説明

繊維強化樹脂複合材料及びそれを成形してなる成形品

【課題】軽量かつ耐衝撃性、材料の飛散防止性能に優れると共に、プレス成形が困難な凹凸の多い成形品等を成形する際の賦形性に優れる、繊維強化樹脂複合材料を提供する。また、繊維強化樹脂複合材料を成形してなる、軽量で、耐衝撃性、材料の飛散防止性能及び外観に優れる成形品を提供する。
【解決手段】繊度が200dtex〜900dtexの高強度かつ高弾性率の有機繊維糸条よりなる目付(単位面積当りの重量)が50g/m〜200g/mの3軸織物を、強化繊維が炭素繊維よりなる目付が50g/m〜500g/mの織物で、マトリックス樹脂が熱硬化性樹脂で、かつ樹脂の重量含有率が30%〜70%である樹脂シートの少なくとも片面に、積層一体化してなる繊維強化樹脂複合材料、並びに、該材料を成形してなる成形品。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維強化樹脂複合材料に関する。特に、スーツケース、アタッシュケース等の鞄やタンクのボディ、家電製品の部材やハウジング材等に適した、軽量かつ耐衝撃性に優れた繊維強化樹脂複合材料に関する。
【背景技術】
【0002】
強化繊維として炭素繊維を用いた繊維強化複合材料は、その優れた耐衝撃性ゆえに、航空機の翼や胴体などに使用されている。しかし、炭素繊維強化複合材料は、強化繊維の弾性が乏しいため、耐衝撃性はあるが材料が割れ易く、破壊に至った際に材料が飛散する等の問題点がある。
【0003】
かかる事情より、耐衝撃性を改良した繊維強化複合材料が提案されている(例えば、特許文献1,2等)。特許文献1には、難燃性かつ耐衝撃性の繊維強化樹脂複合材料が記載されている。特許文献2には、ハニカム構造体の両面に繊維強化複合材を配置した積層構造体が記載されている。
【0004】
しかし、特許文献1,2に記載された材料は、万一破壊に至った際には破片が飛散することになる。
【0005】
特許文献3には、金属板と繊維強化樹脂組成物が、発泡樹脂組成物を介して接合されている金属樹脂複合構造体が記載されている。
【0006】
しかし、構造体の表面に金属板を設けた場合には、耐衝撃性は向上するものの、重量が増大する。
【0007】
特許文献4には、破断伸びと弾性率が大きい繊維を束ね、引き揃えた糸条にて形成されたメッシュ状体を、強化繊維として炭素繊維を用いた繊維強化複合材料の少なくとも一側の面に一体的に設けた複合材が記載されている。
【0008】
しかし、この複合材を用いて複雑な形状を有する成形品、或いは凹凸の多い成形品等を成形した場合には、成形品の角部や凹凸部における糸条の追従性が悪いために、角部や凹凸部で糸条が偏在する現象が起きる(即ち、賦形性が悪い)。そのため、成形品の表面外観が損なわれる。更に、成形品の角や凹凸部が極端に割れ易くなる。
【特許文献1】特開平11−147965号公報
【特許文献2】特開2007−215328号公報
【特許文献3】特開2007−196545号公報
【特許文献4】特開2005−193628号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明者等は、繊維強化樹脂複合材料を用いて、複雑な形状や凹凸の多い成形品を成形する際に生じ易い問題点の改善策を検討した。そして、炭素繊維強化複合材料と高強度高弾性率繊維とを組合せ、かつ該繊維糸条の繊度を小さくすれば、高強度高弾性率繊維が有する靭性が機能しやすくなり、これにより、糸条の偏在の解消と耐衝撃性の向上、材料破壊に至った際の材料の飛散防止が可能となることに着目した。
【0010】
このとき、上記の繊維糸条を用いて織編物を作製することが可能であるが、編物は1本の連続繊維で形成されているため、外部から破壊応力が加わるとその応力が繊維を伝播してしまい、破断伸びと引張弾性率が大きい繊維を用いても耐衝撃性は不十分である。
【0011】
ところで、2軸織物は、織糸が経糸、緯糸として互いに直交する0°、90°の2方向のみに延在しているため、そのまま積層したのでは複合材料の異方性が著しく大きくなる。それを防ぐために、繊維強化複合材料では、織物を互いに45°づつずらして積層するのが一般的である。
【0012】
しかしながら、0°、90°に織糸が配向した通常の織物から、45°方向に織物を裁断できる寸法には制限があるため、桁材のように長い複合材料を成形するときには織物を互いに繋ぎ合わせることが必要となる。そのため、成形品では繊維が途中で切断された状態にあり、結局は、耐衝撃性の低いものしか得られなくなる。
【0013】
また、実際に成形品を成形するときには、組合せに用いる織物の配向角と、炭素繊維強化複合材料に用いられた炭素繊維織物の配向角を考慮しながら積層することが必要となる。しかし、0°、90°に織糸が配向した通常の織物では45°方向にしかずらすことができず、45°方向以外にずらそうとすると、所望の角度になるよう裁断しなければならないため、製造時の経済性及び作業性に劣ることになる。
【0014】
本発明は、上記した従来の炭素繊維強化複合材料における問題点を解決し、軽量かつ耐衝撃性、材料の飛散防止性能に優れると共に、プレス成形が困難な凹凸の多い成形品等を成形する際の賦形性に優れる、繊維強化樹脂複合材料を提供することを目的とする。本発明は、又、繊維強化樹脂複合材料を成形してなる、軽量で、耐衝撃性、材料の飛散防止性能及び外観に優れる成形品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
すなわち、本発明は以下の通りである。
(1)繊度が200dtex〜900dtexの高強度かつ高弾性率の有機繊維糸条よりなる目付(単位面積当りの重量)が50g/m〜200g/mの3軸織物を、
強化繊維が炭素繊維よりなる目付が50g/m〜500g/mの織物で、マトリックス樹脂が熱硬化性樹脂で、かつ樹脂の重量含有率が30%〜70%である樹脂シートの少なくとも片面に、
積層一体化してなることを特徴とする繊維強化樹脂複合材料。
(2)有機繊維が、アラミド繊維、ポリパラフェニレンベンズビスオキサゾール繊維、全芳香族ポリエステル繊維及び高強度ポリエチレン繊維から選ばれたいずれかの繊維である前記(1)記載の繊維強化樹脂複合材料。
(3)熱硬化性樹脂がエポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂又はフェノール樹脂である前記(1)又は(2)記載の繊維強化樹脂複合材料。
(4)前記(1)〜(3)いずれか記載の繊維強化樹脂複合材料を成形してなる成形品。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、軽量で、成形時の賦形性が良好であり、衝撃が加わった際に炭素繊維強化複合材料では吸収しきれなかった衝撃を、3軸織物が吸収するため、耐衝撃性が良好で、万一材料破壊に至った際にも材料の飛散を防止することが可能な、繊維強化樹脂複合材料を提供することができる。この繊維強化樹脂複合材料を成形してなる成形品は、軽量で、耐衝撃性、材料の飛散防止性能及び製品外観に優れている。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
図1は本発明で用いる3軸織物を示す図である。図中、1は緯糸、2は経糸を表わしている。緯糸及び経糸は、繊度が200dtex〜900dtexの、高強度かつ高弾性率の有機繊維よりなる糸条である。繊度が200dtex以上であれば、耐衝撃性及び飛散防止性が良好になり、繊度が900dtex以下であれば、成形品の賦形性が悪化することがない。
【0018】
3軸織物の目付(単位面積当りの重量)は50g/m〜200g/mである。目付が50g/m以上200g/m以下であれば、繊維強化樹脂複合材料の耐衝撃性及び飛散防止性、並びに成形品の賦形性が良好になる。
【0019】
かかる3軸織物は、繊度が200dtex〜900dtexの高強度かつ高弾性率の有機繊維よりなる糸条を用い、3軸織機により製織することにより製造することができる。
【0020】
高強度かつ高弾性率の有機繊維としては、アラミド繊維、ポリパラフェニレンベンズビスオキサゾール(PBO)繊維、全芳香族ポリエステル繊維及び高強度ポリエチレン繊維から選ばれたいずれかの繊維を用いることが好ましい。かかる有機繊維は、単糸の引張強度が15cN/dtex以上で、単糸の引張弾性率が400cN/dtex以上であることが好ましい。
【0021】
3軸織物を積層する樹脂シートは、強化繊維が連続する炭素繊維よりなる目付が50g/m〜500g/mの織物で、マトリックス樹脂が熱硬化性樹脂で、かつ樹脂の重量含有率(Rc)が30%〜70%である。かかる樹脂シートは、炭素繊維織物にマトリックス樹脂を含浸させて作製される。
【0022】
マトリックス樹脂は熱硬化性を用いる。かかる熱硬化性樹脂としては、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂、フェノール樹脂等が挙げられる。
【0023】
炭素繊維織物としては、2軸織物、3軸織物、多軸織物等が挙げられる。炭素繊維織物の目付は、好ましくは100g/m〜500g/m、特に好ましくは100g/m〜400g/mである。
【0024】
本発明の繊維強化樹脂複合材料を得るには、炭素繊維織物を1枚又は2枚以上積層したものに熱硬化性樹脂を含浸させた、未硬化の樹脂シートを作製する。そして、その表面(片面又は両面)に、3軸織物に熱硬化性樹脂を含浸させた未硬化のシートを配置し、オートクレーブ等を用いて加熱・硬化させ、樹脂シートと3軸織物とを積層一体化させる。また成形品は、オートクレーブ内において加熱及び加圧しながら真空成形することにより、製造することができる。この場合、繊維強化樹脂複合材料(即ち、成形品)の厚さが0.1〜2mmになるように製造することが推奨される。
【0025】
樹脂シートの片面に3軸織物を積層一体化して成形品を製造する場合、3軸織物は成形品のどちら側の面に配置されていても良い。材料の飛散を有効に防止するためには、3軸織物を、外部からの衝撃を受ける側と反対側に配置するのが効果的である。
【実施例】
【0026】
次に、本発明を実施例を用いてより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例にのみ限定されるものではない。
【0027】
(実施例1)
炭素繊維平織布帛(丸八株式会社製、目付200g/m、厚さ0.25mm)に、ビスフェノールA型エポキシ樹脂を含浸させたものを2枚用意し、それらを[(0/90)/±45°]の積層構成に積層して、樹脂含有率(Rc)40%、厚さ約0.55mmのプリプレグ(目付668g/m)を作製した。
【0028】
単糸繊度1.65dtexのパラ系アラミド繊維(KEVLAR(R)29)を束ねた繊度800dtexの糸条を用いて作製した、織物密度9本/インチの3軸織物(目付92.4g/m、厚さ0.12mm)に、ビスフェノールA型エポキシ樹脂を含浸させ、樹脂含有率(Rc)40%のプリプレグ(目付168g/m)を作製した。このプリプレグを、上記で得たプリプレグの片面に重ね、オートクレーブ内で130℃×300分、圧力3MPaで加熱及び加圧しながら真空成形して、繊維強化樹脂複合材料からなる、スーツケースのボディとなる成形品を得た。
【0029】
(比較例1)
単糸繊度1.65dtexのパラ系アラミド繊維(KEVLAR(R)29)を束ねた繊度1100dtexの糸条を用いて作製した、織物密度9本/インチの3軸織物(目付239g/m、厚さ0.50mm)に、実施例1同様、エポキシ樹脂を含浸させ、樹脂含有率(Rc)40%のプリプレグを作製した。このプリプレグを、実施例1と同様の方法で作製した、炭素繊維平織布帛を強化繊維として用いたプリプレグの片面に重ね、オートクレーブ内で130℃×300分、圧力3MPaで加熱及び加圧しながら真空成形して、繊維強化樹脂複合材料からなる、スーツケースのボディとなる成形品を得た。しかし、成形品の角の部分にアラミド繊維が偏ってしまい、成形品としての外観に劣るものであった。
【0030】
(比較例2)
実施例1で用いた、炭素繊維平織布帛にエポキシ樹脂を含浸させ2枚積層し、樹脂含有率(Rc)40%、厚さ約0.55mmのプリプレグ(目付668g/m)を作製した。このプリプレグを実施例1と同様の条件にて、加熱及び加圧しながら真空成形して、スーツケースのボディとなる成形品を得た。
【0031】
(比較例3)
炭素繊維綾織布帛(丸八株式会社製、目付420g/m)に、ビスフェノールA型エポキシ樹脂を含浸させ、樹脂含有率(Rc)40%、厚さ約0.56mmのプリプレグ(目付700g/m)を作製した。このプリプレグと、実施例1と同様の方法で得た、炭素繊維平織布帛を用いたプリプレグ(目付334g/m)とを、[(0/90)/±45°]の積層構成に積層し、プリプレグを作製した。このプリプレグを実施例1と同様の条件にて、加熱及び加圧しながら真空成形して、スーツケースのボディとなる成形品を得た。
【0032】
(比較例4)
ポリカーボネート樹脂板(厚さ1mm)を1枚用いた。
【0033】
(耐衝撃性)
パンクチャー衝撃試験を以下の方法で実施した。尚、試験用のサンプルは、上記の実施例及び比較例で作製した成形品から、中央平面部付近から約100mm×100mmの大きさに切り出したものを用いた。
ASTM3763−06に準拠し、試験条件はφ12.7mmの半球型ストライカ、φ76mmの受け押え板を用い、打ち抜き速度3.4m/sで実施した。3軸織物を積層したサンプルは、3軸織物がストライカと反対側になるように配置した。
【0034】
(賦形性)
成形品の表面外観、特に角の部分における表面外観を目視観察した。
【0035】
実施例及び比較例で作製した繊維強化樹脂複合材、及びその性能評価結果を、表1にまとめて示す。
【0036】
【表1】

【0037】
表1の結果から本発明の繊維強化樹脂複合材料は、実施例1に見られるように最大衝撃点応力が、3軸織物を積層していない比較例2より優れており、ストライカで完全に打ち抜いた時にもサンプルが飛散しなかった。図2は試験開始前、図3は試験終了後のサンプルの表面を写真撮影したものである。一方、比較例2〜3では、ストライカで打ち抜いた際にサンプルが破壊、飛散した。
【0038】
また、本発明の繊維強化樹脂複合材料で成形した鞄は、外観及び表面光沢も良好であった。これに対し、3軸織物に用いた糸条の繊度が大きい場合(比較例1)は、成形品の角にアラミド繊維が偏在しており、外観不良であった。このように、アラミド繊維が偏在している成形品は、鞄の角がコンクリート構造物等に衝突したり、鞄の角に衝撃が加わったりした際に、鞄の角が割れるおそれがある。
【0039】
また、従来より鞄成形用材料として用いられているポリカーボネート樹脂板は、最大衝撃点応力及び最大衝撃点変位が大きく、ストライカの衝撃によって材料が伸びた。
【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明の繊維強化樹脂複合材料は、軽量で、耐衝撃性、飛散防止性、賦形性に優れているため、プレス成形が困難な、アタッシュケース、スーツケース等の鞄のボディ、タンクのボディ、自動車、列車、航空機等の内装部品や構造部品、家電製品の部材やハウジング材、インテリア材、防護材、家具、楽器、家庭用品等、各種成形品に好適に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】3軸織物を示す図である。
【図2】実施例1の繊維強化樹脂複合材料の表面である。
【図3】ストライカ打ち抜き後の、実施例1の繊維強化樹脂複合材料の表面である。
【符号の説明】
【0042】
1 緯糸
2 経糸

【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊度が200dtex〜900dtexの高強度かつ高弾性率の有機繊維糸条よりなる目付(単位面積当りの重量)が50g/m〜200g/mの3軸織物を、
強化繊維が炭素繊維よりなる目付が50g/m〜500g/mの織物で、マトリックス樹脂が熱硬化性樹脂で、かつ樹脂の重量含有率が30%〜70%である樹脂シートの少なくとも片面に、
積層一体化してなることを特徴とする繊維強化樹脂複合材料。
【請求項2】
有機繊維が、アラミド繊維、ポリパラフェニレンベンズビスオキサゾール繊維、全芳香族ポリエステル繊維及び高強度ポリエチレン繊維から選ばれたいずれかの繊維である請求項1記載の繊維強化樹脂複合材料。
【請求項3】
熱硬化性樹脂がエポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂又はフェノール樹脂である請求項1又は2記載の繊維強化樹脂複合材料。
【請求項4】
請求項1〜3いずれか記載の繊維強化樹脂複合材料を成形してなる成形品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−107233(P2009−107233A)
【公開日】平成21年5月21日(2009.5.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−282548(P2007−282548)
【出願日】平成19年10月31日(2007.10.31)
【出願人】(000219266)東レ・デュポン株式会社 (288)
【出願人】(399070044)株式会社ヤマニ (7)
【出願人】(500152267)丸八株式会社 (12)
【出願人】(591051874)サカセ・アドテック株式会社 (5)
【出願人】(507155203)有限会社エー・テック (8)
【Fターム(参考)】