説明

積層化高融点半田層およびその形成方法、および半導体装置

【課題】プロセス温度の低温化とプロセス時間の短縮化可能な積層化高融点半田層およびその形成方法、およびこの積層化高融点半田層を適用した半導体装置を提供する。
【解決手段】低融点メタル薄膜層81と、低融点メタル薄膜層81の表面および裏面に配置された高融点メタル薄膜層82とを有する3層構造を複数積層化した積層化構造80と、積層化構造80の表面に配置された第1高融点メタル層1aと、積層化構造80の裏面に配置された第2高融点メタル層1bとを備え、低融点メタル薄膜層81と高融点メタル薄膜層82、積層化構造80と第1高融点メタル層1aおよび第2高融点メタル層1bは、液相拡散接合によって互いに合金化された積層化高融点半田層5、およびこの積層化高融点半田層5を適用する半導体装置10。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層化高融点半田層およびその形成方法、および半導体装置に係り、特に、液相拡散(TLP:Transient Liquid Phase)接合により形成した積層化高融点半田層およびその形成方法、および半導体装置に関する。
【背景技術】
【0002】
現在多くの研究機関において、シリコンカーバイド(SiC:Silicon Carbide)デバイスの研究開発が行われている。SiCデバイスの特徴として、低オン抵抗、高速スイッチングおよび高温動作などを挙げることができる。
【0003】
従来、半導体パワーモジュールの分野で使用されている絶縁ゲートバイポーラトランジスタ(IGBT:Insulated Gate Bipolar Transistor)などのSiデバイスでは、動作可能な温度範囲が150℃程度までであるため、従来のSn−Ag系などの低融点半田を使用しても駆動することが可能であった。
【0004】
しかしながら、SiCデバイスでは、理論的に、約400℃まで動作可能であり、従来の低融点半田を使用する場合、SiCデバイスを高温で駆動すると、低融点半田による結合部が溶融し、電極間のショート、SiCデバイスとベースプレート間の剥離などを生じ、SiCデバイスの信頼性を損なうものとなっていた。
【0005】
このため、SiCデバイスを高温で駆動することができず、SiCデバイスの特徴を最大限に生かすことができなかった。
【0006】
SiCデバイスの相互接続方法および低熱抵抗パッケージについては、既に開示されている(例えば、特許文献1および特許文献2参照。)。特許文献1および特許文献2においては、SiCデバイスを収容するパッケージの形成方法が開示されており、SiCデバイスは、他の部品若しくは導電性表面に対して、TLP接合技術を用いて結合されている。
【0007】
ここで開示されているTLP技術は、同時に形成された3種若しくは4種の導電性金属の混晶を用いて、高温溶融点結合を形成することで、SiCデバイスを結合する技術である。結果として、3種若しくは4種の金属材料のTLP結合を用いるため、導電性金属の混晶の構成材料が複雑である。
【0008】
一方、Snおよび/又はPbを含んでなり、融点が比較的低い、例えば、430℃以下の複合はんだ物品については、既に開示されている(例えば、特許文献3参照。)。特許文献3においては、半田合金が基本半田より小さい液相と固相の温度差を有することを特徴とする。
【0009】
さらに、ウエハレベルのソルダ・トランスファ技術を用いた金属トランスファMEMSパッケージについても、既に開示されている(例えば、非特許文献3参照。)。非特許文献3においては、相対的に薄いNi−Sn層を用いて、デバイスウェハとパッケージキャップとをTLP技術により、結合している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】国際公開第2006/074165号
【特許文献2】米国特許出願公開第2006/0151871号明細書
【特許文献3】特表平04−503480号
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】ワレン シー・ウエルシュ3世、ジュンセオク チャエ、カーリル ナジャフィ著「ウエハレベルのソルダ・トランスファ技術を用いた金属トランスファMEMSパッケージ」、米国電気電子協会 トランザクション オン アドバンスド パッケージング,28巻、ナンバー4、2005年11月、643−649ページ(Warren C. Welch, III, Junseok Chae, and Khalil Najafi, “Transfer of Metal MEMS Packages Using a Wafer-Level Solder Transfer Technique”, IEEE TRANSACTION ON ADVANCED PACKAGING, VOL, 28, NO.4, NOVEMBER 2005, pp. 643-649)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
現在Pbフリーの要求を満たすために、一般的には、低融点半田であるSn−Ag半田などが使用されている。しかし上記で述べたように、低融点半田では、最大でも230℃程度と融解温度が低く、SiCのような高温駆動が可能なデバイスでは使用することができない。
【0013】
本発明者らは、低融点の半田を融解させ、高融点の半田に拡散させることで高融点合金を得るという方法を見出した。すなわち、本発明者らは、2種の金属材料のみのTLP接合を用い、半田合金が基本半田より大きい液相と固相の温度差を有することを特徴とし、かつ相対的に厚い半田を利用し、低融点メタル層の融解温度以上の融解温度を有する高融点半田層の形成方法を見出した。
【0014】
さらに、本発明者らは、高融点半田層を積層化形成することで、プロセス温度の低温化とプロセス時間の短縮化を図ることができることを見出した。
【0015】
本発明の目的は、プロセス温度の低温化とプロセス時間の短縮化可能な積層化高融点半田層およびその形成方法を提供することにある。
【0016】
また、本発明の目的は、この積層化高融点半田層を適用した半導体装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記目的を達成するための本発明の一態様によれば、低融点メタル薄膜層と、前記低融点メタル薄膜層の表面および裏面に配置された高融点メタル薄膜層とを有する3層構造を複数積層化した積層化構造と、前記積層化構造の表面に配置された第1高融点メタル層と、前記積層化構造の裏面に配置された第2高融点メタル層とを備え、前記低融点メタル薄膜層と前記高融点メタル薄膜層、前記積層化構造と前記第1高融点メタル層および前記第2高融点メタル層は、液相拡散接合によって互いに合金化された積層化高融点半田層が提供される。
【0018】
本発明の他の態様によれば、絶縁基板と、前記絶縁基板上に配置された第1伝導用メタル層と、前記第1伝導用メタル層上に配置された第1積層化高融点半田層と、前記第1積層化高融点半田層上に配置された半導体デバイスとを備え、前記第1積層化高融点半田層は、液相拡散接合によって形成される半導体装置が提供される。
【0019】
本発明の他の態様によれば、絶縁基板と、前記絶縁基板上に配置された第2伝導用メタル層と、前記第2伝導用メタル層上に配置された第2積層化高融点半田層と、前記第2積層化高融点半田層上に配置されたベースプレートとを備え、前記第2積層化高融点半田層は、液相拡散接合によって形成された半導体装置が提供される。
【0020】
本発明の他の態様によれば、低融点メタル薄膜層と、前記低融点メタル薄膜層の表面および裏面に配置された高融点メタル薄膜層とを有する3層構造を複数積層化した積層化構造と、前記積層化構造の表面に配置された第1高融点メタル層と、前記積層化構造の裏面に配置された第2高融点メタル層とを平坦化する工程と、前記低融点メタル層の融解温度以上に加熱して、前記積層化構造を前記第1高融点メタル層および前記第2高融点メタル層の合金に拡散させて、液相拡散接合を形成する工程と、前記液相拡散接合を冷却する工程とを有し、前記低融点メタル薄膜層の融解温度以上の融解温度を有する積層化高融点半田層の形成方法が提供される。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、プロセス温度の低温化とプロセス時間の短縮化によって量産効果を増大可能な積層化高融点半田層およびその形成方法を提供することができる。
【0022】
また、本発明によれば、この積層化高融点半田層を適用した半導体装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】(a)実施の形態に係る積層化高融点半田層の模式的断面構造図、(b)低融点メタル薄膜層と、低融点メタル薄膜層の表面および裏面に配置された高融点メタル薄膜層とを有する3層構造を複数積層化した積層化構造の模式的断面構造図。
【図2】実施の形態に係る積層化高融点半田層を適用した半導体装置の模式的断面構造図。
【図3】実施の形態に係る積層化高融点半田層の積層構造を説明する模式的断面構造図。
【図4】図2中の絶縁基板の詳細な模式的断面構造図。
【図5】実施の形態に係る積層化高融点半田層の形成方法の一工程を説明する模式的断面構造図(その1)。
【図6】実施の形態に係る積層化高融点半田層の形成方法の一工程を説明する模式的断面構造図(その2)。
【図7】実施の形態に係る積層化高融点半田層の形成方法の一工程を説明する模式的断面構造図(その3)。
【図8】実施の形態に係る積層化高融点半田層の形成方法の一工程を説明する模式的断面構造図(その4)。
【図9】実施の形態に係る積層化高融点半田層の形成方法の一工程を説明する模式的断面構造図(その5)。
【図10】実施の形態に係る積層化高融点半田層の相変化の原理的説明図であって、Ag−Sn半田の2元状態図。
【図11】実施の形態に係る積層化高融点半田層を適用した半導体装置の積層化製造方法の一工程として、基板取り付け工程を説明する模式的断面構造図。
【図12】図11の基板取り付け工程の詳細工程を説明するための温度と時間との関係。
【図13】実施の形態に係る積層化高融点半田層を適用した半導体装置の製造方法の一工程として、半導体デバイス取り付け工程を説明する模式的断面構造図。
【図14】図13の半導体デバイス取り付け工程の詳細工程を説明するための温度と時間との関係。
【図15】従来の半導体デバイス(Pb−Sn系低融点半田層を使用)と本実施形態に係る半導体デバイス(Ag−Sn系高融点半田層を使用)における、ダイ剥離強度の温度変化を示す図。
【図16】実施の形態に係る積層化高融点半田層を適用した半導体装置のモジュール構成例。
【図17】(a)実施の形態に係る積層化高融点半田層を適用した変形例に係る半導体装置の模式的鳥瞰図、(b)(a)のI−I線に沿う模式的断面構造図。
【図18】実施の形態に係る積層化高融点半田層を適用した半導体装置を用いて構成した3相インバータの模式的回路構成図。
【図19】実施の形態に係る積層化高融点半田層を適用した半導体装置に適用する半導体デバイスの例であって、SiC・MOSFETの模式的断面構造図。
【発明を実施するための形態】
【0024】
次に、図面を参照して、実施の形態を説明する。以下の図面の記載において、同一又は類似の部分には同一又は類似の符号を付している。ただし、図面は模式的なものであり、厚みと平面寸法との関係、各層の厚みの比率等は現実のものとは異なることに留意すべきである。したがって、具体的な厚みや寸法は以下の説明を参酌して判断すべきものである。又、図面相互間においても互いの寸法の関係や比率が異なる部分が含まれていることはもちろんである。
【0025】
又、以下に示す実施の形態は、この発明の技術的思想を具体化するための装置や方法を例示するものであって、この発明の実施の形態は、構成部品の材質、形状、構造、配置等を下記のものに特定するものでない。この発明の実施の形態は、特許請求の範囲において、種々の変更を加えることができる。
【0026】
[実施の形態]
(積層化高融点半田層の構成)
実施の形態に係る積層化高融点半田層5の模式的断面構造は、図1(a)に示すように表され、低融点メタル薄膜層81と、低融点メタル薄膜層81の表面および裏面に配置された高融点メタル薄膜層82とを有する3層構造を複数積層化した積層化構造80の模式的断面構造は、図1(b)に示すように表される。
【0027】
実施の形態に係る積層化高融点半田層5は、図1(a)および図1(b)に示すように、低融点メタル薄膜層81と、低融点メタル薄膜層81の表面および裏面に配置された高融点メタル薄膜層82とを有する3層構造を複数積層化した積層化構造80と、積層化構造80の表面に配置された第1高融点メタル層1aと、積層化構造80の裏面に配置された第2高融点メタル層1bとを備える。積層化構造80において、低融点メタル薄膜層81と、低融点メタル薄膜層81の表面および裏面に配置された高融点メタル薄膜層82は、TLP接合によって互いに合金化される。また、積層化構造80と第1高融点メタル層1aおよび第2高融点メタル層1bは、TLP接合によって互いに合金化される。
【0028】
ここで、積層化構造80を構成する低融点メタル薄膜層81の厚さd1と高融点メタル薄膜層82の厚さd2の比d1:d2は、例えば、約1:1であることが望ましい。また、積層化構造80の全体の厚さは、例えば、約25μmである。
【0029】
ここで、低融点メタル薄膜層81の厚さd1と高融点メタル薄膜層82の厚さd2の比d1:d2が1:1である理由は、後述する図10の2元状態図のハッチング領域で描かれている部分の濃度設定に近付けるためである。すなわち、図10において、Agリッチになればなるほど、(固相+液相)状態と固相状態との界面にそって、2元状態は、ターゲットの融点の480℃から724℃の部分まで上がることができるからである。単純に、低融点メタル薄膜層81の厚さd1を厚く設定し、低融点メタル薄膜層81の厚さd1と高融点メタル薄膜層82の厚さd2の比d1:d2=2:1にすると、高融点の合金を形成することは難しい。反対に、比d1:d2=1:2にすると、高融点の合金を形成することは可能である。
【0030】
低融点メタル薄膜層81は、例えば、Snで形成され、高融点メタル薄膜層82は、例えば、Agで形成される。真空蒸着やスパッタリング技術を用いて、これらのAg層およびSn層を薄層化形成することができるため、積層化構造80全体の厚さも薄層化可能である。このように、積層化構造80を連続層としてAg/Sn/Ag/Sn/Ag…のように薄膜積層化している。このように積層化構造80の各層を薄層化することによって、TLP接合の形成時の拡散距離を短くすることができる。
【0031】
結果として、実施の形態に係る積層化高融点半田層5の融点の値は、低融点メタル薄膜層81の融点と高融点メタル薄膜層82の融点との間の融点の値が得られる。或いは、実施の形態に係る積層化高融点半田層5の融点の値は、低融点メタル薄膜層81の融点と第1高融点メタル層1aおよび/若しくは第2高融点メタル層1bの融点との間の融点の値が得られる。
【0032】
低融点メタル薄膜層81は、Sn層以外では、Sn−Ag共晶半田層によって形成されていても良い。また、第1高融点メタル層1aおよび第2高融点メタル層1bは、Ag層によって形成されている。
【0033】
また、第1高融点メタル層1aは、Ag層によって形成され、第2高融点メタル層1bは、Ni層によって形成されていても良い。
【0034】
後述する図10に示すように、Sn−Ag共晶半田層は、96.5±1%のSnと3.5±1%のAgの組成からなる。
【0035】
TLP接合を形成する温度は、250℃以上480℃以下であり、望ましくは、250℃以上350℃以下である。
【0036】
また、積層化高融点半田層5は、第1高融点メタル層1aおよび第2高融点メタル層1bを被覆する低融点密着層をさらに備えていても良い。例えば、図1(a)に示すように、積層化高融点半田層5は、積層化構造80が配置された裏面とは反対側の第1高融点メタル層1aの表面に配置された第1低融点密着層2aと、積層化構造80が配置された表面とは反対側の第2高融点メタル層1bの裏面に配置された第2低融点密着層2bとを備えていても良い。第1低融点密着層2aおよび第2低融点密着層2bは、いずれも濡れ性向上のための層である。
【0037】
第1低融点密着層2aおよび第2低融点密着層2bは、例えば、Sn層によって形成される。
【0038】
(半導体装置)
実施の形態に係る積層化高融点半田層を適用した半導体装置10の模式的断面構造は、図2に示すように、絶縁基板6と、絶縁基板6上に配置された第1伝導用メタル層7aと、第1伝導用メタル層7a上に配置された第1積層化高融点半田層5aと、第1積層化高融点半田層5a上に配置された半導体デバイス4とを備える。
【0039】
さらに、第1伝導用メタル層7aが配置された表面とは反対側の絶縁基板6の裏面に配置された第2伝導用メタル層7bと、絶縁基板6が配置された第2伝導用メタル層7bの表面とは反対側の第2伝導用メタル層7bの裏面に配置された第2積層化高融点半田層5bと、第2伝導用メタル層7bが配置された第2積層化高融点半田層5bの表面とは反対側の第2積層化高融点半田層5bの裏面に配置されたベースプレート8とを備えていても良い。
【0040】
第1積層化高融点半田層5aおよび第2積層化高融点半田層5bは、図1(a)および図1(b)に示すように、いずれも低融点メタル薄膜層81と、低融点メタル薄膜層81の表面および裏面に配置された高融点メタル薄膜層82とを有する3層構造を複数積層化した積層化構造80と、積層化構造80の表面に配置された第1高融点メタル層1aと、積層化構造80の裏面に配置された第2高融点メタル層1bとを備える。積層化構造80において、低融点メタル薄膜層81と、低融点メタル薄膜層81の表面および裏面に配置された高融点メタル薄膜層82は、TLP接合によって互いに合金化される。また、積層化構造80と第1高融点メタル層1aおよび第2高融点メタル層1bは、TLP接合によって互いに合金化される。
【0041】
また、実施の形態に係る積層化高融点半田層を適用した半導体装置10は、単純に、絶縁基板6と、絶縁基板6上に配置された第2伝導用メタル層7bと、第2伝導用メタル層7b上に配置された第2積層化高融点半田層5bと、第2積層化高融点半田層5b上に配置されたベースプレート8とを備えていても良い。ここで、第2積層化高融点半田層5bは、TLP接合によって形成される。
【0042】
TLP接合技術によって形成された第1積層化高融点半田層5aは、第1伝導用メタル層7aと半導体デバイス4とを接合するために使用され、TLP接合技術によって形成された第2積層化高融点半田層5bは、第2伝導用メタル層7bとベースプレート8とを接合するために使用される。
【0043】
TLP技術による積層化高融点半田層の形成順序は、第1のステップとして、第2積層化高融点半田層5bによって、第2伝導用メタル層7bとベースプレート8とを接合する。次に、第2のステップとして、第1積層化高融点半田層5aによって、第1伝導用メタル層7aと半導体デバイス4とを接合する。ベースプレート8の熱容量の方が半導体デバイス4の熱容量に比べて大きいため、第1のステップとして、第2伝導用メタル層7bとベースプレート8とを接合することによって、時間の要する接合を先に実施し、第2のステップとして、第1伝導用メタル層7aと半導体デバイス4とを短時間に接合することで、半導体デバイス4を熱的に保護することができるからである。
【0044】
ベースプレート8の材料としては、絶縁基板6の熱膨張係数に近い、例えば、CuMo、CuW、AlSiCやその複合金属の材料などで構成されている材料を選択すると良い。ベースプレート8の材料として、絶縁基板6の熱膨張係数に近い材料を選択することによって、絶縁基板6とベースプレート8との熱膨張係数の差に伴う反りを抑制し、半導体デバイス4の信頼性を向上することができるからである。
【0045】
第2積層化高融点半田層5bと接合するベースプレート8の表面には、ベースプレート8と第2積層化高融点半田層5bとの濡れ性を向上するために、例えば、約2〜15μm程度の厚さを有するNiメッキなどを施されていても良い。
【0046】
第1伝導用メタル層7aおよび第2伝導用メタル層7bによって挟まれた絶縁基板6は、例えば、アルミナ(Al23)や窒化アルミニウム(AlN)、又は窒化シリコン(Si34)などによって形成することができる。
【0047】
第1積層化高融点半田層5aおよび第2積層化高融点半田層5bにおいては、図3に示すように、第1高融点メタル層1aの表面に配置された第1低融点密着層2aと対向して、第1高融点メタル層1aの裏面に配置された第3低融点密着層2cと、第2高融点メタル層1bの裏面に配置された第2低融点密着層2bと対向して、第1高融点メタル層1aの表面に配置された第4低融点密着層2dとを備えていても良い。
【0048】
第3低融点密着層2cおよび第4低融点密着層2dも、第1低融点密着層2aおよび第2低融点密着層2bと同様に、例えば、Sn層によって形成される。
【0049】
結果として、図1(a)および図1(b)と同様に、積層化構造80と第1高融点メタル層1aおよび第2高融点メタル層1bは、TLP接合によって互いに合金化される。
【0050】
第1低融点密着層2a、第2低融点密着層2b、第3低融点密着層2cおよび第4低融点密着層2dは、例えば、約0.5μm〜1.5μmのメッキSn層で形成される。
【0051】
絶縁基板6にも、図4に示すように、第1伝導用メタル層7aおよび第2伝導用メタル層7bとの濡れ性を向上させ、かつ半田をバリアするために、第1バリアメタル層22aおよび第2バリアメタル層22bなどが形成されていても良い。第1バリアメタル層22aおよび第2バリアメタル層22bは、例えば、Niメッキ層、或いはTi層で形成すると良い。
【0052】
第1伝導用メタル層7aおよび第2伝導用メタル層7bは、いずれも適した電流量を導通可能なアルミニウム(Al)、銅(Cu)、その他の伝導性金属によって形成することができる。第1伝導用メタル層7aおよび第2伝導用メタル層7bは、例えば、約0.1mm〜0.5mm程度の厚さを有する。
【0053】
(積層化高融点半田層の形成方法)
実施の形態に係る積層化高融点半田層の形成方法の一工程を説明する模式的断面構造は、図5〜図9に示すように表される。また、実施の形態に係る積層化高融点半田層に適用されるAg−Sn系半田の2元状態図は、図10に示すように表される。
【0054】
実施の形態に係る積層化高融点半田層の形成方法は、図5〜図9に示すように、低融点メタル薄膜層81と、低融点メタル薄膜層81の表面および裏面に配置された高融点メタル薄膜層82とを有する3層構造を複数積層化した積層化構造80と、積層化構造80の表面に配置された第1高融点メタル層12aと、積層化構造80の裏面に配置された第2高融点メタル層12bとを平坦化する工程と、低融点メタル薄膜層81の融解温度以上に加熱して、低融点メタル薄膜層81を高融点メタル薄膜層82に拡散させ、かつ積層化構造80を第1高融点メタル層12aおよび第2高融点メタル層12bの合金に拡散させて、TLP接合を形成する工程と、TLP接合を冷却する工程と有する。結果として、低融点メタル薄膜層81の融解温度以上の融解温度を有する積層化高融点半田層5が得られる。
【0055】
低融点メタル薄膜層81は、Sn層若しくはSn−Ag共晶半田層によって形成され、高融点メタル薄膜層82、第1高融点メタル層12aおよび第2高融点メタル層12bは、Ag層によって形成される。
【0056】
或いは、低融点メタル薄膜層81は、Sn層若しくはSn−Ag共晶半田層によって形成され、高融点メタル薄膜層82および前記第1高融点メタル層12aは、Ag層によって形成され、第2高融点メタル層12bは、Ni層によって形成されていても良い。
【0057】
Sn−Ag共晶半田層は、96.5±1%のSnと3.5±1%のAgの組成からなる。
【0058】
TLP接合を形成する温度は、約250℃以上約480℃以下であり、望ましくは、約250℃以上約350℃以下である。ここで、約250℃以上約350℃以下の低温プロセスとする理由は、以下の通りである。例えば、図2に示されるように、モジュールの組立工程においては、プロセスを行う際に、様々な熱膨張係数を有する材料に熱を加える。このため、できるだけ低い温度でモジュールの組立工程を実施した方が、モジュールのそりなどが起こりにくくなるからである。また、最大値として約350℃と設定しているのは、高温の鉛半田(融点300℃〜315℃)を用いて接合する際に、約350℃の値を使用しており、モジュール形成においても問題がないからである。
【0059】
以下、実施の形態に係る積層化高融点半田層の形成方法を詳述する。
【0060】
(a)まず、Sn層からなる低融点メタル薄膜層81と、低融点メタル薄膜層81の表面および裏面に配置されたAgからなる高融点メタル薄膜層82とを有する3層構造を複数積層化した積層化構造80と、積層化構造80の表面に配置され、Ag層からなる第1高融点メタル層12aと、積層化構造80の裏面に配置され、Ag層からなる第2高融点メタル層12bとを備える層形状の積層化高融点半田層5を、絶縁基板6上の第1伝導用メタル層7aと半導体デバイス4との間に配置して、加熱温度T=250℃程度で加熱すると、図5に示すように、積層化構造80の低融点メタル薄膜層81が融解する。
【0061】
(b)次に、加熱温度Tを350℃程度まで上昇させると、図6に示すように、積層化構造80の低融点メタル薄膜層81から高融点メタル薄膜層82および第1高融点メタル層12aに向かって、Snの液相拡散が開始される。同時に、積層化構造80の低融点メタル薄膜層81から高融点メタル薄膜層82および第2高融点メタル層12bに向かって、Snの液相拡散が開始される。
【0062】
(c)次に、加熱温度Tを350℃程度とし加熱時間を持続すると、図7に示すように、積層化構造80の低融点メタル薄膜層81から高融点メタル薄膜層82および第1高融点メタル層12aに向かうSnの液相拡散によって、積層化構造80と第1高融点メタル層12a間には、Ag−Sn合金からなる積層化高融点半田層5が形成され、同様に、積層化構造80の低融点メタル薄膜層81から高融点メタル薄膜層82および第2高融点メタル層12bに向かうSnの液相拡散によって、積層化構造80と第2高融点メタル層12b間にも、Ag−Sn合金からなる積層化高融点半田層5が形成される。Snの液相拡散によって、図7に示すように、積層化構造80、第1高融点メタル層12aおよび第2高融点メタル層12bは、いずれも薄層化される。
【0063】
(d)さらに、加熱温度Tを350℃程度とし加熱時間を持続すると、図8に示すように、積層化構造80は消失し、Ag−Sn合金からなる積層化高融点半田層5が厚く形成され、第1高融点メタル層12aおよび第2高融点メタル層12bは、いずれもさらに薄層化される。
【0064】
(e)さらに、加熱温度Tを350℃程度とし加熱時間を持続すると、図9に示すように、第1高融点メタル層12aおよび第2高融点メタル層12bは、いずれも消失し、Ag−Sn合金からなる積層化高融点半田層5が絶縁基板6上の第1伝導用メタル層7aと半導体デバイス4との間に形成される。
【0065】
実施の形態に係る積層化高融点半田層の形成方法の説明において、加熱温度Tの値を350℃以下とする理由は、図10のAg−Sn系半田の2元状態図に示すように、350℃以下において、低融点の半田であるSnが融解し、高融点の半田であるAg層に液相拡散させることで、480℃という高融点の合金を得ることができるからである。
【0066】
図10に示すように、Ag−Sn系半田は、Snの濃度80%以上において、350℃以下で融解して、この融解したSnがAgに液相拡散することで480℃の高融点固相を得ることができる。
【0067】
(基板取り付け工程)
実施の形態に係る積層化高融点半田層を適用した半導体装置10の製造方法の一工程として、基板取り付け工程を説明する模式的断面構造は、図11に示すように表される。また、図11の基板取り付け工程の詳細を説明するための加熱温度Tと時間tとの関係は、図12に示すように表される。
【0068】
図11において、例えば、積層化構造80は、約25μmの厚さをする。第1高融点メタル層1aおよび第2高融点メタル層1bは、例えば、約0.2μm〜約1μmの厚さを有するAg層で形成される。第1低融点密着層2a、第2低融点密着層2bは、例えば、約1.5μmの厚さを有するメッキSn層で形成される。
【0069】
図1および図3に示す構造を有する積層化高融点半田層5は、プレスマシーンによって、機械的にプレスを行う。このときの機械的な圧力は、例えば、錘(500g程度)を使用する場合には、デバイスに加圧される圧力は、2.5×103Pa程度である。さらに、例えば、約2MPa程度と2〜3桁高い値の圧力を印加する場合には、デバイスとAg層、基板とAg層間のギャップを埋めることで、拡散速度の増加、プロセス時間の短縮化を実現可能である。すなわち、加圧の目的としては、プロセス中に圧力をかけ、ギャップをうめることや酸化膜の圧力による破壊、さらに拡散速度の増加である。
【0070】
1時間以下にプロセス時間を短縮化する方法としては、上記の圧力の助けにより拡散速度を短くすること、または高融点メタル薄膜層82(Ag)/低融点メタル薄膜層81(Sn)/高融点メタル薄膜層82(Ag)からなる3層構造(それが基本単位)を複数積層することにより拡散速度を短くすることである。高融点メタル薄膜層82(Ag)/低融点メタル薄膜層81(Sn)/高融点メタル薄膜層82(Ag)からなる3層構造(基本単位)が複数積層されている積層化構造では、低融点メタル薄膜層81としてSnが積層化される。したがって、積層化構造80の全体としてのSnの量は、高融点メタル薄膜層82(Ag)/低融点メタル薄膜層81(Sn)/高融点メタル薄膜層82(Ag)からなる3層構造(基本単位)が1基本単位のみ積層されている積層構造と同じである。しかし、高融点メタル薄膜層82(Ag)/低融点メタル薄膜層81(Sn)/高融点メタル薄膜層82(Ag)からなる3層構造(基本単位)が複数積層されている積層化構造では、積層してる個々の層における融解したSnの量は減る。このため、融解したSnがAgへ完全に拡散する時間は減少する。高融点メタル薄膜層82(Ag)/低融点メタル薄膜層81(Sn)/高融点メタル薄膜層82(Ag)からなる3層構造(基本単位)が1基本単位のみの積層されている積層構造では、Snが融解してAgへ拡散するには必要なSnがすべて一つの層にあるので量が多く、完全にAg層に拡散するには時間がかかる。低融点メタル薄膜層81(Sn)の厚さd1と高融点メタル薄膜層82(Ag)の厚さd2の比d1:d2を1:1にしているので、低融点メタル薄膜層81のSnが先に溶け、その溶けたSnに高融点メタル薄膜層82のAgが溶け込んで、各基本単位でAg−Sn合金が形成される。また、積層化構造80の全体としてもAg−Sn合金が形成される。さらに、ここで圧力をプロセス中に与え、Snの拡散するスピードを早くすることによって、プロセス時間はさらに短縮することができる。
【0071】
また、高融点メタル薄膜層82(Ag)/低融点メタル薄膜層81(Sn)/高融点メタル薄膜層82(Ag)からなる3層構造(基本単位)を複数積層することで、プロセス温度も下げることが可能であり、その値が、約350℃である。
【0072】
実施の形態に係る積層化高融点半田層を適用した半導体装置10の製造方法の基板取り付け工程は、図11に示すように、リフローマシン20上に、第1伝導用メタル層7aおよび第2伝導用メタル層7bを形成した絶縁基板6を配置し、第2伝導用メタル層7b上に第2積層化高融点半田層5bを介してベースプレート8を配置した構成において、図12に示すプロセス条件を実施する。
【0073】
(I)まず、時刻0〜時刻t1の7分間において、室温RTから約250℃まで加熱温度Tを上昇する。加熱温度Tは、低融点メタル薄膜層81の金属をTLP合金へ溶かし始めるために、低融点メタル薄膜層81の金属の液相を形成するための融解温度以上に設定する。低温で液相を活性化させるために、ある程度の圧力を加えることが望ましい。図11の構成においては、ベースプレート8の重量が重いことから、特に加圧のための荷重は実施していない。
【0074】
(II)次に、時刻t1〜時刻t2の4分間において、約250℃に加熱温度Tを維持する。
【0075】
(III)次に、時刻t2〜時刻t3の5分間において、約250℃から約350℃まで加熱温度Tを上昇する。低融点メタル薄膜層81の金属をTLP合金の構成物へ拡散するのを助けるために、加熱温度Tは、ターゲットの2元系のAg−Sn系合金を得るまで上昇させる。
【0076】
(IV)次に、時刻t3〜時刻t4の10分間において、約350℃に加熱温度Tを維持する。ここで、時刻t3〜時刻t4の期間は、10分以上30分以下であっても良い。
【0077】
(V)次に、時刻t4〜時刻t5の12分間において、まず、2分間に25℃/分で約300℃まで低下させて2分間維持し、以下50℃ステップで、約200℃になるまで、この動作を繰り返す。ここで、第2積層化高融点半田層5bの面積が大きく、熱容量も大きい。このため、このような制御された冷却プロセスによって、大きな面積を有する第2積層化高融点半田層5bのストレス還元を実施することができる。
【0078】
(VI)次に、時刻t5〜時刻t6の期間おいて、約200℃から室温RTまで、自然冷却する。
【0079】
結果として、積層化高融点半田層5bが得られる。ここで、合金化プロセスについて、以下に説明を補足する。まず、説明を単純化するため、1層のAg−Sn−Agの積層構造で説明すると、このAgとSnの濃度を2:1の関係にすることで図10の480℃の融点を有する合金を得ることができる。Ag−Sn半田を使ったとしてもこの合計の濃度の比が多少Agリッチになるため、2元状態図からも明らかなように、図10において左側にシフトするため、480℃の融点を有する合金を得ることができる。すなわち、低融点メタル薄膜層81が融解し、高融点メタル薄膜層82のAgへ拡散することでAgの濃度が75%、Snの濃度が25%の高融点合金を得ることができる。したがって、Ag−Snの半田が溶け、Agが75%の濃度になるのではなく、はじめからAg−Sn−Agの単位を複数層積層化した積層構造を形成する時点で、このAg:Sn=2:1の関係は設定しておく必要がある。低融点メタル薄膜層81が融解し、高融点メタル薄膜層82のAgへ拡散することでAgの濃度が75%、Snの濃度が25%の高融点合金を得ることができ、この結果として、積層化高融点半田層5aが得られる。
【0080】
(半導体デバイス取り付け工程)
実施の形態に係る積層化高融点半田層を適用した半導体装置10の製造方法の一工程として、半導体デバイス取り付け工程を説明する模式的断面構造は、図13に示すように表される。また、図13の半導体デバイス取り付け工程の詳細を説明するための加熱温度Tと時間tとの関係は、図14に示すように表される。
【0081】
図13において、例えば、積層化構造80は、約25μmの厚さを有する。第1高融点メタル層1aおよび第2高融点メタル層1bは、例えば、約0.2μm〜約1μmの厚さを有するAg層で形成される。第1低融点密着層2a、第2低融点密着層2bは、例えば、約0.5μmの厚さを有するメッキSn層で形成される。
【0082】
半導体デバイス4の取り付け工程では、TLP接合形成の反応の間に、半導体デバイス4のドレイン電極が完全に反応しないようにする点が重要となる。このため、基板取り付け工程時に使用した約1.5μmの厚さを有するSnメッキ層に比べて、例えば、約0.5μmの厚さを有するSnメッキ層を形成し、Snメッキ層を薄くしている。
【0083】
実施の形態に係る積層化高融点半田層を適用した半導体装置10の製造方法の半導体デバイス取り付け工程は、基板取り付け工程後、図13に示すように、リフローマシン20上に、ベースプレート8・第2積層化高融点半田層5b・第2伝導用メタル層7b・絶縁基板6・第1伝導用メタル層7aからなる積層構造を配置し、第1伝導用メタル層7a上に、第1積層化高融点半田層5aを介して半導体デバイス4を配置した構成において、図14に示すプロセス条件を実施する。図13の構成においては、半導体デバイス4上に、特に加圧のためのおもり18を配置して、荷重を実施している。
【0084】
(I)まず、時刻0〜時刻t1の7分間において、室温RTから約250℃まで加熱温度Tを上昇する。加熱温度Tは、低融点メタル薄膜層81の金属をTLP合金へ溶かし始めるために、低融点メタル薄膜層81の金属の液相を形成するための融解温度以上に設定する。低温で液相を活性化させるために、ある程度の圧力を加えることが望ましい。
【0085】
(II)次に、時刻t1〜時刻t2の4分間において、約250℃に加熱温度Tを維持する。
【0086】
(III)次に、時刻t2〜時刻t3の5分間において、約250℃から約350℃まで加熱温度Tを上昇する。低融点メタル薄膜層81の金属をTLP合金の構成物へ拡散するのを助けるために、加熱温度Tは、ターゲットの2元系のAg−Sn系合金を得るまで上昇させる。
【0087】
(IV)次に、時刻t3〜時刻t4の10分間において、約350℃に加熱温度Tを維持する。ここで、時刻t3〜時刻t4の期間は、10分以上30分以下であっても良い。
【0088】
(V)次に、時刻t4〜時刻t5の5分間において、30℃/分で約200℃まで加熱温度Tを低下させる。ここで、第1積層化高融点半田層5aの面積が大きく、熱容量も大きい。このため、このような制御された冷却プロセスによって、大きな面積を有する第1積層化高融点半田層5aのストレス還元を実施することができる。
【0089】
(VI)次に、時刻t5〜時刻t6の期間において、約200℃に加熱温度Tを維持する。
【0090】
(VII)次に、時刻t6〜時刻t7の期間において、約200℃から室温RTまで、自然冷却する。
【0091】
結果として、積層化高融点半田層5aが得られる。すなわち、はじめからAg−Sn−Agの単位を複数層積層化した積層構造を形成する時点で、Ag:Sn=2:1の関係を設定し、低融点メタル薄膜層81が融解し、高融点メタル薄膜層82のAgへ拡散することでAgの濃度が75%、Snの濃度が25%の高融点合金を得ることができ、この結果として、積層化高融点半田層5aが得られる。
【0092】
実施の形態に係る積層化高融点半田層を適用した半導体装置10においては、半導体デバイス4の取り付け工程時のTLP接合形成反応中に、半導体デバイス4のドレイン電極が完全にSn層と反応しないようにする点が、電気的および機械的な信頼性を確保する上で、重要となる。
【0093】
実施の形態に係る積層化高融点半田層を適用した半導体装置10においては、300℃以上で動作させた場合にも安定な動作が確認されている。
【0094】
(ダイ剥離強度)
図15は、従来の半導体デバイス(Pb−Sn系低融点半田層を使用)と本実施の形態に係る半導体デバイス(Ag−Sn系高融点半田層を使用)における、ダイ剥離強度の温度変化を示す。従来の半導体デバイスは高温で著しくダイ剥離強度が低下するが、本実施の形態に係る半導体デバイスでは、大幅な低下は見られなかった。
【0095】
(パワーモジュールの構成)
実施の形態に係る積層化高融点半田層を適用して形成した半導体装置10のモジュール構成例は、図16に示すように、ベースプレート8と、第2積層化高融点半田層5bおよび第2伝導用メタル層7bを介してベースプレート8上に配置された絶縁基板6と、第1伝導用メタル層7aおよび第1積層化高融点半田層5aを介して絶縁基板6上に配置された半導体デバイス4とを備える。
【0096】
絶縁基板6上に配置された第1伝導用メタル層7aは、図16に示すように、3つに分割されており、第1伝導用メタル層7a(G)は、半導体デバイス4のゲート電極にボンディングワイヤ9aを介して接続され、かつゲートリードGに接続される。第1伝導用メタル層7a(D)は、半導体デバイス4のドレイン電極に第1積層化高融点半田層5aを介して接続され、かつ図示されていないドレインリードDに接続される。第1伝導用メタル層7a(S)は、半導体デバイス4のソース電極にボンディングワイヤ9bを介して接続され、かつソースリードSに接続される。
【0097】
半導体装置10は、枠体44によって囲まれており、封止板46によって、中空封止されている。中空部48には、窒素ガス、アルゴンガスなどが封入されている。
【0098】
半導体装置10を並列に配置(例えば、16個並列に配置)し、並列に配置した半導体装置10に共通のソース電極・ドレイン電極・ゲート電極をそれぞれ引き出す構成により、所定の能力を有する半導体モジュールを形成することができる。
【0099】
(変形例)
実施の形態に係る積層化高融点半田層を適用した変形例に係る半導体装置10は、図17(a)および図17(b)に示すように、半導体デバイス4と、半導体デバイス4上に配置された第3積層化高融点半田層5cと、第3積層化高融点半田層5c上に配置されたソース側パッド電極40と、第3積層化高融点半田層5cが配置された表面とは反対側の半導体デバイス4の裏面に配置された第4積層化高融点半田層5dと、半導体デバイス4が配置された第4積層化高融点半田層5dの表面とは反対側の第4積層化高融点半田層5dの裏面に配置されたドレイン側パッド電極42とを備える。図17に示される半導体装置10においては、3個の半導体デバイス4が並列接続されている。
【0100】
第3積層化高融点半田層5cは、半導体デバイス4のソース電極とソース側パッド電極40とをTLP接合により結合し、第4積層化高融点半田層5dは、半導体デバイス4のドレイン電極とドレイン側パッド電極42とをTLP接合により結合する。
【0101】
第3積層化高融点半田層5cおよび第4積層化高融点半田層5dの構成および形成方法は、実施の形態における第1積層化高融点半田層5a若しくは第2積層化高融点半田層5bの構成および形成方法と同様であるため、重複説明は省略する。
【0102】
実施の形態に係る積層化高融点半田層を適用した変形例に係る半導体装置10によれば、480℃の耐熱性を有する積層化高融点半田層を半導体デバイス4に直接適用して並列化接続することで大容量化でき、かつ両面冷却化構造とすることで、放熱性に優れる。このため、実施の形態に係る積層化高融点半田層を半導体パワーモジュールに適用することによって、電気的にも熱的にも効率の高い半導体パワーモジュールを作製することができる。
【0103】
実施の形態に係る積層化高融点半田層を適用した半導体装置10を用いて構成した3相インバータの模式的回路構成は、図18に示すように、ゲートドライブ部50と、ゲートドライブ部50に接続されたパワーモジュール部52と、3相モータ部54とを備える。パワーモジュール部52は、3相モータ部54のU相、V相、W相に対応して、U、V、W相のインバータが接続されている。
【0104】
パワーモジュール部52は、コンデンサCが接続されたプラス端子(+)とマイナス端子(−)間に、インバータ構成のSiC・MOSFETQ1・Q2、Q3・Q4、およびQ5・Q6が接続されている。さらに、SiC・MOSFETQ1〜Q6のソース・ドレイン間には、ダイオードD1〜D6がそれぞれ逆並列に接続されている。
【0105】
実施の形態に係る積層化高融点半田層5は、SiC・MOSFETQ1〜Q6のドレイン電極にTLP接合によって形成されている。
【0106】
なお、図17に示すように両面冷却構造を適用する場合には、積層化高融点半田層5は、SiC・MOSFETQ1〜Q6のソース電極およびドレイン電極にTLP接合によって形成されている。
【0107】
実施の形態に係る半導体装置10に適用する半導体デバイス4の例として、SiC・MOSFETの模式的断面構造は、図19に示すように、n-高抵抗基板26と、n-高抵抗基板26の表面側に形成されたpベース領域28と、pベース領域28の表面に形成されたソース領域30と、pベース領域28間のn-高抵抗基板26の表面上に配置されたゲート絶縁膜32と、ゲート絶縁膜32上に配置されたゲート電極38と、ソース領域30に接続されたソース電極34と、n-高抵抗基板26の表面と反対側の裏面に配置されたn+ドレイン領域24と、n+ドレイン領域24に接続されたドレイン電極36とを備える。
【0108】
ドレイン電極36は、図19に示すように、第1積層化高融点半田層5aを介して第1伝導用メタル層7a接続される。第1積層化高融点半田層5aは、ドレイン電極36にTLP接合によって接続されている。
【0109】
なお、第1積層化高融点半田層5aを適用した半導体デバイスとしては、SiC・MOSFETの代わりに、GaN系FETなどを適用することもできる。
【0110】
更には、第1積層化高融点半田層5aを適用した半導体デバイスは、バンドギャップエネルギーが1.1eV〜8eVの半導体を用いることができる。
【0111】
実施の形態に係る積層化高融点半田層によれば、480℃まで耐熱性があるため、当該積層化高融点半田層をSiCやGaNなどを用いたパワーデバイスに適用することによって、SiC系FETやGaN系FETなどのパワーデバイスを高温で駆動することができる。
【0112】
実施の形態に係る積層化高融点半田層によれば、低融点半田層よりも、電気的伝導度および熱的伝導度を高くすることができる。このため、実施の形態に係る積層化高融点半田層を半導体パワーモジュールに適用することによって、電気的にも熱的にも効率の高い半導体パワーモジュールを作製することができる。
【0113】
実施の形態に係る積層化高融点半田層によって、電気的伝導度が高くなることで電力損失を抑制することができ、電力変換効率を増大することができる。
【0114】
また、熱的伝導度が高くなることで熱放散が容易となり、ヒートシンクの軽量化、半導体デバイスの熱暴走の抑制、高周波特性および消費電力効率などの性能向上をはかることができ、結果として、電力変換効率を増大することができる。
【0115】
実施の形態に係る積層化高融点半田層およびその形成方法によれば、低温プロセスによって高融点のTLP接合を形成することができるため、積層化高融点半田層の形成時に、半導体デバイスおよびその構成材料へのダメージを少なくすることができる。
【0116】
本実施の形態によれば、プロセス温度の低温化とプロセス時間の短縮化によって量産効果を増大可能な積層化高融点半田層およびその形成方法を提供することができる。
【0117】
また、本本実施の形態によれば、この積層化高融点半田層を適用した半導体装置を提供することができる。
【0118】
[その他の実施の形態]
上記のように、実施の形態および変形例によって記載したが、この開示の一部をなす論述および図面は例示的なものであり、この発明を限定するものであると理解すべきではない。この開示から当業者には様々な代替実施の形態、実施例および運用技術が明らかとなろう。
【0119】
このように、本発明はここでは記載していない様々な実施の形態などを含む。
【産業上の利用可能性】
【0120】
本発明の積層化高融点半田層を適用した半導体装置は、パワー半導体モジュール、インテリジェントパワーモジュールなどパワーデバイス全般に利用可能である。
【符号の説明】
【0121】
1a,12a…第1高融点メタル層
1b,12b…第2高融点メタル層
2a…第1低融点密着層
2b…第2低融点密着層
2c…第3低融点密着層
2d…第4低融点密着層
3,14…低融点メタル層
4…半導体デバイス
5…積層化高融点半田層
5a…第1積層化高融点半田層
5b…第2積層化高融点半田層
5c…第3積層化高融点半田層
5d…第4積層化高融点半田層
6…絶縁基板
7a…第1伝導用メタル層
7b…第2伝導用メタル層
8…ベースプレート
9a,9b…ボンディングワイヤ
10…半導体装置
18…おもり
20…リフローマシン
22a…第1バリアメタル層
22b…第2バリアメタル層
24…ドレイン領域
26…高抵抗基板
28…ベース領域
30…ソース/ドレイン領域
32…ゲート絶縁膜
34…ソース電極
36…ドレイン電極
38…ゲート電極
40…ドレイン側パッド電極
42…ソース側パッド電極
44…枠体
46…封止板
50…ゲートドライブ部
52…パワーモジュール部
54…3相モータ部
60…半導体パワーモジュール
62…TLP接合部
80…積層化構造
81…高融点メタル薄膜層
82…低融点メタル薄膜層
S…ソースリード
G…ゲートリード
D…ドレインリード

【特許請求の範囲】
【請求項1】
低融点メタル薄膜層と、前記低融点メタル薄膜層の表面および裏面に配置された高融点メタル薄膜層とを有する3層構造を複数積層化した積層化構造と、
前記積層化構造の表面に配置された第1高融点メタル層と、
前記積層化構造の裏面に配置された第2高融点メタル層と
を備え、前記低融点メタル薄膜層と前記高融点メタル薄膜層、前記積層化構造と前記第1高融点メタル層および前記第2高融点メタル層は、液相拡散接合によって互いに合金化されたことを特徴とする積層化高融点半田層。
【請求項2】
前記低融点メタル薄膜層は、Sn層若しくはSn−Ag共晶半田層によって形成され、前記高融点メタル薄膜層、前記第1高融点メタル層および前記第2高融点メタル層は、Ag層によって形成されることを特徴とする請求項1に記載の積層化高融点半田層。
【請求項3】
前記低融点メタル薄膜層は、Sn層若しくはSn−Ag共晶半田層によって形成され、前記高融点メタル薄膜層および前記第1高融点メタル層は、Ag層によって形成され、前記第2高融点メタル層は、Ni層によって形成されることを特徴とする請求項1に記載の積層化高融点半田層。
【請求項4】
前記Sn−Ag共晶半田層は、96.5±1%のSnと3.5±1%のAgの組成からなることを特徴とする請求項2または3に記載の積層化高融点半田層。
【請求項5】
前記液相拡散接合を形成する温度は、250℃以上350℃以下であることを特徴とする請求項1に記載の積層化高融点半田層。
【請求項6】
前記第1高融点メタル層および前記第2高融点メタル層を被覆する低融点密着層をさらに備えることを特徴とする請求項1に記載の積層化高融点半田層。
【請求項7】
前記低融点密着層は、Sn層によって形成されることを特徴とする請求項6に記載の積層化高融点半田層。
【請求項8】
絶縁基板と、
前記絶縁基板上に配置された第1伝導用メタル層と、
前記第1伝導用メタル層上に配置された第1積層化高融点半田層と、
前記第1積層化高融点半田層上に配置された半導体デバイスと
を備え、前記第1積層化高融点半田層は、液相拡散接合によって形成されることを特徴とする半導体装置。
【請求項9】
前記半導体デバイスは、バンドギャップエネルギーが1.1eV〜8eVの半導体を用いることを特徴とする請求項8に記載の半導体装置。
【請求項10】
前記第1伝導用メタル層が配置された前記絶縁基板の表面とは反対側の前記絶縁基板の裏面に配置された第2伝導用メタル層と、
前記絶縁基板が配置された前記第2伝導用メタル層の表面とは反対側の前記第2伝導用メタル層の裏面に配置された第2積層化高融点半田層と、
前記第2伝導用メタル層が配置された前記第2積層化高融点半田層の表面とは反対側の前記第2積層化高融点半田層の裏面に配置されたベースプレートと
をさらに備え、前記第2積層化高融点半田層は、液相拡散接合によって形成されることを特徴とする請求項8に記載の半導体装置。
【請求項11】
前記第1積層化高融点半田層および前記第2積層化高融点半田層は、いずれも低融点メタル薄膜層と、前記低融点メタル薄膜層の表面および裏面に配置された高融点メタル薄膜層とを有する3層構造を複数積層化した積層化構造と、前記積層化構造の表面に配置された第1高融点メタル層と、前記積層化構造の裏面に配置された第2高融点メタル層とを備え、前記低融点メタル薄膜層と前記高融点メタル薄膜層、前記積層化構造と前記第1高融点メタル層および前記第2高融点メタル層は、液相拡散接合によって互いに合金化されたことを特徴とする請求項10に記載の半導体装置。
【請求項12】
絶縁基板と、
前記絶縁基板上に配置された第2伝導用メタル層と、
前記第2伝導用メタル層上に配置された第2積層化高融点半田層と、
前記第2積層化高融点半田層上に配置されたベースプレートと
を備え、前記第2積層化高融点半田層は、液相拡散接合によって形成されたことを特徴とする半導体装置。
【請求項13】
前記第2積層化高融点半田層は、低融点メタル薄膜層と、前記低融点メタル薄膜層の表面におよび裏面に配置された高融点メタル薄膜層とを有する3層構造を複数積層化した積層化構造と、前記積層化構造の表面に配置された第1高融点メタル層と、前記積層化構造の裏面に配置された第2高融点メタル層とを備え、前記低融点メタル薄膜層と前記高融点メタル薄膜層、前記積層化構造と前記第1高融点メタル層および前記第2高融点メタル層は、液相拡散接合によって互いに合金化されたことを特徴とする請求項12に記載の半導体装置。
【請求項14】
前記絶縁基板の上下に配置されたバリアメタル層を備えることを特徴とする請求項12に記載の半導体装置。
【請求項15】
前記バリアメタル層は、Ni層を備えることを特徴とする請求項14に記載の半導体装置。
【請求項16】
低融点メタル薄膜層と、前記低融点メタル薄膜層の表面および裏面に配置された高融点メタル薄膜層とを有する3層構造を複数積層化した積層化構造と、前記積層化構造の表面に配置された第1高融点メタル層と、前記積層化構造の裏面に配置された第2高融点メタル層とを平坦化する工程と、
前記低融点メタル薄膜層の融解温度以上に加熱して、前記積層化構造を前記第1高融点メタル層および前記第2高融点メタル層の合金に拡散させて、液相拡散接合を形成する工程と、
前記液相拡散接合を冷却する工程と
を有し、前記低融点メタル薄膜層の融解温度以上の融解温度を有することを特徴とする積層化高融点半田層の形成方法。
【請求項17】
前記低融点メタル薄膜層は、Sn層若しくはSn−Ag共晶半田層によって形成され、前記高融点メタル薄膜層、前記第1高融点メタル層および前記第2高融点メタル層は、Ag層によって形成されることを特徴とする請求項16に記載の積層化高融点半田層の形成方法。
【請求項18】
前記低融点メタル薄膜層は、Sn層若しくはSn−Ag共晶半田層によって形成され、前記高融点メタル薄膜層および前記第1高融点メタル層は、Ag層によって形成され、前記第2高融点メタル層は、Ni層によって形成されることを特徴とする請求項16に記載の積層化高融点半田層の形成方法。
【請求項19】
前記Sn−Ag共晶半田層は、96.5%のSnと3.5%のAgの組成からなることを特徴とする請求項17に記載の積層化高融点半田層の形成方法。
【請求項20】
前記液相拡散接合を形成する温度は、250℃以上350℃以下であることを特徴とする請求項16に記載の積層化高融点半田層の形成方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【公開番号】特開2013−13933(P2013−13933A)
【公開日】平成25年1月24日(2013.1.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−172912(P2011−172912)
【出願日】平成23年8月8日(2011.8.8)
【出願人】(000116024)ローム株式会社 (3,539)
【Fターム(参考)】