説明

直流回路の漏電検出装置および方法

【課題】従来に比べて簡単かつ低コストの直流回路の漏電検出装置および方法を提供する。
【解決手段】漏電検出装置Fa,Fdは、交流回路10に電力変換器20を介して接続された直流回路30の漏電を検出する。ここで、交流回路10は、2次側の中性点5nが接地された変圧器2を介して上位の電力系統1と接続される。交流電流センサFa,Fdは、変圧器2の中性点5nと直流回路30の想定される地絡事故点との間の電流経路のいずれかの箇所に設けられ、交流電流センサ41,43P,43Nと判定部42,44とを備える。判定部42,44は、交流電流センサ41,43P,43Nによって検出された交流電流のうち、電力変換器20の変換動作によって直流回路30側に生じた交流電圧の周波数と同じ周波数の電流成分に基づいて直流回路30の漏電の有無を判定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、交流回路に電力変換器を介して接続された直流回路の漏電を検出する装置および方法に関する。
【背景技術】
【0002】
太陽光発電の普及に伴い、パワーコンディショナ(電力変換器)に太陽電池と複数の直流負荷とが接続された直流回路が需要家内に設けられる例が増えている。使用電圧が60Vを超える直流回路では例外規定に該当する場合を除いて漏電ブレーカを設置しなければならないので、上記のような直流回路にも漏電ブレーカを設置する必要がある。
【0003】
一般に、太陽電池を絶縁変圧器を介さずに交流配電系統に直接連系する場合には、パワーコンディショナから交流配電系統へ漏洩する直流漏洩電流を検出することになっている。しかしながら、この場合には直流回路全体で漏電を検出して直流回路全体を遮断することになるので、漏電と関係のない直流回線まで遮断されることになり望ましくない。電気の供給信頼性の観点からは、太陽電池および各直流負荷が接続される直流回線ごとに漏電発生を検知する漏電ブレーカを設置することが望ましい。
【0004】
直流回線に流れる地絡電流を検出する装置として、たとえば、特許第3251248号公報(特許文献1)に記載された直流地絡電流検出装置が知られている。この装置は、第1および第2鉄心と帰還回路と継電器とを含む。帰還回路には、第1および第2鉄心に地絡電流と等しい逆方向の補正電流をその補正電流と地絡電流との和が零となるまで流し続ける電線が装着されている。継電器は、補正電流と地絡電流との和が零となった時点で帰還回路に流れる補正電流を検出レベルと比較することによって地絡発生を検出する。
【0005】
特開2006−60893号公報(特許文献2)に記載された直流地絡回線の判別装置では、各回線の正極側電路または負極側電路に介装され、所定の電圧を降下させるダイオードが設けられる。各電路で電圧を変動させることによって地絡故障が発生した回線が特定される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第3251248号公報
【特許文献2】特開2006−60893号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記の各文献に記載された漏電検出装置は、直流の現象を直接測定して故障回線の判別を行なうものであるので、装置が複雑で高コストである。
【0008】
この発明の目的は、従来に比べて簡単かつ低コストの直流回路の漏電検出装置および方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この発明は要約すれば、交流回路に電力変換器を介して接続された直流回路の漏電検出装置であって、交流電流センサと判定部とを備える。ここで、交流回路は、2次側が接地された変圧器を介して上位の電力系統と接続される。交流電流センサは、変圧器と直流回路の想定される地絡事故点との間の電流経路のいずれかの箇所に設けられる。判定部は、交流電流センサによって検出された交流電流のうち、電力変換器の変換動作によって直流回路側に生じる交流電圧の周波数と同じ周波数の電流成分に基づいて直流回路の漏電の有無を判定する。
【0010】
好ましくは、交流電流センサは、直流回路の配電線路に設けられた零相変流器である。
もしくは、交流電流センサは、直流回路の配電線路の各相に設けられた変流器である。
【0011】
もしくは、交流電流センサは、交流回路の配電線路に設けられた零相変流器である。
好ましくは、交流回路の配電線路は、中性点が接地された単相3線式であり、上記の電流成分は、電力系統の基本波に対する2n調波(nは1以上の整数)の電流である。
【0012】
もしくは、交流回路の配電線路は、一相が接地された単相2線式であり、上記の電流成分は、電力系統の基本波の電流である。
【0013】
もしくは、交流回路はの配電線路は、中性点が接地されたY結線三相3線式または4線式であり、上記の電流成分は、電力系統の基本波に対する3n調波(nは1以上の整数)の電流である。
【0014】
もしくは、交流回路の配電線路は、電灯動力共用変圧器の中性点が接地されたV結線三相4線式である。この場合、電力変換器は、交流回路の配電線路を介して三相交流電力を受ける。上記の電流成分は、電力系統の基本波に対する3n調波(nは1以上の整数)の電流である。
【0015】
もしくは、交流回路の配電線路は、一相が接地されたΔ結線三相3線式であり、上記の電流成分は、電力系統の基本波の電流である。
【0016】
もしくは、電力変換器は、パルス幅変調によって直流電力と交流電力とを相互に変換し、上記の電流成分は、パルス幅変調に用いる搬送波の周波数を有する。
【0017】
好ましくは、漏電検出装置は、交流電流センサによって検出された交流電流のうち、上記の電流成分を取り出すバンドパスフィルタをさらに備える。この場合、判定部は、バンドパスフィルタの出力に基づいて直流回路の漏電の有無を判定する。
【0018】
もしくは、漏電検出装置は、交流電流センサによって検出された交流電流のうち、上記の電流成分を通過させかつ電力系統の基本波成分を取除くハイパスフィルタをさらに備える。この場合、判定部は、ハイパスフィルタの出力に基づいて直流回路の漏電の有無を判定する。
【0019】
好ましくは、判定部は、上記の電流成分の大きさが所定の基準値を超えた場合に漏電と判定する。
【0020】
もしくは、判定部は、上記の電流成分の大きさが所定の基準値を超えた状態が所定の時間継続した場合に漏電と判定する。
【0021】
もしくは、漏電検出装置は、交流電流センサによって検出された交流電流と同期するパルス信号を生成するパルス信号生成部をさらに備える。この場合、判定部は、交流電流センサによって検出された交流電流の大きさが所定の基準値を超え、かつパルス信号の周期が電力系統の基本波の周期の半分(単相3線式の場合に半分、Y結線三相3線式もしくは4線式またはV結線三相4線式の場合に1/3になる)である場合に漏電と判定する。
【0022】
もしくは上記の場合で、漏電検出装置は、パルス信号のパルス数をカウントするカウンタをさらに備える。この場合、判定部は、交流電流センサによって検出された交流電流の大きさが所定の基準値を超え、かつパルス信号の周期が電力系統の基本波の周期の半分(単相3線式の場合に半分、Y結線三相3線式もしくは4線式またはV結線三相4線式の場合に1/3になる)であり、かつパルス信号のパルス数が所定数を超えた場合に漏電と判定する。
【0023】
好ましくは、直流回路の配電線路は、電力変換器に接続された直流母線と、直流母線から分岐された複数の直流回線とを含む。この場合、漏電検出装置は複数の直流回線の各々に設けられる。判定部は、対応の交流電流センサによって検出された交流電流に基づいて、対応の直流回線の漏電の有無を判定する。
【0024】
この発明は他の局面において、交流回路に電力変換器を介して接続された直流回路の漏電検出方法である。ここで、交流回路は、2次側が接地された変圧器を介して上位の電力系統と接続される。この発明による漏電検出方法は、変圧器と直流回路の想定される地絡事故点との間の電流経路のいずれかの箇所における交流電流を検出するステップと、検出された交流電流のうち、電力変換器の変換動作によって直流回路側に生じる交流電圧の周波数と同じ周波数の電流成分に基づいて直流回路の漏電の有無を判定するステップとを備える。
【発明の効果】
【0025】
この発明によれば、電力変換器の変換動作によって直流回路側に生じる交流電圧の周波数と同じ周波数の電流成分を検出することによって、従来に比べて簡単かつ低コストに直流回路の漏電を検知することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】この発明の実施の形態1による漏電検出装置Fa,Fdが適用される単相配電系統の構成図である。
【図2】図1の配電系統において漏電検出装置Fa,Fdの配置の詳細を説明するための図である。
【図3】電力変換器が順変換を行なう場合に直流回路側に生じる交流電圧の周波数について説明するための図である(交流回路が単相3線式の場合)。
【図4】電力変換器が順変換を行なう場合に直流回路側に生じる交流電圧の周波数について説明するための図である(交流回路が単相2線式の場合)。
【図5】健全時の零相回路を示す図である。
【図6】直流回路で地絡事故が生じた場合の零相回路を示す図である。
【図7】検出回路42の詳細な構成の一例を示すブロック図である。
【図8】図7の検出回路42を用いた漏電検出手順を示すフローチャートである。
【図9】図7の検出回路42の変形例としての検出回路42Aの構成を示すブロック図である。
【図10】図9の検出回路42Aを用いた漏電検出手順を示すフローチャートである。
【図11】この発明の実施の形態2による漏電検出装置Fa,Fdが適用される三相配電系統の構成図である。
【図12】電力変換器が順変換を行なう場合に直流回路側に生じる交流電圧の周波数について説明するための図である(交流回路がY結線三相3線式の場合)。
【図13】V結線三相4線式の配電線路を示す図である。
【図14】図13に示す交流配電線路に接続された三相の電力変換器が順変換を行なう場合に、直流回路側に生じる交流電圧の周波数について説明するための図である。
【図15】Δ結線三相3線式の配電線路を示す図である。
【図16】図15に示す交流配電線路に接続された三相の電力変換器が順変換を行なう場合に、直流回路側に生じる交流電圧の周波数について説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、この発明の各実施の形態について図面を参照して詳しく説明する。なお、同一または相当する部分には同一の参照符号を付して、その説明を繰返さない。
【0028】
<実施の形態1>
[配電系統の構成]
図1は、この発明の実施の形態1による漏電検出装置Fa,Fdが適用される単相3線式の配電系統の構成図である。図1の単相配電系統は、単相変圧器2を介して上位の電力系統1と接続された交流回路10と、直流回路30と、交流回路10と直流回路30とを接続する双方向の電力変換器20(パワーコンディショナ)とを含む。変圧器2の2次側の中性点5nは接地されている(接地抵抗をRnとする)。
【0029】
交流回路10は、変圧器2の2次側と電力変換器20とを接続する単相三線式の配電線路11(u相電圧線11u、v相電圧線11v、中性線11n)と、ブレーカ12u、12vとを含む。ブレーカ12u,12vは、電圧線11u,11vにそれぞれ設けられる。配電線路11のu相、v相の各電圧線は対地容量(浮遊容量)Caを有する。
【0030】
直流回路30は、直流負荷35と、太陽電池などの直流電源36と、配電線路(図2の参照符号29)とを含む。図1には、配電線路として、第1の直流回線31(P相電圧線31P、N相電圧線31N)および第2の直流回線33(P相電圧線33P、N相電圧線33N)が図示されている。この明細書では、直流回路の正極側をP相と称し、負極側をN相と称する。直流負荷35は直流回線31の末端に接続され、直流電源36は直流回線33の末端に接続される。各直流回線のP相、N相の各電圧線は、対地容量(浮遊容量)Cdを有する。直流回路30は、さらに、ブレーカ32P,32N,34P,34Nを含む。ブレーカ32PはP相電圧線31Pに設けられ、ブレーカ32NはN相電圧線31Nに設けられる。ブレーカ34PはP相電圧線33Pに設けられ、ブレーカ34NはN相電圧線33Nに設けられる。
【0031】
電力変換器20は、IGBT(絶縁ゲートバイポーラトランジスタ:Insulated Gate Bipolar Transistor)などのスイッチング素子21a〜21dと、平滑用のリアクトル22と、平滑用のコンデンサ23とを含む。スイッチング素子21a〜21dによって単相ブリッジ回路が構成される。より詳しくは、スイッチング素子21a,21bはこの順で正極側のノード24Pと負極側のノード24Nとの間に接続され、スイッチング素子21a,21bの接続ノードにu相電圧線11uが接続される。スイッチング素子21c,21dはこの順で正極側のノード24Pと負極側のノード24Nとの間に接続され、スイッチング素子21c,21dの接続ノードにv相電圧線11vが接続される。平滑用のリアクトル22は正極側のノード24PとP相電圧線31P,33Pとの間に接続され、平滑用のコンデンサ23はリアクトル22と負極側のノード24Nとの間に接続される。
【0032】
電力変換器20は、各スイッチング素子のスイッチングのタイミングが制御部(図示省略)によって制御されることによって、双方向の電力変換器として動作する。すなわち、電力変換器20は、交流電力を直流電力に変換する場合(順変換)には全波整流回路として動作し、直流電力を交流電力に変換する場合(逆変換)にはインバータ回路として動作する。たとえば、図1に示す配電系統の場合には、直流負荷35の消費電力が直流電源36の発電電力よりも大きいときには、不足分に相当する交流電力が電力変換器20によって直流電力に変換されて直流回路30に供給される。逆に直流電源36の発電電力が直流負荷35の消費電力よりも大きい場合には、余剰の直流電力が電力変換器20によって交流電力に変換されて交流回路10に供給される。
【0033】
直流回路30での漏電を検出するために、図1の配電系統には漏電検出装置Fa,Fdが設けられる。漏電検出装置Fa,Fdは、電力変換器20の変換動作によって直流回路30側に生じる交流電圧の周波数と同じ周波数の電流成分を検出する。具体的には、漏電検出装置Fa,Fdは、電力変換器20が全波整流回路として動作する場合のリップルに起因する第2調波電流または偶数調波電流を検出する。さらに、漏電検出装置Fa,Fdは、電力変換器20がPWM(パルス幅変調:Pulse Width Modulation)方式の電力変換回路として動作する場合に生じるPWMのキャリア周波数の電流成分を検出する。
【0034】
漏電検出装置Faは、電力変換器20の交流側の受電点付近に設けられる。漏電検出装置Faは、零相変流器(ZCT:Zero-phase Current Transformer)41と、検出回路42とを含む。検出回路42は、零相変流器41によって検出された交流電流に基づいて直流回路30での漏電を検出する。たとえば、検出回路42は、零相変流器41によって検出された交流電流のうち第2調波の電流成分の大きさが所定の基準値を超えたことによって、直流回路30の漏電を検知する。検出回路42についての詳細は、図7〜図10を参照して後述する。
【0035】
漏電検出装置Fdは、各直流回線で電力変換器20に近接した位置に設けられる。各直流回線がさらに複数に分岐している場合には、複数ある分岐点のうちの要所にも設けられる。漏電検出装置Fdは、変流器(CT:Current Transformer)43P,43Nと検出回路44とを含む。変流器43PはP相電圧線31Pに設けられ、変流器43NはN相電圧線31Nに設けられる。検出回路44は、変流器43P,43Nによって検出された交流電流に基づいて直流回路30での漏電を検出する。たとえば、検出回路44は、変流器43Pによって検出された交流電流のうち第2調波の電流成分の大きさが所定の基準値を超えたことによって、正極側の電圧線31Pの漏電を検知する。さらに、検出回路44は、変流器43Nによって検出された交流電流のうち第2調波電流成分の大きさが所定の基準値を超えたことによって、負極側の電圧線31Nの漏電を検知する。検出回路44の詳細な構成は検出回路42と同様であり、図7〜図10を参照して後述する。
【0036】
直流回路30に設けられた漏電検出装置Fdでは、各相の変流器43P,43Nに代えて、零相変流器(ZCT)を設けてもよい。ただし、零相変流器(ZCT)の場合には、正極側のP相電圧線で漏電が発生した場合と負極側のN相電圧線で漏電が発生した場合とを区別することができない。交流回路10に設けられた漏電検出装置Faにおいて、零相変流器41に代えて相ごとの変流器を設けることは可能である。しかしながら、交流回路10では、検出すべき特定周波数の交流電流成分は各相の基本波の電流成分に重畳しているので、特定の交流電流成分のみを精度良く検出することは容易でない。
【0037】
図2は、図1の配電系統において漏電検出装置Fa,Fdの配置の詳細を説明するための図である。
【0038】
図2を参照して、直流回路30の配電線路29は、電力変換器20に接続された直流母線39と、直流母線39から分岐された直流回線31,33,38と、直流電源36と、直流負荷35,37とを含む。直流電源36は直流回線33の末端に接続され、直流負荷35,37はそれぞれ直流回線31,38の末端に接続される。電力変換器20の交流回路10側の構成については図1と同じであるので、同一または相当する部分には同一の参照符号を付して説明を繰返さない。
【0039】
図2に示すように、漏電検出装置Faは電力変換器20の交流側の受電点付近に設けられる。これによって、直流回路30で漏電が発生したことを検出することができる。漏電検出装置Fd1,Fd2,Fd3(総称する場合に、漏電検出装置Fdと称する)は、直流回線33,31,38にそれぞれ対応し、対応の直流回線上で直流母線39に近い位置に設けられる。これによって、いずれの直流回線において漏電が生じているかを容易に検出することができる。
【0040】
[直流回路の漏電検出原理]
表1は、地絡事故が生じていない健全時に、単相交流用の電力変換器の変換動作によって交流回路側および直流回路側に生じる交流電圧(交流電流)の周波数についてまとめたものである。
【0041】
【表1】

【0042】
表1には、配電方式が、図1のように中性点が接地された単相3線式の場合と、図1と異なり一相が接地された単相2線式の場合とが示されている。いずれの配電方式の場合にも、電力変換器の交流回路側には配電系統の基本波の成分と奇数調波の成分とが生じる。電力変換器がPWM方式で電力変換を行なう場合には、基本波の成分とPWMのキャリア周波数の成分とが生じる。
【0043】
一方、電力変換器の直流回路側に生じる交流電圧(交流電流)の周波数は配電方式によって異なる。すなわち、中性点が接地された単相3線式の場合には2n調波(nは1以上の整数)の成分が生じ、一相が接地された単相2線式の場合には基本波の成分が生じる。電力変換器がPWM方式の電力変換を行なう場合には、直流回路側には配電方式によらずPWMのキャリア周波数の成分が生じる。このように配電方式によって直流回路側に生じる交流電圧(交流電流)の周波数が異なる理由を次に説明する。
【0044】
図3、図4は、電力変換器が順変換を行なう場合に直流回路側に生じる交流電圧の周波数について説明するための図である。図3は、中性線が接地された単相3線式の配電線路に電力変換器が接続された場合を示し、図4は、一相が接地された単相2線式の配電線路に電力変換器が接続された場合を示す。
【0045】
図3(A)のグラフは、単相3線式の交流配電線路のu相、v相の電圧波形を示す。縦軸に示す電圧の値は、各相の電圧の振幅を1として規格化したものであり、横軸に示す時間は、基本波の周期を1として規格化したものである。図3(B)、(C)のグラフは、図3(A)の交流電圧を全波整流することによって得られるP相、N相の電圧波形を示す。ただし、実際の回路では、図1に示すように平滑用のリアクトル22と平滑用のコンデンサ23とが設けられているので、直流回路の配電線路の各相の電圧波形は、直流電圧に交流電圧が重畳した波形になる。図3(B)、(C)に示すように、P相、N相のいずれについても全波整流後の電圧波形は1周期に正弦波半波が2つ入る形状となっている。この波形をフーリエ解析すると2n調波(nは1以上の整数)で構成されている。よって、直流回路側の生じる交流電圧は2n調波である。
【0046】
図4(A)のグラフは、v相が接地された単相2線式の交流配電線路の各相の電圧波形を示す。縦軸に示す電圧の値はu相の電圧の振幅を1として規格化したものであり、横軸に示す時間は基本波の周期を1として規格化したものである。図4(B)、(C)のグラフは、図4(A)の交流電圧を全波整流するときに得られるP相、N相の電圧波形を示す。ただし、実際の回路では、平滑用のリアクトルと平滑用のコンデンサとが設けられているので、直流回路の配電線路の各相の電圧波形は、直流電圧に交流電圧が重畳した波形になる。図4(B)、(C)に示すように、P相、N相のいずれについても全波整流後の電圧波形は1周期に正弦波半波が1つ入る形状となっている。この波形をフーリエ解析すると、基本波と2n調波(nは1以上の整数)で構成されている。よって、直流回路側に生じる交流電圧は基本波と2n調波で構成される。ここで、単相変圧器の仮想中性点の対地電圧は、P相電圧とN相電圧の和となる。この和をとることにより上述の2n調波電圧は相殺され、基本波成分だけが零相電圧として残る。したがって、直流回路側の事故時には、この基本波零相電圧を起電力として事故電流が流れる。
【0047】
上記では、交流電力を直流電力に変換する順変換(整流)の場合について説明したが、変換方向が逆変換の場合も順変換の場合と同様である。すなわち、変換方向によらず、表1に示す周波数の交流電圧(交流電流)が健全時の直流回路側と交流回路側とにそれぞれ生じる。
【0048】
直流回路で地絡事故(漏電)が発生した場合には、表1に示す各周波数の交流電流が地絡事故点と変圧器の接地極との間を大地を介して環流する。したがって、電力変換器20の変換動作によって健全時に交流回路側で生じた交流成分は、事故時には直流回路側においても観測され、電力変換器20の変換動作によって健全時に直流回路側で生じた交流成分は、事故時には交流回路側においても観測される。一方、交流回路側の事故時には、直流回路側に生じる交流成分による事故電流は流れない。
【0049】
実施の形態1の漏電検出装置では、直流回路側の事故時に特有の周波数の電流が流れるという上述の理由から、電力変換器の変換動作によって直流回路側に生じる交流電流を利用して漏電の検出を行なう。すなわち、単相3線式(中性点接地)の配電線路に電力変換器を介して接続された直流回路の漏電検出では、2n調波の電流成分またはPWMのキャリア周波数の電流成分が用いられる。単相2線式(一相接地)の配電線路に電力変換器を介して接続された直流回路の漏電検出では、基本波の電流成分またはPWMのキャリア周波数の電流成分が用いられる。ただし、後者の場合には、基本波では系統電圧と区別がつかないので、交流回路側には基本波を検出する漏電検出装置は設置されない。
【0050】
以下、図1に示す単相3線式の場合についてさらに詳しく説明する。
図5は、健全時の零相回路を示す図である。
【0051】
図1を参照して、たとえば、電力変換器20の順変換(整流)動作においては、u相電圧線11uがv相電圧線11vよりも高電位の場合には、スイッチング素子21a,21dがオン状態となり、スイッチング素子21b,21dがオフ状態になる。この場合、u相電圧線11uとP相電圧線31Pとがスイッチング素子21aを介して電気的に接続され、v相電圧線11vとN相電圧線31Nとがスイッチング素子21dを介して電気的に接続される。図5は、この場合に、u相電圧線11u、P相電圧線31P、大地GND、中性点5nの接地抵抗Rn、u相電圧線11uの対地静電容量Ca、およびP相電圧線31Pの対地静電容量Cdによって構成される零相回路を示したものである。
【0052】
図5の零相回路では、電力変換器20が発生する交流零相電圧(コモンモード電圧)V2n,Vcによってそれぞれ零相電流I2n,Icが流れる。ここで、交流零相電圧V2nは、電力変換器20が単相整流回路として動作するときのリップルに対応し、その周波数は電力系統1の基本波に対する2n調波(nは1以上の整数)である。交流零相電圧Vcは、電力変換器20がPWM方式の電力変換器として動作するときの搬送波(キャリア)に対応し、キャリア周波数を有する。
【0053】
電力系統1の基本波の角周波数をωとすると、変圧器2の中性点5nの接地抵抗Rnと対地静電容量Ca,Cdによる第2n調波のインピーダンスとの関係は、一般的に、
2×Rn<<1/(2n×ω×Cd) …(1)
2×Rn<<1/(2n×ω×Ca) …(2)
のようになっている。上式(1)、(2)において、記号「<<」は左辺が右辺に比べて無視できるほど小さいことを表わす。したがって、零相電流I2nは近似的に、
I2n=2n×ω×Cd×V2n …(3)
と表わされる。接地抵抗Rnと、対地静電容量Ca,Cdによるキャリアの角周波数ωcのインピーダンスとの関係についても、上式(1)、(2)と同様になっているので、零相電流Icは近似的に、
Ic=ωc×Cd×Vc …(4)
と表わされる。
【0054】
同様に、v相電圧線11v、N相電圧線31N、大地GND、中性点5nの接地抵抗Rn、v相電圧線11vの対地静電容量Ca、およびN相電圧線31Nの対地静電容量Cdによって構成される零相回路においても、式(3)、(4)で表わされる零相電流I2n,Icが流れる。ただし、この零相回路における零相電流I2n,Icの方向は図5の零相回路と逆になる。したがって、零相電流I2n,Icは零相変流器では検出されない。
【0055】
図6は、直流回路で地絡事故が生じた場合の零相回路を示す図である。図6では、直流回線の回線数をmとし、そのうちの1つである直流回線31のP相で地絡事故が生じた場合の零相回路が示される。なお、図6には、漏電検出装置Fa,Fdの配置も示されている。ただし、図6の漏電検出装置Fdでは、図1の変流器43P,43Nに代えて、零相変流器45が設けられている。
【0056】
図1の直流回線31で地絡事故が生じた場合、零相電流I2n,Icは、直流事故回線31、地絡抵抗Rdg、大地GND、変圧器2の中性点5nの接地抵抗Rn、および交流側の配電線路11の順で環流する。この結果、事故回線31のP相電圧線31Pを流れる零相電流I2n,Icが健全時よりも増加する。したがって、漏電検出装置Fdに設けられた零相変流器(ZCT)または各相変流器(CT)のいずれによっても零相電流I2n,Icの増加が検出される。さらに、零相電流I2n,Icは、変圧器2の中性点5nと地絡事故点との間を環流するので、P相電圧線31Pと接続された交流回路10においても零相電流I2n,Icの増加が検出される。
【0057】
具体的な零相電流I2nの値は次式(5)、(6)で与えられる。ただし、式(5)、(6)において、虚数単位をjとし、直流回線数をmとしている。零相電流Icは、式(5)でV2nをVcに代え、式(6)で2n×ωをωcに代えることによって得られる。
【0058】
I2n=V2n/(2×Rn+1/Ydg) …(5)
Ydg=1/(2×Rdg)+j×2n×ω×Cd/m …(6)
上記の零相電流I2n,Icは、直流回路30の地絡事故における固有の現象として現われる。したがって、この零相電流I2n,Icを零相変流器または各相ごとの変流器で検出することによって、直流回路の漏電を容易かつ低コストに検知することができる。
【0059】
[漏電検出回路の構成および動作]
以下では、交流回路10に設けられた検出回路42の構成および動作を代表として説明するが、直流回路30に設けられた検出回路44の構成および動作も同様である。
【0060】
図7は、検出回路42の詳細な構成の一例を示すブロック図である。図7を参照して、検出回路42は、電流計71、増幅回路72、フィルタ回路73、整流回路74、比較器75、および参照電源76(参照電圧Vref)を含む。各構成要素の機能については、以下の検出回路42の動作説明の中で説明する。
【0061】
図8は、図7の検出回路42を用いた漏電検出手順を示すフローチャートである。
図7、図8を参照して、図8のステップS1で、零相変流器41と接続された電流計71によって、配電線路11を流れる零相の交流電流が測定される。電流計71によって測定された交流電流信号は増幅回路72によって増幅される。
【0062】
次のステップS2で、フィルタ回路73は、増幅回路72によって増幅された交流電流信号のうち検出すべき特定周波数の信号成分のみを通過させる。この場合、フィルタ回路73は、電力系統の基本波に対する第2調波の信号成分を通過させるバンドパスフィルタとして構成されてもよいし、PWMのキャリア周波数の信号成分を通過させるバンドパスフィルタとして構成されてもよいし、これらを組合せたものであってもよい。あるいは、フィルタ回路73は、基本波よりも周波数の高い信号成分を通過させるハイパスフィルタとして構成されてもよい。
【0063】
次のステップS3で、フィルタ回路73を通過した信号成分は整流回路74によって整流される。これによって、フィルタ回路73を通過した電流信号成分の大きさが検出される。
【0064】
次のステップS4で、比較器75は、整流回路74から出力された直流信号が参照電圧Vrefを超えているか否かを判定する。整流回路74から出力された直流信号が参照電圧Vrefを超えた場合(ステップS4でYES)、比較器75はハイレベルの信号を出力する。すなわち、図1の直流回路30で漏電が生じたことが検出される(ステップS5)。この検出回路42の出力を受けて、図1のブレーカ12u,12vがオフ状態になる。直流回線31に設けられた漏電検出装置Fdの場合には、検出回路44の出力を受けた事故回線のブレーカ32P,32Nがオフ状態になる。
【0065】
このように、図7の検出回路42は、2n調波またはキャリア周波数の交流電流成分の大きさが基準値を超えたことによって漏電を検知する。図7の比較器75の後段にさらにタイマ回路を設けて、比較器75がハイレベルの信号を出力する時間を測定するようにしてもよい。この場合、検出回路42は、特定の周波数の交流電流成分の大きさが所定の基準値を超えた状態が所定の時間継続したことによって漏電と判定する。
【0066】
[検出回路の変形例]
図9は、図7の検出回路42の変形例としての検出回路42Aの構成を示すブロック図である。以下では、検出回路42の変形例の構成および動作を代表として説明するが、検出回路44の変形例の構成および動作も同様である。
【0067】
図9の検出回路42Aでは、零相変流器41が検出した交流電流信号に同期するパルス信号が生成され、生成されたパルス信号を利用して直流回路30における漏電が検知される点に特徴がある。これによって、図7の場合のようなフィルタ回路を用いずに零相変流器41によって検出された交流電流信号が電力系統の基本波に対する第2調波の電流成分であるか否かを容易に判定することができる。
【0068】
図9に示すように、検出回路42Aは、電流計51、増幅回路52、波形整形回路53、パルス生成回路54、繰り返し数カウンタ55、整流回路56、比較器57、参照電源58(参照電圧Vref)、基準クロック生成回路59、ゲート回路60、時間カウンタ61、およびCPU(Central Processing Unit)62を含む。各構成要素の機能については、以下の検出回路42Aの動作説明の中で説明する。
【0069】
図10は、図9の検出回路42Aを用いた漏電検出手順を示すフローチャートである。
図9、図10を参照して、図10のステップS11で、零相変流器41に接続された電流計51によって配電線路11を流れる零相の交流電流が測定される。電流計51によって測定された交流電流信号は増幅回路52によって増幅される。
【0070】
次のステップS12で、波形整形回路53は、増幅回路52によって増幅された交流電流信号を矩形波列に整形する。続いて、パルス生成回路54は、波形整形回路53から出力された矩形波列に基づいて交流電流信号に同期したパルス信号を生成する。
【0071】
次のステップS13で、繰り返し数カウンタ55は、パルス生成回路54から出力されたパルス信号のパルス数をカウントする。
【0072】
上記のステップS12,S13と並行して、整流回路56は、増幅回路52によって増幅された交流電流信号を整流する。これによって電流計51によって測定された交流電流信号の大きさが検出される。
【0073】
次のステップS14で、比較器57は、整流回路56から出力された直流信号が参照電圧Vrefを超えているか否かを判定する。比較器57は、整流回路74から出力された直流信号が参照電圧Vrefを超えている場合(ステップS14でYES)、ハイレベルの信号をゲート回路60およびCPU62に出力する。
【0074】
ゲート回路60は、比較器57からハイレベルの信号を受けている間、オン状態となって基準クロック生成回路59で生成された基準クロックパルスを通過させる。時間カウンタ61は、ゲート回路60を通過した基準クロックパルスのパルス数をカウントすることによって経過時間を計測する。
【0075】
CPU62は、比較器57、繰り返し数カウンタ55、および時間カウンタ61の出力を受ける。
【0076】
ステップS15で、CPU62は、パルス生成回路54で生成されたパルス信号の周期を算出する。具体的には、CPU62は、比較器57の出力電圧がハイレベルの場合に、時間カウンタ61によるカウント数を繰り返し数カウンタ55によるカウント数で除し、その除算結果に基準クロックパルスの周期を掛けることによってパルス信号の周期を算出する。
【0077】
次のステップS16で、CPU62は、パルス生成回路54で生成されたパルス信号の周期が電力系統1の基本波の周期の半分であるか否か、すなわち、零相変流器41で検出された電流信号が電力系統の基本波に対する第2調波の信号であるか否かを判定する。
【0078】
次のステップS17で、CPU62は、比較器57の出力電圧がハイレベルの場合に繰り返し数カウンタ55によってカウントされたカウント数が、所定数を超えたか否かを判定する。この結果、零相変流器41で検出された交流電流の大きさが所定の基準値を超えた状態が所定の時間継続したか否かが判定される。
【0079】
CPU62は、ステップS14,S16,S17の判定結果がいずれもYESの場合、すなわち、零相変流器41で検出された交流電流の大きさが所定の基準値を超え、かつパルス信号の周期が電力系統の基本波の周期の半分であり、かつパルス信号のパルス数が所定数を超えた場合に、漏電と判定する(ステップS18)。CPU62の漏電判定の結果を受けて、図1のブレーカ12u,12vがオフ状態になる。直流回線31に設けられた漏電検出装置Fdの場合には、検出回路44の出力を受けて事故回線のブレーカ32P,32Nがオフ状態になる。
【0080】
<実施の形態2>
実施の形態2では、実施の形態1の直流回路の漏電検出装置Fa,Fdを、交流回路が三相の場合に適用した例について説明する。
【0081】
図11は、この発明の実施の形態2による漏電検出装置Fa,Fdが適用される配電系統の構成図である。図11の配電系統は、Y結線の三相変圧器102を介して上位の電力系統101と接続された三相3線式(または三相4線式)の交流回路110と、直流回路30と、交流回路110と直流回路とを接続する双方向の電力変換器120とを含む。変圧器102の2次側の中性点105nは接地されている。
【0082】
交流回路110は、変圧器102の2次側から引き出されて電力変換器120に接続されたY結線三相3線式(三相4線式)の配電線路11(11u,11v,11w)と、u相、v相、w相の電圧線11u,11v,11wにそれぞれ設けられたブレーカ12u,12v,12wとを含む。直流回路30の構成は図1の場合と同じである。ただし、図11では直流回線33の図示が省略されている。
【0083】
電力変換器120は、IGBTなどのスイッチング素子21a〜21fと、平滑用のリアクトル22と、平滑用のコンデンサ23とを含む。スイッチング素子21a〜21fによって三相ブリッジ回路が構成される。このような構成の電力変換器120が全波整流回路として動作する場合には、電力変換器120の直流回路側には電力系統101の基本波に対する3n調波(nは1以上の整数)の交流零相電圧V3nが生じる。電力変換器120がPWM方式の場合には、キャリア周波数の交流零相電圧Vcが生じる。図11の漏電検出装置Fa,Fdの検出回路42a,44aは、交流零相電圧V3n,Vcによって生じた3n調波またはキャリア周波数の零相電流を検出する。これによって、直流回路30の漏電を検出することができる。
【0084】
図12は、電力変換器が順変換を行なう場合に直流回路側に生じる交流電圧の周波数について説明するための図である。図12は、中性点の接地されたY結線単相3線式または4線式の配電線路に電力変換器が接続された場合を示す。
【0085】
図12(A)のグラフは、三相3線式の交流配電線路のu相、v相、w層の電圧波形を示す。縦軸に示す電圧の値は、各相の電圧の振幅を1として規格化したものであり、横軸に示す時間は、基本波の周期を1として規格化したものである。図12(B)のグラフは、図12(A)の交流電圧を全波整流するときに得られるP相、N相の電圧波形を示す。ただし、実際の回路では、図11に示すように平滑用のリアクトル22と平滑用のコンデンサ23とが設けられているので、直流回路の配電線路の各相の電圧波形は、直流電圧に交流電圧が重畳した波形になる。図12(B)に示すように、P相、N相のいずれについても全波整流後の電圧波形は1周期に正弦波半波が3つ入る形状となっている。この波形をフーリエ解析すると3n調波で構成されている。よって、直流回路側の生じる交流電圧は3n調波である。
【0086】
このように配電系統が中性点の接地されたY結線三相方式に場合には、漏電検出装置Fa,Fdによって検出する電流信号が2n調波ではなく3n調波になる。したがって、図7、図8で説明した検出回路42のフィルタ回路73は、3n調波の信号成分を取り出す。図9、図10で説明した検出回路42AのCPU62は、パルス生成回路54で生成されたパルス信号の周期が電力系統1の基本波の周期の1/3であるか否かを判定する。その他の点は、実施の形態1の場合と同様であるので、詳しい説明を繰返さない。
【0087】
電力変換器の変換動作によって健全時に直流回路側に生じる交流電圧の周波数は、交流回路の配電方式によって異なる。表2は、三相交流用の電力変換器の変換動作によって健全時に交流回路側および直流回路側に生じる交流電圧(交流電流)の周波数についてまとめたものである。
【0088】
【表2】

【0089】
表2には、既に説明したY結線三相3線式(中性点接地)の場合と、V結線三相4線式の場合と、Δ結線三相3線式(一相接地)の場合とが示されている。いずれの配電方式の場合にも、電力変換器の交流回路側には配電系統の基本波の成分と奇数調波の成分とが生じる。ただし、三相交流回路の対称性のために奇数調波のうち3n調波(nは1以上の整数)の成分は生じない。電力変換器がPWM方式の電力変換を行なう場合には、基本波の成分とPWMのキャリア周波数の成分とが生じる。
【0090】
一方、電力変換器の直流回路側に生じる交流電圧(交流電流)の周波数は配電方式によって異なる場合がある。すなわち、既に説明した中性点が接地されたY結線三相3線式の場合と、電灯動力共用変圧器の中性点が接地されたV結線三相4線式の場合には3n調波(nは1以上の整数)の成分が生じる。一相が接地されたΔ結線三相3線式の場合には基本波の成分が生じる。電力変換器がPWM方式の電力変換を行なう場合には、直流回路側には配電方式によらずPWMのキャリア周波数の成分が生じる。
【0091】
図13は、V結線三相4線式の配電線路を示す図である。V結線の変圧器202は、動力専用変圧器Tmと電灯動力共用変圧器Tlとによって構成される。u相電圧線は動力専用変圧器Tmの二次巻線の一端202uに接続され、w相電圧線は電灯動力共用変圧器Tlの二次巻線の一端202wに接続される。v相電圧線は両変圧器Tm,Tlの2次巻線の接続点202vに接続される。中性線(n相)は電灯動力共用変圧器Tlの中性点202nに接続される。中性点202nは接地される(簡単のために、接地抵抗をRn=0とする)。
【0092】
図14は、図13に示す交流配電線路に接続された三相の電力変換器が順変換を行なう場合に、直流回路側に生じる交流電圧の周波数について説明するための図である。
【0093】
図14(A)のグラフは、V結線三相4線式の交流配電線路のu相、v相、w層の電圧波形を示す。縦軸に示す電圧の値は、Y結線の場合の中性点と各相との間の電圧の振幅を1として規格化したものであり、横軸に示す時間は、基本波の周期を1として規格化したものである。図14(B)のグラフは、図14(A)の交流電圧を全波整流したときのP相、N相の電圧波形を示す。ただし、実際の回路では、平滑用のリアクトルと平滑用のコンデンサとが設けられているので、直流回路の配電線路の各相の電圧波形は、直流電圧に交流電圧が重畳した波形になる。図14(B)に示すように、P相、N相のいずれについても全波整流後の電圧波形は1周期に正弦波半波が3つ入る形状となっている。この波形をフーリエ解析すると3n調波で構成されている。よって、直流回路側の生じる交流電圧は3n調波である。
【0094】
図15は、Δ結線三相3線式の配電線路を示す図である。図15に示すように変圧器302の2次側のv相が接地されているとする(簡単のために、接地抵抗をRn=0とする)。
【0095】
図16は、図15に示す交流配電線路に接続された三相の電力変換器が順変換を行なう場合に、直流回路側に生じる交流電圧の周波数について説明するための図である。
【0096】
図16(A)のグラフは、Δ結線三相3線式の交流配電線路のu相、v相、w層の電圧波形を示す。縦軸に示す電圧の値はY結線の場合の中性点と各相との間の電圧の振幅を1として規格化したものであり、横軸に示す時間は基本波の周期を1として規格化したものである。図16(B)のグラフは、図16(A)の交流電圧を全波整流したときのP相、N相の電圧波形を示す。ただし、実際の回路では、平滑用のリアクトルと平滑用のコンデンサとが設けられているので、直流回路の配電線路の各相の電圧波形は、直流電圧に交流電圧が重畳した波形になる。図16(B)に示すように、P相、N相のいずれについても全波整流後の電圧波形は1周期に正弦波半波が2つ入る形状になっている。この波形をフーリエ解析すると基本波と2n調波で構成される。よって、直流回路側に生じる交流電圧は基本波と2n調波で構成される。ここで、Δ結線内の仮想中性点の対地電圧は、図16のP相電圧とN相電圧の和となる。この和をとることにより上述の2n調波電圧は相殺され、基本波成分だけが零相電圧として残る。したがって、直流回路側の事故時には、この基本波零相電圧を起電力として事故電流が流れる。
【0097】
上記では、交流電力を直流電力に変換する順変換(整流)の場合について説明したが、変換方向が逆変換の場合も順変換の場合と同様である。すなわち、変換方向によらず、表2に示す周波数の交流電圧(交流電流)が健全時の直流回路側と交流回路側とにそれぞれ生じる。
【0098】
直流回路で地絡事故(漏電)が発生した場合には、表2に示す各周波数の交流電流が地絡事故点と変圧器の接地極との間を大地を介して環流する。したがって、電力変換器20の変換動作によって健全時に交流回路側に生じる交流成分は、事故時には直流回路側においても観測され、電力変換器20の変換動作によって健全時に直流回路側に生じる交流成分は、事故時には交流回路側においても観測される。一方、交流回路側の事故時には、直流回路側に生じる交流成分による事故電流は流れない。
【0099】
実施の形態2の漏電検出装置では、直流回路側の事故時に特有の周波数の電流が流れるという上述の理由から、電力変換器の変換動作によって健全時に直流回路側も生じる交流電流を利用して漏電の検出を行なう。すなわち、中性点が接地されたY結線三相3線式(4線式)またはV結線三相4線式の配電線路に電力変換器を介して接続された直流回路の漏電検出では、3n調波電流またはPWMのキャリア周波数の電流成分が用いられる。一相が接地されたΔ結線三相3線式の配電線路に電力変換器を介して接続された直流回路の漏電検出では、基本波の電流またはPWMのキャリア周波数の電流成分が用いられる。ただし、Δ結線三相3線式の場合には、系統電圧と区別がつかないので、交流回路側には漏電検出装置は設置されない。
【0100】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものでないと考えられるべきである。この発明の範囲は上記した説明ではなくて請求の範囲によって示され、請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0101】
1,101 電力系統、2,102 変圧器、5n 中性点、10 交流回路、11 配電線路、11n 中性線、11u,111u u相電圧線、11v,111v v相電圧線、111w w相電圧線、31P,33P P相電圧線、31N,33N N相電圧線、20 電力変換器、30 直流回路、31,33,38 直流回線、39 直流母線、41,45 零相変流器、42,42A,44 検出回路、43P,43N 変流器、Ca,Cd 対地静電容量、Fa,Fd,Fd1〜Fd3 漏電検出装置、GND 大地、I2n,I2n,Ic 零相電流、Rdg 地絡抵抗、Rn 接地抵抗。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
交流回路に電力変換器を介して接続された直流回路の漏電検出装置であって、
前記交流回路は、2次側が接地された変圧器を介して上位の電力系統と接続され、
前記変圧器と前記直流回路の想定される地絡事故点との間の電流経路のいずれかの箇所に設けられた交流電流センサと、
前記交流電流センサによって検出された交流電流のうち、前記電力変換器の変換動作によって前記直流回路側に生じる交流電圧の周波数と同じ周波数の電流成分に基づいて前記直流回路の漏電の有無を判定する判定部とを備えた直流回路の漏電検出装置。
【請求項2】
前記交流電流センサは、前記直流回路の配電線路に設けられた零相変流器である、請求項1に記載の直流回路の漏電検出装置。
【請求項3】
前記交流電流センサは、前記直流回路の配電線路の各相に設けられた変流器である、請求項1に記載の直流回路の漏電検出装置。
【請求項4】
前記交流電流センサは、前記交流回路の配電線路に設けられた零相変流器である、請求項1に記載の直流回路の漏電検出装置。
【請求項5】
前記交流回路の配電線路は、中性点が接地された単相3線式であり、
前記電流成分は、前記電力系統の基本波に対する2n調波(nは1以上の整数)の電流である、請求項2〜4のいずれか1項に記載の直流回路の漏電検出装置。
【請求項6】
前記交流回路の配電線路は、一相が接地された単相2線式であり、
前記電流成分は、前記電力系統の基本波の電流である、請求項2または3に記載の直流回路の漏電検出装置。
【請求項7】
前記交流回路の配電線路は、中性点が接地されたY結線三相3線式または4線式であり、
前記電流成分は、前記電力系統の基本波に対する3n調波(nは1以上の整数)の電流である、請求項2〜4のいずれか1項に記載の直流回路の漏電検出装置。
【請求項8】
前記交流回路の配電線路は、電灯動力共用変圧器の中性点が接地されたV結線三相4線式であり、
前記電力変換器は、前記交流回路の配電線路を介して三相交流電力を受け、
前記電流成分は、前記電力系統の基本波に対する3n調波(nは1以上の整数)の電流である、請求項2〜4のいずれか1項に記載の直流回路の漏電検出装置。
【請求項9】
前記交流回路の配電線路は、一相が接地されたΔ結線三相3線式であり、
前記電流成分は、前記電力系統の基本波の電流である、請求項2または3に記載の直流回路の漏電検出装置。
【請求項10】
前記電力変換器は、パルス幅変調によって直流電力と交流電力とを相互に変換し、
前記電流成分は、前記パルス幅変調に用いる搬送波の周波数を有する、請求項2〜4のいずれか1項に記載の直流回路の漏電検出装置。
【請求項11】
前記漏電検出装置は、前記交流電流センサによって検出された交流電流のうち、前記電流成分を取り出すバンドパスフィルタをさらに備え、
前記判定部は、前記バンドパスフィルタの出力に基づいて前記直流回路の漏電の有無を判定する、請求項1〜10のいずれか1項に記載の漏電検出装置。
【請求項12】
前記漏電検出装置は、前記交流電流センサによって検出された交流電流のうち、前記電流成分を通過させかつ前記電力系統の基本波成分を取除くハイパスフィルタをさらに備え、
前記判定部は、前記ハイパスフィルタの出力に基づいて前記直流回路の漏電の有無を判定する、請求項1〜10のいずれか1項に記載の漏電検出装置。
【請求項13】
前記判定部は、前記電流成分の大きさが所定の基準値を超えた場合に漏電と判定する、請求項1〜12のいずれか1項に記載の直流回路の漏電検出装置。
【請求項14】
前記判定部は、前記電流成分の大きさが所定の基準値を超えた状態が所定の時間継続した場合に漏電と判定する、請求項1〜12のいずれか1項に記載の直流回路の漏電検出装置。
【請求項15】
前記漏電検出装置は、前記交流電流センサによって検出された交流電流と同期するパルス信号を生成するパルス信号生成部をさらに備え、
前記判定部は、前記交流電流センサによって検出された交流電流の大きさが所定の基準値を超え、かつ前記パルス信号の周期が前記電力系統の基本波の周期の半分である場合に漏電と判定する、請求項5に記載の直流回路の漏電検出装置。
【請求項16】
前記漏電検出装置は、前記交流電流センサによって検出された交流電流と同期するパルス信号を生成するパルス信号生成部をさらに備え、
前記判定部は、前記交流電流センサによって検出された交流電流の大きさが所定の基準値を超え、かつ前記パルス信号の周期が前記電力系統の基本波の周期の1/3である場合に漏電と判定する、請求項7または8に記載の直流回路の漏電検出装置。
【請求項17】
前記漏電検出装置は、
前記交流電流センサによって検出された交流電流と同期するパルス信号を生成するパルス信号生成部と、
前記パルス信号のパルス数をカウントするカウンタとをさらに備え、
前記判定部は、前記交流電流センサによって検出された交流電流の大きさが所定の基準値を超え、かつ前記パルス信号の周期が前記電力系統の基本波の周期の半分であり、かつ前記パルス信号のパルス数が所定数を超えた場合に漏電と判定する、請求項5に記載の直流回路の漏電検出装置。
【請求項18】
前記漏電検出装置は、
前記交流電流センサによって検出された交流電流と同期するパルス信号を生成するパルス信号生成部と、
前記パルス信号のパルス数をカウントするカウンタとをさらに備え、
前記判定部は、前記交流電流センサによって検出された交流電流の大きさが所定の基準値を超え、かつ前記パルス信号の周期が前記電力系統の基本波の周期の1/3であり、かつ前記パルス信号のパルス数が所定数を超えた場合に漏電と判定する、請求項7または8に記載の直流回路の漏電検出装置。
【請求項19】
前記直流回路の配電線路は、
前記電力変換器に接続された直流母線と、
前記直流母線から分岐された複数の直流回線とを含み、
前記漏電検出装置は、前記複数の直流回線の各々に設けられ、
前記判定部は、対応の交流電流センサによって検出された交流電流に基づいて、対応の直流回線の漏電の有無を判定する、請求項2または3に記載の直流回路の漏電検出装置。
【請求項20】
交流回路に電力変換器を介して接続された直流回路の漏電検出方法であって、
前記交流回路は、2次側が接地された変圧器を介して上位の電力系統と接続され、
前記変圧器と前記直流回路の想定される地絡事故点との間の電流経路のいずれかの箇所における交流電流を検出するステップと、
前記検出された交流電流のうち、前記電力変換器の変換動作によって前記直流回路側に生じる交流電圧の周波数と同じ周波数の電流成分に基づいて前記直流回路の漏電の有無を判定するステップとを備えた直流回路の漏電検出方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2011−196729(P2011−196729A)
【公開日】平成23年10月6日(2011.10.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−61725(P2010−61725)
【出願日】平成22年3月18日(2010.3.18)
【出願人】(000156938)関西電力株式会社 (1,442)
【出願人】(000214560)長谷川電機工業株式会社 (25)
【Fターム(参考)】