説明

無線通信デバイス、受動素子の製造方法、及び無線通信機器

【課題】高周波回路のワンチップ化を実現し、上層回路と下層回路との間におけるアイソレーション特性を向上し、かつ量産性の高い無線通信デバイスを提供する。
【解決手段】RFICと、キャパシタ32と、インダクタ24とが積層配置され、キャパシタ32の少なくとも一部がRFICとインダクタ24との間に位置するようにして前記RFICに対して積層して実装される受動素子チップ12と、を備えることを特徴とする。このような特徴を有する無線通信デバイスでは、受動素子チップ12は、キャパシタ32の上部電極26を構成する金属パターンとインダクタ24を構成する金属パターンとを横並びに備え、キャパシタ32の下部電極を構成する下層金属パターン18をインダクタ24を構成する金属パターンの下部にまで延設して構成すると良い。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無線通信デバイス、および無線通信機器に係り、特に受動素子を実装した無線通信デバイス、この無線通信デバイスを構成する受動素子の製造方法、および無線通信機器に関する。
【背景技術】
【0002】
無線通信に用いられる高周波回路には、インピーダンス整合(マッチング)用に、単体乃至複数の受動素子が接続されることが一般的である。
従来、このような受動素子は、図11に示すように、無線通信デバイス1を構成するRFIC(Radio Frequency Integrated Circuit)2とアンテナ4とを電気的に接続する配線パターン中に設けられていた。しかし、このような構成では、回路に用いる受動素子3の数が増えるほど、実装基板5に実装するチップの数が増えることとなってしまうといった問題があった。このような問題は特に、インダクタ素子がトロイダルに形成される空芯コイルで構成されるために小型化に不向きであるといった事に起因していた。
【0003】
これに対し、特許文献1や2には、スパイラル状に平面形成可能なインダクタが開示されている。特許文献1、2では、平面形成を可能とした受動素子を、RFICなどの半導体素子上に直接形成、あるいはW−CSP(Wafer level Chip Scale Package)として半導体素子上に実装し、受動素子を含んだ高周波回路をワンチップ化し、その実装面積を飛躍的に縮小している。
【0004】
上記特許文献1や2に開示されている技術によれば、確かに高周波回路としての実装面積を縮小し、無線通信デバイス、あるいはそれを搭載する無線通信機器の小型化を図ることが可能となる。このような構成の技術では、半導体素子上に直接、あるいはチップとして受動素子(特許文献1、2では特にインダクタ)が平面的に形成されるため上層に形成される回路と下層に形成される回路との間におけるアイソレーション特性が低く、次のような問題が生ずる虞がある。
【0005】
すなわち、受動素子であるインダクタに電流が印加されると、インダクタを構成するスパイラル状のパターンと交差する方向に磁界が作用する。このため、半導体素子内に形成された内部配線や回路に対し、磁界が影響を及ぼす可能性があるというものである。
【0006】
このような問題に対しては、特許文献3に開示されているような無線通信デバイスが知られている。特許文献3に開示されている無線通信デバイスは、下層回路を構成する半導体素子等と、上層回路を構成するインダクタやキャパシタ等の受動素子との間に、網目状の金属パターンを配置したものである。
【0007】
このような構成の無線通信デバイスによれば、上層回路と下層回路との間におけるアイソレーション特性が向上し、半導体素子内の配線や回路に対するインダクタによる磁界の影響を抑制することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2005−347723号公報
【特許文献2】特開2008−159654号公報
【特許文献3】特開2003−51543号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記特許文献3に開示されているような無線通信デバイスによれば、マッチング用の受動素子を含む高周波回路のワンチップ化を実現すると共に、上層回路と下層回路間におけるアイソレーション特性の向上も図ることができる。
【0010】
しかし、特許文献3に開示されているような構成の無線通信デバイスでは、アイソレーション特性の向上と引き換えに、網目状の金属パターンを形成するための工程を増やす必要があり、特許文献2や3に開示されている無線通信デバイスに比べて量産性が低下してしまうといった問題が生ずる。
【0011】
そこで本発明では、マッチング用の受動素子を含む高周波回路のワンチップ化を実現すると共に、上層回路と下層回路との間におけるアイソレーション特性を向上し、かつ量産性の高い無線通信デバイス、受動素子の製造方法、および無線通信機器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、上記課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の形態又は適用例として実現することが可能である。
【0013】
[適用例1]高周波回路を構成する集積回路と、キャパシタ及びインダクタを有し、インダクタとが積層配置され、前記キャパシタの少なくとも一部が前記集積回路と前記インダクタとの間に位置するようにして前記集積回路に対して積層して実装される受動素子チップと、を備えることを特徴とする無線通信デバイス。
このような特徴を有する無線通信デバイスによれば、マッチング用の受動素子を含む高周波回路のワンチップ化を実現することができる。また、上層に配置された受動素子チップのインダクタと下層に配置された集積回路との間にキャパシタの少なくとも一部が介在されるため、インダクタから生ずる磁界をキャパシタを構成する金属パターンで遮蔽することができ、アイソレーション特性を向上することができる。また、受動素子チップを構成する要素(インダクタとキャパシタ)以外を含まずに前記効果を得ることができるため、余分な要素を形成するための工程が増える事が無く、量産性を高く維持することができる。
【0014】
[適用例2]適用例1に記載の無線通信デバイスであって、前記受動素子チップは、前記キャパシタの上部電極を構成する金属パターンと前記インダクタを構成する金属パターンとを横並びに備え、前記キャパシタの下部電極を構成する金属パターンを前記インダクタを構成する金属パターンの下部にまで延設したことを特徴とする無線通信デバイス。
このような構成とすることによれば、インダクタから生ずる磁界を遮蔽する金属パターンを、キャパシタの下部電極を形成する工程で同時に形成することが可能となる。よって、磁界を遮蔽するためのパターンを形成するためだけの層およびその層を形成する工程が不要となる。このため、低背化を図ることができると共に、工程数の削減による量産性の向上を図ることができる。
【0015】
[適用例3]適用例2に記載の無線通信デバイスであって、前記キャパシタの下部電極を構成する金属パターンのうち、前記上部電極を構成する金属パターンの下部に位置する部分と前記インダクタを構成する金属パターンの下部に位置する部分とを接続する金属パターンに切れ込みを設けたことを特徴とする無線通信デバイス。
このような構成とした場合であっても、上記適用例2と同様な効果を得ることができる。
【0016】
[適用例4]適用例2又は3に記載の無線通信デバイスであって、前記キャパシタの下部電極を構成する金属パターンのうちの前記インダクタを構成する金属パターンの下部に位置する金属パターンを網目状に形成したことを特徴とする無線通信デバイス。
このような構成とした場合には、上記適用例2と同様な効果を得ることができると共に、インダクタの下部に位置する金属パターンの面積が減ることとなるため、寄生容量の増加を抑制することができる。
【0017】
[適用例5]素子基板上に第1絶縁層を形成する第1絶縁層形成工程と、前記第1絶縁層の上面に、キャパシタの下部電極を構成する下層金属パターンを形成する下層金属パターン形成工程と、前記下層金属パターンの上面に、第2絶縁層を形成する第2絶縁層形成工程と、前記第2絶縁層の上面であって前記下層金属パターンに重なる位置に、前記キャパシタの上部電極とインダクタを構成する上層金属パターンを形成する上層金属パターン形成工程と、を有する受動素子の製造方法。
このような特徴を有する受動素子の製造方法によれば、工程数を増やす事無くインダクタからの磁界を遮蔽することのできる受動素子を製造することが可能となる。
【0018】
[適用例6]適用例1乃至4のいずれか1例に記載の無線通信デバイスを搭載したことを特徴とする無線通信機器。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】実施形態に係る無線通信デバイスを構成する受動素子チップの構成を示す分解斜視図である。
【図2】実施形態に係る無線通信デバイスの構成を示す側面断面図である。
【図3】実施形態に係る無線通信デバイスの主要部の構成を示す平面図である。
【図4】実施形態に係る無線通信デバイスを構成する受動素子チップの正面断面図である。
【図5】実施形態に係る無線通信デバイスの製造工程を示すフローである。
【図6】実施形態に係る無線通信デバイスの第1変形例に係る受動素子チップを構成する上層金属パターンと下層金属パターンの構成を示す図である。
【図7】実施形態に係る無線通信デバイスの第2変形例に係る受動素子チップを構成する上層金属パターンと下層金属パターンの構成を示す図である。
【図8】実施形態に係る無線通信デバイスの第3変形例に係る受動素子チップを構成する上層金属パターンと下層金属パターンの構成を示す図である。
【図9】実施形態に係る無線通信デバイスの第4変形例に係る受動素子チップの正面断面を示す図である。
【図10】実施形態に係る無線通信デバイスを搭載した無線通信機器の一例としてのインクジェットプリンターの構成を示すブロック図である。
【図11】従来の無線通信デバイスの構成を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の無線通信デバイス、及び無線通信機器に係る実施の形態について、図面を参照しつつ詳細に説明する。
本実施形態では、無線通信デバイスとして、高周波回路を構成するRFICと、このRFICと図示しないアンテナ間におけるインピーダンス整合用の受動素子を備えた素子を例に挙げ、図1〜図4を参照して説明する。なお、図1は、無線通信デバイスを構成する受動体素子チップの構成を示す分解斜視図である。また、図2は、無線通信デバイスの構成を示す側面断面図である。図3は、無線通信デバイスの主要部の平面構成を示す図である。図4は、無線通信デバイスを構成する受動素子チップの構成を示す正面断面図である。
本実施形態に係る無線通信デバイス10は、RFIC40と受動素子チップ12、リードフレーム44、およびモールド層60を基本として構成される。
【0021】
RFIC40は、半導体層に形成された高周波用の集積回路素子である。受動素子チップ12は、RFIC40のインピーダンスマッチングに用いられるインダクタ24とキャパシタ32との双方を備えた素子チップである。なお、本実施形態に係る受動素子チップ12は、その平面サイズ(ダイサイズ)をRFIC40の能動面の平面サイズよりも一回り小さく構成することで、RFIC40の能動面に搭載することを可能とした。以下、受動素子チップ12の具体的な構成について説明する。
【0022】
受動素子チップ12は、素子基板14とキャパシタ32、およびインダクタ24を基本として構成される。素子基板14は、Siやガラス、石英、および水晶などの半導体や絶縁体で構成されたベアな材料であると良い。なお、素子基板14を半導体で構成することによれば、詳細を後述するインダクタ24から生ずる磁界を遮蔽するシールド効果を得ることができ、RFIC40との間におけるアイソレーション特性を向上させることができる。
【0023】
キャパシタ32、およびインダクタ24は、上述した素子基板14の一方の主面に積層形成された第1絶縁層16と下層金属パターン18、第2絶縁層20、および上層金属パターン30により構成される。
第1絶縁層16は、素子基板14の一方の主面に設けられる。第1絶縁層16は、ポリイミド系の樹脂などにより構成された絶縁膜である。
【0024】
下層金属パターン18は、第1絶縁層16の上面に設けられる。下層金属パターン18は、例えば、シード層、配線層、およびメッキ層から構成される。なお、図面には、説明を簡単化するために、下層金属パターン18を1つの層で示している。また、各層はCu、Au、Ag、Ti、W、Ni、およびTi−W、Ti−N等のチタン系合金等の導電性材料の単体又は複合材料により構成される。一例として、シード層をTi−W、配線層をCu、メッキ層をCuにより構成するものを挙げることができる。
【0025】
下層金属パターン18は、基本的にはキャパシタ32の下部電極を構成する金属パターンであるが、詳細を後述する上層金属パターン30により構成されるインダクタ24の下部にまで延設されているベタなパターンである。このような構成とすることで、延設された金属パターンは、インダクタ24から生ずる磁界を遮蔽するシールド効果を持つこととなる。このため、受動素子チップ12をRFIC40の能動面に搭載した場合であっても、RFIC40との間におけるアイソレーション特性を向上させることができる。
【0026】
第2絶縁層20は、下層金属パターン18の上面に設けられる。第2絶縁層20は第1絶縁層16と同様に、ポリイミドなどの樹脂により構成された絶縁膜であり、詳細を後述する上層金属パターン30により構成されるキャパシタ32の上部電極26やインダクタ24と、上述した下層金属パターン18との短絡を防止する役割を果たす。
【0027】
上層金属パターン30は、第2絶縁層20の上面に設けられる。上層金属パターン30も、上述した下層金属パターン18と同様に、シード層、配線層、およびメッキ層から構成すると良い(図面中では1層で上層金属パターン30を示す)。また、上層金属パターン30を構成する材料も、下層金属パターン18と同様で良く、Cu、Au、Ag、Ti、W、Ni、およびTi−W、Ti−N等のチタン系合金等の導電性材料の単体又は複合材料により構成すれば良い。一例として、シード層をTi−W、配線層をCu、メッキ層をCuにより構成するものを挙げることができる。
【0028】
上層金属パターン30は、キャパシタ32の上部電極26とインダクタ24を構成する。また、本実施形態においては、上層金属パターン30により、キャパシタ32の下部電極を構成する下部電極に接続される端子28が形成される。キャパシタ32の上部電極26を構成する上層金属パターン30は、ベタなパターンである。一方、インダクタ24を構成する上層金属パターン30は、平面形態をスパイラル状としたパターンである。インダクタ24を構成するスパイラル状の金属パターンの両端部には、信号の入出力のための端子25a,25bが設けられる。また、キャパシタ32の下部電極を構成する下層金属パターン18の端子48aは、スルーホール22などを介して下層金属パターン18と電気的に接続されている。
【0029】
上層金属パターン30の上面には、保護膜としての第3絶縁層34が設けられる。第3絶縁層34も、第1、第2絶縁層16,20と同様にポリイミドなどの樹脂で構成することができる。第3絶縁層34には、上層金属パターン30の一部を露出させる複数の開口部36が設けられている。開口部36は、インダクタ24の端子25a,25bに該当する部位や、キャパシタ32の下部電極に接続された端子28に相当する部位、およびキャパシタ32の上部電極26の一部を露出させる部位に設けられる。
【0030】
リードフレーム44は、受動素子チップ12を実装するRFIC40を支持するフレーム兼外部電極としての役割を担う金属プレートである。リードフレーム44は、ベース46とリード電極48とより成る。ベース46は、上述したRFIC40を搭載するための台座である。リード電極48は、一方の端部48aを詳細を後述するモールド層60の内部に配置してRFIC40や受動素子チップ12と電気的導通を図り、他方の端部48bをモールド層60の外部へ突設させることで、外部電極としての役割を担うプレートである。なお、リード電極48における外部突出部分は、モールド層60形成後に所望する形態へと折り曲げ形成される。
【0031】
モールド層60は、上述したRFIC40や受動素子チップ12、およびリードフレーム44におけるベース46やリード電極48の一部を覆う保護層である。モールド層60は、絶縁性の樹脂により構成すれば良く、例えばエポキシ系樹脂などで形成すれば良い。
【0032】
このような基本構成を有する無線通信デバイス10では、RFIC40の能動面に形成されたパッド42と受動素子チップ12の上面に形成された端子25a,25b,28、キャパシタ32の上部電極26およびリード電極48の一方の端部48aとは、それぞれ必要に応じてワイヤ50を介して電気的に接続されている。
【0033】
このような構成を有する無線通信デバイス10によれば、インダクタ24やキャパシタ32といったインピーダンスマッチング用の受動素子を含む高周波回路をワンチップ化することができる。また、RFIC40の上層に配置したインダクタ24から生ずる磁界をインダクタ24とRFIC40との間に配置したキャパシタ32の下部電極を構成する下層金属パターン18により遮蔽するため、RFIC40とインダクタ24との間のアイソレーション特性を向上させることができる。さらに、インダクタ24から生ずる磁界を遮蔽する金属パターンは、キャパシタ32の下部電極を構成する金属パターンと同じ層に同一パターンとして形成されるため、従来の積層型の受動素子に比べ、工程数を減らすことができ、量産性の向上を図ることができる。
【0034】
次に、本実施形態に係る無線通信デバイスの製造方法について図5を参照して説明する。
まず、受動素子チップ12の製造工程について説明する。最初に、素子基板14上にパッシベーション膜としての第1絶縁層16を形成する。第1絶縁層16の形成は、スピンオフやスクリーン印刷、インクジェット方式などにより樹脂膜を形成すれば良い(ステップ1:第1絶縁層形成工程)。次に、第1絶縁層16の上面に下層金属パターン18を形成する。下層金属パターン18の形成は、フォトリソグラフィの方式を利用したマスクの形成と、このマスクを利用したエッチングによる金属パターンの形状形成を行うようにすれば良い(ステップ2:下層金属パターン形成工程)。
【0035】
次に、下層金属パターン18の上面に第2絶縁層20を形成する。第2絶縁層20の形成も、上述した第1絶縁層16の形成と同様に、スピンオフやスクリーン印刷、およびインクジェットなどの手法を用いれば良い。ここで、下層金属パターン18は、上層金属パターン30に形成する端子28(キャパシタ32における下部電極用端子)との間で電気的導通を図る必要がある。このため、第2絶縁層20には、端子28の下部に相当する位置に開口部を設け、導電性部材を充填したスルーホール22を形成する(ステップ3:第2絶縁層形成工程)。
【0036】
第2絶縁層20の上面には、上層金属パターン30により、スパイラル状のインダクタ24と、キャパシタ32を構成する上部電極26、及び端子28を形成する。その手順としてはまず、第2絶縁層20の上面全面に金属パターンを形成する。次に、金属パターンをレジスト膜で被覆し、フォトリソグラフィの方式を利用して、レジスト膜の形状形成を行い、所望する形状のマスクを得る。レジスト膜によるマスクの形成終了後、マスクを利用して金属パターンをエッチングし、インダクタ24と上部電極26、及びキャパシタ32の下部電極用の端子28の形状を得る(ステップ4:上層金属パターン形成工程)。
【0037】
上層金属パターン30により形成したインダクタ24と上部電極26、及び端子28の上面に保護膜としての第3絶縁層34を形成する。第3絶縁層34の形成も、第1、第2絶縁層16,20の形成と同様な手法を用いれば良い。第3絶縁層34では、インダクタ24、及びキャパシタ32と外部との電気的導通が図れるように、インダクタ24を構成する端子25a,25b、およびキャパシタ32の上部電極26の一部、並びにキャパシタ32の下部電極(下層金属パターン18)に接続された端子28を露出させるための開口部36を形成する(ステップ5:第3絶縁層形成工程)。このような方法により受動素子チップ12を製造することで、工程数を増やすことなくインダクタ24から素子基板14側へ向かって生ずる磁界を遮蔽することのできる受動素子チップ12を製造することができる。
【0038】
次に、第3絶縁層34の形成を終えて完成した受動素子チップ12を、高周波回路が形成されたIC(RFIC40)に搭載する。RFIC40に対する受動素子チップ12の搭載には、接着剤(不図示)を用いる。なお、接着面が非能動面であることより、ここで用いる接着剤は、導電性のものであっても、非導電性のものであっても良い(ステップ6:受動素子チップ搭載工程)。
【0039】
次に、受動素子チップ12を搭載したRFIC40を、リードフレーム44におけるベース46に搭載する。ベース46に対するRFIC40の搭載も、RFIC40に対する受動素子チップ12の搭載と同様に、接着剤(不図示)により行う。ここでの接着面も非能動面であることより、接着剤の性質は、導電性であっても、非導電性であっても良い(ステップ7:RFIC搭載工程)。
【0040】
受動素子チップ12を搭載したRFIC40をリードフレーム44に搭載した後、受動素子チップ12の端子25a,25b,28や上部電極26の一部とRFIC40のパッド42、およびリードフレーム44のリード電極48間における電気的接続を行う。電気的接続は、端子25a,25b,28、上部電極26、パッド42、およびリード電極48の一方の端部48aを適宜金属のワイヤ50により接続することで行う(ステップ8:ボンディング工程)。
【0041】
ボンディング工程終了後、リードフレーム44を型枠に挟み込み、ベース46、RFIC40、受動素子チップ12、リード電極48の一方の端部48a、およびワイヤ50を樹脂により被覆し、モールド層60を形成する(ステップ9:モールド工程)。モールド工程の後、リードフレーム44を個別に切断し、モールド層60から突出しているリード電極48を所望する形状に屈曲形成することで、無線通信デバイス10が完成する(ステップ10:個片化工程)。
【0042】
次に、本実施形態に係る無線通信デバイスの変形例について説明する。まず、図6を参照して、第1の変形例について説明する。図6は、第1の変形例に係る無線通信デバイスを構成する受動素子チップの上層金属パターン30と下層金属パターン18aの形態を示す図である。図6を参照すると判るように、上層金属パターン30の形態は、インダクタ24、キャパシタ32の上部電極26、および端子28を備え、上述した基本形態と同様である。これに対し、下層金属パターン18aは、キャパシタ32の下部電極を構成する領域18a1と、インダクタ24の下部に位置する領域18a2との間に切れ込み19を設けた点が相違する。下層金属パターン18aをこのような形態とした場合であっても、キャパシタ32の下部電極を構成する領域18a1とインダクタ24の下部に位置する領域18a2とが一部で接続されているため、1枚の金属膜とみなすことができる。また、下層金属パターン18aをこのような形態とした場合であっても、上記基本形態と同様な作用、効果を得ることができる。
【0043】
次に、図7を参照して、第2の変形例について説明する。図7は、第2の変形例に係る無線通信デバイスを構成する受動素子チップの上層金属パターン30と下層金属パターン18bの形態を示す図である。本変形例においても上述した第1の変形例と同様に、上層金属パターン30については上記基本形態と同様である。これに対し下層金属パターン18bは、インダクタ24の下部に位置する領域18b2を網目状に形成している。ここで、網目を構成する金属パターンの線幅は、1〜10μm、各線の間隔は10〜100μm程度とすると良い。このような構成とすることによっても、無線通信の信号に起因してインダクタ24から生ずる磁界を遮蔽する効果を得ることができる。また、このような構成とすることによれば、インダクタ24の下部に位置する領域18b2の金属パターンの面積の割合を減らすことができる。このため、キャパシタ32の下部電極を構成する領域18b1の面積を確保しつつ、磁界遮蔽部分においては寄生容量の増加を抑制することができる。また、その他の作用、効果については、上記基本形態と同様な作用、効果を得ることができる。
【0044】
次に、図8を参照して、第3の変形例について説明する。図8は、第3の変形例に係る無線通信デバイスを構成する受動素子チップの上層金属パターン30aと下層金属パターン18の形態を示す図である。本変形例では、上記第1、第2の変形例とは異なり、下層金属パターン18は基本形態と同様なベタなパターンとし、上層金属パターン30aを異なる形態とした。具体的には、上層金属パターン30aに形成するインダクタ24やキャパシタ32の上部電極26をそれぞれ複数(実質的には電気的に接続されているため1つとみなされる)の金属パターンで形成している。具体的には、インダクタ24は、金属パターン24aと金属パターン25bにより構成している。また、上部電極26は、金属パターン26aと金属パターン26bにより構成している。このような上層金属パターン30aをこのような形態とした場合であっても、上記基本形態と同様な作用、効果を得ることができる。
【0045】
さらに、図9を参照して、第4の変形例について説明する。図9は、第4の変形例を構成する受動素子チップ12aの正面断面構造を示す図である。上記基本形態では、インダクタ24とキャパシタ32の上部電極26とを同一層の金属パターン(上層金属パターン30)により並列(横並び)に配置し、下層金属パターン18によりキャパシタ32の下部電極とインダクタ24の磁界遮蔽部を形成していた。これに対し本変形例では、素子基板14の一方の面に第1絶縁層16を形成し、その上面にキャパシタ32の下部電極となる下層金属パターン18cを形成している。そして、下層金属パターン18cの上面には第2絶縁層20を形成し、その上面にキャパシタ32の上部電極となる中層金属パターン21を形成している。さらに中層金属パターン21の上面に第3絶縁層34aを形成し、その上面にインダクタを構成する上層金属パターン30bを形成し、これを覆う保護膜としての第4絶縁層37を有する。
【0046】
このように本変形例では、金属パターンを1層増やすことで、インダクタ(インダクタを構成する上層金属パターン30bと素子基板14との間にキャパシタ32の上部電極を構成する中層金属パターン21と下部電極を構成する下層金属パターン18cの双方を設ける構成としている。このような構成とすることによれば、インダクタと素子基板14との間に配置される金属パターンの層が増えることとなり、インダクタから生ずる磁界の遮蔽効果を高めることができる。また、横並びに配置していたインダクタとキャパシタとを積層配置することで、受動素子チップのダイサイズを縮小することができる。
【0047】
次に、上記のような構成を備えた無線通信デバイスを搭載した無線通信機器について、図10を参照して説明する。図10に示す例は、インクジェットプリンター100の制御系の構成を示すブロック図である。
インクジェットプリンター100は、公知のマイコン制御回路からなる記録制御部110を備えており、この記録制御部110により制御される。記録制御部110は、システムバスで接続されたROM114、RAM112、ASIC(特定用途向け集積回路)118、CPU120、および不揮発性メモリー116等のシステムデバイスを備えている。また、記録制御部110は、制御デバイスとして、ヘッドドライバー122、CRモータードライバー124、およびPFモータードライバー126を備えている。
【0048】
ROM114には、CPU120によるインクジェットプリンター100の制御に必要な記録制御プログラム(ファームウェア)等が格納されている。RAM112は、CPU120の作業領域や記録データ等の格納領域として用いられる。CPU120は、インクジェットプリンター100の記録制御を実行するための演算処理やその他の必要な演算処理を行う。また、不揮発性メモリー116には、記録制御プログラムの処理に必要な各種データ等が記憶されている。
【0049】
ASIC118は、各ドライバーを介して記録ヘッド132、CRモーター134、PFモーター136を駆動制御する。記録ヘッド132は、記録紙にインクを噴射してドットを形成する部位であり、CRモーター134は、記録ヘッド132を移動させるキャリッジ(不図示)を駆動させるモーターである。また、PFモーター136は、記録紙を搬送するためのローラー(不図示)を駆動させるモーターである。
【0050】
さらに、インクジェットプリンター100は、ハードディスクドライブ128と無線通信モジュール130を備えている。ハードディスクドライブ128は、主に画像データを保存するための外部記憶装置であり、ASIC118が備えるドライブ制御回路により制御される。無線通信モジュール130は、本発明に係る無線通信デバイス10を含むモジュールであり、ASIC118が備える通信制御回路により制御され、画像データの取得や出力を成す。
【符号の説明】
【0051】
10………無線通信デバイス、12………受動素子チップ、14………素子基板、16………第1絶縁層、18………下層金属パターン、20………第2絶縁層、22………スルーホール、24………インダクタ、26………上部電極、28………端子、30………上層金属パターン、32………キャパシタ、34………第3絶縁層、36………開口部、40………RFIC、42………パッド、44………リードフレーム、46………ベース、48………リード電極、60………モールド層、100………インクジェットプリンター。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
高周波回路を構成する集積回路と、
キャパシタ及びインダクタを有し、インダクタとが積層配置され、前記キャパシタの少なくとも一部が前記集積回路と前記インダクタとの間に位置するようにして前記集積回路に対して積層して実装される受動素子チップと、を備えることを特徴とする無線通信デバイス。
【請求項2】
請求項1に記載の無線通信デバイスであって、
前記受動素子チップは、前記キャパシタの上部電極を構成する金属パターンと前記インダクタを構成する金属パターンとを横並びに備え、前記キャパシタの下部電極を構成する金属パターンを前記インダクタを構成する金属パターンの下部にまで延設したことを特徴とする無線通信デバイス。
【請求項3】
請求項2に記載の無線通信デバイスであって、
前記キャパシタの下部電極を構成する金属パターンのうち、前記上部電極を構成する金属パターンの下部に位置する部分と前記インダクタを構成する金属パターンの下部に位置する部分とを接続する金属パターンに切れ込みを設けたことを特徴とする無線通信デバイス。
【請求項4】
請求項2又は3に記載の無線通信デバイスであって、
前記キャパシタの下部電極を構成する金属パターンのうちの前記インダクタを構成する金属パターンの下部に位置する金属パターンを網目状に形成したことを特徴とする無線通信デバイス。
【請求項5】
素子基板上に第1絶縁層を形成する第1絶縁層形成工程と、
前記第1絶縁層の上面に、キャパシタの下部電極を構成する下層金属パターンを形成する下層金属パターン形成工程と、
前記下層金属パターンの上面に、第2絶縁層を形成する第2絶縁層形成工程と、
前記第2絶縁層の上面であって前記下層金属パターンに重なる位置に、前記キャパシタの上部電極とインダクタを構成する上層金属パターンを形成する上層金属パターン形成工程と、
を有する受動素子の製造方法。
【請求項6】
請求項1乃至4のいずれか1項に記載の無線通信デバイスを搭載したことを特徴とする無線通信機器。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2012−195870(P2012−195870A)
【公開日】平成24年10月11日(2012.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−59796(P2011−59796)
【出願日】平成23年3月17日(2011.3.17)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】