説明

発光素子および発光素子の製造方法

【課題】出力を向上可能な発光素子および発光素子の製造方法を提供する。
【解決手段】発光素子100において、成長基板10は、第1レーザー加工面10Cと、第1割断面10Cと、を含む第1側面10Cを有する。第1割断面10Cには、成長基板10を構成する材料の結晶格子面が露出している。垂直方向における第1レーザー加工面10Cの高さαは、垂直方向における成長基板10の厚みβと素子本体20の厚みβとの和の25%以上40%以下である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発光素子および発光素子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ウェハの表面にレーザースクライビングで形成された溝に沿ってウェハを割断することによって、チップ化された複数の発光素子を製造する手法が広く用いられている(例えば、特許文献1〜3参照)。この手法によれば、カッタースクライビングやダイシングにより溝を形成する場合に比べて、ウェハにチッピングやクラックが発生することを抑制できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004−39931号公報
【特許文献2】特開2005−244198号公報
【特許文献3】特開2007−318168号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、レーザースクライビングで溝を形成する手法では、レーザーの照射条件によっては発光素子の出力が低下してしまう場合がある。そのため、出力低下の原因究明と出力低下を抑制可能な条件を見出すことが望まれている。
【0005】
本発明は、上述の状況に鑑みてなされたものであり、レーザー照射による出力低下を抑制可能な発光素子および発光素子の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第1の態様に係る発光素子は、基板と、素子本体と、を備える。基板は、側面と、側面に連なる表面と、を有する。側面は、レーザー加工面と、割断によって形成される割断面と、を含む。素子本体は、表面上に形成される半導体層を含む。割断面には、基板を構成する材料の結晶格子面が露出している。表面に対して垂直方向におけるレーザー加工面の高さは、垂直方向における基板および素子本体それぞれの厚みの和の25%以上40%以下である。
【0007】
本発明の第2の態様に係る発光素子の製造方法は、ウェハの表面上に積層された半導体層を含む素子本体を形成する素子本体形成工程と、前記ウェハに前記表面側又は前記表面の反対側からレーザーを照射することによって、前記ウェハに溝を形成する溝形成工程と、前記溝に沿って前記ウェハを割断する割断工程と、を備える。前記溝形成工程において、前記表面に対して垂直方向における前記溝の深さを、前記垂直方向における前記ウェハおよび前記素子本体それぞれの厚みの和の25%以上40%以下にする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、レーザー照射による出力低下を抑制可能な発光素子および発光素子の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】実施形態に係る発光素子100の構成を示す平面図。
【図2】図1のII-II線における断面図。
【図3】図1の部分拡大図。
【図4】実施形態に係る発光素子100の製造方法を説明するための断面図。
【図5】実施形態に係る発光素子100の製造方法を説明するための断面図。
【図6】実施形態に係る発光素子100の製造方法を説明するための断面図。
【図7】実施形態に係る発光素子100の製造方法を説明するための断面図。
【図8】実施形態に係る発光素子100の製造方法を説明するための断面図。
【図9】実施形態に係る発光素子100の製造方法を説明するための断面図。
【図10】実施例1〜4および比較例1,2に係る発光素子の出力測定結果を示すグラフ。
【図11】実施例1に係る発光素子の側面の平面写真。
【図12】実施例2に係る発光素子の側面の平面写真。
【図13】実施例3に係る発光素子の側面の平面写真。
【図14】実施例4に係る発光素子の側面の平面写真。
【図15】比較例1に係る発光素子の側面の平面写真。
【図16】比較例2に係る発光素子の側面の平面写真。
【図17】実施例1に係る発光素子の平面写真。
【図18】実施例5に係る発光素子の平面写真。
【図19】比較例3に係る発光素子の平面写真。
【図20】実施例1に係る発光素子の平面写真。
【図21】実施例2に係る発光素子の平面写真。
【図22】実施例1に係る発光素子の溝の写真。
【図23】比較例4に係る発光素子の溝の写真。
【発明を実施するための形態】
【0010】
次に、図面を用いて、本発明の実施形態について説明する。以下の図面の記載において、同一又は類似の部分には、同一又は類似の符号を付している。ただし、図面は模式的なものであり、各寸法の比率等は現実のものとは異なっている場合がある。従って、具体的な寸法等は以下の説明を参酌して判断すべきものである。又、図面相互間においても互いの寸法の関係や比率が異なる部分が含まれていることは勿論である。
【0011】
(発光素子の構成)
発光素子の構成について、図面を参照しながら説明する。図1は、実施形態に係る発光素子100の構成を示す平面図である。図2は、図1のII-II線における断面図である。
発光素子100は、成長基板10と素子本体20とを備える。
【0012】
(1)成長基板10の構成
成長基板10は、図1および図2に示すように、素子本体20を支持する基板である。本実施形態において、成長基板10は、六方晶の窒化ガリウム(GaN)によって構成されるものとする。
【0013】
成長基板10は、表面10A、裏面10B、第1側面10Cおよび第2側面10Dを有する。
表面10Aは、成長基板10を構成する窒化ガリウムのc面である。表面10A上には、素子本体20が形成される。裏面10Bは、表面10Aの反対に設けられ、第1側面10Cと第2側面10Dとに連なる。
【0014】
第1側面10Cは、表面10Aに連なる第1レーザー加工面10Cと、裏面10Bに連なる第1割断面10Cと、を含む。第1レーザー加工面10Cは、ナノ秒レーザーを用いたレーザースクライビングによって形成されており、表面10Aに垂直な方向(以下、「垂直方向」という。)に対して傾斜している。第1割断面10Cは、割断によって形成されており、垂直方向にほぼ平行である。
【0015】
本実施形態において、第1レーザー加工面10Cの垂直方向における高さαは、発光素子100の垂直方向における厚みβの25%以上40%以下に設定されている。また、発光素子100の厚みβの25%以上30%未満であることが特に好ましい。なお、発光素子100の厚みβは、成長基板10の厚みβと素子本体20の厚みβとの和である。成長基板10の厚みβは、例えば100μm〜210μm程度であり、素子本体20の厚みβは、成長基板10の厚みβに比べて十分に小さい。
【0016】
第2側面10Dは、表面10Aに連なる第2レーザー加工面10Dと、裏面10Bに連なる第2割断面10Dと、を含む。第2側面10Dの構成は、上述の第1側面10Cと同様である。
【0017】
ここで、図3は、第1側面10Cの拡大平面図であり、第1レーザー加工面10Cと第1割断面10Cの構成を示している。
図3に示すように、第1レーザー加工面10Cでは、ナノ秒レーザーによるアブレーションで形成された微少な凹凸が不規則に連なっている。一方、第1割断面10Cでは、割断時に露出する複数の結晶格子面が規則的に並んでいる。各結晶格子面は、垂直方向に沿って縦長に形成されており、複数の結晶格子面は、垂直方向に直交する方向に並んでいる。
【0018】
(2)素子本体20の構成
素子本体20は、図1および図2に示すように、n型半導体層30、発光層40、p型半導体層50、透明電極60、p側パッド電極70、n側パッド電極80および保護層90を備える。
【0019】
n型半導体層30、発光層40およびp型半導体層50は、成長基板10の表面10A上に順次積層される。n型半導体層30、発光層40およびp型半導体層50は、例えばMOVPE法によって形成される窒化物半導体層(例えば、AlやGaを含む窒化物半導体や、InやGaを含むInXAlYGa1-X-YN(0≦X≦1、0≦Y≦1、X+Y≦1)など)である。
【0020】
透明電極60は、p型半導体層50上に積層される。透明電極60は、p型半導体層50の略全面(外縁を除く)を覆うように形成される。透明電極60は、例えばスパッタ法によって形成されるITO膜である。
【0021】
p側パッド電極70は、透明電極60上に形成される。n側パッド電極80は、n型半導体層30上に形成される。p側パッド電極70およびn側パッド電極80は、例えばスパッタによって積層されるTi/Rh/Pt/Au電極である。p側パッド電極70およびn側パッド電極80は、ワイヤボンディング用ワイヤやフリップチップ用バンプなどの外部電極(不図示)に接続される。
【0022】
p側パッド電極70は、図1に示すように、一対の補助電極71を有する。これによって、発光素子100に供給される電流が透明電極60全体に拡散されるので、発光素子100の輝度を向上することができる。
【0023】
保護層90は、素子本体20の最表面に形成される絶縁膜である。保護層90は、例えばSiO、TiO、Alなどによって構成される。
【0024】
(発光素子の製造方法)
発光素子の製造方法について、図面を参照しながら説明する。図4〜図9は、実施形態に係る発光素子100の製造方法を説明するための断面図である。
【0025】
まず、図4に示すように、六方晶の窒化ガリウムによって構成される成長基板10を準備する。成長基板10は、窒化ガリウムのc面である表面10Aを有する。
次に、図5に示すように、成長基板10の表面10A上に複数の素子本体20を形成する。この際、半導体層のパターニングによって複数の素子本体20を互いに離間させる。
【0026】
次に、図6に示すように、複数の素子本体20上にCVD法によって、耐リン酸性を有するコーティング膜21を形成する。本実施形態において、コーティング膜21は保護層90とする。続いて、表面10Aと反対の裏面を研磨することによって、成長基板10の厚みを100μm〜210μm程度に調整する。
【0027】
次に、図7に示すように、成長基板10に表面10A側からナノ秒レーザーNを照射することによって、各素子本体20の周囲に溝を形成する。具体的には、図示しないオリエンテーションフラットと平行にナノ秒レーザーNを移動させて成長基板10をアブレーションすることによって複数の第1溝12を形成する。続いて、オリエンテーションフラットと垂直にナノ秒レーザーNを移動させて成長基板10をアブレーションすることによって複数の第2溝13を形成する。この際、垂直方向における第1溝12および第2溝13それぞれの深さを、成長基板10および素子本体20の厚みの和(厚みβ+厚みβ)の25%以上40%以下とする。また、垂直方向における第1溝12および第2溝13それぞれの深さは、成長基板10および素子本体20の厚みの和の25%以上30%未満であることが特に好ましい。ナノ秒レーザーNの加工条件は、例えば、加工速度15mm/sec、レーザー出力1W、レーザー周波数100kHzとすればよいが、これに限られるものではない。
【0028】
次に、図8に示すように、浴槽200に貯留された130℃のリン酸溶液210中に成長基板10を浸漬する。ウェットエッチング処理時間は、適宜設定することができるが、5分〜15分程度に設定されていればよい。処理時間を過剰に長くすると、p側パッド電極70やn側パッド電極80が剥離するおそれがある。このようなウェットエッチング処理によって、第1溝12および第2溝13周辺に付着するデブリ(再凝固物)が除去される。この際、素子本体20は、コーティング膜21によって保護される。
【0029】
ここで、一般的なウェットエッチング処理では塩酸溶液がエッチャントとして用いられることが多いが、本実施形態ではリン酸溶液を用いている。これは、後述する比較結果から明らかなように、塩酸溶液を用いる場合に比べてリン酸溶液を用いた方が効果的にデブリを除去できるためである。
【0030】
次に、図9に示すように、裏面10B側から成長基板10にブレード220を当接させることによって、第1溝12および第2溝13に沿って成長基板10を順次割断する。この際、オリエンテーションフラットと平行に形成された第1溝12に沿って成長基板10を割断した後に、オリエンテーションフラットと垂直に形成された第2溝13に沿って成長基板10を割断する。なお、ブレード220の押し込み量は適宜設定できるが、60μm〜100μmであればよい。
以上によって、チップ化された複数の発光素子100が一括作製される。
【0031】
(作用および効果)
(1)本実施形態に係る発光素子100において、成長基板10(「基板」の一例)と素子本体20(「素子本体」の一例)とを備える。成長基板10は、第1レーザー加工面10Cと、第1割断面10Cと、を含む第1側面10Cを有する。第1割断面10Cには、成長基板10を構成する材料の結晶格子面が露出する。垂直方向における第1レーザー加工面10Cの高さαは、垂直方向における発光素子100の厚みβ(すなわち、成長基板10の厚みβと素子本体20の厚みβとの和)の25%以上40%以下である。
【0032】
ここで、本発明者らは、レーザースクライビングで溝を形成する手法を用いる場合に、発光素子の出力が低下してしまう原因について鋭意検討した結果、第1レーザー加工面10Cの面積が大きいときに出力が低下しやすいという知見を得た。具体的には、第1レーザー加工面10Cではレーザーアブレーションによって微少な凹凸が不規則に連続して形成されるので、第1レーザー加工面10Cから効率的に光を取り出すことができない。そのため、第1レーザー加工面10Cの面積を小さく、すなわち、第1レーザー加工面10Cの高さαを低くすることが好ましい。一方で、第1レーザー加工面10Cの高さαを低くすれば、成長基板10をスムーズに割断することが困難になってしまう。そのため、出力低下の抑制とスムーズな割断とを両立できるように、第1レーザー加工面10Cの高さαを設定する必要がある。
【0033】
本実施形態では、第1レーザー加工面10Cの高さαは、発光素子100の厚みβの25%以上である。高さαが厚みβの25%未満では、成長基板10にブレード220を当接して割断する際、未割断が発生し、歩留まりが低下する。また、第1レーザー加工面10Cの高さαは、発光素子100の厚みβの40%以下である。すなわち、レーザーアブレーションされた領域が、第1側面10C全体の40%以下に抑えられている。そのため、第1側面10Cのうち第1割断面10Cが占める割合を、第1レーザー加工面10Cが占める割合より大きくできる。その結果、第1割断面10Cに露出する結晶格子面から光を効率的に取り出せるので、発光素子100の出力低下を抑制することができる。さらに、上述の範囲であれば、成長基板10のスムーズな割断も達成することができる。
【0034】
(2)第1レーザー加工面10Cは、表面10Aに連なっており、ナノ秒レーザーNを用いたレーザースクライビングによって形成される。
従って、カッタースクライビングやダイシングにより溝を形成する場合に比べて、ウェハにチッピングやクラックが発生することを抑制できる。
【0035】
(3)本実施形態に係る発光素子100の製造方法は、成長基板10の表面10Aに第1溝12および第2溝13を形成する工程と、第1溝12および第2溝13に沿って成長基板10を順次割断する工程との間において、成長基板10にリン酸を用いたウェットエッチング処理を施す工程を備える。
【0036】
後述する比較結果から分かるように、リン酸溶液210を用いることよって、例えば塩酸を用いる場合に比べて、第1溝12および第2溝13周辺に付着しているデブリを効果的に除去することができる。
【0037】
(その他の実施形態)
本発明は上記の実施形態によって記載したが、この開示の一部をなす論述および図面はこの発明を限定するものであると理解すべきではない。この開示から当業者には様々な代替実施形態、実施例および運用技術が明らかとなろう。
【0038】
(A)上記実施形態では、成長基板10は、窒化ガリウムによって構成されることとしたが、これに限られるものではない。成長基板10を構成する材料としては、サファイア、スピネル、SiC、GaAsなどの公知の材料を用いることができる。
【0039】
(B)上記実施形態では、発光素子100の製造方法において、ナノ秒レーザーNを用いたレーザースクライビングによって第1溝12及び第2溝13を形成することとしたが、これに限られるものではない。第1溝12及び第2溝13は、フェムト秒レーザーなどの公知のレーザー装置によって形成されてもよい。なお、フェムト秒レーザーを用いた場合、第1溝12及び第2溝13は、成長基板10の内部に形成されるので、第1側面10Cおよび第2側面10Dにはレーザー加工面の上下に一対の割断面が形成される。この場合、1つの割断面は表面10Aに連なり、もう1つの割断面は裏面10Bに連なる。
【0040】
(C)上記実施形態では、発光素子100の製造方法において、成長基板10の表面10A側からナノ秒レーザーNを照射することとしたが、これに限られるものではない。ナノ秒レーザーNを成長基板10の表面10Aの反対側から照射することとしてもよい。この場合、第1溝12及び第2溝13は、裏面10Bに形成される。
【0041】
(D)上記実施形態において、素子本体20は、n型半導体層30、発光層40及びp型半導体層50によって構成されることとしたが、素子本体20の半導体構造はこれに限られるものではない。素子本体20の半導体構造としては、MIS接合、PIN接合やPN接合等を有するホモ構造、ヘテロ構造あるいはダブルへテロ構成のものを適用することができる。
【0042】
このように、本発明はここでは記載していない様々な実施形態等を含むことは勿論である。従って、本発明の技術的範囲は上記の説明から妥当な特許請求の範囲に係る発明特定事項によってのみ定められるものである。
【実施例】
【0043】
(実施例1)
以下のようにして、実施例1に係る発光素子を作製した。
まず、六方晶窒化ガリウム基板(以下、「基板」と略称する。)の表面上に半導体層をパターニングしながら積層することによって、複数の素子本体をマトリクス状に形成した。実施例1において、基板と素子本体との厚みの和は、200μmであった。
【0044】
次に、複数の素子本体上に耐リン酸性を有する材料をコーティングした。
次に、基板の表面にナノ秒レーザーを照射することによって、各素子本体の周囲に複数の溝をマトリクス状に形成した。実施例1において、各溝の深さは、50μm(すなわち、基板と素子本体との厚みの和の約25%)であった。
【0045】
次に、基板を130℃のリン酸溶液中に5分間浸漬させた。
次に、基板の裏面にブレードを当接させることによって、各溝に沿って基板を割断した。
【0046】
(実施例2)
実施例2に係る発光素子の製造工程では、基板の裏面にナノ秒レーザーを照射することによって、裏面に溝を形成した。これ以外の工程は、実施例1と同じとした。
【0047】
(実施例3)
実施例3に係る発光素子の製造工程では、各溝の深さを75μm(基板と素子本体との厚みの和の約40%)とした。これ以外の工程は、実施例1と同じとした。
【0048】
(実施例4)
実施例4に係る発光素子の製造工程では、各溝の深さを75μmとするとともに、基板の裏面にナノ秒レーザーを照射することによって裏面に溝を形成した。これ以外の工程は、実施例1と同じとした。
【0049】
(実施例5)
実施例5に係る発光素子の製造工程では、リン酸溶液中に10分間浸漬させた。これ以外の工程は、実施例1と同じとした。
【0050】
(比較例1)
比較例1に係る発光素子の製造工程では、各溝の深さを100μmとした。これ以外の工程は、実施例1と同じとした。
【0051】
(比較例2)
比較例2に係る発光素子の製造工程では、各溝の深さを100μmとするとともに、基板の裏面にナノ秒レーザーを照射することによって裏面に溝を形成した。これ以外の工程は、実施例1と同じとした。
【0052】
(比較例3)
比較例3に係る発光素子の製造工程では、リン酸溶液中に15分間以上浸漬させた。これ以外の工程は、実施例1と同じとした。
【0053】
(比較例4)
比較例4に係る発光素子の製造工程では、エッチャントとして塩酸溶液を用いた。これ以外の工程は、実施例1と同じとした。
【0054】
(溝深さと出力の関係)
実施例1〜4および比較例1,2に係る発光素子の出力を測定した。測定結果を図10のグラフに示す。また、実施例1〜4に係る発光素子の側面の平面写真を図11〜図14に示し、比較例1,2に係る発光素子の側面の平面写真を図15,16に示す。
【0055】
図10に示すように、実施例1〜4に係る発光素子では、比較例1,2に係る発光素子に比べて高い出力を得ることができた。これは、図11〜図14に示すように、溝の深さを50μm〜75μm(基板と素子本体との厚みの和の約25%〜約40%)とすることによって、光量損失の大きいレーザー加工面の面積を小さくできたためである。一方、図15,16に示すように、溝の深さを100μmまで深くしたことによって多くのデブリがレーザー加工面に残存していた。そのため、レーザー加工面における光量損失が大きくなり、極めて大きな出力の低下が発生した。
【0056】
以上より、レーザー加工面の高さを基板と素子本体との厚みの和の約25%〜約40%とすることによって、出力の低下を抑制できることが確認された。
【0057】
(エッチング時間と発光素子の損傷度合いの関係)
実施例1、実施例5および比較例3に係る発光素子の損傷度合いとの関係を観測した。発光素子の平面写真を図17〜19に示す。
【0058】
図17及び図18に示すように、実施例1および実施例5に係る発光素子では良好な状態が保たれており、損傷は確認されなかった。一方、図19に示すように、比較例3に係る発光素子では、p側パッド電極の剥離が確認された。これは、過剰なエッチングによってp側パッド電極が腐食されたためである。
【0059】
以上より、リン酸溶液によるエッチング時間は5分〜10分が適切であることが確認された。なお、比較例3に係る発光素子では、実施例1及び実施例5と同等の出力を得ることができた。
【0060】
(発光素子の外観)
実施例1および実施例2に係る発光素子の外観を観察した。実施例1および実施例2に係る発光素子の平面写真を図20,21に示す。
【0061】
図20に示すように、実施例1に係る発光素子の外観は良好であった。一方、図21に示すように、実施例2に係る発光素子では、表面外周にチッピングやクラックが視認された。これは、実施例2の製造工程において、基板の裏面にナノ秒レーザーを照射したことによって、基板の表面での加工精度が低下したためと考えられる。
【0062】
以上より、表面にナノ秒レーザーを照射することが好ましいことが確認された。なお、実施例2に係る発光素子では、実施例1と同等の出力を得ることができた。
【0063】
(デブリの除去)
実施例1および比較例4に係る発光素子の溝周辺を観察した。実施例1および比較例4に係る発光素子の溝周辺の拡大写真を図22,23に示す。
【0064】
図22に示すように、実施例1に係る発光素子の溝周辺ではデブリが極めて効果的に除去されていることが確認された。一方、図23に示すように、比較例4に係る発光素子の溝周辺では多くのデブリが残存していることが確認された。これは、実施例1ではエッチャントとしてリン酸溶液を用いたのに対して、比較例4ではエッチャントとして塩酸溶液を用いたためである。
【0065】
以上より、リン酸溶液によってエッチングすることによって効果的にデブリを除去できることが確認された。
【符号の説明】
【0066】
10…成長基板
10A…表面
10B…裏面
10C…第1側面
10C…第1レーザー加工面
10C…第1割断面
10D…第2側面
20…素子本体
30…n型半導体層
40…発光層
50…p型半導体層
60…透明電極
70…p側パッド電極
71…補助電極
80…n側パッド電極
90…保護層
100…発光素子
12…第1溝
13…第2溝
21…コーティング膜
200…浴槽
210…リン酸溶液
220…ブレード

【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザー加工面と、割断によって形成される割断面と、を含む側面と、前記側面に連なる表面と、を有する基板と、
前記表面上に形成される半導体層を含む素子本体と、
を備え、
前記割断面には、前記基板を構成する材料の結晶格子面が露出しており、
前記表面に対して垂直方向における前記レーザー加工面の高さは、前記垂直方向における前記基板および前記素子本体それぞれの厚みの和の25%以上40%以下である、
発光素子。
【請求項2】
前記レーザー加工面は、前記表面に連なっており、
前記レーザー加工面は、ナノ秒レーザーを用いたレーザースクライビングによって形成されている、
請求項1に記載の発光素子。
【請求項3】
前記基板は、六方晶の窒化ガリウムによって構成されている、
請求項2に記載の発光素子。
【請求項4】
前記レーザー加工面の高さは、前記和の25%以上30%未満である、
請求項1乃至3のいずれかに記載の発光素子。
【請求項5】
ウェハの表面上に積層された半導体層を含む素子本体を形成する素子本体形成工程と、
前記ウェハに前記表面側又は前記表面の反対側からレーザーを照射することによって、前記ウェハに溝を形成する溝形成工程と、
前記溝に沿って前記ウェハを割断する割断工程と、
を備え、
前記溝形成工程において、前記表面に対して垂直方向における前記溝の深さを、前記垂直方向における前記ウェハおよび前記素子本体それぞれの厚みの和の25%以上40%以下にする、
発光素子の製造方法。
【請求項6】
前記溝形成工程において、前記表面にナノ秒レーザーを照射することによって、前記表面に前記溝を形成する、
請求項5に記載の発光素子の製造方法。
【請求項7】
前記ウェハは、六方晶の窒化ガリウムによって構成されている、
請求項6に記載の発光素子の製造方法。
【請求項8】
前記溝形成工程において、前記溝の前記深さを、前記和の25%以上30%未満にする、
請求項5乃至7のいずれかに記載の発光素子の製造方法。
【請求項9】
前記溝形成工程と前記割断工程の間において、前記ウェハにリン酸を用いたウェットエッチング処理を施す工程をさらに備える、
請求項5乃至8のいずれかに記載の発光素子の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate

【図16】
image rotate

【図17】
image rotate

【図18】
image rotate

【図19】
image rotate

【図20】
image rotate

【図21】
image rotate

【図22】
image rotate

【図23】
image rotate


【公開番号】特開2012−235012(P2012−235012A)
【公開日】平成24年11月29日(2012.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−103602(P2011−103602)
【出願日】平成23年5月6日(2011.5.6)
【出願人】(000226057)日亜化学工業株式会社 (993)
【Fターム(参考)】