説明

燃圧保持機構の異常診断装置

【課題】エンジンの燃料噴射装置に用いる燃圧保持機構の異常を精度よく診断することができる燃圧保持機構の異常診断装置を提供する。
【解決手段】燃料圧力を昇圧する高圧ポンプ14を有し、高圧ポンプ14から吐出される高圧の燃料を高圧燃料配管32を介して燃料噴射弁34に供給する燃料噴射装置に備えられ、エンジンの停止後に、高圧燃料配管32内の燃料の圧力を高圧ポンプ14に供給される燃料の圧力よりも高い保持燃圧に保持する燃圧保持機構が異常か否かを診断する燃圧保持機構の異常診断装置であって、エンジンの停止後、高圧燃料配管32内の燃料の圧力が保持燃圧に基づいて設定された正常燃圧範囲に入っているか否かを判定し(S31〜S33)、判定結果に基づいて燃圧保持機構が異常か否かを診断する(S34、S35)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関の燃料噴射装置に備えられた燃圧保持機構の異常診断装置に関する。
【背景技術】
【0002】
気筒内に燃料を直接噴射する筒内噴射式エンジンは、噴射圧力を高圧にして噴射燃料を微粒化する必要があるため、燃料タンクから低圧ポンプで汲み上げた燃料を高圧ポンプに供給し、この高圧ポンプから吐出される高圧の燃料を燃料マニホルドを通して燃料噴射弁へ圧送している(たとえば、特許文献1)。
【0003】
一方、エンジン停止後は、燃料マニホルド内の燃圧をエンジン作動中ほど高圧にする必要はない。そこで、エンジン停止後の燃料マニホルドの圧力負荷を軽減するため、特許文献1では、燃料マニホルド内の燃料を低圧ポンプに戻す燃料通路を備え、且つ、エンジン作動中における燃料マニホルド内の圧力低下を抑制するため、上記燃料通路に流量リストリクタ(細孔)を配置している。また、特許文献1では、高圧ポンプが作動していないときの燃圧低下の勾配から、流量リストリクタの作動状態が正常かどうかを診断している。
【0004】
ところで、エンジン停止後も燃料マニホルドなどの高圧燃料通路内の燃圧が高圧に維持されると、エンジン停止中に燃料噴射弁からの漏れ燃料量が多くなり、その漏れ燃料が筒内に留まることにより次の始動時の排気エミッションが悪化するという問題がある。その一方で、エンジン停止後に、燃料マニホルド内の燃圧を低下させすぎると、再始動時に燃料マニホルド内の燃圧を再始動に必要な燃圧まで上昇させるのに時間がかかってしまい、再始動性が悪化する。
【0005】
そこで、高圧ポンプが作動していないときの燃圧を、高圧ポンプ作動時の燃圧よりも低いが、低圧ポンプによるフィード圧よりは高い所定の保持燃圧に保持する燃圧保持機構を備えることが考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】米国特許第7171952号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述の燃圧保持機構を備える場合、燃圧保持機構が正常であるか否かを診断する必要がある。ここで、特許文献1では、流量リストリクタが正常に作動しているかどうかを診断するために、燃圧低下の勾配を用いている。これと同様にして、燃圧低下の勾配から燃圧保持機構の作動状態が正常かどうかを診断する場合、たとえば、診断時における燃圧低下の勾配が適切な範囲であったとしても、さらに、燃圧が低下を続け、低圧ポンプによるフィード圧まで低下してしまう場合にも正常と診断してしまうなど、診断精度が必ずしも十分ではない。
【0008】
本発明は、この事情に基づいて成されたものであり、その目的とするところは、内燃機関の燃料噴射装置に用いる燃圧保持機構の異常を精度よく診断することができる燃圧保持機構の異常診断装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
その目的を達成するための請求項1記載の発明は、燃料タンク内の燃料を汲み上げる低圧ポンプと、前記低圧ポンプから吐出される燃料を高圧に加圧して燃料噴射弁に圧送する高圧ポンプと、前記低圧ポンプと前記高圧ポンプとをつなぐ低圧側燃料通路と、前記高圧ポンプと前記燃料噴射弁とをつなぐ高圧側燃料通路と、前記高圧燃料通路内の燃料の圧力を検出する検出手段と、を有する燃料噴射装置に備えられ、内燃機関の停止後に、前記高圧燃料通路内の燃料の圧力を前記低圧側燃料通路内の燃料の圧力よりも高い保持燃圧に保持する燃圧保持機構の異常を診断する燃圧保持機構の異常診断装置であって、
前記内燃機関の停止後、前記検出手段により検出された前記高圧燃料通路内の燃料の圧力が前記保持燃圧に基づいて設定された正常燃圧範囲に入っているか否かを判定し、その判定結果に基づいて前記燃圧保持機構が異常か否かを診断する異常診断手段を備えることを特徴とする。
【0010】
このように、本発明では、高圧燃料通路内の燃料の圧力が正常燃圧範囲に入っているか否かに基づいて燃圧保持機構の異常診断を行う。そのため、正常燃圧範囲を超えて燃圧が低下してしまう場合には異常と診断できることから、燃圧保持機構の異常を精度よく診断することができる。
【0011】
請求項2は、前記異常診断手段は、前記内燃機関の停止後、診断実施条件が成立したことに基づいて、前記高圧燃料通路内の燃料の圧力が前記保持燃圧に基づいて設定された正常燃圧範囲に入っているか否かを判定することを特徴とする。このようにすれば、燃圧保持機構は正常に動作しているが、まだ、高圧燃料通路内の燃料の圧力が正常燃圧範囲まで低下していない時点で判定を行ってしまうことを抑制できる。
【0012】
上記診断実施条件は、たとえば、請求項3記載のように、前記内燃機関の停止時から所定時間が経過したことである。
【0013】
請求項4は、前記所定時間は、前記高圧燃料通路内の燃料の温度変化に影響する温度である燃温関連温度に基づいて設定されることを特徴とする。圧力と温度との間には、温度が高いほど圧力が高く、温度が低いほど圧力が低いという関係がある。そのため、高圧燃料通路内の燃料の温度変化によっても燃圧は変化する。したがって、燃圧が正常燃圧範囲に入ると推定できる時間も高圧燃料通路内の燃料温度変化の影響を受ける。そこで、このように、診断実施条件における所定時間を、高圧燃料通路内の燃料の温度変化に影響する燃温関連温度に基づいて設定することで、燃圧保持機構は正常であるが、まだ、燃圧が正常燃圧範囲内にない状態において診断を行ってしまうことをより確実に抑制できる。そのため、より精度のよい診断を行うことができる。
【0014】
ところで、内燃機関の再始動要求があった場合や、高圧燃料通路内の燃圧の昇圧要求には、高圧燃料通路内の燃圧が昇圧される。そのため、内燃機関の再始動要求があった場合、または、高圧燃料通路内の燃圧の昇圧要求があった後に診断を行うとすれば、正しい診断結果が得られない恐れが高い。
【0015】
そこで、請求項5では、前記異常診断手段は、内燃機関の再始動要求、および、前記高圧燃料通路内の燃圧の昇圧要求の少なくとも一方を検知したことに基づいて前記診断を中断する。そのため、昇圧されるにも係わらず診断を行ってしまうことが回避されるので、診断精度の低下が抑制できる。
【0016】
請求項6は、前記燃温関連温度は、前記燃料通路内の燃料温度、外気温、前記内燃機関の油温、冷却水温の少なくともいずれか1つであることを特徴とする。このように、燃温度関連温度には、燃料通路内の燃料温度そのものの他、外気温、内燃機関の油温、冷却水温がある。これら外気温、内燃機関の油温、冷却水温によっても、燃料通路内の燃料温度の低下速度が変化するからである。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の一実施形態における燃料供給システム全体の概略構成図である。
【図2】燃圧保持機構および高圧ポンプの構成図である。
【図3】エンジン停止後の燃圧制御弁の制御方法を説明する図である。
【図4】燃圧保持機構の異常診断処理の流れを説明するフローチャートである。
【図5】図4のステップS3を詳しく示すフローチャートである。
【図6】イグニッションスイッチがオフされた時点からの、エンジン回転速度Ne、高圧燃料配管32内の燃圧、エンジンストールフラグの変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の一実施形態を説明する。まず、図1に基づいて筒内噴射式のエンジン(内燃機関)の燃料供給システム全体の概略構成を説明する。
【0019】
燃料を貯溜する燃料タンク11内には、燃料タンク11内の燃料を汲み上げる低圧ポンプ12が設置されている。この低圧ポンプ12は、バッテリ(図示せず)を電源とする電動モータ(図示せず)によって駆動される。この低圧ポンプ12から吐出される燃料は、燃料配管13(低圧側燃料通路)を通して高圧ポンプ14に供給される。燃料配管13には、プレッシャレギュレータ15が接続され、このプレッシャレギュレータ15によって低圧ポンプ12の吐出圧(高圧ポンプ14への燃料供給圧力)が所定圧力に調圧され、その圧力を超える燃料の余剰分が燃料戻し管16により燃料タンク11内に戻されるようになっている。
【0020】
高圧ポンプ14は、低圧ポンプ12から燃料配管13を介して供給される燃料を高圧に加圧して燃料噴射弁34に圧送するものである。この高圧ポンプ14の構成を図2に示す。図2に示すように、高圧ポンプ14は、円筒状のポンプ室18内でピストン19を往復運動させて燃料を吸入/吐出するピストンポンプであり、ピストン19は、エンジンのカム軸20に嵌着されたカム21の回転運動によって駆動される。この高圧ポンプ14の吸入口22側には、燃圧制御弁23が設けられている。この燃圧制御弁23は、常開型の電磁弁であり、吸入口22を開閉する弁体24と、弁体24を開弁方向に付勢するスプリング25と、弁体24を閉弁方向に電磁駆動するソレノイド26とから構成されている。
【0021】
高圧ポンプ14の吸入行程(ピストン19の下降時)においては、燃圧制御弁23が開弁されてポンプ室18内に燃料が吸入され、吐出行程(ピストン19の上昇時)においては、燃圧制御弁23の閉弁時間(閉弁開始時期からピストン19の上死点までの閉弁状態の時間)を制御することで、高圧ポンプ14の吐出量を制御して燃圧(吐出圧力)を制御する。
【0022】
つまり、燃圧を上昇させるときには、燃圧制御弁23の閉弁開始時期(通電時期)を進角させることで、燃圧制御弁23の閉弁時間を長くして高圧ポンプ14の吐出量を増加させ、逆に、燃圧を低下させるときには、燃圧制御弁23の閉弁開始時期(通電時期)を遅角させることで、燃圧制御弁23の閉弁時間を短くして高圧ポンプ14の吐出量を減少させる。
【0023】
一方、高圧ポンプ14の吐出口27側には、吐出した燃料の逆流を防止する逆止弁28が設けられている。この逆止弁28は、吐出口27を開閉する弁体29と、この弁体29を閉弁方向に付勢するスプリング30とから構成されている。また、弁体29の中央部には、微小孔径(例えば孔径が数十μm)のオリフィス31が設けられ、ポンプ室18内の燃圧が高圧燃料配管32(高圧燃料通路)内の燃圧よりも低いときに、高圧燃料配管32内の燃料が少しずつオリフィス31を通ってポンプ室18内に戻るようになっている。
【0024】
このように構成されている高圧ポンプ14は、エンジン停止後に高圧燃料配管32内の燃圧を保持燃圧に保持する燃圧保持機能を備えており、高圧ポンプ14の構成部材のうち、常開型の電磁弁である燃圧制御弁23とオリフィス31を備えた逆止弁28とが燃圧保持機構を構成する。この燃圧保持機構による燃圧保持作動については後述する。
【0025】
図1に示すように、高圧ポンプ14から吐出された燃料は、高圧燃料配管32(高圧燃料通路)を通してデリバリパイプ33に送られ、このデリバリパイプ33からエンジンのシリンダヘッドに気筒毎に取り付けられた燃料噴射弁34に高圧の燃料が分配される。高圧燃料配管32には、高圧燃料配管32内の燃圧を検出する燃圧センサ35(検出手段)が設けられ、エンジンのシリンダブロックには、冷却水温を検出する冷却水温センサ36が設けられている。さらに、この燃料供給システムは、高圧燃料配管32内の燃料の温度を検出する燃温センサ39、外気温を検出する外気温センサ40、エンジン油温を検出するエンジン油温センサ41を備えている。
【0026】
これら各種センサの出力は、エンジン制御回路(以下「ECU」と表記する)37に入力される。このECU37は、マイクロコンピュータを主体として構成され、エンジン運転中に燃圧センサ35で検出した高圧燃料配管32内の燃圧(燃料噴射弁34に供給する燃料の圧力)を目標燃圧に一致させるように高圧ポンプ14の吐出量(燃圧制御弁23の通電時期)をフィードバック制御する。
【0027】
また、ECU37は、停止後燃圧保持制御を実行することで、エンジン停止後に高圧燃料配管32内の燃圧を保持燃圧に保持させる。さらに、ECU37は、燃圧保持機構の異常診断処理を実行することで、燃圧保持機構が正常に動作しているか否かの診断を行なう。すなわち、ECU37は請求項の異常診断手段としても機能する。
【0028】
まず、停止後燃圧保持制御を説明する。停止後燃圧保持制御においては、まず、エンジンが停止したか否かを判定する。なお、停止後燃圧保持制御を実行するために、イグニッションスイッチ38のオフ後も、しばらくの間(たとえば、120秒間等の所定時間)、電源ラインのメインリレーがオン状態に維持されることにより、ECU37への通電が継続されるものとする。
【0029】
エンジンが停止したと判定すると、燃圧制御弁23への通電を停止して燃圧制御弁23を開弁状態にする。図3(a)はこの状態を示している。燃圧制御弁23を開弁状態にすることで、ポンプ室18の吸入口22は開放状態となり、低圧側の燃料配管13と連通状態となる。そのため、ポンプ室18内の燃圧が高圧燃料配管32内の燃圧よりも低くなり、高圧燃料配管32内の燃料がオリフィス31を通ってポンプ室18に戻る。その結果、高圧燃料配管32内の燃圧が徐々に低下する。
【0030】
そして、燃圧センサ35で検出した高圧燃料配管32内の燃圧が保持燃圧または保持燃圧付近に設定された弁閉燃圧まで低下したら、図3(b)に示すように、燃圧制御弁23に通電することで燃圧制御弁23を閉弁してポンプ室18の吸入口22を閉鎖する。
【0031】
これにより、高圧燃料配管32内の燃圧は低下する一方、ポンプ室18内の燃圧は上昇する。そして、ポンプ室18内の燃圧と高圧燃料配管32内の燃圧とがほぼ等しくなると、オリフィス31による高圧燃料配管32からポンプ室18への燃料の流入が停止して、高圧燃料配管32内の燃圧が保持燃圧付近に維持される。なお、保持燃圧は、再始動可能な最低の燃圧またはそれよりも少し高い燃圧であり、弁閉燃圧は、燃圧制御弁23の閉弁後、燃圧が安定するまでのポンプ室18内の圧力変動分を保持燃圧に対して補正した圧力である。
【0032】
高圧燃料配管32内の燃圧とポンプ室18内の燃圧とがほぼ等しくなると、ポンプ室18内の燃圧と燃料配管13内の圧力との圧力差によって生じる力により、燃圧制御弁23への通電を停止しても、燃圧制御弁23を閉弁状態に保持できる。また、高圧燃料配管32内の燃圧とポンプ室18内の燃圧とがほぼ等しくなった状態では、燃圧センサ35で検出した高圧燃料配管32内の燃圧も安定する。
【0033】
そこで、図3(c)に示すように、燃圧センサ35で検出した燃圧が安定した時点で、燃圧制御弁23への通電を停止する。通電を停止しても、上述のように、ポンプ室18内の燃圧と燃料配管13内の圧力との圧力差によって燃圧制御弁23は閉弁状態に保持される。
【0034】
以上説明した停止後燃圧保持制御によりエンジン停止後の燃圧が保持燃圧に保持される。しかし、燃圧制御弁23の故障など、燃圧保持機構に異常がある場合には、エンジン停止後の燃圧が保持燃圧に保持されないことになる。そこで、ECU37は、燃圧保持機構の異常診断処理を実行するのである。次に、この異常診断処理を、図4に示すフローチャートを用いて説明する。
【0035】
図4は、燃圧保持機構の異常診断処理の流れを説明するフローチャートである。なお、この処理は、たとえば、ECU37の電源オン中に所定周期で実行する。
【0036】
ステップS1では、エンジンが停止したか否かを判断する。この判断は、たとえば、エンジンストールフラグの状態に基づいて判断する。このエンジンストールフラグは、たとえば、エンジン回転速度が0(またはそれに近い所定回転速度以下)となった場合に「1」となるフラグである。また、このエンジンストールフラグは、イグニッションスイッチがオフとなった場合に「1」となるものでもよいし、それら2つの条件、および、他の条件(たとえば、燃料噴射停止、点火停止など)のうちの複数の条件に基づいて状態が変化するものでもよい。
【0037】
ステップS1が否定判断である場合には、このステップS1を繰り返し実行する。一方、ステップS1が肯定判断、すなわち、エンジンが停止したと判断した場合には、ステップS2へ進む。
【0038】
ステップS2では、エンジン停止後、所定時間が経過したか否かを判断する。この所定時間は、エンジン停止後、前述の保持燃圧まで低下すると推定できる時間に基づいて設定される。保持燃圧まで低下すると推定できる時間は、この燃料供給システムを搭載した実車両を用いた実験に基づいて定める。このようにして定めた所定時間は、温度によらない一定値であってもよいが、次のように、温度に基づいて設定することが好ましい。
【0039】
すなわち、保持燃圧は、前述のように再始動可能な最低の燃圧またはそれよりも少し高い燃圧であるが、再始動可能な最低の燃圧は、一般に、始動時のエンジン温度に応じて変化する。そのため、保持燃圧もエンジン温度に応じて変化することになるので、保持燃圧とエンジンが停止した時の高圧燃料配管32内の燃圧との差圧も、エンジン温度に応じて変化する。このことから、上記所定時間は、保持燃圧あるいはその保持燃圧を決定するためのエンジン温度に基づいて、マップあるいは関係式(以下、マップ等)により設定されることが好ましい。
【0040】
さらに、上記差圧の大きさが温度の影響を受けるだけでなく、燃圧低下速度も温度の影響を受ける。より具体的には、温度と圧力は、温度が高いほど圧力が高く、温度が低いほど圧力が低いという関係にある。したがって、燃料温度の低下速度が速いほど燃圧の低下速度が速いことになる。このことから、上記所定時間は、高圧燃料配管32内の燃料の温度変化に影響する温度である燃温関連温度に基づいて、マップ等により設定されることが好ましい。なお、燃温関連温度には、高圧燃料配管32内の燃料温度そのものの他、外気温、エンジン油温、冷却水温などがある。また、所定時間の設定にマップ等を用いる場合、そのマップ等は、高圧燃料配管32内の燃料温度と高圧燃料配管32の周囲の温度との温度差が大きいほど、所定時間が短くなる関係を有し、高圧燃料配管32の周囲の温度としては、外気温、エンジン油温、冷却水温のいずれか1つをそのまま用いてもよいし、これらを複数用いて推定してもよい。また、上記マップ等は、高圧燃料配管32内の燃料温度を一定とみなし、高圧燃料配管32の周囲の温度のみを入力変数として所定時間を設定するものでもよいし、反対に、高圧燃料配管32の周囲の温度を一定とみなし、高圧燃料配管32内の燃料温度のみを入力変数として所定時間を設定するものでもよい。以上のことから、燃温関連温度を用いるマップ等は、いずれか一つの燃温関連温度を用いるものであればよいことが言えるとともに、燃温関連温度を複数用いるとより好ましいと言える。
【0041】
さらに、上記所定時間は、保持燃圧あるいはその保持燃圧を決定するためのエンジン温度と、燃温関連温度とに基づいて設定されることがより好ましいと言える。ただし、エンジン温度は燃温関連温度から推定することができる。したがって、保持燃圧あるいはその保持燃圧を決定するためのエンジン温度の推定にも燃音関連温度を利用するマップ等を用意して、そのマップ等と燃温関連温度とから保持時間を設定することで、燃温関連温度のみを用いても、実質的に、保持燃圧あるいはその保持燃圧を決定するためのエンジン温度と燃温関連温度とに基づいた保持時間を設定することができる。なお、燃温関連温度に基づいて保持時間を設定する場合、例えば、ステップS1とステップS2との間に、温度計測ステップとその温度計測ステップで計測した温度から保持時間を設定する保持時間設定ステップとを設ける。
【0042】
上記ステップS2の判断が否定判断である場合にはステップS2を繰り返す。一方、肯定判断となった場合にはステップS3へ進む。ステップS3では燃圧比較処理を行う。このステップS3の燃圧比較処理は、図5に詳しく示すものである。
【0043】
図5において、まず、ステップS31では、燃圧センサ35で燃圧を計測する。続くステップS32では、ステップS31で計測した燃圧がMinガード値よりも高いか否かを判断する。この判断が否定判断の場合、すなわち、燃圧がMinガード値以下の場合には、ステップS35へ進み、燃圧保持機構が異常であると判定する。
【0044】
一方、ステップS32が肯定判断の場合には、ステップS33へ進む。ステップS33では、ステップS31で計測した燃圧がMaxガード値よりも低いか否かを判断する。この判断が否定判断の場合、すなわち、燃圧がMaxガード値以上の場合には、ステップS32が否定判断である場合と同様、ステップS35へ進み、燃圧保持機構が異常であると判定する。
【0045】
一方、ステップS33も肯定判断の場合には、ステップS34へ進む。この場合には、燃圧が、Minガード値とMaxガード値との間にあることになる。このMinガード値およびMaxガード値は、それぞれ、実車実験によって確認した燃圧計測時の燃圧の変動範囲を考慮して定められる正常燃圧範囲の下限値および上限値を示すものである。従って、ステップS33も肯定判断の場合には、燃圧保持機構が正常であると推定できるので、ステップS34にて、燃圧保持機構が正常であると判定する。
【0046】
図4に戻り、ステップS4では、図5のステップS34およびステップS35のいずれを実行したかに基づいて、燃圧保持機構が異常か否かの診断結果を決定する。
【0047】
図6は、イグニッションスイッチがオフされた時点からの、エンジン回転速度Ne(上図の実線)、高圧燃料配管32内の燃圧(上図の破線および一点鎖線)、エンジンストールフラグ(下図)の変化を示すグラフである。また、破線は、燃圧保持機構が正常である場合の燃圧の変化の一例、一点差線は、燃圧保持機構が異常である場合の燃圧の変化の一例である。
【0048】
この図6の破線に示すように、燃圧保持機構が正常である場合、イグニッションオフ後、速やかに燃圧が低下し、約10秒程度(エンジンストールフラグが「1」となった時点からは約5秒)で保持燃圧(4MPa)まで低下して安定する。このように燃圧が安定したとき以降に診断を行えばよいので、たとえば、図6に示す20秒の時点で診断を行えばよい。図6に示す20秒の時点で診断を行うとして、この時点において、一点鎖線はまだ、12MPa以上の高い圧力を示している。従って、正常燃圧範囲から外れることになる。そのため、一点鎖線のように、正常な燃圧低下曲線に比べて、燃圧低下速度が著しく遅い場合には、燃圧保持機構が異常であると診断することができる。
【0049】
以上、説明した本実施形態によれば、高圧燃料配管32内の燃圧が正常燃圧範囲に入っているか否かに基づいて燃圧保持機構が異常か否かの診断を行う。そのため、図6のように正常燃圧範囲まで燃圧が低下しない場合はもちろんのこと、正常燃圧範囲を超えて燃圧が低下してしまう場合にも異常と診断できることから、燃圧保持機構の異常を精度よく診断することができる。
【0050】
また、本実施形態によれば、エンジン停止時から所定時間が経過したときに診断を行うので、燃圧保持機構は正常に動作しているが、まだ、高圧燃料配管32内の燃料の圧力が正常燃圧範囲まで低下していない時点で判定を行ってしまうことを抑制できる。
【0051】
以上、本発明の実施形態を説明したが、本発明は上述の実施形態に限定されるものではなく、次の実施形態も本発明の技術的範囲に含まれ、さらに、下記以外にも要旨を逸脱しない範囲内で種々変更して実施することができる。
【0052】
たとえば、前述の実施形態では、エンジン停止後、所定時間が経過したら診断を行っており、所定時間の計時をリセットするなど、図4に示す異常診断処理を中断することは行っていなかった。しかし、エンジンの再始動要求、および、高圧燃料配管32内の燃圧の昇圧要求の少なくとも一方を検知したら、図4に示す処理を中断してもよい。このようにすることで、昇圧されるにも係わらず診断を行ってしまうことが回避されるので、診断精度の低下が抑制できる。なお、エンジンの再始動要求は、たとえば、イグニッションスイッチのオン信号に基づいて判定し、高圧燃料配管32内の燃圧の昇圧要求は、たとえば、エンジンとモータとを駆動力源として備えたハイブリッド車など、走行開始時にエンジン始動を行わない車両において、走行開始を示す信号(たとえば、電源ポジションがオンなど)に基づいて判定する。
【0053】
また、燃圧保持機構は前述の実施形態のものに限られない。前述の実施形態では、保持燃圧で安定した後は、ポンプ室18内の燃圧と燃料配管13内の圧力との圧力差によって燃圧制御弁23を閉弁状態に保持する構成であったが、これに限らず、たとえば、高圧ポンプと高圧燃料配管との間に、燃圧保持機構として電磁駆動式のリリーフ弁を設け、エンジン停止後に高圧燃料配管内の燃圧が保持燃圧に低下するまでの期間だけリリーフ弁を開弁するようにしてもよい。
【0054】
また、図6の説明では、イグニッションオフ後のメインリレーがオン状態の期間に診断を行う例を説明したが、これに限らず、所定時間をイグニッションオフ後のメインリレーがオン状態の期間よりも長い時間に設定してもよい。この場合には、次のエンジン再始動時に診断を行うことになる。
【0055】
また、前述の実施形態では、エンジン停止後、所定時間が経過したことを診断実施条件としていたが、これに限らず、燃圧保持機構が燃圧保持状態(たとえば、前述の実施形態では、図3(c)の状態)となったことを診断実施条件としてもよい。また、燃圧保持機構が燃圧保持状態となった時点を時間計測の開始時点とし、その後、所定時間が経過したことを診断実施条件としてもよい。
【0056】
また、前述の実施形態では、燃圧の計測は1回のみであったが、燃圧を複数回計測し、その複数回の計測結果に基づいて診断を行ってもよい。この場合、複数回計測した燃圧から燃圧の変化傾向を決定し、燃圧が正常燃圧範囲に入っているか否かに加え、この燃圧変化傾向を用いて診断を行ってもよい。
【0057】
また、前述の実施形態では、エンジン停止後、所定時間が経過した時、すなわち、診断実施条件が成立した時に燃圧を計測していたが、燃圧の計測自体は、エンジン停止後、逐次行い、診断(正常か否かを決定すること)を診断実施条件成立後に行ってもよい。また、このように、燃圧の計測自体は、エンジン停止後、逐次行う態様においては、診断実施条件として、時間(たとえば、メインリレーが切れる少し前)を用いてもよいが、燃圧が安定したこと、あるいは、燃圧変化の程度が小さいことを診断実施条件としてもよい。燃圧が安定したこと、あるいは、燃圧変化の程度が小さいことを診断実施条件とする場合、燃圧が高いまま低下しないときは、迅速に異常であるとの判定が可能となる。
【符号の説明】
【0058】
11:燃料タンク、 12:低圧ポンプ、 13:燃料配管(低圧側燃料通路)、 14:高圧ポンプ、 15:プレッシャレギュレータ、 16:燃料戻し管、 18:ポンプ室、 19:ピストン、 20:カム軸、 21:カム、 22:吸入口、 23:燃圧制御弁、 24:弁体、 25:スプリング、 26:ソレノイド、 27:吐出口、 28:逆止弁、 23、28:燃圧保持機構、 29:弁体、 30:スプリング、 31:オリフィス、 32:高圧燃料配管(高圧側燃料通路)、 33:デリバリパイプ、 34:燃料噴射弁、 35:燃圧センサ(検出手段)、 36:冷却水温センサ、 37:ECU(異常診断手段)、 38:イグニッションスイッチ、 39:燃温センサ、 40:外気温センサ、 41:エンジン油温センサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料タンク内の燃料を汲み上げる低圧ポンプと、前記低圧ポンプから吐出される燃料を高圧に加圧して燃料噴射弁に圧送する高圧ポンプと、前記低圧ポンプと前記高圧ポンプとをつなぐ低圧側燃料通路と、前記高圧ポンプと前記燃料噴射弁とをつなぐ高圧側燃料通路と、前記高圧燃料通路内の燃料の圧力を検出する検出手段と、を有する燃料噴射装置に備えられ、内燃機関の停止後に、前記高圧燃料通路内の燃料の圧力を前記低圧側燃料通路内の燃料の圧力よりも高い保持燃圧に保持する燃圧保持機構の異常を診断する燃圧保持機構の異常診断装置であって、
前記内燃機関の停止後、前記検出手段により検出された前記高圧燃料通路内の燃料の圧力が前記保持燃圧に基づいて設定された正常燃圧範囲に入っているか否かを判定し、その判定結果に基づいて前記燃圧保持機構が異常か否かを診断する異常診断手段を備えることを特徴とする燃圧保持機構の異常診断装置。
【請求項2】
請求項1において、
前記異常診断手段は、前記内燃機関の停止後、診断実施条件が成立したことに基づいて、前記高圧燃料通路内の燃料の圧力が前記保持燃圧に基づいて設定された正常燃圧範囲に入っているか否かを判定することを特徴とする燃圧保持機構の異常診断装置。
【請求項3】
請求項2において、
前記診断実施条件は、前記内燃機関の停止時から所定時間が経過したことであることを特徴とする燃圧保持機構の異常診断装置。
【請求項4】
請求項3において、
前記所定時間は、前記高圧燃料通路内の燃料の温度変化に影響する温度である燃温関連温度に基づいて設定されることを特徴とする燃圧保持機構の異常診断装置。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか1項において、
前記異常診断手段は、前記内燃機関の再始動要求、および、前記高圧燃料通路内の燃圧の昇圧要求の少なくとも一方を検知したことに基づいて、前記診断を中断することを特徴とする燃圧保持機構の異常診断装置。
【請求項6】
請求項4において、
前記燃温関連温度は、前記燃料通路内の燃料温度、外気温、前記内燃機関の油温、冷却水温の少なくともいずれか1つであることを特徴とする燃圧保持機構の異常診断装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−32870(P2011−32870A)
【公開日】平成23年2月17日(2011.2.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−176838(P2009−176838)
【出願日】平成21年7月29日(2009.7.29)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】