説明

画像上移動物体追跡方法及び装置

【課題】移動物体の計測誤差を低減できる計測点及びこのような計測点を求めるための代表点を求める。
【解決手段】クラスタ後端が入口スリットの後端を完全に通過したと判定すると、初期値決定部26は、IDオブジェクトマップに基づいて、クラスタの幾何学的重心位置を移動物体の代表点RP(t0)として求め、また、動きベクトル平均値算出部27から代表動きベクトルRMV(t0)を取得し、代表点RP(t0)を始点としRMV(t0)と逆方向でクラスタ内の最も外側のエッジ位置を終点とするオフセットベクトルOFV(t0)を求める。代表点追跡部28は、RP(t0)に、順次求められる代表動きベクトルRMV(t)を累積加算して、代表点の軌跡RP(t)を求める。計測点追跡部2Aは、RP(t)を始点とするオフセットベクトルOFV(t)=−|OFV(t0)|・μ(i,j)/μ(i0,j0)・RMV(t)/|RMV(t)|を求める。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、時系列画像を処理して画像中の移動物体を追跡する画像上移動物体追跡方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ビデオカメラで移動物体を撮像し、画像処理して画像上の移動物体を追跡することにより、交通状態や交通事故の検出等を自動的に行うことができる。
【0003】
画像上の移動物体を追跡する方法として、例えば480×640画素のフレーム画像を8×8画素のブロックに分割して60×80ブロックの画像とし、各ブロックの画像を背景画像の対応するブロックの画像と比較して、ブロック単位で移動物体を検出し、時刻t−1とtのフレーム画像の時空相関に基づいてブロック単位で移動物体の識別符号(ID)及び動きベクトル(MV)を求める方法がある(下記特許文献1)。これにより、同一移動物体と認められるブロックには同一IDが付与される。
【0004】
しかしながら、ブロック単位で移動物体を検出するので、ブロックの集合としての移動物体領域(クラスタ)の周部ブロックについては、1ブロック幅の量子化誤差がある。このため、クラスタの幾何学的重心をクラスタの代表点とすると、代表点の軌跡が変動し、ジグザグになる。また、画像上で移動物体の一部が他の移動物体に隠蔽されると、代表点が、隠蔽前の位置からずれる。さらに、リアルタイム処理を高速に行うためにモノクロ濃淡画像を使うと、移動物体とその影を含んだものが移動物体と認識されて、代表点が影側にずれる。この影の影響は、天候や時間帯に依存する。
【0005】
したがって、代表点の軌跡が安定しないとともに、その誤差が比較的大きくなる。
【0006】
また、移動物体の速度、2点間通過の平均速度、加速度又は特定点通過時点等を画像処理で計測する場合、図5に示すように路面上の移動物体の位置によりビデオカメラとの距離及びカメラの視線方向と路面とのなす角度が異なるので、実長さと画像上の長さとの比を考慮する必要があるが、画像上の同じ位置のブロックでも、移動物体の高さによりビデオカメラとの距離が異なるので、計測誤差が生ずる。これを小さくするため、移動物体の路面側のエッジを計測点とすると、該計測点が画像上で他の移動物体に隠蔽されると、計測できない。この場合、計測点を移動させれば、その時点で計測誤差が大きくなる。
【特許文献1】特開2004−207786号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、上記問題点に鑑み、移動物体の速度、2点間通過の平均速度、加速度又は特定点通過時点等の計測誤差を低減できる計測点及びこのような計測点を求めるための代表点を求めることが可能な画像上移動物体追跡方法及び装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の第1態様では、記憶手段に格納された時系列画像の各々を複数ブロックに分割し、時刻t1のフレーム画像と時刻t2のフレーム画像との相関関係と、該時刻t1のフレーム画像に含まれる移動物体の識別結果とに基づいて、該時刻t2のフレーム画像に含まれる移動物体をブロック単位で識別するとともにブロック単位で移動物体の動きベクトルを求める画像上移動物体追跡方法において、
(b)移動物体の領域の幾何学的重心を初期代表点として求め、
(c)該初期代表点に、その後のフレーム画像毎に求めた移動物体の領域の代表動きベクトルを順次累積加算することにより該移動物体の領域の代表点の軌跡を求めるステップを有する。
【0009】
本発明による画像上移動物体追跡方法の第2態様では、第1態様において、
該ステップ(b)の前にさらに、(a)フレーム画像に対応した領域上に予め設定された入口領域の後端を該移動物体の領域の後端が通過したか否かを判定するステップを有し、
肯定判定した場合に該ステップ(b)の処理を行い、
該ステップ(c)での代表動きベクトルは、該移動物体の領域に含まれる複数ブロックの動きベクトルの平均値である。
【0010】
本発明による画像上移動物体追跡方法の第3態様では、第1又は2態様において、(d)該ステップ(c)で求めた代表点の軌跡における各代表動きベクトルの始点に、該移動物体の領域のサイズに依存したオフセットベクトルを加算することにより、該移動物体の計測点を求めるステップをさらに有する。
【0011】
本発明による画像上移動物体追跡方法の第4態様では、第3態様において、該記憶手段にはさらに、フレーム画像上の位置と該位置での実空間に対する縮小率に比例した値との関係を示す情報が予め格納されており、
該ステップ(d)は、
(d1)該初期代表点を始点とするオフセットベクトルを初期オフセットベクトルとして求め、
(d2)該情報を参照して各代表動きベクトル始点での係数を求め、該係数を該初期オフセットベクトルの絶対値に乗じて、該代表動きベクトル始点に加算するオフセットベクトルの絶対値を求めるステップを有する。
【0012】
本発明による画像上移動物体追跡方法の第5態様では、第4態様において、該ステップ(d2)において、該代表動きベクトル始点に加算するオフセットベクトルの方向を、該代表動きベクトルの向き且つ該移動物体の領域の時系列画像撮影カメラ側とする。
【発明の効果】
【0013】
上記第1態様の構成によれば、移動物体の領域の幾何学的重心を初期代表点として求め、該初期代表点に、その後のフレーム画像毎に求めた移動物体の領域の代表動きベクトルを順次累積加算することにより該移動物体の領域の代表点の軌跡を求めるので、代表点の軌跡はブロック量子化誤差の影響を受けず、安定したものとなり、また、画像上で移動物体の一部が他の移動物体に隠蔽されても、これにより代表点が殆どずれないので、代表点の軌跡をより正確に求めることが可能となる。
【0014】
上記第2態様の構成によれば、フレーム画像に対応した領域上に予め設定された入口領域の後端を該移動物体の領域の後端が通過した場合に該ステップ(b)の処理を開始するので、この通過後に代表点の軌跡を求めることができる。また、代表動きベクトルが、該移動物体の領域に含まれる複数ブロックの動きベクトルの平均値であるので、該代表動きベクトルを容易に求めることができる。
【0015】
上記第3態様の構成によれば、該ステップ(c)で求めた代表点の軌跡における各代表動きベクトルの始点に、該移動物体の領域のサイズに依存(例えば比例)したオフセットベクトルを加算することにより、該移動物体の計測点を求めるので、計測点が画像上で他の移動物体により隠蔽されても、計測点を正確に求めることが可能となる。
【0016】
上記第4態様の構成によれば、フレーム画像上の位置と該位置での実空間に対する縮小率に比例した値との関係を示す情報を参照して各代表動きベクトル始点での係数を求め、該係数を該初期オフセットベクトルの絶対値に乗じて、該代表動きベクトル始点に加算するオフセットベクトルの絶対値を求めるので、オフセットベクトルの大きさを正確に求めることができ、計測精度向上に寄与する。
【0017】
上記第5態様の構成によれば、該代表動きベクトル始点に加算するオフセットベクトルの方向を、該代表動きベクトルの向き且つ該移動物体の領域の時系列画像撮影カメラ側とするので、該移動物体が旋回してもオフセットベクトルの終点を該移動物体上の端部かつ略所定点にすることができ、計測精度向上に寄与する。
【0018】
本発明の他の目的、構成及び効果は以下の説明から明らかになる。
【実施例1】
【0019】
以下、図面を参照して本発明の実施例1を説明する。図面において、同一又は類似の要素には、同一又は類似の符号を付している。
【0020】
図1は、ビデオカメラ(例えばITVカメラ)10で撮像された画像を処理して移動物体を追跡する、本発明の実施例1の画像上移動物体追跡装置20の概略機能ブロック図である。
【0021】
この装置20のうち記憶部以外は、コンピュータソフトウェア、専用のハードウェア又はコンピュータソフトウェアと専用のハードウェアの組み合わせで構成することができる。
【0022】
ビデオカメラ10で撮影された時系列画像は、例えば30フレーム/秒のレートでサンプリングされて、画像メモリ21に格納され、最も古いフレーム画像が新しいフレーム画像で書き換えられる。
【0023】
本発明は、画像メモリ21に格納された画像データをブロック23〜28によりリアルタイムで処理する場合のみならず、不図示の外部記憶装置に格納しておき、必要な部分のみ後で処理する場合にも適用できる。
【0024】
また、画像メモリ21に格納された画像(原画像)を直接、ブロック23〜28で処理しても、ラプラシアンフィルタ等のフィルタをかけて空間的差分フレーム画像に変換したもの又は2次元フーリエ変換し所定周波数以上の成分を強調した後に逆フーリエ変換したもの(変換画像)を、ブロック23〜28で処理する構成であってもよい。以下、「画像」とは原画像又は変換画像を意味する。
【0025】
背景画像生成部22は、記憶部と処理部とを備え、処理部は、画像メモリ21をアクセスし、例えば過去1分間の全ての又は間引かれたもののフレーム画像の対応する画素について画素値のヒストグラムを作成し、その最頻値(モード)をその画素の画素値とする画像を、移動物体が存在しない背景画像として生成し、これを該記憶部に格納する。背景画像は、この処理が定期的に行われて更新される。
【0026】
ID生成/消滅部23には、図2に示す如くフレーム画像30内に配置される入口スリット31A、31B及び出口スリット32A、32Bの領域データが、予め設定されている。図2は、フレーム画像30に、これらスリットと、点線で示すブロックの境界線とが重ね合わされている。1ブロックは例えば8×8画素である。
【0027】
前記スリットの設定は、マウス等のポインティングデバイス又はキーボード等の入力装置INと、設定を確認する表示装置OUTと、ID生成/消滅部23に含まれる入力処理プログラムとを含む設定手段により、人の操作に基づいて行われる。図2ではスリットの奥行が2ブロック幅であるが、1ブロック幅の整数倍であればよい。
【0028】
ID生成/消滅部23は、画像メモリ21から入口スリット31A及び31B内の画像データを読み込み、これらの内側に移動物体が存在するかどうかをブロック単位で判定する。あるブロックに移動物体が存在するかどうかは、このブロック内の各画素と背景画像の対応する画素との差の絶対値の総和が閾値以上であるかどうかにより判定する。
【0029】
ID生成/消滅部23は、ブロック内に移動物体が存在すると判定すると、このブロックに新たな移動物体識別符号(ID)を付与する。ID生成/消滅部23は、ID付与済ブロックと隣接しているブロックに移動物体が存在すると判定すると、この隣接ブロックに付与済ブロックと同一のIDを付与する。このID付与済ブロックは、スリットに隣接しているブロックも含まれる。以下、IDが付与されたブロックの塊をクラスタと称する。
【0030】
IDの付与は、記憶部24内のオブジェクトマップの対応するブロックに対して行われる。オブジェクトマップは、上述の場合60×80ブロックの各ブロックの移動物体情報を記憶するためのものであり、移動物体情報は、IDが付与されているかどうかを示すフラグを含み、IDが付与されていることを示している場合にはさらにID及びブロックの動きベクトル(MV)を含む。この情報は配列M(i,j,n)で表すことができる。ここに(i,j)は第i行第j列のブロックを示し、n=0、n=1及びn=2はそれぞれMがフラグ、ID及びMVであることを示す。なお、該フラグを用いずに、ID=0のときIDが付与されていないと判定してもよい。また、IDの最上位ビットをフラグとしてもよい。ブロックマッチングでMVが求まらないブロックのMVは例えば、その回りの同一IDのブロックのMVの平均値に等しくする。
【0031】
入口スリット31A又は31Bを通過したクラスタに対しては、移動物体追跡部25により、例えば上記特許文献1に記載の方法で追跡処理が行われる。例えば、高速処理のため、時刻t−1(フレーム番号)でのMVに基づいて時刻tでのクラスタの概略移動範囲が推定され、この範囲内で上述の移動物体存否判定がブロック毎に行われ、移動方向側のブロックに対するIDの付与及び移動と反対方向側のブロックに対するIDの消滅が行われて、時刻tでのクラスタが決定される。また、時刻t−1とtのフレーム画像間のブロックマッチングにより、時刻tでIDが付与されているブロックのMVが求められる。高速処理のため、ブロックマッチングを行う範囲は、時刻t−1でのMVに基づいて定められる。各ブロックのIDとMVは、上記特許文献1に記載のように、評価関数を用いて同時に決定することもできる。ID及びMVの更新は、記憶部24内のオブジェクトマップに対して行われる。
【0032】
移動物体追跡部25による追跡処理は、各クラスタについて出口スリット32A又は32B内まで行われる。
【0033】
ID生成/消滅部23はさらに、記憶部24内のオブジェクトマップに基づき出口スリット32A及び32B内のブロックにIDが付与されているかどうかを調べ、付与されていれば、クラスタが出口スリットを通過したときにそのIDを消滅させる。
【0034】
図4は、時刻t0でのIDのオブジェクトマップに、理解を容易にするため図2中の画像上移動物体33及び34を重ね合わせ、さらにこれらのクラスタ33C及び34Cの境界を太線で示したものである。
【0035】
本実施例1の特徴は、図1中のブロック26〜29及び2Aと、これらとブロック23及び24との関係にあり、以下これを詳述する。
【0036】
フレーム画像30上において、時刻t0で図2に示す位置にいた移動物体33及び34がそれぞれ、図4に示す位置に移動したとする。図5に示すように、移動物体33とビデオカメラ10との間の距離が異なることと、ビデオカメラ10から路面への直線と路面とのなす角度が移動物体33の位置により異なることから、実物の長さに対する画像上の長さ(縮小率)が画像上の位置により異なる。ビデオカメラ10の撮像面の画像は、ビデオカメラ10の光軸に垂直な面SC上への実物の投影像に比例しているので、この縮小率は、投影面SC上のδSとこれに対応した路面上のδRとの比μ=δS/δRに比例している。この比例定数を1、すなわち縮小率をμとする。画像上の軌跡の各微小線分に、その位置のμを乗じたものが、実軌跡の線分に対応する。
【0037】
一方、移動物体の代表点をその領域の幾何学的重心として求めると、移動物体毎にその高さが異なるので、移動物体の速度をこの代表点に基づいて計測すると、誤差が生ずる原因となる。移動物体のカメラ側端、例えば、移動物体がビデオカメラ10から遠ざかる方向へ移動する場合には移動物体後端、逆方向へ移動する場合には移動物体前端が、路面に最も近くかつビデオカメラ10から見える位置となり、これを計測点とすれば、速度計測誤差を小さくすることができる。
【0038】
しかしながら、カメラアングルを低くして移動物体に対する視野を広くしたり、車輌が渋滞したりした場合には、画像上で複数の移動物体がその進行方向に重なって、この計測点が隠蔽されるという問題が生ずる。また、リアルタイム処理を高速に行うためにモノクロ濃淡画像を使うと、移動物体とその影を含んだものが移動物体と認識されて、計測点が安定せず、その誤差が比較的大きくなる。
【0039】
そこで、本実施例1では、以下のようにしてこの問題を解決している。
【0040】
ID生成/消滅部23は、図2及び図4において、クラスタ33Cの後端33C1が入口スリット31Aの後端31A1を完全に通過したと判定すると、これを初期値決定部26に通知する。この時点をt0とする。
【0041】
初期値決定部26は、これに応答して、時刻t0でのオブジェクトマップ35に基づいて、移動物体領域の代表点を求める。例えば図4に示すオブジェクトマップ35において、クラスタ33Cの幾何学的重心位置を、移動物体33の代表点として求める。
【0042】
ここで、時刻tにおける移動物体33の代表点をRP(t)、代表点から計測点までのオフセットベクトルをOFV(t)、代表点の動きベクトル(代表動きベクトル)をRMV(t)と表記する。図6(A)及び(B)はそれぞれ、時刻t0及びtkでのこれらを示す。また、第i行第j列のブロックの縮小率をμ(i,j)と表記する。
【0043】
一方、図1の動きベクトル平均値算出部27は、動きベクトルMVのオブジェクトマップにおいて、各移動物体領域に含まれるすべてのブロックの動きベクトルMVの平均値を、代表動きベクトルRMV(t)として求める。
【0044】
初期値決定部26はさらに、動きベクトル平均値算出部27から代表動きベクトルRMV(t0)を取得し、図6(A)において、代表点RP(t0)を始点とする代表動きベクトルRMV(t0)が通る直線上を、ビデオカメラ10に接近する方向へフレーム画像30上で走査し、クラスタ33C内の最も外側のエッジ位置を、初期計測点MP(t0)として求める。
【0045】
図1の代表点追跡部28は、初期値決定部26で求められた代表点RP(t0)に、動きベクトル平均値算出部27で順次求められる代表動きベクトルRMV(t)を累積加算することにより、代表点の軌跡RP(t)を求める。図7は、移動物体33が直線移動する場合の時間(フレーム番号)t0〜t5における代表点の位置を示す。
【0046】
このようにして求めた代表点の軌跡は、ブロック量子化誤差の影響を受けないので、安定したものとなる。また、画像上で移動物体の一部が他の移動物体に隠蔽されても、これにより、代表点が殆どずれない(平均化対象の動きベクトルが少なくなることにより少しずれる)ので、代表点の軌跡をより正確に求めることが可能となる。さらに、例えば時刻t0でのみクラスタ33C内についてカラー画像を処理することにより、影が移動物体と判定されている場合にこれをクラスタ33Cから除去して、代表点RP(t0)及び代表動きベクトルRMV(t0)を求めるようにすれば、その後はモノクロ画像のみを処理することにより、影の影響を受けずに代表点RP(t)を正確かつ高速に求めることが可能となる。
【0047】
図1に戻って、縮小率マップ29は、記憶部と処理部とを備え、記憶部には上述の縮小率のマップ(配列)μが格納されており、処理部は初期代表点RP(t0)及び代表点追跡部28で求められた代表点RP(t)に応答して、代表点が属するブロックの座標(i,j)を求め、その縮小率μ(i,j)を計測点追跡部2Aに供給する。
【0048】
計測点追跡部2Aは、代表点追跡部28で求められた代表点RP(t)を始点とするオフセットベクトル
OFV(t)=OFV(t)=−|OFV(t0)|・μ(i,j)/μ(i0,j0)・RMV(t)/|RMV(t)|を求める。但し、ビデオカメラ10側へ接近する移動物体については、この符号が逆になる。
【0049】
すなわち、初期値決定部26で求められたオフセットベクトルOFV(t0)の絶対値をμ(i,j)/μ(i0,j0)倍にしたものをオフセットベクトルOFV(t)の長さとする。ここに、(i,j)及び(i0,j0)はそれぞれ、時刻t0及びtでの代表点が属するブロック座標である。また、動きベクトル平均値算出部27で求められた代表動きベクトルRMV(t)が通る直線のカメラ側、図5の場合は移動物体後端側を、オフセットベクトルOFV(t)の向きとして求める。
【0050】
このようにして求められたオフセットベクトルOFV(t)の先端を連ねたものが、計測点MP(t)の軌跡となる。図7は、移動物体33が直線移動する場合の計測点MP(t)の軌跡も示す。
【0051】
図8は、移動物体33が右折する場合に、上述のようにして求められる代表点と計測点の軌跡を示す。
【0052】
このようにして計測点を求めることにより、計測点が画像上で他の移動物体により隠蔽されても、正確に求めることが可能となる。
【0053】
なお、本発明には外にも種々の変形例が含まれる。
【0054】
例えば、上記実施例では、クラスタ内の全ての動きベクトルの平均値を初期代表動きベクトルとして求めたが、移動物体の領域に含まれる複数ブロックの動きベクトルの平均値であればよく、代表点付近のブロック、例えば代表点が属するブロックとその周囲の8個のブロックの動きベクトルの平均値であってもよい。
【0055】
また、上記実施例では、初期代表点として求める移動物体の領域の幾何学的重心として、クラスタの幾何学的重心を求めたが、該クラスタに対応するフレーム画像上の移動物体の領域の幾何学的重心を求めてもよい。
【0056】
さらに、上記実施例では、初期代表点を始点とする初期オフセットベクトルの終点をフレーム画像上で求めたが、ブロックサイズは比較的小さいので、オブジェクトマップ上の端部ブロック内の点又はその近傍の点を初期オフセットベクトルの終点として求めてもよい。
【0057】
さらに、例えば図3において、ビデオカメラから遠方の入口スリット31B側で初期代表点及び計測点を求めるよりも近くの出口スリット32B側でこれらを求めた方が精度が高くなるので、出口スリット32B側でこれらを求め、上記特許文献1に記載のように時間を遡って移動物体を追跡する構成であってもよく、これは、過去のビデオの解析のようにリアルタイム処理が要求されない場合に有効である。また、入口スリットや出口スリットの替わりにラインを用い、ライン通過等のラインとの関係でIDの付与/消滅を行ってもよい。
【0058】
また、初期値決定部26での処理開始時点は、設定したラインが移動物体(クラスタ)と所定の関係になった時点、例えば、移動物体の先端部、後端部又は代表点が該ラインと一致し又は該ラインを通過した時点であってもよい。なぜならば、ラインをどの位置に設定するかで該所定の関係を変えることができ、また、時間を遡って入口スリットに入る前の移動物体軌跡を求めることができるからである。このラインは領域の辺であってもよい。
【0059】
さらに、上記実施例では代表点での縮小率を求める場合を説明したが、これは近似的なものであり、例えば、上記実施例のようにして計測点を求めた後に、計測点と代表点との間、例えば中央点が属するブロックの縮小率を求め、これを初期オフセット長さに乗じてオフセットベクトルの絶対値を決定することで、計測点の精度を向上させてもよい。このような処理を複数回又は該絶対値が収束するまで繰り返してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】本発明の実施例1の画像上移動物体追跡装置の概略機能ブロック図である。
【図2】入口及び出口のスリットとブロック境界線とを時刻t0のフレーム画像に重ね合わせた説明図である。
【図3】入口及び出口のスリットとブロック境界線とを他の時刻でのフレーム画像に重ね合わせた説明図である。
【図4】時刻t0での移動物体IDのオブジェクトマップに、理解を容易にするため図2中の移動物体を重ね合わせ、さらにこれらのクラスタの境界を太線で示したIDオブジェクトマップ説明図である。
【図5】実長さに対する画像上の長さの比である縮小率と、計測誤差が生ずる原因とを説明する図である。
【図6】(A)及び(B)はそれぞれ時刻t0及びtkでの代表点RP、代表動きベクトルRMV及びオフセットベクトルOFVを示す図である。
【図7】移動物体が直線移動する場合の、時刻tをパラメータとする代表点の軌跡RP(t)及び計測点の軌跡MP(t)の説明図である。
【図8】移動物体が右折する場合の代表点及び計測点の軌跡説明図である。
【符号の説明】
【0061】
10 ビデオカメラ
20 画像上移動物体追跡装置
21 画像メモリ
22 背景画像生成部
23 ID生成/消滅部
24 オブジェクトマップ記憶部
25 移動物体追跡部
26 初期値決定部
27 動きベクトル平均値算出部
28 代表点追跡部
29 縮小率マップ
2A 計測点追跡部
30 フレーム画像
31A、31B 入口スリット
32B、32A 出口スリット
33、34 移動物体
33C、34C クラスタ
IN 入力装置
OUT 表示装置
RP、RP(t) 代表点
RMV、RMV(t) 代表動きベクトル
OFV、OFV(t) オフセットベクトル
MP 計測点
SC 投影面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
記憶手段に格納された時系列画像の各々を複数ブロックに分割し、時刻t1のフレーム画像と時刻t2のフレーム画像との相関関係と、該時刻t1のフレーム画像に含まれる移動物体の識別結果とに基づいて、該時刻t2のフレーム画像に含まれる移動物体をブロック単位で識別するとともにブロック単位で移動物体の動きベクトルを求める画像上移動物体追跡方法において、
(b)移動物体の領域の幾何学的重心を初期代表点として求め、
(c)該初期代表点に、その後のフレーム画像毎に求めた移動物体の領域の代表動きベクトルを順次累積加算することにより該移動物体の領域の代表点の軌跡を求める、
ステップを有することを特徴とする画像上移動物体追跡方法。
【請求項2】
該ステップ(b)の前にさらに、
(a)フレーム画像に対応したエリア上に予め設定された領域又は線と該移動物体の領域が所定の関係にあるか否かを判定する、
ステップを有し、肯定判定した場合に該ステップ(b)の処理を行い、
該ステップ(c)での代表動きベクトルは、該移動物体の領域に含まれる複数ブロックの動きベクトルの平均値である、
ことを特徴とする請求項1に記載の画像上移動物体追跡方法。
【請求項3】
(d)該ステップ(c)で求めた代表点の軌跡における各代表動きベクトルの始点に、該移動物体の領域のサイズに依存したオフセットベクトルを加算することにより、該移動物体の計測点を求める、
ステップをさらに有することを特徴とする請求項1又は2に記載の画像上移動物体追跡方法。
【請求項4】
該記憶手段にはさらに、フレーム画像上の位置と該位置での実空間に対する縮小率に比例した値との関係を示す情報が予め格納されており、
該ステップ(d)は、
(d1)該初期代表点を始点とするオフセットベクトルを初期オフセットベクトルとして求め、
(d2)該情報を参照して各代表動きベクトル始点での係数を求め、該係数を該初期オフセットベクトルの絶対値に乗じて、該代表動きベクトル始点に加算するオフセットベクトルの絶対値を求める、
ステップを有することを特徴とする請求項3に記載の画像上移動物体追跡方法。
【請求項5】
該ステップ(d2)において、該代表動きベクトル始点に加算するオフセットベクトルの方向を、該代表動きベクトルの向き且つ該移動物体の領域の時系列画像撮影カメラ側とすることを特徴とする請求項4に記載の画像上移動物体追跡方法。
【請求項6】
時系列画像が格納される画像記憶手段と、
該格納された時系列画像の各々を複数ブロックに分割し、時刻t1のフレーム画像と時刻t2のフレーム画像との相関関係と、該時刻t1のフレーム画像に含まれる移動物体の識別結果とに基づいて、該時刻t2のフレーム画像に含まれる移動物体をブロック単位で識別するとともにブロック単位で移動物体の動きベクトルを求める画像処理手段と、
を有する画像上移動物体追跡装置において、該画像処理手段は、
(b)移動物体の領域の幾何学的重心を初期代表点として求め、
(c)該初期代表点に、その後のフレーム画像毎に求めた移動物体の領域の代表動きベクトルを順次累積加算することにより該移動物体の領域の代表点の軌跡を求める、
ステップの処理を行うことを特徴とする画像上移動物体追跡装置。
【請求項7】
該画像処理手段は、該ステップ(b)の前にさらに、
(a)フレーム画像に対応したエリア上に予め設定された領域又は線と該移動物体の領域が所定の関係にあるか否かを判定する、
ステップの処理を行い、肯定判定した場合に該ステップ(b)の処理を行い、
該ステップ(c)での代表動きベクトルは、該移動物体の領域に含まれる複数ブロックの動きベクトルの平均値である、
ことを特徴とする請求項6に記載の画像上移動物体追跡装置。
【請求項8】
(d)該ステップ(c)で求めた代表点の軌跡における各代表動きベクトルの始点に、該移動物体の領域のサイズに依存したオフセットベクトルを加算することにより、該移動物体の計測点を求める、
ステップをさらに有することを特徴とする請求項6又は7に記載の画像上移動物体追跡装置。
【請求項9】
該記憶手段にはさらに、フレーム画像上の位置と該位置での実空間に対する縮小率に比例した値との関係を示す情報が予め格納されており、
該ステップ(d)は、
(d1)該初期代表点を始点とするオフセットベクトルを初期オフセットベクトルとして求め、
(d2)該情報を参照して各代表動きベクトル始点での係数を求め、該係数を該初期オフセットベクトルの絶対値に乗じて、該代表動きベクトル始点に加算するオフセットベクトルの絶対値を求める、
ステップを有することを特徴とする請求項8に記載の画像上移動物体追跡装置。
【請求項10】
該ステップ(d2)において、該代表動きベクトル始点に加算するオフセットベクトルの方向を、該代表動きベクトルの向き且つ該移動物体の領域の時系列画像撮影カメラ側とすることを特徴とする請求項9に記載の画像上移動物体追跡装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2007−188269(P2007−188269A)
【公開日】平成19年7月26日(2007.7.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−5448(P2006−5448)
【出願日】平成18年1月12日(2006.1.12)
【出願人】(504137912)国立大学法人 東京大学 (1,942)
【Fターム(参考)】