燃料噴射制御装置
【課題】噴射率パラメータの学習処理負荷の増大を抑制しつつ、現状の環境条件に応じた噴射率パラメータを用いて噴射状態を高精度で制御可能にする。
【解決手段】燃圧センサの検出値に基づき噴射率パラメータを算出する算出手段31と、その噴射率パラメータを学習する学習手段32と、学習した噴射率パラメータに基づき噴射指令信号を設定する設定手段33と、を備える燃料噴射制御装置において、燃料温度Th、燃料インターバルInt、筒内圧P(θ)等の環境値と噴射率パラメータとの相関を表した相関モデルMTh,MInt,MP(θ)をメモリに記憶させておく。そして、その相関モデル及び現状の環境値に基づき、前記算出手段31により算出した噴射率パラメータ(検出パラメータ)を、基準の環境値に対応した噴射率パラメータ(基準パラメータ)に変換して、前記学習手段32により学習させる。
【解決手段】燃圧センサの検出値に基づき噴射率パラメータを算出する算出手段31と、その噴射率パラメータを学習する学習手段32と、学習した噴射率パラメータに基づき噴射指令信号を設定する設定手段33と、を備える燃料噴射制御装置において、燃料温度Th、燃料インターバルInt、筒内圧P(θ)等の環境値と噴射率パラメータとの相関を表した相関モデルMTh,MInt,MP(θ)をメモリに記憶させておく。そして、その相関モデル及び現状の環境値に基づき、前記算出手段31により算出した噴射率パラメータ(検出パラメータ)を、基準の環境値に対応した噴射率パラメータ(基準パラメータ)に変換して、前記学習手段32により学習させる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関の燃焼に用いる燃料の噴射状態を制御する、燃料噴射制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の燃料噴射制御装置は、燃料噴射弁の開弁時期や噴射期間を指令する噴射指令信号を出力することで、燃料噴射開始時期や噴射量を制御する。但し、噴射開始を指令してから実際に噴射が開始するまでには遅れ時間が存在し、また、指令した噴射量と実際の噴射量とはずれが生じる。そこで、これらの遅れ時間やずれ等の固有値(噴射率パラメータ)を、予め試験により取得して記憶させておき、記憶させておいた噴射率パラメータを参照して、所望する噴射開始時期及び噴射量となるような噴射指令信号を設定する。
【0003】
しかし、上記噴射率パラメータは経年劣化等により変化していくものである。そこで本出願人は、コモンレールの下流側部分における燃料圧力を検出する燃圧センサを搭載し、燃料噴射に伴い生じる圧力変化(燃圧波形)を検出することで噴射率変化(噴射率波形)を取得し、取得した噴射率波形から先述した噴射率パラメータを検出する技術について提案してきた(特許文献1,2,3等参照)。これらの技術によれば、経年劣化により変化する噴射率パラメータを検出して学習できるので、所望する噴射開始時期及び噴射量となるよう、噴射状態を高精度で制御できるようになる。ちなみに、噴射率パラメータの具体例としては、図2に例示する噴射開始遅れ時間Td、噴射終了遅れ時間Te、噴射率上昇傾きRα、噴射率下降傾きRβ、最大噴射率Rmax等が挙げられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−144749号公報
【特許文献2】特開2009−74535号公報
【特許文献3】特開2010−223185号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、噴射時の燃料温度や筒内圧、過給圧、EGR量、多段噴射時における噴射インターバル等、その時の環境条件に応じて噴射率パラメータは異なる値になる。そのため、これらの環境条件を無視して噴射率パラメータを学習させていては、環境条件が急変した場合、急変後の環境条件に応じた噴射率パラメータの学習が完了するまでの過渡期間において、噴射状態を高精度で制御できなくなる。
【0006】
しかしその一方で、これらの環境条件全てに関連付けて噴射率パラメータを学習させようとすると、学習に要するメモリの記憶容量が膨大になるとともに学習処理負荷が大きくなる。
【0007】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、その目的は、噴射率パラメータの学習に要する記憶容量の増大及び学習処理負荷の増大を抑制しつつ、現状の環境条件に応じた噴射率パラメータを用いて噴射状態を高精度で制御できるようにした燃料噴射制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
以下、上記課題を解決するための手段、及びその作用効果について記載する。
【0009】
請求項1記載の発明では、蓄圧容器で蓄圧した燃料を噴射する燃料噴射弁と、前記蓄圧容器の吐出口から前記燃料噴射弁の噴孔に至るまでの燃料通路に配置され、前記燃料通路内の燃料圧力を検出する燃圧センサと、を備えた燃料噴射システムに適用され、前記燃圧センサの検出値に基づき、噴射に伴い生じた燃料圧力の変化を燃圧波形として検出する燃圧波形検出手段と、検出した前記燃圧波形に基づき、その燃圧波形に対応する噴射率波形を特定するのに要する噴射率パラメータを算出する噴射率パラメータ算出手段と、算出した前記噴射率パラメータを学習する噴射率パラメータ学習手段と、学習した前記噴射率パラメータに基づき、要求噴射状態に対応する噴射指令信号を設定し、設定した前記噴射指令信号を前記燃料噴射弁へ出力する噴射指令信号設定手段と、を備えることを前提とする。
【0010】
そして、値が変化することによって、前記噴射率パラメータの値を変動させる環境値と、前記噴射率パラメータとの相関を表した相関モデルを記憶する相関モデル記憶手段と、前記噴射率パラメータ算出手段により算出した噴射率パラメータを、現状の環境値及び前記相関モデルに基づき、基準の環境値に対応した噴射率パラメータに変換する基準環境変換手段と、を備え、前記噴射率パラメータ学習手段は、前記基準環境変換手段により変換した噴射率パラメータを学習することを特徴とする。
【0011】
ここで、噴射率パラメータと環境値との相関は推定可能であることが、本発明者が実施した試験により明らかとなっている。例えば、燃料温度(環境値)が高いほど、燃料の粘性が低くなること等に起因して噴射開始遅れ時間Td(噴射率パラメータ)は長くなる(図7(a)参照)。また、多段噴射時における噴射インターバル(環境値)の変化に応じて、噴射開始遅れ時間Td(噴射率パラメータ)は所定の規則に従って周期的に変化する(図8(a1)(a2)参照)。
【0012】
この点を鑑みた上記発明では、噴射率パラメータと環境値との相関を表した相関モデルを予め記憶させておく。そして、検出した燃圧波形に基づき算出した噴射率パラメータ(検出パラメータ)を、現状の環境値及び相関モデルに基づき、基準の環境値に対応した噴射率パラメータ(基準パラメータ)に変換して学習する。
【0013】
これによれば、基準の環境値に対応した噴射率パラメータに変換して学習させるので、都度の環境値に関連付けて噴射率パラメータを学習させる場合に比べて、学習に要する記憶容量の増大を抑制できるとともに、学習処理負荷の増大を抑制できる。
【0014】
また、現状の環境値と基準の環境値との差分を鑑みて、学習した噴射率パラメータに基づき噴射指令信号を設定すれば、現状の環境値に応じた噴射指令信号に設定(見込み設定)することができる。よって、環境値が急変した場合において、急変後の環境値に応じた噴射率パラメータの学習が完了することを待たずして、急変後の環境値に適した噴射指令信号に設定することができる。よって、環境値が急変した過渡期間であっても噴射状態を高精度で制御できる。
【0015】
請求項2記載の発明では、前記噴射率パラメータ学習手段により学習された噴射率パラメータを、現状の環境値及び前記相関モデルに基づき、現状の環境値に対応した噴射率パラメータに変換する現状環境変換手段を備え、前記噴射指令信号設定手段は、前記現状環境変換手段により変換した噴射率パラメータに基づき、要求噴射状態に対応する噴射指令信号を設定することを特徴とする。
【0016】
これによれば、基準の環境値に対応するよう変換して学習された噴射率パラメータ(基準パラメータ)を、現状の環境値に対応した噴射率パラメータ(現状パラメータ)に変換し、その現状パラメータに基づき噴射指令信号を設定するので、現状の環境値に応じた噴射指令信号に設定できる。
【0017】
しかも、現状環境変換手段で用いられる相関モデルと基準環境変換手段で用いられる相関モデルとを共通にするので、基準パラメータから現状パラメータへの変換精度を向上できるとともに、両変換手段で用いられる相関モデルを異なるモデルにした場合に比べて、相関モデルに要する記憶容量を少なくできる。
【0018】
請求項3記載の発明では、蓄圧容器で蓄圧した燃料を噴射する燃料噴射弁と、前記蓄圧容器の吐出口から前記燃料噴射弁の噴孔に至るまでの燃料通路に配置され、前記燃料通路内の燃料圧力を検出する燃圧センサと、を備えた燃料噴射システムに適用され、前記燃圧センサの検出値に基づき、噴射に伴い生じた燃料圧力の変化を燃圧波形として検出する燃圧波形検出手段と、検出した前記燃圧波形に基づき、その燃圧波形に対応する噴射率波形を特定するのに要する噴射率パラメータを算出する噴射率パラメータ算出手段と、算出した前記噴射率パラメータを学習する噴射率パラメータ学習手段と、学習した前記噴射率パラメータに基づき、要求噴射状態に対応する噴射指令信号を設定し、設定した前記噴射指令信号を前記燃料噴射弁へ出力する噴射指令信号設定手段と、を備えることを前提とする。
【0019】
そして、値が変化することによって、前記噴射率パラメータの値を変動させる環境値と、前記噴射率パラメータとの相関を表した相関モデルを記憶する相関モデル記憶手段と、前記噴射率パラメータ学習手段により学習された噴射率パラメータを、現状の環境値及び前記相関モデルに基づき、現状の環境値に対応した噴射率パラメータに変換する現状環境変換手段と、を備え、前記噴射指令信号設定手段は、前記現状環境変換手段により変換した噴射率パラメータに基づき、要求噴射状態に対応する噴射指令信号を設定することを特徴とする。
【0020】
ここで、噴射率パラメータと環境値との相関は推定可能であることは先述した通りであり、この点を鑑みた上記発明では、噴射率パラメータと環境値との相関を表した相関モデルを予め記憶させておく。そして、学習した噴射率パラメータを、現状の環境値及び相関モデルに基づき現状の環境値に対応した噴射率パラメータ(現状パラメータ)に変換し、このように変換した噴射率パラメータに基づき、要求噴射状態に対応する噴射指令信号を設定する。そのため、環境値が急変した場合において、急変後の環境値に応じた噴射率パラメータの学習が完了することを待たずして、急変後の環境値に適した噴射指令信号に設定することができる。よって、環境値が急変した過渡期間であっても噴射状態を高精度で制御できる。
【0021】
また、都度の環境値に関連付けて噴射率パラメータを学習させることを不要にでき、基準の環境値に対応した噴射率パラメータを学習させておけば、現状の環境値に応じた噴射指令信号に設定することができるので、都度の環境値に関連付けて噴射率パラメータを学習させる場合に比べて、学習に要する記憶容量の増大を抑制できるとともに、学習処理負荷の増大を抑制できる。
【0022】
請求項4記載の発明では、1燃焼サイクルあたりに燃料噴射を複数回行う多段噴射を実施する際の、噴射間のインターバルを前記環境値とした場合において、検出した前記燃圧波形から、噴射終了後に生じる燃料圧力の脈動を表した脈動波形を抽出する脈動波形抽出手段と、抽出した前記脈動波形に基づき前記相関モデルの学習値を演算する相関学習値演算手段と、前記相関学習値演算手段により演算した前記学習値に基づき前記相関モデルを学習する相関モデル学習手段と、を備えることを特徴とする。
【0023】
ここで、多段噴射を実施する場合には、噴射率パラメータの値は、前段の噴射に伴い生じた燃圧変動(特に噴射終了後に生じる燃圧脈動)の影響を少なからず受けて変動する。そして、前段噴射にかかる燃圧変動は上昇と下降を繰り返しながら減衰していく脈動であることに起因して、噴射間のインターバルが変化すると、噴射率パラメータの値も上昇と下降を繰り返しながら減衰して脈動することが、本発明者が実施した試験により明らかとなった。例えば、噴射開始遅れ時間Td(噴射率パラメータ)や噴射終了遅れ時間Te(噴射率パラメータ)は、インターバルに応じて図8に示すように脈動する。そして、インターバルに応じた噴射率パラメータの脈動波形と、噴射終了後に生じる燃圧脈動波形とは相関があることを本発明者は見出した。このことは、検出した燃圧波形から脈動波形を抽出すれば、その抽出した脈動波形から噴射率パラメータの脈動波形を演算することができ、ひいては相関モデルの学習値を演算できることを意味する。
【0024】
この点を鑑みた上記発明では、検出した燃圧波形から脈動波形を抽出し、抽出した脈動波形に基づき相関モデルの学習値を演算し、演算した学習値に基づき相関モデルを学習するので、経年劣化等に起因して環境値と噴射率パラメータとの実際の相関(相関モデル)が変化した場合であっても、その実際の相関を学習することができる。よって、相関モデルを高精度にすることができるので、基準環境変換手段による変換、或いは現状環境変換手段による変換の変換精度を向上でき、ひいては噴射状態をより一層高精度で制御できるようになる。
【0025】
請求項5記載の発明では、前記相関モデル記憶手段は、前記蓄圧容器から前記燃料噴射弁へ供給される燃料の圧力である供給圧力と関連付けて、前記環境値と前記噴射率パラメータとの相関を記憶しており、前記相関モデル学習手段は、前記供給圧力と関連付けて前記相関モデルを学習することを特徴とする。
【0026】
ところで、噴射率パラメータと環境値との相関は推定可能であることは先述した通りであるが、供給圧力については、燃料噴射弁の経年劣化の状態に応じて噴射率パラメータとの相関が異なってくるため、噴射率パラメータと供給圧力との相関は推定困難であり、供給圧力を環境値として設定して相関モデルを作成して記憶させておくことは困難である。例えば、燃料噴射弁の噴孔が磨耗して噴孔面積が大きくなっている場合と、噴孔に異物が付着堆積して噴孔面積が小さくなっている場合とで、噴射率パラメータと供給圧力との相関は異なってくるからである。
【0027】
この点に着目した上記発明では、環境値と噴射率パラメータとの相関を表した相関モデルを、供給圧力と関連付けたモデルとし、その相関モデルを供給圧力と関連付けて学習していくので、経年劣化状態に応じた噴射率パラメータと供給圧力との相関を加味した相関モデルに学習できる。よって、相関モデルの精度を向上できる。
【0028】
請求項6記載の発明では、前記噴射率パラメータ学習手段は、前記蓄圧容器から前記燃料噴射弁へ供給される燃料の圧力である供給圧力と関連付けて、前記噴射率パラメータを学習することを特徴とする。
【0029】
先述した通り、噴射率パラメータと供給圧力との相関は推定困難であり、供給圧力を環境値として設定して相関モデルを作成して記憶させておくことは困難である。つまり、供給圧力については相関モデルとして記憶させておき、基準環境変換手段又は現状環境変換手段により変換させることが困難である。
【0030】
この点に着目した上記発明では、噴射率パラメータ学習手段により噴射率パラメータを学習するにあたり、その噴射率パラメータを供給圧力と関連付けて学習するので、経年劣化状態に応じた供給圧力との相関を加味した噴射率パラメータに学習していくことができる。よって、噴射率パラメータの精度を向上できる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明の第1実施形態にかかる燃料噴射制御装置が適用される、燃料噴射システムの概略を示す図である。
【図2】噴射指令信号に対応する噴射率、燃圧、微分値の変化を示す図である。
【図3】第1実施形態にかかる噴射率パラメータの学習及び噴射指令信号の設定等の概要を示すブロック図である。
【図4】第1実施形態にかかる噴射率パラメータの算出手順を示すフローチャートである。
【図5】噴射時燃圧波形Wa、非噴射時燃圧波形Wu、噴射波形Wbを示す図である。
【図6】第1実施形態において、検出パラメータを基準パラメータに変換して学習する手順を示すフローチャートである。
【図7】図3の変換手段に用いられる、燃料温度(環境値)と噴射率パラメータとの相関マップMThである。
【図8】本発明者が実施した試験結果であり、噴射インターバルInt(環境値)と噴射率パラメータとの相関を示す図である。
【図9】本発明者が実施した試験結果であり、図3の変換手段による見込み補正の効果を示す図である。
【図10】第1実施形態において、基準パラメータを現状パラメータに変換して噴射指令信号を設定する手順を示すフローチャートである。
【図11】本発明の第2実施形態において、脈動パラメータUf及び相関パラメータUintを学習する手順を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、本発明に係る燃料噴射制御装置を具体化した各実施形態を、図面に基づいて説明する。なお、以下に説明する実施形態の燃料噴射システムは、車両用のエンジン(内燃機関)に搭載されたものであり、当該エンジンには、複数の気筒#1〜#4について高圧燃料を噴射して圧縮自着火燃焼させるディーゼルエンジンを想定している。
【0033】
(第1実施形態)
図1は、上記エンジンの各気筒に搭載された燃料噴射弁10、各々の燃料噴射弁10に搭載された燃圧センサ20、及び車両に搭載された電子制御装置であるECU30等を示す模式図である。
【0034】
先ず、燃料噴射弁10を含むエンジンの燃料噴射システムについて説明する。燃料タンク40内の燃料は、燃料ポンプ41によりコモンレール42(蓄圧容器)に圧送されて蓄圧され、各気筒の燃料噴射弁10(#1〜#4)へ分配供給される。複数の燃料噴射弁10(#1〜#4)は、予め設定された順番で燃料の噴射を順次行う。なお、燃料ポンプ41にはプランジャポンプが用いられているため、プランジャの往復動に同期して燃料は圧送される。
【0035】
燃料噴射弁10は、以下に説明するボデー11、ニードル形状の弁体12及びアクチュエータ13等を備えて構成されている。ボデー11は、内部に高圧通路11aを形成するとともに、燃料を噴射する噴孔11bを形成する。弁体12は、ボデー11内に収容されて噴孔11bを開閉する。
【0036】
ボデー11内には弁体12に背圧を付与する背圧室11cが形成されており、高圧通路11a及び低圧通路11dは背圧室11cと接続されている。高圧通路11a及び低圧通路11dと背圧室11cとの連通状態は制御弁14により切り替えられており、電磁コイルやピエゾ素子等のアクチュエータ13へ通電して制御弁14を図1の下方へ押し下げ作動させると、背圧室11cは低圧通路11dと連通して背圧室11c内の燃料圧力は低下する。その結果、弁体12へ付与される背圧力が低下して弁体12はリフトアップ(開弁作動)する。一方、アクチュエータ13への通電をオフして制御弁14を図1の上方へ作動させると、背圧室11cは高圧通路11aと連通して背圧室11c内の燃料圧力は上昇する。その結果、弁体12へ付与される背圧力が上昇して弁体12はリフトダウン(閉弁作動)する。
【0037】
したがって、ECU30がアクチュエータ13への通電を制御することで、弁体12の開閉作動が制御される。これにより、コモンレール42から高圧通路11aへ供給された高圧燃料は、弁体12の開閉作動に応じて噴孔11bから噴射される。
【0038】
燃圧センサ20は、以下に説明するステム21(起歪体)、圧力センサ素子22及びモールドIC23等を備えて構成されている。ステム21はボデー11に取り付けられており、ステム21に形成されたダイヤフラム部21aが高圧通路11aを流通する高圧燃料の圧力を受けて弾性変形する。圧力センサ素子22はダイヤフラム部21aに取り付けられており、ダイヤフラム部21aで生じた弾性変形量に応じて圧力検出信号を出力する。
【0039】
また、ダイヤフラム部21aには温度センサ素子22a(燃温センサ)が取り付けられている。この温度センサ素子22aにより検出された温度は、高圧燃料の温度とみなすことができ、後述する環境値として用いられる。
【0040】
モールドIC23は、圧力センサ素子22から出力された圧力検出信号を増幅する増幅回路や、圧力検出信号を送信する送信回路等の電子部品を樹脂モールドして形成されており、ステム21とともに燃料噴射弁10に搭載されている。ボデー11上部にはコネクタ15が設けられており、コネクタ15に接続されたハーネス16(信号線)により、モールドIC23及びアクチュエータ13とECU30とはそれぞれ電気接続される。そして、増幅された圧力検出信号はECU30に送信されて、ECU30が有する受信回路により受信される。この送受信にかかる通信処理は、各気筒の燃圧センサ20毎に実施される。
【0041】
ECU30は、アクセルペダルの操作量やエンジン負荷、エンジン回転速度NE等に基づき目標噴射状態(例えば噴射段数、噴射開始時期、噴射終了時期、噴射量等)を算出する。例えば、エンジン負荷及びエンジン回転速度に対応する最適噴射状態を噴射状態マップにして記憶させておく。そして、現状のエンジン負荷及びエンジン回転速度に基づき、噴射状態マップを参照して目標噴射状態を算出する。そして、算出した目標噴射状態に対応する噴射指令信号t1、t2、Tq(図2(a)参照)を、後に詳述する噴射率パラメータtd,te,Rα,Rβ,Rmaxに基づき設定し、燃料噴射弁10へ出力することで燃料噴射弁10の作動を制御する。
【0042】
ここで、噴孔11bの磨耗や目詰まり等、燃料噴射弁10の経年劣化に起因して、噴射指令信号に対する実際の噴射状態は変化していく。そこで、燃圧センサ20の検出値に基づき、噴射に伴い生じた燃料圧力の変化を燃圧波形(図2(c)参照)として検出し、検出した燃圧波形に基づき燃料の噴射率変化を表した噴射率波形(図2(b)参照)を演算して噴射状態を検出する。そして、検出した噴射率波形(噴射状態)を特定する噴射率パラメータRα,Rβ,Rmaxを学習するとともに、噴射指令信号(パルスオン時期t1、パルスオフ時期t2及びパルスオン期間Tq)と噴射状態との相関関係を特定する噴射率パラメータtd,teを学習する。具体的には、図2(b)に例示する噴射開始遅れ時間td、噴射終了遅れ時間te、噴射率上昇傾きRα、噴射率下降傾きRβ、最大噴射率Rmax等を学習する。
【0043】
図3は、これら噴射率パラメータの学習及び噴射指令信号の設定等の概要を示すブロック図であり、ECU30により機能する各手段31,32,33,34について以下に説明する。噴射率パラメータ算出手段31(噴射率パラメータ算出手段)は、燃圧センサ20により検出された燃圧波形に基づき噴射率パラメータtd,te,Rα,Rβ,Rmaxを算出する。学習手段32(噴射率パラメータ学習手段)は、以下に詳述する変換手段34(基準環境変換手段)により変換された噴射率パラメータを、ECU30のメモリ30mに記憶更新して学習する。
【0044】
ここで、噴射時の燃料温度や筒内圧、過給圧、EGR量、多段噴射時における噴射インターバル等、その時の環境条件に応じて噴射率パラメータは異なる値になる。そこで、噴射率パラメータ算出手段31で算出した噴射率パラメータ(以下、検出パラメータと記載)を、変換手段34により、基準となる環境条件に対応した噴射率パラメータ(以下、基準パラメータと記載)に変換する。そして学習手段32は、変換後の基準パラメータをメモリ30mに記憶更新して学習する。
【0045】
なお、噴射率パラメータは、その時の供給圧力(コモンレール42内の圧力)に応じて異なる値となる。そのため、基準パラメータは、供給圧力又は後述する基準圧Pbaseと関連付けて学習させることが望ましい。また、最大噴射率Rmaxを除く他の噴射率パラメータについては、噴射量とも関連付けて学習させることが望ましい。図3の例では、燃圧(供給圧力又は基準圧Pbase)に関連付けて基準パラメータを基準パラメータマップMnに記憶させている。当該基準パラメータマップMnは、噴射率パラメータ(td,te,Rα,Rβ,Rmax)毎に設けられている。
【0046】
さらに、上記変換手段34(現状環境変換手段)は、基準パラメータマップMnに記憶された基準パラメータを、現状の環境条件に対応した噴射率パラメータ(以下、現状パラメータと記載)に変換する機能を有する。変換手段34による基準パラメータへの変換、及び現状パラメータへの変換の手法については、後に詳述する。
【0047】
設定手段33(噴射指令信号設定手段)は、現状の燃圧に対応する基準パラメータを基準パラメータマップMnから取得し、変換手段34により変換された現状パラメータに基づき、目標噴射状態に対応する噴射指令信号t1、t2、Tqを設定する。そして、このように設定した噴射指令信号にしたがって燃料噴射弁10を作動させた時の燃圧波形を燃圧センサ20で検出し、検出した燃圧波形に基づき噴射率パラメータ算出手段31は噴射率パラメータtd,te,Rα,Rβ,Rmaxを算出する。
【0048】
要するに、噴射指令信号に対する実際の噴射状態(つまり噴射率パラメータtd,te,Rα,Rβ,Rmax)を検出して学習し、その学習値に基づき、目標噴射状態に対応する噴射指令信号を設定する。そのため、実際の噴射状態に基づき噴射指令信号がフィードバック制御されることとなり、先述した経年劣化が進行しても、実噴射状態が目標噴射状態に一致するよう燃料噴射状態を高精度で制御できる。
【0049】
次に、検出した燃圧波形(図2(c)参照)から噴射率パラメータtd,te,Rα,Rβ,Rmax(図2(b)参照)を算出する手順について、図4のフローチャートを用いて説明する。なお、図4に示す処理は、ECU30が有するマイクロコンピュータにより、燃料の噴射を1回実施する毎に実行される。なお、前記燃圧波形とは、所定のサンプリング周期で取得した、燃圧センサ20による複数の検出値の集合である。
【0050】
先ず、図4に示すステップS10(燃圧波形検出手段)において、噴射率パラメータの算出に用いる燃圧波形であって、以下に説明する噴射波形Wb(補正後燃圧波形)を算出する。なお、以下の説明では、燃料噴射弁10から燃料を噴射させている気筒を噴射気筒(表気筒)、この噴射気筒が燃料を噴射しているときに燃料噴射させていない気筒を非噴射気筒(裏気筒)とし、かつ、噴射気筒に対応する燃圧センサ20を噴射時燃圧センサ、非噴射気筒に対応する燃圧センサ20を非噴射時燃圧センサと呼ぶ。
【0051】
噴射時燃圧センサにより検出された燃圧波形である噴射時燃圧波形Wa(図5(a)参照)は、噴射による影響のみを表しているわけではなく、以下に例示する噴射以外の影響で生じた波形成分をも含んでいる。すなわち、燃料タンク40の燃料をコモンレール42へ圧送する燃料ポンプ41がプランジャポンプの如く間欠的に燃料を圧送するものである場合には、燃料噴射中にポンプ圧送が行われると、そのポンプ圧送期間中における噴射時燃圧波形Waは全体的に圧力が高くなった波形となる。つまり、噴射時燃圧波形Wa(図5(a)参照)には、噴射による燃圧変化を表した燃圧波形である噴射波形Wb(図5(c)参照)と、ポンプ圧送による燃圧上昇を表した燃圧波形(図5(b)中の実線Wu参照)とが含まれていると言える。
【0052】
また、このようなポンプ圧送が燃料噴射中に行われなかった場合であっても、燃料を噴射した直後は、その噴射分だけ噴射システム内全体の燃圧が低下する。そのため、噴射時燃圧波形Waは全体的に圧力が低くなった波形となる。つまり、噴射時燃圧波形Waには、噴射による燃圧変化を表した噴射波形Wbの成分と、噴射システム内全体の燃圧低下を表した燃圧波形(図5(b)中の点線Wu’参照)の成分とが含まれていると言える。
【0053】
そこで図4のステップS10では、非噴射気筒センサにより検出される非噴射時燃圧波形Wu(Wu’)はコモンレール内の燃圧(噴射システム内全体の燃圧)の変化を表していることに着目し、噴射気筒センサにより検出された噴射時燃圧波形Waから、非噴射気筒センサによる非噴射時燃圧波形Wu(Wu’)を差し引いて噴射波形Wbを演算している。なお、図2(c)に示す燃圧波形は噴射波形Wbである。
【0054】
続くステップS11では、噴射波形Wbのうち、噴射開始に伴い燃圧が降下を開始するまでの期間に対応する部分の波形である基準波形に基づき、その基準波形の平均燃圧を基準圧Pbaseとして算出する。例えば、噴射開始指令時期t1から所定時間が経過するまでの期間TAに対応する部分を、基準波形として設定すればよい。或いは、降下波形の微分値(図2(d)参照)に基づき変曲点P1を算出し、噴射開始指令時期t1から変曲点P1より所定時間前までの期間に相当する部分を基準波形として設定すればよい。
【0055】
続くステップS12では、噴射波形Wbのうち、噴射率増大に伴い燃圧が降下していく期間に対応する部分の波形である降下波形に基づき、その降下波形の近似直線Lαを算出する。例えば、噴射開始指令時期t1から所定時間が経過した時点からの所定期間TBに対応する部分を、降下波形として設定すればよい。或いは、降下波形の微分値(図2(d)参照)に基づき変曲点P1,P2を算出し、これら変曲点P1,P2の間に相当する部分を降下波形として設定すればよい。そして、降下波形を構成する複数の燃圧検出値(サンプリング値)から、最小二乗法により近似直線Lαを算出すればよい。或いは、降下波形のうち微分値(図2(d)参照)が最小となる時点における接線を、近似直線Lαとして算出すればよい。
【0056】
続くステップS13では、噴射波形Wbのうち、噴射率減少に伴い燃圧が上昇していく期間に対応する部分の波形である上昇波形に基づき、その上昇波形の近似直線Lβを算出する。例えば、噴射終了指令時期t2から所定時間が経過した時点からの所定期間TCに対応する部分を、上昇波形として設定すればよい。或いは、上昇波形の微分値(図2(d)参照)に基づき変曲点P3,P5を算出し、これら変曲点P3,P5の間に相当する部分を上昇波形として設定すればよい。そして、上昇波形を構成する複数の燃圧検出値(サンプリング値)から、最小二乗法により近似直線Lβを算出すればよい。或いは、上昇波形のうち微分値(図2(d)参照)が最大となる時点における接線を、近似直線Lβとして算出すればよい。
【0057】
続くステップS14では、基準圧Pbaseに基づき基準値Bα,Bβを算出する。例えば、基準圧Pbaseより所定量だけ低い値を基準値Bα,Bβとして算出すればよい。なお、両基準値Bα,Bβを同じ値に設定する必要はない。また、前記所定量は基準圧Pbaseの値や燃料温度等に応じて可変設定してもよい。
【0058】
続くステップS15では、近似直線Lαのうち基準値Bαとなる時期(LαとBαの交点時期LBα)を算出する。この交点時期LBαと噴射開始時期R1とは相関が高いことに着目し、交点時期LBαに基づき噴射開始時期R1を算出する。例えば、交点時期LBαよりも所定の遅れ時間Cαだけ前の時期を噴射開始時期R1として算出すればよい。
【0059】
続くステップS16では、近似直線Lβのうち基準値Bβとなる時期(LβとBβの交点時期LBβ)を算出する。この交点時期LBβと噴射終了時期R4とは相関が高いことに着目し、交点時期LBβに基づき噴射終了時期R4を算出する。例えば、交点時期LBβよりも所定の遅れ時間Cβだけ前の時期を噴射終了時期R4として算出すればよい。なお、上記遅れ時間Cα,Cβは、基準圧Pbaseの値や燃料温度等に応じて可変設定してもよい。
【0060】
続くステップS17では、近似直線Lαの傾きと噴射率増加の傾きとは相関が高いことに着目し、図2(b)に示す噴射率波形のうち噴射増加を示す直線Rαの傾きを、近似直線Lαの傾きに基づき算出する。例えば、Lαの傾きに所定の係数を掛けてRαの傾きを算出すればよい。なお、ステップS15で算出した噴射開始時期R1と当該ステップS17で算出したRαの傾きに基づき、噴射指令信号に対する噴射率波形の上昇部分を表した直線Rαを特定することができる。
【0061】
さらにステップS17では、近似直線Lβの傾きと噴射率減少の傾きとは相関が高いことに着目し、噴射率波形のうち噴射減少を示す直線Rβの傾きを、近似直線Lβの傾きに基づき算出する。例えば、Lβの傾きに所定の係数を掛けてRβの傾きを算出すればよい。なお、ステップS16で算出した噴射終了時期R4と当該ステップS17で算出したRβの傾きに基づき、噴射指令信号に対する噴射率波形の降下部分を表した直線Rβを特定することができる。なお、上記所定の係数は、基準圧Pbaseの値や燃料温度等に応じて可変設定してもよい。
【0062】
続くステップS18では、ステップS17で算出した噴射率波形の直線Rα,Rβに基づき、噴射終了を指令したことに伴い弁体12がリフトダウンを開始する時期(閉弁作動開始時期R23)を算出する。具体的には、両直線Rα,Rβの交点を算出し、その交点時期を閉弁作動開始時期R23として算出する。
【0063】
続くステップS19では、ステップS15で算出した噴射開始時期R1の噴射開始指令時期t1に対する遅れ時間(噴射開始遅れ時間td)を算出する。また、ステップS18で算出した閉弁作動開始時期R23の噴射終了指令時期t2に対する遅れ時間(噴射終了遅れ時間te)を算出する。
【0064】
続くステップS20では、噴射波形Wbの最大落込量ΔPと最大噴射率Rmaxとは相関が高いことに着目し、噴射波形Wbから最大落込量ΔPを算出し、算出した最大落込量ΔPに基づき最大噴射率Rmaxを算出する。例えば、ΔPに所定の係数を掛けてRmaxを算出すればよい。なお、上記所定の係数は、基準圧Pbaseの値や燃料温度等に応じて可変設定してもよい。
【0065】
以上により、図4の処理によれば、噴射波形Wbから噴射率パラメータtd,te,Rα,Rβ,Rmaxを算出することができる。そして、これらの噴射率パラメータtd,te,Rα,Rβ,Rmaxに基づき、噴射指令信号(図2(a)参照)に対応した噴射率波形(図2(b)参照)を算出することができる。なお、このように算出した噴射率波形の面積(図2(b)中の網点ハッチ参照)は噴射量に相当するので、噴射率パラメータに基づき噴射量を算出することもできる。ちなみに、噴射指令期間Tqが十分に長く、最大噴射率に達した以降も開弁状態を継続させる場合においては、噴射率波形は図2(b)に示すように台形となる。一方、最大噴射率に達する前に閉弁作動を開始させるような小噴射の場合には、噴射率波形は三角形となる。
【0066】
次に、先述したように検出パラメータを基準パラメータに変換して学習する手順について、図6のフローチャートを用いて説明する。なお、図6に示す処理は、ECU30が有するマイクロコンピュータにより、燃料の噴射を1回実施する毎に実行される。
【0067】
先ず、図6に示すステップS30(噴射率パラメータ算出手段)において、先述した図4の処理により噴射波形Wbから算出した噴射率パラメータtd,te,Rα,Rβ,Rmaxを、検出パラメータとして取得する。続くステップS31では、以下に例示する環境値であって、検出パラメータの算出に用いた噴射波形Wbの燃料噴射が為された時の環境値(現状環境値)を取得する。環境値の具体例としては、燃料温度Th、燃料噴射間のインターバルInt(図2(a)参照)、燃料噴射時点での筒内圧P(θ)、噴射段数、吸気圧(又は過給圧)、EGR量等が挙げられる。
【0068】
これらの環境値が異なれば、噴射指令信号が同じであったとしても噴射状態(噴射率波形)は異なるものとなり、ひいては検出パラメータも異なってくる。また、これらの環境値と検出パラメータとの相関は推定が可能である。そこで本実施形態では、検出パラメータと環境値との相関を予め試験して取得しておき、取得した相関を表した相関マップMTh,MInt,MP(θ)をメモリ30m(相関モデル記憶手段)に記憶させておく。
【0069】
これらの相関マップMTh,MInt,MP(θ)は「値が変化することによって噴射率パラメータの値を変動させる環境値と、噴射率パラメータとの相関を表した相関モデル」に相当し、相関マップに替えて、検出パラメータと環境値との関係を表したモデル式を相関モデルとしてメモリ30mに記憶させるようにしてもよい。このような相関モデル(相関マップ又はモデル式)は、基準となる環境値に対応する噴射率パラメータ(基準パラメータ)に対する検出パラメータの偏差と、環境値との相関を表すものである。また、相関モデルは、噴射率パラメータtd,te,Rα,Rβ,Rmaxの各々に対して作成されている。
【0070】
図7は、燃料温度(環境値)と噴射率パラメータとの相関マップMThである。噴射開始遅れ時間td及び噴射終了遅れ時間teは高温であるほど長くなる。そこで、図7(a)(b)に示す相関マップMThでは、遅れ時間td,teの基準パラメータtdn,tenに対する偏差td−tdn,te−tenは、燃料温度が高いほど長くなるように設定されている。
【0071】
また、噴射率上昇傾きRα及び噴射率下降傾きRβは高温であるほど緩やかになる。そこで、図7(c)に示す相関マップMThでは、噴射率上昇傾きRαの基準パラメータRαnに対する偏差Rα−Rαnは、燃料温度が高いほど小さくなるように設定されている。また、図7(d)に示す相関マップMThでは、噴射率下降傾きRβの基準パラメータRβnに対する偏差Rβ−Rβnは、燃料温度が高いほど大きくなるように設定されている。
【0072】
また、最大噴射率Rmaxは高温であるほど小さくなる。そこで、図7(e)に示す相関マップMThでは、最大噴射率Rmaxの基準パラメータRmaxnに対する偏差Rmax−Rmaxnは、燃料温度が高いほど小さくなるように設定されている。
【0073】
図8は、噴射インターバルInt(環境値)と噴射率パラメータとの相関を示す図である。図中の+印は、以下に説明する試験により計測した噴射率パラメータの値(実測値)を示す。一方、図中の+印が付与されていない実線は、図3の変換手段34により算出された現状パラメータ(モデル値)を示す。上記試験では、供給圧力80MPaで2段噴射した時の2段目噴射にかかる噴射率パラメータを計測している。また、図8(a1)〜(d1)は、1段目および2段目の噴射量をともに2mm3とした試験結果であり、図8(a2)〜(d2)は、1段目の噴射量を2mm3、2段目の噴射量を10mm3とした試験結果である。
【0074】
図8の試験結果は、いずれの噴射率パラメータにおいても、インターバルの変化に応じて上昇と下降を繰り返して脈動することを表している。また、図3の変換手段34により算出された現状パラメータ(モデル値)は実測値と近い値になっており、変換手段34によるモデル値算出精度を十分に確保できていることを表している。
【0075】
図9は、噴射指令信号および供給圧力(80MPa)を同じにしつつ、インターバルを異ならせて実際に噴射させた時の噴射量を計測する、といった試験の結果を示すグラフであり、グラフの縦軸は、噴射量の計測値と目標噴射量とのずれ量を示し、横軸はインターバルを示す。図中の+印が付与されていない実線は、変換手段34により基準パラメータを現状パラメータに変換(見込み補正)したモデル値に基づき、設定手段33が噴射指令信号を設定して噴射制御を実施した場合の前記ずれ量を示す。一方、図中の+印は、前記見込み補正を実施しない場合の前記ずれ量を示す。
【0076】
図9の試験結果は、見込み補正を実施すれば目標噴射量に対する実噴射量のずれが小さくなり高精度で噴射制御できることを表している。なお、図9(a)は、1段目および2段目の噴射量をともに2mm3とした試験結果であり、図9(b)は、1段目の噴射量を2mm3、2段目の噴射量を10mm3とした試験結果である。
【0077】
図6の説明に戻り、続くステップS32では、学習条件が成立しているか否かを判定する。例えば、燃料温度が所定の上限値を超えて高温になると、液体燃料が沸騰して気液二相の状態になる。また、燃料温度が所定の下限値を超えて低温になると、液体燃料がワックス化する。そこで、燃料温度が上限値を超えて高温である場合、又は下限値を超えて低温である場合には、学習条件が成立していないと判定して基準パラメータの学習を禁止する。
【0078】
一方、学習条件が成立していると判定した場合には次のステップS33(基準環境変換手段)に進み、ステップS31で取得した現状環境値と、相関マップMTh,MInt,MP(θ)とに基づき、全ての検出パラメータを基準パラメータに変換する。例えば、基準燃料温度Thnが70℃、現状燃料温度Thが100℃であった場合において、図7(a)に例示する相関マップMThに基づき、100℃に対応する噴射開始遅れ時間tdの偏差td−tdn(図7(a)の例では+2μsec)を算出する。そして、検出した噴射開始遅れ時間tdから前記偏差td−tdn(2μsec)を減算すれば、基準の噴射開始遅れ時間tdnを算出することができる。これにより、検出した噴射開始遅れ時間td(検出パラメータ)を基準の噴射開始遅れ時間tdn(基準パラメータ)に変換できる。
【0079】
続くステップS34(噴射率パラメータ学習手段)では、ステップS33で算出した変換後の基準パラメータtd,te,Rα,Rβ,Rmaxを、基準パラメータマップMnに記憶更新して学習する。なお、図3に例示する基準パラメータマップMnでは、燃圧(供給圧力又は基準圧Pbase)に関連付けて基準パラメータを学習している。したがって、相関マップMTh,MInt,MP(θ)についても燃圧(供給圧力又は基準圧Pbase)に関連付けて、環境値に対する噴射率パラメータの偏差を記憶させるようにしておくことが望ましい。
【0080】
次に、先述したように基準パラメータを現状パラメータに変換して噴射指令信号を設定する手順について、図10のフローチャートを用いて説明する。なお、図10に示す処理は、ECU30が有するマイクロコンピュータにより繰り返し実行される。
【0081】
先ず、図10に示すステップS40において、現時点における環境値(現状環境値)を取得する。なお、インターバルIntの現状値については、今回の噴射指令信号による噴射開始指令時期t1(予定時期)と、前回の噴射開始指令時期t1とに基づき算出すればよい。また、筒内圧P(θ)は噴射開始時期に基づき予測できるので、筒内圧P(θ)の現状値については、今回の噴射指令信号による噴射開始指令時期t1(予定時期)に基づき算出すればよい。また、燃料温度Thの現状値については、前回噴射時に図6のステップS31で取得した燃料温度を用いるようにしてもよい。
【0082】
続くステップS41(現状環境変換手段)では、ステップS40で取得した現状環境値と、相関マップMTh,MInt,MP(θ)と、基準パラメータマップMnとに基づき、全ての基準パラメータを現状パラメータに変換する。例えば、基準燃料温度Thnが70℃、現状燃料温度Thが100℃であった場合において、図7(a)に例示する相関マップMThに基づき、100℃に対応する噴射開始遅れ時間tdの偏差td−tdn(図7(a)の例では+2μsec)を算出する。そして、基準パラメータマップMnに記憶されている基準噴射開始遅れ時間tdnに前記偏差td−tdn(2μsec)を加算すれば、現状の噴射開始遅れ時間tdを算出することができる。これにより、基準の噴射開始遅れ時間tdn(基準パラメータ)を現状の噴射開始遅れ時間td(現状パラメータ)に変換できる。
【0083】
なお、先述したように、基準パラメータマップMnでは、燃圧(供給圧力又は基準圧Pbase)に関連付けて基準パラメータを学習している。したがって、ステップS41において現状パラメータを算出するにあたり、燃圧に応じた基準パラメータを基準パラメータマップMnから算出して現状パラメータを算出すればよい。
【0084】
続くステップS42では、アクセルペダルの操作量やエンジン負荷、エンジン回転速度NE等に基づき目標噴射状態(例えば噴射段数、噴射開始時期、噴射終了時期、噴射量等)を算出する。続くステップS43(噴射指令信号設定手段)では、ステップS42で算出した目標噴射状態に対応する噴射指令信号を、ステップS41で算出した現状パラメータに基づき設定する。
【0085】
以上詳述した本実施形態によれば、以下の効果が得られるようになる。
【0086】
(1)噴射率パラメータtd,te,Rα,Rβ,Rmaxと環境値Th,Int,P(θ)との相関を表した相関マップMTh,MInt,MP(θ)を予めメモリ30mに記憶させておく。そして、検出した噴射波形Wbに基づき算出した噴射率パラメータ(検出パラメータ)を、現状の環境値及び相関マップに基づき、基準の環境値に対応した噴射率パラメータ(基準パラメータ)に変換して基準パラメータマップMnに学習する。そのため、基準環境値に対応した基準パラメータのみを基準パラメータマップMnに学習させればよいため、都度の現状環境値に関連付けて検出パラメータをマップに学習させる場合に比べて、学習手段32で用いるマップ(基準パラメータマップMn)に要する記憶容量を少なくできるとともに、学習処理負荷の増大を抑制できる。
【0087】
(2)ここで、本実施形態に反して変換手段34を廃止して、検出パラメータをそのまま学習手段32で用いるマップに学習させた場合には、次の問題が懸念される。すなわち、噴射指令信号の設定に用いる最適な噴射率パラメータ(現状パラメータ)は環境値が変化することに伴い変化していくが、上記学習が為されれば最適な噴射率パラメータで噴射指令信号を設定することが可能である。しかしながら、その学習が完了するまでは最適な噴射率パラメータで噴射指令信号を設定することができないため、環境値が急変した過渡期間においては噴射状態を高精度で制御できなくなる。
【0088】
これに対し本実施形態では、現状の環境値及び相関マップに基づき、現状の環境値に対応した噴射率パラメータ(現状パラメータ)に基準パラメータを変換し、このように変換した現状パラメータに基づき噴射指令信号を設定する。そのため、環境値が急変した場合において、急変後の環境値に応じた噴射率パラメータの学習が完了することを待たずして、急変後の環境値に適した噴射指令信号に設定することができる。よって、環境値が急変した過渡期間においても噴射状態を高精度で制御できる。
【0089】
要するに本実施形態では、学習手段32にて基準パラメータを学習していくことでフィードバック制御を実施するとともに、変換手段34により基準パラメータを現状パラメータに変換(見込み補正)することでフィードフォワード制御を実施していると言える。
【0090】
(3)図6の基準パラメータ学習処理で用いられる変換手段34(基準環境変換手段)の相関マップと、図10の噴射指令信号設定処理で用いられる変換手段34(現状環境変換手段)の相関マップとを共通にしているので、基準パラメータから現状パラメータへの変換精度を向上できるとともに、両変換手段で用いられる相関マップを異なるマップにした場合に比べて、相関マップに要するメモリ30mの記憶容量を少なくできる。
【0091】
(4)ここで、環境値Th,Int,P(θ)と噴射率パラメータtd,te,Rα,Rβ,Rmaxとの相関は、燃料噴射弁10を市場に出荷する前に推定しておくことができるので、市場出荷前に前記相関を試験して取得して相関マップMTh,MInt,MP(θ)を作成しておき、メモリ30mに記憶させておくことができる。これに対し、基準圧Pbase等の供給圧力と噴射率パラメータとの相関は、燃料噴射弁10の劣化の具合によって大きく異なってくるので、市場出荷前に推定して相関マップを作成することは困難である。
【0092】
これに対し本実施形態では、学習手段32の基準パラメータマップMnにて噴射率パラメータ(基準パラメータ)を学習するにあたり、その基準パラメータを供給圧力と関連付けて学習するので、経年劣化状態に応じた供給圧力との相関を加味した基準パラメータに学習していくことができる。よって、基準パラメータの学習精度を向上できる。同様に、設定手段33にて噴射指令信号を設定するにあたり、基準パラメータマップMnの中から、現状の供給圧力に対応した基準パラメータを取得するので、経年劣化状態に応じた供給圧力との相関を加味した噴射指令信号を設定することができる。よって、噴射状態を高精度で制御できる。
【0093】
要するに本実施形態では、噴射率パラメータとの相関を市場出荷前に推定可能な環境値Th,Int,P(θ)については相関マップを作成して、検出パラメータを基準パラメータに変換するとともに基準パラメータを現状パラメータに変換する。一方、前記推定が困難な環境値(供給圧力)については、相関マップを作成することなく、基準パラメータマップMnに基準パラメータを学習する際に供給圧力と関連付けて学習する。
【0094】
(第2実施形態)
本実施形態では、以下に説明する脈動波形Wmを学習するとともに、学習した脈動波形Wmに基づき、図3に示す相関モデル(相関マップMInt)を学習する。先ずは、脈動波形Wmの定義、及び脈動波形Wmを学習することの技術的意義について以下に説明し、その後、脈動波形Wmに基づき相関モデルを学習する手法の詳細について説明する。
【0095】
1燃焼サイクルあたりに複数回燃料を噴射させる多段噴射制御を実行する場合には次の点に留意する必要がある。すなわち、1回目噴射以降のn回目噴射に伴い生じた燃圧波形Waには、n回目より前のm回目噴射(前段噴射)に伴い生じた燃圧波形Waのうち噴射終了後に対応する部分の脈動波形Wm(図2(c)及び図5(c)参照)が重畳(干渉)する。すると、n回目噴射にかかる噴射波形Wbから噴射率パラメータを精度よく検出することが困難になる。
【0096】
そこで本実施形態では、図4のステップS10及び図6のステップS30で用いる噴射波形Wbを算出するにあたり、噴射時燃圧波形Waから非噴射時燃圧波形Wuを差し引くとともに、上述した脈動波形Wmを差し引いて噴射波形Wbを算出する。これによれば、噴射時燃圧波形Waに重畳している前段噴射の脈動波形Wmの成分を除去することができ、噴射率パラメータを精度よく検出することが可能になる。
【0097】
次に、このように差し引くことに用いる脈動波形Wmを取得する手法について説明する。
【0098】
ECU30のメモリ30mには、脈動波形Wmを数式で表したモデル式(脈動モデル式)が予め記憶されている。そして、この脈動モデル式により表されるモデル波形を前記脈動波形Wmとして取得している。本実施形態では、複数の減衰振動方程式を重ね合わせた以下の数式1を上記モデル式として採用している。
【0099】
【数1】
数式1中のpは脈動モデル式により表されるモデル波形の値(燃圧センサ20による検出圧力推定値)を示す。なお、この脈動モデル式により表されるモデル波形は、単調増加と単調減少を繰り返しながら減衰する減衰波形となっている。
【0100】
ここで、前段噴射の脈動波形Wmが重畳していない燃圧波形Waに含まれる脈動波形に対するモデル波形のオフセットずれ量を、数式1中のp0は示す。数式1中のnは減衰振動方程式を重ね合わせた数を示す。数式1中のA,k,ω,θは、減衰振動における振幅、減衰係数、周波数、位相をそれぞれ示す。つまり、数式1に示す脈動モデル式は、p0,n,A,k,ω,θのパラメータ(以下、これらのパラメータを総称して脈動パラメータUfと記載する)を決定することで、モデル波形の値pを出力することができる。
【0101】
ECU30は、検出した脈動波形Wmに基づき脈動パラメータUfを算出し、算出した脈動パラメータUfを記憶更新して学習する。具体的には、噴射量及び供給圧力に関連付けてp0,A,k,ω,θ等の脈動パラメータUfの値を各々について学習する。そして、学習した脈動パラメータUfに基づく脈動モデル式から脈動波形Wmを演算し、演算した脈動波形Wmを燃圧波形Waから差し引く補正を実施して、ステップS10,S30で用いる噴射波形Wbを算出する。
【0102】
ところで、噴射率パラメータtd,te,Rα,Rβ,RmaxとインターバルIntとの相関を表した相関モデルは、以下の数式2のモデル式(インターバル相関モデル式)で表すことができ、このモデル式を図3に示す相関マップMIntに替えて採用することができる。
【0103】
【数2】
数式2中のpintは、基準パラメータに対する噴射率パラメータ(検出パラメータ)の偏差を示す。つまり、図3に例示する相関マップMIntの縦軸の値に相当し、具体的には、先述したtd−tdn,te−ten,Rα−Rαn,Rβ−Rβn,Rmax−Rmaxnのいずれかを示す。このインターバル相関モデル式により表されるモデル波形は、単調増加と単調減少を繰り返しながら減衰する減衰波形となっている。つまり、インターバルIntの変化に応じて検出パラメータは増加と減少を周期的に繰り返す。
【0104】
数式2中のp0td,Atd,ktd,ωtd,θtdは、オフセットずれ量、減衰振動における振幅、減衰係数、周波数、位相をそれぞれ示す。つまり、数式2に示すインターバル相関モデル式は、p0td,n,Atd,ktd,ωtd,θtdのパラメータ(以下、これらのパラメータを総称してインターバル相関パラメータUintと記載する)を決定することで、基準パラメータに対する検出パラメータの偏差の値pintを出力することができる。
【0105】
ここで、数式2のインターバル相関モデル式と数式1の脈動モデル式とは、同様の形状の減衰波形となっている。そして、両モデル式には相関があることを本発明者は見出した。例えば、Atd=G1×A,ktd=G2×k,ωtd=ω,θtd=G3×θとの関係が成り立つ(G1,G2,G3は比例定数)。この点を鑑みた本実施形態では、学習した脈動パラメータUfからインターバル相関パラメータUintを算出し、そのインターバル相関パラメータUintを記憶更新して学習する。なお、噴射量及び供給圧力に関連付けてp0td,Atd,ktd,ωtd,θtd等のインターバル相関パラメータUintの値を各々について学習することが望ましい。
【0106】
次に、先述したように脈動パラメータUf及び相関パラメータUintを学習する手順について、図11のフローチャートを用いて説明する。なお、図11に示す処理は、ECU30が有するマイクロコンピュータにより繰り返し実行される。
【0107】
先ず、図11に示すステップS50において、学習条件が成立しているか否かを判定する。例えば、図10のステップS32と同様にして、燃料温度が上限値を超えて高温である場合、又は下限値を超えて低温である場合には、学習条件が成立していないと判定して両パラメータUf,Uintの学習を禁止する。一方、学習条件が成立していると判定した場合には次のステップS51(脈動波形抽出手段)に進み、噴射波形Wbから脈動波形Wmを抽出し、抽出した脈動波形Wmから脈動パラメータUfの値を検出する。
【0108】
続くステップS52では、ステップS51で検出した脈動パラメータUfを記憶更新して学習する。続くステップS53(相関学習値演算手段)では、ステップS52で学習した脈動パラメータUfの値、及び予め設定しておいた上記比例定数G1,G2,G3等に基づき、インターバル相関パラメータUintの値を算出する。続くステップS54(相関モデル学習手段)では、ステップS53で算出したインターバル相関パラメータUintの値を記憶更新して学習する。
【0109】
以上により、本実施形態によれば、図4のステップS10及び図6のステップS30で用いる噴射波形Wbを算出するにあたり、数式1の脈動モデル式から推定される脈動波形Wmを差し引いて噴射波形Wbを算出するので、噴射時燃圧波形Waに重畳している前段噴射の脈動波形Wmの成分を除去することができ、噴射率パラメータを精度よく検出することが可能になる。
【0110】
さらに本実施形態によれば、インターバル相関パラメータUintが脈動パラメータUfと相関があることに着目し、学習した脈動パラメータUfに基づきインターバル相関パラメータUintを算出して学習するので、インターバル相関モデル式を精度の高いモデル式にすることができる。よって、インターバル相関モデル式(相関モデル)を用いて、検出パラメータを基準パラメータへ変換し、基準パラメータを現状パラメータへ変換するにあたり、その変換精度を向上でき、ひいては、噴射状態をより一層高精度で制御できるようになる。
【0111】
(他の実施形態)
本発明は上記実施形態の記載内容に限定されず、以下のように変更して実施してもよい。また、各実施形態の特徴的構成をそれぞれ任意に組み合わせるようにしてもよい。
【0112】
・上記実施形態では、噴射率パラメータの具体例として噴射開始遅れ時間td、噴射終了遅れ時間te、噴射率上昇傾きRα、噴射率下降傾きRβ、最大噴射率Rmaxを挙げているが、他の例としては、噴射終了指令時期t2から噴射終了時期R4までの遅れ時間、噴射指令期間Tqに対する噴射量の割合、等が挙げられる。
【0113】
・図1に示す上記実施形態では、燃圧センサ20を燃料噴射弁10に搭載しているが、本発明にかかる燃圧センサはコモンレール42の吐出口42aから噴孔11bに至るまでの燃料供給経路内の燃圧を検出するよう配置された燃圧センサであればよい。よって、例えばコモンレール42と燃料噴射弁10とを接続する高圧配管42bに燃圧センサを搭載してもよい。つまり、コモンレール42及び燃料噴射弁10を接続する高圧配管42bと、ボデー11内の高圧通路11aとが「燃料通路」に相当する。
【符号の説明】
【0114】
10…燃料噴射弁、20…燃圧センサ、30m…メモリ(相関モデル記憶手段)、S10…燃圧波形検出手段、31,S30…噴射率パラメータ算出手段、32,S34…噴射率パラメータ学習手段、33,S43…噴射指令信号設定手段、S33…基準環境変換手段、S41…現状環境変換手段、S51…脈動波形抽出手段、S53…相関学習値演算手段、S54…相関モデル学習手段。
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関の燃焼に用いる燃料の噴射状態を制御する、燃料噴射制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の燃料噴射制御装置は、燃料噴射弁の開弁時期や噴射期間を指令する噴射指令信号を出力することで、燃料噴射開始時期や噴射量を制御する。但し、噴射開始を指令してから実際に噴射が開始するまでには遅れ時間が存在し、また、指令した噴射量と実際の噴射量とはずれが生じる。そこで、これらの遅れ時間やずれ等の固有値(噴射率パラメータ)を、予め試験により取得して記憶させておき、記憶させておいた噴射率パラメータを参照して、所望する噴射開始時期及び噴射量となるような噴射指令信号を設定する。
【0003】
しかし、上記噴射率パラメータは経年劣化等により変化していくものである。そこで本出願人は、コモンレールの下流側部分における燃料圧力を検出する燃圧センサを搭載し、燃料噴射に伴い生じる圧力変化(燃圧波形)を検出することで噴射率変化(噴射率波形)を取得し、取得した噴射率波形から先述した噴射率パラメータを検出する技術について提案してきた(特許文献1,2,3等参照)。これらの技術によれば、経年劣化により変化する噴射率パラメータを検出して学習できるので、所望する噴射開始時期及び噴射量となるよう、噴射状態を高精度で制御できるようになる。ちなみに、噴射率パラメータの具体例としては、図2に例示する噴射開始遅れ時間Td、噴射終了遅れ時間Te、噴射率上昇傾きRα、噴射率下降傾きRβ、最大噴射率Rmax等が挙げられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−144749号公報
【特許文献2】特開2009−74535号公報
【特許文献3】特開2010−223185号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、噴射時の燃料温度や筒内圧、過給圧、EGR量、多段噴射時における噴射インターバル等、その時の環境条件に応じて噴射率パラメータは異なる値になる。そのため、これらの環境条件を無視して噴射率パラメータを学習させていては、環境条件が急変した場合、急変後の環境条件に応じた噴射率パラメータの学習が完了するまでの過渡期間において、噴射状態を高精度で制御できなくなる。
【0006】
しかしその一方で、これらの環境条件全てに関連付けて噴射率パラメータを学習させようとすると、学習に要するメモリの記憶容量が膨大になるとともに学習処理負荷が大きくなる。
【0007】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、その目的は、噴射率パラメータの学習に要する記憶容量の増大及び学習処理負荷の増大を抑制しつつ、現状の環境条件に応じた噴射率パラメータを用いて噴射状態を高精度で制御できるようにした燃料噴射制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
以下、上記課題を解決するための手段、及びその作用効果について記載する。
【0009】
請求項1記載の発明では、蓄圧容器で蓄圧した燃料を噴射する燃料噴射弁と、前記蓄圧容器の吐出口から前記燃料噴射弁の噴孔に至るまでの燃料通路に配置され、前記燃料通路内の燃料圧力を検出する燃圧センサと、を備えた燃料噴射システムに適用され、前記燃圧センサの検出値に基づき、噴射に伴い生じた燃料圧力の変化を燃圧波形として検出する燃圧波形検出手段と、検出した前記燃圧波形に基づき、その燃圧波形に対応する噴射率波形を特定するのに要する噴射率パラメータを算出する噴射率パラメータ算出手段と、算出した前記噴射率パラメータを学習する噴射率パラメータ学習手段と、学習した前記噴射率パラメータに基づき、要求噴射状態に対応する噴射指令信号を設定し、設定した前記噴射指令信号を前記燃料噴射弁へ出力する噴射指令信号設定手段と、を備えることを前提とする。
【0010】
そして、値が変化することによって、前記噴射率パラメータの値を変動させる環境値と、前記噴射率パラメータとの相関を表した相関モデルを記憶する相関モデル記憶手段と、前記噴射率パラメータ算出手段により算出した噴射率パラメータを、現状の環境値及び前記相関モデルに基づき、基準の環境値に対応した噴射率パラメータに変換する基準環境変換手段と、を備え、前記噴射率パラメータ学習手段は、前記基準環境変換手段により変換した噴射率パラメータを学習することを特徴とする。
【0011】
ここで、噴射率パラメータと環境値との相関は推定可能であることが、本発明者が実施した試験により明らかとなっている。例えば、燃料温度(環境値)が高いほど、燃料の粘性が低くなること等に起因して噴射開始遅れ時間Td(噴射率パラメータ)は長くなる(図7(a)参照)。また、多段噴射時における噴射インターバル(環境値)の変化に応じて、噴射開始遅れ時間Td(噴射率パラメータ)は所定の規則に従って周期的に変化する(図8(a1)(a2)参照)。
【0012】
この点を鑑みた上記発明では、噴射率パラメータと環境値との相関を表した相関モデルを予め記憶させておく。そして、検出した燃圧波形に基づき算出した噴射率パラメータ(検出パラメータ)を、現状の環境値及び相関モデルに基づき、基準の環境値に対応した噴射率パラメータ(基準パラメータ)に変換して学習する。
【0013】
これによれば、基準の環境値に対応した噴射率パラメータに変換して学習させるので、都度の環境値に関連付けて噴射率パラメータを学習させる場合に比べて、学習に要する記憶容量の増大を抑制できるとともに、学習処理負荷の増大を抑制できる。
【0014】
また、現状の環境値と基準の環境値との差分を鑑みて、学習した噴射率パラメータに基づき噴射指令信号を設定すれば、現状の環境値に応じた噴射指令信号に設定(見込み設定)することができる。よって、環境値が急変した場合において、急変後の環境値に応じた噴射率パラメータの学習が完了することを待たずして、急変後の環境値に適した噴射指令信号に設定することができる。よって、環境値が急変した過渡期間であっても噴射状態を高精度で制御できる。
【0015】
請求項2記載の発明では、前記噴射率パラメータ学習手段により学習された噴射率パラメータを、現状の環境値及び前記相関モデルに基づき、現状の環境値に対応した噴射率パラメータに変換する現状環境変換手段を備え、前記噴射指令信号設定手段は、前記現状環境変換手段により変換した噴射率パラメータに基づき、要求噴射状態に対応する噴射指令信号を設定することを特徴とする。
【0016】
これによれば、基準の環境値に対応するよう変換して学習された噴射率パラメータ(基準パラメータ)を、現状の環境値に対応した噴射率パラメータ(現状パラメータ)に変換し、その現状パラメータに基づき噴射指令信号を設定するので、現状の環境値に応じた噴射指令信号に設定できる。
【0017】
しかも、現状環境変換手段で用いられる相関モデルと基準環境変換手段で用いられる相関モデルとを共通にするので、基準パラメータから現状パラメータへの変換精度を向上できるとともに、両変換手段で用いられる相関モデルを異なるモデルにした場合に比べて、相関モデルに要する記憶容量を少なくできる。
【0018】
請求項3記載の発明では、蓄圧容器で蓄圧した燃料を噴射する燃料噴射弁と、前記蓄圧容器の吐出口から前記燃料噴射弁の噴孔に至るまでの燃料通路に配置され、前記燃料通路内の燃料圧力を検出する燃圧センサと、を備えた燃料噴射システムに適用され、前記燃圧センサの検出値に基づき、噴射に伴い生じた燃料圧力の変化を燃圧波形として検出する燃圧波形検出手段と、検出した前記燃圧波形に基づき、その燃圧波形に対応する噴射率波形を特定するのに要する噴射率パラメータを算出する噴射率パラメータ算出手段と、算出した前記噴射率パラメータを学習する噴射率パラメータ学習手段と、学習した前記噴射率パラメータに基づき、要求噴射状態に対応する噴射指令信号を設定し、設定した前記噴射指令信号を前記燃料噴射弁へ出力する噴射指令信号設定手段と、を備えることを前提とする。
【0019】
そして、値が変化することによって、前記噴射率パラメータの値を変動させる環境値と、前記噴射率パラメータとの相関を表した相関モデルを記憶する相関モデル記憶手段と、前記噴射率パラメータ学習手段により学習された噴射率パラメータを、現状の環境値及び前記相関モデルに基づき、現状の環境値に対応した噴射率パラメータに変換する現状環境変換手段と、を備え、前記噴射指令信号設定手段は、前記現状環境変換手段により変換した噴射率パラメータに基づき、要求噴射状態に対応する噴射指令信号を設定することを特徴とする。
【0020】
ここで、噴射率パラメータと環境値との相関は推定可能であることは先述した通りであり、この点を鑑みた上記発明では、噴射率パラメータと環境値との相関を表した相関モデルを予め記憶させておく。そして、学習した噴射率パラメータを、現状の環境値及び相関モデルに基づき現状の環境値に対応した噴射率パラメータ(現状パラメータ)に変換し、このように変換した噴射率パラメータに基づき、要求噴射状態に対応する噴射指令信号を設定する。そのため、環境値が急変した場合において、急変後の環境値に応じた噴射率パラメータの学習が完了することを待たずして、急変後の環境値に適した噴射指令信号に設定することができる。よって、環境値が急変した過渡期間であっても噴射状態を高精度で制御できる。
【0021】
また、都度の環境値に関連付けて噴射率パラメータを学習させることを不要にでき、基準の環境値に対応した噴射率パラメータを学習させておけば、現状の環境値に応じた噴射指令信号に設定することができるので、都度の環境値に関連付けて噴射率パラメータを学習させる場合に比べて、学習に要する記憶容量の増大を抑制できるとともに、学習処理負荷の増大を抑制できる。
【0022】
請求項4記載の発明では、1燃焼サイクルあたりに燃料噴射を複数回行う多段噴射を実施する際の、噴射間のインターバルを前記環境値とした場合において、検出した前記燃圧波形から、噴射終了後に生じる燃料圧力の脈動を表した脈動波形を抽出する脈動波形抽出手段と、抽出した前記脈動波形に基づき前記相関モデルの学習値を演算する相関学習値演算手段と、前記相関学習値演算手段により演算した前記学習値に基づき前記相関モデルを学習する相関モデル学習手段と、を備えることを特徴とする。
【0023】
ここで、多段噴射を実施する場合には、噴射率パラメータの値は、前段の噴射に伴い生じた燃圧変動(特に噴射終了後に生じる燃圧脈動)の影響を少なからず受けて変動する。そして、前段噴射にかかる燃圧変動は上昇と下降を繰り返しながら減衰していく脈動であることに起因して、噴射間のインターバルが変化すると、噴射率パラメータの値も上昇と下降を繰り返しながら減衰して脈動することが、本発明者が実施した試験により明らかとなった。例えば、噴射開始遅れ時間Td(噴射率パラメータ)や噴射終了遅れ時間Te(噴射率パラメータ)は、インターバルに応じて図8に示すように脈動する。そして、インターバルに応じた噴射率パラメータの脈動波形と、噴射終了後に生じる燃圧脈動波形とは相関があることを本発明者は見出した。このことは、検出した燃圧波形から脈動波形を抽出すれば、その抽出した脈動波形から噴射率パラメータの脈動波形を演算することができ、ひいては相関モデルの学習値を演算できることを意味する。
【0024】
この点を鑑みた上記発明では、検出した燃圧波形から脈動波形を抽出し、抽出した脈動波形に基づき相関モデルの学習値を演算し、演算した学習値に基づき相関モデルを学習するので、経年劣化等に起因して環境値と噴射率パラメータとの実際の相関(相関モデル)が変化した場合であっても、その実際の相関を学習することができる。よって、相関モデルを高精度にすることができるので、基準環境変換手段による変換、或いは現状環境変換手段による変換の変換精度を向上でき、ひいては噴射状態をより一層高精度で制御できるようになる。
【0025】
請求項5記載の発明では、前記相関モデル記憶手段は、前記蓄圧容器から前記燃料噴射弁へ供給される燃料の圧力である供給圧力と関連付けて、前記環境値と前記噴射率パラメータとの相関を記憶しており、前記相関モデル学習手段は、前記供給圧力と関連付けて前記相関モデルを学習することを特徴とする。
【0026】
ところで、噴射率パラメータと環境値との相関は推定可能であることは先述した通りであるが、供給圧力については、燃料噴射弁の経年劣化の状態に応じて噴射率パラメータとの相関が異なってくるため、噴射率パラメータと供給圧力との相関は推定困難であり、供給圧力を環境値として設定して相関モデルを作成して記憶させておくことは困難である。例えば、燃料噴射弁の噴孔が磨耗して噴孔面積が大きくなっている場合と、噴孔に異物が付着堆積して噴孔面積が小さくなっている場合とで、噴射率パラメータと供給圧力との相関は異なってくるからである。
【0027】
この点に着目した上記発明では、環境値と噴射率パラメータとの相関を表した相関モデルを、供給圧力と関連付けたモデルとし、その相関モデルを供給圧力と関連付けて学習していくので、経年劣化状態に応じた噴射率パラメータと供給圧力との相関を加味した相関モデルに学習できる。よって、相関モデルの精度を向上できる。
【0028】
請求項6記載の発明では、前記噴射率パラメータ学習手段は、前記蓄圧容器から前記燃料噴射弁へ供給される燃料の圧力である供給圧力と関連付けて、前記噴射率パラメータを学習することを特徴とする。
【0029】
先述した通り、噴射率パラメータと供給圧力との相関は推定困難であり、供給圧力を環境値として設定して相関モデルを作成して記憶させておくことは困難である。つまり、供給圧力については相関モデルとして記憶させておき、基準環境変換手段又は現状環境変換手段により変換させることが困難である。
【0030】
この点に着目した上記発明では、噴射率パラメータ学習手段により噴射率パラメータを学習するにあたり、その噴射率パラメータを供給圧力と関連付けて学習するので、経年劣化状態に応じた供給圧力との相関を加味した噴射率パラメータに学習していくことができる。よって、噴射率パラメータの精度を向上できる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明の第1実施形態にかかる燃料噴射制御装置が適用される、燃料噴射システムの概略を示す図である。
【図2】噴射指令信号に対応する噴射率、燃圧、微分値の変化を示す図である。
【図3】第1実施形態にかかる噴射率パラメータの学習及び噴射指令信号の設定等の概要を示すブロック図である。
【図4】第1実施形態にかかる噴射率パラメータの算出手順を示すフローチャートである。
【図5】噴射時燃圧波形Wa、非噴射時燃圧波形Wu、噴射波形Wbを示す図である。
【図6】第1実施形態において、検出パラメータを基準パラメータに変換して学習する手順を示すフローチャートである。
【図7】図3の変換手段に用いられる、燃料温度(環境値)と噴射率パラメータとの相関マップMThである。
【図8】本発明者が実施した試験結果であり、噴射インターバルInt(環境値)と噴射率パラメータとの相関を示す図である。
【図9】本発明者が実施した試験結果であり、図3の変換手段による見込み補正の効果を示す図である。
【図10】第1実施形態において、基準パラメータを現状パラメータに変換して噴射指令信号を設定する手順を示すフローチャートである。
【図11】本発明の第2実施形態において、脈動パラメータUf及び相関パラメータUintを学習する手順を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、本発明に係る燃料噴射制御装置を具体化した各実施形態を、図面に基づいて説明する。なお、以下に説明する実施形態の燃料噴射システムは、車両用のエンジン(内燃機関)に搭載されたものであり、当該エンジンには、複数の気筒#1〜#4について高圧燃料を噴射して圧縮自着火燃焼させるディーゼルエンジンを想定している。
【0033】
(第1実施形態)
図1は、上記エンジンの各気筒に搭載された燃料噴射弁10、各々の燃料噴射弁10に搭載された燃圧センサ20、及び車両に搭載された電子制御装置であるECU30等を示す模式図である。
【0034】
先ず、燃料噴射弁10を含むエンジンの燃料噴射システムについて説明する。燃料タンク40内の燃料は、燃料ポンプ41によりコモンレール42(蓄圧容器)に圧送されて蓄圧され、各気筒の燃料噴射弁10(#1〜#4)へ分配供給される。複数の燃料噴射弁10(#1〜#4)は、予め設定された順番で燃料の噴射を順次行う。なお、燃料ポンプ41にはプランジャポンプが用いられているため、プランジャの往復動に同期して燃料は圧送される。
【0035】
燃料噴射弁10は、以下に説明するボデー11、ニードル形状の弁体12及びアクチュエータ13等を備えて構成されている。ボデー11は、内部に高圧通路11aを形成するとともに、燃料を噴射する噴孔11bを形成する。弁体12は、ボデー11内に収容されて噴孔11bを開閉する。
【0036】
ボデー11内には弁体12に背圧を付与する背圧室11cが形成されており、高圧通路11a及び低圧通路11dは背圧室11cと接続されている。高圧通路11a及び低圧通路11dと背圧室11cとの連通状態は制御弁14により切り替えられており、電磁コイルやピエゾ素子等のアクチュエータ13へ通電して制御弁14を図1の下方へ押し下げ作動させると、背圧室11cは低圧通路11dと連通して背圧室11c内の燃料圧力は低下する。その結果、弁体12へ付与される背圧力が低下して弁体12はリフトアップ(開弁作動)する。一方、アクチュエータ13への通電をオフして制御弁14を図1の上方へ作動させると、背圧室11cは高圧通路11aと連通して背圧室11c内の燃料圧力は上昇する。その結果、弁体12へ付与される背圧力が上昇して弁体12はリフトダウン(閉弁作動)する。
【0037】
したがって、ECU30がアクチュエータ13への通電を制御することで、弁体12の開閉作動が制御される。これにより、コモンレール42から高圧通路11aへ供給された高圧燃料は、弁体12の開閉作動に応じて噴孔11bから噴射される。
【0038】
燃圧センサ20は、以下に説明するステム21(起歪体)、圧力センサ素子22及びモールドIC23等を備えて構成されている。ステム21はボデー11に取り付けられており、ステム21に形成されたダイヤフラム部21aが高圧通路11aを流通する高圧燃料の圧力を受けて弾性変形する。圧力センサ素子22はダイヤフラム部21aに取り付けられており、ダイヤフラム部21aで生じた弾性変形量に応じて圧力検出信号を出力する。
【0039】
また、ダイヤフラム部21aには温度センサ素子22a(燃温センサ)が取り付けられている。この温度センサ素子22aにより検出された温度は、高圧燃料の温度とみなすことができ、後述する環境値として用いられる。
【0040】
モールドIC23は、圧力センサ素子22から出力された圧力検出信号を増幅する増幅回路や、圧力検出信号を送信する送信回路等の電子部品を樹脂モールドして形成されており、ステム21とともに燃料噴射弁10に搭載されている。ボデー11上部にはコネクタ15が設けられており、コネクタ15に接続されたハーネス16(信号線)により、モールドIC23及びアクチュエータ13とECU30とはそれぞれ電気接続される。そして、増幅された圧力検出信号はECU30に送信されて、ECU30が有する受信回路により受信される。この送受信にかかる通信処理は、各気筒の燃圧センサ20毎に実施される。
【0041】
ECU30は、アクセルペダルの操作量やエンジン負荷、エンジン回転速度NE等に基づき目標噴射状態(例えば噴射段数、噴射開始時期、噴射終了時期、噴射量等)を算出する。例えば、エンジン負荷及びエンジン回転速度に対応する最適噴射状態を噴射状態マップにして記憶させておく。そして、現状のエンジン負荷及びエンジン回転速度に基づき、噴射状態マップを参照して目標噴射状態を算出する。そして、算出した目標噴射状態に対応する噴射指令信号t1、t2、Tq(図2(a)参照)を、後に詳述する噴射率パラメータtd,te,Rα,Rβ,Rmaxに基づき設定し、燃料噴射弁10へ出力することで燃料噴射弁10の作動を制御する。
【0042】
ここで、噴孔11bの磨耗や目詰まり等、燃料噴射弁10の経年劣化に起因して、噴射指令信号に対する実際の噴射状態は変化していく。そこで、燃圧センサ20の検出値に基づき、噴射に伴い生じた燃料圧力の変化を燃圧波形(図2(c)参照)として検出し、検出した燃圧波形に基づき燃料の噴射率変化を表した噴射率波形(図2(b)参照)を演算して噴射状態を検出する。そして、検出した噴射率波形(噴射状態)を特定する噴射率パラメータRα,Rβ,Rmaxを学習するとともに、噴射指令信号(パルスオン時期t1、パルスオフ時期t2及びパルスオン期間Tq)と噴射状態との相関関係を特定する噴射率パラメータtd,teを学習する。具体的には、図2(b)に例示する噴射開始遅れ時間td、噴射終了遅れ時間te、噴射率上昇傾きRα、噴射率下降傾きRβ、最大噴射率Rmax等を学習する。
【0043】
図3は、これら噴射率パラメータの学習及び噴射指令信号の設定等の概要を示すブロック図であり、ECU30により機能する各手段31,32,33,34について以下に説明する。噴射率パラメータ算出手段31(噴射率パラメータ算出手段)は、燃圧センサ20により検出された燃圧波形に基づき噴射率パラメータtd,te,Rα,Rβ,Rmaxを算出する。学習手段32(噴射率パラメータ学習手段)は、以下に詳述する変換手段34(基準環境変換手段)により変換された噴射率パラメータを、ECU30のメモリ30mに記憶更新して学習する。
【0044】
ここで、噴射時の燃料温度や筒内圧、過給圧、EGR量、多段噴射時における噴射インターバル等、その時の環境条件に応じて噴射率パラメータは異なる値になる。そこで、噴射率パラメータ算出手段31で算出した噴射率パラメータ(以下、検出パラメータと記載)を、変換手段34により、基準となる環境条件に対応した噴射率パラメータ(以下、基準パラメータと記載)に変換する。そして学習手段32は、変換後の基準パラメータをメモリ30mに記憶更新して学習する。
【0045】
なお、噴射率パラメータは、その時の供給圧力(コモンレール42内の圧力)に応じて異なる値となる。そのため、基準パラメータは、供給圧力又は後述する基準圧Pbaseと関連付けて学習させることが望ましい。また、最大噴射率Rmaxを除く他の噴射率パラメータについては、噴射量とも関連付けて学習させることが望ましい。図3の例では、燃圧(供給圧力又は基準圧Pbase)に関連付けて基準パラメータを基準パラメータマップMnに記憶させている。当該基準パラメータマップMnは、噴射率パラメータ(td,te,Rα,Rβ,Rmax)毎に設けられている。
【0046】
さらに、上記変換手段34(現状環境変換手段)は、基準パラメータマップMnに記憶された基準パラメータを、現状の環境条件に対応した噴射率パラメータ(以下、現状パラメータと記載)に変換する機能を有する。変換手段34による基準パラメータへの変換、及び現状パラメータへの変換の手法については、後に詳述する。
【0047】
設定手段33(噴射指令信号設定手段)は、現状の燃圧に対応する基準パラメータを基準パラメータマップMnから取得し、変換手段34により変換された現状パラメータに基づき、目標噴射状態に対応する噴射指令信号t1、t2、Tqを設定する。そして、このように設定した噴射指令信号にしたがって燃料噴射弁10を作動させた時の燃圧波形を燃圧センサ20で検出し、検出した燃圧波形に基づき噴射率パラメータ算出手段31は噴射率パラメータtd,te,Rα,Rβ,Rmaxを算出する。
【0048】
要するに、噴射指令信号に対する実際の噴射状態(つまり噴射率パラメータtd,te,Rα,Rβ,Rmax)を検出して学習し、その学習値に基づき、目標噴射状態に対応する噴射指令信号を設定する。そのため、実際の噴射状態に基づき噴射指令信号がフィードバック制御されることとなり、先述した経年劣化が進行しても、実噴射状態が目標噴射状態に一致するよう燃料噴射状態を高精度で制御できる。
【0049】
次に、検出した燃圧波形(図2(c)参照)から噴射率パラメータtd,te,Rα,Rβ,Rmax(図2(b)参照)を算出する手順について、図4のフローチャートを用いて説明する。なお、図4に示す処理は、ECU30が有するマイクロコンピュータにより、燃料の噴射を1回実施する毎に実行される。なお、前記燃圧波形とは、所定のサンプリング周期で取得した、燃圧センサ20による複数の検出値の集合である。
【0050】
先ず、図4に示すステップS10(燃圧波形検出手段)において、噴射率パラメータの算出に用いる燃圧波形であって、以下に説明する噴射波形Wb(補正後燃圧波形)を算出する。なお、以下の説明では、燃料噴射弁10から燃料を噴射させている気筒を噴射気筒(表気筒)、この噴射気筒が燃料を噴射しているときに燃料噴射させていない気筒を非噴射気筒(裏気筒)とし、かつ、噴射気筒に対応する燃圧センサ20を噴射時燃圧センサ、非噴射気筒に対応する燃圧センサ20を非噴射時燃圧センサと呼ぶ。
【0051】
噴射時燃圧センサにより検出された燃圧波形である噴射時燃圧波形Wa(図5(a)参照)は、噴射による影響のみを表しているわけではなく、以下に例示する噴射以外の影響で生じた波形成分をも含んでいる。すなわち、燃料タンク40の燃料をコモンレール42へ圧送する燃料ポンプ41がプランジャポンプの如く間欠的に燃料を圧送するものである場合には、燃料噴射中にポンプ圧送が行われると、そのポンプ圧送期間中における噴射時燃圧波形Waは全体的に圧力が高くなった波形となる。つまり、噴射時燃圧波形Wa(図5(a)参照)には、噴射による燃圧変化を表した燃圧波形である噴射波形Wb(図5(c)参照)と、ポンプ圧送による燃圧上昇を表した燃圧波形(図5(b)中の実線Wu参照)とが含まれていると言える。
【0052】
また、このようなポンプ圧送が燃料噴射中に行われなかった場合であっても、燃料を噴射した直後は、その噴射分だけ噴射システム内全体の燃圧が低下する。そのため、噴射時燃圧波形Waは全体的に圧力が低くなった波形となる。つまり、噴射時燃圧波形Waには、噴射による燃圧変化を表した噴射波形Wbの成分と、噴射システム内全体の燃圧低下を表した燃圧波形(図5(b)中の点線Wu’参照)の成分とが含まれていると言える。
【0053】
そこで図4のステップS10では、非噴射気筒センサにより検出される非噴射時燃圧波形Wu(Wu’)はコモンレール内の燃圧(噴射システム内全体の燃圧)の変化を表していることに着目し、噴射気筒センサにより検出された噴射時燃圧波形Waから、非噴射気筒センサによる非噴射時燃圧波形Wu(Wu’)を差し引いて噴射波形Wbを演算している。なお、図2(c)に示す燃圧波形は噴射波形Wbである。
【0054】
続くステップS11では、噴射波形Wbのうち、噴射開始に伴い燃圧が降下を開始するまでの期間に対応する部分の波形である基準波形に基づき、その基準波形の平均燃圧を基準圧Pbaseとして算出する。例えば、噴射開始指令時期t1から所定時間が経過するまでの期間TAに対応する部分を、基準波形として設定すればよい。或いは、降下波形の微分値(図2(d)参照)に基づき変曲点P1を算出し、噴射開始指令時期t1から変曲点P1より所定時間前までの期間に相当する部分を基準波形として設定すればよい。
【0055】
続くステップS12では、噴射波形Wbのうち、噴射率増大に伴い燃圧が降下していく期間に対応する部分の波形である降下波形に基づき、その降下波形の近似直線Lαを算出する。例えば、噴射開始指令時期t1から所定時間が経過した時点からの所定期間TBに対応する部分を、降下波形として設定すればよい。或いは、降下波形の微分値(図2(d)参照)に基づき変曲点P1,P2を算出し、これら変曲点P1,P2の間に相当する部分を降下波形として設定すればよい。そして、降下波形を構成する複数の燃圧検出値(サンプリング値)から、最小二乗法により近似直線Lαを算出すればよい。或いは、降下波形のうち微分値(図2(d)参照)が最小となる時点における接線を、近似直線Lαとして算出すればよい。
【0056】
続くステップS13では、噴射波形Wbのうち、噴射率減少に伴い燃圧が上昇していく期間に対応する部分の波形である上昇波形に基づき、その上昇波形の近似直線Lβを算出する。例えば、噴射終了指令時期t2から所定時間が経過した時点からの所定期間TCに対応する部分を、上昇波形として設定すればよい。或いは、上昇波形の微分値(図2(d)参照)に基づき変曲点P3,P5を算出し、これら変曲点P3,P5の間に相当する部分を上昇波形として設定すればよい。そして、上昇波形を構成する複数の燃圧検出値(サンプリング値)から、最小二乗法により近似直線Lβを算出すればよい。或いは、上昇波形のうち微分値(図2(d)参照)が最大となる時点における接線を、近似直線Lβとして算出すればよい。
【0057】
続くステップS14では、基準圧Pbaseに基づき基準値Bα,Bβを算出する。例えば、基準圧Pbaseより所定量だけ低い値を基準値Bα,Bβとして算出すればよい。なお、両基準値Bα,Bβを同じ値に設定する必要はない。また、前記所定量は基準圧Pbaseの値や燃料温度等に応じて可変設定してもよい。
【0058】
続くステップS15では、近似直線Lαのうち基準値Bαとなる時期(LαとBαの交点時期LBα)を算出する。この交点時期LBαと噴射開始時期R1とは相関が高いことに着目し、交点時期LBαに基づき噴射開始時期R1を算出する。例えば、交点時期LBαよりも所定の遅れ時間Cαだけ前の時期を噴射開始時期R1として算出すればよい。
【0059】
続くステップS16では、近似直線Lβのうち基準値Bβとなる時期(LβとBβの交点時期LBβ)を算出する。この交点時期LBβと噴射終了時期R4とは相関が高いことに着目し、交点時期LBβに基づき噴射終了時期R4を算出する。例えば、交点時期LBβよりも所定の遅れ時間Cβだけ前の時期を噴射終了時期R4として算出すればよい。なお、上記遅れ時間Cα,Cβは、基準圧Pbaseの値や燃料温度等に応じて可変設定してもよい。
【0060】
続くステップS17では、近似直線Lαの傾きと噴射率増加の傾きとは相関が高いことに着目し、図2(b)に示す噴射率波形のうち噴射増加を示す直線Rαの傾きを、近似直線Lαの傾きに基づき算出する。例えば、Lαの傾きに所定の係数を掛けてRαの傾きを算出すればよい。なお、ステップS15で算出した噴射開始時期R1と当該ステップS17で算出したRαの傾きに基づき、噴射指令信号に対する噴射率波形の上昇部分を表した直線Rαを特定することができる。
【0061】
さらにステップS17では、近似直線Lβの傾きと噴射率減少の傾きとは相関が高いことに着目し、噴射率波形のうち噴射減少を示す直線Rβの傾きを、近似直線Lβの傾きに基づき算出する。例えば、Lβの傾きに所定の係数を掛けてRβの傾きを算出すればよい。なお、ステップS16で算出した噴射終了時期R4と当該ステップS17で算出したRβの傾きに基づき、噴射指令信号に対する噴射率波形の降下部分を表した直線Rβを特定することができる。なお、上記所定の係数は、基準圧Pbaseの値や燃料温度等に応じて可変設定してもよい。
【0062】
続くステップS18では、ステップS17で算出した噴射率波形の直線Rα,Rβに基づき、噴射終了を指令したことに伴い弁体12がリフトダウンを開始する時期(閉弁作動開始時期R23)を算出する。具体的には、両直線Rα,Rβの交点を算出し、その交点時期を閉弁作動開始時期R23として算出する。
【0063】
続くステップS19では、ステップS15で算出した噴射開始時期R1の噴射開始指令時期t1に対する遅れ時間(噴射開始遅れ時間td)を算出する。また、ステップS18で算出した閉弁作動開始時期R23の噴射終了指令時期t2に対する遅れ時間(噴射終了遅れ時間te)を算出する。
【0064】
続くステップS20では、噴射波形Wbの最大落込量ΔPと最大噴射率Rmaxとは相関が高いことに着目し、噴射波形Wbから最大落込量ΔPを算出し、算出した最大落込量ΔPに基づき最大噴射率Rmaxを算出する。例えば、ΔPに所定の係数を掛けてRmaxを算出すればよい。なお、上記所定の係数は、基準圧Pbaseの値や燃料温度等に応じて可変設定してもよい。
【0065】
以上により、図4の処理によれば、噴射波形Wbから噴射率パラメータtd,te,Rα,Rβ,Rmaxを算出することができる。そして、これらの噴射率パラメータtd,te,Rα,Rβ,Rmaxに基づき、噴射指令信号(図2(a)参照)に対応した噴射率波形(図2(b)参照)を算出することができる。なお、このように算出した噴射率波形の面積(図2(b)中の網点ハッチ参照)は噴射量に相当するので、噴射率パラメータに基づき噴射量を算出することもできる。ちなみに、噴射指令期間Tqが十分に長く、最大噴射率に達した以降も開弁状態を継続させる場合においては、噴射率波形は図2(b)に示すように台形となる。一方、最大噴射率に達する前に閉弁作動を開始させるような小噴射の場合には、噴射率波形は三角形となる。
【0066】
次に、先述したように検出パラメータを基準パラメータに変換して学習する手順について、図6のフローチャートを用いて説明する。なお、図6に示す処理は、ECU30が有するマイクロコンピュータにより、燃料の噴射を1回実施する毎に実行される。
【0067】
先ず、図6に示すステップS30(噴射率パラメータ算出手段)において、先述した図4の処理により噴射波形Wbから算出した噴射率パラメータtd,te,Rα,Rβ,Rmaxを、検出パラメータとして取得する。続くステップS31では、以下に例示する環境値であって、検出パラメータの算出に用いた噴射波形Wbの燃料噴射が為された時の環境値(現状環境値)を取得する。環境値の具体例としては、燃料温度Th、燃料噴射間のインターバルInt(図2(a)参照)、燃料噴射時点での筒内圧P(θ)、噴射段数、吸気圧(又は過給圧)、EGR量等が挙げられる。
【0068】
これらの環境値が異なれば、噴射指令信号が同じであったとしても噴射状態(噴射率波形)は異なるものとなり、ひいては検出パラメータも異なってくる。また、これらの環境値と検出パラメータとの相関は推定が可能である。そこで本実施形態では、検出パラメータと環境値との相関を予め試験して取得しておき、取得した相関を表した相関マップMTh,MInt,MP(θ)をメモリ30m(相関モデル記憶手段)に記憶させておく。
【0069】
これらの相関マップMTh,MInt,MP(θ)は「値が変化することによって噴射率パラメータの値を変動させる環境値と、噴射率パラメータとの相関を表した相関モデル」に相当し、相関マップに替えて、検出パラメータと環境値との関係を表したモデル式を相関モデルとしてメモリ30mに記憶させるようにしてもよい。このような相関モデル(相関マップ又はモデル式)は、基準となる環境値に対応する噴射率パラメータ(基準パラメータ)に対する検出パラメータの偏差と、環境値との相関を表すものである。また、相関モデルは、噴射率パラメータtd,te,Rα,Rβ,Rmaxの各々に対して作成されている。
【0070】
図7は、燃料温度(環境値)と噴射率パラメータとの相関マップMThである。噴射開始遅れ時間td及び噴射終了遅れ時間teは高温であるほど長くなる。そこで、図7(a)(b)に示す相関マップMThでは、遅れ時間td,teの基準パラメータtdn,tenに対する偏差td−tdn,te−tenは、燃料温度が高いほど長くなるように設定されている。
【0071】
また、噴射率上昇傾きRα及び噴射率下降傾きRβは高温であるほど緩やかになる。そこで、図7(c)に示す相関マップMThでは、噴射率上昇傾きRαの基準パラメータRαnに対する偏差Rα−Rαnは、燃料温度が高いほど小さくなるように設定されている。また、図7(d)に示す相関マップMThでは、噴射率下降傾きRβの基準パラメータRβnに対する偏差Rβ−Rβnは、燃料温度が高いほど大きくなるように設定されている。
【0072】
また、最大噴射率Rmaxは高温であるほど小さくなる。そこで、図7(e)に示す相関マップMThでは、最大噴射率Rmaxの基準パラメータRmaxnに対する偏差Rmax−Rmaxnは、燃料温度が高いほど小さくなるように設定されている。
【0073】
図8は、噴射インターバルInt(環境値)と噴射率パラメータとの相関を示す図である。図中の+印は、以下に説明する試験により計測した噴射率パラメータの値(実測値)を示す。一方、図中の+印が付与されていない実線は、図3の変換手段34により算出された現状パラメータ(モデル値)を示す。上記試験では、供給圧力80MPaで2段噴射した時の2段目噴射にかかる噴射率パラメータを計測している。また、図8(a1)〜(d1)は、1段目および2段目の噴射量をともに2mm3とした試験結果であり、図8(a2)〜(d2)は、1段目の噴射量を2mm3、2段目の噴射量を10mm3とした試験結果である。
【0074】
図8の試験結果は、いずれの噴射率パラメータにおいても、インターバルの変化に応じて上昇と下降を繰り返して脈動することを表している。また、図3の変換手段34により算出された現状パラメータ(モデル値)は実測値と近い値になっており、変換手段34によるモデル値算出精度を十分に確保できていることを表している。
【0075】
図9は、噴射指令信号および供給圧力(80MPa)を同じにしつつ、インターバルを異ならせて実際に噴射させた時の噴射量を計測する、といった試験の結果を示すグラフであり、グラフの縦軸は、噴射量の計測値と目標噴射量とのずれ量を示し、横軸はインターバルを示す。図中の+印が付与されていない実線は、変換手段34により基準パラメータを現状パラメータに変換(見込み補正)したモデル値に基づき、設定手段33が噴射指令信号を設定して噴射制御を実施した場合の前記ずれ量を示す。一方、図中の+印は、前記見込み補正を実施しない場合の前記ずれ量を示す。
【0076】
図9の試験結果は、見込み補正を実施すれば目標噴射量に対する実噴射量のずれが小さくなり高精度で噴射制御できることを表している。なお、図9(a)は、1段目および2段目の噴射量をともに2mm3とした試験結果であり、図9(b)は、1段目の噴射量を2mm3、2段目の噴射量を10mm3とした試験結果である。
【0077】
図6の説明に戻り、続くステップS32では、学習条件が成立しているか否かを判定する。例えば、燃料温度が所定の上限値を超えて高温になると、液体燃料が沸騰して気液二相の状態になる。また、燃料温度が所定の下限値を超えて低温になると、液体燃料がワックス化する。そこで、燃料温度が上限値を超えて高温である場合、又は下限値を超えて低温である場合には、学習条件が成立していないと判定して基準パラメータの学習を禁止する。
【0078】
一方、学習条件が成立していると判定した場合には次のステップS33(基準環境変換手段)に進み、ステップS31で取得した現状環境値と、相関マップMTh,MInt,MP(θ)とに基づき、全ての検出パラメータを基準パラメータに変換する。例えば、基準燃料温度Thnが70℃、現状燃料温度Thが100℃であった場合において、図7(a)に例示する相関マップMThに基づき、100℃に対応する噴射開始遅れ時間tdの偏差td−tdn(図7(a)の例では+2μsec)を算出する。そして、検出した噴射開始遅れ時間tdから前記偏差td−tdn(2μsec)を減算すれば、基準の噴射開始遅れ時間tdnを算出することができる。これにより、検出した噴射開始遅れ時間td(検出パラメータ)を基準の噴射開始遅れ時間tdn(基準パラメータ)に変換できる。
【0079】
続くステップS34(噴射率パラメータ学習手段)では、ステップS33で算出した変換後の基準パラメータtd,te,Rα,Rβ,Rmaxを、基準パラメータマップMnに記憶更新して学習する。なお、図3に例示する基準パラメータマップMnでは、燃圧(供給圧力又は基準圧Pbase)に関連付けて基準パラメータを学習している。したがって、相関マップMTh,MInt,MP(θ)についても燃圧(供給圧力又は基準圧Pbase)に関連付けて、環境値に対する噴射率パラメータの偏差を記憶させるようにしておくことが望ましい。
【0080】
次に、先述したように基準パラメータを現状パラメータに変換して噴射指令信号を設定する手順について、図10のフローチャートを用いて説明する。なお、図10に示す処理は、ECU30が有するマイクロコンピュータにより繰り返し実行される。
【0081】
先ず、図10に示すステップS40において、現時点における環境値(現状環境値)を取得する。なお、インターバルIntの現状値については、今回の噴射指令信号による噴射開始指令時期t1(予定時期)と、前回の噴射開始指令時期t1とに基づき算出すればよい。また、筒内圧P(θ)は噴射開始時期に基づき予測できるので、筒内圧P(θ)の現状値については、今回の噴射指令信号による噴射開始指令時期t1(予定時期)に基づき算出すればよい。また、燃料温度Thの現状値については、前回噴射時に図6のステップS31で取得した燃料温度を用いるようにしてもよい。
【0082】
続くステップS41(現状環境変換手段)では、ステップS40で取得した現状環境値と、相関マップMTh,MInt,MP(θ)と、基準パラメータマップMnとに基づき、全ての基準パラメータを現状パラメータに変換する。例えば、基準燃料温度Thnが70℃、現状燃料温度Thが100℃であった場合において、図7(a)に例示する相関マップMThに基づき、100℃に対応する噴射開始遅れ時間tdの偏差td−tdn(図7(a)の例では+2μsec)を算出する。そして、基準パラメータマップMnに記憶されている基準噴射開始遅れ時間tdnに前記偏差td−tdn(2μsec)を加算すれば、現状の噴射開始遅れ時間tdを算出することができる。これにより、基準の噴射開始遅れ時間tdn(基準パラメータ)を現状の噴射開始遅れ時間td(現状パラメータ)に変換できる。
【0083】
なお、先述したように、基準パラメータマップMnでは、燃圧(供給圧力又は基準圧Pbase)に関連付けて基準パラメータを学習している。したがって、ステップS41において現状パラメータを算出するにあたり、燃圧に応じた基準パラメータを基準パラメータマップMnから算出して現状パラメータを算出すればよい。
【0084】
続くステップS42では、アクセルペダルの操作量やエンジン負荷、エンジン回転速度NE等に基づき目標噴射状態(例えば噴射段数、噴射開始時期、噴射終了時期、噴射量等)を算出する。続くステップS43(噴射指令信号設定手段)では、ステップS42で算出した目標噴射状態に対応する噴射指令信号を、ステップS41で算出した現状パラメータに基づき設定する。
【0085】
以上詳述した本実施形態によれば、以下の効果が得られるようになる。
【0086】
(1)噴射率パラメータtd,te,Rα,Rβ,Rmaxと環境値Th,Int,P(θ)との相関を表した相関マップMTh,MInt,MP(θ)を予めメモリ30mに記憶させておく。そして、検出した噴射波形Wbに基づき算出した噴射率パラメータ(検出パラメータ)を、現状の環境値及び相関マップに基づき、基準の環境値に対応した噴射率パラメータ(基準パラメータ)に変換して基準パラメータマップMnに学習する。そのため、基準環境値に対応した基準パラメータのみを基準パラメータマップMnに学習させればよいため、都度の現状環境値に関連付けて検出パラメータをマップに学習させる場合に比べて、学習手段32で用いるマップ(基準パラメータマップMn)に要する記憶容量を少なくできるとともに、学習処理負荷の増大を抑制できる。
【0087】
(2)ここで、本実施形態に反して変換手段34を廃止して、検出パラメータをそのまま学習手段32で用いるマップに学習させた場合には、次の問題が懸念される。すなわち、噴射指令信号の設定に用いる最適な噴射率パラメータ(現状パラメータ)は環境値が変化することに伴い変化していくが、上記学習が為されれば最適な噴射率パラメータで噴射指令信号を設定することが可能である。しかしながら、その学習が完了するまでは最適な噴射率パラメータで噴射指令信号を設定することができないため、環境値が急変した過渡期間においては噴射状態を高精度で制御できなくなる。
【0088】
これに対し本実施形態では、現状の環境値及び相関マップに基づき、現状の環境値に対応した噴射率パラメータ(現状パラメータ)に基準パラメータを変換し、このように変換した現状パラメータに基づき噴射指令信号を設定する。そのため、環境値が急変した場合において、急変後の環境値に応じた噴射率パラメータの学習が完了することを待たずして、急変後の環境値に適した噴射指令信号に設定することができる。よって、環境値が急変した過渡期間においても噴射状態を高精度で制御できる。
【0089】
要するに本実施形態では、学習手段32にて基準パラメータを学習していくことでフィードバック制御を実施するとともに、変換手段34により基準パラメータを現状パラメータに変換(見込み補正)することでフィードフォワード制御を実施していると言える。
【0090】
(3)図6の基準パラメータ学習処理で用いられる変換手段34(基準環境変換手段)の相関マップと、図10の噴射指令信号設定処理で用いられる変換手段34(現状環境変換手段)の相関マップとを共通にしているので、基準パラメータから現状パラメータへの変換精度を向上できるとともに、両変換手段で用いられる相関マップを異なるマップにした場合に比べて、相関マップに要するメモリ30mの記憶容量を少なくできる。
【0091】
(4)ここで、環境値Th,Int,P(θ)と噴射率パラメータtd,te,Rα,Rβ,Rmaxとの相関は、燃料噴射弁10を市場に出荷する前に推定しておくことができるので、市場出荷前に前記相関を試験して取得して相関マップMTh,MInt,MP(θ)を作成しておき、メモリ30mに記憶させておくことができる。これに対し、基準圧Pbase等の供給圧力と噴射率パラメータとの相関は、燃料噴射弁10の劣化の具合によって大きく異なってくるので、市場出荷前に推定して相関マップを作成することは困難である。
【0092】
これに対し本実施形態では、学習手段32の基準パラメータマップMnにて噴射率パラメータ(基準パラメータ)を学習するにあたり、その基準パラメータを供給圧力と関連付けて学習するので、経年劣化状態に応じた供給圧力との相関を加味した基準パラメータに学習していくことができる。よって、基準パラメータの学習精度を向上できる。同様に、設定手段33にて噴射指令信号を設定するにあたり、基準パラメータマップMnの中から、現状の供給圧力に対応した基準パラメータを取得するので、経年劣化状態に応じた供給圧力との相関を加味した噴射指令信号を設定することができる。よって、噴射状態を高精度で制御できる。
【0093】
要するに本実施形態では、噴射率パラメータとの相関を市場出荷前に推定可能な環境値Th,Int,P(θ)については相関マップを作成して、検出パラメータを基準パラメータに変換するとともに基準パラメータを現状パラメータに変換する。一方、前記推定が困難な環境値(供給圧力)については、相関マップを作成することなく、基準パラメータマップMnに基準パラメータを学習する際に供給圧力と関連付けて学習する。
【0094】
(第2実施形態)
本実施形態では、以下に説明する脈動波形Wmを学習するとともに、学習した脈動波形Wmに基づき、図3に示す相関モデル(相関マップMInt)を学習する。先ずは、脈動波形Wmの定義、及び脈動波形Wmを学習することの技術的意義について以下に説明し、その後、脈動波形Wmに基づき相関モデルを学習する手法の詳細について説明する。
【0095】
1燃焼サイクルあたりに複数回燃料を噴射させる多段噴射制御を実行する場合には次の点に留意する必要がある。すなわち、1回目噴射以降のn回目噴射に伴い生じた燃圧波形Waには、n回目より前のm回目噴射(前段噴射)に伴い生じた燃圧波形Waのうち噴射終了後に対応する部分の脈動波形Wm(図2(c)及び図5(c)参照)が重畳(干渉)する。すると、n回目噴射にかかる噴射波形Wbから噴射率パラメータを精度よく検出することが困難になる。
【0096】
そこで本実施形態では、図4のステップS10及び図6のステップS30で用いる噴射波形Wbを算出するにあたり、噴射時燃圧波形Waから非噴射時燃圧波形Wuを差し引くとともに、上述した脈動波形Wmを差し引いて噴射波形Wbを算出する。これによれば、噴射時燃圧波形Waに重畳している前段噴射の脈動波形Wmの成分を除去することができ、噴射率パラメータを精度よく検出することが可能になる。
【0097】
次に、このように差し引くことに用いる脈動波形Wmを取得する手法について説明する。
【0098】
ECU30のメモリ30mには、脈動波形Wmを数式で表したモデル式(脈動モデル式)が予め記憶されている。そして、この脈動モデル式により表されるモデル波形を前記脈動波形Wmとして取得している。本実施形態では、複数の減衰振動方程式を重ね合わせた以下の数式1を上記モデル式として採用している。
【0099】
【数1】
数式1中のpは脈動モデル式により表されるモデル波形の値(燃圧センサ20による検出圧力推定値)を示す。なお、この脈動モデル式により表されるモデル波形は、単調増加と単調減少を繰り返しながら減衰する減衰波形となっている。
【0100】
ここで、前段噴射の脈動波形Wmが重畳していない燃圧波形Waに含まれる脈動波形に対するモデル波形のオフセットずれ量を、数式1中のp0は示す。数式1中のnは減衰振動方程式を重ね合わせた数を示す。数式1中のA,k,ω,θは、減衰振動における振幅、減衰係数、周波数、位相をそれぞれ示す。つまり、数式1に示す脈動モデル式は、p0,n,A,k,ω,θのパラメータ(以下、これらのパラメータを総称して脈動パラメータUfと記載する)を決定することで、モデル波形の値pを出力することができる。
【0101】
ECU30は、検出した脈動波形Wmに基づき脈動パラメータUfを算出し、算出した脈動パラメータUfを記憶更新して学習する。具体的には、噴射量及び供給圧力に関連付けてp0,A,k,ω,θ等の脈動パラメータUfの値を各々について学習する。そして、学習した脈動パラメータUfに基づく脈動モデル式から脈動波形Wmを演算し、演算した脈動波形Wmを燃圧波形Waから差し引く補正を実施して、ステップS10,S30で用いる噴射波形Wbを算出する。
【0102】
ところで、噴射率パラメータtd,te,Rα,Rβ,RmaxとインターバルIntとの相関を表した相関モデルは、以下の数式2のモデル式(インターバル相関モデル式)で表すことができ、このモデル式を図3に示す相関マップMIntに替えて採用することができる。
【0103】
【数2】
数式2中のpintは、基準パラメータに対する噴射率パラメータ(検出パラメータ)の偏差を示す。つまり、図3に例示する相関マップMIntの縦軸の値に相当し、具体的には、先述したtd−tdn,te−ten,Rα−Rαn,Rβ−Rβn,Rmax−Rmaxnのいずれかを示す。このインターバル相関モデル式により表されるモデル波形は、単調増加と単調減少を繰り返しながら減衰する減衰波形となっている。つまり、インターバルIntの変化に応じて検出パラメータは増加と減少を周期的に繰り返す。
【0104】
数式2中のp0td,Atd,ktd,ωtd,θtdは、オフセットずれ量、減衰振動における振幅、減衰係数、周波数、位相をそれぞれ示す。つまり、数式2に示すインターバル相関モデル式は、p0td,n,Atd,ktd,ωtd,θtdのパラメータ(以下、これらのパラメータを総称してインターバル相関パラメータUintと記載する)を決定することで、基準パラメータに対する検出パラメータの偏差の値pintを出力することができる。
【0105】
ここで、数式2のインターバル相関モデル式と数式1の脈動モデル式とは、同様の形状の減衰波形となっている。そして、両モデル式には相関があることを本発明者は見出した。例えば、Atd=G1×A,ktd=G2×k,ωtd=ω,θtd=G3×θとの関係が成り立つ(G1,G2,G3は比例定数)。この点を鑑みた本実施形態では、学習した脈動パラメータUfからインターバル相関パラメータUintを算出し、そのインターバル相関パラメータUintを記憶更新して学習する。なお、噴射量及び供給圧力に関連付けてp0td,Atd,ktd,ωtd,θtd等のインターバル相関パラメータUintの値を各々について学習することが望ましい。
【0106】
次に、先述したように脈動パラメータUf及び相関パラメータUintを学習する手順について、図11のフローチャートを用いて説明する。なお、図11に示す処理は、ECU30が有するマイクロコンピュータにより繰り返し実行される。
【0107】
先ず、図11に示すステップS50において、学習条件が成立しているか否かを判定する。例えば、図10のステップS32と同様にして、燃料温度が上限値を超えて高温である場合、又は下限値を超えて低温である場合には、学習条件が成立していないと判定して両パラメータUf,Uintの学習を禁止する。一方、学習条件が成立していると判定した場合には次のステップS51(脈動波形抽出手段)に進み、噴射波形Wbから脈動波形Wmを抽出し、抽出した脈動波形Wmから脈動パラメータUfの値を検出する。
【0108】
続くステップS52では、ステップS51で検出した脈動パラメータUfを記憶更新して学習する。続くステップS53(相関学習値演算手段)では、ステップS52で学習した脈動パラメータUfの値、及び予め設定しておいた上記比例定数G1,G2,G3等に基づき、インターバル相関パラメータUintの値を算出する。続くステップS54(相関モデル学習手段)では、ステップS53で算出したインターバル相関パラメータUintの値を記憶更新して学習する。
【0109】
以上により、本実施形態によれば、図4のステップS10及び図6のステップS30で用いる噴射波形Wbを算出するにあたり、数式1の脈動モデル式から推定される脈動波形Wmを差し引いて噴射波形Wbを算出するので、噴射時燃圧波形Waに重畳している前段噴射の脈動波形Wmの成分を除去することができ、噴射率パラメータを精度よく検出することが可能になる。
【0110】
さらに本実施形態によれば、インターバル相関パラメータUintが脈動パラメータUfと相関があることに着目し、学習した脈動パラメータUfに基づきインターバル相関パラメータUintを算出して学習するので、インターバル相関モデル式を精度の高いモデル式にすることができる。よって、インターバル相関モデル式(相関モデル)を用いて、検出パラメータを基準パラメータへ変換し、基準パラメータを現状パラメータへ変換するにあたり、その変換精度を向上でき、ひいては、噴射状態をより一層高精度で制御できるようになる。
【0111】
(他の実施形態)
本発明は上記実施形態の記載内容に限定されず、以下のように変更して実施してもよい。また、各実施形態の特徴的構成をそれぞれ任意に組み合わせるようにしてもよい。
【0112】
・上記実施形態では、噴射率パラメータの具体例として噴射開始遅れ時間td、噴射終了遅れ時間te、噴射率上昇傾きRα、噴射率下降傾きRβ、最大噴射率Rmaxを挙げているが、他の例としては、噴射終了指令時期t2から噴射終了時期R4までの遅れ時間、噴射指令期間Tqに対する噴射量の割合、等が挙げられる。
【0113】
・図1に示す上記実施形態では、燃圧センサ20を燃料噴射弁10に搭載しているが、本発明にかかる燃圧センサはコモンレール42の吐出口42aから噴孔11bに至るまでの燃料供給経路内の燃圧を検出するよう配置された燃圧センサであればよい。よって、例えばコモンレール42と燃料噴射弁10とを接続する高圧配管42bに燃圧センサを搭載してもよい。つまり、コモンレール42及び燃料噴射弁10を接続する高圧配管42bと、ボデー11内の高圧通路11aとが「燃料通路」に相当する。
【符号の説明】
【0114】
10…燃料噴射弁、20…燃圧センサ、30m…メモリ(相関モデル記憶手段)、S10…燃圧波形検出手段、31,S30…噴射率パラメータ算出手段、32,S34…噴射率パラメータ学習手段、33,S43…噴射指令信号設定手段、S33…基準環境変換手段、S41…現状環境変換手段、S51…脈動波形抽出手段、S53…相関学習値演算手段、S54…相関モデル学習手段。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
蓄圧容器で蓄圧した燃料を噴射する燃料噴射弁と、
前記蓄圧容器の吐出口から前記燃料噴射弁の噴孔に至るまでの燃料通路に配置され、前記燃料通路内の燃料圧力を検出する燃圧センサと、
を備えた燃料噴射システムに適用され、
前記燃圧センサの検出値に基づき、噴射に伴い生じた燃料圧力の変化を燃圧波形として検出する燃圧波形検出手段と、
検出した前記燃圧波形に基づき、その燃圧波形に対応する噴射率波形を特定するのに要する噴射率パラメータを算出する噴射率パラメータ算出手段と、
算出した前記噴射率パラメータを学習する噴射率パラメータ学習手段と、
学習した前記噴射率パラメータに基づき、要求噴射状態に対応する噴射指令信号を設定し、設定した前記噴射指令信号を前記燃料噴射弁へ出力する噴射指令信号設定手段と、
を備える燃料噴射制御装置において、
値が変化することによって、前記噴射率パラメータの値を変動させる環境値と、前記噴射率パラメータとの相関を表した相関モデルを記憶する相関モデル記憶手段と、
前記噴射率パラメータ算出手段により算出した噴射率パラメータを、現状の環境値及び前記相関モデルに基づき、基準の環境値に対応した噴射率パラメータに変換する基準環境変換手段と、
を備え、
前記噴射率パラメータ学習手段は、前記基準環境変換手段により変換した噴射率パラメータを学習することを特徴とする燃料噴射制御装置。
【請求項2】
前記噴射率パラメータ学習手段により学習された噴射率パラメータを、現状の環境値及び前記相関モデルに基づき、現状の環境値に対応した噴射率パラメータに変換する現状環境変換手段を備え、
前記噴射指令信号設定手段は、前記現状環境変換手段により変換した噴射率パラメータに基づき、要求噴射状態に対応する噴射指令信号を設定することを特徴とする請求項1記載の燃料噴射制御装置。
【請求項3】
蓄圧容器で蓄圧した燃料を噴射する燃料噴射弁と、
前記蓄圧容器の吐出口から前記燃料噴射弁の噴孔に至るまでの燃料通路に配置され、前記燃料通路内の燃料圧力を検出する燃圧センサと、
を備えた燃料噴射システムに適用され、
前記燃圧センサの検出値に基づき、噴射に伴い生じた燃料圧力の変化を燃圧波形として検出する燃圧波形検出手段と、
検出した前記燃圧波形に基づき、その燃圧波形に対応する噴射率波形を特定するのに要する噴射率パラメータを算出する噴射率パラメータ算出手段と、
算出した前記噴射率パラメータを学習する噴射率パラメータ学習手段と、
学習した前記噴射率パラメータに基づき、要求噴射状態に対応する噴射指令信号を設定し、設定した前記噴射指令信号を前記燃料噴射弁へ出力する噴射指令信号設定手段と、
を備える燃料噴射制御装置において、
値が変化することによって、前記噴射率パラメータの値を変動させる環境値と、前記噴射率パラメータとの相関を表した相関モデルを記憶する相関モデル記憶手段と、
前記噴射率パラメータ学習手段により学習された噴射率パラメータを、現状の環境値及び前記相関モデルに基づき、現状の環境値に対応した噴射率パラメータに変換する現状環境変換手段と、
を備え、
前記噴射指令信号設定手段は、前記現状環境変換手段により変換した噴射率パラメータに基づき、要求噴射状態に対応する噴射指令信号を設定することを特徴とする燃料噴射制御装置。
【請求項4】
1燃焼サイクルあたりに燃料噴射を複数回行う多段噴射を実施する際の、噴射間のインターバルを前記環境値とした場合において、
検出した前記燃圧波形から、噴射終了後に生じる燃料圧力の脈動を表した脈動波形を抽出する脈動波形抽出手段と、
抽出した前記脈動波形に基づき前記相関モデルの学習値を演算する相関学習値演算手段と、
前記相関学習値演算手段により演算した前記学習値に基づき前記相関モデルを学習する相関モデル学習手段と、
を備えることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1つに記載の燃料噴射制御装置。
【請求項5】
前記相関モデル記憶手段は、前記蓄圧容器から前記燃料噴射弁へ供給される燃料の圧力である供給圧力と関連付けて、前記環境値と前記噴射率パラメータとの相関を記憶しており、
前記相関モデル学習手段は、前記供給圧力と関連付けて前記相関モデルを学習することを特徴とする請求項4に記載の燃料噴射制御装置。
【請求項6】
前記噴射率パラメータ学習手段は、前記蓄圧容器から前記燃料噴射弁へ供給される燃料の圧力である供給圧力と関連付けて、前記噴射率パラメータを学習することを特徴とする請求項1〜5のいずれか1つに記載の燃料噴射制御装置。
【請求項1】
蓄圧容器で蓄圧した燃料を噴射する燃料噴射弁と、
前記蓄圧容器の吐出口から前記燃料噴射弁の噴孔に至るまでの燃料通路に配置され、前記燃料通路内の燃料圧力を検出する燃圧センサと、
を備えた燃料噴射システムに適用され、
前記燃圧センサの検出値に基づき、噴射に伴い生じた燃料圧力の変化を燃圧波形として検出する燃圧波形検出手段と、
検出した前記燃圧波形に基づき、その燃圧波形に対応する噴射率波形を特定するのに要する噴射率パラメータを算出する噴射率パラメータ算出手段と、
算出した前記噴射率パラメータを学習する噴射率パラメータ学習手段と、
学習した前記噴射率パラメータに基づき、要求噴射状態に対応する噴射指令信号を設定し、設定した前記噴射指令信号を前記燃料噴射弁へ出力する噴射指令信号設定手段と、
を備える燃料噴射制御装置において、
値が変化することによって、前記噴射率パラメータの値を変動させる環境値と、前記噴射率パラメータとの相関を表した相関モデルを記憶する相関モデル記憶手段と、
前記噴射率パラメータ算出手段により算出した噴射率パラメータを、現状の環境値及び前記相関モデルに基づき、基準の環境値に対応した噴射率パラメータに変換する基準環境変換手段と、
を備え、
前記噴射率パラメータ学習手段は、前記基準環境変換手段により変換した噴射率パラメータを学習することを特徴とする燃料噴射制御装置。
【請求項2】
前記噴射率パラメータ学習手段により学習された噴射率パラメータを、現状の環境値及び前記相関モデルに基づき、現状の環境値に対応した噴射率パラメータに変換する現状環境変換手段を備え、
前記噴射指令信号設定手段は、前記現状環境変換手段により変換した噴射率パラメータに基づき、要求噴射状態に対応する噴射指令信号を設定することを特徴とする請求項1記載の燃料噴射制御装置。
【請求項3】
蓄圧容器で蓄圧した燃料を噴射する燃料噴射弁と、
前記蓄圧容器の吐出口から前記燃料噴射弁の噴孔に至るまでの燃料通路に配置され、前記燃料通路内の燃料圧力を検出する燃圧センサと、
を備えた燃料噴射システムに適用され、
前記燃圧センサの検出値に基づき、噴射に伴い生じた燃料圧力の変化を燃圧波形として検出する燃圧波形検出手段と、
検出した前記燃圧波形に基づき、その燃圧波形に対応する噴射率波形を特定するのに要する噴射率パラメータを算出する噴射率パラメータ算出手段と、
算出した前記噴射率パラメータを学習する噴射率パラメータ学習手段と、
学習した前記噴射率パラメータに基づき、要求噴射状態に対応する噴射指令信号を設定し、設定した前記噴射指令信号を前記燃料噴射弁へ出力する噴射指令信号設定手段と、
を備える燃料噴射制御装置において、
値が変化することによって、前記噴射率パラメータの値を変動させる環境値と、前記噴射率パラメータとの相関を表した相関モデルを記憶する相関モデル記憶手段と、
前記噴射率パラメータ学習手段により学習された噴射率パラメータを、現状の環境値及び前記相関モデルに基づき、現状の環境値に対応した噴射率パラメータに変換する現状環境変換手段と、
を備え、
前記噴射指令信号設定手段は、前記現状環境変換手段により変換した噴射率パラメータに基づき、要求噴射状態に対応する噴射指令信号を設定することを特徴とする燃料噴射制御装置。
【請求項4】
1燃焼サイクルあたりに燃料噴射を複数回行う多段噴射を実施する際の、噴射間のインターバルを前記環境値とした場合において、
検出した前記燃圧波形から、噴射終了後に生じる燃料圧力の脈動を表した脈動波形を抽出する脈動波形抽出手段と、
抽出した前記脈動波形に基づき前記相関モデルの学習値を演算する相関学習値演算手段と、
前記相関学習値演算手段により演算した前記学習値に基づき前記相関モデルを学習する相関モデル学習手段と、
を備えることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1つに記載の燃料噴射制御装置。
【請求項5】
前記相関モデル記憶手段は、前記蓄圧容器から前記燃料噴射弁へ供給される燃料の圧力である供給圧力と関連付けて、前記環境値と前記噴射率パラメータとの相関を記憶しており、
前記相関モデル学習手段は、前記供給圧力と関連付けて前記相関モデルを学習することを特徴とする請求項4に記載の燃料噴射制御装置。
【請求項6】
前記噴射率パラメータ学習手段は、前記蓄圧容器から前記燃料噴射弁へ供給される燃料の圧力である供給圧力と関連付けて、前記噴射率パラメータを学習することを特徴とする請求項1〜5のいずれか1つに記載の燃料噴射制御装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2012−158999(P2012−158999A)
【公開日】平成24年8月23日(2012.8.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−17460(P2011−17460)
【出願日】平成23年1月31日(2011.1.31)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年8月23日(2012.8.23)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年1月31日(2011.1.31)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】
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