説明

炭化珪素半導体素子の製造方法および炭化珪素層付ウェハ

【課題】炭化珪素ウェハの主面に平行な面内における素子特性のばらつきを抑えて、歩留まりを向上させる。
【解決手段】
本発明の炭化珪素半導体素子の製造方法は、(A)炭化珪素ウェハ101と、炭化珪素ウェハ101の主面上に配置され、第1導電型の不純物を含む複数の第1導電型不純物領域105を有する第1炭化珪素層110とを備えた炭化珪素層付ウェハ1を用意する工程と、(B)第1炭化珪素層110の表面に炭化珪素をエピタキシャル成長させることによって、第2炭化珪素層115を形成する工程とを包含し、工程(B)において、複数の第1導電型不純物領域105の表面における第1導電型の不純物の濃度分布に基づいて、炭化珪素ウェハ101の主面に平行な面内で、第2炭化珪素層115の厚さ、不純物濃度、またはその両方に分布をもたせるように、エピタキシャル成長させる条件を制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭化珪素半導体素子の製造方法および炭化珪素層を有するウェハに関する。
【背景技術】
【0002】
炭化珪素(シリコンカーバイド:SiC)は、珪素(Si)に比べてバンドギャップが大きく、絶縁破壊電界強度が高い等の優れた物性を有することから、次世代の低損失パワーデバイス等へ応用されることが期待される半導体材料である。炭化珪素は、立方晶系の3C−SiCや六方晶系の6H−SiC、4H−SiC等、多くのポリタイプを有する。この中で、実用的な炭化珪素半導体素子を作製するために一般的に使用されているポリタイプは4H−SiCである。
【0003】
金属−絶縁体−半導体電界効果型トランジスタ(Metal−Insulator−Semiconductor Field Effect Transistor:MISFET)などの炭化珪素半導体素子は、炭化珪素ウェハおよび炭化珪素ウェハの主面上に形成された炭化珪素エピタキシャル層を用いて形成される。炭化珪素エピタキシャル層は、炭化珪素半導体素子の活性領域となる。炭化珪素ウェハとしては、例えばc軸の結晶軸に対し垂直な(0001)Si面にほぼ一致する面を主面とする4H−SiCウェハが好適に用いられる。また、通常、1個の炭化珪素ウェハを用いて複数の炭化珪素半導体素子が形成される。
【0004】
本明細書では、「炭化珪素ウェハ」は、改良レーリー(Lely)法や昇華法などにより作製された単結晶SiCを所定のサイズに切断・研磨して得られた基板を指す。また、炭化珪素ウェハ上に、炭化珪素エピタキシャル層などの炭化珪素層が形成された基板を「炭化珪素層付ウェハ」と称する。「炭化珪素層付ウェハ」は、炭化珪素層が形成された炭化珪素ウェハに複数の炭化珪素半導体素子あるいはその一部が形成された基板も含む。なお、複数の炭化珪素半導体素子が形成された炭化珪素層付ウェハは、その後、所定のチップサイズに切断(ダイシング)され、これにより、複数の炭化珪素半導体素子が互いに分離される。
【0005】
炭化珪素半導体素子を作製する際には、炭化珪素ウェハ上に形成された炭化珪素エピタキシャル層のうち選択された領域に、作製しようとする半導体素子の種類に応じて、導電型やキャリア濃度が制御された不純物ドープ層が形成される。不純物ドープ層は、例えばMISFETではp型ボディ領域やn+ソース領域として機能する。
【0006】
不純物ドープ層は、一般に、炭化珪素エピタキシャル層に不純物イオンを注入した後、熱処理(活性化アニール)を行うことによって形成される。活性化アニールを行うことによって、注入された不純物イオンを活性化させるとともに、イオン注入によって発生した炭化珪素エピタキシャル層の結晶性の乱れを回復させることができる。
【0007】
イオン注入によって発生した結晶性の乱れを回復させる、すなわちSi−C結合を回復させるためには、シリコン半導体層に対する活性化アニールの温度よりも高い温度で活性化アニールが行われる。炭化珪素のSi−C結合は、シリコンのSi−Si結合よりも共有結合エネルギーが高いので、Si−C結合が切断されると、再度結合するためには、Si−Si結合よりも高いエネルギーが必要となるからである。従って、炭化珪素エピタキシャル層に不純物ドープ層を形成する際の活性化アニールの温度(以下、単に「アニール温度」と略する)は、例えば1600℃以上に設定される。
【0008】
しかしながら、例えば1600℃以上の高温で活性化アニールを行うと、次のような炭化珪素半導体素子固有の問題が生じる可能性がある。
【0009】
活性化アニール時に、炭化珪素エピタキシャル層の表面からシリコンが選択的に昇華し、その結果、炭素が炭化珪素エピタキシャル層の表面に残留する。残留した炭素は、カーボンナノチューブ構造やグラフェン構造を構成し、カーボン層となる。カーボン層は必要に応じて除去される。このように、活性化アニールによって、炭化珪素エピタキシャル層の表面部分が消失してしまう。
【0010】
この問題に対し、活性化アニールによるシリコンの昇華を抑制する方法として、アニール温度を例えば1200℃以下の低温に設定して活性化アニールを行うことが非特許文献1に開示されている。
【0011】
なお、特許文献1には、活性化アニールによる炭化珪素エピタキシャル層の表面荒れを抑制するために、炭化珪素エピタキシャル層の表面に、主に炭素より構成されるキャップ層を設け、その状態で活性化アニールを行うことが開示されている。しかしながら、本発明者ら検討したところ、キャップ層を形成して活性化アニールを行っても、炭化珪素エピタキシャル層の表面荒れを抑制できるが、炭化珪素エピタキシャル層表面からのシリコンの選択的な昇華を防ぐことは困難である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2005−260267号公報
【非特許文献1】J.A.Cooper et al.,Mat.Res.Soc.Symp.Proc.572,3(1999)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
非特許文献1に開示された方法によると、1200℃以下の低い温度領域で活性化アニールを行うので、イオン注入によって乱れた結晶を十分に回復できないおそれがある。このため、炭化珪素半導体素子において、逆バイアス印加時のリーク電流の増大やオン抵抗の増大などの素子特性の劣化が生じる可能性がある。
【0014】
一方、本発明者が検討した結果、活性化アニールに起因する次のような課題を新たに見出した。
【0015】
活性化アニール装置として、誘導加熱、抵抗加熱、電子衝突加熱等を利用した装置が一般的に用いられている。例えば1600℃以上の温度で活性化アニールを行う場合、上記のいずれのアニール装置を使用しても、炭化珪素層付ウェハを均一に加熱することは非常に困難である。このため、炭化珪素層付ウェハの温度は、炭化珪素ウェハの主面に平行な面内(以下、「炭化珪素層付ウェハの面内」または単に「面内」と略する。)において不均一な分布となる。活性化アニール時に炭化珪素エピタキシャル層に上記のような温度分布が生じると、この温度分布に対応して、炭化珪素エピタキシャル層の消失量も面内で不均一な分布を有する。このような消失量の面内分布は、1個の炭化珪素層付ウェハから形成される複数の炭化珪素半導体素子の間で特性がばらつく要因となる。
【0016】
例えば炭化珪素層付ウェハに複数のMISFETを形成する場合、不純物ドープ層であるボディ領域の表面の不純物濃度(ドーパント濃度)に、上記のような面内分布が生じる。ボディ領域の不純物濃度はMISFETの閾値電圧に大きな影響を与えることから、MISFETの閾値電圧を面内で均一にすることが極めて困難になる。このため、1枚の炭化珪素ウェハを用いて形成された複数のMISFETの間で閾値電圧がばらつき、歩留まりが低下するという課題が生じる。なお、この課題については、図面を参照しながら後で詳述する。
【0017】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、炭化珪素ウェハ上に複数の炭化珪素半導体素子を製造する際に、炭化珪素ウェハの主面に平行な面内における素子特性のばらつきを抑えて、歩留まりを向上させることにある。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明の炭化珪素半導体素子の製造方法は、(A)炭化珪素ウェハと、前記炭化珪素ウェハの主面上に配置され、第1導電型の不純物を含む複数の第1導電型不純物領域を有する第1炭化珪素層とを備えた炭化珪素層付ウェハを用意する工程と、(B)前記第1炭化珪素層の表面に炭化珪素をエピタキシャル成長させることによって、前記複数の第1導電型不純物領域と接するように第2炭化珪素層を形成する工程とを包含し、前記工程(B)において、前記複数の第1導電型不純物領域の表面における第1導電型の不純物の濃度分布に基づいて、前記炭化珪素ウェハの主面に平行な面内で、前記第2炭化珪素層の厚さ、不純物濃度、またはその両方に分布をもたせるように、エピタキシャル成長させる条件を制御する。
【0019】
これにより、第1導電型不純物領域の表面の不純物濃度分布に起因して生じる、炭化珪素ウェハの主面に平行な面内における素子特性のばらつきを抑制できるので、炭化珪素半導体素子の歩留まりを向上できる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によると、第1炭化珪素層が形成された炭化珪素層付ウェハにおいて、第1炭化珪素層の表面の不純物濃度分布に起因する素子特性のばらつきを、第1炭化珪素層上にエピタキシャル成長させる第2炭化珪素層の成長条件を制御することによって抑制することができる。このため、炭化珪素半導体素子の歩留まりを向上させ、製造コストを低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】(a)〜(g)は、それぞれ、本発明による第1の実施形態の炭化珪素半導体素子の製造方法を説明する模式的な工程断面図である。
【図2】本発明による第1の実施形態の炭化珪素半導体素子の製造方法を説明するための平面図であり、図1(b)に示す工程に対応する図である。
【図3】(a)は、本発明による第1の実施形態におけるボディ領域の表面の不純物濃度分布を例示するグラフであり、(b)は、(a)に示す濃度分布に応じて導出したボディ領域上に形成する第2炭化珪素層の不純物濃度の面内分布を示すグラフであり、(c)は、(a)および(b)に示す濃度分布によって得られる閾値電圧の面内分布を示すグラフである。
【図4】(a)は、第2炭化珪素層を形成する際の原料ガスの供給量と、第2炭化珪素層の不純物濃度および厚さの面内ばらつきの大きさとの相関関係を示すグラフであり、(b)は、原料ガス(SiH4)の供給量が10sccmの場合の、炭化珪素層付ウェハ1の面内における第2炭化珪素層の厚さおよび不純物濃度の分布を示すグラフである。
【図5】(a)および(b)は、それぞれ、成長圧力を200mbarおよび100mbarに設定した場合の第2炭化珪素層115の厚さの面内分布を示すグラフである。
【図6】本発明による第1の実施形態の製造方法において、第2炭化珪素層のエピタキシャル成長工程を説明するための模式的な断面図である。
【図7】本発明による第1の実施形態の炭化珪素層付ウェハの断面図である。
【図8】本発明による第1の実施形態における他の炭化珪素半導体素子のユニットセルを例示する断面図である。
【図9】(a)は、従来の炭化珪素層付ウェハの平面図であり、(b)は、(a)に示す炭化珪素層付ウェハに形成された炭化珪素半導体素子のユニットセルの構造を説明するための断面図である。
【図10】(a)および(b)は、従来の炭化珪素半導体素子の課題を説明するための模式図であり、(a)は、p型不純物注入領域305’の深さ方向の不純物濃度プロファイルの一例を説明するための断面図、(b)は、p型不純物注入領域305’に対して活性化アニールを行うことによって得られたボディ領域305の表面の不純物濃度を説明するための断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
まず、図面を参照しながら、本発明者が見出した課題をより詳しく説明する。
【0023】
図9(a)は、炭化珪素半導体素子400が形成された従来の炭化珪素層付ウェハ401を例示する平面図である。炭化珪素半導体素子400は、例えばプレーナ構造を有するMISFETである。図9(b)は、MISFETに含まれるユニットセル300の構成を説明するための断面図である。
【0024】
炭化珪素層付ウェハ401は、例えば直径が3インチ以上の炭化珪素ウェハ301と、炭化珪素ウェハ301上に形成された複数の炭化珪素半導体素子400とを備えている。各炭化珪素半導体素子400は、2次元に配列された複数のユニットセル300から構成されている。
【0025】
各ユニットセル300は、図9(b)に示すように、例えばn型の炭化珪素ウェハ301と、炭化珪素ウェハ301上にエピタキシャル成長によって形成された第1炭化珪素層310とを備えている。
【0026】
第1炭化珪素層310には、p型のボディ領域305と、ボディ領域305に接するように配置され、高濃度でn型不純物を含むn+型のソース領域308とが形成されている。ボディ領域305の内部には、ボディ領域305よりも高い濃度でp型不純物を含むp+型のコンタクト領域309が形成されている。また、第1炭化珪素層310のうちボディ領域305およびソース領域308以外の領域は、低濃度でn型不純物を含むn-型のドリフト領域302となる。第1炭化珪素層310上には、ボディ領域305の表面と接するように、n型の第2炭化珪素層(チャネル層)307が形成されている。第2炭化珪素層307は、エピタキシャル成長によって形成されている。第2炭化珪素層307上には、例えば熱酸化によりゲート絶縁膜311が形成され、ゲート絶縁膜311上にはゲート電極313が設けられている。また、ソース領域308及びコンタクト領域309と接するようにソース電極312が設けられている。炭化珪素ウェハ301の裏面にはドレイン電極314が設けられている。
【0027】
ユニットセル300において、ボディ領域305、ソース領域308およびコンタクト領域309は、第1炭化珪素層310に対して不純物イオンを注入し、次いで活性化アニールを行うことによって形成された不純物ドープ層である。
【0028】
活性化アニールは、通常、第1炭化珪素層310に不純物イオンを注入した後の炭化珪素層付ウェハ401をアニール装置のチャンバ内に設置し、所定の温度まで加熱することによって行われる。このとき、特に3インチ以上の炭化珪素ウェハ301を用いる場合、炭化珪素層付ウェハ401の面内で温度差が生じ易い。例えば、炭化珪素層付ウェハ401の温度が中央部で周縁部よりも高くなる、もしくは、中央部で周縁部よりも低くなる傾向がある。このため、炭化珪素層付ウェハ401の面内における温度分布(以下、単に「面内温度分布」と略する)は、炭化珪素層付ウェハ401の中心から周縁部に向かうにつれて、温度が高くなる、あるいは低くなるような分布(同心円分布)となる場合が多い。
【0029】
例えば自公転型のアニール装置を用いて活性化アニールを行うと、面内温度分布は同心円分布になり易い。自公転型のアニール装置のチャンバ内では、例えば、円盤状のホルダーに複数の炭化珪素層付ウェハ401を固定し、ホルダーを回転させるとともに、各炭化珪素層付ウェハ401もそれぞれ自転させながら、炭化珪素層付ウェハ401の加熱を行う。このようなアニール装置では、炭化珪素層付ウェハ401の周縁部の方が中央部よりも熱源に近づくために高温になりやすい。ただし、熱源の配置や、熱源からの距離に対する温度勾配によっては、炭化珪素層付ウェハ401の中央部の方が周縁部よりも高温になることもある。
【0030】
前述したように、活性化アニールを行うと、第1炭化珪素層310の表面からシリコンが選択的に昇華し、表面層の一部が消失する。第1炭化珪素層310の消失量は、アニール温度が高いほど多くなる。従って、活性化アニール時に炭化珪素層付ウェハ401に上記のような面内温度分布が生じると、この面内温度分布に対応して、第1炭化珪素層310の消失量も面内で分布を生じる。
【0031】
なお、アニール装置の構造やアニール方法によっては、炭化珪素層付ウェハ401の面内温度分布は同心円分布にならない場合がある。例えばアニール装置のチャンバ内で炭化珪素層付ウェハ401を自転・公転させないで加熱する場合などには、炭化珪素層付ウェハ401の面内温度分布は同心円状になり難い。このような場合でも、面内温度分布は均一にならない可能性が高く、第1炭化珪素層310の消失量に不均一な面内分布が生じ得る。
【0032】
第1炭化珪素層310の消失量が面内で分布を生じると、第1炭化珪素層310の表面の不純物濃度にばらつきが生じるおそれがある。以下、図面を参照しながら、この理由を説明する。
【0033】
図10(a)は、第1炭化珪素層310にp型不純物を注入して得られたp型不純物注入領域305’の深さ方向の不純物濃度プロファイルを例示する図であり、図10(b)は、p型不純物注入領域305’に対して活性化アニールを行うことによって得られたボディ領域305を模式的に示す断面図である。なお、実際には、炭化珪素層付ウェハ401の表面領域に複数のボディ領域305が間隔を空けて形成されるが、ここでは、簡単のため、炭化珪素層付ウェハ401の全体にボディ領域305が形成される図を示している。
【0034】
図10(a)に示すように、p型不純物注入領域305’の不純物濃度プロファイルPは第1炭化珪素層310の深さ方向に均一にならない。p型不純物注入領域305’の表面領域では、不純物濃度プロファイルPは、第1炭化珪素層310の表面で低く、表面からの深さDが大きくなるにつれて徐々に高くなる。
【0035】
p型不純物注入領域305’に対して活性化アニールを行うと、図10(b)に示すように、ボディ領域305が得られる。活性化アニールでは、上述したように、第1炭化珪素層310の表面部分が消失する。なお、図10(a)に示す不純物濃度プロファイルPはアニール後も維持される。
【0036】
図10(b)に示す例では、炭化珪素層310の消失量は、炭化珪素層付ウェハ401の面内において、中央部から周縁部に向かって増加している。このため、ボディ領域305は、周縁部で中央部よりも薄くなる。
【0037】
アニール後のp型不純物注入領域305の不純物濃度プロファイルは均一ではないので、第1炭化珪素層310の消失量に応じて、第1炭化珪素層310の表面(すなわちボディ領域305の表面)における不純物濃度は異なる。この例では、ボディ領域305の周縁部では、表面から深さd1までの層が消失する結果、不純物濃度はc1となる。これに対し、中央部では、表面から深さd2(d2<d1)までの層が消失する結果、不純物濃度c2は、周縁部の不純物濃度c1よりも低くなる。
【0038】
このように、活性化アニール時に生じる面内温度分布によって、第1炭化珪素層310の消失量が炭化珪素層付ウェハの面内で不均一となるので、活性化アニール後の第1炭化珪素層310の表面の不純物濃度にも不均一な分布が生じる。これは、1枚の炭化珪素ウェハ301に形成された複数の炭化珪素半導体素子400間で特性がばらつく要因となる。
【0039】
特に、ボディ領域305の表面の不純物濃度はMISFETの閾値電圧に大きな影響を与える。ボディ領域305の表面の不純物濃度に上記のような分布が生じると、その濃度分布に対応して、炭化珪素ウェハ301に形成された複数の炭化珪素半導体素子(MISFET)400の間で閾値電圧がばらつく。
【0040】
このように、従来の炭化珪素半導体素子400の製造プロセスでは、活性化アニール時の面内温度分布に起因して、炭化珪素ウェハ301の面内で閾値電圧にばらつきが生じ、信頼性の低下や歩留の低下を引き起こすおそれがあった。
【0041】
本発明者は、上記問題を解決する方法を検討する過程で、第1炭化珪素層310上にエピタキシャル成長によって第2炭化珪素層307を形成する際に、第2炭化珪素層307の不純物濃度及び厚さの面内分布を制御することが可能であることを見出した。さらに、第2炭化珪素層307の不純物濃度及び厚さの面内分布の制御により、第1炭化珪素層310に形成されたボディ領域305の表面の不純物濃度のばらつきを補償して、閾値電圧の面内ばらつきを抑制できるという知見を得た。
【0042】
本発明は、上記知見に基づいてなされたものであり、第1炭化珪素層310の表面(例えばボディ領域305の表面)の不純物濃度分布に応じて、その上に形成する第2炭化珪素層307の厚さおよび濃度に所定の面内分布を故意に生じさせる。これにより、活性化アニール時の面内温度分布に起因する閾値電圧のばらつきを抑制することが可能になる。
【0043】
(第1の実施形態)
以下、図面を参照しながら、本発明による炭化珪素半導体素子の製造方法の第1の実施形態を説明する。ここでは、第1導電型としてp型、第2導電型としてn型の導電型を有するMISFETを例に説明するが、本実施形態の炭化珪素半導体素子は、第1導電型としてn型、第2導電型としてp型の導電型を有するMISFETであってもよい。
【0044】
図1(a)〜(g)は、それぞれ、本実施形態の炭化珪素半導体素子の製造方法を説明するための工程断面図である。図1では、炭化珪素層付ウェハ1のうち炭化珪素半導体素子が形成される素子形成部R1、および、素子形成部以外の領域に設けられた測定部R2の一部をそれぞれ示している。なお、簡単のため、素子形成部R1に1個のユニットセル、測定部R2に1個のパラメータチェック領域が形成される工程を図示しているが、素子形成部R1には複数のユニットセル、測定部R2には複数のパラメータチェック領域がそれぞれ形成されてもよい。
【0045】
まず、図1(a)に示すように、炭化珪素ウェハ101の主面上に、エピタキシャル成長によって第2導電型(n型)の第1炭化珪素層110を成長させて、炭化珪素層付ウェハ1を得る。
【0046】
炭化珪素ウェハ101として、例えば、主面が、(0001)Si面から<11−20>(112バー0)方向に約4度のオフ角度がついた直径75mmの4H−SiCウェハを用いることが好ましい。このウェハを用いることにより、6H−SiCウェハ等に比べてキャリアの移動度が高い炭化珪素半導体素子を作製することができる。炭化珪素ウェハ101はn型であり、炭化珪素ウェハ101におけるキャリア濃度は、例えば、8×1018cm-3程度である。
【0047】
第1炭化珪素層110の形成工程では、まず、エピタキシャル成長前に炭化珪素ウェハ101の昇温を行う。この昇温過程では、原料ガスを供給せず、少なくとも水素を含んだ雰囲気で炭化珪素ウェハ101を加熱する。炭化珪素ウェハ101の温度(ウェハ温度)が、所定の成長温度(ここでは1600℃)に到達した時点で原料ガスとドーパントガスである窒素の供給を開始する。このようにして、炭化珪素ウェハ101の主面上に、例えば、n型キャリア濃度が約5×1016cm-3であり、厚さが10μm程度の第1炭化珪素層110を形成する。
【0048】
続いて、図1(b)に示すように、第1炭化珪素層110のうち選択された領域にp型またはn型の不純物イオンを注入することにより、p型不純物注入領域105’、109’、およびn型不純物注入領域108’を形成する。
【0049】
このとき、炭化珪素層付ウェハ1の測定部R2の一部にも、p型の不純物イオンを注入する。これにより、測定部R2に、パラメータチェック領域となるp型不純物注入領域116’が形成される。
【0050】
具体的には、第1炭化珪素層110上にマスクを形成し、マスクの形成されていない領域にp型不純物(例えばアルミニウム)イオンを注入して、ボディ領域となるp型不純物注入領域105’およびパラメータチェック領域となるp型不純物注入領域116’を形成する。p型不純物注入領域105’、116’は同じ注入条件で同時に形成される。さらに、第1炭化珪素層110のうちp型不純物注入領域105’に隣接する領域にn型不純物(例えば窒素)イオンを注入して、ソース領域となるn型不純物注入領域108’を形成する。また、p型不純物領域105’内に、p型不純物(例えばアルミニウム)イオンを注入し、コンタクト領域となる高濃度p型不純物注入領域109’を形成する。
【0051】
図2は、図1(b)の工程断面図に対応する平面図である。図2に示すように、ここでは、炭化珪素層付ウェハ1の中心、および、互いに直交するX、Y方向にそれぞれ延びる2本の直径に沿ってp型不純物注入領域116’を形成する。ここでは、中心から周縁までの間に10mmピッチで3箇所のp型不純物注入領域116’を配置する。各p型不純物注入領域116’は、炭化珪素ウェハ101の主面に垂直な方向から見て、例えば直径が1mmの円とする。
【0052】
p型不純物注入領域116’の個数や配置は図示する例に限定されないが、炭化珪素層付ウェハ1の中央部から周縁部にかけて、複数のp型不純物注入領域116’を配置することが好ましい。あるいは、中央部から周縁部まで延びる1個のp型不純物注入領域116’を形成してもよい。
【0053】
なお、この例では、p型不純物領域105’およびp型不純物領域116’は、第1炭化珪素層110の表面領域に形成されるが、これらの領域は表面領域に形成されなくてもよい。ただし、p型不純物領域105’の少なくとも一部およびp型不純物領域116’の少なくとも一部が、第1炭化珪素層110の表面に露出するように配置されることが好ましい。
【0054】
続いて、第1炭化珪素層110の表面にカーボンキャップ層117を形成し、この状態で、活性化アニールを行う。アニール温度は例えば1700℃に設定する。これにより、図1(c)に示すように、不純物注入領域105’、109’、108’は、それぞれ、ボディ領域105、コンタクト領域109、ソース領域108となる。また、p型不純物注入領域116’は、パラメータチェック領域116となる。第1炭化珪素層110のうちボディ領域105、コンタクト領域109、ソース領域108およびパラメータチェック領域116の何れも形成されなかった領域はn型のドリフト領域102となる。この後、カーボンキャップ層117を除去する。なお、活性化アニールによって第1炭化珪素層110の表面のうちSiが昇華し、カーボン層として残った部分は、カーボンキャップ層117とともに炭化珪素層付ウェハ1から除去される。
【0055】
次いで、ボディ領域105の表面の不純物濃度の分布(以下、「表面濃度分布」と略す)を求める。ボディ領域105の表面濃度分布は、パラメータチェック領域116の表面の不純物濃度を測定することによって求めてもよい。濃度の測定は、例えば容量−電圧(capacitance−voltage:以下、C−Vと略称する)測定で行う。C−V測定によると、非破壊で第1炭化珪素層110の表面の不純物濃度を評価できる。
【0056】
本実施形態では、図1(d)に示すように、水銀プローブC−V測定装置を使用し、C−V測定により、各パラメータチェック領域116の表面の不純物濃度を評価する。この結果に基づいて、ボディ領域105の表面濃度分布を算出する。
【0057】
水銀プローブC−V測定装置による測定手順を以下に述べる。炭化珪素ウェハ101をC−V測定装置のステージに設置する。パラメータチェック領域116上に置かれた筒より水銀をパラメータチェック領域116に接触させ、炭化珪素ウェハ101の裏面との間に高周波バイアス電圧を印加する。この場合の周波数は例えば100kHzとする。バイアス電圧を印加することによって、パラメータチェック領域116に形成される空乏層により発生した容量を測定する。バイアス電圧を掃引することによってこの空乏層の幅は変化することから、各バイアス電圧における容量を測定することにより、パラメータチェック領域116におけるドーパント濃度の深さ方向のプロファイルを導出することが可能となる。
【0058】
続いて、図1(e)に示すように、第1炭化珪素層110の表面に、n型の第2炭化珪素層115をエピタキシャル成長により形成させる。ここでは、第2炭化珪素層115は、ボディ領域105に接するように配置され、チャネル層として機能する。
【0059】
このとき、MISFETの閾値電圧が炭化珪素層付ウェハ1の面内で均一となるように、上記工程で求めたボディ領域105の表面濃度分布を第2炭化珪素層115の成長条件にフィードフォワードする。後述するように、第2炭化珪素層115の成長条件を調整することによって、炭化珪素層付ウェハ1の面内における第2炭化珪素層115の不純物濃度および厚さの面内分布を任意に制御できる。
【0060】
本実施形態では、ドーパントガスとして窒素を供給することにより、第2炭化珪素層(チャネル層)115を形成する。第2炭化珪素層115の平均濃度は例えば約1×1017cm-3とし、平均厚さは例えば100nmとする。また、後述するように、原料ガスの供給量や成長圧力などのパラメータを制御することによって、第2炭化珪素層115の厚さおよび濃度に、ボディ領域105の表面濃度分布に応じた面内分布を故意に生じさせる。
【0061】
なお、第2炭化珪素層115の濃度および厚さの両方に面内分布を生じさせてもよいし、何れか一方のみに面内分布を生じさせてもよい。
【0062】
この後、図1(f)に示すように、ゲート絶縁膜111を形成する。ゲート絶縁膜111は、酸化膜、酸窒化膜、またはこれらの膜の積層膜であってもよい。ここでは、ゲート絶縁膜111として、例えば、約1100℃の温度下で第1炭化珪素層110の表面を熱酸化することによって熱酸化(SiO2)膜を形成する。ゲート絶縁膜111の厚さは、例えば、50nm程度である。なお、熱酸化膜の代わりに、第1炭化珪素層110の上にCVD法でSiO2膜を形成してもよい。
【0063】
最後に、図1(g)に示すように、ゲート電極113、ソース電極112及びドレイン電極114を形成する。ソース電極112及びドレイン電極114は、それぞれ、電子ビーム(EB)蒸着装置を用いてソース領域108及び炭化珪素ウェハ101の裏面にNiを蒸着し、続いて加熱炉を用いて、例えば、1000℃程度で加熱することによって形成される。ソース電極112はソース領域108およびコンタクト領域109とオーミック接合を形成しており、また、ドレイン電極114は炭化珪素ウェハ101とオーミック接合を形成している。ゲート電極113は、例えば、LPCVD(low pressure chemical vapor deposition)装置を用いて、ゲート絶縁膜111上にリンドープポリシリコン(poly−Si膜)を堆積することによって形成することができる。
【0064】
以上の工程により、炭化珪素層付ウェハ1に複数の炭化珪素半導体素子が形成される。図示しないが、この後、炭化珪素層付ウェハ1の素子形成部R1を素子ごとに切断する。これにより、複数の炭化珪素半導体素子(チップ)を得る。
【0065】
<ボディ領域105の表面濃度分布の評価方法>
上記方法では、ボディ領域105の表面濃度分布を評価する方法として、水銀プローブによるC−V測定を行っているが、代わりに二次イオン質量分析(SIMS)を行うこともできる。SIMSでは、Arイオンのスパッタリングによって第1炭化珪素層110の表面を除去しながら、質量分析によりSiC結晶中の不純物の濃度を測定する。
【0066】
しかしながら、SIMSを用いると、第1炭化珪素層110の表面を除去しながら不純物の濃度測定を行うために、第1炭化珪素層110の表面を破壊してしまう。従って、この方法を用いる場合には、炭化珪素層付ウェハ1の測定部R2に、SIMSによる測定用の領域(パッド)を予め作製しておくことが好ましい。測定用の領域は、パラメータチェック領域116と同様の構造を有してもよい。
【0067】
これによって、第1炭化珪素層110の表面のうち素子形成領部R1に位置する部分を壊すことなく、ボディ領域105の表面濃度分布を評価することができる。
【0068】
その他の評価方法として、ボディ領域105の表面の比抵抗を測定する方法がある。この方法では、ボディ領域105またはパラメータチェック領域116の表面の不純物濃度(表面濃度)を直接測定せず、ボディ領域105またはパラメータチェック領域116の表面の比抵抗を測定する。次いで、予め求めておいた表面濃度と比抵抗との相関関係に基づいて、比抵抗の測定結果から、その領域の表面濃度を導出できる。
【0069】
なお、比抵抗を測定する方法のように非破壊の測定を行う場合には、ボディ領域105の表面を直接測定することができるので、炭化珪素層付ウェハ1にパラメータチェック領域116を形成しなくてもよい。
【0070】
また、予備実験によって、活性化アニールの条件とボディ領域105の表面濃度分布との相関関係を予め求めておいてもよい。この場合には、濃度測定を行うことなく、活性化アニールの条件と、予め求めておいた相関関係とに基づいて表面濃度分布を導出できる。
【0071】
<第2炭化珪素層115の濃度、厚さの面内分布の導出>
次いで、図3を参照しながら、第2炭化珪素層115のエピタキシャル成長条件を決定する手順を説明する。
【0072】
図3(a)は、上記方法において、水銀プローブC−V測定装置によるパラメータチェック領域116の表面の不純物濃度の測定結果から導出されたボディ領域105の表面濃度分布を例示する図である。ボディ領域105の表面濃度は、例えば、アニール時の面内温度分布に起因して同心円分布を有する。この例では、ボディ領域105の表面濃度が、炭化珪素層付ウェハ1の中央部から周縁部に向かって高くなるような分布を有することがわかる。
【0073】
図3(a)に示す表面濃度分布から、炭化珪素層付ウェハ1の面内でMISFETの閾値電圧のばらつきを抑制するための第2炭化珪素層115の濃度、厚さまたはその両方の面内分布を導出する。
【0074】
第2炭化珪素層115の濃度が高いほど、第2炭化珪素層115の抵抗が小さくなるので閾値電圧が低くなり、第2炭化珪素層115の濃度が低いほど閾値電圧は高くなる。また、第2炭化珪素層115が厚いほど、第2炭化珪素層115内に空乏層が広がりにくくなるので、閾値電圧が低くなり、第2炭化珪素層115が薄いほど閾値電圧は高くなる。
【0075】
従って、ボディ領域105が図3(a)に示す表面濃度分布を有する場合、第2炭化珪素層115の厚さを面内で略一定とすると、第2炭化珪素層115の不純物濃度は、中央部から周縁部に向かって高くなるような面内分布を有すればよい。図3(b)は、ボディ領域105の表面濃度分布から導出した第2炭化珪素層115の濃度の面内分布を例示する図である。図示するような濃度分布を有する第2炭化珪素層115を形成すると、図3(c)に示すように、MISFETの閾値電圧を面内で略均一にすることができる。
【0076】
一方、第2炭化珪素層115の不純物濃度を面内で略一定とし、第2炭化珪素層115の厚さに、閾値電圧のばらつきを抑えるような面内分布を持たせてもよい。その場合には、第2炭化珪素層115の厚さは、中央部から周縁部に向かって大きくなるような面内分布を有すればよい(図示せず)。さらに、第2炭化珪素層115の不純物濃度および厚さの両方に分布を持たせることによって、閾値電圧のばらつきを抑えることも可能である。
【0077】
第2炭化珪素層115の厚さ、不純物濃度およびその両方の面内分布のうち何れを制御するかは、ボディ領域105の表面濃度分布に応じて適宜選択してもよい。例えば、ボディ領域105の表面の不純物濃度が中央部と周縁部との間で10倍以上異なる場合には、第2炭化珪素層115の濃度および厚さの両方の面内分布を制御することが好ましい。
【0078】
第2炭化珪素層115の濃度および厚さのうち一方のみを制御する場合、通常は、第2炭化珪素層115の濃度の面内分布を制御する方が、閾値電圧の面内分布の均一化には効果的である。ただし、ボディ領域105の表面濃度分布における濃度差が小さい(例えば3%以下)ときには、第2炭化珪素層115の厚さの面内分布を制御する方が、より厳密な制御が可能であるので好ましい場合がある。

<第2炭化珪素層115の成長条件のフィードフォワード方法>
次いで、再び図1を参照しながら、第2炭化珪素層115の成長条件にフィードフォワードする際の手順について以下に述べる。
【0079】
まず、図1(d)に示す工程において、13個のパラメータチェック領域116の表面の不純物濃度を測定した後、その結果に基づいて、ボディ領域105の表面濃度分布がどの程度であるかを算出する。
【0080】
次いで、ボディ領域105の表面濃度分布の程度により、第2炭化珪素層115の濃度および厚さのどちらを制御するのかを決定する。ボディ領域105の表面濃度分布が大きい場合(例えばボディ領域105の平均不純物濃度に対する濃度のばらつき:±50%以上)には、第2炭化珪素層115の濃度および厚さの両方を制御することもできる。
【0081】
続いて、MISFETの閾値電圧が、面内で基準値および基準範囲を満たすように、第2炭化珪素層115の不純物濃度および/または厚さの面内分布を導出する。そして、導出した面内分布が得られるように、成長パラメータ及び成長条件を決定する。
【0082】
この後、図1(e)に示す工程において、フィードフォワードされた成長条件を適用して第2炭化珪素層115を形成する。
【0083】
なお、算出されたボディ領域105の表面濃度分布が略均一である場合もある。その場合には、第1炭化珪素層115の不純物濃度および厚さが面内で略均一となるような成長条件を選択する。
【0084】
第2炭化珪素層115の成長条件のフィードフォワードにより、ボディ領域105の表面濃度分布に基づいて、第2炭化珪素層115の厚さや不純物濃度に所定の面内分布を持たせることが可能になる。従って、炭化珪素層付ウェハ1に形成される複数の炭化珪素半導体素子(MISFET)の閾値電圧を所定の範囲内に制御できる。ここでいう「所定の範囲内」とは、MISFETの閾値電圧の設計された値(基準値)に対するばらつきが基準範囲以内(例えば±5%以内)であることを指す。
【0085】
このように、本実施形態の方法によって炭化珪素半導体素子を作製すると、閾値電圧のばらつきを大幅に低減することができ、閾値電圧の面内分布を基準範囲内に抑えることができる。従って、炭化珪素の優れた物性から期待される優れた電気特性を有する炭化珪素半導体素子を、高い歩留まりで製造することが可能になる。
【0086】
<第2炭化珪素層115の不純物濃度および厚さの面内分布の制御方法>
以下、エピタキシャル成長によって第2炭化珪素層115を形成する際の条件(成長条件)と第2炭化珪素層115の不純物濃度(ここでは、n型の不純物の濃度)および厚さとの相関関係を説明する。なお、以下に説明する相関関係を表1にまとめて示す。
【0087】
(原料ガスの供給量の制御)
本発明者は、成長条件を異ならせて第2炭化珪素層115を形成し、その不純物濃度および厚さの面内分布を調べた。この結果から、原料ガスの供給量を制御することによって、第2炭化珪素層115の厚さを面内で均一に保ったまま、第2炭化珪素層115の不純物濃度に所望の面内分布を持たせることができることを見出した。
【0088】
図4(a)は、第2炭化珪素層115を形成する際の原料ガスの供給量と、第2炭化珪素層115の不純物濃度および厚さの面内ばらつきとの相関関係を示すグラフである。横軸は、原料ガスであるSi源ガス(SiH4)の供給量、縦軸は第2炭化珪素層115の不純物濃度および厚さの面内ばらつきと第2炭化珪素層115の成長速度とを表している。
【0089】
このグラフから明らかなように、原料ガスの供給量を減少させると、第2炭化珪素層115の不純物濃度の面内ばらつきが大きくなる。これに対し、第2炭化珪素層115の厚さの面内ばらつきは、原料ガスの供給量に大きく依存せず略一定(例えば面内ばらつき:±5%以下)である。
【0090】
また、図4(b)は、Si源ガス(SiH4)の供給量が10sccmの場合の、炭化珪素層付ウェハ1の中心からの距離における第2炭化珪素層の厚さおよび不純物濃度を示すグラフである。この例では、第2炭化珪素層115の不純物濃度(窒素濃度)は、炭化珪素層付ウェハ1の中心で低く、周縁部に向かうにつれて高くなることがわかる。
【0091】
図4(a)および(b)に示す結果から、次のような成長メカニズムが考えられる。
【0092】
Si源ガスの供給量を増加させると、低温(約600℃)で分解するSi源ガスが、炭化珪素層付ウェハ1の中央部まで到達しやすくなる。これに対し、C源ガスは、炭化珪素層付ウェハ1の面内で略均一に供給される。このため、炭化珪素層付ウェハ1の周縁部のみでなく中央部においても、Si源ガスの量のC源ガスの量に対する割合が高くなる。この結果、第1炭化珪素層110の表面に到達する原料ガスの供給量比(C/Si比)の面内分布が小さくなる。SiCのエピタキシャル成長時に、不純物である窒素はCサイトに取り込まれるが、原料ガスの供給量比(C/Si比)が面内で略一定となれば、窒素の濃度分布も面内で略一定となる。
【0093】
一方、原料ガスの供給量が小さくなると、Si源ガスは炭化珪素層付ウェハ1の中央部まで到達しにくくなる。このため、炭化珪素層付ウェハ1の中央部では、原料ガスの供給量比(C/Si比)が周縁部よりも大きくなる。原料ガスの供給比がこのように面内で分布を有すると、Cサイトに取り込まれる窒素の濃度も面内で分布を有する。このため、図4(b)に示すように、第2炭化珪素層115の窒素の濃度(不純物濃度)は、炭化珪素層付ウェハ1の中央部で周縁部よりも高くなる。
【0094】
なお、Si源ガスの供給量の代わりに、あるいはSi源ガスの供給量に加えて、C源ガスの供給量を調整することによって、炭化珪素層付ウェハ1の面内における原料ガスの供給比を制御してもよい。
【0095】
このように、原料ガスの供給量を制御することによって、第2炭化珪素層115の厚さを一定に保ったまま、第2炭化珪素層115の不純物濃度の面内分布を独立して制御できる。
【0096】
第2炭化珪素層115の不純物濃度は、第2炭化珪素層115の厚さよりも、MISFETの閾値電圧に大きな影響を与える。従って、ボディ領域105の表面濃度分布が大きい(例えば濃度の面内ばらつき:±3%以上)場合には、第2炭化珪素層115の濃度の面内分布を制御することが好ましい。
【0097】
(エピタキシャル成長時の圧力)
本発明者は、さらに、エピタキシャル成長の際の成長室内の圧力(成長圧力)によって、第2炭化珪素層115の厚さの面内分布を制御できることを見出した。
【0098】
図5(a)および(b)は、それぞれ、成長圧力を200mbarおよび100mbarに設定した場合の第2炭化珪素層115の厚さの面内分布を示すグラフである。グラフの縦軸は第2炭化珪素層115の厚さ、横軸は炭化珪素層付ウェハ1の中心からの距離を表している。成長圧力以外の第2炭化珪素層115の形成条件は全て同一である。
【0099】
このグラフから、成長圧力を変えることによって、第2炭化珪素層115の濃度および厚さの面内分布を制御できることが分かる。この理由を以下に説明する。
【0100】
図6は、エピタキシャル成長工程を説明するための模式的な断面図である。図6に示すように、エピタキシャル成長工程では、チャンバ(成長室)内に設置されたホルダー501上に、炭化珪素層付ウェハ1を固定し、炭化珪素層付ウェハ1(第1炭化珪素層110)の表面に原料ガスを供給する。このとき、炭化珪素層付ウェハ1の表面の上方に、原料ガス(例えばSiH4、C38)の気相反応が生じる気相反応層502が形成される。また、炭化珪素層付ウェハ1と気相反応層502との界面には、よどみ層(拡散層)504が形成される。SiやCを含む反応種は、気相反応層502から、よどみ層504を拡散して、炭化珪素層付ウェハ1の表面に達する。
【0101】
エピタキシャル成長工程では、成長圧力によって、よどみ層504の厚さが変化する。具体的には、成長圧力が高い(例えば200mbar以上)場合には、よどみ層504が炭化珪素層付ウェハ1の中央部よりも周縁部で厚くなる。成長圧力が低い(例えば50mbar以下)場合には、よどみ層504は炭化珪素層付ウェハ1の周縁部よりも中央部で厚くなる。この理由を以下に説明する。
【0102】
本実施例では、エピタキシャル成長室の中央部から原料ガスを供給するため、成長室内の中央部と周縁部とでは原料ガスの流速が異なる。成長圧力が低い場合には、ガスの流速が成長室中央部で大きく周縁部に向かって小さくなるために、よどみ層504の厚さが中央部で厚く周縁部で薄くなる。成長室内で自転している炭化珪素層付ウェハ1からみると、原料ガスの流速は、炭化珪素層付ウェハ1の中央部で周縁部よりも高いので、よどみ層504は炭化珪素層付ウェハ1の中央部で周縁部よりも厚くなる。一方、成長圧力が高い場合には、ガスの流速が成長室中央部と周縁部での差が小さくなり、自転している炭化珪素層付ウェハ1からみると、原料ガスの流速は、炭化珪素層付ウェハ1の周縁部で中央部よりも高くなる。このため、よどみ層504は炭化珪素層付ウェハ1の中心部よりも周縁部で厚くなる。
【0103】
よどみ層504の厚さが上記のような分布を有すると、形成されるエピタキシャル膜(第2炭化珪素層115)の厚さや不純物濃度にも分布が生じる。よどみ層504が厚い領域では、薄い領域と比べて、その下の第1炭化珪素層110表面に供給される原料の量が多くなる。このため、エピタキシャル膜の厚さは大きくなる。また、よどみ層504の厚い領域では、エピタキシャル膜の成長速度が高くなるので、不純物濃度は低くなる。
【0104】
このように、成長圧力を制御することによって、よどみ層504の厚さに面内分布を生じさせ、その結果、第2炭化珪素層115の厚さおよび不純物濃度の面内分布を制御することが可能になる。
【0105】
(エピタキシャル成長時の速度)
エピタキシャル成長の際に、不純物を含むガス(例えば窒素ガス)の供給量が一定であれば、エピタキシャル成長の速度(成長速度)が高くなると、SiC結晶に取り込まれる不純物の量が少なくなるので、第2炭化珪素層(チャネル層)となるエピタキシャル膜の不純物濃度は低くなる。逆に、成長速度が低いと、窒素はSiC結晶に取り込まれやすくなるので、エピタキシャル膜の不純物濃度は高くなる。
【0106】
従って、エピタキシャル成長条件を制御して、炭化珪素層付ウェハ1の面内で成長速度に不均一な分布を持たせると、第2炭化珪素層115の不純物濃度を面内で異ならせることが可能になる。
【0107】
(その他の成長条件)
原料ガスの供給量や成長圧力以外の成長パラメータを制御することもできる。例えば、表1に示すように、成長温度や原料ガスの供給量比(C/Si比)を制御することによって、第2炭化珪素層115の厚さや不純物濃度の面内分布を制御してもよい。
【0108】
エピタキシャル成長工程において、炭化珪素層付ウェハ1の面内でエピタキシャル成長時の温度(成長温度)が勾配を有するように、炭化珪素層付ウェハ1を加熱してもよい。例えば、成長温度を高く(例えば1700℃以上)設定し、自公転させながら炭化珪素層付ウェハ1を加熱すると、炭化珪素層付ウェハ401の周縁部で中央部よりも温度が高くなる。炭化珪素層付ウェハ1のうち成長温度の高い部分では、低い部分よりも、エピタキシャル膜の成長速度を高めることができるので、成長速度に所望の面内分布を持たせることができる。前述したように、成長速度が高いほど、第2炭化珪素層115の厚さが大きくなるとともに、不純物濃度が低くなる。
【0109】
なお、ボディ領域105の表面濃度分布が同心円状ではない場合でも、成長パラメータを制御することによって、第2炭化珪素層115の厚さおよび不純物濃度に、ボディ領域105の表面濃度分布に応じた面内分布を生じさせればよい。例えば、ボディ領域105の表面の不純物濃度が、炭化珪素層付ウェハ401の一方の端部Aから他方に端部Bに向かって高くなるような分布を有するときには、第2炭化珪素層115が端部Bで端部Aよりも厚くなるように、成長パラメータを制御してもよい。
【0110】
【表1】

【0111】
<炭化珪素半導体素子が形成された炭化珪素層付ウェハの構造>
本実施形態の方法を用いて炭化珪素半導体素子が形成された炭化珪素層付ウェハ1の構造の一例を図7に示す。
【0112】
図7に示すように、本実施形態の炭化珪素層付ウェハ1は、素子形成部R1と、素子形成部R1以外の領域に設けられた測定部R2とを有している。素子形成部R1には、複数のユニットセル100が形成され、測定部R2には複数のパラメータチェック領域116が形成されている。図7では、ユニットセル100およびパラメータチェック領域116をそれぞれ1個ずつ示す。
【0113】
各ユニットセル100は、炭化珪素ウェハ101と、炭化珪素ウェハ101上に形成され、第1導電型の不純物を含む第1導電型不純物領域を有する第1炭化珪素層110と、第1炭化珪素層110の表面に形成され、炭化珪素から構成された第2炭化珪素層115とを備えている。第1炭化珪素層110および第2炭化珪素層115はエピタキシャル成長によって形成されている。第2炭化珪素層115は、第2導電型の不純物を含んでいる。
【0114】
第1炭化珪素層110には、第1導電型不純物領域として、複数のボディ領域105が形成されている。第2炭化珪素層115は各ボディ領域105の表面と接するように形成されている。
【0115】
第1炭化珪素層110には、また、ボディ領域105と隣接するように、第2導電型の不純物を含むソース領域108が形成されている。ここでは、第1炭化珪素層110の表面において、ソース領域108はボディ領域105に包囲されている。各ボディ領域105内には、ボディ領域105と接し、かつ、ボディ領域105よりも高濃度で第1導電型の不純物を含むコンタクト領域109が形成されている。
【0116】
第2炭化珪素層115は、ボディ領域105の一部と接し、かつ、ボディ領域105の一部を跨いで、ソース領域108およびドリフト領域102と接するように配置されている。
【0117】
第2炭化珪素層115の上には、ゲート絶縁膜111を介してゲート電極113が設けられている。また、第1炭化珪素層110の上には、ソース領域108およびコンタクト領域109に接するソース電極112が設けられている。ソース電極112は、層間絶縁膜117に形成されたコンタクトホール内で電極配線層118に接続されている。さらに、炭化珪素ウェハ101の裏面(主面と反対側の面)にはドレイン電極114が設けられている。
【0118】
一方、炭化珪素層付ウェハ1のうち炭化珪素半導体素子が形成されない部分(測定部R2)には、パラメータチェック領域116が配置されている。パラメータチェック領域116は、ボディ領域105と同一の注入工程および活性化アニール工程によって形成されており、同一の不純物を含んでいる。活性化アニールによる炭化珪素の消失量が略等しければ、これらの領域の深さ方向における不純物の濃度プロファイルは略同じになる。
【0119】
この例では、ボディ領域105の表面のうち第2炭化珪素層115と接する部分の第1導電型の不純物の濃度(表面濃度)は、炭化珪素層付ウェハ1の中央部よりも周縁部で高い。また、第2炭化珪素層115における第2導電型の不純物の濃度は、炭化珪素層付ウェハ1の中央部よりも周縁部で高い。代わりに、あるいは、これに加えて、第2炭化珪素層115は、炭化珪素層付ウェハ1の中央部よりも周縁部で厚くてもよい。これにより、第2炭化珪素層115の厚さまたは不純物濃度の面内分布によって、ボディ領域105の表面濃度の分布に起因する素子特性の面内ばらつきを抑制できる。
【0120】
本実施形態では、炭化珪素層付ウェハ1の周縁部に位置するボディ領域105の表面濃度は、炭化珪素層付ウェハ1の中央部に位置するボディ領域105の表面濃度と異なっている。例えば、本実施形態におけるボディ領域105の表面濃度は同心円状の分布を有していてもよい。
【0121】
炭化珪素層付ウェハ1の中央部に位置するボディ領域105の表面濃度が、炭化珪素層付ウェハ1の周縁部に位置するボディ領域105の表面濃度よりも高い場合、第2炭化珪素層115における第2導電型の不純物の濃度は、炭化珪素層付ウェハ1の周縁部よりも中央部で高くなる分布を有する。代わりに、あるいは、これに加えて、第2炭化珪素層115は、炭化珪素層付ウェハ1の周縁部よりも中央部で厚くてもよい。このような構成でも、上記と同様の効果が得られる。
【0122】
このように、炭化珪素層付ウェハ1の周縁部に位置するボディ領域105の表面濃度と、炭化珪素層付ウェハ1の中央部に位置するボディ領域105の表面濃度とが異なっている場合には、第2炭化珪素層115のうち表面濃度の高い方のボディ領域105と接する部分を、表面濃度の低い方のボディ領域105と接する部分よりも厚くすればよい。あるいは、第2炭化珪素層115のうち表面濃度の高い方のボディ領域105と接する部分の不純物濃度を、表面濃度の低い方のボディ領域105と接する部分の不純物濃度よりも高く設定すればよい。第2炭化珪素層115の厚さおよび不純物濃度の少なくとも一方が上記のような分布を有していれば、本願発明の効果を得ることができる。
【0123】
炭化珪素層付ウェハ1のうち炭化珪素半導体素子が形成されない部分(測定部R2)に、ボディ領域105と同一の不純物を含む第1導電型のパラメータチェック領域116が形成されていてもよい。パラメータチェック領域116の表面の不純物濃度は、炭化珪素層付ウェハ1の中央部および周縁部のうち表面濃度の高いボディ領域105が配置された方に位置する部分で、表面濃度の低いボディ領域105が配置された方に位置する部分よりも高くなる。従って、パラメータチェック領域116の表面の不純物濃度を測定することによって、ボディ領域105の表面に測定によるダメージを与えることなく、ボディ領域105の表面濃度分布を求めることができる。
【0124】
本実施形態では、第1炭化珪素層110の表面領域のうち複数のボディ領域105が形成されていない領域に、複数のパラメータチェック領域116が配置されている。パラメータチェック領域116は少なくとも炭化珪素層付ウェハ1の中央部と周縁部とに配置されることが好ましい。パラメータチェック領域116の表面濃度は、ボディ領域105の表面濃度と同様の分布を有する。
【0125】
図1を参照しながら前述した製造方法では、炭化珪素半導体素子として、プレーナ構造を有する蓄積チャネル型のMISFETを製造しているが、トレンチ構造を有するMISFETを製造してもよい。
【0126】
図8は、トレンチ構造を有する蓄積チャネル型のMISFETのユニットセル200を例示する断面図である。簡単のため、図7と同様の構成要素には同じ参照符号を付し、説明を省略する。
【0127】
トレンチ構造を有するMISFETでは、第2導電型のソース領域108は、第1炭化珪素層110の表面領域に配置されており、ボディ領域105はソース領域108の下方に、ソース領域108に接して形成されている。コンタクト領域109は、ボディ領域105内に配置され、ボディ領域105と電気的に接続されている。ドリフト領域102は、ボディ領域105と炭化珪素ウェハ101との間に配置されている。
【0128】
また、第1炭化珪素層110には、ソース領域108およびボディ領域105を貫通し、ドリフト領域102に達するトレンチ120が形成されている。トレンチ120内には、ドリフト領域102、ボディ領域105およびソース領域108と接するように第2炭化珪素層115が形成されている。第2炭化珪素層115の上には、ゲート絶縁膜111およびゲート電極113がこの順で設けられている。その他の構成は、図7に示す構成と同様である。
【0129】
炭化珪素ウェハ101を用いてトレンチ構造を有するMISFETを製造する場合でも、ボディ領域105の表面のうち第2炭化珪素層115と接する部分、すなわちトレンチ120の側壁部分の濃度分布に応じて、第2炭化珪素層115の厚さまたは不純物濃度の面内分布を制御する。これにより、図1に示す方法と同様の効果が得られる。また、図示していないが、図7に示す構成と同様に、炭化珪素層付ウェハのうち炭化珪素半導体素子が形成されない部分に、パラメータチェック領域を形成してもよい。
【0130】
本実施形態は、第1導電型不純物領域を含む第1炭化珪素層と、その表面にエピタキシャル成長によって形成された、第2導電型の不純物を含む第2炭化珪素層とを備えた炭化珪素半導体素子の製造方法に広く適用できる。これにより、第1導電型不純物領域の表面の不純物の濃度分布に基づいて、第2炭化珪素層の厚さおよび/または不純物濃度の面内分布を制御できるので、素子特性の面内ばらつきを抑制でき、歩留まりを向上できる。
【0131】
本実施形態の炭化珪素半導体素子の製造方法は、上記方法に限定されない。上記方法では、イオン注入および活性化アニールによって第1導電型不純物領域を形成したが、代わりに、他の方法(例えばSOG(Spin on Glass)による固相拡散法など)を用いてもよい。また、活性化アニール以外の方法で、第1導電型不純物領域の表面濃度分布が不均一になる場合にも、本実施形態を適用できる。さらに、上記方法では、第2炭化珪素層として、第1導電型不純物領域とは異なる導電型を有するエピタキシャル層を形成したが、第2炭化珪素層および第1導電型不純物領域の導電型は同じであってもよい。
【0132】
本実施形態における炭化珪素半導体素子は、プレーナ構造またはトレンチ構造の縦型MISFETに限定されない。例えば、炭化珪素ウェハの主面上にソース電極及びドレイン電極が配置された横型MISFETであってもよい。あるいは、ダイオード、接合型電界効果トランジスタ(Junction Field Effect Transistor:JFET)等であってもよい。さらに、第1炭化珪素層110と異なる導電型の炭化珪素ウェハを用いて絶縁ゲートバイポーラトランジスタ(Insulated Gate Bipolar Transistor:IGBT)を製造することもできる。
【産業上の利用可能性】
【0133】
本発明によると、炭化珪素ウェハを用いて炭化珪素半導体素子を製造する方法において、炭化珪素層付ウェハの主面に平行な面内における素子特性のばらつきを抑制することができる。これにより、炭化珪素半導体素子を高い歩留まりで製造できる。
【0134】
本発明は、低損失が要求されるパワー半導体素子に適用すると有利である。特に、直径が3インチ以上の炭化珪素ウェハを用いた、MISFET、IGBT、JFET、ダイオードなどの炭化珪素半導体素子の製造に好適に適用される。
【符号の説明】
【0135】
101、301 炭化珪素ウェハ
110、310 第1炭化珪素層
102、302 ドリフト領域
105、305 ボディ領域
108、308 ソース領域
109、309 コンタクト領域
111、311 ゲート絶縁膜
112、312 ソース電極
113、313 ゲート電極
114、314 ドレイン電極
115、307 第2炭化珪素層(チャネル層)
100、200、300 MISFETのユニットセル
400 炭化珪素半導体素子(MISFET)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)炭化珪素ウェハと、前記炭化珪素ウェハの主面上に配置され、第1導電型の不純物を含む複数の第1導電型不純物領域を有する第1炭化珪素層とを備えた炭化珪素層付ウェハを用意する工程と、
(B)前記第1炭化珪素層の表面に炭化珪素をエピタキシャル成長させることによって、前記複数の第1導電型不純物領域と接するように第2炭化珪素層を形成する工程と
を包含し、
前記工程(B)において、前記複数の第1導電型不純物領域の表面における第1導電型の不純物の濃度分布に基づいて、前記炭化珪素ウェハの主面に平行な面内で、前記第2炭化珪素層の厚さ、不純物濃度、またはその両方に分布をもたせるように、エピタキシャル成長させる条件を制御する炭化珪素半導体素子の製造方法。
【請求項2】
前記工程(A)は、
前記第1炭化珪素層に第1導電型の不純物をイオン注入する工程と、
前記炭化珪素層付ウェハに対してアニール処理を行って、前記第1炭化珪素層にイオン注入された第1導電型の不純物を活性化させることにより、前記複数の第1導電型不純物領域を形成する工程と
を含む請求項1に記載の炭化珪素半導体素子の製造方法。
【請求項3】
前記工程(A)の後、前記工程(B)の前に、前記第1炭化珪素層の表面における第1導電型の不純物の濃度を測定することにより、前記複数の第1導電型不純物領域の表面における第1導電型の不純物の濃度分布を導出する工程(C)をさらに含む請求項1または2に記載の炭化珪素半導体素子の製造方法。
【請求項4】
前記第1炭化珪素層は、前記第1炭化珪素層の表面領域のうち前記複数の第1導電型不純物領域が配置されていない部分に配置された第1導電型のパラメータチェック領域をさらに有しており、
前記工程(C)において、前記パラメータチェック領域の表面における第1導電型の不純物の濃度を測定し、これに基づいて、前記複数の第1導電型不純物領域の表面における第1導電型の不純物の濃度分布を導出する請求項3に記載の炭化珪素半導体素子の製造方法。
【請求項5】
前記工程(A)は、
前記第1炭化珪素層に第1導電型の不純物をイオン注入する工程と、
前記炭化珪素層付ウェハに対してアニール処理を行って、前記第1炭化珪素層にイオン注入された第1導電型の不純物を活性化させることにより、前記複数の第1導電型不純物領域と前記パラメータチェック領域とを形成する工程と
を含む請求項4に記載の炭化珪素半導体素子の製造方法。
【請求項6】
前記工程(C)において、前記複数の第1導電型不純物領域の表面における第1導電型の不純物の濃度を測定し、これに基づいて、前記複数の第1導電型不純物領域の表面における第1導電型の不純物の濃度分布を導出する請求項3に記載の炭化珪素半導体素子の製造方法。
【請求項7】
前記工程(B)において、前記第2炭化珪素層は第2導電型の不純物を含む請求項1から6のいずれかに記載の炭化珪素半導体素子の製造方法。
【請求項8】
前記複数の第1導電型不純物領域のうち前記炭化珪素層付ウェハの中央部に配置された第1導電型不純物領域の表面における第1導電型の不純物の濃度が、前記炭化珪素層付ウェハの周縁部に配置された第1導電型不純物領域の表面における第1導電型の不純物の濃度と異なる請求項1から7のいずれかに記載の炭化珪素半導体素子の製造方法。
【請求項9】
前記工程(B)において、
前記第2炭化珪素層の厚さが、前記炭化珪素層付ウェハの中央部に配置された前記第1導電型不純物領域および前記炭化珪素層付ウェハの周縁部に配置された前記第1導電型不純物領域のうち表面における第1導電型の不純物の濃度の高い方と接する部分で、表面における第1導電型の不純物の濃度の低い方と接する部分よりも大きくなるように、前記エピタキシャル成長の条件を制御する請求項8に記載の炭化珪素半導体素子の製造方法。
【請求項10】
前記工程(B)において、
前記第2炭化珪素層の不純物濃度が、前記炭化珪素層付ウェハの中央部に配置された前記第1導電型不純物領域および前記炭化珪素層付ウェハの周縁部に配置された前記第1導電型不純物領域のうち表面における第1導電型の不純物の濃度の高い方と接する部分で、表面における第1導電型の不純物の濃度の低い方と接する部分よりも高くなるように、前記エピタキシャル成長の条件を制御する請求項8または9に記載の炭化珪素半導体素子の製造方法。
【請求項11】
前記工程(B)において、前記エピタキシャル成長させる条件は、前記炭化珪素層付ウェハに供給する原料ガスの流量、前記炭化珪素層付ウェハに供給する炭素量とケイ素量との比、エピタキシャル成長の際の成長室内の圧力、および、エピタキシャル成長の際の前記炭化珪素層付ウェハの温度のうち少なくとも1つを含む、請求項1から10のいずれかに記載の炭化珪素半導体素子の製造方法。
【請求項12】
前記工程(C)において、第1導電型の不純物の濃度の測定を、容量−電圧測定、二次イオン質量分析測定、または比抵抗測定によって行う請求項3から6のいずれかに記載の炭化珪素半導体素子の製造方法。
【請求項13】
前記炭化珪素ウェハは、2度から10度のオフ角度を有する(0001)Si面を主面とする4H−SiCウェハである請求項1から12のいずれかに記載の炭化珪素半導体素子の製造方法。
【請求項14】
前記第1導電型不純物領域はボディ領域であり、前記第2炭化珪素層はチャネル層である請求項1から13のいずれかに記載の炭化珪素半導体素子の製造方法。
【請求項15】
前記工程(A)は、
前記第1炭化珪素層に、前記ボディ領域と、前記ボディ領域と隣接する第2導電型のソース領域と、前記ボディ領域内に配置され、前記ボディ領域よりも高い濃度で第1導電型の不純物を含む第1導電型のコンタクト領域とを形成する工程
をさらに含み、前記第1炭化珪素層のうち前記ボディ領域も前記ソース領域も配置されなかった領域は第2導電型のドリフト領域となり、
前記工程(B)の後で、
前記第2炭化珪素層と接するようにゲート絶縁膜を形成する工程と、
前記ゲート絶縁膜上にゲート電極を形成する工程と、
前記ソース領域と接するようにソース電極を形成する工程と、
前記炭化珪素ウェハの前記主面と反対側の面にドレイン電極を形成する工程と
をさらに包含する請求項14に記載の炭化珪素半導体素子の製造方法。
【請求項16】
炭化珪素ウェハと、
前記炭化珪素ウェハ上に配置された第1炭化珪素層と、
前記第1炭化珪素層に配置され、第1導電型の不純物を含む複数の第1導電型不純物領域と、
前記第1炭化珪素層の上に、前記複数の第1導電型不純物領域のそれぞれに接して配置された第2炭化珪素層と
を備えた炭化珪素層付ウェハであって、
前記第2炭化珪素層は第2導電型の不純物を含んでおり、
前記複数の第1導電型不純物領域の表面のうち前記第2炭化珪素層と接する部分の第1導電型の不純物の濃度αは、前記複数の第1導電型不純物領域のうち前記炭化珪素層付ウェハの中央部に配置された第1導電型不純物領域と前記炭化珪素層付ウェハの周縁部に配置された第1導電型不純物領域とで異なり、
前記第2炭化珪素層の厚さは、前記炭化珪素層付ウェハの中央部に配置された前記第1導電型不純物領域および前記炭化珪素層付ウェハの周縁部に配置された前記第1導電型不純物領域のうち前記濃度αの高い方と接する部分で、前記濃度αの低い方と接する部分よりも大きい、および/または、
前記第2炭化珪素層の不純物濃度は、前記濃度αの高い方と接する部分で、前記濃度αの低い方と接する部分よりも高い炭化珪素層付ウェハ。
【請求項17】
前記第1炭化珪素層の表面領域のうち前記第1導電型不純物領域が配置されていない部分に、前記第1導電型不純物領域と同一の不純物を含むパラメータチェック領域をさらに有し、
前記パラメータチェック領域の表面における第1導電型の不純物の濃度は、前記炭化珪素層付ウェハの中央部および周縁部のうち、前記濃度αの高い方の第1導電型不純物領域が配置された方に位置する部分で、前記濃度αの低い方の第1導電型不純物領域が配置された方に位置する部分よりも高い請求項16に記載の炭化珪素層付ウェハ。
【請求項18】
前記第1導電型不純物領域はボディ領域であり、
前記第1炭化珪素層は、前記ボディ領域と隣接するように配置された第2導電型のソース領域と、前記ボディ領域内に配置され、前記ボディ領域よりも高い濃度で第1導電型の不純物を含む第1導電型のコンタクト領域と、前記第1炭化珪素層のうち前記ボディ領域も前記ソース領域も配置されなかった領域に位置する第2導電型のドリフト領域とをさらに含み、
前記第2炭化珪素層と接するゲート絶縁膜と、
前記ゲート絶縁膜上に設けられたゲート電極と、
前記ソース領域と接するように配置されたソース電極と、
前記炭化珪素ウェハの前記主面と反対側の面に設けられたドレイン電極と
をさらに備えた請求項16または17に記載の炭化珪素層付ウェハ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−94648(P2012−94648A)
【公開日】平成24年5月17日(2012.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−240033(P2010−240033)
【出願日】平成22年10月26日(2010.10.26)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】