説明

画像処理装置およびその方法

【課題】 複数の色材により画像を形成する際の色間モアレの低減を図る。
【解決手段】 複数の色版データそれぞれを量子化処理して複数の量子化色版データを生成し、複数の量子化色版データの論理積を算出する(S302)。そして、複数の色版データの積を算出し(S303)、論理積から第一の低周波数成分を抽出し(S304)、積から第二の低周波数成分を抽出する(S305)。そして、複数の色版データのそれぞれから第一の低周波数成分を減算し(S306)、減算の結果に第二の低周波数成分を加算して(S307)、複数の補正色版データを生成し(S308)、複数の補正色版データそれぞれに量子化処理を施す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の色材により画像を形成するための画像データを生成する画像処理に関する。
【背景技術】
【0002】
カラー印刷において、安定した階調表現を得るために、紙を色材が被覆する位置(色材の被覆位置を網点と呼ぶ)を格子に配列し、かつ、各色版の格子の傾斜角を異ならせることが知られている。もし各色版の格子を同傾斜角にして網点を重ねると、網点の互いの位置関係が一定になり、色版のずれが色の変動に直結して色が安定しない。つまり、色版ごとに格子の傾斜角を変えて、異なる色版の網点間の互いの位置関係を異ならせることで、色版の互いの微かなずれによる網点の重なり具合の変動を相殺する(例えば、特許文献1)。
【0003】
しかし、格子の傾斜角を変えることによるデメリットも存在する。格子を傾斜させることにより、網点の水平方向、垂直方向の周期が異なり、各色版の網点間の互いの位置関係が同じ位置関係に戻るまでの周期をもつ特徴的なパターン(色間モアレ)が視認される場合がある。
【0004】
また、プレスは、物理的な凹凸をもつ版や、平面に疎水性、親水性を与えた版に色材を塗布し、版と紙を密着させて画像を紙に転写する。プレスによる印刷物においては、色材の溶媒は揮発し紙上に色材の顔料だけが残り、顔料以外はほとんど残らない。一方、電子写真方式の印刷は、感光体に光学的に描画した潜像を帯電したトナーで現像し、トナーを紙に転写し、熱と圧力でトナーを紙に定着する。つまり、トナーの樹脂は、紙とトナーが含む顔料の接着剤として機能する。その結果、電子写真方式の印刷物において、印刷面に付着する材料の体積は樹脂成分の厚さ分、プレスの印刷物より増加する。さらに、電子写真方式のカラー印刷の場合、樹脂成分が多層に重なることになる。樹脂成分を多層に重ねる電子写真方式の印刷は次の問題を孕んでいる。
【0005】
トナーは、定着時の圧力により平坦に押し広げられる。トナーの広がりは、定着前のトナーが厚いほど顕著になる。つまり、複数色のトナーが重畳された領域ほどトナーの広がりが顕著になる。その結果、微細な領域の顔料の被覆率による階調表現が影響を受ける。具体的には、トナーとともに顔料も押し広げられるため、その顔料の被覆率が増大し、被覆率が増大した分、画像の濃度が増加する。
【0006】
また、顔料の被覆率の増加は現像および転写時のトナーの飛散にも起因する。一色のトナーだけが存在する領域(非重畳部)に比べ、複数色のトナーが重畳した領域(重畳部)はトナーの飛散量が多くなる。その結果、二つの領域の目標濃度が同じだとしても、重畳部の濃度は非重畳部の濃度より高くなる。
【0007】
描画面積に比べて印刷面積が増減することは珍しいことではない。しかし、電子写真方式のカラー印刷において、印刷面積の広がり方は一様ではなく、トナーの重なりに依存する。とりわけ、各色の網点が重なる部分は、印刷面積が広がり易く、濃度が高くなって色間の干渉による濃度変化が顕著になる。このような濃度変化により、色間モアレがより強い干渉パターンになり、プレスの印刷物では色間モアレが発生しない色の組み合わせでも、電子写真方式の印刷物では色間モアレが顕在化する場合がある。
【0008】
色間モアレを低減する技術として、液体現像剤を用いる技術がある(例えば、特許文献2)。液体現像剤は、乾式のトナーと比べて薄いトナー層の形成が可能になるため、重畳部における濃度変化を抑える効果がある。
【0009】
また、色が重なる部分のトナーの載り量を抑制して、色間モアレを低減する技術がある(例えば、特許文献3)。この技術は、例えばK版とY版が重なる部分のY版を非印刷として重畳部の面積を減少し、色間モアレを低減する。
【0010】
また、色間モアレの周波数を高周波数域に追い出して、色間モアレが視認され難くする技術がある(例えば、特許文献4)。この技術は、例えばCMK版に三色の色間モアレが高周波になるスクリーンを用い、Y版のスクリーン角をCMK版の何れか一色と等しくして位相をずらすことで、色間モアレの周波数を高周波数域に追い出す。
【0011】
しかし、上記の色間モアレを低減または視認され難くする技術は、プレスの印刷物と同等の網点画像を表現することが困難である。特許文献2の発明は、特殊な液体現像剤だけではなく、液体現像剤の乾燥や、乾燥に伴い揮発した溶媒の処理などが必要になり、コストが増大する。
【0012】
特許文献3が記載する技術は、重畳部のパターンが高周波数域にある場合、色版ずれがあると色間モアレの低減により所謂白抜けが発生する逆作用がある。特許文献3の発明は、色版ずれがある場合を考慮して色版ずれが大きい場合は色間モアレを低減する補正を行わない。言い替えれば、特許文献3の発明により、色間モアレの低減効果を得るには精密なレジストレーションが必要になる。さらに、重畳部の面積を抑制する補正処理により、網点形状が変わり、孤立点など不安定な出力パターンが形成される可能性がある。
【0013】
特許文献4の発明は、Y版がずれた場合、色が大きく変化する問題がある。また、特許文献4のスクリーンはプレスで使われるスクリーンとは異なり、プレスと同様の網点画像を表現することはできない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特開平6-130656号公報
【特許文献2】特開2006-341521公報
【特許文献3】特開平8-298595号公報
【特許文献4】特開2002-112047公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明は、複数の色材により画像を形成する際の色間モアレの低減を図る。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明は、前記の目的を達成する一手段として、以下の構成を備える。
【0017】
本発明にかかる画像処理は、複数の色版データそれぞれを量子化処理して複数の量子化色版データを生成し、前記複数の量子化色版データの論理積を算出し、前記複数の色版データの積を算出し、前記論理積から第一の低周波数成分を抽出し、前記積から第二の低周波数成分を抽出し、前記複数の色版データのそれぞれから前記第一の低周波数成分を減算し、前記減算の結果に前記第二の低周波数成分を加算して、複数の補正色版データを生成し、前記複数の補正色版データそれぞれに前記量子化処理を施すことを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、複数の色材により画像を形成する際の色間モアレの低減が可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】実施例1の画像処理装置の構成例を説明する概観図。
【図2】画像処理部の構成例を説明するブロック図。
【図3】濃度補正部の処理を説明するフローチャート。
【図4】濃度補正部の構成例を説明するブロック図。
【図5】は濃度補正部の濃度補正の効果を説明する図。
【図6】実施例2の画像処理部の構成例を説明する図。
【図7】補正処理を説明する図。
【図8】色版ずれ量と補正効果の関係を表す図。
【図9】実施例2の濃度補正部の処理を説明するフローチャート。
【図10】実施例3の濃度補正部の処理を説明するフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明にかかる実施例の画像処理を図面を参照して詳細に説明する。なお、以下では、電子写真方式の画像形成装置の画像処理について説明するが、本発明の適用は電子写真方式に限られるわけではない。
【実施例1】
【0021】
[装置の構成]
図1の概観図を用いて実施例1の画像処理装置の構成例を説明する。画像処理装置100は、電子写真方式により画像を形成する、例えばレーザビームプリンタである。画像処理装置100は、図示しない外部のホストコンピュータから入力されるRGB画像データに基づく画像を記録紙上に形成する。
【0022】
操作パネル151には、画像処理装置100を操作するためのスイッチ、画像処理装置100の状態を表示する表示器などが配置されている。画像処理部101は、ホストコンピュータから入力されるRGB画像データに基づき、CMYKそれぞれの印刷データを生成し、印刷データをビデオ信号に変換してCMYKそれぞれのレーザドライバに出力する。
【0023】
画像処理装置100は、シアンC、マゼンタM、イエローY、黒Kの各色について潜像を形成し現像する画像形成部を備える。例えば、Cの画像形成部のレーザドライバ110は、半導体レーザ素子111を駆動してCの印刷画像に応じたレーザ光112を出力させる。レーザ光112は、回転多面鏡113によってスキャンされ、静電ドラム114の表面に潜像を形成する。潜像は、トナーカートリッジ115の現像ユニットのC色材を含むトナーによって現像される。M、Y、Kの画像形成部もCの画像形成部と同様の構成を備える。つまり、Mの画像形成部はレーザドライバ120、半導体レーザ素子121、回転多面鏡123によってレーザ光122を出力する。Yの画像形成部はレーザドライバ130、半導体レーザ素子131、回転多面鏡133によってレーザ光132を出力する。Kの画像形成部はレーザドライバ140、半導体レーザ素子141、回転多面鏡143によってレーザ光142を出力する。
【0024】
画像形成部における潜像の形成と現像に同期して、給紙ローラ104によって給紙カセット102から取り出された記録紙は、搬送ローラ105、106によって搬送ベルト107に供給される。なお、給紙カセット102に収納された記録紙の上面は、ばね103によって一定の高さに保たれ、給紙ローラ104によって一枚の記録紙が取り出される。
【0025】
搬送ベルト107によってCMYKの各色の画像形成部を通過する記録紙には、CMYKの順に各色のトナー像が転写される。定着器108は、熱と圧力によりトナー像を記録紙に定着する。トナー像が定着された記録紙は、搬送ローラ109、150によって画像処理装置100の上部の排紙トレーに出力される。
【0026】
また、色版ずれセンサ152は、色版ずれ量を示す情報を検出する。そして、検出した情報を画像処理部101に入力する。
【0027】
[画像処理部]
図2のブロック図を用いて画像処理部101の構成例を説明する。入力部201は、ホストコンピュータから多値のRGBデータを入力する。画像バッファ202は、RGBデータをバッファする。色変換部203は、色変換テーブル204を参照して、RGBデータをCMYKデータに変換する。ガンマ補正部205は、濃度補正テーブル206を参照して、画像形成部の濃度特性に応じた階調補正をCMYKデータに施す。画像メモリ207は、階調補正後のCMYKデータを格納する。
【0028】
濃度補正部208は、CMYKの四色版の中で補正すべき色版の組の、画像メモリ207に格納された画像データに、色間モアレを低減する濃度補正を施し、濃度補正後の画像データを画像メモリ207に格納する。補正すべき色版の組は、例えばハーフトーン(HT)処理部210の中間調処理の設定に基づき、色間モアレが低周波数域になる色の組み合わせに対応する色版の組である。
【0029】
HT処理部210は、濃度補正部208によって濃度補正された多値のCMYKデータを画像メモリ207から読み出して、二値のC'M'Y'K'網点データを生成する。HT処理部210から出力されるC'M'Y'K'網点データはそれぞれレーザドライバ110、120、130、140に送られる。
【0030】
●濃度補正部
図3のフローチャートにより濃度補正部208の処理を説明する。濃度補正部208は、補正すべき色版の組があるか否かを判定し(S301)、補正すべき色版の組がない場合は濃度補正を終了する。
【0031】
図4のブロック図を用いてK版とY版の組に対して補正処理を行う濃度補正部208の構成例を説明する。なお、図4にはK版とY版の組に対して補正処理を行う場合の画像データの流れを示すが、他の色版の組に対して補正処理を行うこともできる。その場合、図4におけるK版とY版の画像データ(色版データ)の代わりに、他の色版の組の画像データを濃度補正部208に入力すればよい。濃度補正の対象になる色版の組は、HT処理部210の中間調処理の設定に基づき色間モアレが低周波数域になる色の組み合わせに対応する。そして、色版の組み合わせが設定されている場合、ステップS301の判定結果は「YES」になり、色版の組み合わせが設定されていない場合、ステップS301の判定結果は「NO」になる。
【0032】
補正すべき色版の組がある場合、濃度補正部208は、画像メモリ207に格納された当該色版の組の画像データ(以下、中間調処理前の画像データ)にHT処理部210を用いて中間調処理を行う。本実施例では、補正すべき色版としてK版とY版の組が設定されている。従って、画像メモリ207からK版とY版の画像データを読み出す。そして、HT処理部210を用いて各版の画像データに中間調処理を行い、量子化色版データとして、K版の二値のハーフトーン(HT)画像データ1000KおよびY版の二値のHT画像データ1000Yを作成する。本実施例では、ドットを形成する画素(黒画素)の画素値を‘1’、ドットを形成しない画素(白画素)の画素値を‘0’とする。
【0033】
論理演算回路1010は、HT画像データ1000KとHT画像データ1000Yの論理積を求め、色版論理積(CLM)画像データ1001を生成する(S302)。従って、CLM画像データ1001は、HT画像データ1000KとHT画像データ1000Yの組み合わせが黒画素と黒画素の場合は‘1’に、それ以外の場合は‘0’になる。さらに、ステップS302では、論理積の結果が‘1’を示す画素にFFhを与え、‘0’を示す画素に0を与えることで、8ビットのCLM画像データ1001を生成する。つまり、選択した二つの色版のHT画像データによって網点が重なる重畳部を抽出するためにCLM画像データ1001を生成する。なお、生成されたCLM画像データ1001はメモリ209に格納される。
【0034】
乗算回路1011は、中間調処理前のK版とY版の画像データを乗算して色版積(CP)画像データ1002を生成する(S303)。中間調処理前の画像データ、CLM画像データ1001、CP画像データ1002のビット深さは等しい必要がある。本実施例では、中間調処理前の画像データが8ビットであるから、上述したように、CLM画像データ1001を8ビットにした。乗算回路1011が出力するCP画像データ1002は16ビットになるが、CP画像データ1002のビット深さを16ビットから8ビットに変換する。生成されたCP画像データ1002はメモリ209に格納される。
【0035】
ローパスフィルタ1003は、ローパスフィルタ処理によりCLM画像データ1001の低周波数成分を抽出して第一の低周波数成分データ1005を生成する(S304)、第一の抽出部である。第一の低周波数成分データ1005は、網点の重畳部が拡がることで顕在化する低周波数域の色むらに起因する低周波数画像を示す。ローパスフィルタ1004は、ローパスフィルタ処理によりCP画像データ1002の低周波数成分を抽出して第二の低周波数成分データ1006を生成する(S305)、第二の抽出部である。抽出された第一および第二の低周波数成分データはメモリ209に格納される。
【0036】
演算部1012は、第一の低周波数成分データ1005から第二の低周波数成分データ1006を減算する(S306)。演算部1013、1014はK版およびY版の中間調処理前の画像データからステップS306で算出されたデータを減算して(S307)、補正色版データを生成する。
【0037】
本実施例では、ステップS306およびS307において、上述したように処理したが、K版およびY版の中間調処理前の画像データに対して、第一の低周波数成分データ1005を減算し、第二の低周波数成分データ1006を加算しても構わない。なお、中間調処理前の画像データから第一の低周波数成分データ1005を減算するのは、網点の重畳部に対応する領域の画像濃度を下げることにより、低周波数域の色むらを抑制するためである。しかし、この減算により画像全体の濃度が下がるため、第二の低周波数成分データ1006を加算して画像濃度の低下を防ぐ。
【0038】
上記では、網点の非重畳部に比べて、網点の重畳部においてドットが拡大することを前提に、ドットの拡大を抑制するために網点の重畳部の画像濃度を下げて色材の載り量を抑制する例を説明した。
【0039】
次に、濃度補正部208は、画像メモリ207の当該色版の画像データを補正後の画像データ(補正色版データ)に更新する(S308)。そして、補正すべき色版の組に対する処理がすべて終了したか否かを判定し(S309)、未了であれば処理をステップS302に戻して、補正すべき色版の組に対する処理が終了するまでステップS302からS308を繰り返す。
【0040】
図5により濃度補正部208の濃度補正の効果を説明する。図5(a)は濃度補正部208による濃度補正を行わずに、Yが90度、Kが15度のAMスクリーンでHT処理したYとKの混色領域の網点画像を示している。なお、図5(a)および図5(c)は、認識し易いようにYを50%グレイで表すが、実際のYのグレイ値はずっと低い。この網点画像を画像処理装置100によって出力すると、網点の重畳面積が少ない非重畳部41と網点の重畳面積が多い重畳部42において、ドットの拡がり具合が異なり、色材の被覆率(ドット面積率)に差が生じる。
【0041】
図5(b)は図5(a)の網点画像を画像処理装置100によって印刷した結果を示している。ただし、図5(b)および図5(d)は実際の出力結果をグレイ画像に変換しているため、Yのドットは図5(a)のように明瞭には見えない。非重畳部51のドットの拡大は小さいが、重畳部52のドットの拡大は大きく、非重畳部51と重畳部52のドット面積率の差によって色間モアレが顕在化する。
【0042】
図5(c)は濃度補正部208による濃度補正を行い、図5(a)と同様のHT処理を行ったYとKの混色領域の網点画像を示している。図5(c)に示すように、非重畳部41のドット面積は図5(a)とほとんど変わらないが、重畳部42のドット面積は図5(a)に比べて小さくなる。図5(d)は図5(c)の網点画像を画像処理装置100によって出力した結果を示している。非重畳部51、重畳部52ともドットの拡大は小さく、非重畳部51と重畳部52のドット面積率の差が低減され、色間モアレが抑制される。
【0043】
このように、中間調処理によって色間モアレが低周波数域になる色の組み合わせに対応する色版の組を選択し、それら色版の画像データに上記の濃度補正を施す。その結果、繰り返しが低周波数域になる重畳部の色材の載り量を補正して、低周波数域の色間モアレを低減することができる。言い替えれば、低周波数域の色間モアレが顕在化する重畳部の濃度増加を抑制して、高品位の印刷物が安定して得られる網点データを出力することができる。
【実施例2】
【0044】
以下、本発明にかかる実施例2の画像処理を説明する。なお、実施例2において、実施例1と略同様の構成については、同一符号を付して、その詳細説明を省略する。
【0045】
実施例1において、網点の重畳部におけるドットの拡大(濃度増加)を抑制し、低周波数域の色間モアレが顕在化を防ぐ画像処理を説明した。実施例2においては、さらに、色版ずれも考慮する。
【0046】
図6のブロック図を用いて実施例2の画像処理部101の構成例を説明する。図6において、実施例1と異なる構成はずれ量記憶部211である。ずれ量記憶部211は、画像処理装置100におけるCMYK各色版の間のずれ量を記憶する。なお、ずれ量記憶部211は、例えばずれ量として、色版ずれの変動量を色版ごとにテーブル形式で記憶する。また、ずれ量として、複数枚の出力ごとの色版ずれの変動量を記憶してもよいし、一枚の出力中の色版ずれの変動量を記憶してもよい。
【0047】
濃度補正部208は、ずれ量記憶部211に記憶されたずれ量に基づき、補正すべき色版の組の中で、色版ずれが生じても濃度補正の効果が見込める色版の組を選択する。ずれ量記憶部211が記憶するずれ量が、複数枚の出力ごとの色版ずれの変動量であれば、複数枚の出力の中で濃度補正の効果が得られる出力と、得られない出力が混在することを防ぐことができる。また、ずれ量が一枚の出力中の色版ずれの変動量であれば、一枚の出力中で濃度補正の効果が得られる領域と、得られない領域が混在することを防ぐことができる。
【0048】
濃度補正部208は、例えば、HT処理部210の中間調処理の設定に基づき算出した色間モアレの周期が、色版間のずれ量の周期の六倍以上になる色版の組を、濃度補正の効果が見込める色版の組として選択する。この理由を以下で説明する。
【0049】
低周波数域の色間モアレの周波数をfとすると、本実施例の補正処理は、周波数fにおいて位相が色間モアレと逆の補正データを加算して画像を補正するものと考えることができる。図7により補正処理を説明する。ただし、図7において出力したい値は一様に0.5とする。また、色間モアレの周期は500μmとする。
【0050】
図7(a)は色版ずれがない場合の色間モアレ71、補正データ72、補正後の出力データ73を表す。色間モアレ71の変動を補正データ72が打ち消し、補正後の出力データ73は一定値の0.5になる。図7(b)は色版ずれがある場合の色間モアレ71、補正データ72、補正後の出力データ73を表し、色版ずれ量は62.5μmである。図7(b)においては、図7(a)のように色間モアレ71を完全に補正することはできないが、色間モアレ71の周期500μmに対して62.5μmと色版ずれ量が比較的小さいため、色間モアレ71に比べれば出力データ73の変動は多少ながら抑制される。
【0051】
図8により色版ずれ量と補正効果の関係を表す。一般に、色版ずれ量の周期が色間モアレ71の周期の1/6以下であれば、補正によって出力データ73の変動を低減することができる。図8は色間モアレ71の周期が500μmの場合を示し、色間モアレ71の変動(振幅)を1として補正後の出力データ73の変動(振幅)を表す。図8に示すように、色版ずれが約±83μmであれば補正によって出力データの変動(色間モアレ)を低減する効果がある。つまり、濃度補正部208は、ずれ量記憶部211を参照して、色間モアレの低減効果がある色版ずれの範囲で補正処理を行う。
【0052】
図9のフローチャートにより実施例2の濃度補正部208の処理を説明する。実施例1の処理と異なるのは、ステップS311において、濃度補正部208がずれ量記憶部211を参照して、補正すべき色版の組の相対的な色版ずれ量を算出し、その値に従い、ステップS304、S305で使用するローパスフィルタを設定することである。例えば、濃度補正部208は、ローパスフィルタのカットオフ周波数の周期を、相対的な色版ずれ量の六倍以上に設定する。
【0053】
このように、色版ずれがある場合も色間モアレを低減することが可能になる。
【実施例3】
【0054】
以下、本発明にかかる実施例3の画像処理を説明する。なお、実施例3において、実施例1、2と略同様の構成については、同一符号を付して、その詳細説明を省略する。
【0055】
実施例2において、色版ずれを考慮して、色間モアレを補正する処理を説明した。実施例3においては、色版ずれを動的に取得する例を説明する。
【0056】
画像処理部101は、図1に示す色版ずれセンサ152から色版ずれ量を示す情報を入力し、入力した情報から色版ずれ量を計算する。そして、計算した色版ずれ量(動的に検出したずれ量)を図6に示すずれ量記憶部211に格納する。
【0057】
濃度補正部208は、実施例2で説明したように、ずれ量記憶部211が記憶するずれ量に基づき、補正すべき色版の組の中で、色版ずれが生じても濃度補正の効果が見込める色版の組を選択する。さらに、動的に検出したずれ量から一枚の出力中(以下、面内)の平均ずれ量を算出し、平均ずれ量に基づき補正処理を行う。
【0058】
図10のフローチャートにより実施例3の濃度補正部208の処理を説明する。以下では、実施例1の処理と異なる部分のみ詳細を説明する。
【0059】
濃度補正部208は、動的に検出したずれ量から面内の平均ずれ量を算出し(S321)、画像メモリ207に格納された補正すべき色版の組の画像データの画像形成位置を平均ずれ量分ずらすシフトを行う(S322)。その後、CLM画像データの生成(S302)、CP画像データの生成(S303)を行う。なお、画像データをシフトする際は補間処理を行うことが望ましい。
【0060】
次に、濃度補正部208は、実施例2の処理と同様に、ずれ量記憶部211が予め記憶するずれ量に基づき、補正すべき色版の組の相対的な色版ずれ量を算出し、その値に従い、ステップS304、S305で使用するローパスフィルタを設定する(S323)。
【0061】
このように、動的に検出した色版ずれ量に基づき、より効果的に色間モアレを低減することができる。
【0062】
[変形例]
実施例1-3では、CMYK四色の例を説明したが、色版や色数が異なる場合も同様の効果を得ることができる。また、上記では、電子写真方式の印刷を説明したが、網点の重畳部と非重畳部でドットの拡がり具合が異なる印刷方式であれば同様の効果が見込める。例えば、インクジェットプリンタに上記の濃度補正を適用すれば、同様の効果を期待することができる。
【0063】
また、実施例1-3では、HT処理部210が二値化処理を行う例を説明したが、HT処理部210は、三値や四値など他の階調数に変換する量子化処理を行っても構わない。
【0064】
[その他の実施例]
また、本発明は、以下の処理を実行することによっても実現される。即ち、上述した実施形態の機能を実現するソフトウェア(プログラム)を、ネットワーク又は各種記憶媒体を介してシステム或いは装置に供給し、そのシステムあるいは装置のコンピュータ(又はCPUやMPU等)がプログラムを読み出して実行する処理である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の色版データそれぞれを量子化処理して複数の量子化色版データを生成し、前記複数の量子化色版データの論理積を算出する論理演算手段と、
前記複数の色版データの積を算出する乗算手段と、
前記論理積から第一の低周波数成分を抽出する第一の抽出手段と、
前記積から第二の低周波数成分を抽出する第二の抽出手段と、
前記複数の色版データそれぞれから前記第一の低周波数成分を減算し、前記減算の結果に前記第二の低周波数成分を加算して、複数の補正色版データを生成する補正手段と、
前記複数の補正色版データそれぞれに前記量子化処理を施す量子化手段とを有することを特徴とする画像処理装置。
【請求項2】
前記第一および第二の抽出手段は、前記複数の色版データに対応する色版のずれ量に応じたローパスフィルタを用いて低周波数成分を抽出することを特徴とする請求項1に記載された画像処理装置。
【請求項3】
前記複数の色版データに対応する色版のずれ量の周期が、当該複数の色版の間で生じるモアレの周期の1/6以下である場合に、前記補正手段を用いる処理を行うことを特徴とする請求項1に記載された画像処理装置。
【請求項4】
さらに、前記複数の色版データに対応する複数の色版のずれ量を取得する取得手段と、
前記取得されたずれ量に基づき、前記複数の色版データに画像形成位置をずらす処理を行うシフト手段とを有する請求項1に記載された画像処理装置。
【請求項5】
論理演算手段、乗算手段、第一および第二の抽出手段、補正手段、量子化手段を有する画像処理装置の画像処理方法であって、
前記論理演算手段が、複数の色版データそれぞれを量子化処理して複数の量子化色版データを生成し、前記複数の量子化色版データの論理積を算出し、
前記乗算手段が、前記複数の色版データの積を算出し、
前記第一の抽出手段が、前記論理積から第一の低周波数成分を抽出し、
前記第二の抽出手段が、前記積から第二の低周波数成分を抽出し、
前記補正手段が、前記複数の色版データそれぞれから前記第一の低周波数成分を減算し、前記減算の結果に前記第二の低周波数成分を加算して、複数の補正色版データを生成し、
前記量子化手段が、前記複数の補正色版データそれぞれに前記量子化処理を施すことを特徴とする画像処理方法。
【請求項6】
コンピュータ装置を請求項1から請求項4の何れか一項に記載された画像処理装置の各手段として機能させることを特徴とするプログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−42162(P2011−42162A)
【公開日】平成23年3月3日(2011.3.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−137681(P2010−137681)
【出願日】平成22年6月16日(2010.6.16)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】