説明

無溶剤型ポリイミドシリコーン樹脂組成物及びその硬化樹脂皮膜

【課題】無色透明の硬化膜を与える無溶剤型ポリイミドシリコーン樹脂組成物を提供する。
【解決手段】(a)テトラカルボン酸二無水物と、ジアミン及び下記式(2)の構造を有するジアミノシロキサンとを反応させることにより得られ、且つ、石英ガラス基板上に厚さ100μmのフィルムにして測定した、波長350nmから450nmの光線透過率が80%以上であるポリイミドシリコーン樹脂と、(b)反応性希釈剤と、(c)光重合開始剤とを含む、無溶剤型ポリイミドシリコーン樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はコーティング材料、接着剤として有用な実質的に無溶剤化されたポリイミドシリコーン系組成物、及びこれを硬化させて得られる樹脂皮膜に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、ポリイミド樹脂は耐熱性が高く、電気絶縁性に優れているので、プリント回線基板や耐熱性接着テープの材料に利用されている。また、樹脂ワニスとして電気部品や半導体材料の表面保護膜、層間絶縁膜としても利用されているが、ポリイミド樹脂は限られた溶剤にしか溶解しないため、一般的には種々の有機溶剤に比較的易溶のポリイミド前駆体であるポリアミック酸を基材に塗布し、高温処理により脱水環化してポリイミド樹脂を得る方法が採られている。
【0003】
また、ポリイミド樹脂の溶剤への溶解性の向上、基材への密着力向上、可とう性付与といった目的のために、ポリイミド骨格にシロキサン鎖を導入することも行なわれている。しかしながら、この場合においても、ポリイミド樹脂を利用する際に溶剤で希釈して使用するのが一般的であった(例えば特許文献1)。そのため、従来のポリイミド樹脂は塗布等の作業を行った後に溶剤を除去するために加熱等の工程を必要とし、さらに、排気等の作業環境面での対策も必要であった。
【0004】
そこで、ポリイミドシリコーン系樹脂組成物において、(メタ)アクリル化合物を反応性希釈剤としてあらかじめ混合したものを使用することによって、様々な形状の基材に対して高接着性を与え、また塗布等の作業後に溶剤の除去の工程を必要としない無溶剤型ポリイミドシリコーン系樹脂組成物が提案されている(特許文献2)。
【0005】
しかし、上記ポリイミドシリコーン樹脂は着色しており、色が重要である用途には使用できないという問題がある。斯かる問題を解決するものとして、主として脂肪族テトラカルボン酸から得られる無色透明のポリイミド樹脂が知られている(特許文献3)。
【特許文献1】特開平7−268098号公報
【特許文献2】特開2002−332305号公報
【特許文献3】特開2004−149777号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記無色透明のポリイミドシリコーン樹脂は反応性希釈剤と相溶し難く、硬化皮膜が白化するという問題がある。そこで、本発明は、斯かる問題を起こすことがなく、無色透明の硬化膜を与える無溶剤型ポリイミドシリコーン樹脂組成物を提供することを目的とする。
【0007】
本発明者は、上記目的を達成するため鋭意検討を行った結果、無色透明ポリイミドシリコーン樹脂中に、光重合性基を導入することによって、硬化後に透明な皮膜を形成できることを見出し、本発明をなすに至ったものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
即ち、本発明は下記のものである。
(a)下記一般式(1−1)及び(1−2)で表される繰り返し単位からなり、且つ、石英ガラス基板上に厚さ100μmのフィルムにして測定した、波長350nmから450nmの光線透過率が80%以上であるポリイミドシリコーン樹脂と、(b)反応性希釈剤と、(c)光重合開始剤とを含む、無溶剤型樹脂組成物
【0009】
【化8】


(式中、Xは四価の有機基であり、Yは二価の有機基であり、Zは下記組成式(2)で表される二価の有機基である)
【0010】
【化9】

(式(2)中のR1は、互いに異なっていてよい、炭素数1から8の置換されていてよい一価の炭化水素基であり、R2は光重合性基を含む一価の炭化水素基であり、a及びbは、夫々、1以上100以下の整数であり、但し、a+b≦100である)。
【発明の効果】
【0011】
上記、本発明のポリイミドシリコーン樹脂組成物は、無色透明な硬化膜を与える。プリント回線基板、耐熱性接着テープ、絶縁膜、表面保護膜、電極保護膜等の従来の用途に加え、意匠性が要求される電気部品や光学部品等にも使用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明の樹脂組成物において、上記式(1−1)及び(1−2)でそれぞれ表される繰返し単位を有するポリイミドシリコーン樹脂は、残基Xを与えるテトラカルボン酸二無水物と、残基基Yを与えるジアミン及び残基Zを与えるジアミノシロキサンとを反応させることにより得ることができる。
【0013】
テトラカルボン酸二無水物は、紫外〜可視域で光吸収が少ないこと、また、イミド化後に電荷移動錯体を形成しにくいものが好ましい。
【0014】
光吸収を妨げないという点では脂肪族テトラカルボン酸二無水物または脂環式テトラカルボン酸二無水物が好ましい。脂肪族テトラカルボン酸二無水物としては例えばブタン−1,2,3,4−テトラカルボン酸二無水物又はペンタン−1,2,4,5−テトラカルボン酸二無水物等が挙げられ、脂環式テトラカルボン酸二無水物としては1,2,3,4−シクロブタンテトラカルボン酸二無水物、シクロヘキサン−1,2,4,5−テトラカルボン酸二無水物、ジシクロヘキシル−3,4,3′,4′−テトラカルボン酸二無水物、ビシクロ[2.2.1]ヘプタン−2,3,5,6−テトラカルボン酸二無水物、2,3,4,5−テトラヒドロフランテトラカルボン酸二無水物、ビシクロ[2,2,2]−オクト−7−エン−2,3,5,6−テトラカルボン酸二無水物等が挙げられる。
【0015】
また、1,3,3a,4,5,9b−ヘキサヒドロ−5−(テトラヒドロ−2,5−ジオキソ−3−フラニル)−ナフト[1,2−c]フラン−1,3−ジオン、1,3,3a,4,5,9b−ヘキサヒドロ−5−メチル−5−(テトラヒドロ−2,5−ジオキソ−3−フラニル)−ナフト[1,2−c]フラン−1,3−ジオン等の芳香環を有する脂肪族テトラカルボン酸二無水物を用いてもよい。また、光重合開始剤の光吸収を妨げない範囲で耐熱性により優れる芳香族テトラカルボン酸二無水物を用いてもよい。芳香族テトラカルボン酸二無水物としてはピロメリット酸二無水物、3,3′,4,4′−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、3,3′,4,4′−ジフェニルエーテルテトラカルボン酸二無水物、4,4′−ヘキサフルオロプロピリデンビスフタル酸二無水物、3,3′,4,4′−ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物等が挙げられる。これらのテトラカルボン酸二無水物は、単独でまたは2種以上組み合わせて用いることができる。
【0016】
上記テトラカルボン酸二無水物のなかでも、下記式(3)、式(4)、式(5)、式(6)又は(7)で表される残基を与えるもの、即ち、ブタン−1,2,3,4−テトラカルボン酸二無水物、ビシクロ[2,2,2]−オクト−7−エン−2,3,5,6−テトラカルボン酸二無水物、1,2,3,4−シクロブタンテトラカルボン酸二無水物、1,3,3a,4,5,9b−ヘキサヒドロ−5−(テトラヒドロ−2,5−ジオキソ−3−フラニル)−ナフト[1,2−c]フラン−1,3−ジオン、及びシクロヘキサン−1,2,4,5−テトラカルボン酸二無水物が好ましい。
【0017】
【化10】

【0018】
【化11】

【0019】
【化12】

【0020】
【化13】

【0021】
【化14】

【0022】
ジアミンも、紫外〜可視域で光吸収が少ないこと、また、イミド化後に電荷移動錯体を形成しにくいものが好ましい。光吸収を妨げないという点では脂肪族ジアミンが好ましいが、光重合開始剤の光吸収を妨げない範囲で耐熱性により優れる芳香族ジアミンを用いてもよい。脂肪族ジアミンとしては、テトラメチレンジアミン、1,4−ジアミノシクロヘキサンや4,4′−ジアミノジシクロヘキシルメタン等が挙げられ、芳香族ジアミンとしてはフェニレンジアミン、4,4′−ジアミノジフェニルエーテル、2,2−ビス(4−アミノフェニル)プロパン等が挙げられ単独もしくは2種以上組み合わせて使用することができる。
【0023】
ジアミノシロキサン残基は組成式(2)で表される。
【0024】
【化15】

【0025】
式(2)中のR1は、互いに異なっていてよく置換されていてよい、炭素数1から8の、光重合性基を有さない1価炭化水素基であり、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基基等のアルキル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基等のシクロアルキル基、フェニル基、キシリル基等のアリール基、ベンジル基、フェネチル基等のアラルキル基、3,3,3−トリフルオロプロピル基、3−クロロプロピル基等のハロゲン化アルキル基、2−(トリメトキシシリル)エチル基等のトリアルコキシシリル化アルキル基等の他、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基等のアルコキシ基、フェノキシ基等のアリーロキシ基、シアノ基等を挙げることができる。中でもメチル基、エチル基またはフェニル基が好ましい。
【0026】
本発明の組成物におけるポリイミドシリコーン樹脂は、光重合性基を有する一価の炭化水素基R2を有することを特徴とする。ここで、光重合性基は、例えば紫外から可視光域の光を照射することによって重合する基である。R2の例には、ビニル基、アリル基、プロペニル基、イソプロペニル基、ブテニル基等のアルケニル基、(メタ)アクリロイル基、及び(メタ)アクリロイルオキシアルキル基、例えば(メタ)アクリロイルオキシプロピル基、を挙げることができる。中でも合成の簡便さからアルケニル基が好ましく、その中でもビニル基がさらに好ましい。
【0027】
また、a及びbは、それぞれ、1以上100以下の整数であり、但し、a+b≦100である。a+bが該上限値を超えると、各種材料への密着性が悪くなる。1分子中の光重合性基の凡その割合を表す、b/(a+b)は0.05以上、好ましくは0.1以上である。b/(a+b)が前記下限値未満では光硬化後の透明性がよくない場合がある。b/(a+b)の上限については、特に制限は無い。
【0028】
ポリイミドシリコーン樹脂中のオルガノシロキサン部分、Z、の割合は、30質量%以上であることが望ましく、さらに好ましくは40質量%以上である。30質量%未満の場合、得られるポリイミドシリコーン系樹脂が希釈剤に溶解しにくくなり、また、25℃において流動性を示さなくなる。一方、オルガノシロキサン部分の割合の上限は、ポリイミドシリコーン樹脂中90質量、特に80質量%であることが好ましい。従って上記式(1−1)及び(1−2)において、単位(1−1)のモル比、p、及び単位(1−2)のモル比、q、は、ポリイミドシリコーン樹脂中のオルガノシロキサン部分の量が上記の範囲であるように選択され、q/(p+q)が0.1〜0.95、特に0.2〜0.85であることが好ましい。
【0029】
ポリイミドシリコーン樹脂の重量平均分子量は、5000〜100000、特に10000〜70000が好ましい。分子量が前記下限値未満であると、ポリイミドシリコーン樹脂組成物から得られる硬化皮膜がもろくなり、前記上限値を超えると反応性希釈剤との相溶性が悪くなる傾向がある。
【0030】
ポリイミドシリコーン樹脂の製造方法は公知の方法に従えばよく、まず、酸二無水物、ジアミン及びジアミノポリシロキサンを溶剤中に仕込み、低温、即ち20〜50℃程度で反応させて、ポリイミド樹脂の前駆体であるポリアミック酸を製造する。次に、得られたポリアミック酸の溶液を、好ましくは80〜200℃、特に好ましくは140〜180℃の温度に昇温し、ポリアミック酸の酸アミドを脱水閉環反応させることにより、ポリイミドシリコーン樹脂の溶液が得られ、この溶液を水、メタノール、エタノール、アセトニトリルといった溶剤に投入して沈殿させ、沈殿物を乾燥することにより、ポリイミドシリコーン樹脂を得ることができる。
【0031】
ここで、テトラカルボン酸二無水物に対するジアミン及びジアミノポリシロキサンの合計の割合、即ち[(ジアミン+ ジアミノポリシロキサン)/テトラカルボン酸二無水物]は、ポリイミドシリコーン樹脂の適宜選択することができるが、好ましくは、0.95〜1.05、特に好ましくは0.98〜1.02の範囲である。また、ポリイミドシリコーン樹脂を製造するときに使用できる溶剤としては、N−メチル−2−ピロリドン、シクロヘキサノン、γ−ブチロラクトン、N,N−ジメチルアセトアミド等が挙げられる。また、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類を併用することでイミド化の際に生成する水を共沸により除去しやすくすることも可能である。これらの溶剤は、1種単独でも2種以上組み合わせて用いてもよい。
【0032】
なお、ポリイミドシリコーン樹脂の分子量を調整するために、無水フタル酸、アニリン等の一官能性原料を添加することも可能である。この場合の添加量はポリイミドシリコーン樹脂に対して2モル%以下が好ましい。
【0033】
また、イミド化過程において脱水剤およびイミド化触媒を添加し必要に応じて50℃前後に加熱することにより、イミド化させる方法を用いてもよい。この方法において、脱水剤としては、例えば無水酢酸、無水プロピオン酸、無水トリフルオロ酢酸などの酸無水物を用いることができる。脱水剤の使用量は、ジアミン1モルに対して1〜10モルとするのが好ましい。イミド化触媒としては、例えばピリジン、コリジン、ルチジン、トリエチルアミンなどの第3級アミンを用いることができる。イミド化触媒の使用量は、使用する脱水剤1モルに対して0.5〜10モルとするのが好ましい。本イミド化手法は工程中で反応液が高温にさらされることが無く得られる樹脂が着色しにくいという点で有効である。
【0034】
ジアミン及びテトラカルボン酸二無水物の少なくとも一方を複数種使用する場合も、反応方法は特に限定されるものではなく、例えば原料を予め全て混合した後に共重縮合させる方法や、用いる2種以上のジアミン又はテトラカルボン酸二無水物を個別に反応させながら順次添加する方法等がある。
【0035】
このようにして合成された本発明のポリイミドシリコーン樹脂は、石英ガラス基板上に厚さ100μmのフィルムにして測定した紫外線・可視線吸収スペクトルにおいて、350nmから450nmの波長領域における透過率が80%以上という特徴をもつものである。
【0036】
本発明のポリイミドシリコーン系樹脂組成物には、更に(b)反応性希釈剤を配合する。該反応性希釈剤としては、後述する光重合開始剤によって反応するものであれば任意のものを使用することができ、(メタ)アクリル化合物及びビニルエーテル系化合物等が例示される。汎用性及び種類の多彩さから(メタ)アクリル化合物が好ましい。なお、本明細書において、(メタ)アクリルは、アクリル及びメタクリルの双方を包含する。
【0037】
本発明で用いられる(メタ)アクリル化合物としては、下記一般式(7)で表される(メタ)アクリレート、又は一般式(8)で表される(メタ)アクリルアミドが好ましく用いられる。
CH2=CR3COOR3 (7)
CH2=CR3CONR42 (8)
(式中、R3は、互いに異なっていてよいアルキル基を表し、好ましくは炭素数1〜20、より好ましくは1〜10である。R4は水素原子又はメチル基を示す。)
【0038】
(メタ)アクリレートの例としては、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート、3,4−エポキシシクロヘキシルメチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、トリフルオロプロピル(メタ)アクリレート、パーフロロブチルエチル(メタ)アクリレート、パーフロロオクチルエチル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、(メタ)アクリロキシプロピルメチルジメトキシシランが挙げられる。これらの(メタ)アクリレートは、単独でも2種類以上組み合わせて使用しても差し支えない。
【0039】
(メタ)アクリルアミドの例としては、N,N−ジメチルアクリルアミド、N,N−ジエチルアクリルアミド等が挙げられる。
【0040】
上記モノ(メタ)アクリレートの他に強度、接着性向上のため、多官能(メタ)アクリレートを加えても良い。
【0041】
本発明の組成物において、(c)光重合開始剤は紫外〜可視光域の光が照射されることによって、主としてラジカルを発生することにより重合を開始するものを意味する。汎用の光源が使用できる点及び速硬化性の観点から、アセトフェノン誘導体、ベンゾフェノン誘導体、ベンゾインエーテル誘導体、キサントン誘導体から選ばれる光重合開始剤が好ましい。
【0042】
該光重合開始剤の例としては、ジエトキシアセトフェノン、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン、2,2−ジメトキシ−2−フェニルアセトフェノン、1−ヒドロキシ−シクロヘキシルフェニルケトン、イソブチルベンゾインエーテル、ベンゾインメチルエーテル、チオキサントン、イソプロピルチオキサントン、2−メチル−1−[4−(メチルチオ)フェニル]−2−モルフォリノプロパン−1−オン、2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−モルフォリノフェニル)−ブタノン−1などが挙げられる。
【0043】
上記ポリイミドシリコーン樹脂、反応性希釈剤及び光重合開始剤の割合は、ポリイミドシリコーン樹脂の粘度等に応じて、適宜調整されるが、典型的には、(a)ポリイミドシリコーン樹脂100質量部に対し、(b)反応性希釈剤20〜2000質量部、(c)光重合開始剤1〜200質量部である。より典型的には、ポリイミドシリコーン樹脂100質量部に対し、反応性希釈剤30〜1000質量部、光重合開始剤2〜100質量部である。
【0044】
本発明のポリイミドシリコーン系樹脂組成物の粘度は、用途に応じて適宜調整することができる。実際上の扱いやすさを考慮すると、25℃において流動性であることが好ましく、25℃における粘度が、10000Pa・s以下であることが好ましく、より好ましくは0.01〜5000Pa・s、最も好ましくは0.1〜1000Pa・sである。
【0045】
また、本発明のポリイミドシリコーン樹脂組成物は、種々の基材に施与することができ、例えば、鉄、銅、ニッケル、アルミニウム等の金属で、ガラス等の無機物、エポキシ系樹脂、アクリル樹脂等の有機樹脂等に施与することができる。
【0046】
実施例
以下、実施例を示して本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0047】
[合成例1]
撹拌機、温度計及び窒素置換装置を備えたフラスコ内に、1,3,3a,4,5,9b−ヘキサヒドロ−5−(テトラヒドロ−2,5−ジオキソ−3−フラニル)−ナフト[1,2−c]フラン−1,3−ジオン30.0g(0.1モル)およびN,N−ジメチルアセトアミド250g、トルエン100gを仕込んだ。続いて、上記フラスコ内に2,2′−{2−ヒドロキシ−3−(3,5−ジメチル−4−アミノ)−ベンジル−5−メチル}−ジフェニルメタン12.6g(0.025モル)を添加し反応系の温度を50℃で3時間保持した。さらに下記組成式(9)で表されるジアミノビニルシロキサン66.6g(0.075モル)を室温で滴下し、滴下終了後室温で12時間撹拌した。
【0048】
【化16】

【0049】
つぎに、該フラスコに水分受容器付き還流冷却器を取り付けた後、無水酢酸20.4gとピリジン26.4gを添加して50℃まで昇温してその温度を3時間保持した。
【0050】
得られた溶液を貧溶媒であるメタノール中に投じ樹脂を再沈殿させ、シロキサン量が62質量%のポリイミドシリコーン樹脂を得た。この樹脂の赤外吸光スペクトルを測定したところ、未反応の官能基があることを示すポリアミック酸に基づく吸収は現れず、1780cm-1および1720cm-1にイミド基に基づく吸収を確認した。得られた樹脂は下記式で表される構造を有した。
【0051】
【化17】


ここでXは
【0052】
【化18】


Yは、
【0053】
【化19】


Zは、
【0054】
【化20】

である。
【0055】
また、テトラヒドロフランを溶媒とするゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)によりこの樹脂の重量平均分子量(ポリスチレン換算)を測定したところ、32000であった。石英ガラス基板上に膜厚100μmのフィルムを作成し、光線透過率を測定したところ、波長350nmから450nmまでの光線透過率が80%以上であった。このフィルムの透過率スペクトルを図1に示す。
【0056】
[合成例2]
撹拌機、温度計及び窒素置換装置を備えたフラスコ内に、1,2,3,4−シクロブタンテトラカルボン酸二無水物19.6g(0.1モル)およびN,N−ジメチルアセトアミド250g、トルエン100gを仕込んだ。続いて、上記フラスコ内に2,2′−{2−ヒドロキシ−3−(3,5−ジメチル−4−アミノ)−ベンジル−5−メチル}−ジフェニルメタン12.6g(0.025モル)を添加し反応系の温度を50℃で3時間保持した。さらに上記式(9)で表されるジアミノビニルシロキサン66.6g(0.075モル)を室温で滴下し、滴下終了後室温で12時間撹拌した。
【0057】
つぎに、該フラスコに水分受容器付き還流冷却器を取り付けた後、無水酢酸20.4gとピリジン26.4gを添加して50℃まで昇温してその温度を3時間保持した。
【0058】
得られた溶液を貧溶媒であるメタノール中に投じ樹脂を再沈殿させ、シロキサン量が68質量%のポリイミドシリコーン樹脂を得た。この樹脂の赤外吸光スペクトルを測定したところ、未反応の官能基があることを示すポリアミック酸に基づく吸収は現れず、1780cm-1および1720cm-1にイミド基に基づく吸収を確認した。得られた樹脂は下記構造を有した。
【0059】
【化21】


ここでXは、
【0060】
【化22】


Yは、
【0061】
【化23】


Zは、
【0062】
【化24】


である。
【0063】
また、テトラヒドロフランを溶媒とするゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)によりこの樹脂の重量平均分子量(ポリスチレン換算)を測定したところ、20000であった。石英ガラス基板上に膜厚100μmのフィルムを作成し、光線透過率を測定したところ、波長350nmから450nmまでの光線透過率が80%以上であった。
【0064】
[合成例3]
撹拌機、温度計及び窒素置換装置を備えたフラスコ内に、1,3,3a,4,5,9b−ヘキサヒドロ−5−(テトラヒドロ−2,5−ジオキソ−3−フラニル)−ナフト[1,2−c]フラン−1,3−ジオン30.0g(0.1モル)およびN,N−ジメチルアセトアミド250g、トルエン100gを仕込んだ。続いて、上記フラスコ内に2,2′−{2−ヒドロキシ−3−(3,5−ジメチル−4−アミノ)−ベンジル−5−メチル}−ジフェニルメタン12.6g(0.025モル)を添加し反応系の温度を50℃で3時間保持した。さらに下記組成式(11)で表されるジアミノビニルシロキサン65.7g(0.075モル)を室温で滴下し、滴下終了後室温で12時間撹拌した。
【0065】
【化25】

【0066】
つぎに、該フラスコに水分受容器付き還流冷却器を取り付けた後、無水酢酸20.4gとピリジン26.4gを添加して50℃まで昇温してその温度を3時間保持した。
【0067】
得られた溶液を貧溶媒であるメタノール中に投じ樹脂を再沈殿させ、シロキサン量が62質量%のポリイミドシリコーン樹脂を得た。この樹脂の赤外吸光スペクトルを測定したところ、未反応の官能基があることを示すポリアミック酸に基づく吸収は現れず、1780cm-1および1720cm-1にイミド基に基づく吸収を確認した。得られた樹脂は下記式で表される構造を有した。
【0068】
【化26】


ここでXは
【0069】
【化27】


Yは、
【0070】
【化28】


Zは、
【0071】
【化29】


である。
【0072】
また、テトラヒドロフランを溶媒とするゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)によりこの樹脂の重量平均分子量(ポリスチレン換算)を測定したところ、32000であった。石英ガラス基板上に膜厚100μmのフィルムを作成し、光線透過率を測定したところ、波長350nmから450nmまでの光線透過率が80%以上であった。
【0073】
[合成例4]
撹拌機、温度計及び窒素置換装置を備えたフラスコ内に、1,3,3a,4,5,9b−ヘキサヒドロ−5−(テトラヒドロ−2,5−ジオキソ−3−フラニル)−ナフト[1,2−c]フラン−1,3−ジオン30.0g(0.1モル)およびN,N−ジメチルアセトアミド250g、トルエン100gを仕込んだ。続いて、上記フラスコ内に2,2′−{2−ヒドロキシ−3−(3,5−ジメチル−4−アミノ)−ベンジル−5−メチル}−ジフェニルメタン12.6g(0.025モル)を添加し反応系の温度を50℃で3時間保持した。さらに下記組成式(10)で表されるジアミノシロキサン68.6g(0.075モル)を室温で滴下し、滴下終了後室温で12時間撹拌した。
【0074】
【化30】

【0075】
つぎに、該フラスコに水分受容器付き還流冷却器を取り付けた後、無水酢酸20.4gとピリジン26.4gを添加して50℃まで昇温してその温度を3時間保持した。
【0076】
得られた溶液を貧溶媒であるメタノール中に投じ樹脂を再沈殿させ、シロキサン量が68質量%のポリイミドシリコーン樹脂を得た。この樹脂の赤外吸光スペクトルを測定したところ、未反応の官能基があることを示すポリアミック酸に基づく吸収は現れず、1780cm-1および1720cm-1にイミド基に基づく吸収を確認した。得られた樹脂は下記構造を有した。
【0077】
【化31】


ここでXは、
【0078】
【化32】


Yは、
【0079】
【化33】


Zは、
【0080】
【化34】


である。
【0081】
また、テトラヒドロフランを溶媒とするゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)によりこの樹脂の重量平均分子量(ポリスチレン換算)を測定したところ、22000であった。石英ガラス基板上に膜厚100μmのフィルムを作成し、光線透過率を測定したところ、波長350nmから450nmまでの光線透過率が80%以上であった。
【0082】
[合成例5]
攪拌機、温度計及び窒素置換装置を備えたフラスコ内に、3,3′,4,4′−ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物59.7g(0.167モル)、及びシクロヘキサノン400gを仕込んだ。次いで、上記式(9)で表されるジアミノビニルシロキサン118.0g(0.133モル)、ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]スルホン14.4g(0.033モル)をシクロヘキサノン50gに溶解し、反応系の温度が50℃を超えないように調節しながら、上記フラスコ内に滴下した。滴下終了後、さらに室温で10時間攪拌した。
【0083】
つぎに、該フラスコに水分受容器付き還流冷却器を取り付けた後、無水酢酸40.8gとピリジン52.8gを添加して50℃まで昇温してその温度を3時間保持した。
【0084】
得られた溶液を貧溶媒であるメタノール中に投じて沈殿させ、得られた沈殿物を乾燥して、シロキサン量が61質量%のポリイミドシリコーン樹脂を得た。
【0085】
この樹脂の赤外吸収スペクトルを測定したところ、未反応の官能基があることを示すポリアミック酸に基づく吸収は現れず、1780cm-1及び1720cm-1にイミド基に基づく吸収を確認した。得られた樹脂は下記式で表される構造を有した。
【0086】
【化35】


ここでXは、
【0087】
【化36】


Yは、
【0088】
【化37】


Zは、
【0089】
【化38】


である。
【0090】
また、テトラヒドロフランを溶媒とするゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)によりこの樹脂の重量平均分子量(ポリスチレン換算)を測定したところ、31000であった。
【0091】
石英ガラス基板上に膜厚100μmのフィルムを作成し、光線透過率を測定したところ、波長350nmから450nmまでの光線透過率が80%未満であった。このフィルムの吸収スペクトルを図2に示す。
【0092】
[実施例1]
合成例1で合成したポリイミドシリコーン樹脂50g、イソボルニルアクリレート100g、2,2−ジメトキシ−2−フェニルアセトフェノン5gをフラスコ中で攪拌し、目的とするポリイミドシリコーン樹脂組成物を得た。この組成物の粘度は10Pa・sであった。このポリイミドシリコーン樹脂組成物をガラス板上に厚さ1mmとなるように塗布し、高圧水銀灯を用いてUV照射(積算光量1000mJ/m2)することにより硬化皮膜を得た。硬化皮膜の外観を目視により、密着性を碁盤目剥離試験によりそれぞれ評価した。この結果を表1に示す。なお、碁盤目剥離試験の方法は下記のとおりである。
【0093】
碁盤目剥離試験の方法
得られた硬化皮膜を80℃/95%RHの条件下、24時間曝露し、曝露前及び曝露後のガラス板との密着性を碁盤目剥離試験(JIS K5400)の方法で評価した。
【0094】
[実施例2]
合成例1で合成したポリイミドシリコーン樹脂50g、イソボルニルアクリレート50g、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン5gをフラスコ中で攪拌し、目的とするポリイミドシリコーン樹脂組成物を得た。この組成物の粘度は90Pa・sであった。実施例1と同様に、このポリイミドシリコーン樹脂組成物から、硬化皮膜を得、その外観及び密着性を評価した。
【0095】
[実施例3]
合成例2で合成したポリイミドシリコーン樹脂50g、イソボルニルアクリレート100g、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン5gをフラスコ中で攪拌し、目的とするポリイミドシリコーン樹脂組成物を得た。この組成物の粘度は8Pa・sであった。実施例1と同様に、このポリイミドシリコーン樹脂組成物から、硬化皮膜を得、その外観及び密着性を評価した。
【0096】
[実施例4]
合成例3で合成したポリイミドシリコーン樹脂50g、イソボルニルアクリレート50g、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン5gをフラスコ中で攪拌し、目的とするポリイミドシリコーン樹脂組成物を得た。この組成物の粘度は85Pa・sであった。実施例1と同様に、このポリイミドシリコーン樹脂組成物から、硬化皮膜を得、その外観及び密着性を評価した。
【0097】
[参考例1]
合成例4で合成したポリイミドシリコーン樹脂50g、イソボルニルアクリレート50g、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン5gをフラスコ中で攪拌し、目的とするポリイミドシリコーン系樹脂組成物を得た。この組成物の粘度は80Pa・sであった。実施例1と同様に、このポリイミドシリコーン樹脂組成物から、硬化皮膜を得、その外観及び密着性を評価した。
【0098】
[比較例1]
合成例5で合成したポリイミドシリコーン樹脂50g、イソボルニルアクリレート100g、2,2−ジメトキシ−2−フェニルアセトフェノン1gをフラスコ中で攪拌し、目的とするポリイミドシリコーン樹脂組成物を得た。この組成物の粘度は10Pa・sであった。実施例1と同様に、このポリイミドシリコーン樹脂組成物から硬化皮膜を得、その外観及び密着性を評価した。
【0099】
結果を表1に示す。
【0100】
【表1】

【0101】
参考例1の樹脂は、光重合成基を有さず、硬化皮膜は白濁した。比較例1の樹脂は、350nmから450nmまでの光線透過率が80%未満であり、光重合開始剤及び反応性希釈剤の光吸収を阻害したため、硬化不良を起こし、又得られた硬化皮膜は褐色であった。これらに対して、実施例1〜4の硬化皮膜は、いずれも無色透明であり、密着性も良好であった。
【産業上の利用可能性】
【0102】
本発明のポリイミドシリコーン樹脂組成物は、ポリイミドシリコーン樹脂が反応性希釈剤の光重合を妨げないことによって、光により容易に硬化して、無色透明の皮膜を与える。無溶剤であるので環境にも良く、電気電子機器、半導体チップ等の接着、コーティング材料等として好適である。
【図面の簡単な説明】
【0103】
【図1】合成例1で合成したイミドシリコーン樹脂の透過率スペクトルである。
【図2】合成例5で合成したイミドシリコーン樹脂の透過率スペクトルである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)下記一般式(1−1)及び(1−2)で表される繰り返し単位からなり、且つ、石英ガラス基板上に厚さ100μmのフィルムにして測定した、波長350nmから450nmの光線透過率が80%以上であるポリイミドシリコーン樹脂と、(b)反応性希釈剤と、(c)光重合開始剤とを含む、無溶剤型ポリイミドシリコーン樹脂組成物
【化1】


(式中、Xは四価の有機基であり、Yは二価の有機基であり、Zは下記組成式(2)で表される二価の有機基である)
【化2】


(式(2)中のR1は、互いに異なっていてよい、炭素数1から8の置換されていてよい一価の炭化水素基であり、R2は光重合性基を含む一価の炭化水素基であり、a及びbは、夫々、1以上100以下の整数であり、但し、a+b≦100である)。
【請求項2】
式(2)において、b/(a+b)が、0.05以上であることを特徴とする請求項1記載の無溶剤型ポリイミドシリコーン樹脂組成物。
【請求項3】
式(2)において、R2中の光重合性基がアルケニル基であることを特徴とする請求項1または2に記載の無溶剤型ポリイミドシリコーン樹脂組成物。
【請求項4】
式(1)中のXが、下記式(3)、(4)、(5)、(6)又は(7)で表される基から選ばれる少なくとも1種の有機基であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の無溶剤型ポリイミドシリコーン系樹脂組成物。
【化3】

【化4】

【化5】

【化6】

【化7】

【請求項5】
ポリイミドシリコーン樹脂中のZの割合が30質量%以上であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の無溶剤型ポリイミドシリコーン樹脂組成物。
【請求項6】
反応性希釈剤が(メタ)アクリル化合物であることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の無溶剤型ポリイミドシリコーン樹脂組成物。
【請求項7】
光重合開始剤が、アセトフェノン誘導体、ベンゾフェノン誘導体、ベンゾインエーテル誘導体、キサントン誘導体から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項記載の無溶剤型ポリイミドシリコーン樹脂組成物。
【請求項8】
ポリイミドシリコーン樹脂100質量部に対し、反応性希釈剤が20〜2000質量部で、光重合開始剤が1〜200質量部で、夫々含まれることを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項記載の無溶剤型ポリイミドシリコーン樹脂組成物。
【請求項9】
25℃において流動性を持つことを特徴とする請求項1〜8のいずれか1項記載の無溶剤型ポリイミドシリコーン樹脂組成物。
【請求項10】
25℃における粘度が、10000Pa・s以下であることを特徴とする請求項1〜9のいずれか1項記載の無溶剤型ポリイミドシリコーン系樹脂組成物。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれか1項記載の無溶剤型ポリイミドシリコーン系樹脂組成物を、光硬化させてなる樹脂皮膜。
【請求項12】
請求項11に記載の樹脂皮膜が施与された電子部品。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−104447(P2006−104447A)
【公開日】平成18年4月20日(2006.4.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−234548(P2005−234548)
【出願日】平成17年8月12日(2005.8.12)
【出願人】(000002060)信越化学工業株式会社 (3,361)
【Fターム(参考)】