説明

無段変速装置

【課題】無段変速装置を小型化できると共に、運転モード切換時の制御を簡略化できる構造を実現する。
【解決手段】入力軸3を一方向に回転させたまま出力軸4を停止させるギヤードニュートラル状態を実現する低速モードと、この低速モードに比べて減速比の小さい状態を実現する高速モードとを、その断接状態の切り換えに基づいて切り換え可能とする低速用クラッチ35aと高速用クラッチ38とのうちの一方又は双方を、伝達するトルクの方向を機械的に切換可能とした切換式一方向クラッチとする。又、この切換式一方向クラッチの接続モード(伝達するトルクの方向)を、シフトレバーの選択位置に応じてワイヤ等の機械的手段により切り換える。これにより、上記課題を解決できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、例えば車両(自動車)用自動変速装置、建設機械(建機)用自動変速装置、航空機(固定翼機、回転翼機、飛行船等)等で使用されるジェネレータ(発電機)用の自動変速装置等として利用する、トロイダル型無段変速機を組み込んだ無段変速装置の改良に関する。具体的には、無段変速装置を小型化できると共に、運転モード切換時の制御を簡略化できる構造を実現するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車用変速機としてトロイダル型無段変速機を使用する事が、従来から広く知られ、一部で実施されている。又、変速比の変動幅をより大きくすべく、トロイダル型無段変速機と遊星歯車式変速機とを組み合わせた無段変速装置も、例えば特許文献1等に記載される等により従来から広く知られている。又、例えば特許文献2、3には、所謂ギヤードニュートラルと呼ばれ、入力軸を一方向に回転させたまま、出力軸の回転状態を、停止状態を挟んで正転、逆転に切り換えられる無段変速装置が記載されている。この様な無段変速装置の場合には、流体で動力を伝達するトルクコンバータ等の発進機構を省略して、前記無段変速装置にエンジンからの動力を直接伝達させる事ができる。この為、変速装置の小型・軽量化を図れる他、トルクコンバータを設ける事による伝達効率の低下等を防止して、発進時の応答性能の向上を図れる。
【0003】
又、特許文献4、5には、上述の様なギヤードニュートラルを実現できる無段変速装置の、より具体的な構造が記載されている。図7〜9は、前記特許文献4、5に記載された無段変速装置を示している。この無段変速装置は、トロイダル型無段変速機1と、遊星歯車式変速機2とを組み合わせて成り、入力軸3と出力軸4とを有する。これら入力軸3と出力軸4との間には、前記トロイダル型無段変速機1の回転軸5と、伝達軸6とを、これら両軸3、4と同心に設けている。そして、前記遊星歯車式変速機2のうちの前段ユニット7と中段ユニット8とを前記回転軸5と前記伝達軸6との間に掛け渡す状態で、後段ユニット9をこの伝達軸6と前記出力軸4との間に掛け渡す状態で、それぞれ設けている。
【0004】
前記トロイダル型無段変速機1は、1対の入力側ディスク10a、10bと、一体型の出力側ディスク11と、複数のパワーローラ12、12とを備える。そして、前記1対の入力側ディスク10a、10bは、前記回転軸5を介して互いに同心に、且つ、同期した回転を自在として結合されている。又、前記出力側ディスク11は、前記両入力側ディスク10a、10b同士の間に、これら両入力側ディスク10a、10bと同心に、且つ、これら両入力側ディスク10a、10bに対する相対回転を自在として支持されている。
【0005】
更に、前記各パワーローラ12、12は、前記出力側ディスク11の軸方向両側面と前記両入力側ディスク10a、10bの軸方向片側面との間に、それぞれ複数個(図示の例の場合は2個)ずつ挟持されている。そして、これら両入力側ディスク10a、10bの回転に伴って回転しつつ、これら両入力側ディスク10a、10bから前記出力側ディスク11に動力を伝達する。又、この出力側ディスク11はその軸方向両端部を、ケーシング13内に、それぞれ1対ずつの支柱14、14と、スラストアンギュラ玉軸受である転がり軸受15、15とにより、回転自在に支持している。又、前記両支柱14、14の両端部近傍に設けた各支持ポスト部16a、16bに、それぞれ支持板17a、17bを支持している。
【0006】
又、前記両支持板17a、17b同士の間には、複数のトラニオン(支持部材)18、18を、その両端部に互いに同心に設けられた枢軸19、19を介して、揺動及び軸方向(図8の上下方向)の変位を可能に支持している。そして、前記各トラニオン18、18の内側面(互いに対向する面)に前記各パワーローラ12、12を、それぞれ支持軸20、20並びに複数組の転がり軸受を介して、回転並びに前記回転軸5の軸方向に関する若干の変位を自在に支持している。そして、前記各パワーローラ12、12の周面と、前記両入力側ディスク10a、10bの入力側面及び前記出力側ディスク11の出力側面とを転がり接触させている。
【0007】
前記トロイダル型無段変速機1に変速動作を行わせる際には、前記両支柱14、14の下端部を結合固定したアクチュエータボディー21に内蔵した、各油圧式のアクチュエータ22、22により、前記各トラニオン18、18を前記各枢軸19、19の軸方向に変位させる。この結果、前記入力側、出力側各面と前記周面との転がり接触部(トラクション部)でサイドスリップが発生し、前記各トラニオン18、18が前記各枢軸19、19を中心として揺動する。そして、前記各ディスク10a、10b、11の径方向に関する、前記各転がり接触部の位置が変化し、前記両入力側ディスク10a、10bと前記出力側ディスク11との間の変速比が変化する。尚、前記各アクチュエータ22、22への圧油の給排は、前記アクチュエータボディー21の下方に設けたバルブボディー23に内蔵した変速比制御弁24(後述する図9参照)の切り換えにより行う。
【0008】
又、図示の無段変速装置の場合は、前記回転軸5の基端部(図7の左端部)を図示しないエンジンのクランクシャフトに、前記入力軸3を介して結合し、このクランクシャフトにより前記回転軸5を回転駆動する様にしている。又、前記回転軸5の基端部と前記入力側ディスク10aとの間に、油圧式の押圧装置25を設け、前記両入力側ディスク10a、10bの軸方向片側面(入力側面)及び前記出力側ディスク11の軸方向両側面(出力側面)と前記各パワーローラ12、12の周面との転がり接触部に、適正な面圧を付与している。
【0009】
又、前記出力側ディスク11に、中空回転軸26の基端部(図7の左端部)をスプライン係合させている。そして、この中空回転軸26を、エンジンから遠い側(図7の右側)の入力側ディスク10bの内側に挿通して、前記出力側ディスク11の回転力を取り出し自在としている。更に、前記中空回転軸26の先端部(図7の右端部)で前記入力側ディスク10bの外側面から突出した部分に、前記遊星歯車式変速機2の前段ユニット7を構成する為の、第一太陽歯車27を固設している。
【0010】
一方、前記回転軸5の先端部(図7の右端部)で前記中空回転軸26から突出した部分と前記入力側ディスク10bとの間に、第一キャリア28を掛け渡す様に設けて、この入力側ディスク10bと前記回転軸5とが、互いに同期して回転する様にしている。そして、前記第一キャリア28の軸方向両側面の円周方向等間隔位置(一般的には3〜4個所位置)に、それぞれがダブルピニオン型である前記遊星歯車式変速機2の前段ユニット7及び前記中段ユニット8を構成する為の遊星歯車29〜31を、回転自在に支持している。更に、前記第一キャリア28の片半部(図7の右半部)周囲に第一リング歯車32を、回転自在に支持している。
【0011】
前記各遊星歯車29〜31のうち、前記トロイダル型無段変速機1寄り(図7の左寄り)で前記第一キャリア28の径方向に関して内側に設けた遊星歯車29は、前記第一太陽歯車27に噛合している。又、前記トロイダル型無段変速機1から遠い側(図7の右側)で前記第一キャリア28の径方向に関して内側に設けた遊星歯車30は、前記伝達軸6の基端部(図7の左端部)に固設した、第二太陽歯車33に噛合している。又、前記第一キャリア28の径方向に関して外側に設けた、残りの遊星歯車31は、前記内側に設けた遊星歯車29、30よりも軸方向寸法を大きくして、これら両遊星歯車29、30に噛合させている。更に、前記残りの遊星歯車31と前記第一リング歯車32とを、互いに噛合させている。
【0012】
一方、前記後段ユニット9を構成する為の第二キャリア34を、前記出力軸4の基端部(図7の左端部)に結合固定している。そして、この第二キャリア34と前記第一リング歯車32とを、油圧式の低速用クラッチ35を介して結合している。又、前記伝達軸6の先端寄り(図7の右端寄り)部分に第三太陽歯車36を固設している。又、この第三太陽歯車36の周囲に、第二リング歯車37を配置し、この第二リング歯車37と前記ケーシング13等の固定の部分との間に、油圧式の高速用クラッチ38を設けている。更に、前記第二リング歯車37と前記第三太陽歯車36との間に配置した複数組の遊星歯車39、40を、前記第二キャリア34に回転自在に支持している。これら各遊星歯車39、40は、互いに噛合すると共に、前記第二キャリア34の径方向に関して内側に設けた遊星歯車39を前記第三太陽歯車36に、同じく外側に設けた遊星歯車40を前記第二リング歯車37に、それぞれ噛合している。
【0013】
上述の様に構成する無段変速装置の場合、回転軸5から1対の入力側ディスク10a、10b、各パワーローラ12、12を介して一体型の出力側ディスク11に伝わった動力は、前記中空回転軸26を通じて取り出される。そして、前記低速用クラッチ35を接続し、前記高速用クラッチ38の接続を断った低速モード状態では、前記トロイダル型無段変速機1の変速比を変える事により、前記回転軸5の回転速度を一定にしたまま、前記出力軸4の回転速度を、停止状態を挟んで正転、逆転に変換自在となる。
【0014】
即ち、この様な低速モード状態では、前記回転軸5と共に正方向に回転する第一キャリア28と、前記中空回転軸26と共に逆方向に回転する前記第一太陽歯車27との差動成分が、前記第一リング歯車32から、前記低速用クラッチ35、前記第二キャリア34を介して、前記出力軸4に伝達される。この状態では、前記トロイダル型無段変速機1の変速比を所定値にする事で前記出力軸4を停止させられる他、このトロイダル型無段変速機1の変速比を前記所定値から増速側に変化させる事により前記出力軸4を、車両を後退させる方向に回転させられる。これに対して、前記トロイダル型無段変速機1の変速比を前記所定値から減速側に変化させる事により前記出力軸4を、車両を前進させる方向に回転させられる。
【0015】
これに対して、前記高速用クラッチ38を接続し、前記低速用クラッチ35の接続を断った、高速モード状態では、前記出力側ディスク11の回転が、前記中空回転軸26、前記遊星歯車式変速機2の第一太陽歯車27、前記各遊星歯車29〜31、前記伝達軸6、前記第二太陽歯車33、前記各遊星歯車39、40、前記第二キャリア34を介して、前記出力軸4に伝達される。この状態では、前記トロイダル型無段変速機1の変速比を増速側に変化させる程、無段変速装置全体としての変速比も増速側に変化する。この様な高速モードでは、前記トロイダル型無段変速機を通過するトルクの方向が、低速モード時とは反転する。
【0016】
図9は、上述の様に構成し作用する無段変速装置の油圧制御回路を示している。ケーシング13の下端部に設けたオイルパン41(図7、8参照)等の油溜に貯溜された潤滑油(トラクションオイル)は、高圧側給油ポンプ42と低圧側給油ポンプ43とに吸入され、それぞれ加圧された状態で吐出される。このうちの高圧側給油ポンプ42から吐出された潤滑油は、リリーフ弁式の高圧側圧力調整弁44により、比較的高い所定圧に調整された状態で、変速比制御弁24を介して、変速比調節の為にトラニオン18、18を枢軸19、19(図8参照)の軸方向に変位させる、アクチュエータ22の油圧室45a、45bに送り込まれる。又、前記高圧側圧力調整弁44により圧力調整された潤滑油は、入力側ディスク10a、10bを出力側ディスク11(図7参照)に向け押圧する為の油圧式の押圧装置25の油圧室にも送り込む。
【0017】
これに対して、前記低圧側給油ポンプ43から吐出された潤滑油は、リリーフ弁式の低圧側圧力調整弁46により、比較的低い第二の所定圧に調整された状態で、無段変速装置内で潤滑油を必要とする部分に供給して、これら各部分を潤滑する。前記低圧側給油ポンプ43から吐出されて前記低圧側圧力調整弁46により圧力調整された潤滑油を前記各部分に送り込む流路の途中には、前記高圧側圧力調整弁44のリリーフ回路部分(吐出ポート)を通じさせている。又、この高圧側圧力調整弁44のパイロット回路には、前記アクチュエータ22に設けた1対の油圧室45a、45b内の油圧の差を、差圧信号として導入している。これら両油圧室45a、45b同士の間の油圧の差は、入力側ディスク10a、10bから前記出力側ディスク11(或いは出力側ディスク11から入力側ディスク10a、10b)に伝達する力2Ftに比例する。従って、前記高圧側圧力調整弁44のパイロット回路に導入される油圧は、トロイダル型無段変速機1を通過する動力の大きさに比例する。尚、前記高圧側給油ポンプ42及び前記低圧側給油ポンプ43は、前記ケーシング13の前端開口部を塞いだ隔壁58(図7参照)内に設けた空間に設置して、前記入力軸3により回転駆動する様に構成している。従って、前記両ポンプ42、43からの潤滑油の吐出量は、エンジンの回転速度に一致する前記入力軸3の回転速度に比例する。
【0018】
又、図示の例では、前記高圧側圧力調整弁44に、温度やアクセル開度等、前記トロイダル型無段変速機1の使用状態に対応する補正信号を入力し、このトロイダル型無段変速機1の運転状況に応じて、前記押圧装置25の油圧室に送り込む油圧に補正を加える様にしている。即ち、第一の電磁弁47の開閉制御により、前記高圧側圧力調整弁44の別のパイロット室内の油圧を調整して、この高圧側圧力調整弁44の開弁圧を調整自在としている。そして、高圧側圧力調整弁44から前記アクチュエータ22及び前記押圧装置25に導入する油圧を、前記トロイダル型無段変速機1を通過する動力の大きさに比例して大きくする事に加え、このトロイダル型無段変速機1の運転状況に応じて補正する様にしている。
【0019】
又、図9に示した油圧回路では、前記変速比制御弁24の開閉状態を、ステッピングモータ48による他、差圧シリンダ49によっても調節自在として、トロイダル型無段変速機1を通過するトルクを目標値に調節すべく、このトロイダル型無段変速機1の変速比を微調節自在としている。又、前記差圧シリンダ49への圧油の給排は、第二の電磁弁50により制御される差圧制御弁51a、51bにより、前後進切換弁52を介して行う様にしている。又、低速用、高速用両クラッチ35、38への圧油の給排を、第三の電磁弁53と、高速用、低速用両切換弁54、55と、シフト用切換弁56とにより行う様にしている。更に、運転席に設けたシフトレバーにより操作される手動切換弁57により、各部の連通状態を切り換えられる様にしている。尚、前記変速比制御弁24を初めとする、油圧式の弁44、46、51a、51b、52、54〜56、58は、前記バルブボディー23(図7、8参照)内に組み込んでいる。
【0020】
ところで、上述の様な構成を有する無段変速装置の場合、低速モードを実現する際に接続され、高速モードを実現する際に接続を断たれる低速用クラッチ35と、高速モードを実現する際に接続され、低速モードを実現する際に接続を断たれる高速用クラッチ38とを、何れも油圧式の構造としている。この為、次の様な不都合を生じる可能性がある。
【0021】
先ず、無段変速装置が大型化し易く、例えばFF車(前置エンジン前輪駆動車)用の自動変速装置として用いる様な場合に、エンジンルーム等の限られた空間内に組み込む事が困難になる可能性がある。即ち、油圧式のクラッチ装置の場合、ピストンを収容する為のピストン室、ピストンに作用する遠心油圧をキャンセルする為のキャンセラ室、ピストンを初期位置に押し戻す為のリターンスプリング等を設ける必要があると共に、複数枚ずつのフリクションプレートとセパレートプレートとを軸方向に交互に積層する状態で設ける必要もある。この為、その構造上、設置スペースが嵩む(特に軸方向寸法が大きくなる)事が避けられず、無段変速装置が大型化し易くなる。
【0022】
又、上述した無段変速装置の様に、前記低速用、高速用各クラッチ35、38と共に、押圧装置25に関しても油圧式の構造とした場合には、無段変速装置の効率が低下する可能性がある。即ち、上述した無段変速装置の場合、前記押圧装置25が発生すべき押圧力に見合う油圧である必要ローディング圧に調節されたプライマリーライン59の圧油を、減圧弁60により所定圧に減圧した状態で、前記低速用、高速用各クラッチ35、38に導入している。但し、特許文献6等に記載される様に、無段変速装置の一部の速度比では、前記必要ローディング圧よりも、前記低速用、高速用各クラッチ35、38に導入すべき油圧である必要クラッチ圧が高くなる場合がある。この為、前記速度比では、前記各クラッチ35、38の締結部分での滑り(クラッチ板の滑り)を防止する為に、前記プライマリーライン59の油圧を必要クラッチ圧に調整する必要がある。従って、油圧調整の制御が面倒になると共に、前記プライマリーライン59のライン圧が高くなる分、ポンプ損失が大きくなり、無段変速装置の効率が低下する可能性がある。
【0023】
又、油圧式の低速用、高速用各クラッチ35、38は、接続状態で、トルク(回転力)をその方向(入力されるトルクの作用方向及び伝達方向)を問わずに伝達する。この為、運転モードの切換時に、前記低速用、高速用各クラッチ35、38を通過するトルクの方向が反転(トルクの作用方向は変わらずにその伝達方向が上流側と下流側とで反転)する場合にも、これら低速用、高速用各クラッチ35、38は、接続を断たない限り、トルクを伝達し続ける事になる。従って、運転モードの切換時には、前記低速用クラッチ35と前記高速用クラッチ38との断接状態を切り換える(一方のクラッチを接続し、他方のクラッチの接続を断つ)必要がある。又、この為の制御は、変速ショックを抑え、乗り心地性能(乗り心地の良さ)等を確保する面から複雑になる。
【0024】
これに対して、特許文献7〜10には、低速モードを実現する際にトルクを伝達する低速用クラッチとして、電磁式ツーウェイクラッチを使用した無段変速装置が記載されている。この様な無段変速装置の場合、油圧式のクラッチ装置を使用した無段変速装置に比べて、次の様な利点がある。
【0025】
先ず、油圧式のクラッチ装置で必要になるプリチャージ時間(油圧の立ち上がりに要する時間)が不要になる。この為、変速動作等の応答性を高める事ができる。又、電磁式ツーウェイクラッチは、電磁コイルを励磁してロータとアーマチュアとを接続した状態で、クラッチ用外輪とクラッチ用内輪との間にローラが噛み込まれ、所定方向のトルクを伝達し始めると、前記電磁コイルを非励磁とした場合にも、トルクの方向(トルクの作用方向又は伝達方向)が変わらない限り、トルクを伝達し続けられる。逆に言えば、非励磁の状態でトルクを伝達している場合には、反対方向のトルクを加える事で、クラッチ用外輪とクラッチ用内輪との間からローラを開放し、クラッチの接続を断つ事ができる。この為、運転モード切換時に通過するトルクの方向が反転する事を利用して、接続を自動的に断つ事が可能になる。従って、運転モードを切り換える際の制御を簡略化できる。
【0026】
但し、電磁式ツーウェイクラッチを使用した場合、次の様な問題を生じる可能性がある。例えば車両が加速と減速とを繰り返す様な場合には、電磁式ツーウェイクラッチを通過するトルクの方向は断続的に変化する。この為、電磁コイルが非励磁のままでは、トルクの方向が変わる際に接続が断たれてしまい、トルクを伝達できなくなる。従って、トルクの方向が変わる度に電磁コイルを励磁する必要があり、その為の制御が複雑になる。又、制御が複雑になる事を防止する為に、電磁コイルを励磁したままにする事も考えられるが、この場合には、運転モード切換時に接続が自動的には断たれなくなる。又、電力の消費量が多くなり、燃費の悪化を招くと共に、電磁コイルの発熱により電磁式ツーウェイクラッチが破損する等の問題を生じる可能性がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0027】
【特許文献1】特開平11−63146号公報
【特許文献2】米国特許第5607372号明細書
【特許文献3】特開2002−139124号公報
【特許文献4】特開2004−169719号公報
【特許文献5】特開2004−211744号公報
【特許文献6】特開2009−174652号公報
【特許文献7】特開2001−254804号公報
【特許文献8】特開2001−280486号公報
【特許文献9】特開2002−61738号公報
【特許文献10】特開2002−98224号公報
【特許文献11】国際公開第2009/132056号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0028】
本発明は、上述の様な事情に鑑み、無段変速装置を小型化できると共に、運転モード切換時の制御を簡略化できる構造を実現すべく発明したものである。
【課題を解決するための手段】
【0029】
本発明の無段変速装置は、トロイダル型無段変速機と、遊星歯車式変速機と、入力軸と、出力軸と、複数のクラッチ装置とを組み合わせて成る。
そして、これら各クラッチ装置の断接状態の切り換えに基づいて、前記入力軸を一方向に回転させた状態のまま前記出力軸を停止させるギヤードニュートラル状態を実現する低速モードと、この低速モードに比べて減速比の小さい状態を実現する高速モードとのうちの何れかの運転モードに切り換え可能としたものである。
【0030】
特に本発明の無段変速装置は、前記複数のクラッチ装置のうちの少なくとも1つのクラッチ装置を、クラッチ用外輪と、クラッチ用内輪と、複数個の係合子とを備え、次の第一、第二の接続モードを切り換え可能とした切換式一方向クラッチとしている。
前記第一の接続モードでは、前記クラッチ用外輪が前記クラッチ用内輪に対して所定方向に回転する傾向になる場合にのみ、これらクラッチ用外輪とクラッチ用内輪との間で前記複数個の係合子のうちの一部の係合子が突っ張り、これらクラッチ用外輪とクラッチ用内輪との間で回転力(トルク)を伝達する。
前記第二の接続モードでは、前記クラッチ用外輪が前記クラッチ用内輪に対して前記所定方向とは反対方向に回転する傾向になる場合にのみ、前記クラッチ用外輪と前記クラッチ用内輪との間で前記複数個の係合子のうち前記第一の接続モード時に回転力を伝達する係合子とは異なる一部の係合子が突っ張り、前記クラッチ用外輪と前記クラッチ用内輪との間で回転力を伝達する。
尚、本発明を実施する場合に、第三の接続モードとして、前記クラッチ用外輪と前記クラッチ用内輪との相対回転方向に拘わらず、これらクラッチ用外輪とクラッチ用内輪との間で回転力を伝達しないモードを備える事もできる。
尚、上述の様な本発明の無段変速装置に用いる切換式一方向クラッチとしては、特許文献11に記載された構造の切換式一方向クラッチを採用できる。
【0031】
上述した本発明の無段変速装置を実施する場合に好ましくは、例えば請求項2に記載した発明の様に、前記切換式一方向クラッチを、低速モードを実現する際に回転力を伝達するもの(低速用クラッチ)とする。そして、シフトレバーにより選択された進行方向に応じて接続モードを切り換える。尚、接続モードは、シフトレバーの選択位置(進行方向)が変更されない限り、ブレーキ操作等によっても切り換えない様にする。
【0032】
又、上述した請求項2に記載した発明を実施する場合に好ましくは、例えば請求項3に記載した発明の様に、前記シフトレバーと前記切換式一方向クラッチとを、例えばワイヤや油圧回路等を利用して機械的に接続する。
【発明の効果】
【0033】
上述の様に構成する本発明の無段変速装置によれば、無段変速装置を小型化できると共に、運転モード切換時の制御を簡略化できる。
即ち、本発明の無段変速装置の場合には、運転モードを切り換える為のクラッチ装置として、前記図7、9に示した様な油圧式のクラッチ装置に代えて、切換式一方向クラッチを使用する。この切換式一方向クラッチは、クラッチ用外輪と、クラッチ用内輪と、複数個の係合子等から構成する事ができ、油圧式のクラッチ装置に比べてコンパクト(特に軸方向寸法をコンパクト)に構成できる。従って、設置スペースを小さくする事ができて、無段変速装置の小型化を図れる。
又、前記切換式一方向クラッチは、油圧式のクラッチ装置とは異なり、第一の接続モード又は第二の接続モードが選択された状態で、一方向の回転力(トルク)のみを伝達する。この為、運転モード切換時に通過するトルクの方向が反転する事を利用して、断接状態を自動的に切り換えられる。従って、運転モード切換時の制御を簡略化できる。
又、前記切換式一方向クラッチは、油圧を利用せずに機械的に作動する。この為、油圧式の押圧装置を使用する場合にも、必要ローディング圧に調節したプライマリーラインのライン圧をそれ以上高くする必要がない。この為、ポンプ損失を低減する事ができて、無段変速装置の効率の低下を防止できる。
更に、油圧式のクラッチ装置で必要になるプリチャージ時間(油圧の立ち上がりに要する時間)を不要にできる為、無段変速装置の変速動作等の応答性を高める事もできる。
【0034】
又、上述した請求項2に記載した発明によれば、車両の進行方向を保証できて、無段変速装置の信頼性を向上できる。
更に、請求項3に記載した発明によれば、シフトレバーと切換式一方向クラッチとを電気的に接続する場合に比べて、構造を簡略化できると同時に信頼性の向上を図れる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明の実施の形態の1例を示す略断面図。
【図2】同じく低速用クラッチに用いる切換式一方向クラッチを取り出して示す斜視図。
【図3】同じく分解斜視図。
【図4】同じく第一の接続モードに切り換えた状態を示す、(A)は部分拡大正面図であり、(B)は(A)の内部構造を示す図である。
【図5】同じく第二の接続モードに切り換えた状態を示す、図4と同様の図。
【図6】同じく第三の接続モードに切り換えた状態を示す、図4と同様の図。
【図7】従来から知られている、トロイダル型無段変速機と遊星歯車式変速機とを組み合わせた無段変速装置の1例を示す断面図。
【図8】図7のA−A断面図。
【図9】無段変速装置に組み込む油圧回路図。
【発明を実施するための形態】
【0036】
図1〜6は、本発明の実施の形態の1例を示している。尚、本例の特徴は、低速用クラッチ35aとして、油圧式のクラッチ装置に代えて、伝達するトルクの方向を機械的に切り換え可能とした切換式一方向クラッチを使用した点にある。その他の部分の構成及び作用は、前述の図7〜8に示した従来構造の無段変速装置と基本的には同じである。従って、同等部分には同一符号を付して、重複する説明を省略若しくは簡略にし、以下、本例の特徴部分並びに前記従来構造と異なる部分を中心に説明する。
【0037】
本例の無段変速装置も、前述した従来構造の無段変速装置と同様に、トロイダル型無段変速機1と、遊星歯車式変速機2aと、入力軸3と、出力軸4と、低速用クラッチ35aと、高速用クラッチ38とを組み合わせて成る。このうちのトロイダル型無段変速機1に就いては、前述した従来構造と同様である。
【0038】
前記遊星歯車式変速機2aは、前段、中段、後段各ユニット7a、8a、9aから構成される。このうちの前段ユニット7aは、第一太陽歯車27aと、第一キャリア28aと、第一リング歯車32aと、複数の第一遊星歯車61、61とを備える。このうちの第一太陽歯車27aは、出力側ディスク11に対しこの出力側ディスク11と同心に結合されて、この出力側ディスク11と共に回転するものである。この為に、中空回転軸26の基端部(図1の左端部)を前記出力側ディスク11の内径部に結合固定すると共に、この中空回転軸26の先端部(図1の右端部)に、前記第一太陽歯車27aを固設している。又、前記各第一遊星歯車61、61は、それぞれ1対ずつの遊星歯車素子62a、62bから成るダブルピニオン型である。これら各第一遊星歯車61、61を構成する1対ずつの遊星歯車素子62a、62bは、互いに噛合すると共に、前記第一キャリア28aの内径側の遊星歯車素子62a、62aを前記第一太陽歯車27aに、同じく外径側の遊星歯車素子62b、62bを前記第一リング歯車32aに、それぞれ噛合させている。
【0039】
又、前記中段ユニット8aは、第二太陽歯車33aと、複数の第二遊星歯車63、63とを備える。本例の場合には、前記前段ユニット7aを構成する前記第一キャリア28aに、前記各第二遊星歯車63、63を回転自在に支持する機能も持たせている。
【0040】
前記各構成部材のうちの第二太陽歯車33aは、伝達軸6の基端部(図1の左端部)に固設されており、前記前段ユニット7aを構成する前記第一太陽歯車27aと同心に、この第一太陽歯車27aに対する相対回転を自在に支持されている。又、前記各第二遊星歯車63、63は、シングルピニオン型で、それぞれが前記第一キャリア28aに回転自在に支持された状態で、前記第二太陽歯車33aと噛合している。又、前記各第二遊星歯車63、63は、それぞれが前記第一キャリア28aの内径側の遊星歯車素子62a、62aに結合して、これら各遊星歯車素子62a、62aと同期して回転する様にしている。即ち、これら各遊星歯車素子62a、62aと前記各第二遊星歯車63、63とを、互いに同期した回転を自在に結合して、所謂ステップピニオンとしている。又、前記各第二遊星歯車63、63の周囲にはリング歯車を設けず、これら各第二遊星歯車63、63はそれぞれ、前記第二太陽歯車33aとだけ噛合させている。
【0041】
一方、前記後段ユニット9aは、第二キャリア34aと、第三太陽歯車36aと、第二リング歯車37aと、複数の第三遊星歯車64、64とを備える。このうちの第二キャリア34aは、前記出力軸4の基端部(図1の左端部)に結合固定している。そして、特に本例の場合には、前記第二キャリア34aと前記第一リング歯車32aとを、切換式一方向クラッチである低速用クラッチ35aを介して結合している。又、前記第三太陽歯車36aは、前記伝達軸6の先端寄り(図1の右端寄り)部分に固設されている。又、前記第二リング歯車37aは、前記第三太陽歯車36aの周囲に配置されており、この第二リング歯車37aとケーシング13等の固定の部分との間に、油圧式の高速用クラッチ38を設けている。更に、前記複数の第三遊星歯車64、64は、それぞれ1対ずつの遊星歯車素子65a、65bから成るダブルピニオン型である。これら各第三遊星歯車64、64を構成する1対ずつの遊星歯車素子65a、65bは、互いに噛合すると共に、前記第二キャリア34aの内径側の遊星歯車素子65a、65aを前記第三太陽歯車36aに、同じく外径側の遊星歯車素子65b、65bを前記第二リング歯車37aに、それぞれ噛合させている。
【0042】
又、前記低速用、高速用両クラッチ35a、38のうち、低速用クラッチ35aは、減速比を大きくする低速モードを実現する際に接続されて、同じく小さくする高速モードを実現する際に接続を断たれる(後述する様に低速用クラッチ35aに関しては接続が自動的に断たれる)。これに対して、前記高速用クラッチ38は、高速モードを実現する際に接続されて、前記低速モードを実現する際に接続を断たれる。
【0043】
そして、このうちの低速モード時には、前記トロイダル型無段変速機1の出力側ディスク11の回転を、前記前段ユニット7aと前記後段ユニット9aを構成する前記二キャリア34aとを通じて、前記出力軸4に取り出す。従って、この様な低速モード時には、前記トロイダル型無段変速機1の変速比を調節する事により、前記入力軸3を一方向に回転させたまま前記出力軸4の回転方向を、所謂ギヤードニュートラル状態と呼ばれる停止状態を挟んで、両方向に変換できる。これに対して、高速モード時には、前記入力軸3と共に回転する前記第一キャリア28aの回転を、前記中段ユニット8aを構成する第二遊星歯車63、63から取り出し、この中段ユニット8aと前記後段ユニット9aとを通じて、前記出力軸4に取り出す。従って、この様な高速モード時には、前記入力軸3に加えられた動力を、前記トロイダル型無段変速機1をバイパスして前記遊星歯車式変速機2aに送る、所謂パワースプリット状態を実現できる。
【0044】
特に本例の無段変速装置の場合には、前記低速用クラッチ35aとして、伝達するトルクの方向を機械的に切り換え可能とした切換式一方向クラッチを使用している。この様な切換式一方向クラッチに就いて、以下、図2〜6を参照しつつ、その構造及び動作に就いて説明する。
【0045】
前記低速用クラッチ35aは、クラッチ用外輪66と、クラッチ用内輪67と、それぞれが1対の係合子68a、68b及び1対のばね69a、69bから構成される、複数組の係合ユニット70A、70Bと、1対のモード切換側板71a、71bとを備える。
【0046】
このうちのクラッチ用外輪66は、前記第一リング歯車32aに接続されており、この第一リング歯車32aと共に、車両の前進走行時(低速走行時)には図4〜6中の矢印X方向に回転し、車両の後退走行時には矢印Y方向に回転する。又、前記クラッチ用外輪66の内周面の円周方向複数個所には、前記各係合子68a、68bの基部(外径側部分)72a、72bを保持可能な保持凹部73a、73bと、前記各ばね69a、69bを収納可能な収納凹部74a、74bとが、それぞれ形成されている。又、前記クラッチ用外輪66の軸方向両側面のうちの径方向内端部乃至中間部には、前記各モード切換側板71a、71bを取り付ける為の円輪状凹溝75が、それぞれ形成されている。又、前記クラッチ用外輪66の軸方向両側面の径方向外端部のうち、円周方向複数個所(図示の例では3個所)には、前記各円輪状凹溝75に連続する状態で、収容凹溝76、76が形成されている。
【0047】
一方、前記クラッチ用内輪67は、前記第二キャリア34aに接続されており、この第二キャリア34aと共に、車両の前進走行時には図4〜6中の矢印X方向に回転し、車両の後退走行時には同図中の矢印Y方向に回転する。又、前記クラッチ用内輪67の外周面には凹部77、77と凸部78、78とが、円周方向に交互に形成されている。
【0048】
前記各係合ユニット70A、70Bは、前記クラッチ用外輪66の内周面と前記クラッチ用内輪67の外周面との間に交互に配置されている。前記各係合ユニット70A、70Bを構成する1対の係合子68a、68bは、煙草用のパイプを横から見た如き端面形状を有し、前記各基部72a、72bと、これら各基部72a、72bの内径側部分から円周方向に突出する状態で設けられた係合腕部79a、79bと、これら各係合腕部79a、79bの軸方向両側面に設けられた軸部80a、80bとを備える。この様な構成を有する前記1対の係合子68a、68bは、前記クラッチ用外輪66の内周面と前記クラッチ用内輪67の外周面との間に、円周方向に関する向きを反対にした(係合腕部79a、79bの先端部同士を対向させた)状態で設置されている。又、この状態で、前記各基部72a、72bは、前記クラッチ用外輪66の内周面に形成された保持凹部73a、73b内にそれぞれ揺動可能に保持されており、前記各軸部80a、80bは、前記各モード切換側板71a、71bに形成された長孔81、81内に挿入されている。一方、前記各ばね69a、69bは、板ばねであり、前記各収納凹部74a、74bの底部と前記各係合腕部79a、79bの外径側側面との間にそれぞれ配置されている。そして、前記各係合子68a、68b(係合腕部79a、79b)を前記クラッチ用内輪67の外周面に向けて付勢している。
【0049】
又、前記各モード切換側板71a、71bは、略円輪状に形成されており、円周方向複数個所に略円弧状の長孔81、81が形成されている。これら各長孔81、81は、円周方向両端部に設けられた1対の幅狭部82a、82bと、円周方向中央部に設けられた幅広部83とから成る。このうちの幅狭部82a、82bの幅寸法(径方向に関する幅寸法)は、前記各軸部80a、80bの直径よりも僅かに大きい程度であり、前記幅広部83の幅寸法(径方向に関する幅寸法)は、前記各軸部80a、80bの直径よりも十分に大きい。この為に本例の場合には、前記幅広部83の内周縁を、前記両幅狭部82a、82bの内周縁よりも径方向内方に凹入させている。又、前記各モード切換側板71a、71bの外周縁の円周方向複数個所(図示の例では3個所)には、径方向外方に張り出した回転阻止部84、84が形成されている。これら各回転阻止部84、84の円周方向幅寸法は、前記クラッチ用外輪66の軸方向側面に形成された収容凹溝76、76の円周方向幅寸法よりも小さい。又、一部の回転阻止部84の外周縁には操作部85が形成されている。この様な構成を有する1対のモード切換側板71a、71b同士は、前記クラッチ用外輪66と、前記クラッチ用内輪67と、前記複数組の係合ユニット70A、70Bとを軸方向両側から挟持し、前記各回転阻止部84、84を前記各収容凹溝76、76の内側にそれぞれ進入させた状態で、複数のピン86、86により結合されている。
【0050】
以上の様な構成を有する低速用クラッチ35aは、前記操作部85を操作する(スライドさせる)事で、次の第一〜第三の接続モードに切り換えが可能である。
先ず、図4を参照しつつ、第一の接続モードに就いて説明する。この図4に示した様に、第一の接続モード時には、前記操作部85を矢印Y方向(反時計方向)に移動させて、前記各回転阻止部84の円周方向一端部が前記各収容凹溝76の円周方向一端部に当接するまで、前記両モード切換側板71a、71bを前記各部材67、68、70A、70Bに対して相対回転させる。
【0051】
この際、前記各係合ユニット70A、70Bを構成する1対の係合子68a、68bのうち、円周方向一端側の係合子68aの軸部80aは、前記各長孔81内を幅狭部82aから幅広部83へと移動するのに対し、円周方向他端側の係合子68bの軸部80bは、前記各幅狭部82bの内側に位置したままとなる。又、図示の例では、前記各係合ユニット70A、70Bを構成する円周方向一端側の係合子68a、68aのうち、係合ユニット70Aを構成する係合子68aの係合腕部79aは、前記クラッチ用内輪67の外周面のうち凹部77の径方向外方に位置するのに対して、前記係合ユニット70Bを構成する係合子68aの係合腕部79aは、同じく凸部78の径方向外方に位置する。尚、この様な係合腕部79a、79aと凹部77及び凸部78との位置関係は、前記クラッチ用外輪66と前記クラッチ用内輪67とが空回りし(フリーラン状態となり)、これら両輪66、67の位相が図示の例からずれた場合には反対になる(係合ユニット70Aを構成する係合子68aの係合腕部79aが凸部78の径方向外方に位置し、係合ユニット70Bを構成する係合子68aの係合腕部79aが凹部77の径方向外方に位置する)。この為、この様な第一の接続モード時には、前記係合ユニット70A(70B)を構成する係合子68aの係合腕部79aのみが、前記ばね70aの付勢力により前記凹部77の内側に入り込む。
【0052】
従って、第一の接続モード時には、前記凹部77の内側に入り込んだ係合子68aが前記クラッチ用外輪66の内周面(保持凹部73a)と前記クラッチ用内輪67の外周面(凹部77と凸部78との段差部)との間で突っ張る状態となる、前記クラッチ用外輪66が前記クラッチ用内輪67に対して矢印X方向(車両の前進時回転方向)に回転する傾向となる場合にのみ、これら両輪66、67同士の間でトルクの伝達が行われる。反対に、このうちのクラッチ用外輪66が同じくクラッチ用内輪67に対して矢印Y方向(車両の後進時回転方向)に回転する傾向となる場合には、前記各係合ユニット70A、70Bを構成する係合子68a、68aは、前記各基部72a、72aを中心に揺動変位するのみで、何れの係合子68a、68bも、前記クラッチ用外輪66と前記クラッチ用内輪67との間で突っ張る事はない。従って、これら両輪66、67同士の間でトルクの伝達が行われる事はない。
【0053】
次に、図5を参照しつつ、第二の接続モードに就いて説明する。この図5に示した様に、第二の接続モード時には、前記操作部85を矢印X方向(時計方向)に移動させて、前記各回転阻止部84の円周方向他端部が前記各収容凹溝76の円周方向他端部に当接するまで、前記両モード切換側板71a、71bを前記各部材67、68、70A、70Bに対して相対回転させる。
【0054】
この際、前記各係合ユニット70A、70Bを構成する1対の係合子68a、68bのうち、円周方向他端側の係合子68bの軸部80bは、前記各長孔81内を幅狭部82bから幅広部83へと移動するのに対し、円周方向一端側の係合子68aの軸部80aは、前記各幅狭部82aの内側に位置したままとなる。又、図示の例では、前記各係合ユニット70A、70Bを構成する円周方向他端側の係合子68b、68bのうち、係合ユニット70Aを構成する係合子68bの係合腕部79bは、前記クラッチ用内輪67の外周面のうち凹部77の径方向外方に位置するのに対して、前記係合ユニット70Bを構成する係合子68bの係合腕部79bは、同じく凸部78の径方向外方に位置する。尚、この様な係合腕部79b、79bと凹部77及び凸部78との位置関係も、前記クラッチ用外輪66と前記クラッチ用内輪67とが空回りし(フリーラン状態となり)、これら両輪66、67の位相が図示の例からずれた場合には反対になる(係合ユニット70Aを構成する係合子68bの係合腕部79bが凸部78の径方向外方に位置し、係合ユニット70Bを構成する係合子68bの係合腕部79bが凹部77の径方向外方に位置する)。この為、この様な第二の接続モード時には、前記係合ユニット70A(70B)を構成する係合子68bの係合腕部79bのみが、前記ばね70bの付勢力により前記凹部77の内側に入り込む。
【0055】
従って、第二の接続モード時には、前記凹部77の内側に入り込んだ係合子68bが前記クラッチ用外輪66の内周面(保持凹部73b)と前記クラッチ用内輪67の外周面(凹部77と凸部78との段差部)との間で突っ張る状態となる、前記クラッチ用外輪66が前記クラッチ用内輪67に対して矢印Y方向(車両の後進時回転方向)に回転する傾向となる場合にのみ、これら両輪66、67同士の間でトルクの伝達が行われる。反対に、このうちのクラッチ用外輪66が同じくクラッチ用内輪67に対して矢印X方向(車両の前進時回転方向)に回転する傾向となる場合には、前記各係合ユニット70A、70Bを構成する係合子68b、68bは、前記各基部72b、72bを中心に揺動変位するのみで、何れの係合子68a、68bも、前記クラッチ用外輪66と前記クラッチ用内輪67との間で突っ張る事はない。従って、これら両輪66、67同士の間でトルクの伝達が行われる事はない。
【0056】
次に、図6を参照しつつ、第三の接続モードに就いて説明する。この図6に示した様に、第三の接続モード時には、前記操作部85を操作して、前記各回転阻止部84が前記各収容凹溝76の円周方向中央部に位置する様に、前記両モード切換側板71a、71bを前記各部材67、68、70A、70Bに対して相対回転させる。この際、前記複数組の係合ユニット70A、70Bを構成する係合子68a、68bの軸部80a、80bの総てが、前記各長孔80内の幅狭部81a、81bの内側に位置したままとなる。この為、前記複数組の係合ユニット70A、70Bを構成する係合子68a、68bの係合腕部79a、79bが、前記クラッチ用内輪67の外周面に形成された凹部77、77内に入り込む事はない。従って、前記クラッチ用外輪66が前記クラッチ用内輪67に対して何れの方向に回転する傾向となる場合にも、これら両輪66、67同士の間でトルクの伝達が行われる事はない。
【0057】
そして本例の場合、上述の様な第一〜第三の接続モードを、運転席に設けられたシフトレバーの選択位置に応じて切り換える様にしている。具体的には、Lレンジ又はDレンジが選択された場合には第一の接続モードに、Rレンジが選択された場合には第二の接続モードに、Nレンジ又はPレンジが選択された場合には第三の接続モードに、それぞれ切り換える様にしている。
【0058】
この結果、第一の接続モード時には、前記第一リング歯車32a(クラッチ用外輪66)が前記第二キャリア34a(クラッチ用内輪67)に対して矢印X方向に相対回転する傾向になる、車両の前進方向への低速走行時(高速用クラッチの接続が断たれた低速モード時)のみ、トルクの伝達が行われる(接続状態となる)。前記第一リング歯車32a(クラッチ用外輪66)が前記第二キャリア34a(クラッチ用内輪67)に対して矢印Y方向に相対回転する傾向になる、車両の前進方向への高速走行時(高速用クラッチ38が接続された高速モード時)には、トルクの伝達は行われない(開放状態となる)。
【0059】
これに対して、第二の接続モード時には、前記第一リング歯車32a(クラッチ用外輪66)が前記第二キャリア34a(クラッチ用内輪67)に対して矢印Y方向に相対回転する傾向になる、車両の後退方向への走行時のみ、トルクの伝達が行われる(接続状態となる)。
【0060】
又、第三の接続モード時には、前記第一リング歯車32a(クラッチ用外輪66)が前記第二キャリア34a(クラッチ用内輪67)に対して、何れの方向に相対回転する傾向になる場合にも、これら第一リング歯車32aと第二キャリア34aとの間でトルクの伝達は行われない(開放状態となる)。
【0061】
更に本例の場合には、シフトレバーの選択位置と前記低速用クラッチ35aを構成する操作部85の位置(収容部凹溝76内での円周方向位置)とを、電気的なアクチュエータを介さずに、ワイヤや油圧回路等を利用して機械的に接続し、直接同期させている。例えば、シフトレバーの動きを手動切換弁57(図9参照)の連通状態を切り換える為に設けられた既存のリンク機構の一部と、前記操作部85とを、ワイヤにより直接連結している。
【0062】
以上の様な構成を有し上述の様に動作する本例の場合には、無段変速装置を小型化できると共に、運転モード切換時の制御を簡略化できる。
即ち、本例の無段変速装置の場合には、低速用クラッチ35aとして、前記図7、9に示した様な油圧式のクラッチ装置に代えて、切換式一方向クラッチを使用している。この切換式一方向クラッチである低速用クラッチ35aは、前記クラッチ用外輪66と、前記クラッチ用内輪67と、前記複数組の係合ユニット70A、70Bと、前記1対のモード切換側板71a、71bとから構成する事ができ、油圧式のクラッチ装置に比べてコンパクト(特に軸方向寸法をコンパクト)に構成できる。又、油圧式のクラッチ装置で必要になる、圧油の給排を行う為の低速用切換弁55(図9参照)も省略できる。従って、設置スペースを小さくする事ができて、無段変速装置の小型化を図れる。
【0063】
又、前記低速用クラッチ35aは、油圧式のクラッチ装置とは異なり、第一の接続モード(又は第二の接続モード)が選択された状態で、一方向のトルクのみを伝達する。この為、運転モード切換時に通過するトルクの方向が反転する(トルクの作用方向は変化せずにその伝達方向が上流側と下流側とで反転する)事を利用して、断接状態を自動的に切り換えられる。即ち、第一の接続モードが選択されて、車両が前進方向に低速走行している間は、前記第一リング歯車32aから前記第二キャリア34aに向けてX方向のトルクが通過する為、前記低速用クラッチ35aは接続を維持する。これに対し、前記高速用クラッチ38が接続されて運転モードが低速モードから高速モードに切り換わると、前記第二キャリア34aから前記第一リング歯車32aに向けてX方向のトルクが通過する傾向になる。この状態では、前記クラッチ用内輪67が前記クラッチ用外輪66に対し、前記X方向に回転する為、前記低速用クラッチ35aの接続は自動的に断たれる。反対に、運転モードが高速モードから低速モードに切り換えられる場合には、前記低速用クラッチ35aは、接続が断たれた状態から自動的に接続される。この様に、本例の場合には、運転モード切換時に、前記低速用クラッチ35aの断接状態を自動的に切り換えられる為、運転モード切換時の制御を簡略化できる。
【0064】
又、前記低速用クラッチ35aは、油圧を利用せずに機械的に作動する。この為、油圧式の押圧装置25を使用する場合にも、必要ローディング圧に調節したプライマリーラインのライン圧をそれ以上高くする必要がない。この為、ポンプ損失を低減する事ができて、無段変速装置の効率の低下を防止できる。
【0065】
又、前述した電磁式のツーウェイクラッチを使用した場合と同様に、油圧式のクラッチ装置で必要になるプリチャージ時間(油圧の立ち上がりに要する時間)を不要にできる為、無段変速装置の変速動作等の応答性を高める事もできる。
【0066】
又、第一の接続モードを選択して、車両を前進走行させている際に、何らかのトラブルによって前記トロイダル型無段変速機1の変速比が車両の後退走行を実現する値に変化した場合にも、前記低速用クラッチ35aは、接続モードが切り換えられない限り(第一の接続モードが選択されている限り)、車両を後退させる方向(Y方向)に加わるトルクを伝達しない。従って、厳密な変速比制御を行わなくても、前記低速用クラッチ35aの接続モードを正しく切り換えるのみで、車両の進行方向を保証できる。この結果、無段変速装置の信頼性の向上を図れる。更に、本例の場合には、シフトレバーと前記低速用クラッチ35a(操作部85)とを、ワイヤや油圧回路等を利用して、機械式又は油圧式に接続している。この為、電気的に接続する場合に比べて、構造を簡略化できると同時に信頼性の向上を図れる。
【産業上の利用可能性】
【0067】
上述した実施の形態の1例では、低速用クラッチを切換式一方向クラッチとし、高速用クラッチを油圧式のクラッチとした場合に就いて説明したが、この高速用クラッチを単純な一方向クラッチ或いは切換式一方向クラッチとする事もできる。この様に、高速用クラッチを一方向クラッチとすれば、運転モード切換時に通過するトルクの方向が反転する事を利用して、断接状態を自動的に切り換える事ができる。又、低速用クラッチを油圧式のクラッチとし、高速用クラッチだけを切換式一方向クラッチとする事も可能である。又、前記実施の形態の1例では、トロイダル型無段変速機と遊星歯車式変速機とを同軸に配置した構造を示したが、本発明を実施する場合に、これらトロイダル型無段変速機と遊星歯車式変速機とは同軸に配置する必要はない(多軸構造としても良い)。又、本発明は、ギヤードニュートラルモードを有する変速機だけでなく、トロイダル型無段変速機と遊星歯車装置と複数のクラッチ装置とを組み合わせた複数モードで構成される変速機に適用する事も可能である(例えば、入力軸に加えられた動力を出力軸に直接送る直結モードと、入力軸に加えられた動力を遊星歯車装置に送るパワースプリットモードとの組み合わせを有する変速機や、2種類のパワースプリットモードを切換可能とした変速機等に適用できる)。
【符号の説明】
【0068】
1 トロイダル型無段変速機
2、2a 遊星歯車式変速機
3 入力軸
4 出力軸
5 回転軸
6 伝達軸
7、7a 前段ユニット
8、8a 中段ユニット
9、9a 後段ユニット
10a、10b 入力側ディスク
11 出力側ディスク
12 パワーローラ
13 ケーシング
14 支柱
15 転がり軸受
16a、16b 支持ポスト部
17a、17b 支持板
18 トラニオン
19 枢軸
20 支持軸
21 アクチュエータボディー
22 アクチュエータ
23 バルブボディー
24 変速比制御弁
25 押圧装置
26 中空回転軸
27 第一太陽歯車
28 第一キャリア
29 遊星歯車
30 遊星歯車
31 遊星歯車
32、32a 第一リング歯車
33、33a 第二太陽歯車
34、34a 第二キャリア
35、35a 低速用クラッチ
36、36a 第三太陽歯車
37、37a 第二リング歯車
38 高速用クラッチ
39 遊星歯車
40 遊星歯車
41 オイルパン
42 高圧側給油ポンプ
43 低圧側給油ポンプ
44 高圧側圧力調整弁
45a、45b 油圧室
46 低圧側圧力調整弁
47 第一の電磁弁
48 ステッピングモータ
49 差圧シリンダ
50 第二の電磁弁
51a、51b 差圧制御弁
52 前後進切換弁
53 第三の電磁弁
54 高速用切換弁
55 低速用切換弁
56 シフト用切換弁
57 手動切換弁
58 隔壁
59 プライマリーライン
60 減圧弁
61 第一遊星歯車
62a、62b 遊星歯車素子
63 第二遊星歯車
64 第三遊星歯車
65a、65b 遊星歯車素子
66 クラッチ用外輪
67 クラッチ用内輪
68a、68b 係合子
69a、69b ばね
70A、70B 係合ユニット
71a、71b モード切換側板
72a、72b 基部
73a、73b 保持凹部
74a、74b 収納凹部
75 円輪状凹溝
76 収容凹溝
77 凹部
78 凸部
79a、79b 係合腕部
80a、80b 軸部
81 長孔
82a、82b 幅狭部
83 幅広部
84 回転阻止部
85 操作部
86 ピン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
トロイダル型無段変速機と、遊星歯車式変速機と、入力軸と、出力軸と、複数のクラッチ装置とを組み合わせて成り、これら各クラッチ装置の断接状態の切り換えに基づいて、前記入力軸を一方向に回転させた状態のまま前記出力軸を停止させるギヤードニュートラル状態を実現する低速モードと、この低速モードに比べて減速比の小さい状態を実現する高速モードとのうちの何れかの運転モードに切り換え可能とした無段変速装置に於いて、前記複数のクラッチ装置のうちの少なくとも1つのクラッチ装置が、クラッチ用外輪と、クラッチ用内輪と、複数個の係合子とを備え、このクラッチ用外輪がこのクラッチ用内輪に対して所定方向に回転する傾向となる場合にのみ、これらクラッチ用外輪とクラッチ用内輪との間で前記複数個の係合子のうちの一部の係合子が突っ張り、これらクラッチ用外輪とクラッチ用内輪との間で回転力が伝達される第一の接続モードと、このクラッチ用外輪がこのクラッチ用内輪に対して前記所定方向とは反対方向に回転する傾向となる場合にのみ、前記クラッチ用外輪と前記クラッチ用内輪との間で前記複数個の係合子のうち前記第一の接続モード時に回転力を伝達する係合子とは異なる一部の係合子が突っ張り、前記クラッチ用外輪と前記クラッチ用内輪との間で回転力が伝達される第二の接続モードとを切り換え可能とした切換式一方向クラッチである事を特徴とする無段変速装置。
【請求項2】
切換式一方向クラッチが、低速モードを実現する際に回転力を伝達するものであり、シフトレバーにより選択された進行方向に応じて接続モードが切り換えられる、請求項1に記載した無段変速装置。
【請求項3】
シフトレバーと切換式一方向クラッチとが機械的に接続されている、請求項2に記載した無段変速装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−219950(P2012−219950A)
【公開日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−88077(P2011−88077)
【出願日】平成23年4月12日(2011.4.12)
【出願人】(000004204)日本精工株式会社 (8,378)
【Fターム(参考)】