説明

真空バルブ用接点材料

【課題】導電成分と耐弧成分の組成のバラツキを抑え、遮断特性を向上し得る接点材料を提供する。
【解決手段】Ag、Cuの少なくとも1種類からなる導電成分と、炭化物の耐弧成分と、必要により補助成分を添加した接離自在の一対の接点5、6を有する真空バルブに用いられる接点材料において、接点5、6を構成する接点材料は、導電成分、耐弧成分、補助成分のそれぞれの平均粒径の差が50%以内で同等であるとともに、合金中において、耐弧成分と化合していないカーボン、所謂、非金属カーボン化合物が0.05mass%以下であることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、低サージ形真空遮断器に使用される真空バルブ用接点材料に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、真空遮断器の開閉時に発生するサージ電圧を抑制するため、Ag−WC系接点材料が用いられることが知られている。この合金は、WCの熱電子放出とAgの適度な蒸気圧との相乗的な効果によって裁断電流値を低減するとされている。Ag−WC接点は、原料Ag粉末と原料WC粉末を出発材料とし、混合、加圧、焼結の工程を経て製造される(例えば、特許文献1参照。)。また、カーボン化合物を混合し、裁断特性を向上させたものが知られている(例えば、特許文献2参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−19481号公報
【特許文献2】特開平10−245652号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記の従来のAg−WC系の真空バルブ用接点材料においては、次のような問題がある。Ag粉末とWC粉末の粒径が所定以上に大きく異なっていると、裁断特性にバラツキが発生し、結果的に遮断特性が低下してしまう。例えば、混合時では、大きい粒子の間に小さな粒子が入り込み、均一な混合が困難となり、組成にバラツキを生じる。また、加圧時や焼結時では、加圧力の伝搬阻害や、焼結後の縮みの不均一から密度向上が抑制される。
【0005】
また、カーボンを混合するものでは、Wのような金属成分と化合物を形成していないもの、所謂、カーボン単体、O(酸素)やH(水素)と結合した気体成分が内包されていると、遮断特性を低下させる。このようなカーボンは、遮断時に接点間に浮遊し、絶縁破壊を起こすとされている。
【0006】
本発明は上記問題を解決するためになされたもので、遮断特性を向上し得る真空バルブ用接点材料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、実施形態の真空バルブ用接点材料は、Ag、Cuの少なくとも1種類からなる導電成分と、炭化物の耐弧成分と、必要により補助成分を添加した真空バルブ用接点材料において、前記導電成分、前記耐弧成分、前記補助成分のそれぞれの平均粒径が同等であるとともに、合金中の非金属カーボン化合物が0.05mass%以下であることを特徴とする。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明の実施例に係る真空バルブの構成を示す断面図。
【図2】本発明の実施例に係る真空バルブの接点の構成を示す断面図。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面を参照して本発明の実施例を説明する。
【実施例】
【0010】
本発明の実施例に係る真空バルブ用接点材料を図1、図2を参照して説明する。図1は、本発明の実施例に係る真空バルブの構成を示す断面図、図2は、本発明の実施例に係る真空バルブの接点の構成を示す断面図である。
【0011】
先ず、接点材料が使用される真空バルブを図1を参照して説明する。筒状の真空絶縁容器1の両端開口部には、固定側封着金具2と可動側封着金具3が封着されている。固定側封着金具2には、中央部に固定側通電軸4が貫通固定され、その端部に固定側接点5が固着されている。固定側接点5に対向して、接離自在の可動側接点6が可動側封着金具3の中央開口部を移動自在に貫通する可動側通電軸7の端部に固着されている。可動側通電軸7の中間部には、伸縮自在の筒状のベローズ8の自由端が封着され、固定端が可動側封着金具3に封着されている。これにより、真空絶縁容器1内の真空を保ちながら、可動側通電軸7を軸方向に移動させることができる。また、固定側接点5と可動側接点6を包囲するように筒状のアークシールド9が設けられ、金属蒸気が真空絶縁容器1内面に付着することを防いでいる。
【0012】
次に、接点構成を固定側を例にとり説明する。図2に示すように、例えば縦磁界を発生させる電極10の一方端には固定側接点5がろう付け部11で固着され、他方端には固定側通電軸4がろう付け部11で固着されている。なお、可動側も同様の構成である。以下、このような接点5、6を構成する接点材料を説明する。
【0013】
(実施例1)
平均粒径2.5μmの導電成分のAg粉末と、平均粒径3μmの炭化物の耐弧成分のWC粉末を質量比1:1で混合し、Ag−50mass%WCを製造した。なお、原料WC粉末におけるWと化合物を形成していないカーボン(C)粉末は、0.07mass%であった。混合粉は、φ50mmの金型で7t/cmで成形し、圧粉体とした。これを真空雰囲気中で950℃×2時間の条件で固相焼結した。
【0014】
得られたAg−WC合金について、Wと化合物を形成していないカーボン量を湿式分析で測定した結果、0.04mass%であった。この量は、原料WC粉末に混入する量を抑えることにより、制御できる。
【0015】
次に、Ag−WC合金を所定形状(φ45mm×2mm)に機械加工し、真空バルブに組み込み、遮断特性を評価した。5kAから段階的に電流値を上げていき、最大遮断電流を測定した。この結果、従来と比べて約10%向上させることができた。従来とは、従来技術で説明した粒径6〜12μmと粒径0.8〜5μmのWCをAgマトリックス中に分散させた接点である。
【0016】
これは、AgとWCの平均粒径が同等であり、Wと化合物を形成していないカーボンが0.04mass%と少なかったためと考えられる。ここで、Agの平均粒径2.5μm、WCの平均粒径3μmであるが、平均粒径の差は50%以内であり、これを平均粒径が同等と称する。以降、実施例9までに用いたAg粉末、WC粉末、他の粉末の平均粒径の差は50%以内であるので同等と称する。また、Wと化合物を形成していないカーボンとは、カーボン単独で存在するもの(最も多い)、一酸化炭素(CO)や二酸化炭素(CO)のように気体で存在するもの、メタン(CH)のように有機化合物で存在するものをいう。これらをまとめて非金属カーボン化合物と称する。
【0017】
(実施例2)
平均粒径2μmのAg粉末と、平均粒径1.5μmおよび2μmのWC粉末を質量比4:1:5で混合し、Ag−60mass%WCを製造した。なお、原料WC粉末におけるWと化合物を形成していないカーボン(C)粉末は、1.5μmで0.08mass%、2μmで0.04mass%であった。混合粉は、φ50mmの金型で5t/cmで成形し、圧粉体とした。これを水素雰囲気中で1100℃×1時間の条件で液相焼結した。
【0018】
得られたAg−WC合金について、Wと化合物を形成していないカーボン量を湿式分析で測定した結果、0.03mass%であった。これにより、AgとWCの平均粒径が同等であり、Wと化合物を形成していないカーボンが少なく、遮断特性を向上させることができる。
【0019】
(実施例3)
平均粒径7μmのAg粉末と平均粒径9μmのWC粉末を質量比1:3で混合し、Ag−75mass%WCを製造した。なお、原料Ag粉末は真空雰囲気中、原料WC粉末は水素雰囲気中で加熱した後、混合した。酸素の還元や吸着ガスの放出による低ガス化と、単独のカーボンが気体成分となり低減化することができる。混合粉は、φ50mmの金型で5t/cmで成形し、圧粉体とした。これを真空雰囲気中で875℃×1時間の条件で固相焼結し、その後、焼結体を8t/cmで加圧し、1050℃×1時間の条件で液相焼結した。
【0020】
得られたAg−WC合金について、Wと化合物を形成していないカーボン量を湿式分析で測定した結果、0.01mass%であった。これにより、AgとWCの平均粒径が同等であり、Wと化合物を形成していないカーボンが少なく、遮断特性を向上させることができる。
【0021】
(実施例4)
平均粒径5μmのAg粉末と平均粒径4μmのWC粉末を質量比3:7で混合し、Ag−70mass%WCを製造した。なお、原料WC粉末におけるWと化合物を形成していないカーボン(C)粉末は、0.07mass%であった。混合粉は、ニアネットシェイブ用金型を用い、7t/cmで成形し、圧粉体とした。これを真空雰囲気中で1000℃×1時間の条件で液相焼結し、表面を約0.1mm削り落とし、接点表面とした。
【0022】
得られたAg−WC合金について、Wと化合物を形成していないカーボン量を湿式分析で測定した結果、0.05mass%であった。これにより、AgとWCの平均粒径が同等であり、Wと化合物を形成していないカーボンが少なく、遮断特性を向上させることができる。
【0023】
(実施例5)
平均粒径2μmのAg粉末と平均粒径1.5μmのWC粉末を質量比45:55で混合し、Ag−55mass%WCを製造した。なお、原料WC粉末におけるWと化合物を形成していないカーボン(C)粉末は、0.07mass%であった。混合粉は、7t/cmで成形し、圧粉体とし、水素雰囲気中で1250℃×1時間の条件で液相焼結した。
【0024】
得られたAg−WC合金について、Wと化合物を形成していないカーボン量を湿式分析で測定した結果、0.04mass%であった。これにより、AgとWCの平均粒径が同等であり、Wと化合物を形成していないカーボンが少なく、遮断特性を向上させることができる。実施例1〜5の焼結温度をまとめると、Agの溶融温度(960℃)に対し、焼結する温度は、−85℃〜+290℃となる。
【0025】
(実施例6)
平均粒径3μmのAg粉末と平均粒径4.5μmのWC粉末を質量比35:65で混合し、Ag−65mass%WCを製造した。なお、原料WC粉末におけるWと化合物を形成していないカーボン(C)粉末は、0.03mass%であった。混合粉は、7t/cmで成形し、圧粉体とし、真空雰囲気中で950℃×3時間の条件で固相焼結した後、更に真空中で800℃×30分の熱処理を行った。
【0026】
得られたAg−WC合金について、Wと化合物を形成していないカーボン量を湿式分析で測定した結果、0.02mass%であった。これにより、AgとWCの平均粒径が同等であり、Wと化合物を形成していないカーボンが少なく、遮断特性を向上させることができる。
【0027】
(実施例7)
これまでの実施例では導電成分にAgを用いたが、ここでは、導電成分にCuを用いた。平均粒径10μmのCu粉末と平均粒径9μmのWC粉末を質量比1:1で混合し、Cu−50mass%WCを製造した。なお、原料WC粉末におけるWと化合物を形成していないカーボン(C)粉末は、0.06mass%であった。混合粉は、7t/cmで成形し、圧粉体とし、真空雰囲気中で1050℃×3時間の条件で固相焼結した。
【0028】
得られたCu−WC合金について、Wと化合物を形成していないカーボン量を湿式分析で測定した結果、0.03mass%であった。これにより、CuとWCの平均粒径が同等であり、Wと化合物を形成していないカーボンが少なく、遮断特性を向上させることができる。導電成分は、CuとAgの合金でもよい。
【0029】
(実施例8)
これまでの実施例では炭化物の耐弧成分にWCを用いたが、ここでは、MoCを用いた。他に、NbC、TaC、TiC、VC、ZrC、HfCを用いることができる。平均粒径4μmのAg粉末と平均粒径5μmのMoC粉末を質量比3:2で混合し、Ag−40mass%MoCを製造した。なお、耐弧成分粉末におけるMoと化合物を形成していないカーボン(C)粉末は、0.07mass%であった。混合粉は、7t/cmで成形し、圧粉体とし、水素雰囲気中で1000℃×1時間の条件で液相焼結した。
【0030】
得られたAg−MoC合金について、Wと化合物を形成していないカーボン量を湿式分析で測定した結果、0.03mass%であった。これにより、導電成分と耐弧成分の平均粒径が同等であり、Moと化合物を形成していないカーボンが少なく、遮断特性を向上させることができる。
【0031】
(実施例9)
これまでの実施例では導電成分と耐弧成分のみで構成された接点であったが、ここでは補助成分Co、Ni、Fe、Crを添加した。平均粒径3μmのAg粉末、平均粒径2.5μmのWC粉末、平均粒径2μmのCo粉末を質量比39:60:1で混合し、Ag−60mass%WC−1mass%Coを製造した。なお、耐弧成分粉末におけるWと化合物を形成していないカーボン(C)粉末は、0.08mass%であった。混合粉は、7t/cmで成形し、圧粉体とし、水素雰囲気中で1100℃×1時間の条件で液相焼結した。
【0032】
得られたAg−WC−Co合金について、Wと化合物を形成していないカーボン量を湿式分析で測定した結果、0.03mass%であった。これにより、導電成分と耐弧成分の平均粒径が同等であり、Wと化合物を形成していないカーボンが少なく、遮断特性を向上させることができる。補助成分は、5mass%まで添加できる。
【0033】
実施例1〜9までの導電成分、耐弧成分、必要により添加した補助成分の合金の中で、金属成分と化合物を形成していないカーボン量をまとめると、0.05mass%以下であり、少ないカーボン量となる。
【0034】
上記実施例の真空バルブ用接点材料によれば、導電成分と炭化物の耐弧成分、必要により添加する補助成分の平均粒径を同等とし、金属成分と化合物を形成していないカーボンの量を少なくしているので、接点組成の密度を向上させることができ、遮断特性などを安定させて向上させることができる。
【0035】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0036】
1 真空絶縁容器
2 固定側封着金具
3 可動側封着金具
4 固定側通電軸
5 固定側接点
6 可動側接点
7 可動側通電軸
8 ベローズ
9 アークシールド
10 電極
11 ろう付け部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Ag、Cuの少なくとも1種類からなる導電成分と、炭化物の耐弧成分と、必要により補助成分を添加した真空バルブ用接点材料において、
前記導電成分、前記耐弧成分、前記補助成分のそれぞれの平均粒径が同等であるとともに、合金中の非金属カーボン化合物が0.05mass%以下である真空バルブ用接点材料。
【請求項2】
前記平均粒径が同等とは、粒径差が50%以内である請求項1に記載の真空バルブ用接点材料。
【請求項3】
前記耐弧成分は、WC、MoC、NbC、TaC、TiC、VC、ZrC、HfCの少なくとも1種類を含有している請求項1または請求項2に記載の真空バルブ用接点材料。
【請求項4】
前記補助成分は、Co、Ni、Fe、Crの少なくとも1種類を含有している請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の真空バルブ用接点材料。
【請求項5】
前記導電成分、前記耐弧成分を、メーカから購入後、水素もしくは真空雰囲気中で熱処理をして混合した請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載の真空バルブ用接点材料。
【請求項6】
前記導電成分、前記耐弧成分、必要により前記補助成分を混合した混合粉をニアネットシェイブ用金型で圧粉体にし、焼結した請求項1乃至請求項5のいずれか1項に記載の真空バルブ用接点材料。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2012−134014(P2012−134014A)
【公開日】平成24年7月12日(2012.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−285163(P2010−285163)
【出願日】平成22年12月21日(2010.12.21)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】