説明

耐ねじり疲労特性に優れた電縫鋼管及びその製造方法

【課題】ドライブシャフトとして必要とされる耐疲労特性を保証された、耐ねじり疲労特性に優れた電縫鋼管の製造方法を提供する。
【解決手段】母材部の組成が、C:0.25〜0.55%、Si:0.01〜1.0%、Mn:0.2〜3.0%、Al:0.1%以下、N:0.0010〜0.0100%を含み残部Fe及び不可避的不純物である電縫鋼管であって、電縫溶接部への溶接欠陥の投影面積である溶接欠陥面積が40000μm未満であることを特徴とする耐ねじり疲労特性に優れた電縫鋼管。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐ねじり疲労特性に優れた電縫鋼管及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車産業では、軽量化と剛性アップを両立させるために、ドライブシャフトも中空化が進められている。この中空化にあたっては素材に継目無鋼管を用いることが行われている。例えば、特許文献1には、鋼組成を所望範囲内に制御したシームレス鋼管を素材とし、焼入れ後のオーステナイト結晶粒度番号が9以上である優れた冷間加工性、焼入れ性、靭性、およびねじり疲労強度を兼ね備え、安定した疲労寿命を発揮する中空駆動軸が記載されている。しかしながら、継目無鋼管にはその製造方法上、表面脱炭や表面疵が大きくて十分な耐疲労特性を得るためには表面を研磨、研削しなければならないという問題や、偏心偏肉があって回転物には必ずしも適さないという問題があった。
【0003】
一方、これらの問題の少ない電縫鋼管をドライブシャフト用途に用いることが検討されてきた。例えば、特許文献2には、鋼組成を所望範囲内に制御した電縫鋼管を素材とし、これに焼入れ、焼戻し処理を施すことで、旧オーステナイト粒径が10μm以下となる硬化部が鋼管のC断面(管長さ方向直交断面)面積の30%以上形成された鋼組織を有することを特徴とする耐遅れ破壊特性に優れた高強度鋼管が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開W02006/104023号公報
【特許文献2】特開2008-274344号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来の電縫鋼管においては、電縫溶接部に該電縫溶接時の酸化物が残ったり、溶接時のアップセット(衝合・圧接)で被溶接部(素材鋼板の被衝合板幅端部)近傍の介在物が立ち上がったりするという問題があって、ドライブシャフトとして必要な耐疲労特性を必ずしも保証できないという問題があった。
本発明は上記の課題を解決すべく、鋼板を素材とした電縫鋼管において、電縫溶接部(被溶接端部を電縫溶接結合してなる結合面)の酸化物、介在物等の欠陥を検出し、これを管理することで、焼入れ、あるいはさらに必要に応じ焼戻し処理を施した後にドライブシャフトとして必要とされる耐疲労特性を保証された、耐ねじり疲労特性に優れた電縫鋼管を、その好ましい製造方法と共に提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
発明者らは電縫鋼管をドライブシャフトに適用する場合に問題となる電縫溶接部近傍の欠陥について検討を行った。電縫鋼管を造管する前の鋼帯の段階で、鋼帯の片側端面(溶接部に相当する位置)に対し、ドリルによりサイズの異なる疵を加工した後、電縫溶接を行った。その後、電縫鋼管を焼入れ、焼戻しした後に、ねじり疲労試験を行い、電縫溶接部の欠陥サイズとねじり疲労強度の関係を調査した結果を図1に示す。ここで、電縫溶接部の欠陥サイズは、後述の溶接欠陥面積で表した。
【0007】
電縫溶接部の欠陥サイズは次のようにして求めた。
・ねじり疲労試験で電縫溶接部の欠陥を割れ起点として破断したサンプルについては、破面を走査型電子顕微鏡(SEM)により直接観察することにより欠陥サイズを求めた。
・電縫溶接部の欠陥部で割れずに、それ以外の部分で割れてしまったものについては、電縫溶接部の欠陥部をシームスライス材Cスキャン法(略してCスキャン法)により調査することで欠陥サイズを求めた。
【0008】
この調査では、まず、図2に示すように、電縫鋼管1のシーム(電縫溶接部)2から所定の距離(この場合、8mm)だけ離れた位置でスライスした溶接部のサンプル3について、シーム部を、点集束型超音波探触子4でCスキャン(走査方向5に沿って走査)して探傷し、信号強度を測定した。
ここで、電縫鋼管の溶接条件は、通常の電縫溶接条件と、微小欠陥量が極力少なくなるように溶接入熱とアプセット量を調整する条件とを含み、種々変化させた。また、点集束型超音波探触子には10MHzビームサイズ1.2mm×1.2mmのものを使用し、φ1.6mmのドリルホールからのエコー高さが80%となるように感度を調整し、その後、10倍にゲインアップして探傷を行った。この感度設定における信号強度(エコー高さ)と欠陥径の関係は図3に示すとおりである。
・Cスキャン法で検出できない微小な欠陥については、L断面(管長さ方向断面)を光学顕微鏡により観察することで欠陥サイズを測定した。
【0009】
事前に、Cスキャン法で検出される欠陥サイズ(エコー高さから算出)の精度を確認するために、図4に示すように、Cスキャン法による欠陥サイズと、検出部のL断面の光学顕微鏡観察(観察倍率×400)による欠陥サイズ測定結果の相関を調査し、双方に十分な相関があり、Cスキャン法での欠陥サイズ測定に十分な精度があることを確認している。
【0010】
調査の結果より、ドライブシャフトのねじり疲労で問題となる溶接欠陥はその形状によらず電縫溶接部への投影面積が40000μm以上のものであることが明らかになった。本調査においては、欠陥サイズの検出をCスキャン法で行ったが、同様の測定は鋼管のままで適度なサイズに集束した超音波ビームを用いたタンデム探傷によっても可能である。超音波ビームの集束にはCスキャンと同様な点集束型超音波探触子を用いてもよいし、図5に示すように、周方向に配列したアレイ探触子6を用いてもよい。
【0011】
ここでいう溶接欠陥とは、溶接起因の酸化物、介在物、又は溶接の引け巣等の空隙である実欠陥のみならず、図6に示すように、複数の実欠陥が最隣接距離50μm以内の相互間隔で寄り集まってなる集合体(クラスタ状欠陥)をも含むものである。
また、発明者らの知見では、電縫溶接部への溶接欠陥の投影面積が40000μm以上であるものは、超音波ビームをビーム面積5mm以下に集束させた超音波で電縫溶接部を走査することにより検出することができる。
【0012】
ここにいう、電縫溶接部への溶接欠陥の投影面積(すなわち、溶接欠陥面積)とは、電縫溶接部を投影面として該投影面内における、相互の最隣接距離が50μmを超える実欠陥の個々の面積、或いは前記投影面内における、複数の実欠陥が相互の最隣接距離50μm以内で寄り集まって形成している集合体(クラスタ)の最外接線で囲まれた領域(本発明ではこの領域も1つの溶接欠陥とみなす)の個々の面積を意味する。
【0013】
なお、電縫溶接部近傍の実欠陥は、前述したように溶接時の酸化物と、アップセットで立ち上がった介在物であるために、電縫溶接部を中心とした円周方向±1mmの範囲で検査する必要がある。
本発明は、上述した知見に基づきなされたものであって、その要旨構成は以下の通りである。
(1) 母材部の組成が質量%で、C:0.25〜0.55%、Si:0.01〜1.0%、Mn:0.2〜3.0%、Al:0.1%以下、N:0.0010〜0.0100%を含み残部Fe及び不可避的不純物である電縫鋼管であって、電縫溶接部への溶接欠陥の投影面積である溶接欠陥面積が40000μm未満であることを特徴とする耐ねじり疲労特性に優れた電縫鋼管。
(2) Ti:0.005〜0.1%、B:0.0003〜0.0050%を含み、かつ、N/14<Ti/47.9である上記(1)に記載の電縫鋼管。
(3) Cr:2%以下、Mo:2%以下、W:2%以下、Nb:0.1%以下、V:0.1%以下のうち1種または2種以上を含む上記(1)又は(2)に記載の電縫鋼管。
(4) Ni:2%以下、Cu:2%以下のうち1種又は2種を含む上記(1)〜(3)のいずれか1つに記載の電縫鋼管。
(5) Ca:0.02%以下、REM:0.02以下のうち1種又は2種を含む上記(1)〜(4)のいずれか1つに記載の電縫鋼管。
(6) ドライブシャフト用である上記(1)〜(5)のいずれか1つに記載の電縫鋼管。
(7) 上記(1)〜(6)のいずれか1つに記載の組成を有する鋼板を電縫溶接により管となした後、該管の電縫溶接部を中心とした円周方向±1mmの範囲を、超音波ビームをビーム面積5mm以下に集束させた超音波で走査して、電縫溶接部への溶接欠陥の投影面積である溶接欠陥面積が40000μm以上である溶接欠陥を検出し、該検出によって特定した管長さ方向部分を不良部分として排除することを特徴とする耐ねじり疲労特性に優れた電縫鋼管の製造方法。
(8) 上記(7)において、前記不良部分を排除した後、管に焼入れ或いは更に焼戻し処理を施してドライブシャフト用とすることを特徴とする電縫鋼管の製造方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、ドライブシャフトとして必要な耐疲労特性を確実に保証できる電縫鋼管が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】溶接欠陥面積とねじり疲労強度の関係を示すグラフ
【図2】Cスキャン法の概要説明図
【図3】信号強度(エコー高さ)と欠陥径の関係の1例を示すグラフ
【図4】Cスキャンによる欠陥サイズと光学顕微鏡によるそれとの相関を示すグラフ
【図5】アレイ探触子を用いた超音波探傷法(アレイUT法)を電縫溶接部に適用する形態の概要説明図
【図6】クラスタ状欠陥の定義説明図
【図7】ビーム面積と40000μm欠陥のS/Nの関係を示す線図
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明において、鋼組成を上記の通り限定した理由を述べる。組成の成分濃度(成分含有量)は質量%を単位とし、%と略記する。
(必須に含有する成分)
C:0.25〜0.55%
Cが0.25%未満では、焼入れしても十分な硬度が得られず、要求される耐疲労特性が得られない。一方で、0.55%を超えると、溶接性が悪くなる為、安定した電縫溶接品質が得られない。なお、好ましくは0.30〜0.40%である。
【0017】
Si:0.01〜1.0%
Siは脱酸のために添加する場合もあり、0.01%未満では十分な脱酸効果が得られない。同時に、Siは固溶強化元素でもあり、その効果を得るためには0.01%以上の添加が必要である。一方で、1.0%を超えると、鋼管の焼入れ性が低下する。なお、好ましくは0.1〜0.4%である。
【0018】
Mn:0.2〜3.0%
Mnは焼入れ性を向上させる元素であり、その効果を得るには0.2%以上の添加が必要である。一方で、3.0%を超えると電縫溶接品質を低下させ、さらに残留オーステナイト量が増加し耐疲労特性が低下する。なお、好ましくは0.5〜2.0%である。
Al:0.1%以下
Alは脱酸に有効な元素であり、また、焼入れ時のオーステナイト粒の成長を抑制することで焼入れ後の強度を確保するために必要である。その効果を得るためには、0.001%以上の添加が好ましい。しかし、Alが、0.1%を超えて添加するとその効果は飽和するだけでなく、Al系の介在物が増え、疲労強度を低下する場合がある。なお、好ましくは0.01〜0.08%である。
【0019】
N:0.0010〜0.0100%
Nは、Alと結合し結晶粒を微細化する元素であり、このためには0.0010%以上含有する必要があるが、0.0100%を超えて過剰に含有すると、Bと結合しBNを形成することでフリーB量を不足せしめ、Bによる焼入れ性向上効果を阻害してしまう。なお、好ましくは0.0010〜0.005%である。
(任意選択的に含有できる成分)
本発明では、上記成分組成に加えて、必要に応じてさらに、下記の(A)〜(D)群のうち一群または二群以上を含有することができる。
(A) Ti:0.005〜0.1%、B:0.0003〜0.0050%を含み、かつ、N/14<Ti/47.9である。
(B) Cr:2%以下、Mo:2%以下、W:2%以下、Nb:0.1%以下、V:0.1%以下のうち1種または2種以上。
(C) Ni:2%以下、Cu:2%以下のうち1種又は2種を含む。
(D) Ca:0.02%以下、REM:0.02以下のうち1種又は2種を含む。
【0020】
以下、個々の元素について、規定理由を述べる。
Ti:0.005〜0.1%
Tiは鋼中のNをTiNとして固定する作用を有する。しかし、0.005%未満ではNを固定する能力が十分に発揮されず、一方で0.1%を超えると鋼の加工性、靭性が低下する。なお、より好ましくは0.01〜0.04%である。
【0021】
B:0.0003〜0.0050%
Bは焼入れ性を向上させる元素である。0.0003%未満では焼入れ性向上効果が十分に発揮されない。一方で0.0050%を超えて添加しても、その効果は飽和し、粒界に偏析して粒界破壊を促進し耐疲労特性を劣化させる。なお、より好ましくは0.0010〜0.0040%である。
【0022】
N/14<Ti/47.9
フリーBを確保するためには、Nを確実にTiで固定する必要があり、そのためにはN原子%(=N質量%/N原子量14)がTi原子%(=Ti質量%/Ti原子量47.9)より小さい必要がある。
Cr:2%以下
Crは焼入れ性の向上に有効である。その効果を得るためには、0.01%以上の添加が好ましい。しかし、Crが、2%を超えて添加すると、酸化物を形成しやすくなり、電縫溶接部にCr酸化物が残存し電縫溶接品質が低下する。なお、より好ましくは0.001〜0.5%である。
【0023】
Mo:2%以下
Moは焼入れ性を向上させる元素であり、鋼の強度を高め疲労強度の向上に有効である。その効果を得るためには、0.001%以上の添加が好ましい。しかし、Moが、2%を超えて添加すると加工性が著しく低下する。なお、より好ましくは0.001〜0.5%である。
【0024】
W:2%以下
Wは炭化物を形成することで鋼の強度を向上させるのに有効である。その効果を得るためには、0.001%以上の添加が好ましい。しかし、Wが、2%を超えて添加すると不必要な炭化物が析出し、耐疲労特性を低下させ加工性を低下させることになる。なお、より好ましくは0.001〜0.5%である。
【0025】
Nb:0.1%以下
Nbは焼入れ性を向上させる元素であるほか、炭化物を形成し強度上昇に寄与する。その効果を得るためには、0.001%以上の添加が好ましい。しかし、Nbが0.1%を超えて添加してもその効果は飽和し、加工性が低下する。なお、より好ましくは0.001〜0.04%である。
【0026】
V:0.1%以下
Vは炭化物を形成し、鋼の強度を上昇させるのに有効でかつ焼戻し軟化抵抗を有する元素である。その効果を得るためには、0.001%以上の添加が好ましい。しかしながら0.1%を超えて添加するとその効果は飽和し、加工性が低下する。なお、より好ましくは0.001〜0.5%である。
【0027】
Ni:2%以下
Niは焼入れ性を向上させる元素であり、鋼の強度を高め疲労強度の向上に有効である。その効果を得るためには、0.001%以上の添加が好ましい。しかし、2%を超えて添加すると加工性が著しく低下する。なお、より好ましくは0.001〜0.5%である。
【0028】
Cu:2%以下
Cuは焼入れ性を向上させる元素であり、鋼の強度を高め疲労強度の向上に有効である。その効果を得るためには、0.001%以上の添加が好ましい。しかし、2%を超えて添加すると加工性が著しく低下する。なお、より好ましくは0.001〜0.5%である。
【0029】
Ca:0.02%以下、REM:0.02%以下
Ca、REMは、いずれも非金属介在物の形態を球状とし、繰り返し応力が付与されるような使用環境下での疲労破壊時の割れ起点の低減に有効な元素であり、必要に応じて選択して含有できる。このような効果は、Ca、REMともに0.0020%以上の含有で認められる。一方で、0.02%を超えて含有すると、介在物量が多くなりすぎて清浄度が低減する。このためCa、REMともに0.02%以下に限定することが好ましい。Ca、REMの両者を併用する場合には、合計量で0.03%以下とすることが好ましい。
【0030】
本発明に係る鋼組成において上記した成分以外の残部はFe及び不可避的不純物である。
次に、溶接欠陥面積の限定理由について述べる。前述の通り、本発明にいう溶接欠陥には、溶接起因の酸化物、介在物、又は溶接の引け巣等の空隙である実欠陥のみならず、図6に示したように、複数の実欠陥が最隣接距離50μm以内の相互間隔で寄り集まってなる集合体(クラスタ状欠陥)をも含まれる。かかる溶接欠陥の、電縫溶接部への投影面積(すなわち溶接欠陥面積)が40000μm以上である溶接欠陥のみが、耐ねじり疲労特性に悪影響を及ぼす(例えは図1に示した通り)。よって本発明では、溶接欠陥面積が40000μm未満であること(すなわち、電縫溶接部には溶接欠陥面積が40000μm以上である溶接欠陥が全く存在しないこと)を必須とした。
【0031】
なお、相互の最隣接距離が50μmを超える複数の実欠陥の集合体は、当該集合体内の個々の実欠陥の、電縫溶接部への投影面積が40000μm未満であれば、耐ねじり疲労特性への悪影響は無視できるほど小さいため、本発明にいう溶接欠陥には属さない。
次に、好ましい製造方法としては、上記(1)〜(4)のいずれか1つに記載の組成を有する鋼板を電縫溶接により管となした後、該管の電縫溶接部を中心とした円周方向±1mmの範囲を、超音波ビームをビーム面積5mm以下に集束させた超音波で走査して、電縫溶接部への溶接欠陥の投影面積である溶接欠陥面積が40000μm以上である溶接欠陥を検出し、該検出によって特定した管長さ方向部分を不良部分として排除することが挙げられる。この製造方法によれば、得られる電縫鋼管は溶接欠陥面積が40000μm以上である溶接欠陥を全く含まないものとなるから、耐ねじり疲労特性に優れた電縫鋼管が確実にかつ安定的に得られる。そして、この電縫鋼管に焼入れ或いは更に焼戻し処理などを施してドライブシャフト用とすることで、ドライブシャフトに必要な耐疲労特性を確実に保証することができる。
【0032】
次に超音波ビームの集束サイズをビーム面積で5mm以下に限定した理由を述べる。超音波ビームサイズは小さくするほど送波したビームに占める欠陥の割合が大きくなるため、欠陥エコーのS/Nが大きくなる。図7に40000μmの欠陥のS/Nを調べた結果を示す。欠陥の検出はS/N≧2であれば可能なので、超音波ビーム面積の好適範囲は5mm以下である。より望ましくはS/N≧3となる3.3mm以下である。
【0033】
なお、下限値については鋼管に適用可能な超音波の周波数、鋼管や探触子の幾何学的な寸法関係から限界となる0.01mmとすることが好ましい。
【実施例】
【0034】
表1に鋼組成(質量%)を示す鋼鋳片を熱間圧延した鋼帯を得、これを管素材として電縫鋼管を製造するにあたり、電縫溶接条件として、溶接入熱とアプセット量の組み合わせを、酸化物や介在物が残りにくい通常条件(表2の電縫溶接条件A)と、残りやすい条件(表2の電縫溶接条件B)の2通りに調整して、電縫鋼管を製造した。
製造した電縫鋼管の電縫溶接部における溶接欠陥サイズをCスキャン法(図2参照)又はアレイUT法(図5参照)で測定し、溶接欠陥面積を求めた。また、電縫溶接部を真横にして扁平試験を行い、扁平値(割れ発生時の管高さH/扁平前の管外径D)を求めて扁平値が0.5以下のものを溶接品質良好と判断した。その後、電縫鋼管に対し、冷牽加工(冷間引き抜き加工)を行い、その後、焼準(950℃×10分)を行った後に、成形加工を加えて、中空ドライブシャフト形状とし、その後、高周波加熱により焼入れを施してドライブシャフトとした。
【0035】
なお、一部は焼入れの後に、180℃×1時間の焼戻し処理を実施した。
また、一部のものについては、熱延鋼帯を電縫鋼管とした後に、表2に示す縮径圧延条件(表2中の加熱温度は誘導加熱による再加熱温度の意)にて縮径圧延を行い、電縫鋼管(縮径圧延を行わない電縫鋼管と区別するために、以降は縮径圧延鋼管と称す)を得た後、同上の溶接欠陥サイズ測定→冷牽加工→焼準→成形加工→焼入れ(→あるいはさらに焼戻し)、を行ったものを作製した。
【0036】
また、従来品(継目無鋼管)との特性比較のために、同組成の鋼材から継目無管製造工程にて製造した鋼管に対し、同上の冷牽加工→焼準→成形加工→焼入れ(→あるいはさらに焼戻し)、を行って、同サイズ、同形状のドライブシャフトを作製し、これを従来品(表2の管No.19)とした。
焼入れ後あるいはさらに焼戻し後のドライブシャフトは、焼入れ部から軸方向に引張試験片(ASTM比例試験片)を採取し、引張強度を測定した。その後、これらのドライブシャフトに対し、外面でのせん断応力τが350MPaとなる条件で両振りねじり疲労試験を行い、疲労寿命の比較を行った。これら特性評価結果を表2に示す。
【0037】
表2より、本発明例の電縫鋼管或いは縮径圧延鋼管からのドライブシャフトはいずれも、比較例のそれに比べて疲労寿命が長くて、より優れた耐ねじり疲労特性を有しており、また、比較例の継目無鋼管からのドライブシャフト(従来品)に比べても疲労寿命が長くて、より優れた耐ねじり疲労特性を有している。
なお、この実施例では電縫鋼管の管素材を熱延鋼板としたが、本発明はこれに限定されるものではなく、管素材として冷延鋼帯を使用する形態のものであってもよい。
【0038】
また、本発明において、電縫鋼管に代えて鍛接鋼管を用いた場合においても、鍛接部において存在する欠陥サイズが、本発明で規定するサイズを満足する場合、ドライブシャフトとして必要な耐疲労特性を確実に保証できる鍛接鋼管の実現が期待できる。
【0039】
【表1】

【0040】
【表2】

【符号の説明】
【0041】
1 電縫鋼管
2 シーム(電縫溶接部)
3 サンプル
4 点集束型超音波探触子
5 走査方向
6 アレイ探触子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
母材部の組成が質量%で、C:0.25〜0.55%、Si:0.01〜1.0%、Mn:0.2〜3.0%、Al:0.1%以下、N:0.0010〜0.0100%を含み残部Fe及び不可避的不純物である電縫鋼管であって、電縫溶接部への溶接欠陥の投影面積である溶接欠陥面積が40000μm未満であることを特徴とする耐ねじり疲労特性に優れた電縫鋼管。
【請求項2】
Ti:0.005〜0.1%、B:0.0003〜0.0050%を含み、かつ、N/14<Ti/47.9である請求項1に記載の電縫鋼管。
【請求項3】
Cr:2%以下、Mo:2%以下、W:2%以下、Nb:0.1%以下、V:0.1%以下のうち1種または2種以上を含む請求項1又は2に記載の電縫鋼管。
【請求項4】
Ni:2%以下、Cu:2%以下のうち1種又は2種を含む請求項1〜3のいずれか1項に記載の電縫鋼管。
【請求項5】
Ca:0.02%以下、REM:0.02以下のうち1種又は2種を含む請求項1〜4のいずれか1項に記載の電縫鋼管。
【請求項6】
ドライブシャフト用である請求項1〜5のいずれか1項に記載の電縫鋼管。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項に記載の組成を有する鋼板を電縫溶接により管となした後、該管の電縫溶接部を中心とした円周方向±1mmの範囲を、超音波ビームをビーム面積5mm以下に集束させた超音波で走査して、電縫溶接部への溶接欠陥の投影面積である溶接欠陥面積が40000μm以上である溶接欠陥を検出し、該検出によって特定した管長さ方向部分を不良部分として排除することを特徴とする耐ねじり疲労特性に優れた電縫鋼管の製造方法。
【請求項8】
請求項7において、前記不良部分を排除した後、管に焼入れ或いは更に焼戻し処理を施してドライブシャフト用とすることを特徴とする電縫鋼管の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−188729(P2012−188729A)
【公開日】平成24年10月4日(2012.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−106941(P2011−106941)
【出願日】平成23年5月12日(2011.5.12)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】