熱交換器の製造方法
【課題】 軽量で生産性に優れたアルミダイキャストを用い、冷却水の流路の水密性を良好に得ることができ、接合加工費を抑制できる熱交換器の製造方法を提供すること。
【解決手段】 摩擦攪拌接合工程と、摩擦攪拌接合部22の有する面にパワーモジュール1との接触面を形成する加工工程を備え、アルミダイキャスト製のロワケース5の摩擦攪拌接合を行う部分を他の鋳肌面部分より高くした接合使用部57を設けて、加工工程の鋳肌面部分での加工代を少なくした。
【解決手段】 摩擦攪拌接合工程と、摩擦攪拌接合部22の有する面にパワーモジュール1との接触面を形成する加工工程を備え、アルミダイキャスト製のロワケース5の摩擦攪拌接合を行う部分を他の鋳肌面部分より高くした接合使用部57を設けて、加工工程の鋳肌面部分での加工代を少なくした。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主に直交流の変換を行うインバーターの冷却に用いられる熱交換器の技術分野に属する。
【背景技術】
【0002】
従来では、アルミダイキャスト等の鋳造工程により製造したケース体の設置面に溝として設けられた冷却水通路の内壁から突出させてフィンを設け、この冷却水通路を部材で閉塞し、冷却水を冷却水通路に流すことにより車両駆動用モータのインバーターの冷却を行っている(例えば、特許文献1。)。
【特許文献1】特開2007−202309号公報(第2−11頁、全図)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
従来にあっては、冷却水を流すための流路の形成のために2枚合わせの構造を取っている。部材として軽量で生産性に優れたアルミダイキャストを用い、溶接により接合しようとすると、高温で割れが生じる、ダイキャスト時に発生するブローホールが溶接時に膨張、破裂する等の問題があり溶接に不適で、水密性の悪化を招くものであった。
そのため、液状パッキン等のシール材と固定ボルト等で気密を確保する接合方法を用いると、加工費の増大を招いてしまっていた。
【0004】
本発明は、上記問題点に着目してなされたもので、その目的とするところは、軽量で生産性に優れたアルミダイキャストを用い、冷却水の流路の水密性を良好に得ることができ、接合加工費を抑制できる熱交換器の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するため、本発明では、2つの部材を接合して内部に流路を形成し、前記流路に冷媒を流して接触させた被冷却物と熱交換する熱交換器において、2つの部材を摩擦攪拌接合する摩擦攪拌接合工程と、前記摩擦攪拌接合工程の後に、接合部分の有する面に前記被冷却物との接触面を形成する加工工程と、を備え、少なくとも一方をアルミダイキャスト製とし、アルミダイキャスト製の部材の前記摩擦攪拌接合を行う部分を他の鋳肌面部分より高くする段差を設けて、前記加工工程の鋳肌面部分での加工代を少なくした、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0006】
よって、本発明にあっては、軽量で生産性に優れたアルミダイキャストを用い、冷却水の流路の水密性を良好に得ることができ、接合加工費を抑制できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下、本発明の熱交換器の製造方法及び熱交換器を実現する実施の形態を、請求項1,2,4に係る発明に対応する実施例1と、請求項1,2,3,4に係る発明に対応する実施例2とに基づいて説明する。
【実施例1】
【0008】
まず、熱交換器の構成を説明する。
図1は実施例1の熱交換器にパワーモジュールを取り付けてインバーターで用いる状態を示す説明断面図である。図2は実施例1の熱交換器にパワーモジュールを取り付けてインバーターで用いる状態の説明分解図である。
実施例1では、車両の駆動に用いるインバーターにおいて、電源供給を行うパワーモジュール1を熱交換器2により冷却する。まず、パワーモジュール1と熱交換器2との組付け構造について説明する。熱交換器2の各部の詳細構造については後述する。
【0009】
実施例1では、パワーモジュール1は図1に示すように左右に2対のものである。そのため、熱交換器2はこれに対応して内部の冷却部を左右に2対で内蔵する構造にしている。
この熱交換器2では、ロワケース5の流路部52の開口端となる上端部に、基準面51から矩形に凹んだ部分を嵌合部56として設け、そこにアッパーケース4の矩形板状部分を嵌合させるようにし、流路21を形成しない重なり部分で摩擦攪拌接合を行うように、摩擦攪拌接合部22を設けるようにする。
【0010】
この嵌合では、アッパーケース4の下面に突出するように設けられている放熱フィン3が、ロワケース5の流路部52内に収容されるようにし、アッパーケース4の上面とロワケース5の上面である基準面51がパワーモジュール1を載置する面を構成する。
そして、摩擦攪拌接合工法により、水密性のある流路21を形成するように、アッパーケース4とロワケース5を接合する。
摩擦攪拌接合は、例えば特開2002−210570公報に示すように、2つの被接合部材の合わせ部分にピンを回転させながら移動することにより、摩擦熱により母材を攪拌させる接合方法である。これにより溶かし込み材や余肉を有することなく接合を行える。
【0011】
このようにして、内部に放熱フィン3を備えた流路21を形成した熱交換器2のアッパーケース4の上面に、パワーモジュール1を載せるように配置する。
パワーモジュール1には締結用孔11を設けておくようにし、アッパーケース4の締結用孔11と重なる位置には貫通孔41を設けておくようにし、ロワケース5の締結用孔11と重なる位置にはねじ孔55を設けておくようにする。
そして、ボルト6を締結用孔11と貫通孔41に貫通させ、ねじ孔55に締結するようにして、パワーモジュール1を熱交換器2に取り付ける。すると、パワーモジュール1の底面がアッパーケース4の上面に面接した状態となる。
これにより熱交換器2でパワーモジュール1の底面を冷却する構造となる。
【0012】
次に熱交換器の各部の詳細構造について説明する。
図3は実施例1の熱交換器の一部の平面図である。図4は実施例1の熱交換器の一部の正面図である。図5は図1のA−A断面図である。
熱交換器2は、放熱フィン3、アッパーケース4、ロワケース5を主要な構成とし、図3〜図5に示す流路21に冷却水を流すことにより冷却を行うものである。なお、以下の熱交換器2の詳細説明においては、説明上、パワーモジュール1に対応して2対に設ける構造のうち、一方のみを説明し、同様の構造であるため他方の説明を省略する。
【0013】
図6は実施例1の放熱フィンが設けられたアッパーケースの一部の平面図である。図7は実施例1の放熱フィンが設けられたアッパーケースの一部の正面図である。
放熱フィン3は、アッパーケース4の下面から下方に突出した矩形の舌片である。図3、図4に示すように同じ方向を長手方向として、所定の間隔で複数配置されたものである。実施例1ではアッパーケース4から押し出し工法により形成されたものとする。
実施例1において、放熱フィン3、アッパーケース4はアルミを材質とするものとする。放熱フィン3は、アッパーケース4と一体にアルミで形成されるため高い伝熱性を有し、熱交換する表面積を広くすることにより熱交換を促進する。
【0014】
アッパーケース4は、矩形板状のアルミ部材であり、下面には放熱フィン3が複数配列して設けられる。そして、放熱フィン3が設けられている範囲が、冷却水の流路21の上壁となる。
放熱フィン3、アッパーケース4についてさらに説明する。
図8は実施例1の放熱フィンがアッパーケースに押し出し工法で設けられた一部の状態を示す説明平面図である。図9は実施例1の放熱フィンがアッパーケースに押し出し工法で設けられた一部の状態を示す説明正面図である。
【0015】
アッパーケース4に放熱フィン3を設ける場合には、図8、図9に示すように、アッパーケース4の下面全体に放熱フィン3が同じ長手方向で所定の間隔となるように設ける。このように均一に放熱フィン3を設けることにより、偏って押し出し形状を複雑にすることなく、流路21の変更機種への対応高く、放熱フィン3が設けられる。
そして、図8、図9に示す1面に設けた放熱フィン3の不要部分を切除することにより、つまり流路21の部分以外を切除することにより図6、図7に示す放熱フィン3が形成される。
【0016】
図10は実施例1の熱交換器のロワケースの一部の平面図である。図11は実施例1の熱交換器のロワケースの一部の正面図である。
ロワケース5は、矩形板状の上面を基準面51とし、基準面51から矩形に凹んだ部分を嵌合部56として設ける。そして、この嵌合部56の上面からさらに凹むようにして流路部52が形成されている。流路部52は、長手方向に伸びる直進部521と、曲がり部522からなり、蛇行する流れとなる形状である。
ここで、実施例1の放熱フィン3は、流路部52の直進部521に収容される部分のみに設けるものとし、曲がり部522に収容される部分は切除される。
【0017】
さらにロワケース5には、図10において正面側となる側面から内部の流路部52の始端部及び終端部と連通する連通路53,54を設けるようにし、冷却水の取り入れ口、排出口とする。
また、流路部52を蛇行させるよう流路を仕切るロワケース5の部分は、図10に示すように、直線状に設けるのみでなく、直線を途中で斜めにし、次の直線に移る言わばオフセットするように設けて、冷却水の流量や流速を変更する部分を設けるようにすればよい。
なお、実施例1において、熱交換器2は2組の冷却構造を有するので、流路21を連結して2組で一つの連通路53,54を備える構造にしてもよい。
【0018】
図12は実施例1の熱交換器のロワケースの平面図である。図13は図12のB−B断面の一部拡大図である。
ロワケース5は、上面全体を基準面51とし、さらに図12、図13に示すように、アッパーケース4を嵌合させる嵌合部56の周囲を矩形に囲み、且つ摩擦攪拌接合部22のロワケース5の側を含む形状、大きさで、基準面51より高さ(高さ方向の厚さ)を高くした接合使用部57を設ける。
【0019】
作用を説明する。
[アルミダイキャストにおいて水密性と加工費の抑制を得る作用]
(摩擦攪拌接合工程)
実施例1の熱交換器では、アッパーケース4とロワケース5の接合を、摩擦攪拌接合により行う。そのため、アッパーケース4とロワケース5の一方、または両方をアルミダイキャスト製としても、溶接時の高温割れや、ブローホールの溶接時の膨れ(膨張・破裂)等を生じることがなく、良好な水密性を得ることができる。
摩擦攪拌接合は、接合とともにシールも可能であることから、パッキン、Oリング、液状ガスケット等のシール材や取り付け用ネジ等を省くことが可能となり、部品点数削減と組み付け加工工数低減を得ることになる。
また、摩擦攪拌接合は、接合時の発生温度を低く抑えることができ、且つ加工温度に曝される部位を少なくすることができるために熱歪みが少なく、アッパーケース4及びロワケース5の歪みを無視できるレベルにすることが可能となる。
【0020】
(摩擦攪拌接合後の加工工程)
図14に示すのは、実施例1における摩擦攪拌接合後の製造工程の説明図である。図15は実施例1における摩擦攪拌接合後の状態を示す一部拡大説明図である。図16は実施例1における摩擦攪拌接合後の加工後の状態を示す一部拡大説明図である。
実施例1の熱交換器2の製造工程のアッパーケース4とロワケース5の摩擦攪拌接合においては、摩擦攪拌を行う工具(加工ショルダ)が回転しながら、アッパーケース4とロワケース5の摩擦攪拌接合部22を押し込みながら通過して行く(図15のツール押し込み段差t2を参照)。その際には、摩擦攪拌接合部22が押し込まれ、且つその両側、つまり、アッパーケース4の上面とロワケース5の上面に加工バリ101,102が生じることになる。この加工バリ101,102は接合面より高く肉が盛り上がることになる(図14(a)、図15参照)。
【0021】
実施例1では、ロワケース5に接合使用部57を設けることにより、この加工バリ102が、接合使用部57の範囲で収まるようにしている(図15の母材表面t1、母材段差t3を参照)。
そして、次の工程として、この加工バリ101,102を除去し、その後に取り付けられるパワーモジュール1との接触面積を確保するために、アッパーケース4及びロワケース5の上面を所定の切削代で切削加工(又は研削加工)する(図14(b)、図16参照)。
この上面の加工代は、特にロワケース5においては、摩擦攪拌接合部22の深さのバラツキに対する余裕代、加工バリ102の確実な除去を行うための余裕代を持たせることになる。
アッパーケース4及びロワケース5のパワーモジュール1の接触面(冷却対象部品搭載面t5)と、アッパーケース4の切削代t4、ロワケース5の切削代t6の関係は図16のようになる。
【0022】
しかしながら、実施例1では、摩擦攪拌接合及びその加工バリが接合使用部57の部分で収まるために、加工代の設定は、接合使用部57の除去及び平面にするための基準面51の所定の加工代となる。そのため、ロワケース5の基準面51の加工代は非常に少ない加工代に抑制される。
具体的には、アルミダイキャスト製部品は鋳肌からおよそ0.5mm程度以上、切削(研削)すると、内部の鋳巣が現れるので、バラツキ等を考慮し、基準面51からの切削代(研削代)を0.3mm以下にする。
これにより、アルミダイキャスト製のロワケース5の内部に存在する鋳巣201が表面に現れることがない。
【0023】
そのため、アルミダイキャストを用いても、冷却する対象であるパワーモジュール1との接触面積が充分に確保され、良好な冷却性能が発揮される。
これにより、アルミダイキャストを用いた摩擦攪拌接合と切削加工(又は研削加工)により熱交換器2が製造できるため、加工費が抑制される。
(ねじ加工工程)
接合されたアッパーケース4及びロワケース5の上面を加工した後には、一部をアッパーケース4の貫通孔41の位置とするねじ孔55を設ける加工を行う(図14(c)参照)。
(組付工程)
ねじ加工後には、パワーモジュール1をボルト6で取り付ける工程を行い、図1に示す状態となる(図14(d)参照)。
【0024】
実施例1の作用を明確にするために、さらに説明を加える。
図17は摩擦攪拌接合後の製造工程の一例を示す説明図である。
熱交換器2において、冷媒流路を設けるために、アッパーケース4とロワケース5の2体構造とした場合には、生産性、コストからアルミダイキャストを用いる。その接合方法として、液状パッキン等のシール材と固定ボルトで気密性を確保するようにすると、加工費が増大する。これに対して、摩擦攪拌接合を用い、熱交換器2のアッパーケース4とロワケース5を接合し、その後にパワーモジュールを取り付けるための後工程としては、次のように行うことが考えられる。
【0025】
まず、アッパーケース4をロワケース5の嵌合部56へ嵌合させた際に、アッパーケース4の上面とロワケース5の基準面51の高さがほぼ同じ高さとなるようにし、摩擦攪拌接合を行う(図17(a)参照)。
次に、摩擦攪拌接合で生じた加工バリを除去するため、アッパーケース4の上面とロワケース5の基準面51に対して所定の加工代で切削(研削)する(図17(b)参照)。
そして、その後に、一部をアッパーケース4の貫通孔41の位置とするねじ孔55を設ける加工を行う(図17(c)参照)。その後、パワーモジュール1が組み付けられる(図17(d)参照)。
【0026】
ここで、加工バリの除去を行う切削加工(研削加工)では、摩擦攪拌接合のバラツキや加工バリのバラツキを考慮して、パワーモジュール1との熱伝導が良好に可能となる熱交換器2の上面を形成するために、ある程度の加工代が必要となる。しかし、アルミダイキャストのロワケース5の内部には、鋳巣201が存在していることがあるために、摩擦攪拌接合のバラツキや加工バリのバラツキを条件して設定した加工代で加工すると、鋳巣201が上面(基準面51)に現れることがある。
【0027】
この部分では、冷却対象のパワーモジュール1と鋳巣201の分、空間を介して熱伝導されるため、熱抵抗が増加することになり、冷却性能がその分低下してしまう。
また、アルミダイキャストのロワケース5において、内部の鋳巣201を表面化させることは、気密性不良の発生数を増加させてしまう。
両者は、結果的に製造コストを増加させてしまう。
実施例1においては、これに対して、アルミダイキャスト製のロワケース5の鋳造肌からの加工代を少なくできるため、内部の鋳巣201を表面化させないようにでき、製造コストを抑制する。
【0028】
[パワーモジュールの冷却作用]
実施例1の熱交換器2の冷却作用について、以下に説明する。
実施例1の熱交換器2では、連通路53に冷却水を注入し,連通路54から冷却水を排水させる。この冷却水は、例えばインバーターが車両の駆動に用いられるものとすれば、空調システムや駆動用モータ冷却システム、あるいは別個に設けられる冷却システムから冷却水を得るようにし、供給される冷却水が冷却に有効な状態になるよう循環されるものとする。実施例1では冷却水として説明するが、冷媒であればよい。
【0029】
冷却水は連通路53から流路21のロワケース5の直進部521の部分を直進する。この直進部521の部分では、放熱フィン3により表面積広く熱交換が行われ、熱交換が促進される。また、この直進部521の部分では、放熱フィン3により複数の小流路が並列し、互いの小流路同士はあまり流通しない状態となる。
そして、流路21のロワケース5の曲がり部522の部分では、放熱フィン3が設けられていない部分であるので、曲がり部522の形状によりほぼ180°、流れの向きが変わる。そして、次の直進部521の部分へと流れる。このようにして、冷却水は蛇行して流れ、多くの水量が流れつつ流路21内にあることにより、そして放熱フィン3により広い面積と接触することにより効率よく冷却が行われる。
【0030】
また、冷却の際には、アッパーケース4の上面に冷却対象物であるパワーモジュール1が面接していることになる。そのため、放熱フィン3の冷却は同じ部材の熱伝達によりアッパーケース4の上面で行われることになり、非常に効率がよい。
また、放熱フィン3をアッパーケース4からの押し出し成形とすることより、アッパーケース4はアルミ鋳物品より材質特性上、熱伝導率が向上し、放熱フィン3の形状を単純化しても放熱性能を維持でき、通水抵抗の低減を図る放熱フィン3の形状にすることができる。
さらに、放熱フィン3をアッパーケース4からの押し出し成形とすることより、アルミ鋳物品とするよりもファイン形状化、つまり、薄肉、低ピッチにすることが可能になる。そのため、フィン形状を単純化しても放熱性能を維持することができ、通水抵抗も低減される。
【0031】
次に、効果を説明する。
実施例1の熱交換器にあっては、下記に列挙する効果を得ることができる。
(1)アッパーケース4とロワケース5を接合して内部に流路21を形成し、流路21に冷媒を流して接触させたパワーモジュール1と熱交換する熱交換器2において、アッパーケース4とロワケース5を摩擦攪拌接合する摩擦攪拌接合工程と、摩擦攪拌接合工程の後に、摩擦攪拌接合部22の有する面にパワーモジュール1との接触面を形成する加工工程を備え、ロワケース5をアルミダイキャスト製とし、アルミダイキャスト製のロワケース5の摩擦攪拌接合を行う部分を他の鋳肌面部分より高くした接合使用部57を設けて、加工工程の鋳肌面部分での加工代を少なくしたため、軽量で生産性に優れたアルミダイキャストを用い、冷却水の流路の水密性を良好に得ることができ、接合加工費を抑制できる。また、熱交換性、機密性を良好に得る熱交換器2にすることができる。
【0032】
(2)上記(1)において、摩擦攪拌接合による押し込みや加工バリが、他の鋳肌面部分より高くした部分で収まるようにして、加工工程では、摩擦攪拌接合工程の状態にかかわらず、加工量を一定にしたため、加工工程で、他の鋳肌面が加工される量は一定となり、確率的にアルミダイキャスト製のロワケース5の内部に生じる鋳巣201が表面に現れることがないことは非常に確実にできる。これにより製造コストが低下できる。
【0033】
(4)上記(1)又は(2)において、ロワケース5をアルミダイキャスト製としたアッパーケース4とロワケース5を、摩擦攪拌接合で接合して内部に流路を形成し、流路21に冷媒を流して接触させたパワーモジュール1と熱交換する熱交換器2であって、アルミダイキャスト製のロワケース5の摩擦攪拌接合を行う摩擦攪拌接合部22を他の鋳肌面部分より高くする接合使用部57を備え、摩擦攪拌接合の後に、接合部分の有する面にパワーモジュール1との接触面を形成する加工の鋳肌面部分での加工代を少なくしたため、軽量で生産性に優れたアルミダイキャストを用い、冷却水の流路の水密性を良好に得ることができ、接合加工費を抑制できる。また、熱交換性、機密性を良好に得る熱交換器2にすることができる。
【実施例2】
【0034】
実施例2の熱交換器の製造方法は、アッパーケース4をアルミダイキャスト製とした例である。
まず、構成を説明する。
図18は実施例2の熱交換器のアッパーケースの一部の平面図である。図19は実施例2の熱交換器のアッパーケースの一部の正面図である。
実施例2では、アッパーケース4をアルミダイキャスト製とし、その上面で、摩擦攪拌接合部22となる周縁部分に接合使用部42を設ける。
接合使用部42は、ロワケース5に設けた接合使用部57と同様に、摩擦攪拌接合工程における加工具の押し込み量や加工バリがそこで収まる高さ、幅で設けるようにする。
その他構成は実施例1と同様であるので、説明を省略する。
【0035】
作用を説明する。
[アルミダイキャストにおいて水密性と加工費の抑制を得る作用]
実施例2では、アッパーケース4をアルミダイキャスト製にするため、鋳巣の問題がロワケース5と同様に生じることになる。
そのため、接合使用部42を設けることにより、矩形の周縁部分の内側に位置する鋳肌の上面は、ロワケース5と同様に、加工工程における加工代は少ないものとなるため、鋳巣が表面に現れることが非常に抑制される。
これによって、アッパーケース4をアルミダイキャスト製にしても、問題なく良好な熱交換性、気密性を得る。そして、これにより製造コストが抑制される。
なお、接合使用部42及び接合使用部57は、摩擦攪拌接合されるため、鋳巣が表面に現れることはない。
【0036】
効果を説明する。
実施例2の熱交換器の製造方法にあっては、上記(1),(2),(4)に加えて以下の効果を有する。
(3)上記(1)又は(2)において、アッパーケース4及びロワケース5の両方をアルミダイキャスト製とし、アッパーケース4及びロワケース5の摩擦攪拌接合を行う部分を他の鋳肌面部分より高くする接合使用部42と接合使用部57を設けて、加工工程の鋳肌面部分での加工代を少なくしたため、アッパーケース4とロワケース5の両方を製造コストに優れたアルミダイキャスト製にしても、良好な接合性、熱交換性(熱伝導性)、気密性を得ることができ、これにより製造コストを抑制することができる。
その他作用効果は実施例1と同様であるので説明を省略する。
【0037】
以上、本発明の熱交換器の製造方法を実施例1、実施例2に基づき説明してきたが、具体的な構成については、これらの実施例に限られるものではなく、特許請求の範囲の各請求項に係る発明の要旨を逸脱しない限り、設計の変更や追加等は許容される。
【0038】
(他の実施例)
例えば熱交換器は、流路形状や放熱フィンの数、配置、形状(例えば波型や角R形状)が他のものであってもよい。
パワーモジュール及び熱交換器の冷却構造は、1組であっても、3組以上であってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】実施例1の熱交換器にパワーモジュールを取り付けてインバーターで用いる状態を示す説明断面図である。
【図2】実施例1の熱交換器にパワーモジュールを取り付けてインバーターで用いる状態の説明分解図である。
【図3】実施例1の熱交換器の一部の平面図である。
【図4】実施例1の熱交換器の一部の正面図である。
【図5】図1のA−A断面図である。
【図6】実施例1の放熱フィンが設けられたアッパーケースの一部の平面図である。
【図7】実施例1の放熱フィンが設けられたアッパーケースの一部の正面図である。
【図8】実施例1の放熱フィンがアッパーケースに押し出し工法で設けられた一部の状態を示す説明平面図である。
【図9】実施例1の放熱フィンがアッパーケースに押し出し工法で設けられた一部の状態を示す説明正面図である。
【図10】実施例1の熱交換器のロワケースの一部の平面図である。
【図11】実施例1の熱交換器のロワケースの一部の正面図である。
【図12】実施例1の熱交換器のロワケースの平面図である。
【図13】図12のB−B断面の一部拡大図である。
【図14】実施例1における摩擦攪拌接合後の製造工程の説明図である。
【図15】実施例1における摩擦攪拌接合後の状態を示す一部拡大説明図である。
【図16】実施例1における摩擦攪拌接合後の加工後の状態を示す一部拡大説明図である。
【図17】摩擦攪拌接合後の製造工程の一例を示す説明図である。
【図18】実施例2の熱交換器のアッパーケースの一部の平面図である。
【図19】実施例2の熱交換器のアッパーケースの一部の正面図である。
【符号の説明】
【0040】
1 パワーモジュール
11 締結用孔
2 熱交換器
21 流路
22 摩擦攪拌接合部
3 放熱フィン
4 アッパーケース
41 貫通孔
42 接合使用部
5 ロワケース
51 基端面
52 流路部
521 直進部
522 曲がり部
53 連通路
54 連通路
55 ねじ孔
56 嵌合部
57 接合使用部
6 ボルト
101,102 加工バリ
201 鋳巣
t1 母材表面
t2 ツール押し込み段差
t3 母材段差
t4 切削代
t5 冷却対象部品搭載面
t6 切削代
【技術分野】
【0001】
本発明は、主に直交流の変換を行うインバーターの冷却に用いられる熱交換器の技術分野に属する。
【背景技術】
【0002】
従来では、アルミダイキャスト等の鋳造工程により製造したケース体の設置面に溝として設けられた冷却水通路の内壁から突出させてフィンを設け、この冷却水通路を部材で閉塞し、冷却水を冷却水通路に流すことにより車両駆動用モータのインバーターの冷却を行っている(例えば、特許文献1。)。
【特許文献1】特開2007−202309号公報(第2−11頁、全図)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
従来にあっては、冷却水を流すための流路の形成のために2枚合わせの構造を取っている。部材として軽量で生産性に優れたアルミダイキャストを用い、溶接により接合しようとすると、高温で割れが生じる、ダイキャスト時に発生するブローホールが溶接時に膨張、破裂する等の問題があり溶接に不適で、水密性の悪化を招くものであった。
そのため、液状パッキン等のシール材と固定ボルト等で気密を確保する接合方法を用いると、加工費の増大を招いてしまっていた。
【0004】
本発明は、上記問題点に着目してなされたもので、その目的とするところは、軽量で生産性に優れたアルミダイキャストを用い、冷却水の流路の水密性を良好に得ることができ、接合加工費を抑制できる熱交換器の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するため、本発明では、2つの部材を接合して内部に流路を形成し、前記流路に冷媒を流して接触させた被冷却物と熱交換する熱交換器において、2つの部材を摩擦攪拌接合する摩擦攪拌接合工程と、前記摩擦攪拌接合工程の後に、接合部分の有する面に前記被冷却物との接触面を形成する加工工程と、を備え、少なくとも一方をアルミダイキャスト製とし、アルミダイキャスト製の部材の前記摩擦攪拌接合を行う部分を他の鋳肌面部分より高くする段差を設けて、前記加工工程の鋳肌面部分での加工代を少なくした、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0006】
よって、本発明にあっては、軽量で生産性に優れたアルミダイキャストを用い、冷却水の流路の水密性を良好に得ることができ、接合加工費を抑制できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下、本発明の熱交換器の製造方法及び熱交換器を実現する実施の形態を、請求項1,2,4に係る発明に対応する実施例1と、請求項1,2,3,4に係る発明に対応する実施例2とに基づいて説明する。
【実施例1】
【0008】
まず、熱交換器の構成を説明する。
図1は実施例1の熱交換器にパワーモジュールを取り付けてインバーターで用いる状態を示す説明断面図である。図2は実施例1の熱交換器にパワーモジュールを取り付けてインバーターで用いる状態の説明分解図である。
実施例1では、車両の駆動に用いるインバーターにおいて、電源供給を行うパワーモジュール1を熱交換器2により冷却する。まず、パワーモジュール1と熱交換器2との組付け構造について説明する。熱交換器2の各部の詳細構造については後述する。
【0009】
実施例1では、パワーモジュール1は図1に示すように左右に2対のものである。そのため、熱交換器2はこれに対応して内部の冷却部を左右に2対で内蔵する構造にしている。
この熱交換器2では、ロワケース5の流路部52の開口端となる上端部に、基準面51から矩形に凹んだ部分を嵌合部56として設け、そこにアッパーケース4の矩形板状部分を嵌合させるようにし、流路21を形成しない重なり部分で摩擦攪拌接合を行うように、摩擦攪拌接合部22を設けるようにする。
【0010】
この嵌合では、アッパーケース4の下面に突出するように設けられている放熱フィン3が、ロワケース5の流路部52内に収容されるようにし、アッパーケース4の上面とロワケース5の上面である基準面51がパワーモジュール1を載置する面を構成する。
そして、摩擦攪拌接合工法により、水密性のある流路21を形成するように、アッパーケース4とロワケース5を接合する。
摩擦攪拌接合は、例えば特開2002−210570公報に示すように、2つの被接合部材の合わせ部分にピンを回転させながら移動することにより、摩擦熱により母材を攪拌させる接合方法である。これにより溶かし込み材や余肉を有することなく接合を行える。
【0011】
このようにして、内部に放熱フィン3を備えた流路21を形成した熱交換器2のアッパーケース4の上面に、パワーモジュール1を載せるように配置する。
パワーモジュール1には締結用孔11を設けておくようにし、アッパーケース4の締結用孔11と重なる位置には貫通孔41を設けておくようにし、ロワケース5の締結用孔11と重なる位置にはねじ孔55を設けておくようにする。
そして、ボルト6を締結用孔11と貫通孔41に貫通させ、ねじ孔55に締結するようにして、パワーモジュール1を熱交換器2に取り付ける。すると、パワーモジュール1の底面がアッパーケース4の上面に面接した状態となる。
これにより熱交換器2でパワーモジュール1の底面を冷却する構造となる。
【0012】
次に熱交換器の各部の詳細構造について説明する。
図3は実施例1の熱交換器の一部の平面図である。図4は実施例1の熱交換器の一部の正面図である。図5は図1のA−A断面図である。
熱交換器2は、放熱フィン3、アッパーケース4、ロワケース5を主要な構成とし、図3〜図5に示す流路21に冷却水を流すことにより冷却を行うものである。なお、以下の熱交換器2の詳細説明においては、説明上、パワーモジュール1に対応して2対に設ける構造のうち、一方のみを説明し、同様の構造であるため他方の説明を省略する。
【0013】
図6は実施例1の放熱フィンが設けられたアッパーケースの一部の平面図である。図7は実施例1の放熱フィンが設けられたアッパーケースの一部の正面図である。
放熱フィン3は、アッパーケース4の下面から下方に突出した矩形の舌片である。図3、図4に示すように同じ方向を長手方向として、所定の間隔で複数配置されたものである。実施例1ではアッパーケース4から押し出し工法により形成されたものとする。
実施例1において、放熱フィン3、アッパーケース4はアルミを材質とするものとする。放熱フィン3は、アッパーケース4と一体にアルミで形成されるため高い伝熱性を有し、熱交換する表面積を広くすることにより熱交換を促進する。
【0014】
アッパーケース4は、矩形板状のアルミ部材であり、下面には放熱フィン3が複数配列して設けられる。そして、放熱フィン3が設けられている範囲が、冷却水の流路21の上壁となる。
放熱フィン3、アッパーケース4についてさらに説明する。
図8は実施例1の放熱フィンがアッパーケースに押し出し工法で設けられた一部の状態を示す説明平面図である。図9は実施例1の放熱フィンがアッパーケースに押し出し工法で設けられた一部の状態を示す説明正面図である。
【0015】
アッパーケース4に放熱フィン3を設ける場合には、図8、図9に示すように、アッパーケース4の下面全体に放熱フィン3が同じ長手方向で所定の間隔となるように設ける。このように均一に放熱フィン3を設けることにより、偏って押し出し形状を複雑にすることなく、流路21の変更機種への対応高く、放熱フィン3が設けられる。
そして、図8、図9に示す1面に設けた放熱フィン3の不要部分を切除することにより、つまり流路21の部分以外を切除することにより図6、図7に示す放熱フィン3が形成される。
【0016】
図10は実施例1の熱交換器のロワケースの一部の平面図である。図11は実施例1の熱交換器のロワケースの一部の正面図である。
ロワケース5は、矩形板状の上面を基準面51とし、基準面51から矩形に凹んだ部分を嵌合部56として設ける。そして、この嵌合部56の上面からさらに凹むようにして流路部52が形成されている。流路部52は、長手方向に伸びる直進部521と、曲がり部522からなり、蛇行する流れとなる形状である。
ここで、実施例1の放熱フィン3は、流路部52の直進部521に収容される部分のみに設けるものとし、曲がり部522に収容される部分は切除される。
【0017】
さらにロワケース5には、図10において正面側となる側面から内部の流路部52の始端部及び終端部と連通する連通路53,54を設けるようにし、冷却水の取り入れ口、排出口とする。
また、流路部52を蛇行させるよう流路を仕切るロワケース5の部分は、図10に示すように、直線状に設けるのみでなく、直線を途中で斜めにし、次の直線に移る言わばオフセットするように設けて、冷却水の流量や流速を変更する部分を設けるようにすればよい。
なお、実施例1において、熱交換器2は2組の冷却構造を有するので、流路21を連結して2組で一つの連通路53,54を備える構造にしてもよい。
【0018】
図12は実施例1の熱交換器のロワケースの平面図である。図13は図12のB−B断面の一部拡大図である。
ロワケース5は、上面全体を基準面51とし、さらに図12、図13に示すように、アッパーケース4を嵌合させる嵌合部56の周囲を矩形に囲み、且つ摩擦攪拌接合部22のロワケース5の側を含む形状、大きさで、基準面51より高さ(高さ方向の厚さ)を高くした接合使用部57を設ける。
【0019】
作用を説明する。
[アルミダイキャストにおいて水密性と加工費の抑制を得る作用]
(摩擦攪拌接合工程)
実施例1の熱交換器では、アッパーケース4とロワケース5の接合を、摩擦攪拌接合により行う。そのため、アッパーケース4とロワケース5の一方、または両方をアルミダイキャスト製としても、溶接時の高温割れや、ブローホールの溶接時の膨れ(膨張・破裂)等を生じることがなく、良好な水密性を得ることができる。
摩擦攪拌接合は、接合とともにシールも可能であることから、パッキン、Oリング、液状ガスケット等のシール材や取り付け用ネジ等を省くことが可能となり、部品点数削減と組み付け加工工数低減を得ることになる。
また、摩擦攪拌接合は、接合時の発生温度を低く抑えることができ、且つ加工温度に曝される部位を少なくすることができるために熱歪みが少なく、アッパーケース4及びロワケース5の歪みを無視できるレベルにすることが可能となる。
【0020】
(摩擦攪拌接合後の加工工程)
図14に示すのは、実施例1における摩擦攪拌接合後の製造工程の説明図である。図15は実施例1における摩擦攪拌接合後の状態を示す一部拡大説明図である。図16は実施例1における摩擦攪拌接合後の加工後の状態を示す一部拡大説明図である。
実施例1の熱交換器2の製造工程のアッパーケース4とロワケース5の摩擦攪拌接合においては、摩擦攪拌を行う工具(加工ショルダ)が回転しながら、アッパーケース4とロワケース5の摩擦攪拌接合部22を押し込みながら通過して行く(図15のツール押し込み段差t2を参照)。その際には、摩擦攪拌接合部22が押し込まれ、且つその両側、つまり、アッパーケース4の上面とロワケース5の上面に加工バリ101,102が生じることになる。この加工バリ101,102は接合面より高く肉が盛り上がることになる(図14(a)、図15参照)。
【0021】
実施例1では、ロワケース5に接合使用部57を設けることにより、この加工バリ102が、接合使用部57の範囲で収まるようにしている(図15の母材表面t1、母材段差t3を参照)。
そして、次の工程として、この加工バリ101,102を除去し、その後に取り付けられるパワーモジュール1との接触面積を確保するために、アッパーケース4及びロワケース5の上面を所定の切削代で切削加工(又は研削加工)する(図14(b)、図16参照)。
この上面の加工代は、特にロワケース5においては、摩擦攪拌接合部22の深さのバラツキに対する余裕代、加工バリ102の確実な除去を行うための余裕代を持たせることになる。
アッパーケース4及びロワケース5のパワーモジュール1の接触面(冷却対象部品搭載面t5)と、アッパーケース4の切削代t4、ロワケース5の切削代t6の関係は図16のようになる。
【0022】
しかしながら、実施例1では、摩擦攪拌接合及びその加工バリが接合使用部57の部分で収まるために、加工代の設定は、接合使用部57の除去及び平面にするための基準面51の所定の加工代となる。そのため、ロワケース5の基準面51の加工代は非常に少ない加工代に抑制される。
具体的には、アルミダイキャスト製部品は鋳肌からおよそ0.5mm程度以上、切削(研削)すると、内部の鋳巣が現れるので、バラツキ等を考慮し、基準面51からの切削代(研削代)を0.3mm以下にする。
これにより、アルミダイキャスト製のロワケース5の内部に存在する鋳巣201が表面に現れることがない。
【0023】
そのため、アルミダイキャストを用いても、冷却する対象であるパワーモジュール1との接触面積が充分に確保され、良好な冷却性能が発揮される。
これにより、アルミダイキャストを用いた摩擦攪拌接合と切削加工(又は研削加工)により熱交換器2が製造できるため、加工費が抑制される。
(ねじ加工工程)
接合されたアッパーケース4及びロワケース5の上面を加工した後には、一部をアッパーケース4の貫通孔41の位置とするねじ孔55を設ける加工を行う(図14(c)参照)。
(組付工程)
ねじ加工後には、パワーモジュール1をボルト6で取り付ける工程を行い、図1に示す状態となる(図14(d)参照)。
【0024】
実施例1の作用を明確にするために、さらに説明を加える。
図17は摩擦攪拌接合後の製造工程の一例を示す説明図である。
熱交換器2において、冷媒流路を設けるために、アッパーケース4とロワケース5の2体構造とした場合には、生産性、コストからアルミダイキャストを用いる。その接合方法として、液状パッキン等のシール材と固定ボルトで気密性を確保するようにすると、加工費が増大する。これに対して、摩擦攪拌接合を用い、熱交換器2のアッパーケース4とロワケース5を接合し、その後にパワーモジュールを取り付けるための後工程としては、次のように行うことが考えられる。
【0025】
まず、アッパーケース4をロワケース5の嵌合部56へ嵌合させた際に、アッパーケース4の上面とロワケース5の基準面51の高さがほぼ同じ高さとなるようにし、摩擦攪拌接合を行う(図17(a)参照)。
次に、摩擦攪拌接合で生じた加工バリを除去するため、アッパーケース4の上面とロワケース5の基準面51に対して所定の加工代で切削(研削)する(図17(b)参照)。
そして、その後に、一部をアッパーケース4の貫通孔41の位置とするねじ孔55を設ける加工を行う(図17(c)参照)。その後、パワーモジュール1が組み付けられる(図17(d)参照)。
【0026】
ここで、加工バリの除去を行う切削加工(研削加工)では、摩擦攪拌接合のバラツキや加工バリのバラツキを考慮して、パワーモジュール1との熱伝導が良好に可能となる熱交換器2の上面を形成するために、ある程度の加工代が必要となる。しかし、アルミダイキャストのロワケース5の内部には、鋳巣201が存在していることがあるために、摩擦攪拌接合のバラツキや加工バリのバラツキを条件して設定した加工代で加工すると、鋳巣201が上面(基準面51)に現れることがある。
【0027】
この部分では、冷却対象のパワーモジュール1と鋳巣201の分、空間を介して熱伝導されるため、熱抵抗が増加することになり、冷却性能がその分低下してしまう。
また、アルミダイキャストのロワケース5において、内部の鋳巣201を表面化させることは、気密性不良の発生数を増加させてしまう。
両者は、結果的に製造コストを増加させてしまう。
実施例1においては、これに対して、アルミダイキャスト製のロワケース5の鋳造肌からの加工代を少なくできるため、内部の鋳巣201を表面化させないようにでき、製造コストを抑制する。
【0028】
[パワーモジュールの冷却作用]
実施例1の熱交換器2の冷却作用について、以下に説明する。
実施例1の熱交換器2では、連通路53に冷却水を注入し,連通路54から冷却水を排水させる。この冷却水は、例えばインバーターが車両の駆動に用いられるものとすれば、空調システムや駆動用モータ冷却システム、あるいは別個に設けられる冷却システムから冷却水を得るようにし、供給される冷却水が冷却に有効な状態になるよう循環されるものとする。実施例1では冷却水として説明するが、冷媒であればよい。
【0029】
冷却水は連通路53から流路21のロワケース5の直進部521の部分を直進する。この直進部521の部分では、放熱フィン3により表面積広く熱交換が行われ、熱交換が促進される。また、この直進部521の部分では、放熱フィン3により複数の小流路が並列し、互いの小流路同士はあまり流通しない状態となる。
そして、流路21のロワケース5の曲がり部522の部分では、放熱フィン3が設けられていない部分であるので、曲がり部522の形状によりほぼ180°、流れの向きが変わる。そして、次の直進部521の部分へと流れる。このようにして、冷却水は蛇行して流れ、多くの水量が流れつつ流路21内にあることにより、そして放熱フィン3により広い面積と接触することにより効率よく冷却が行われる。
【0030】
また、冷却の際には、アッパーケース4の上面に冷却対象物であるパワーモジュール1が面接していることになる。そのため、放熱フィン3の冷却は同じ部材の熱伝達によりアッパーケース4の上面で行われることになり、非常に効率がよい。
また、放熱フィン3をアッパーケース4からの押し出し成形とすることより、アッパーケース4はアルミ鋳物品より材質特性上、熱伝導率が向上し、放熱フィン3の形状を単純化しても放熱性能を維持でき、通水抵抗の低減を図る放熱フィン3の形状にすることができる。
さらに、放熱フィン3をアッパーケース4からの押し出し成形とすることより、アルミ鋳物品とするよりもファイン形状化、つまり、薄肉、低ピッチにすることが可能になる。そのため、フィン形状を単純化しても放熱性能を維持することができ、通水抵抗も低減される。
【0031】
次に、効果を説明する。
実施例1の熱交換器にあっては、下記に列挙する効果を得ることができる。
(1)アッパーケース4とロワケース5を接合して内部に流路21を形成し、流路21に冷媒を流して接触させたパワーモジュール1と熱交換する熱交換器2において、アッパーケース4とロワケース5を摩擦攪拌接合する摩擦攪拌接合工程と、摩擦攪拌接合工程の後に、摩擦攪拌接合部22の有する面にパワーモジュール1との接触面を形成する加工工程を備え、ロワケース5をアルミダイキャスト製とし、アルミダイキャスト製のロワケース5の摩擦攪拌接合を行う部分を他の鋳肌面部分より高くした接合使用部57を設けて、加工工程の鋳肌面部分での加工代を少なくしたため、軽量で生産性に優れたアルミダイキャストを用い、冷却水の流路の水密性を良好に得ることができ、接合加工費を抑制できる。また、熱交換性、機密性を良好に得る熱交換器2にすることができる。
【0032】
(2)上記(1)において、摩擦攪拌接合による押し込みや加工バリが、他の鋳肌面部分より高くした部分で収まるようにして、加工工程では、摩擦攪拌接合工程の状態にかかわらず、加工量を一定にしたため、加工工程で、他の鋳肌面が加工される量は一定となり、確率的にアルミダイキャスト製のロワケース5の内部に生じる鋳巣201が表面に現れることがないことは非常に確実にできる。これにより製造コストが低下できる。
【0033】
(4)上記(1)又は(2)において、ロワケース5をアルミダイキャスト製としたアッパーケース4とロワケース5を、摩擦攪拌接合で接合して内部に流路を形成し、流路21に冷媒を流して接触させたパワーモジュール1と熱交換する熱交換器2であって、アルミダイキャスト製のロワケース5の摩擦攪拌接合を行う摩擦攪拌接合部22を他の鋳肌面部分より高くする接合使用部57を備え、摩擦攪拌接合の後に、接合部分の有する面にパワーモジュール1との接触面を形成する加工の鋳肌面部分での加工代を少なくしたため、軽量で生産性に優れたアルミダイキャストを用い、冷却水の流路の水密性を良好に得ることができ、接合加工費を抑制できる。また、熱交換性、機密性を良好に得る熱交換器2にすることができる。
【実施例2】
【0034】
実施例2の熱交換器の製造方法は、アッパーケース4をアルミダイキャスト製とした例である。
まず、構成を説明する。
図18は実施例2の熱交換器のアッパーケースの一部の平面図である。図19は実施例2の熱交換器のアッパーケースの一部の正面図である。
実施例2では、アッパーケース4をアルミダイキャスト製とし、その上面で、摩擦攪拌接合部22となる周縁部分に接合使用部42を設ける。
接合使用部42は、ロワケース5に設けた接合使用部57と同様に、摩擦攪拌接合工程における加工具の押し込み量や加工バリがそこで収まる高さ、幅で設けるようにする。
その他構成は実施例1と同様であるので、説明を省略する。
【0035】
作用を説明する。
[アルミダイキャストにおいて水密性と加工費の抑制を得る作用]
実施例2では、アッパーケース4をアルミダイキャスト製にするため、鋳巣の問題がロワケース5と同様に生じることになる。
そのため、接合使用部42を設けることにより、矩形の周縁部分の内側に位置する鋳肌の上面は、ロワケース5と同様に、加工工程における加工代は少ないものとなるため、鋳巣が表面に現れることが非常に抑制される。
これによって、アッパーケース4をアルミダイキャスト製にしても、問題なく良好な熱交換性、気密性を得る。そして、これにより製造コストが抑制される。
なお、接合使用部42及び接合使用部57は、摩擦攪拌接合されるため、鋳巣が表面に現れることはない。
【0036】
効果を説明する。
実施例2の熱交換器の製造方法にあっては、上記(1),(2),(4)に加えて以下の効果を有する。
(3)上記(1)又は(2)において、アッパーケース4及びロワケース5の両方をアルミダイキャスト製とし、アッパーケース4及びロワケース5の摩擦攪拌接合を行う部分を他の鋳肌面部分より高くする接合使用部42と接合使用部57を設けて、加工工程の鋳肌面部分での加工代を少なくしたため、アッパーケース4とロワケース5の両方を製造コストに優れたアルミダイキャスト製にしても、良好な接合性、熱交換性(熱伝導性)、気密性を得ることができ、これにより製造コストを抑制することができる。
その他作用効果は実施例1と同様であるので説明を省略する。
【0037】
以上、本発明の熱交換器の製造方法を実施例1、実施例2に基づき説明してきたが、具体的な構成については、これらの実施例に限られるものではなく、特許請求の範囲の各請求項に係る発明の要旨を逸脱しない限り、設計の変更や追加等は許容される。
【0038】
(他の実施例)
例えば熱交換器は、流路形状や放熱フィンの数、配置、形状(例えば波型や角R形状)が他のものであってもよい。
パワーモジュール及び熱交換器の冷却構造は、1組であっても、3組以上であってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】実施例1の熱交換器にパワーモジュールを取り付けてインバーターで用いる状態を示す説明断面図である。
【図2】実施例1の熱交換器にパワーモジュールを取り付けてインバーターで用いる状態の説明分解図である。
【図3】実施例1の熱交換器の一部の平面図である。
【図4】実施例1の熱交換器の一部の正面図である。
【図5】図1のA−A断面図である。
【図6】実施例1の放熱フィンが設けられたアッパーケースの一部の平面図である。
【図7】実施例1の放熱フィンが設けられたアッパーケースの一部の正面図である。
【図8】実施例1の放熱フィンがアッパーケースに押し出し工法で設けられた一部の状態を示す説明平面図である。
【図9】実施例1の放熱フィンがアッパーケースに押し出し工法で設けられた一部の状態を示す説明正面図である。
【図10】実施例1の熱交換器のロワケースの一部の平面図である。
【図11】実施例1の熱交換器のロワケースの一部の正面図である。
【図12】実施例1の熱交換器のロワケースの平面図である。
【図13】図12のB−B断面の一部拡大図である。
【図14】実施例1における摩擦攪拌接合後の製造工程の説明図である。
【図15】実施例1における摩擦攪拌接合後の状態を示す一部拡大説明図である。
【図16】実施例1における摩擦攪拌接合後の加工後の状態を示す一部拡大説明図である。
【図17】摩擦攪拌接合後の製造工程の一例を示す説明図である。
【図18】実施例2の熱交換器のアッパーケースの一部の平面図である。
【図19】実施例2の熱交換器のアッパーケースの一部の正面図である。
【符号の説明】
【0040】
1 パワーモジュール
11 締結用孔
2 熱交換器
21 流路
22 摩擦攪拌接合部
3 放熱フィン
4 アッパーケース
41 貫通孔
42 接合使用部
5 ロワケース
51 基端面
52 流路部
521 直進部
522 曲がり部
53 連通路
54 連通路
55 ねじ孔
56 嵌合部
57 接合使用部
6 ボルト
101,102 加工バリ
201 鋳巣
t1 母材表面
t2 ツール押し込み段差
t3 母材段差
t4 切削代
t5 冷却対象部品搭載面
t6 切削代
【特許請求の範囲】
【請求項1】
2つの部材を接合して内部に流路を形成し、前記流路に冷媒を流して接触させた被冷却物と熱交換する熱交換器において、
2つの部材を摩擦攪拌接合する摩擦攪拌接合工程と、
前記摩擦攪拌接合工程の後に、接合部分の有する面に前記被冷却物との接触面を形成する加工工程と、
を備え、
少なくとも一方をアルミダイキャスト製とし、アルミダイキャスト製の部材の前記摩擦攪拌接合を行う部分を他の鋳肌面部分より高くする段差を設けて、前記加工工程の鋳肌面部分での加工代を少なくした、
ことを特徴とする熱交換器の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の熱交換器の製造方法において、
前記摩擦攪拌接合による押し込みや加工バリが、他の鋳肌面部分より高くした部分で収まるようにして、前記加工工程では、前記摩擦攪拌接合工程の状態にかかわらず、加工量を一定にした、
ことを特徴とする熱交換器の製造方法。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の熱交換器の製造方法において、
2つの部材の両方をアルミダイキャスト製とし、両部材の前記摩擦攪拌接合を行う部分を他の鋳肌面部分より高くする段差を設けて、前記加工工程の鋳肌面部分での加工代を少なくした、
ことを特徴とする熱交換器の製造方法。
【請求項4】
少なくとも一方をアルミダイキャスト製とした2つの部材を、摩擦攪拌接合で接合して内部に流路を形成し、前記流路に冷媒を流して接触させた被冷却物と熱交換する熱交換器であって、
アルミダイキャスト製の部材の前記摩擦攪拌接合を行う部分を他の鋳肌面部分より高くする段差を備え、
前記摩擦攪拌接合の後に、接合部分の有する面に前記被冷却物との接触面を形成する加工の鋳肌面部分での加工代を少なくした、
ことを特徴とする熱交換器。
【請求項1】
2つの部材を接合して内部に流路を形成し、前記流路に冷媒を流して接触させた被冷却物と熱交換する熱交換器において、
2つの部材を摩擦攪拌接合する摩擦攪拌接合工程と、
前記摩擦攪拌接合工程の後に、接合部分の有する面に前記被冷却物との接触面を形成する加工工程と、
を備え、
少なくとも一方をアルミダイキャスト製とし、アルミダイキャスト製の部材の前記摩擦攪拌接合を行う部分を他の鋳肌面部分より高くする段差を設けて、前記加工工程の鋳肌面部分での加工代を少なくした、
ことを特徴とする熱交換器の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の熱交換器の製造方法において、
前記摩擦攪拌接合による押し込みや加工バリが、他の鋳肌面部分より高くした部分で収まるようにして、前記加工工程では、前記摩擦攪拌接合工程の状態にかかわらず、加工量を一定にした、
ことを特徴とする熱交換器の製造方法。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の熱交換器の製造方法において、
2つの部材の両方をアルミダイキャスト製とし、両部材の前記摩擦攪拌接合を行う部分を他の鋳肌面部分より高くする段差を設けて、前記加工工程の鋳肌面部分での加工代を少なくした、
ことを特徴とする熱交換器の製造方法。
【請求項4】
少なくとも一方をアルミダイキャスト製とした2つの部材を、摩擦攪拌接合で接合して内部に流路を形成し、前記流路に冷媒を流して接触させた被冷却物と熱交換する熱交換器であって、
アルミダイキャスト製の部材の前記摩擦攪拌接合を行う部分を他の鋳肌面部分より高くする段差を備え、
前記摩擦攪拌接合の後に、接合部分の有する面に前記被冷却物との接触面を形成する加工の鋳肌面部分での加工代を少なくした、
ことを特徴とする熱交換器。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【公開番号】特開2010−69503(P2010−69503A)
【公開日】平成22年4月2日(2010.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−239521(P2008−239521)
【出願日】平成20年9月18日(2008.9.18)
【出願人】(000004765)カルソニックカンセイ株式会社 (3,404)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年4月2日(2010.4.2)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年9月18日(2008.9.18)
【出願人】(000004765)カルソニックカンセイ株式会社 (3,404)
【Fターム(参考)】
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