説明

窒化物半導体発光素子

【課題】本発明によれば、動作電圧が低く、かつ光取り出し効率が高い窒化物半導体発光素子を提供することができる。
【解決手段】本発明の窒化物半導体発光素子は、n型窒化物半導体層、AlxqInyqGa1-xq-yqN井戸層を備えた発光層、p型窒化物半導体層をこの順に備えた窒化物半導体発光素子であって、p型窒化物半導体層と接するp側窒化物コンタクト層と、p側窒化物コンタクト層と接する透光性電極層とを有し、p側窒化物コンタクト層は、AlxInyGa1-x-yN(0≦x<1、0<y<1)からなり、透光性電極層は、ニオブ、タンタル、モリブデン、ヒ素、アンチモン、アルミニウム、またはタングステンからなる群より選択される元素のうち一種以上がドープされた二酸化チタンからなることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、窒化物半導体発光素子に関し、特に動作電圧が低く、かつ光取り出し効率が高い窒化物半導体発光素子に関する。
【背景技術】
【0002】
窒化物半導体は屈折率が2.5と高いため、窒化物半導体と透光性電極層との界面で全反射が起こりやすい。このため、発光層で発光した光が窒化物半導体発光素子の内部で全反射が起こることとなり、窒化物半導体発光素子の発光効率を低下させる一因となっている。
【0003】
このような発光効率の低下を抑制するための試みとして、たとえば特許文献1では、透光性電極層に二酸化チタンを用いることにより、窒化物半導体と透光性電極層との界面で全反射を起こりにくくすることを以って、窒化物半導体発光素子の発光効率を向上させる技術が開示されている。
【0004】
特許文献1の技術について説明すると、AlxGayIn1-x-yNからなる窒化物半導体は、その屈折率が約2.5程度と比較的高い値であるが、二酸化チタンの屈折率も同様に約2.5程度である。このため二酸化チタンを透光性電極層に用いることにより、窒化物半導体層と透光性電極層との屈折率をマッチングさせることができる。これにより窒化物半導体層と透光性電極層との界面で全反射しにくくなり、窒化物半導体発光素子の発光効率を向上させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−294306号公報
【特許文献2】特開2007−220971号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記のように透光性電極層として二酸化チタンを用いる場合、透光性電極層と窒化物半導体との接触抵抗が高くなることにより、窒化物半導体発光素子の発光効率が低下するという問題がある。これは、導電性を示す二酸化チタンはn型伝導であることにより、コンタクト抵抗が上がるためであると考えられる。
【0007】
本発明は上記のような現状に鑑みてなされたものであり、透光性電極層と接する窒化物半導体層の構成を工夫することにより、透光性電極層と窒化物半導体との間にトンネルコンタクトを形成することを以って、窒化物半導体発光素子の光取り出し効率を高めるとともに、その動作電圧を低下させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の窒化物半導体発光素子は、n型窒化物半導体層、AlxqInyqGa1-xq-yqN井戸層を備えた発光層、p型窒化物半導体層をこの順に備えたものであって、p型窒化物半導体層と接するp側窒化物コンタクト層と、p側窒化物コンタクト層と接する透光性電極層とを有し、p側窒化物コンタクト層は、AlxInyGa1-x-yN(0≦x<1、0<y<1)からなり、透光性電極層は、ニオブ、タンタル、モリブデン、ヒ素、アンチモン、アルミニウム、またはタングステンからなる群より選択される元素のうち一種以上がドープされた二酸化チタンからなることを特徴とする。
【0009】
上記のp側窒化物コンタクト層は、10nm以上の厚みであることが好ましい。p側窒化物コンタクト層は、Mg、SiまたはGeのいずれかがドーピングされていることが好ましい。p側窒化物コンタクト層は、n型半導体からなるものであってもよい。
【0010】
p側窒化物コンタクト層のIn組成は、発光層のIn組成よりも小さいことが好ましい。p側窒化物コンタクト層のAl組成は、p側窒化物コンタクト層のIn組成よりも小さいことが好ましい。
【0011】
透光性電極層の表面、または透光性電極層上に形成される絶縁層の表面は凹凸形状であることが好ましく、かかる絶縁層は、二酸化チタンからなることが好ましい。
【0012】
p側窒化物コンタクト層と透光性電極層との間には、導電性酸化物層を有し、かかる導電性酸化物層は、ITOからなることが好ましく、発光波長の1/4以下の層厚であることが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、動作電圧が低く、かつ光取り出し効率が高い窒化物半導体発光素子を提供することができる。なお、絶縁層とは抵抗率で1×104Ωcm以上とする。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の窒化物半導体発光素子の構成の好ましい一例の模式的な断面図である。
【図2】窒化物半導体の組成に対するバンドギャップと格子定数との関係を示すグラフである。
【図3】本発明の窒化物半導体発光素子の構成の好ましい一例の模式的な断面図である。
【図4】本発明の窒化物半導体発光素子の構成の好ましい一例の模式的な断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態を図面を用いて説明する。図面や以下の記述中で示す構成は、例示であって、本発明の範囲は、図面や以下の記述中で示すものに限定されない。本願の図面において、同一の参照番号は、同一部分または相当部分を表している。また、本願の図面において、長さ、幅、厚さ等の寸法関係は図面の明瞭化と簡略化のために適宜に変更されており、実際の寸法関係を表してはいない。
【0016】
(実施の形態1)
以下、本実施の形態の窒化物半導体発光素子について図1を参照しつつ説明する。図1は、本発明の窒化物半導体発光素子の好ましい一例を示す模式的な断面図である。
【0017】
<窒化物半導体発光素子>
本実施の形態の窒化物半導体発光素子は、図1に示されるように、基板1上に、n型窒化物半導体層2、AlxqInyqGa1-xq-yqN井戸層を備えた発光層3、p型窒化物半導体層4をこの順に備えた窒化物半導体発光素子であって、p型窒化物半導体層4と接するp側窒化物コンタクト層5と、p側窒化物コンタクト層5と接する透光性電極層6とを有し、p側窒化物コンタクト層5は、AlxInyGa1-x-yN(0≦x<1、0<y<1)からなり、透光性電極層6は、ニオブ、タンタル、モリブデン、ヒ素、アンチモン、アルミニウム、またはタングステンからなる群より選択される元素のうち一種以上がドープされた二酸化チタンからなることを特徴とする。このような構成を有する本実施の形態の窒化物半導体発光素子は、動作電圧が低く、かつ光取り出し効率を高めることができる。
【0018】
ここで、基板1側から順に、n型窒化物半導体層2、発光層3、およびp型窒化物半導体層4の3層はいずれも窒化物半導体からなり、これらの3層のことを窒化物半導体積層体10という。
【0019】
なお、本発明において「窒化物半導体」とは、代表的にはAlxGayIn1-x-yN(x、yは、いずれも0以上1以下)で示される半導体を意味するが、それのみに限られるもの
ではなく、n型化またはp型化のために任意の元素を添加したものを含まれる。
【0020】
本実施の形態において、基板1としては、サファイヤのような絶縁性基板、GaN、SiC等のような導電性基板を用いることができる。
【0021】
n型窒化物半導体層2およびp型窒化物半導体層4は、窒化物半導体からなるものを用いることが好ましい。n型窒化物半導体層2に用いるn型ドーパントとしてはSi、Ge等を挙げることができる。p型窒化物半導体層4に用いるドーパントとしては、Mg、Zn等を挙げることができるが、p側窒化物コンタクト層5の不純物の活性化率を高めるという観点から、ドーパントとしてMgを用いることが好ましい。
【0022】
<発光層>
本実施の形態において、発光層3は、少なくともAlxqGayqIn1-xq-yqN(xq、yqは、いずれも0以上1以下)からなる井戸層を有し、かかる井戸層のAl組成またはIn組成を変更することにより、任意の発光波長に調整することができる。なお、発光層3の発光波長を調整する手法は、発光層のAl組成およびIn組成を調整する方法のみに限られるものではなく、発光層3の厚さを変更することにより、量子準位を形成するとともに基底準位を変更することを以って、発光波長を変更させることもできる。このような発光層3は、たとえば障壁層および井戸層をそれぞれ各1層以上含む多重量子井戸構造としてもよい。
【0023】
<p側窒化物コンタクト層>
本実施の形態において、p側窒化物コンタクト層5は、その上に形成される透光性電極層6と窒化物半導体積層体10との接触抵抗を下げるために設けられるものである。このようなp側窒化物コンタクト層5は、AlxInyGa1-x-yN(0≦x<1、0<y<1)からなることを特徴とする。このような半導体をp側窒化物コンタクト層5に用いることにより、透光性電極層6と窒化物半導体積層体10との接触抵抗を低減することができる。
【0024】
このようなp側窒化物コンタクト層5は、InyGa1-yN(0<y<1)からなるものであってもよい。p側窒化物コンタクト層5にInyGa1-yNを用いることにより、GaNに比して仕事関数を小さくすることができ、以ってショットキー障壁の高さを小さくすることができる。しかも、p側窒化物コンタクト層5にInを含むことにより、GaNに対して、バンドギャップが小さくなる。そして、バンドギャップが小さくなることによりトンネリング幅が小さくなり、透光性電極層6と窒化物半導体積層体10との接触抵抗を小さくすることができる。さらに、Inを含むことにより、GaNに対してピエゾ電界がかかり、これがトンネル接合部の電界と一致する方向にかかるため、トンネル幅が小さくなり、透光性電極層6と窒化物半導体積層体10との接触抵抗を小さくすることができる。
【0025】
ここで、一般的に用いられるZnO、ITO等のような導電性酸化物の仕事関数は、それぞれ約4.8eV程度、約4.7eV程度であるが、本実施の形態においては、透光性電極層6として二酸化チタンを用いる。当該二酸化チタンは、仕事関数が約4.0eV程度であるため、透光性電極層6の仕事関数は、導電性酸化物を用いる場合よりも低くなり、p側窒化物コンタクト層5をトンネリングしにくくなる。
【0026】
そこで、InyGa1-yN(0<y<1)からなるp側窒化物コンタクト層5を透光性電極層6とのコンタクトに用いることにより、p側窒化物コンタクト層5の仕事関数が低く、ミスフィット転位を形成することができ、以ってp側窒化物コンタクト層5の不純物の活性化率を高めることができる。これによりp側窒化物コンタクト層5をトンネリングする確率を高めることができる。
【0027】
本実施の形態において、p側窒化物コンタクト層5は、10nm以上の厚みであることが好ましい。p側窒化物コンタクト層5を10nm以上の厚みにすることにより、p側窒化物コンタクト層5が臨界膜厚を超え、ミスフィット転位を生じさせることができる。そして、当該ミスフィット転位がキャリアのパスになり、窒化物半導体積層体10と透光性電極層6との接触抵抗を下げることができる。
【0028】
このようなp側窒化物コンタクト層5は、Mg、Si、Ge等の不純物でドーピングされることが好ましい。このような不純物をp側窒化物コンタクト層5に加えることにより、空乏領域の禁制帯内に不純物準位を形成し、キャリアのホッピングが生じることを以って窒化物半導体積層体10と透光性電極層6との接触抵抗を小さくすることができる。
【0029】
そして、p側窒化物コンタクト層5は、Mgでドーピングされていることがより好ましい。Mgを用いてp側窒化物コンタクト層5をドーピングすることにより、活性化エネルギーが小さくなる。これによりキャリア濃度を高めることができ、以って窒化物半導体積層体10と透光性電極層6との接触抵抗を下げることができる。
【0030】
p側窒化物コンタクト層5は、必ずしもp型半導体からなる必要はなく、n型半導体からなるものであってもよい。p側窒化物コンタクト層5がn型半導体である場合も、p型半導体と同様に不純物準位によるキャリアのホッピングおよびピエゾ電界が生じるため、窒化物半導体発光素子の動作電圧を下げることができる。
【0031】
p側窒化物コンタクト層5としてInGaNを用いる場合、p側窒化物コンタクト層5のIn組成は、発光層3のIn組成よりも小さいことが好ましい。p側窒化物コンタクト層5のIn組成が、発光層3のIn組成以上になると、p側窒化物コンタクト層5が光の吸収層として働くことになり、窒化物半導体発光素子の光取り出し効率が低下するため好ましくない。
【0032】
ここで、p側窒化物コンタクト層5のIn組成を小さくするという観点から、p側窒化物コンタクト層5のInGaNにAlを加え、4元混晶であるAlInGaNとすることが好ましい。p側窒化物コンタクト層5にAlInGaNを用いることにより、バンドギャップを大きくするとともに、下地との格子定数差を大きくすることができる。
【0033】
図2は、窒化物半導体の組成に対するバンドギャップと格子定数との関係を示すグラフである。図2において、AlN、GaN、InNのバンドギャップはそれぞれ、6.3eV、3.4eV、0.8eVであり、AlN、GaN、InNの格子定数はそれぞれ、3.11Å、3.18Å、3.53Åである。
【0034】
図2に示されるように、AlNとGaNとの格子定数に対するバンドギャップ変化率はGaNとInNとのそれよりも大きいため、InGaNにAlを加えることにより、臨界膜厚を大きく変化させることなく、バンドギャップを変化させることができる。これにより同じバンドギャップのInGaNに対してAlInGaNは、格子定数が大きく、かつ臨界膜厚を小さくでき、より小さな層厚で転位によるキャリアパスを確保することができ、以って窒化物半導体発光素子の光取り出し効率を高めることができる。
【0035】
ここで、「臨界膜厚」とは、格子が緩和し始める層厚であり、臨界膜厚よりも膜厚を厚くすることにより、緩和率が大きくなり、ミスフィット転位密度を大きくすることができ、接触抵抗を下げることができると考えられる。
【0036】
p側窒化物コンタクト層5のAl組成は、p側窒化物コンタクト層5のIn組成よりも小さいことが好ましい。Al組成とIn組成との組成比をこのように調整することにより、その格子定数が大きくなって圧縮歪が加わることにより、ピエゾ電界の方向が、空乏層の電界の方向と一致し、p側窒化物コンタクト層5をトンネリングする確率を高めることができる。
【0037】
<透光性電極層>
本実施の形態に用いられる透光性電極層6は、ニオブ、タンタル、モリブデン、ヒ素、アンチモン、アルミニウム、またはタングステンからなる群より選択される元素のうち一種以上がドープされた二酸化チタンからなることを特徴とする。ここで、透光性電極層6に用いられる二酸化チタンの屈折率は、2.5程度であり、p側窒化物コンタクト層5に用いられる窒化物半導体の屈折率とほぼ同等である。このため、透光性電極層6に二酸化チタンを用いることにより、p側窒化物コンタクト層5と透光性電極層6との界面での全反射を生じにくくすることができ、以って窒化物半導体発光素子の発光効率を高めることができる。
【0038】
このような透光性電極層6の表面、または透光性電極層6上に形成される絶縁層(図示せず)の表面は凹凸形状であることが好ましい。このように表面に凹凸形状を形成することにより、二酸化チタンと空気または樹脂などのモールド材料との界面での全反射を生じにくくすることができる。
【0039】
ここで、上記の絶縁層は、二酸化チタンからなることが好ましい。二酸化チタンはドーパントを含むことにより導電性にすることができるし、ドーパントを含まないことにより絶縁性にすることができる。よって、透光性電極層6に用いられる二酸化チタンをドープすることにより、電流拡散層としての機能を持たせるとともに、絶縁層に用いられる二酸化チタンをドープしないことにより絶縁性にし、当該絶縁層の表面に凹凸を形成することが好ましい。
【0040】
このように透光性電極層6および絶縁層に二酸化チタンを用いることにより、透光性電極層6と絶縁層との界面での全反射の確率を低減することができる。そして、絶縁層の表面に凹凸が形成されていることにより、絶縁層と空気または樹脂との界面での全反射の確率を低減することができる。これらの全反射の確率を低減させる相乗効果により、本実施の形態の窒化物半導体発光素子の発光効率を高めることができる。
【0041】
<導電性酸化物層>
本実施の形態において、p側窒化物コンタクト層5と透光性電極層6との間には、導電性酸化物層(図示せず)を有し、かかる導電性酸化物層は、Snドープ酸化インジウム(ITO:Indium Tin Oxide)からなることが好ましい。この位置に導電性酸化物層を形成することにより、p側窒化物コンタクト層5と透光性電極層6とのコンタクト抵抗を下げることができ、以って窒化物半導体発光素子の発光効率を高めることができる。
【0042】
しかも、ITOは二酸化チタンよりも仕事関数が大きいため、導電性酸化物層の組成をITOとして、ITOを窒化物半導体積層体とのコンタクト層として使用することにより、p側窒化物コンタクト層5と導電性酸化物層とのコンタクト抵抗を下げることができる。
【0043】
ここで、導電性酸化物層に用いられるITOは屈折率が2.0付近であるため、屈折率が約2.5のp側窒化物コンタクト層5と、導電性酸化物層との界面では光の全反射が起こりやすい。しかし、導電性酸化物層が発光波長の1/4波長以下の厚さであることにより、その界面で光が全反射することなく導電性酸化物層を光がトンネル(透過)することができる。よって、導電性酸化物層は、発光層3の発光波長の4分の1以下の厚さであることにより、光取り出し効率のロスを少なくすることができる。
【0044】
基板1としてGaN、SiCのような導電性基板を用いる場合、窒化物半導体発光素子の上下にp電極およびn電極を形成することができる。一方、基板としてサファイヤのような絶縁性基板を用いる場合、同一方向にp電極およびn電極を形成する必要がある。
【0045】
図3は、基板としてサファイヤを用いる場合の窒化物半導体発光素子の構成を示す模式的な断面図である。サファイヤのような絶縁性基板を用いる場合、図3に示されるように、アノード側からメサエッチングすることにより、n型窒化物半導体層2を露出させた上で、透光性電極層6上にp電極7を形成するとともに、n型窒化物半導体層2上にn電極8を形成する。
【実施例1】
【0046】
図4は、本実施例で作製される窒化物半導体発光ダイオード素子の模式的な断面図である。本実施例では、図4に示す構成の窒化物半導体発光ダイオード素子(以下において単に「LED素子」とも記する)を作製する。まず、サファイアからなる基板11を用意し、その基板11をMOCVD装置の反応炉内にセットする。そして、その反応炉内に水素を流しながら基板11の温度を1050℃まで上昇させることにより、基板11の表面(C面)をクリーニングする。
【0047】
次に、MOCVD法により基板11の表面(C面)上に、n型窒化物半導体層12を形成する。n型窒化物半導体層12は、バッファ層、n型窒化物下地層、およびn型窒化物コンタクト層からなるものであり、具体的には以下の手順で作製する。
【0048】
基板11の温度を510℃まで低下させて、反応炉内にキャリアガスとして水素、原料ガスとしてアンモニアおよびトリメチルガリウム(TMG:TriMethylGallium)を流しながら、基板11の表面(C面)上に、GaNからなるバッファ層を約20nmの厚さで積層する。
【0049】
そして、基板11の温度を1050℃まで上昇させて、キャリアガスとして水素、原料ガスとしてアンモニアおよびTMG、不純物ガスとしてシランを反応炉内に流しながら、バッファ層上に、キャリア濃度が1×1018/cm3となるようにSiをドーピングしたGaNからなるn型窒化物半導体下地層を6μmの厚さで積層する。
【0050】
続いて、キャリア濃度が5×1018/cm3となるようにSiをドーピングしたこと以外はn型窒化物半導体下地層と同様の方法により、n型窒化物半導体下地層上にGaNからなるn型窒化物半導体コンタクト層を0.5μmの厚さで形成する。以上がn型窒化物半導体層12を形成する工程である。
【0051】
次に、基板11の温度を700℃に低下させた上で、キャリアガスとして窒素、原料ガスとしてアンモニア、TMGおよびTMI(トリメチルインジウム)を反応炉内に流しながら、n型窒化物半導体コンタクト層上に4nmの厚さのIn0.2Ga0.8Nからなる井戸層13a、10nmの厚さのGaNからなる障壁層13b、4nmの厚さのIn0.2Ga0.8Nからなる井戸層13aの順に成長させることにより、多重量子井戸構造からなる発光層13を形成する。なお、発光層13の形成時において、GaNを成長させる際にはTMIを反応炉内に流していないことは言うまでもない。このとき形成される2層の井戸層13aのいずれか一方もしくは両方が発光層として機能する。
【0052】
次に、基板11の温度を700℃のまま維持し、キャリアガスとして窒素、原料ガスとしてアンモニアおよびTMGを反応炉内に流しながら、発光層13上にGaNからなる蒸発防止層14を15nmの厚さで形成する。
【0053】
次に、蒸発防止層14上に、第1のp型窒化物半導体層、および第2のp型窒化物半導体層からなるp型窒化物半導体層15をMOCVD法により形成する。ここで、p型窒化物半導体層15を形成する具体的な手順は以下の通りである。
【0054】
まず、基板11の温度を950℃に上昇させた上で、キャリアガスとして水素、原料ガスとしてアンモニア、TMG、およびトリメチルアルミニウム(TMA:TriMethylAluminum)、不純物ガスとしてCP2Mgを反応炉内に流しながら、Mgが1×1020/cm3の濃度でドーピングされたAl0.20Ga0.85Nからなる第1のp型窒化物半導体層を約20nmの厚さで形成する。
【0055】
次に、基板11の温度を950℃に保持した上で、キャリアガスとして水素、原料ガスとしてアンモニアおよびTMG、不純物ガスとしてCP2Mgを反応炉内に流しながら、第1のp型窒化物半導体層上に、Mgが1×1020/cm3の濃度となるようにドーピングしたGaNからなる第2のp型窒化物半導体層を80nmの厚さで形成する。そして、基板1の温度を700℃に低下し、キャリアガスとして窒素を反応炉内に流しながら、アニーリングを行なう。このようにして、蒸発防止層14上にp型窒化物半導体層15を形成する。
【0056】
続いて、基板11の温度を700℃に低下させた上で、キャリアガスとして窒素、原料ガスとしてアンモニア、TMG、およびTMI、不純物ガスとしてCP2Mgを反応炉内に流しながら、Mgが1×1020/cm3の濃度でドーピングされたIn0.15Ga0.85N層からなるp側窒化物コンタクト層16をp型窒化物半導体層15上に任意の層厚で積層する。そして、基板1の温度を700℃に維持したままで、キャリアガスとして窒素を反応炉内に流すことにより、アニーリングを行なう。
【0057】
次に、上記でアニーリングを行なったウェハを反応炉から取り出して、p側窒化物コンタクト層16の表面に、ニオブが6%の原子濃度でドーピングされた二酸化チタンからなる透光性電極層17を400nmの厚さでスパッタ法により形成する。
【0058】
その後、透光性電極層17上に所定の形状にパターニングされたマスクを形成した上で、反応性イオンエッチング(RIE:Reactive Ion Etching)装置を用いて、透光性電極層17を選択的にエッチングする。このエッチングにより図4のような凹凸パターンを透光性電極層17に形成するとともに、p側窒化物コンタクト層16の一部の表面を露出させる。そして、露出したp側窒化物コンタクト層16上の所定の位置にTiとAlを含むp電極18を形成するとともに、n型窒化物半導体層12上にn電極19を形成する。以上の各工程により本実施例のLED素子を作製する。
【実施例2】
【0059】
本実施例のLED素子は、実施例1のLED素子に対して、p側窒化物コンタクト層16の組成および層厚が異なることを除き、実施例1と同様の方法により作製する。すなわち、本実施例のLED素子は、p側窒化物コンタクト層16の組成としてAl0.03In0.2Ga0.77Nを用い、その厚みを10nmとすることを特徴とする。
【0060】
本実施例のLED素子のp側窒化物コンタクト層は、実施例1のLED素子のp側窒化物コンタクト層16よりもIn組成が高いことにより、臨界膜厚をより小さくできるため同様の層厚においてもよりミスフィット転位を高密度に発生させることができる。
【0061】
また、p側窒化物コンタクト層16がAlを含むことによりバンドギャップが大きくなるため、発光層の光吸収を小さくすることができる。
【0062】
これらの相乗効果により、本実施例のp側窒化物コンタクト層16は、窒化物半導体積層体10と透光性電極層17との接触抵抗を下げることができ、以ってLED素子の動作電圧を下げるとともに、光取り出し効率を向上させることができる。
【実施例3】
【0063】
本実施例のLED素子は、実施例1のLED素子に対して、p側窒化物コンタクト層と透光性電極層との間に、ITOからなる導電性酸化物層を80nmの厚さで形成することを除き、実施例1と同様の方法により作製する。
【0064】
このように導電性酸化物層を設けることにより、p側窒化物コンタクト層5と導電性酸化物層とのコンタクト抵抗を下げることができ、以って窒化物半導体発光素子の発光効率を高めることができる。
【0065】
(比較例1)
本比較例のLED素子は、実施例1のLED素子に対し、p側窒化物コンタクト層16を形成しないことを除いては実施例1と同様の方法により作製する。すなわち、p型窒化物半導体層上に、透光性電極層17を直接形成する。
【0066】
本比較例のLED素子は、窒化物半導体積層体と透光性電極層との間にp側窒化物コンタクト層が形成されていないことにより、窒化物半導体積層体と透光性電極層との接触抵抗が高い。このため比較例1の窒化物半導体発光素子は、動作電圧が高く、しかも光取り出し効率が低い。
【0067】
以上の説明からも明らかなように、実施例1〜3の本発明に係る窒化物半導体発光素子は、比較例1の窒化物半導体発光素子に比し、窒化物半導体発光素子の動作電圧を下げることができるとともに、その光取り出し効率を高めることができる。これは、In0.15Ga0.85Nからなるp側窒化物コンタクト層を透光性電極層のコンタクト層に使用することによるものと考えられる。
【0068】
このことから、窒化物半導体積層体と透光性電極層との間にp型窒化物コンタクト層を形成することにより、動作電圧を下げることができるとともに、その光取り出し効率を高めることを確認することができる。特に、p側窒化物コンタクト層としてIn0.15Ga0.85Nを10nm以上の層厚で用いることにより、臨界膜厚を超えて、ミスフィット転位を発生させることができ、以って動作電圧を下げることができることが明らかである。
【0069】
以上のように本発明の実施の形態および実施例について説明を行なったが、上述の各実施の形態および実施例の構成を適宜組み合わせることも当初から予定している。
【0070】
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【産業上の利用可能性】
【0071】
本発明によれば、光取り出し効率が高く、かつ動作電圧が低い窒化物半導体発光素子を提供することができる。
【符号の説明】
【0072】
1,11 基板、2,12 n型窒化物半導体層、3,13 発光層、4,15 p型窒化物半導体層、5,16 p側窒化物コンタクト層、6,17 透光性電極層、7,18 p電極、8,19 n電極、10 窒化物半導体積層体、13a 井戸層、13b 障壁層、14 蒸発防止層。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
n型窒化物半導体層、AlxqInyqGa1-xq-yqN井戸層を備えた発光層、p型窒化物半導体層をこの順に備えた窒化物半導体発光素子であって、
前記p型窒化物半導体層と接するp側窒化物コンタクト層と、
前記p側窒化物コンタクト層と接する透光性電極層とを有し、
前記p側窒化物コンタクト層は、AlxInyGa1-x-yN(0≦x<1、0<y<1)からなり、
前記透光性電極層は、ニオブ、タンタル、モリブデン、ヒ素、アンチモン、アルミニウム、またはタングステンからなる群より選択される元素のうち一種以上がドープされた二酸化チタンからなる、窒化物半導体発光素子。
【請求項2】
前記p側窒化物コンタクト層は、10nm以上の厚みである、請求項1に記載の窒化物半導体発光素子。
【請求項3】
前記p側窒化物コンタクト層は、Mgがドーピングされている、請求項1または2に記載の窒化物半導体発光素子。
【請求項4】
前記p側窒化物コンタクト層は、SiまたはGeのいずれかがドーピングされている、請求項1または2に記載の窒化物半導体発光素子。
【請求項5】
前記p側窒化物コンタクト層は、n型半導体からなる、請求項4に記載の窒化物半導体発光素子。
【請求項6】
前記p側窒化物コンタクト層のIn組成は、前記発光層のIn組成よりも小さい、請求項1〜5のいずれかに記載の窒化物半導体発光素子。
【請求項7】
前記p側窒化物コンタクト層のAl組成は、前記p側窒化物コンタクト層のIn組成よりも小さい、請求項1〜6のいずれかに記載の窒化物半導体発光素子。
【請求項8】
前記透光性電極層の表面、または該透光性電極層上に形成される絶縁層の表面は凹凸形状である、請求項1〜7のいずれかに記載の窒化物半導体発光素子。
【請求項9】
前記絶縁層は、二酸化チタンからなる、請求項8に記載の窒化物半導体発光素子。
【請求項10】
前記p側窒化物コンタクト層と前記透光性電極層との間には、導電性酸化物層を有し、
前記導電性酸化物層は、ITOからなる、請求項1〜9のいずれかに記載の窒化物半導体発光素子。
【請求項11】
前記導電性酸化物層は、発光波長の1/4以下の層厚である、請求項10に記載の窒化物半導体発光素子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−66047(P2011−66047A)
【公開日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−213072(P2009−213072)
【出願日】平成21年9月15日(2009.9.15)
【出願人】(000005049)シャープ株式会社 (33,933)
【Fターム(参考)】