説明

磁気ヘッド及びその製造方法

【課題】厚膜の磁性多層膜に隣接する埋め込み膜にボイド・シームを発生させない磁気ヘッドの製造方法及びこれを用いた差動型再生ヘッドもしくはMAMR素子を提供する。
【解決手段】磁性多層膜14のパターン加工後の隣接する埋め戻し膜42,43の堆積を,第1段階の堆積工程と,続けて堆積した膜をエッチバックする工程と,第2段階の堆積工程からなる一連の製造プロセスによって形成する。ハードバイアスを加える硬磁性膜を埋め戻す場合には,第2段階の堆積工程の前に配向下地膜を堆積する工程を追加することで保磁力を増加できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,磁気記録再生装置に搭載する磁気ヘッドとその製造方法に関わる。
【背景技術】
【0002】
ハードディスクドライブ(HDD)の記録密度増加を目的として,磁気ヘッドの寸法は年々微細化が進んでいる。古くは記録ヘッドと再生ヘッドを兼用する誘導型ヘッドが主流であったが,現在の主流は性能向上のため記録ヘッドと再生ヘッドを分離した録再分離ヘッドである。記録ヘッドはコイルによる誘導磁界で情報を書き込む誘導ヘッドであるが,再生ヘッドは,磁気センサーとしてスピンバルブを利用したGMR(Giant Magneto- Resistance)ヘッドもしくはTMR(Tunnel Magneto-resistance)ヘッドが用いられる。図2に,記録ヘッド部1と再生ヘッド部2を有する録再分離型ヘッドの模式図を示す。また,図3に再生ヘッド部分の拡大図を示す。図3は磁気ディスク媒体に対向する面(ABS=Air Bearing Surface面)から見た図であり,図2のAから見た図に相当する。TWは,再生ヘッド部2のトラック幅方向寸法である。磁気ヘッドはAl23−TiC(アルミナ−チタンカーバイド,以下AlTiC)基板上に微細加工技術を使って形成する。なお後の図面も含め,基板部分の図示は省略している。パーマロイからなる下部磁気シールド層3及び上部磁気シールド層4は電極を兼ねており,その間に形成した多層膜のスピンバルブ型磁気抵抗効果膜5に通電して磁気を検知する。磁気を検知する磁気抵抗効果膜5を絶縁分離する部分にはアルミナ絶縁膜11を用い,さらに隣接してバイアス磁界を加えるハードバイアス膜6が配置される。
【0003】
継続的な記録密度向上のため,磁気ヘッドには種々の新技術が提案・導入されている。その一つとして,再生ヘッドのビット長方向の磁界検出性能(分解能)を向上する目的で提案されている差動型再生ヘッド構造を図4に示す。差動型再生ヘッドは2つのスピンバルブ素子を直列に接続した構成をしており,各々のスピンバルブは磁気抵抗の極性が逆になるように固定層の交換結合総数の偶奇を変えている。このため,直列に接続した二素子の出力が反対極性となって,図4に模式的に示す様な差動信号を出力する。媒体の磁気遷移に対する検出感度は,通常のスピンバルブでは磁気シールド間隔(図3のGS)が狭いほど高くなる。この間隔はスピンバルブ膜厚以下(≦25nm)には短縮が困難だが,差動型再生ヘッドの場合には二つの磁気検知層の距離(図4のG)が支配要因であり,これを任意に短縮できるために分解能を向上できることが知られている(特許文献1)。
【0004】
ここに示した構造は同型のスピンバルブを直列配置する二素子型差動ヘッドの構造であるが,差動動作をさせるためには,磁気検知層を反強磁性結合させるAFC型(Anti-Ferro Coupling型,特許文献2)や,二素子を並列接続する差動構造なども考えられる。いずれにしても,通常の単層スピンバルブに比較して磁気検知層が少なくとも2層必要となるために磁性層の膜厚が厚くなり,加工プロセスの難易度が上がることが製造上の大きな差異点である。
【0005】
別の新技術として,記録ヘッドの性能向上のため提案されているMAMR素子(Microwave Assisted Magnetic Recording)を図5に示す。MAMR素子は,非特許文献1に開示されるように再生ヘッドに類似した構造で,図5の参照層20の磁性層中でスピン偏極電流を作り出し,マイクロ波発生層19(FGL,Field Generation Layer)にてスピントルクを利用して発振を起こし,高周波の電磁波(マイクロ波)を発生できる。構成によっては補助層18等を設ける。局所的にマイクロ波を照射し,媒体の磁化の歳差運動を誘導して記録ヘッド磁界による磁化反転をアシストできるため,微細な記録ヘッドの磁界不足を補うとともに,熱揺らぎ耐性の強い媒体材料を適用できる次世代の高記録密度化技術の一つとして注目されている。MAMR素子の構造は,図5に示す様に磁性膜の多層構造である上,必要な強度の高周波磁界を発生するためにはマイクロ波発生層19の膜厚が25nm以上必要との試算があり,先に述べた差動型再生ヘッド同様,厚膜の磁性膜加工プロセスが製造上のキーポイントの一つとなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第3760095号公報
【特許文献2】特開2009−26400号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Xiaochun Zhu and Jian-Gang Zhu, Bias Field Free Microwave Oscillator Driven by Perpendicularly Polarized Spin Current, IEEE trans. Magn., 42, No.10 (2006)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
差動型再生ヘッドやMAMR素子の製造にあたっては,40〜80nmと通常よりも厚い磁性膜加工を行うことに伴って次の課題がある。説明のため以下に差動型再生ヘッドのプロセスフローを示す。
【0009】
図6から図9は,AlTiC基板上の再生ヘッド部分を拡大したプロセスフロー模式図である。各図はABS面から見た断面図を示す。図6はパーマロイからなる下部磁気シールド層3を形成し,その上に差動構成の磁気抵抗効果膜14を成膜した段階である。磁気抵抗効果膜14の機能別の構造を図7に示した。下側素子15は通常のスピンバルブ同様に下地層29,固定層21,絶縁層22,自由層23を順に積層した構造をとる。その上に,タンタルやルテニウム等の非磁性中間層24を介して,上側素子16の自由層25,絶縁層26,固定層27を下側と逆転した配置で積層する。固定層27の上にはキャップ層28を形成する。スピンバルブにはTMR膜を用いるが,CPP−GMR膜も適用可能である。CPP−GMR膜の場合には絶縁層22と26が中間層に置き換わる。
【0010】
次に,トラック幅パターンを形成する。図8に示すようにホトリソグラフィーを用いて,ホトレジストとポリイミドの積層マスク30でトラック幅パターンを形成する。これをイオンミリングにより素子に転写する。続いて不要な磁気抵抗効果膜を除去した後,磁気抵抗効果膜側壁の絶縁膜としての薄いアルミナ膜11と,ハードバイアス膜6(永久磁石)を堆積すると,図9の状態となる。ハードバイアス膜6は磁気抵抗効果素子にバイアス磁界を加える永久磁石の役割を果たし,例えばコバルト・クロム・白金などの合金膜を用いる。
【0011】
差動型再生ヘッドの場合には,磁気抵抗効果膜14が通常の再生ヘッドの倍近い厚さのため,この工程で埋め戻すハードバイアス膜の厚さも相応の厚さとなることで次の問題を生じる。図10に示す様に,磁気抵抗効果膜の側壁付近では埋め戻すハードバイアス膜はイオンビームデポジションのビームがトラックパターンの影となる効果で膜厚が薄くなる。薄膜化の程度はイオンビームの入射角や発散の様子にも依存するが,概ね側壁近傍の厚さは影を作るパターンのない平坦部の半分程度となる。ハードバイアス膜の堆積が進むと側壁についた膜がせり出してくる影響も加わり,側壁近傍からの見込み角がさらに狭くなる。厚膜の磁気抵抗効果膜14の膜厚分を埋め戻した段階では,図11のように側壁近傍のハードバイアス膜部分にはボイド(空隙)40やシーム(継ぎ目)が発生する。ボイドやシーム部分では,磁気抵抗効果膜の磁気特性が劣化しており設計通りのハードバイアス磁界が加えられない可能性が高く,膜が腐食する原因にもなるため,ボイドやシームの発生は避けねばならない。ハードバイアス膜からの磁界は特に磁気抵抗効果膜の近傍の影響が大きいため,ここにボイドやシームが存在するとハードバイアス磁界の強度不足となり致命的である。
【0012】
一般に,パターンを形成した側壁に堆積する膜厚が厚いほどボイドやシームが発生しやすくなる。この様子を図12に簡易的に示した。入射角θのイオンビームミリングのイオンは,パターンの近傍ではパターンに遮られて影になる効果で,堆積する膜の膜厚はパターン近傍で薄くなる。同時にパターン側壁にもある程度の膜が堆積するため,パターン近傍には凹部が形成される。膜の堆積進行に合わせて徐々に凹部からの見込み角が狭まってイオンビームの入射口を塞ぐと最終的にボイドやシームとなる。平坦部の堆積膜厚をxとすると,側壁近傍での膜面高さは凡そx/2となる(この理由は後述する)。
【0013】
実際には,図13に示すように,パターンを形成する膜(差動型ヘッドの場合は磁気抵抗効果膜)は,イオンミリングを用いると裾引き部41を生じる。裾引き部がある場合の堆積の様子を,図13から図15を用いて説明する。簡単のため裾引き部41の三角テーパーの高さをkとおく。実際の素子では,素子部から離れた平坦面から基板面に平行に引いた延長線Aと,素子上端部から引いた側壁面に平行な延長線Bの交点Xを基準に,裾引き部のうちで素子近傍の50%以内部分を直線近似した線Cと線Bの交点Yを用いて,距離XY=kとすれば十分な近似となる。裾引き部が大きく,素子側壁全てを占めている場合には側壁部での高さをそのままkと考えればよい。平坦部の堆積膜厚をxとすると,側壁近傍での膜面高さはx/2+kとなる。平坦部の堆積膜厚xと側壁近傍での膜面高さx/2+kの大小関係に応じて図13,図14,図15の状態がある。図13はx<x/2+kの場合,図14はx=x/2+kの場合,図15はx>x/2+kの場合を示している。ボイドやシームが発生する可能性があるのは,側壁近傍の膜厚が平坦部を下回り凹形状が生じる図15のような関係にあるときで,このとき膜の堆積進行に合わせて凹部からの見込み角が狭まってイオンビームの入射口を塞ぐとボイドやシームとなる。
【0014】
図13から図15の関係を,膜の堆積厚さx,基板面からの膜面高さy,裾引き部のテーパー高さkを用いて一般化して表すと,図16のようになる。この図は堆積するハードバイアス膜の膜厚と,ボイドやシームの出来易さを表す関係図となっている。平坦部の膜面高さを示す線y=xと,パターン側壁近傍の膜面高さを示す線y=x/2+kの交点x=2kを境として,x<2kがボイド・シーム回避領域(A),x=2kが境界(B),x>2kがボイド・シーム発生の可能性がある領域(C)となり,それぞれ図13,図14,図15に対応している。
【0015】
差動型再生ヘッドの場合,膜厚が典型的には60nm程度あり,この膜をイオンミリングにより加工すると条件にもよるが,裾引き部のテーパー高さk=20〜25nmとなる。従って,x>2k=40〜50nmのハードバイアス膜を堆積するとボイドやシームが発生する可能性が生じる。一方で,差動型再生ヘッドに対しては膜中にある2つの磁気検知層に均等にハードバイアスを加える必要があり,ハードバイアス膜の膜厚は磁気抵抗効果膜14の膜厚60nm程度は少なくとも必要である。この条件を図16に示した線Dはボイド・シーム発生領域(C)にあるため,何らかの対策が必要とわかる。比較のため通常のスピンバルブについても調べてみると,磁気抵抗効果膜の膜厚は30nm程度,裾引き部のテーパー高さはイオンミリング条件に依存してk=15〜30nm,ハードバイアス膜の膜厚xは30nm程度であり,ボイド・シームの発生境界2k=30〜60nmに対しx≦2kとなるボイド・シームの回避領域(A)にあって,差動型再生ヘッドのような問題は生じないことが分かる。
【0016】
なおプロセスフローに関して,この後はリフトオフにより磁気抵抗効果膜上部のホトレジストと絶縁膜及びハードバイアス膜を除去すると図17の状態となり,再生センサの基本構造が完成する。後の図面は省略するが,類似のプロセスによってトラックに対し垂直方向の素子高さパターンの加工を行い,上部磁気シールド層としてパーマロイを堆積した後,そのまま再生ヘッドの上部に記録ヘッドを形成する工程が続く。なお,素子高さパターンを先に加工し,続けてトラック幅パターンを加工する方法もある。
【0017】
次に,MAMR素子の場合についても簡単に説明する。MAMR素子の膜構成は図5に示した通りで,各種の構造が提案されているが,基本的にはスピン偏極電流を作り出す参照層20とマイクロ波発生層19(FGL,Field Generation Layer)と幾つかの補助層からなる。補助層の内容は構成によるが磁化の向きを固定する層などからなり,用いない場合もある。マイクロ波発生層19は,十分な記録磁界アシスト効果を得る交流磁界を出力するためにはある程度の厚さが必要で,具体的には25nm程度は必要と見積もられている。参照層の厚さを10〜20nm,補助層の厚さを5〜10nmとすると,トータルのMAMR素子膜厚は40〜55nmとなる。裾引き部のテーパー高さはイオンミリング条件に依存するがk≦0〜20nmと見て良い。この関係を図16で判定すると,x≧2kとなりボイド・シーム発生領域(C)に該当することが分かる。従って先の差動型再生ヘッドと同様に,MAMR素子においても側壁に埋め込む膜にボイドやシームを発生させない,という観点で共通の課題がある。
【0018】
本発明はかかる課題に鑑み,差動型再生ヘッド及びMAMR素子のように膜厚が40〜80nmと厚い素子について,パターニング後の埋め戻し膜にボイドやシームが発生しないための製造方法と,これを実現した差動型再生ヘッド及びMAMR素子を提供するものである。
【0019】
(補足)
イオンミリング後のパターン側壁近傍の膜厚が平坦部膜厚の半分となる理由を説明する。イオンミリングを用いる場合,図18に示す様に,パターン30に対して基板法線方向を基準に定義したイオン入射角θで入射するアルゴンイオン等で磁気抵抗効果膜等を除去していく。基板は法線方向を軸に一定速度で360度回転している。θが決まればイオンミリングレートは単純にイオンの入射量で決まるので,基板が一回転する間にパターンに遮られて影になる時間の割合だけミリングレートが低下する。パターンから距離d0だけ離れた点のミリングレートは,図18に示す様に入射角θの先端角をもつ円錐がパターンに遮られない範囲の角度をφ(rad)とすると平坦部のφ/2π倍になる。パターンの近傍ではちょうど半分の時間が影になりφ=πなのでミリングレートも半分となる。
【課題を解決するための手段】
【0020】
上記課題を解決する手段として,磁性多層膜のパターン加工後の埋め戻し膜の堆積工程において,第1段階の堆積工程と,続けて堆積した膜をエッチバックする工程と,第2段階の堆積工程からなる一連の製造プロセスを用いる。
【0021】
第1段階の堆積工程は,図19に示す様に,堆積膜厚x<2kでボイド・シームの発生しない膜厚以下で典型的にはイオンビームデポジションによって行う。この後,堆積した膜の1/10〜1/2の膜厚だけエッチバックする。エッチバックは典型的にはイオンビームミリングを用いて入射角が基板法線方向から70度±10度の斜入射条件とする。これにより平坦部より側壁の除去速度が速くなり,側壁近傍からの見込み角を広げて続く堆積工程でのボイド・シームの発生を抑制できる。エッチバック後の形状を図20に示した。その後,第2段階の堆積工程を経ると,図1に示すボイド・シームのない埋め戻し膜の形成工程が完成する。第2段階での堆積厚さは,埋め戻し膜トータルの厚さが磁性多層膜14の厚さに達するまでか,若しくはその後の工程で削られるマージンを考慮して多少厚めに形成する。
【発明の効果】
【0022】
本発明によると,ボイドとシームの発生を抑制できるためにハードバイアス磁界強度や保磁力の劣化を抑制でき,差動型再生ヘッドなどの厚い磁性多層膜素子に設計通りの磁界を加えることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明による第1の実施例を説明する図である。
【図2】録再分離型磁気ヘッドを模式的に示す説明図である。
【図3】再生磁気ヘッド部分の拡大断面を示す説明図である。
【図4】差動型再生磁気ヘッドの構造と等価回路を示す説明図である。
【図5】MAMR素子の構造を模式的に示す説明図である。
【図6】差動型再生磁気ヘッドの製造プロセスフローを模式的に示す説明図である。
【図7】差動型再生磁気ヘッドの磁気抵抗効果膜の機能別構造の説明図である。
【図8】図6に続く差動型再生磁気ヘッドの製造プロセスフローを模式的に示す説明図である。
【図9】図8に続く差動型再生磁気ヘッドの製造プロセスフローを模式的に示す説明図である。
【図10】差動型再生磁気ヘッド等の厚膜素子の製造プロセス課題を説明する模式図である。
【図11】差動型再生磁気ヘッド等の厚膜素子の製造プロセス課題を説明する模式図である。
【図12】パターンを形成した側壁でのボイドやシーム発生を説明する模式図である。
【図13】裾引き部がある場合のパターン側壁の膜堆積の様子を示す説明図である。
【図14】裾引き部がある場合のパターン側壁の膜堆積の様子を示す説明図である。
【図15】裾引き部がある場合のパターン側壁の膜堆積の様子を示す説明図である。
【図16】膜の堆積厚さと基板面からの膜面高さから,ボイド・シーム発生領域を一般化した説明図である。
【図17】図9に続く差動型再生磁気ヘッドの製造プロセスフローを模式的に示す説明図である。
【図18】パターン側壁近傍のイオンミリング量減少を説明する模式図である。
【図19】本発明による第1の実施例を説明する図である。
【図20】本発明による第1の実施例を説明する図である。
【図21】本発明による第1の実施例を説明する図である。
【図22】本発明による第2の実施例を説明する図である。
【図23】側壁に緩いテーパーが形成された場合の説明図である。
【図24】本発明による第3の実施例を説明する図である。
【図25】本発明による第3の実施例を説明する図である。
【図26】本発明による第3の実施例を説明する図である。
【図27】本発明による第3の実施例を説明する図である。
【図28】本発明による第3の実施例のエネルギーアシスト型磁気ヘッドの構造を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下,本発明の実施の形態について説明する。
【0025】
まず,第1の実施例について説明する。本実施例は,差動型再生磁気ヘッドのウエハ製造工程の内,先に図8に示したようにホトリソグラフィーでトラック幅パターンを形成した段階から,厚さ60nmの磁気抵抗効果膜14をイオンミリングにより除去する工程までは発明が解決しようとする課題の項で説明した方法と同じである。その後,絶縁膜として薄いアルミナ膜11をスパッタにより4nm堆積した後,イオンビームデポジション装置によって配向下地層44としてクロム・モリブデン膜(CrMo)と第1のハードバイアス膜42を堆積した状態が図19である。第1のハードバイアス膜は磁気抵抗効果膜14のトラック幅方向の両側に設けられる。第1のハードバイアス膜42には,コバルト・クロム・白金(CoCrPt)からなる硬磁性膜を用いた。なお,ハードバイアス膜はCoCrPtに限らず,必要な磁界が加えられる硬磁性材料であれば他の材料も適用できる。また,ハードバイアス膜の下地には結晶配向を制御するためにCrMoなどの配向下地膜を2〜4nm堆積することが望ましい。ここではCrMoを3.5nm堆積した。場合によっては配向下地膜のさらに下地として結晶リセット層となるタンタル(Ta)やニッケル・タンタル(NiTa)などのアモルファスの層を1〜2nm堆積してもよい。ここでは配向下地層の上に,CoCrPtを45nm堆積した。この膜厚は,図16の関係でボイド・シームが発生しないx<2kの関係を満たす必要がある。磁気抵抗効果膜14の裾引き部41の高さkは25nmであり,堆積膜厚x=45nm<2k=50nmの基準関係式を確かに満たしている。
【0026】
補足になるが,厚膜の差動型再生ヘッド向け磁気抵抗効果膜14のイオンミリング条件は,特許文献2に開示されているハーフテーパーを形成するように,入射角30度±10度のイオンミリング工程と続く入射角70度±10度の側壁再付着除去条件のイオンミリング工程とを単位セットとして,これを複数セット繰り返して形成した。この方法により,差動動作させる二素子の磁気検知膜(図7の自由層23及び25)の幅が等しく,かつ裾引き部の高さkが所望の形状を形成できる。
【0027】
続けて,ハードバイアス膜のエッチバックを行う。入射角70度±10度のイオンミリングによって平坦部で15nm相当の第1のハードバイアス膜42を除去する。このとき,磁気抵抗効果膜14の側壁部は装置と条件にもよるが,その倍の30nm程度除去されるため,エッチバック後の形状は図20の状態となり,側壁コーナー部からの見込み角は大きく広がりボイド・シームが形成されにくくなる。一般に,入射角70度程度の斜入射のイオンミリングでは側壁の除去レートが平坦部の倍程度まで増加するため,このエッチバック工程での除去量は平坦部換算で,最大でも第1のハードバイアス膜の膜厚の50%までとすると良い。このとき,側壁のハードバイアス膜が消失して絶縁膜11や磁気抵抗効果膜14がダメージを受けることを防止できる。多くの場合,堆積時に平坦部より側壁の膜厚が薄くなるため,実用的なエッチバック量上限は50%よりもさらに低くする。
【0028】
このエッチバックは,第1段階のハードバイアス膜を堆積したイオンビームデポジション装置の異なるチャンバにてイオンミリングにより行う。これにより再度の真空引きによるスループット低下を防ぐ。さらに,続く第2のハードバイアス膜も同じ装置のイオンビームデポジション用チャンバを使って堆積する。処理間を真空のチャンバ間搬送で結ぶことで大気暴露起因の酸化膜形成等の好ましくない影響を防止すると共に,スループットを向上できる。なお,イオンビームデポジションとイオンミリングの複数チャンバを持たない装置を用いることも不可能ではない。その方法は,次の実施例にて説明する。
【0029】
エッチバック後は,真空を保ったまま第2のハードバイアス膜の堆積を行うことで磁気特性を劣化させない成膜が可能になる。図1は,膜厚35nmのCoCrPt膜を第2のハードバイアス膜43として堆積した状態である。ここまでの工程で堆積するハードバイアス膜の全膜厚は,平坦部で磁気抵抗効果膜14よりも厚くなるように設計する。すなわち,平坦部で定義した,第1のハードバイアス膜の堆積量xと,エッチバック量y,第2のハードバイアス膜の堆積量zについて,x−y+z≧磁気抵抗効果膜の膜厚,となるように各膜厚を設計することが基本である。ハードバイアス膜のトータル膜厚は,この後のCMP工程で削られるマージンを考慮するために,磁気抵抗効果膜の膜厚よりやや厚く形成することが好ましい。一方で,ハードバイアス膜の最終的な膜厚は磁気抵抗効果膜14に加わるハードバイアス磁界の強さが適切となるように設計されるものであり,これらを考慮して最適なプロセス条件を決定している。
【0030】
この後は,一般的な磁気ヘッドと同様の製造工程となる。CMPリフトオフにより磁気抵抗効果膜上部の積層レジスト30と絶縁膜11及びハードバイアス膜42,43を除去すると図21の状態となり,磁気再生ヘッドの基本構造が完成する。図中,46は第1のハードバイアス膜42と第2のハードバイアス膜43の境界を示す。この後,電極兼上部磁気シールド層としてパーマロイを堆積した後,そのまま上部に記録ヘッドを形成する工程が続き,図2に示すような磁気ヘッドが完成する。
【0031】
本発明の磁気ヘッド製造方法によると,ボイドとシームの発生を抑制できるためにハードバイアス磁界強度や保磁力の劣化を抑制でき,差動型再生ヘッドなどの厚い磁性多層膜素子に設計通りの磁界を加えることが可能となる。また,ボイドやシームに後の工程でリフトオフやCMP,洗浄用の液体が侵入し金属の磁性膜が腐食することを防止できる効果が得られる。
【0032】
次に,第2の実施例について説明する。本実施例では,下地に配向制御膜を再挿入する方法について述べる。図20に示した第1のハードバイアス膜42をエッチバックする工程までは第1の実施例と同様である。その後,第2のハードバイアス膜を堆積する前に,第2の結晶配向を制御する配向下地膜としてCrMo膜を3.5nm堆積する。この膜は第1のハードバイアス膜を堆積する前に第1の配向下地膜として用いたものと同じである。CrMo膜はCoCrPtのハードバイアス膜を堆積するために用いるイオンビームデポジション装置の同じチャンバで成膜できるため,工程のスループットも殆ど変わらない。第2の配向下地膜47を成膜した後,第2のハードバイアス膜43を堆積すると図22の状態となる。この後は第1の実施例と同様の工程を経て磁気ヘッドが完成する。
【0033】
このように,本発明では,ハードバイアス膜堆積を2段階に分けたことで,第2のハードバイアス膜堆積の前に結晶配向を制御する配向下地膜を挿入可能となり,ハードバイアス膜の保磁力が増大できる。この第2のハードバイアス膜堆積前の配向下地膜は,第1のハードバイアス膜堆積前の配向下地膜と同じで良い。例えば,トータルで65nmと厚膜のCoCrPtハードバイアス膜を積層すると,保磁力は通常スピンバルブ用の膜厚21nmの場合の1400エルステッドに比較して低い1130エルステッドしか得られなかったが,第2のハードバイアス膜堆積の前に配向下地膜を再挿入した場合には,膜厚が薄い場合とほぼ同じ1350エルステッドの保磁力を得ることができた。保持力増大の結果,ハードバイアスの安定性を向上できる。
【0034】
ここで,第1のハードバイアス膜と第2のハードバイアス膜について,両者は同一の膜を用いることが望ましい。このとき,同じイオンビームデポジション装置での連続成膜が容易になることに加え,磁気特性も同一の状態に管理することが容易となる。差動型再生ヘッドでは,利用率を等しく揃えるため2つの磁気検知膜に加わるハードバイアス磁界が同一であることが望ましく,この観点からも第1と第2のハードバイアス膜の膜種を揃えることに意味がある。一方で,第1と第2のハードバイアス膜の膜厚に大きな差を形成しつつもハードバイアス磁界を揃えたい場合は,第1と第2のハードバイアス膜の膜種を変えて磁化に差をつけることで,異なる膜厚で磁界を揃えることが出来る。また,差動型再生ヘッドの2つの磁気検知膜の寸法が異なる場合などで意図的に両者のハードバイアス磁界に差を設けたい場合にも,第1と第2のハードバイアス膜の膜種を変えて磁化に差をつけることが有効となる。
【0035】
ここまで,磁気抵抗効果膜14の側壁の主となる面(裾引き部を含まない面)が基板に垂直である場合を仮定してきた。実際にはイオンミリングを用いて加工を行った場合には,側壁に若干のテーパーが形成されやすい。垂直側壁を形成しやすいRIE(反応性エッチング)を用いた場合でも程度の差はあれテーパーが形成され得る。図23に,側壁に緩いテーパーが形成された場合の断面図を示した。側壁テーパー角をξとすると,イオンミリングの入射角θがθ>ξであり,テーパー角ξが小さい場合には,図18に示したイオンミリングの入射角軌道を示す円錐とマスク30の関係が垂直側壁の場合とほぼ同様の関係にあるとみなせる。すなわち,図18で定義する入射角軌道を示す円錐がマスクに遮られない範囲の角度φを用いて,ミリングレートは平坦部のφ/2π倍になっており,側壁近傍では平坦部の約1/2になる。また,イオンミリングの入射角θは,θ<20°の範囲ではミリング中の側壁に大量の再付着がつくことが知られており,θをこれより小さくする条件は単独ではあまり用いられない。以上を考慮すると,側壁テーパー角ξがξ<20°の範囲であれば,本発明の方法が実質的に有効であるといえる。
【0036】
最後に,第3の実施例について説明する。本実施例では,先の実施例の差動型再生ヘッドに代えてMAMR素子を用いる。MAMR素子は,エネルギーアシスト型磁気記録用のマイクロ波発生素子で,記録ヘッドの書き込み用磁極(メインポール)の近傍に形成する。図28に,MAMR素子を用いるエネルギーアシスト型磁気ヘッドの全体図を示す。メインポール50の後端側(トレーリング側)シールド52との間に隣接してMAMR素子51を配置する。MAMR素子51からのマイクロ波が媒体磁化の歳差運動を誘発することで,メインポール50からの書き込み磁界による所望の磁化反転をアシストする。なお,設計によっては前端側(リーディング側)にMAMR素子を配置することもあるが,何れにせよマイクロ波とメインポールからの磁界が重なる部分で書き込みを行うため,両者が近接する必要がある。MAMR素子の断面は既に図5に示した通りで,ウエハ基板面を下にしてABS面から見たMAMR素子の磁性多層膜は,参照層20とマイクロ波発生層(FGL)19と補助層18から構成される。磁性多層膜をトラック幅部分のみ残してイオンミリングにより除去し,続いて絶縁膜11としてアルミナを4nm堆積した状態が図24である。この後,ハードバイアスを加える硬磁性膜を堆積するが,一気に成膜を行うと膜が厚いためボイドやシームの原因となるので,2段階成膜を行う。まず第1のハードバイアス膜42を45nm堆積した段階が図25で,これにエッチバックを行うと図26となり,第2のハードバイアス膜43を堆積すると図27の状態となる。
【0037】
なお,ここでは磁性多層膜に隣接してハードバイアス膜を堆積したが,MAMR素子の設計によっては,隣接する膜に非磁性の絶縁膜(例えばアルミナ)や,軟磁性体の磁気シールド材料(例えばパーマロイ),もしくはこれらの適切な組み合わせを用いても良い。この後は,CMPリフトオフによって磁性多層膜上部の積層レジスト30と絶縁膜11及びハードバイアス膜42,43を除去し,MAMR素子の直上に通常の記録ヘッド用の磁極を形成していく。
【0038】
以上,本発明の実施の形態を記載したが,本発明は上記の場合に限定されるものではなく,堆積膜厚xと裾引き部のテーパー高さkとの関係がx>2kとなるような厚膜の磁性多層膜に隣接する埋め込み膜をボイド・シーム無く形成する類似の製造方法と,それを用いた磁気ヘッドに関するものにも適用可能である。
【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明は,磁気ディスク用の磁気ヘッド,とりわけ,磁気抵抗効果素子を用いた高分解能磁気センサと,磁性膜を用いたマイクロ波アシスト磁気記録ヘッドの製造に適用できる。
【符号の説明】
【0040】
1 記録ヘッド部
2 再生ヘッド部
3 下部磁気シールド層
4 上部磁気シールド層
5 磁気抵抗効果素子
6 ハードバイアス膜
11 アルミナ膜
14 磁気抵抗効果膜
15 下側素子
16 上側素子
17 センス電流
18 補助層
19 マイクロ波発生層
20 参照層
21 固定層
22 絶縁層
23 自由層
24 非磁性中間層
25 自由層
26 絶縁層
27 固定層
28 キャップ層
29 下地層
30 積層マスク
40 ボイド
41 裾引き部
42 第1のハードバイアス膜
43 第2のハードバイアス膜
44 第1の配向下地層
47 第2の配向下地層
50 メインポール
51 MAMR素子
52 後端側シールド

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に設けた磁性多層膜にパターンを形成して除去した部分に膜を埋め込む工程を含む磁気ヘッドの製造方法において,
前記膜を埋め込む工程は,
第1の膜を堆積する工程と,
前記第1の膜の一部分をエッチバックする工程と,
その上に第2の膜を堆積する工程と
を有することを特徴とする磁気ヘッドの製造方法。
【請求項2】
請求項1記載の磁気ヘッドの製造方法において,前記パターンを形成した磁性多層膜の側壁裾引き部のテーパー高さkと,前記第1の膜と前記第2の膜の平坦部での総膜厚xとが,x>2kの関係を満たすことを特徴とする磁気ヘッドの製造方法。
【請求項3】
請求項1又は2記載の磁気ヘッドの製造方法において,前記磁性多層膜の主たる側壁が,前記基板面に対して垂直か,もしくは垂直から20度以内の傾斜角度を有することを特徴とする磁気ヘッドの製造方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項記載の磁気ヘッドの製造方法において,前記埋め込まれる膜は磁区制御を行う硬磁性膜であることを特徴とする磁気ヘッドの製造方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項記載の磁気ヘッドの製造方法において,前記第1の膜は第1の配向下地層とその上に続けて堆積する第1の硬磁性層から成り,前記第2の膜は第2の配向下地層とその上に続けて堆積する第2の硬磁性層から成ることを特徴とする磁気ヘッドの製造方法。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項記載の磁気ヘッドの製造方法において,前記第1の膜と前記第2の膜は同一種類の膜であることを特徴とする磁気ヘッドの製造方法。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項記載の磁気ヘッドの製造方法において,前記エッチバックの量は,前記第1の膜の平坦部での膜厚の50%以内であることを特徴とする磁気ヘッドの製造方法。
【請求項8】
磁気的に結合していない第1の磁気検知膜と第2の磁気検知膜を積層した磁性多層膜と,前記磁性多層膜のトラック幅方向両側に設けられた磁区制御用の硬磁性膜とを有し,前記第1の磁気検知膜と前記第2の磁気検知膜の差動信号を出力する差動型磁気再生ヘッドであって,
前記磁区制御用の硬磁性膜は,膜表面をエッチバックした第1の埋め込み膜と,その上に堆積した第2の埋め込み膜から成る積層構造を有することを特徴とする差動型磁気再生ヘッド。
【請求項9】
少なくともスピン偏極電流を発生する第1の磁性層と前記スピン偏極電流のスピントルクによってマイクロ波を発生する第2の磁性層とを積層した磁性多層膜と,記録磁界を発生する磁極と,前記磁性多層膜に隣接して形成された埋め込み膜とを有するエネルギーアシスト型磁気記録ヘッドであって,
前記磁性多層膜に隣接して形成された埋め込み膜は,膜表面をエッチバックした第1の埋め込み膜と,その上に堆積した第2の埋め込み膜から成る積層構造を有することを特徴とするエネルギーアシスト型磁気記録ヘッド。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【公開番号】特開2011−108320(P2011−108320A)
【公開日】平成23年6月2日(2011.6.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−262231(P2009−262231)
【出願日】平成21年11月17日(2009.11.17)
【出願人】(503116280)ヒタチグローバルストレージテクノロジーズネザーランドビーブイ (1,121)
【Fターム(参考)】