説明

無段変速機

【課題】変速比を正確に算出する無段変速機を提供する。
【解決手段】無段変速機1において、プライマリプーリ2の可動円錐板6とケーシング13との間に、可動円錐板6の動作に応じて、入力軸8の方向へ移動するスプリング14を介装し、スプリング14のせん断応力を検出する歪みゲージ20によって、可動円錐板6のストローク量Lを算出し、ストローク量Lに基づいて、変速比ip*を算出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は無段変速機に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、無段変速機の変速比を算出する場合に、プライマリプーリの回転速度とセカンダリプーリの回転速度とを検出し、これらの回転速度から変速比を算出し、算出した変速比に基づいてプライマリプーリ圧とセカンダリプーリ圧とを制御するものが、特許文献1に開示されている。
【特許文献1】特開2004−125011号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかし、プライマリプーリとセカンダリプーリとの間に掛け渡すベルトにおいてベルトに滑りが生じる場合があり、プライマリプーリとセカンダリプーリとの回転速度から変速比を算出する場合には、ベルトに滑りが生じていると実際の変速比を正確に算出することができないといった問題点があった。
【0004】
本発明ではこのような問題点を解決するために発明されたもので、変速比を正確に算出することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明では、入力軸からの回転が入力するプライマリプーリと、出力軸へ回転を出力するセカンダリプーリと、プライマリプーリとセカンダリプーリとの間に掛け渡し、プライマリプーリの溝幅とセカンダリプーリとの溝幅の変化によって、プライマリプーリとセカンダリプーリとの接触半径が変化するベルトと、を備えた無段変速機において、プライマリプーリまたはセカンダリプーリの可動円錐板と、無段変速機の固定部材との間に介装され、可動円錐板の移動に応じて変形する弾性部材と、弾性部材の変位量を算出する変位量算出手段と、弾性部材の変位量に基づいて、可動円錐板の基準位置から移動した位置を算出する可動円錐板位置算出手段と、可動円錐板位置算出手段によって算出した可動円錐板の位置に基づいて、変速比を算出する変速比算出手段と、を備える。
【発明の効果】
【0006】
本発明によると、可動円錐板の移動に応じて変形する弾性部材の変位量に基づいて可動円錐板の位置を算出し、変速比を算出するので、変速比を正確に算出することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明の実施形態の車両に搭載する無段変速機の構成について図1を用いて説明する。この実施形態の無段変速機1は、図示しないエンジンからの回転が入力されるプライマリプーリ2と、図示しない駆動輪へ回転を出力するセカンダリプーリ3と、プライマリプーリ2とセカンダリプーリ3との間に掛け渡すベルト4と、を備える。
【0008】
プライマリプーリ2は、入力軸8に連結する固定円錐板5と、固定円錐板5に対して入力軸方向に移動可能な可動円錐板6と、を備える。プライマリプーリ2では、固定円錐板5のシーブ面5aと可動円錐板6のシーブ面6aとによって、ベルト4を挟持する。プライマリプーリ2におけるベルト4の挟持力は、プライマリプーリ室7に供給される油圧(プライマリプーリ圧Ppri)によって制御される。
【0009】
セカンダリプーリ3は、出力軸11に連結する固定円錐板9と、固定円錐板9に対して出力軸方向に移動可能な可動円錐板10と、を備える。セカンダリプーリ3では、固定円錐板9のシーブ面9aと可動円錐板10のシーブ面10aとによって、ベルト4を挟持する。セカンダリプーリ3におけるベルト4の挟持力は、セカンダリプーリ室12に供給される油圧(セカンダリプーリ圧Psec)によって制御される。
【0010】
また、無段変速機1のケーシング(固定部材)13とプライマリプーリ2の可動円錐板6との間に介装され、可動円錐板6の移動に応じて変形し、可動円錐板6を固定円錐板5側へ付勢するスプリング(弾性部材)14を備える。この実施形態では、変速比が最Lowの場合の可動円錐板6の位置を可動円錐板6の基準位置L’とし、可動円錐板6が基準位置L’の場合に、スプリング14による付勢力は最大となる。なお、この実施形態では、ケーシング13とプライマリプーリ2との間にスプリング14を設けたが、例えばケーシング13とセカンダリプーリ3との間にスプリングを設けても良い。
【0011】
さらに、スプリング14のせん断応力を検出する歪みゲージ(変位算出手段)20と、プライマリプーリ2の回転速度Npriを検出するプライマリプーリ回転速度センサ21と、セカンダリプーリ3の回転速度Nsecを検出するセカンダリプーリ回転速度センサ22と、シフトレバーの位置を検出するインヒビタスイッチ23と、運転者の操作によってON/OFFを切り替えられるイグニッションスイッチ24と、を備える。
【0012】
また、これらのセンサなどの信号が入力され、図示しないオイルポンプによってプライマリプーリ室7、セカンダリプーリ室12へ供給するプライマリプーリ圧Ppri、セカンダリプーリ圧Psecを制御するコントローラ100を備える。
【0013】
無段変速機1では、プライマリプーリ2のシーブ面5a、6aの溝幅と、セカンダリプーリ3のシーブ面9a、10aの溝幅が変化することで、ベルト4と、プライマリプーリ2とセカンダリプーリ3と、の接触半径が変化することで変速が行われる。
【0014】
次に、この実施形態におけるベルト滑り発生時の制御について図2のフローチャートを用いて説明する。
【0015】
ステップS100では、プライマリプーリ回転速度センサ21によってプライマリプーリ回転速度Npriを算出し、セカンダリプーリ回転速度センサ22によってセカンダリプーリ回転速度Nsecを算出し、プライマリプーリ回転速度Npriとセカンダリプーリ回転速度Nsecとから、変速比ipを算出する。
【0016】
ステップS101では、歪みゲージ20によって、スプリング14にかかるせん断応力を検出し、せん断応力から歪み量を算出する。そして、図3に示すマップに基づいて歪み量から、プライマリプーリ2の可動円錐板6のストローク量Lを算出する。図3はスプリング14の歪み量と可動円錐板6のストローク量Lとの関係を示すマップであり、スプリング14の歪み量が大きくなると、可動円錐板6のストローク量Lが小さくなる。変速比がLow側へ変速すると、スプリング14は可動円錐板6によって圧縮され、歪み量は大きくなるが、可動円錐板6の基準位置L’は、変速比が最Lowとなる位置を基準とするので、可動円錐板6のストローク量Lは小さくなる。(ステップS101が可動円錐板位置算出手段を構成する)。
【0017】
ステップS102では、可動円錐板6のストローク量Lから、可動円錐板6の現在位置を検出し、変速比ip*を算出する。(ステップS102が変速比算出手段を構成する)。変速比ip*は、例えばストローク量Lに基づいて、予め求めたマップなどから、算出することができる。
【0018】
ステップS103では、ステップS100によって算出した変速比ipと、ステップS102によって算出した変速比ip*と、を比較し、変速比ipと変速比ip*とが一致するかどうか判定する。ベルト4に滑りが生じていない場合には、変速比ipと変速比ip*とが一致するが、ベルト4に滑りが生じている場合には、変速比ipと変速比ip*とが一致しない。つまり、変速比ipと変速比ip*とを比較することで、ベルト4に滑りが生じているかどうか判定する。そして、変速比ipと変速比ip*とが一致しない場合には、ベルト4に滑りが生じていると判定し、ステップS104へ進む。また変速比ipと変速比ip*とが一致する場合には、本制御を終了する。
【0019】
なお、ここでは変速比ipと変速比ip*とが一致しているか判定することで、ベルト4に滑りが生じているかどうか判定したが、変速比ipと変速比ip*との偏差の絶対値が所定値よりも大きくなった場合に、ベルト4に滑りが生じていると判定しても良い。
【0020】
ステップS104では、変速比ipが変速比ip*と一致するように、プライマリプーリ圧Ppriとセカンダリプーリ圧Psecとを制御する。ここでは、プライマリプーリ圧Ppriとセカンダリプーリ圧Psecを高くし、ベルト4の挟持力を大きくすることで、ベルト4の滑りを抑制する。
【0021】
以上の制御によって、歪みゲージ20によってスプリング14の歪み量を算出し、歪み量に基づいて、プライマリプーリ2の可動円錐板6の位置を算出し、可動円錐板6の位置に応じた変速比ip*を正確に算出することができる。そして、プライマリプーリ回転速度Npriとセカンダリプーリ回転速度Nsecとから算出する変速比ipと、変速比ip*と、を比較することで、ベルト4の滑りを検出することができ、ベルト4に滑りが生じた場合にのみプライマリプーリ圧Ppri、セカンダリプーリ圧Psecを高くすることで、ベルト4の滑りを抑制し、必要以上にプライマリプーリ圧Ppri、セカンダリプーリ圧Psecが高くなることを防止することができる。そのため、例えばオイルポンプにおける燃料消費を少なくすることができる。
【0022】
次に、この実施形態における車両の起動時の制御について図4のフローチャートを用いて説明する。なお、この実施形態では、車両の停止時に変速比は最Lowになっているものとする。
【0023】
イグニッションスイッチ24がONとなると、ステップS200では、インヒビタスイッチ23からの信号によって、シフトレバーの位置がPレンジまたはNレンジであるかどうか判定する。つまり、イグニッションスイッチ24がONとなり、無段変速機1に負荷が掛かっていないかどうか判定する。そして、シフトレバーの位置がPレンジまたはNレンジである場合にはステップS201へ進み、シフトレバーに位置がPレンジまたはNレンジではない場合には本制御を終了し、通常の走行制御を行う(ステップS200が負荷判定手段を構成する)。
【0024】
ステップS201では、変速比ip*が最Lowとなる場合のプライマリプーリ圧Ppri、セカンダリプーリ圧Psecをプライマリプーリ室7、セカンダリプーリ室12へ供給する。
【0025】
ステップS202では、歪みゲージ20によってスプリング14の歪み量を算出し、図3に示すマップから可動円錐板6のストローク量Lを算出する。
【0026】
ステップS203では、ステップS202によって検出したストローク量Lと現在記憶している基準位置L’との偏差の絶対値が所定値L1よりも大きい場合には、ステップS204へ進み、偏差の絶対値が所定値L1よりも小さい場合には、本制御を終了し、通常の走行制御を行う。所定値L1は、例えばスプリング14が劣化した場合などに基準位置L’を補正する必要があるかどうか判定するための値であり、予め実験などによって設定される値である。
【0027】
なお、変速比ip*が最Lowとなった場合の可動円錐板6の基準位置L’の初期値は、無段変速機1の出荷時に無負荷状態で変速比ip*を最Lowと最Highとの間で変化させ、変速比ip*が最Lowとなる場合の位置を記憶させて設定される。
【0028】
ステップS204では、ステップS202によって検出したストローク量Lを最Lowとなった場合の可動円錐板6の基準位置L’として新たに記憶する。これによって、スプリング14の劣化などの経時変化分を補正することができ、図2を用いて説明した制御を行う場合に、可動円錐板6のストローク量Lに基づく変速比ip*を正確に算出することができる(ステップS203とステップS204とが基準位置補正手段を構成する)。
【0029】
なお、ステップS203において、偏差の絶対値が所定値L1よりも大きくなった回数をカウントし、カウント数が所定回数を超えた場合に、ステップS202によって検出したストローク量Lを最Lowとなる場合の基準位置L’として新に記憶しても良い。これによって、スプリング14の劣化などの経時変化分の補正をより正確に行うことができる。
【0030】
以上の制御によって、スプリング14が劣化した場合などに、変速比ip*を算出する可動円錐板6の基準位置L’を補正することで、可動円錐板6のストローク量Lに基づいて算出される変速比ip*を正確に算出することができる。
【0031】
この実施形態では、スプリング14のストローク量を歪みゲージ20によって算出したが、変位計などを用いてスプリング14のストローク量を算出しても良い。
【0032】
本発明の実施形態の効果について説明する。
【0033】
プライマリプーリ2の可動円錐板6と無段変速機1のケーシング13との間にスプリング14を設け、スプリング14の歪み量を歪みゲージ20によって算出し、歪み量から、可動円錐板6のストローク量Lを算出する。そして、ストローク量Lに基づいて、変速比ip*を算出することで、実際の変速比を正確に算出することができる。
【0034】
プライマリプーリ回転速度Npriとセカンダリプーリ回転速度Nsecとから算出する変速比ipと変速比ip*とを比較し、変速比ipと変速比ip*とが一致しない場合に、プライマリプーリ圧Ppri、セカンダリプーリ圧Psecを高くし、ベルト4の滑りを抑制することができる。すなわち、プライマリプーリ圧Ppri、セカンダリプーリ圧Psecを必要以上に高くすることなく、ベルト4の滑りを抑制することができる。また、これにより例えばオイルポンプの燃費を良くすることができる。
【0035】
車両の起動時に、シフトレバーがNレンジ、またはPレンジであり、無段変速機1に負荷が掛かっていない状態で、歪みゲージ20によってスプリング14の歪み量を算出し、可動円錐板6のストローク量Lを算出し、ストローク量Lと現在の基準位置L’との偏差の絶対値が所定値L1よりも大きい場合には、ストローク量Lを基準位置L’として記憶する。これによって、スプリング14が劣化した場合などの経時変化分を補正することで、変速比ip*を正確に算出することができる。
【0036】
可動円錐板6とケーシング13との間に設けたスプリング14のせん断応力を歪みゲージ20によって検出し、せん断応力に基づいて可動円錐板6のストローク量Lを算出し、変速比ip*を算出することで、歪みゲージ20以外に新たな部品を追加することなく、変速比ip*を算出することができる。
【0037】
本発明は上記した実施形態に限定されるものではなく、その技術的思想の範囲内でなしうるさまざまな変更、改良が含まれることは言うまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明の実施形態の無段変速機の概略構成図である。
【図2】本発明の実施形態のベルト滑り発生時の制御を示すフローチャートである。
【図3】本発明の実施形態のスプリングの歪み量とストローク量との関係を示すマップである。
【図4】本発明の実施形態の車両起動時における制御を示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0039】
1 無段変速機
2 プライマリプーリ
3 セカンダリプーリ
4 ベルト
5 固定円錐板
6 可動円錐板
8 入力軸
11 出力軸
13 ケーシング(固定部材)
14 スプリング(弾性部材)
20 歪みゲージ(変位量検出手段)
23 インヒビタスイッチ
100 コントローラ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
入力軸からの回転が入力するプライマリプーリと、
出力軸へ回転を出力するセカンダリプーリと、
前記プライマリプーリと前記セカンダリプーリとの間に掛け渡し、前記プライマリプーリの溝幅と前記セカンダリプーリとの溝幅の変化によって、前記プライマリプーリと前記セカンダリプーリとの接触半径が変化するベルトと、を備えた無段変速機において、
前記プライマリプーリまたは前記セカンダリプーリの可動円錐板と前記無段変速機の固定部材との間に介装され、前記可動円錐板の移動に応じて変形する弾性部材と、
前記弾性部材の変位量を算出する変位量算出手段と、
前記弾性部材の変位量に基づいて、前記可動円錐板の基準位置から移動した位置を算出する可動円錐板位置算出手段と、
前記可動円錐板位置算出手段によって算出した前記可動円錐板の位置に基づいて、変速比を算出する変速比算出手段と、を備えることを特徴とする無段変速機。
【請求項2】
前記変位量算出手段は、歪みゲージであることを特徴とする請求項1に記載の無段変速機。
【請求項3】
前記基準位置は、前記無段変速機の出荷時に、前記無段変速機に負荷が掛かっていない状態で、変速比を最Lowと最Highとの間で変速させ、前記最Lowとなった場合の前記可動円錐板の位置に設定することを特徴とする請求項1または2に記載の無段変速機。
【請求項4】
前記無段変速機に負荷が掛かっているか判定する負荷判定手段と、
イグニッションスイッチがONとなり、前記無段変速機に負荷が掛かっていない場合に、前記可動円錐板の位置を算出し、算出した前記位置と前記基準位置との偏差の絶対値が所定値よりも大きい場合には、前記算出した位置を新たな基準位置として記憶する基準位置補正手段と、を備えることを特徴とする請求項1から3のいずれか一つに記載の無段変速機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−185125(P2008−185125A)
【公開日】平成20年8月14日(2008.8.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−19086(P2007−19086)
【出願日】平成19年1月30日(2007.1.30)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】