説明

緊急通報を発信した携帯端末の位置を特定する方法およびシステム

【課題】GPS衛星の電波が届かない場所からの携帯端末による緊急通報があった場合、携帯電話基地局を中心とする15mのオーダーでの位置特定を可能にする。
【解決手段】数十メートルおきに設置されたセンサ11,…,1nからなるセンサネットワーク1が設置されている。携帯端末5は緊急時、センサネットワーク1に対して微弱な電波で緊急通報を発信したという情報と携帯端末番号を送信する。その信号を受信した直近のセンサ1iは、受信した信号に、さらに必要に応じて携帯端末5からの受信信号強度を付加してセンサネットワーク1上に情報を送信する。情報はセンサネットワーク1上のセンサを伝わり、センサ11より専用線3によりデータセンタ2に伝わる。データセンタ2では、複数のセンサの位置や、それぞれのセンサでの携帯端末5からの信号強度を知ることにより、携帯端末5の位置を詳細に特定することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、緊急通報を発信した携帯端末の位置を特定する方法およびシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
携帯電話等の移動端末が普及し、今後さらに増加すると予想される。現在、GPS(Global Positioning System;全地球測位システム)による位置特定が普及しつつあり、携帯端末の位置情報としてGPSによる位置情報を利用することが十分予想される。しかしGPS衛星の電波が届かない場所からの携帯電話による緊急通報があった場合、携帯電話基地局を中心とする半径数kmの範囲でしか発信地点の位置が特定できない。警察・消防が駆けつけるためには数十メートルオーダーでの位置特定が必要である。例えば、GPS衛星の電波が届かない家屋内や、地下街、高層ビル群などが立ち並ぶ地域、トンネルの中などでは、GPSによる位置特定が困難である。
【0003】
緊急通報に関しては、国際電気通信連合(ITU)においてもインターネット関連の様々な標準化が進展しており、次世代のターゲットシステムであるNGN(Next Generation Network)においても緊急通報の扱いが重要視されているところであり、この問題を解決すべく新しいシステム構築が必須である。NGNの鍵のひとつは、固定網へのモビリティの本格的な統合である。特に、NGNにおいては、次世代携帯電話等の移動端末が急速に増加すると予想され、NGNにおける携帯電話の役割は非常に大きくなるものと思われる。そのような中で、携帯端末からの緊急通報への要件として、発信端末の位置特定と緊急機関への通知が必須とされている。
【0004】
また、日本においても、政府よりu−Japan構想が発表され、今後ユビキタス社会の実現に向け様々な技術開発が進展すると想像される。総務省からは2005年10月25日、110番や119番などの緊急通報にユーザーの位置情報を通知する機能を義務付ける方針を示した。2007年4月1日から運用する考えであると示されている。そこでは、ユーザーが携帯電話から通報をした際でも、緊急機関がおおよその場所を知り駆けつけることが可能となるGPS(全地球測位システム)もしくはそれに準じる位置把握システムを搭載することを想定している。これまでの経緯としては、2003年3月総務省発行の非特許文献1のように携帯端末、移動端末より発せられる緊急通報の検討が開始された。具体的には、非特許文献1のP.46に示されるようにGPS方式、エンハンスト時差方式、時間差方式(TDOA)、複数局方位測定方式(AOA)等を含めた検討が行われた。
【0005】
以上のような方式を比較した結果、総務省発行の非特許文献2に記載されているように測位精度として15mを満たす必要があることが必要であり、その条件を満足する方式としてGPS方式を基本方式とすることが定められた。また、併せて複数基地局方式(上記非特許文献1のエンハンスト時差方式、時間差方式(TDOA)、複数局方位測定方式(AOA)等に相当)、セルベース方式(単一の基地局から測位する方法)を併せて具備することが定められた。GPS方式では、非特許文献3のP.267、表7.2に示されているように、詳細な方式や使用条件により異なるが10mm〜30m程度の測位精度であり、通常の使用条件においては測位精度として15mを満たすことが十分可能である。
【0006】
ところが、GPS方式については、上記の測位精度を満たすためには、一般的に最低4個のGPS衛星を十分に見通せることが必要であり、見通せる衛星の数が少なかったり電波の状態が悪い場合には、15mという条件を満足することができない可能性がある。そのような場合には、非特許文献2に示されているように他の方式も併用することが必要とされている。
【0007】
ここにおいて、上記の非特許文献1で比較対象とされたGPS方式以外の方式は、非特許文献3のP.265、表7.1に示されているように、測位精度として40〜100m程度しか得られないために15mの測位精度要求条件を満足できず、GPSの代替手段として用いるには十分ではない。
【0008】
上記のような状況に鑑み、GPS衛星からの電波の受信状態が悪く、緊急通報に要求される測位精度15mが得られない場合には、何らかの他の補足手段を講ずることにより測位精度15mを満足することが必要である。
【非特許文献1】電気通信事業における重要通信確保の在り方に関する研究会報告書(案)(PDF)http://www.soumu.go.jp/s-news/2003/030411_1a.html 中の第5章(3)携帯電話からの緊急通報における発信者の位置表示、P.43〜48
【非特許文献2】携帯電話からの緊急通報における発信者位置情報通知機能に係る技術的条件の策定(情報通信審議会からの一部答申)http://www.soumu.go.jp/s-news/2004/040630_10.html 中の2一部答申の概要 別紙(PDF)http://www.soumu.go.jp/s-news/2004/040630_10_b.pdf 中の「(4)測位方式の要求条件」
【非特許文献3】監修:弓場英明、未来ねっと技術シリーズ、「ユビキタスサービスネットワーク技術」、オーム社、平成15年9月発行、ISBN4−88549−918−6 P.264〜276 7.1章『位置特定技術』
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
GPS衛星の電波が届かない場所からの携帯電話による緊急通報があった場合、携帯電話基地局を中心とする半径数kmの範囲でしか発信地点の位置が特定できない。警察・消防が駆けつけるためには数十メートルオーダーでの位置特定が必要である。例えば、GPS衛星の電波が届かない家屋内や、地下街、高層ビル群などが立ち並ぶ地域、トンネルの中などでは、GPSによる位置特定が困難である。
【0010】
本発明の目的は、GPS衛星の電波が届かない場所からの携帯端末による緊急通報があった場合、携帯電話基地局を中心とする15mのオーダーでの位置特定が可能な、携帯端末位置特定方法およびシステムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明によるシステムでは、GPS衛星の電波が届かない場所にセンサを数十メートルおきに設置する。センサには一意の番号、位置情報などが予め与えられており、この情報はデータベース化されている。携帯端末が緊急通報を発した場合に、携帯端末とセンサ間の通信、センサネットワークと緊急通報を収集するデータセンタ間の通信を行うことにより緊急通報を発信した携帯端末の位置を15m程度の精度で特定するものである。
【0012】
位置特定を数十メートルの精度で特定するためには、携帯端末から発信する電波の放射電力を微弱なものとし、直近のセンサのみが、その電波を受信できるように設計しておく。あるいは、緊急通報を受信した携帯基地局が携帯端末に指示を与え、その地域に応じた電力で電波を放射することも可能である。
【0013】
さらに、上記の手段にも関わらず、複数のセンサが携帯端末からの微弱な電波を受信した場合には、センサ間のアクセス制御により、最も強い電波を受信したセンサのみがデータセンタに位置情報を送信する、あるいは、複数のセンサが順番にそれぞれの位置情報を送信することにより、位置特定を行う。
【0014】
携帯端末からセンサへの通信は、原理的には搬送波のみでよいが、いたずら防止などのために、必要に応じて、携帯電話の番号などの情報を送信したり、その情報を暗号化したりすることも行う。
【0015】
また、センサとしては、既存の無線LANのアクセスポイントやPHSの端末の機器を流用し、携帯電話からの微弱電波を受信する機能を付加することで所望の目的を達することも可能である。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、従来GPSの電波が受信できない場合には、緊急通報を発信した携帯端末の位置を携帯基地局の半径数kmのオーダーでしか特定できなかったのに対し、[非特許文献2]で必要と記載されている15mのオーダーで位置特定が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
次に、本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。
【0018】
[第1の実施形態]
図1は本発明の第1の実施形態による携帯端末位置特定システムの構成を示している。本実施形態では、遮蔽物12により十分な数のGPS衛星11からの電波を受信できない場所に、数十メートルおきに設置されたセンサ11,…,1i,…,1nからなるセンサネットワーク1が設置され、専用線3によってデータセンタ2に接続されている。
【0019】
携帯端末5が、110番や119番の緊急通報を発信すると、携帯端末5は同時にセンサネットワーク1に対して微弱な電波で緊急通報を発信したという情報(緊急発信信号)と携帯端末番号を送信する。その信号を受信した直近のセンサ1iは、受信した携帯端末番号と自己のセンサ番号に、必要に応じて携帯端末5からの受信信号強度を付加してセンサネットワーク1上に情報を送信する。情報はセンサネットワーク1上で従属接続されたセンサ1i-1,1i-2,…,11と伝わり、最後に、センサ11より専用線3によりデータセンタ2に伝わる。データセンタ2では、情報を送信したセンサの位置や、それぞれのセンサでの携帯端末5からの信号強度を知ることにより、携帯端末5の位置を詳細に特定することができる。
【0020】
なお、複数のセンサが携帯端末5からの信号を受信して、ほぼ同時にセンサネットワーク1上に情報を送信してしまう可能性がある場合には、通常のLAN(Local Area Network)等で用いられるCSMA−CD(Carrier Sense Multiple Access−Collision Detection)機能等を各センサに搭載することにより、図2に示すように、複数のセンサからの信号を時間上でぶつからないようにして、データセンタ2に情報を送信する。データセンタ2では各センサからの信号強度を比較することで、携帯端末5の位置を特定することができる。
【0021】
[第2の実施形態]
図3は本発明の第2の実施形態による携帯端末位置特定システムの構成を示している。本実施形態では、第1の実施形態においてセンサネットワーク1を通じて位置情報をデータセンタ2に伝えていたのに対して、位置情報を携帯端末5自体に送信し、携帯端末5から携帯基地局4を通じて、専用線6を介して位置情報をデータセンタ2に送信する。
【0022】
本実施形態においても、複数のセンサが携帯端末5からの信号を受信して、ほぼ同時に携帯端末に情報を送信してしまう可能性があるが、第1の実施形態と同様にCSMA−CD機能等を各センサに搭載することにより、複数のセンサからの信号を時間上でぶつからないようにして、携帯端末5に情報を送信できる。
【0023】
[第3の実施形態]
図4は本発明の第3の実施形態による携帯端末位置特定システムの構成を示している。本実施形態は、センサとして、既存の無線LANアクセスポイントに携帯端末からの微弱電力を受信する機能を付加した無線LANアクセスポイント7i(i=1〜n)を用いた例である。無線LANアクセスポイント7i(i=1〜n)からデータセンタ2へは専用線3などにより位置情報が送信される。
【0024】
本実施形態においても、複数の無線LANアクセスポイントが携帯端末5からの信号を受信して、ほぼ同時にセンサネットワーク1上に情報を送信してしまう可能性があるが、第1の実施形態と同様にCSMA−CD機能等を無線LANアクセスポイントに搭載することにより、複数の無線LANアクセスポイントからの信号を時間上でぶつからないようにして、データセンタ2に情報を送信できる。
【0025】
[第4の実施形態]
図5は本発明の第4の実施形態による携帯端末位置特定システムの構成を示している。本実施形態は、センサとして、既存のPHS端末に携帯端末からの微弱電力を受信する機能を付加したPHS端末8i(i=1〜n)を用いた例である。PHS端末8i(i=1〜n)からデータセンタ2へはPHS基地局9を通じて位置情報が送信される。
【0026】
本実施形態においても、複数のPHS端末が携帯端末5からの信号を受信する場合があるが、通常、PHS基地局9とPHS端末81〜8nは時分割多重アクセス方式により時間軸上で信号の衝突が起こらないように制御しているため、信号が衝突することはない。
【0027】
[第5の実施形態]
図6は本発明の第5の実施形態による携帯端末位置特定システムの構成を示している。本実施形態は、センサ1i(i=1〜n)のセンサネットワーク1、およびセンサネットワーク1とデータセンタ2間の通信に電力線通信方式を用いた例である。センサネットワーク1、およびセンサネットワーク1とデータセンタ2間のデータは電力線10を通じてデータセンタ2に送信される。
【0028】
本実施形態においても、複数のセンサが携帯端末5からの信号を受信して、ほぼ同時にセンサネットワーク1上に情報を送信してしまう可能性があるが、第1の実施形態と同様にCSMA−CD機能等を各センサに搭載することにより、複数のセンサからの信号を時間上でぶつからないようにして、携帯端末5に情報を送信できる。
【産業上の利用可能性】
【0029】
本発明による、緊急通報を発信した携帯端末の位置を特定するシステムは、今後のユビキタス社会においてますます急増する携帯端末からの位置情報の正確な特定を行う上で必須のものである。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明の第1の実施形態による携帯端末位置特定システムの構成を示す図である。
【図2】複数のセンサ等が携帯端末からの信号を受信した場合の衝突を回避する様子を示す図である。
【図3】本発明の第2の実施形態による携帯端末位置特定システムの構成を示す図である。
【図4】本発明の第3の実施形態による携帯端末位置特定システムの構成を示す図である。
【図5】本発明の第4の実施形態による携帯端末位置特定システムの構成を示す図である。
【図6】本発明の第5の実施形態による携帯端末位置特定システムの構成を示す図である。
【符号の説明】
【0031】
1 センサネットワーク
1〜1n センサ
2 データセンタ
3 専用線
4 携帯基地局
5 携帯端末
6 専用線
1〜7n 無線LANアクセスポイント
1〜8n PHS端末
9 PHS基地局
10 電力線
11 GPS衛星
12 遮蔽物

【特許請求の範囲】
【請求項1】
予め所定の位置に設置され、それぞれ一意の番号あるいは位置情報を保持する複数のセンサにより構成されたセンサネットワークのセンサのうち、携帯端末からの緊急通信を受信したセンサの番号または位置情報と、前記携帯端末の端末番号を、前記センサネットワークから、あるいは前記携帯端末および携帯基地局を介してデータセンタに送信し、該データセンタで前記番号または位置情報から前記携帯端末の位置を特定する携帯端末位置特定方法。
【請求項2】
前記携帯端末と前記センサの間の通信に微弱な電波通信を用いて、直近の1つのセンサのみと通信を行なう、請求項1に記載の携帯端末位置特定方法。
【請求項3】
複数のセンサが携帯端末からの微弱な電波を受信した場合に、センサ間で競合制御を行ない、前記データセンタに送信する信号を分離して識別する、請求項2に記載の携帯端末位置特定方法。
【請求項4】
前記センサとして、無線LANのアクセスポイントを用いる、請求項1に記載の携帯端末位置特定方法。
【請求項5】
前記センサとして、PHSの端末を用いる、請求項1に記載の携帯端末位置特定方法。
【請求項6】
前記センサネットワークと前記データセンタ間の通信に電力線通信方式を用いる、請求項1に記載の携帯端末位置特定方法。
【請求項7】
予め所定の位置に設置され、それぞれ一意の番号あるいは位置情報を保持する複数のセンサにより構成されたセンサネットワークと、
携帯端末からの緊急通信を受信したセンサの番号または位置情報と、前記携帯端末の端末番号を、前記センサネットワークから、あるいは前記携帯端末および携帯基地局を介して受信し、前記番号または位置情報から前記携帯端末の位置を特定するデータセンタと
を有する携帯端末位置特定システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−235735(P2007−235735A)
【公開日】平成19年9月13日(2007.9.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−56615(P2006−56615)
【出願日】平成18年3月2日(2006.3.2)
【出願人】(000004226)日本電信電話株式会社 (13,992)
【Fターム(参考)】