説明

無効電流指令作成部を有するモータ駆動装置

【課題】入力された交流を直流に変換する直流変換部と、直流変換部が出力した直流をモータの駆動のための交流に変換する交流変換部と、を備えるモータ駆動装置において、過電圧異常を抑制することができる、制御が容易で低コストおよび省スペースのモータ駆動装置を実現する。
【解決手段】モータ駆動装置は、入力された交流を直流に変換する直流変換部11と、直流変換部11が出力した直流をモータ3の駆動のための交流に変換する交流変換部12と、直流変換部11の直流出力側の電圧を検出する電圧検出部13と、電圧検出部13が検出した電圧が所定の閾値を超えたとき、交流変換部12が無効電流を出力するよう制御してモータにおける消費電力を増加させる数値制御部14と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、交流電源からの交流電力を直流電力に変換したのちさらに交流電力に変換してこれを駆動電力とするモータを制御するためのモータ駆動装置に関し、特に、直流変換部の過電圧異常の発生を抑制することができるモータ駆動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
工作機械システムにおいては、工作機械の駆動軸ごとにモータを有し、これらモータをモータ駆動装置により駆動制御する。モータ駆動装置は、工作機械の駆動軸を駆動する駆動軸数分のモータに対し、モータの速度、トルク、もしくは回転子の位置を指令し制御する。
【0003】
モータ駆動装置は、三相の商用交流電力を直流電力に変換する直流変換部と、直流変換部から出力された直流電力をモータの駆動電力として供給される所望の周波数の交流電力に変換しまたはモータから回生される交流電力を直流電力に変換する交流変換部と、を備え、当該交流変換部の交流側に接続されたモータの速度、トルク、もしくは回転子の位置を制御する。
【0004】
交流変換部は、工作機械における複数の駆動軸に対応してそれぞれ設けられる各モータに個別に駆動電力を供給してモータを駆動制御するためにモータの個数と同数個設けられる。一方、直流変換部は、モータ駆動装置のコストや占有スペースを低減する目的で、複数の交流変換部に対して1個が設けられることが多い。
【0005】
モータ駆動装置でモータを減速制御する際には、モータから回生電力が発生する。この回生電力は交流変換部を経て直流変換部側に戻される。したがって、交流変換部は、直流電力を交流電力に変換するのみではなく、交流電力を直流電力に変換することもできる、すなわち交直双方向に変換可能である半導体電力変換器として構成される。
【0006】
モータの減速制御時に発生するモータからの回生電力により、直流変換部の直流出力側の電圧は上昇する。回生電力が大きいと直流変換部の直流出力側の電圧は急激に上昇して過電圧異常が発生し、直流変換部が故障することがある。
【0007】
このような直流変換部の直流出力側の過電圧異常を回避するために、直流出力側の電圧の上昇分を熱として消費させる回生用抵抗器を直流変換部の直流出力側に別途設けたり、回生電力を交流電源側に戻す電源回生回路を別途設けたりしている。
【0008】
例えば、直流変換器の出力電圧と交流変換器に流入する直流電流の向きから回生電力レベルを演算し、回生電力レベルが予め定めた設定値を超過した場合に回生抵抗を導通させ、直流電圧の上昇分を熱として消費させることで、急激な過電圧上昇による交流変換器の素子破壊を防止する交流変換器保護装置が提案されている(例えば、特許文献1参照。)。
【0009】
また、モータのイナーシャの大きさや速度によっては、回生時に回生抵抗の定格以上の過電流が流れ、回生抵抗が焼損することもあるため、過電圧時に回生抵抗への電流の流れを遮断する回生抵抗保護回路等が提案されている。
【0010】
例えば、回生抵抗の定格を超える過電流を検出した際に、直流変換器の出力端子間に接続されたキャパシタから回生抵抗への電流の流れを遮断し、同時に直流変換器への交流入力を制御する入力制御コンタクタもオフすることで、回生抵抗の焼損を防止する回生抵抗保護機構が提案されている(例えば、特許文献2参照。)。
【0011】
また例えば、サーボモータの電流、速度及びトルク等から回生電力を算出し、許容回生電力を超えないように、減速トルクを演算し、モータを減速させることで、過電圧による回生抵抗及びトランジスタ等の熱焼損を防止するサーボモータ回生処理回路が提案されている(例えば、特許文献3参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開平7−95775号公報
【特許文献2】特許第3511173号公報
【特許文献3】特許第3368930号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
直流変換部の直流出力側の過電圧異常を回避するために、直流出力側の電圧の上昇分を熱として消費させる回生用抵抗器を直流変換部の直流出力側に別途設けたり、回生電力を交流電源側に戻す電源回生回路を別途設けたりする場合、モータから発生する回生電力が大きくなり得る場合には、それに応じて容量の大きな回生用抵抗器や電源回生回路を選定しなければならず、その分、モータ駆動装置が大型化し、コストも増大してしまう問題点がある。
【0014】
例えば、上記特許文献1(特開平7−95775号公報)に記載された発明によれば、回生時にモータから発生する回生電力の大きさは、モータの仕様および動作によって異なる。このため、発生する回生電力が大きくなり得る場合には、それに応じて容量の大きな回生用抵抗器や電源回生回路を選定しなければならず、その分、モータ駆動装置のコストも増大してしまう。
【0015】
また、上記特許文献2(特許第3511173号公報)および上記特許文献3(特許第3368930号公報)に記載された発明によれば、回生抵抗を保護する回生抵抗保護回路を別途設けており、その分、モータ駆動装置のコストも増大してしまう問題点がある。特に、上記特許文献3(特許第3368930号公報)に記載された発明によれば、回生用抵抗に加え、抵抗回生保護回路等を設ける必要があるため、さらにモータ駆動装置のコストが増大してしまう。
【0016】
従って本発明の目的は、上記問題に鑑み、入力された交流を直流に変換する直流変換部と、直流変換部が出力した直流をモータの駆動のための交流に変換する交流変換部と、を備えるモータ駆動装置において、過電圧異常を抑制することができる、制御が容易で低コストおよび省スペースのモータ駆動装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記目的を実現するために、本発明においては、モータ駆動装置は、入力された交流を直流に変換する直流変換部と、直流変換部が出力した直流をモータの駆動のための交流に変換する交流変換部と、直流変換部の直流出力側の電圧を検出する電圧検出部と、電圧検出部が検出した電圧が所定の閾値を超えたとき、交流変換部が無効電流を出力するよう制御してモータにおける消費電力を増加させる数値制御部と、を備える。
【0018】
上記数値制御部は、電圧検出部が検出した電圧が所定の閾値を超えたか否かを監視する電圧監視部と、電圧検出部が検出した電圧が所定の閾値を超えたと電圧監視部が判定したとき、電圧検出部が検出した電圧に応じて交流変換部に無効電流を出力させるための無効電流指令を作成する無効電流指令作成部と、を有する。
【0019】
上記所定の閾値は、直流変換部に許容される直流出力側の最大電圧値よりも低い値に設定してもよい。
【0020】
また、数値制御部は、電圧検出部が検出した電圧が所定の閾値を超えたとき、複数の交流変換部のうち少なくとも1つに対し無効電流を出力するよう制御するようにしてもよい。
【0021】
また、交流変換器がモータに出力する電流のリミット値は、モータの出力トルクを制限するために設けられた電流のリミット値、よりも高い値に設定してもよい。
【0022】
また、数値制御部は、電圧検出部が検出した電圧が所定の閾値を超えたとき、交流変換部が正弦波状もしくは矩形波状の無効電流を出力するよう制御するようにしてもよい。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、入力された交流を直流に変換する直流変換部と、直流変換部が出力した直流をモータの駆動のための交流に変換する交流変換部と、を備えるモータ駆動装置において、直流変換部の直流出力側の電圧を検出し、この検出した電圧が所定の閾値を超えたとき、交流変換部が無効電流を出力するよう制御してモータに無効電流を流してモータにおける消費電力を増加させるので、複雑な制御を用いることなく過電圧異常を容易に抑制することができる。本発明によれば、回生用抵抗器、電源回生回路および回生用抵抗保護回路等を別途設ける必要がないので、低コストで小型のモータ駆動装置を実現することができる。
【0024】
また例えば、モータ駆動装置により駆動するモータの運転状況などを変更することでモータから発生する回生電力が増加した場合には、回生用抵抗器や電源回生回路を別途設ける従来技術によれば、回生電力の増加に応じて回生用抵抗器や電源回生回路の設計も変更しなければならない状況が生じることがあり、モータ駆動装置の大幅な改造や設置レイアウトの変更など、経済的および時間的な負担をユーザにもたらしていた。これに対し、本発明によれば、回生用抵抗器や電源回生回路等を別途設ける必要がなく、数値制御部のプログラム変更で対応することができるので、モータ駆動装置により駆動するモータの運転状況などの変更にも柔軟かつ迅速に対応することができ、経済的および時間的なユーザ負担を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の実施例によるモータ駆動装置を示す図である。
【図2】本発明の実施例によるモータ駆動装置の動作フローを示すフローチャートである。
【図3】有効電流および無効電流と実電流との関係を示す図である。
【図4】本発明の実施例によるモータ駆動装置における電圧監視の閾値の設定を説明する図である。
【図5】本発明の実施例によるモータ駆動装置における、無効電流指令の波形について説明する図であって、無効電流指令が正弦波状である場合を示す図である。
【図6】本発明の実施例によるモータ駆動装置における、無効電流指令の波形について説明する図であって、無効電流指令が矩形波状である場合を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下図面を参照して、無効電流指令作成部を有するモータ駆動装置について説明する。しかしながら、本発明は、図面又は以下に説明される実施形態に限定されるものではないことを理解されたい。以下で説明する本発明の実施例によるモータ駆動装置には、工作機械の送り軸および主軸を駆動する駆動軸数分のモータが接続される。本実施例では、工作機械の駆動軸数を3個としたので3個のモータが設けられるが、これらの個数はあくまでも一例であり、本発明を限定するものではない。
【0027】
図1は、本発明の実施例によるモータ駆動装置を示す図である。図示の例では、工作機械の駆動軸数を3個としたので3個のモータ3が設けられ、モータ駆動装置1はこれらモータ3を駆動制御する。
【0028】
本発明の実施例によるモータ駆動装置1は、三相交流の商用電源2から入力された交流を直流に変換する直流変換部11と、直流変換部11が出力した直流をモータ3の駆動のための交流に変換する交流変換部12と、直流変換部11の直流出力側の電圧を検出する電圧検出部13と、電圧検出部13が検出した電圧が所定の閾値を超えたとき、交流変換部12が無効電流を出力するよう制御してモータにおける消費電力を増加させる数値制御部14と、を備える。
【0029】
直流変換部11は、例えばパワー半導体素子およびこれに逆並列に接続されたダイオードからなるブリッジ回路から構成され、直流出力側には、変換された直流電圧を平滑化する平滑コンデンサが設けられる。直流変換部11は、モータ3へ電力を供給するときすなわちモータ3の力行時には6つのダイオードによって三相の商用交流電源からの交流電圧を全波整流して直流電圧に変換する。
【0030】
交流変換部12は、例えばパワー半導体素子およびこれに逆並列に接続されたダイオードからなるブリッジ回路から構成される。交流変換部12は数値制御部14によりそのスイッチング動作が制御される。すなわち、交流変換部12は、これらパワー半導体素子が数値制御部14からの指令によりオンオフ制御(例えばPWM制御)されることで、直流電圧を所望の波形および周波数の交流電圧に変換する。交流変換部12が出力した交流の駆動電力はモータ3に供給され、これによりモータ3は回転動作を行う。
【0031】
電圧検出部13は、直流変換部11の直流出力側の電圧を検出する。
【0032】
本発明の実施例における数値制御部14は、有効電力指令作成機能と無効電力指令作成機能とを有し、有効電力指令および無効電力指令により交流変換部12内のパワー半導体素子のスイッチング動作を制御する。このため、数値制御部14は、電圧監視部21と、無効電流指令作成部22と、有効電流指令作成部23と、を有する。これら電圧監視部21、無効電流指令作成部22および有効電流指令作成部23は、例えばDSPやFPGAなどの演算処理プロセッサからなり、その動作はソフトウェアプログラムにより規定される。
【0033】
有効電流指令作成部23は、モータ3が所望の速度(例えば、加速、減速、定速、停止など)、トルク、もしくは回転子の位置で回転動作するようにするために、モータ3に設置されたセンサ31から受信したモータ3の回転子の速度および位置などの回転情報に基づき、必要な波形や周波数を有する交流電流を、対応する交流変換部12が出力するようにする有効電力指令を作成する。有効電力指令は交流変換部12(すなわちモータ3)ごとに生成される。また、有効電流指令作成部23は、後述する無効電流指令作成部21と独立に動作する。なお、数値制御部14は、モータ3の回転動作を制御するにあたり、モータ3に流出入する交流電流、モータ3の回転速度、交流変換部12の入力出力の電圧および交流出力の電圧などを検出し、これらを処理に用いる必要があるが、図1ではセンサ31以外の検出器については図示を省略している。
【0034】
電圧監視部21は、電圧検出部13が検出した電圧が所定の閾値を超えたか否かを監視する。電圧監視部21の動作の詳細については後述する。
【0035】
無効電流指令作成部22は、電圧検出部13が検出した電圧が所定の閾値を超えたと電圧監視部21が判定したとき、電圧検出部13が検出した電圧に応じて交流変換部12に無効電流を出力させるための無効電流指令を作成する。無効電流指令作成部22の動作の詳細については後述する。
【0036】
数値制御部14は、有効電流指令作成部23により作成された有効電流指令と無効電流指令作成部22により作成された無効電流指令とを合成する。合成された電流指令は、交流変換部12を例えばPWM制御する場合には所定のキャリア周波数の三角波キャリア信号と比較され、PWMスイッチング信号が生成される。生成されたPWMスイッチング信号は交流変換部12に入力され、交流変換部12内のパワー半導体素子をこのPWMスイッチング信号に基づきスイッチング動作させる。
【0037】
次に、モータ駆動装置1における、無効電流を用いた過電圧異常の発生の抑制動作について説明する。図2は本発明の実施例によるモータ駆動装置の動作フローを示すフローチャートであり、図3は有効電流および無効電流と実電流との関係を示す図である。
【0038】
上述のように、モータ3の減速制御時に発生するモータ3からの回生電力により、直流変換部11の直流出力側の電圧は上昇する。本発明の実施例によれば、直流変換部11の直流出力側の電圧が所定の閾値を超えたとき、有効電流に加えて当該電圧に応じた無効電流を流し、モータ3での熱損失を増大させることにより、直流変換部11の直流出力側の電圧が上昇することを抑制する。交流変換部12からモータ3へ向けて流す有効電流は、モータ3の回転動作すなわちモータ3のトルク発生に寄与するが、交流変換部3からモータ3へ向けて流す無効電流はモータ3のトルク発生には寄与しない。例えば図3において、ある一定の有効電流Iaに、無効電流Ib1、Ib2およびIb3を重畳すると、実電流(ノルム)はそれぞれI1、I2およびI3となる。すなわち、ある一定の有効電流に対し、重畳する無効電流が大きければ大きいほど、実電流(ノルム)も大きくなる。モータ3を流れる実電流が大きくなると、モータ3で消費される電力も大きくなるが、実電流のうち無効電流分は、モータ3のトルク発生には寄与せず、モータ3の熱損失となる。すなわち、モータ3を流れる実電流のうち無効電流分を増減すれば、モータ3で消費される電力を調整できるということである。本発明の実施例では、直流変換部に許容される直流出力側の最大電圧値に基づき所定の閾値を設定し、モータ3の減速制御時に発生するモータ3からの回生電力により直流変換部11の直流出力側の電圧が上昇して当該所定の閾値よりも大きくなった場合には、電圧検出部13が検出した電圧に応じた無効電流をモータ3に流してモータ3での熱損失を増加させ、直流変換部11の直流出力側の電圧の過度の上昇を抑える。すなわち、モータ3の減速制御時に発生するモータ3からの回生電力分を、モータ3に無効電流を意図的に流すことにより、モータ3の熱損失として消費させるようにする。本発明の実施例によるモータ駆動装置3の具体的な動作フローを図3に示す。
【0039】
すなわち、図3のステップS101において、電圧検出部13は、時刻tにおいて直流変換部11の直流出力側の電圧V(t)を検出する。数値制御部14内の電圧監視部21は、ステップS102において、電圧検出部13が検出した電圧V(t)が所定の閾値を超えたか否かを監視する。数値制御部14内の無効電流指令作成部22は、電圧検出部13が検出した電圧V(t)が所定の閾値を超えたと電圧監視部21が判定したとき、電圧検出部13が検出した電圧V(t)に応じて交流変換部12に無効電流を出力させるための無効電流指令を作成する(ステップS103)。ここで、電圧検出部13が検出した電圧と所定の閾値との差分が大きいほどモータ3の減速時に発生した回生電力が大きいということであるので、無効電流指令作成部22は、ステップS103において、電圧検出部13が検出した電圧と所定の閾値との差分に基づいて無効電力指令を作成する。具体的には、電圧検出部13が検出した電圧と所定の閾値との差分が大きいほど、モータ3において消費させる熱損失を大きくしなければならないので、無効電流指令は、電圧検出部13が検出した電圧と所定の閾値との差分に比例した値として作成される。一方、無効電流指令作成部22は、電圧検出部13が検出した電圧が所定の閾値を超えていないと電圧監視部21が判定したとき、無効電流指令については0(ゼロ)に設定する(ステップS104)。ステップS103もしくはS104が完了するとステップS101へ戻り、これ以降、上記各処理を繰り返し実行する。このように、本発明の実施例によれば、直流変換部の直流出力側の電圧を検出し、この検出した電圧が所定の閾値を超えたとき、交流変換部が無効電流を出力するよう制御してモータに無効電流を流してモータにおける消費電力を増加させるので、複雑な制御を用いることなく過電圧異常を容易に抑制することができる。
【0040】
図4は、本発明の実施例によるモータ駆動装置における電圧監視の閾値の設定を説明する図である。モータ3に無効電流を流す場合、無効電流の流し始めは、直流変換部11の直流出力側の電圧が多少オーバーシュートするので、図4に示すように、電圧監視部21による直流変換部11の直流出力側の電圧の監視に用いられる閾値は、直流変換部11に許容される直流出力側の最大電圧値である「過電圧検出レベル」ギリギリに設定するよりは、上記オーバーシュートを考慮して多少余裕を持たせて過電圧検出レベルよりも低い値に設定するのが好ましい。また、モータ3に無効電流を流してもよい直流変換部11の直流出力側の電圧の下限値を設定してもよく、これにより、数値制御部14内の無効電流指令作成部22による無効電流指令の有無が極短い時間のうちに切り替わることを防ぎ、制御をより安定に保つことが可能となる。
【0041】
また、一般に、モータ3の出力トルクのリミット値を超えないようにするために、交流変換部12の出力電流に対してリミット値が設定される。上述のように、交流変換部12からモータ3へ向けて流す有効電流は、モータ3の回転動作すなわちモータ3のトルク発生に寄与するが、交流変換部12からモータ3へ向けて流す無効電流はモータ3のトルク発生には寄与しない。そこで、交流変換器12の出力電流のリミット値は、「モータの出力トルクを制限するために設けられた電流のリミット値」、よりも高い値に設定してもよい。このようにすることにより、電圧検出部13が検出した電圧が所定の閾値を越えた場合、交流変換部12の出力電流のリミット値よりも大きな電流をモータ3に流すことができるようになり、その分、無効電流を流すことが可能になる。
【0042】
図5および6は、本発明の実施例によるモータ駆動装置における、無効電流指令の波形について説明する図であって、図5は無効電流指令が正弦波状である場合を示し、図6は無効電流指令が矩形波状である場合を示す。上述のように、電圧検出部13が検出した電圧と所定の閾値との差分が大きいほどモータ3の減速時に発生した回生電力が大きいということであるので、無効電流指令作成部22は、電圧検出部13が検出した電圧と所定の閾値との差分に基づいて無効電力指令を作成する。電圧検出部13が検出した電圧と所定の閾値との差分が大きいほど、モータ3において消費させる熱損失を大きくしなければならないので、無効電流指令は、電圧検出部13が検出した電圧と所定の閾値との差分に比例した値として作成される。ただし、無効電流が流れることによってモータ3にはリラクタンスが発生するので、無効電流指令作成部22は、電圧検出部13が検出した電圧と所定の閾値との差分に比例した直流成分と、モータ3の回転子の共振点よりも高い周波数を有する図5に示す正弦波状もしくは図6に示す矩形波状である高周波成分と、を有する無効電流を交流変換部12が出力するような無効電流指令を作成してもよい。このようにすることにより、長周期的に見ればモータ3のリラクタンストルクの平均値を0(ゼロ)とみなす状態を作り出すことができる。なお、図5および6では、図面を簡潔にするために、電圧検出部13が検出した電圧と所定の閾値との差分に基づくある一定値(図中、点線で示す)の無効電流指令に対して、正弦波状もしくは矩形波状に変化させた場合を示している。
【0043】
なお、図1を参照して説明したモータ駆動装置1は、一例として、工作機械の駆動軸数を3個としたので3個のモータ3が設けられ、これらモータ3に対応して交流変換部12についても3個設けられている。数値制御部14は、電圧検出部が検出した電圧が所定の閾値を超えたとき、交流変換部12に対して無効電流を出力するように制御するが、このような無効電流出力制御は、複数の交流変換部のうち少なくとも1つに対して実行すればよい。例えば図1に示す例において、3個の交流変換部12のうちのいずれか1つに対して数値制御部14は上記無効電流出力制御を実行してもよく、あるいは、3個の交流変換部12のうちのいずれか2つもしくは3つ全てに対して数値制御部14は上記無効電流出力制御を実行してもよい。上記いずれか2つもしくは3つ全ての交流変換部12に対して上記無効電流制御を行う場合には、各交流変換部12に均等に無効電流を出力させるように制御してもよく、あるいはいずれかの交流変換部12が他の交流変換部12よりも多く無効電流を出力するような重み付け制御をしてもよい。
【0044】
数値制御部14内の電圧監視部21、無効電流指令作成部22および有効電流指令作成部23は、例えばDSPやFPGAなどの演算処理プロセッサからなり、その動作はソフトウェアプログラムにより規定される。したがって、例えば、モータ駆動装置により駆動するモータの運転状況などを変更することでモータから発生する回生電力が増加した場合であっても、数値制御部14のプログラム変更で対応することができるので、モータ駆動装置により駆動するモータの運転状況などの変更にも柔軟かつ迅速に対応することができ、経済的および時間的なユーザ負担を低減することができる。
【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明は、工作機械の駆動軸ごとにモータを有する工作機械システムにおいて、これらモータ(サーボモータ)を、入力された交流を直流に変換する直流変換部と、直流変換部から出力された直流を各モータの駆動電力としてそれぞれ供給される交流に変換する交流変換部と、を有するモータ駆動装置で駆動する場合に適用することができる。
【符号の説明】
【0046】
1 モータ駆動装置
2 商用電源
3 モータ
11 直流変換部
12 交流変換部
13 電圧検出部
14 数値制御部
21 電圧監視部
22 無効電流指令作成部
23 有効電流指令作成部
31 回転センサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
入力された交流を直流に変換する直流変換部と、
前記直流変換部が出力した直流をモータの駆動のための交流に変換する交流変換部と、
前記直流変換部の直流出力側の電圧を検出する電圧検出部と、
前記電圧検出部が検出した電圧が所定の閾値を超えたとき、前記交流変換部が無効電流を出力するよう制御して前記モータにおける消費電力を増加させる数値制御部と、
を備えることを特徴とするモータ駆動装置。
【請求項2】
前記数値制御部は、
前記電圧検出部が検出した電圧が所定の閾値を超えたか否かを監視する電圧監視部と、
前記電圧検出部が検出した電圧が所定の閾値を超えたと前記電圧監視部が判定したとき、前記電圧検出部が検出した電圧に応じて前記交流変換部に無効電流を出力させるための無効電流指令を作成する無効電流指令作成部と、
を有する請求項1に記載のモータ駆動装置。
【請求項3】
前記所定の閾値は、前記直流変換部に許容される直流出力側の最大電圧値よりも低い値に設定される請求項1または2に記載のモータ駆動装置。
【請求項4】
前記数値制御部は、前記電圧検出部が検出した電圧が所定の閾値を超えたとき、複数の前記交流変換部のうち少なくとも1つに対し無効電流を出力するよう制御する請求項1〜3のいずれか一項に記載のモータ駆動装置。
【請求項5】
前記交流変換部が前記モータに出力する電流のリミット値は、前記モータの出力トルクを制限するために設けられた電流のリミット値、よりも高い値に設定される請求項1〜4のいずれか一項に記載のモータ駆動装置。
【請求項6】
前記数値制御部は、前記電圧検出部が検出した電圧が所定の閾値を超えたとき、前記交流変換部が正弦波状もしくは矩形波状の無効電流を出力するよう制御する請求項1〜5のいずれか一項に記載のモータ駆動装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−93957(P2013−93957A)
【公開日】平成25年5月16日(2013.5.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−234032(P2011−234032)
【出願日】平成23年10月25日(2011.10.25)
【出願人】(390008235)ファナック株式会社 (1,110)
【Fターム(参考)】