説明

磁気記録媒体

【課題】 磁性記録部と非記録部とからなる磁性パターンの形成にイオン注入を用いた場合においても、非記録部に起因するノイズが低減され、高い品質を確保することが可能な磁気記録媒体を提供することを目的とする。
【解決手段】 本発明にかかる磁気記録媒体の構成は、基体上に少なくとも、面内方向に所定のパターンで形成された磁性記録部と非記録部134とを有する磁気記録層122を備えた磁気記録媒体100において、磁気記録層は、4×10erg/cc以上の垂直磁気異方性定数Kuを有する材料からなり、非記録部は、磁気記録層にイオンを注入することにより形成されることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、HDD(ハードディスクドライブ)などに搭載される磁気記録媒体に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の情報処理の大容量化に伴い、各種の情報記録技術が開発されている。特に磁気記録技術を用いたHDDの面記録密度は年率100%程度の割合で増加し続けている。最近では、HDD等に用いられる2.5インチ径の磁気記録媒体にして、1枚あたり200GByteを超える情報記録容量が求められるようになってきており、このような要請にこたえるためには1平方インチあたり400GBitを超える情報記録密度を実現することが求められる。
【0003】
HDD等に用いられる磁気記録媒体において高記録密度を達成するために、近年、垂直磁気記録方式が提案されている。垂直磁気記録方式に用いられる垂直磁気記録媒体は、磁気記録層の磁化容易軸が基板面に対して垂直方向に配向するよう調整されている。垂直磁気記録方式は従来の面内記録方式に比べて、超常磁性現象により記録信号の熱的安定性が損なわれ、記録信号が消失してしまう、いわゆる熱揺らぎ現象を抑制することができるので、高記録密度化に対して好適である。
【0004】
さらに記録密度および熱揺らぎ耐性を向上させた技術として、記録用の磁性トラック(磁性記録部)の間に非磁性トラック(非記録部)を平行させるようにパターニングして隣接した記録トラックの干渉を防ぐディスクリートトラックメディアや、任意のパターンを人工的に規則正しく並べたビットパターンメディアと呼ばれる磁気記録媒体が提案されている。
【0005】
上述したディスクリートトラックメディアやビットパターンメディアといったパターンドメディアは、非磁性基体の上に磁気記録層を形成した後、部分的にイオンを注入し、非磁性化もしくは非晶質化することにより磁気的に分離した磁性パターンを形成する技術(例えば特許文献1)や、非磁性基体の上に磁気記録層を形成した後、部分的に当該磁気記録層をミリングすることにより凹凸を形成し、物理的に磁気記録層を分離させ、磁性パターンを形成する技術(例えば特許文献2)が提案されている。
【0006】
具体的には、まず、磁気記録層の上にレジストを成膜し所望する凹凸パターンが形成されたスタンパをインプリントしてレジストに凹凸パターンを転写したり、磁気記録層の上にフォトレジストを成膜しフォトリソグラフィ技術により所望する凹凸パターンをフォトレジストに形成したりする。そして、形成された凹部を介して、磁気記録層にイオンを注入したり、凹部の表面に露出した磁気記録層をエッチングによってミリングしたりすることにより、磁気記録層を分離する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2007−226862号公報
【特許文献2】特開2007−157311号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述したパターンドメディアの製造方法のうち、ミリングにより磁気記録層に凹凸を形成した場合、形成された凹部を埋めるために充填層を成膜する必要がある。このとき、充填層をスパッタリングにより成膜すると、凹部には充填層が成膜されるが、当然にして凸部上にも同様に皮膜(充填層)が成膜される。このため、磁気記録媒体の主表面にはかかる皮膜による凸部が形成されてしまう。したがって、凸部上に成膜された皮膜を除去するために、従来ではエッチングにより凸部上に成膜された皮膜を削り、主表面の平坦化を行う必要があった。
【0009】
上記の事由から、特許文献1のようにイオン注入による製造方法と、特許文献2のようにエッチングにより磁気記録層をミリングする製造方法とを比較すると、イオン注入による製造方法の方がパターンドメディアをはるかに簡便に製造することが可能であった。
【0010】
しかし、イオン注入により製造された磁気記録媒体には、形成された非記録部の非磁性化が不十分になるという問題があった。詳細には、イオン注入による製造方法では、イオンビーム法を用いて磁気記録層にイオンを注入することで、イオンを注入された部分の結晶質の磁気記録層を非晶質化し、その部分を非磁性化している。したがって、イオンを注入する量(ドーズ量)が不足すると、非記録部となる磁気記録層の非晶質化が不十分となり、その部分の完全な非磁性化が図れず、非記録部も磁性を有することとなる。すると、かかる非記録部の磁化容易軸の配向方向が不規則になり、その磁化方向が3次元に亘るため、磁化方向に、基板面に対して垂直な成分(垂直方向の磁束)が含まれてしまう。その結果、磁気ヘッドで読み出す際に、磁性記録部の信号と共に垂直成分の磁束がノイズとして拾われてしまい、リードライト(Read Write)特性の低下を招いてしまう。
【0011】
ここで、非記録部を完全に非磁性化するために、イオンの注入量を増加させることが考えられる。しかし、イオンの注入量を増加させすぎると、非晶質化が促進されすぎ、磁気記録層の非記録部となる部分だけでなく、磁性トラックとなる部分までもが非晶質化(非磁性化)してしまう。その結果、オーバーライト(Over Write)特性の低下を招いてしまう。またイオンの注入量を増加させると、イオン注入工程に要する時間の長時間化を招き、製造効率の低下を招くという問題もあった。
【0012】
したがって、現状では、イオンの注入量をある程度までで止めるしかなく、イオン注入による製造方法を用いた場合には、若干のリードライト特性の低下を許容せざるを得なかった。このため、イオンの注入量に依ることなく非記録部に起因するノイズを低減することが可能な手法の開発が望まれていた。
【0013】
本発明は、このような問題に鑑み、磁性記録部と非記録部とからなる磁性パターンの形成にイオン注入を用いた場合においても、非記録部に起因するノイズが低減され、高い品質を確保することが可能な磁気記録媒体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記課題を解決するために、本発明にかかる磁気記録媒体の代表的な構成は、基体上に少なくとも、面内方向に所定のパターンで形成された磁性記録部と非記録部とを有する磁気記録層を備えた磁気記録媒体において、磁気記録層は、4×10erg/cc以上の垂直磁気異方性定数Kuを有する材料からなり、非記録部は、磁気記録層にイオンを注入することにより形成されることを特徴とする。
【0015】
垂直磁気異方性定数Kuは、磁化容易軸の配向の安定性を表しており、その値が大きいほど垂直方向に配向した磁化容易軸が揺らぎにくい。上記構成では、かかる垂直磁気異方性定数Kuが4×10erg/cc以上の材料からなる磁気記録層にイオンを注入する。すると、イオンを注入された部分の磁気記録層は、その結晶構造が乱れ、結晶配向性が著しく低下する。その結果、磁気記録層の非記録部の磁化容易軸が面内方向(水平方向)に向く。これにより、非記録部に起因するノイズが低減され、磁気記録媒体の品質を向上することが可能となる。
【0016】
上記の高い垂直磁気異方性定数Kuを満たすことのできる材料としては、Ptを20at%から40at%含むCoPt系合金にSiOやTiOを含有させた材料を例示することができる。また、高い垂直磁気異方性定数Kuを満たすための他の手段としては、磁気記録層をCo/Ptの多層膜やCo/Pdの多層膜で構成し、SiOやTiOを含有させることでもよい。更に、磁気記録層にSmCo、FePt、NdFeB等を用いることによっても、高いKuを実現することができる。
【0017】
上記の磁気記録層は、1×10erg/cc以上の垂直磁気異方性定数Kuを有する材料からなるとよい。
【0018】
かかる構成によれば、上述したようにイオン注入により磁気記録層の非記録部となる部分の磁化容易軸を水平方向に向けつつ、磁性記録部となる部分の磁化容易軸をより垂直方向に整列させることができる。また、垂直磁気異方性定数Kuが高い材料ほど飽和磁化Msも高いため、これに比例して反磁界も強く、上記の効果を顕著に得ることができる。
【0019】
上記の磁気記録層の膜厚は、4nm〜8nmであるとよい。上述したように、磁気記録層に4×10erg/cc以上の垂直磁気異方性定数Kuを有する材料、すなわち高い垂直磁気異方性定数Kuを有する材料を用いることにより、磁気記録層の磁性記録部となる部分における磁化容易軸は、高い精度で垂直方向に整列した状態となる。したがって、磁気記録層は、磁石として高い強度を有することとなるため、磁気記録層の膜厚をかかる範囲まで薄くすることが可能となる。また、上限値の8nmについては、膜厚が薄いほど強い反磁界を得ることができるため、これ以下の膜厚であることが好ましい。下限値の4nmについては、高いKuを得るためにこれ以上の膜厚であることが好ましい。
【0020】
上記のイオンのドーズ量は、1×1015atom/cm〜1×1017atom/cmであるとよい。上述したように、磁気記録層に、高い垂直磁気異方性定数Kuを有する材料を用いることにより、磁気記録層の膜厚を低下させることができる。したがって、磁気記録層に非記録部を形成するためのイオン注入の際のイオンのドーズ量を上記範囲まで減少させることが可能となる。
【0021】
上記のイオンはNイオンであるとよい。これにより、磁気記録層の非記録部となる部分の結晶配向性を低下させ、垂直磁気異方性定数Kuを好適に低下させることが可能となる。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、磁性記録部と非記録部とからなる磁性パターンの形成にイオン注入を用いた場合においても、非記録部に起因するノイズが低減され、磁気記録媒体の高い品質を確保することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】磁気記録媒体としての垂直磁気記録媒体の構成を説明する図である。
【図2】磁気パターン形成について説明するための図である。
【図3】実施例と比較例のヒステリシスループを説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。かかる実施形態に示す寸法、材料、その他具体的な数値などは、発明の理解を容易とするための例示にすぎず、特に断る場合を除き、本発明を限定するものではない。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能、構成を有する要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略し、また本発明に直接関係のない要素は図示を省略する。
【0025】
本発明にかかる磁気記録媒体の実施形態について説明する。図1は、磁気記録媒体としての垂直磁気記録媒体100の構成を説明する図である。本実施形態にかかる垂直磁気記録媒体100は、パターンドメディアである。これにより、当該垂直磁気記録媒体100の熱揺らぎ耐性を向上し、高記録密度化を促進することが可能となる。
【0026】
図1に示す垂直磁気記録媒体100は、ディスク基体110、付着層112、第1軟磁性層114a、スペーサ層114b、第2軟磁性層114c、前下地層116、第1下地層118a、第2下地層118b、非磁性グラニュラ層120、第1磁気記録層122a、第2磁気記録層122b、補助記録層124、保護層126、潤滑層128で構成されている。なお第1軟磁性層114a、スペーサ層114b、第2軟磁性層114cは、あわせて軟磁性層114を構成する。第1下地層118aと第2下地層118bはあわせて下地層118を構成する。第1磁気記録層122aと第2磁気記録層122bとはあわせて磁気記録層122を構成する。
【0027】
(ディスク基体110)
ディスク基体110は、アモルファス(非晶質)のアルミノシリケートガラスをダイレクトプレスで円板状に成型したガラスディスクを用いることができる。なおガラスディスクの種類、サイズ、厚さ等は特に制限されない。ガラスディスクの材質としては、例えば、アルミノシリケートガラス、ソーダライムガラス、ソーダアルミノケイ酸ガラス、アルミノボロシリケートガラス、ボロシリケートガラス、石英ガラス、チェーンシリケートガラス、又は、結晶化ガラス等のガラスセラミックなどが挙げられる。このガラスディスクに研削、研磨、化学強化を順次施し、化学強化ガラスディスクからなる平滑な非磁性のディスク基体110を得ることができる。
【0028】
ディスク基体110上に、DCマグネトロンスパッタリング法にて付着層112から補助記録層124まで順次成膜を行い、保護層126はCVD法により成膜することができる。この後、潤滑層128をディップコート法により形成することができる。なお、生産性が高いという点で、インライン型成膜方法を用いることも好ましい。
【0029】
以下、各層の構成、およびレジスト層成膜、パターニング、イオン注入、レジスト層除去を行い、磁気記録層122に磁性記録部と非記録部を形成する磁性パターン形成について説明する。
【0030】
付着層112はディスク基体110に接して形成され、この上に成膜される軟磁性層114とディスク基体110との剥離強度を高める機能と、この上に成膜される各層の結晶グレインを微細化及び均一化させる機能を備えている。付着層112は、ディスク基体110がアモルファスガラスからなる場合、そのアモルファスガラス表面に対応させる為にアモルファスの合金膜とすることが好ましい。
【0031】
付着層112としては、例えばCrTi系非晶質層、CoW系非晶質層、CrW系非晶質層、CrTa系非晶質層、CrNb系非晶質層から選択することができる。中でもCoW系合金膜は、微結晶を含むアモルファス金属膜を形成するので特に好ましい。付着層112は単一材料からなる単層でも良いが、複数層を積層して形成してもよい。例えばCrTi層の上にCoW層またはCrW層を形成してもよい。またこれらの付着層112は、二酸化炭素、一酸化炭素、窒素、又は酸素を含む材料によってスパッタを行うか、もしくは表面層をこれらのガスで暴露したものであることが好ましい。
【0032】
軟磁性層114は、垂直磁気記録方式において記録層に垂直方向に磁束を通過させるために、記録時に一時的に磁路を形成する層である。軟磁性層114は第1軟磁性層114aと第2軟磁性層114cの間に非磁性のスペーサ層114bを介在させることによって、AFCカップリングを備えるように構成することができる。これにより軟磁性層114の磁化方向を高い精度で磁路(磁気回路)に沿って整列させることができ、磁化方向の垂直成分が極めて少なくなるため、軟磁性層114から生じるノイズを低減することができる。第1軟磁性層114a、第2軟磁性層114cの組成としては、CoTaZrなどのコバルト系合金、CoCrFeB、CoFeTaZrなどのCo−Fe系合金、[Ni−Fe/Sn]n多層構造のようなNi−Fe系合金などを用いることができる。
【0033】
前下地層116は非磁性の合金層であり、軟磁性層114を防護する作用と、この上に成膜される下地層118に含まれる六方最密充填構造(hcp構造)の磁化容易軸をディスク垂直方向に配向させる機能を備える。前下地層116は面心立方構造(fcc構造)の(111)面がディスク基体110の主表面と平行となっていることが好ましい。また前下地層116は、これらの結晶構造とアモルファスとが混在した構成としてもよい。前下地層116の材質としては、Ni、Cu、Pt、Pd、Zr、Hf、Nb、Taから選択することができる。さらにこれらの金属を主成分とし、Ti、V、Cr、Mo、Wのいずれか1つ以上の添加元素を含む合金としてもよい。例えばfcc構造を取る合金としてはNiW、CuW、CuCrを好適に選択することができる。
【0034】
下地層118はhcp構造であって、磁気記録層122のCoのhcp構造の結晶をグラニュラ構造として成長させる作用を有している。したがって、下地層118の結晶配向性が高いほど、すなわち下地層118の結晶の(0001)面がディスク基体110の主表面と平行になっているほど、磁気記録層122の配向性を向上させることができる。下地層118の材質としてはRuが代表的であるが、その他に、RuCr、RuCoから選択することができる。Ruはhcp構造をとり、また結晶の格子間隔がCoと近いため、Coを主成分とする磁気記録層122を良好に配向させることができる。
【0035】
下地層118をRuとした場合において、スパッタ時のガス圧を変更することによりRuからなる2層構造とすることができる。具体的には、下層側の第1下地層118aを形成する際にはArのガス圧を所定圧力、すなわち低圧にし、上層側の第2下地層118bを形成する際には、下層側の第1下地層118aを形成するときよりもArのガス圧を高くする、すなわち高圧にする。これにより、第1下地層118aによる磁気記録層122の結晶配向性の向上、および第2下地層118bによる磁気記録層122の磁性粒子の粒径の微細化が可能となる。
【0036】
また、ガス圧を高くするとスパッタリングされるプラズマイオンの平均自由行程が短くなるため、成膜速度が遅くなり、皮膜が粗になるため、Ruの結晶粒子の分離微細化を促進することができ、Coの結晶粒子の微細化も可能となる。
【0037】
さらに、下地層118のRuに酸素を微少量含有させてもよい。これによりさらにRuの結晶粒子の分離微細化を促進することができ、磁気記録層122の磁性粒子のさらなる孤立化と微細化を図ることができる。なお酸素はリアクティブスパッタによって含有させてもよいが、スパッタリング成膜する際に酸素を含有するターゲットを用いることが好ましい。
【0038】
非磁性グラニュラ層120はグラニュラ構造を有する非磁性の層である。下地層118のhcp結晶構造の上に非磁性グラニュラ層120を形成し、この上に第1磁気記録層122a(または磁気記録層122)のグラニュラ層を成長させることにより、磁性のグラニュラ層を初期成長の段階(立ち上がり)から分離させる作用を有している。これにより、磁気記録層122の磁性粒子の孤立化を促進することができる。非磁性グラニュラ層120の組成は、Co系合金からなる非磁性の結晶粒子の間に、非磁性物質を偏析させて粒界を形成することにより、グラニュラ構造とすることができる。
【0039】
本実施形態においては、かかる非磁性グラニュラ層120にCoCr−SiOを用いる。これにより、Co系合金(非磁性の結晶粒子)の間にSiO(非磁性物質)が偏析して粒界を形成し、非磁性グラニュラ層120がグラニュラ構造となる。なお、CoCr−SiOは一例であり、これに限定されるものではない。他には、CoCrRu−SiOを好適に用いることができ、さらにRuに代えてRh(ロジウム)、Pd(パラジウム)、Ag(銀)、Os(オスミウム)、Ir(イリジウム)、Au(金)も利用することができる。また非磁性物質とは、磁性粒子(磁性グレイン)間の交換相互作用が抑制、または、遮断されるように、磁性粒子の周囲に粒界部を形成しうる物質であって、コバルト(Co)と固溶しない非磁性物質であればよい。例えば酸化珪素(SiOx)、クロム(Cr)、酸化クロム(CrO、Cr23)、酸化チタン(TiO)、酸化ジルコン(ZrO)、酸化タンタル(Ta)を例示できる。
【0040】
なお本実施形態では、下地層118(第2下地層118b)の上に非磁性グラニュラ層120を設けているが、これに限定されるものではなく、非磁性グラニュラ層120を設けずに当該垂直磁気記録媒体100を構成することも可能である。
【0041】
磁気記録層122は、Co系合金、Fe系合金、Ni系合金から選択される硬磁性体の磁性粒子の周囲に非磁性物質を偏析させて粒界を形成した柱状のグラニュラ構造を有した強磁性の層である。この磁性粒子は、非磁性グラニュラ層120を設けることにより、そのグラニュラ構造から継続してエピタキシャル成長することができる。特に、本実施形態にかかる垂直磁気記録媒体100をディスクリートトラックメディアとする場合、磁気記録層122がグラニュラ構造をとる構成によりSNR(Signal to Noise Ratio:シグナルノイズ比)を向上させることが可能となる。
【0042】
磁気記録層122は、本実施形態では組成および膜厚の異なる第1磁気記録層122aと第2磁気記録層122bとから構成されている。これにより、第1磁気記録層122aの結晶粒子から継続して第2磁気記録層122bの小さな結晶粒子が成長し、主記録層たる第2磁気記録層122bの微細化を図ることができ、SNRの向上が可能となる。
【0043】
また、磁気記録層122を構成する第1磁気記録層122aおよび第2磁気記録層122bには、後述する磁性パターン形成を施すことにより、磁性記録部と非記録部とが所定のパターンで形成される。これにより、当該垂直磁気記録媒体100をパターンドメディアとし、熱揺らぎ耐性を向上し、高記録密度化を促進することが可能となる。かかるパターンドメディアとしては、当該垂直磁気記録媒体100を、磁性記録部を主表面に点在させたビットパターンメディアとしてもよいし、線状に形成した磁性記録部と非記録部とを主表面の半径方向に交互に配置したディスクリートトラックメディアとしてもよい。
【0044】
非記録部に存在する第1磁気記録層122aおよび第2磁気記録層122bの比透磁率は、2〜100程度とすることが好ましい。すなわち、第1磁気記録層122aおよび第2磁気記録層122bの磁性が、硬磁性と軟磁性との間程度の磁性(非硬磁性)となるとい。これにより、高SNRを確保しつつ、磁性記録部のリードライト特性を向上させることが可能となる。
【0045】
本実施形態では、第1磁気記録層122aにCoCrPt−SiO−TiOを用いる。CoCrPt−SiO−TiOは、CoCrPtからなる磁性粒子(グレイン)の周囲に、非磁性物質であるSiO、TiO(複合酸化物)が偏析して粒界を形成し、磁性粒子が柱状に成長したグラニュラ構造を形成した。この磁性粒子は、非磁性グラニュラ層120のグラニュラ構造から継続してエピタキシャル成長した。
【0046】
第2磁気記録層122bには、CoCrPt−SiO−TiO−Coを用いる。第2磁気記録層122bにおいても、CoCrPtからなる磁性粒子(グレイン)の周囲に非磁性物質であるSiO、TiO、Co(複合酸化物)が偏析して粒界を形成し、磁性粒子が柱状に成長したグラニュラ構造を形成した。
【0047】
また本実施形態においては、磁気記録層122、特に第2磁気記録層122bを、4×10erg/cc以上の垂直磁気異方性定数Kuを有する材料により構成する。垂直磁気異方性定数Kuとは、磁化容易軸の配向の安定性を表す値であり、その値が大きいほど垂直方向に配向した磁化容易軸が揺らぎにくいことを示す。したがって、上記構成のように垂直磁気異方性定数Kuが4×10erg/cc以上の材料からなる磁気記録層122(本実施形態においては特に第2磁気記録層122b)に、後述する磁性パターンを形成する際にイオンを注入すると、イオンを注入された部分の磁気記録層122は、その結晶構造が乱れ、結晶配向性が著しく低下する。その結果、磁気記録層122の非記録部の磁化容易軸が面内方向(水平方向)に向く。
【0048】
上記の現象は、イオン注入によって垂直磁気異方性定数Kuが著しく低下した結果、磁化軸が反磁界に負けて面内方向に向くためと考えられる。すなわち、イオンを注入される前は、磁気記録層122の磁化容易軸は反磁界よりも強いために垂直方向を向いている。そして、イオン注入によってKuは弱くなるが、飽和磁化Msはイオン注入によっては低下が少なく(Kuが90%程度低下するとき、Msは30%程度しか低下しない)、飽和磁化Msに比例する反磁界も低下が少ない。この結果として、磁化容易軸が反磁界に負けて垂直方向を向くことができなくなり、水平方向を向くこととなると考えられる。したがって、イオンを注入されることにより形成された非記録部において、磁気ヘッドで読み出す際にノイズとなる垂直方向の磁束がなくなるため、非記録部に起因するノイズが低減され、当該磁気記録媒体の品質を向上することが可能となる。
【0049】
そして、更に好ましくは、磁気記録層122、特に第2磁気記録層122bを、1×10erg/cc以上の垂直磁気異方性定数Kuを有する材料により構成するとよい。かかる構成によれば、上述したようにイオン注入により磁気記録層122の非記録部となる部分の磁化容易軸を水平方向に向けつつ、磁性記録部となる部分の磁化容易軸をより垂直方向に整列させることができる。また、垂直磁気異方性定数Kuが高い材料ほど飽和磁化Msも高いため、これに比例して反磁界も強く、上記の効果を顕著に得ることができる。
【0050】
高い垂直磁気異方性定数Kuを満たすことのできる材料としては、Ptを20at%から40at%含むCoPt系合金にSiOやTiOを含有させた材料を例示することができる。なお、磁気記録媒体の磁性体に保磁力Hcを向上させるためにPtを含有させること自体は通常行われることであるが、保磁力が向上するピークは17at%程度であり、これ以上はノイズが増えるために添加されない。したがって上記のように20at%〜40at%もの大量のPtを含有させることは通常行われない範囲であり、高いKuを満たすための特別な範囲であるということができる。
【0051】
また、高いKuを満たすための他の手段としては、磁気記録層をCo/Ptの多層膜やCo/Pdの多層膜で構成し、SiOやTiOを含有させることでもよい。更に、磁気記録層にSmCo、FePt、NdFeB等を用いることによっても、高いKuを実現することができる。
【0052】
なお、本実施形態においては、磁気記録層122が第1磁気記録層122aおよび第2磁気記録層122bの2層で構成されるため、第2磁気記録層122bを高垂直磁気異方性定数Kuを有する材料から構成することとしたが、磁気記録層122が1層で構成される場合には、かかる1層の磁気記録層122を高垂直磁気異方性定数Kuを有する材料から構成することとするのは言うまでもない。
【0053】
更に、本実施形態では、磁気記録層122の膜厚、すなわち第1磁気記録層122aおよび第2磁気記録層122bの総膜厚を、4nm〜8nmの範囲内に設定することができる。また、磁気記録層122と補助記録層124をあわせた総膜厚を8nm〜15nmの範囲内に設定することが好ましい。上述したように、高い垂直磁気異方性定数Kuを有する材料を磁気記録層122(第2磁気記録層122b)に用いることにより、磁気記録層122の磁性記録部となる部分における磁化容易軸は、高い精度で垂直方向に整列した状態となる。したがって、磁気記録層122は、磁石として高い強度を有することとなるため、磁気記録層122の膜厚をかかる範囲まで薄くすることが可能となる。また、上限値の8nmについては、膜厚が薄いほど強い反磁界を得ることができるため、これ以下の膜厚であることが好ましい。下限値の4nmについては、高い垂直磁気異方性定数Kuを得るためにこれ以上の膜厚であることが好ましい。なお、本実施形態とは異なり、磁気記録層122が1層で構成される場合には、かかる1層の磁気記録層122の膜厚を上記範囲内に設定することは言うまでもない。
【0054】
また上記に示した第1磁気記録層122aおよび第2磁気記録層122bに用いた物質は一例であり、これに限定するものではない。更に、本実施形態では、第1磁気記録層122aと第2磁気記録層122bで異なる材料(ターゲット)であるが、これに限定されず組成や種類が同じ材料であってもよい。非磁性領域を形成するための非磁性物質としては、例えば酸化珪素(SiO)、クロム(Cr)、酸化クロム(Cr)、酸化チタン(TiO)、酸化ジルコン(ZrO)、酸化タンタル(Ta)、酸化鉄(Fe)、酸化ボロン(B)等の酸化物を例示できる。また、BN等の窒化物、B等の炭化物も好適に用いることができる。
【0055】
さらに本実施形態では、第1磁気記録層122aにおいて2種類の、第2磁気記録層122bにおいて3種類の非磁性物質(酸化物)を用いているが、これに限定するものではない。例えば、第1磁気記録層122a、第2磁気記録層122bのいずれかまたは両方において、1種類の非磁性物質を用いてもよいし、2種類以上の非磁性物質を複合して用いることも可能である。このとき含有する非磁性物質の種類には限定がないが、本実施形態の如く特にSiOおよびTiOを含むことが好ましい。したがって、本実施形態とは異なり、磁気記録層122が1層のみで構成される場合、かかる磁気記録層122はCoCrPt−SiO−TiOからなることが好ましい。
【0056】
また、本実施形態にかかる垂直磁気記録媒体100をビットパターンメディアとする場合には、各記録ビットが分離独立していることから、必ずしも磁気記録層122をグラニュラ構造とする必要はない。しかし、磁気記録層122がグラニュラ構造をとる構成により、SNRを向上させることが可能となる。
【0057】
補助記録層124は基体主表面の面内方向に磁気的にほぼ連続した磁性層である。補助記録層124は磁気記録層122に対して磁気的相互作用を有するように、隣接または近接している必要がある。補助記録層124の材質としては、例えばCoCrPt、CoCrPtB、またはこれらに微少量の酸化物を含有させて構成することができる。補助記録層124は逆磁区核形成磁界Hnの調整、保磁力Hcの調整を行い、これにより耐熱揺らぎ特性、OW特性、およびSNRの改善を図ることを目的としている。この目的を達成するために、補助記録層124は垂直磁気異方性Kuおよび飽和磁化Msが高いことが望ましい。なお本実施形態において補助記録層124は磁気記録層122の上方に設けているが、下方に設けてもよい。
【0058】
なお、「磁気的に連続している」とは磁性が連続していることを意味している。「ほぼ連続している」とは、補助記録層124全体で観察すれば一つの磁石ではなく、結晶粒子の粒界などによって磁性が不連続となっていてもよいことを意味している。粒界は結晶の不連続のみではなく、Crが偏析していてもよく、さらに微少量の酸化物を含有させて偏析させても良い。ただし補助記録層124に酸化物を含有する粒界を形成した場合であっても、磁気記録層122の粒界よりも面積が小さい(酸化物の含有量が少ない)ことが好ましい。補助記録層124の機能と作用については必ずしも明確ではないが、磁気記録層122のグラニュラ磁性粒と磁気的相互作用を有する(交換結合を行う)ことによってHnおよびHcを調整することができ、耐熱揺らぎ特性およびSNRを向上させていると考えられる。またグラニュラ磁性粒と接続する結晶粒子(磁気的相互作用を有する結晶粒子)がグラニュラ磁性粒の断面よりも広面積となるため磁気ヘッドから多くの磁束を受けて磁化反転しやすくなり、全体のOW特性を向上させるものと考えられる。
【0059】
また本実施形態においては、垂直磁気記録媒体100は補助記録層124を備える構成をとっているが、垂直磁気記録媒体100をビットパターンメディアとする場合には、補助記録層124を備えなくてもよい。
【0060】
保護層126は、真空を保ったままカーボンをCVD法により成膜して形成することができる。保護層126は、磁気ヘッドの衝撃から垂直磁気記録媒体100を防護するための層である。一般にCVD法によって成膜されたカーボンはスパッタ法によって成膜したものと比べて膜硬度が向上するので、磁気ヘッドからの衝撃に対してより有効に垂直磁気記録媒体100を防護することができる。
【0061】
(磁性パターン形成)
次に、本実施形態の磁気記録層122に、所定のパターンで磁性記録部と非記録部とを形成する磁性パターン形成について詳述する。ここで、磁性パターン形成は、上記磁気記録層122の成膜直後に行ってもよいし、補助記録層124または保護層126を成膜した後に行ってもよい。
【0062】
なお、本実施形態では、磁性パターン形成を、保護層126を成膜した後に行う。これにより、レジスト層に浸漬させたアルカリ性溶液が磁気記録層122に直に接しないため、磁気記録層122において磁性記録部となる部分へのアルカリ性溶液の浸透を防止し、その部分の非磁性化を防ぐことが可能となる。また磁性パターン形成後に保護層126を成膜する必要がなくなるため、製造工程が簡便になる。したがって、生産性の向上および垂直磁気記録媒体100の製造工程における汚染の低減を図ることができる。
【0063】
図2は、磁性パターン形成について説明するための図である。なお、図2において、理解を容易にするために磁気記録層122よりディスク基体110側の層の記載を省略する。磁性パターン形成では、レジスト層成膜、パターニング、イオン注入、レジスト層除去を行う。以下、磁性パターン形成の詳細について説明する。
【0064】
<レジスト層成膜>
図2(a)に示すように、補助記録層124および保護層126を介して、磁気記録層122の上に、スピンコート法を用いてレジスト層130を成膜する。レジスト層130としては、シリカを主成分とするSOG(Spin On Glass)、一般的なノボラック系のフォトレジスト等を好適に利用できる。
【0065】
<パターニング>
図2(b)に示すように、レジスト層130にスタンパ132を押し当てることによって、磁性パターンを転写する(インプリント法)。これにより、レジスト層130が加工され、かかるレジスト層130の厚さが部分的に変化する。スタンパ132は、転写しようとする磁性記録部と非記録部との所定のパターンに対応する凹凸パターンを有する。なお、スタンパには、磁性記録部および非記録部の所定パターン以外にも、プリアンブル、アドレス、およびバースト等のサーボ情報を記憶するためのサーボパターンに対応する凹凸パターンを設けることも可能である。
【0066】
スタンパ132によってレジスト層130に磁性パターンを転写した後、スタンパ132をレジスト層130から取り除くことにより、レジスト層130に、所定のパターン(磁性パターン)の凸部と凹部からなる凹凸パターンが形成される。本実施形態では、スタンパ132の表面にフッ素系剥離剤を塗布している。これにより、レジスト層130から良好にスタンパ132を剥離することが可能となる。
【0067】
なお本実施形態では、パターニングにおいてスタンパ132を用いたインプリント法を利用しているが、フォトリソグラフィ法も好適に利用することができる。ただし、フォトリソグラフィ法を利用する場合には、上述したレジスト層130成膜の際に、フォトレジストをレジスト層130として成膜し、成膜したフォトレジストをマスクを用いて露光・現像し、磁性記録部としての所定のパターンを転写する。
【0068】
<イオン注入>
図2(c)に示すように、パターニングにより所定のパターンを形成したレジスト層130を介在させた状態で、かかるレジスト層130の凹部から、第1磁気記録層122aおよび第2磁気記録層122bとからなる磁気記録層122へ、イオンビーム法を用いてイオンを注入する。これにより、磁気記録層122におけるイオンが注入された部分の結晶が非晶質化されるため、その部分の第1磁気記録層122aおよび第2磁気記録層122bを非磁性化し、非記録部134(図2中、ハッチングで示す。)とすることができる。したがって、レジスト層130の凸部の下にある部分の磁気記録層122を磁気的に分離された磁性記録部とすることが可能となる。
【0069】
なお、本実施形態では磁気記録層122、特に第2磁気記録層122bに高垂直磁気異方性定数Ku(4×10erg/cc以上)を有する材料を用いているため、上記のイオン注入においてイオンを注入された部分、すなわち非記録部134となった部分の磁気記録層122は、結晶配向性が著しく低下し、磁化容易軸が面内方向(水平方向)に向く。したがって、磁気ヘッドによる読み取りの際のノイズ源となる垂直方向の磁束が低減されるため、イオン注入における非記録部134の非磁性化が不十分であっても、非記録部134に起因するノイズを低減することができる。
【0070】
本実施形態では、注入するイオンとしてNイオンを用いる。これにより、磁気記録層122の非記録部134となる部分の結晶配向性を低下させ、垂直磁気異方性定数Kuを好適に低下させることができる。なお、他に用いることができるイオンとしては、B、P、Si,F、C、In、Bi、Kr、Ar、Xe、W、As、Ge、Mo、Sn、N、Oを例示することができ、これらの群から選択されたいずれか1または複数のイオンを注入することも可能である。
【0071】
また、イオンを注入するエネルギー量は1〜50keVである。イオンを注入するエネルギー量が1keV未満であると、磁気記録層122における磁性記録部の磁気的な分離が適切に行われず、ヘッドによる読み出しを行う際にノイズの発生原因となる。その結果、当該垂直磁気記録媒体100をパターンドメディアとして構成することができなくなってしまう。また、50keV以上であると、磁気記録層122の非磁性化や非晶質化が促進されすぎてしまい、リードライト特性が低下したり、レジスト層130の凸部の下にある磁性記録部となる磁気記録層122までもが非磁性化されてしまう。
【0072】
更に、注入されるイオンの総量(ドーズ量)は、1×1015atom/cm〜1×1017atom/cmである。上述したように、本実施形態では磁気記録層122に、高い垂直磁気異方性定数Kuを有する材料を用いる。したがって、磁気記録層122の膜厚を低下させられるため、非記録部134を形成するためのイオンのドーズ量を上記範囲まで減少させることが可能となる。また上記範囲であれば、垂直磁気記録媒体100の良好なSNRを維持しつつ、磁性記録部のリードライト特性を向上させることができる。
【0073】
<レジスト層除去>
図2(d)に示すように、レジスト層130をアルカリ性溶液140に浸漬することにより、図2(e)に示すように、レジスト層130をエッチングを行うことなく容易に除去することができる。本実施形態では、アルカリ性溶液としてKOH溶液を用いる。KOHは強塩基であるため、KOH溶液は強いアルカリ性を示し、レジスト層130を好適に除去することが可能となる。
【0074】
上述したように、レジスト層成膜、パターニング、イオン注入、レジスト層除去を行うことにより、当該垂直磁気記録媒体100に面内方向に所定のパターンの磁性記録部と非記録部134、すなわち磁性パターンが形成される。これにより、当該垂直磁気記録媒体100をパターンドメディアとすることが可能となる。
【0075】
(潤滑層成膜)
図2(e)に示すようにレジスト層130を除去した後に、垂直磁気記録媒体100(保護層126上)に潤滑層128を成膜する。潤滑層128は、PFPE(パーフロロポリエーテル)をディップコート法により成膜することができる。PFPEは長い鎖状の分子構造を有し、保護層126表面のN原子と高い親和性をもって結合する。この潤滑層128の作用により、垂直磁気記録媒体100の表面に磁気ヘッドが接触しても、保護層126の損傷や欠損を防止することができる。
【0076】
図3は実施例と比較例のヒステリシスループを説明する図である。実施例としては垂直磁気異方性定数Kuが5.8×10erg/cc、比較例としてはKuが3.5×10erg/cc未満の磁気記録層を用いた。そして図3からわかるように、イオン注入エネルギーを同等にした場合、Hcの減少およびHnのシフトが大きいことがわかる。また、垂直方向の残留磁化が減少しており、面内方向を向いていることがわかる。なお飽和磁化Msが大きく減少しているのは、垂直方向の残留磁化が減少しているためであると考えられる。これらのことから、高いKuを有する材料を用いてイオン注入を行うことにより、磁化方向を面内方向に向けることができ、大幅なノイズの削減を図ることができることが確認された。
【0077】
上記説明したように、本実施形態にかかる磁気記録媒体によれば、垂直磁気異方性定数Kuが4×10erg/cc以上の材料からなる磁気記録層122にイオンを注入することにより、イオンを注入された部分の磁気記録層122は、その結晶構造が乱れ、結晶配向性が著しく低下する。これにより、磁気記録層122の非記録部134の磁化容易軸が面内方向(水平方向)に向くため、非記録部に起因するノイズが低減され、当該磁気記録媒体の品質を向上することが可能となる。
【0078】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施例について説明したが、本発明は係る例に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【0079】
なお、上記実施形態では、磁気記録層122がグラニュラ構造を有する2層で構成しているが、これに限定されず、1層もしくは複数層で構成されてもよく、グラニュラ構造を有しなくてもよい。また、上述した実施形態において、本発明にかかる磁気記録媒体を垂直磁気記録媒体100として説明したが、これに限定するものではなく、本発明は面内磁気記録媒体においても好適に用いることができる。
【産業上の利用可能性】
【0080】
本発明は、磁気記録方式のHDDなどに搭載される磁気記録媒体として利用可能である。
【符号の説明】
【0081】
100 …垂直磁気記録媒体
110 …ディスク基体
112 …付着層
114 …軟磁性層
114a …第1軟磁性層
114b …スペーサ層
114c …第2軟磁性層
116 …前下地層
118 …下地層
118a …第1下地層
118b …第2下地層
120 …非磁性グラニュラ層
122 …磁気記録層
122a …第1磁気記録層
122b …第2磁気記録層
124 …補助記録層
126 …保護層
128 …潤滑層
130 …レジスト層
134 …非記録部
140 …アルカリ性溶液

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基体上に少なくとも、面内方向に所定のパターンで形成された磁性記録部と非記録部とを有する磁気記録層を備えた磁気記録媒体において、
前記磁気記録層は、4×10erg/cc以上の垂直磁気異方性定数Kuを有する材料からなり、
前記非記録部は、前記磁気記録層にイオンを注入することにより形成されることを特徴とする磁気記録媒体。
【請求項2】
前記磁気記録層は、5×106erg/cc以上の垂直磁気異方性定数Kuを有する材料からなることを特徴とする請求項1に記載の磁気記録媒体。
【請求項3】
前記磁気記録層の膜厚は、4nm〜8nmであることを特徴とする請求項1に記載の磁気記録媒体。
【請求項4】
前記イオンのドーズ量は、1×1015atom/cm〜1×1017atom/cmであることを特徴とする請求項1に記載の磁気記録媒体。
【請求項5】
前記イオンはNイオンであることを特徴とする請求項1に記載の磁気記録媒体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−238332(P2010−238332A)
【公開日】平成22年10月21日(2010.10.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−87766(P2009−87766)
【出願日】平成21年3月31日(2009.3.31)
【出願人】(000113263)HOYA株式会社 (3,820)
【出願人】(501259732)ホーヤ マグネティクス シンガポール プライベートリミテッド (124)
【Fターム(参考)】