説明

結晶性シリコン薄膜の形成方法及び装置

シリコンスパッタターゲット(2)と被成膜基板(S)を設置した成膜室(10)内に水素ガスを導入し、該ガスに高周波電力を印加することで該成膜室内にHα/SiHが0.3〜1.3であるプラズマを発生させ、該プラズマにてシリコンスパッタターゲット(2)をケミカルスパッタリングして基板(S)上に結晶性シリコン薄膜を形成する。比較的低温下で、安価に、安全に、良質の結晶性シリコン薄膜を形成できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は結晶性シリコン薄膜の形成方法及び装置に関する。
【背景技術】
結晶性シリコンとしては、多結晶シリコン、ナノ結晶シリコン等が知られているが、これらには様々の用途がある。
多結晶シリコン薄膜は、例えば、液晶表示装置における画素に設けられるTFT(薄膜トランジスタ)スイッチの材料として、また、各種集積回路、太陽電池等の作製に採用されている。ナノ結晶シリコンは不揮発性メモリ、発光素子、光増感剤としての利用が期待されている。
多結晶シリコン薄膜の形成方法を例にとると、被成膜基板の温度を800℃以上に維持して低圧下にプラズマCVD法等のCVD法やスパッタ蒸着法等のPVD法により形成する方法(例えば特開平5−234919号公報、特開平11−54432号公報参照)、各種CVD法やPVD法により比較的低温下にアモルファスシリコン薄膜を形成したのち、後処理として例えば1000℃程度の熱処理或いは600℃程度で長時間にわたる熱処理を該アモルファスシリコン薄膜に施して形成する方法(例えば特開平5−218368号公報参照)が知られている。アモルファスシリコン膜にレーザーアニール処理を施して該膜を結晶化させる方法も知られている(例えば特開平8−124852公報参照)。
上記の他、モノシラン(SiH)、ジシラン(Si)等のシラン系ガスを水素やフッ化シリコン(SiF)などで希釈したガスのプラズマのもとで、500℃程度以下の低温下に結晶性シリコン薄膜を基板上に直接形成する方法も提案されている(例えば特開2000−195810号公報参照)。
しかしながら、これら方法のうち、被成膜基板を高温にさらす方法では、膜形成する基板として高温に耐え得る高価な基板(例えば石英ガラス基板)を採用しなければならず、例えば耐熱温度500℃以下の安価な低融点ガラス基板への結晶性シリコン薄膜の形成は困難である。そのため、結晶性シリコン薄膜の製造コストが基板コストの面から高くなってしまう。アモルファスシリコン膜を高温下に熱処理する場合も同様の問題がある。
アモルファスシリコン膜をレーザーアニール処理する場合には、比較的低温下に結晶性シリコン膜を得ることができるが、レーザー照射工程を必要とすることや、非常に高いエネルギー密度のレーザー光を照射しなければならないこと等から、この場合も結晶性シリコン薄膜の製造コストが高くなってしまう。また、レーザー光を膜の各部に均一に照射することは難しく、さらにレーザー照射により水素脱離が生じて膜表面が荒れることもあり、これらにより良質の結晶性シリコン薄膜を得ることは困難である。
シラン系ガスを水素やフッ化シリコン(SiF)などで希釈したガスのプラズマのもとで比較的低温下に結晶性シリコン薄膜を直接基板上に形成する方法では、シラン系ガスを水素ガス等で希釈して用いるので、膜堆積速度(成膜速度)が低下する。また、モノシランガスは大気中で自然発火する危険性を有している。
そこで本発明は、上記従来の結晶性シリコン薄膜の形成方法と比べると、比較的低温下で、安価に、安全に、良質の結晶性シリコン薄膜を形成できる結晶性シリコン薄膜の形成方法を提供することを課題とする。
また、本発明は、従来に比べ、比較的低温下で、安価に、安全に、良質の結晶性シリコン薄膜を形成できる結晶性シリコン薄膜の形成装置を提供することを課題とする。
【発明の開示】
本発明者は前記課題を解決するため研究を重ね次の知見を得た。
すなわち、シリコンスパッタターゲットをHα/SiHが0.3〜1.3であるプラズマでケミカルスパッタリング(反応性スパッタリング)し、これによりスパッタリングされた原子と水素プラズマによる励起効果及び被成膜物品の堆積膜表面と水素ラジカルの反応などにより被成膜物品上に膜を堆積形成すれば、従来のシラン系ガスを水素ガスで希釈したガスのプラズマのもとで形成されるシリコン薄膜と同様に、結晶性を示し、表面粗度の小さい、水素終端されたシリコンの結合手が配向した表面を有する良質な結晶性シリコン膜が形成される。
しかも、比較的低温下に膜形成でき、例えば耐熱温度500℃以下の安価な低融点ガラス基板への結晶性シリコン薄膜の形成も可能であり、それだけ安価に被成膜物品上に結晶性シリコン薄膜を形成できる。
さらに、大気中で自然発火するシランガスを使用しないので、それだけ安全に結晶性シリコン薄膜を形成できる。
本発明はかかる知見に基づき、
シリコンスパッタターゲットと被成膜物品を設置した成膜室内に水素ガスを導入し、該ガスに高周波電力を印加することで該成膜室内にHα/SiHが0.3〜1.3であるプラズマを発生させ、該プラズマにて前記シリコンスパッタターゲットをケミカルスパッタリングして前記被成膜物品上に結晶性シリコン薄膜を形成する結晶性シリコン薄膜の形成方法を提供する。
ここでSiHは、成膜室内に導入される水素ガスに高周波電力を印加することで発生する水素ガスプラズマによるシリコンスパッタターゲットのスパッタリングにより発生してプラズマ中に存在するシランラジカルの発光スペクトル強度(波長414nm)であり、Hαはプラズマ発光分光により波長656nmにピークを示す水素原子ラジカルの発光スペクトル強度である。
Hα/SiHはプラズマ中の水素ラジカルの豊富さを示しており、この値が0.3より小さくなってくると、形成される膜の結晶性が低下し、1.3より大きくなってくると、かえって膜形成が困難になってくる。Hα/SiHの値は各種ラジカルの発光スペクトルをプラズマ発光分光計測装置により測定し、その測定結果に基づいて得ることができる。また、Hα/SiHの制御は、水素ガスに印加する高周波電力の大きさ、成膜ガス圧、水素ガス導入量等のうち少なくとも一つの制御により行える。
前記高周波電力印加の代表例として、前記成膜室に対し高周波放電電極からの放電による誘導結合方式で行う場合を挙げることができる。これにより成膜室内部は水素ラジカル及び水素イオンに富んだ状態となる。
本発明者は、誘導結合方式により水素ガスをプラズマ化し、プラズマ発光分光することで、該プラズマにおいてHα(656nm)及びHβ(486nm)が支配的となることを観測している。HαやHβが豊富であることは水素ラジカル濃度が高いことを意味している。この点は、HαやHβが乏しくなる容量結合方式によるプラズマ生成の場合と大きく異なっている。
誘導結合方式による高周波電力印加により形成されたプラズマのプラズマポテンシャルは、条件にもよるが、例えば約20eV程度であり、いずれにしてもかなり低いので、通常の物理的なスパッタリングは起こり難い。しかし、本発明者はプラズマ発光分光によりSi(288nm)の存在を観測している。これはシリコンスパッタターゲット表面における、水素ラジカル及び水素イオンによるケミカルスパッタリング(反応性スパッタリング)によるものである。
高周波電力印加のための高周波放電電極は、成膜室の外側に設置してもよいし、電力印加をより効率よく行うために成膜室内に設置してもよい。成膜室外に設置するときには、高周波放電電極が臨む成膜室壁部分は誘電体材料で形成すればよい。
成膜室内に設置するときは、該電極の導体部表面を電気絶縁性材料で被覆することが好ましい。電極導体部表面を電気絶縁性材料で被覆することで、自己バイアスにより電極がプラズマからの荷電粒子によりスパッタリングされ、電極由来のスパッタ粒子が形成しようとする膜中に混入することを抑制できる。
かかる絶縁性材料としては、石英ガラスや電極のアルマイト処理による材料を例示できる。
前記シリコンスパッタターゲットは様々な状態で提供できる。例えば成膜室のガスプラズマに触れる部分(例えば、プラズマに触れ易い成膜室内壁)の全部又は一部をシリコン膜形成、シリコンウエハの貼着、シリコン片の付設等によりシリコンで覆ってシリコンスパッタターゲットにしてもよい。成膜室それ自体とは別途独立したシリコンスパッタターゲットを成膜室内に設置してもよい。
高周波放電電極を成膜室の外側に設置するにしても、内側に設置するにしても、シリコンスパッタターゲットは、これを円滑にケミカルスパッタリングするうえで、少なくともプラズマの発生領域である高周波放電電極に臨む位置、換言すれば高周波放電電極の近傍位置に設けることが好ましい。
例えば高周波放電電極を成膜室内に設置する場合において、該高周波放電電極に臨設されるシリコンスパッタターゲットの例として、該電極周囲を囲むとともに被成膜物品側に開放された筒状配置のシリコンスパッタターゲットを挙げることができる。
また、いずれにしても、前記結晶性シリコン薄膜形成における前記プラズマのポテンシャルは15eV〜45eV程度であることが好ましく、電子密度は1010cm−3〜1012cm−3程度であることが好ましい。
前記結晶性シリコン薄膜形成における前記成膜室内圧力は0.6Pa〜13.4Pa(約5mTorr〜約100mTorr)程度であることが好ましい。
結晶性シリコン薄膜形成におけるプラズマポテンシャルが15evより低くなってくると、結晶性が低下してくるし、45eVより高くなってきても結晶化が阻害されやすくなる。
また、プラズマ中の電子密度が1010cm−3より小さくなってくると、結晶化度が低下したり、膜形成速度が低下したりし、1012cm−3より大きくなってくると、膜及び被成膜物品がダメージを受けやすくなる。
結晶性シリコン薄膜形成における成膜室内圧力が0.6Pa(約5mTorr)より低くなってくると、プラズマが不安定となったり、膜形成速度が低下してきたりし、13.4Pa(約100mTorr)より高くなってくると、プラズマが不安定になったり、膜の結晶性が低下したりする。
かかるプラズマポテンシャルやプラズマの電子密度は、印加する高周波電力の大きさ、周波数、成膜圧等のうち少なくとも一つを制御することで調整できる。
本発明は、また、次の結晶性シリコン薄膜の形成装置も提供する。
すなわち、被成膜物品を支持する物品ホルダを有する成膜室と、前記成膜室内に配置されるシリコンスパッタターゲットと、前記成膜室内へ水素ガスを導入する水素ガス供給装置と、前記成膜室内から排気する排気装置と、前記成膜室内へ前記水素ガス供給装置から供給される水素ガスに高周波電力印加して前記シリコンスパッタターゲットをケミカルスパッタリングするためのプラズマを形成する高周波電力印加装置と、前記成膜室内のプラズマ発光における波長656nmでの水素原子ラジカルの発光スペクトル強度Hα及び波長414nmでのシランラジカルの発光スペクトル強度SiHを求める発光分光計測装置と、該発光分光計測装置で求められるHα及びSiHに基づいて発光強度比(Hα/SiH)を求める演算部とを含んでいる結晶性シリコン薄膜形成装置である。
この、薄膜形成装置は、前記演算部で求められる発光強度比(Hα/SiH)と0.3以上1.3以下の範囲から定められた基準値とを比較して、前記成膜室内プラズマにおける発光強度比(Hα/SiH)が該基準値に向かうように、前記高周波電力印加装置の電源出力、前記水素ガス供給装置から前記成膜室内へ導入される水素ガス導入量及び前記排気装置による排気量のうち少なくとも一つを制御する制御部をさらに有していてもよい。
この薄膜形成装置においても、高周波電力印加装置は、前記成膜室に対し設置された高周波放電電極を含み、該電極からの放電により誘導結合方式で高周波電力印加を行うものでもよい。
かかる高周波放電電極は前記成膜室内に設置してもよく、その場合、シリコンスパッタターゲットは、前記の薄膜形成方法で説明したと同様に、少なくとも該高周波放電電極に臨設してもよい。
高周波放電電極を成膜室内に設置する場合、該高周波放電電極はその導体部表面が電気絶縁性材料で被覆されることが望ましい。
以上説明したように、本発明によると、比較的低温下で、安価に、安全に、良質の結晶性シリコン薄膜を形成できる結晶性シリコン薄膜の形成方法を提供することができる。
また、本発明によると、従来に比べ、比較的低温下で、安価に、安全に、良質の結晶性シリコン薄膜を形成できる結晶性シリコン薄膜の形成装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
第1図は、本発明に係る結晶性シリコン薄膜の形成に用いる成膜装置の1例の概略構成を示す図である。
第2図は、実験例により形成されたシリコン膜の結晶性をレーザラマン分光分析により評価した結果を示す図である。
第3図は、プラズマ発光分光計測装置例を示すブロック図である。
第4図は、排気装置による排気量制御を行う回路例のブロック図である。
【発明を実施するための最良の形態】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して説朋する。図1は本発明に係る結晶性シリコン薄膜の形成に用いる成膜装置の1例の概略構成を示している。
図1に示す成膜装置は成膜室10を備えており、該成膜室内には物品ホルダ3、該ホルダ上方の高周波放電電極1及び該電極に臨むシリコンスパッタターゲット2が設置されている。
電極1はその導体部表面が石英ガラスからなる絶縁材で被覆されている。
この電極1には、マッチングボックスMXを介して放電用高周波電源PWが接続されている。電極1、マッチングボックスMX及び電源PWは高周波電力印加装置を構成している。電源PWは出力可変電源であり、本例では周波数13、56MHzの高周波電力を供給できる。なお、電源周波数は13.56MHzに限定されるものではなく、例えば60MHz程度からから数100MHzの範囲のものも採用できる。
物品ホルダ3は被成膜物品(本例では基板S)を加熱するヒータ4を備えている。物品ホルダ3はチャンバ10とともに接地されている。
シリコンスパッタターゲット2は筒形状に形成されており、電極1を囲むように該電極に臨み、成膜室10の天井部に取付け保持されている。筒状ターゲット2の下端はホルダ3に向け開放されている。なお、ターゲット2に加え、例えば、ターゲット2に囲まれた成膜室天井壁部分等にもシリコンスパッタターゲットを設けてもよい。そのようなターゲットは例えばシリコンウエハを該天井壁部分に貼着等にて保持させることで設けることができる。このように、シリコンスパッタターゲットを成膜室10内に形成されるプラズマに触れやすい部位に設けるとよい。
成膜室10内の前記ターゲット2の外側領域において天井部にガス導入ノズルN1が設けられており、該ノズルN1には電磁開閉弁AV2、マスフローコントローラMFC及び電磁開閉弁AV1を介して水素ガスボンベBが配管接続されている。これらは成膜室10への水素ガス供給装置100を構成している。
成膜室10には上記のほか、成膜室10内から排気する排気装置EXが接続されており、成膜室内に形成されるプラズマの状態を計測するための発光分光計測装置SMも付設されている。排気装置EXは、排気量調整を行うコンダクタンスバルブCV、該バルブを介してチャンバ10に配管接続された真空ポンプPMからなる。
ここでの発光分光計測装置SMは、第3図に示すように、前記のシランラジカルの発光スペクトル強度SiH(波長414nm)を検出する分光器51、水素の発光スペクトル強度Hα(波長656nm)及びHβ(波長486nm)を検出する分光器52、53を含むものである。分光器51、52で検出された発光強度SiH及びHαは演算部50に入力され、ここで、発光強度比(Hα/SiH)が求められる。
なお、分光器に代えて、フィルター付きの光センサを採用することも可能である。
次に、以上説明した成膜装置による基板S上への結晶性シリコン膜の形成例について説明する。
この膜形成においては、成膜室内の成膜ガス圧を0.6Pa〜13.4Paの範囲のものに維持して行う。成膜ガス圧は、図示を省略しているが、成膜室10に圧力センサを接続する等して検出すればよい。
先ず、膜形成に先立って、コンダクタンスバルブCVを介してポンプPMにて成膜室10内から排気を開始する。コンダクタンスバルブCVはチャンバ10内の成膜ガス圧0.6Pa〜13.4Paを考慮した排気量に調整しておく。
ポンプPMの運転により成膜室10の内圧が目指す成膜ガス圧より低くなってくると、ガス供給装置100の弁AV1、AV2を開き、マスフローコントローラMFCで制御された流量で水素ガスを成膜室10内に導入するとともに出力可変電源PWから高周波放電電極1に高周波電力を印加し、これにより導入された水素ガスを誘導結合方式でプラズマ化する。
かくして発生したプラズマからの、発光分光計測装置SMによる検出情報から該プラズマにおけるHα(656nm)及びHβ(486nm)を計測する。
そして、電極1へ印加する高周波電力、マスフローコントローラMFCによるチャンバ10への水素ガス導入量、成膜ガス圧等のうち少なくとも一つを制御することで、プラズマにおけるHα(656nm)及びHβ(486nm)の発光強度が十分大くなる高周波電力、水素ガス導入量等の条件を決定する。
また、水素ガスプラズマにおけるHα/SiHが0.3〜1.3となり、プラズマのポテンシャルが15eV〜45eVとなり、プラズマにおける電子密度が、1010cm−3〜1012cm−3となる高周波電力、水素ガス導入量等の条件を決定する。
プラズマポテンシャル、電子密度は例えばラングミューアプローブ法により確認できる。
これらを勘案して最終的な高周波電力、水素ガス導入量、成膜ガス圧等の条件を決定する。
このようにして成膜条件を決定したあとは、その条件に従って膜形成を行う。
膜形成においては、ホルダ3にて支持する被成膜基板Sの温度を500℃以下の比較的低温、例えば400℃程度に加熱できるようにヒータ4を設定し、該ホルダ3に被成膜基板Sを搭載する。次いでポンプPMにて成膜室10内を排気し、ひき続き水素ガス供給装置100から成膜室10内へ所定量の水素ガスを導入するとともに電極1に電源PWから高周波電力を印加することで、電極1からの放電を誘導結合方式にて行わせ、これによりプラズマを発生させる。
すると、電極1に対し臨設されたシリコンスパッタターゲット2をプラズマがケミカルスパッタリング(反応性スパッタリング)し、それにより基板S上にシリコン薄膜が形成される。この膜は、従来のシラン系ガスを水素ガスで希釈して得られるガスプラズマのもとに形成される結晶性シリコン薄膜と同様に、結晶性を示すシリコン薄膜であり、水素終端されたシリコンの結合手が配向した表面を有する。
基板温度は低すぎると、シリコンの結晶化が困難になるので、他の条件にもよるが概ね200℃以上が望ましい。
次に、結晶性シリコン薄膜形成の実験例について説明する。
条件等は以下のとおりであった。
基板:無アルカリガラス基板
基板温度:400℃
高周波電源:13.56MHz、 2000W
水素ガス導入量:50sccm
成膜圧力:13Pa(98mTorr)
プラズマにおけるHα/SiH:1.0
プラズマポテンシャル:30eV
プラズマにおける電子密度:1011cm−3
膜厚:約500Å
このようにして得られた膜の結晶性をレーザラマン分光分析により評価したところ、図2のラマンスペクトルに示されるように、ラマンシフト520cm−1の結晶性を示すピークが出現し、結晶性が確認された。
以上説明したシリコン薄膜形成においては、電源PWの出力、水素ガス供給装置100による水素ガス供給量、成膜室内圧を左右する排気装置EXによる排気量等の制御はマニュアル的になされた。
しかし、図4に示すように、発光分光計測装置SMに接続された演算部50で求められた発光強度比Hα/SiHを制御部Contに入力してもよい。そして、かかる制御部Contとして、演算部50から入力された発光強度比Hα/SiHが予め定めた基準発光強度比(基準値)か否かを判断し、基準発光強度比から外れていると、基準発光強度比に向けて、前記の出力可変電源PWの出力、水素ガス供給装置100による水素ガス供給量、及び排気装置EXによる排気量のうち少なくとも一つを制御することができるように構成されたものを採用してもよい。
かかる制御部Contの具体例として、排気装置EXのコンダクタンスバルブを制御することで該装置EXによる排気量を制御し、それにより成膜室10内のガス圧を、前記基準発光強度比達成に向けて制御するものを挙げることができる。
この場合、出力可変電源PWの出力、水素ガス供給装置100による水素ガス供給量及び排気装置EXによる排気量等について、基準発光強度比或いはそれに近い値が得られる、予め実験等で求めた電源出力、水素ガス供給量及び排気量等を初期値として採用すればよい。
かかる初期値決定に際しても、排気装置EXによる排気量は、成膜室10内の圧力が0.6Pa〜13.4Paの範囲に納まるように決定する。また、プラズマのポテンシャルが15eV〜45eVの範囲に、プラズマにおける電子密度が1010cm−3〜1012cm−3の範囲に納まるように決定する。
そして、電源PWの出力、水素ガス供給装置100による水素ガス供給量については、それらの初期値をその後も維持し、排気装置EXによる排気量を、基準発光強度比達成に向けて、制御部Contに制御させればよい。
【産業上の利用可能性】
本発明は、結晶性シリコン薄膜を利用したTFT(薄膜トランジスタ)スイッチ等の各種半導体部品、半導体装置等の形成のために該結晶性シリコン薄膜を形成する場合に利用できる。
【図1】

【図2】

【図3】

【図4】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリコンスパッタターゲットと被成膜物品を設置した成膜室内に水素ガスを導入し、該ガスに高周波電力を印加することで該成膜室内にHα/SiHが0.3〜1.3であるプラズマを発生させ、該プラズマにて前記シリコンスパッタターゲットをケミカルスパッタリングして前記被成膜物品上に結晶性シリコン薄膜を形成することを特徴とする結晶性シリコン薄膜の形成方法。
【請求項2】
前記高周波電力印加は、前記成膜室に対し設置した高周波放電電極からの放電により誘導結合方式で行う請求の範囲第1項記載の結晶性シリコン薄膜の形成方法。
【請求項3】
前記高周波放電電極は前記成膜室内に設置し、前記シリコンスパッタターゲットを少なくとも該高周波放電電極に臨設する請求の範囲第2項記載の結晶性シリコン薄膜の形成方法。
【請求項4】
前記高周波放電電極はその導体部表面が電気絶縁性材料で被覆されている請求の範囲第3項記載の結晶性シリコン薄膜の形成方法。
【請求項5】
前記結晶性シリコン薄膜形成における前記プラズマのポテンシャルは15eV〜45eVであり、電子密度は1010cm−3〜1012cm−3である請求の範囲第1項から第4項のいずれかに記載の結晶性シリコン薄膜の形成方法。
【請求項6】
前記結晶性シリコン薄膜形成における前記成膜室内圧力は0.6Pa〜13.4Paである請求の範囲第1項から第5項のいずれかに記載の結晶性シリコン薄膜の形成方法。
【請求項7】
被成膜物品を支持する物品ホルダを有する成膜室と、前記成膜室内に配置されるシリコンスパッタターゲットと、前記成膜室内へ水素ガスを導入する水素ガス供給装置と、前記成膜室内から排気する排気装置と、前記成膜室内へ前記水素ガス供給装置から供給される水素ガスに高周波電力を印加して前記シリコンスパッタターゲットをケミカルスパッタリングするためのプラズマを形成する高周波電力印加装置と、前記成膜室内のプラズマ発光における波長656nmでの水素原子ラジカルの発光スペクトル強度Hα及び波長414nmでのシランラジカルの発光スペクトル強度SiHを求める発光分光計測装置と、該発光分光計測装置で求められるHα及びSiHに基づいて発光強度比(Hα/SiH)を求める演算部とを含んでいることを特徴とする結晶性シリコン薄膜形成装置。
【請求項8】
前記演算部で求められる発光強度比(Hα/SiH)と0.3以上1.3以下の範囲から定められた基準値とを比較して、前記成膜室内プラズマにおける発光強度比(Hα/SiH)が該基準値に向かうように、前記高周波電力印加装置の電源出力、前記水素ガス供給装置から前記成膜室内へ導入される水素ガス導入量及び前記排気装置による排気量のうち少なくとも一つを制御する制御部をさらに有している請求の範囲第7項記載の結晶性シリコン薄膜形成装置。
【請求項9】
前記高周波電力印加装置は、前記成膜室に対し設置された高周波放電電極を含んでおり、該電極からの放電により誘導結合方式で高周波電力印加を行う請求の範囲第7項又は第8項記載の結晶性シリコン薄膜形成装置。
【請求項10】
前記高周波放電電極は前記成膜室内に設置されており、前記シリコンスパッタターゲットは少なくとも該高周波放電電極に臨設される請求の範囲第9項記載の結晶性シリコン薄膜形成装置。
【請求項11】
前記高周波放電電極はその導体部表面が電気絶縁性材料で被覆されている請求の範囲第10項記載の結晶性シリコン薄膜形成装置。

【国際公開番号】WO2005/093797
【国際公開日】平成17年10月6日(2005.10.6)
【発行日】平成19年8月16日(2007.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−519452(P2006−519452)
【国際出願番号】PCT/JP2005/005660
【国際出願日】平成17年3月22日(2005.3.22)
【出願人】(000003942)日新電機株式会社 (328)
【Fターム(参考)】