説明

緩衝装置、それを備えた車両、および緩衝装置の組み立て方法

【課題】構造が簡素且つ組み立てが容易な緩衝装置およびそれを備えた車両を提供する。
【解決手段】サスペンション30は、ガス流体が封入されるシリンダ11と、シリンダ11の内部を一端側の第1の気体室16と他端側の第2の気体室17とに隔絶し、シリンダ11の内部に摺動自在に挿入されるピストン12と、シリンダ11の軸方向に延び、一端側にピストン12が設けられ、他端側の一部がシリンダ11の前記一端より突出したピストンロッド13と、シリンダ11の前記一端側に設けられ、ピストンロッド13の前記他端側に取り付けられたブラケット24と、シリンダ11の前記他端側に設けられるブラケット23と、シリンダ11の内部に前記ガス流体を封入させる封入機構20と、を備えている。封入機構20は、ブラケット24またはブラケット23のいずれか一方に設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は緩衝装置、それを備えた車両、および緩衝装置の組み立て方法に関する。
【背景技術】
【0002】
シリンダの内部に空気を充填したエアサスペンションについて、下記特許文献1に記載されたエアサスペンションが知られている。下記特許文献1に記載されたエアサスペンションは、内部に空気等の流体を封入するシリンダを備えている。前記エアサスペンションには、ピストンが配置されている。前記ピストンは、前記シリンダの内部を前記シリンダの軸方向に摺動自在である。前記シリンダの内部は、前記ピストンにより主に第1の気密室(文献中の記載ではチャンバ)と第2の気密室(同じくチャンバ)とによって軸方向に区画される。これにより、前記エアサスペンションは、第1の気密室と第2の気密室との異なる複数の気密室が軸方向に形成される。前記第1の気密室と前記第2の気密室とには、空気等の流体が封入される。前記流体は、前記シリンダに設けられた流体弁機構より前記シリンダの内部へ封入される。これにより、前記エアサスペンションでは、前記第1の気密室と前記第2の気密室とが、それぞれバネ定数を有しバネ機構または減衰機構となる。
【特許文献1】特表2001−501155号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、前記エアサスペンションでは、前記第1の気密室と前記第2の気密室とには、それぞれ別に流体が封入される構造であった。すなわち、前記エアサスペンションは、前記第1の気密室用と前記第2の気密室用とで別々に前記流体弁機構を有していた。前記第1の気密室用と前記第2の気密室用とで別々の前記流体弁機構が備えられている場合、前記エアスペンションは余計に重量を有することになる。また、前記第1の気密室用と前記第2の気密室用とで別々に前記流体が封入されるため、前記エアサスペンションに係る組立工程が複雑である。さらに、前記第1の気密室用と前記第2の気密室用とで別々の前記流体弁機構が備えられているため、前記シリンダの構造が複雑でありコスト高である、という問題があった。
【0004】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、構造が簡素且つ組み立てが容易な緩衝装置およびそれを備えた車両を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明に係る緩衝装置は、ガス流体が封入されるシリンダと、前記シリンダの内部を一端側の第1の気体室と他端側の第2の気体室とに隔絶し、前記シリンダの内部に摺動自在に挿入されるピストンと、前記シリンダの軸方向に延び、一端側に前記ピストンが設けられ、他端側の一部が前記シリンダの前記一端より突出したピストンロッドと、前記シリンダの前記一端側に設けられ、前記ピストンロッドの前記他端側に取り付けられた第1のブラケットと、前記シリンダの前記他端側に設けられる第2のブラケットと、前記シリンダの内部に前記ガス流体を封入させる封入機構と、を備えている。また、前記封入機構は、前記第1のブラケットまたは前記第2のブラケットのいずれか一方に設けられている。
【0006】
また、本発明は、両端もしくは一端が閉口したシリンダの内部にピストンを配設する第1工程と、前記シリンダの両端もしくは他端を閉口し、前記ピストンにより前記シリンダの軸方向で隔絶され互いに密閉された第1気体室および第2気体室を形成させる第2工程と、前記第1の気体室と前記第2の気体室のうちいずれか一方の気体室へ所定の気圧までガス流体を封入させることで他方の気体室を所定の気圧まで圧縮させる第3工程と、を備えた緩衝装置の組み立て方法である。
【発明の効果】
【0007】
前記封入機構は、前記第1のブラケットまたは前記第2のブラケットのいずれかのみに設けられている。つまり、前記緩衝装置は、前記第1の気体室に用いる封入機構と前記第2の気体室に用いる封入機構とを個別に備えていない。そのため、前記緩衝装置の構造は簡素である。
【0008】
また、本発明は、前記第1の気体室と前記第2の気体室のうちいずれか一方の気体室へ所定の気圧までガス流体を封入させることで、他方の気体室を所定の気圧まで圧縮させる緩衝装置の組み立て方法である。この方法によれば、前記第1の気体室と前記第2の気体室とに個別に前記ガス流体を封入させる必要がない。
【0009】
以上、本発明によれば、構造が簡素且つ組み立てが容易な緩衝装置およびそれを備えた車両を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
<実施形態1>
《自動二輪車》
図1は、本実施形態に係る車両の一例である自動二輪車1を示している。自動二輪車1は、車体本体100と、ハンドル4と、乗車シート7と、前輪6と、駆動輪である後輪3とを備えている。また、自動二輪車1は、駆動源であるエンジンを含むパワーユニット2を備えている。前輪6は、回転軸8を中心に回転することができる。後輪3は、車軸9を中心に回転することができる。また、後輪3は、パワーユニット2の作動に基づいて駆動する。本実施形態に係るサスペンション30は、車体本体100の後輪3側に取り付けられている。また、車体本体100の前輪6側には、フロントサスペンション5が取り付けられている。ただし、サスペンション30は、前輪6側に取り付けられるフロントサスペンションとして用いられることにしてもよい。
【0011】
サスペンション30は、少なくともバネ部材と減衰部材とを有している。前記バネ部材は、衝撃を吸収して反発力を発生する。また、前記減衰部材は、前記バネ部材の作動に抵抗を加え、前記バネ部材の作動を抑制する。
【0012】
なお、自動二輪車1は、所謂スクータ型車両である。しかし、以下の各実施形態に係る車両は、スクータ型車両以外の自動二輪車であってもよい。また、以下の各実施形態に係る車両は、自動二輪車以外の車両であってもよい。本実施形態に係る車両は、以下のサスペンション30を備えた車両である。
【0013】
《サスペンション》
図2に示すように、サスペンション30は、シリンダ11と、シリンダ11の内部に設けられシリンダ11を軸方向に摺動するピストン12と、ピストン12に接続しシリンダ11の片側端より一部が突出したピストンロッド13と、を備えている。また、シリンダ11の内部はピストン12により軸方向に隔てられ、第1気体室16と第2気体室17とが形成されている。ピストン12には、ピストン12の軸円周方向に沿ってシール19が設けられている。第1気体室16と第2気体室17とは、ピストン12とシール19とにより隔絶されている。つまり、第1気体室16と第2気体室17とは連通していない。
【0014】
ピストンロッド13は、一部がピストン12に嵌合され、シリンダ11の軸方向に延びている。ピストン12に嵌合されているピストンロッド13の一部は、嵌合部13aとして図示されている。ただし、ピストンロッド13は、ピストン12に固着していてもよく、ピストン12と一体であってもよい。シリンダ11の一端は、キャップ部材15により閉口されている。キャップ部材15とシリンダ11の内部との間には、Oリング18が設けられている。ピストンロッド13の一部は、キャップ部材15を貫通しシリンダ11の外部へ突出している。
【0015】
また、シリンダ11の他端は、ブラケット23により閉口されている。ブラケット23とシリンダ11との間には、Oリング26が設けられている。ブラケット23は、シリンダ11に対し軸方向への相対移動が不能である。シリンダ11の両端部は、ピストン12が挿入された後に閉口される。また、シリンダ11の両端部は、ピストン12が挿入される前にいずれか一端が閉口され、ピストン12が挿入された後に他端が閉口されることにしてもよい。ピストン12が挿入される前にシリンダ11のいずれか一端が閉口される場合、シリンダ11が試験管状の形状を有し、予め一端が閉口していてもよい。
【0016】
ピストンロッド13のピストン12と接続する側と反対側の一部は、ブラケット24に取り付けられている。ブラケット24に取り付けられたピストンロッド13の一部は、取付部13bとして図示されている。また、ブラケット24には、クッションラバー25が設けられている。ピストンロッド13は、クッションラバー25と当接している。シリンダ11の軸方向の一部は、シリンダカバー14に覆われている。シリンダカバー14は、ブラケット24に取り付けられ、シリンダ11とは、ガイド27を介して摺接している。つまり、シリンダ11は、シリンダカバー14の内側で軸方向に摺動することができる。ただし、ブラケット24は、シリンダカバー14に対し軸方向への相対移動が不能である。なお、ブラケット24は、ブラケット23と同一の形状を有していてもよく、異なった形状を有していてもよい。ブラケット23およびブラケット24の形状は、例えば車体本体100(図1参照)の取付位置での構造により決定される。
【0017】
ブラケット23には、封入機構20が設けられている。封入機構20は、少なくとも封入孔22とバルブ21とにより構成されている。封入孔22は、ブラケット23の内部に設けられている。封入孔22は、シリンダ11の外部と第2気体室17とを連通している。封入孔22が延びる方向は、ブラケット23の軸心が延びる方向と平行である。図2では、封入孔22が延びる方向は、ブラケット23の軸心が延びる方向と同一として図示されている。すなわち、封入孔22は、シリンダ11の軸心が延びる方向に延びている。
【0018】
また、バルブ21は、封入孔22の中途に設けられている。図2では、バルブ21は、ブラケット23の縁端部23bに設けられている。縁端部23bは、第2気体室17に面した部分を指す。バルブ21は、例えばゴム、エラストマ等の弾性部材により形成されている。バルブ21は、第2気体室17に封入されている下記の気体がシリンダ11の外部へ漏出することを防止している。
【0019】
ただし、封入孔22とバルブ21とが一体式の構造を有していてもよい。この場合、封入孔22とバルブ21とが一体式となった部材は、弾性部材により形成され、ブラケット23の内部に設けられる。また、ブラケット23が剛性を有した弾性部材で形成され、内部に前記気体が通る孔を有していてもよい。また、封入孔22が延びる方向は、ブラケット23の軸心が延びる方向と同一であることに限定されない。封入孔22が延びる方向は、シリンダ11の軸方向と略直角方向(言い換えると図2の略上下方向)であってもよい。この場合、ブラケット23の一部の肉厚は、図示されているものより増加または減少していてもよい。封入孔22が延びる方向は、例えばサスペンション30が載架される車体本体100(図1参照)の位置または構造に応じて決定されることにしてもよい。
【0020】
第1気体室16および第2気体室17に封入される気体は、例えば空気や窒素である。ただし、前記気体は、サスペンション30の作動を損なうことのない気体であれば特に限定されない。
【0021】
第2気体室17に封入される気体は、以下のように封入される。例えば注射針のような封入部材80が、ブラケット23の先端23tより封入孔22に嵌入される。この状態よりシリンダ11の外部から前記気体が供給され、封入部材80を通って第2気体室17に前記気体が封入される。
【0022】
第2気体室17に前記気体が封入されると、第2気体室17の体積が増加するとともに気圧が上昇する。それと同時にピストン12がシリンダ11の内部を軸方向に摺動し、第1気体室16の体積が減少するとともに気圧が上昇する。第2気体室17に前記気体が封入される前、第1気体室16には前記気体が常圧で封入されている。このとき、ピストン12は、第2気体室17に前記気体が所定の気圧で封入された後に第1気体室16が所定の気圧となるように設定された位置に配置されている。第2気体室17に前記気体が所定の気圧で封入されると、第1気体室16の内部の気圧が所定の気圧まで圧縮される。このときの第1気体室16の前記所定の気圧と第2気体室17の前記所定の気圧は、サスペンション30のバネ特性および減衰特性に応じて予め決定されている。第2気体室17に前記気体が封入されると、サスペンション30の軸長は前記気体が封入される前に比べて大きくなる。このときのサスペンション30の軸長は、サスペンション30に負荷が掛かっていない自然長である。
【0023】
(作用および効果)
以上のように、本実施形態に係るサスペンション30は、シリンダ11、ピストン12、ピストンロッド13、ブラケット24、ブラケット23、第1気体室16、第2気体室17、および封入機構20、を備えている。ピストン12は、シリンダ11の内部に摺動自在に挿入される。また、ピストン12は、ピストンロッド13の一端側に設けられている。ピストンロッド13は、シリンダ11の軸方向に延びている。ピストンロッド13の他端側の一部は、シリンダ11の一端より突出している。ブラケット24は、シリンダ11の前記一端側に設けられ、ピストンロッド13の前記他端側に取り付けられている。ブラケット23は、シリンダ11の他端側に設けられている。シリンダ11の内部は、ピストン12により軸方向に隔絶され、第1気体室16および第2気体室17とが形成されている。第1気体室16は、シリンダ11の前記一端側に配置される。第2気体室17は、シリンダ11の前記他端側に配置される。シリンダ11の内部には、封入機構20により、空気等の気体が封入される。封入機構20は、ブラケット24またはブラケット23のいずれか一方に設けられる。つまり、本実施形態に係るサスペンション30は、第1気体室16に用いる封入機構と、第2気体室17に用いる封入機構とを個別に備えていない。そのため、サスペンション30の構造は簡素である。
【0024】
本実施形態において、封入機構20は、ブラケット23のみに設けられている。封入機構20は、第2気体室17に前記気体を封入させる。第2気体室17に前記気体が封入されると、第2気体室17の体積が増加するとともに気圧が上昇する。また、第2気体室17に前記気体が封入されると、ピストン12がシリンダ11の内部を軸方向に摺動し、第1気体室16の体積が減少するとともに気圧が上昇する。すなわち、第2気体室17の内部に前記気体が前記所定の気圧まで封入されることで、第2気体室17と第1気体室16との圧力差により、サスペンション30は、バネ部材として作動することができる。
【0025】
また、本実施形態において、封入機構20はブラケット23の内部に設けられている。そのため、サスペンション30の側面に別の封入機構が取り付けられる構造と異なり、サスペンション30は軽量化が図られている。
【0026】
さらに、本実施形態において、封入機構20を形成した封入孔22の延びる方向は、ブラケット23の軸心が延びる方向と平行である。その結果、封入機構20は、サスペンション30の側方に突出しない。そのため、サスペンション30は、径方向のスリム化が図られている。また、サスペンション30が自動二輪車1等の車両に載架されている場合、シリンダ11の内部に前記気体を封入するとき、封入部材80と車体本体100との干渉を防止している。これにより、サスペンション30は、容易にシリンダ11の内部に前記気体を封入させることが可能である。
【0027】
第1気体室16と第2気体室17とは、ピストン12によりシリンダ11の軸方向に隔絶され、互いに密閉された空間である。そのため、第2気体室17に前記気体を封入させることにより、ピストン12がシリンダ11の内部を摺動し、ピストン12および第2気体室17が第1気体室16を圧縮する。このときの第1気体室16の反力と第2気体室17の反力とが釣り合うことにより、シリンダ11の軸方向に関するピストン12の位置が定まる。つまり、シリンダ11の内部に前記気体が封入されるとき、第1気体室16と第2気体室17とで個別に前記気体が封入されない。したがって、サスペンション30は組み立てが容易である。
【0028】
<実施形態2>
前記実施形態において、シリンダ11の内部に前記気体を封入させる機構(前記実施形態では封入機構20)は、ブラケット23に設けられていた。しかし、前記機構は、ブラケット23に設けられることに限定されない。以下、本実施形態に係るサスペンション30について説明する。なお、前記実施形態と同一の構成要件については同符号を付し、説明を省略する。
【0029】
図3に示すように、本実施形態においては、封入機構120がブラケット24、ピストンロッド13、およびピストン12に設けられている。封入機構120は、少なくとも封入孔122とバルブ121とにより構成されている。封入孔122は、ブラケット24とピストンロッド13とピストン12との内部に設けられている。封入孔122は、シリンダ11の外部と第2気体室17とを連通している。封入孔122が延びる方向は、ブラケット24の軸心が延びる方向およびピストンロッド13の軸心が延びる方向と平行である。図3では、封入孔122が延びる方向は、ブラケット24の軸心が延びる方向およびピストンロッド13の軸心が延びる方向と同一として図示されている。すなわち、封入孔122は、シリンダ11の軸心が延びる方向に延びている。ただし、封入孔122は、ブラケット24の軸心が延びる方向およびピストンロッド13の軸心が延びる方向と同一でなくてもよい。封入孔122は、ブラケット24とピストンロッド13とピストン12とで、シリンダ11の外部と第2気体室17とを軸方向に連通するものであればよい。封入孔122は、先端孔122aと、ブラケット孔122bと、ピストンロッド孔122cと、ピストン孔122dとを有している。先端孔122aは、ブラケット24の先端24tに設けられ、先端24tからブラケット23に向かってシリンダ11の軸方向に延びている。ブラケット孔122bは、ブラケット24の縁部24bに設けられ、縁部24bからブラケット24の先端24tに向かってシリンダ11の軸方向に延びている。縁部24bは、ピストンロッド13の取付部13bの一端とブラケット24との軸方向の接触位置において、径方向に形成されている。ピストンロッド孔122cは、ピストンロッド13の内部に設けられ、ピストンロッド13の軸方向に延びている。ピストン孔122dは、ピストン12の内部に設けられ、シリンダ11の軸方向に延びている。
【0030】
また、バルブ121は、ブラケット24の縁部24bに設けられている。バルブ21は、第2気体室17に封入されている気体がシリンダ11の外部へ漏出することを防止している。
【0031】
本実施形態において、封入機構120は、ブラケット23には設けられておらず、ブラケット24のみに設けられている。封入機構120は、ブラケット24、ピストンロッド13、およびピストン12に設けられている。封入機構120は、第2気体室17に前記気体を封入させる。第2気体室17の内部に前記気体が前記所定の気圧まで封入されることで、第2気体室17と第1気体室16との圧力差により、サスペンション30は、バネ部材として作動することができる。
【0032】
<実施形態3>
前記各実施形態において、封入機構20および封入機構120は、いずれも第2気体室17と連通していた。しかし、シリンダ11の内部に前記気体を封入させる機構は、第2気体室17と連通することに限定されない。以下、本実施形態に係る前記機構を備えたサスペンション30について説明する。なお、前記各実施形態と同一の構成要件については同符号を付し、説明を省略する。
【0033】
図4に示すように、本実施形態においては、封入機構220がブラケット24およびピストンロッド13に設けられている。封入機構220は、少なくとも封入孔222とバルブ221とにより構成されている。封入孔222は、ブラケット24とピストンロッド13との内部に設けられている。封入孔222は、シリンダ11の外部と第1気体室16とを連通している。封入孔222が延びる方向は、ブラケット24の軸心が延びる方向およびピストンロッド13の軸心が延びる方向と平行である。図4では、封入孔222が延びる方向は、ブラケット24の軸心が延びる方向およびピストンロッド13の軸心が延びる方向と同一として図示されている。すなわち、封入孔222は、シリンダ11の軸心が延びる方向に延びている。ただし、封入孔222は、ブラケット24の軸心が延びる方向およびピストンロッド13の軸心が延びる方向と同一でなくてもよい。封入孔222は、シリンダ11の外部と第1気体室16とをブラケット24とピストンロッド13とで軸方向に連通するものであればよい。
【0034】
封入孔222は、先端孔222aと、ブラケット孔222bと、軸側孔222cと、径側孔222cとを有している。軸側孔222cと径側孔222cとは、ピストンロッド13の内部に設けられている。軸側孔222cは、ピストンロッド13の軸方向に延びている。径側孔222cは、ピストンロッド13の径方向に延びている。ピストンロッド13は、開口13cを有している。これにより、第1気体室16と封入孔222とが開口13cを介して連通する。開口13cの数は特に限定されない。つまり、径側孔222cは、一つがピストンロッド13の径方向に延びていてもよく、ピストンロッド13の軸心より放射状に複数延びていてもよい。径側孔222cが延びる方向は、図4に示すように、ピストンロッド13の軸方向と直角であることに限定されない。つまり、径側孔222cが延びる方向は、図4の上下方向より傾いていてもよい。ただし、開口13cの位置は、ピストン12とピストンロッド13等がシリンダ11の軸方向を摺動するとき、シリンダ11の軸方向に関してキャップ部材15と重ならない位置である。言い換えると、開口13cは、ピストン12がシリンダ11の内部を軸方向に摺動するとき、常に第1気体室16に面している。
【0035】
また、バルブ221は、ブラケット24の縁部24bに設けられている。バルブ221は、第1気体室16に封入されている気体がシリンダ11の外部へ漏出することを防止している。
【0036】
第1気体室16に前記気体が封入されると、第1気体室16の体積が増加するとともに気圧が上昇する。それと同時にピストン12がシリンダ11の内部を軸方向に摺動し、第2気体室17の体積が減少するとともに気圧が上昇する。第1気体室16に前記気体が封入される前、第2気体室17には前記気体が常圧で封入されている。このとき、ピストン12は、第1気体室16に前記気体が所定の気圧で封入された後に第2気体室17が所定の気圧となるように設定された位置に配置されている。第1気体室16に前記気体が所定の気圧で封入されると、第2気体室17の内部の気圧が所定の気圧まで圧縮される。このときの第1気体室16の前記所定の気圧と第2気体室17の前記所定の気圧は、サスペンション30のバネ特性および減衰特性に応じて予め決定されている。第1気体室16に前記気体が封入されると、サスペンション30の軸長は前記気体が封入される前に比べて小さくなる。このときのサスペンション30の軸長は、サスペンション30に負荷が掛かっていない自然長である。
【0037】
本実施形態において、封入機構220は、ブラケット23には設けられておらず、ブラケット24のみに設けられている。封入機構220は、ブラケット24およびピストンロッド13に設けられている。封入機構220は、第1気体室16に前記気体を封入することができる。第1気体室16の内部に前記気体が前記所定の気圧まで封入されることで、第1気体室16と第2気体室17との圧力差により、サスペンション30は、バネ部材として作動することができる。
【0038】
<実施形態4>
本実施形態におけるサスペンション30は、第1緩衝器40と第2緩衝器60とを有している。図5に示すように、第1緩衝器40と第2緩衝器60とは直列に連接されている。以下、本実施形態に係るサスペンション30について説明する。
【0039】
《サスペンション》
サスペンション30は、シリンダ11を備えている。第1緩衝器40は、シリンダ11の内部に設けられシリンダ11を軸方向に摺動するピストン42と、ピストン42に接続しシリンダ11の片側端より一部が突出したピストンロッド43と、を備えている。また、シリンダ41の内部はピストン42により軸方向に隔てられ、第1気体室46と第2気体室47とが形成されている。ピストン42には、ピストン42の軸円周方向に沿ってシール49が設けられている。第1気体室46と第2気体室47とは、ピストン42とシール49とにより隔絶されている。
【0040】
ピストンロッド43は、一部がピストン42に嵌合され、シリンダ11の軸方向に延びている。ピストン42に嵌合されているピストンロッド43の一部は、嵌合部43aとして図示されている。ただし、ピストンロッド43は、ピストン42に固着していてもよく、ピストン42と一体であってもよい。シリンダ11の一端は、キャップ部材45により閉口されている。キャップ部材45とシリンダ11の内部との間には、Oリング48が設けられている。ピストンロッド43の一部は、キャップ部材45を貫通しシリンダ11の外部へ突出している。
【0041】
ピストンロッド43のピストン42と接続する側と反対側の一部は、ブラケット24に取り付けられている。ブラケット24に取り付けられたピストンロッド43の一部は、取付部43bとして図示されている。また、ブラケット24には、クッションラバー55が設けられている。ピストンロッド43は、クッションラバー55と当接している。シリンダ11の軸方向の一部は、シリンダカバー44に覆われている。シリンダカバー44は、ブラケット24に取り付けられ、シリンダ11とは、ガイド57を介して摺接している。つまり、シリンダ11は、シリンダカバー44の内側で軸方向に摺動することができる。ただし、ブラケット24は、シリンダカバー44に対し軸方向への相対移動が不能である。なお、ブラケット24は、ブラケット23と同一の形状を有していてもよく、異なった形状を有していてもよい。ブラケット24およびブラケット23の形状は、例えば車体本体100(図1参照)の取付位置での構造と以下の封入機構の構造とにより決定される。
【0042】
シリンダ11の軸方向に関して第1緩衝器40のピストン42と第2緩衝器60のピストン62との間には、隔壁31が設けられている。隔壁31は、シリンダ11の内部に固定されている。シリンダ11の内部において、第1緩衝器40の第2気体室47と第2緩衝器60の第2気体室67とは、隔壁31により隔絶されている。
【0043】
本実施形態に係る第2緩衝器60は、第1緩衝器40と略同一の構造を有している。そのため、第2緩衝器40の構造については説明を省略する。一方、サスペンション30は、第1緩衝器40と第2緩衝器60とでシリンダ11を共有している。しかし、第1緩衝器40と第2緩衝器60とは、それぞれ個別のシリンダを有していてもよい。この場合、サスペンション30の軸方向に関して、キャップ部材45により閉口している第1緩衝器40の一端の反対側端部と、キャップ部材65により閉口している第2緩衝器60の一端の反対側端部とは、第1緩衝器40と第2緩衝器60とが連接される前に予め閉口している。第1緩衝器40の前記反対側端部と第2緩衝器60の前記反対側端部とが互いに当接することで、第1緩衝器40と第2緩衝器60とが連接される。
【0044】
図5に示す第1緩衝器40に設けられる封入機構50は、バルブ51と封入孔52とを有している。封入機構50は、図4に示す封入機構220と同様の形態であるとし、説明を省略する。また、第2緩衝器60に設けられる封入機構70は、ブラケット23に設けられている。封入機構70は、バルブ71と封入孔72とを有している。
【0045】
封入孔72は、ブラケット孔72bと、軸側孔72cと、径側孔72cとを有している。ブラケット孔72bは、ブラケット23の奥部23aに設けられ、奥部23aの表面から縁端部23bに向かってシリンダ11の軸方向に延びている。奥部23aは、ブラケット23において空洞になっている部分の底部を指す。また、縁端部23bは、キャップ部材65に面した部分を指す。軸側孔72cと径側孔72cとは、ピストンロッド63の内部に設けられている。軸側孔72cは、ピストンロッド63の軸方向に延びている。径側孔72cは、ピストンロッド63の径方向に延びている。ピストンロッド63は、開口63cを有している。これにより、第1気体室66と封入孔72とが開口63cを介して連通する。開口63cの数は特に限定されない。つまり、径側孔72cは、一つがピストンロッド63の径方向に延びていてもよく、ピストンロッド63の軸心より放射状に複数延びていてもよい。
【0046】
また、バルブ71は、封入孔72の中途に設けられている。図5では、バルブ71は、ブラケット孔72bと軸側孔72cとの間に設けられている。バルブ71は、第1気体室66に封入されている前記気体がシリンダ11の外部へ漏出することを防止している。
【0047】
第1気体室66に前記気体が封入されると、第1気体室66の体積が増加するとともに気圧が上昇する。それと同時にピストン62がシリンダ11の内部を軸方向に摺動し、第2気体室67の体積が減少するとともに気圧が上昇する。第1気体室66の内部に前記気体が前記所定の気圧まで封入されることで、第1気体室66と第2気体室67との圧力差により、第2緩衝器60がバネ部材して作動することができる。また、第1緩衝器40において、第1気体室46に前記気体が封入されると、第1気体室46の体積が増加するとともに気圧が上昇する。それと同時にピストン42がシリンダ11の内部を軸方向に摺動し、第2気体室47の体積が減少するとともに気圧が上昇する。第1気体室46の内部に前記気体が前記所定の気圧まで封入されることで、第1気体室46と第2気体室47との圧力差により、第1緩衝器40がバネ部材して作動することができる。
【0048】
第1緩衝器40は、前記実施形態2に係る封入機構220と同様の機構を有することに限定されない。第1緩衝器40は、前記実施形態2に係る封入機構120と同様の機構を有していてもよい。また、第2緩衝器60は、前記実施形態2に係る封入機構120のように、封入孔72がシリンダ11の外部と第2気体室67とを連通している機構を有していてもよい。第1緩衝器40が前記実施形態2に係る封入機構120と同様の機構を有する場合、第2緩衝器60は、封入孔72がシリンダ11の外部と第2気体室67とを連通している機構を有するのが好ましい。
【0049】
第1緩衝器40のバネ反力と第2緩衝器60のバネ反力とは、同一でもよく、互いに異なっていてもよい。第1緩衝器40と第2緩衝器60とが、互いに異なるバネ反力を有することにより、サスペンション30では、幅広いセッティングが可能になる。第1緩衝器40と第2緩衝器60とは、第1緩衝器40のシリンダ11の内部の気圧と、第2緩衝器60のシリンダ11の内部の気圧とが異なることにより、互いに異なるバネ反力を有することができる。第1緩衝器40と第2緩衝器60とは、第1緩衝器40のシリンダ11の内径と、第2緩衝器60のシリンダ11の内径とが異なることにより、互いに異なるバネ反力を有することができる。また、第1緩衝器40と第2緩衝器60とは、第1緩衝器40のピストン42の摺動量と、第2緩衝器60のピストン62の摺動量とが異なることにより、互いに異なるバネ反力を有することができる。
【0050】
以上のように、本実施形態において、サスペンション30は、第1緩衝器40と第2緩衝器60とを備えている。第1緩衝器40と第2緩衝器60とは直列に連接されている。そのため、第1緩衝器40または第2緩衝器60のいずれか一方が空気漏れを起こして使用不能となっても、他方の緩衝装置が使用可能であるとき、全体の機能が損なわれることがない。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明は緩衝装置、それを備えた車両、および緩衝装置の組み立て方法に関して有用である。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】自動二輪車の左側面図である。
【図2】実施形態1に係るサスペンションの側面断面図であり、(a)は第2気体室に気体が封入される前、(b)は第2気体室に気体が封入された後である。
【図3】実施形態2に係るサスペンションの側面断面図である。
【図4】実施形態3に係るサスペンションの側面断面図であり、(a)は第2気体室に気体が封入される前、(b)は第2気体室に気体が封入された後である。
【図5】実施形態4に係るサスペンションの側面断面図である。
【符号の説明】
【0053】
1 自動二輪車(車両)
11 シリンダ
12 ピストン
13 ピストンロッド
16 第1気体室(第1の気体室)
17 第2気体室(第2の気体室)
20 封入機構
21 バルブ
22 封入孔
23 ブラケット(第2のブラケット)
24 ブラケット(第1のブラケット)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガス流体が封入されるシリンダと、
前記シリンダの内部を一端側の第1の気体室と他端側の第2の気体室とに隔絶し、前記シリンダの内部に摺動自在に挿入されるピストンと、
前記シリンダの軸方向に延び、一端側に前記ピストンが設けられ、他端側の一部が前記シリンダの前記一端より突出したピストンロッドと、
前記シリンダの前記一端側に設けられ、前記ピストンロッドの前記他端側に取り付けられた第1のブラケットと、
前記シリンダの前記他端側に設けられる第2のブラケットと、
前記シリンダの内部に前記ガス流体を封入させる封入機構と、
を備え、
前記封入機構は、前記第1のブラケットまたは前記第2のブラケットのいずれか一方に設けられている、緩衝装置。
【請求項2】
前記封入機構は、前記第2のブラケットに設けられ、前記第2の気体室へ前記ガス流体を封入させる、
請求項1に記載の緩衝装置。
【請求項3】
前記封入機構は、少なくとも前記第1のブラケットに設けられ、前記第1の気体室または前記第2の気体室のいずれか一方へ前記ガス流体を封入させる、
請求項1に記載の緩衝装置。
【請求項4】
前記封入機構は前記第1のブラケットまたは前記第2のブラケットのいずれか一方の内部に設けられている、
請求項1に記載の緩衝装置。
【請求項5】
前記封入機構の延びる方向は前記第1のブラケットおよび前記第2のブラケットの軸心が延びる方向と平行である、
請求項1に記載の緩衝装置。
【請求項6】
請求項1に記載の緩衝装置を二つ備え、前記二つの緩衝装置を直列に連接した緩衝装置。
【請求項7】
請求項1に記載の緩衝装置を備えた車両。
【請求項8】
両端もしくは一端が閉口したシリンダの内部にピストンを配設する第1工程と、
前記シリンダの両端もしくは他端を閉口し、前記ピストンにより前記シリンダの軸方向に隔絶され互いに密閉された第1気体室および第2気体室を形成する第2工程と、
前記第1の気体室および前記第2の気体室のうちいずれか一方の気体室へ所定の気圧までガス流体を封入させることで、他方の気体室内のガス流体を所定の気圧まで圧縮させる第3工程と、
を備えた緩衝装置の組み立て方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−71396(P2010−71396A)
【公開日】平成22年4月2日(2010.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−240082(P2008−240082)
【出願日】平成20年9月18日(2008.9.18)
【出願人】(000010076)ヤマハ発動機株式会社 (3,045)
【Fターム(参考)】