説明

発泡樹脂成形品の製造方法および発泡成形装置

【課題】 発泡樹脂成形品の軽量化や寸法精度の向上を図るとともに、外観不良やバリの発生を防ぐ。
【解決手段】 予備作業として非発泡成形を行う。金型を加熱しながら、発泡剤が混入されていない樹脂をキャビティ3内に射出し、この時の樹脂圧力を測定する。樹脂がキャビティ3内に充填されたら、金型を急冷し、両金型1,2を開いて成形品を取り出す。この非発泡成形品の外観が良好であれば、その工程における樹脂圧力を標準樹脂圧力とする。そして、金型の型締め力を、標準樹脂圧力×キャビティ3の投影面積の0.5〜1.0倍に設定し、発泡成形工程を行う。すなわち、このように設定した型締め力で金型を閉め、金型を加熱しながら、発泡剤が混入された樹脂をキャビティ3内に射出する。樹脂がキャビティ3内に充填されたら、金型を急冷し、両金型1,2を開いて成形品を取り出す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶融状態の樹脂をキャビティ内に射出し、キャビティ内で樹脂を発泡させて発泡樹脂成形品を製造する方法およびそのための発泡成形装置に関する。
【背景技術】
【0002】
熱可塑性樹脂の射出成形において、転写不良やウエルドマークやフローマークなどの外観不良が生じるのを防ぐために、溶融樹脂を金型のキャビティ内に充填する際に金型温度を高くすると有効であることが知られている。すなわち、溶融樹脂をキャビティ内に充填する際に金型温度が高くなっていると、樹脂の流動性が良いのでキャビティ形状の樹脂への転写が良好になり、ウエルドマークやフローマークが目立たなくなる。そこで、溶融樹脂をキャビティ内に充填する間だけキャビティ表面を加熱し、充填後に冷却して樹脂を固化させてから成形品を取り出す、いわゆるヒートサイクル成形法が提案されている。
【0003】
本出願人は、先に特許文献1によって、このヒートサイクル成形法およびそれに用いられる金型装置等を開示している。特許文献1に開示されている方法は、キャビティ表面の近傍に設けられた流路に加熱媒体(例えば水蒸気)と冷却媒体(例えば水)を交互に繰り返し流入するものであり、具体的には、溶融樹脂をキャビティ内に射出させる前から流路に加熱媒体を流入して高温にしておき、所定の量の樹脂のキャビティ内への充填が完了したら流路に冷却媒体を流入してキャビティの温度を低下させる方法である。このヒートサイクル成形法によると、成形品の外観が良好になり表面が平滑で高光沢になる。
【0004】
一方、樹脂の収縮に伴う成形品の窪み(一般に「ひけ」と呼ばれる)の防止や、成形品の軽量化や寸法精度の向上を図るために、樹脂に発泡剤を注入して射出してキャビティ内で樹脂を発泡させる、いわゆる発泡成形法が知られている。この発泡成形法において、気泡サイズを小さくするとともに気泡密度を高くするように、樹脂に注入する発泡剤として超臨界流体を使用して微細な発泡を生じさせる技術が特許文献2,3に記載されている。
【特許文献1】特開2001−018229号公報
【特許文献2】特許第2625576号公報
【特許文献3】特開平9−277298号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ヒートサイクル成形法によって成形品を製造する場合には、成形品の周囲にバリが生じ易いという傾向がある。これは、樹脂の充填時にキャビティ表面温度を高くしている(例えば樹脂充填時の温度は120℃程度)ために、そのキャビティ内を流動する樹脂が冷えにくく粘度が低くなっており、パーティングラインに到達した樹脂が固定側金型と可動側金型の接触面間に進入し易いからである。このように、ヒートサイクル成形法では、通常の成形法に比べてバリが生じ易い。
【0006】
また、発泡成形法によると、ひけの防止や成形品の軽量化や寸法精度の向上という効果を発揮することができるが、通常の成形法と同様に転写不良やウエルドマークやフローマークなどの外観不良が生じるおそれがある。
【0007】
そこで本発明の目的は、転写不良やウエルドマークやフローマークなどの外観不良を防ぐとともに、ひけの防止や成形品の軽量化や寸法精度の向上が図れ、しかもバリの発生を抑えられる、発泡樹脂成形品の製造方法および発泡成形装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、可動側金型と固定側金型を型締めしてキャビティを形成し、発泡剤が注入された溶融状態の樹脂をキャビティ内に射出してキャビティ内で発泡させる、発泡樹脂成形品の製造方法において、可動側金型と固定側金型の少なくとも一方のキャビティ表面を交互に加熱および冷却し、可動側金型および固定側金型の型締め力を、発泡剤を含まない状態の樹脂をキャビティ内に射出した時のキャビティ内の樹脂圧力と、キャビティの投影面積との積の0.5〜1.0倍に設定することを特徴とする。
【0009】
この方法によると、キャビティ表面を交互に加熱および冷却することによって転写不良やウエルドマークやフローマークなどの外観不良を防ぐことができ、樹脂をキャビティ内で発泡させることによってひけの防止や成形品の軽量化や寸法精度の向上が図れ、さらに、型締め力が適切に調整されているためバリの発生を抑えられる。
【0010】
発泡剤を含まない状態の樹脂をキャビティ内に射出し、その際のキャビティ内の樹脂圧力を測定する工程を含んでいる場合には、適切な型締め力の設定が容易に行える。
【0011】
本発明の発泡成形装置は、型締め時にキャビティを形成する可動側金型および固定側金型と、可動側金型と固定側金型の少なくとも一方のキャビティ表面の近傍に設けられ、加熱媒体と冷却媒体が交互に流入される流路と、発泡剤が注入された溶融状態の樹脂をキャビティ内に射出可能な射出装置と、発泡剤を含まない状態の樹脂をキャビティ内に射出した時のキャビティ内の樹脂圧力とキャビティの投影面積との積の0.5〜1.0倍に設定された型締め力にて、可動側金型および固定側金型を型締めさせる開閉制御装置とを有するものである。この装置によると、前記した良好な外観の発泡樹脂成形品を製造する方法が容易に行える。
【0012】
さらに、発泡剤を含まない状態の樹脂をキャビティ内に射出した際のキャビティ内の樹脂圧力を測定するための圧力センサーが設けられていることが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明によると、型締め力が適切に調整されているためにバリの発生が抑えられ、しかも、転写不良やウエルドマークやフローマークなどの外観不良を防ぐという、キャビティ表面を交互に加熱および冷却することによる効果と、ひけの防止や成形品の軽量化や寸法精度の向上を図るという発泡成形の効果をいずれも損なうことがない。その結果、バリが発生せず、転写が良好でウエルドマークやフローマークなどのない外観の優れた発泡樹脂成形品が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。
【0015】
図1は、本発明の発泡樹脂成形品の製造方法に用いられる発泡成形装置の構成例を示している。この発泡成形装置は、固定側金型1と、開閉制御装置5によって固定側金型1に対して接近したり遠ざかったりするように移動できる可動側金型2を有している。固定側金型1と可動側金型2が接合した状態の時(型締め時)に、両金型1,2の間にキャビティ3が形成される。キャビティ3は、所望の製品形状に対応する形状に形成されている。金型1,2には、キャビティ内壁面1a,2aの近傍に、複数の流路6が設けられている。この流路6は弁9を介して加熱媒体供給源7と冷却媒体供給源8に接続され、金型のキャビティ内壁面1a,2aを加熱するための加熱媒体(例えば水蒸気など)、または冷却するための冷却媒体(例えば水など)が選択的に流される。
【0016】
固定側金型1のゲート4にはキャビティ3内に成形用樹脂を射出するための射出装置10が接続されている。模式的に図示しているが、射出装置10は成形用樹脂(熱可塑性樹脂)を供給する樹脂供給部11と、発泡剤(例えば超臨界流体)を供給する発泡剤供給部12を有している。本実施形態では、発泡剤供給部12は、例えば炭酸ガスや窒素ガスなどの気体を加圧して超臨界状態にして、樹脂供給部11から供給される溶融状態の樹脂中に溶解させる。従って超臨界流体が溶解した樹脂が、射出装置10からゲート4を介してキャビティ3内に射出される。
【0017】
図1に示す発泡成形装置を用いた成形方法について、図2のフローチャートを参照して説明する。
【0018】
まず、後述する所定の型締め力で金型を閉め、可動側金型2と固定側金型1を密着させ、両金型1,2の間にキャビティ3を形成する(ステップ21)。後述する型締め力が、良好な成形品を得るための重要な因子となる。
【0019】
次に、加熱媒体供給源7から弁9を介して流路6に加熱媒体として水蒸気を流し、金型を加熱する(ステップ22)。そして、図示しない温度センサーによって、キャビティ内壁面1a,2aが所定の温度になったことが確認(ステップ23)されたら、発泡剤として超臨界流体が混入された樹脂を、射出装置10からゲート4を介してキャビティ3内に射出する(ステップ24)。
【0020】
そして、超臨界流体が混入された樹脂をキャビティ3内に所定量だけ射出し、所定量の樹脂がキャビティ3内に充填されたことが確認(ステップ25)されたら、所定量の射出が完了したことを知らせる信号が射出装置10から送出される(ステップ26)。この信号を検知すると、弁9が作動して、加熱媒体供給源7から流路6への水蒸気の供給を停止し、冷却媒体供給源8から流路6への冷却媒体(水)の供給を開始する(ステップ27)。これによって金型の流路6の近傍、すなわちキャビティ内壁面1a,2aの付近が急激に冷却される。樹脂が冷却固化した後、両金型1,2を開いて成形品を取り出す(ステップ28)。
【0021】
この一連の発泡成形工程(ステップ21〜28)によって、外観が良好でバリの発生が抑えられた発泡樹脂成形品を得るためには金型の型締め力が重要であり、適切な型締め力を予め決定して設定しておく必要がある。そこで、本実施形態では、以上説明した発泡成形工程(ステップ21〜28)を行う前に、型締め力を決定するための予備作業を行う。
【0022】
この予備作業では非発泡の成形工程を行う。まず、金型を閉めて可動側金型2と固定側金型1の間にキャビティ3を形成する(ステップ31)。次に、加熱媒体供給源7から弁9を介して流路6に水蒸気を流して金型を加熱し(ステップ32)、図示しない温度センサーによって、キャビティ内壁面1a,2aが所定の温度になったことが確認(ステップ33)されたら、発泡剤が混入されていない樹脂を射出装置10からゲート4を介してキャビティ3内に射出する(ステップ34)。この時、図示しない圧力センサー、例えばキャビティ3内の中央部に取り付けられた歪ゲージなどによって樹脂圧力(樹脂がキャビティ表面に加える単位面積当たりの力)を測定しつつ、樹脂をキャビティ3内に充填させる(ステップ35)。所定量の樹脂がキャビティ3内に充填されたことが確認(ステップ36)されたら、射出完了の信号が射出装置10から送出され(ステップ37)、弁9が作動して加熱媒体供給源7から流路6への水蒸気の供給を停止し、冷却媒体供給源8から流路6への冷却媒体(水)の供給を開始する(ステップ38)。キャビティ内壁面1a,2aの付近が急激に冷却されて樹脂が冷却固化したら、両金型1,2を開いて成形品を取り出す(ステップ39)。
【0023】
このようにして成形した非発泡成形品の外観を観察する(ステップ40)。この非発泡成形品の外観が良好であれば(ステップ41)、その非発泡成形工程における樹脂圧力を標準樹脂圧力とする(ステップ42)。そして、後に行う発泡成形工程(ステップ21〜28)における型締め力を、標準樹脂圧力をキャビティ3の投影面積(パーティング面に平行な面への投影面積)に掛け合わせた積の0.5〜1.0倍、好ましくは0.7〜1.0倍の範囲に設定する(ステップ43)。
【0024】
また、得られた非発泡成形品の外観が不良であれば(ステップ41)、射出装置10による樹脂の射出力を変えて(ステップ44)、樹脂圧力を変えながら外観の良好な非発泡成形品が得られるまで試行錯誤的に非発泡成形(ステップ31〜40)を繰り返す。そして、前記したように、外観の良好な非発泡成形品が得られた時に、その非発泡成形工程における樹脂圧力を標準樹脂圧力として(ステップ42)、後に行う発泡成形工程(ステップ21〜28)における型締め力を設定する(ステップ43)。
【0025】
非発泡成形工程(ステップ31〜39)は、樹脂に発泡剤を注入していないことと、射出力を試行錯誤的に変えることを除いては、実際に行おうとする発泡成形工程(ステップ21〜28)と同一の条件で行うのが望ましい。なお、非発泡工程における樹脂圧力は、前記したようにキャビティ3内の中央部においてのみ圧力を測定することによって求めてもよいが、キャビティ3内の複数個所に配置した圧力センサーによる測定結果を平均することによって求めてもよい。
【0026】
以上説明した通り、本実施形態では、予備作業工程(ステップ31〜44)によって、非発泡成形において良好な成形品を製造するための標準樹脂圧力を求めてから、開閉制御装置による固定側金型1と可動側金型2の型締め力を、標準樹脂圧力とキャビティ3の投影面積の投影面積との積の0.5〜1.0倍、好ましくは0.7〜1.0倍の範囲に設定する。そして、この予備作業工程(ステップ31〜44)にて設定した所定の型締め力を用いて、発泡成形工程(ステップ21〜28)を行うことによって、転写不良、ウエルドマーク、バリ、ガス状痕などの外観不良がなく、しかも軽量で寸法精度の良好な発泡樹脂成形品を製造することができる。その根拠について以下に説明する。
【0027】
従来から、成形品の軽量化や寸法精度の向上が図れる成形方法として発泡成形法が行われているが、発泡成形においても通常の成形と同様に、溶融樹脂をキャビティ内に充填する際の金型温度が低いと転写不良やウエルドマークなどの外観不良が生じるおそれがある。そこで、このような外観不良を防ぐためには、発泡成形法にヒートサイクル成形法を応用してキャビティ表面を交互に加熱および冷却することが考えられる。しかし、前記した通り、ヒートサイクル成形法によるとバリの発生という問題が生じる。バリの発生を防止する方法としては、粘度が比較的低い樹脂であっても可動側金型と固定側金型の接触面間に進入しないように、両金型の密着性を高めるために型締め力を強くすることが考えられる。
【0028】
通常、非発泡成形においてはガスの排出をあまり考慮する必要がないため、型締め力を強めにしてバリを防ぐのが一般的であり、型締め力は、樹脂圧力をキャビティの投影面積(パーティング面に平行な面への投影面積)に掛け合わせた積の1.2倍程度に設定される。
【0029】
しかし、発泡成形の場合には、型締め力が強過ぎると発泡時のガスがキャビティ外に円滑に排出できず、成形品にガス状痕と言われる発泡ガスの流れ模様が生じる原因となる。そこで、型締め力を、粘度が低い樹脂であっても可動側金型と固定側金型の接触面間に進入し難い程度に強く、かつ発泡時のガスがキャビティ外に円滑に排出できてガス状痕が残らない程度に弱く設定することが望まれる。
【0030】
以上説明した通り、良好な外観の発泡樹脂成形品を得るためには、型締め力が重要な因子である。そして、本出願人が、後述する実施例および比較例等の実験および検討を行った結果、型締め力を、従来の非発泡成形よりも弱く、樹脂圧力をキャビティの投影面積に掛け合わせた積の0.5〜1.0倍程度に設定することによって、バリもガス状痕も発生しない良好な発泡樹脂成形品が得られることが判った。型締め力が樹脂圧力とキャビティの投影面積の積の0.5倍よりも小さいとバリの発生が起こり易くなり、1.0倍より大きいと発泡樹脂成形品の表面にガス状痕が生じて、外観が著しく悪い成形品しか得られなくなる。そして、本実施形態では、可動側金型と固定側金型の少なくとも一方のキャビティ表面を交互に加熱および冷却しながら成形する、いわゆるヒートサイクル成形法を採用しているため、転写不良やウエルドマークやフローマークなどの外観不良が発生することが防げる。
【0031】
このように本実施形態では、発泡剤を注入した樹脂をキャビティ内で発泡させ、特定の条件下で成形することにより、外観に優れバリが発生していない良好な発泡樹脂成形品を製造することができる。
【0032】
本発明の成形用樹脂として使用される熱可塑性樹脂は特に限定されないが、例えば、スチレン系樹脂、アクリロニトリル−スチレン−ブタジエン系樹脂、変性ポリフェニレンオキサイド、ポリカーボネート、ポリスルフォン等の非晶質樹脂や、ポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、ポリブテン、ポリオキシメチレン、ポリアミド(6,66など)、テレフタル酸エステル系樹脂、ポリフェニレンサルファイド等の結晶性樹脂およびこれらのアロイ、フィラー配合物(タルク等の粒状フィラー、ガラス繊維などの繊維状物)などが用いられる。
【実施例】
【0033】
次に、本発明の具体的な実施例と、それらと対比させるための比較例について説明する。
【0034】
[実施例1]
本実施例では、発泡剤供給部12として昭和炭酸株式会社の超臨界流体発生装置であるSCF10(商品名)を用い、射出装置10として株式会社日本製鋼所製の射出成形機J450EL−Mucell(商品名)を用い、金型装置として、加熱媒体として水蒸気を冷却媒体として水をそれぞれ用いて急加熱と急冷却ができる構造の、特開平11−348041号に開示されている金型装置を用いた。成形用樹脂としてポリカーボネート/ABSのアロイ(出光石油化学株式会社製タフロンAC1070:商品名)を使用した。
【0035】
まず、発泡成形に先立つ予備作業として、金型装置の流路6に水蒸気を流入させてキャビティ内壁面1a,2aの温度を120℃に保ち、280℃に加熱した成形用樹脂をキャビティ3内に射出した。そして、所定量の成形用樹脂の射出充填完了と同時に流路6中の水蒸気を排出して、代わりに25℃の冷却水を流路6内に流入して金型を冷却し、樹脂が固化したら型開きして非発泡成形品を取り出した。こうして、所望の発泡樹脂成形品と同一形状の平板状の非発泡成形品(厚さ;3mm、縦;210mm、横;290mm)を製造した。この時、キャビティ3の中央部に歪測定用のゲージを取り付けておき、射出時のキャビティ3内の樹脂圧力を測定した。そして、成形用樹脂を射出して良好な非発泡成形品が得られた時の樹脂圧力(これを「標準樹脂圧力」と呼ぶ)を求めた。なお、後述する各実施例(ただし実施例4を除く)および各比較例においても、ここで求めた標準樹脂圧力を利用して型締め力の設定を行うようにした。
【0036】
それから、予備作業工程と同様に金型装置の流路6に水蒸気を流入させてキャビティ内壁面1a,2aの温度を120℃に保ち、280℃に加熱した成形用樹脂に超臨界状態の窒素を0.3%注入して、金型のキャビティ3内に射出した。そして所定量の成形樹脂の射出充填完了と同時に流路6中の水蒸気を排出して、代わりに25℃の冷却水を流路6内に流入して金型を冷却し、樹脂が固化したら型開きして発泡樹脂成形品を取り出した。こうして、予備作業工程と同じ形状の平板状の発泡樹脂成形品(厚さ;3mm、縦;210mm、横;290mm)を製造した。この時、金型の型締め力は、標準樹脂圧力×キャビティ3の投影面積(パーティング面に平行な面への投影面積)の1.0倍に設定した。具体的には、本実施例では標準樹脂圧力が40MPa、投影面積が609cm2=0.0609m2であったため、型締め力を40×0.0609×1.0=2.436MNに設定した。こうして得られた発泡樹脂成形品は、バリが発生せず、表面状態が平滑でガス状痕のない良好なものであった。
【0037】
[実施例2]
本実施例においては、発泡成形時の金型装置の型締め力を、標準樹脂圧力×キャビティ3の投影面積の0.5倍、すなわち40×0.0609×0.5=1.218MNに設定した。それ以外は全て実施例1と同じ条件で発泡成形を行った。その結果、バリが発生せず表面外観が良好な発泡樹脂成形品が得られた。実施例1と比べると多少外観が劣っていたものの、商品として十分に使用できるものであった。
【0038】
[比較例1]
本比較例においては、発泡成形時の金型装置の型締め力を、標準樹脂圧力×キャビティ3の投影面積の1.2倍、すなわち40×0.0609×1.2=2.9232MNに設定した。それ以外は全て実施例1と同じ条件で発泡成形を行った。その結果得られた発泡樹脂成形品は、バリは生じていなかったが、外観表面にガス状痕が見られ、商品価値のないものであった。
【0039】
[比較例2]
本比較例においては、発泡成形時の金型装置の型締め力を、標準樹脂圧力×キャビティ3の投影面積の0.4倍、すなわち40×0.0609×0.4=0.9744MNに設定した。それ以外は全て実施例1と同じ条件で発泡成形を行った。その結果得られた発泡樹脂成形品は、バリが発生して商品価値のないものであった。
【0040】
[実施例3]
本実施例においては、成形用樹脂に、発泡剤として超臨界状態の窒素の代わりに超臨界状態の二酸化炭素を0.7%注入して、キャビティ3内に射出した。それ以外は全て実施例1と同じ条件であり、発泡成形時の金型装置の型締め力を、標準樹脂圧力×キャビティ3の投影面積の1.0倍、すなわち40×0.0609×1.0=2.436MNに設定して発泡成形を行った。その結果、バリが発生せず、表面光沢に優れ外観が良好な発泡樹脂成形品が得られた。
【0041】
[実施例4]
本実施例においては、成形用樹脂として、ガラス繊維を20%含有したガラス繊維強化タイプのポリカーボネート(出光石油化学株式会社製GZK3200:商品名)を使用した。本実施形態において、実施例1と同様な予備作業工程(非発泡成形工程)を行ったところ、標準樹脂圧力は50MPaであった。そこで、このガラス繊維強化タイプのポリカーボネートに、発泡剤として超臨界状態の窒素を0.3%注入し、300℃の樹脂温度でキャビティ3内に射出した。それ以外は全て実施例1と同じ条件であり、発泡成形時の金型装置の型締め力を、標準樹脂圧力×キャビティ3の投影面積の1.0倍、すなわち50×0.0609×1.0=3.045MNに設定して発泡成形を行った。その結果、表面にガラス繊維が露出せず、光沢に優れ、バリも発生しない良好な発泡樹脂成形品が得られた。
【0042】
前記した各実施例および比較例を考察すると、金型装置の型締め力が、標準樹脂圧力とキャビティの投影面積の積の0.4倍の場合にはバリが発生し、1.2倍の場合にはガス状痕が生じ、良好な成形品が得られなかった。これに対し、金型装置の型締め力を、標準樹脂圧力とキャビティの投影面積の積の0.5〜1.0倍の範囲に設定した場合には、バリもガス状痕も生じなかった。特に、0.7〜1.0倍の範囲である場合には、バリの発生防止の信頼性が高く好ましいものであった。
【0043】
なお、比較例1における型締め力は、通常の非発泡成形における型締め力と概ね同じである。すなわち、非発泡成形ではこの型締め力で成形を行って、バリのない良好な非発泡成形品を得ることができる。これは、樹脂圧力を上回る型締め力で両金型をしっかりと密着させて、低粘度の樹脂であっても両金型の接触面間に進入しないようにするからである。ところが、発泡剤(例えば窒素や二酸化炭素などの超臨界流体など)を成形用樹脂に注入して、比較例1と同じ型締め力で発泡成形を行おうとすると、キャビティからの発泡ガスの排出が円滑に行えず、その結果、発泡樹脂成形品の表面にガス状痕が残り、外観が著しく悪くなる。このことは、発泡成形と非発泡成形では型締め力を変えることが望ましいことを示している。
【0044】
本出願人は、転写不良やウエルドマーク等の外観不良を防ぐために効果的なヒートサイクル成形法と、成形品の寸法精度の向上や軽量化を図れる発泡成形法とを組み合わせた新規な成形方法を実施する際に、従来の発泡成形と同じ型締め力で成形を行うと、前記したガス状痕などの外観不良が生じることに着目した。すなわち、本出願人は、従来のヒートサイクル成形法と発泡成形法を単純に組み合わせるだけでは、転写不良やウエルドマーク等の外観不良やバリの発生は防げるものの、ガス状痕などの別種の外観不良が発生し、結果的に、外観の不良な発泡樹脂成形品が製造されてしまい、せっかくヒートサイクル成形法を採用しているにもかかわらずその外観向上の効果が失われる可能性が高いことに気づいた。そして、ヒートサイクル成形法と発泡成形法のそれぞれの利点を残しつつ、ガス状痕などの別種の外観不良を発生させないようにするためには、金型装置の型締め力が重要な因子であることを初めて見出した。本発明は、ヒートサイクル成形法と発泡成形法を組み合わせた新規な成形方法を提案するのに加えて、その新規な成形方法においてバリを防ぎつつガス状痕などの外観不良を発生させないためには、金型装置の型締め力を最適化するのが非常に有効であることを初めて見出し、種々の実施例や検討に基づいて、従来とは異なる型締め力の適切な範囲を提案するものである。なお、発泡成形の場合には、キャビティ内に射出される樹脂自体の量は減少するため、多少型締め力が小さくてもバリが発生し難い傾向があるという特徴を利用している。
【0045】
前記した各実施例および比較例に関しては、実施例1において予備作業を行って標準樹脂圧力を求めてから、各実施例(ただし実施例4を除く)および各比較例においても、その標準樹脂圧力に基づいて型締め力を決定している。このように、標準樹脂圧力は一旦求めておけば、何度も繰り返し求める必要はない。成形品の大きさや形状が似ていれば標準樹脂圧力はほぼ同じであるので、多少異なる成形品を製造する場合にも標準樹脂圧力を求めるための予備作業工程をその都度行う必要がないこともある。さらに、過去に非発泡成形を行ったデータが存在する場合や、金型装置の仕様として非発泡成形時の樹脂圧力がある程度規定されている場合や、作業者が経験的に非発泡成形時の適切な樹脂圧力を推測できる場合には、標準樹脂圧力を求めるための予備作業工程は不要である。特に、予備作業工程を行わない場合には、型締め力を標準樹脂圧力×キャビティ3の投影面積の0.7〜1.0倍に設定することによって、より確実に、外観が良好でバリのない発泡樹脂成形品を製造することができる。
【0046】
なお、射出開始時点から成形完了時点までの間、常に、前記したように設定された型締め力で型締めを行ってもよいが、バリの要因となる樹脂の両金型の接触面間への進入のおそれがある期間だけ、前記した型締め力で型締めしさえすれば、それ以外の期間は型締め力が多少異なっていても構わない。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】本発明の発泡成形装置の一例を示す概略図である。
【図2】本発明の発泡樹脂成形品の製造方法の発泡成形工程のフローチャートである。
【図3】図2に示す発泡成形工程の前に行われる予備作業工程のフローチャートである。
【符号の説明】
【0048】
1 固定側金型
2 可動側金型
1a,2a キャビティ内壁面
3 キャビティ
4 ゲート
5 開閉制御装置
6 流路
7 加熱媒体供給源
8 冷却媒体供給源
9 弁
10 射出装置(射出成形機)
11 樹脂供給部
12 発泡剤供給部
21〜28 発泡成形工程のステップ
31〜39 予備作業工程のステップ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
可動側金型と固定側金型を型締めしてキャビティを形成し、発泡剤が注入された溶融状態の樹脂を前記キャビティ内に射出して該キャビティ内で発泡させる、発泡樹脂成形品の製造方法において、
前記可動側金型と前記固定側金型の少なくとも一方のキャビティ表面を交互に加熱および冷却し、
前記可動側金型および前記固定側金型の型締め力を、前記発泡剤を含まない状態の前記樹脂を前記キャビティ内に射出した時の前記キャビティ内の樹脂圧力と、前記キャビティの投影面積との積の0.5〜1.0倍に設定することを特徴とする、発泡樹脂成形品の製造方法。
【請求項2】
前記発泡剤を含まない状態の前記樹脂を前記キャビティ内に射出し、その際の前記キャビティ内の樹脂圧力を測定する工程を含む、請求項1に記載の発泡樹脂成形品の製造方法。
【請求項3】
型締め時にキャビティを形成する可動側金型および固定側金型と、
前記可動側金型と前記固定側金型の少なくとも一方のキャビティ表面の近傍に設けられ、加熱媒体と冷却媒体が交互に流入される流路と、
発泡剤が注入された溶融状態の樹脂を前記キャビティ内に射出可能な射出装置と、
前記発泡剤を含まない状態の前記樹脂を前記キャビティ内に射出した時の前記キャビティ内の樹脂圧力と前記キャビティの投影面積との積の0.5〜1.0倍に設定された型締め力にて、前記可動側金型および前記固定側金型を型締めさせる開閉制御装置とを有する発泡成形装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−27004(P2006−27004A)
【公開日】平成18年2月2日(2006.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−207212(P2004−207212)
【出願日】平成16年7月14日(2004.7.14)
【出願人】(000185868)小野産業株式会社 (14)
【Fターム(参考)】