説明

耐熱超合金の一般旋削のための被覆切削工具

【課題】超合金の一般旋削に有用な被覆超硬合金インサートを提供する。
【解決手段】インサートは、WC、5.0〜7.0重量%のCo、0.22〜0.43重量%のCrの超硬合金の組成および19〜28kA/mの保磁力(HC)により特徴づけられる。被膜は、(TixAl1-x)Nの単層からなり、xが0.25〜0.50であり、NaClタイプの結晶構造を持ち、全厚さが3.0〜5.0μmであり、(200)配向を持ち、2.5×10-3〜5.0×10-3の圧縮残留歪みを持ち、TiNの最外層がさらに堆積されることもある。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特に耐熱超合金の一般旋削に有用な、超硬合金基材および被膜からなる切削工具インサートに関する。微粒基材と組み合わせた残留歪みのレベルが低い厚いPVD被膜により、耐摩耗性が大きく向上する。
【背景技術】
【0002】
超合金は、高温での並はずれた機械的性質および化学的性質が要求される用途のために特に開発された、ニッケル、鉄およびコバルトを主成分とする広範囲の合金である。これらの合金の典型的な利用は、航空機エンジンおよび陸上タービンの熱端である。高温特性を向上させるためになされた冶金学的変化はほとんど全て、これらの合金の機械加工をより困難にする。
【0003】
高温強度が増大するにつれ、合金は切削温度でより硬く堅くなる。これは、機械加工の間の切削抵抗を増加させ、刃先の摩耗を増大させる。
【0004】
強度の高い材料ほどチップ形成の間に多量の熱を発生しこれらの合金の熱伝導率は比較的低いため、非常に高い切削温度が発生し、これも刃先での摩耗の増大の一因となる。
【0005】
より悪いことに、鋳造したままの性質または溶体化処理後の性質を変えるために合金が熱処理されると、摩耗性の炭化物析出物などの第2相粒子がしばしば形成する。これらの粒子も刃先の急速な摩耗を起こす。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、超合金の一般的な湿式機械加工のための、向上した耐摩耗性を持つ被覆超硬合金を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
驚くべきことに、低Co含量およびサブミクロンWC粒径を有し、物理蒸着を利用して成長した(Ti,Al)N単層により被覆された超硬合金が、湿潤条件下で超合金の一般旋削における生産性を著しく向上させることが見いだされた。
【0008】
本発明によると、基材および被膜からなる被覆切削工具インサートが提供される。前記基材は、WCと、5.0〜7.0、好ましくは5.5〜6.5、最も好ましくは5.8〜6.2重量%のCoと、0.22〜0.43、好ましくは0.24〜0.33、最も好ましくは0.26〜0.29重量%のCrとからなり、保磁力(Hc)が19〜28、好ましくは21〜27、最も好ましくは22.5〜26.5kA/mである。好ましくは、被覆前のインサートの刃先半径は15〜30μmである。
【0009】
被膜は(TixAl1-x)Nの単層からなり、xは0.25〜0.50、好ましくは0.30〜0.40、最も好ましくは0.33〜0.35である。(Ti,Al)N層の結晶構造はNaClタイプである。層の全厚さは3.0〜5.0μmであり、好ましくは3.5〜4.5μmである。この厚さは、逃げ面の中央で測定される。
【0010】
上記の層は、(200)方向に強く配向しており、配向係数(texture coefficient)TC(200)が1.6〜2.1である。
【0011】
配向係数(TC)は以下のように定義される。
【0012】
【数1】

【0013】
上式において、
I(hkl)=(hkl)反射の強度、
0(hkl)=JCPDSカード38−1420番による標準強度、
n=計算に利用した反射の数、
使用した(hkl)反射は、(111)、(200)、(220)
である。
【0014】
前記層は、2.5×10-3〜5.0×10-3、好ましくは3.0×10-3〜4.0×10-3の歪みをもつ圧縮残留応力の状態にある。
【0015】
(Ti,Al)Nの上に、厚さが0.1〜0.5μmのTiN層を堆積してもよい。
【0016】
本発明は、基材および被膜からなる被覆切削工具インサートを製造する方法にも関する。基材は、混練、加圧成形および焼結の従来の粉末冶金法により製造される。基材は、WCと、5.0〜7.0、好ましくは5.5〜6.5、最も好ましくは5.8〜6.2重量%のCoと、0.22〜0.43、好ましくは0.24〜0.33、最も好ましくは0.26〜0.29重量%のCrとから成る組成を持ち、保磁力(Hc)が19〜28、好ましくは21〜27、最も好ましくは22.5〜26.5kA/mである。
【0017】
被覆の前に、インサートはウェットブラスト法により、好ましくは15〜30μmの刃先半径にエッジホーニングされる。
【0018】
層の成長に利用される方法は、以下の条件での合金化カソードまたは複合カソードのアーク蒸発に基づく:Ti+Alカソード組成が25〜50原子%のTi、好ましくは30〜40原子%のTi、最も好ましくは33〜35原子%のTiである。
【0019】
被覆の前に、好ましくはソフトイオンエッチング(soft ion etching)により、表面を清浄化する。このイオンエッチングは、Ar雰囲気またはAr+H2混合雰囲気中で実施される。
【0020】
蒸発電流は、カソードの大きさおよびカソード材料により50A〜200Aである。直径63mmのカソードを使用する場合、蒸発電流は好ましくは60A〜100Aである。基材バイアスは−20V〜−35Vである。堆積温度は400℃〜700℃であり、好ましくは500℃〜600℃である。
【0021】
(Ti,Al)N層は、0〜50体積%のAr、好ましくは0〜20体積%のArからなるAr+N2雰囲気中で、全圧1.0Pa〜7.0Pa、好ましくは3.0Pa〜5.5Paで成長させる。
【0022】
(Ti,Al)N層の上に、厚さが0.1〜0.5μmのTiN層を、公知のアーク蒸発により堆積してもよい。
【0023】
本発明は、インコネル718、インコネル625、ナイモニック81、ワスパロイまたはTi6Al4Vなどの超合金を、切削速度20〜75m/分、切り込み深さ0.2〜2.5mmおよび送り0.05〜0.30mm/revで湿式機械加工するための上述のインサートの使用にも関する。
【実施例】
【0024】
〔実施例1〕
基材および被膜からなるCNMG120412-MR3およびCNMG120408-MF1のタイプの超硬合金切削工具インサートを調製した。基材は、混練、加圧成形および焼結により製造した。組成は、5.9重量%のCo、0.27重量%のCr、残部WCであった。保磁力は24.0kA/mであり、約0.80μmの平均WC粒径に相当する。
【0025】
前記インサートをウェットブラストし、25μmの刃先半径にした。
【0026】
前記被膜を、直径63mmのTi0.34Al0.66カソードのアーク蒸発を利用して成長させた。堆積は、純度99.995%のN2雰囲気中で全圧4.5Paで、基材バイアス−30Vを利用し60分間実施した。堆積温度は約530℃であった。層の厚さは、逃げ面の中央で3.8μmであった。X線回折は、(TC)=1.8の強い(002)配向を示し、残留歪みは3.5×10-3であった。
【0027】
図1はインサートの破断面を示す。
【0028】
〔実施例2〕
実施例1のCNMG120412-MR3タイプの被覆インサートを、以下の条件で長手方向に沿った中荒旋削(medium-rough turning)で耐摩耗性に関して試験した。
【0029】
被加工材: 丸棒
材料: インコネル718
切削速度: 50m/分
送り: 0.25mm/rev
切り込み深さ: 2.0mm
備考: フラッドクーラント(flood coolant)
基準: セコCP200
結果
工具寿命の基準は、切削速度50m/分で逃げ面摩耗0.2mmを与える最長切削時間(分)とした。結果を表1に示す。
【0030】
【表1】

【0031】
この試験は、本発明によるインサートがセコCP200よりも約40%長い工具寿命を得ることを示している。
【0032】
〔実施例3〕
実施例1のCNMG120408-MF1タイプの被覆インサートを、以下の条件で長手方向に沿った精密旋削で耐摩耗性に関して試験した。
【0033】
被加工材: 丸棒
材料: インコネル718
切削速度: 55、70m/分
送り: 0.15mm/rev
切り込み深さ: 0.5mm
備考: フラッドクーラント
基準: セコCP200
結果
逃げ面摩耗0.2mmになる時間を分で測定した。結果を表2に示す。
【0034】
【表2】

【0035】
この試験は、本発明によるインサートがセコCP200に比べ工具寿命生産性を40%増大させることを示している。
【0036】
〔実施例4〕
実施例1のCNMG120412-MR3タイプの被覆インサートを、以下の条件で中荒穿孔(medium-rough boring)操作で工具寿命に関して試験した。
【0037】
被加工材: 特殊材
材料: インコネル718
切削速度: 37m/分
送り: 0.20mm/rev
切り込み深さ: 3.2mm
備考: フラッドクーラント
基準: 競合他社の材質(competitor grade)
結果
機械加工された基準材質は、7分40秒後に完全な工具寿命に達した。本発明によるインサートは、11分50秒後に完全な工具寿命に達した。
【0038】
この試験は、本発明によるインサートが工具寿命を最大50%増大させることを示している。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】図1は、1)超硬合金ボディおよび2)(Ti,Al)N単層から成る本発明による被覆超硬合金基材の破断面を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
特に超合金の一般旋削に有用な、超硬合金ボディおよび被膜を含んでなる切削工具インサートであって、
WC、5.0〜7.0、好ましくは5.5〜6.5重量%のCo、0.22〜0.43、好ましくは0.24〜0.33重量%のCrの超硬合金の組成および19〜28、好ましくは21〜27kA/mの保磁力Hc
ならびに
(Ti1-xAlx)Nの単層の被膜であって、xが0.25〜0.50、好ましくは0.30〜0.40であり、NaClタイプの結晶構造を持ち、逃げ面の中央で測定して全厚さが3.0〜5.0μm、好ましくは3.5〜4.5μmであり、
2.5×10-3〜5.0×10-3、好ましくは3.0×10-3〜4.0×10-3の圧縮残留歪みを持ち、
1.6〜2.1の配向係数TC(200)を持つが、
前記配向係数(TC)が以下のように定義され、
【数1】

上式において、
I(hkl)=(hkl)反射の強度、
0(hkl)=JCPDSカード38−1420番による標準強度、
n=計算に利用した反射の数、
使用した(hkl)反射が(111)、(200)、(220)である被膜
を特徴とする、切削工具インサート。
【請求項2】
厚さが0.1〜0.5μmのTiN最外層を特徴とする、請求項1に記載の切削工具インサート。
【請求項3】
15〜30μmの刃先半径を特徴とする、請求項1または2に記載の切削工具インサート。
【請求項4】
特に超合金の一般旋削に有用な、超硬合金ボディおよび被膜を含んでなる切削工具インサートを製造する方法であって、
WC、5.0〜7.0、好ましくは5.5〜6.5重量%のCo、0.22〜0.43、好ましくは0.24〜0.33重量%のCrの組成および19〜28、好ましくは21〜27kA/mの保磁力Hcを持つ基材を、混練、加圧成形および焼結の従来の粉末冶金法により提供する工程、および(TixAl1-x)Nの単層を堆積させる工程
を特徴とし、
該堆積させる工程は、
xが0.25〜0.50、好ましくは0.30〜0.40であり、前記層がNaClタイプの結晶構造を持ち、逃げ面の中央で測定して全厚さが3.0〜5.0μm、好ましくは3.5〜4.5μmであり、
2.5×10-3〜5.0×10-3、好ましくは3.0×10-3〜4.0×10-3の圧縮残留歪みを持ち、
1.6〜2.1の配向係数TC(200)を持つが、
前記配向係数(TC)が以下のように定義され、
【数2】

上式において、
I(hkl)=(hkl)反射の強度、
0(hkl)=JCPDSカード38−1420番による標準強度、
n=計算に利用した反射の数、
使用した(hkl)反射が(111)、(200)、(220)である単層を、
合金化カソードまたは25〜50原子%のTi、好ましくは30〜40原子%のTiの組成のTi+Al複合カソードのアーク蒸発であって、カソードの大きさおよびカソード材料により50A〜200Aの電流、−20V〜−35Vの基材バイアス、400℃〜700℃の堆積温度で、0〜50体積%のAr、好ましくは0〜20体積%のArからなるAr+N2雰囲気中で、全圧1.0Pa〜7.0Paで成長させるアーク蒸発を利用して堆積させる工程
である、切削工具インサートの製造方法。
【請求項5】
アーク蒸発を利用する厚さが0.1〜0.5μmのTiN最外層の堆積を特徴とする、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記インサートが、被覆前に、好ましくは15〜30μmの刃先半径にウェットブラスト法によりエッジホーニングされることを特徴とする、請求項4または5に記載の方法。
【請求項7】
インコネル718、インコネル625、ナイモニック81、ワスパロイまたはTi6Al4Vなどの超合金を、切削速度20〜75m/分、切り込み深さ0.2〜2.5mmおよび送り0.05〜0.30mm/revで一般機械加工するための請求項1から3に記載のインサートの使用。

【図1】
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【公開番号】特開2009−90452(P2009−90452A)
【公開日】平成21年4月30日(2009.4.30)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2008−214023(P2008−214023)
【出願日】平成20年8月22日(2008.8.22)
【出願人】(591106875)セコ ツールズ アクティエボラーグ (28)
【Fターム(参考)】