説明

白色光走査干渉法を使用した膜厚測定を行うための方法及び装置

【課題】広帯域干渉法によって透明な膜の厚さを測定する方法を提供する。
【解決手段】広帯域干渉法によって膜のコレログラムを作成する工程と、コレログラムにフーリエ変換を適用して、フーリエ位相関数を得る工程と、フーリエ位相関数の線形成分を取り除く工程と、残りの非線形成分に第2積分変換を適用して非線形成分の積分振幅関数を得る工程と、積分振幅関数のピーク位置を特定する工程と、波長に依存する膜の屈折率を考慮して前記膜の厚さを前記ピーク位置の横座標の2倍値として決定する工程と、を含む。最後の2つの工程の代わりに、前記積分振幅関数のピーク位置を特定する工程と、前記ピーク位置の横座標の2倍値として膜の厚みを決定する工程と、を含んでもよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は白色光走査干渉法を使用し、表面または内面の凹凸形状を高速に測定する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
科学技術分野において、高精度の膜厚測定に対し、偏光解析法及び分光反射率測定法を使用することができることは周知である。
楕円偏光法及び反射率測定法は、可変角度、偏光、及び調整可能なスペクトル帯域幅、等の技術によって開発及び改善されてきているが、それらは通常、測定速度及び横方向の解像度を制限してしまう単一点の測定に基づいている。
【0003】
サンプルの表面高さ形状を測定するために白色光走査干渉法(WLI:White Light scanning Interferometry)が開発されている。
図1に図示されているように、WLIは、低時間コヒーレンス光源を使用しており、したがって、2つの干渉計の光路長が同じであるときにだけ干渉が生じるようになっている。
この低い時間的コヒーレンスは、位相シフト干渉法(PSI:Phase Shifting Interferometry)で起こる不明確さの問題を解決し、高精度の走査動作による絶対位置測定を可能にする。
【0004】
WLI測定の結果はカメラ画素毎のコレログラムとなる。
各画素の高さ情報は各コレログラムを分析することによって得られる。
WLIの1つの重要な特徴は、システム全体に関係する光源の光学スペクトルを得ることができるということにある。このスペクトルは、フーリエ領域でコレログラムを分析すれば得られる。
【0005】
従来技術において、このフーリエ変換分析はフーリエ領域で位相及び振幅を調べることによって、膜厚測定に対して使用されてきた。Seung Woo Kim らの米国特許第6545763号は測定されたコレログラムのフーリエ変換から膜厚及び表面形状を計算する方法を開示している。この手法は、膜の事前の知識(すなわち、屈折率)及びモデリングによって生成される理論上の位相と比較されるフーリエ領域におけるスペクトル位相を利用する。
【0006】
測定された位相と理論上の位相との間の誤差を最小にするために最適化技術を使用し、それにより表面高さ(h)及び膜厚(d)が計算される。この手法は1μm未満の膜厚の測定を可能にする。
しかしながら、この手法には2つの欠点がある。すなわち、二次元の最適化処理(h,d)は時間がかかるものであり、さらにまた、最適化中にh及びdの走査範囲を設定するとなるとリアルタイムの測定ができなくなる。
【0007】
Der-Shen Wanの米国特許第7612891号は、測定値と理論上のモデルとの間の比較パラメータとしてフーリエ位相の代わりにフーリエ振幅を使用するもう1つの膜測定方法を開示している。基本的な原理は分光反射率測定法と同じであるが、スペクトル密度関数の求め方が異なる。
【0008】
分光反射率測定法がスペクトル密度関数を分析するために分光計を使用するのに対し、この特許の方法は(WLIから得られた)コレログラムのフーリエ変換によってスペクトル密度関数を評価するものである。
この技術はフーリエ変換分光法と呼ばれる。非常に薄い膜によって生ずるフーリエ振幅のなだらかな変動はフーリエ位相法に比べてより信頼性の高い厚さ測定を可能にする。
【0009】
Daniel Mansfieldの米国特許第7755768号はフーリエ振幅を使用する他の方法を開示している。この方法では、フーリエ振幅に基づいた(HCF関数、helical conjugate field関数と呼ばれる)関数が定義される。膜厚はこの関数を理論的な値に対して最適化することによって計算される。
【0010】
しかしながら、どちらの場合においても、シリコン等の反射率標準を用いた予備実験が示すところによれば、これらの方法は、測定速度が遅いため、適用できる用途が限られてしまうことがわかる。
【0011】
膜厚を測定するためのもう1つの方法として、Peter J. De Grootの米国特許第7315382号及び7324210号に開示されているように、角度可変偏光解析法(VAE)の原理をWLIと組み合わせる方法がある。
この手法では、コレログラムのフーリエ解析で数学的に決定される広範囲の入射角度を実現できるように、開口数(NA)が大きい対物レンズを使用している。
この角度分解分析は理論的モデルによる最適化がフーリエ位相法と同じであるので、フーリエ位相法に類似している。
【0012】
しかし、この方法は入射角度に応じた振幅及び位相を得るために、広帯域光源を使用する代わりに、高いNAを有する対物レンズとともに狭帯域光源を使用している。
したがって、この方法では、広範囲の入射角度に対応できるように、高NAの対物レンズを使用することが必須である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】米国特許第6,545,763号
【特許文献2】米国特許第7,612,891号
【特許文献3】米国特許第7,755,768号
【特許文献4】米国特許第7,315,382号
【特許文献5】米国特許第7,324,210号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
要するに、従来の膜厚測定技術は全てコレログラムの理論的モデリング、フーリエ振幅、フーリエ位相、及びそれらの変形に基づいている。
特に、米国特許第6545763号は、白色走査干渉法により、ある周波数範囲内の光に対して透明な膜の厚さを測定する方法を開示している。この方法は標準サンプルによる予備実験や高いNAを有する対物レンズの使用等の制約を受けないので、多くの用途に対して広く使用することができる。
【0015】
この方法は、
前記周波数範囲に適合した干渉計を使用して膜のコレログラムを作成する工程と、
フーリエ位相関数を得るために前記コレログラムにフーリエ変換を適用し、膜厚及び表面高さを決定するために前記位相関数に適合するようにモデルを最適化する工程と、を含む。
【0016】
しかしながら、最適化手順は、この最適化手順とは無関係な2つのパラメータのために時間がかかり、最適化探索範囲の効率的な縮小が求められるであろう。
【0017】
そこで、本発明の目的は、より高速に測定を実施することを可能にする方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明は上述したものと同様な方法であるが、さらに、
フーリエ位相関数の非線形成分を得るために前記フーリエ位相関数の線形成分を取り除くこと、
前記非線形成分の積分振幅関数を得るために前記非線形成分に第2積分変換を適用すること、
前記積分振幅関数のピーク位置を特定すること、
波長に依存する膜の屈折率を考慮して前記膜の厚さを前記ピーク位置の横座標の2倍値として決定すること、の工程を含む。
【0019】
この方法は最適化処理を実施する必要がないので、より高速な測定処理を可能にする。
【0020】
また、本発明は白色光干渉法を使用することによってある周波数範囲の光に対して透明な膜の厚さを測定する装置を提供する。
この装置はコレログラムの作成に適した前記周波数範囲内の白色光干渉法に適合した干渉計を備える。
【0021】
装置はまた、フーリエ位相関数を得るために前記コレログラムにフーリエ変換を実行し、かつ前記フーリエ位相関数の非線形成分を得るために前記フーリエ位相関数の線形成分を除去するように構成されたコンピュータを備える。
さらに、前記コンピュータは前記非線形成分の積分振幅関数を得るために前記非線形成分に第2積分変換を適用し、前記積分振幅関数のピーク位置を特定し、かつ波長に依存する膜の屈折率を考慮して前記膜の厚さを前記ピーク位置の横座標の2倍値として決定するように構成されている。
【0022】
本発明はまた、複数の層の複数の厚さの測定を実施するように拡張することができる。
本方法は紫外線、赤外線等の異なる周波数範囲の光に適用することも可能であるが、本方法で使用される周波数範囲は可視光が好ましく、特に白色光が好ましい。
このように、前記実施形態はまた、上述したものと同種の装置であって、前記干渉計が可視光、好ましくは白色光を生成するための光源を備える装置を提供する。
【0023】
上述の方法において、第2積分変換としてラプラス変換又はヒルベルト変換等の多様な積分変換を使用することができるが、第2積分変換はフーリエ変換であることが好ましい。
フーリエ変換はデジタルコンピュータによって実行されるので、それは高速フーリエ変換(FFT)を使用して実行されることが好ましい。このことは、第2積分変換がフーリエ変換である場合にも同様のことがいえる。
【0024】
上述の方法は光源のスペクトルによって決まる特定の値未満の膜厚に対して正確性に欠ける。
したがって、好まれる実施形態は上述のものと同様な方法であるが、膜厚の決定の後、計算された厚さが閾値未満であるかどうかの判定が実施される。
計算された厚さが閾値未満である場合、前記フーリエ位相関数の非線形成分の数理モデルであって膜厚のみをパラメータとするものと前記算出された前記フーリエ位相関数の非線形成分とを比較する。
すなわち、フーリエ位相関数の非線形成分の数理モデルが前記算出されたフーリエ位相関数の非線形成分の値に可能な限り近くなるように膜厚を決定する。
【0025】
閾値判定は、好ましい頑健性(ロバスト性)を常に伴うとは限らない。
これは、膜厚の推定値として選択する高速フーリエ変換スペクトルの最大ピークの検出が不正確になることがあるためである。近傍ピークの重なりやノイズの影響などにより最大ピークが必ずしも膜厚に一致しないことが起こり、誤認識につながることがある。
したがって、好ましい実施態様としては、上記に述べたのと同様の方法であって、さらに、フーリエ位相関数の非線形成分の隣り合う極値間の距離に基づいて膜厚の見積りを行うこととし、隣り合う極値がなかったり、極値間の距離が所定値よりも大きい場合には、膜厚は閾値よりも小さいと見積もる。
【0026】
これらの最後の工程は、上述したような閾値未満の薄い膜厚の正確な決定を可能にする。この決定は膜厚に対する高い精度をもたらすが、実行するために要する時間が先に述べた方法に要する時間よりも長いので処理を遅くする。
【0027】
この方法の第2の部分は米国特許第6545763号に記載された方法に対していくつかの類似点を有する。
しかしながら、この従来技術の文献では最適化処理が2つの変数、すなわち膜厚(d)と表面高さ(h)の両方とともに実行されるのに対し、本発明では単一の変数、すなわち膜厚のみを使用する。
さらに、前記方法は膜厚が閾値より大きい状況でも使用することができる。
これはまた、本方法が、積分変換及びピーク検出による厚さ決定であるために、より正確な方法として使用できることを意味する。
この場合、積分変換によって決定された厚さを最適化計算における初期値とし、また、積分変換によって決定された不確かさを最適化計算における探索範囲として使用する。
【0028】
上述したように、第2の工程(最適化)は比較的長い時間を要する。
この工程を速くするため、もう1つの実施形態は先行する方法(積分変換)によって決定された厚さ及び不確かさを使用して、ある範囲内の厚さの値だけを使用することを提案する。
薄膜の測定の場合、積分変換法の閾値は最適化の探索範囲を限定することができる。
このような探索範囲の制約により、探索対象のサンプルの数が大幅に減少する。
【0029】
上述の方法は膜厚の決定だけに対するものである。
しばしば、膜の下にある表面の高さ形状を求めることも要求される。
したがって、もう1つの好ましい実施形態は膜の厚さを求めるための上述のものと同様な方法であって、膜厚の決定の後に、式(4)に既知の値r、r及びnとともにdを代入し、これにより位相を得て、その後、位相の式(3)において前記位相を代入することによって表面高さが計算される方法を提供する。
【0030】
これは、計算された膜厚を計算された表面高さ形状に加えることによって膜の高さ形状を決定することを可能にする。
この好ましい実施形態はまた、式(4)に既知の値r、r及びnとともにdを代入して位相を求め、位相の式(3)において前記位相を代入することによって表面高さを計算するように構成されたコンピュータを備える装置を提供する。
なお、式(3)や式(4)の詳細については後ほど説明する。
【0031】
(半)透明層の上面の高さを算出するもう一つの方法は、上記に述べた方法と同様の方法であって、さらに、透明層の厚みを決定した後、透明層が複素反射スペクトルに及ぼす寄与分を式(4)で見積もり、この分をコレログラムのフーリエ変換から除く。
さらに、高さは、フーリエ変換後のコレログラムを米国公開特許公報US2011/0090511 A1に記載されている方法で処理することによって求めることが好ましい。
【0032】
この実施形態は、透明層がコレログラムのフーリエ変換に及ぼす影響は、透明層の反射スペクトルを表す複素項によって表されるであろうという前提に基づいている。
【0033】
本発明はミロー型、マイケルソン型、リニーク型等、白色光干渉法に使用できる複数の種類の干渉計に対して適用することができる。
最後に、本発明はまた、デジタルデータを保持(記録)するものであって、フーリエ位相関数を得るためのコレログラムへのフーリエ変換と、前記フーリエ位相関数の非線形成分を得るための前記フーリエ位相関数の線形成分の除去と、の工程を実行するためのプログラムを保持する保持体(記録媒体)を提供する。
【0034】
このプログラムはまた、前記非線形成分に積分変換を適用して、前記非線形成分の積分振幅関数を得、前記積分振幅のグラフにおいて前記積分振幅関数のピーク位置を特定し、波長に依存する膜の屈折率を考慮して前記膜の厚さを前記ピーク位置の横座標の2倍値として決定する。
【0035】
本発明の上述及び他の目的、特徴、及び長所は以下の詳細な説明及び付随する図面からより完全に理解されるだろう。
付随する図面は図解のためだけに示されたものであり、本発明を制限するためのものではない。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】基板上の膜の厚さを測定するミロー干渉計の図である。
【図2A】膜及び基板の断面図である。
【図2B】膜及び基板の断面図である。
【図3】本発明方法において、複数の段階を示す一連の流れ図である。
【図4】本発明の付加的方法において、2つの段階を示す一連の流れ図である。
【図5】本発明の2つの方法のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0037】
図2Aは半透明膜2がその上に備えられた非透明基板1の断面図である。
本発明の目的は最初に基板1の高さ形状とは独立に膜2の厚さを測定することであるが、特別な実施形態においては、基板1の高さ形状とともに膜2の厚さを測定することである。
また、図2Bは図2Aと同様な図であるが、第2半透明層3が第1半透明層2上に載せられている。
第2層3の屈折率は第1半透明層2の屈折率とは異なる。
【0038】
図1は、それ全体が符号4で示されるミロー型の干渉計を図示している。
この干渉計4は白色光を生成するように構成された光源5、並びに平行光線9を生成するように構成された第1レンズ6、第1ミラー7、及び第2レンズ8を備える。
平行光線9は他の手段によって生成されてもよい。平行光線9はビームスプリッター10によって反射され、反射された光線10は対物レンズ11を通過した後、第2ビームスプリッター12に到達する。光線の一部はビームスプリッター12から反射された後、参照ミラー14から反射される。
【0039】
光線の他の部分はビームスプリッター12を通過し、基板1及び膜2から反射される。参照ミラー14から反射された光線はその後、ビームスプリッター12から反射される。基板1及び膜2から反射された光線はビームスプリッター12を通過する。
【0040】
これら両光線は干渉し、対物レンズ11、ビームスプリッター10、及びレンズ15を通過して光センサー16に到達する。
参照ミラー14は光軸の方向に小さい範囲で移動させられる。光センサー16の各画素の信号は、図1において枠20によって示されているコレログラムとして表される信号を得るために読み出される。
【0041】
上述の構成は従来技術に属する。
ここで、このコレログラムの処理及びそれの理論的背景を説明する。
本発明は白色光走査干渉法を使用した、高速かつ効率的な膜厚及び表面形状測定のアルゴリズム及び測定手順を開示する。この膜厚測定は可能な付加を備えた方法を含む。この方法において、高速測定(積分変換法)により大まかに解の見当をつける。
その後に行われる可能な付加において、非線形フーリエ位相の一次元的最適化(最適化法)に基づいた精密な絞り込みを行う。
【0042】
膜厚が測定された後、それはコレログラムに適用され、表面形状が計算される。これにより、厚さ形状及び表面形状が同時に得られる。
【0043】
WLI(IW)のコレログラムはλ〜λの波長領域において与えられる単色干渉強度の総和である。
【0044】
【数1】

【0045】
ここで、kは波数(2π/λ)、I0は(公称)強度、γはシステムによって決められるビジビリティ(視感度関数)、f(k)は光源スペクトル密度関数、hは表面高さ、zは垂直軸方向の走査位置の値である。
式(1)において、Δφは参照表面反射率と測定表面反射率との間の差によって生ずる付加的な位相であり、本発明において、それは主に、図2A、図2Bに示されているような膜構造からの位相によるものである。
【0046】
コレログラムを分析し、スペクトル領域における位相を得るために、式(1)にフーリエ変換が適用される。このフーリエ変換は実際には高速フーリエ変換(FFT)を使用して行われる。
FFTの後、フーリエ位相(φ)は次のように表される。
【0047】
【数2】

【0048】
例えば、典型的な単層膜で起こるような、膜の多重反射が起きた場合、位相差Δφは全反射率に関係する。
【0049】
この関係は膜の多重干渉に基づくものであり、サンプルの材料特性、光源の波長、及び膜厚に依存する。すなわち、式(2)は次のようになる。
【0050】
【数3】

【0051】
記号∠Rは全反射率の位相を表す。Rは周期関数であり、それの周期は膜厚dに関係する。反射率Rは以下のように表される。
【0052】
【数4】

【0053】
ここで、r及びrは上面及び下面からの反射率であり、nは膜の屈折率である。
低いNAを有する対物レンズを使用する場合、光の入射角θは0とみなすことができ、対物レンズのNA効果は無視することができる。
【0054】
∠Rの明確な形式は式(4)から容易に得ることはできないが、周期関数の特性からexp(−j2nkd)の周期性が∠Rにおいても現れることを予測及び確認することは可能である。したがって、位相の周期が実験的に検出されれば、dは膜の屈折率nの事前の知識によりexp(−j2nkd)の周期から計算することができる。
φの周期を検出するために積分変換を用いることできる。
【0055】
本発明においては、例としてフーリエ変換、特にFFTを用いる。
FFTは実際には周期ではなく、周波数を決定する。
本発明においては、このd(膜厚)の計算方法を「FFT法」と呼ぶ。
なお、このFFTはフーリエ位相φを得るためのコレログラムのFFTとは異なるものである。
図3を参照して、FFT法の測定手順を以下に説明する。
【0056】
まず、図3においてFFT21として示されているフーリエ分析により、コレログラム20から位相φ22を得る。工程23において、非線形位相φnon24を得るために位相の線形傾きφlinearが差し引かれる。
【0057】
【数5】

【0058】
この減算の結果はR(∠Rnon)の非線形位相となり、それは式(3)及び式(4)に示されているようにdのみの関数である。
次に、空間周波数領域(nk/2π)においてFFT25がφnon24に適用される。空間周波数領域(nk/2π)は、波数kに起因し、かつ、nに依存する。
FFTによって得られた信号26の支配的周波数成分が簡単なピーク検出27によって検出される。nの値を適用すると、この周波数成分の位置は、d(膜厚28)の2倍である。
通常、屈折率に対する値はルックアップテーブルを使用して適用される。
【0059】
このFFT法はコレログラムが重複していない場合であっても計算が単純であるので、薄膜及び厚膜の両方に対し、従来技術に比べて高速で膜厚28を測定することができる。
しかしながら、r及びrはkに応じた可変パラメータであり、その依存性はFFT法によって見つけられる位相周期の決定の精度を低下させてしまう。これらのパラメータによって生ずる誤差は膜の材料特性及び基板1に源を発する。
実際には、この系統誤差は材料特性及び基板1に関する知見から事前に求め、校正することができる。
【0060】
FFT法の根本的な制限はFFTにおける周波数検出の限界に由来する。
通常、非常に薄い膜の場合、非線形位相φnon24は完全な周期性を示さないので、FFT法は正確な周波数値を与えることができない。
したがって、FFTは正確な厚さを与えない可能性がある。言い換えると、フーリエ領域の膜厚情報を含む周波数ピークはDCピークに近く、DCピークと重複している可能性もある。
【0061】
この制限は光源のスペクトル帯域幅によって決まる。
この場合、図4に示されているように、最適法を使用して厚さを抽出する。
工程31において、厚さ値を変化させながら、理論的な非線形位相φnon30と測定位相24の非線形項とを対比する。
理論的な非線形位相φnon30は、膜に対する理論と推定に基づいて求められる。
理論上の値と測定結果との間の差を最小化して最も適当な値d32を計算するにあたっては、最小二乗法、相関、他の多様な最適化技術等の複数の方法を適用することができる。
本発明においては、工程33においてdを決定するために2つの非線形位相間の(複数の)相関係数が計算され、それらの最大値が選択される。
【0062】
最適化における最大の問題点は最適な値を探索するために要する時間である。そのような事情があったとしても、最適化法は100nm未満の膜厚を測定する能力があるので有利である。
【0063】
最適化の時間を減少させるために2つの手法がある。
1つは探索パラメータの数を減らすことである。
最適化のために光学スペクトルに基づいたフーリエ位相を使用する米国特許第6545763号では、表面高さ及び膜厚が可変パラメータであり、最適化誤差関数は二次元である。多くの場合、二次元の最適化は、一次元の最適化に比べ最適な値を得るためにより多くの時間を必要とする。このような観点から、単一のパラメータのみを使用する本発明の最適化処理は米国特許第6545763号に比べ測定速度を改善する。
【0064】
最適化の時間を減少させるためのもう1つの手法は何らかの制約を使用するか又は初期値を入力することによって探索範囲を調節及び制限することである。
本発明において、FFT法の測定結果は最適化の全探索範囲を減少させるために使用される。FFT法によって決定された厚さは初期値のために使用され、それの不確かさは探索範囲を規定する。さらに、非常に薄い膜構造を測定する場合、FFT法の測定可能な最小厚さは最適化法における探索範囲の上限値となる。
【0065】
本発明の実施形態はWLIを使用する膜測定であって、図5に示されているように2つの要素、FFT法及び最適化法を含む。
図1に示されているように、測定処理全体はWLIを使用した膜のコレログラム20の取得とともに開始される。
そして、コレログラム20がFFT21によって分析され、スペクトル密度関数に対応する位相22のみが次の工程のために抽出される。膜厚を表面高さから分離するために、フーリエ位相22から線形位相項が差し引かれる(23)。
【0066】
厚さのみの関数である残りの非線形位相24はFFT法25の入力となる。
FFT法を適用した後、次の工程は測定結果26の妥当性によって決まる。
例えば、FFT法の結果の判定は図3のグラフ26に示されているピークの大きさ又はシステムの仕様及び事前の実験結果によって決まる測定可能な最小厚さによって実施することができる。
【0067】
FFT法が膜厚28の決定に成功した場合、厚さ28は表面高さを計算するために使用され、最終的に表面及び膜厚の両方の形状が得られる。
FFT法が成功しなかった場合、最適化法31、32、22が使用される。そして、FFT測定結果28及びFFT法の測定可能な最小厚さが最適化法31、32、22にて制約として使用される。そして、一次元最適化によって膜厚28の最適値が決定され、最終的に膜厚形状が計算される。
【0068】
上記方法において、厚みを求める計算方法の選択は、高速フーリエ変換によって判断される。
ここで、膜の厚さの見積もりをフーリエ位相関数の非線形成分の隣り合う極値間の距離に基づいて行うこととし、隣り合う極値がなかったり、極値間の距離が所定値よりも大きい場合には、膜厚は閾値よりも小さいと見積もるようにすることもできる。
【0069】
高さを算出する計算は上記に説明した方法でもよく、あるいは、米国公開特許公報US2011/0090511 A1に記載されている方法で行われてもよい。
【0070】
測定の最終段階は上部及び底部の表面形状を同時に得るために、膜厚測定結果を元のコレログラムと結合させることである。
FFT法及び最適化法によって厚さdを決定した後、式(4)に既知の値r、r、及びnとともにdを代入することによって∠Rを計算することができる。そして、元の位相から∠Rを差し引くことにより、表面高さhのみに関係する位相を抽出することができる。
【0071】
WLIにおいて表面高さを測定するためのあらゆるアルゴリズムは、この補正された位相及びそれの修正されたコレログラムに対して適用することができる。この測定手順は画像記録装置(CCD等)の画素毎に実行される。
結果として、膜の影響を受ける成分が除去されたコレログラムに標準的なWLIアルゴリズムが適用された場合、サンプルの上部及び底部の表面形状が同時に得られる。
【0072】
本発明においてFFT法は膜厚測定技術として導入されているが、それは原理上、あらゆるパルス間の位相差を決定するための方法として使用することができる。
電子パルスの場合、FFT法は上述と同様な手順を介して2つ又はそれ以上のパルス間の時間遅延を決定することができる。
飛行時間法等の光学パルスの場合、FFT法は飛行時間の原理に応じた距離を測定することができる。
【0073】
前述の通り、透明層を支持している基板の高さや形状を計算するにあたっては、別の方法がある。
一つの方法は、透明層がコレログラムまたはコレログラムのフーリエ変換に対して及ぼしている寄与分を求めることである。
この寄与分は、層の厚みに依存し、従って、層の厚みが上記説明してきた方法でまず決定される。
フーリエスペクトルは次のように表される。
【0074】
z(f) = Amplitude(f) × exp(-i phase(f)).
【0075】
この方法によれば、振幅(f)は光のスペクトルで置き換えられ、また、位相は、測定値から膜の位相寄与分を除いたものである。
その結果は、上の膜を除き、同じ高さを有するサンプルのフーリエスペクトルに等しい。
すなわち、高さは、この計算に適用可能な方法、例えば米国公開特許公報US2011/0090511 A1に記載されているような方法、によって求めうる。
【0076】
本発明の上述された手順は、コンピュータ可読プログラムを実行するCPU、ROM、及びRAMを有するコンピュータによって実行することができる。
プログラムは、様々なタイプの非一時的なコンピュータ可読媒体を用いて格納され、コンピュータに供給することができる。非一時的なコンピュータ可読媒体は、様々なタイプの実体のある記録媒体を含む。非一時的なコンピュータ可読媒体の例は、磁気記録媒体(例えばフレキシブルディスク、磁気テープ、ハードディスクドライブ)、光磁気記録媒体(例えば光磁気ディスク)、CD−ROM(Read Only Memory)、CD−R、CD−R/W、半導体メモリ(例えば、マスクROM、PROM(Programmable ROM)、EPROM(Erasable PROM)、フラッシュROM、RAM(Random Access Memory))を含む。また、プログラムは、様々なタイプの一時的なコンピュータ可読媒体によってコンピュータに供給されてもよい。一時的なコンピュータ可読媒体の例は、電気信号、光信号、及び電磁波を含む。一時的なコンピュータ可読媒体は、電線及び光ファイバ等の有線通信路、又は無線通信路を介して、プログラムをコンピュータに供給できる。
【0077】
上述された本発明から、本発明の実施形態が多様な様式で変更可能であることは明白であるだろう。そのような変形は本発明の範囲から逸脱すると見なされるものではない。すなわち、当業者に明白なそのような変更は特許請求の範囲に含まれるものである。
【0078】
本願は2011年1月26日に出願された欧州特許出願第11152186.0号に基づき、その優先権を主張し、その開示内容は全て本願に参照として取り込まれる。
【符号の説明】
【0079】
1・・・基板、2・・・半透明膜、3・・・半透明層、4・・・ミロー干渉計、5・・・光源、6・・・第1レンズ、7・・・第1ミラー、8・・・第2レンズ、9・・・平行光線、10・・・ビームスプリッター、10・・・光線、11・・・対物レンズ、12・・・第2ビームスプリッター、14・・・参照ミラー、15・・・レンズ、16・・・光センサー。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ある周波数範囲の光に対して透明である膜の厚みを前記周波数範囲の広帯域干渉法を使用して測定する方法であって、
前記周波数範囲内の広帯域干渉法に適合した干渉計を使用して前記膜のコレログラムを作成する工程と、
前記コレログラムにフーリエ変換を適用し、フーリエ位相関数を得る工程と、
前記フーリエ位相関数の線形成分を取り除き、前記フーリエ位相関数の非線形成分を得る工程と、
前記非線形成分に第2積分変換を適用し、前記非線形成分の積分振幅関数を得る工程と、
前記積分振幅関数のピーク位置を特定する工程と、
波長に依存する膜の屈折率を考慮して前記膜の厚さを前記ピーク位置の横座標の2倍値として決定する工程と、を含む
ことを特徴とする方法。
【請求項2】
請求項1に記載の方法において、
前記方法で使用される前記周波数範囲が可視光である
ことを特徴とする方法。
【請求項3】
請求項2に記載の方法において、
前記可視光が白色光である
ことを特徴とする方法。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれかに記載の方法において、
前記第2積分変換がフーリエ変換である
ことを特徴とする方法。
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれかに記載の方法において、
高速フーリエ変換を使用してフーリエ変換が実行される
ことを特徴とする方法。
【請求項6】
請求項1から請求項5のいずれかに記載の方法において、
前記膜の厚さが決定された後、決定された厚さが閾値未満であるかどうかをテストし、
決定された厚さが前記閾値未満である場合、前記フーリエ位相関数の前記非線形成分の数理モデルであって膜厚だけをパラメータとするものを前記得られた前記フーリエ位相関数の前記非線形成分と比較し、
前記数理モデルが前記算出された前記フーリエ位相関数の非線形成分に可能な限り近くなるように前記膜厚を決定する
ことを特徴とする方法。
【請求項7】
請求項6に記載の方法において、
フーリエ位相関数の非線形成分の隣り合う極値間の距離に基づいて膜厚の見積りを行い、
隣り合う極値が無い、または、極値間の距離が所定値よりも大きい場合には、膜厚は閾値よりも小さいと見積もる
ことを特徴とする方法。
【請求項8】
請求項6または請求項7に記載の方法において、
前記決定された厚さの周辺の範囲内の厚さの値だけを探索範囲とし、その範囲内において、前記数理モデルは決定され、かつ、前記決定された厚さと比較される
ことを特徴とする方法。
【請求項9】
請求項1から請求項8のいずれかに記載の方法において、
前記厚さを決定した後、既知の値r、r、及びnとともにdを次の式に代入することによって位相を得て、
【数1】

そして、次の式への前記位相の代入によって前記高さが計算される
【数2】

ことを特徴とする方法。
【請求項10】
請求項1から請求項9のいずれかに記載の方法において、
透明層の厚みを決定した後、透明層の複素反射スペクトルを見積もり、
透明層の複素反射スペクトルをコレログラムのフーリエ変換から除き、
高さを、前記フーリエ変換後のコレログラムを処理することによって求める
【請求項11】
請求項1から請求項10のいずれかに記載の方法は、ある周波数範囲の光に対して透明でありかつ互いに異なる屈折率を有する少なくとも2つの膜の厚みを前記周波数範囲の広帯域干渉法を使用して測定することに適用される。
【請求項12】
ある周波数範囲の光に対して透明である膜の厚みを前記周波数範囲の広帯域干渉法を使用して測定する装置であって、
前記周波数範囲内の広帯域干渉法に適合し、コレログラムを生成するように構成された干渉計と、
コンピュータと、を備え、
前記コンピュータは、
前記コレログラムにフーリエ変換を適用し、フーリエ位相関数を得る工程と、
前記フーリエ位相関数の線形成分を取り除き、前記フーリエ位相関数の非線形成分を得る工程と、
前記非線形成分に第2積分変換を適用し、前記非線形成分の積分振幅関数を得る工程と、
前記積分振幅関数のピーク位置を特定する工程と、
波長に依存する膜の屈折率を考慮して前記膜の厚さを前記ピーク位置の横座標の2倍値として決定する工程と、を実行するように構成されている
ことを特徴とする装置。
【請求項13】
請求項12に記載の装置において、
前記干渉計が可視光を生成するための光源を備える
ことを特徴とする装置。
【請求項14】
請求項13に記載の装置において、
前記可視光は白色光である
ことを特徴とする装置。
【請求項15】
請求項12から請求項14のいずれかに記載の装置において、
前記コンピュータは、
既知の値r、r、及びnとともにdを次の式に代入することによって位相を得て、
【数3】

そして、次の式への前記位相の代入によって前記高さを計算する
【数4】

ことを特徴とする装置。
【請求項16】
請求項12から請求項15のいずれかに記載の装置において、
前記干渉計がマイケルソン型、ミロー型、及びリニーク型のいずれかである
ことを特徴とする装置。
【請求項17】
請求項12から請求項16のいずれかに記載の装置は、
ある周波数範囲の光に対して透明でありかつ互いに異なる屈折率を有する少なくとも2つの膜の厚みを前記周波数範囲の広帯域干渉法を使用して測定することに適用される。
【請求項18】
コレログラムにフーリエ変換を適用し、フーリエ位相関数を得る工程と、
前記フーリエ位相関数の線形成分を取り除き、前記フーリエ位相関数の非線形成分を得る工程と、
前記非線形成分に第2積分変換を適用し、前記非線形成分の積分振幅関数を得る工程と、
前記積分振幅関数のピーク位置を特定する工程と、
波長に依存する膜の屈折率を考慮して前記膜の厚さを前記ピーク位置の横座標の2倍値として決定する工程と、をコンピュータに実行させるプログラムを記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体。
【請求項19】
請求項18に記載のコンピュータ読み取り可能な記録媒体において、
前記プログラムは、さらに、請求項7から請求項10のいずれかの方法をコンピュータに実行させる。

【図1】
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【図2A】
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【図2B】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−154931(P2012−154931A)
【公開日】平成24年8月16日(2012.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−14186(P2012−14186)
【出願日】平成24年1月26日(2012.1.26)
【出願人】(000137694)株式会社ミツトヨ (979)
【Fターム(参考)】