磁界検出方法
【課題】精度の高い磁界検出方法を提供する。
【解決手段】
トンネル磁気抵抗効果素子10を用いて外部磁界を検出する磁界検出方法が提供される。磁界検出方法は、トンネル磁気抵抗効果素子10の自由層15の磁化方向を変化させるバイアス磁界Hbと外部磁界Hexとを同時に、もしくはバイアス磁界Hbと外部磁界Hexとを個別にトンネル磁気抵抗効果素子10に印加したときの電気特性を測定するステップと、バイアス磁界Hbおよび外部磁界Hexに応じて測定されたトンネル磁気抵抗効果素子10の電気特性に基づいて外部磁界を算出するステップとを含む。
【解決手段】
トンネル磁気抵抗効果素子10を用いて外部磁界を検出する磁界検出方法が提供される。磁界検出方法は、トンネル磁気抵抗効果素子10の自由層15の磁化方向を変化させるバイアス磁界Hbと外部磁界Hexとを同時に、もしくはバイアス磁界Hbと外部磁界Hexとを個別にトンネル磁気抵抗効果素子10に印加したときの電気特性を測定するステップと、バイアス磁界Hbおよび外部磁界Hexに応じて測定されたトンネル磁気抵抗効果素子10の電気特性に基づいて外部磁界を算出するステップとを含む。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、磁気抵抗効果を利用して外部から印加された磁界を検出する磁界検出装置および磁界検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
外部から印加された磁界を検出する磁界検出素子として、ホール素子のほかに磁気抵抗効果素子が知られている。磁気抵抗効果素子には、金属の磁気抵抗効果を利用したAMR(Anisotropic Magneto-Resistance)素子、巨大磁気抵抗効果を利用したGMR(Giant Magneto-Resistance)素子、およびトンネル磁気抵抗効果を利用したTMR(Tunnel Magneto-Resistance)素子などがある。特に、他に比べて大きなMR比が得られるGMR素子およびTMR素子が注目されている。
【0003】
特公平8−21166号公報(特許文献1)は、スピンバルブ構造を有したGMR素子およびTMR素子について開示する。スピンバルブ構造の磁気抵抗効果素子は、非磁性の薄膜層によって仕切られた強磁性体の第1の薄膜層(自由層)および第2の薄膜層(固着層)を有する。印加磁界が0の場合、強磁性体の第1の薄膜層の磁化方向は、強磁性体の第2の薄膜層の磁化方向に対して直交するように設定され、強磁性体の第2の薄膜層の磁化方向は固定されている。第2の薄膜層の磁化方向を固定させるために、高電気抵抗の反強磁性体の薄膜層が強磁性体の第2の薄膜層に直接、接触して付着される。代替構造として、反強磁性体の薄膜層を、高飽和保磁力かつ高電気抵抗を有する強磁性の層にすることもできる。
【0004】
また、特開2005−236134号公報(特許文献2)に開示される磁気抵抗効果素子では、一定方向に固着された磁化方向を有する固着層と、外部磁界に応じて変化し、かつ、この外部磁界が0のときに固着層の磁化方向と平行となる磁化方向を示す自由層と、固着層と自由層との間に挟まれた中間層とを含む積層体が設けられる。この磁気抵抗効果素子ではさらに、固着層の磁化方向と直交する方向にバイアス磁界を印加するために、永久磁石または固着層の磁化方向に延びるバイアス電流ラインが設けられる。適切な強さのバイアス磁界を印加することによって外部磁界に対する読出電流の抵抗変化を線形とすることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特公平8−21166号公報
【特許文献2】特開2005−236134号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、磁気抵抗効果素子に隣接して電流線を設置してバイアス磁界を印加する場合、電流線と磁気抵抗効果素子との間の電気的な絶縁を保つために絶縁膜を設ける必要がある。絶縁膜の絶縁性および耐久性は絶縁膜の膜厚を厚くするほど向上する。
【0007】
一方、一様な電流Iから距離rだけ離れた場所に発生する磁界Hは、アンペアの法則によって、H=I/(2πr)で与えられる。ここで、πは円周率である。したがって、絶縁膜を厚くするほど電流線と磁気抵抗効果素子の間の距離rが大きくなるので、バイアス磁界を一定に保つためには電流線に流す電流Iを増加させる必要がある。
【0008】
上記の理由で、絶縁膜の絶縁性や耐久性をより向上させるために膜厚を厚くするほど、磁気抵抗効果素子に所望のバイアス磁界を印加するのに必要な電流が増大することになる。このため、磁界検出装置の消費電力が増大してしまうという問題がある。
【0009】
この発明は、かかる課題を解決されるためになされたものである。この発明の目的は、消費電力が小さくかつ磁界の検出精度の高い磁界検出装置および磁界検出方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この発明は要約すれば、外部磁界を検出するための磁界検出装置であって、1または複数の検出素子と、バイアス電流供給部と、測定部と、演算部とを備える。1または複数の検出素子の各々は、外部磁界に応じて磁化方向が変化する第1の強磁性体膜、磁化方向が一定の第2の強磁性体膜、およびこれらの強磁性体膜の間に挟まれたトンネル絶縁膜を含むトンネル磁気抵抗効果素子である。バイアス電流供給部は、1または複数の検出素子の各々に対して、第1の強磁性体膜の磁化方向を変化させるために、第1および第2の強磁性体膜のいずれかに膜面方向のバイアス電流を供給する。測定部は、1または複数の検出素子の各々において、第1の強磁性体膜の磁化方向の変化に応じた検出素子の電気特性を測定する。演算部は、測定部で測定された1または複数の検出素子の各々の電気特性に基づいて外部磁界を算出する。
【発明の効果】
【0011】
この発明によれば、トンネル磁気抵抗効果素子の一方の電極にバイアス電流を流すので、別途バイアス電流用の配線層を設ける場合に比べて、より少ない消費電力でバイアス磁界をトンネル磁気抵抗効果素子に印加することができる。また、外部磁界に応じてバイアス磁界の大きさを変化させることによって、磁界検出精度を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】この発明の実施の形態1による磁界検出装置1の構成を示す模式的に示す平面図である。
【図2】図1の磁界検出装置1の構成を模式的に示す模式的に示す斜視図である。
【図3】図1のIII−III線に沿う断面図である。
【図4】検出素子10の接合部の構成を詳しく示す断面図である。
【図5】外部磁界Hexとバイアス磁界Hbとが平行の場合における外部磁界Hexと素子抵抗Rとの関係を示す図である。
【図6】外部磁界Hexとバイアス磁界Hbとが垂直の場合における外部磁界Hexと素子抵抗との関係を示す図である。
【図7】外部磁界Hexおよびバイアス磁界Hbの方向と磁化方向との関係を説明するための図である。
【図8】図1の磁界検出装置1の動作を説明するための図である。
【図9】図1の磁界検出装置1による外部磁界Hexの検出手順を示すフローチャートである。
【図10】実施の形態1の変形例1による外部磁界Hexの検出方法を説明するための図である。
【図11】実施の形態1の変形例1による外部磁界Hexの検出手順を示すフローチャートである。
【図12】実施の形態1の変形例2によるTMR素子の構成を示す断面図である。
【図13】実施の形態1の変形例3によるTMR素子の構成を示す断面図である。
【図14】この発明の実施の形態2による磁界検出装置2の構成を模式的に示す平面図である。
【図15】図14の磁界検出装置2の要部の構成を模式的に示す模式的に示す斜視図である。
【図16】この発明の実施の形態2の変形例による磁界検出装置2Aの構成を模式的に示す平面図である。
【図17】図16の磁界検出装置2Aの要部の構成を模式的に示す斜視図である。
【図18】この発明の実施の形態3による磁界検出装置3の構成を模式的に示す平面図である。
【図19】図18の磁界検出装置3の動作を説明するための図である。
【図20】図18、図19の磁界検出装置3による外部磁界Hexの検出手順を示すフローチャートである。
【図21】この発明の実施の形態3の変形例1による磁界検出装置3Aの構成を模式的に示す平面図である。
【図22】この発明の実施の形態3の変形例2による磁界検出装置3Bを構成および動作を説明するための図である。
【図23】この発明の実施の形態4による磁界検出装置4の構成を模式的に示す平面図である。
【図24】この発明の実施の形態4による磁界検出装置4Aの動作を説明するための図である。
【図25】図24の磁界検出装置4Aによる外部磁界Hexの検出手順を示すフローチャートである。
【図26】この発明の実施の形態5による磁界検出装置5の構成を模式的に示す平面図である。
【図27】図26の磁界検出装置5によって外部磁界Hexの方向を検知する手順を示したフローチャートである。
【図28】この発明の実施の形態5の変形例による磁界検出装置5Aの構成を模式的に示す平面図である。
【図29】この発明の実施の形態6による回転角センサ6の構成を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、この発明の実施の形態について図面を参照して詳しく説明する。なお、同一または相当する部分には同一の参照符号を付して、その説明を繰返さない。
【0014】
[実施の形態1]
(磁界検出装置1の構成)
図1は、この発明の実施の形態1による磁界検出装置1の構成を示す模式的に示す平面図である。
【0015】
図2は、図1の磁界検出装置1の構成を模式的に示す模式的に示す斜視図である。
図3は、図1のIII−III線に沿う断面図である。以下、図1〜図3を参照して、磁界検出装置1の構成について説明する。なお、以下の説明では、座標軸の方向をX軸方向、Y軸方向、Z軸方向で表わす。単にX軸方向、Y軸方向、Z軸方向と記載したときは+方向と−方向の両方向を意味するものとし、+方向と−方向を区別して方向を表示するときは+X方向、−X方向のように符号を付して記載するものとする。
【0016】
磁界検出装置1は、磁界を検出する検出素子10と、電圧源21と、抵抗素子22と、差動増幅回路23と、参照電圧源24と、制御部25と、バイアス電流供給部としての電流源31とを含む。ここで、電圧源21、抵抗素子22、差動増幅回路23、および参照電圧源24は、検出素子10の抵抗値を測定するための測定部20を構成する。
【0017】
検出素子10は、基板40上に形成されたトンネル磁気抵抗効果素子(TMR素子)であり、絶縁層14を挟んで上部に位置する上部電極18と下部に位置する下部電極17とを含む。検出素子10の上部電極18は、コンタクトホールに形成された導電部46を介在して配線層43と接続される。配線層43は、基板40上に形成された測定部20と電気的に接続される。図2には、測定部20を構成する半導体素子の代表としてMOS(Metal-Oxide Semiconductor)トランジスタ29が示されている。
【0018】
また、検出素子10の下部電極17は、コンタクトホールに形成された導電部44を介在して配線層41と接続され、コンタクトホールに形成された導電部45を介在して配線層42と接続される。配線層41は電流源31と接続され、配線層42は接地GNDに接続される。図2には、電流源31を構成する半導体素子の代表としてMOSトランジスタ39が示される。また、コンタクトホールに形成された導電部44および導電部45は、検出素子10の接合部を跨いでY軸方向の両側に設けられる。
【0019】
上記の配線層41〜43は、導電性の材料で形成されていればよいが、シリコン集積回路などで使用される配線材料で形成されるのが好ましい。たとえば、Al、AlSi、AlSiCu、AlCuなどの材料で形成される。コンタクトホールに形成された導電部44〜46についても、導電性の材料で形成されていいればよいが、好ましくはW,Ti,Co,Si,Ta,Mo,Ru,Pt,Auなどを含む導電性の金属材料で形成される。
【0020】
図4は、検出素子10の接合部の構成を詳しく示す断面図である。図4を参照して、検出素子10は、基板側から順に、非磁性導体11、反強磁性層12、強磁性層(固着層)13、絶縁層14、強磁性層(自由層)15、および非磁性導体16が積層されて形成される。非磁性導体11、反強磁性層12、および強磁性層13が下部電極17に含まれ、強磁性層(自由層)15および非磁性導体16が上部電極に含まれる。
【0021】
強磁性層(固着層)13の磁化方向は、反強磁性層12との交換結合により1方向に固定されている。一方、強磁性層(自由層)15の磁化方向は外部磁場に応じて変化する。このようなスピンバルブ構造を有した磁気抵抗素子の抵抗は、強磁性層(固着層)13の磁化方向と強磁性層(自由層)15の磁化方向とのなす角度に応じて変化する。つまり、外部磁界に影響されて強磁性層(自由層)15の磁化方向が変化することによって素子抵抗が変化する。このため、外部磁界を素子抵抗によって検知することが可能になる。
【0022】
一般に、TMR素子では自由層の磁化方向と固着層の磁化方向とが平行の場合に抵抗は最小値となり、自由層の磁化方向と固着層の磁化方向とが反平行の場合に抵抗は最大値となる。なお、TMR素子の場合、各層の厚みが素子のパターンサイズに対して1/100以下であり形状異方性の影響を強く受ける。したがって、基板40に垂直方向(図1〜図3のZ軸方向)に磁化方向を変化させることは非常に難しく、強磁性層(自由層)15の磁化方向は基板面内方向に限られる。また、基板40に垂直方向に外部磁界を印加した場合には、強磁性層(自由層)15の磁化方向の変化は無視できるので、結果として素子抵抗の変化も無視できる。
【0023】
上記のTMR素子の構造は、たとえば、反強磁性層12としてIrMn、強磁性層(固着層)13としてNiFeまたはCoFe、絶縁層14としてAl2O3、強磁性層(自由層)15としてNiFeを用いることによって構成できる。この他、反強磁性層12として、FeMn、IrMn、PtMnを用いることができる。また、強磁性層13,15として、Co、Fe、CoFe合金、CoNi合金、CoFeNi合金、などのCo、Ni、Feを主成分として含む金属や、NiMnSb、Co2MnGeなどの合金などを用いることができる。TMR素子として所望の性能が得られる材料であれば特段の制約はない。また、トンネル絶縁膜として用いられる絶縁層14は、非磁性層の絶縁体であればよい。たとえば、絶縁層14として、Ta2O5、SiO2、MgOなどの金属の酸化物や、弗化物などを用いることができる。
【0024】
なお、実施の形態1の場合と異なり、強磁性層(自由層)15が下部電極に含まれ、強磁性層(固着層)13および反強磁性層12が上部電極に含まれるように構成することもできる。また、強磁性層(自由層)15は、図4のように単一の磁性層であってもよいし、図4と異なって2種類以上の磁性層が積層された構造であってもよい。
【0025】
また、上記の各層は、たとえばDCマグネトロンスパッタリングにより形成される。その他、分子線エピタキシー(MBE:Molecular Beam Epitaxy)法、各種スパッタ法、化学気相成長(CVD:Chemical Vapor Deposition)法、蒸着法などによって各層を形成してもよい。
【0026】
上記の素子構造は、たとえば、フォトリソグラフィーによるパターンニングとエッチングとよって作製される。この場合、積層膜を形成後、フォトリソグラフィーを用いてフォトレジストによる所望のパターンを形成する。その後、パターンニングされたフォトレジストをマスクにしてイオンミリングもしくは反応性イオンエッチングにより素子の形状が得られる。なお、フォトリソグラフィーに代えて電子線リソグラフィーを用いても良いし、集束イオンビーム加工を用いてもよい。
【0027】
再び図1〜図3を参照して、測定部20の構成について説明する。図1の抵抗素子22および電圧源21は、配線層43と配線層42との間に直列に接続される。また、配線層43は差動増幅回路23の+端子に接続される。一方、差動増幅回路23の−端子には、参照電圧源24によって参照電圧Vrefが与えられる。差動増幅回路23は、抵抗素子22および検出素子10の接続ノードNd1の電圧Vd1と参照電圧Vrefとの差を増幅して制御部25に出力する。
【0028】
上記のように検出素子10と抵抗素子20とからなるハーフブリッジを構成することによって、検出素子10の上部電極18と下部電極17との間の抵抗値に応じた大きさの出力電圧Voutが制御部25に出力される。
【0029】
制御部25は、コンピュータによって構成され、演算部26と記憶部27とを含む。演算部26は、差動増幅回路23の出力電圧Voutに基づいて未知の外部磁界の大きさを算出する。具体的な算出方法は、図8、図9を参照して後述する。記憶部27は、差動増幅回路23の出力など演算部26の処理に必要なデータを記憶する。また、制御部25は、電圧源21および電流源31の動作を制御する。なお、実施の形態1の場合と異なり、演算部26を演算増幅器などを利用してアナログ回路で構成することもできる。
【0030】
電流源31は、配線層41と配線層42との間に接続される。電流源31によって下部電極17にY軸方向のバイアス電流Ibを流すことによって、検出素子10の接合部にはX軸方向のバイアス磁界Hbが印加される。
【0031】
実施の形態1の磁界検出装置1では、未知の外部磁界に加えてバイアス磁界Ibを印加できるので、後述するように磁界の感度を調整することが可能になり、測定誤差を低減させて精度よく外部磁界を検出することができる。また、強磁性層(自由層)15に直近の下部電極17にバイアス電流Ibを流すので、わずかの電流でTMR素子に磁界を印加することが可能であり、消費電力の節約ができる。
【0032】
たとえば、検出素子10に対して20Oeのバイアス磁界Hbを印加することを考える。この場合、検出素子10を保護するために0.1μmの絶縁膜を介して設けられた配線に電流を流す場合には、アンペアの法則により1mAのバイアス電流Ibが必要である。
【0033】
一方、検出素子10の下部電極17に電流を流す場合には、バイアス電流Ibを小さくすることができる。たとえば、非磁性導体11の比抵抗が下部電極17を構成する他の層(反強磁性層12および強磁性層13)の比抵抗よりも十分小さいために、下部電極17を流れるバイアス電流Ibが主として非磁性導体11を流れる場合を考える。この場合、反強磁性層12および強磁性層13の全体の厚みを10nmとすると、絶縁層14よりも10nm下の位置に形成された非磁性導体11に主としてバイアス電流Ibが流れることになる。したがって、0.1mAのバイアス電流Ibで上記の場合と略同じ20Oeのバイアス磁界Hbを得ることができ、低消費電力化が可能になる。特に後述する参照素子のように大きな電流を印加する場合に顕著な効果がある。
【0034】
(磁界検出装置1の動作)
次に、磁界検出装置1の動作について説明する。
【0035】
実施の形態1の磁界検出装置1では、図4の強磁性層(自由層)15の磁化方向は、外部磁界Hexおよびバイアス磁界Hbによって決まる。また、検出素子10(TMR素子)の抵抗値は、強磁性層(自由層)15の磁化方向と強磁性層(固着層)13の磁化方向とのなす角度に応じて変化する。
【0036】
まず、外部磁界Hexの方向とバイアス磁界Hbの方向とが平行または反平行の場合(外部磁界Hex方向とバイアス電流Ibの方向とが垂直の場合)について説明する。この場合、外部磁界Hexに応じた適切な大きさのバイアス磁界Hbを生成することによって、検出素子10(TMR素子)で測定可能な外部磁界Hexの範囲をシフトすることができる。
【0037】
図5は、外部磁界Hexとバイアス磁界Hbとが平行の場合における外部磁界Hexと素子抵抗Rとの関係を示す図である。
【0038】
図5を参照して、検出素子10(TMR素子)は、バイアス磁界Hbが存在しない場合において、−Hk〜Hk(Hk:飽和磁界)の範囲内で線形領域を有する(図5の破線)。外部磁界HexがHex≦−HkまたはHex≧Hkとなる飽和領域では、自由層の磁化方向と固着層の磁化方向とが平行または反平行となって素子抵抗Rが外部磁界Hexに依存しなくなる。−Hk〜Hkの線形領域における素子抵抗Rの変化量をΔRとし、素子抵抗Rの最大値と最小値の平均値をRmとすると、素子抵抗Rの最大値はRm+ΔR/2と表わされ、素子抵抗Rの最小値はRm−ΔR/2と表わされる。最も大きな抵抗変化ΔRを得るためには、固着層の磁化方向が外部磁界Hexの方向と平行または反平行であり、外部磁界Hexが0のときの自由層の磁化方向は固着層の磁化方向と垂直であることが望ましい。
【0039】
ここで、たとえば、外部磁界Hexの大きさを測定する場合には、外部磁界Hexの大きさと抵抗値R、すなわち外部磁界Hexと検出信号とが比例関係にあることが望ましい。そのため、外部磁界Hexの大きさを測定する場合には、検出素子10(TMR素子)が線形領域となる範囲(−Hk〜Hk)が測定可能範囲となる。このとき、バイアス磁界Hbを外部磁界Hexと反平行の方向に印加することで、検出素子10(TMR素子)の線形領域は、(−Hk−Hb)〜(+Hk−Hb)の範囲へ移動する。すなわち、磁界検出装置1の測定可能範囲は、バイアス磁界Hb分だけシフトする。
【0040】
このように、測定対象の外部磁界Hexの変動範囲に応じて、適切な大きさバイアス電流Ibを流してバイアス磁界Hbを生成することによって、磁界検出装置1は、大きな直流成分を含む外部磁界Hexに対して、微小な交流成分を検出することができる。
【0041】
次に、外部磁界Hexの方向とバイアス磁界Hbの方向とが垂直の場合(外部磁界Hex方向とバイアス電流Ibの方向とが平行または反平行の場合)について説明する。この場合、バイアス磁界Hbは、自由層の磁化ベクトルをバイアス磁界Hbの方向へ保持するように機能する。すなわち、自由層の磁化ベクトルは、バイアス磁界Hbによりその向きの変化を妨げされられるので、外部磁界Hexに対する自由層の磁化ベクトルの応答性(感度)が低下する。この結果、バイアス磁界Hbが増加するにつれて、外部磁界Hexに対する検出素子10(TMR素子)の抵抗値Rの変化率(dR/dHex:感度)が小さくなる。
【0042】
図6は、外部磁界Hexとバイアス磁界Hbとが垂直の場合における外部磁界Hexと素子抵抗との関係を示す図である。
【0043】
図6を参照して、検出素子10(TMR素子)は、バイアス磁界Hbが存在しない場合において、−Hk〜Hk(Hk:飽和磁界)の範囲内で線形領域を有する(図6の破線)。一方、バイアス電流Ibによってバイアス磁界Hbが生成されると、検出素子10(TMR素子)の線形領域は、−Hkb〜Hkb(Hkb:バイアス磁界Hbを受けた場合における飽和磁界)へ拡大する(図6の実線)。
【0044】
図5の場合と同様に、外部磁界Hexの大きさを測定する場合には、検出素子10(TMR素子)が線形領域となる範囲が測定可能範囲となる。そのため、バイアス磁界Hbを印加することで、磁界検出装置1の測定可能範囲は、Hkb/Hk倍だけ拡大することになる。
【0045】
このように、外部磁界Hexの方向とバイアス磁界Hbの方向とが垂直の場合には、測定対象の外部磁界Hexの変動量に応じて、適切なバイアス磁界Hbを選択することで、磁界検出装置1は、その測定範囲を拡大させ、より広い範囲の外部磁界Hexを検出することができる。
【0046】
次に、外部磁界Hexの方向とバイアス磁界Hbの方向とが垂直の場合(外部磁界Hex方向とバイアス電流Ibの方向とが平行または反平行の場合)で、自由層が飽和状態である場合について説明する。この場合、外部磁界の大きさに拘らず、検出素子10(TMR素子)の抵抗値は固着層の磁化ベクトルと自由層の磁化ベクトルとのなす角度で決定される。すなわち、抵抗値Rは、固着層の磁化ベクトルと自由層の磁化ベクトルとのなす角度θとして、(1)式で表される。
【0047】
R=Rm+(ΔR/2)×cosθ …(1)
図7は、外部磁界Hexおよびバイアス磁界Hbの方向と磁化方向との関係を説明するための図である。
【0048】
図7を参照して、固着層の磁化ベクトルMpの方向はY軸方向に固定される。また、Y軸方向に外部磁界Hexが印加され、バイアス電流をY軸方向に流すことによって、自由層を含む上部電極18には、X軸方向のバイアス磁界Hbが印加される。この結果、自由層の磁化ベクトルMfの方向は、外部磁界Hexとバイアス磁界Hbとの合成磁界Hの方向に一致する。結果として、固着層の磁化ベクトルMpと自由層の磁化ベクトルMfとのなす角θによって、上式(1)のように素子抵抗Rが決まる。
【0049】
ここで、上記のようにバイアス磁界Hbによってある一定以上の磁界を自由層に印加するようにすれば、磁界に対する素子抵抗Rのヒステリシスを非常に小さくすることができる。この理由は次のとおりである。
【0050】
一般に、ヒステリシスは磁区の生成/消滅と磁壁の移動によって説明できる。磁界がほとんどかからない状態では、磁区を形成したほうが系の自由エネルギーが小さくなるのでヒステリシスが生じることになる。これに対して、ある一定以上のバイアス磁界Hbをかけて自由層のスピンをできるだけ単一磁区になるようにすれば、磁化過程をほぼ磁化ベクトルの回転のみとすることができる。この結果、ヒステリシスを抑制することができる。
【0051】
なお、自由層の磁化ベクトルの方向は形状異方性の影響も受ける。図1、図7の場合、自由層を含む上部電極18の形状を簡単のため正方形としている。これに対して、形状異方性の影響を抑制するために上部電極18の形状を円形とすることもできる。
【0052】
あるいは、逆に、上部電極18の形状を長方形とし、長辺を短辺に比べてかなり長くすることで形状異方性の影響を大きくすることができる。これによって、自由層に形成された各磁区の磁化方向が概略揃うので、ヒステリシスの影響を抑制することができる。
【0053】
(磁界検出装置1による外部磁界の検出手順)
以下、磁界検出装置1によって外部磁界Hexの大きさを検出する具体的に手順について説明する。以下の例は、外部磁界Hexの方向とバイアス磁界Hbの方向とが垂直の場合(外部磁界Hex方向とバイアス電流Ibの方向とが平行または反平行の場合)である。
【0054】
図8は、図1の磁界検出装置1の動作を説明するための図である。図8では、バイアス磁界Hbを生成するための磁界発生部32が示されている。実施の形態1の場合、磁界発生部32は検出素子10の下部電極17である。磁界発生部32によって、検出素子10にバイアス磁界Hbが生成される。なお、磁界発生部32として、バイアス電流Ibの供給用の電流線を下部電極17と独立に設けた場合も、以下に示す手順によって外部磁界Hexを検出することできる。
【0055】
図8を参照して、外部磁界Hexの方向をX軸方向とし、バイアス磁界Hbの方向をX軸方向とする。このとき、バイアス電流Ibの方向はY軸方向になる。また、固着層の磁化ベクトルMpの方向をX軸方向(外部磁界Hexの方向に対して平行または反平行)とする。また、自由層の磁化ベクトルMfの方向は、外部磁界Hexおよびバイアス磁界Hbがいずれも印加されていない場合、形状異方性を利用して、Y軸方向になるようにする。すなわち、自由層の磁化ベクトルMfの方向は、固着層の磁化ベクトルMpの方向と直交するようにする。
【0056】
原理的には、自由層の磁化方向は任意の一定方向、たとえば、X軸方向とY軸方向との間の45度の方向であれば以下に示す方法で未知の外部磁界Hexを測定可能である。しかしながら、前述の式(1)に示すように、磁気トンネル抵抗は自由層の磁化方向と固着層の磁化方向とのなす角θの余弦(cosθ)で決まる。したがって、磁界が0の状態のときの自由層の磁化方向をY軸方向にすることによって、固着層の磁化方向と自由層の磁化方向とを直交(θ=90°)させたほうが磁界に対する応答性がほぼ線形になって良好になるので好ましい。
【0057】
図9は、図1の磁界検出装置1による外部磁界Hexの検出手順を示すフローチャートである。以下、図8、図9を参照して、外部磁界Hexの検出手順について説明する。なお、制御部25の記憶部27には、複数の既知の外部磁界Hexに対して下記と同様の手順で測定した測定結果が記憶されているとする。
【0058】
図9のステップS101で、外部磁界Hexおよびバイアス磁界Hbがいずれも印加されていない場合(Hex=0,Hb=0)に、制御部25は、差動増幅回路23の出力電圧Vout(1)をA/D(Analog to Digital)変換して記憶部27に記憶させる。
【0059】
次のステップS102で、磁界検出装置1に未知の外部磁界Hexが印加される。
次のステップS103で、制御部25は、このときの差動増幅回路23の出力電圧Vout(2)に基づいてバイアス電流Ibの初期値を決定する。具体的には、制御部25は、記憶部27に記憶された既知の外部磁界に対する測定結果の中から、類似の出力電圧が得られたときに設定したバイアス電流Ibの値を初期値として選択する。
【0060】
次のステップS104で、制御部25は、電流源31よってステップS103で決定したバイアス電流Ibの初期値を下部電極17に供給する。これによって、バイアス磁界Hbが発生する。制御部25は、このときの差動増幅回路23の出力電圧Vout(3)をA/D変換して記憶部27に記憶させる。
【0061】
次のステップS104で、制御部25は、ステップS101で記憶した出力電圧Vout(1)とステップS104で記憶した出力電圧Vout(3)との差の絶対値が所定の閾値以内となるか否かを判定する。所定の閾値を超える場合(ステップS105でNO)、ステップS106に進む。そして、ステップS106で制御部25は、出力電圧Vout(1)と出力電圧Vout(3)との差の絶対値が小さくなるようにバイアス電流Ibの値を変更する。その後、ステップS104,S105を再度実行する。
【0062】
一方、ステップS104で、出力電圧Vout(1)と出力電圧Vout(3)との差の絶対値が所定の閾値以下の場合(ステップS105でYES)、制御部25は処理をステップS107に進める。そして、ステップS107で制御部25は、現在のバイアス電流Ibの値に予め設定された換算係数K0を掛けることによって外部磁界Hexの大きさを算出する。
【0063】
ここで、換算係数K0は、既知の外部磁界Hex0に対して上記と同様の処理を行なったときに得られたバイアス電流Ibの値をIb0としたとき、K0=Hex0/Ib0によって求めることができる。好ましくは、複数の既知の外部磁界に対して上記と同様の手順によって複数のバイアス電流Ibをそれぞれ決定し、各外部磁界と対応するバイアス電流との比によって求めた換算係数を予め記憶部27に記憶しておく。そして、未知の外部磁界Hexに対して得られたバイアス電流Ibに最も近い場合を選び出して実際に使用する換算係数を決定してもよい。あるいは、未知の外部磁界Hexから得られたバイアス電流に基づいて、記憶部27に記憶された複数の換算係数を補間することによって実際に使用する換算係数を決定してもよい。
【0064】
(まとめ)
以上のとおり、実施の形態1の磁界検出装置1によれば、検出素子10(TMR素子)の一方の電極である下部電極17にバイアス電流Ibを流すので、別途バイアス電流用の配線層を設ける場合に比べて、より少ない消費電力で検出素子10(TMR素子)にバイアス磁界Hbを印加することができる。また、外部磁界Hexに応じてバイアス磁界Hbの大きさを変化させることによって、検出素子10(TMR素子)の線形領域をシフトさせたり、磁界感度を変化させたりすることができ、これによって磁界検出精度を向上させることができる。
【0065】
[実施の形態1の変形例1]
図10は、実施の形態1の変形例1による外部磁界Hexの検出方法を説明するための図である。図10の変形例1の磁界検出装置1Aは、X軸方向にバイアス磁界Hb1,Hb2を印加する磁界発生部32に加えて、Y軸方向にバイアス磁界Hb0を印加する磁界発生部35をさらに含む点で、図8の磁界検出装置1と異なる。また、図10では、未知の外部磁界Hexの方向をX軸方向とし、固着層の磁化ベクトルMpの方向をX軸方向(外部磁界Hexの方向に対して平行または反平行)とする。その他の、図10の磁界検出装置1Aの構成は図8の磁界検出装置1の構成と共通するので、同一または相当する部分には同一の参照符号を付して説明を繰り返さない。
【0066】
磁界発生部35は、たとえば、検出素子10(TMR素子)の近傍に永久磁石を配置することによって実現できる。磁界発生部35によるバイアス磁界Hb0は、自由層の飽和磁界Hk(図5、図6参照)以上に設定される。図7で説明したように、これによって単一の磁区が形成されるので素子抵抗Rのヒステリシスを非常に小さくすることができる。
【0067】
外部磁界Hexが印加されていない状態では、バイアス磁界Hb0を印加することによって自由層の磁化方向Mfと固着層の磁化方向Mpとを概略直交させる。この状態で外部磁界Hexが印加された場合、図7に関連して説明したように、素子抵抗Rは、前述の(1)式に従って固着層の磁化ベクトルMpと自由層の磁化ベクトルMfとのなす角θによって決まる。したがって、測定された素子抵抗Rから、(1)式に従って角θを算出すれば、Hex=Hb0/tanθによって外部磁界Hexの大きさを求めることができる。
【0068】
変形例1では、さらに、制御部25は、外部磁界Hexが印加されていない状態で、バイアス電流Ibを2通りの値に変化させ、これによって+X方向および−X方向(固着層の磁化方向Mpに対して平行および反平行)に既知バイアス磁界Hb1,Hb2を発生させる。そして、制御部25は、それらのバイアス磁界Hb1,Hb2に対応した素子抵抗を測定する。これによって、前述の式(1)のRm,ΔRを求めることができる。
【0069】
続いて、バイアス電流Ibが流れていない状態で、未知の外部磁界Hexが印加される。制御部25は、このときの素子抵抗Rを測定し、測定した素子抵抗Rと、バイアス電流Ibを流したときに算出したRm,ΔRとを用いて、前述の式(1)の角θを算出する。算出した角θを用いると、より精度よく未知の外部磁界の大きさを測定することができる。この場合、1つの検出素子10で測定結果の補正を行なっていることになるので、回路の面積を削減することができる。また、同じ素子で補正ができるので、たとえば温度による感度の変化などをより正確に補正することができる。
【0070】
図11は、実施の形態1の変形例1による外部磁界Hexの検出手順を示すフローチャートである。以下、具体的な測定手順を図11を参照して説明する。
【0071】
ステップS151で、制御部25は、磁界発生部35によって既知のバイアス磁界Hb0を+Y方向に印加する。バイアス磁界Hb0は、以下のステップS152,S153,S155の測定期間中、常に印加される。
【0072】
次のステップS152で、制御部25は、電流源31によって、所定のバイアス電流Ib(1)を検出素子10に供給する。このバイアス電流Ib(1)によって生成されたバイアス磁界Hb1と前述のバイアス磁界Hb0との合成磁界が検出素子10に印加された状態で、制御部25は、差動増幅回路23の出力電圧Vout(1)をA/D変換して記憶部27に記憶させる。
【0073】
次のステップS153で、制御部25は、電流源31によって、ステップS152と異なる大きさのバイアス電流Ib(2)を検出素子10に供給する。このバイアス電流Ib(2)によって生成されたバイアス磁界Hb2と前述のバイアス磁界Hb0との合成磁界が検出素子10に印加された状態で、制御部25は、差動増幅回路23の出力電圧Vout(2)をA/D変換して記憶部27に記憶させる。
【0074】
次のステップS154で、制御部25の演算部26は、出力電圧Vout(1),Vout(2)に基づいて、前述の式(1)のRm,ΔRを算出する。具体的には、まず、演算部26は、出力電圧Vout(1),Vout(2)と、抵抗素子22の抵抗値と、電圧源21の出力電圧を用いて、ステップS152の場合の検出素子10の素子抵抗R(1)と、ステップS153の場合の検出素子10の素子抵抗R(2)を算出する。次に、演算部26は、バイアス磁界Hb1,Hb2の大きさと、バイアス磁界Hb0の大きさとから、ステップS152の場合における前述の式(1)の角θ(θ1と称する)と、ステップS153の場合における式(1)の角θ(θ2と称する)とを算出する。そして、演算部26は、算出した素子抵抗R(1),R(2)と角θ1,θ2とから、式(1)に従ってRmおよびΔRを算出する。
【0075】
次のステップS155で、制御部25は、バイアス電流Ibが検出素子10に供給されていない状態で、未知の外部磁界Hexが印加されたときの差動増幅回路23の出力電圧Vout(3)をA/D変換して記憶部27に記憶される。この間、検出素子10には、バイアス磁界Hb0と未知の外部磁界Hexとの合成磁界が印加されている。
【0076】
次のステップS156で、制御部25の演算部26は、ステップS154で算出したRmおよびΔRと、ステップS155で測定した出力電圧Vout(3)とを用いて、未知の外部磁界Hexの大きさを算出する。具体的には、まず、演算部26は、出力電圧Vout(3)と抵抗素子22の抵抗値と電圧源21の出力電圧とを用いて、ステップS155の場合の検出素子10の素子抵抗R(3)を算出する。次に、演算部26は、算出した素子抵抗R(3)とステップS154で算出したRmおよびΔRとを用いて、式(1)に従って角θ(θ3と称する)を算出する。そして、演算部26は、算出した角θ3を用いて、Hex=Hb0/tanθ3によって外部磁界Hexの大きさを求める。こうして、温度による感度補正がなされたより正確な外部磁界Hexの測定が可能になる。
【0077】
なお、バイアス磁界Hb0の発生方法としては、この変形例1で挙げたような永久磁石でもよいし、検出素子10(TMR素子)の下部電極を用いてバイアス電流を流す方法でもよい。もしくは、別途作製した配線に電流を流す方法でもよい。
【0078】
また、バイアス磁界Hb1,Hb2の発生方法として、この変形例1のような検出素子10の下部電極を用いてバイアス電流Ibを流す方法であってもよいし、可動式の永久磁石を用いる方法であってもよい。
【0079】
[実施の形態1の変形例2]
図12は、実施の形態1の変形例2によるTMR素子の構成を示す断面図である。図12を参照して、変形例2によるTMR素子は、図4の反強磁性層12に代えて保磁力の大きな強磁性層12Aを含む点で、図4のTMR素子と異なる。その他の点については、図12のTMR素子の構成は図4のTMR素子の構成と同じであるので、同一または相当する部分には同一の参照符号を付して説明を繰返さない。
【0080】
図12のように保磁力の大きな強磁性層12Aを隣接して設けることによっても、強磁性層(固着層)13の磁化方向を一方向に固定することができる。
【0081】
[実施の形態1の変形例3]
図13は、実施の形態1の変形例3によるTMR素子の構成を示す断面図である。図13を参照して、変形例3によるTMR素子は、図4の強磁性層(固着層)13が、2層の強磁性層13A,13Cとこれらの間に挟まれた非磁性層13Bによって構成される点で、図4のTMR素子と異なる。その他の点については、図12のTMR素子の構成は図4のTMR素子の構成と同じであるので、同一または相当する部分には同一の参照符号を付して説明を繰返さない。
【0082】
図13の固着層13では、薄い非磁性層13Bを挟んで積層された2層の強磁性層13A,13Cが互いに反強磁性結合をする。このような構造の固着層13は、SAF(Synthetic Anti-Ferroelectric)構造と呼ばれ、固着層13の磁化をより安定化することができる。非磁性層13BはRu、Cuなどの非磁性材料を用いて形成することができる。
【0083】
[実施の形態2]
実施の形態2では、TMR素子が磁界検出用の検出素子の他に、参照素子として利用される。
【0084】
外部磁界Hexに比べて大きいバイアス磁界Hbを印加しているとみなせる場合に、バイアス磁界Hbの方向と固着層の磁化の方向を平行または反平行とすることで、TMR素子の抵抗を最小抵抗Rminまたは最大抵抗Rmaxに固定することができる。このようなTMR素子は、参照素子として図1の抵抗素子22の代わりに使用することができる。すなわち、同じ特性を有した複数のTMR素子を用意し、そのうちの一部を外部磁界Hexに応じた抵抗を発生させる検出素子として使用し、その他のTMR素子を参照素子として使用する。そして検出素子と参照素子の抵抗値の差から外部磁界Hexを求めることによって、周囲の温度によって変化するTMR素子の抵抗値の変化を補償して外部磁界Hexを正確に求めることが可能になる。以下、図14、図15を参照して具体的に説明する。
【0085】
図14は、この発明の実施の形態2による磁界検出装置2の構成を模式的に示す平面図である。
【0086】
図15は、図14の磁界検出装置2の要部の構成を模式的に示す模式的に示す斜視図である。
【0087】
磁界検出装置2は、図1の抵抗素子22に代えて、TMR素子である参照素子50を含む。すなわち、磁界検出装置2は、磁界を検出する検出素子10と、電圧源21と、抵抗素子として用いられる参照素子50と、電圧増幅回路23Aと、制御部25Aと、バイアス電流供給部としての電流源31、33とを含む。ここで、電圧源21および電圧増幅回路23Aが検出素子10の抵抗値を測定するための測定部20Aを構成する。
【0088】
検出素子10は、基板40上に形成されたTMR素子であり、絶縁層14を挟んで上部に位置する上部電極18と下部に位置する下部電極17とを含む。実施の形態1の場合と同様に、上部電極18は強磁性層(自由層)を含み、下部電極17は強磁性層(固着層)を含む。検出素子10の上部電極18は、コンタクトホールに形成された導電部46を介在して配線層43と接続される。検出素子10の下部電極17は、複数のコンタクトホールにそれぞれ形成された複数の導電部44を介在して配線層41と接続され、複数のコンタクトホールにそれぞれ形成された複数の導電部45を介在して配線層42と接続される。コンタクトホールに形成された導電部44,45は、寄生抵抗を低減し、下部電極17上の電流分布を均一にするために、多数を並列して設けられている。導電部44および導電部45は、検出素子10の接合部を跨いでY軸方向の両側に設けられる。検出素子10の接合部の詳細な構成については実施の形態1と同様であるので説明を繰返さない。
【0089】
参照素子50は、基板40上に形成されたTMR素子であり、絶縁層54を挟んで上部に位置する上部電極58と下部に位置する下部電極57とを含む。検出素子10の場合と同様に、上部電極58は強磁性層(自由層)を含み、下部電極57は強磁性層(固着層)を含む。固着層の磁化ベクトルMpの方向はY軸方向に固定される。参照素子50の上部電極58は、コンタクトホールに形成された導電部66を介在して配線層63と接続される。参照素子50の下部電極57は、複数のコンタクトホールにそれぞれ形成された複数の導電部64を介在して配線層61と接続され、複数のコンタクトホールにそれぞれ形成された複数の導電部65を介在して配線層62と接続される。コンタクトホールに形成された導電部64,65は、寄生抵抗を低減し、下部電極57上の電流分布を均一にするために、多数を並列して設けられている。導電部64および導電部65は、参照素子50の接合部を跨いでY軸方向の両側に設けられる。参照素子50の接合部の詳細な構成については検出素子10と同様であるので、説明を繰返さない。
【0090】
検出素子10の配線層43と参照素子50の配線層63は一体で形成される。これによって、参照素子50および検出素子10は、この順でノードNd3と接地GNDとの間に電気的に直列に接続される。
【0091】
また、図14に示すように、検出素子10および参照素子50の下部電極17,57は、TMR素子の接合部付近は下部電極の幅を細く形成し、それ以外の部分は幅広に形成することが好ましい。この理由は次のとおりである。
【0092】
TMR素子の抵抗値の測定時に、下部電極17,57による電圧降下が接合抵抗による電圧降下に比べて無視できない程度に大きくなると、TMR素子の抵抗値の測定精度が悪くなる。そこで、下部電極17,57の抵抗を小さくする必要があるが、このために下部電極を構成する積層膜の膜厚を厚くすると積層膜のラフネスが増加することになる。この結果、下部電極の上に設けられるトンネル絶縁膜との界面のラフネスが増加するので、たとえばリーク電流増加によるMR比が低下したり、ネールカップリングによって磁界−抵抗特性にシフトがしょうじたりする。あるいは、後述する回転磁界の方向検知において、TMR素子の抵抗特性のサインカーブからのずれが大きくなるという問題が生じる。
【0093】
そこで、下部電極17,57の抵抗を小さくするために下部電極の配線幅を大きくする必要があるが、TMR素子の接合部近傍まで配線幅を大きくすると、バイアス磁界Hbの形成に寄与している接合部直下の電流成分以外の電流成分が増加することになるので好ましくない。したがって、TMR素子の接合部付近では下部電極の幅が狭く形成される。
【0094】
次に、測定部20Aの構成について説明する。電圧源21は、配線層62と配線層42との間に接続される。これによって、直列接続された参照素子50および検出素子10に定電圧が印加される。定電圧印加の手段として、ツェナーダイオードなどを利用してもよい。
【0095】
電圧増幅回路23Aの入力ノードは、一体形成された配線層43,63に接続される。電圧増幅回路23Aは、参照素子50および検出素子10の接続ノードNd1の電圧Vd1を増幅して出力電圧Voutとして制御部25に出力する。電圧増幅回路23Aは、実施の形態1と同様に、差動増幅回路と参照電圧源とによって構成することができる。このように検出素子10と参照素子50とからなるハーフブリッジを構成することによって、検出素子10の上部電極18と下部電極17との間の抵抗値に応じた大きさの出力電圧Voutが制御部25Aに出力される。
【0096】
制御部25Aは、コンピュータによって構成され、演算部26と記憶部27とを含む。演算部26は、電圧増幅回路23Aの出力電圧Voutに基づいて未知の外部磁界の大きさを算出する。具体的な算出方法は、実施の形態1の場合と同様であるので説明を繰返さない。記憶部27は、電圧増幅回路23Aの出力電圧などを記憶する。また、制御部25Aは、電圧源21および電流源31,33などの動作を制御する。
【0097】
電流源31は、配線層41と配線層42との間に接続される。電流源31は、下部電極17にY軸方向のバイアス電流を流すことによって検出素子10の接合部にX軸方向のバイアス磁界を生成する。また、電流源33は、配線層61と配線層62との間に接続される。電流源33は、下部電極57にX軸方向のバイアス電流Ibを流すことによって参照素子50の接合部にY軸方向のバイアス磁界Hbを生成する。
【0098】
測定部20Aおよび電流源31,33は、外部ノイズの影響やサージに対する耐性を向上する観点から、検出素子10および参照素子50(TMR素子)と同一基板上に設けられるのが好ましい。もしくは、エポキシ樹脂基板やセラミック基板などの別の基板にチップ部品の形で実装し、たとえばワイヤボンディングで電気的に接続されていてもよい。
【0099】
次に、磁界検出装置2の動作について説明する。外部磁界Hexが変化すると、自由層の磁化の向きが変化し、固着層の磁化の向きとなす角度が変化するため、検出素子10の抵抗が変化する。このとき、検出素子10には、たとえば10Oe程度のバイアス磁界が発生するように下部電極17にバイアス電流が供給される。実施の形態1で説明したように、バイアス磁界にはヒステリシス低減などの効果がある。
【0100】
一方、参照素子50の下部電極57にはX軸方向のバイアス電流Ibが供給され、たとえば、100Oeの磁界が生成される。これによって、外部磁界によらずに常に参照素子50の自由層の磁化方向を固着層の磁化方向に対して概略一定に保つようにして、参照素子50が基準抵抗として用いられる。TMR素子の抵抗について、固着層の磁化方向と自由層の磁化方向とのなす角度θについて前述の(1)式の関係があるので、好ましくは、自由層の磁化方向を固着層の磁化方向に対して平行または反平行とすることが好ましい。これによって、参照素子50の抵抗は、TMR素子の最大抵抗または最小抵抗を示すようになるので、外部磁界の影響を受けにくくなる。このため、実施の形態2では、参照素子50の下部電極57の磁化方向MpをY軸方向にしている。参照素子50を用いることによって、周囲の温度によって変化するTMR素子の抵抗値の変化を補償して外部磁界Hexを正確に求めることができる。
【0101】
[実施の形態2の変形例]
図16は、この発明の実施の形態2の変形例による磁界検出装置2Aの構成を模式的に示す平面図である。
【0102】
図17は、図16の磁界検出装置2Aの要部の構成を模式的に示す斜視図である。図16、図17の磁界検出装置2Aは、検出素子10の接合部近傍の下部電極17に複数の導電部48を介在して接続された配線層47と、参照素子50の接合部近傍の下部電極57に複数の導電部68を介在して接続された配線層67とをさらに含む点で、図14,14の磁界検出装置2と異なる。さらに、磁界検出装置2では、電圧源21が配線層42,62間に接続されていたのに対して、磁界検出装置2Aでは、電圧源21が配線層47,67間に接続される。この点でも変形例の磁界検出装置2Aは磁界検出装置2と異なる。その他の点については、磁界検出装置2Aは、図14,14の磁界検出装置2と同様であるので、同一または相当する部分には同一の参照符号を付して説明を繰返さない。
【0103】
図16,16に示すように、この変形例では、下部電極17,57の接合部近傍、すなわち、導電部44,45の中点近傍と導電部64,65の中点近傍とに電圧検出用の配線層47,48がさらに設けられる。これによって、下部電極17,57の抵抗による電圧降下の影響を抑制してTMR素子の接合抵抗をより精密に測定することができる。
【0104】
[実施の形態3]
図18は、この発明の実施の形態3による磁界検出装置3の構成を模式的に示す平面図である。実施の形態3の磁界検出装置3は、2個の検出素子10A,10Bと2個の参照素子50A,50Bとによってブリッジを構成したものである。
【0105】
図18を参照して、磁界検出装置3は、磁界を検出する検出素子10A,10Bと、抵抗素子として用いられる参照素子50A,50Bと、電圧源21A,21Bと、差動増幅回路23と、制御部25Bと、バイアス電流供給部としての電流源31A,31B,33A,33Bとを含む。ここで、電圧源21A,21Bおよび差動増幅回路23が検出素子10A,10Bの抵抗値を測定するための測定部20Aを構成する。
【0106】
検出素子10Aは、基板上に形成されたTMR素子であり、絶縁層14Aを挟んで上部に位置する上部電極18Aと下部に位置する下部電極17Aとを含む。また、検出素子10Bは、基板上に形成されたTMR素子であり、絶縁層14Bを挟んで上部に位置する上部電極18Bと下部に位置する下部電極17Bとを含む。実施の形態1の場合と同様に、上部電極18A,18Bは強磁性層(自由層)を含み、下部電極17A,17Bは強磁性層(固着層)を含む。検出素子10A,10Bの接合部の詳細な構成については実施の形態1と同様であるので説明を繰返さない。
【0107】
参照素子50Aは、基板上に形成されたTMR素子であり、絶縁層54Aを挟んで上部に位置する上部電極58Aと下部に位置する下部電極57Aとを含む。参照素子50Bは、基板上に形成されたTMR素子であり、絶縁層54Bを挟んで上部に位置する上部電極58Bと下部に位置する下部電極57Bとを含む。検出素子10A,Bの場合と同様に、上部電極58A,58Bは強磁性層(自由層)を含み、下部電極57A,57Bは強磁性層(固着層)を含む。参照素子50A,50Bの接合部の詳細な構成については検出素子10A,10Bと同様であるので説明を繰返さない。
【0108】
検出素子10Aの上部電極18Aと参照素子50Aの上部電極58Aとは接続ノードNd1に接続される。これによって、参照素子50Aおよび検出素子10Aは、この順でノードNd3と接地GNDとの間に電気的に直列に接続されることになる。接続ノードNd1の電位Vd1は差動増幅回路23の−端子に入力される。
【0109】
また、検出素子10Bの上部電極18Bと参照素子50Bの上部電極58Bとは接続ノードNd2に接続される。これによって、参照素子50Bおよび検出素子10Bは、この順でノードNd4と接地GNDとの間に電気的に直列に接続されることになる。接続ノードNd2の電位Vd2は差動増幅回路23の+端子に入力される。差動増幅回路23は、接続ノードNd1,Nd2間の電位差を増幅して制御部25Bに出力する。
【0110】
電圧源21Aは、参照素子50Aの下部電極57Aの一端と検出素子10Aの下部電極17Aの一端とに接続される。これによって、直列接続された参照素子50Aおよび検出素子10Aに定電圧が印加される。また、電圧源21Bは、参照素子50Bの下部電極57Bの一端と検出素子10Bの下部電極17Bの一端に接続される。これによって、直列接続された参照素子50Bおよび検出素子10Bに定電圧が印加される。
【0111】
電流源31A、31Bは、それぞれ検出素子10A,10Bの下部電極17A,17Bの両端に接続され、下部電極17A,17BにY軸方向のバイアス電流を供給する。これによって、検出素子10A,10Bの接合部には、それぞれX軸方向のバイアス磁界が生成される。また、電流源33A、33Bは、それぞれ参照素子50A,50Bの下部電極57A,57Bの両端に接続され、下部電極57A,57BにX軸方向のバイアス電流を供給する。これによって、参照素子50A,50Bの接合部には、それぞれY軸方向のバイアス磁界が生成される。
【0112】
制御部25Bは、コンピュータによって構成され、演算部26と記憶部27とを含む。演算部26は、差動増幅回路23の出力電圧Voutに基づいて未知の外部磁界の大きさを算出する。具体的な算出方法は、図19、図20を参照して後述する。記憶部27は、差動増幅回路23の出力などを記憶する。また、制御部25Aは、電圧源21A,21Bおよび電流源31A,31B,33A,33Bなどの動作を制御する。
【0113】
図19は、図18の磁界検出装置3の動作を説明するための図である。図19では、バイアス磁界Hbを生成するための磁界発生部32A,32B,34A,34Bが示されている。実施の形態3の場合、磁界発生部32A,32Bは、それぞれ検出素子10A,10Bの下部電極17A,17Bである。また、磁界発生部34A,34Bは、それぞれ参照素子50A,50Bの下部電極57A,57Bである。磁界発生部32A,32B,34A,34Bによって、それぞれTMR素子10A,10B,50A,50Bにバイアス磁界Hbが生成される。
【0114】
なお、磁界発生部32A,32B,34A,34Bとして、下部電極17A,17B,57A,57Bを用いずに、Al配線などによってバイアス電流Ibの供給用の電流線を接合部の近傍に設けた場合も、以下に示す手順によって外部磁界Hexを検出することできる。
【0115】
図19の場合、外部磁界Hexの方向はX軸方向であり、検出素子10A,10Bのバイアス磁界Hbの方向もX軸方向である。このとき、検出素子10A,10Bに供給するバイアス電流Ibの方向はY軸方向になる。また、参照素子50A,50Bのバイアス磁界Hbの方向はY軸方向であり、このときの参照素子50A,50Bへ供給するバイアス電流Ibの方向はX軸方向になる。
【0116】
さらに、検出素子10A,10Bの固着層の磁化ベクトルMpの方向をX方向とし、参照素子50A,50Bの固着層の磁化ベクトルMpの方向をY方向とする。また、外部磁界Hexおよびバイアス磁界Hbのいずれも印加されていない場合、検出素子10A,10Bの自由層の磁化ベクトルMpの方向をY方向とし、参照素子50A,50Bの自由層の磁化ベクトルMpの方向をY方向とする。電流源33A,33Bによって下部電極57A,57Bにバイアス電流Ibを流すことによって、外部磁界Hexが印加されていない状態では、参照素子50A,50Bの自由層の磁化方向は、固着層の磁化方向に対して平行または反平行になる。
【0117】
図20は、図18、図19の磁界検出装置3による外部磁界Hexの検出手順を示すフローチャートである。以下、図19、図20を参照して、外部磁界Hexの検出手順について説明する。
【0118】
図20のステップS201で、制御部25Bは、電流源33A,33Bによって参照素子50A,50Bの下部電極に57A,57Bにバイアス電流Ibを流す。これによって、参照素子50A,50Bに十分大きいバイアス磁界Hb(たとえば100Oe)を生成し、参照素子50A,50Bの自由層と固着層の磁化方向を反平行に固定する。
【0119】
次のステップS202で、制御部25Bは、電流源31A,31Bによって検出素子10A,10Bの下部電極17A,17Bにバイアス電流Ibを流す。これによって、検出素子10A,10Bに十分大きいバイアス磁界Hb(たとえば100Oe)を生成し、検出素子10A,10Bの自由層と固着層の磁化方向を反平行にする。
【0120】
次のステップS203で、制御部25Bの記憶部27は、差動増幅回路23の出力電圧Voutを記憶する。このときの出力電圧Voutは、最小出力電圧Vminとなっている。さらに記憶部27は、最小出力電圧Vminより少し大きな電圧を最小測定電圧VLLとして記憶する。最小測定電圧VLLは、外部磁界HexをTMR素子の線形領域で測定するときの下限の出力電圧Voutである。
【0121】
次のステップS204で、制御部25Bは、電流源31A,31Bによって検出素子10A,10Bの下部電極17A,17Bにバイアス電流Ibを流す。これによって、検出素子10A,10Bに十分大きいバイアス磁界Hb(たとえば100Oe)を生成し、検出素子10A,10Bの自由層と固着層の磁化方向を平行にする。
【0122】
次のステップS205で、制御部25Bの記憶部27は、差動増幅回路23の出力電圧Voutを記憶する。このときの出力電圧Voutは、最大出力電圧Vmaxとなっている。さらに記憶部27は、最大出力電圧Vmaxより少し小さい電圧を最大測定電圧VHLとして記憶する。最大測定電圧VHLは、外部磁界HexをTMR素子の線形領域で測定するときの上限の出力電圧Voutである。なお、好ましくは、徐々にバイアス電流をIbを変えながら差動増幅回路23の出力電圧Voutを記録して、最小測定電圧VLLおよび最大測定電圧VHLを決定することもできる。
【0123】
次のステップS206で、磁界検出装置3に既知の外部磁界Hexが印加される。
次のステップS207で、制御部25Bは、電流源31A,31Bによって検出素子10A,10Bに供給するバイアス電流Ibを変更しながら、差動増幅回路23の出力電圧Voutを取得する。そして、制御部25Bは、出力電圧Voutが最小測定電圧VLLと最大測定電圧VHLとの間になる最適なバイアス電流Ibの設定値を探索する。出力電圧Voutが最小測定電圧VLLと最大測定電圧VHLとの間になる場合、検出素子10A,10Bは線形領域で動作していることになる。
【0124】
次のステップS208で、制御部25Bの記憶部27は、ステップS207で探索した適切なバイアス電流Ibの設定値をそのときの外部磁界Hexに対応付けて記憶する。さらに、記憶部27は、これらの外部磁界Hex、バイアス電流Ibのときに得られる出力電圧Voutから算出された磁界感度(Hex/Vout)を記憶する。
【0125】
以上のステップS206〜S208は、所定数の既知の外部磁界Hexについて繰返して実行される(ステップS209でNO)。所定数の既知の外部磁界Hexについての上記の測定が完了したら(ステップS209でYES)、ステップS210に進む。
【0126】
ステップS210で、磁界検出装置3に未知の外部磁界Hexが印加される。
次のステップS211で、制御部25Bは、電流源31A,31Bによって記憶部27に記憶されたバイアス電流Ibの設定値のうち最も小さいものを検出素子10A,10Bに供給する。そして、そのときの差動増幅回路23の出力電圧Voutを取得する。
【0127】
次のステップS212で、制御部25Bは、取得した出力電圧Voutが最小測定電圧VLLと最大測定電圧VHLとの間の線形領域にあるか否かを判定する。出力電圧Voutが線形領域にない場合(ステップS212でNO)、ステップS213で他のバイアス電流Ibの設定値に変更して、ステップS211,S212を再度実行する。一方、出力電圧Voutが線形領域にある場合(ステップS212でYES)、ステップS214に進む。
【0128】
ステップS214で、制御部25Bの演算部26は、現在のバイアス電流Ibの設定値に対応する磁界感度を用いて、出力電圧Voutから外部磁界Hexの大きさを算出する。
【0129】
次のステップS215では、S214での外部磁界Hexの検出後に、外部磁界Hexが印加されていない状態で、制御部25Bは、電流源31A,31Bによって検出素子10A,10Bの下部電極17A,17Bにバイアス電流Ibを流す。これによって、検出素子10A,10Bに十分大きいバイアス磁界Hb(たとえば100Oe)を生成し、検出素子10A,10Bの自由層と固着層の磁化方向を反平行にする。
【0130】
次のステップS216で、制御部25Bの記憶部27は、差動増幅回路23の出力電圧Voutを記憶する。このときの出力電圧Voutは、最小出力電圧Vminとなっている。
【0131】
次のステップS217で、制御部25Bは、電流源31A,31Bによって検出素子10A,10Bの下部電極17A,17Bにバイアス電流Ibを流す。これによって、検出素子10A,10Bに十分大きいバイアス磁界Hb(たとえば100Oe)を生成し、検出素子10A,10Bの自由層と固着層の磁化方向を平行にする。
【0132】
次のステップS218で、制御部25Bの記憶部27は、差動増幅回路23の出力電圧Voutを記憶する。このときの出力電圧Voutは、最大出力電圧Vmaxとなっている。
【0133】
次のステップS219で、演算部26は、ステップS203の最小出力電圧Vmin(1)、ステップS204の最大出力電圧Vmax(1)、ステップS216の最小出力電圧Vmin(2)、およびステップS218の最大出力電圧Vmax(2)を用いて、ステップS214で算出した未知外部磁界Hexの大きさの温度補正を行なう。具体的には、演算部26は、ステップS214の外部磁界Hexに(Vmax(2)−Vmin(2))/(Vmax(1)−Vmin(1))を乗ずることによって、最終的な温度補正後の外部磁界Hexを算出する。こうして、未知の外部磁界Hexの検出が完了する。
【0134】
以上の手順により、広い磁界範囲で、良好な精度で磁界を測定することができる。また、温度による感度の変化を補正することもできる。また、上記の検出手順によれば、磁界の印加方向が概略一定である磁界を高感度に測定することができるので、たとえば、磁界検出装置3を直流および交流の電流センサとして利用することができる。また、好ましくは、電流源31A,31B,33A,33Bから供給するバイアス電流Ibを、差動増幅回路23の出力電圧Voutを取得する直前に流し、出力電圧Voutの取得後に切断することによって、磁界検出装置3の消費電力をさらに小さくできる。また、上記の参照素子50A,50Bにおいて、自由層と固着層の磁化方向を反平行としていたが、逆に平行に設定してもよい。
【0135】
[実施の形態3の変形例1]
図21は、この発明の実施の形態3の変形例1による磁界検出装置3Aの構成を模式的に示す平面図である。図21の磁界検出装置3Aは、電圧源21Bを含まない点で、図18の磁界検出装置3と異なる。磁界検出装置3Aでは、直列接続された検出素子10Bおよび参照素子50Bに電圧源21Aによって定電圧を印加するために、ノードNd3とノードNd4とが接続される。電圧源21Aの動作は、制御部25Cによって制御される。このように構成された変形例による磁界検出装置3Aは、磁界検出装置3と同様の作用効果を奏する。その他の点については、図21の磁界検出装置3Aは、図18の磁界検出装置3と同様であるので、同一または相当する部分には同一の参照符号を付して説明を繰返さない。
【0136】
[実施の形態3の変形例2]
図22は、この発明の実施の形態3の変形例2による磁界検出装置3Bを構成および動作を説明するための図である。図22の磁界検出装置3Bは、検出素子50A,50Bが図19の場合からそれぞれ右回りに90度回転させた位置に配置されている点で、図19の磁界検出装置3と異なる。
【0137】
すなわち、図22の場合、参照素子50A,50Bのバイアス磁界Hbの方向はX軸方向であり、このときの参照素子50A,50Bへ供給するバイアス電流Ibの方向はY軸方向になる。さらに、参照素子50A,50Bの固着層の磁化ベクトルMpの方向を+X方向とし、外部磁界Hexおよびバイアス磁界Hbのいずれも印加されていない場合、参照素子50A,50Bの自由層の磁化ベクトルMfの方向を−X方向とする。電流源33A,33Bによって参照素子50A,50Bの下部電極57A,57Bに十分に大きなバイアス電流Ibを流すことによって、参照素子50A,50Bの自由層の磁化方向は、固着層の磁化方向に対して平行または反平行になる。その他の点については、図22の時間検出装置3Bは、図18、図19の磁界検出装置3と共通するので、同一または相当する部分には同一の参照符号を付して説明を繰り返さない。
【0138】
一般に、TMR素子の固着層において各磁区の磁化方向を一方向に揃えるために、磁界を印加しながら固着層の形成されたチップのアニール処理を行なう。図19の磁界検出装置3の場合には、参照素子50A,50Bの固着層の磁化ベクトルMpの方向と、検出素子10A,10Bの固着層の磁化ベクトルMpの方向とが異なっていた。このため、検出素子10A,10Bと参照素子50A,50Bとを別個のチップに作製した後に磁界検出装置として実装する必要がある。
【0139】
これに対して、この変形例2による磁界検出装置3Bの場合には、参照素子50A,50Bの固着層の磁化ベクトルMpの方向と、検出素子10A,10Bの固着層の磁化ベクトルMpの方向とが同じX軸方向となっている。したがって、同一の基板上に参照素子50A,50Bと検出素子10A,10Bとを容易に形成することができる。
【0140】
[実施の形態4]
実施の形態1〜3では、電流源の出力電流を可変としていた。実施の形態4では、電流源31からは定電流を供給するようにし、電流経路に設けた抵抗によって検出素子10(1),10(2),10(3)(総称するとき、検出素子10とも称する)に供給するバイアス電流量を変化させる。これによって相対的な磁界感度のずれを低減することができる。
【0141】
図23は、この発明の実施の形態4による磁界検出装置4の構成を模式的に示す平面図である。図23の磁界検出装置4は、図14の磁界検出装置2に対応するものであり、検出素子10と参照素子50とによってハーフブリッジ回路を構成した例である。
【0142】
図23を参照して、磁界検出装置2は、磁界を検出する検出素子10(1),10(2),10(3)と、抵抗素子R1〜R6と、電圧源21と、抵抗素子として用いられる参照素子50と、差動増幅回路23と、参照電圧源24と、制御部25Dと、バイアス電流供給部としての電流源31、33とを含む。ここで、電圧源21、差動増幅回路23、および参照電圧源24が検出素子10の抵抗値を測定するための測定部20Aを構成する。検出素子10(1),10(2),10(3)および参照素子50の詳細な構成は、これまで説明した実施の形態1〜3の場合と同様であるので説明を繰返さない。
【0143】
図23に示すように、検出素子10(1)の下部電極17(1)の一端はノードNd5に接続され、他端は従属接続された抵抗素子R1〜R3を介在して接地ノードGNDに接続される。検出素子10(2)の下部電極17(2)の一端はノードNd5に接続され、他端は従属接続された抵抗素子R4,R5を介在して接地ノードGNDに接続される。また、検出素子10(3)の下部電極17(3)の一端はノードNd5に接続され、他端は抵抗素子R6を介在して接地ノードGNDに接続される。ノードNd5と接地ノードGNDとの間には電流源31が接続される。したがって、電流源31から定電流が供給された場合に、検出素子10(1),10(2),10(3)には異なるバイアス電流が流れることになる。
【0144】
一方、検出素子10(1),10(2),10(3)の上部電極18(1),18(2),18(3)は、スイッチ71を介してノードNd1に接続される。ノードNd1は、参照素子50の上部電極58に接続される。また、参照素子50の下部電極57の一端(ノードNd3)とノードNd5との間に電圧源21が接続される。この場合、スイッチ71の切替によって、検出素子10(1),10(2),10(3)のいずれか1つと検出素子50とに対して電圧源21から定電圧が印加される。スイッチ71の切替は制御部25Dによって制御される。
【0145】
差動増幅回路23は、ノードNd1の電圧Vd1と参照電圧源24から出力された参照電圧Vrefとの差電圧を増幅して出力電圧Voutとして制御部25Dに出力する。制御部25Dは、出力電圧Voutに基づいて外部磁界Hexを検出する。外部磁界Hexの検出手順は実施の形態1と同様であるので、説明を繰返さない。
【0146】
ここで、抵抗素子R1〜R6として、既製の抵抗素子を外付けしてもよいし、基板内に抵抗素子を形成してもよい。もしくは、下部電極17の長さや幅を異なるように作製することで抵抗素子の代わりとしてもよい。なお、下部電極17の長さを長くして抵抗を高める場合には、電圧源21が接続されているノードNd5と反対側である、接地ノードGND側の下部電極17の長さを長く形成する。このほうが、素子抵抗の測定時の寄生抵抗を増大させることがないからである。
【0147】
図24は、この発明の実施の形態4による磁界検出装置4Aの動作を説明するための図である。図24の磁界検出装置4Aは、図18、図19の磁界検出装置3に対応するものであり、検出素子10A(1)〜10A(3),10B(1)〜10B(3)と参照素子50A,50Bとによってフルブリッジ回路を構成した例である。以下では、検出素子10A(1)〜10A(3)について総称する場合、検出素子10Aと記載し、検出素子10B(1)〜10B(3)について総称する場合、検出素子10Bと記載する。
【0148】
図24の磁界検出装置4Aは、図19の磁界発生部32Aに代えて並列接続された磁界発生部32A(1)〜32A(3)を含み、磁界発生部32Bに代えて並列接続された磁界発生部32B(1)〜32B(3)を含む。さらに、磁界検出装置4Aは、図19の検出素子10Aに代えて並列接続された検出素子10A(1)〜10A(3)を含み、検出素子10Bに代えて並列接続された検出素子10B(1)〜10B(3)を含む。検出素子10A(1)〜10A(3),10B(1)〜10B(3)は、それぞれ磁界発生部32A(1)〜32A(3),32B(1)〜32B(3)によって生成されたバイアス磁界Hbを受ける。
【0149】
また、検出素子10A(1)〜10A(3)の接合部の電圧は、スイッチ71Aに切替えられて差動増幅回路23の−端子に与えられる。検出素子10B(1)〜10B(3)の接合部の電圧は、スイッチ71Bに切替えられて差動増幅回路23の+端子に与えられる。スイッチ71A,71Bの切替は制御部25Eによって制御される。図24の磁界検出装置4Aのその他の構成は、図19の磁界検出装置3と同様であるので、同一または相当する部分には同一の参照符号を付して説明を繰返さない。
【0150】
図25は、図24の磁界検出装置4Aによる外部磁界Hexの検出手順を示すフローチャートである。以下、図24、図25を参照して、外部磁界Hexの検出手順について説明する。なお、図25のフローチャートは、図20のフローチャートで一部のステップを変更したものであるので、共通する部分については詳細な説明を繰返さない。
【0151】
図25のステップS201で、制御部25Eは、電流源33A,33Bによって参照素子50A,50Bの下部電極に57A,57Bに十分大きいバイアス電流Ibを流す。これによって、参照素子50A,50Bの自由層と固着層の磁化方向を反平行に固定する。
【0152】
次のステップS202で、制御部25Eは、スイッチ71A,71Bを切替えて、バイアス電流が最も大きくなる検出素子10A(3),10B(3)の下部電極にバイアス電流Ibを流す。これによって、検出素子10A,10Bの自由層と固着層の磁化方向を反平行にする。
【0153】
次のステップS203で、制御部25Eの記憶部27は、最小出力電圧Vminおよび最小測定電圧VLLを記憶する。
【0154】
次のステップS204で、制御部25Eは、電流源31A,31Bによって検出素子10A(3),10B(3)の下部電極に逆方向のバイアス電流Ibを流す。これによって、検出素子10A,10Bの自由層と固着層の磁化方向を平行にする。
【0155】
次のステップS205で、制御部25Eの記憶部27は、最大出力電圧Vmaxおよび最大測定電圧VHLを記憶する。
【0156】
次のステップS206で、磁界検出装置3に既知の外部磁界Hexが印加される。
次のステップS207Aで、制御部25Eは、スイッチ71A,71Bを切替えながら、差動増幅回路23の出力電圧Voutを取得する。そして、制御部25Eは、出力電圧Voutが最小測定電圧VLLと最大測定電圧VHLとの間になるようなスイッチ切替条件を探索する。
【0157】
次のステップS208Aで、制御部25Eの記憶部27は、ステップS207Aで探索したスイッチ切替条件をそのときの外部磁界Hexに対応付けて記憶する。さらに、記憶部27は、これらの外部磁界Hex、スイッチ切替条件のときに得られる出力電圧Voutから算出された磁界感度(Hex/Vout)を記憶する。
【0158】
以上のステップS206〜S208は、所定数の既知の外部磁界Hexについて繰返して実行される(ステップS209でNO)。所定数の既知の外部磁界Hexについての上記の測定が完了したら(ステップS209でYES)、ステップS210に進む。
【0159】
ステップS210で、磁界検出装置3に未知の外部磁界Hexが印加される。
次のステップS211Aで、制御部25Eは、スイッチ71A,71Bによって、記憶部27に記憶されたスイッチ切替条件のうちバイアス電流が最も小さい場合である検出素子10A(1),10B(1)にバイアス電流の供給を切替える。そして、そのときの差動増幅回路23の出力電圧Voutを取得する。
【0160】
次のステップS212で、制御部25Eは、取得した出力電圧Voutが最小測定電圧VLLと最大測定電圧VHLとの間の線形領域にあるか否かを判定する。出力電圧Voutが線形領域にない場合(ステップS212でNO)、ステップS213Aでスイッチを切替えて、ステップS211,S212を再度実行する。一方、出力電圧Voutが線形領域にある場合(ステップS212でYES)、ステップS214に進む。
【0161】
ステップS214では、制御部25Eの演算部26は、現在のスイッチ切替条件に対応する磁界感度を用いて、出力電圧Voutから外部磁界Hexの大きさを算出する。
【0162】
次のステップS215では、S214での外部磁界Hexの検出後に、外部磁界Hexが印加されていない状態で、制御部25Eは、電流源31A,31Bによって検出素子10A(3),10B(3)の下部電極にバイアス電流Ibを流す。これによって、検出素子10A,10Bの自由層と固着層の磁化方向を反平行にする。
【0163】
次のステップS216で、制御部25Eの記憶部27は、最小出力電圧Vminを記憶する。
【0164】
次のステップS217で、制御部25Eは、電流源31A,31Bによって検出素子10A(3),10B(3)の下部電極にバイアス電流Ibを流す。これによって、検出素子10A,10Bの自由層と固着層の磁化方向を平行にする。
【0165】
次のステップS218で、制御部25Eの記憶部27は、最大出力電圧Vmaxを記憶する。
【0166】
次のステップS219で、演算部26は、ステップS203の最小出力電圧Vmin(1)、ステップS204の最大出力電圧Vmax(1)、ステップS216の最小出力電圧Vmin(2)、およびステップS218の最大出力電圧Vmax(2)を用いて、ステップS214で算出した未知外部磁界Hexの大きさの温度補正を行なう。こうして、未知の外部磁界Hexの検出が完了する。
【0167】
以上の手順により、広い磁界範囲で、実施の形態3の場合よりもさらに良好な精度で磁界を測定することができる。また、実施の形態3の場合と同様に温度による感度の変化を補正することもできる。
【0168】
[実施の形態5]
実施の形態5の磁界検出装置5は、外部磁界Hexの基板面内成分の方向を検知する。
【0169】
図26は、この発明の実施の形態5による磁界検出装置5の構成を模式的に示す平面図である。図26の磁界検出装置5は、図18の参照素子50A,50Bに代えて検出素子10C,10Dをそれぞれ設けた点で図18の磁界検出装置3と異なる。また、図26の磁界検出装置5において、検出素子10Aの固着層の磁化ベクトルMpの方向は−X方向であり、検出素子10Bの固着層の磁化ベクトルMpの方向は+X方向である。また、図26の磁界検出装置5において、検出素子10Cの固着層の磁化ベクトルMpの方向は+Y方向であり、検出素子10Bの固着層の磁化ベクトルMpの方向は−Y方向である。制御部25Fは、これら4つの検出素子10A〜10Dの素子抵抗に基づいて外部磁界の方向を検知する。その他の磁界検出装置5の構成は、図18の磁界検出装置3の構成と同様であるので、同一または相当する部分には同一の参照符号を付して説明を繰返さない。
【0170】
図27は、図26の磁界検出装置5によって外部磁界Hexの方向を検知する手順を示したフローチャートである。
【0171】
図26、図27を参照して、ステップS301で、制御部25Fは、電流源31A,31Bによって検出素子10A,10Bの下部電極17A,17Bに十分大きいバイアス電流Ibを流す。これによって、検出素子10A,10Bの自由層と固着層の磁化方向を平行にする。また、制御部25Fは、電流源33A,33Bによって検出素子10C,10Dの下部電極17C,17Dに十分大きいバイアス電流Ibを流す。これによって、検出素子10C,10Dの自由層と固着層の磁化方向を反平行にする。
【0172】
次のステップS302で、制御部25Fの記憶部27は、差動増幅回路23の出力電圧Voutを記憶する。このときの出力電圧Voutは、最小出力電圧Vminとなっている。
【0173】
次のステップS303で、制御部25Fは、電流源31A,31Bによって検出素子10A,10Bの下部電極17A,17Bに十分大きいバイアス電流Ibを流す。これによって、検出素子10A,10Bの自由層と固着層の磁化方向を反平行にする。また、制御部25Fは、電流源33A,33Bによって検出素子10C,10Dの下部電極17C,17Dに十分大きいバイアス電流Ibを流す。これによって、検出素子10C,10Dの自由層と固着層の磁化方向を平行にする。
【0174】
次のステップS304で、制御部25Fの記憶部27は、差動増幅回路23の出力電圧Voutを記憶する。このときの出力電圧Voutは、最大出力電圧Vmaxとなっている。
【0175】
次のステップS305で、磁界検出装置5に未知の外部磁界Hexが印加される。
次のステップS306で、制御部25Fは、検出感度を考慮した所定の大きさのバイアス電流を検出素子10Aから10Dに供給したときの、差動増幅回路23の出力電圧Voutを取得して、記憶部27に記憶させる。
【0176】
次のステップS307で、外部磁界Hexの方向検知後で、外部磁界Hexが印加されていない状態で、制御部25Fは、電流源31A,31Bによって検出素子10A,10Bの下部電極17A,17Bに十分大きいバイアス電流Ibを流す。これによって、検出素子10A,10Bの自由層と固着層の磁化方向を平行にする。また、制御部25Fは、電流源33A,33Bによって検出素子10C,10Dの下部電極17C,17Dに十分大きいバイアス電流Ibを流す。これによって、検出素子10C,10Dの自由層と固着層の磁化方向を反平行にする。
【0177】
次のステップS308で、制御部25Fの記憶部27は、差動増幅回路23の出力電圧Voutを記憶する。このときの出力電圧Voutは、最小出力電圧Vminとなっている。
【0178】
次のステップS309で、制御部25Fは、電流源31A,31Bによって検出素子10A,10Bの下部電極17A,17Bに十分大きいバイアス電流Ibを流す。これによって、検出素子10A,10Bの自由層と固着層の磁化方向を反平行にする。また、制御部25Fは、電流源33A,33Bによって検出素子10C,10Dの下部電極17C,17Dに十分大きいバイアス電流Ibを流す。これによって、検出素子10C,10Dの自由層と固着層の磁化方向を平行にする。
【0179】
次のステップS310で、制御部25Fの記憶部27は、差動増幅回路23の出力電圧Voutを記憶する。このときの出力電圧Voutは、最大出力電圧Vmaxとなっている。
【0180】
次のステップS311で、演算部26は、ステップS302の最小出力電圧Vmin(1)、ステップS304の最大出力電圧Vmax(1)、ステップS308の最小出力電圧Vmin(2)、およびステップS308の最大出力電圧Vmax(2)を用いて、ステップS306で取得した出力電圧Voutの温度補正を行なう。具体的には、演算部26は、ステップS306で取得した出力電圧Voutに(Vmax(2)−Vmin(2))/(Vmax(1)−Vmin(1))を乗ずることによって、最終的な温度補正後の出力電圧Voutを求める。
【0181】
次のステップS312で、演算部26は、温度補正後の出力電圧Voutを用いて、未知の外部磁界Hexの方向を算出する。外部磁界Hexの方向を算出する原理は以下のとおりである。
【0182】
前述の(1)式によれば、検出素子10A〜10Dの抵抗値はRA,RB,RC,RDは、
RA=Rm+(ΔR/2)×cosθ
RB=Rm+(ΔR/2)×cos(θ+180°)=Rm−(ΔR/2)×cosθ
RC=Rm+(ΔR/2)×cos(θ+90°)=Rm−(ΔR/2)×sinθ
RD=Rm+(ΔR/2)×cos(θ+270°)=Rm+(ΔR/2)×sinθ
と表わされる。したがって、RmおよびΔRの値を予め求めておけば、RAおよびRCを用いて角θを算出することができる。ここで、RmおよびΔRの値は、素子抵抗の最大値と最小値を用いて計算することができる。
【0183】
以上の方法により、温度による感度の変化を補正しつつ、磁界方向を高精度に検出することができる。
【0184】
[実施の形態5の変形例]
図28は、この発明の実施の形態5の変形例による磁界検出装置5Aの構成を模式的に示す平面図である。図28の磁界検出装置5Aは、検出素子10Bの固着層の磁化ベクトルMpの方向が−X方向であり、検出素子10Dの固着層の磁化ベクトルMpの方向が+Y方向である点で、図15の磁界検出装置5と異なる。固着層の磁化ベクトルMpの方向は、基板面内の回転方向に隣接する検出素子同士が互いに直交していればよいので、図28の磁界検出装置5Aによっても、図26の磁界検出装置5と同様の作用効果を得ることができる。
【0185】
[実施の形態6]
図29は、この発明の実施の形態6による回転角センサ6の構成を模式的に示す図である。図29の回転角センサ6は、実施の形態5の磁界検出装置5を応用したものである。
【0186】
図29を参照して、回転角センサ6は、回転軸82の先端に取り付けられた永久磁石81と、基板83上に形成された検出素子83A〜83Dと、制御部84とを含む。検出素子83A〜83Dおよび制御部84が実施の形態5の磁界検出装置5に対応する。磁界検出装置5は、永久磁石81の回転によって生じる回転磁界のように、磁界の大きさが概略一定で磁界の方向が変化する場合に、磁界の印加方向を高精度に測定することができる。
【0187】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものでないと考えられるべきである。この発明の範囲は上記した説明ではなくて請求の範囲によって示され、請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0188】
1〜5 磁界検出装置、10 検出素子(TMR素子)、50 参照素子(TMR素子)、12 反強磁性層、12A 磁性層、14,54 トンネル絶縁層、13 強磁性層(固着層)、15 強磁性層(自由層)、17,57 下部電極、18,58 上部電極、20 測定部、21 電圧源、23 差動増幅回路、24 参照電圧源、25 制御部、26 演算部、27 記憶部、31,33 電流源、32,34 磁界発生部、40 基板、71 スイッチ、Hb バイアス磁界、Ib バイアス電流、Hex 外部磁界、Mf 磁化ベクトル(自由層)、Mp 磁化ベクトル(固着層)。
【技術分野】
【0001】
この発明は、磁気抵抗効果を利用して外部から印加された磁界を検出する磁界検出装置および磁界検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
外部から印加された磁界を検出する磁界検出素子として、ホール素子のほかに磁気抵抗効果素子が知られている。磁気抵抗効果素子には、金属の磁気抵抗効果を利用したAMR(Anisotropic Magneto-Resistance)素子、巨大磁気抵抗効果を利用したGMR(Giant Magneto-Resistance)素子、およびトンネル磁気抵抗効果を利用したTMR(Tunnel Magneto-Resistance)素子などがある。特に、他に比べて大きなMR比が得られるGMR素子およびTMR素子が注目されている。
【0003】
特公平8−21166号公報(特許文献1)は、スピンバルブ構造を有したGMR素子およびTMR素子について開示する。スピンバルブ構造の磁気抵抗効果素子は、非磁性の薄膜層によって仕切られた強磁性体の第1の薄膜層(自由層)および第2の薄膜層(固着層)を有する。印加磁界が0の場合、強磁性体の第1の薄膜層の磁化方向は、強磁性体の第2の薄膜層の磁化方向に対して直交するように設定され、強磁性体の第2の薄膜層の磁化方向は固定されている。第2の薄膜層の磁化方向を固定させるために、高電気抵抗の反強磁性体の薄膜層が強磁性体の第2の薄膜層に直接、接触して付着される。代替構造として、反強磁性体の薄膜層を、高飽和保磁力かつ高電気抵抗を有する強磁性の層にすることもできる。
【0004】
また、特開2005−236134号公報(特許文献2)に開示される磁気抵抗効果素子では、一定方向に固着された磁化方向を有する固着層と、外部磁界に応じて変化し、かつ、この外部磁界が0のときに固着層の磁化方向と平行となる磁化方向を示す自由層と、固着層と自由層との間に挟まれた中間層とを含む積層体が設けられる。この磁気抵抗効果素子ではさらに、固着層の磁化方向と直交する方向にバイアス磁界を印加するために、永久磁石または固着層の磁化方向に延びるバイアス電流ラインが設けられる。適切な強さのバイアス磁界を印加することによって外部磁界に対する読出電流の抵抗変化を線形とすることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特公平8−21166号公報
【特許文献2】特開2005−236134号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、磁気抵抗効果素子に隣接して電流線を設置してバイアス磁界を印加する場合、電流線と磁気抵抗効果素子との間の電気的な絶縁を保つために絶縁膜を設ける必要がある。絶縁膜の絶縁性および耐久性は絶縁膜の膜厚を厚くするほど向上する。
【0007】
一方、一様な電流Iから距離rだけ離れた場所に発生する磁界Hは、アンペアの法則によって、H=I/(2πr)で与えられる。ここで、πは円周率である。したがって、絶縁膜を厚くするほど電流線と磁気抵抗効果素子の間の距離rが大きくなるので、バイアス磁界を一定に保つためには電流線に流す電流Iを増加させる必要がある。
【0008】
上記の理由で、絶縁膜の絶縁性や耐久性をより向上させるために膜厚を厚くするほど、磁気抵抗効果素子に所望のバイアス磁界を印加するのに必要な電流が増大することになる。このため、磁界検出装置の消費電力が増大してしまうという問題がある。
【0009】
この発明は、かかる課題を解決されるためになされたものである。この発明の目的は、消費電力が小さくかつ磁界の検出精度の高い磁界検出装置および磁界検出方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この発明は要約すれば、外部磁界を検出するための磁界検出装置であって、1または複数の検出素子と、バイアス電流供給部と、測定部と、演算部とを備える。1または複数の検出素子の各々は、外部磁界に応じて磁化方向が変化する第1の強磁性体膜、磁化方向が一定の第2の強磁性体膜、およびこれらの強磁性体膜の間に挟まれたトンネル絶縁膜を含むトンネル磁気抵抗効果素子である。バイアス電流供給部は、1または複数の検出素子の各々に対して、第1の強磁性体膜の磁化方向を変化させるために、第1および第2の強磁性体膜のいずれかに膜面方向のバイアス電流を供給する。測定部は、1または複数の検出素子の各々において、第1の強磁性体膜の磁化方向の変化に応じた検出素子の電気特性を測定する。演算部は、測定部で測定された1または複数の検出素子の各々の電気特性に基づいて外部磁界を算出する。
【発明の効果】
【0011】
この発明によれば、トンネル磁気抵抗効果素子の一方の電極にバイアス電流を流すので、別途バイアス電流用の配線層を設ける場合に比べて、より少ない消費電力でバイアス磁界をトンネル磁気抵抗効果素子に印加することができる。また、外部磁界に応じてバイアス磁界の大きさを変化させることによって、磁界検出精度を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】この発明の実施の形態1による磁界検出装置1の構成を示す模式的に示す平面図である。
【図2】図1の磁界検出装置1の構成を模式的に示す模式的に示す斜視図である。
【図3】図1のIII−III線に沿う断面図である。
【図4】検出素子10の接合部の構成を詳しく示す断面図である。
【図5】外部磁界Hexとバイアス磁界Hbとが平行の場合における外部磁界Hexと素子抵抗Rとの関係を示す図である。
【図6】外部磁界Hexとバイアス磁界Hbとが垂直の場合における外部磁界Hexと素子抵抗との関係を示す図である。
【図7】外部磁界Hexおよびバイアス磁界Hbの方向と磁化方向との関係を説明するための図である。
【図8】図1の磁界検出装置1の動作を説明するための図である。
【図9】図1の磁界検出装置1による外部磁界Hexの検出手順を示すフローチャートである。
【図10】実施の形態1の変形例1による外部磁界Hexの検出方法を説明するための図である。
【図11】実施の形態1の変形例1による外部磁界Hexの検出手順を示すフローチャートである。
【図12】実施の形態1の変形例2によるTMR素子の構成を示す断面図である。
【図13】実施の形態1の変形例3によるTMR素子の構成を示す断面図である。
【図14】この発明の実施の形態2による磁界検出装置2の構成を模式的に示す平面図である。
【図15】図14の磁界検出装置2の要部の構成を模式的に示す模式的に示す斜視図である。
【図16】この発明の実施の形態2の変形例による磁界検出装置2Aの構成を模式的に示す平面図である。
【図17】図16の磁界検出装置2Aの要部の構成を模式的に示す斜視図である。
【図18】この発明の実施の形態3による磁界検出装置3の構成を模式的に示す平面図である。
【図19】図18の磁界検出装置3の動作を説明するための図である。
【図20】図18、図19の磁界検出装置3による外部磁界Hexの検出手順を示すフローチャートである。
【図21】この発明の実施の形態3の変形例1による磁界検出装置3Aの構成を模式的に示す平面図である。
【図22】この発明の実施の形態3の変形例2による磁界検出装置3Bを構成および動作を説明するための図である。
【図23】この発明の実施の形態4による磁界検出装置4の構成を模式的に示す平面図である。
【図24】この発明の実施の形態4による磁界検出装置4Aの動作を説明するための図である。
【図25】図24の磁界検出装置4Aによる外部磁界Hexの検出手順を示すフローチャートである。
【図26】この発明の実施の形態5による磁界検出装置5の構成を模式的に示す平面図である。
【図27】図26の磁界検出装置5によって外部磁界Hexの方向を検知する手順を示したフローチャートである。
【図28】この発明の実施の形態5の変形例による磁界検出装置5Aの構成を模式的に示す平面図である。
【図29】この発明の実施の形態6による回転角センサ6の構成を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、この発明の実施の形態について図面を参照して詳しく説明する。なお、同一または相当する部分には同一の参照符号を付して、その説明を繰返さない。
【0014】
[実施の形態1]
(磁界検出装置1の構成)
図1は、この発明の実施の形態1による磁界検出装置1の構成を示す模式的に示す平面図である。
【0015】
図2は、図1の磁界検出装置1の構成を模式的に示す模式的に示す斜視図である。
図3は、図1のIII−III線に沿う断面図である。以下、図1〜図3を参照して、磁界検出装置1の構成について説明する。なお、以下の説明では、座標軸の方向をX軸方向、Y軸方向、Z軸方向で表わす。単にX軸方向、Y軸方向、Z軸方向と記載したときは+方向と−方向の両方向を意味するものとし、+方向と−方向を区別して方向を表示するときは+X方向、−X方向のように符号を付して記載するものとする。
【0016】
磁界検出装置1は、磁界を検出する検出素子10と、電圧源21と、抵抗素子22と、差動増幅回路23と、参照電圧源24と、制御部25と、バイアス電流供給部としての電流源31とを含む。ここで、電圧源21、抵抗素子22、差動増幅回路23、および参照電圧源24は、検出素子10の抵抗値を測定するための測定部20を構成する。
【0017】
検出素子10は、基板40上に形成されたトンネル磁気抵抗効果素子(TMR素子)であり、絶縁層14を挟んで上部に位置する上部電極18と下部に位置する下部電極17とを含む。検出素子10の上部電極18は、コンタクトホールに形成された導電部46を介在して配線層43と接続される。配線層43は、基板40上に形成された測定部20と電気的に接続される。図2には、測定部20を構成する半導体素子の代表としてMOS(Metal-Oxide Semiconductor)トランジスタ29が示されている。
【0018】
また、検出素子10の下部電極17は、コンタクトホールに形成された導電部44を介在して配線層41と接続され、コンタクトホールに形成された導電部45を介在して配線層42と接続される。配線層41は電流源31と接続され、配線層42は接地GNDに接続される。図2には、電流源31を構成する半導体素子の代表としてMOSトランジスタ39が示される。また、コンタクトホールに形成された導電部44および導電部45は、検出素子10の接合部を跨いでY軸方向の両側に設けられる。
【0019】
上記の配線層41〜43は、導電性の材料で形成されていればよいが、シリコン集積回路などで使用される配線材料で形成されるのが好ましい。たとえば、Al、AlSi、AlSiCu、AlCuなどの材料で形成される。コンタクトホールに形成された導電部44〜46についても、導電性の材料で形成されていいればよいが、好ましくはW,Ti,Co,Si,Ta,Mo,Ru,Pt,Auなどを含む導電性の金属材料で形成される。
【0020】
図4は、検出素子10の接合部の構成を詳しく示す断面図である。図4を参照して、検出素子10は、基板側から順に、非磁性導体11、反強磁性層12、強磁性層(固着層)13、絶縁層14、強磁性層(自由層)15、および非磁性導体16が積層されて形成される。非磁性導体11、反強磁性層12、および強磁性層13が下部電極17に含まれ、強磁性層(自由層)15および非磁性導体16が上部電極に含まれる。
【0021】
強磁性層(固着層)13の磁化方向は、反強磁性層12との交換結合により1方向に固定されている。一方、強磁性層(自由層)15の磁化方向は外部磁場に応じて変化する。このようなスピンバルブ構造を有した磁気抵抗素子の抵抗は、強磁性層(固着層)13の磁化方向と強磁性層(自由層)15の磁化方向とのなす角度に応じて変化する。つまり、外部磁界に影響されて強磁性層(自由層)15の磁化方向が変化することによって素子抵抗が変化する。このため、外部磁界を素子抵抗によって検知することが可能になる。
【0022】
一般に、TMR素子では自由層の磁化方向と固着層の磁化方向とが平行の場合に抵抗は最小値となり、自由層の磁化方向と固着層の磁化方向とが反平行の場合に抵抗は最大値となる。なお、TMR素子の場合、各層の厚みが素子のパターンサイズに対して1/100以下であり形状異方性の影響を強く受ける。したがって、基板40に垂直方向(図1〜図3のZ軸方向)に磁化方向を変化させることは非常に難しく、強磁性層(自由層)15の磁化方向は基板面内方向に限られる。また、基板40に垂直方向に外部磁界を印加した場合には、強磁性層(自由層)15の磁化方向の変化は無視できるので、結果として素子抵抗の変化も無視できる。
【0023】
上記のTMR素子の構造は、たとえば、反強磁性層12としてIrMn、強磁性層(固着層)13としてNiFeまたはCoFe、絶縁層14としてAl2O3、強磁性層(自由層)15としてNiFeを用いることによって構成できる。この他、反強磁性層12として、FeMn、IrMn、PtMnを用いることができる。また、強磁性層13,15として、Co、Fe、CoFe合金、CoNi合金、CoFeNi合金、などのCo、Ni、Feを主成分として含む金属や、NiMnSb、Co2MnGeなどの合金などを用いることができる。TMR素子として所望の性能が得られる材料であれば特段の制約はない。また、トンネル絶縁膜として用いられる絶縁層14は、非磁性層の絶縁体であればよい。たとえば、絶縁層14として、Ta2O5、SiO2、MgOなどの金属の酸化物や、弗化物などを用いることができる。
【0024】
なお、実施の形態1の場合と異なり、強磁性層(自由層)15が下部電極に含まれ、強磁性層(固着層)13および反強磁性層12が上部電極に含まれるように構成することもできる。また、強磁性層(自由層)15は、図4のように単一の磁性層であってもよいし、図4と異なって2種類以上の磁性層が積層された構造であってもよい。
【0025】
また、上記の各層は、たとえばDCマグネトロンスパッタリングにより形成される。その他、分子線エピタキシー(MBE:Molecular Beam Epitaxy)法、各種スパッタ法、化学気相成長(CVD:Chemical Vapor Deposition)法、蒸着法などによって各層を形成してもよい。
【0026】
上記の素子構造は、たとえば、フォトリソグラフィーによるパターンニングとエッチングとよって作製される。この場合、積層膜を形成後、フォトリソグラフィーを用いてフォトレジストによる所望のパターンを形成する。その後、パターンニングされたフォトレジストをマスクにしてイオンミリングもしくは反応性イオンエッチングにより素子の形状が得られる。なお、フォトリソグラフィーに代えて電子線リソグラフィーを用いても良いし、集束イオンビーム加工を用いてもよい。
【0027】
再び図1〜図3を参照して、測定部20の構成について説明する。図1の抵抗素子22および電圧源21は、配線層43と配線層42との間に直列に接続される。また、配線層43は差動増幅回路23の+端子に接続される。一方、差動増幅回路23の−端子には、参照電圧源24によって参照電圧Vrefが与えられる。差動増幅回路23は、抵抗素子22および検出素子10の接続ノードNd1の電圧Vd1と参照電圧Vrefとの差を増幅して制御部25に出力する。
【0028】
上記のように検出素子10と抵抗素子20とからなるハーフブリッジを構成することによって、検出素子10の上部電極18と下部電極17との間の抵抗値に応じた大きさの出力電圧Voutが制御部25に出力される。
【0029】
制御部25は、コンピュータによって構成され、演算部26と記憶部27とを含む。演算部26は、差動増幅回路23の出力電圧Voutに基づいて未知の外部磁界の大きさを算出する。具体的な算出方法は、図8、図9を参照して後述する。記憶部27は、差動増幅回路23の出力など演算部26の処理に必要なデータを記憶する。また、制御部25は、電圧源21および電流源31の動作を制御する。なお、実施の形態1の場合と異なり、演算部26を演算増幅器などを利用してアナログ回路で構成することもできる。
【0030】
電流源31は、配線層41と配線層42との間に接続される。電流源31によって下部電極17にY軸方向のバイアス電流Ibを流すことによって、検出素子10の接合部にはX軸方向のバイアス磁界Hbが印加される。
【0031】
実施の形態1の磁界検出装置1では、未知の外部磁界に加えてバイアス磁界Ibを印加できるので、後述するように磁界の感度を調整することが可能になり、測定誤差を低減させて精度よく外部磁界を検出することができる。また、強磁性層(自由層)15に直近の下部電極17にバイアス電流Ibを流すので、わずかの電流でTMR素子に磁界を印加することが可能であり、消費電力の節約ができる。
【0032】
たとえば、検出素子10に対して20Oeのバイアス磁界Hbを印加することを考える。この場合、検出素子10を保護するために0.1μmの絶縁膜を介して設けられた配線に電流を流す場合には、アンペアの法則により1mAのバイアス電流Ibが必要である。
【0033】
一方、検出素子10の下部電極17に電流を流す場合には、バイアス電流Ibを小さくすることができる。たとえば、非磁性導体11の比抵抗が下部電極17を構成する他の層(反強磁性層12および強磁性層13)の比抵抗よりも十分小さいために、下部電極17を流れるバイアス電流Ibが主として非磁性導体11を流れる場合を考える。この場合、反強磁性層12および強磁性層13の全体の厚みを10nmとすると、絶縁層14よりも10nm下の位置に形成された非磁性導体11に主としてバイアス電流Ibが流れることになる。したがって、0.1mAのバイアス電流Ibで上記の場合と略同じ20Oeのバイアス磁界Hbを得ることができ、低消費電力化が可能になる。特に後述する参照素子のように大きな電流を印加する場合に顕著な効果がある。
【0034】
(磁界検出装置1の動作)
次に、磁界検出装置1の動作について説明する。
【0035】
実施の形態1の磁界検出装置1では、図4の強磁性層(自由層)15の磁化方向は、外部磁界Hexおよびバイアス磁界Hbによって決まる。また、検出素子10(TMR素子)の抵抗値は、強磁性層(自由層)15の磁化方向と強磁性層(固着層)13の磁化方向とのなす角度に応じて変化する。
【0036】
まず、外部磁界Hexの方向とバイアス磁界Hbの方向とが平行または反平行の場合(外部磁界Hex方向とバイアス電流Ibの方向とが垂直の場合)について説明する。この場合、外部磁界Hexに応じた適切な大きさのバイアス磁界Hbを生成することによって、検出素子10(TMR素子)で測定可能な外部磁界Hexの範囲をシフトすることができる。
【0037】
図5は、外部磁界Hexとバイアス磁界Hbとが平行の場合における外部磁界Hexと素子抵抗Rとの関係を示す図である。
【0038】
図5を参照して、検出素子10(TMR素子)は、バイアス磁界Hbが存在しない場合において、−Hk〜Hk(Hk:飽和磁界)の範囲内で線形領域を有する(図5の破線)。外部磁界HexがHex≦−HkまたはHex≧Hkとなる飽和領域では、自由層の磁化方向と固着層の磁化方向とが平行または反平行となって素子抵抗Rが外部磁界Hexに依存しなくなる。−Hk〜Hkの線形領域における素子抵抗Rの変化量をΔRとし、素子抵抗Rの最大値と最小値の平均値をRmとすると、素子抵抗Rの最大値はRm+ΔR/2と表わされ、素子抵抗Rの最小値はRm−ΔR/2と表わされる。最も大きな抵抗変化ΔRを得るためには、固着層の磁化方向が外部磁界Hexの方向と平行または反平行であり、外部磁界Hexが0のときの自由層の磁化方向は固着層の磁化方向と垂直であることが望ましい。
【0039】
ここで、たとえば、外部磁界Hexの大きさを測定する場合には、外部磁界Hexの大きさと抵抗値R、すなわち外部磁界Hexと検出信号とが比例関係にあることが望ましい。そのため、外部磁界Hexの大きさを測定する場合には、検出素子10(TMR素子)が線形領域となる範囲(−Hk〜Hk)が測定可能範囲となる。このとき、バイアス磁界Hbを外部磁界Hexと反平行の方向に印加することで、検出素子10(TMR素子)の線形領域は、(−Hk−Hb)〜(+Hk−Hb)の範囲へ移動する。すなわち、磁界検出装置1の測定可能範囲は、バイアス磁界Hb分だけシフトする。
【0040】
このように、測定対象の外部磁界Hexの変動範囲に応じて、適切な大きさバイアス電流Ibを流してバイアス磁界Hbを生成することによって、磁界検出装置1は、大きな直流成分を含む外部磁界Hexに対して、微小な交流成分を検出することができる。
【0041】
次に、外部磁界Hexの方向とバイアス磁界Hbの方向とが垂直の場合(外部磁界Hex方向とバイアス電流Ibの方向とが平行または反平行の場合)について説明する。この場合、バイアス磁界Hbは、自由層の磁化ベクトルをバイアス磁界Hbの方向へ保持するように機能する。すなわち、自由層の磁化ベクトルは、バイアス磁界Hbによりその向きの変化を妨げされられるので、外部磁界Hexに対する自由層の磁化ベクトルの応答性(感度)が低下する。この結果、バイアス磁界Hbが増加するにつれて、外部磁界Hexに対する検出素子10(TMR素子)の抵抗値Rの変化率(dR/dHex:感度)が小さくなる。
【0042】
図6は、外部磁界Hexとバイアス磁界Hbとが垂直の場合における外部磁界Hexと素子抵抗との関係を示す図である。
【0043】
図6を参照して、検出素子10(TMR素子)は、バイアス磁界Hbが存在しない場合において、−Hk〜Hk(Hk:飽和磁界)の範囲内で線形領域を有する(図6の破線)。一方、バイアス電流Ibによってバイアス磁界Hbが生成されると、検出素子10(TMR素子)の線形領域は、−Hkb〜Hkb(Hkb:バイアス磁界Hbを受けた場合における飽和磁界)へ拡大する(図6の実線)。
【0044】
図5の場合と同様に、外部磁界Hexの大きさを測定する場合には、検出素子10(TMR素子)が線形領域となる範囲が測定可能範囲となる。そのため、バイアス磁界Hbを印加することで、磁界検出装置1の測定可能範囲は、Hkb/Hk倍だけ拡大することになる。
【0045】
このように、外部磁界Hexの方向とバイアス磁界Hbの方向とが垂直の場合には、測定対象の外部磁界Hexの変動量に応じて、適切なバイアス磁界Hbを選択することで、磁界検出装置1は、その測定範囲を拡大させ、より広い範囲の外部磁界Hexを検出することができる。
【0046】
次に、外部磁界Hexの方向とバイアス磁界Hbの方向とが垂直の場合(外部磁界Hex方向とバイアス電流Ibの方向とが平行または反平行の場合)で、自由層が飽和状態である場合について説明する。この場合、外部磁界の大きさに拘らず、検出素子10(TMR素子)の抵抗値は固着層の磁化ベクトルと自由層の磁化ベクトルとのなす角度で決定される。すなわち、抵抗値Rは、固着層の磁化ベクトルと自由層の磁化ベクトルとのなす角度θとして、(1)式で表される。
【0047】
R=Rm+(ΔR/2)×cosθ …(1)
図7は、外部磁界Hexおよびバイアス磁界Hbの方向と磁化方向との関係を説明するための図である。
【0048】
図7を参照して、固着層の磁化ベクトルMpの方向はY軸方向に固定される。また、Y軸方向に外部磁界Hexが印加され、バイアス電流をY軸方向に流すことによって、自由層を含む上部電極18には、X軸方向のバイアス磁界Hbが印加される。この結果、自由層の磁化ベクトルMfの方向は、外部磁界Hexとバイアス磁界Hbとの合成磁界Hの方向に一致する。結果として、固着層の磁化ベクトルMpと自由層の磁化ベクトルMfとのなす角θによって、上式(1)のように素子抵抗Rが決まる。
【0049】
ここで、上記のようにバイアス磁界Hbによってある一定以上の磁界を自由層に印加するようにすれば、磁界に対する素子抵抗Rのヒステリシスを非常に小さくすることができる。この理由は次のとおりである。
【0050】
一般に、ヒステリシスは磁区の生成/消滅と磁壁の移動によって説明できる。磁界がほとんどかからない状態では、磁区を形成したほうが系の自由エネルギーが小さくなるのでヒステリシスが生じることになる。これに対して、ある一定以上のバイアス磁界Hbをかけて自由層のスピンをできるだけ単一磁区になるようにすれば、磁化過程をほぼ磁化ベクトルの回転のみとすることができる。この結果、ヒステリシスを抑制することができる。
【0051】
なお、自由層の磁化ベクトルの方向は形状異方性の影響も受ける。図1、図7の場合、自由層を含む上部電極18の形状を簡単のため正方形としている。これに対して、形状異方性の影響を抑制するために上部電極18の形状を円形とすることもできる。
【0052】
あるいは、逆に、上部電極18の形状を長方形とし、長辺を短辺に比べてかなり長くすることで形状異方性の影響を大きくすることができる。これによって、自由層に形成された各磁区の磁化方向が概略揃うので、ヒステリシスの影響を抑制することができる。
【0053】
(磁界検出装置1による外部磁界の検出手順)
以下、磁界検出装置1によって外部磁界Hexの大きさを検出する具体的に手順について説明する。以下の例は、外部磁界Hexの方向とバイアス磁界Hbの方向とが垂直の場合(外部磁界Hex方向とバイアス電流Ibの方向とが平行または反平行の場合)である。
【0054】
図8は、図1の磁界検出装置1の動作を説明するための図である。図8では、バイアス磁界Hbを生成するための磁界発生部32が示されている。実施の形態1の場合、磁界発生部32は検出素子10の下部電極17である。磁界発生部32によって、検出素子10にバイアス磁界Hbが生成される。なお、磁界発生部32として、バイアス電流Ibの供給用の電流線を下部電極17と独立に設けた場合も、以下に示す手順によって外部磁界Hexを検出することできる。
【0055】
図8を参照して、外部磁界Hexの方向をX軸方向とし、バイアス磁界Hbの方向をX軸方向とする。このとき、バイアス電流Ibの方向はY軸方向になる。また、固着層の磁化ベクトルMpの方向をX軸方向(外部磁界Hexの方向に対して平行または反平行)とする。また、自由層の磁化ベクトルMfの方向は、外部磁界Hexおよびバイアス磁界Hbがいずれも印加されていない場合、形状異方性を利用して、Y軸方向になるようにする。すなわち、自由層の磁化ベクトルMfの方向は、固着層の磁化ベクトルMpの方向と直交するようにする。
【0056】
原理的には、自由層の磁化方向は任意の一定方向、たとえば、X軸方向とY軸方向との間の45度の方向であれば以下に示す方法で未知の外部磁界Hexを測定可能である。しかしながら、前述の式(1)に示すように、磁気トンネル抵抗は自由層の磁化方向と固着層の磁化方向とのなす角θの余弦(cosθ)で決まる。したがって、磁界が0の状態のときの自由層の磁化方向をY軸方向にすることによって、固着層の磁化方向と自由層の磁化方向とを直交(θ=90°)させたほうが磁界に対する応答性がほぼ線形になって良好になるので好ましい。
【0057】
図9は、図1の磁界検出装置1による外部磁界Hexの検出手順を示すフローチャートである。以下、図8、図9を参照して、外部磁界Hexの検出手順について説明する。なお、制御部25の記憶部27には、複数の既知の外部磁界Hexに対して下記と同様の手順で測定した測定結果が記憶されているとする。
【0058】
図9のステップS101で、外部磁界Hexおよびバイアス磁界Hbがいずれも印加されていない場合(Hex=0,Hb=0)に、制御部25は、差動増幅回路23の出力電圧Vout(1)をA/D(Analog to Digital)変換して記憶部27に記憶させる。
【0059】
次のステップS102で、磁界検出装置1に未知の外部磁界Hexが印加される。
次のステップS103で、制御部25は、このときの差動増幅回路23の出力電圧Vout(2)に基づいてバイアス電流Ibの初期値を決定する。具体的には、制御部25は、記憶部27に記憶された既知の外部磁界に対する測定結果の中から、類似の出力電圧が得られたときに設定したバイアス電流Ibの値を初期値として選択する。
【0060】
次のステップS104で、制御部25は、電流源31よってステップS103で決定したバイアス電流Ibの初期値を下部電極17に供給する。これによって、バイアス磁界Hbが発生する。制御部25は、このときの差動増幅回路23の出力電圧Vout(3)をA/D変換して記憶部27に記憶させる。
【0061】
次のステップS104で、制御部25は、ステップS101で記憶した出力電圧Vout(1)とステップS104で記憶した出力電圧Vout(3)との差の絶対値が所定の閾値以内となるか否かを判定する。所定の閾値を超える場合(ステップS105でNO)、ステップS106に進む。そして、ステップS106で制御部25は、出力電圧Vout(1)と出力電圧Vout(3)との差の絶対値が小さくなるようにバイアス電流Ibの値を変更する。その後、ステップS104,S105を再度実行する。
【0062】
一方、ステップS104で、出力電圧Vout(1)と出力電圧Vout(3)との差の絶対値が所定の閾値以下の場合(ステップS105でYES)、制御部25は処理をステップS107に進める。そして、ステップS107で制御部25は、現在のバイアス電流Ibの値に予め設定された換算係数K0を掛けることによって外部磁界Hexの大きさを算出する。
【0063】
ここで、換算係数K0は、既知の外部磁界Hex0に対して上記と同様の処理を行なったときに得られたバイアス電流Ibの値をIb0としたとき、K0=Hex0/Ib0によって求めることができる。好ましくは、複数の既知の外部磁界に対して上記と同様の手順によって複数のバイアス電流Ibをそれぞれ決定し、各外部磁界と対応するバイアス電流との比によって求めた換算係数を予め記憶部27に記憶しておく。そして、未知の外部磁界Hexに対して得られたバイアス電流Ibに最も近い場合を選び出して実際に使用する換算係数を決定してもよい。あるいは、未知の外部磁界Hexから得られたバイアス電流に基づいて、記憶部27に記憶された複数の換算係数を補間することによって実際に使用する換算係数を決定してもよい。
【0064】
(まとめ)
以上のとおり、実施の形態1の磁界検出装置1によれば、検出素子10(TMR素子)の一方の電極である下部電極17にバイアス電流Ibを流すので、別途バイアス電流用の配線層を設ける場合に比べて、より少ない消費電力で検出素子10(TMR素子)にバイアス磁界Hbを印加することができる。また、外部磁界Hexに応じてバイアス磁界Hbの大きさを変化させることによって、検出素子10(TMR素子)の線形領域をシフトさせたり、磁界感度を変化させたりすることができ、これによって磁界検出精度を向上させることができる。
【0065】
[実施の形態1の変形例1]
図10は、実施の形態1の変形例1による外部磁界Hexの検出方法を説明するための図である。図10の変形例1の磁界検出装置1Aは、X軸方向にバイアス磁界Hb1,Hb2を印加する磁界発生部32に加えて、Y軸方向にバイアス磁界Hb0を印加する磁界発生部35をさらに含む点で、図8の磁界検出装置1と異なる。また、図10では、未知の外部磁界Hexの方向をX軸方向とし、固着層の磁化ベクトルMpの方向をX軸方向(外部磁界Hexの方向に対して平行または反平行)とする。その他の、図10の磁界検出装置1Aの構成は図8の磁界検出装置1の構成と共通するので、同一または相当する部分には同一の参照符号を付して説明を繰り返さない。
【0066】
磁界発生部35は、たとえば、検出素子10(TMR素子)の近傍に永久磁石を配置することによって実現できる。磁界発生部35によるバイアス磁界Hb0は、自由層の飽和磁界Hk(図5、図6参照)以上に設定される。図7で説明したように、これによって単一の磁区が形成されるので素子抵抗Rのヒステリシスを非常に小さくすることができる。
【0067】
外部磁界Hexが印加されていない状態では、バイアス磁界Hb0を印加することによって自由層の磁化方向Mfと固着層の磁化方向Mpとを概略直交させる。この状態で外部磁界Hexが印加された場合、図7に関連して説明したように、素子抵抗Rは、前述の(1)式に従って固着層の磁化ベクトルMpと自由層の磁化ベクトルMfとのなす角θによって決まる。したがって、測定された素子抵抗Rから、(1)式に従って角θを算出すれば、Hex=Hb0/tanθによって外部磁界Hexの大きさを求めることができる。
【0068】
変形例1では、さらに、制御部25は、外部磁界Hexが印加されていない状態で、バイアス電流Ibを2通りの値に変化させ、これによって+X方向および−X方向(固着層の磁化方向Mpに対して平行および反平行)に既知バイアス磁界Hb1,Hb2を発生させる。そして、制御部25は、それらのバイアス磁界Hb1,Hb2に対応した素子抵抗を測定する。これによって、前述の式(1)のRm,ΔRを求めることができる。
【0069】
続いて、バイアス電流Ibが流れていない状態で、未知の外部磁界Hexが印加される。制御部25は、このときの素子抵抗Rを測定し、測定した素子抵抗Rと、バイアス電流Ibを流したときに算出したRm,ΔRとを用いて、前述の式(1)の角θを算出する。算出した角θを用いると、より精度よく未知の外部磁界の大きさを測定することができる。この場合、1つの検出素子10で測定結果の補正を行なっていることになるので、回路の面積を削減することができる。また、同じ素子で補正ができるので、たとえば温度による感度の変化などをより正確に補正することができる。
【0070】
図11は、実施の形態1の変形例1による外部磁界Hexの検出手順を示すフローチャートである。以下、具体的な測定手順を図11を参照して説明する。
【0071】
ステップS151で、制御部25は、磁界発生部35によって既知のバイアス磁界Hb0を+Y方向に印加する。バイアス磁界Hb0は、以下のステップS152,S153,S155の測定期間中、常に印加される。
【0072】
次のステップS152で、制御部25は、電流源31によって、所定のバイアス電流Ib(1)を検出素子10に供給する。このバイアス電流Ib(1)によって生成されたバイアス磁界Hb1と前述のバイアス磁界Hb0との合成磁界が検出素子10に印加された状態で、制御部25は、差動増幅回路23の出力電圧Vout(1)をA/D変換して記憶部27に記憶させる。
【0073】
次のステップS153で、制御部25は、電流源31によって、ステップS152と異なる大きさのバイアス電流Ib(2)を検出素子10に供給する。このバイアス電流Ib(2)によって生成されたバイアス磁界Hb2と前述のバイアス磁界Hb0との合成磁界が検出素子10に印加された状態で、制御部25は、差動増幅回路23の出力電圧Vout(2)をA/D変換して記憶部27に記憶させる。
【0074】
次のステップS154で、制御部25の演算部26は、出力電圧Vout(1),Vout(2)に基づいて、前述の式(1)のRm,ΔRを算出する。具体的には、まず、演算部26は、出力電圧Vout(1),Vout(2)と、抵抗素子22の抵抗値と、電圧源21の出力電圧を用いて、ステップS152の場合の検出素子10の素子抵抗R(1)と、ステップS153の場合の検出素子10の素子抵抗R(2)を算出する。次に、演算部26は、バイアス磁界Hb1,Hb2の大きさと、バイアス磁界Hb0の大きさとから、ステップS152の場合における前述の式(1)の角θ(θ1と称する)と、ステップS153の場合における式(1)の角θ(θ2と称する)とを算出する。そして、演算部26は、算出した素子抵抗R(1),R(2)と角θ1,θ2とから、式(1)に従ってRmおよびΔRを算出する。
【0075】
次のステップS155で、制御部25は、バイアス電流Ibが検出素子10に供給されていない状態で、未知の外部磁界Hexが印加されたときの差動増幅回路23の出力電圧Vout(3)をA/D変換して記憶部27に記憶される。この間、検出素子10には、バイアス磁界Hb0と未知の外部磁界Hexとの合成磁界が印加されている。
【0076】
次のステップS156で、制御部25の演算部26は、ステップS154で算出したRmおよびΔRと、ステップS155で測定した出力電圧Vout(3)とを用いて、未知の外部磁界Hexの大きさを算出する。具体的には、まず、演算部26は、出力電圧Vout(3)と抵抗素子22の抵抗値と電圧源21の出力電圧とを用いて、ステップS155の場合の検出素子10の素子抵抗R(3)を算出する。次に、演算部26は、算出した素子抵抗R(3)とステップS154で算出したRmおよびΔRとを用いて、式(1)に従って角θ(θ3と称する)を算出する。そして、演算部26は、算出した角θ3を用いて、Hex=Hb0/tanθ3によって外部磁界Hexの大きさを求める。こうして、温度による感度補正がなされたより正確な外部磁界Hexの測定が可能になる。
【0077】
なお、バイアス磁界Hb0の発生方法としては、この変形例1で挙げたような永久磁石でもよいし、検出素子10(TMR素子)の下部電極を用いてバイアス電流を流す方法でもよい。もしくは、別途作製した配線に電流を流す方法でもよい。
【0078】
また、バイアス磁界Hb1,Hb2の発生方法として、この変形例1のような検出素子10の下部電極を用いてバイアス電流Ibを流す方法であってもよいし、可動式の永久磁石を用いる方法であってもよい。
【0079】
[実施の形態1の変形例2]
図12は、実施の形態1の変形例2によるTMR素子の構成を示す断面図である。図12を参照して、変形例2によるTMR素子は、図4の反強磁性層12に代えて保磁力の大きな強磁性層12Aを含む点で、図4のTMR素子と異なる。その他の点については、図12のTMR素子の構成は図4のTMR素子の構成と同じであるので、同一または相当する部分には同一の参照符号を付して説明を繰返さない。
【0080】
図12のように保磁力の大きな強磁性層12Aを隣接して設けることによっても、強磁性層(固着層)13の磁化方向を一方向に固定することができる。
【0081】
[実施の形態1の変形例3]
図13は、実施の形態1の変形例3によるTMR素子の構成を示す断面図である。図13を参照して、変形例3によるTMR素子は、図4の強磁性層(固着層)13が、2層の強磁性層13A,13Cとこれらの間に挟まれた非磁性層13Bによって構成される点で、図4のTMR素子と異なる。その他の点については、図12のTMR素子の構成は図4のTMR素子の構成と同じであるので、同一または相当する部分には同一の参照符号を付して説明を繰返さない。
【0082】
図13の固着層13では、薄い非磁性層13Bを挟んで積層された2層の強磁性層13A,13Cが互いに反強磁性結合をする。このような構造の固着層13は、SAF(Synthetic Anti-Ferroelectric)構造と呼ばれ、固着層13の磁化をより安定化することができる。非磁性層13BはRu、Cuなどの非磁性材料を用いて形成することができる。
【0083】
[実施の形態2]
実施の形態2では、TMR素子が磁界検出用の検出素子の他に、参照素子として利用される。
【0084】
外部磁界Hexに比べて大きいバイアス磁界Hbを印加しているとみなせる場合に、バイアス磁界Hbの方向と固着層の磁化の方向を平行または反平行とすることで、TMR素子の抵抗を最小抵抗Rminまたは最大抵抗Rmaxに固定することができる。このようなTMR素子は、参照素子として図1の抵抗素子22の代わりに使用することができる。すなわち、同じ特性を有した複数のTMR素子を用意し、そのうちの一部を外部磁界Hexに応じた抵抗を発生させる検出素子として使用し、その他のTMR素子を参照素子として使用する。そして検出素子と参照素子の抵抗値の差から外部磁界Hexを求めることによって、周囲の温度によって変化するTMR素子の抵抗値の変化を補償して外部磁界Hexを正確に求めることが可能になる。以下、図14、図15を参照して具体的に説明する。
【0085】
図14は、この発明の実施の形態2による磁界検出装置2の構成を模式的に示す平面図である。
【0086】
図15は、図14の磁界検出装置2の要部の構成を模式的に示す模式的に示す斜視図である。
【0087】
磁界検出装置2は、図1の抵抗素子22に代えて、TMR素子である参照素子50を含む。すなわち、磁界検出装置2は、磁界を検出する検出素子10と、電圧源21と、抵抗素子として用いられる参照素子50と、電圧増幅回路23Aと、制御部25Aと、バイアス電流供給部としての電流源31、33とを含む。ここで、電圧源21および電圧増幅回路23Aが検出素子10の抵抗値を測定するための測定部20Aを構成する。
【0088】
検出素子10は、基板40上に形成されたTMR素子であり、絶縁層14を挟んで上部に位置する上部電極18と下部に位置する下部電極17とを含む。実施の形態1の場合と同様に、上部電極18は強磁性層(自由層)を含み、下部電極17は強磁性層(固着層)を含む。検出素子10の上部電極18は、コンタクトホールに形成された導電部46を介在して配線層43と接続される。検出素子10の下部電極17は、複数のコンタクトホールにそれぞれ形成された複数の導電部44を介在して配線層41と接続され、複数のコンタクトホールにそれぞれ形成された複数の導電部45を介在して配線層42と接続される。コンタクトホールに形成された導電部44,45は、寄生抵抗を低減し、下部電極17上の電流分布を均一にするために、多数を並列して設けられている。導電部44および導電部45は、検出素子10の接合部を跨いでY軸方向の両側に設けられる。検出素子10の接合部の詳細な構成については実施の形態1と同様であるので説明を繰返さない。
【0089】
参照素子50は、基板40上に形成されたTMR素子であり、絶縁層54を挟んで上部に位置する上部電極58と下部に位置する下部電極57とを含む。検出素子10の場合と同様に、上部電極58は強磁性層(自由層)を含み、下部電極57は強磁性層(固着層)を含む。固着層の磁化ベクトルMpの方向はY軸方向に固定される。参照素子50の上部電極58は、コンタクトホールに形成された導電部66を介在して配線層63と接続される。参照素子50の下部電極57は、複数のコンタクトホールにそれぞれ形成された複数の導電部64を介在して配線層61と接続され、複数のコンタクトホールにそれぞれ形成された複数の導電部65を介在して配線層62と接続される。コンタクトホールに形成された導電部64,65は、寄生抵抗を低減し、下部電極57上の電流分布を均一にするために、多数を並列して設けられている。導電部64および導電部65は、参照素子50の接合部を跨いでY軸方向の両側に設けられる。参照素子50の接合部の詳細な構成については検出素子10と同様であるので、説明を繰返さない。
【0090】
検出素子10の配線層43と参照素子50の配線層63は一体で形成される。これによって、参照素子50および検出素子10は、この順でノードNd3と接地GNDとの間に電気的に直列に接続される。
【0091】
また、図14に示すように、検出素子10および参照素子50の下部電極17,57は、TMR素子の接合部付近は下部電極の幅を細く形成し、それ以外の部分は幅広に形成することが好ましい。この理由は次のとおりである。
【0092】
TMR素子の抵抗値の測定時に、下部電極17,57による電圧降下が接合抵抗による電圧降下に比べて無視できない程度に大きくなると、TMR素子の抵抗値の測定精度が悪くなる。そこで、下部電極17,57の抵抗を小さくする必要があるが、このために下部電極を構成する積層膜の膜厚を厚くすると積層膜のラフネスが増加することになる。この結果、下部電極の上に設けられるトンネル絶縁膜との界面のラフネスが増加するので、たとえばリーク電流増加によるMR比が低下したり、ネールカップリングによって磁界−抵抗特性にシフトがしょうじたりする。あるいは、後述する回転磁界の方向検知において、TMR素子の抵抗特性のサインカーブからのずれが大きくなるという問題が生じる。
【0093】
そこで、下部電極17,57の抵抗を小さくするために下部電極の配線幅を大きくする必要があるが、TMR素子の接合部近傍まで配線幅を大きくすると、バイアス磁界Hbの形成に寄与している接合部直下の電流成分以外の電流成分が増加することになるので好ましくない。したがって、TMR素子の接合部付近では下部電極の幅が狭く形成される。
【0094】
次に、測定部20Aの構成について説明する。電圧源21は、配線層62と配線層42との間に接続される。これによって、直列接続された参照素子50および検出素子10に定電圧が印加される。定電圧印加の手段として、ツェナーダイオードなどを利用してもよい。
【0095】
電圧増幅回路23Aの入力ノードは、一体形成された配線層43,63に接続される。電圧増幅回路23Aは、参照素子50および検出素子10の接続ノードNd1の電圧Vd1を増幅して出力電圧Voutとして制御部25に出力する。電圧増幅回路23Aは、実施の形態1と同様に、差動増幅回路と参照電圧源とによって構成することができる。このように検出素子10と参照素子50とからなるハーフブリッジを構成することによって、検出素子10の上部電極18と下部電極17との間の抵抗値に応じた大きさの出力電圧Voutが制御部25Aに出力される。
【0096】
制御部25Aは、コンピュータによって構成され、演算部26と記憶部27とを含む。演算部26は、電圧増幅回路23Aの出力電圧Voutに基づいて未知の外部磁界の大きさを算出する。具体的な算出方法は、実施の形態1の場合と同様であるので説明を繰返さない。記憶部27は、電圧増幅回路23Aの出力電圧などを記憶する。また、制御部25Aは、電圧源21および電流源31,33などの動作を制御する。
【0097】
電流源31は、配線層41と配線層42との間に接続される。電流源31は、下部電極17にY軸方向のバイアス電流を流すことによって検出素子10の接合部にX軸方向のバイアス磁界を生成する。また、電流源33は、配線層61と配線層62との間に接続される。電流源33は、下部電極57にX軸方向のバイアス電流Ibを流すことによって参照素子50の接合部にY軸方向のバイアス磁界Hbを生成する。
【0098】
測定部20Aおよび電流源31,33は、外部ノイズの影響やサージに対する耐性を向上する観点から、検出素子10および参照素子50(TMR素子)と同一基板上に設けられるのが好ましい。もしくは、エポキシ樹脂基板やセラミック基板などの別の基板にチップ部品の形で実装し、たとえばワイヤボンディングで電気的に接続されていてもよい。
【0099】
次に、磁界検出装置2の動作について説明する。外部磁界Hexが変化すると、自由層の磁化の向きが変化し、固着層の磁化の向きとなす角度が変化するため、検出素子10の抵抗が変化する。このとき、検出素子10には、たとえば10Oe程度のバイアス磁界が発生するように下部電極17にバイアス電流が供給される。実施の形態1で説明したように、バイアス磁界にはヒステリシス低減などの効果がある。
【0100】
一方、参照素子50の下部電極57にはX軸方向のバイアス電流Ibが供給され、たとえば、100Oeの磁界が生成される。これによって、外部磁界によらずに常に参照素子50の自由層の磁化方向を固着層の磁化方向に対して概略一定に保つようにして、参照素子50が基準抵抗として用いられる。TMR素子の抵抗について、固着層の磁化方向と自由層の磁化方向とのなす角度θについて前述の(1)式の関係があるので、好ましくは、自由層の磁化方向を固着層の磁化方向に対して平行または反平行とすることが好ましい。これによって、参照素子50の抵抗は、TMR素子の最大抵抗または最小抵抗を示すようになるので、外部磁界の影響を受けにくくなる。このため、実施の形態2では、参照素子50の下部電極57の磁化方向MpをY軸方向にしている。参照素子50を用いることによって、周囲の温度によって変化するTMR素子の抵抗値の変化を補償して外部磁界Hexを正確に求めることができる。
【0101】
[実施の形態2の変形例]
図16は、この発明の実施の形態2の変形例による磁界検出装置2Aの構成を模式的に示す平面図である。
【0102】
図17は、図16の磁界検出装置2Aの要部の構成を模式的に示す斜視図である。図16、図17の磁界検出装置2Aは、検出素子10の接合部近傍の下部電極17に複数の導電部48を介在して接続された配線層47と、参照素子50の接合部近傍の下部電極57に複数の導電部68を介在して接続された配線層67とをさらに含む点で、図14,14の磁界検出装置2と異なる。さらに、磁界検出装置2では、電圧源21が配線層42,62間に接続されていたのに対して、磁界検出装置2Aでは、電圧源21が配線層47,67間に接続される。この点でも変形例の磁界検出装置2Aは磁界検出装置2と異なる。その他の点については、磁界検出装置2Aは、図14,14の磁界検出装置2と同様であるので、同一または相当する部分には同一の参照符号を付して説明を繰返さない。
【0103】
図16,16に示すように、この変形例では、下部電極17,57の接合部近傍、すなわち、導電部44,45の中点近傍と導電部64,65の中点近傍とに電圧検出用の配線層47,48がさらに設けられる。これによって、下部電極17,57の抵抗による電圧降下の影響を抑制してTMR素子の接合抵抗をより精密に測定することができる。
【0104】
[実施の形態3]
図18は、この発明の実施の形態3による磁界検出装置3の構成を模式的に示す平面図である。実施の形態3の磁界検出装置3は、2個の検出素子10A,10Bと2個の参照素子50A,50Bとによってブリッジを構成したものである。
【0105】
図18を参照して、磁界検出装置3は、磁界を検出する検出素子10A,10Bと、抵抗素子として用いられる参照素子50A,50Bと、電圧源21A,21Bと、差動増幅回路23と、制御部25Bと、バイアス電流供給部としての電流源31A,31B,33A,33Bとを含む。ここで、電圧源21A,21Bおよび差動増幅回路23が検出素子10A,10Bの抵抗値を測定するための測定部20Aを構成する。
【0106】
検出素子10Aは、基板上に形成されたTMR素子であり、絶縁層14Aを挟んで上部に位置する上部電極18Aと下部に位置する下部電極17Aとを含む。また、検出素子10Bは、基板上に形成されたTMR素子であり、絶縁層14Bを挟んで上部に位置する上部電極18Bと下部に位置する下部電極17Bとを含む。実施の形態1の場合と同様に、上部電極18A,18Bは強磁性層(自由層)を含み、下部電極17A,17Bは強磁性層(固着層)を含む。検出素子10A,10Bの接合部の詳細な構成については実施の形態1と同様であるので説明を繰返さない。
【0107】
参照素子50Aは、基板上に形成されたTMR素子であり、絶縁層54Aを挟んで上部に位置する上部電極58Aと下部に位置する下部電極57Aとを含む。参照素子50Bは、基板上に形成されたTMR素子であり、絶縁層54Bを挟んで上部に位置する上部電極58Bと下部に位置する下部電極57Bとを含む。検出素子10A,Bの場合と同様に、上部電極58A,58Bは強磁性層(自由層)を含み、下部電極57A,57Bは強磁性層(固着層)を含む。参照素子50A,50Bの接合部の詳細な構成については検出素子10A,10Bと同様であるので説明を繰返さない。
【0108】
検出素子10Aの上部電極18Aと参照素子50Aの上部電極58Aとは接続ノードNd1に接続される。これによって、参照素子50Aおよび検出素子10Aは、この順でノードNd3と接地GNDとの間に電気的に直列に接続されることになる。接続ノードNd1の電位Vd1は差動増幅回路23の−端子に入力される。
【0109】
また、検出素子10Bの上部電極18Bと参照素子50Bの上部電極58Bとは接続ノードNd2に接続される。これによって、参照素子50Bおよび検出素子10Bは、この順でノードNd4と接地GNDとの間に電気的に直列に接続されることになる。接続ノードNd2の電位Vd2は差動増幅回路23の+端子に入力される。差動増幅回路23は、接続ノードNd1,Nd2間の電位差を増幅して制御部25Bに出力する。
【0110】
電圧源21Aは、参照素子50Aの下部電極57Aの一端と検出素子10Aの下部電極17Aの一端とに接続される。これによって、直列接続された参照素子50Aおよび検出素子10Aに定電圧が印加される。また、電圧源21Bは、参照素子50Bの下部電極57Bの一端と検出素子10Bの下部電極17Bの一端に接続される。これによって、直列接続された参照素子50Bおよび検出素子10Bに定電圧が印加される。
【0111】
電流源31A、31Bは、それぞれ検出素子10A,10Bの下部電極17A,17Bの両端に接続され、下部電極17A,17BにY軸方向のバイアス電流を供給する。これによって、検出素子10A,10Bの接合部には、それぞれX軸方向のバイアス磁界が生成される。また、電流源33A、33Bは、それぞれ参照素子50A,50Bの下部電極57A,57Bの両端に接続され、下部電極57A,57BにX軸方向のバイアス電流を供給する。これによって、参照素子50A,50Bの接合部には、それぞれY軸方向のバイアス磁界が生成される。
【0112】
制御部25Bは、コンピュータによって構成され、演算部26と記憶部27とを含む。演算部26は、差動増幅回路23の出力電圧Voutに基づいて未知の外部磁界の大きさを算出する。具体的な算出方法は、図19、図20を参照して後述する。記憶部27は、差動増幅回路23の出力などを記憶する。また、制御部25Aは、電圧源21A,21Bおよび電流源31A,31B,33A,33Bなどの動作を制御する。
【0113】
図19は、図18の磁界検出装置3の動作を説明するための図である。図19では、バイアス磁界Hbを生成するための磁界発生部32A,32B,34A,34Bが示されている。実施の形態3の場合、磁界発生部32A,32Bは、それぞれ検出素子10A,10Bの下部電極17A,17Bである。また、磁界発生部34A,34Bは、それぞれ参照素子50A,50Bの下部電極57A,57Bである。磁界発生部32A,32B,34A,34Bによって、それぞれTMR素子10A,10B,50A,50Bにバイアス磁界Hbが生成される。
【0114】
なお、磁界発生部32A,32B,34A,34Bとして、下部電極17A,17B,57A,57Bを用いずに、Al配線などによってバイアス電流Ibの供給用の電流線を接合部の近傍に設けた場合も、以下に示す手順によって外部磁界Hexを検出することできる。
【0115】
図19の場合、外部磁界Hexの方向はX軸方向であり、検出素子10A,10Bのバイアス磁界Hbの方向もX軸方向である。このとき、検出素子10A,10Bに供給するバイアス電流Ibの方向はY軸方向になる。また、参照素子50A,50Bのバイアス磁界Hbの方向はY軸方向であり、このときの参照素子50A,50Bへ供給するバイアス電流Ibの方向はX軸方向になる。
【0116】
さらに、検出素子10A,10Bの固着層の磁化ベクトルMpの方向をX方向とし、参照素子50A,50Bの固着層の磁化ベクトルMpの方向をY方向とする。また、外部磁界Hexおよびバイアス磁界Hbのいずれも印加されていない場合、検出素子10A,10Bの自由層の磁化ベクトルMpの方向をY方向とし、参照素子50A,50Bの自由層の磁化ベクトルMpの方向をY方向とする。電流源33A,33Bによって下部電極57A,57Bにバイアス電流Ibを流すことによって、外部磁界Hexが印加されていない状態では、参照素子50A,50Bの自由層の磁化方向は、固着層の磁化方向に対して平行または反平行になる。
【0117】
図20は、図18、図19の磁界検出装置3による外部磁界Hexの検出手順を示すフローチャートである。以下、図19、図20を参照して、外部磁界Hexの検出手順について説明する。
【0118】
図20のステップS201で、制御部25Bは、電流源33A,33Bによって参照素子50A,50Bの下部電極に57A,57Bにバイアス電流Ibを流す。これによって、参照素子50A,50Bに十分大きいバイアス磁界Hb(たとえば100Oe)を生成し、参照素子50A,50Bの自由層と固着層の磁化方向を反平行に固定する。
【0119】
次のステップS202で、制御部25Bは、電流源31A,31Bによって検出素子10A,10Bの下部電極17A,17Bにバイアス電流Ibを流す。これによって、検出素子10A,10Bに十分大きいバイアス磁界Hb(たとえば100Oe)を生成し、検出素子10A,10Bの自由層と固着層の磁化方向を反平行にする。
【0120】
次のステップS203で、制御部25Bの記憶部27は、差動増幅回路23の出力電圧Voutを記憶する。このときの出力電圧Voutは、最小出力電圧Vminとなっている。さらに記憶部27は、最小出力電圧Vminより少し大きな電圧を最小測定電圧VLLとして記憶する。最小測定電圧VLLは、外部磁界HexをTMR素子の線形領域で測定するときの下限の出力電圧Voutである。
【0121】
次のステップS204で、制御部25Bは、電流源31A,31Bによって検出素子10A,10Bの下部電極17A,17Bにバイアス電流Ibを流す。これによって、検出素子10A,10Bに十分大きいバイアス磁界Hb(たとえば100Oe)を生成し、検出素子10A,10Bの自由層と固着層の磁化方向を平行にする。
【0122】
次のステップS205で、制御部25Bの記憶部27は、差動増幅回路23の出力電圧Voutを記憶する。このときの出力電圧Voutは、最大出力電圧Vmaxとなっている。さらに記憶部27は、最大出力電圧Vmaxより少し小さい電圧を最大測定電圧VHLとして記憶する。最大測定電圧VHLは、外部磁界HexをTMR素子の線形領域で測定するときの上限の出力電圧Voutである。なお、好ましくは、徐々にバイアス電流をIbを変えながら差動増幅回路23の出力電圧Voutを記録して、最小測定電圧VLLおよび最大測定電圧VHLを決定することもできる。
【0123】
次のステップS206で、磁界検出装置3に既知の外部磁界Hexが印加される。
次のステップS207で、制御部25Bは、電流源31A,31Bによって検出素子10A,10Bに供給するバイアス電流Ibを変更しながら、差動増幅回路23の出力電圧Voutを取得する。そして、制御部25Bは、出力電圧Voutが最小測定電圧VLLと最大測定電圧VHLとの間になる最適なバイアス電流Ibの設定値を探索する。出力電圧Voutが最小測定電圧VLLと最大測定電圧VHLとの間になる場合、検出素子10A,10Bは線形領域で動作していることになる。
【0124】
次のステップS208で、制御部25Bの記憶部27は、ステップS207で探索した適切なバイアス電流Ibの設定値をそのときの外部磁界Hexに対応付けて記憶する。さらに、記憶部27は、これらの外部磁界Hex、バイアス電流Ibのときに得られる出力電圧Voutから算出された磁界感度(Hex/Vout)を記憶する。
【0125】
以上のステップS206〜S208は、所定数の既知の外部磁界Hexについて繰返して実行される(ステップS209でNO)。所定数の既知の外部磁界Hexについての上記の測定が完了したら(ステップS209でYES)、ステップS210に進む。
【0126】
ステップS210で、磁界検出装置3に未知の外部磁界Hexが印加される。
次のステップS211で、制御部25Bは、電流源31A,31Bによって記憶部27に記憶されたバイアス電流Ibの設定値のうち最も小さいものを検出素子10A,10Bに供給する。そして、そのときの差動増幅回路23の出力電圧Voutを取得する。
【0127】
次のステップS212で、制御部25Bは、取得した出力電圧Voutが最小測定電圧VLLと最大測定電圧VHLとの間の線形領域にあるか否かを判定する。出力電圧Voutが線形領域にない場合(ステップS212でNO)、ステップS213で他のバイアス電流Ibの設定値に変更して、ステップS211,S212を再度実行する。一方、出力電圧Voutが線形領域にある場合(ステップS212でYES)、ステップS214に進む。
【0128】
ステップS214で、制御部25Bの演算部26は、現在のバイアス電流Ibの設定値に対応する磁界感度を用いて、出力電圧Voutから外部磁界Hexの大きさを算出する。
【0129】
次のステップS215では、S214での外部磁界Hexの検出後に、外部磁界Hexが印加されていない状態で、制御部25Bは、電流源31A,31Bによって検出素子10A,10Bの下部電極17A,17Bにバイアス電流Ibを流す。これによって、検出素子10A,10Bに十分大きいバイアス磁界Hb(たとえば100Oe)を生成し、検出素子10A,10Bの自由層と固着層の磁化方向を反平行にする。
【0130】
次のステップS216で、制御部25Bの記憶部27は、差動増幅回路23の出力電圧Voutを記憶する。このときの出力電圧Voutは、最小出力電圧Vminとなっている。
【0131】
次のステップS217で、制御部25Bは、電流源31A,31Bによって検出素子10A,10Bの下部電極17A,17Bにバイアス電流Ibを流す。これによって、検出素子10A,10Bに十分大きいバイアス磁界Hb(たとえば100Oe)を生成し、検出素子10A,10Bの自由層と固着層の磁化方向を平行にする。
【0132】
次のステップS218で、制御部25Bの記憶部27は、差動増幅回路23の出力電圧Voutを記憶する。このときの出力電圧Voutは、最大出力電圧Vmaxとなっている。
【0133】
次のステップS219で、演算部26は、ステップS203の最小出力電圧Vmin(1)、ステップS204の最大出力電圧Vmax(1)、ステップS216の最小出力電圧Vmin(2)、およびステップS218の最大出力電圧Vmax(2)を用いて、ステップS214で算出した未知外部磁界Hexの大きさの温度補正を行なう。具体的には、演算部26は、ステップS214の外部磁界Hexに(Vmax(2)−Vmin(2))/(Vmax(1)−Vmin(1))を乗ずることによって、最終的な温度補正後の外部磁界Hexを算出する。こうして、未知の外部磁界Hexの検出が完了する。
【0134】
以上の手順により、広い磁界範囲で、良好な精度で磁界を測定することができる。また、温度による感度の変化を補正することもできる。また、上記の検出手順によれば、磁界の印加方向が概略一定である磁界を高感度に測定することができるので、たとえば、磁界検出装置3を直流および交流の電流センサとして利用することができる。また、好ましくは、電流源31A,31B,33A,33Bから供給するバイアス電流Ibを、差動増幅回路23の出力電圧Voutを取得する直前に流し、出力電圧Voutの取得後に切断することによって、磁界検出装置3の消費電力をさらに小さくできる。また、上記の参照素子50A,50Bにおいて、自由層と固着層の磁化方向を反平行としていたが、逆に平行に設定してもよい。
【0135】
[実施の形態3の変形例1]
図21は、この発明の実施の形態3の変形例1による磁界検出装置3Aの構成を模式的に示す平面図である。図21の磁界検出装置3Aは、電圧源21Bを含まない点で、図18の磁界検出装置3と異なる。磁界検出装置3Aでは、直列接続された検出素子10Bおよび参照素子50Bに電圧源21Aによって定電圧を印加するために、ノードNd3とノードNd4とが接続される。電圧源21Aの動作は、制御部25Cによって制御される。このように構成された変形例による磁界検出装置3Aは、磁界検出装置3と同様の作用効果を奏する。その他の点については、図21の磁界検出装置3Aは、図18の磁界検出装置3と同様であるので、同一または相当する部分には同一の参照符号を付して説明を繰返さない。
【0136】
[実施の形態3の変形例2]
図22は、この発明の実施の形態3の変形例2による磁界検出装置3Bを構成および動作を説明するための図である。図22の磁界検出装置3Bは、検出素子50A,50Bが図19の場合からそれぞれ右回りに90度回転させた位置に配置されている点で、図19の磁界検出装置3と異なる。
【0137】
すなわち、図22の場合、参照素子50A,50Bのバイアス磁界Hbの方向はX軸方向であり、このときの参照素子50A,50Bへ供給するバイアス電流Ibの方向はY軸方向になる。さらに、参照素子50A,50Bの固着層の磁化ベクトルMpの方向を+X方向とし、外部磁界Hexおよびバイアス磁界Hbのいずれも印加されていない場合、参照素子50A,50Bの自由層の磁化ベクトルMfの方向を−X方向とする。電流源33A,33Bによって参照素子50A,50Bの下部電極57A,57Bに十分に大きなバイアス電流Ibを流すことによって、参照素子50A,50Bの自由層の磁化方向は、固着層の磁化方向に対して平行または反平行になる。その他の点については、図22の時間検出装置3Bは、図18、図19の磁界検出装置3と共通するので、同一または相当する部分には同一の参照符号を付して説明を繰り返さない。
【0138】
一般に、TMR素子の固着層において各磁区の磁化方向を一方向に揃えるために、磁界を印加しながら固着層の形成されたチップのアニール処理を行なう。図19の磁界検出装置3の場合には、参照素子50A,50Bの固着層の磁化ベクトルMpの方向と、検出素子10A,10Bの固着層の磁化ベクトルMpの方向とが異なっていた。このため、検出素子10A,10Bと参照素子50A,50Bとを別個のチップに作製した後に磁界検出装置として実装する必要がある。
【0139】
これに対して、この変形例2による磁界検出装置3Bの場合には、参照素子50A,50Bの固着層の磁化ベクトルMpの方向と、検出素子10A,10Bの固着層の磁化ベクトルMpの方向とが同じX軸方向となっている。したがって、同一の基板上に参照素子50A,50Bと検出素子10A,10Bとを容易に形成することができる。
【0140】
[実施の形態4]
実施の形態1〜3では、電流源の出力電流を可変としていた。実施の形態4では、電流源31からは定電流を供給するようにし、電流経路に設けた抵抗によって検出素子10(1),10(2),10(3)(総称するとき、検出素子10とも称する)に供給するバイアス電流量を変化させる。これによって相対的な磁界感度のずれを低減することができる。
【0141】
図23は、この発明の実施の形態4による磁界検出装置4の構成を模式的に示す平面図である。図23の磁界検出装置4は、図14の磁界検出装置2に対応するものであり、検出素子10と参照素子50とによってハーフブリッジ回路を構成した例である。
【0142】
図23を参照して、磁界検出装置2は、磁界を検出する検出素子10(1),10(2),10(3)と、抵抗素子R1〜R6と、電圧源21と、抵抗素子として用いられる参照素子50と、差動増幅回路23と、参照電圧源24と、制御部25Dと、バイアス電流供給部としての電流源31、33とを含む。ここで、電圧源21、差動増幅回路23、および参照電圧源24が検出素子10の抵抗値を測定するための測定部20Aを構成する。検出素子10(1),10(2),10(3)および参照素子50の詳細な構成は、これまで説明した実施の形態1〜3の場合と同様であるので説明を繰返さない。
【0143】
図23に示すように、検出素子10(1)の下部電極17(1)の一端はノードNd5に接続され、他端は従属接続された抵抗素子R1〜R3を介在して接地ノードGNDに接続される。検出素子10(2)の下部電極17(2)の一端はノードNd5に接続され、他端は従属接続された抵抗素子R4,R5を介在して接地ノードGNDに接続される。また、検出素子10(3)の下部電極17(3)の一端はノードNd5に接続され、他端は抵抗素子R6を介在して接地ノードGNDに接続される。ノードNd5と接地ノードGNDとの間には電流源31が接続される。したがって、電流源31から定電流が供給された場合に、検出素子10(1),10(2),10(3)には異なるバイアス電流が流れることになる。
【0144】
一方、検出素子10(1),10(2),10(3)の上部電極18(1),18(2),18(3)は、スイッチ71を介してノードNd1に接続される。ノードNd1は、参照素子50の上部電極58に接続される。また、参照素子50の下部電極57の一端(ノードNd3)とノードNd5との間に電圧源21が接続される。この場合、スイッチ71の切替によって、検出素子10(1),10(2),10(3)のいずれか1つと検出素子50とに対して電圧源21から定電圧が印加される。スイッチ71の切替は制御部25Dによって制御される。
【0145】
差動増幅回路23は、ノードNd1の電圧Vd1と参照電圧源24から出力された参照電圧Vrefとの差電圧を増幅して出力電圧Voutとして制御部25Dに出力する。制御部25Dは、出力電圧Voutに基づいて外部磁界Hexを検出する。外部磁界Hexの検出手順は実施の形態1と同様であるので、説明を繰返さない。
【0146】
ここで、抵抗素子R1〜R6として、既製の抵抗素子を外付けしてもよいし、基板内に抵抗素子を形成してもよい。もしくは、下部電極17の長さや幅を異なるように作製することで抵抗素子の代わりとしてもよい。なお、下部電極17の長さを長くして抵抗を高める場合には、電圧源21が接続されているノードNd5と反対側である、接地ノードGND側の下部電極17の長さを長く形成する。このほうが、素子抵抗の測定時の寄生抵抗を増大させることがないからである。
【0147】
図24は、この発明の実施の形態4による磁界検出装置4Aの動作を説明するための図である。図24の磁界検出装置4Aは、図18、図19の磁界検出装置3に対応するものであり、検出素子10A(1)〜10A(3),10B(1)〜10B(3)と参照素子50A,50Bとによってフルブリッジ回路を構成した例である。以下では、検出素子10A(1)〜10A(3)について総称する場合、検出素子10Aと記載し、検出素子10B(1)〜10B(3)について総称する場合、検出素子10Bと記載する。
【0148】
図24の磁界検出装置4Aは、図19の磁界発生部32Aに代えて並列接続された磁界発生部32A(1)〜32A(3)を含み、磁界発生部32Bに代えて並列接続された磁界発生部32B(1)〜32B(3)を含む。さらに、磁界検出装置4Aは、図19の検出素子10Aに代えて並列接続された検出素子10A(1)〜10A(3)を含み、検出素子10Bに代えて並列接続された検出素子10B(1)〜10B(3)を含む。検出素子10A(1)〜10A(3),10B(1)〜10B(3)は、それぞれ磁界発生部32A(1)〜32A(3),32B(1)〜32B(3)によって生成されたバイアス磁界Hbを受ける。
【0149】
また、検出素子10A(1)〜10A(3)の接合部の電圧は、スイッチ71Aに切替えられて差動増幅回路23の−端子に与えられる。検出素子10B(1)〜10B(3)の接合部の電圧は、スイッチ71Bに切替えられて差動増幅回路23の+端子に与えられる。スイッチ71A,71Bの切替は制御部25Eによって制御される。図24の磁界検出装置4Aのその他の構成は、図19の磁界検出装置3と同様であるので、同一または相当する部分には同一の参照符号を付して説明を繰返さない。
【0150】
図25は、図24の磁界検出装置4Aによる外部磁界Hexの検出手順を示すフローチャートである。以下、図24、図25を参照して、外部磁界Hexの検出手順について説明する。なお、図25のフローチャートは、図20のフローチャートで一部のステップを変更したものであるので、共通する部分については詳細な説明を繰返さない。
【0151】
図25のステップS201で、制御部25Eは、電流源33A,33Bによって参照素子50A,50Bの下部電極に57A,57Bに十分大きいバイアス電流Ibを流す。これによって、参照素子50A,50Bの自由層と固着層の磁化方向を反平行に固定する。
【0152】
次のステップS202で、制御部25Eは、スイッチ71A,71Bを切替えて、バイアス電流が最も大きくなる検出素子10A(3),10B(3)の下部電極にバイアス電流Ibを流す。これによって、検出素子10A,10Bの自由層と固着層の磁化方向を反平行にする。
【0153】
次のステップS203で、制御部25Eの記憶部27は、最小出力電圧Vminおよび最小測定電圧VLLを記憶する。
【0154】
次のステップS204で、制御部25Eは、電流源31A,31Bによって検出素子10A(3),10B(3)の下部電極に逆方向のバイアス電流Ibを流す。これによって、検出素子10A,10Bの自由層と固着層の磁化方向を平行にする。
【0155】
次のステップS205で、制御部25Eの記憶部27は、最大出力電圧Vmaxおよび最大測定電圧VHLを記憶する。
【0156】
次のステップS206で、磁界検出装置3に既知の外部磁界Hexが印加される。
次のステップS207Aで、制御部25Eは、スイッチ71A,71Bを切替えながら、差動増幅回路23の出力電圧Voutを取得する。そして、制御部25Eは、出力電圧Voutが最小測定電圧VLLと最大測定電圧VHLとの間になるようなスイッチ切替条件を探索する。
【0157】
次のステップS208Aで、制御部25Eの記憶部27は、ステップS207Aで探索したスイッチ切替条件をそのときの外部磁界Hexに対応付けて記憶する。さらに、記憶部27は、これらの外部磁界Hex、スイッチ切替条件のときに得られる出力電圧Voutから算出された磁界感度(Hex/Vout)を記憶する。
【0158】
以上のステップS206〜S208は、所定数の既知の外部磁界Hexについて繰返して実行される(ステップS209でNO)。所定数の既知の外部磁界Hexについての上記の測定が完了したら(ステップS209でYES)、ステップS210に進む。
【0159】
ステップS210で、磁界検出装置3に未知の外部磁界Hexが印加される。
次のステップS211Aで、制御部25Eは、スイッチ71A,71Bによって、記憶部27に記憶されたスイッチ切替条件のうちバイアス電流が最も小さい場合である検出素子10A(1),10B(1)にバイアス電流の供給を切替える。そして、そのときの差動増幅回路23の出力電圧Voutを取得する。
【0160】
次のステップS212で、制御部25Eは、取得した出力電圧Voutが最小測定電圧VLLと最大測定電圧VHLとの間の線形領域にあるか否かを判定する。出力電圧Voutが線形領域にない場合(ステップS212でNO)、ステップS213Aでスイッチを切替えて、ステップS211,S212を再度実行する。一方、出力電圧Voutが線形領域にある場合(ステップS212でYES)、ステップS214に進む。
【0161】
ステップS214では、制御部25Eの演算部26は、現在のスイッチ切替条件に対応する磁界感度を用いて、出力電圧Voutから外部磁界Hexの大きさを算出する。
【0162】
次のステップS215では、S214での外部磁界Hexの検出後に、外部磁界Hexが印加されていない状態で、制御部25Eは、電流源31A,31Bによって検出素子10A(3),10B(3)の下部電極にバイアス電流Ibを流す。これによって、検出素子10A,10Bの自由層と固着層の磁化方向を反平行にする。
【0163】
次のステップS216で、制御部25Eの記憶部27は、最小出力電圧Vminを記憶する。
【0164】
次のステップS217で、制御部25Eは、電流源31A,31Bによって検出素子10A(3),10B(3)の下部電極にバイアス電流Ibを流す。これによって、検出素子10A,10Bの自由層と固着層の磁化方向を平行にする。
【0165】
次のステップS218で、制御部25Eの記憶部27は、最大出力電圧Vmaxを記憶する。
【0166】
次のステップS219で、演算部26は、ステップS203の最小出力電圧Vmin(1)、ステップS204の最大出力電圧Vmax(1)、ステップS216の最小出力電圧Vmin(2)、およびステップS218の最大出力電圧Vmax(2)を用いて、ステップS214で算出した未知外部磁界Hexの大きさの温度補正を行なう。こうして、未知の外部磁界Hexの検出が完了する。
【0167】
以上の手順により、広い磁界範囲で、実施の形態3の場合よりもさらに良好な精度で磁界を測定することができる。また、実施の形態3の場合と同様に温度による感度の変化を補正することもできる。
【0168】
[実施の形態5]
実施の形態5の磁界検出装置5は、外部磁界Hexの基板面内成分の方向を検知する。
【0169】
図26は、この発明の実施の形態5による磁界検出装置5の構成を模式的に示す平面図である。図26の磁界検出装置5は、図18の参照素子50A,50Bに代えて検出素子10C,10Dをそれぞれ設けた点で図18の磁界検出装置3と異なる。また、図26の磁界検出装置5において、検出素子10Aの固着層の磁化ベクトルMpの方向は−X方向であり、検出素子10Bの固着層の磁化ベクトルMpの方向は+X方向である。また、図26の磁界検出装置5において、検出素子10Cの固着層の磁化ベクトルMpの方向は+Y方向であり、検出素子10Bの固着層の磁化ベクトルMpの方向は−Y方向である。制御部25Fは、これら4つの検出素子10A〜10Dの素子抵抗に基づいて外部磁界の方向を検知する。その他の磁界検出装置5の構成は、図18の磁界検出装置3の構成と同様であるので、同一または相当する部分には同一の参照符号を付して説明を繰返さない。
【0170】
図27は、図26の磁界検出装置5によって外部磁界Hexの方向を検知する手順を示したフローチャートである。
【0171】
図26、図27を参照して、ステップS301で、制御部25Fは、電流源31A,31Bによって検出素子10A,10Bの下部電極17A,17Bに十分大きいバイアス電流Ibを流す。これによって、検出素子10A,10Bの自由層と固着層の磁化方向を平行にする。また、制御部25Fは、電流源33A,33Bによって検出素子10C,10Dの下部電極17C,17Dに十分大きいバイアス電流Ibを流す。これによって、検出素子10C,10Dの自由層と固着層の磁化方向を反平行にする。
【0172】
次のステップS302で、制御部25Fの記憶部27は、差動増幅回路23の出力電圧Voutを記憶する。このときの出力電圧Voutは、最小出力電圧Vminとなっている。
【0173】
次のステップS303で、制御部25Fは、電流源31A,31Bによって検出素子10A,10Bの下部電極17A,17Bに十分大きいバイアス電流Ibを流す。これによって、検出素子10A,10Bの自由層と固着層の磁化方向を反平行にする。また、制御部25Fは、電流源33A,33Bによって検出素子10C,10Dの下部電極17C,17Dに十分大きいバイアス電流Ibを流す。これによって、検出素子10C,10Dの自由層と固着層の磁化方向を平行にする。
【0174】
次のステップS304で、制御部25Fの記憶部27は、差動増幅回路23の出力電圧Voutを記憶する。このときの出力電圧Voutは、最大出力電圧Vmaxとなっている。
【0175】
次のステップS305で、磁界検出装置5に未知の外部磁界Hexが印加される。
次のステップS306で、制御部25Fは、検出感度を考慮した所定の大きさのバイアス電流を検出素子10Aから10Dに供給したときの、差動増幅回路23の出力電圧Voutを取得して、記憶部27に記憶させる。
【0176】
次のステップS307で、外部磁界Hexの方向検知後で、外部磁界Hexが印加されていない状態で、制御部25Fは、電流源31A,31Bによって検出素子10A,10Bの下部電極17A,17Bに十分大きいバイアス電流Ibを流す。これによって、検出素子10A,10Bの自由層と固着層の磁化方向を平行にする。また、制御部25Fは、電流源33A,33Bによって検出素子10C,10Dの下部電極17C,17Dに十分大きいバイアス電流Ibを流す。これによって、検出素子10C,10Dの自由層と固着層の磁化方向を反平行にする。
【0177】
次のステップS308で、制御部25Fの記憶部27は、差動増幅回路23の出力電圧Voutを記憶する。このときの出力電圧Voutは、最小出力電圧Vminとなっている。
【0178】
次のステップS309で、制御部25Fは、電流源31A,31Bによって検出素子10A,10Bの下部電極17A,17Bに十分大きいバイアス電流Ibを流す。これによって、検出素子10A,10Bの自由層と固着層の磁化方向を反平行にする。また、制御部25Fは、電流源33A,33Bによって検出素子10C,10Dの下部電極17C,17Dに十分大きいバイアス電流Ibを流す。これによって、検出素子10C,10Dの自由層と固着層の磁化方向を平行にする。
【0179】
次のステップS310で、制御部25Fの記憶部27は、差動増幅回路23の出力電圧Voutを記憶する。このときの出力電圧Voutは、最大出力電圧Vmaxとなっている。
【0180】
次のステップS311で、演算部26は、ステップS302の最小出力電圧Vmin(1)、ステップS304の最大出力電圧Vmax(1)、ステップS308の最小出力電圧Vmin(2)、およびステップS308の最大出力電圧Vmax(2)を用いて、ステップS306で取得した出力電圧Voutの温度補正を行なう。具体的には、演算部26は、ステップS306で取得した出力電圧Voutに(Vmax(2)−Vmin(2))/(Vmax(1)−Vmin(1))を乗ずることによって、最終的な温度補正後の出力電圧Voutを求める。
【0181】
次のステップS312で、演算部26は、温度補正後の出力電圧Voutを用いて、未知の外部磁界Hexの方向を算出する。外部磁界Hexの方向を算出する原理は以下のとおりである。
【0182】
前述の(1)式によれば、検出素子10A〜10Dの抵抗値はRA,RB,RC,RDは、
RA=Rm+(ΔR/2)×cosθ
RB=Rm+(ΔR/2)×cos(θ+180°)=Rm−(ΔR/2)×cosθ
RC=Rm+(ΔR/2)×cos(θ+90°)=Rm−(ΔR/2)×sinθ
RD=Rm+(ΔR/2)×cos(θ+270°)=Rm+(ΔR/2)×sinθ
と表わされる。したがって、RmおよびΔRの値を予め求めておけば、RAおよびRCを用いて角θを算出することができる。ここで、RmおよびΔRの値は、素子抵抗の最大値と最小値を用いて計算することができる。
【0183】
以上の方法により、温度による感度の変化を補正しつつ、磁界方向を高精度に検出することができる。
【0184】
[実施の形態5の変形例]
図28は、この発明の実施の形態5の変形例による磁界検出装置5Aの構成を模式的に示す平面図である。図28の磁界検出装置5Aは、検出素子10Bの固着層の磁化ベクトルMpの方向が−X方向であり、検出素子10Dの固着層の磁化ベクトルMpの方向が+Y方向である点で、図15の磁界検出装置5と異なる。固着層の磁化ベクトルMpの方向は、基板面内の回転方向に隣接する検出素子同士が互いに直交していればよいので、図28の磁界検出装置5Aによっても、図26の磁界検出装置5と同様の作用効果を得ることができる。
【0185】
[実施の形態6]
図29は、この発明の実施の形態6による回転角センサ6の構成を模式的に示す図である。図29の回転角センサ6は、実施の形態5の磁界検出装置5を応用したものである。
【0186】
図29を参照して、回転角センサ6は、回転軸82の先端に取り付けられた永久磁石81と、基板83上に形成された検出素子83A〜83Dと、制御部84とを含む。検出素子83A〜83Dおよび制御部84が実施の形態5の磁界検出装置5に対応する。磁界検出装置5は、永久磁石81の回転によって生じる回転磁界のように、磁界の大きさが概略一定で磁界の方向が変化する場合に、磁界の印加方向を高精度に測定することができる。
【0187】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものでないと考えられるべきである。この発明の範囲は上記した説明ではなくて請求の範囲によって示され、請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0188】
1〜5 磁界検出装置、10 検出素子(TMR素子)、50 参照素子(TMR素子)、12 反強磁性層、12A 磁性層、14,54 トンネル絶縁層、13 強磁性層(固着層)、15 強磁性層(自由層)、17,57 下部電極、18,58 上部電極、20 測定部、21 電圧源、23 差動増幅回路、24 参照電圧源、25 制御部、26 演算部、27 記憶部、31,33 電流源、32,34 磁界発生部、40 基板、71 スイッチ、Hb バイアス磁界、Ib バイアス電流、Hex 外部磁界、Mf 磁化ベクトル(自由層)、Mp 磁化ベクトル(固着層)。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
検出素子を用いて外部磁界を検出する磁界検出方法であって、
前記検出素子は、前記外部磁界に応じて磁化方向が変化する第1の強磁性体膜、磁化方向が一定の第2の強磁性体膜、およびこれらの強磁性体膜の間に挟まれたトンネル絶縁膜を含むトンネル磁気抵抗効果素子であり、
前記磁界検出方法は、
前記外部磁界を印加せずに、前記第1の強磁性体膜の磁化方向を変化させる第1のバイアス磁界を印加したときの前記検出素子の第1の電気特性を測定するステップと、
前記外部磁界を印加せずに、前記第1のバイアス磁界と大きさが異なるまたは反平行の第2のバイアス磁界を印加したときの前記検出素子の第2の電気特性を測定するステップと、
前記第1および第2のバイアス磁界を印加せずに前記外部磁界を印加したときの前記検出素子の第3の電気特性を測定するステップと、
前記第1〜第3の電気特性を測定するステップの測定結果に基づいて、前記外部磁界の大きさを算出するステップとを備える、磁界検出方法。
【請求項2】
前記第1〜第3の電気特性を測定するステップでは、第3のバイアス磁界がさらに印加され、
前記外部磁界ならびに前記第1および第2のバイアス磁界を印加せずに前記第3のバイアス磁界を印加したとき、前記第1の強磁性体膜の磁化方向と前記第2の強磁性体膜の磁化方向とは直交し、
前記第1および第2のバイアス磁界は、前記外部磁界と概略平行または反平行であり、
前記第3のバイアス磁界は、前記外部磁界と概略垂直である、請求項1に記載の磁界検出方法。
【請求項3】
検出素子を用いて外部磁界を検出する磁界検出方法であって、
前記検出素子は、前記外部磁界に応じて磁化方向が変化する第1の強磁性体膜、磁化方向が一定の第2の強磁性体膜、およびこれらの強磁性体膜の間に挟まれたトンネル絶縁膜を含むトンネル磁気抵抗効果素子であり、
前記磁界検出方法は、
前記外部磁界が印加されていない状態で、前記検出素子の電気特性を測定して記憶するステップと、
前記第1の強磁性体膜の磁化方向を変化させるバイアス磁界と前記外部磁界とを共に印加したときの前記検出素子の電気特性を測定するステップとを備え、
前記測定するステップでは、測定された電気特性と前記記憶するステップで記憶された電気特性との差が所定の閾値以下になるまで、前記バイアス磁界の大きさが変更され、
さらに、前記測定するステップで測定された電気特性と前記記憶するステップで記憶された電気特性との差が所定の閾値以下になったとき、前記バイアス磁界の大きさに基づいて前記外部磁界の大きさを算出するステップとを備えた磁界検出方法。
【請求項4】
検出素子を用いて未知の外部磁界を検出する磁界検出方法であって、
前記検出素子は、前記外部磁界に応じて磁化方向が変化する第1の強磁性体膜、磁化方向が一定の第2の強磁性体膜、およびこれらの強磁性体膜の間に挟まれたトンネル絶縁膜を含むトンネル磁気抵抗効果素子であり、
前記磁界検出方法は、前記検出素子に印加するバイアス磁界の複数の設定値を、複数の既知の外部磁界にそれぞれ対応付けて記憶するステップを備え、
前記複数の設定値の各々は、前記バイアス磁界と対応する既知の外部磁界とが共に印加された状態で測定された前記検出素子の電気特性が所定の最適範囲内になるような値に設定され、
前記磁界検出方法は、さらに、前記複数の設定値のいずれかの大きさのバイアス磁界と前記未知の外部磁界とを共に印加したときの前記検出素子の電気特性を測定するステップを備え、
前記測定するステップでは、測定された前記検出素子の電気特性が前記最適範囲内になるまで前記バイアス磁界の設定値が変更され、
さらに、前記測定するステップで測定された前記検出素子の電気特性が前記最適範囲内になったときの電気特性に基づいて、前記未知の外部磁界の大きさを算出するステップを備えた磁界検出方法。
【請求項5】
前記磁界検出方法は、
前記外部磁界の検出前に前記外部磁界が印加されていない状態で、補正用バイアス磁界を印加したときの前記検出素子の電気特性を測定するステップと、
前記外部磁界の検出後に前記外部磁界が印加されていない状態で、前記補正用バイアス磁界を印加したときの前記検出素子の電気特性を測定するステップと、
前記外部磁界の検出前および検出後に前記補正用バイアス磁界に応じて測定された前記検出素子の電気特性を用いて、前記算出するステップで算出された前記未知の外部磁界の大きさを補正するステップとをさらに備える、請求項4に記載の磁界検出方法。
【請求項6】
前記補正用バイアス磁界は、前記第1の強磁性体膜の磁化方向を前記第2の強磁性体膜の磁化方向と平行にする磁界と、反平行にする磁界との両方を含む、請求項5に記載の磁界検出方法。
【請求項1】
検出素子を用いて外部磁界を検出する磁界検出方法であって、
前記検出素子は、前記外部磁界に応じて磁化方向が変化する第1の強磁性体膜、磁化方向が一定の第2の強磁性体膜、およびこれらの強磁性体膜の間に挟まれたトンネル絶縁膜を含むトンネル磁気抵抗効果素子であり、
前記磁界検出方法は、
前記外部磁界を印加せずに、前記第1の強磁性体膜の磁化方向を変化させる第1のバイアス磁界を印加したときの前記検出素子の第1の電気特性を測定するステップと、
前記外部磁界を印加せずに、前記第1のバイアス磁界と大きさが異なるまたは反平行の第2のバイアス磁界を印加したときの前記検出素子の第2の電気特性を測定するステップと、
前記第1および第2のバイアス磁界を印加せずに前記外部磁界を印加したときの前記検出素子の第3の電気特性を測定するステップと、
前記第1〜第3の電気特性を測定するステップの測定結果に基づいて、前記外部磁界の大きさを算出するステップとを備える、磁界検出方法。
【請求項2】
前記第1〜第3の電気特性を測定するステップでは、第3のバイアス磁界がさらに印加され、
前記外部磁界ならびに前記第1および第2のバイアス磁界を印加せずに前記第3のバイアス磁界を印加したとき、前記第1の強磁性体膜の磁化方向と前記第2の強磁性体膜の磁化方向とは直交し、
前記第1および第2のバイアス磁界は、前記外部磁界と概略平行または反平行であり、
前記第3のバイアス磁界は、前記外部磁界と概略垂直である、請求項1に記載の磁界検出方法。
【請求項3】
検出素子を用いて外部磁界を検出する磁界検出方法であって、
前記検出素子は、前記外部磁界に応じて磁化方向が変化する第1の強磁性体膜、磁化方向が一定の第2の強磁性体膜、およびこれらの強磁性体膜の間に挟まれたトンネル絶縁膜を含むトンネル磁気抵抗効果素子であり、
前記磁界検出方法は、
前記外部磁界が印加されていない状態で、前記検出素子の電気特性を測定して記憶するステップと、
前記第1の強磁性体膜の磁化方向を変化させるバイアス磁界と前記外部磁界とを共に印加したときの前記検出素子の電気特性を測定するステップとを備え、
前記測定するステップでは、測定された電気特性と前記記憶するステップで記憶された電気特性との差が所定の閾値以下になるまで、前記バイアス磁界の大きさが変更され、
さらに、前記測定するステップで測定された電気特性と前記記憶するステップで記憶された電気特性との差が所定の閾値以下になったとき、前記バイアス磁界の大きさに基づいて前記外部磁界の大きさを算出するステップとを備えた磁界検出方法。
【請求項4】
検出素子を用いて未知の外部磁界を検出する磁界検出方法であって、
前記検出素子は、前記外部磁界に応じて磁化方向が変化する第1の強磁性体膜、磁化方向が一定の第2の強磁性体膜、およびこれらの強磁性体膜の間に挟まれたトンネル絶縁膜を含むトンネル磁気抵抗効果素子であり、
前記磁界検出方法は、前記検出素子に印加するバイアス磁界の複数の設定値を、複数の既知の外部磁界にそれぞれ対応付けて記憶するステップを備え、
前記複数の設定値の各々は、前記バイアス磁界と対応する既知の外部磁界とが共に印加された状態で測定された前記検出素子の電気特性が所定の最適範囲内になるような値に設定され、
前記磁界検出方法は、さらに、前記複数の設定値のいずれかの大きさのバイアス磁界と前記未知の外部磁界とを共に印加したときの前記検出素子の電気特性を測定するステップを備え、
前記測定するステップでは、測定された前記検出素子の電気特性が前記最適範囲内になるまで前記バイアス磁界の設定値が変更され、
さらに、前記測定するステップで測定された前記検出素子の電気特性が前記最適範囲内になったときの電気特性に基づいて、前記未知の外部磁界の大きさを算出するステップを備えた磁界検出方法。
【請求項5】
前記磁界検出方法は、
前記外部磁界の検出前に前記外部磁界が印加されていない状態で、補正用バイアス磁界を印加したときの前記検出素子の電気特性を測定するステップと、
前記外部磁界の検出後に前記外部磁界が印加されていない状態で、前記補正用バイアス磁界を印加したときの前記検出素子の電気特性を測定するステップと、
前記外部磁界の検出前および検出後に前記補正用バイアス磁界に応じて測定された前記検出素子の電気特性を用いて、前記算出するステップで算出された前記未知の外部磁界の大きさを補正するステップとをさらに備える、請求項4に記載の磁界検出方法。
【請求項6】
前記補正用バイアス磁界は、前記第1の強磁性体膜の磁化方向を前記第2の強磁性体膜の磁化方向と平行にする磁界と、反平行にする磁界との両方を含む、請求項5に記載の磁界検出方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図28】
【図29】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
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【図26】
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【図28】
【図29】
【公開番号】特開2013−57685(P2013−57685A)
【公開日】平成25年3月28日(2013.3.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−271344(P2012−271344)
【出願日】平成24年12月12日(2012.12.12)
【分割の表示】特願2008−322653(P2008−322653)の分割
【原出願日】平成20年12月18日(2008.12.18)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年3月28日(2013.3.28)
【国際特許分類】
【出願日】平成24年12月12日(2012.12.12)
【分割の表示】特願2008−322653(P2008−322653)の分割
【原出願日】平成20年12月18日(2008.12.18)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】
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