説明

磁気デバイスの動作方法

【課題】磁界の印加角度に依存せずに磁気センサを動作させる。
【解決手段】互いに直交するX方向及びY方向について、それぞれの方向を向いて配置された磁気抵抗素子を2つずつ備え、これら4つの磁気抵抗素子がブリッジ回路を構成してなる磁気センサの動作方法であって、Y方向を向いて配置された2つの磁気抵抗素子11,14に対してX方向にバイアス磁界を印加することにより当該磁気抵抗素子11,14の抵抗を飽和させてからブリッジ回路10のブリッジ電圧Vxを測定する第1工程、X方向を向いて配置された2つの磁気抵抗素子12,13に対してY方向にバイアス磁界を印加することにより当該磁気抵抗素子12,13の抵抗を飽和させてからブリッジ回路10のブリッジ電圧Vyを測定する第2工程、第1工程によるブリッジ電圧Vxと第2工程によるブリッジ電圧Vyとの和から磁気センサの出力を得る第3工程を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、4つの磁気抵抗素子がブリッジ回路を構成してなる磁気デバイスの動作方法に関する。
【背景技術】
【0002】
これまで、磁気抵抗素子(MR素子)を用いた磁気スイッチでは、図1に示すように、X方向に感度を有する2つの素子12,13と、Y方向に感度を有する2つの素子11,14とをブリッジ接続し、そのブリッジ電圧Vを図2に示すように比較器21で判断し、ある設定電圧を超えたところでスイッチング動作(SW動作)を行ってきた(例えば特許文献1及び非特許文献1,2)。
【特許文献1】特許第255132号公報
【非特許文献1】“浜松光電株式会社 垂直タイプMRセンサ・テクニカルノート”、[online]、平成17年5月5日、インターニックス株式会社、[平成18年11月20日検索]、インターネット<URL: http://www.internix.co.jp/publish/newsletter/nl88_pdf/nl88hamamatsu.pdf>
【非特許文献2】“光デバイス−MRセンサ”、[online]、日本電気株式会社、[平成18年11月21日検索]、インターネット<URL: http://www.nec.co.jp/on/dd/products/mrsensor/index.html>
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところが、MR素子には、印加磁界の方向と、素子の磁化容易軸の方向に角度差θがあると、抵抗の変化量が異なるという性質がある。例えば、無磁界中の抵抗をR、最大抵抗変化量をΔRとおくと、角度差θの方向に磁界を印加したときの抵抗値Rは、次の式(1)で表される。
【0004】
R=R+ΔR・cosθ ・・・・ (1)
【0005】
このため、例えば図3に示すように磁界HがX方向ともY方向とも異なる方向で印加されたときのブリッジ電圧は、印加磁界をX方向とY方向のベクトル成分に分解して、X成分で印加されたときのブリッジ電圧と、Y成分で印加されたときのブリッジ電圧とを合成した値となる。例えば、図4に、印加磁界の大きさとブリッジ電圧との関係の一例を示すが、同じ20(Oe)の大きさの磁界を印加した場合でも、印加角度が90°の場合はブリッジ電圧が+6mV、印加角度が0°の場合はブリッジ電圧が−6mV、印加角度が60°の場合はブリッジ電圧が+2mVを示している。
このように、磁界の印加によるブリッジ電圧の大きさは、印加磁界の大きさのみならず印加角度にも依存しているので、印加角度によっては期待の磁界の大きさでスイッチング動作を行わないことになる。
【0006】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、磁界の印加角度に依存せずに動作させることが可能な磁気デバイスの動作方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決するため、本発明は、互いに直交するX方向及びY方向について、それぞれの方向を向いて配置された磁気抵抗素子を2つずつ備え、これら4つの磁気抵抗素子がブリッジ回路を構成してなる磁気デバイスの動作方法であって、
Y方向を向いて配置された2つの磁気抵抗素子に対してX方向にバイアス磁界を印加することによりこれら2つの磁気抵抗素子の抵抗を飽和させてから前記ブリッジ回路のブリッジ電圧を測定する第1工程と、
X方向を向いて配置された2つの磁気抵抗素子に対してY方向にバイアス磁界を印加することによりこれら2つの磁気抵抗素子の抵抗を飽和させてから前記ブリッジ回路のブリッジ電圧を測定する第2工程と、
前記第1工程で得られたブリッジ電圧と前記第2工程で得られたブリッジ電圧との和から磁気デバイスの出力を得る第3工程と、
を有することを特徴とする磁気デバイスの動作方法を提供する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、4つの磁気抵抗素子がブリッジ回路を構成してなる磁気デバイスを、磁界の印加角度に依存せずに動作させることが可能になる。このため、角度依存性がなく、磁界の大きさに対して正確な動作を実現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、最良の形態に基づき、図面を参照して本発明を説明する。
本発明に用いる磁気デバイスは、図5に示すように、互いに直交するX方向及びY方向について、それぞれの方向を向いて配置された磁気抵抗素子を2つずつ備え、これら4つの磁気抵抗素子がブリッジ回路を構成してなるものである。
【0010】
磁気デバイスの基板は、非磁性の基板であれば特に限定されないが、例えばシリコン(Si)等の半導体基板を用いると、素子の形成に一般的な半導体プロセスが使用できるので好ましい。
【0011】
基板上には、4つの磁気抵抗素子が形成される。磁気抵抗素子は、鉄(Fe)、ニッケル(Ni)、コバルト(Co)、鉄−ニッケル合金(FeNi)、鉄−ニッケル−コバルト合金(NiFeCo)等の強磁性体からなる磁性膜から構成することができる。本発明において、4つの磁気抵抗素子は、同じ材質の磁性体から形成されることが好ましい。これにより、4つの素子は温度に対する特性変動が同等となるので、磁気デバイスとしての温度特性が向上する。磁気抵抗素子の具体例としては、表1に示すものが挙げられる。例えば82Ni−Fe合金薄膜では抵抗を小さな磁界で飽和させることができる(Δρ=0.6μΩ・cm程度、膜厚40μmでρ=23.5μΩ・cm程度)。
【0012】
【表1】

【0013】
磁気抵抗素子を形成する方法としては、例えば、フォトリソグラフィー法によるパターン形成工程と、メッキ法やスパッタリング法による成膜工程とを組み合わせた方法が挙げられる。磁気抵抗素子のパターンは、それぞれ所定の方向を向いて配置される。
【0014】
例えば図5に示す磁気デバイスの場合、X方向を向いて配置された2つの磁気抵抗素子12,13は、X方向を長手方向として平行に配置された複数の磁性膜が設けられ、隣接する磁性膜を端部同士でつづら折り形状になるように導電膜等を介してY方向に電気的に接続したものである。また、Y方向を向いて配置された2つの磁気抵抗素子11,14は、Y方向を長手方向として平行に配置された複数の磁性膜が設けられ、隣接する磁性膜を端部同士でつづら折り形状になるように導電膜等を介してX方向に電気的に接続したものである。折り返し部分の導電膜としては、例えば金(Au)、銅(Cu)、アルミニウム(Al)等の導体膜が挙げられる。
【0015】
4つの磁気抵抗素子11,12,13,14は、互いに異なる方向を向いて配置された素子同士が隣接して、ブリッジ回路10を構成するように配線を介して接続されている。配線は、例えば金(Au)、銅(Cu)、アルミニウム(Al)等の導体膜から構成することができる。4つの磁気抵抗素子は、90°ずつ向きを変えて配置されているほかは、材料、パターン形状や抵抗値が同じものであることが好ましい。
4つの磁気抵抗素子を配列する態様としては、例えば図5に示すように縦横2×2の配列が挙げられるが、磁気抵抗素子間を適当な配線で接続することにより、他の配列を採用することも可能である。
【0016】
図2に示すように、ブリッジ回路10の端子15には電源電圧Vcc、端子16にはグランドレベルがそれぞれ接続され、かつ端子17には比較器21のプラス入力端子、端子18には比較器21のマイナス入力端子が、それぞれ接続される。ブリッジ回路10が発した出力電圧の変動は、比較器(コンパレータ)21やラッチ回路22等にて構成された信号検知手段20によって測定される。信号検知手段20では、スイッチング動作のため、比較器21により、プラス端子に入力される電圧値とマイナス端子に入力される電圧値との電位差(ブリッジ電圧ともいう。)を求める処理が行われる。その処理は例えば、電位差のレベルが設定電圧より低いと、比較器21は出力端子からラッチ回路22に対してハイレベルの信号を出力するが、電位差のレベルが設定電圧を超えると、比較器21は出力端子からラッチ回路22に対してローレベルの信号を出力するものである。
【0017】
従来のデバイスにおいては、印加磁界の方向が磁気抵抗素子に対して一定の方向であれば、ブリッジ電圧が印加磁界の大きさに従って変動するので、適切な設定電圧によって期待の磁界の大きさでスイッチング動作を行わせることができる。しかしながら、上述したように、印加磁界の方向が磁気抵抗素子に対して角度をもつ場合、ブリッジ電圧が印加磁界の大きさのみならず印加角度にも依存して変化するもので、期待の磁界の大きさでスイッチング動作しないという問題があった。
【0018】
この問題を解決するため、本発明においては、
(1)Y方向を向いて配置された2つの磁気抵抗素子11,14に対してX方向にバイアス磁界を印加することによりこれら2つの磁気抵抗素子11,14の抵抗を飽和させてからブリッジ回路10のブリッジ電圧を測定する第1工程、
(2)X方向を向いて配置された2つの磁気抵抗素子12,13に対してY方向にバイアス磁界を印加することによりこれら2つの磁気抵抗素子12,13の抵抗を飽和させてからブリッジ回路10のブリッジ電圧を測定する第2工程、
(3)前記第1工程で得られたブリッジ電圧と前記第2工程で得られたブリッジ電圧との和から磁気デバイスの出力を得る第3工程、
を行う。これにより、磁界の印加角度に依存せずに磁気デバイスを動作させることが可能になる。
【0019】
第1工程及び第2工程を実施するためには、X方向のバイアス磁界を、Y方向を向いて配置された2つの磁気抵抗素子11,14のみに印加する手段と、Y方向のバイアス磁界を、X方向を向いて配置された2つの磁気抵抗素子12,13のみに印加する手段とを設けることが必要である。このような手段としては、それぞれの磁気抵抗素子に対して、個別に所定の方向の磁界を印加できる手段が挙げられる。基板上に複数配置された磁気抵抗素子のうち1つの磁気抵抗素子のみに磁界を印加する方法としては、磁界を印加するための磁界印加装置を磁気抵抗素子に対応して同一チップ内に形成したり、例えばチップの外部からコイル等により特定の磁気抵抗素子に磁界を印加する方法が挙げられる。なお、同じ方向に向いて配置された磁気抵抗素子については、1つの磁界印加手段を用いて磁界を印加するようにしても良い。
【0020】
第1工程においては、図5(a)に示すように、Y方向を向いて配置された磁気抵抗素子11,14にはX方向のバイアス磁界(同図中、X方向を向いた矢印Hで表す。)が印加されているので、該磁気抵抗素子11,14は、印加磁界のX方向の成分とX方向のバイアス磁界とを感磁している。該磁気抵抗素子11,14は、X方向のバイアス磁界で飽和されているので、印加磁界のX方向の成分の大きさによらず(すなわち磁界の印加角度によらず)、一定の抵抗値を示す。よって、X方向を向いて配置された磁気抵抗素子12,13によって印加磁界のY方向の成分の大きさに応じたブリッジ電圧(本明細書ではこれを「X方向のブリッジ電圧」というものとする。)Vxが得られる。
【0021】
第2工程においては、図5(b)に示すように、X方向を向いて配置された磁気抵抗素子12,13にはY方向のバイアス磁界(同図中、Y方向を向いた矢印Hで表す。)が印加されているので、該磁気抵抗素子12,13は、印加磁界のY方向の成分とY方向のバイアス磁界とを感磁している。該磁気抵抗素子12,13は、Y方向のバイアス磁界で飽和されているので、印加磁界のY方向の成分の大きさによらず(すなわち磁界の印加角度によらず)、一定の抵抗値を示す。よって、Y方向を向いて配置された磁気抵抗素子11,14によって印加磁界のX方向の成分の大きさに応じたブリッジ電圧(本明細書ではこれを「Y方向のブリッジ電圧」というものとする。)Vyが得られる。
【0022】
第3工程においては、X方向のブリッジ電圧VxとY方向のブリッジ電圧Vyとの和をとる。これにより、磁界が角度を持って印加された場合でも、印加の角度に依存せず、印加磁界の大きさに応じたブリッジ電圧を得ることができる。従って、このブリッジ電圧の和を用いてスイッチング動作を行えば、角度依存性がなく、磁界の大きさに対して正確な動作を実現することができる。以下に、本発明の原理に基づいて詳しく説明する。
【0023】
X方向を向いて配置された磁気抵抗素子12,13の抵抗値をR、Y方向を向いて配置された磁気抵抗素子11,14の抵抗値をR、ブリッジ回路の電位差をE(なお、E=Vccが成り立つ。)、ブリッジ電圧をE′とおくとき、E′は下記の式(2)で表される。
【0024】
E′=[(R−R)/(R+R]E ・・・・ (2)
【0025】
また、式(2)について、右辺の分数式をR+Rで約分すると、次のようにも変形できる。
【0026】
E′=[(R−R)/(R+R)]E ・・・・ (2′)
【0027】
外部磁界とX方向との成す角度をθとおくと、第1工程においては、Y方向を向いて配置された磁気抵抗素子11,14は飽和されている。式(1)によれば、Y方向を向いて配置された磁気抵抗素子11,14の抵抗値R=R+ΔR、X方向を向いて配置された磁気抵抗素子12,13の抵抗値R=R+ΔR・cosθとなる。このとき、X方向のブリッジ電圧Vxは、最大抵抗変化量ΔRがRに比べて無視できるほど小さいとき、E′=Vxに式(2)を適用して、Vx=(ΔR・sinθ)/(2R)と求められる。
【0028】
また、第2工程においては、X方向を向いて配置された磁気抵抗素子12,13は飽和されており、かつ外部磁界とY方向との成す角度は90°−θである。式(1)によれば、Y方向を向いて配置された磁気抵抗素子11,14の抵抗値R=R+ΔR・sinθ、X方向を向いて配置された磁気抵抗素子12,13の抵抗値R=R+ΔRとなる。このとき、Y方向のブリッジ電圧Vyは、最大抵抗変化量ΔRがRに比べて無視できるほど小さいとき、E′=Vyに式(2)を適用して、Vy=(ΔR・cosθ)/(2R)と求められる。
【0029】
第3工程において、ブリッジ電圧の和、Vx+Vyを求めると、恒等式sinθ+cosθ≡1により、Vx+Vy=ΔR/(2R)となる。よって、外部磁界の方向θに依存することなく、外部磁界の大きさによって変化するΔRに基づいて、外部磁界の大きさを測定することが可能となる。
【0030】
本発明で用いる磁気デバイスにおいては、第3工程において第1工程のブリッジ電圧Vxの値を使用するため、第1工程で測定したX方向のブリッジ電圧Vxを記憶する手段(メモリー)を備えることが好ましい。この場合、第3工程においては、メモリーに記憶したX方向のブリッジ電圧Vxと、第2工程でブリッジ回路10を用いて測定したY方向のブリッジ電圧Vyとを用いて和を取ることができる。
【0031】
さらに、本発明で用いる磁気デバイスは、第1工程で測定したX方向のブリッジ電圧Vxを記憶する手段(第1のメモリー)とともに、第2工程で測定したY方向のブリッジ電圧Vyを記憶する手段(第2のメモリー)を備えても良い。この場合、第3工程においては、第1のメモリーに記憶したX方向のブリッジ電圧Vxと、第2のメモリーに記憶したY方向のブリッジ電圧Vyとを用いて和を取ることができる。
【0032】
本発明で用いる磁気デバイスは、磁気抵抗素子個別にバイアス磁界を印加するための複数の磁界印加手段とともに、これら複数の磁界印加手段に対して、所定の順序で所定の磁気抵抗素子に磁界を印加するように制御する制御手段を備えても良い。これにより、第1工程から第3工程までの動作を自動的に行うことができる。
【0033】
なお、互いに直交した方向に2組ずつ、合計4つの磁気抵抗素子を備える磁気デバイスにおいて、X方向とY方向の決め方は、一方の磁気抵抗素子が配置される方向をX方向とし、他方の磁気抵抗素子が配置される方向をY方向とするように決めれば良い。例えば、図5では、図中の右から左に向かう方向をX方向としているが、その逆方向、すなわち図中の左から右に向かう方向をX方向と定義しても良い。また、図5の上から下に向かう方向をY方向としているが、その逆方向、すなわち図5の下から上に向かう方向をY方向と定義しても良い。また例えば、XとYの方向を入れ替えて、図5の上から下に向かう方向又は下から上に向かう方向をX方向とし、右から左に向かう方向又は左から右に向かう方向をY方向とするのでも良い。
【0034】
従って、本発明においては、磁気抵抗素子11,14の抵抗を飽和させてからブリッジ回路10のブリッジ電圧を測定する第1工程と、磁気抵抗素子12,13の抵抗を飽和させてからブリッジ回路10のブリッジ電圧を測定する第2工程との実施の順序は、どちらの工程が先であっても、同等の効果を奏するものである。
【0035】
以上説明したように、本発明の磁気デバイスの動作方法によれば、4つの磁気抵抗素子がブリッジ回路を構成してなる磁気デバイスを、磁界の印加角度に依存せずに動作させることが可能になる。このため、角度依存性がなく、磁界の大きさに対して正確な動作を実現することができる。
【0036】
本発明の磁気デバイスは、例えば物体の位置や回転量の変化を磁界の変化に変換するための磁石と組み合わることによって物体の位置検出や回転量検出等を行う磁気センサや、外部から印加された磁界の大きさに応じてスイッチング動作を行う磁気スイッチ等に利用することができる。また、出力信号に基づいて適宜の換算等を行うことにより印加磁界の大きさを出力するように構成すれば、磁界の大きさを測定する装置に応用することも可能となる。
【実施例】
【0037】
本発明の磁気デバイスの動作方法を実施して、磁気デバイスの出力における角度依存性を確認した。その確認方法は、以下の(a)から(e)のとおりである。
【0038】
(a)基板上に、まず、磁気検知素子として例えばFeNiCo等の強磁性体からなる磁性膜を成膜し、抵抗のパターンを形成する。基板は例えばSi基板である。磁気検知素子の形成方法はフォトリソグラフィー法によるパターン形成と、メッキ法やスパッタリング法による成膜との組み合わせである。
【0039】
(b)次に、磁気検知素子と電気的な接触を取る配線層を形成する。配線層の材質は例えばアルミニウム(Al)などの良導電体であり、その形成方法はフォトリソグラフィー法によるパターン形成と、メッキ法やスパッタリング法による成膜との組み合わせである。
磁気検知素子と配線層の間に、磁気検知素子と配線層との間にコンタクトホールを持った絶縁層を形成しても良い。
また、配線層の上の層として、外部との接続用のコンタクトホールを持った絶縁層を形成しても良い。
【0040】
(c)次に、磁界印加装置を形成する。磁界印加装置は、半導体プロセスを用いて同一チップ内に形成しても良いし、例えばコイル等により外部から形成しても良い。
【0041】
(d)以上によって製造した磁気デバイスについて、ブリッジ電圧の角度依存性を調べるため、ブリッジ回路に例えば電圧を3V印加し、その際のブリッジ電圧を測定する。測定方法は以下の(ア)から(オ)のとおりである。
【0042】
(ア)Y方向を向いて配置された磁気抵抗素子11,14のみX方向に、例えば50(Oe)の磁界を印加する。これにより磁気抵抗素子11,14が磁気的に飽和し、磁気抵抗素子11,14の抵抗が一定となる。
(イ)ブリッジ電圧を測定し、その値を、X方向の磁界に対する出力Vxとしてメモリーに記憶させる。
(ウ)X方向を向いて配置された磁気抵抗素子12,13のみY方向に、例えば50(Oe)の磁界を印加する。これにより磁気抵抗素子12,13が磁気的に飽和し、磁気抵抗素子12,13の抵抗が一定となる。
(エ)ブリッジ電圧を測定し、その値を、Y方向の磁界に対する出力Vyとしてメモリーに記憶させる。
(オ)X方向の磁界に対する出力Vxと、Y方向の磁界に対する出力Vyとの和を比較器で判断し、設定した電圧値でスイッチング動作を行う。
【0043】
(e)無磁界中の抵抗R=1000Ω、抵抗の最小値R+ΔR=990Ω(すなわちΔR=−10Ω)、印加電圧3Vとしたときに、表2および図6に上記の方法を用い、磁界の大きさが一定で、角度を変化させた時のブリッジ電圧の変化を示す。ここで、抵抗変化は式(1)から求め、抵抗の変化量は、式(2)からE=3Vとして求めた。
【0044】
【表2】

【0045】
以上により、磁界の印加方向の角度によらずブリッジ電圧が一定となり、角度依存性がないことが確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明は、磁気センサや磁気スイッチ等に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】従来の磁気スイッチに用いられる磁気抵抗ブリッジを示す模式図である。
【図2】従来の磁気スイッチを示すブロック図である。
【図3】磁気抵抗ブリッジに斜めから磁界が印加される様子を示す模式図である。
【図4】従来の磁気スイッチによるブリッジ電圧の角度依存性の一例を示すグラフである。
【図5】本発明の方法の説明図であって、(a)は第1工程を、(b)は第2工程を説明する模式図である。
【図6】本発明の磁気スイッチによるブリッジ電圧の角度依存性の一例を示すグラフである。
【符号の説明】
【0048】
10…ブリッジ回路、11…Y方向を向いて配置された磁気抵抗素子、12…X方向を向いて配置された磁気抵抗素子、13…X方向を向いて配置された磁気抵抗素子、14…Y方向を向いて配置された磁気抵抗素子、Vx…X方向のブリッジ電圧、Vy…Y方向のブリッジ電圧。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに直交するX方向及びY方向について、それぞれの方向を向いて配置された磁気抵抗素子を2つずつ備え、これら4つの磁気抵抗素子がブリッジ回路を構成してなる磁気デバイスの動作方法であって、
Y方向を向いて配置された2つの磁気抵抗素子に対してX方向にバイアス磁界を印加することによりこれら2つの磁気抵抗素子の抵抗を飽和させてから前記ブリッジ回路のブリッジ電圧を測定する第1工程と、
X方向を向いて配置された2つの磁気抵抗素子に対してY方向にバイアス磁界を印加することによりこれら2つの磁気抵抗素子の抵抗を飽和させてから前記ブリッジ回路のブリッジ電圧を測定する第2工程と、
前記第1工程で得られたブリッジ電圧と前記第2工程で得られたブリッジ電圧との和から磁気デバイスの出力を得る第3工程と、
を有することを特徴とする磁気デバイスの動作方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−190952(P2008−190952A)
【公開日】平成20年8月21日(2008.8.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−24512(P2007−24512)
【出願日】平成19年2月2日(2007.2.2)
【出願人】(000005186)株式会社フジクラ (4,463)
【Fターム(参考)】