0046】
その際にエンジン水温が所定以上(例えば60°C)かどうかも判定し、エンジンEが暖機後でかつ5500rpm未満の低ないし中回転域にあれば(YES)ステップS3に進む一方、高回転域にあれば(NO)後述するステップS8に進む。ステップS3では、イオン電流センサ27からの信号に基づいてプレイグニッションが発生しているか否か判定する(プレイグ発生?)。この判定がYESであれば後述のステップS7に進む一方、プレイグニッションが発生していなければ(NO)ステップS4に進み、ここでは現在の燃料のオクタン価を推定する。
【0047】
これは、前記したように公知のノック制御によって進角ないし遅角されているエンジンEの点火時期に基づいて燃料のオクタン価を推定するものであり、この推定値が所謂レギュラーガソリンに相当する91ron(所定値)以上であれば(YES)、後述のステップS6に進んで位相差点火制御を行う一方、オクタン価の推定値が91ron未満であれば(NO)ステップS5に進んで、今度は吸気温度が所定値未満か否か判定する(吸気温低い?)。
【0048】
そして、吸気温度が所定以上に高く、判定がNOであれば後述のステップS7に進む一方で、吸気温度がそれほど高くないときには(判定はYES)ステップS6に進んで、前記ノック制御によって適切に補正されている点火時期にセンタープラグ16を点火作動させるとともに、その後、所定の位相差を持ってサイドプラグ18も点火作動させて(位相差点火制御)、リターンする。
【0049】
つまり、暖機後のエンジンEが低ないし中回転域にあるときには、プレイグニッションが発生しておらず、燃料性状が許容範囲にあり、しかも、吸気温度もそれほど高くはないという所定条件の成立に応じて、センター及びサイドプラグ16,18の位相差点火制御を実行し、これにより燃焼期間の短縮するとともにノッキングの抑制を図る。
【0050】
そうしてサイドプラグ18による点火を遅角側とすれば、その周辺が高温の火炎に曝される時間は、前記のように短縮された燃焼期間の一部になり、サイドプラグ18及びその周辺の過熱を抑制することができる。しかも、2つのプラグ16,18の点火時期の位相差はエンジンEの高負荷、高回転側ほど、即ち、より燃焼室5の温度が高くなりやすい条件下で大きくなるから、より高い効果が得られる。
【0051】
一方、前記のステップS3でYES、即ちプレイグニッションが発生していると判定したとき、或いは前記ステップS4、S5の両方でYES、即ち、燃料性状が許容範囲外であってかつ吸気温度が所定以上に高いと判定したときには、ステップS7に進んでセンタープラグ16のみの1点点火とし、リターンする。
【0052】
すなわち、実際にプレイグニッションが発生していれば直ちにサイドプラグ18の点火作動を禁止することによって、それ以上はプレイグニッションが起きないようにするとともに、プレイグニッションの発生する可能性が極めて高い悪条件下においては、予めセンタープラグ16のみの1点点火とすることで、それを未然に防止するのである。
【0053】
同様に燃焼室5の温度がかなり高くなる5500rpm以上の高回転域では、前記ステップS2でNOと判定してステップS8に進み、今度は点火時期が所定以上に大きく遅角されているかどうか(大リタード)判定する。これは、ノック制御による点火時期の遅角量について判定するものであり、遅角量がそれほど大きくなければ(NO)前記ステップS7に進んで、センタープラグ16のみの1点点火とする。こうすることで、燃焼室5の温度がかなり高くなる高回転域においても、サイドプラグ18及びその周辺の過熱を抑制することができる。
【0054】
一方、前記ステップS8の判定がYESであり、ノック制御により点火時期が所定以上に大きく遅角されているときには、前記のステップS6に進んでセンター及びサイドプラグ16,18による位相差点火制御を実行する。これは、ノック制御によって点火時期が大きく遅角されているときには、燃焼温度が低下するのでサイドプラグ18及びその周辺も過熱し難くなる一方で、燃焼変動は大きくなることを考慮して、センター及びサイドの2点点火により燃焼安定性を確保するものである。
【0055】
前記図6のフローにおいてステップS3は、プレイグニッションが発生しているか否か判定するもので、ステップS5は、供給される燃料のオクタン価を推定するものである。これらのステップを実行することでECU20は、特許請求の範囲に記載のプレイグ検知手段や燃料性状推定手段を構成する。
【0056】
また、ステップS2〜S6は、エンジン暖機後の低ないし中回転域において所定の条件が満たされればセンター及びサイドプラグ16,18を、該サイドプラグ18が相対的に遅角側となるよう位相差を持たせて点火作動させる、という位相差点火制御の手順を表している。この制御手順を実行することでECU20は、特許請求の範囲に記載の位相差制御手段を構成する。
【0057】
さらに、ステップS3でYESと判定してステップS7に進む制御手順を実行するとき、ECU20は、プレイグニッションが検知されたときにサイドプラグ18の点火作動を禁止するサイド点火禁止手段を構成する。
【0058】
したがって、この実施形態に係る火花点火式エンジンの点火制御装置によると、まず、暖機後のエンジンEが例えば5500rpm未満の低ないし中回転域にあるときに、位相差点火制御を実行し、センターおよびサイドプラグ16、17により所定の位相差を持たせて混合気へ点火することで、燃焼期間を短縮して出力の向上や燃費の低減を実現できる。また、ノッキングの抑制も図られる。
【0059】
しかも、サイドプラグ18による点火が相対的に遅角側になることから、その周辺が高温の火炎に曝される時間は前記のように短縮された燃焼期間の一部になり、このことで、サイドプラグ18やその周辺の過熱を抑制することができる。よって、熱害によるエンジンEの信頼性低下やサイドプラグ18の過熱によるプレイグニッションの誘発が抑制される。
【0060】
その際、2つのプラグ16,18による点火時期の位相差を、エンジンEの高負荷、高回転側ほど大きくすることで、言い換えると燃焼室5の温度が高くなりやすいときほど位相差を大きくして、サイドプラグ18及びその周辺が高温の火炎に曝される時間を短くすることで、エンジン出力の低下を実質、招くことなく前記のような効果が得られる。
【0061】
図7は、エンジンEを中負荷中回転の運転状態とし、センタープラグ16による点火時期はBTDC10°CAに保ちながら、サイドプラグ18による点火時期を遅角させていったときに、該サイドプラグ18付近のシリンダヘッドの温度が変化する様子を調べたものである。図の縦軸の目盛は2°C刻みなので、同時点火から位相差を3°CA大きくすると、約3°C温度が下がると言える。尚、図示のように位相差を6°CAくらいまで大きくしてもエンジン出力は殆ど低下しない。
【0062】
さらに、この実施形態では、供給される燃料のオクタン価が所定値未満であり、かつ、吸気温度が所定値以上のとき、及び5500rpm以上の高回転域においては、いずれもサイドプラグ18の点火は行わず、センタープラグ16のみによって混合気に点火するようにしており、こうすることでサイドプラグ18の過熱に起因する前記の弊害をより確実に防止できる。
【0063】
その上さらに、特にノック制御によって点火時期が大幅に遅角されているときには、前記のように本来はセンタープラグ16のみの点火とする高回転域においても位相差点火制御を行うことによって、燃焼安定性を確保することができる。
【0064】
−その他の実施形態−
本発明の構成は前記実施形態に限定されず、それ以外の種々の構成をも包含する。例えば前記の実施形態においては、エンジンEが低ないし中回転域にあっても燃料のオクタン価の推定値が91ron未満であって、かつ吸気温度が所定値以上のときには、センタープラグ16のみの1点点火としているが、これについては、推定オクタン価が91ron未満であるか、或いは吸気温度が所定値以上であるかのいずれかのときに1点点火とするようにしてもよい。
【0065】
また、前記の実施形態においては、エンジンEが5500rpm以上の高回転域にあっても点火時期が大幅に遅角されていれば、位相差点火制御を行うようにしているが、このような例外的な位相差制御は行わなくてもよい。
【0066】
反対に、燃料の推定オクタン価が所定値未満であったり、吸気温度が所定値以上であったりしても、前記のように点火時期が大幅に遅角されているときには位相差点火制御を行うようにすることもできる。
【0067】
勿論、低ないし中回転域と高回転域とを区分する5500rpmという回転数は一例に過ぎず、それは例えば4500〜6000rpmくらいに設定すればよい。また、そうして設定した回転数を燃料の推定オクタン価や吸気温度に応じて変更するようにしてもよい。
【0068】
さらに、本発明を適用するエンジンは、前記実施形態のようなツインプラグのものに限らず、センタープラグ16の他に2本のサイドプラグが燃焼室天井部5aの周縁部に配設されているものであってもよい。また、4バルブにも限定されず、例えば排気ポートが1つの3バルブエンジンであってもよい。さらに、直噴エンジンにも限定されない。
【産業上の利用可能性】
【0069】
以上、説明したように本発明に係る点火制御装置は、複数の点火プラグを備えた火花点火式エンジンの熱害による信頼性の低下やプレイグニッションを防止することができるので、特に自動車用エンジンに有用である。
【符号の説明】
【0070】
E 火花点火式エンジン
C シリンダ(気筒)
5 燃焼室
5a 天井部
16 センター点火プラグ
18 サイド点火プラグ
20 ECU(ノック制御手段、プレイグ検知手段、燃料性状推定手段、位相差点火制 御手段、サイド点火禁止手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
気筒内の燃焼室の天井部において中央付近にセンター点火プラグを、また周縁部にサイド点火プラグを、それぞれ配設してなる火花点火式エンジンの点火制御装置であって、
エンジンの暖機後に少なくとも低回転側の運転域において燃焼室温度の高くなる所定の条件下では、前記センター点火プラグ及びサイド点火プラグを、該サイド点火プラグが相対的に遅角側となるよう位相差を持たせて点火作動させる位相差点火制御手段を備えている、ことを特徴とする火花点火式エンジンの点火制御装置。
【請求項2】
前記位相差点火制御手段は、エンジンの低回転側の運転域において負荷、回転数、吸気温度の少なくとも1つに応じて、それが高いときほどセンター及びサイド点火プラグの作動時期の位相差を大きくする、ことを特徴とする請求項1に記載の点火制御装置。
【請求項3】
前記位相差点火制御手段は、所定の高回転域においてはセンター点火プラグのみを点火作動させる、請求項1又は2のいずれかに記載の点火制御装置。
【請求項4】
前記気筒の幾何学的な圧縮比が12以上であり、
供給される燃料のオクタン価を推定可能な燃料性状推定手段を備え、
前記位相差点火制御手段は、前記燃料性状推定手段によって推定された燃料のオクタン価が所定値未満のときには、センター点火プラグのみを点火作動させる、請求項3に記載の点火制御装置。
【請求項5】
前記気筒の幾何学的な圧縮比が12以上であり、
前記位相差点火制御手段は、吸気温度が所定値以上のときにはセンター点火プラグのみを点火作動させる、請求項3又は4のいずれかに記載の点火制御装置。
【請求項6】
ノッキングの発生状況に応じて点火時期を制御するノック制御手段をさらに備え、
前記位相差点火制御手段は、前記ノック制御手段によって点火時期が所定以上に遅角されているときには、高回転域においてもセンター及びサイド点火プラグを点火作動させる、請求項3〜5のいずれかに1つ記載の点火制御装置。
【請求項7】
ノッキングの発生状況に応じて点火時期を制御するノック制御手段をさらに備え、
前記位相差点火制御手段は、前記ノック制御手段によって点火時期が所定以上に遅角されているときには、燃料の推定オクタン価が所定値未満であっても、また吸気温度が所定値以上であってもセンター及びサイド点火プラグを点火作動させる、請求項3〜6のいずれか1つに記載の点火制御装置。
【請求項8】
プレイグニッションの発生を検知するプレイグ検知手段と、
前記プレイグ検知手段によってプレイグニッションが検知されたとき、サイド点火プラグの点火作動を禁止するサイド点火禁止手段と、を備える請求項1〜7のいずれか1つに記載の点火制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−285905(P2010−285905A)
【公開日】平成22年12月24日(2010.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−139237(P2009−139237)
【出願日】平成21年6月10日(2009.6.10)
【出願人】(000003137)マツダ株式会社 (6,115)
【Fターム(参考)】