説明

繊維強化熱可塑性樹脂の製造方法、該製造方法により得られた繊維強化熱可塑性樹脂およびこれを用いた成形品

【課題】ボイドなどの空隙が少なく、繊維含有率が良好で、繊維蛇行のない繊維強化熱可塑性樹脂の製造方法を提供する。
【解決手段】長繊維からなる強化繊維で構成される強化繊維シート10の一方の面に、熱可塑性樹脂からなる熱可塑性樹脂層11を配置し、前記強化繊維シート10の他方の面に、前記熱可塑性樹脂が溶融する温度で溶融しない材料からなる網状シート12を配置し、積層物を得る配置工程と、前記熱可塑性樹脂は溶融し、前記網状シート12は溶融しない温度で、前記積層物を加熱するとともに加圧して、前記熱可塑性樹脂を前記強化繊維シート10と前記網状シート12とに含浸する含浸工程を有する、繊維強化熱可塑性樹脂の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は繊維強化熱可塑性樹脂の製造方法と、該製造方法により得られた繊維強化熱可塑性樹脂およびこれを用いた成形品に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、部品の材質を金属から樹脂へと変更することが様々な分野で行われてきている。特に、ノートパソコン筺体や競技用自転車などの分野においては、従来使用されてきたマグネシウム合金等の金属に替わりうる剛性、耐衝撃性を備え、かつ、軽量である樹脂成形品が求められている。
そこで、剛性、耐衝撃性の点から、強化繊維によって補強された繊維強化樹脂が一般に使用されている。また、その際、軽量性の点から、強化繊維として炭素繊維が用いられることが多い。
【0003】
繊維強化樹脂には、マトリックス樹脂として熱可塑性樹脂が用いられた繊維強化熱可塑性樹脂がある。
繊維強化熱可塑性樹脂の製造方法としては、溶剤に熱可塑性樹脂を溶解し、得られた樹脂溶液を強化繊維ファブリックに含浸させた後、溶剤を揮発させる方法がある。ところが、この方法では、溶剤を完全に揮発させることが困難であり、その結果、残留した溶剤が繊維強化熱可塑性樹脂の力学的性質を低下させてしまうという問題があった。さらに、揮発した溶剤は回収されて再利用されるため、このように残留して回収不能な溶剤が増加すると、製造コストの点で不利である。
【0004】
そこで、溶剤を使用せずに繊維強化熱可塑性樹脂を製造する方法として、熱可塑性樹脂を加熱してその樹脂粘度を低下させ、強化繊維に含浸する方法が採用される場合が多い。
例えば、特許文献1には、不織布の形態とした熱可塑性樹脂を強化繊維シートに重ねて加熱、加圧することにより、強化繊維の配向を乱すことなく、熱可塑性樹脂を良好に含浸できるという、プリプレグ状の繊維強化熱可塑性樹脂の製造方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003−165851号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1の方法では、熱可塑性樹脂からなる不織布を強化繊維シートの両面に配置して加熱、加圧するために、強化繊維シートから空気が抜けにくい。そのため、得られた繊維強化熱可塑性樹脂中にはボイドなどの空隙が残存してしまい、これを成形材料として得られる成形品の強度や弾性率が低下するという問題があった。
ボイドなどの空隙を減少させるためには、例えば、不織布の厚みを大きくするなどして熱可塑性樹脂の仕込み量を多くし、樹脂フローの量(樹脂の流動の度合い)を十分にとる方法も考えられる。熱可塑性樹脂は、その流動により、強化繊維間に存在する空隙へ繊維方向に沿って押し流されるため、樹脂フローの量が大きいと空隙が減少することが期待される。ところが、このような方法で得られた繊維強化熱可塑性樹脂においては、含有する熱可塑性樹脂量が多いことに起因する繊維蛇行が発生しやすく、そのような繊維強化熱可塑性樹脂から成形された成形品は、強度や剛性が不十分になりやすいという問題があった。
【0007】
本発明は上記事情に鑑みてなされたもので、本発明の目的は、ボイドなどの空隙が少なく、繊維含有率が良好で、繊維蛇行のない繊維強化熱可塑性樹脂の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の繊維強化熱可塑性樹脂の製造方法は、長繊維からなる強化繊維で構成される強化繊維シートの一方の面に、熱可塑性樹脂からなる熱可塑性樹脂層を配置し、前記強化繊維シートの他方の面に、前記熱可塑性樹脂が溶融する温度で溶融しない材料からなる網状シートを配置し、積層物を得る配置工程と、前記熱可塑性樹脂は溶融し、前記網状シートは溶融しない温度で、前記積層物を加熱するとともに加圧して、前記熱可塑性樹脂を前記強化繊維シートと前記網状シートとに含浸する含浸工程を有する。
前記積層物の冷却後、前記熱可塑性樹脂が含浸した前記網状シートを前記積層物から剥離する剥離工程を有することが好ましい。
前記熱可塑性樹脂層は、熱可塑性樹脂フィルムからなることが好ましい。
本発明の製造方法により製造された繊維強化熱可塑性樹脂は、成形品の成形材料として好適である。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、ボイドなどの空隙が少なく、繊維含有率が良好で、繊維蛇行のない繊維強化熱可塑性樹脂を製造できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】配置工程を説明する説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を詳細に説明する。
(配置工程)
本発明の繊維強化熱可塑性樹脂の製造方法は、強化繊維シートの一方の面に熱可塑性樹脂からなる熱可塑性樹脂層を配置し、他方の面に網状シートを配置し、熱可塑性樹脂層、強化繊維シート、網状シートが順次重ねられて積層した積層物を得る配置工程を有する。
【0012】
強化繊維シートは、長繊維である強化繊維で構成されたシート状物であって、強化繊維としては、例えば炭素繊維、アラミド繊維、ボロン繊維、スチール繊維、PBO繊維、高強度ポリエチレン繊維、ガラス繊維などを例示でき、これらを1種以上使用できる。これらのなかでも、高弾性率及び高強度の繊維強化熱可塑性樹脂を得るためには、炭素繊維を使用することが好ましい。また、強化繊維には、収束性の点から、通常サイズ剤が塗布されているが、サイズ剤の付着量は、熱可塑性樹脂の強化繊維シートへの含浸性を良好とする点から、サイズ剤が塗布された強化繊維の質量を100質量%とした際に1.5質量%以下が好ましく、0.5質量%以下がさらに好ましい。
【0013】
強化繊維シートの具体的な形態としては、長繊維からなる強化繊維が一方向に引き揃えられたシート、平織、綾織、朱子織などの織物からなるシートが例示できる。また、強化繊維シートは繊維方向に適度な張力が加えられて、蛇行が抑制されたものが好ましい。強化繊維シートの繊維目付は、強化繊維に由来する特性が十分に発揮され、かつ、強化繊維シートの厚みが比較的小さく、熱可塑性樹脂が容易に含浸し易い点から、50〜200g/mの範囲が好ましく、100〜150g/mがさらに好ましい。
【0014】
強化繊維シートの一方の面に配置される熱可塑性樹脂層は、繊維強化熱可塑性樹脂のマトリックス樹脂を構成するものであって、熱可塑性樹脂としては、ポリプロピレン、ポリアミド、ABS、ポリカーボネートなどが挙げられ、加熱により、粘度が低下する樹脂であればよい。
熱可塑性樹脂層の具体的な形態としては、公知のフィルム成形法により成形された熱可塑性樹脂フィルムからなる層、熱可塑性繊維が交差した網などにより製造された熱可塑性樹脂の網状シート(メッシュ)からなる層、熱可塑性樹脂からなる粉末(パウダー)が均一に振りかけられて形成された層などを例示できる。これらのうち、強化繊維シートへの含浸性(含浸しやすさ)の点では、粉末から形成された層が好ましく、含浸の均一性の点では熱可塑性樹脂フィルムからなる層が好ましい。
【0015】
熱可塑性樹脂層がフィルムにより構成される場合には、厚みが均一で、熱による収縮の少ない無延伸フィルムを用いることが好ましい。
また、得られる繊維強化熱可塑性樹脂中における強化繊維の含有率(繊維含有率)は、体積分率で40〜60%であることが、繊維強化熱可塑性樹脂の強度などの点から好ましいため、繊維含有率がこのような範囲となるように、フィルムの厚みを予め設定しておくことが好ましい。
【0016】
強化繊維シートの他方の面に配置される網状シートは、後述の含浸工程において、熱可塑性樹脂が溶融する温度に積層物が加熱された際に溶融しない、耐熱性を備えた材料から構成される網状のものである。
網状シートの材質は、熱可塑性樹脂層を構成する熱可塑性樹脂の種類に応じて選択され、通常、熱可塑性樹脂よりも融点が高い樹脂材料が選択される。
具体的には、熱可塑性樹脂層を構成する熱可塑性樹脂として、ホモポリプロピレンが使用される場合には、網状シートとしては、例えばポリエステル、ポリテトラフルオロエチレンなどのフッ素樹脂などからなるものが好適に使用される。また、熱可塑性樹脂としてポリアミドが使用される場合には、ポリテトラフルオロエチレンなどのフッ素樹脂、ガラス、金属などからなるものが好適に使用される。
また、網状シートは、通常、含浸工程後の剥離工程で積層物から剥離されるものであるため、網状シートにおいて強化繊維シートと接する側の面には、強化繊維シートやこれに含浸した熱可塑性樹脂から離型しやすい離型処理が予め施されていることが好ましい。
【0017】
網状シートの構成に制限はなく、市販されているものから適宜選択すればよい。例えば、経糸および緯糸の糸密度がそれぞれ40〜120本/2.54cm、厚み0.05〜0.5mm、目付け50〜150g/m等の規格のものが使用できる。
【0018】
(含浸工程)
含浸工程では、熱可塑性樹脂層を構成する熱可塑性樹脂は溶融し、一方、網状シートは溶融しない温度で、積層物を加熱するとともに加圧して熱可塑性樹脂を溶融させて、熱可塑性樹脂を強化繊維シートと網状シートとに含浸する。
【0019】
積層物の加熱及び加圧は、例えば、加熱冷却二段式プレスなどの加熱加圧プレスやダブルベルトプレスを用いて行うことができる。その際、具体的には、まず非加圧下で、熱可塑性樹脂の粘度が十分に低下するような溶融温度で積層物を加熱し、熱可塑性樹脂の粘度が十分に低下した後、加圧することが好ましい。
加熱温度は、熱可塑性樹脂が強化繊維シートに含浸するように、その粘度が十分に低下する温度に設定する。ただし、過度に加熱すると、熱可塑性樹脂が劣化する可能性がある。これらの観点から、例えば熱可塑性樹脂がホモポリプロピレンの場合には、加熱温度としては180〜230℃が好適である。
圧力は0.1〜10MPaが好ましく、加圧時間は、10〜20分間程度が好ましい。
積層物の冷却は、冷却部分を備えた加熱加圧プレスで加熱及び加圧した場合には、その冷却部分で冷却し、ダブルベルトプレスで加熱及び加圧した場合には、ダブルベルトプレスの後段に、積層物を冷却可能な冷却部を設け、加熱後に連続して冷却することが好ましい。
【0020】
(剥離工程)
含浸工程後には、通常、剥離工程を行う。剥離工程では、積層物が例えば30〜130℃まで冷却された後、積層物から、熱可塑性樹脂が含浸した網状シートを剥離する。その結果、強化繊維シートに熱可塑性樹脂層の熱可塑性樹脂が含浸したシート状の繊維強化熱可塑性樹脂を得ることができる。網状シートの剥離は、手で行ってもよいし、ペンチなどを用いて行ってもよく、網状シートにおける離型処理の有無などに応じて、適宜行えばよい。
【0021】
以上説明した製造方法では、強化繊維シートにおいて熱可塑性樹脂層が配置されていない面側に、網状シートを配置して含浸工程を行う。そのため、繊維強化熱可塑性樹脂中の空隙を低減しようとして、熱可塑性樹脂層の厚みを大きくするなどして樹脂フローの量を大きくとったとしても、余分な熱可塑性樹脂は強化繊維シートから網状シートに移行してその網目に保持されるため、剥離工程を経て得られた繊維強化熱可塑性樹脂中の熱可塑性樹脂量は低くなる。よって、このようにして製造された繊維強化熱可塑性樹脂は、繊維含有率が高く強度が優れ、含有する熱可塑性樹脂量が多いことに起因する繊維蛇行が抑制され、しかも、ボイドなどの空隙が少なく含浸性も良好である。なお、含浸性が良好とは、繊維強化熱可塑性樹脂中における空隙の存在割合が、体積分率で10%以下であることであり、好適には5%以下である。
【0022】
このような製造方法で製造された繊維強化熱可塑性樹脂は、例えば、軽量で耐衝撃性が必要な部材であるヘルメット、防弾チョッキ、安全靴の先端部、各種スポーツで使用されるプロテクタなどの保護具をはじめとして、各種成形品の成形材料として好適に使用される。
【実施例】
【0023】
[実施例1]
以下のようにして、繊維強化熱可塑性樹脂を製造した。
(1)強化繊維として、炭素繊維フィラメント12000本を収束してなる炭素繊維(三菱レイヨン株式会社製、パイロフィルTR50S)を用い、繊維目付150g/mの一方向炭素繊維シート(強化繊維シート)を作製した。なお、サイズ剤の付着量は0.4質量%であった。
(2)熱可塑性樹脂として、ホモポリプロピレン((株)プライムポリマー製、J108M、メルトフローレイト45g/10分)を用い、厚みが約100μm(約90g/m)の無延伸フィルムを加熱加圧プレスにより製造した。
なお、ホモポリプロピレンフィルムの厚みは、得られる繊維強化熱可塑性樹脂中の繊維含有率が体積分率で約45%となるように、約100μm(約90g/m)に設定した。
(3)網状シートとして、以下の糸密度、厚み、目付けを有するポリエステルメッシュ(エアテック社製 リリースプライC(商品名))を用いた。
糸密度:経糸100本/2.54cm、緯糸85本/2.54cm
厚み:0.09mm
目付け:61g/m
【0024】
図1に示すように、強化繊維シート10の一方の面にホモポリプロピレンフィルム11を配置し、他方の面に網状シート12を配置して、これらを重ねた(配置工程)。
ついで、加熱冷却二段式プレスを用いて、この積層物を200℃で加熱し、5分間経過してから3MPaで10分間加圧を行い、ホモポリプロピレンフィルムを溶融させて、強化繊維シートに含浸させた(含浸工程)。なお、この温度では、ホモポリプロピレンは溶融し、ポリエステルメッシュは溶融しない。
その後、加熱冷却二段式プレスの装置内の冷却部分で積層物を30℃以下になるまで冷却してから、ホモポリプロピレンを含んだポリエステルメッシュを剥離して、シート状の繊維強化熱可塑性樹脂を得た。
得られた繊維強化熱可塑性樹脂は、ボイドなどの空隙が少なく含浸性が良好で、繊維含有率が高く、繊維蛇行も少なく、成形品材料として好適なものであった。
【符号の説明】
【0025】
10 強化繊維シート
11 ホモポリプロピレンフィルム(熱可塑性樹脂層)
12 網状シート

【特許請求の範囲】
【請求項1】
長繊維からなる強化繊維で構成される強化繊維シートの一方の面に、熱可塑性樹脂からなる熱可塑性樹脂層を配置し、前記強化繊維シートの他方の面に、前記熱可塑性樹脂が溶融する温度で溶融しない材料からなる網状シートを配置し、積層物を得る配置工程と、
前記熱可塑性樹脂は溶融し、前記網状シートは溶融しない温度で、前記積層物を加熱するとともに加圧して、前記熱可塑性樹脂を前記強化繊維シートと前記網状シートとに含浸する含浸工程を有する、繊維強化熱可塑性樹脂の製造方法。
【請求項2】
前記積層物の冷却後、前記熱可塑性樹脂が含浸した前記網状シートを前記積層物から剥離する剥離工程を有する、請求項1に記載の繊維強化熱可塑性樹脂の製造方法。
【請求項3】
前記熱可塑性樹脂層は、熱可塑性樹脂フィルムからなる、請求項1または2に記載の繊維強化熱可塑性樹脂の製造方法。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれか一項に記載の製造方法により製造された繊維強化熱可塑性樹脂。
【請求項5】
請求項4に記載の繊維強化熱可塑性樹脂からなる成形品。

【図1】
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【公開番号】特開2011−224866(P2011−224866A)
【公開日】平成23年11月10日(2011.11.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−96944(P2010−96944)
【出願日】平成22年4月20日(2010.4.20)
【出願人】(000006035)三菱レイヨン株式会社 (2,875)
【Fターム(参考)】