無線通信装置
【課題】確実にチャープレーダを検出することのできる無線通信装置を提供する。
【解決手段】無線通信装置は、無線信号を受信して受信信号を生成する受信部と、受信信号の位相を計算する位相計算器31と、計算された位相の時間変化から受信信号の周波数を検出すると共に、検出された周波数の時間変化を算出する周波数時間変化計算部32と、算出された周波数の時間変化から受信信号がチャープレーダ信号であるかどうかを判定するチャープレーダ判定部33とを備える。
【解決手段】無線通信装置は、無線信号を受信して受信信号を生成する受信部と、受信信号の位相を計算する位相計算器31と、計算された位相の時間変化から受信信号の周波数を検出すると共に、検出された周波数の時間変化を算出する周波数時間変化計算部32と、算出された周波数の時間変化から受信信号がチャープレーダ信号であるかどうかを判定するチャープレーダ判定部33とを備える。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無線通信装置に関し、特に使用周波数帯域をレーダシステムと共有している無線通信システムに用いられる無線通信装置に関する。
【背景技術】
【0002】
5GHz帯を使用した無線LAN通信規格IEEE802.11a/nは、その使用周波数帯域を気象レーダ、地形レーダ等のレーダシステムと共有している。そのため、無線通信システムの送受信機は、レーダ電波の到来を監視し、レーダ電波を検出した場合には、そのレーダ電波の周波数帯域を一定時間使用しないことが要求される。5GHz帯で使用されているレーダ電波は、パルスレーダとチャープレーダに分けられる。パルスレーダは通常、無線通信フレームよりも時間的に短いため、到来した電波の電力を時間的に監視していればパルスレーダ電波と判定できる。しかし、チャープレーダは無線通信フレームと時間的に同程度の長さであるため、到来した電波の電力のみを監視していてもレーダ電波と特定できず、波形を解析する必要がある。
【0003】
従来は、到来した電波をIEEE802.11a/nパケット用の復調機に入力し、フレーム先頭部が復調できなかった場合にチャープレーダとみなしていた。あるいは、既知の他の無線通信システム(HiperLAN等)の波形が分かっているときは、受信電波波形とその既知波形との相関値を求めて、他の無線通信システムの電波ではないことを確認してからチャープレーダとみなしていた。しかし、このような消去法的な検出方法では、伝送路歪みにより無線通信システムのフレームが大幅に劣化したような信号を受信した場合や、自分にとっては未知である新しい無線通信規格のフレーム(例えばIEEE802.11a無線機にとってのIEEE802.11n GreenFieldパケット)を受信した場合等に、チャープレーダと誤認識してしまう可能性がある。このような誤認識の無い検出を実行するためには、チャープレーダの特徴である周波数時間変化を検出する必要がある。
【0004】
特許文献1は、レーダ波形のゼロクロス回数を一定期間カウントすることにより周波数を推定し、連続した3つの期間でそれぞれ周波数を推定した後に周波数変化が線形であることを確認してチャープレーダを判定するシステムを開示している。しかし、特許文献1に記載のシステムでは、推定結果のうち1つでも誤差の大きい推定結果となった際に間違った判定を下すおそれがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−166611号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、確実にチャープレーダを検出することのできる無線通信装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様に係る無線通信装置は、無線信号を受信して受信信号を生成する受信部と、前記受信信号の位相を計算する位相計算器と、前記計算された位相の時間変化から前記受信信号の周波数を検出すると共に、前記検出された周波数の時間変化を算出する周波数時間変化計算部と、前記算出された周波数の時間変化から前記受信信号がチャープレーダ信号であるかどうかを判定するチャープレーダ判定部とを備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、確実にチャープレーダを検出することのできる無線通信装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】チャープレーダの波形、時間と電力との関係、及び時間と周波数との関係を表す図である。
【図2】第1の実施の形態に係る無線通信装置の構成を示すブロック図である。
【図3】第1の実施の形態に係る無線通信装置のチャープレーダ検出回路の構成を示すブロック図である。
【図4】第1の実施の形態に係る無線通信装置のチャープレーダ検出回路の構成を示すブロック図である。
【図5】第1の実施の形態に係る無線通信装置のチャープレーダ検出回路の動作を示すフローチャートである。
【図6】第2の実施の形態に係る無線通信装置のチャープレーダ判定部の構成を示すブロック図である。
【図7】第2の実施の形態に係る無線通信装置がチャープレーダを受信した時の周波数時間変化のヒストグラムである。
【図8】第2の実施の形態に係る無線通信装置が単一周波数波形の電波を受信した時の周波数時間変化のヒストグラムである。
【図9】第2の実施の形態に係る無線通信装置がノイズ又はOFDMフレームを受信した時の周波数時間変化のヒストグラムである。
【図10】無線通信装置のチャープレーダ検出回路の他の構成例を示すブロック図である。
【図11】無線通信装置のチャープレーダ検出回路の他の構成例を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
次に、本発明の実施の形態を、図面を参照して詳細に説明する。なお、以下の実施の形態における図面の記載では、同一の構成を有する箇所には同一の符号を付して、重複する説明を省略する。
【0011】
(第1の実施の形態)
本実施の形態に係る無線通信装置についての説明に先立ち、まず無線通信装置が検出するチャープレーダについて説明する。図1はチャープレーダを説明するための図である。図1の上部には、チャープレーダ波形が示されている。また、図1には、このチャープレーダ波形と対応して、チャープレーダの電力の時間変化グラフと、周波数の時間変化グラフとが示されている。
【0012】
図1に示すように、周波数が常に時間変化している波形をチャープ波形という。チャープレーダの電力が存在している時間の長さを時間幅Tという。また、波形開始時の周波数と波形終了時の周波数の差をチャープ幅Fcといい、周波数の単位で表される。チャープ波形のうち、周波数が時間とともに線形に変化するものを線形チャープという。通常、チャープレーダは線形チャープである。チャープレーダの波形は、数式では以下の数1のように表される。
【数1】
【0013】
ここで、A0はチャープ波形の振幅であり、Fcはチャープ幅であり、Tは時間幅であり、f0は中心周波数である。また、tは時間である。この波形の位相φ[rad]、及び周波数f[MHz]は、それぞれ時間t[μs]の変数であり、以下の数2のように表される。
【数2】
【0014】
またチャープ波形の周波数の時間変化は、以下の数3のように表される。
【数3】
【0015】
この値は、時間tに依らない一定値である。すなわち、チャープレーダの周波数は、時間とともに線形に変化している。本実施の形態に係る無線通信装置は、このような波形のチャープレーダを検出する。
【0016】
[第1の実施の形態に係る無線通信装置の構成]
以下、本発明の第1の実施の形態に係る無線通信装置の構成について、図2を参照して説明する。図2は、本実施の形態に係る無線通信装置の構成を示すブロック図である。図2は、無線通信装置の受信部の構成を示している。
【0017】
無線通信装置の受信部は、アンテナ20、高周波回路21、アナログ・デジタル変換器22、復調部23、チャープレーダ検出回路24、及び周波数帯域選択部25を備える。
【0018】
アンテナ20から受信された電波は、高周波回路21で無線周波数からベースバンド周波数にダウンコンバートされる。その後、受信電波は、アナログ・デジタル変換器22でデジタル信号に変換され、復調部23で復調される。
【0019】
本実施の形態に係るチャープレーダ検出回路24は、アナログ・デジタル変換器22の出力信号を受けて動作する。ここで、本実施形態の無線通信装置は、デジタル直交検波を行うものとする。すなわち、高周波回路21は、受信電波から無線周波数の余弦波成分、及びこの余弦波成分と90度位相のずれた正弦波成分を取り出し、アナログ・デジタル変換器22に出力する。この余弦波成分を同相成分(Ich:In−Phase Channel)、正弦波成分を直交成分(Qch:Quadrature Channel)と呼ぶ。アナログ・デジタル変換器22は受け取った同相成分Ich及び直交成分Qchをそれぞれ別々にデジタル値に変換する。通常のデジタル直交検波では、デジタルサンプリングした無線波形を、同相成分Ichを実部、直交成分Qchを虚部とする複素数の列として扱う。復調部23及びチャープレーダ検出回路24には、このデジタル複素数列が入力される。
【0020】
チャープレーダ検出回路24では、受信電波の波形がチャープ波形か否かの判定を行う。チャープレーダ検出回路24におけるチャープ波形か否かの判定動作については、後に詳述する。チャープレーダ検出回路24は、受信電波がチャープレーダであることを検出した場合、周波数帯域選択部25にチャープレーダ検出信号を出力する。
【0021】
周波数帯域選択部25は、チャープレーダ検出回路24からチャープレーダ検出信号を受け取ると、その周波数帯域をレーダシステムに明け渡すよう、高周波回路21を制御する。また、周波数帯域選択部25は、別の周波数帯域へと移動して無線通信を実行するよう高周波回路21を制御する。具体的には、現在使用している帯域以外の周波数帯域を選択し、高周波回路21に対し新しい周波数帯域で無線通信を実行するよう信号を送る。
【0022】
[チャープレーダ検出回路24の構成]
次に、本実施の形態に係る無線通信装置のチャープレーダ検出回路24について、図3を参照して説明する。図3は、チャープレーダ検出回路24の構成を示すブロック図である。このチャープレーダ検出回路24において、受信電波の波形がチャープ波形かどうかの判定が行われる。
【0023】
チャープレーダ検出回路24は、受信電波の位相を計算する位相計算器31、受信電波の周波数時間変化を計算する周波数時間変化計算部32、及び受信電波がチャープレーダか否かを判定するチャープレーダ判定部33を備える。
【0024】
アナログ・デジタル変換器22から送られたデジタル複素数列は、チャープレーダ検出回路24の位相計算器31に入力される。位相計算器31は、このデジタル複素数列に基づいて受信電波の位相を求め、その結果を周波数時間変化計算部32へと送る。周波数時間変化計算部32は、位相計算器31で求められた位相に基づいて、受信電波の周波数の時間変化を求める。チャープレーダ判定部33は、周波数時間変化計算部32の演算結果を複数回受けて、最終的に受信電波がチャープレーダであるかどうかを判定する。チャープレーダ判定部33により、受信した電波がチャープレーダであると判定された場合、チャープレーダ検出信号出力端子34から、チャープレーダ検出信号が出力される。
【0025】
[チャープレーダ検出回路24の動作]
以下、チャープレーダ検出回路24内の位相計算器31、周波数時間変化計算部32、チャープレーダ判定部33の動作について、図4を参照して説明する。図4は、チャープレーダ検出回路24の内部の構成を示すブロック図である。
【0026】
位相計算器31は、入力されたデジタル複素数列からその位相を求める演算器である。複素数から位相を求める方法については、一般的に知られた方法であるため、その詳細な説明は省略する。一例としては、同相成分Ichと直交成分Qchの絶対値の比を算出する。そして、その値から逆正接表を参照し、且つ同相成分Ichと直交成分Qchの符号情報も加えて、0rad以上2πrad未満の位相にマッピングする算出方法が挙げられる。ただし、この算出方法はあくまでも一例であって、これに限定されるものではない。
【0027】
次に、周波数時間変化計算部32の動作について説明する。図4には、周波数時間変化計算部32の内部の構成が示されている。周波数時間変化計算部32は、複数のディレイフリップフロップ41a〜41c、及び複数の減算器42a〜42cを備える。
【0028】
位相計算器31からディレイフリップフロップ41aに入力されたデータは、所定のクロックサイクル後にディレイフリップフロップ41aから出力されて、ディレイフリップフロップ41b及び減算器42aに入力される。また、ディレイフリップフロップ41bに入力されたデータは、所定のクロックサイクル後にディレイフリップフロップ41bから出力されて、ディレイフリップフロップ41c及び減算器42bに入力される。そして、ディレイフリップフロップ41cに入力されたデータは、所定のクロックサイクル後に減算器42bに入力される。
【0029】
減算器42a及び42bは、位相から周波数を算出するための減算器である。減算器42aは、位相計算器31より出力された位相から、ディレイフリップフロップ41aより出力された位相を減算する。この値は、ディレイフリップフロップ41aの遅延時間の間に変化した位相量であり、周波数に比例する値となる。同様に、減算器42bは、ディレイフリップフロップ41bより出力された位相から、ディレイフリップフロップ41cより出力された位相を減算する。この値は、ディレイフリップフロップ41cの遅延時間の間に変化した位相量であり、周波数に比例する値である。
【0030】
例えば、位相計算器31から出力された位相が0rad、ディレイフリップフロップ41aから出力された位相がπ/16rad、ディレイフリップフロップ41bから出力された位相がπ/8rad、ディレイフリップフロップ41cから出力された位相がπ/4radであるとする。また、ディレイフリップフロップ41a〜41cの遅延時間がそれぞれ1μsであるとする。この場合、減算器42aからは−π/16radという減算結果が出力される。この減算結果は、1μsが経過する間に位相が−π/16rad進んだことを表しており、−31.25kHzの周波数に相当する。また、減算器42bからは−π/8radという減算結果が出力される。これは同様に−62.5kHzの周波数に相当する。
【0031】
減算器42cは、周波数に比例する位相量から周波数の時間変化を算出するための減算器である。ディレイフリップフロップ41aと41cの遅延時間が等しい場合、減算器42a及び42bで得られる位相量は、同一の遅延時間を単位時間としたものとなる。減算器42cは、減算器42aより出力された周波数に比例する位相量から、減算器42bより出力された周波数に比例する位相量を減算する。これにより、ディレイフリップフロップ41a及び41bの遅延時間を足した時間(これはディレイフリップフロップ41b及び41cの遅延時間を足した時間に等しい)に変化した周波数の量を算出する。
【0032】
上に例示した位相及び遅延時間の値を用いると、減算器42cは、−π/16−(−π/8)よりπ/16radという減算結果を出力する。これは2μsが経過する間に、周波数が31.25kHz変化したことを表す。その結果、周波数の時間変化は、15.625kHz/μsとなる。周波数時間変化計算部32では、このようにして位相計算器31により算出した位相から周波数の時間変化を算出する。
【0033】
ここで注意すべきことは、位相計算器31から出力される位相は、0radと2πradが折りたたまれた形式であり、区別がつかないことである。例えば、受信したレーダ電波の周波数時間変化が0Hz/μsの場合、周波数時間変化計算部32は0radという計算結果を出力する。また、レーダ電波の周波数時間変化が500kHz/μsの場合も、周波数時間変化計算部32は2πrad=0radという計算結果を出力する。よって、周波数時間変化計算部32の計算結果を受け取るチャープレーダ判定部33においては、レーダ波形に周波数時間変化が無い場合と、周波数時間変化が500kHz/μsである場合とを区別することができない。
【0034】
これによるチャープレーダの検出失敗を避けるため、本実施の形態のチャープレーダ検出回路24においては、無線通信に使用する周波数帯域で使用されるチャープレーダの周波数時間変化の値が存在する範囲をあらかじめ調べる。そして、この範囲が0Hz/μsと重ならないようにディレイフリップフロップ41a〜41cの遅延時間を調整する。例えば、無線LAN規格IEEE802.11a/nが日本で使用する周波数帯域の一つであるW56(5.47GHz〜5.725GHz)は、チャープレーダと共有される周波数帯域である。この周波数帯域で使用されるチャープレーダは、時間幅が50〜100μs、チャープ幅が5〜20MHzとなっている。よって周波数時間変化は50〜400kHz/μsの範囲に存在している。ここで、ディレイフリップフロップ41a〜41cの遅延時間を、例えばそれぞれ1μsと設定すると、周波数時間変化が0Hz/μsと重なる値は500kHz/μsとなる。ディレイフリップフロップ41a〜41cの遅延時間をこのように設定することにより、チャープレーダの周波数時間変化が0Hz/μsとみなされることがなくなる。
【0035】
このディレイフリップフロップ41a〜41cの遅延時間に求められる条件を、具体的に式で表すと以下のようになる。あるチャープレーダの周波数時間変化をD[MHz/μs]とする。周波数時間変化の値は、チャープ幅Fc[MHz]を時間幅T[μs]で割ることで求められる(数3におけるFc/T)。ここで、ディレイフリップフロップ41a及び41cの遅延時間は同一になるように設計するものとする。このディレイフリップフロップ41a及び41cの遅延時間をTa[μs]とする。また、ディレイフリップフロップ41bの遅延時間をTb[μs]とする。周波数時間変化は、ノイズがない理想状態においては数2から算出することができる。この算出結果は、以下の数4のようになる。
【数4】
【0036】
ここで、時刻ts[μs]はサンプリングタイミングに関係したパラメータであるが、周波数時間変化の算出結果には現れない。所定の周波数帯域で使用されるチャープレーダにおいて、最も小さい周波数時間変化の値をDmin[MHz/μs]、最も大きい周波数時間変化の値をDmax[MHz/μs]とする。周波数時間変化が全てのチャープ波形において0[rad]をまたがないためには、周波数時間変化DminとDmaxは、以下の数5を満たす必要がある。
【数5】
【0037】
実際に使用する無線通信装置においては、ノイズや伝送路の影響で測定にある程度のばらつきがでることから、上記数5は、所定のマージンをとって満たす必要がある。
【0038】
また、ディレイフリップフロップの遅延時間を決定する別の要素としては、無線環境のマルチパスの遅延スプレッドが挙げられる。レーダシステムから放射されたレーダ電波は反射や回折を繰り返して無線通信装置の受信アンテナに到達する。受信アンテナに到達するまでのパスは複数本あり、それぞれ到達時刻が違う。この時刻のばらつきを表す度合いが遅延スプレッドである。
【0039】
マルチパスがあるとき、無線伝送路環境は周波数に依存した特性で表される。すなわち、送信側から放射された電波が、受信側アンテナに振幅A倍、位相θの回転が加わって到達するとした場合、Aとθはそれぞれその電波の周波数fに依存する値として表される。この振幅と位相の周波数変化の度合いは遅延スプレッドによって決まり、遅延スプレッドをσ[μs]と置くと、1/σ[MHz]より小さい周波数範囲ではAとθの値はほぼ一定と見なせる。本実施の形態に係る周波数時間変化計算部32における演算では、伝送路特性の位相部θは一定である必要がある。そのため、周波数時間変化D[MHz/μs]のチャープレーダの周波数が1/σ[MHz]だけ変化する時間内に、1回の周波数測定を終わらせることが望ましい。すなわち、遅延時間Taには以下の数6の条件がつくことになる。
【数6】
【0040】
遅延時間Ta、Tbが1/(σDmax)より大きくなると、ノイズと同様、周波数時間変化の算出結果を劣化させる要因となる。周波数時間変化計算部32は、ディレイフリップフロップ41a〜41cの遅延時間をこのように設定して、受信電波の周波数時間変化を計算する。
【0041】
次に、チャープレーダ判定部33の動作について説明する。チャープレーダ判定部33は、周波数時間変化計算部32の算出結果を受けて、受信電波の波形がチャープ波形か否かを判定する。
【0042】
ここで、チャープ波形を受信したときは、周波数時間変化計算部32が出力する値は、0[rad]以外のある一定値を取り続けるが、ノイズやOFDM(直交周波数分割多重方式)のパケットを受信したときは0〜2πradの間の値をランダムでとる。このため、周波数時間変化の値を1つ受け取っただけでは受信電波の波形がチャープか否かが判定できない。チャープレーダ判定部33は、周波数時間変化計算部32の算出結果を複数回受けて判定をすることになる。
【0043】
また、波形が単一周波数によるもの、たとえばパルスレーダであれば、周波数時間変化計算部32が出力する値は、常に0[rad]近傍の値を取り続ける。チャープレーダ判定部33には、複数回の周波数時間変化算出結果から、ノイズやOFDMパケット、パルスレーダとチャープ波形とを見分けることが求められる。
【0044】
チャープレーダ判定部33による判定方法として、図5のフローチャートに示すような方法が考えられる。まず、周波数時間変化計算部32が出力する値を2つ受けて(ステップS1)、2つの値の絶対値がそれぞれ第1の所定値以上であることを検出する(ステップS2)。これにより、周波数時間変化が0ではないこと、すなわちパルスレーダではないことを確かめる。この後、2つの値の差が第2の所定値より小さいことを検出する(ステップS3)。これにより、周波数が一定の時間変化をするチャープ波形であることを確かめる。
【0045】
チャープレーダ判定部33がチャープレーダと判定した場合、図3に示すチャープ信号出力端子34からチャープレーダ検出信号が出力される(ステップS4)。このチャープレーダ検出信号は、図2に示す周波数帯域選択部25に送られる。周波数帯域選択部25は、チャープレーダ検出信号を受信すると、周波数帯域の中の他のチャネルに切り替えて無線通信を行うための動作を開始する。周波数帯域選択部25の動作の具体例としては、通信相手の無線通信装置に対し、チャープレーダを検出したためチャネル移動をする旨の連絡や、高周波回路21へのチャネル切り替え制御、あるいはチャープレーダを検出したチャネルの使用禁止時間を測定するためのタイマ動作が挙げられる。
【0046】
[第1の実施の形態に係る無線通信装置の効果]
従来の無線通信装置においては、到来した電波が既知の無線通信システムのものでないことを確認することにより、チャープレーダ判定を行っていた。しかし、従来の方法では、その無線通信装置が製造された後に定められた新しい規格の無線パケットをチャープレーダと誤って検出してしまう。また、既知の無線通信システムのパケットであっても、伝送路歪みやノイズ等の影響により大幅に品質が劣化した状態では無線パケットとみなされず、チャープレーダと誤って検出されてしまうという問題があった。
【0047】
これに対し、本実施の形態に係る無線通信装置によれば、到来した電波の位相を計算するとともに、この位相から周波数の時間変化を算出することができる。チャープ波形の特徴は、周波数の時間変化が常に0以外の一定値を取ることである。この特徴は無線通信パケットにはなく、また伝送路歪みやノイズの影響によって無線通信のパケットの品質が劣化した場合にもこのような特徴は発生しない。周波数の時間変化を算出してチャープレーダの到来を検出することにより、従来の無線通信装置における未知の無線パケットや品質の劣化した無線パケットによるチャープレーダの誤検出を防ぐことができる。このように、本実施の形態に係る無線通信装置は、確実にチャープレーダ波形を検出することができる。
【0048】
また、本実施の形態のチャープレーダ判定部33は、周波数時間変化の算出結果を2回受け、その算出結果の値の絶対値がそれぞれ所定値以上であること、また2つの値の差が所定値より小さいことによりチャープ波形を判定している。この判定方法によれば、チャープレーダ判定部33の回路構成を簡単にすることができ、回路面積や消費電力が小さくて済む。
【0049】
(第2の実施の形態)
次に、本発明の第2の実施の形態に係る無線通信装置の構成について説明する。第1の実施の形態ではチャープレーダ判定部33は、周波数時間変化の算出結果を2回受け、その算出結果の値の絶対値がそれぞれ所定値以上であること、また2つの値の差が所定値より小さいことによりチャープ波形を判定していた。本実施の形態に係る無線通信装置は、このチャープレーダ判定部33における判定動作が第1の実施の形態と異なる。
【0050】
[第2の実施の形態に係る無線通信装置の構成及び動作]
図6は、本実施の形態に係るチャープレーダ判定部33の内部の構成を示すブロック図である。チャープレーダ判定部33は、領域判定部51、カウンタ52a〜52p、セレクタ53、比較器54を備える。
【0051】
領域判定部51及びカウンタ52a〜52pは、周波数時間変化計算部32の算出結果からヒストグラムを作成するために用いられる。周波数時間変化計算部32による算出結果は、0rad以上2πrad未満の位相の形で出力される。領域判定部51は、0rad〜2πradの位相の範囲を複数の領域、例えば16個の領域に等分割して、周波数時間変化計算部32の算出結果がいずれの領域に含まれるかを判定する。領域判定部51は、複数のカウンタ52に対し、それぞれカウントアップ信号の出力線を持つ。
【0052】
カウンタ52a〜52pは各領域に対応して、領域の数と同数(本実施の形態においては16個)存在する。領域判定部51は、周波数時間変化計算部32の算出結果が含まれる領域を判定し、その領域に対応するカウンタ52に出力信号線を介してカウントアップ信号を送る。その結果、周波数時間変化計算部32の算出結果が含まれる領域に対応するカウンタ52がカウントアップされる。所定のタイミングでカウンタ52a〜52nを一斉にゼロにリセットした後、複数回の周波数時間変化の算出結果を受けることで、周波数時間変化のヒストグラムを取得することができる。
【0053】
以下、図7乃至図9を参照して、領域判定部51及びカウンタ52a〜52pにより得られるヒストグラムについて説明する。
【0054】
図7は、無線通信装置がチャープレーダを受信した時の周波数時間変化のヒストグラムである。ここで、チャープレーダ波形のチャープ幅をFc、時間幅をTとする。ノイズの無い理想的な環境においては、ヒストグラムは、図7に示すようにチャープ波形の周波数時間変化Fc/Tに対応した部分にピークを持つ。周波数時間変化Fc/Tに対応した位相の値は、具体的には2πΔT1ΔT2Fc/T[rad]で表される。ΔT1はディレイフリップフロップ41a及び41cの遅延時間であり、ΔT2はディレイフリップフロップ41aと41bの遅延時間の和である。実際には、このピークはノイズ等の影響によって多少の幅を持つことになる。
【0055】
図8は、無線通信装置がパルスレーダなどの単一周波数波形の電波を受信した時の周波数時間変化のヒストグラムである。パルスレーダなどの単一周波数波形の電波は、周波数の時間変化が無いため、図8に示すように、ヒストグラムの度数が0及び2πの近傍に集まる。
【0056】
また、図9は、無線通信装置がノイズ又はOFDMフレームを受信した時の周波数時間変化のヒストグラムである。図9に示すように、ノイズ波形又はOFDMフレームにおいては、周波数時間変化の算出結果はどの領域にもほぼ等確率で現れる。そのため、ヒストグラムの度数は全領域がほぼ同一の度数を持った平たい分布となる。
【0057】
チャープレーダであるか否かを判定するためには、所定回数の周波数時間変化の算出結果を受けてヒストグラムを取得した後、0rad又は2πradの近傍ではない領域に大きなピークを持っているか否かを調べればよい。具体的には図7〜図9に示したように、所定の値の閾値を設け、0rad又は2πradに近接しない領域の度数が、この閾値を超えた場合にチャープ波形と見なせばよい。閾値の設定は、チャープではない波形のヒストグラムでは到底到達できないが、図7に示すようにチャープ波形ならば容易に到達できる程度の値に設定すればよい。
【0058】
セレクタ53及び比較器54は、得られた周波数時間変化のヒストグラムにおいて、周波数時間変化の度数が閾値を超えているか否かの判定を行う。所定回数の周波数時間変化の算出結果を受けて、領域判定部51及びカウンタ52a〜52pによりヒストグラムが得られる。この後、セレクタ53は各カウンタ52a〜52pのうち、対応する領域が0rad又は2πradに近接しないカウンタ52の値を順に出力する。比較器54はセレクタ53の出力結果を受けて、カウンタ52がカウントアップした度数と、所定の閾値とを比較する。セレクタ53からの出力が閾値を超えている場合は、チャープ波形と判断して、チャープレーダ検出信号をチャープレーダ検出信号出力端子34から出力する。セレクタ53からの出力が閾値以下である場合は、チャープ波形ではないと判断してチャープレーダ検出信号を出力しない。本実施の形態に係る無線通信装置は、このようにしてチャープレーダ判定部33における判定動作を実行する。
【0059】
[第2の実施の形態に係る無線通信装置の効果]
第1の実施の形態に係る無線通信装置は、周波数時間変化の算出結果を2回受け、その算出結果の値の絶対値がそれぞれ所定値以上であること、また2つの値の差が所定値より小さいことによりチャープ波形を判定していた。ここで、ノイズ波形やOFDMフレームを受信した場合でも、一定の確率で、2回連続で似たような周波数時間変化結果を出力しうる。そのため、ノイズ波形やOFDMフレームを誤ってチャープレーダと検出するおそれがある。
【0060】
これに対し、本実施の形態に係る無線通信装置では、周波数時間変化計算部32から出力された複数回の算出結果を用いてヒストグラムを作成する。このヒストグラムに基づいて、チャープレーダか否かの判定を実行する。これにより、より強いノイズ環境下においても正確にチャープレーダ判定を行うことができる。本実施の形態に係る無線通信装置によれば、第1の実施の形態の無線通信装置よりもさらに確実に、チャープレーダ波形を検出することができる。
【0061】
[その他]
以上、本発明の実施の形態を説明したが、本発明はこれらに限定されるものではなく、発明の趣旨を逸脱しない範囲内において、種々の変更、追加、組み合わせ等が可能である。例えば、周波数時間変化計算部32の構成及び動作は、図4に示されるものには限られず、同様に受信電波の周波数時間変化を計算できるものであればよい。
【0062】
周波数時間変化計算部32の他の構成例として、例えば、図10に示す構成とすることができる。この場合、減算器42aは、位相計算器31より出力された位相から、ディレイフリップフロップ41bより出力された位相を減算する。また、減算器42bは、ディレイフリップフロップ41aより出力された位相から、ディレイフリップフロップ41cより出力された位相を減算する。そして、減算器42cは、減算器42aより出力された周波数に比例する位相量から、減算器42bより出力された周波数に比例する位相量を減算する。この動作は、周波数時間変化の算出式を考えると、図4に示す第1の実施の形態の周波数時間変化計算部32の計算方法と数学的に等価である。
【0063】
また、周波数時間変化計算部32のさらに他の構成例として、図11に示すように、ディレイフリップフロップを41a、41bの2つのみにする構成が考えられる。ディレイフリップフロップ41aより出力された位相は、例えば乗算器等により2倍の値にされて減算器42に入力される。加算器43は、位相計算器31より出力された位相と、ディレイフリップフロップ41bより出力された位相を加算する。減算器42は、加算器43より出力された位相量から、ディレイフリップフロップ41aより出力された位相の2倍の値を減算する。この構成によっても、受信電波の周波数時間変化を計算することができる。この場合、ディレイフリップフロップ1つと減算器1つが不要となり、回路を縮小することができる。しかし、ディレイフリップフロップ41aの出力を2倍しているためノイズの乗った波形では雑音強調されてしまうというデメリットも生じる。
【符号の説明】
【0064】
20・・・アンテナ、 21・・・高周波回路、 22・・・アナログ・デジタル変換器、 23・・・復調部、 24・・・チャープレーダ検出回路、 25・・・周波数帯域選択部、 31・・・位相計算器、 32・・・周波数時間変化計算部、 33・・・チャープレーダ判定部、 34・・・チャープレーダ検出信号出力端子、 41a〜41c・・・ディレイフリップフロップ、 42a〜42c・・・減算器、 51・・・領域判定部、 52a〜52n・・・カウンタ、 53・・・セレクタ、 54・・・比較器。
【技術分野】
【0001】
本発明は、無線通信装置に関し、特に使用周波数帯域をレーダシステムと共有している無線通信システムに用いられる無線通信装置に関する。
【背景技術】
【0002】
5GHz帯を使用した無線LAN通信規格IEEE802.11a/nは、その使用周波数帯域を気象レーダ、地形レーダ等のレーダシステムと共有している。そのため、無線通信システムの送受信機は、レーダ電波の到来を監視し、レーダ電波を検出した場合には、そのレーダ電波の周波数帯域を一定時間使用しないことが要求される。5GHz帯で使用されているレーダ電波は、パルスレーダとチャープレーダに分けられる。パルスレーダは通常、無線通信フレームよりも時間的に短いため、到来した電波の電力を時間的に監視していればパルスレーダ電波と判定できる。しかし、チャープレーダは無線通信フレームと時間的に同程度の長さであるため、到来した電波の電力のみを監視していてもレーダ電波と特定できず、波形を解析する必要がある。
【0003】
従来は、到来した電波をIEEE802.11a/nパケット用の復調機に入力し、フレーム先頭部が復調できなかった場合にチャープレーダとみなしていた。あるいは、既知の他の無線通信システム(HiperLAN等)の波形が分かっているときは、受信電波波形とその既知波形との相関値を求めて、他の無線通信システムの電波ではないことを確認してからチャープレーダとみなしていた。しかし、このような消去法的な検出方法では、伝送路歪みにより無線通信システムのフレームが大幅に劣化したような信号を受信した場合や、自分にとっては未知である新しい無線通信規格のフレーム(例えばIEEE802.11a無線機にとってのIEEE802.11n GreenFieldパケット)を受信した場合等に、チャープレーダと誤認識してしまう可能性がある。このような誤認識の無い検出を実行するためには、チャープレーダの特徴である周波数時間変化を検出する必要がある。
【0004】
特許文献1は、レーダ波形のゼロクロス回数を一定期間カウントすることにより周波数を推定し、連続した3つの期間でそれぞれ周波数を推定した後に周波数変化が線形であることを確認してチャープレーダを判定するシステムを開示している。しかし、特許文献1に記載のシステムでは、推定結果のうち1つでも誤差の大きい推定結果となった際に間違った判定を下すおそれがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−166611号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、確実にチャープレーダを検出することのできる無線通信装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様に係る無線通信装置は、無線信号を受信して受信信号を生成する受信部と、前記受信信号の位相を計算する位相計算器と、前記計算された位相の時間変化から前記受信信号の周波数を検出すると共に、前記検出された周波数の時間変化を算出する周波数時間変化計算部と、前記算出された周波数の時間変化から前記受信信号がチャープレーダ信号であるかどうかを判定するチャープレーダ判定部とを備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、確実にチャープレーダを検出することのできる無線通信装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】チャープレーダの波形、時間と電力との関係、及び時間と周波数との関係を表す図である。
【図2】第1の実施の形態に係る無線通信装置の構成を示すブロック図である。
【図3】第1の実施の形態に係る無線通信装置のチャープレーダ検出回路の構成を示すブロック図である。
【図4】第1の実施の形態に係る無線通信装置のチャープレーダ検出回路の構成を示すブロック図である。
【図5】第1の実施の形態に係る無線通信装置のチャープレーダ検出回路の動作を示すフローチャートである。
【図6】第2の実施の形態に係る無線通信装置のチャープレーダ判定部の構成を示すブロック図である。
【図7】第2の実施の形態に係る無線通信装置がチャープレーダを受信した時の周波数時間変化のヒストグラムである。
【図8】第2の実施の形態に係る無線通信装置が単一周波数波形の電波を受信した時の周波数時間変化のヒストグラムである。
【図9】第2の実施の形態に係る無線通信装置がノイズ又はOFDMフレームを受信した時の周波数時間変化のヒストグラムである。
【図10】無線通信装置のチャープレーダ検出回路の他の構成例を示すブロック図である。
【図11】無線通信装置のチャープレーダ検出回路の他の構成例を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
次に、本発明の実施の形態を、図面を参照して詳細に説明する。なお、以下の実施の形態における図面の記載では、同一の構成を有する箇所には同一の符号を付して、重複する説明を省略する。
【0011】
(第1の実施の形態)
本実施の形態に係る無線通信装置についての説明に先立ち、まず無線通信装置が検出するチャープレーダについて説明する。図1はチャープレーダを説明するための図である。図1の上部には、チャープレーダ波形が示されている。また、図1には、このチャープレーダ波形と対応して、チャープレーダの電力の時間変化グラフと、周波数の時間変化グラフとが示されている。
【0012】
図1に示すように、周波数が常に時間変化している波形をチャープ波形という。チャープレーダの電力が存在している時間の長さを時間幅Tという。また、波形開始時の周波数と波形終了時の周波数の差をチャープ幅Fcといい、周波数の単位で表される。チャープ波形のうち、周波数が時間とともに線形に変化するものを線形チャープという。通常、チャープレーダは線形チャープである。チャープレーダの波形は、数式では以下の数1のように表される。
【数1】
【0013】
ここで、A0はチャープ波形の振幅であり、Fcはチャープ幅であり、Tは時間幅であり、f0は中心周波数である。また、tは時間である。この波形の位相φ[rad]、及び周波数f[MHz]は、それぞれ時間t[μs]の変数であり、以下の数2のように表される。
【数2】
【0014】
またチャープ波形の周波数の時間変化は、以下の数3のように表される。
【数3】
【0015】
この値は、時間tに依らない一定値である。すなわち、チャープレーダの周波数は、時間とともに線形に変化している。本実施の形態に係る無線通信装置は、このような波形のチャープレーダを検出する。
【0016】
[第1の実施の形態に係る無線通信装置の構成]
以下、本発明の第1の実施の形態に係る無線通信装置の構成について、図2を参照して説明する。図2は、本実施の形態に係る無線通信装置の構成を示すブロック図である。図2は、無線通信装置の受信部の構成を示している。
【0017】
無線通信装置の受信部は、アンテナ20、高周波回路21、アナログ・デジタル変換器22、復調部23、チャープレーダ検出回路24、及び周波数帯域選択部25を備える。
【0018】
アンテナ20から受信された電波は、高周波回路21で無線周波数からベースバンド周波数にダウンコンバートされる。その後、受信電波は、アナログ・デジタル変換器22でデジタル信号に変換され、復調部23で復調される。
【0019】
本実施の形態に係るチャープレーダ検出回路24は、アナログ・デジタル変換器22の出力信号を受けて動作する。ここで、本実施形態の無線通信装置は、デジタル直交検波を行うものとする。すなわち、高周波回路21は、受信電波から無線周波数の余弦波成分、及びこの余弦波成分と90度位相のずれた正弦波成分を取り出し、アナログ・デジタル変換器22に出力する。この余弦波成分を同相成分(Ich:In−Phase Channel)、正弦波成分を直交成分(Qch:Quadrature Channel)と呼ぶ。アナログ・デジタル変換器22は受け取った同相成分Ich及び直交成分Qchをそれぞれ別々にデジタル値に変換する。通常のデジタル直交検波では、デジタルサンプリングした無線波形を、同相成分Ichを実部、直交成分Qchを虚部とする複素数の列として扱う。復調部23及びチャープレーダ検出回路24には、このデジタル複素数列が入力される。
【0020】
チャープレーダ検出回路24では、受信電波の波形がチャープ波形か否かの判定を行う。チャープレーダ検出回路24におけるチャープ波形か否かの判定動作については、後に詳述する。チャープレーダ検出回路24は、受信電波がチャープレーダであることを検出した場合、周波数帯域選択部25にチャープレーダ検出信号を出力する。
【0021】
周波数帯域選択部25は、チャープレーダ検出回路24からチャープレーダ検出信号を受け取ると、その周波数帯域をレーダシステムに明け渡すよう、高周波回路21を制御する。また、周波数帯域選択部25は、別の周波数帯域へと移動して無線通信を実行するよう高周波回路21を制御する。具体的には、現在使用している帯域以外の周波数帯域を選択し、高周波回路21に対し新しい周波数帯域で無線通信を実行するよう信号を送る。
【0022】
[チャープレーダ検出回路24の構成]
次に、本実施の形態に係る無線通信装置のチャープレーダ検出回路24について、図3を参照して説明する。図3は、チャープレーダ検出回路24の構成を示すブロック図である。このチャープレーダ検出回路24において、受信電波の波形がチャープ波形かどうかの判定が行われる。
【0023】
チャープレーダ検出回路24は、受信電波の位相を計算する位相計算器31、受信電波の周波数時間変化を計算する周波数時間変化計算部32、及び受信電波がチャープレーダか否かを判定するチャープレーダ判定部33を備える。
【0024】
アナログ・デジタル変換器22から送られたデジタル複素数列は、チャープレーダ検出回路24の位相計算器31に入力される。位相計算器31は、このデジタル複素数列に基づいて受信電波の位相を求め、その結果を周波数時間変化計算部32へと送る。周波数時間変化計算部32は、位相計算器31で求められた位相に基づいて、受信電波の周波数の時間変化を求める。チャープレーダ判定部33は、周波数時間変化計算部32の演算結果を複数回受けて、最終的に受信電波がチャープレーダであるかどうかを判定する。チャープレーダ判定部33により、受信した電波がチャープレーダであると判定された場合、チャープレーダ検出信号出力端子34から、チャープレーダ検出信号が出力される。
【0025】
[チャープレーダ検出回路24の動作]
以下、チャープレーダ検出回路24内の位相計算器31、周波数時間変化計算部32、チャープレーダ判定部33の動作について、図4を参照して説明する。図4は、チャープレーダ検出回路24の内部の構成を示すブロック図である。
【0026】
位相計算器31は、入力されたデジタル複素数列からその位相を求める演算器である。複素数から位相を求める方法については、一般的に知られた方法であるため、その詳細な説明は省略する。一例としては、同相成分Ichと直交成分Qchの絶対値の比を算出する。そして、その値から逆正接表を参照し、且つ同相成分Ichと直交成分Qchの符号情報も加えて、0rad以上2πrad未満の位相にマッピングする算出方法が挙げられる。ただし、この算出方法はあくまでも一例であって、これに限定されるものではない。
【0027】
次に、周波数時間変化計算部32の動作について説明する。図4には、周波数時間変化計算部32の内部の構成が示されている。周波数時間変化計算部32は、複数のディレイフリップフロップ41a〜41c、及び複数の減算器42a〜42cを備える。
【0028】
位相計算器31からディレイフリップフロップ41aに入力されたデータは、所定のクロックサイクル後にディレイフリップフロップ41aから出力されて、ディレイフリップフロップ41b及び減算器42aに入力される。また、ディレイフリップフロップ41bに入力されたデータは、所定のクロックサイクル後にディレイフリップフロップ41bから出力されて、ディレイフリップフロップ41c及び減算器42bに入力される。そして、ディレイフリップフロップ41cに入力されたデータは、所定のクロックサイクル後に減算器42bに入力される。
【0029】
減算器42a及び42bは、位相から周波数を算出するための減算器である。減算器42aは、位相計算器31より出力された位相から、ディレイフリップフロップ41aより出力された位相を減算する。この値は、ディレイフリップフロップ41aの遅延時間の間に変化した位相量であり、周波数に比例する値となる。同様に、減算器42bは、ディレイフリップフロップ41bより出力された位相から、ディレイフリップフロップ41cより出力された位相を減算する。この値は、ディレイフリップフロップ41cの遅延時間の間に変化した位相量であり、周波数に比例する値である。
【0030】
例えば、位相計算器31から出力された位相が0rad、ディレイフリップフロップ41aから出力された位相がπ/16rad、ディレイフリップフロップ41bから出力された位相がπ/8rad、ディレイフリップフロップ41cから出力された位相がπ/4radであるとする。また、ディレイフリップフロップ41a〜41cの遅延時間がそれぞれ1μsであるとする。この場合、減算器42aからは−π/16radという減算結果が出力される。この減算結果は、1μsが経過する間に位相が−π/16rad進んだことを表しており、−31.25kHzの周波数に相当する。また、減算器42bからは−π/8radという減算結果が出力される。これは同様に−62.5kHzの周波数に相当する。
【0031】
減算器42cは、周波数に比例する位相量から周波数の時間変化を算出するための減算器である。ディレイフリップフロップ41aと41cの遅延時間が等しい場合、減算器42a及び42bで得られる位相量は、同一の遅延時間を単位時間としたものとなる。減算器42cは、減算器42aより出力された周波数に比例する位相量から、減算器42bより出力された周波数に比例する位相量を減算する。これにより、ディレイフリップフロップ41a及び41bの遅延時間を足した時間(これはディレイフリップフロップ41b及び41cの遅延時間を足した時間に等しい)に変化した周波数の量を算出する。
【0032】
上に例示した位相及び遅延時間の値を用いると、減算器42cは、−π/16−(−π/8)よりπ/16radという減算結果を出力する。これは2μsが経過する間に、周波数が31.25kHz変化したことを表す。その結果、周波数の時間変化は、15.625kHz/μsとなる。周波数時間変化計算部32では、このようにして位相計算器31により算出した位相から周波数の時間変化を算出する。
【0033】
ここで注意すべきことは、位相計算器31から出力される位相は、0radと2πradが折りたたまれた形式であり、区別がつかないことである。例えば、受信したレーダ電波の周波数時間変化が0Hz/μsの場合、周波数時間変化計算部32は0radという計算結果を出力する。また、レーダ電波の周波数時間変化が500kHz/μsの場合も、周波数時間変化計算部32は2πrad=0radという計算結果を出力する。よって、周波数時間変化計算部32の計算結果を受け取るチャープレーダ判定部33においては、レーダ波形に周波数時間変化が無い場合と、周波数時間変化が500kHz/μsである場合とを区別することができない。
【0034】
これによるチャープレーダの検出失敗を避けるため、本実施の形態のチャープレーダ検出回路24においては、無線通信に使用する周波数帯域で使用されるチャープレーダの周波数時間変化の値が存在する範囲をあらかじめ調べる。そして、この範囲が0Hz/μsと重ならないようにディレイフリップフロップ41a〜41cの遅延時間を調整する。例えば、無線LAN規格IEEE802.11a/nが日本で使用する周波数帯域の一つであるW56(5.47GHz〜5.725GHz)は、チャープレーダと共有される周波数帯域である。この周波数帯域で使用されるチャープレーダは、時間幅が50〜100μs、チャープ幅が5〜20MHzとなっている。よって周波数時間変化は50〜400kHz/μsの範囲に存在している。ここで、ディレイフリップフロップ41a〜41cの遅延時間を、例えばそれぞれ1μsと設定すると、周波数時間変化が0Hz/μsと重なる値は500kHz/μsとなる。ディレイフリップフロップ41a〜41cの遅延時間をこのように設定することにより、チャープレーダの周波数時間変化が0Hz/μsとみなされることがなくなる。
【0035】
このディレイフリップフロップ41a〜41cの遅延時間に求められる条件を、具体的に式で表すと以下のようになる。あるチャープレーダの周波数時間変化をD[MHz/μs]とする。周波数時間変化の値は、チャープ幅Fc[MHz]を時間幅T[μs]で割ることで求められる(数3におけるFc/T)。ここで、ディレイフリップフロップ41a及び41cの遅延時間は同一になるように設計するものとする。このディレイフリップフロップ41a及び41cの遅延時間をTa[μs]とする。また、ディレイフリップフロップ41bの遅延時間をTb[μs]とする。周波数時間変化は、ノイズがない理想状態においては数2から算出することができる。この算出結果は、以下の数4のようになる。
【数4】
【0036】
ここで、時刻ts[μs]はサンプリングタイミングに関係したパラメータであるが、周波数時間変化の算出結果には現れない。所定の周波数帯域で使用されるチャープレーダにおいて、最も小さい周波数時間変化の値をDmin[MHz/μs]、最も大きい周波数時間変化の値をDmax[MHz/μs]とする。周波数時間変化が全てのチャープ波形において0[rad]をまたがないためには、周波数時間変化DminとDmaxは、以下の数5を満たす必要がある。
【数5】
【0037】
実際に使用する無線通信装置においては、ノイズや伝送路の影響で測定にある程度のばらつきがでることから、上記数5は、所定のマージンをとって満たす必要がある。
【0038】
また、ディレイフリップフロップの遅延時間を決定する別の要素としては、無線環境のマルチパスの遅延スプレッドが挙げられる。レーダシステムから放射されたレーダ電波は反射や回折を繰り返して無線通信装置の受信アンテナに到達する。受信アンテナに到達するまでのパスは複数本あり、それぞれ到達時刻が違う。この時刻のばらつきを表す度合いが遅延スプレッドである。
【0039】
マルチパスがあるとき、無線伝送路環境は周波数に依存した特性で表される。すなわち、送信側から放射された電波が、受信側アンテナに振幅A倍、位相θの回転が加わって到達するとした場合、Aとθはそれぞれその電波の周波数fに依存する値として表される。この振幅と位相の周波数変化の度合いは遅延スプレッドによって決まり、遅延スプレッドをσ[μs]と置くと、1/σ[MHz]より小さい周波数範囲ではAとθの値はほぼ一定と見なせる。本実施の形態に係る周波数時間変化計算部32における演算では、伝送路特性の位相部θは一定である必要がある。そのため、周波数時間変化D[MHz/μs]のチャープレーダの周波数が1/σ[MHz]だけ変化する時間内に、1回の周波数測定を終わらせることが望ましい。すなわち、遅延時間Taには以下の数6の条件がつくことになる。
【数6】
【0040】
遅延時間Ta、Tbが1/(σDmax)より大きくなると、ノイズと同様、周波数時間変化の算出結果を劣化させる要因となる。周波数時間変化計算部32は、ディレイフリップフロップ41a〜41cの遅延時間をこのように設定して、受信電波の周波数時間変化を計算する。
【0041】
次に、チャープレーダ判定部33の動作について説明する。チャープレーダ判定部33は、周波数時間変化計算部32の算出結果を受けて、受信電波の波形がチャープ波形か否かを判定する。
【0042】
ここで、チャープ波形を受信したときは、周波数時間変化計算部32が出力する値は、0[rad]以外のある一定値を取り続けるが、ノイズやOFDM(直交周波数分割多重方式)のパケットを受信したときは0〜2πradの間の値をランダムでとる。このため、周波数時間変化の値を1つ受け取っただけでは受信電波の波形がチャープか否かが判定できない。チャープレーダ判定部33は、周波数時間変化計算部32の算出結果を複数回受けて判定をすることになる。
【0043】
また、波形が単一周波数によるもの、たとえばパルスレーダであれば、周波数時間変化計算部32が出力する値は、常に0[rad]近傍の値を取り続ける。チャープレーダ判定部33には、複数回の周波数時間変化算出結果から、ノイズやOFDMパケット、パルスレーダとチャープ波形とを見分けることが求められる。
【0044】
チャープレーダ判定部33による判定方法として、図5のフローチャートに示すような方法が考えられる。まず、周波数時間変化計算部32が出力する値を2つ受けて(ステップS1)、2つの値の絶対値がそれぞれ第1の所定値以上であることを検出する(ステップS2)。これにより、周波数時間変化が0ではないこと、すなわちパルスレーダではないことを確かめる。この後、2つの値の差が第2の所定値より小さいことを検出する(ステップS3)。これにより、周波数が一定の時間変化をするチャープ波形であることを確かめる。
【0045】
チャープレーダ判定部33がチャープレーダと判定した場合、図3に示すチャープ信号出力端子34からチャープレーダ検出信号が出力される(ステップS4)。このチャープレーダ検出信号は、図2に示す周波数帯域選択部25に送られる。周波数帯域選択部25は、チャープレーダ検出信号を受信すると、周波数帯域の中の他のチャネルに切り替えて無線通信を行うための動作を開始する。周波数帯域選択部25の動作の具体例としては、通信相手の無線通信装置に対し、チャープレーダを検出したためチャネル移動をする旨の連絡や、高周波回路21へのチャネル切り替え制御、あるいはチャープレーダを検出したチャネルの使用禁止時間を測定するためのタイマ動作が挙げられる。
【0046】
[第1の実施の形態に係る無線通信装置の効果]
従来の無線通信装置においては、到来した電波が既知の無線通信システムのものでないことを確認することにより、チャープレーダ判定を行っていた。しかし、従来の方法では、その無線通信装置が製造された後に定められた新しい規格の無線パケットをチャープレーダと誤って検出してしまう。また、既知の無線通信システムのパケットであっても、伝送路歪みやノイズ等の影響により大幅に品質が劣化した状態では無線パケットとみなされず、チャープレーダと誤って検出されてしまうという問題があった。
【0047】
これに対し、本実施の形態に係る無線通信装置によれば、到来した電波の位相を計算するとともに、この位相から周波数の時間変化を算出することができる。チャープ波形の特徴は、周波数の時間変化が常に0以外の一定値を取ることである。この特徴は無線通信パケットにはなく、また伝送路歪みやノイズの影響によって無線通信のパケットの品質が劣化した場合にもこのような特徴は発生しない。周波数の時間変化を算出してチャープレーダの到来を検出することにより、従来の無線通信装置における未知の無線パケットや品質の劣化した無線パケットによるチャープレーダの誤検出を防ぐことができる。このように、本実施の形態に係る無線通信装置は、確実にチャープレーダ波形を検出することができる。
【0048】
また、本実施の形態のチャープレーダ判定部33は、周波数時間変化の算出結果を2回受け、その算出結果の値の絶対値がそれぞれ所定値以上であること、また2つの値の差が所定値より小さいことによりチャープ波形を判定している。この判定方法によれば、チャープレーダ判定部33の回路構成を簡単にすることができ、回路面積や消費電力が小さくて済む。
【0049】
(第2の実施の形態)
次に、本発明の第2の実施の形態に係る無線通信装置の構成について説明する。第1の実施の形態ではチャープレーダ判定部33は、周波数時間変化の算出結果を2回受け、その算出結果の値の絶対値がそれぞれ所定値以上であること、また2つの値の差が所定値より小さいことによりチャープ波形を判定していた。本実施の形態に係る無線通信装置は、このチャープレーダ判定部33における判定動作が第1の実施の形態と異なる。
【0050】
[第2の実施の形態に係る無線通信装置の構成及び動作]
図6は、本実施の形態に係るチャープレーダ判定部33の内部の構成を示すブロック図である。チャープレーダ判定部33は、領域判定部51、カウンタ52a〜52p、セレクタ53、比較器54を備える。
【0051】
領域判定部51及びカウンタ52a〜52pは、周波数時間変化計算部32の算出結果からヒストグラムを作成するために用いられる。周波数時間変化計算部32による算出結果は、0rad以上2πrad未満の位相の形で出力される。領域判定部51は、0rad〜2πradの位相の範囲を複数の領域、例えば16個の領域に等分割して、周波数時間変化計算部32の算出結果がいずれの領域に含まれるかを判定する。領域判定部51は、複数のカウンタ52に対し、それぞれカウントアップ信号の出力線を持つ。
【0052】
カウンタ52a〜52pは各領域に対応して、領域の数と同数(本実施の形態においては16個)存在する。領域判定部51は、周波数時間変化計算部32の算出結果が含まれる領域を判定し、その領域に対応するカウンタ52に出力信号線を介してカウントアップ信号を送る。その結果、周波数時間変化計算部32の算出結果が含まれる領域に対応するカウンタ52がカウントアップされる。所定のタイミングでカウンタ52a〜52nを一斉にゼロにリセットした後、複数回の周波数時間変化の算出結果を受けることで、周波数時間変化のヒストグラムを取得することができる。
【0053】
以下、図7乃至図9を参照して、領域判定部51及びカウンタ52a〜52pにより得られるヒストグラムについて説明する。
【0054】
図7は、無線通信装置がチャープレーダを受信した時の周波数時間変化のヒストグラムである。ここで、チャープレーダ波形のチャープ幅をFc、時間幅をTとする。ノイズの無い理想的な環境においては、ヒストグラムは、図7に示すようにチャープ波形の周波数時間変化Fc/Tに対応した部分にピークを持つ。周波数時間変化Fc/Tに対応した位相の値は、具体的には2πΔT1ΔT2Fc/T[rad]で表される。ΔT1はディレイフリップフロップ41a及び41cの遅延時間であり、ΔT2はディレイフリップフロップ41aと41bの遅延時間の和である。実際には、このピークはノイズ等の影響によって多少の幅を持つことになる。
【0055】
図8は、無線通信装置がパルスレーダなどの単一周波数波形の電波を受信した時の周波数時間変化のヒストグラムである。パルスレーダなどの単一周波数波形の電波は、周波数の時間変化が無いため、図8に示すように、ヒストグラムの度数が0及び2πの近傍に集まる。
【0056】
また、図9は、無線通信装置がノイズ又はOFDMフレームを受信した時の周波数時間変化のヒストグラムである。図9に示すように、ノイズ波形又はOFDMフレームにおいては、周波数時間変化の算出結果はどの領域にもほぼ等確率で現れる。そのため、ヒストグラムの度数は全領域がほぼ同一の度数を持った平たい分布となる。
【0057】
チャープレーダであるか否かを判定するためには、所定回数の周波数時間変化の算出結果を受けてヒストグラムを取得した後、0rad又は2πradの近傍ではない領域に大きなピークを持っているか否かを調べればよい。具体的には図7〜図9に示したように、所定の値の閾値を設け、0rad又は2πradに近接しない領域の度数が、この閾値を超えた場合にチャープ波形と見なせばよい。閾値の設定は、チャープではない波形のヒストグラムでは到底到達できないが、図7に示すようにチャープ波形ならば容易に到達できる程度の値に設定すればよい。
【0058】
セレクタ53及び比較器54は、得られた周波数時間変化のヒストグラムにおいて、周波数時間変化の度数が閾値を超えているか否かの判定を行う。所定回数の周波数時間変化の算出結果を受けて、領域判定部51及びカウンタ52a〜52pによりヒストグラムが得られる。この後、セレクタ53は各カウンタ52a〜52pのうち、対応する領域が0rad又は2πradに近接しないカウンタ52の値を順に出力する。比較器54はセレクタ53の出力結果を受けて、カウンタ52がカウントアップした度数と、所定の閾値とを比較する。セレクタ53からの出力が閾値を超えている場合は、チャープ波形と判断して、チャープレーダ検出信号をチャープレーダ検出信号出力端子34から出力する。セレクタ53からの出力が閾値以下である場合は、チャープ波形ではないと判断してチャープレーダ検出信号を出力しない。本実施の形態に係る無線通信装置は、このようにしてチャープレーダ判定部33における判定動作を実行する。
【0059】
[第2の実施の形態に係る無線通信装置の効果]
第1の実施の形態に係る無線通信装置は、周波数時間変化の算出結果を2回受け、その算出結果の値の絶対値がそれぞれ所定値以上であること、また2つの値の差が所定値より小さいことによりチャープ波形を判定していた。ここで、ノイズ波形やOFDMフレームを受信した場合でも、一定の確率で、2回連続で似たような周波数時間変化結果を出力しうる。そのため、ノイズ波形やOFDMフレームを誤ってチャープレーダと検出するおそれがある。
【0060】
これに対し、本実施の形態に係る無線通信装置では、周波数時間変化計算部32から出力された複数回の算出結果を用いてヒストグラムを作成する。このヒストグラムに基づいて、チャープレーダか否かの判定を実行する。これにより、より強いノイズ環境下においても正確にチャープレーダ判定を行うことができる。本実施の形態に係る無線通信装置によれば、第1の実施の形態の無線通信装置よりもさらに確実に、チャープレーダ波形を検出することができる。
【0061】
[その他]
以上、本発明の実施の形態を説明したが、本発明はこれらに限定されるものではなく、発明の趣旨を逸脱しない範囲内において、種々の変更、追加、組み合わせ等が可能である。例えば、周波数時間変化計算部32の構成及び動作は、図4に示されるものには限られず、同様に受信電波の周波数時間変化を計算できるものであればよい。
【0062】
周波数時間変化計算部32の他の構成例として、例えば、図10に示す構成とすることができる。この場合、減算器42aは、位相計算器31より出力された位相から、ディレイフリップフロップ41bより出力された位相を減算する。また、減算器42bは、ディレイフリップフロップ41aより出力された位相から、ディレイフリップフロップ41cより出力された位相を減算する。そして、減算器42cは、減算器42aより出力された周波数に比例する位相量から、減算器42bより出力された周波数に比例する位相量を減算する。この動作は、周波数時間変化の算出式を考えると、図4に示す第1の実施の形態の周波数時間変化計算部32の計算方法と数学的に等価である。
【0063】
また、周波数時間変化計算部32のさらに他の構成例として、図11に示すように、ディレイフリップフロップを41a、41bの2つのみにする構成が考えられる。ディレイフリップフロップ41aより出力された位相は、例えば乗算器等により2倍の値にされて減算器42に入力される。加算器43は、位相計算器31より出力された位相と、ディレイフリップフロップ41bより出力された位相を加算する。減算器42は、加算器43より出力された位相量から、ディレイフリップフロップ41aより出力された位相の2倍の値を減算する。この構成によっても、受信電波の周波数時間変化を計算することができる。この場合、ディレイフリップフロップ1つと減算器1つが不要となり、回路を縮小することができる。しかし、ディレイフリップフロップ41aの出力を2倍しているためノイズの乗った波形では雑音強調されてしまうというデメリットも生じる。
【符号の説明】
【0064】
20・・・アンテナ、 21・・・高周波回路、 22・・・アナログ・デジタル変換器、 23・・・復調部、 24・・・チャープレーダ検出回路、 25・・・周波数帯域選択部、 31・・・位相計算器、 32・・・周波数時間変化計算部、 33・・・チャープレーダ判定部、 34・・・チャープレーダ検出信号出力端子、 41a〜41c・・・ディレイフリップフロップ、 42a〜42c・・・減算器、 51・・・領域判定部、 52a〜52n・・・カウンタ、 53・・・セレクタ、 54・・・比較器。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
無線信号を受信して受信信号を生成する受信部と、
前記受信信号の位相を計算する位相計算器と、
前記計算された位相の時間変化から前記受信信号の周波数を検出すると共に、前記検出された周波数の時間変化を算出する周波数時間変化計算部と、
前記算出された周波数の時間変化から前記受信信号がチャープレーダ信号であるかどうかを判定するチャープレーダ判定部と
を備えたことを特徴とする無線通信装置。
【請求項2】
前記周波数時間変化計算部は、
前記位相計算器で計算された位相を、順次遅延させる第1、第2及び第3の遅延回路と、
前記第1の遅延回路の入力と前記第1又は第2の遅延回路の出力との差分を演算する第1の減算器と、
前記第3又は第2の遅延回路の入力と前記第3の遅延回路の出力との差分を演算する第2の減算器と、
前記第1及び第2の演算器の出力の差分を演算してその演算結果を周波数の時間変化として出力する第3の減算器と
を備えたことを特徴とする請求項1記載の無線通信装置。
【請求項3】
前記チャープレーダ判定部は、
前記周波数時間変化計算部で算出された周波数の時間変化の値のヒストグラムを生成し、このヒストグラムが所定の周波数の時間変化の値でピークを持つかどうかで前記受信信号がチャープレーダ信号であると判定するものである
ことを特徴とする請求項1又は2記載の無線通信装置。
【請求項4】
前記チャープレーダ判定部は、前記第3の減算器により算出された周波数の時間変化の値を2つ以上受けて、2つの値の絶対値がそれぞれ所定値以上であり、且つ2つの値の差が所定値より小さい場合に、前記受信信号がチャープレーダ信号であると判定するものである
ことを特徴とする請求項1又は2記載の無線通信装置。
【請求項5】
前記第1乃至第3の遅延回路は、想定されるチャープレーダ波形の周波数範囲に対して、前記周波数時間変化計算部により算出された周波数の時間変化が0とならないように、その遅延時間が設定されている
ことを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項記載の無線通信装置。
【請求項6】
チャープレーダ検出回路により前記受信信号がチャープレーダ信号であると判定された場合、受信信号とは異なる周波数帯域のチャネルに切り替えて無線通信を実行する周波数帯域選択部をさらに備える
ことを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項記載の無線通信装置。
【請求項1】
無線信号を受信して受信信号を生成する受信部と、
前記受信信号の位相を計算する位相計算器と、
前記計算された位相の時間変化から前記受信信号の周波数を検出すると共に、前記検出された周波数の時間変化を算出する周波数時間変化計算部と、
前記算出された周波数の時間変化から前記受信信号がチャープレーダ信号であるかどうかを判定するチャープレーダ判定部と
を備えたことを特徴とする無線通信装置。
【請求項2】
前記周波数時間変化計算部は、
前記位相計算器で計算された位相を、順次遅延させる第1、第2及び第3の遅延回路と、
前記第1の遅延回路の入力と前記第1又は第2の遅延回路の出力との差分を演算する第1の減算器と、
前記第3又は第2の遅延回路の入力と前記第3の遅延回路の出力との差分を演算する第2の減算器と、
前記第1及び第2の演算器の出力の差分を演算してその演算結果を周波数の時間変化として出力する第3の減算器と
を備えたことを特徴とする請求項1記載の無線通信装置。
【請求項3】
前記チャープレーダ判定部は、
前記周波数時間変化計算部で算出された周波数の時間変化の値のヒストグラムを生成し、このヒストグラムが所定の周波数の時間変化の値でピークを持つかどうかで前記受信信号がチャープレーダ信号であると判定するものである
ことを特徴とする請求項1又は2記載の無線通信装置。
【請求項4】
前記チャープレーダ判定部は、前記第3の減算器により算出された周波数の時間変化の値を2つ以上受けて、2つの値の絶対値がそれぞれ所定値以上であり、且つ2つの値の差が所定値より小さい場合に、前記受信信号がチャープレーダ信号であると判定するものである
ことを特徴とする請求項1又は2記載の無線通信装置。
【請求項5】
前記第1乃至第3の遅延回路は、想定されるチャープレーダ波形の周波数範囲に対して、前記周波数時間変化計算部により算出された周波数の時間変化が0とならないように、その遅延時間が設定されている
ことを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項記載の無線通信装置。
【請求項6】
チャープレーダ検出回路により前記受信信号がチャープレーダ信号であると判定された場合、受信信号とは異なる周波数帯域のチャネルに切り替えて無線通信を実行する周波数帯域選択部をさらに備える
ことを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項記載の無線通信装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2011−53117(P2011−53117A)
【公開日】平成23年3月17日(2011.3.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−203131(P2009−203131)
【出願日】平成21年9月2日(2009.9.2)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年3月17日(2011.3.17)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年9月2日(2009.9.2)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】
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