説明

熱的特性と硬化特性が最適化された異方性導電フィルム及びこれを用いた回路接続構造体

【課題】異方性導電フィルムの接続信頼性を左右するパラメーターと、このパラメーターの最適値を提供する。
【解決手段】上記課題を解決するために、被接続部材同士を接着させて、機械的、且つ、電気的に接続する異方性導電フィルムであって、フィルム形成のための熱可塑性樹脂と、バインダーとしての熱硬化性樹脂と、硬化剤と、導電粒子と離型フィルムとを含み、流動パラメーターλ=[(Tc−Tg)/Tc](Tc:異方性導電フィルムの硬化開始温度、Tg:異方性導電フィルムのガラス転移温度)が0.05より大きく0.4より小さい値を備える異方性導電フィルムを採用する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本件発明は、回路基板同士又はICチップなどの電子部品と回路基板との接続に用いられる異方性導電フィルム及びこれを用いた回路接続構造体に関し、より詳細には、熱的特性と硬化特性が最適化されて良好な接続信頼性を備える異方性導電フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
回路基板同士又はICチップなどの電子部品と回路基板とを電気的に接続するため、接着剤に導電粒子を分散させた異方性導電フィルムが使われている。この異方性導電フィルムは、対向する電極の間に配置して加熱、加圧することによって電極同士を接着すると同時に、加圧方向に導電性を持たせることによって電気的な接続を行なう。このような異方性導電フィルムは、例えばLCDモジュールのLCDパネル、プリント回路基板(PCB)、ドライバーICのパッケージングなどに用いられる。
【0003】
近年、LCDはノートパソコン、モニター、及びテレビ向けの大型パネルから携帯電話、PDA(Personal Digital Assistant)、ゲーム機などのモバイル機器向けの中・小型パネルまで多様な用途で適用されており、これらのLCDには異方性導電フィルムを用いてドライバーICが実装されている。LCDにおけるドライバーICの実装には、ドライバーICをテープキャリアパッケージ(TCP:Tape Carrier Package)化するか又はCOF(Chip On Film)化し、これをLCDパネルに接着するOLB(Outer Lead Bonding)方式、あるいは、プリント回路基板(PCB:Printed Circuit Board)に接着するPCB方式が採用されている。また、携帯電話などの中・小型LCDでは、ドライバーICを異方性導電フィルムを用いて直接LCDパネルに実装するCOG(Chip On Glass)方式が採用されている。
【0004】
このように、回路基板同士又はICチップなどの電子部品と回路基板とを異方性導電フィルムを用いて接続する際に、最も問題になるのは接続信頼性である。即ち、異方性導電フィルムに対しては、高い接着性と共に良好な接続信頼性が求められる。
【0005】
したがって、従来から異方性導電フィルムの接続信頼性を改善するために様々な努力がなされてきた。例えば、異方性導電フィルムを複層に形成するなどの構造の変更や、特許文献1に開示されているように、接着剤の組成物、導電粒子の種類や組成比等の調節がなされていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007‐297636号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述のように、異方性導電フィルムの接続信頼性は、主に接着剤の組成物、導電粒子の種類や組成比等の調節でなされているが、異方性導電フィルム自身の特性で接続信頼性を評価することは出来ていなかった。そこで、本件発明は、異方性導電フィルムの接続信頼性を左右するパラメーターと、このパラメーターの最適値を提供することを課題としている。
【0008】
以下に、本件発明の概要を説明し、実施形態を示してその効果などを明確にする。また、本件発明の目的及び長所は、特許請求の範囲に示した手段及びその組合せによって実現できることが明確である。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本件発明に係る発明者等は、鋭意研究の結果、異方性導電フィルムの接続信頼性を左右できるパラメーター(流動パラメーター)とその最適値を見出し、本件発明を完成させた。
【0010】
異方性導電フィルムは、フィルム形成のための熱可塑性樹脂と、バインダーとして用いる熱硬化性樹脂と、導電粒子と離型フィルムとを含むものであって、対向する回路部材の間に配置した後、加熱、加圧(熱圧着)して対向する回路部材(即ち、被接続部材)同士を接着させて、機械的、且つ、電気的に接続する。
【0011】
即ち、異方性導電フィルムは、熱を加えて樹脂成分(熱可塑性樹脂及び熱硬化性樹脂)を流動化させ、同時に圧力を印加することで被接続部材同士を、機械的、且つ、電気的に接続させる接着フィルムである。異方性導電フィルムは温度が高くなると流動化して粘度が低くなり、ガラス転移温度(Tg)以上になれば、十分な接続特性を発揮できるほどの流動特性を示す。また、異方性導電フィルムが硬化開始温度(Tc)以上になれば、熱硬化性樹脂が硬化することよって粘度が上昇してゆく。
【0012】
このとき、ガラス転移温度(Tg)が硬化開始温度(Tc)よりも高過ぎるか又は硬化開始温度(Tc)がガラス転移温度(Tg)よりも低過ぎると、導電粒子が十分圧接する前に硬化反応が完了して接続信頼性が得られない場合がある。また、ガラス転移温度(Tg)が硬化開始温度(Tc)よりも低過ぎるか又は硬化開始温度(Tc)がガラス転移温度(Tg)よりも高過ぎると、樹脂が流動状態にある時間が過剰に長くなり、バブルが発生するなど接着性に問題が生じる。
【0013】
このように、異方性導電フィルムのガラス転移温度(Tg)と硬化開始温度(Tc)は、異方性導電フィルムが良好な接続信頼性を発揮するためには、重要視しなければならないパラメーターである。即ち、良好な接続信頼性を備える異方性導電フィルムのガラス転移温度(Tg)と硬化開始温度(Tc)とは、特定の粘度(n〜n)を示す流動状態となるように、適切な温度差を備える必要がある。
【0014】
そこで、本件発明者らは、異方性導電フィルムのガラス転移温度(Tg)と硬化開始温度(Tc)との関係に着目し、上述の温度差を調節するための新しいパラメーターに想到した。即ち、良好な接続信頼性を備える異方性導電フィルムは、数式[λ=(Tc−Tg)/Tc](λ:流動パラメーター、Tc:異方性導電フィルムの硬化開始温度、Tg:異方性導電フィルムのガラス転移温度)から算出される流動パラメーターλの値が所定の値を備える。
【発明の効果】
【0015】
本件発明に係る異方性導電フィルムは、回路基板同士又はICチップなどの電子部品と回路基板とを電気的に接続する際に、高い接着性と良好な接続信頼性を発揮する。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】対向する回路部材の間に異方性導電フィルムを配置した状態を示す模式図である。
【図2】異方性導電フィルムの温度上昇に伴う粘度の変化を示すグラフである。
【図3】ガラス転移温度(Tg)が異なる4種の異方性導電フィルムの温度上昇に伴う粘度の変化を示すグラフである。
【図4】硬化開始温度(Tc)が異なる4種の異方性導電フィルムの温度上昇に伴う粘度の変化を示すグラフである。
【図5】異方性導電フィルムを介してCOF又はTCPをガラス基板又はPCBに熱圧着して回路接続構造体とする接続工程を示す模式図である。
【0017】
尚、本明細書に添付した上記図面は、本件発明の好ましい実施形態を例示するものであって、発明の詳細な説明とともに本件発明の技術的な思想をさらに理解させる役割を果たすものであり、本件発明は図面に記載された事項だけに限定されて解釈されてはならないことを断っておく。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照しつつ本件発明を詳細に説明する。各図面において、同一符号は同一又は同等な構成要素を示している。
【0019】
図1は、本件発明に係る異方性導電フィルム10を、対向する回路基板20と30との間に配置した状態を示している。
【0020】
前記異方性導電フィルム10は、フィルム形成のための熱可塑性樹脂と、バインダーとしての熱硬化性樹脂と、硬化剤と、導電粒子と、離型フィルムとその他添加剤とを含むことが好ましい。
【0021】
前記熱可塑性樹脂としては、ポリビニルブチラール、ポリビニルホルマール、ポリビニルアセタール、ポリアミド、フェノキシ樹脂、ポリスルホン、スチレン‐ブタジエン‐スチレンブロック共重合体、カルボキシル化スチレン‐エチレン‐ブチレン‐スチレンブロック共重合体、ポリアクリレート樹脂などを用い、30〜60重量%配合することが好ましい。
【0022】
前記熱硬化性樹脂としては、エポキシ系樹脂又はアクリレート系樹脂を用いることが好ましい。
【0023】
前記エポキシ系樹脂としては、1分子内に2つ以上のグリシジル基を備える多価のエポキシ樹脂を用いることが好ましく、例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂、ナフタレン型エポキシ樹脂などを単独又は混合して用い、5〜45重量%配合することが好ましい。
【0024】
このとき、前記硬化剤としては、エポキシ樹脂用硬化剤を用いることが好ましく、特に、保存安定性に優れ、硬化速度の速い潜在性硬化剤としてイミダゾール系化合物、アミン系化合物、酸無水物化合物、ポリアミド系化合物、及びイソシアネート系化合物から選択された1種以上を用いることが好ましい。具体的には、ジクミルパーオキサイド(dicumyl peroxide)、t‐ブチル‐クミルパーオキサイド、ビス(α‐t‐ブチルパーオキシイソプロピル)ベンゼン、2,5‐ジ(t‐ブチルパーオキシ)‐2,5‐ジメチルヘキシン‐3、ジテルブチルパーオキサイド(diterbutyl peroxide)、1,1‐ジ(テルブチルパーオキシ)‐3,3,5‐トリメチルシクロヘキサン、n‐ブチル‐4,4‐ジ‐(テルブチルパーオキシ)バレレート、1,1‐ジ‐テルブチルパーオキシシクロヘキサン、イソプロピルクミルテルブチルパーオキサイド、ビス(α‐テルアミルパーオキシイソプロピル)ベンゼン、イミダゾール、2‐エチルイミダゾール、2‐フェニル‐4‐メチルイミダゾール、2‐ドデシルイミダゾール、2‐フェニルイミダゾール、2‐フェニル‐4‐メチルイミダゾール、4‐メチルイミダゾール、三フッ化ホウ素‐アミン錯体、スルホニウム塩、アミンイミド、ポリアミンの塩、ジシアンジアミドなどから選択される組成物を単独又は混合して用い、0.1〜20重量%配合することが好ましい。
【0025】
前記アクリレート系樹脂を構成するアクリレート系モノマとしては、アクリル系モノマ、メタクリル系モノマ、マレイミド化合物、不飽和ポリエステル、アクリル酸、ビニルアセテート、アクリロニトリルのようにラジカルによって重合する官能基を備えるラジカル重合性樹脂を用いることが好ましく、具体的にはメチルアクリレート、エチルアクリレート、ビスフェノールA‐エチレングリコール変性ジアクリレート、イソシアヌール酸エチレングリコール変性ジアクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、トリメチロールプロパンプロピルレングリコール変性トリアクリレート、イソシアヌール酸エチレングリコール変性トリアクリレート、ジペンタエリスリトールペンタアクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート、ジシクロペンテニルアクリレート、トリシクロデカニルアクリレート、エチレンイソアミルアクリレート、ラウリルアクリレート、ステアリルアクリレート、ブトキシエチルアクリレート、エトキシジエチレングリコールアクリレート、メトキシトリエチレングリコールアクリレート、メトキシポリエチレングリコールアクリレート、メトキシジプロピレングリコールアクリレート、フェノキシエチルアクリレート、フェノキシポリエチレングリコールアクリレート、イソボニルアクリレート、2‐ヒドロキシエチルアクリレート、2‐ヒドロキシプロピルアクリレート、メチルメタクリレート、イソブチルメタクリレート、トリデシルメタクリレート、メトキシジエチレングリコールメタクリレート、メトキシポリエチレングリコールメタクリレート、フルフリルメタクリレート(furfuryl metachrylate)、フルフリルアクリレート、イソブチルアクリレート、イソボニルメタクリレート、メトキシトリエチレングリコールメタクリレートなどを単独又は2種以上混合して用い、前記アクリレート系モノマを用いる場合には、30〜70重量%配合することが好ましい。
【0026】
また、前記アクリレート系樹脂を用いる場合の硬化開始剤としては、アゾ系化合物、有機過酸化物を用いることが好ましく、具体的にはデカノイルパーオキサイド(decanoyl peroxide)、ベンゾイルパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、ジブチルパーオキサイド、クメンヒドロパーオキサイド(cumene hydroperoxide)、t‐ブチル‐クミルパーオキサイド(t‐butyl‐cumyl peroxide)、ビス(α‐t‐ブチルパーオキシイソプロピル)ベンゼン、2,5‐ジ(t‐ブチルパーオキシ)‐2,5‐ジメチルヘキサン、2,5‐ジ(t‐ブチルパーオキシ)‐2,5‐ジメチルヘキシン‐3、ジテルブチルパーオキサイド、1,1‐ジ‐テルブチルパーオキシシクロヘキサン、イソプロピルクミルテルブチルパーオキサイド、ビス(α‐テルアミルパーオキシイソプロピル)ベンゼンなどから選択される組成物を単独又は混合して用いることが好ましく、0.1〜30重量%配合することが好ましい。
【0027】
前記導電粒子は、微細回路電極など被接続体を電気的に接続するためのものであって、融点及び硬度が高く導電性が優れた粒子から幅広く選択して用いることが好ましい。このような導電粒子としては、金(Au)、銀(Ag)、鉄(Fe)、銅(Cu)、ニッケル(Ni)、カドミウム(Cd)、ビスマス(Bi)、インジウム(In)、アルミニウム(Al)、パラジウム(Pd)、プラチナ(Pt)、クロム(Cr)などがコーティングされたポリスチレン、ポリメタアクリレート、ポリメチルメタアクリレート、ポリビニルアセテート、ジビニルベンゼン、ベンゾグアナミンなどが挙げられる。また、本件発明に係る導電粒子としては、銀粉末やニッケル粉末をそのまま使うことも出来る。このとき、導電粒子は、直径が3〜20μmであり、粒度偏差が±0.1μm以内の均一な粒度分布を備える導電粒子を1〜10重量%含有させることが好ましい。
【0028】
その他、添加剤としてカップリング剤、接着性付与剤などを付加的に用いることも好ましい。
【0029】
上記のような構成を備える異方性導電フィルムは、熱可塑性樹脂の種類や含有量、熱硬化性樹脂の種類や含有量、硬化剤や硬化開始剤の種類や含有量、及び添加剤の種類などを変更することによって、後述するように、流動パラメーターλの値を自在に調節することが出来る。
【0030】
以下、異方性導電フィルムの接続信頼性(接着性、導電性)を表す指標である流動パラメーターλについて詳しく説明する。
【0031】
図2に、異方性導電フィルムの温度上昇に伴う粘度の変化を示す。図2に示すように、異方性導電フィルムに熱が加えられると、特定温度に至るまでは粘度が低下し、硬化が始まると粘度が上昇する。このとき、異方性導電フィルムの硬化時の粘度が上限粘度nを超えれば、導電粒子が十分圧接されるだけの流動性を示さなくなる。また、下限粘度nを下回れば、流動性が過剰になってバブルが発生しやすく、接着特性が悪くなる。即ち、異方性導電フィルムは、図2に示す領域Bにおいて、熱圧着によって導電粒子を圧接できるだけの十分な流動性を示す。しかし、領域Cでは流動性が悪化して導電粒子が十分圧接されず、領域Aでは流動性が過剰になってバブルが発生しやすく、接着特性が悪化する。
【0032】
したがって、異方性導電フィルムは、導電粒子が十分圧接するまで、図2の領域Bの特性を維持しなければならない。そのためには異方性導電フィルムのガラス転移温度(Tg)と硬化開始温度(Tc)とを所望の値としなければならず、その温度差(△T=Tc−Tg)も適切でなければならない。尚、本件発明ではガラス転移温度(Tg)と硬化開始温度(Tc)の表示単位として絶対温度[°K]を採用している。
【0033】
図3に、ガラス転移温度(Tg)が異なる4種の異方性導電フィルムa、b、c、dの温度上昇に伴う粘度の変化をグラフで示す。図3に示すグラフによれば、a、b、c、dはガラス転移温度(Tg)をそれぞれTg(a)、Tg(b)、Tg(c)、Tg(d)[Tg(d)<Tg(a)<Tg(b)<Tg(c)]とした異方性導電フィルムであって、a、bは硬化時の粘度が領域Bにあり、cは硬化時の粘度が領域Cにあり、dは硬化時の粘度が領域Aにある。
【0034】
したがって、異方性導電フィルムが良好な接続信頼性を備えるためには、図3に示すa、bのように、適切なガラス転移温度(Tg)を備えなければならない。もし、異方性導電フィルムのガラス転移温度(Tg)がdのように低過ぎるか又はcのように高過ぎると、十分な導電粒子の圧接特性や接着性能が得られる流動特性を備えることが出来ない。
【0035】
図4に、硬化開始温度(Tc)が異なる4種の異方性導電フィルムe、f、g、hの温度上昇に伴う粘度の変化をグラフで示す。図4に示すように、e、f、g、hは硬化開始温度(Tc)をそれぞれTc(e)、Tc(f)、Tc(g)、Tc(h)[Tc(g)<Tc(f)<Tc(e)<Tc(h)]とした異方性導電フィルムであって、e、fは硬化時の粘度が領域Bにあり、gは硬化時の粘度が領域Cにあり、hは硬化時の粘度が領域Aにある。
【0036】
したがって、異方性導電フィルムが良好な接続信頼性を備えるためには、図4に示すe、fのように、適切な硬化開始温度(Tc)を備えなければならない。もし、異方性導電フィルムの硬化開始温度(Tc)がgのように低過ぎるか又はhのように高過ぎると、十分な導電粒子の圧接特性や接着性能が得られる流動特性を備えることが出来ない。
【0037】
また、異方性導電フィルムは、ガラス転移温度(Tg)に到達してからすぐに硬化が始まるのは好ましくなく、ガラス転移温度(Tg)に到逹してから硬化が開始するまでに長時間を要することも好ましくない。異方性導電フィルムがガラス転移温度(Tg)に到逹してすぐに硬化が始まれば、導電粒子は十分に圧接されないことになる。したがって、異方性導電フィルムの硬化開始温度(Tc)は、ガラス転移温度(Tg)よりも20°K以上高いことが好ましい。
【0038】
このように、異方性導電フィルムのガラス転移温度(Tg)と硬化開始温度(Tc)とは、硬化が開始する際の樹脂が流動状態である(図2ないし図4の領域B)粘度範囲となる温度に制御し、また、硬化開始温度(Tc)とガラス転移温度(Tg)とは一定の温度差(△T=Tc−Tg≧20°K)を備えるように制御する。
【0039】
このような異方性導電フィルムの流動特性は以下の数2に示す流動パラメーターλで表現することが出来る。
【0040】
【数2】

【0041】
このように、異方性導電フィルムの流動パラメーターλの値を適切に調節すれば、良好な接続信頼性を備える異方性導電フィルムの製造が可能である。
【0042】
そして、良好な接続信頼性を備える異方性導電フィルムは流動パラメーターλの値が0.05より大きく0.4より小さくなければならない(即ち、0.05<λ<0.4)。このとき、異方性導電フィルムの硬化開始温度(Tc)は323°K〜393°Kとすることが好ましく、硬化開始温度とガラス転移温度(Tg)の温度差は20°K以上であることが好ましい。
【0043】
異方性導電フィルムの流動パラメーターλの値が0.05より小さい場合、硬化が急激に進行するため、導電粒子を十分圧接する前に硬化が完了して圧接不良が生じる。一方、流動パラメーターλの値が0.4以上になると、流動性が過剰になってバブルが発生しやすく、接着特性が悪くなる。
【0044】
流動パラメーターλの値は、異方性導電フィルムを構成する熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂(エポキシ樹脂又はアクリレート系樹脂)、硬化剤(又は硬化開始剤)、添加剤などの種類と量を変更することで調節できる。
【0045】
異方性導電フィルムの硬化開始温度(Tc)は、用いる硬化剤や硬化開始剤の種類を変更することで調整できる。
【0046】
以下の表1に、代表的な硬化剤の半減期温度(Half‐life温度:硬化剤が一定時間で半分に減少する温度を示す尺度であって、硬化開始温度(Tc)に比例する)を示す。
【0047】
【表1】

【0048】
表1に示すように、硬化剤はそれぞれ半減期温度が異なる。したがって、異なる半減期温度を備える硬化剤を含む異方性導電フィルムの硬化開始温度(Tc)も異なる。即ち、半減期温度が低く硬化速度が速い硬化剤を使った異方性導電フィルムは、硬化開始温度(Tc)が低くなることで流動パラメーターλの値も小さくなる。一方、半減期温度が高く硬化速度が遅い硬化剤を使った異方性導電フィルムは、硬化開始温度(Tc)が高くなることで流動パラメーターλの値も大きくなる。
【0049】
したがって、半減期温度が異なる硬化剤(又は硬化開始剤)を選択して用いれば、他の条件が同一であっても異方性導電フィルムの流動パラメーターλの値を0.05より大きく0.4より小さく調節することが出来る。
【0050】
また、半減期温度が同一の硬化剤を用いても、その量を増やせば流動パラメーターλの値は小さくなり、その量を減らせば流動パラメーターλの値は大きくなる。したがって、硬化剤の含有量を調節すれば、他の条件が同一であっても異方性導電フィルムの流動パラメーターλの値を0.05より大きく0.4より小さく調節することが出来る。
【0051】
また、流動パラメーターλの値を左右する異方性導電フィルムのガラス転移温度(Tg)は、熱硬化性樹脂の種類、熱可塑性樹脂の種類、又はこれらの成分比によって調節することが出来る。即ち、上述した硬化剤の種類と量、樹脂の種類と配合によって異方性導電フィルムの優れた特性を維持しつつガラス転移温度(Tg)を調整することが出来る。特に、異方性導電フィルムのガラス転移温度(Tg)は、熱可塑性樹脂のガラス転移温度(Tg)に大きく依存する。以下の表2に、代表的な熱可塑性樹脂のガラス転移温度(Tg)を示す。
【0052】
【表2】

【0053】
表2に示すように、熱可塑性樹脂のガラス転移温度(Tg)はそれぞれ異なり、これらの熱可塑性樹脂を使った異方性導電フィルムのガラス転移温度(Tg)もそれぞれ異なる。一般に、ガラス転移温度(Tg)が高い熱可塑性樹脂を使った異方性導電フィルムのガラス転移温度(Tg)は高くなり、ガラス転移温度(Tg)が低い熱可塑性樹脂を使った異方性導電フィルムのガラス転移温度(Tg)は低くなる。
【0054】
したがって、ガラス転移温度(Tg)が異なる熱可塑性樹脂を用いれば、他の条件が同一であっても異方性導電フィルムの流動パラメーターλの値を0.05より大きく0.4より小さく調節することが出来る。
【0055】
また、ラジカル硬化遅延効果を備える熱可塑性樹脂(例えば、メタクリレート系、マレイミド化合物、不飽和ポリエステル、アクリル酸、ビニルアセテート、アクリロニトリルなどのようなアクリル系多官能性モノマ)を用いれば、硬化速度の調節が可能になって流動パラメーターを調節することが出来る。
【0056】
また、用いる熱硬化性モノマ(即ち、アクリレート系モノマ)の種類によっても流動パラメーターを調節できる。即ち、熱硬化性モノマの官能基の数や分子量を調節すれば、反応速度や硬化密度を調節することが出来、結果的に流動パラメーターを調節することが出来る。即ち、一般に官能基が多くなれば、反応速度が速まり、架橋密度が増加して流動パラメーターは小さくなる。逆に、官能基が少なければ、反応速度が遅くなり、架橋密度が低くなって流動パラメーターは大きくなる。
【0057】
また、ラジカル硬化促進剤、チェーントランスファー補助剤、分子量調節剤などを用いても流動パラメーターを調節することが出来、異方性導電フィルムを構成する熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂(エポキシ樹脂又はアクリレート系モノマ)及び硬化剤(又は硬化開始剤)の組成比を調節することによっても流動パラメーターλの値を0.05より大きく0.4より小さく調節することが出来る。
【実施例】
【0058】
実施例では、実験例1〜実験例4として、異なる流動パラメーターλの値を備える異方性導電フィルムを作成し、この異方性導電フィルムに対してフィルム形成性テストと接続信頼性テストとを実施した。
【0059】
[異方性導電フィルムの作成]
フィルムを形成するための熱可塑性樹脂、バインダーとしてのエポキシ系熱硬化性樹脂(又はアクリレート系モノマ)、硬化剤(又は硬化開始剤)を含む接着剤組成物を有機溶剤に溶解し、導電粒子をさらに分散してフィルム塗工用ワニスを作成した。このとき用いた有機溶剤は、材料の溶解性を向上させるため、芳香族炭化水素系と含酸素系との混合溶剤とした。次いで、この溶液を片面を表面処理した透明PETフィルムに塗工装置を用いて塗布し、70℃、10分の熱風乾燥して、後の表3に示す異なる流動パラメーターを備える実験例1〜実験例4の異方性導電フィルムを得た。
【0060】
[フィルム形成性テスト]
上記フィルム塗工用ワニスを片面を表面処理した透明PETフィルムに塗工装置を用いて塗布して70℃、10分の熱風乾燥によって異方性導電フィルムを得る工程において、最終的に得られたフィルムを目視観察した。このとき、相分離及び不均一混合が観察されず、透明PETフィルムを除去するときに無理なく除去が可能な場合は○と判定し、フィルム自体が形成されないか、相分離及び不均一混合が観察され、透明PETフィルムが混合液の粘着性によって除去し難い場合は×と判定した。
【0061】
[回路接続構造体の作成]
図5に、回路接続構造体を製造するために実施した、異方性導電フィルムを介してCOF又はTCPをガラス基板又はPCBにボンディングする接続工程を模式的に示す。
【0062】
図5に示すように、本件発明に係る異方性導電フィルム10は、ガラス基板又はPCB基板31上に仮圧着し、この異方性導電フィルム上にCOF又はTCP22を対向配置した。その後、COF又はTCP22上に厚さ0.15mmのフッ素樹脂シートを緩衝材42として介在させ、ヒーティングバー41を用いて180℃、3MPaの条件で7秒間加熱、加圧して回路接続構造体を作成した。
【0063】
[接続信頼性テスト]
上記にて得られた回路接続構造体を、温度85℃及び相対湿度85%で500時間エイジングした後の抵抗値Ωをマルチメーターを用いて測定した。このとき、エイジングした後の抵抗値Ωが測定不可能な場合には「OPEN」と表示した。
【0064】
前記回路接続構造体に用いた実施例の異方性導電フィルムは、以下のガラス転移温度(Tg)及び硬化開始温度(Tc)を備えるように作成した。
【0065】
[実験例1]
ガラス転移温度(Tg)が236°K、硬化開始温度(Tc)が373°Kの異方性導電フィルム(λ=0.29)を作成し、フィルム形成性テストを実施した。そして、この異方性導電フィルムを用いて回路接続構造体を作成し、接続信頼性テストを実施した。評価結果を後の表3に示す。
【0066】
[実験例2]
ガラス転移温度(Tg)が283°K、硬化開始温度(Tc)が373°Kの異方性導電フィルム(λ=0.24)を作成し、実験例1と同様にしてフィルム形成性テストと接続信頼性テストとを実施した。結果を後の表3に示す。
【0067】
[実験例3]
ガラス転移温度(Tg)が273°K、硬化開始温度(Tc)が393°Kの異方性導電フィルム(λ=0.31)を作成し、実験例1と同様にしてフィルム形成性テストと接続信頼性テストとを実施した。結果を後の表3に示す。
【0068】
[実験例4]
ガラス転移温度(Tg)が278°K、硬化開始温度(Tc)が353°Kの異方性導電フィルム(λ=0.21)を作成し、実験例1と同様にしてフィルム形成性テストと接続信頼性テストとを実施した。結果を後の表3に示す。
【比較例】
【0069】
[比較例1]
実施例と同様にして、ガラス転移温度(Tg)が357°K、硬化開始温度(Tc)が373°Kの異方性導電フィルム(λ=0.04)を作成し、実施例と同様にしてフィルム形成性テストと接続信頼性テストとを実施した。結果を後の表3に示す。
【0070】
[比較例2]
実施例と同様にして、ガラス転移温度(Tg)が213°K、硬化開始温度(Tc)が373°Kの異方性導電フィルム(λ=0.43)を作成し、実施例と同様にしてフィルム形成性テストと接続信頼性テストとを実施した。結果を後の表3に示す。
【0071】
[比較例3]
実施例と同様にして、ガラス転移温度(Tg)が282°K、硬化開始温度(Tc)が295°Kの異方性導電フィルム(λ=0.04)を作成し、実施例と同様にしてフィルム形成性テストと接続信頼性テストとを実施した。結果を後の表3に示す。
【0072】
[比較例4]
実施例と同様にして、ガラス転移温度(Tg)が274°K、硬化開始温度(Tc)が472°Kの異方性導電フィルム(λ=0.42)を作成し、実施例と同様にしてフィルム形成性テストと接続信頼性テストとを実施した。結果を後の表3に示す。
【0073】
[比較例5]
実施例と同様にして、ガラス転移温度(Tg)が275°K、硬化開始温度(Tc)が484°Kの異方性導電フィルム(λ=0.43)を作成し、実施例と同様にしてフィルム形成性テストと接続信頼性テストとを実施した。結果を以下の表3に示す。
【0074】
【表3】

【0075】
[実施例と比較例との対比]
表3から明らかなように、実験例1〜実験例4の異方性導電フィルムはすべて良好な接続信頼性とフィルム形成性を示している。しかし、比較例1〜比較例5の異方性導電フィルムは、エイジング後の抵抗値Ωがすべて2Ω以上と接続信頼性が不良であり、且つ、フィルム形成性も悪い。したがって、実験例1〜実験例4のように、流動パラメーターλの値が0.05より大きく0.4より小さい値を備える異方性導電フィルムの接着性と接続信頼性が優れることが確認できた。
【符号の説明】
【0076】
10 異方性導電フィルム
21 半導体チップ
22 COF又はTCP
31 ガラス基板又はプリント回路基板
41 ヒーティングバー
42 緩衝材
A、B、C 領域
下限粘度
上限粘度
【産業上の利用可能性】
【0077】
本件発明のパラメーターを用いれば、異方性導電フィルムの接続信頼性を、流動パラメーターを用いて判断できる。したがって、従来は主に接着剤の組成物、導電粒子の種類や組成比等で管理している異方性導電フィルムが、管理範囲外のものとなっても、異方性導電フィルム自身の特性で接続信頼性を評価することが出来る。したがって、従来の製造工程では廃棄対象とせざるを得なかった製品も救済することが可能であり、省資源と省エネルギーに貢献できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被接続部材同士を接着させて、機械的、且つ、電気的に接続する異方性導電フィルムであって、
前記異方性導電フィルムは、フィルム形成のための熱可塑性樹脂と、バインダーとして用いる熱硬化性樹脂と、導電粒子と離型フィルムとを含み、
数式[λ=(Tc−Tg)/Tc](λ:流動パラメーター、Tc:異方性導電フィルムの硬化開始温度、Tg:異方性導電フィルムのガラス転移温度)から算出される流動パラメーターλの値が0.05より大きく0.4より小さいことを特徴とする異方性導電フィルム。
【請求項2】
前記硬化開始温度(Tc)が323°K〜393°Kであることを特徴とする請求項1に記載の異方性導電フィルム。
【請求項3】
前記硬化開始温度(Tc)と前記ガラス転移温度(Tg)との温度差が20°K以上であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の異方性導電フィルム。
【請求項4】
前記熱硬化性樹脂がエポキシ系樹脂であることを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれかに記載の異方性導電フィルム。
【請求項5】
前記熱硬化性樹脂がアクリレート系樹脂であることを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれかに記載の異方性導電フィルム。
【請求項6】
前記被接続部材は第1回路部材と第2回路部材とを含み、
前記第1回路部材がテープキャリアパッケージ(TCP)又はチップオンフィルム(COF)のいずれかであり、前記第2回路部材がガラス基板又はプリント回路基板(PCB)のいずれかであることを特徴とする請求項1〜請求項5のいずれかに記載の異方性導電フィルム。
【請求項7】
前記第1回路部材と前記第2回路部材との間に請求項1〜請求項5のいずれかに記載の異方性導電フィルムを介在して加熱、加圧することで、機械的、且つ、電気的に接続された回路接続構造体。
【請求項8】
前記第1回路部材はTCP又はCOFのいずれかであり、前記第2回路部材はガラス基板又はPCBのいずれかであることを特徴とする請求項7に記載の回路接続構造体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−249634(P2009−249634A)
【公開日】平成21年10月29日(2009.10.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−93631(P2009−93631)
【出願日】平成21年4月8日(2009.4.8)
【出願人】(509100933)エルエスエムトロン株式会社 (2)
【Fターム(参考)】