説明

移動体の運行管理システム

【課題】無線信号が干渉する等のおそれが少ない状態で、移動体との間での無線通信を行うことを可能にしながら、移動体が走行区間の境界に至ったときに、通信対象である通信用中継装置を切り換えることを適正に行えるようにする。
【解決手段】複数の走行区間毎に無線通信を行う複数の通信用中継装置6のアンテナ部14が、無線信号を二次元方向に伝播して、無線通信可能な通信領域を表面に沿って形成する状態で出力させるシート状のアンテナ本体部15と、接続線13が接続される接続部16とを備えて構成され、アンテナ本体部15が、経路長手方向に沿って長尺状に形成され、且つ、互いに隣接する状態で経路長手方向に沿って並ぶ状態で設置され、移動体1が境界を通過する通過タイミングに至ったときに切り換え判別用条件が満たされたことが判別されるように、アンテナ本体部15における接続部16の接続位置が設定される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、移動経路に沿って経路長手方向一方側に向けて移動する移動体と、前記移動経路における複数の走行区間毎に各別に備えられ且つ前記移動体に備えさせた移動体側の通信装置との間で無線通信を行う複数の通信用中継装置と、前記複数の通信用中継装置を介して前記移動体側の通信装置との間で管理情報の通信を行うことにより前記移動体の運行管理を行う管理手段とが備えられ、前記移動体に、前記移動体側の通信装置にて受信する無線信号の受信強度に基づいて、切り換え判別用条件が満たされたことを判別すると、通信対象である通信用中継装置を次の走行区間に対応する通信用中継装置に切り換える中継装置切り換え処理を実行する制御手段が備えられている移動体の運行管理システムに関する。
【背景技術】
【0002】
この種の移動体の運行管理システムにおいて、従来では、複数の通信用中継装置の夫々が、移動体側の通信装置との間で管理情報を無線信号にて通信するためのアンテナ部を中継装置本体に一体的に備え、移動体側の通信装置と各通信用中継装置との間で行われる無線通信の一例としての電磁波信号を三次元方向に伝播させて通信を行うようになっており、移動体と通信用中継装置との間での通信を行っているときに、移動体側の通信装置にて受信する無線信号(具体的には電磁波信号)の受信強度が予め設定されている判別用閾値を下回ると、その他の通信用中継装置からの無線信号の受信強度を計測して、いずれかの通信用中継装置からの無線信号の受信強度が判別用閾値以上あれば、その通信用中継装置を通信対象として定めて、次の走行区間に対応する通信用中継装置に切り換えるようにしたものがあった(例えば、特許文献1参照。)。
【0003】
特許文献1に記載される移動体の運行管理システムは、例えば、スペクトル拡散通信方式を用いて、無線信号の一例としての電磁波信号を三次元方向に伝播させて通信を行うようにしたものであるが、このように無線信号を三次元方向に伝播させて通信を行う構成では、周囲に存在する外部機器との間で無線信号が干渉したり、あるいは、通信している情報が簡単に外部に漏洩するおそれがある等の不利があった。又、移動体は移動経路に沿って移動するが、通信用中継装置は地上側に位置固定状態で設置されるものであるから、通信用中継装置と移動体側の通信装置とは離間距離が大きくなる場合がある。そこで、それらの間での通信が良好に行われるように電磁波信号の出力を大きくする必要があり、それだけ電力消費量が多くなる等の不利な面もあった。
【0004】
ところで、最近では、無線通信方式として、無線信号を三次元方向に伝播させて通信を行うものに代えて、無線信号を二次元方向に伝播して、無線通信可能な通信領域を表面に沿って形成する状態で出力させるシート状のシート装置を備えて、このシート状のシート装置に対して無線信号を入出力するための接続線が接続され、無線通信を実行するための通信装置本体と、シート装置とが接続線にて接続されるようにしたものが提案されている(例えば、特許文献2参照。)。
【0005】
そこで、このようなシート状のシート装置をアンテナ本体部として利用して、移動体と通信用中継装置との間での通信を行うようにした移動体の運行管理システムが考えられる。
すなわち、通信用中継装置が、管理手段との間で通信線を介して通信自在な中継装置本体に接続線にて接続されるアンテナ本体部として、前記シート装置を用いて移動体との間での通信を行う構成である。そして、移動体の運行管理システムにこのような通信装置を用いる場合には、アンテナ本体部が移動体の移動経路に沿って長尺状になるように形成される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2001−42940号公報
【特許文献2】特開2006−270165号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記したようなシート状のアンテナ本体部を備えた通信装置を介して通信を行う構成では、アンテナ本体部の表面から出力される無線信号の強度がアンテナ本体部の長手方向の両側端部においても極力大きな値となるように、アンテナ本体部の長手方向中央側箇所に接続部の接続位置を設定することが考えられるが、このような構成のシート状のアンテナ本体部を利用して、移動体と通信用中継装置との間での通信を行うようにした移動体の運行管理システムでは次のような不利が想定される。
【0008】
移動車が移動経路に沿って移動して、ある1つの走行区間と次の走行区間との境界を通過するときに、通信対象としての通信用中継装置を次の走行区間に対応する通信用中継装置に切り換えるにあたり、前記切り換え判別用条件として、例えば、特許文献1に記載されるように、移動方向上手側の走行区間に対応するアンテナ本体部から通信される通信用の無線信号の受信強度が予め設定している判別用の閾値を下回り、且つ、移動方向下手側の走行区間に対応するアンテナ本体部から通信される通信用の無線信号の受信強度が判別用の閾値を越えると、前記切り換え判別用条件が満たされたものと判別するように構成したような場合、移動体が前記境界を通過したにもかかわらず、前記切り換え判別用条件が満たされたものと判別するまでの間に時間がかかり、通信対象となる新たな走行区間に対応する通信用中継装置に切り換える処理が遅れるおそれがあった。
【0009】
この点について説明を加えると、アンテナ本体部に対する接続部の接続位置が、アンテナ本体部における長手方向中央側箇所に設定されると、アンテナ本体部の長手方向端部側の箇所においては、表面から出力される無線信号の強度が長手方向中央側箇所に比べて弱くなる。図7に、本出願人が実測したアンテナ本体部から出力される無線信号(具体的には電磁波信号)を受信したときの受信強度の強度分布の実測結果を示している。ちなみに、この図では、色が濃いほど受信強度が強いことを示している。
この計測結果から判るように、無線信号はアンテナ本体部を二次元方向に伝播して表面における長手方向の略全領域から出力されるものであるが、接続部が接続される箇所の周囲では受信強度が最も強くなり、接続部の接続位置から離れるほど受信強度は弱くなっている。
【0010】
そして、移動体の運行管理システムに、このようなシート状のアンテナ本体部を用いる場合、移動体の移動経路に沿ってアンテナ本体部を経路長手方向に並べて複数備えることになるが、接続部の接続位置から離れるほど受信強度は弱くなるので、例えば、移動体が移動方向上手側の走行区間と移動方向下手側の走行区間との境界を通過するときに、その境界を通過する手前では、移動方向上手側の走行区間に対応するアンテナ本体部から通信されて移動体側の通信装置にて受信する無線信号の受信強度が徐々に小さい値に変化し、境界通過位置付近で最も小さい値になる。一方、移動体が境界を通過した後は、移動方向下手側の走行区間に対応するアンテナ本体部から通信されて移動体側の通信装置にて受信する無線信号の受信強度は、移動体が境界を通過した直後が最も小さく、その後、徐々に大きい値に変化していく。
【0011】
このように移動体が境界を通過するタイミングの前後では、いずれも無線信号の受信強度が小さい値であるから、上記したような切り換え判別用条件が満たされたものと判別するようにした場合、例えば、図9に示すように、移動体が前記境界を通過したときから、移動方向下手側の走行区間に対応するアンテナ本体部から通信されて移動体側の通信装置にて受信する無線信号の受信強度が判別用閾値以上になり前記切り換え判別用条件が満たされたものと判別するまでに時間がかかり、通信対象である通信用中継装置を次の走行区間に対応する通信用中継装置に切り換える処理が遅れるおそれがある。
【0012】
その結果、移動体が前記境界を通過したにもかかわらず前記切り換え判別用条件が満たされたものと判別するまでに時間がかかるので、移動体が境界を通過したときに、移動方向上手側の走行区間に対応する通信用中継装置との間での通信を行う状態から、移動方向下手側の走行区間に対応する通信用中継装置との間での通信を行う状態に切り換える処理が遅れて、管理手段による移動体の運行管理が適切に行えないものとなるおそれがあった。
【0013】
例えば、移動体側の制御手段は現在通信を行っている通信用中継装置との間での通信内容から、移動体が現在位置している走行区間を判別することになるが、通信用中継装置を切り換える処理が遅れると、移動体が実際には境界を越えて次の走行区間に移っているにもかかわらず、通信用中継装置を切り換える処理が遅れて、手前側の走行区間に位置していると誤判別して不適切な制御が行われる等、管理手段による移動体の運行管理が適切に行えないものとなるおそれがある。
【0014】
本発明の目的は、外部機器との間で電磁波信号が干渉したり、通信している情報が外部に漏洩する等のおそれが少なく、しかも、通信のための電力消費も少ないものに抑制した状態で、複数の通信用中継装置と移動体との間での無線通信を行うことを可能にしながら、移動体が走行区間の境界に至ったときに、通信対象である通信用中継装置を次の走行区間に対応する通信用中継装置に切り換える中継装置切り換え処理を適正に行うことが可能となる移動体の運行管理システムを提供する点にある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明に係る移動体の運行管理システムは、移動経路に沿って経路長手方向一方側に向けて移動する移動体と、前記移動経路における複数の走行区間毎に各別に備えられ且つ前記移動体に備えさせた移動体側の通信装置との間で無線通信を行う複数の通信用中継装置と、前記複数の通信用中継装置を介して前記移動体側の通信装置との間で管理情報の通信を行うことにより前記移動体の運行管理を行う管理手段とが備えられ、前記移動体に、前記移動体側の通信装置にて受信する無線信号の受信強度に基づいて、切り換え判別用条件が満たされたことを判別すると、通信対象である通信用中継装置を次の走行区間に対応する通信用中継装置に切り換える中継装置切り換え処理を実行する制御手段が備えられているものであって、
その第1特徴構成は、前記通信用中継装置が、前記管理手段との間で前記管理情報を通信自在に通信線により接続された中継装置本体と、前記中継装置本体に接続線にて接続され、前記移動体側の通信装置との間で前記管理情報を無線信号にて通信するアンテナ部とを備えて構成され、
前記アンテナ部が、前記無線信号を二次元方向に伝播して、無線通信可能な通信領域を表面に沿って形成する状態で出力させるシート状のアンテナ本体部と、前記接続線が接続される接続部とを備えて構成され、
前記アンテナ本体部が、前記経路長手方向に沿って長尺状に形成され、且つ、互いに隣接する状態で前記経路長手方向に沿って並ぶ状態で設置され、
前記移動体が移動方向上手側の走行区間と移動方向下手側の走行区間との境界を通過する境界通過タイミングに至ったときに、前記制御手段にて前記切り換え判別用条件が満たされたことが判別されるように、複数の前記アンテナ本体部の夫々における前記接続部の接続位置が設定されている点にある。
【0016】
すなわち、通信用中継装置におけるアンテナ部が、無線信号を二次元方向に伝播して、無線通信可能な通信領域を表面に沿って形成する状態で出力させるシート状のアンテナ本体部と、接続線が接続される接続部とを備えて構成される。つまり、このシート状のアンテナ本体部は、例えば、電磁波信号のような無線信号を三次元方向に伝播させて通信を行うものではなく、無線信号を二次元方向に伝播して無線通信可能な通信領域を表面に沿って形成する状態で出力させる形態で通信を行うものである。ちなみに、シート状のアンテナ本体部の一例としては、例えば、シート状の誘電体部の一方の面にメッシュ形状の導電体部を備え、かつ、誘電体部の他方の面に平面状の導電体部を備える構成等がある。
【0017】
このようなアンテナ本体部は、無線信号を無線通信可能な通信領域を表面に沿って形成する状態で出力させるものであるから、アンテナ本体部の表面に形成された通信領域から離れた位置にある外部機器との間で無線信号が干渉したり、通信している管理情報が外部に漏洩する等のおそれの少ない状態で、移動体との間での無線通信を行うことが可能となる。又、このアンテナ本体部は、無線通信可能な通信領域が表面に沿う状態で形成されるものであるから、無線信号を出力するための電力消費量は少ないもので済ませることが可能である。
【0018】
そして、アンテナ本体部に対して中継装置本体との間を接続するための接続線が接続部にて接続されるが、この接続部が接続される箇所の周囲では無線信号の受信強度が最も強くなり、接続部の接続位置から離れるほど無線信号の受信強度は弱くなることを利用して、アンテナ本体部に対する接続部の接続位置を適切な位置に設定することによって、移動体が移動方向上手側の走行区間と移動方向下手側の走行区間との境界を通過する境界通過タイミングに至ったときに、制御手段にて前記切り換え判別用条件が満たされたことが判別されるようにするのである。
【0019】
図6に、アンテナ本体部における長手方向一端側箇所に接続部の接続位置を設定した場合の、アンテナ本体部の表面から出力される無線信号を受信したときの受信強度を計測した結果を示している。この図では、色が濃いほど受信強度が強いことを示している。この計測結果から判るように、アンテナ本体部における接続部が近接する側の長手方向の一端部では、無線信号を受信したときの受信強度が他の箇所に比べて強いものとなり、長手方向の他端部では、無線信号を受信したときの受信強度が他の箇所に比べて弱いものとなる。
【0020】
そこで、移動体が境界を通過する境界通過タイミングに至ったときに、アンテナ本体部の表面から出力される無線信号を移動体側の通信装置が受信する受信強度が、判別用の設定閾値に相当する強度になるように、接続部の接続位置を設定しておくと、移動体が境界を通過する境界通過タイミングに合わせて前記切り換え判別用条件が満たされたものと判別することが可能となるのである。その結果、移動体が走行区間の境界に至ったときに、通信用中継装置の切り換えを的確に行うことが可能となる。
【0021】
従って、第1特徴構成によれば、外部機器との間で無線信号が干渉したり、通信している情報が外部に漏洩する等のおそれが少なく、しかも、通信のための電力消費量を少ないものに抑制した状態で、複数の通信用中継装置と移動体との間での無線通信を行うことを可能にしながら、移動体が走行区間の境界に至ったときに、通信対象である通信用中継装置を次の走行区間に対応する通信用中継装置に切り換える中継装置切り換え処理を適正に行うことが可能となる移動体の運行管理システムを提供できるに至った。
【0022】
本発明の第2特徴構成は、第1特徴構成において、
前記制御手段が、前記境界の移動方向上手側に位置するアンテナ部から受信する前記無線信号の受信強度が上手側判別用閾値を下回り、且つ、前記境界の移動方向下手側に位置するアンテナ部から受信する前記無線信号の受信強度が下手側判別用閾値を上回ると、前記切り換え判別用条件が満たされたと判別するように構成され、
前記境界の移動方向下手側に位置するアンテナ部、及び、前記境界の移動方向上手側に位置するアンテナ部は、前記アンテナ本体部に対する前記接続部の接続位置が前記経路長手方向の移動方向上手側箇所に設定されている点にある。
【0023】
すなわち、移動体が境界を通過する境界通過タイミングに至ったときに、制御手段は、境界の移動方向上手側に位置するアンテナ部から受信する無線信号の受信強度が上手側判別用閾値を下回り、且つ、前記境界の移動方向下手側に位置するアンテナ部から受信する前記無線信号の受信強度が下手側判別用閾値を上回ると、前記切り換え判別用条件が満たされたと判別して通信対象となる通信用中継装置を切り換えることになる。
【0024】
そして、境界の移動方向上手側に位置するアンテナ部は、アンテナ本体部に対する接続部の接続位置が経路長手方向の移動方向上手側箇所に設定されているから、移動体が移動方向上手側の走行区間を移動して境界に近付くと、移動方向上手側に位置するアンテナ部における無線信号の強度が弱くなり、境界に至るまでの手前の位置で無線信号の受信強度が上手側設定閾値を下回ることになる。
【0025】
又、境界の移動方向下手側に位置するアンテナ部は、アンテナ本体部に対する接続部の接続位置が経路長手方向の移動方向上手側箇所に設定されているから、移動体が移動方向上手側の走行区間から境界を越えて移動方向下手側の走行区間に入ると、境界の移動方向下手側に位置するアンテナ部からの無線信号を受信することになるが、この上手側アンテナ部の移動方向上手側箇所では接続部が近接していることから、無線信号を受信したときの受信強度が強いものとなる。その結果、移動体が境界を越えて移動方向下手側の走行区間に入ると、急激に無線信号を受信したときの受信強度が強くなるので、移動体が境界を通過してから時間遅れの少ない状態で前記切り換え判別用条件が満たされたものと判別できるように設定することが可能となるのである。
【0026】
従って、第2特徴構成によれば、移動体が走行区間の境界を通過するときの通過の前後での無線信号の強度の差が大きなものとなり、移動体が走行区間の境界を通過するに伴って切り換え判別用条件が満たされたか否かを的確に判別することが可能となり、通信対象となる通信用中継装置を的確に切り換えることが可能な移動体の運行管理システムを提供できるに至った。
【0027】
本発明の第3特徴構成は、第2特徴構成において、前記中継装置本体の夫々に対して前記アンテナ部が複数個ずつ備えられ、前記中継装置本体に対して備えられる複数個の前記アンテナ部のうちで、前記移動方向最下手側に位置する最下手側アンテナ部、及び、前記移動方向最上手側に位置する最上手側アンテナ部は、前記アンテナ本体部に対する前記接続部の接続位置が前記経路長手方向の移動方向上手側箇所に設定され、且つ、前記最下手側アンテナ部及び前記最上手側アンテナ部以外の他のアンテナ部は、前記アンテナ本体部に対する前記接続部の接続位置が前記経路長手方向の中央部側箇所に設定されている点にある。
【0028】
すなわち、中継装置本体の夫々に対してアンテナ部が複数個ずつ備えられ、中継装置本体に対して備えられる複数個のアンテナ部のうちで、移動方向最下手側に位置する最下手側アンテナ部、及び、移動方向最上手側に位置する最上手側アンテナ部は、前記アンテナ本体部に対する前記接続部の接続位置が前記経路長手方向の移動方向上手側箇所に設定されるので、上述したように、移動体が走行区間の境界を通過するときの通過の前後での無線信号の強度の差が大きなものとなり、移動体が走行区間の境界を通過するに伴って切り換え判別用条件が満たされたか否かを的確に判別することが可能となる。
【0029】
一方、最下手側アンテナ部及び最上手側アンテナ部以外の他のアンテナ部、すなわち、走行区間のうちで経路長手方向の中間部に位置するアンテナ部は、アンテナ本体部に対する接続部の接続位置が経路長手方向の中央部側箇所に設定されている。このようにアンテナ本体部に対する接続部の接続位置が経路長手方向の中央部側箇所に設定されると、アンテナ本体部の長手方向の両側端部における無線信号の強度を極力大きくさせた状態で無線信号を出力させることができる。
【0030】
つまり、走行区間の経路長手方向中央側の領域においては、経路長手方向両側端部において、通信対象となる通信用中継装置を切り替える必要がないので、アンテナ本体部に対する接続部の接続位置を経路長手方向の端部側に設定する必要がなく、長手方向の全領域にわたってできるだけ無線信号の強度を大きくしておくことで、移動体側の通信装置との間での通信を極力安定した状態で行うことが可能となる。
【0031】
従って、第3特徴構成によれば、通信対象となる通信用中継装置を切り替える必要がない走行区間においては、アンテナ本体部から出力される無線信号の出力を、アンテナ本体部の経路長手方向の全領域にわたって極力大きくさせた状態で、移動体側の通信装置との間での通信を極力安定した状態で行うことが可能となる移動体の運行管理システムを提供できるに至った。
【0032】
本発明の第4特徴構成は、第1特徴構成〜第3特徴構成のいずれかにおいて、前記制御手段が、前記管理手段から通信される管理情報に基づいて前記移動体の運転を制御し、且つ、前記中継装置切り換え処理を実行すると、そのことを前記管理手段に通信するように構成されている点にある。
【0033】
すなわち、制御手段は、管理手段から通信用中継装置を介して通信される管理情報に基づいて移動体の運転を制御するが、移動体が走行区間の境界に至ったときに通信対象となる通信用中継装置の切り換えを適正に行うことが可能となるものであり、しかも、制御手段は、中継装置切り換え処理を実行すると、そのことを管理手段に通信するように構成されているから、管理手段は、移動体がどの走行区間を移動中であるかを判別して、走行区間に適した状態で移動体の運行管理を良好に行うことが可能となる。
【0034】
従って、第4特徴構成によれば、移動体が境界を通過したときに、通信用中継装置の切り換えが適正に行われて、管理手段による管理情報に基づいて移動体の運行管理を良好に行うことが可能となる移動体の運行管理システムを提供できるに至った。
【0035】
本発明の第5特徴構成は、第1特徴構成〜第4特徴構成のいずれかにおいて、前記管理手段が、複数の走行区間毎に各別に設定されている管理条件にて前記移動体の運行管理を行うように構成されている点にある。
【0036】
すなわち、管理手段は、複数の走行区間毎に各別に設定されている管理条件にて移動体の運行管理を行うことになるが、前記管理条件としては、例えば、直進経路に対応する走行区間であれば移動速度を高速に設定し、曲線経路に対応する走行区間であれば移動速度を低速に設定する等、種々の管理条件がある。
【0037】
そして、移動方向上手側の走行区間とそれに隣接する移動方向下手側の走行区間とが互いに管理条件が異なっていれば、その境界を通過する前の走行区間と通過した後の走行区間とでは、制御手段による移動体の制御内容が大きく異なることがあるが、上記したように移動体が境界を通過したときに通信用中継装置の切り換えを的確に行うことが可能となるものであるから、各走行区間における移動体の運行管理を適正に行うことが可能となるのである。
【0038】
従って、移動体が境界を通過する前の走行区間と通過した後の走行区間とで、制御手段による移動体の制御内容が大きく異なることがあっても、各走行区間における移動体の運行管理を適正に行うことが可能となる移動体の運行管理システムを提供できるに至った。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】移動経路の平面図
【図2】運行管理システムの概略構成を示すブロック図
【図3】搬送台車の概略構成を示すブロック図
【図4】アンテナ本体部を示す図
【図5】カプラの一部切欠斜視図
【図6】受信強度の分布の計測結果を示す図
【図7】受信強度の分布の計測結果を示す図
【図8】走行区間の境界付近のカプラの接続状態と受信強度の変化との関係を示す図
【図9】走行区間の境界付近のカプラの接続状態と受信強度の変化との関係を示す図
【図10】別実施形態のアンテナ部とカプラとの接続状態を示す図
【図11】別実施形態のアンテナ部とカプラとの接続状態を示す図
【発明を実施するための形態】
【0040】
以下、本発明に係る移動体の運行管理システムの実施形態を移動体としての搬送台車1に適用した場合について図面に基づいて説明する。
図1に示すように、物品を載置した状態で移動走行可能な移動体の一例として搬送台車1が、ループ状に設けられた走行レール2にて移動自在に案内される状態で備えられ、この搬送台車1は、走行レール2にて形成される移動経路3に沿って経路長手方向一方側に向けて移動するように構成されている。又、搬送台車1は、移動経路3の途中に設けられたステーション4にて物品の搬出入作業を行うように構成されている。
【0041】
次に、搬送台車1の運行状態を管理するための運行管理システムについて説明する。
搬送台車1が移動する移動経路3は、図1に示すように複数の走行区間(A〜L)が予め区画して設定されている。そして、図2に示すように、移動経路3における複数の走行区間毎に各別に備えられ且つ搬送台車1に備えさせた移動体側の通信装置としての台車側通信部5との間で無線通信を行う複数の通信用中継装置6と、複数の通信用中継装置6を介して台車側通信部5との間で管理情報の通信を行うことにより搬送台車1の運行管理を行う管理手段としての管理用コンピュータ7とが備えられている。
【0042】
管理用コンピュータ7と複数の通信用中継装置6の夫々との間は通信線8を介して接続されて有線LANとして構成されている。具体的には、標準通信規格〔IEEE802.3(100BASE−TX)、又は、IEEE802u(10BASE−T)〕に基づいて、管理用コンピュータ7が、複数の通信用中継装置6毎に予め付与されている識別コードに基づいて複数の通信用中継装置6のうちのいずれの通信用中継装置6であるかを認識することが可能な状態で、管理用コンピュータ7と複数の通信用中継装置6とが互いに情報を通信可能に構成されている。
【0043】
一方、搬送台車1には、図3に示すように、上記したように通信用中継装置6との間での通信を行うための台車側通信部5、走行レール2に沿って移動走行するための走行駆動部9、ステーション4にて物品の搬出入作業を行う物品搬送部10、及び、管理用コンピュータ7から通信される管理情報に基づいて搬送台車1の運行状態を制御し、且つ、台車側通信部5にて受信する無線信号の受信強度に基づいて、切り換え判別用条件が満たされたことを判別すると、通信対象とする通信用中継装置6を次の走行区間に対応する通信用中継装置6に切り換える中継装置切り換え処理を実行する制御手段としての制御部11が備えられている。
【0044】
前記通信用中継装置6は、管理用コンピュータ7との間で管理情報を通信自在に通信線8により接続された中継装置本体12と、この中継装置本体12に接続線13にて接続され、台車側通信部5との間で管理情報を無線信号にて通信するアンテナ部14とを備えて構成され、アンテナ部14が、無線信号を二次元方向に伝播して、無線通信可能な通信領域を表面に沿って形成する状態で出力させるシート状のアンテナ本体部15と、接続線13が接続される接続部としてのカプラ16とを備えて構成されている。
ちなみに、無線信号により通信を行うときの通信形式としては、一般的な無線LANと同様に、標準通信規格(IEEE802.11a)に基いて行うようになっている。
【0045】
次に、前記アンテナ本体部15について説明する。
前記アンテナ本体部15は、図4に示すように、メッシュ状に形成された導電体からなるメッシュ状の導電体部17と、シート状に形成された誘電体からなるシート状の誘電体部18と、シート状に形成された導電体からなるシート状の導電体部19とを備え、且つ、メッシュ状の導電体部17の表面側及びシート状の導電体部19の裏面側に夫々、絶縁体からなるシート状の絶縁体部20、21を備えて、それらを積層状態で互いに接着させて全体としてシート状に形成されている。
【0046】
前記シート状の誘電体部18は、信号の伝送に用いる周波数帯での誘電率が空気よりも大きく、且つ、透磁率は空気とほぼ等しく、電磁波の伝達速度が空気よりも小さい誘電体を用いる。つまり、無線信号の一例としての電磁波の速度は、透磁率と誘電率の積で決まるので、誘電率が空気より大きく、透磁率が空気と等しいシート状の誘電体部の内部を伝播する電磁波の速度が、空気中を伝播する電磁波の速度よりも小さいものになる。尚、メッシュ状の導電体部17は、図4に示すように、多数の開口22が形成されている。
【0047】
次に、前記カプラ16の構成について説明する。
図5に示すように、前記カプラ16は、同心円状に配置される内部電極23と外部電極24との間に、中間誘電体部25を備えて構成され、接続線13と接続されて中継装置本体12との間で信号の通信を行うことができるように構成されている。内部電極23と外部電極24とは夫々金属材にて構成され、中間誘電体部25はシート状の誘電体部の材質と同じ材質にて構成されている。
【0048】
説明を加えると、前記内部電極23は、中心軸23aの先端部に円板状の板体23bが一体的に固定されており、その円板状の板体23bの底面は、シート状のアンテナ本体部15の表面に平行となるように設けられている。中間誘電体部25は、内部電極23の露出面以外をすべて覆うように、中心軸23aを覆う軸被覆部25aと円板状の板体23bを覆う円板状被覆部25bとを備えて構成されている。さらに、中間誘電体部25の周囲を覆うように外部電極24が配置され、この外部電極24は、筒軸部24a、その筒軸部24aの先端部に一体的に固定された円板状部24b、その円板状部24bの周縁部から下方に延びる円筒状部24cにて構成されている。そして、例えば、同軸ケーブル等からなる接続線13の各接続端子が、内部電極23の中心軸23a及び外部電極24の筒軸部24aの上端部に夫々接続されている。
【0049】
このような構成のカプラ16に対して、接続線13を通して無線信号に対応する信号が印加されると、磁界が底面に平行となる状態で無線信号の一例としての電磁波がカプラ16の底面に沿って放射状に広がる状態で放出される。このように放出された電磁波は、カプラ16が接続されるシート状のアンテナ本体部15に送出される。カプラ16からシート状の誘電体部18の正面に電磁波を送出すると、この電磁波に起因する電磁場はシート状の誘電体部18の表面近くにのみ形成される。これを「エバネッセント波」という。エバネッセント波は、シート状の誘電体部18の正面に垂直な方向には指数関数的に減衰していくことになり、有意な電磁場は、表面の近傍以外には形成されない。
【0050】
説明を加えると、カプラ16からシート状の誘電体部18に送出された電磁波は、このシート状の誘電体部18の内部を二次元方向、すなわち、同心円状に伝播していくが、伝播していく途中でメッシュ状の導電体部17の開口22を通して表面に染み出していくのである。そのとき、上記したように、シート状の誘電体部18の正面に垂直な方向には指数関数的に減衰していくことになり、有意な電磁場は、表面の近傍以外には形成されないのである。
【0051】
従って、シート状のアンテナ本体部15は、無線信号を二次元方向に伝播して、無線通信可能な通信領域を表面に沿って形成する状態で出力させることになる。
【0052】
又、カプラ16から出力された電磁波がシート状のアンテナ本体部15を伝播していくのとは逆に、シート状のアンテナ本体部15に電磁波が存在する場合には、カプラ16によって電磁波を検出して接続線13を通して中継装置本体12側に向けて伝送することができる。
【0053】
そして、図2に示すように、前記シート状のアンテナ本体部15が、移動経路3の経路長手方向に沿って長尺状に形成され、且つ、互いに隣接する状態で経路長手方向に沿って並ぶ状態で設置されている。
又、搬送台車1には、移動経路3に沿って移動するときに、シート状のアンテナ本体部15の表面近くに形成されている電磁場における電磁波を受信することが可能な位置にアンテナ5aが備えられ、そのアンテナ5aを介して台車側通信部5にて電磁波を受信することができるように構成されている。そして、この電磁波は、管理用コンピュータ7から送信される管理情報等が重畳されており、情報伝送用の無線信号を構成することになる。
【0054】
従って、搬送台車1が移動経路3に沿って移動しているときに、移動経路3のどの位置にあっても、アンテナ5aにより無線信号を受信することができるのであり、管理用コンピュータ7の管理情報が、通信線8を介して通信対象となる通信用中継装置6の中継装置本体12に伝送され、さらに、接続線13及びカプラ16を介してシート状のアンテナ本体部15に無線信号として伝送される。そして、搬送台車1側では、シート状のアンテナ本体部15から出力される無線信号を、アンテナ5aを介して台車側通信部5にて受信され、制御部11に伝送されることになる。そして、制御部11は、無線信号にて管理用コンピュータ7から伝送される管理情報に基づいて搬送台車1の運行状態を制御することができる。
【0055】
そして、管理用コンピュータ7は、複数の走行区間毎に各別に設定されている管理条件にて搬送台車1の運行管理を行うように構成されている。つまり、搬送台車1の運行状態は、複数の走行区間毎に各別に、管理用コンピュータ7から伝送される管理情報に基づいて制御部11によって制御されることになる。
【0056】
複数の走行区間毎に各別に設定されている管理条件の一例について説明を加えると、例えば、図1に示す複数の走行区間のうち、円弧状の経路になる走行区間(E、F、K、L)では、遠心力による姿勢変化を防止するために、搬送台車1を設定速度よりも低速の曲線用設定速度で移動させる。直進状の経路であって搬送台車1を停止させる必要がない走行区間(A、B、G、H)では、搬送台車1を設定速度より高速の直進用設定速度で移動させる。物品搬出入用のステーション4が設けられる走行区間(C、I)では、それよりも移動経路3手前側の高速用の走行区間(B,H)から直進用設定速度で移動してくる搬送台車1を減速させてステーション4にて停止させる。又、ステーション4が備えられる走行区間の次の走行区間(D、J)では、停止状態から徐々に速度を上げて曲線用設定速度まで増速させる。
【0057】
又、制御部11は、移動方向上手側の通信用中継装置6との間での通信における台車側通信部5にて受信する無線信号の受信強度が上手側判別用閾値を下回り、且つ、移動方向下手側の通信用中継装置6との間での通信における台車側通信部5にて受信する無線信号の受信強度が下手側判別用閾値を越えると、切り換え判別用条件が満たされたと判別して、通信対象である通信用中継装置6を次の走行区間に対応する通信用中継装置6に切り換える中継装置切り換え処理を実行するように構成されている。
【0058】
そして、制御部11は、中継装置切り換え処理を実行すると、そのことを管理用コンピュータ7に通信するように構成されている。その結果、管理用コンピュータ7は、搬送台車1が通信対象である通信用中継装置6を切り換える処理を適正に実行したことを確認することができ、以後の通信を適正に行うことができる。すなわち、管理用コンピュータ7は、搬送台車1がどの走行区間を移動中であるかを判別して、走行区間に適した状態で搬送台車1の運行管理を良好に行うことが可能となる。
【0059】
図2に示すように、中継装置本体12の夫々に対してアンテナ部14が複数個ずつ(具体的には4個ずつ)備えられ、中継装置本体12からは、それに内装される分配器26にて同一の信号が4個に分岐された状態で(4個)のアンテナ部14に伝えられるよう構成されている。又、中継装置本体12に対して備えられる複数(4個)のアンテナ部14のうちで、移動方向最下手側に位置する最下手側アンテナ部14A、及び、移動方向最上手側に位置する最上手側アンテナ部14Bは、アンテナ本体部15に対するカプラ16の接続位置が経路長手方向の移動方向上手側箇所に設定されている。一方、中継装置本体12に対して備えられる複数個のアンテナ部14のうちで、最下手側アンテナ部14A及び最上手側アンテナ部14B以外の他のアンテナ部14は、アンテナ本体部15に対するカプラ16の接続位置が経路長手方向の中央部側箇所に設定されている。
【0060】
そして、図6に、アンテナ本体部15に対するカプラ16の接続位置が経路長手方向の一端側箇所に設定されている場合における、アンテナ本体部15から出力される無線信号を受信したときの受信強度の強度分布の実測結果を示している。この図では、色が濃いほど受信強度が強いことを示している。そして、この図から判るように、アンテナ本体部15におけるカプラ16が近接する側の長手方向の一端部では、無線信号を受信したときの受信強度が最も大きくなり、カプラ16の接続位置から離れるほど受信強度は小さくなるから、長手方向の他端部では受信強度が最も小さくなる。
【0061】
図7に、アンテナ本体部15に対するカプラ16の接続位置が経路長手方向の中央部側箇所に設定されている場合における、アンテナ本体部15から出力される無線信号を受信したときの受信強度の強度分布の実測結果を示している。この図では、色が濃いほど受信強度が強いことを示している。そして、この図から判るように、無線信号は、カプラ16が接続される経路長手方向の中央部側箇所の周囲では受信強度が最も大きくなり、カプラ16の接続位置から離れるほど受信強度は小さくなるから、アンテナ本体部15の長手方向両側端部付近では最も受信強度は小さくなる。
【0062】
搬送台車1が移動経路3に沿って移動すると、複数の走行区間を順次通過することになる。その際、台車側通信部5が、移動経路3の経路長手方向に沿って並ぶ状態で設置されている複数のアンテナ部14からの無線信号を受信して、管理用コンピュータ7から伝送される管理情報を受信することになる。
【0063】
次に、搬送台車1が移動方向上手側の走行区間の一例としての走行区間Aから境界を越えて移動方向下手側の走行区間の一例としての走行区間Bに移動する場合における制御部11の中継装置切り換え処理について具体的に説明する。
【0064】
搬送台車1が走行区間Aを移動して次の走行区間Bとの境界に近付くと、台車側通信部5は、走行区間Aに対応して備えられる4個のアンテナ部14のうち、移動方向最下手側に位置する最下手側アンテナ部14Aにおける無線信号をアンテナ5aを介して台車側通信部5にて受信することになる。この最下手側アンテナ部14Aは、アンテナ本体部15に対するカプラ16の接続位置が経路長手方向の移動方向上手側箇所に設定されているから、移動方向下手側ほど無線信号の強度が徐々に小さいものになる。
【0065】
その結果、搬送台車1が走行区間Aと走行区間Bとの境界に至るまでの手前の位置で、台車側通信部5にて受信する無線信号の受信強度が予め設定されている上手側設定閾値を下回ることになる。制御部11は、台車側通信部5にて受信する無線信号の受信強度が上手側設定閾値を下回ると、走行区間A以外の他の走行区間に対応する通信用中継装置6についての無線信号を探す処理を開始する。
【0066】
そして、搬送台車1が走行区間Aから境界を越えて走行区間Bに入ると、台車側通信部5は、走行区間Bに対応して備えられる通信用中継装置6からの無線信号、具体的には、その通信用中継装置6における4個のアンテナ部14のうち最上手側アンテナ部14Bからの無線信号を受信することになる。この最上手側アンテナ部14Bは、アンテナ本体部15に対するカプラ16の接続位置が経路長手方向の移動方向上手側箇所に設定されているから、境界を通過した直後の箇所において無線信号の強度が最も大きくなり、無線信号の強度は移動方向下手側ほど小さいものになる。
【0067】
その結果、図8に示すように、搬送台車1が境界を越えて移動方向下手側の走行区間に入ると、直ちに、台車側通信部5にて受信する走行区間Bに対応して備えられる通信用中継装置6からの無線信号の受信強度が、予め設定されている下手側判別用閾値Psを上回ることになる。そして、制御部11は、台車側通信部5にて受信する走行区間Bに対応して備えられる通信用中継装置6からの無線信号の受信強度が下手側判別用閾値Psを上回ると、切り換え判別用条件が満たされたものと判別して、通信対象である通信用中継装置6を走行区間Aに対応する通信用中継装置6から走行区間Bに対応する通信用中継装置6に切り換えるのである。つまり、搬送台車1が境界を越えて移動方向下手側の走行区間に入ると、時間遅れの少ない状態で制御部11により切り換え判別用条件が満たされたものと判別することができる。
【0068】
従って、搬送台車1が境界を通過したときに、通信用中継装置6の切り換えが適正に行われるから、管理用コンピュータ7が、搬送台車1がどの走行区間を移動中であるかを時間遅れの少ない状態で適切に判別することが可能となり、管理用コンピュータ7による管理情報に基づいて搬送台車1の運行管理を良好に行うことが可能となる。
【0069】
尚、図示はしていないが、上手側判別用閾値は下手側判別用閾値Psよりも小さい値になるように設定されており、ノイズによる誤動作を防止して、移動方向上手側の走行区間に対応して備えられる通信用中継装置6からの無線信号の受信強度が小さくなり、且つ、移動方向下手側の走行区間に対応して備えられる通信用中継装置6からの無線信号の受信強度が大きくなり、搬送台車1が走行区間の境界を越えたことを確実に判別することができるようにしている。
【0070】
〔別実施形態〕
以下、別実施形態を説明する。
【0071】
(1)上記実施形態では、中継装置本体12に対してアンテナ部14が4個備えられ、中継装置本体12に対して備えられる4個のアンテナ部14のうちで、移動方向最下手側に位置する最下手側アンテナ部14A、及び、移動方向最上手側に位置する最上手側アンテナ部14Bは、アンテナ本体部15に対するカプラ16の接続位置が経路長手方向の移動方向上手側箇所に設定され、且つ、最下手側アンテナ部14A及び最上手側アンテナ部14B以外の他のアンテナ部14は、アンテナ本体部15に対するカプラ16の接続位置が経路長手方向の中央部側箇所に設定されているものを例示したが、このような構成に代えて、次のように構成するものでもよい。
【0072】
図10に示すように、中継装置本体12に対して備えられる複数個のアンテナ部14の全てのものが、アンテナ本体部15に対するカプラ16の接続位置が経路長手方向の移動方向上手側箇所に設定される構成としてもよい。
【0073】
又、中継装置本体12に対してアンテナ部14が複数個ずつ備えられる構成として、中継装置本体12に対してアンテナ部が2個又は3個ずつ備えられる構成としたり、あるいは、中継装置本体12に対して5個以上のアンテナ部を備える構成としてもよい。
【0074】
さらに、中継装置本体12に対してアンテナ部14が複数個ずつ備えられる構成に代えて、図11に示すように、走行区間毎に備えられる中継装置本体12に対してアンテナ部14が1個ずつ備えられる構成としてもよい。
【0075】
(2)上記実施形態では、境界の移動方向上手側に位置するアンテナ部から受信する無線信号の受信強度が上手側判別用閾値を下回り、且つ、境界の移動方向下手側に位置するアンテナ部から受信する無線信号の受信強度が上手側判別用閾値よりも大きい下手側判別用閾値を上回ると、切り換え判別用条件が満たされたと判別するように構成したが、前記上手側判別用閾値と前記下手側判別用閾値とを同じ値に設定するようにしてもよい。
又、移動方向下手側の通信用中継装置との間での通信における無線信号の受信強度が、移動方向上手側の通信用中継装置との間での通信における無線信号の受信強度に対して設定量以上大きな値になると、切り換え判別用条件が満たされたと判別するように構成する等、通信対象である通信用中継装置を切り換えるための切り換え判別用条件としては、種々の条件を用いることができる。
【0076】
(3)上記実施形態では、移動体としての搬送台車1が1本のループ状の移動経路3に沿って移動する構成としたが、例えば、複数の経路が合流箇所で合流して1本の経路になったり、1本の経路が途中で複数の経路に分岐するようにして移動経路3が複数備えられるような構成としてもよい。そして、このような構成においては、合流箇所の移動方向上手前箇所に相当する走行区間と、合流箇所の移動方向下手側箇所に相当する走行区間との夫々において、搬送台車1の運行状態を異ならせる形態で制御を行うようにするものでもよい。
【0077】
(4)上記実施形態では、移動体として、ステーションとの間で物品の移載を行う搬送台車を例示したが、本発明は、例えば、自動倉庫等に備えられた収納棚の物品収納部との間で物品の移載を行うスタッカークレーンにも適用できる。
【符号の説明】
【0078】
1 移動体
3 移動経路
5 移動体側の通信装置
6 通信用中継装置
7 管理手段
8 通信線
11 制御手段
13 接続線
14 アンテナ部
15 アンテナ本体部
16 接続部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
移動経路に沿って経路長手方向一方側に向けて移動する移動体と、
前記移動経路における複数の走行区間毎に各別に備えられ且つ前記移動体に備えさせた移動体側の通信装置との間で無線通信を行う複数の通信用中継装置と、
前記複数の通信用中継装置を介して前記移動体側の通信装置との間で管理情報の通信を行うことにより前記移動体の運行管理を行う管理手段とが備えられ、
前記移動体に、前記移動体側の通信装置にて受信する無線信号の受信強度に基づいて、切り換え判別用条件が満たされたことを判別すると、通信対象である通信用中継装置を次の走行区間に対応する通信用中継装置に切り換える中継装置切り換え処理を実行する制御手段が備えられている移動体の運行管理システムであって、
前記通信用中継装置が、前記管理手段との間で前記管理情報を通信自在に通信線により接続された中継装置本体と、前記中継装置本体に接続線にて接続され、前記移動体側の通信装置との間で前記管理情報を無線信号にて通信するアンテナ部とを備えて構成され、
前記アンテナ部が、前記無線信号を二次元方向に伝播して、無線通信可能な通信領域を表面に沿って形成する状態で出力させるシート状のアンテナ本体部と、前記接続線が接続される接続部とを備えて構成され、
前記アンテナ本体部が、前記経路長手方向に沿って長尺状に形成され、且つ、互いに隣接する状態で前記経路長手方向に沿って並ぶ状態で設置され、
前記移動体が移動方向上手側の走行区間と移動方向下手側の走行区間との境界を通過する境界通過タイミングに至ったときに、前記制御手段にて前記切り換え判別用条件が満たされたことが判別されるように、複数の前記アンテナ本体部の夫々における前記接続部の接続位置が設定されている移動体の運行管理システム。
【請求項2】
前記制御手段が、
前記境界の移動方向上手側に位置するアンテナ部から受信する前記無線信号の受信強度が上手側判別用閾値を下回り、且つ、前記境界の移動方向下手側に位置するアンテナ部から受信する前記無線信号の受信強度が下手側判別用閾値を上回ると、前記切り換え判別用条件が満たされたと判別するように構成され、
前記境界の移動方向下手側に位置するアンテナ部、及び、前記境界の移動方向上手側に位置するアンテナ部は、前記アンテナ本体部に対する前記接続部の接続位置が前記経路長手方向の移動方向上手側箇所に設定されている請求項1記載の移動体の運行管理システム。
【請求項3】
前記中継装置本体の夫々に対して前記アンテナ部が複数個ずつ備えられ、
前記中継装置本体に対して備えられる複数個の前記アンテナ部のうちで、前記移動方向最下手側に位置する最下手側アンテナ部、及び、前記移動方向最上手側に位置する最上手側アンテナ部は、前記アンテナ本体部に対する前記接続部の接続位置が前記経路長手方向の移動方向上手側箇所に設定され、且つ、前記最下手側アンテナ部及び前記最上手側アンテナ部以外の他のアンテナ部は、前記アンテナ本体部に対する前記接続部の接続位置が前記経路長手方向の中央部側箇所に設定されている請求項2記載の移動体の運行管理システム。
【請求項4】
前記制御手段が、前記管理手段から通信される管理情報に基づいて前記移動体の運転を制御し、且つ、前記中継装置切り換え処理を実行すると、そのことを前記管理手段に通信するように構成されている請求項1〜3のいずれか1項に記載の移動体の運行管理システム。
【請求項5】
前記管理手段が、複数の走行区間毎に各別に設定されている管理条件にて前記移動体の運行管理を行うように構成されている請求項1〜4のいずれか1項に記載の移動体の運行管理システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2010−262595(P2010−262595A)
【公開日】平成22年11月18日(2010.11.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−114839(P2009−114839)
【出願日】平成21年5月11日(2009.5.11)
【出願人】(000003643)株式会社ダイフク (1,209)
【Fターム(参考)】