説明

熱欠陥発生のない液晶表示装置用配線および電極並びにそれらを形成するためのスパッタリングターゲット

【課題】液晶表示装置の配線および電極を形成するための銅合金薄膜並びにその薄膜を形成するためのスパッタリングターゲットを提供する。
【解決手段】Ag:0.02〜2原子%を含有し、さらにV、Cr、Mn、Fe、Co、NiおよびZnのうちの1種または2種以上を合計で0.01〜2.5原子%を含み、残部がCuおよび不可避不純物からなる組成を有する銅合金薄膜からなる熱欠陥発生のない液晶表示装置用配線および電極、並びにこれらを形成するためのAg:0.1〜10原子%を含有し、さらにV、Cr、Mn、Fe、Co、NiおよびZnのうちの1種または2種以上を合計で0.02〜5原子%を含み、残部がCuおよび不可避不純物からなる組成を有するスパッタリングターゲット。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、ガラス基板表面に対する密着性に優れ、さらにヒロックおよびボイドなどの熱欠陥が発生することのない銅合金薄膜からなる液晶表示装置用配線および電極、並びにそれらを形成するためのスパッタリングターゲットに関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、フラットパネルディスプレイなどの液晶表示装置にはガラス基板表面に格子状に金属薄膜からなる配線が密着して形成されており、この金属薄膜からなる格子状配線の交差点にTFTトランジスターが設けられており、このTFTトランジスターのゲート電極も金属薄膜で形成されている。これらガラス基板表面に形成された金属薄膜からなる配線および電極は液晶表示装置の製造工程において熱処理が施される。前記配線および電極となる金属薄膜として、純銅薄膜を使用することが知られているが、近年、Mn、Zn、Ga、Li、Ge、Sr、Ag、In、Sn、Ba、PrおよびNdからなる群から選択される少なくとも1種以上の金属を0.1〜20原子%を含有する銅合金薄膜が使用されるようになってきた(特許文献1参照)。
【特許文献1】WO2006/025347
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
近年、液晶表示装置は益々大型化しており、30インチ以上の大型液晶パネルが量産されるようになって来た。そのためにガラス基板表面に形成されている配線が長くなり、さらに液晶表示装置は益々高精細化しているためにガラス基板表面に形成される配線を益々細くすることが求められている。そのために配線の電気抵抗を低くするとともに配線が剥離することのないようにガラス基板表面に対する密着性に優れた金属薄膜で構成されることが必要である。さらに、液晶表示装置の配線および電極はその製造中に熱処理が施されるが、かかる熱処理工程で高温に曝されてもヒロックおよびボイドなどの熱欠陥が発生しない金属薄膜で構成されることが要求されている。
これら要求に対して、従来の純銅薄膜は電気抵抗が極めて低いもののガラス基板表面に対する密着性が悪く、さらに高温に曝されるとヒロックおよびボイドが発生するので好ましくない。また、従来の銅合金薄膜は高温に曝されるとヒロックおよびボイドなどの熱欠陥の発生を十分に防止することができない。
【課題を解決するための手段】
【0004】
そこで、本発明者等は、電気抵抗が低く、ガラス基板表面に対する密着性に優れ、さらに高温に曝されてもヒロックおよびボイドなどの熱欠陥の発生が極めて少ない銅合金薄膜を開発し、これを液晶表示装置における配線および電極に適用すべく研究を行った。その結果、
(イ)純銅(特に純度:99.99%以上の無酸素銅)に、Agを0.02〜2原子%を含有し、さらにV、Cr、Mn、Fe、Co、NiおよびZnのうちの1種または2種以上を合計で0.01〜2.5原子%を含有した成分組成を有する銅合金薄膜は従来の銅合金薄膜に比べて電気抵抗が低く、さらに、高温に曝されてもヒロックおよびボイドの熱欠陥が発生することが少ないことから、かかる成分組成を有する銅合金薄膜は液晶表示装置用配線および電極として使用した場合に優れた効果を奏する、
(ロ)前記銅合金薄膜は、Ag:0.1〜10原子%を含有し、さらにV、Cr、Mn、Fe、Co、NiおよびZnのうちの1種または2種以上を合計で0.02〜5原子%を含み、残部がCuおよび不可避不純物からなる組成を有するターゲットを用いてスパッタリングすることにより作製することができる、という研究結果が得られたのである。
【0005】
この発明は、上記の研究結果に基づいてなされたものであって、
(1)Ag:0.02〜2原子%を含有し、さらにV、Cr、Mn、Fe、Co、NiおよびZnのうちの1種または2種以上を合計で0.01〜2.5原子%を含み、残部がCuおよび不可避不純物からなる組成を有する銅合金薄膜からなる熱欠陥の少ない液晶表示装置用配線、
(2)Ag:0.02〜2原子%を含有し、さらにV、Cr、Mn、Fe、Co、NiおよびZnのうちの1種または2種以上を合計で0.01〜2.5原子%を含み、残部がCuおよび不可避不純物からなる組成を有する銅合金薄膜からなる熱欠陥の少ない液晶表示装置用電極、
(3)Ag:0.1〜10原子%を含有し、さらにV、Cr、Mn、Fe、Co、NiおよびZnのうちの1種または2種以上を合計で0.02〜5原子%を含み、残部がCuおよび不可避不純物からなる組成を有する熱欠陥の少ない液晶表示装置用配線または電極を形成するためのスパッタリングターゲット、に特徴を有するものである。
【0006】
この発明の液晶表示装置の配線および電極を構成する銅合金薄膜は、ターゲットを用いてスパッタリングすることにより作製する。このターゲットは、まず純度:99.99%以上の無酸素銅を、不活性ガス雰囲気中、高純度グラファイトモールド内で高周波溶解し、得られた溶湯にAgを0.1〜10原子%を添加し、さらにV、Cr、Mn、Fe、Co、NiおよびZnのうちの1種または2種以上を合計で0.02〜5原子%を添加して溶解し、得られた溶湯を不活性ガス雰囲気中で鋳造し急冷凝固させたのち、さらに熱間圧延し、最後に歪取り焼鈍を施すことにより作製する。このようにして得られたターゲットをバッキングプレートに接合し、通常の条件でスパッタリングすることによりこの発明の液晶表示装置における配線および電極用銅合金薄膜を形成することができる。
【0007】
次に、この発明の液晶表示装置における配線および電極を構成する銅合金薄膜の成分組成を前述のごとく限定した理由を説明する。
(A)銅合金薄膜の成分組成
Ag:
この発明の液晶表示装置における配線および電極を構成する銅合金薄膜に含まれるAgは、結晶粒を微細化し、液晶表示装置における配線および電極を構成する銅合金薄膜のヒロックおよびボイドなどの熱欠陥の発生を抑制する作用を有するが、その含有量が0.02原子%未満では所望の効果が得られないので好ましくなく、一方、2原子%を越えて含有すると結晶粒を微細化し、液晶表示装置における配線および電極を構成する銅合金薄膜のヒロックおよびボイドなどの熱欠陥の発生を抑制し、さらに電気抵抗は一層低下するものの、Agを2原子%を越えて含有する銅合金薄膜をスパッタリングにより形成するには、ターゲットに含まれるAgを10原子%を越えて含有する必要があり、Agを10原子%を越えて含有するターゲットはその製造時の熱間圧延時に割れが発生し、歩留まりが極端に低下するようになるので好ましくない。したがって、この発明の銅合金薄膜に含まれるAgを0.02〜2原子%に定めた。
V、Cr、Mn、Fe、Co、NiおよびZn:
V、Cr、Mn、Fe、Co、NiおよびZnはいずれもAgと共存することによりガラス基板表面に対する密着性を向上させ、さらにヒロックおよびボイドなどの熱欠陥の発生を抑制する作用を有する成分であるが、これら成分のうちの1種または2種以上を合計で0.01原子%未満添加しても所望の効果が得られず、一方、2.5原子%を越えて含有すると、銅合金薄膜の電気抵抗が上昇するので好ましくない。したがって、この発明の銅合金薄膜に含まれるV、Cr、Mn、Fe、Co、NiおよびZnの内の1種または2種以上合計で0.01〜2.5原子%に定めた。
【0008】
(B)ターゲットの成分組成
Ag:
この発明のスパッタリングターゲットに含まれるAgが0.1原子%未満ではAg:0.02原子%以上を含有する銅合金薄膜が得られないので好ましくなく、一方、Agを10原子%を越えて含有するとターゲット作製時の熱間圧延時に割れが発生し、歩留まりが極端に低下するようになるので好ましくない。したがって、この発明のスパッタリングターゲットに含まれるAgを0.1〜10原子%に定めた。
V、Cr、Mn、Fe、Co、NiおよびZn:
さらに、この発明のスパッタリングターゲットに含まれるV、Cr、Mn、Fe、Co、NiおよびZnのうちの1種または2種以上を合計で0.02〜5原子%に限定したのは、これら成分が0.02原子%未満ではV、Cr、Mn、Fe、Co、NiおよびZnのうちの1種または2種以上を合計で0.01原子%以上含む銅合金薄膜を形成することができないからであり、一方、これら成分を5原子%を越えて含有すると、形成される銅合金薄膜に含まれるV、Cr、Mn、Fe、Co、NiおよびZnのうちの1種または2種以上の合計が2.5原子%を越えるようになり、形成される銅合金薄膜の電気抵抗が上昇するので好ましくないからである。
【発明の効果】
【0009】
この発明の液晶表示装置における配線および電極は、ガラス基板表面に対する密着性に優れ、高温に曝されてもヒロックおよびボイドなどの熱欠陥の発生がなく、さらに電気抵抗が低いことから高精細化し大型化した液晶表示装置の配線および電極に使用しても消費電力を少なくすることができるなど優れた効果を奏するものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
純度:99.99質量%の無酸素銅を用意し、この無酸素銅をArガス雰囲気中、高純度グラファイトモールド内で高周波溶解し、得られた溶湯にAgおよび/またはV、Cr、Mn、Fe、Co、NiおよびZnのうちの1種もしくは2種以上を添加し溶解して表1に示される成分組成を有する溶湯となるように成分調整し、得られた溶湯を冷却されたカーボン鋳型に鋳造し、さらに熱間圧延したのち最終的に歪取り焼鈍し、得られた圧延体の表面を旋盤加工して外径:200mm×厚さ:10mmの寸法を有し、表1に示される成分組成を有する本発明銅合金スパッタリングターゲット(以下、本発明ターゲットという)1〜16および比較銅合金スパッタリングターゲット(以下、比較ターゲットという)1〜7および従来スパッタリングターゲット(以下、従来ターゲットという)1〜2を作製した。さらに無酸素銅に元素を添加することなく純銅からなるスパッタリングターゲット(以下、従来ターゲットという)3を作製した。
【0011】
さらに、無酸素銅製バッキングプレートを用意し、この無酸素銅製バッキングプレートに前記本発明ターゲット1〜16、比較ターゲット1〜7および従来ターゲット1〜3を重ね合わせ、温度:200℃でインジウムはんだ付けすることにより本発明ターゲット1〜16、比較ターゲット1〜7および従来ターゲット1〜3を無酸素銅製バッキングプレートに接合してバッキングプレート付きターゲットを作製した。
【0012】
本発明ターゲット1〜16、比較ターゲット1〜7および従来ターゲット1〜3を無酸素銅製バッキングプレートにはんだ付けして得られたバッキングプレート付きターゲットを、ターゲットとガラス基板(縦:50mm、横:50mm、厚さ:0.7mmの寸法を有するコーニング社製1737のガラス基板)との距離:70mmとなるようにセットし、
電源:直流方式、
スパッタパワー:600W、
到達真空度:4×10−5Pa、
雰囲気ガス組成:Ar、
Arガス圧:0.67Pa、
ガラス基板:加熱なし、
の条件でガラス基板の表面に、厚さ:300nmを有し、表2〜3に示される成分組成を有する本発明銅合金薄膜(以下、本発明薄膜という)1〜16および比較銅合金薄膜(以下、比較薄膜という)1〜7および従来銅合金薄膜(以下、従来薄膜という)1〜3を形成した。
【0013】
得られた本発明薄膜1〜16、比較薄膜1〜7および従来薄膜1〜7をそれぞれ赤外線加熱炉に装入し、到達真空度:4×10−4Paの真空雰囲気中、昇温速度:5℃/min、最高温度:350℃、30分間保持の熱処理を施した。これら熱処理を施した本発明薄膜1〜16、比較薄膜1〜7および従来薄膜1〜3の表面を5000倍のSEMで5個所の膜表面を観察し、ヒロックおよびボイドの発生の有無を観察し、その結果を表2〜3に示した。
さらに、得られた本発明薄膜1〜16、比較薄膜1〜7および従来薄膜1〜3の5点の比抵抗を四探針法により測定し、その平均値を求め、それらの結果を表2〜3に示した。
さらに、JIS-K5400に準じ、1mm間隔で本発明薄膜1〜16、比較薄膜1〜7および従来薄膜1〜3に碁盤目状に切れ目を入れた後、3M社製スコッチテープで引き剥がし、ガラス基板中央部の10mm角内でガラス基板に付着していた薄膜の面積%を測定する碁盤目付着試験を実施し、その結果を表2〜3に示し、ガラス基板に対する本発明薄膜1〜16、比較薄膜1〜7および従来薄膜1〜3の密着性を評価した。
【0014】
【表1】

【0015】
【表2】

【0016】
【表3】

【0017】
表1〜3に示される結果から以下の事項が分かる。
(i)高純度銅からなる従来薄膜3は比抵抗が極めて小さいもののヒロックおよびボイドが発生し、さらにガラス基板に対する密着性が劣る。これに対し、本発明薄膜1〜16はヒロックおよびボイドの発生がなく、さらにAgを単独で含む従来薄膜1は比抵抗が小さく、ヒロックおよびボイドの発生がないもののガラス基板に対する密着性が劣り、さらにMnを単独で含む従来薄膜2はガラス基板に対する密着性が優れているが、比抵抗が高く、ヒロックおよびボイドが発生するので好ましくないことがわかる。
(ii)この発明の条件から外れて少ないAgを含む比較薄膜1はヒロックおよびボイドが発生するので好ましくなく、一方、Agをこの発明の条件から外れて多く含むターゲットはその作製時に割れが発生してターゲットを作製することができず、そのためにAgを2原子%を越えて含む比較薄膜2をスパッタリングにより成膜することができなくなることが分かる。さらにこの発明の条件から外れて添加元素を含む比較薄膜3〜7は少なくとも一つの好ましくない特性が現れることが分かる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Ag:0.02〜2原子%を含有し、さらにV、Cr、Mn、Fe、Co、NiおよびZnのうちの1種または2種以上を合計で0.01〜2.5原子%を含み、残部がCuおよび不可避不純物からなる組成を有する銅合金薄膜からなることを特徴とする熱欠陥発生のない液晶表示装置用配線。
【請求項2】
Ag:0.02〜2原子%を含有し、さらにV、Cr、Mn、Fe、Co、NiおよびZnのうちの1種または2種以上を合計で0.01〜2.5原子%を含み、残部がCuおよび不可避不純物からなる組成を有する銅合金薄膜からなることを特徴とする熱欠陥発生のない液晶表示装置用電極。
【請求項3】
Ag:0.1〜10原子%を含有し、さらにV、Cr、Mn、Fe、Co、NiおよびZnのうちの1種または2種以上を合計で0.02〜5原子%を含み、残部がCuおよび不可避不純物からなる組成を有することを特徴とする熱欠陥発生のない液晶表示装置用配線または電極を形成するためのスパッタリングターゲット。
【請求項4】
請求項1記載の配線および請求項2記載の電極を形成した液晶表示装置。

【公開番号】特開2008−57031(P2008−57031A)
【公開日】平成20年3月13日(2008.3.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−11147(P2007−11147)
【出願日】平成19年1月22日(2007.1.22)
【出願人】(000006264)三菱マテリアル株式会社 (4,417)
【Fターム(参考)】