説明

燃料噴射制御装置

【課題】クランク軸の回転角度を高精度に検出することができかつコストの低廉な燃料噴射制御装置を提供する。さらには、電圧変動が小さく安定して動作する燃料噴射制御装置及びバッテリの不要な燃料噴射制御装置を提供する。
【解決手段】内燃機関のクランク軸と共に回転しかつ磁石を有するロータ21及び、コイル(充電コイル25)を有するステータ23からなる発電機2と、該ロータ21の回転角度を機械的に検出する機械的検出手段(クランク角センサ3)と、該コイル25の出力電圧波形を整形することにより該ロータ21の該回転角度を電気的に検出する電気的検出手段(制御回路4)と、該機械的検出手段(3)及び該電気的検出手段(4)により検出された該ロータ21の該回転角度の情報を基にして、燃料噴射部83を制御する制御部(制御部4)と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関の燃料噴射制御装置に関し、より詳細にはクランク軸の回転角度の検出技術及び内燃機関の他の周辺装置との複合化技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
二輪車に搭載される内燃機関の周辺装置として、発電機、点火装置、燃料噴射装置などが一般的に装備されている。これらは、独立して別々に構成されるのではなく、組み合わされて構成されることにより、小形化、高機能化、低コスト化が実現されている。また、燃料噴射時期や点火時期を適正に制御するために、クランク軸の回転角度をクランク角センサで検出し、制御部で電子制御を行うことが一般的になってきている。この種の装置の例として、特許文献1にCDI点火装置用チャージコイルの技術が開示され、特許文献2に燃料噴射制御装置の技術が開示されている。
【0003】
特許文献1の技術は自動二輪車用エンジンを対象としており、エンジンのクランク軸とともに回転する磁石付きのロータと、コイルを備えるステータとにより、回転磁界形のジェネレータ(発電機)が形成されている。複数のコイルのうち、一つは後述するCDI点火装置用のチャージコイルであり、残りはバッテリ充電用コイルとなっている。そして、バッテリ充電用コイルで充電されたバッテリにより、燃料噴射装置や照明ランプ、インジケータなどの電力が賄われるように構成されている。
【0004】
点火装置としては、点火コイルの通電電流を電力用半導体素子で遮断することにより高電圧を発生させて点火プラグで放電させる誘導放電式が一般的に用いられている。誘導放電式点火装置の通電電流はおよそ3〜4Aとなっている。また、適正な点火時期を得るために、特許文献1ではロータの外周部に部分的に突設された突起と、突起の通過を検出するパルサーコイルとを備え、ロータすなわちクランク軸の特定の回転角度を検出するようにしている。
【0005】
一方、燃料噴射装置においては、インジェクタノズルなどの燃料噴射部を最適に制御するために、単にクランク軸の特定角度を検出するだけでは不十分であり、時々刻々と変化するエンジンの動作状況を高精度に検出することが必要とされている。つまり、クランク軸の瞬間的な回転速度や回転加速度を検出することが必要とされている。また、エンジンの動作状況として、ピストンが吸気下死点付近にあるときの吸気管圧力を検出することが好ましいとされている。特許文献2の技術は複数の気筒を有するエンジンを対象としており、回転体に設けられた複数個の凸状歯及び気筒数分の基準歯と電磁ピックアップとを組み合わせてクランク角センサが構成されている。二輪車用の単気筒エンジンの場合でも、回転角センサを発電機と一体に構成するため、発電機のロータの外周に8〜24個程度の突起を設けることが一般的である。
【特許文献1】特開平5−62844号公報
【特許文献2】特開2003−278580号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、二輪車用エンジンのロータ外周の回転角度検出用の突起は、1個の突起毎にロータを精度よく回転させて保持し、プレス加工により打ち出し成形して製作していた。したがって、回転角度を高精度に検出するために多数の突起を設けると、それだけコストが増大していた。
【0007】
また、発電機及びバッテリの負荷として燃料噴射装置と誘導放電方式点火装置とが並列に接続されるのが一般的であり、点火コイルの通電電流の断続で電圧変動が生じるために、燃料噴射装置が安定して動作せず燃料噴射量がばらつくことがあった。特に、エンジンが低速回転のときには発電量が少なく、電圧低下が顕著となってインジェクタノズルの開閉動作に長時間を要するという難点があった。この対策として発電機の発電性能を増強しても、コスト高になるだけでなく、フリクションロスが増加して燃費が悪化する。
【0008】
さらに、近年では二輪車は東南アジアなどに多数輸出され、厳しい自然環境と必ずしも十分でない整備体制のもとで利用に供されている。したがって、点検や交換などの保守整備が必要なバッテリの不要な燃料噴射制御装置及びエンジンや、バッテリの不要な二輪車が期待されるようになってきている。
【0009】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、クランク軸の回転角度を高精度に検出することができかつコストの低廉な燃料噴射制御装置を提供することを目的とする。さらには、電圧変動が小さく安定して動作する燃料噴射制御装置及びバッテリの不要な燃料噴射制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
そこで、本発明はこの課題を解決すべく、クランク軸の回転角度の検出手段として、突起と電磁ピックアップとを組み合わせたクランク角センサだけでなく、コイル出力電圧波形を整形する電気的な検出手段を併用することにより、前記目的を達成しようとするものである。
【0011】
すなわち、本発明の燃料噴射制御装置は、内燃機関のクランク軸と共に回転しかつ磁石を有するロータ及び、コイルを有するステータからなる発電機と、該ロータの回転角度を機械的に検出する機械的検出手段と、該コイルの出力電圧波形を整形することにより該ロータの該回転角度を電気的に検出する電気的検出手段と、該機械的検出手段及び該電気的検出手段により検出された該ロータの該回転角度の情報を基にして、該内燃機関に燃料を送給する燃料噴射部を制御する制御部と、を備えることを特徴とする。
【0012】
本発明は、エンジンの周辺装置として発電機、点火装置、燃料噴射装置の三者を複合化した構成に好適である。本発明の燃料噴射制御装置は、発電機、機械的検出手段、電気的検出手段、制御部、により構成することができる。
【0013】
発電機は、燃料噴射装置など内燃機関の周辺装置に必要な電力を生成するものであり、内燃機関が搭載される二輪車などの主機に必要な電力をも生成するようにしてもよい。発電機は、内燃機関のクランク軸と共に回転しかつ磁石を有するロータと、コイルを有するステータとで構成することができ、いわゆる回転磁界形交流発電機として作用する。磁石の数量や配置に制約はないが、当然、円周方向に等間隔にかつ交互にN極及びS極を配置することが好ましい。また、コイルの数量や巻回数にも制約はなく、生成した電力を供給する電気負荷に応じて適宜設計することができる。
【0014】
機械的検出手段は、ロータの回転角度を機械的に検出する手段である。ロータの回転角度を検出することは、クランク軸の回転角度を検出することに相当し、さらに内燃機関のピストン位置を検出することに相当する。
【0015】
前記機械的検出手段は、前記ロータの周方向に設けられた被検出部と、該ロータから離隔して固設され該被検出部の通過を検出する検出センサと、を有することが好ましい。さらに、前記機械的検出手段の前記被検出部は、少なくとも前記内燃機関の吸気下死点及び圧縮上死点直前を表示する突起部を含み、前記検出センサは該突起部の通過を検出する電磁ピックアップ式センサであってもよい。
【0016】
ここで、吸気下死点は、必ずしも機械的にピストンが最下部となるクランク位置を意味するのではなく、吸入空気量と相関のある吸気管圧力位置として周知の、吸気下死点から吸気下死点後30度までの固定されたクランク位置を意味する。
【0017】
機械的検出手段には、従来と同じ検出方式の突起部及び電磁ピックアップ式センサを用いることができる。ただし、従来のように多数の突起部を設ける必要はなく、制御上特に重要とされるクランク軸の特定回転角度のみを検出するように最小限の個数とすることが好ましい。具体的には、吸気下死点および圧縮上死点直前を表示する突起部を設けることが好ましい。吸気下死点は前述のように吸入空気量を求めるために最適なタイミングであり、また、圧縮上死点直前は点火に好適なタイミングである。
【0018】
電気的検出手段は、ロータの回転角度を電気的に検出する手段である。周知のように、磁石が回転することにより発生する交番磁界中に配置されたコイルには、理想的には正弦波状の交流出力電圧が誘起される。この交流出力電圧の位相とロータの回転角度との間には一定の関係があるので、出力電圧波形を整形することにより、ロータの回転角度を検出することができる。
【0019】
前記電気的検出手段は、前記コイルの出力電圧を一定のしきい値電圧と比較して矩形波に整形することが好ましい。さらに、前記電気的検出手段の前記しきい値電圧は、前記コイルの前記出力電圧の正側と負側とにそれぞれ設けられていてもよい。
【0020】
交流出力電圧を矩形波に整形するために、例えば、コンパレータ素子を有する回路を用いることができる。つまり、コイルの出力電圧をコンパレータ入力電圧とし、一定のしきい値電圧をコンパレータ基準電圧として、前者が後者以上となったときのみコンパレータ出力をHighとし、それ以外ではLowとすることで矩形波が得られる。このとき、矩形波は、コイルの出力電圧が正側で大きくなる時間帯に検出される。また、しきい値電圧を負側にも設ければ、コイルの出力電圧が負側で大きくなる時間帯を検出することができる。さらに、しきい値電圧の大きさを変えて複数個とすれば、時間幅の異なる複数個の矩形波が整形されて生成され、出力電圧波形を精度よく検出することがでる。なお、ロータの磁石の配置は外周の突起部の位置とは独立しているので、両者の回転角度の差を自由に設計することができる。つまり、機械的検出手段と電気的検出手段とで、互いに独立した異なる回転角度をそれぞれ検出することができる。したがって、ロータ及びクランク軸の回転角度を精度よく検出することができる。
【0021】
制御部は、検出された機械的回転角度及び電気的回転角度の情報を基にして、内燃機関への燃料の送給を制御するものである。制御部は、検出された機械的回転角度及び電気的回転角度により、ロータ及びクランク軸の回転角度を把握することができる。また、回転角度の変化量と経過時間との関係から回転速度や回転加速度を演算することができる。そして、制御部は、クランク軸の回転角度、回転速度、回転加速度を基にして他のセンサの情報も参照しながら、燃料噴射部、例えばインジェクタノズルを制御することができる。
【0022】
以上説明した本発明の燃料噴射制御装置では、発電機コイルの出力電圧波形を整形して電気的にクランク軸の回転角度を検出するようにしたので、電磁ピックアップ式センサで検出する突起部を最小限の個数としても、高精度な検出が行える。発電機コイルは従来から一般的に設けられているため新たに追加する必要はなく、したがって、突起部を減らした分だけコストを低減することができる。
【0023】
次に、本発明の応用態様について説明する。前記発電機の前記コイルは前記内燃機関のコンデンサ放電式点火装置の点火用コンデンサを充電する充電コイルであり、前記制御部は該点火用コンデンサの放電時期をも制御することが好ましい。さらに、前記充電コイルの交流出力の正負いずれか一方を前記点火用コンデンサの充電に用い、他方を前記制御部の電源に用いるようにしてもよい。
【0024】
本発明の燃料噴射制御装置は、コンデンサ放電式(CDI式)点火装置と組み合わせて構成することが好ましい。この点火装置では、点火用コンデンサに蓄積された電荷を点火コイルに流すことにより高電圧を誘起し、点火プラグで放電を発生させている。点火用コンデンサを充電するための充電コイルを本発明の電気的検出手段にも接続することにより、電圧位相の情報を得ることができる。一方、制御部は、燃料噴射制御装置と点火装置とで共通とし、機械的検出手段及び電気的検出手段により検出されたロータの回転角度の情報を共有して、点火用コンデンサの放電時期すなわち点火タイミングを制御することができる。例えば、機械的検出手段で検出した圧縮上死点直前のタイミングで点火用コンデンサの電荷を放出するように制御することができる。
【0025】
上述の態様では、従来の誘導放電式点火装置よりも通電電流が少なくて済むため、充電コイルの出力電圧が安定し、電気的検出手段の検出精度が向上する。また、発電機に別途設けられたバッテリ充電用コイルの出力電圧やバッテリ端子電圧の変動も少なくなり、バッテリに駆動される燃料噴射部の動作も安定する。例えば、電圧変動によるインジェクタノズルの動作のばらつきが低減される。
【0026】
また、充電コイルの出力端子を整流ダイオード経由で点火用コンデンサに接続することにより正負いずれか半波を充電に用いることができるが、逆極側の半波は充電には利用できない。この逆極側の半波を制御部の電源に用いることができ、結果として燃料噴射制御装置をバッテリ不要とすることができる。
【0027】
さらに、前記内燃機関は二輪車に搭載される単気筒エンジンであり、前記発電機に複数設けられた前記コイルの一つが前記電気的検出手段に接続されている、ことでもよい。
【0028】
本発明の燃料噴射制御装置は、コンデンサ放電式(CDI式)点火装置と組み合わることにより、比較的発電機容量の小さな単気筒エンジンに好適となる。なお、発電機には複数のコイルを設けることができ、電気的検出手段に接続されるコイルはいずれとしてもよく、前述の充電コイルに限定されるものではない。また、複数のコイルにより二輪車に装備された照明ランプなどの電気負荷の電力を賄うようにすれば、バッテリの不要な二輪車を構成することができる。この場合、エンジンを始動するために例えばキック式始動装置を設けることが好ましく、エンジン始動後は発電機で生成する電力により連続運転することができる。
【発明の効果】
【0029】
本発明の燃料噴射制御装置では、発電機コイルの出力電圧波形を整形して電気的にクランク軸の回転角度を検出する電気的検出手段を設けたので、電磁ピックアップ式センサで検出する突起部を最小限の個数としても、高精度な検出が行える。発電機コイルは一般的に設けられているため新たに追加する必要はなく、したがって、突起部を減らした分だけコストを低減することができる。
【0030】
また、コンデンサ放電式点火装置と組み合わせた態様では、点火装置側の通電電流が少なくて済み充電コイルの出力電圧が安定するため、電気的検出手段の検出精度が向上し、バッテリに駆動される燃料噴射部の動作も安定する。さらに、バッテリの不要な燃料噴射制御装置やエンジン、バッテリの不要な二輪車も構成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0031】
次に、実施形態を挙げ、本発明をより詳しく説明する。図1は、二輪車用単気筒エンジンに用いられる本発明の実施例の燃料噴射制御装置を説明する回路図である。実施例の燃料噴射制御装置1は、発電機2、クランク角センサ3、本発明の電気的検出手段及び制御部を兼ねる制御回路4、制御電源部5、組み合わせて形成されたコンデンサ放電式の点火装置部6、汎用電源部7、により構成されている。
【0032】
発電機2は、燃料噴射装置1自身を始めとするエンジンの周辺装置及び、二輪車のランプやインジケータなどに必要な電力を生成するものである。発電機2は、図略のエンジンクランク軸と共に回転するロータ21と、コイル25、26を有するステータ23とで構成されている。ロータ21の内側には8極の磁石が設けられ、円周方向に等間隔にかつ交互にN極及びS極が配置されている。図2は、発電機2のステータ23を説明する図である。ステータ23は、8個の巻回部を有するステータコア28を有し、巻回部には1個の充電コイル25及び7個の汎用コイル26が巻回されて形成されている。充電コイル25の出力端子25A、25Bは、制御回路4、制御電源部5、及び点火装置部6に接続されている。7個の汎用コイル26は直列に結線され、高圧端の出力端子26A及び中間の出力端子26B及び接地端の接地端子26Cは、それぞれ汎用電源部7に接続されている。そして、ロータ21が回転することにより磁石の磁界が回転して、充電コイル25から出力電圧V1が出力され、汎用コイル26から出力電圧V2が出力されるように構成されている。
【0033】
クランク角センサ3は、本発明の機械的検出手段に相当するものであり、ロータ21の回転角度を機械的に検出する手段である。クランク角センサ3は、ロータ21の外周に設けられた3個の突起部31〜33及び、突起部31〜33の回転による通過を検出する電磁ピックアップ34で構成されている。周方向に長い第1の突起部31はピストンの圧縮上死点直前を表示するものであり、そのわずかに前方に設けられる第2の突起部は第1の突起部31を予告するものである。また、第1の突起部31のほぼ反対側に設けられる第3の突起部33は、ピストンの吸気下死点を表示するものである。電磁ピックアップ34は制御回路4の角度入力端子42に接続され、これらの突起部31〜33が到達した瞬間に正側パルスを出力し、離隔した瞬間に負側パルスを出力するようになっている。
【0034】
ロータ21の回転角度を電気的に検出する本発明の電気的検出手段は、制御回路4内の処理回路により構成されている。詳述すると、充電コイル25の2つの出力端子25A、25Bが、制御回路4の正側入力端子41A、負側入力端子41Bにそれぞれ接続されている。そして、処理回路で正側入力端子41Aの電圧を正側のしきい値電圧と比較することにより矩形波整形を行い、負側入力端子41Bの電圧を負側のしきい値電圧と比較することにより矩形波整形を行い、さらに、各矩形波を基にしてロータ21の回転角度を求めるように構成されている。
【0035】
点火装置部6は、点火用コンデンサ61、点火用コイル62、点火用サイリスタ63,点火プラグ64、により構成されている。図1に示されるように、充電コイル25の正側出力端子25Aから、整流ダイオード65、点火用コンデンサ61、点火用コイル62の一次コイルが順番に直列接続された後、接地点Gに接続されている。また、整流ダイオード65と点火用コンデンサ61との接続点66から接地点Gに向けて点火用サイリスタ63が接続され、点火用コンデンサ61、点火用コイル62の一次コイル、点火用サイリスタ63の三者により閉回路が形成されている。点火用コイル62の二次コイルの高圧側端子は、点火プラグ64の一端に接続され、点火プラグ64の他端は接地されている。
【0036】
点火装置部6では、充電コイル25の正側出力電圧により点火用コンデンサ61に電荷が蓄積され、制御回路4の点火指令出力端子46からの点火指令により点火用サイリスタ63が導通し、電荷が過渡電流IDとなって閉回路を流れ、点火用コイル62の一次コイルに電圧が誘起される。これにより、点火用コイル62の二次コイルには高電圧が誘起され、点火プラグ64のギャップで放電が生じて点火が行われる。
【0037】
制御電源部5は、制御回路4に電源を供給するものであり、制御電源レギュレータ51及び制御電源コンデンサ52で構成されている。制御電源レギュレータ51の入力側は、充電コイル25の出力端子25A、25Bに接続され、出力側は制御電源コンデンサ52及び制御回路4の電源端子43、43Eに接続されている。なお、制御回路4の一方の電源端子43Eは、点火装置部6の接地点Gに接続されて基準電位となっている。制御電源レギュレータ51は、充電コイル25の出力電圧を整流、平滑して一定の制御電源電圧とし、制御回路4に供給している。また、制御電源コンデンサ52は、電荷を蓄積及び放出することにより、制御電源レギュレータ51が機能しない時間帯の電源電圧を補償するようになっている。
【0038】
汎用電源部7は、二輪車全体の電源となるものであり、レギュレータ71及びバッテリ72により構成されている。レギュレータ71の入力側は汎用コイル26に接続され、出力側はバッテリ72及び電源母線73に接続されている。レギュレータ71は、汎用コイル26の出力電圧を整流、平滑して一定の電源電圧とし、バッテリ72を充電するとともに電源母線73を介して二輪車内の電気負荷に電源を供給している。バッテリ72は、定電圧回路74を介して制御回路4にも電源を供給しており、制御電源部5が機能していないときにも制御回路4が動作するようになっている。換言すれば、バッテリ72は、エンジン停止時にも全ての電気負荷を使用可能としたものである。
【0039】
なお、エンジン始動後はロータ21が回転して発電機2が機能するため、二輪車走行中バッテリ72は必要でない。つまり、キック式始動装置を設けてエンジンを始動させるようにすれば、バッテリ72は不要とすることも可能である。
【0040】
制御回路4は燃料噴射制御装置1の制御部だけでなく、点火装置部6の制御部をも兼ねており、また、前述のように電気的検出手段となる処理回路が組み込まれて構成されている。制御回路4は、電磁ピックアップ34が接続される角度入力端子42、充電コイル25が接続される入力端子41A、41Bの他に、吸気圧センサ81が接続される吸気圧入力端子44、エンジン温度センサ82が接続される温度入力端子45を備えている。また、制御回路4は、点火用サイリスタ63を制御する点火指令出力端子46の他に、燃料噴射部のインジェクタノズル83を制御する噴射指令出力端子47、アイドリング速度制御バルブ84を制御するアイドリング速度制御端子48、インジケータランプ85を制御するインジケータ制御端子49を備えている。制御回路4にはマイコンが搭載され、ソフトウェアにより所定の制御が行われるように構成されている。
【0041】
次に、上述のように構成された本発明の実施例の燃料噴射制御装置1の動作、作用について、図3を参考にして説明する。図3は、図1の実施例における各部の電気的信号波形を示す図である。図中の横軸は時間軸であり、爆発−排気−吸気−圧縮の4行程、すなわち概ねピストン2往復分が示されている。波形は上から順に、(1)行程、(2)充電コイル25の無負荷出力電圧V0、(3)電磁ピックアップ34の機械的検出信号M0及び(4)それを整形した機械的整形信号M1、(5)点火用コンデンサ61の充電電圧VC及び(6)充電コイル25の正側電圧を整形した正側電気的整形信号E1、(7)制御電源部5の制御電源電圧VD及び(8)充電コイル25の負側電圧を整形した負側電気的整形信号E2、(9)吸気圧センサ81で検出した吸気管圧力P1、(10)インジェクタノズル83を制御する噴射指令信号S1である。
【0042】
図3において、エンジン運転状態では、ピストンが一往復する間にロータ21が一回転するので、8極の磁石が充電コイル25を通過して4波形分の交流出力電圧V1が得られる。この充電コイル25の交流出力電圧V1は、無負荷であれば図3(2)に示される正弦波状の無負荷出力電圧V0となり、実際には若干歪んだ波形となる。また、図1においてロータ21が反時計回りに一回転すると、電磁ピックアップ34の前方を3つの突起部31〜33が通過して、正負各3パルスの(3)機械的検出信号M0が得られる。制御回路4で、正パルスから負パルスまでの間を矩形波に整形すると3個の矩形波を有する(4)機械的整形信号M1が得られる。機械的整形信号M1の時間幅は突起部の周方向の長さに対応しているため、制御部は、短い波形に続く長い波形の終点を圧縮上死点直前の点火時期として検出することができる。また、制御部は、孤立した短い波形の終点を、吸気下死点の吸気管圧力の計測時期として検出することができる。
【0043】
次に、点火用コンデンサ61には、前段の整流ダイオード65の作用により、充電コイル25の出力電圧V1の正側電圧が印加される。正側電圧により、点火用コンデンサ61には電荷が蓄積され、図3(5)に示されるように充電電圧VCは徐々に高まってゆく。そして、圧縮上死点直前の点火時期に点火用サイリスタ63が導通し、蓄積された電荷が過渡電流IDとして放出され充電電圧VCはゼロに戻る。
【0044】
整流ダイオード65の前側から制御回路4の入力端子41Aに分岐した配線により充電コイル25の出力電圧V1が取り込まれている。制御回路4内の処理回路では、出力電圧V1の波形を基にして(6)正側電気的整形信号E1を得ている。図4は、図1の実施例において正側電気的整形信号E1を求める電気的検出手段を説明する図である。図示されるように、処理回路では、点火用コンデンサ61に電荷が流れ込んで充電されているときの充電時電圧VC1をしきい値電圧VNと比較し、前者が大きいときにHighを出力するようになっている。この結果、本実施例では、ロータ21が一回転する間に4個の矩形波を有する正側電気的整形信号E1が得られる。正側電気的整形信号E1の立ち下がりは、理論上は充電コイル25の出力電圧V1の正側ピーク点に一致するが、実際には回路素子などにおけるタイムラグに影響される。したがって、制御回路4でクランク軸の回転角度に換算する際に、補正を行うようにしてもよい。
【0045】
制御電源部5には、充電コイル25の出力電圧V1の負側電圧が利用される。つまり、図3(2)の無負荷出力電圧V0が負の時間帯において、制御電源レギュレータ51が機能して制御回路4に電源を供給するとともに、制御電源コンデンサ52に電荷を蓄積する。出力電圧V1が正の時間帯においては、制御電源レギュレータ51は機能せず、制御電源コンデンサ52が電荷を放出することで制御回路4に電源を供給する。制御電源コンデンサ52には、電荷放出による電圧降下が支障ない程度に大きな静電容量が選定されている。このため、制御電源電圧VDは、図3(7)に示されるように、のこぎり波状を呈する。
【0046】
また、制御電源レギュレータ51の内部から制御回路4の入力端子41Bに分岐された配線により内部電圧VD1が取り込まれている。制御回路4内の処理回路では、内部電圧VD1の波形を基にして(8)負側電気的整形信号E2を得ている。図5は、図1の実施例において負側電気的整形信号E2を求める電気的検出手段を説明する図である。図示されるように、処理回路では、内部電圧VD1をしきい値電圧VMと比較し、前者が大きいときにHighを出力するようになっている。この結果、本実施例では、ロータ21が一回転する間に4個の矩形波を有する負側電気的整形信号E2が得られる。負側電気的整形信号E2は、充電コイル25の出力電圧V1の負側に発生する。
【0047】
次に、制御回路4による燃料噴射部の制御方法について説明する。制御回路4の制御部では、3つの矩形波からなる機械的整形信号M1と、各4つの矩形波からなる正側電気的整形信号E1及び負側電気的整形信号E2とを基にして、ロータ21すなわちクランク軸の回転角度を高精度に求めている。また、回転角度と経過時間との関係から、回転速度や回転加速度などを演算により求めている。さらに、機械的整形信号M1に基づいて吸気下死点における吸気圧センサ81の情報を読み取り、吸気管圧力P1から吸入空気量と相関のある吸気検出圧力Pinを求めている。また、エンジン温度センサ82の情報からエンジン温度を得ている。そして、これら諸量を総合的に勘案して、吸気行程に丁度間に合うように、かつ適量の燃料を噴射できるように、噴射指令信号S1のオン及びオフのタイミングを決定してインジェクタノズル83に送出している。燃料噴射タイミングの決定に関しては多数の発明が為されておりここでは詳述しないが、図3(10)の例では吸気行程が始まる少し前から吸気行程の途中まで噴射指令信号S1が送出されている。
【0048】
なお、制御回路4は、前述のように点火装置部の点火用サイリスタ63に点火指令を送出する他、アイドリング速度制御バルブ84に制御指令を送信し、また、インジケータランプ85に動作中や異常の有無などの情報を送信するようになっている。
【0049】
以上説明したように、本実施例の燃料噴射制御装置1は、従来のクランク角センサ3を用いた機械的検出手段に電気的検出手段を併用してロータ21の回転角度を検出するようにしている。本実施例では、機械的に検出された3個の矩形波と正負各4個合計8個の電気的に検出された矩形波とが得られ、8〜24個の突起部が必要な従来のクランク角センサと同等の精度で検出が行える。したがって、本実施例によれば、突起部の数量を削減することができ、その分だけコストを低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】本発明の実施例の燃料噴射制御装置を説明する回路図である。
【図2】図1の実施例において発電機のステータを説明する図である。
【図3】図1の実施例における各部の電気的信号波形を示す図である。
【図4】図1の実施例において正側電気的整形信号を求める電気的検出手段を説明する図である。
【図5】図1の実施例において負側電気的整形信号を求める電気的検出手段を説明する図である。
【符号の説明】
【0051】
1:燃料噴射制御装置
2:発電機
21:ロータ
23:ステータ 25:充電コイル 26:汎用コイル
3:クランク角センサ
31〜33:突起部 34:電磁ピックアップ
4:制御回路(電気的検出手段及び制御部)
41A、41B:入力端子 42:角度入力端子 44:吸気圧入力端子
45:温度入力端子 47:噴射指令出力端子
5:制御電源部
51:制御電源レギュレータ 52:制御電源コンデンサ
6:点火装置部
7:汎用電源部
71:レギュレータ 72:バッテリ 74:定電圧回路
81:吸気圧センサ
82:エンジン温度センサ
83:インジェクタノズル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関のクランク軸と共に回転しかつ磁石を有するロータ及び、コイルを有するステータからなる発電機と、
該ロータの回転角度を機械的に検出する機械的検出手段と、
該コイルの出力電圧波形を整形することにより該ロータの該回転角度を電気的に検出する電気的検出手段と、
該機械的検出手段及び該電気的検出手段により検出された該ロータの該回転角度の情報を基にして、該内燃機関に燃料を送給する燃料噴射部を制御する制御部と、
を備えることを特徴とする燃料噴射制御装置。
【請求項2】
前記電気的検出手段は、前記コイルの出力電圧を一定のしきい値電圧と比較して矩形波に整形する請求項1に記載の燃料噴射制御装置。
【請求項3】
前記電気的検出手段の前記しきい値電圧は、前記コイルの前記出力電圧の正側と負側とにそれぞれ設けられている請求項2に記載の燃料噴射制御装置。
【請求項4】
前記機械的検出手段は、前記ロータの周方向に設けられた被検出部と、該ロータから離隔して固設され該被検出部の通過を検出する検出センサと、を有する請求項1〜3のいずれか一項に記載の燃料噴射制御装置。
【請求項5】
前記機械的検出手段の前記被検出部は、少なくとも前記内燃機関の吸気下死点及び圧縮上死点直前を表示する突起部を含み、前記検出センサは該突起部の通過を検出する電磁ピックアップ式センサである請求項4に記載の燃料噴射制御装置。
【請求項6】
前記発電機の前記コイルは前記内燃機関のコンデンサ放電式点火装置の点火用コンデンサを充電する充電コイルであり、前記制御部は該点火用コンデンサの放電時期をも制御する請求項1〜5のいずれか一項に記載の燃料噴射制御装置。
【請求項7】
前記充電コイルの交流出力の正負いずれか一方を前記点火用コンデンサの充電に用い、他方を前記制御部の電源に用いる請求項6に記載の燃料噴射制御装置。
【請求項8】
前記内燃機関は二輪車に搭載される単気筒エンジンであり、前記発電機に複数設けられた前記コイルの一つが前記電気的検出手段に接続されている請求項1〜7のいずれか一項に記載の燃料噴射制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−191689(P2009−191689A)
【公開日】平成21年8月27日(2009.8.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−31962(P2008−31962)
【出願日】平成20年2月13日(2008.2.13)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】