説明

磁気記録ヘッド、磁気ヘッドアセンブリ、及び磁気記録再生装置

【課題】 小さな駆動電流で効率よく高周波磁界を発生させることができる磁気記録ヘッド及び磁気記録再生装置を提供することを目的とする。
【解決手段】 第1の強磁性層10bと、第2の強磁性層30と、第1の強磁性層10bと第2の強磁性層30との間に設けられた中間層22と、第1の強磁性層10bの中間層22が設けられた側とは反対側に設けられたCoIr合金を含む第3の強磁性層10aと、第3の強磁性層10aの第1の強磁性層10bが設けられた側とは反対の側に設けられた主磁極61(第1の磁極)と、第2の強磁性層30の中間層22が設けられた側とは反対の側に設けられたリータンパス62(第2の磁極)とを備えることを特徴とする磁気記録ヘッド110。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気記録ヘッド、磁気ヘッドアセンブリ、及び磁気記録再生装置に関する。
【背景技術】
【0002】
米国特許出願公開第2008/0137224号明細書(特許文献1)には、発振層と、スピン注入層と、発振層とスピン注入層との間に設けられた非磁性層とを備える磁気記録ヘッドが開示されている。また、発振層とスピン注入層は、Co、CoFe、CoFeB、及びNiFeから選択される合金を備えている。
【0003】
しかしながら、上記した合金を用いて発振周波数を増大させるには、磁気記録ヘッドに流す駆動電流を大きくしなければならない。また、駆動電流を増大させると、発振層とスピン注入層を構成する元素の拡散が生じる恐れがある。さらに、発振層の磁化が不均一な方向で発振するために、高周波磁界(Hac)を効率よく発生させることができない。
【0004】
そこで、駆動電流を低減する手段として、負の一軸面内磁気異方性を有する発振層を用いたスピントルク発振子が提案されている(例えば、非特許文献1を参照)。負の一軸面内磁気異方性とは、膜面内を結晶磁気異方性の磁化容易方向としており、かつ膜面内においては特定の方向の結晶磁気方向性を持たない状態を示す。
【0005】
しかしながら、発振層自体に負の一軸面内磁気異方性を有する材料を用いると、スピン軌道相互作用によるスピン散乱によってスピントルクの効果が弱められてしまう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】米国特許出願公開第2008/0137224号明細書
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】2010 Joint−Intermag MMM、アブストラクト番号BB−10、五十嵐 他
【非特許文献2】JOURNAL OF APPLIED PHYSICS 99, 08Q907 _2006_, 日本磁気学会誌 2007A2043
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
そこで本発明は、小さな駆動電流で効率よく高周波磁界を発生させることができる磁気記録ヘッド、磁気ヘッドアセンブリ、及び磁気記録再生装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一態様に係る磁気記録ヘッドは、第1の強磁性層と、第2の強磁性層と、前記第1の強磁性層と前記第2の強磁性層との間に設けられた中間層と、前記第1の強磁性層の前記中間層が設けられた側とは反対側に設けられたCoIr合金を含む第3の強磁性層と、前記第3の強磁性層の前記第1の強磁性層が設けられた側とは反対の側に設けられた第1の磁極と、前記第2の強磁性層の前記中間層が設けられた側とは反対の側に設けられた第2の磁極とを備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、小さな駆動電流で効率よく高周波磁界を発生させることができる磁気記録ヘッド、磁気ヘッドアセンブリ、及び磁気記録再生装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る磁気記録再生装置を示す図。
【図2】ヘッドスライダーを示す図。
【図3】磁気記録ヘッドの一部を示す図。
【図4】磁気記録ヘッドの媒体対向面を示す図。
【図5】本発明の第2の実施形態に係る磁気記録ヘッドの媒体対向面を示す図。
【図6】スピントルク発振子の発振周波数と高周波磁界との関係を示す図。
【図7】スピントルク発振子の発振周波数と高周波磁界との関係を示す図。
【図8】スピントルク発振子の発振周波数と高周波磁界との関係を示す図。
【図9】本発明の第3の実施形態に係る磁気記録再生装置を示す図。
【図10】本発明の第3の実施形態に係る磁気記録再生装置の一部を示す図。
【図11】ディスクリートトラック媒体を示す図。
【図12】ディスクリートビット媒体を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下図面を参照して、本発明の各実施形態を説明する。同じ符号が付されているものは同様のものを示す。なお、図面は模式的または概念的なものであり、各部分の厚みと幅との関係、部分間の大きさの比係数などは、必ずしも現実のものと同一とは限らない。また、同じ部分を表す場合であっても、図面により互いの寸法や比係数が異なって表される場合もある。
(第1の実施形態)
【0013】
図1は、本発明の第1の実施形態に係る磁気記録ヘッド110及び磁気記録媒体80を示す図である。矢印85は磁気記録媒体80の進行方向を示す。磁気記録媒体80の表面で矢印85に垂直な方向がトラック幅方向である。
【0014】
本実施形態に係る磁気記録ヘッド110は、再生ヘッド部70と書き込みヘッド部60を備えている。
【0015】
再生ヘッド部70は、磁気シールド層72aと磁気シールド層72bとを備えている。また、磁気シールド層72aと磁気シールド層72bとの間に更に磁気再生素子71が設けられている。
【0016】
書き込みヘッド部60は、主磁極61(第1の磁極)とリターンパス62(第2の磁極)とスピントルク発振子(以下、STOという)10とを備えている。また、書き込みヘッド部60は、励磁コイルを備えている(図示せず)。
【0017】
なお、再生ヘッド部70と書き込みヘッド部60を構成する各要素は、アルミナ等の絶縁体により分離されている(図示せず)。
【0018】
磁気再生素子71は、例えばGMR(Giant Magnetro Resistance)素子やTMR(Tunnel Magneto−Resistive effect)素子などを用いることができる。また、再生分解能をあげるために、磁気再生素子71は、2枚の磁気シールド層72a、72bの間に設置される。
【0019】
図2は、本実施形態に係る磁気記録ヘッド110が搭載されたヘッドスライダー3を示す図である。
【0020】
ヘッドスライダー3は、Al/TiCなどからなり、磁気記録媒体80の上を浮上又は接触しながら相対的に運動できるように設計・加工されている。そして、ヘッドスライダー3は、空気流入側3Aと空気流出側3Bとを有し、磁気記録ヘッド110は、空気流出側3Bの側面などに配置される。
【0021】
磁気記録媒体80は、基板82とその上に設けられた磁気記録層81とを有する。書き込みの動作は、書き込みヘッド部60から磁界を磁気記録媒体80に印加することで行われる。このとき、磁気記録層81の磁化は所定の方向に制御される。読み込みの動作は、再生ヘッド部70が磁気記録層81の磁化の方向を読み取ることで行われる。
【0022】
図3は、書き込みヘッド部60の構成を示す図である。
【0023】
図3に示すように、STO10は、主磁極61とリターンパス62との間に、発振層10a、10b(第3、第1の強磁性層)とスピン透過率の高い中間層22とスピン注入層30(第2の強磁性層)とが積層された構造を有する。また、主磁極61は、磁界をSTO10に印加する役割とSTO10に電流を流す電極としての役割を有する。リターンパス62は、主磁極61から印加された磁界をリターンパス62へ導く役割とSTO10に電流を流す電極としての役割を有する。なお、スピン注入層30とリターンパス62との間にキャップ層を設けてもよい。また、主磁極61とリターンパス62は電極として用いなくてもよい。この場合、主磁極61と発振層10aとの間、及びリターンパス62とスピン注入層30との間に電極を設ける。
【0024】
STO10は、主磁極61からリターンパス62に駆動電子流を流すことにより、発振層10a、10bから高周波磁界を発生することができる。このSTO10から発生する高周波磁界を磁気記録媒体80上に印加することにより、高周波アシスト記録を実現する。なお、STO10に通電できる最大の電流密度は、例えばSTO10のサイズが70nm程度の場合には2×10A・cm−2である。これ以上の電流密度ではSTO10が発熱、又はSTO10を構成する元素の拡散が生じる恐れがある。よって、なるべく小さな電流密度でSTO10に電流を流すことが好ましい。
【0025】
書き込みヘッド部60は、励磁コイルに書き込み電流が供給されると、主磁極61から磁界を発生して磁気記録媒体80上に垂直方向の磁気記録を行なう。すなわち、書き込みヘッド部60は、主磁極61とリターンパス62の間に磁界を発生する。さらに、磁界はSTO10に対しても印加される。このSTO10に印加される磁界の強度を大きくすることで、発振層10a、10bの強磁性共鳴周波数を高め、STO10から発生する高周波磁界周波数を調整することができる。また、高周波磁界の強度は発振層10a、10bの磁化がスピントルクによりSTO10に印加される磁界の方向に対して垂直な方向に向く場合に最大となる。
【0026】
STO10のサイズは数10nmであるためにSTO10が発生する高周波磁界はSTO10の近傍の数10nm程度の領域に極在する。さらに高周波磁界の面内(磁気記録媒体80の面内)成分により垂直磁化した磁気記録媒体80を効率的に共鳴することが可能となり磁気記録媒体80の保磁力を大幅に低下させることができる。この結果、主磁極61による記録磁界とSTO10による高周波磁界とが重畳した部分のみで高密度磁気記録が行われ、高保磁力で高磁気異方性エネルギーを有する磁気記録媒体80を利用することができる。このため、高い密度で記録する場合に生じる熱揺らぎを回避しやすくなる。
【0027】
スピン注入層30及び発振層10a、10bの保持力はSTO10に印加される磁界より小さいため、STO10の発振角速度ベクトルはSTO10に印加される磁界に応じた極性となる。このため、駆動電流の極性が一定であっても、磁気記録媒体80上の楕円偏光した高周波磁界の角速度ベクトルの極性は、記録磁界と同一方向の極性となり、書き込み電流の極性に関わらず、良好な記録を実現することができる。
【0028】
図4は、書き込みヘッド部60を磁気記録媒体80の表面から垂直方向に眺めた図を示す。すなわち、書き込みヘッド部60の磁気記録媒体80に対向する面(Air Bearing Surface:ABS面)を示す図である。矢印85は磁気記録媒体80の進行方向を示す。トラック幅方向に垂直な方向において、STO10を挟んで主磁極61に対向してリターンパス62が設けられている。リターンパス62は合金磁性材料等からなる。
【0029】
STO10は、下地層25と、下地層25上に設けられた発振層10a、10bと、発振層10a、10b上に設けられた中間層22と、中間層22上に設けられたスピン注入層30を備える。なお、STO10の積層順としては、下地層25上に、スピン注入層30、中間層22、発振層10b、10aの順に積層されていても良い。この場合、駆動電子流は、リターンパス62から主磁極61に向かって流すことにより、高周波磁界を発生する事ができる。
【0030】
下地層25には、例えばTa、Ruなどの金属を用いることができる。下地層25の厚さは約2nmである。
【0031】
発振層10aは、は面内磁化容易方向の一軸面内磁気異方性(負のKu:異方性エネルギー)をもつ強磁性層により構成される。具体的には、CoIr合金を用いることができる。CoIr合金を用いる場合、Irの組成は5%以上40%以下であることが好ましい。より好ましくは5%以上20%以下であれば安定して一軸面内磁気異方性を得ることができる(例えば、非特許文献2を参照)。その他の負のKuを示す強磁性体としては、Fe/Co人工格子、NdCo合金を用いることができる。例えば、Co/Pt人口格子とは、0.2nmから1nmのCo層に0.2nmから1nmのPt層を積層し、これを3回から6回繰り返した状態の積層構造を示す。
【0032】
発振層10bには、Fe、Co、及びNiから選択される少なくとも一つの金属を含む合金を用いることができる。また、これらの材料は体心立方格子からなる結晶構造であることが好ましい。
【0033】
従来の発振層では、発振層の積層方向に対して垂直な方向(面内方向)に磁化が傾いていないので、主磁極61に駆動電流を流して発振層の磁化を傾けて回転させる必要があった。しかし、本実施形態の発振層10aは、面内に磁気異方性を持つので従来よりも小さな駆動電流を流すだけで磁化を傾けて回転させることができる。さらに、面内に磁気異方性を持つ発振層10aを発振層10bとは別途設けている。よって、発振層内でスピン軌道相互作用によるスピン散乱が生じにくい。
【0034】
なお、発振層10a、10bの厚さには上限はない。これは、駆動電流を大きくさえすれば理論上は磁化を傾けて回転させることができるからである。しかし、設計等を考慮すると発振層10a、10bの厚さは10nm程度であることが好ましい。
【0035】
また、発振層10a、10bの面内磁気異方性を含めて膜厚を考慮すると、例えば、発振層10aに10nmの厚さのCo85Ir15を用いて、発振層10bに10nmの厚さのFe50Co50を用いると、発振層10a、10b全体では異方性磁界は2kOe程度となる。また、発振層全体で異方性磁界が3kOe程度とするには、発振層10aに10nmの厚さのCo85Ir15を用いて、発振層10bに6nm厚さのFe50Co50を用いる。なお、発振層10bの厚さを2nm以下にし、発振層10aの厚さを10nm以上の負の磁気異方性の材料で形成した場合、実質的には発振層10aの磁気異方性が発振層10a、10b全体の磁気異方性となる。
【0036】
中間層22には、例えばCu、Al、Au、Ag、Pd、Os、Ir等の非磁性金属を用いることができる。中間層22の厚さは、例えば2nm以上10nm以下である。
【0037】
スピン注入層30は、積層方向に対して一軸磁気異方性を持つ磁性体を用いて構成される。これにより、駆動電流を流したときに、発振層10a、10bに対して膜面内に磁化を向かせるトルクを発生する事ができる。スピン注入層30には、CoPt合金、Co/Pt人口格子、Co/Ni人口格子、Co/Pd人口格子などを用いることができる。ここで、‘/’は積層を示し、3回から6回繰り返して積層されていることを示す。スピン注入層30の厚さは、例えば15nmである。
【0038】
また、スピン注入層30が有する異方性磁界は、主磁極61からリターンパス62に印加される磁界よりも小さいことが好ましい。これは、主磁極61からリターンパス62に印加される磁界に対して容易にスピン注入層30中の磁界の向きを変わるようにするためである。具体的には、8keO以上20keO以下であることが好ましい。
【0039】
磁気記録媒体80を高周波磁界で十分に共鳴させるには、STO10の面内高周波磁界の強度を磁気記録媒体80が有する異方性磁界よりもできるだけ大きくすることが好ましい。面内高周波磁界の強度を高める方法としては、発振層10aの飽和磁化を増加させること、発振層10aの膜厚を厚くすること、又は発振層10aの磁化の回転角度を増加させること等が例としてあげられる。しかしながら、これらの方法は何れも駆動電流を増加させなければならない。
【0040】
また、高周波磁界の周波数は、磁気記録媒体80が有する異方性磁界に応じて最適化しなければならない。例えば、磁気記録媒体80が15keOの異方性磁界を有する場合には、20から30GHz程度の周波数が必要となる。この程度の周波数を発振するには、STO10に印加される磁界を強くする必要がある。印加する磁界が強くなると、その磁界に対して垂直方向に発振層10aの磁化の向きを変えるために大きな駆動電流が必要となる。
【0041】
本実施形態に係るSTO10を用いることで、小さな駆動電流で高周波磁界を発生させることができる。さらに、駆動電流が小さいので高効率で磁化の書き込みや読み込みを行うことができる磁気記録ヘッドを提供することができる。
(第2の実施形態)
【0042】
図5に本発明の第2の実施形態に係る書き込みヘッド部60を磁気記録媒体80の表面から垂直方向に眺めた図を示す。すなわち、書き込みヘッド部60の媒体対向面を示す。
【0043】
第1の実施形態とは、下地層25と発振層10bとの間に反強磁性層11が設けられている点が異なる。
【0044】
反強磁性層11には、Mn合金を用いることができる。具体的にはIrMn、PtMn、NiMn、FeMn、RhMn等を用いることができる。
【0045】
反強磁性層11を用いることで発振層10bに面内の磁気交換結合バイアスを付与することができる。このような交換結合バイアスを与えるためには、反強磁性層11を膜面内磁界中で成膜する必要がある。このとき一方向に磁界を加えると、その方向に発振層10bが交換バイアスを受けるため、円滑な歳差運動を行うことができない。そのため、成膜時に印加する磁界は、常に面内で方向を変える回転磁界であることが好ましい。もしくは、下地層4、反強磁性層11、発振層10b、中間層22、スピン注入層30を形成した後、回転磁界中で300度程度の熱処理を行って面内の磁気交換結合バイアスを付与してもよい。
【0046】
反強磁性層11の膜厚は、どの交換バイアス強度を得るかによって決定される。この点を考慮すると、反強磁性層11の膜厚は5nm以上であることが好ましい。例えば、例えば発振層10bが2kOeの負の異方性磁界を得るためには、発振層10bにFeCoを用いて発振層10bの膜厚を5nmとして、反強磁性層11にIrMnを用いて反強磁性層11の膜厚を5nmとすればよい。
(実施例1)
【0047】
図6は、第1の実施形態に係るSTO10を具備する磁気記録ヘッド60について、STO10内の発振周波数とSTO10が発生する高周波磁界との関係の電流密度依存性をシミュレーションした結果を示す図である。縦軸が高周波磁界c−Hac(Oe)を示し、横軸が発振周波数f(GHz)を示す。
【0048】
STO10は、スピン注入層30、中間層22、発振層10a、10bとして構成しているものとした。
【0049】
具体的には、スピン注入層30はCoを0.2nm、Niを0.6nmを交互に18回積層し、中間層22はCuを3nm積層し、発振層10aはFeCoを1nm積層、発振層10bはIr15Mn85を16nm積層したものとした。また、STO10の積層方向に対して垂直な方向の幅は33nmとした。そして、磁気記録媒体80とSTO10までの距離は17.5nmとした。上記の構成では、発振層10bの磁気異方性が3kOe付与される。
【0050】
高周波磁界の発振周波数は、ハードディスクに用いられる磁気記録媒体の場合には、30GHz以上が必要になる。このとき、高周波磁界は400Oe以上必要となる。これを示したのが図6の網掛けで囲まれているスペック領域である。
【0051】
本実施例では、電流密度が4×10A・cm−2でこの領域に達している。
(実施例2)
【0052】
図7は、第1の実施形態に係るSTO10を具備する磁気記録ヘッド60について、STO10内の発振周波数とSTO10が発生する高周波磁界との関係の電流密度依存性をシミュレーションした結果を示す図である。縦軸が高周波磁界c−Hac(Oe)を示し、横軸が発振周波数f(GHz)を示す。
【0053】
実施例1とは、発振層10aを3nmのFeCo層とし、発振層10bを0.2nmのCo層と0.6nmのNi層とを交互に14回積層したものとしている点が異なる。この膜構成でも、発振層10bの磁気異方性が3kOe付与される。
【0054】
この場合は、電流密度が5.6×10A・cm−2でスペック領域に達している。
(比較例1)
【0055】
図8は、STOを具備する磁気記録ヘッドについて、STO内の発振周波数とSTOが発生する高周波磁界との関係の電流密度依存性をシミュレーションした結果を示す図である。
【0056】
実施例1、2とは、発振層10a、10bを17nmのFeCo層とした点が異なる。この場合、電流密度が5.6×10A・cm−2でもスペック領域に達していない。
【0057】
よって、本発明に係るSTOを用いることで駆動電流を小さくできることがわかる。
(第3の実施形態)
【0058】
図9は、本発明の第3の実施形態に係る磁気記録再生装置150を示す図である。図10は、本発明の第3の実施形態に係る磁気記録再生装置150の一部を示す図である。
【0059】
図9に示すように、本実施形態に係る磁気記録再生装置150は、ロータリーアクチュエータを用いた形式の装置である。同図において、記録用媒体ディスク180は、スピンドルモータ4に装着され、駆動装置制御部(図示せず)からの制御信号に応答するモータ(図示せず)により矢印Aの方向に回転する。本実施形態に係る磁気記録再生装置150は、複数の記録用媒体ディスク180を備えたものとしても良い。
【0060】
記録用媒体ディスク180に格納する情報の記録再生を行うヘッドスライダー3は、既に説明したような構成を有し、薄膜状のサスペンション154の先端に取り付けられている。ここで、ヘッドスライダー3は、例えば、本発明の実施形態に係る磁気記録ヘッド110のいずれかをその先端付近に搭載している。
【0061】
記録用媒体ディスク180が回転すると、サスペンション154による押付け圧力とヘッドスライダー3の媒体対向面(ABSともいう)で発生する圧力とがつりあい、ヘッドスライダー3の媒体対向面は、記録用媒体ディスク180の表面から所定の浮上量をもって保持される。なお、ヘッドスライダー3が記録用媒体ディスク180と接触するいわゆる「接触走行型」としても良い。
【0062】
サスペンション154は、駆動コイル(図示せず)を保持するボビン部などを有するアクチュエータアーム155の一端に接続されている。アクチュエータアーム155の他端には、リニアモータの一種であるボイスコイルモータ156が設けられている。ボイスコイルモータ156は、アクチュエータアーム155のボビン部に巻き上げられた駆動コイル(図示せず)と、このコイルを挟み込むように対向して配置された永久磁石及び対向ヨークからなる磁気回路とから構成することができる。
【0063】
アクチュエータアーム155は、軸受部157の上下2箇所に設けられたボールベアリング(図示せず)によって保持され、ボイスコイルモータ156により回転摺動が自在にできるようになっている。その結果、磁気記録ヘッドを記録用媒体ディスク180の任意の位置に移動できる。
【0064】
図10(a)は、本実施形態に係る磁気記録再生装置の一部の構成を例示しており、ヘッドスタックアセンブリ160の拡大斜視図である。
【0065】
また、図10(b)は、ヘッドスタックアセンブリ160の一部となる磁気ヘッドアセンブリ(ヘッドジンバルアセンブリ)158を例示する斜視図である。
【0066】
図10(a)に示すように、ヘッドスタックアセンブリ160は、軸受部157と、この軸受部157から延出したヘッドジンバルアセンブリ158と、軸受部157からHGAと反対方向に延出していると供にボイスコイルモータのコイル162を支持した支持フレーム161を有している。
【0067】
また、図10(b)に示すように、ヘッドジンバルアセンブリ158は、軸受部157から延出したアクチュエータアーム155と、アクチュエータアーム155から延出したサスペンション154と、を有している。
【0068】
サスペンション154の先端には、ヘッドスライダー3が取り付けられている。そして、ヘッドスライダー3には、本発明の実施形態に係る磁気記録ヘッドのいずれかが搭載される。
【0069】
すなわち、本発明の実施形態に係る磁気ヘッドアセンブリ(ヘッドジンバルアセンブリ)158は、本発明の実施形態に係る磁気記録ヘッドと、前記磁気記録ヘッドが搭載されたヘッドスライダー3と、ヘッドスライダー3を一端に搭載するサスペンション154と、サスペンション154の他端に接続されたアクチュエータアーム155と、を備える。
【0070】
サスペンション154は、信号の書き込み及び読み取り用、浮上量調整のためのヒータ用、スピントルク発振子用のリード線(図示せず)を有し、このリード線とヘッドスライダー3に組み込まれた磁気記録ヘッド110の各電極とが電気的に接続される。また、電極パッド(図示せず)が、ヘッドジンバルアセンブリ158に設けられる。本具体例においては、電極パッドは8個設けられる。すなわち、主磁極61のコイル用の電極パッドが2つ、磁気再生素子71用の電極パッドが2つ、DFH用の電極パッドが2つ、スピントルク発振子10用の電極パッドが2つ、設けられる。
【0071】
そして、磁気記録ヘッドを用いて磁気記録媒体への信号の書き込みと読み出しを行う、信号処理部190が設けられる。信号処理部190は、例えば、図9に例示した磁気記録再生装置150の図面中の背面側に設けられる。信号処理部190の入出力線は、ヘッドジンバルアセンブリ158の電極パッドに接続され、磁気記録ヘッドと電気的に結合される。
【0072】
このように、本実施形態に係る磁気記録再生装置150は、磁気記録媒体と、上記の実施形態に係る磁気記録ヘッドと、磁気記録媒体と磁気記録ヘッドとを離間させ、または、接触させた状態で対峙させながら相対的に移動可能とした可動部と、磁気記録ヘッドを磁気記録媒体の所定記録位置に位置合せする位置制御部と、磁気記録ヘッドを用いて磁気記録媒体への信号の書き込みと読み出しを行う信号処理部と、を備える。
【0073】
すなわち、上記の磁気記録媒体として、記録用媒体ディスク180が用いられる。
【0074】
上記の可動部は、ヘッドスライダー3を含むことができる。
【0075】
また、上記の位置制御部は、ヘッドジンバルアセンブリ158を含むことができる。
【0076】
すなわち、本実施形態に係る磁気記録再生装置150は、磁気記録媒体と、本発明の実施形態に係る磁気ヘッドアセンブリと、前記磁気ヘッドアセンブリに搭載された前記磁気記録ヘッドを用いて前記磁気記録媒体への信号の書き込みと読み出しを行う信号処理部と、を備える。
【0077】
本実施形態に係る磁気記録再生装置150によれば、上記の実施形態に係る磁気記録ヘッドを用いることで、駆動電流が小さいので高効率で磁化の書き込みや読み込みを行うことができる磁気記録再生装置が提供できる。
【0078】
なお、本発明の実施形態に係る磁気記録再生装置において、スピントルク発振子10は、主磁極61のトレーリング側に設けることができる。この場合は、磁気記録媒体80の磁気記録層81は、まず、主磁極61に対向し、その後でスピントルク発振子10に対向する。
【0079】
また、本発明の実施形態に係る磁気記録再生装置において、スピントルク発振子10は、主磁極61のリーディング側に設けることができる。この場合は、磁気記録媒体80の磁気記録層81は、まず、スピントルク発振子10に対向し、その後で主磁極61に対向する。
【0080】
以下、上記の実施形態の磁気記録再生装置に用いることができる磁気記録媒体について説明する。
【0081】
図11は、本発明の実施形態に係る磁気記録再生装置の磁気記録媒体の構成を例示する模式的斜視図である。
【0082】
図11に示すように、本発明の実施形態に係る磁気記録再生装置に用いられる磁気記録媒体80は、非磁性体87(あるいは空気)により互いに分離された垂直配向した多粒子系の磁性ディスクリートトラック86(記録トラックともいう)を有する。この磁気記録媒体80がスピンドルモータ4により回転され、媒体移動方向85に向けて移動する際に、上記の実施形態に係る磁気記録ヘッドのいずれかが設けられ、これにより、記録磁化84を形成することができる。
【0083】
このように、本発明の実施形態に係る磁気記録再生装置においては、磁気記録媒体80は、隣接し合う記録トラック同士が非磁性部材を介して形成されたディスクリートトラック媒体とすることができる。
【0084】
スピントルク発振子10の記録トラック幅方向の幅(TS)を記録トラック86の幅(TW)以上で、かつ記録トラックピッチ(TP)以下とすることによって、スピントルク発振子10から発生する漏れ高周波磁界による隣接記録トラックの保磁力低下を大幅に抑制することができる。このため、本具体例の磁気記録媒体80では、記録したい記録トラック86のみを効果的に高周波磁界アシスト記録することができる。
【0085】
本具体例によれば、いわゆる「べた膜状」の多粒子系垂直媒体を用いるよりも、狭記録トラックすなわち高記録トラック密度の高周波アシスト記録装置を実現することが容易になる。また、高周波磁界アシスト記録方式を利用し、さらに従来の磁気記録ヘッドでは書き込み不可能なFePtやSmCo等の高磁気異方性エネルギー(Ku)の媒体磁性材料を用いることによって、媒体磁性粒子をナノメートルのサイズまでさらに微細化することが可能となり、線記録密度方向(ビット方向)においても、従来よりも遥かに線記録密度の高い磁気記録再生装置を実現することができる。
【0086】
本実施形態に係る磁気記録再生装置によれば、ディスクリート型の磁気記録媒体80において、高い保磁力を有する磁気記録層に対しても確実に記録することができ、高密度かつ高速の磁気記録ができる。
【0087】
図12は、本発明の実施形態に係る磁気記録再生装置の別の磁気記録媒体の構成を例示する模式的斜視図である。
【0088】
図12に示すように、本発明の実施形態に係る磁気記録再生装置に用いることができる別の磁気記録媒体80は、非磁性体87により互いに分離された磁気記録媒体リートビット88を有する。この磁気記録媒体80がスピンドルモータ4により回転され、媒体移動方向85に向けて移動する際に、本発明の実施形態に係る磁気記録ヘッドにより、記録磁化84を形成することができる。
【0089】
このように、本発明の実施形態に係る磁気記録再生装置においては、磁気記録媒体80は、非磁性部材を介して孤立した記録磁性ドットが規則的に配列形成されたディスクリートビット媒体(ビットパターンドメディアとも言う)とすることができる。
【0090】
本実施形態に係る磁気記録再生装置によれば、ディスクリート型の磁気記録媒体80において、高い保磁力を有する磁気記録層に対しても確実に記録することができ、高密度かつ高速の磁気記録ができる。
【0091】
この具体例においても、スピントルク発振子10の記録トラック幅方向の幅(TS)を記録トラック86の幅(TW)以上で、かつ記録トラックピッチ(TP)以下とすることによって、スピントルク発振子10から発生する漏れ高周波磁界による隣接記録トラックの保磁力低下を大幅に抑制することができるため、記録したい記録トラック86のみを効果的に高周波磁界アシスト記録することができる。本具体例を用いれば、使用環境下での熱揺らぎ耐性を維持できる限りは、磁気記録媒体リートビット88の高磁気異方性エネルギー(Ku)化と微細化を進めることで、10Tbits/inch以上の高い記録密度の高周波磁界アシスト記録装置を実現できる可能性がある。
【符号の説明】
【0092】
3 ・・・ ヘッドスライダー
3A ・・・ 空気流入側
3B ・・・ 空気流出側
4 ・・・ スピンドルモータ
10 ・・・ スピントルク発振子
10a ・・・ 発振層(第3の強磁性層)
10b ・・・ 発振層(第1の強磁性層)
22 ・・・ 中間層
25 ・・・ 下地層
30 ・・・ スピン注入層(第2の強磁性層)
40 ・・・ 軟磁性層
60 ・・・ 書き込みヘッド部
61 ・・・ 主磁極
62 ・・・ リターンパス
70 ・・・ 再生ヘッド部
71 ・・・ 磁気再生素子
72a ・・・ 第1磁気シールド層
72b ・・・ 第2磁気シールド層
80 ・・・ 磁気記録媒体
81 ・・・ 磁気記録層
82 ・・・ 媒体基板
84 ・・・ 記録磁化
85 ・・・ 媒体移動方向
86 ・・・ 記録トラック
87 ・・・ 非磁性体
88 ・・・ 磁気記録媒体リートビット
110 ・・・ 磁気記録ヘッド
150 ・・・ 磁気記録再生装置
154 ・・・ サスペンション
155 ・・・ アクチュエータアーム
156 ・・・ ボイスコイルモータ
157 ・・・ 軸受部
158 ・・・ ヘッドジンバルアセンブリ(磁気ヘッドアセンブリ)
160 ・・・ ヘッドスタックアセンブリ
161 ・・・ 支持フレーム
162 ・・・ コイル
180 ・・・ 記録用媒体ディスク
190 ・・・ 信号処理部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の強磁性層と、
第2の強磁性層と、
前記第1の強磁性層と前記第2の強磁性層との間に設けられた中間層と、
前記第1の強磁性層の前記中間層が設けられた側とは反対側に設けられたCoIr合金を含む第3の強磁性層と、
前記第3の強磁性層の前記第1の強磁性層が設けられた側とは反対の側に設けられた第1の磁極と、
前記第2の強磁性層の前記中間層が設けられた側とは反対の側に設けられた第2の磁極とを備えることを特徴とする磁気記録ヘッド。
【請求項2】
Feを含む層とCoを含む層とを交互に積層させた人工格子層と、
中間層と、
前記人工格子層と前記中間層との間に設けられた第1の強磁性層と、
前記中間層の前記第1の強磁性層が設けられた側とは反対の側に設けられた第2の強磁性層と、
前記人工格子層の前記第1の強磁性層が設けられた側とは反対の側に設けられた第1の磁極と
前記第2の強磁性層の前記中間層が設けられた側とは反対の側に設けられた第2の磁極とを備えることを特徴とする磁気記録ヘッド。
【請求項3】
反強磁性層と、
中間層と、
前記反強磁性層と前記中間層との間に設けられた第1の強磁性層と、
前記中間層の前記第1の強磁性層が設けられた側とは反対の側に設けられた第2の強磁性層と、
前記反強磁性層の前記第1の強磁性層が設けられた側とは反対の側に設けられた第1の磁極と、
前記第2の強磁性層の前記中間層が設けられた側とは反対の側に設けられた第2の磁極とを備えることを特徴とする磁気記録ヘッド。
【請求項4】
前記第1の強磁性層が、Fe及びCoの何れか1つの元素を含んでいることを特徴とする請求項1乃至請求項3の何れか1項に記載の磁気記録ヘッド。
【請求項5】
前記第1の強磁性層が、体心立方格子からなる結晶構造を含むことを特徴とする請求項4に記載の磁気記録ヘッド。
【請求項6】
前記第2の強磁性層が、Coを含む層とNi、Pd、及びPtから選択される元素を含む層とが交互に積層された人工格子層であることを特徴とする請求項1乃至請求項5の何れか1項に記載の磁気記録ヘッド。
【請求項7】
請求項1乃至請求項6に記載の磁気記録ヘッドと、
前記磁気記録ヘッドが搭載されたヘッドスライダーと、
前記ヘッドスライダーを一端に搭載するサスペンションと、
前記サスペンションの他端に接続されたアクチュエータアームと、
を備えることを特徴とする磁気ヘッドアセンブリ。
【請求項8】
磁気記録媒体と、
請求項1乃至請求項6に記載の磁気記録ヘッドと、
前記磁気記録媒体と前記磁気記録ヘッドとを離間させ又は接触させた状態で対峙させながら相対的に移動可能とした可動手段と、
前記磁気記録ヘッドを前記磁気記録媒体の所定記録位置に位置合せする制御手段と、
前記磁気記録ヘッドを用いて前記磁気記録媒体への信号の書き込みと読出しを行う信号処理手段と、
を備えることを特徴とする磁気記録再生装置。
【請求項9】
前記磁気記録媒体は、隣接し合う記録トラック同士が非磁性部材を介して形成されたディスクリートトラック媒体であることを特徴とする請求項8に記載の磁気記録再生装置。
【請求項10】
前記磁気記録媒体は、非磁性部材を介して孤立した記録磁性ドットが規則的に配列形成されたディスクリートビット媒体であることを特徴とする請求項8に記載の磁気記録再生装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2011−198399(P2011−198399A)
【公開日】平成23年10月6日(2011.10.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−61663(P2010−61663)
【出願日】平成22年3月17日(2010.3.17)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】