説明

膜形成用組成物、それを用いた絶縁膜および電子デバイス

【課題】 膜形成組成物、特に、電子デバイスなどに用いられる低誘電率でかつ比誘電率の経時変化の少ない絶縁膜を形成することができる膜形成組成物、絶縁膜およびそれを有する電子デバイスを提供する。
【解決手段】 エチレン性二重結合とカゴ型構造を有する化合物を溶剤および重合用触媒の存在下で重合させて得られる重合体と塗布溶剤とを含有することを特徴とする膜形成用組成物、それを用いた絶縁膜および電子デバイス。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は膜形成用組成物に関し、さらに詳しくは電子デバイスなどに用いられる誘電率、機械強度等の特性が良好な絶縁膜に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電子材料分野においては、高集積化、多機能化、高性能化の進行に伴い、回路抵抗や配線間のコンデンサー容量が増大し、消費電力や遅延時間の増大を招いている。中でも、遅延時間の増大は、デバイスの信号スピードの低下やクロストークの発生の大きな要因となるため、この遅延時間を減少させてデバイスの高速化を図るべく、寄生抵抗や寄生容量の低減が求められている。この寄生容量を低減するための具体策の一つとして、配線の周辺を低誘電性の層間絶縁膜で被覆することが試みられている。また、層間絶縁膜には、実装基板製造時の薄膜形成工程やチップ接続、ピン付け等の後工程に耐え得る優れた耐熱性やウェットプロセスに耐え得る耐薬品性が求められている。さらに、近年は、Al配線から低抵抗のCu配線が導入されつつあり、これに伴い、CMP(ケミカルメカニカルポリッシング)による平坦化が一般的となっており、このプロセスに耐え得る高い機械的強度が求められている。
【0003】
高耐熱性の絶縁膜として、ポリベンゾオキサゾール、ポリイミドが広く知られているが、極性の高いN原子を含むため、低誘電性、低吸水性、耐久性および耐加水分解性の面では、満足なものは得られていない。
また、有機ポリマーは概して有機溶剤への溶解性の不十分なものが多く、塗布液中での析出、絶縁膜中でのブツ発生の抑制が重要な課題となっているが、溶解性を向上させるためにポリマー主鎖を折れ曲がり構造にするとガラス転移点の低下、耐熱性の低下が弊害となりこれらを両立することは容易ではない。
また、ポリアリーレンエーテルを基本主鎖とする高耐熱性樹脂が知られており、誘電率は2.6〜2.7の範囲である。しかし、高速デバイスを実現するためには更なる低誘電率化が望まれており、多孔化せずにバルクでの誘電率を好ましくは2.6以下、より好ましくは2.5以下にすることが望まれている。
【0004】
低誘電率化の手段としてカゴ型構造を有する飽和炭化水素で構成する重合体の利用が知られている。
特許文献1に炭素二重結合を含むアダマンタンモノマーの熱重合体を利用した絶縁膜が開示されているが、比誘電率は2.6位であり、更なる低減が望まれている。
【特許文献1】特開2003−292878号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は上記問題点を解決するための膜形成用組成物に関し、さらに詳しくは電子デバイスなどに用いられる誘電率、機械強度等の特性が良好な絶縁膜に関する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
(1)
エチレン性二重結合とカゴ型構造を有する化合物を溶剤および重合用触媒の存在下で重合させて得られる重合体と塗布溶剤とを含有することを特徴とする膜形成用組成物。
(2)
カゴ型構造がアダマンタンまたはジアマンタンである上記(1)に記載の膜形成用組成物。
(3)
空孔形成剤を含むことを特徴とする上記(1)または(2)に記載の膜形成用組成物。
(4)
密着促進剤を含むことを特徴とする上記(1)〜(3)の何れかに記載の膜形成用組成物。
(5)
式(I)で表される化合物が窒素原子を有さないことを特徴とする上記(1)〜(4)のいずれかに記載の膜形成用組成物。
(6)
上記(1)〜(5)の何れかに記載の膜形成用組成物を用いて形成した絶縁膜。
(7)
上記(6)に記載の絶縁膜を有する電子デバイス。
【発明の効果】
【0007】
本発明の膜形成用組成物から形成した絶縁膜は低い比誘電率、高い機械強度を有するため、電子デバイスなどにおける層間絶縁膜として利用できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0009】
本発明の膜形成用組成物は、エチレン性二重結合とカゴ型構造を有する化合物を溶剤および重合用触媒の存在下で重合させて得られる重合体と、塗布溶剤とを含有することを特徴とする。
【0010】
本発明で述べる「カゴ型構造」とは、共有結合した原子で形成された複数の環によって容積が定まり、容積内に位置する点は環を通過せずには容積から離れることができないような分子を指す。例えば、アダマンタン構造はカゴ型構造と考えられる。対照的にノルボルナン(ビシクロ[2,2,1]ヘプタン)などの単一架橋を有する環状構造は、単一架橋した環状化合物の環が容積を定めないことから、カゴ型構造とは考えられない。
【0011】
カゴ型構造は、好ましくは10〜30個、より好ましくは10〜20個、さらに好ましくは10〜14個の炭素原子で構成される。ここでいう炭素原子にはカゴ型構造に置換した連結基や置換基の炭素原子を含めない。例えば、1−メチルアダマンタンは10個の炭素原子で構成されるものとする。
【0012】
カゴ型構造は飽和の脂肪族炭化水素であることが好ましく、例えば、アダマンタン、ジアマンタン、トリアマンタン、テトラマンタン、ドデカヘドラン等が挙げられ、特に低誘電率、高機械強度が得られる点でアダマンタンまたはジアマンタンがより好ましく、ジアマンタンが特に好ましい。
【0013】
本発明におけるカゴ型構造を有する化合物のカゴ型構造には置換基が置換しており、例えば、ハロゲン原子(フッ素原子、クロル原子、臭素原子、または沃素原子)、直鎖、分岐、環状のアルキル基(メチル、t−ブチル、シクロペンチル、シクロヘキシル等)、アルケニル基(ビニル基、スチリル基等)、アルキニル基(エチニル、フェニルエチニル等)、アリール基(フェニル、1−ナフチル、2−ナフチル等)、アシル基(ベンゾイル等)、アリールオキシ基(フェノキシ等)、アリールスルホニル基(フェニルスルホニル等)、ニトロ基、シアノ基、シリル基(トリエトキシシリル、メチルジエトキシシリル、トリビニルシリル等)等が挙げられる。これらの置換基はさらに別の置換基で置換されていてもよい。
【0014】
本発明におけるカゴ型構造を有する化合物は重合性基として少なくとも一つ以上のエチレン性炭素二重結合を含む。一つのカゴ型構造に対するエチレン性炭素二重結合の数は好ましくは1〜4、より好ましくは1〜3、特に好ましくは2または3である。エチレン性炭素二重結合を含む基としては、たとえばビニル基、アリル基、1−プロペニル基、1−ブテニル基、スチリル基等があげられる。
【0015】
カゴ型構造を有する化合物の分子量は好ましくは160〜1500、より好ましくは160〜1100、特に好ましくは160〜240である。
【0016】
以下にカゴ構造を有する化合物の具体例を示すが、本発明はこれらに限定されない。
【0017】
【化1】

【0018】
【化2】

【0019】
本発明の膜形成用組成物は、エチレン性二重結合とカゴ型構造を有する化合物を溶剤および重合用触媒の存在下で重合させて得られる重合体を含有する。重合体はエチレン性炭素二重結合の重合反応によって合成でき、例えば、有機合成分野で公知のカチオン重合、アニオン重合、ラジカル重合、熱重合等が利用できる。具体的な方法は例えば、化学同人の高分子合成の実験法が参考に出来る。
本発明の重合反応で使用する触媒としては、カチオン重合の場合には例えば、H2SO4、H3PO4、HClO4、CCl3COOH、CF3COOHのようなプロトン酸や、BF3、AlCl3、TiCl4、SnCl2、SnCl4、SbCl5、C2H5AlCl2、Et2AlClのようなルイス酸と水、アルコール、RCOOH、R2O、RClのように不対電子をもつ物質との共触媒、I2、BF3OEt2、AgClO4、Ph3CClのようなカチオンを生成しやすい物質などが利用できる。
アニオン重合の場合に用いる触媒としては例えばn-ブチルリチウム、n-アミルナトリウム、KNH2、ナフタレンナトリウム等が使用できる。
ラジカル重合の場合に用いる触媒としては例えば、過酸化ベンゾイル、過硫酸カリウム、t−ブチルヒドロペルオキシド、過酸化ジt−ブチル、クメンヒドロペルオキシド、アゾビスイソブチロニトリル等のラジカル開始剤が使用できる。
また、Ziegler-Natta触媒によるイオン重合やメタロセン触媒を用いた重合等も好ましい方法として挙げられる。
【0020】
本発明のカゴ型構造を有する化合物の重合体を合成する際に使用できる溶剤は、原料モノマーが必要な濃度で溶解可能であり、かつ得られる重合体から形成する膜の特性に悪影響を与えないものであればどのようなものを使用しても良い。例えば水やメタノール、エタノール、プロパノール等のアルコール系溶剤、アルコールアセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、アセトフェノン等のケトン系溶剤、酢酸エチル、酢酸ブチル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、γ−ブチロラクトン、メチルベンゾエート等のエステル系溶剤、ジブチルエーテル、アニソール等のエーテル系溶剤、ベンゼン、トルエン、キシレン、メシチレン、1,3,5−トリイソプロピルベンゼン等の芳香族炭化水素系溶剤、N−メチルピロリジノン、ジメチルアセトアミド等のアミド系溶剤、四塩化炭素、ジクロロメタン、クロロホルム、1,2−ジクロロエタン、クロロベンゼン、1,2−ジクロロベンゼン、1,2,4−トリクロロベンゼン等のハロゲン系溶剤、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、シクロヘキサン等の脂肪族炭化水素系溶剤、ニトロメタン、ニトロエタン、ニトロベンゼン等のニトロ化合物などが利用できる。これらは単独でも2種以上を混合して用いてもよい。
反応用の有機溶媒の沸点は50℃以上が好ましく、より好ましくは100℃以上であり、特に好ましくは150℃以上である。
反応液の濃度は好ましくは1〜50質量%、より好ましくは5〜30質量%、特に好ましくは10〜20質量%である。
【0021】
重合して得られる重合体の質量平均分子量の好ましい範囲は1000〜500000、より好ましくは5000〜300000、特に好ましくは10000〜200000である。
また、本発明の式(I)で表される化合物の重合体は、誘電率・膜の吸湿性の観点から窒素原子は含まないことが特に好ましく、特に、ポリイミド以外の化合物、即ちポリイミド結合を有しない化合物であることが好ましい。
【0022】
本発明に使用できる好適な塗布溶剤の例としては特に限定はされないが、例えばメタノール、エタノール、イソプロパノール、1−ブタノール、2−エトキシメタノール、3−メトキシプロパノール等のアルコール系溶剤、アセトン、アセチルアセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、2−ペンタノン、3−ペンタノン、2−ヘプタノン、3−ヘプタノン、シクロヘキサノン等のケトン系溶剤、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル、酢酸イソブチル、酢酸ペンチル、プロピオン酸エチル、プロピオン酸プロピル、プロピオン酸ブチル、プロピオン酸イソブチル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、乳酸メチル、乳酸エチル、γ−ブチロラクトン等のエステル系溶剤、ジイソプロピルエーテル、ジブチルエーテル、エチルプロピルエーテル、アニソール、フェネトール、ベラトロール等のエーテル系溶剤、メシチレン、エチルベンゼン、ジエチルベンゼン、プロピルベンゼン、1,2−ジクロロベンゼン等の芳香族炭化水素系溶剤、N−メチルピロリジノン、ジメチルアセトアミド等のアミド系溶剤などが挙げられ、これらは単独でも2種以上を混合して用いてもよい。
より好ましい塗布溶剤は、アセトン、プロパノール、シクロヘキサノン、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、乳酸メチル、乳酸エチル、γ−ブチロラクトン、アニソール、メシチレン、1,2−ジクロロベンゼンであり、特に好ましくはシクロヘキサノン、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、γ−ブチロラクトン、アニソールである。
【0023】
本発明の膜形成用組成物においては、重合体を塗布溶剤に十分な濃度で溶解する必要がある。溶解性の目安としては、電子デバイス製造の際に好ましく使用される塗布溶剤であるシクロヘキサノンに25℃で好ましくは3質量%以上、より好ましくは7質量%以上、特に好ましくは10質量%以上溶解することが好ましい。
【0024】
本発明の膜形成用組成物の固形分濃度は、好ましくは3〜50質量%であり、より好ましくは7〜35質量%であり、特に好ましくは10〜15質量%である。
【0025】
本発明において、重合体は単独で使用しても2種以上を混合して使用してもよい。
【0026】
更に、本発明の膜形成用組成物には、得られる絶縁膜の特性(耐熱性、誘電率、機械強度、塗布性、密着性等)を損なわない範囲で、ラジカル発生剤、非イオン界面活性剤、フッ素系非イオン界面活性剤、シランカップリング剤、密着剤などの添加剤を添加してもよい。
ラジカル発生剤としては、例えば、t−ブチルパーオキシド、ペンチルパーオキシド、ヘキシルパーオキシド、ラウロイルパーオキシド、過酸化ベンゾイル、アゾビスイソブチロニトリル等が挙げられる。非イオン界面活性剤としては、例えば、オクチルポリエチレンオキシド、デシルポリエチレンオキシド、ドデシルポリエチレンオキシド、オクチルポリプロピレンオキシド、デシルポリプロピレンオキシド、ドデシルポリプロピレンオキシド等が挙げられる。フッ素系非イオン界面活性剤としては、例えば、パーフルオルオクチルポリエチレンオキシド、パーフルオルデシルポリエチレンオキシド、パーフルオルドデシルポリエチレンオキシド等が挙げられる。シランカップリング剤としては、例えば、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリアセトキシシラン、アリルトリメトキシシラン、アリルトリエトキシシラン、ジビニルジエトキシシラン、トリビニルエトキシシラン等が挙げられる。
これらの添加剤の添加量は、添加剤の用途または塗布液の固形分濃度によって適当な範囲が存在するが、一般的に、塗布液中の質量%で好ましくは0.001%〜10%、より好ましくは0.01%〜5%、特に好ましくは0.05%〜2%である。
【0027】
本発明の膜形成用組成物は空孔形成剤を含むことが好ましい。空孔形成剤とは膜形成用組成物により得た膜中に空孔を形成する機能を有する物質である。例えば、空孔形成剤を含有する膜形成用組成物により形成された膜を加熱することにより、膜中に空孔形成剤による空孔を形成し、空孔を含有する膜を得ることができる。
【0028】
空孔形成剤としては、特に限定されないが、加熱によって分解する熱分解性ポリマーを使用することができる。空孔形成剤としてのポリマーは、膜を構成するポリマーの熱分解温度より低い温度において熱分解するものが好ましい。
【0029】
空孔形成剤として使用できる熱分解性ポリマーとしては、例えば、ポリビニル芳香族化合物(ポリスチレン、ポリビニルピリジン、ハロゲン化ポリビニル芳香族化合物など)、ポリアクリロニトリル、ポリアルキレンオキシド(ポリエチレンオキシドおよびポリプロピレンオキシドなど)、ポリエチレン、ポリ乳酸、ポリシロキサン、ポリカプロラクトン、ポリカプロラクタム、ポリウレタン、ポリメタクリレート(ポリメチルメタクリレートなど)またはポリメタクリル酸、ポリアクリレート(ポリメチルアクリレートなど)およびポリアクリル酸、ポリジエン(ポリブタジエンおよびポリイソプレンなど)、ポリビニルクロライド、ポリアセタール、およびアミンキャップドアルキレンオキシド(HuntsmanCorp.からJeffamineTMポリエーテルアミンとして商業的に入手できる)などが挙げられる。
【0030】
空孔形成剤としてのポリマーは、ホモポリマー、ブロックコポリマー、ランダムコポリマーなどいずれであってもよい。また、これらの混合物であっても良い。また、線状、分岐状、超分岐状、樹枝状または星様状であってもよい。
【0031】
特にポリスチレンは、空孔形成剤として好適に使用できる。例えば、アニオン性重合ポリスチレン、シンジオタクチックポリスチレン、未置換および置換ポリスチレン(たとえば、ポリ(α−メチルスチレン))が挙げられ、未置換ポリスチレンがより好ましい。
【0032】
空孔形成剤は、膜を形成する化合物に結合していることも好ましい。このように設計することで大きさが均一な空孔を形成することが可能となり、機械強度の低下を低減できる。
【0033】
空孔形成剤は、また、絶縁膜に生成する空孔の大きさに対応した大きさの粒状物質であってもよい。このような物質としては、好ましくは0.5〜50nm、より好ましくは0.5〜20nmの平均直径を有する物質である。かかる物質の材質等に制限はなく、例としては、デンドリマーのような超分岐状ポリマー系およびラテックス粒子、特に架橋ポリスチレン含有ラテックスが挙げられる。
これらの物質の例としては、Dendritech,Inc.を通じて入手でき、また、Polymer J.(東京),Vol.17,117(1985)にTomalia等により記載されているポリアミドアミン(PAMAM)デンドリマー、DSMCor
porationから入手できるポリプロピレンイミンポリアミン(DAB−Am)デンドリマー、フレチェット型ポリエーテルデンドリマー(J.Am.Chem.Soc.,Vol.112,7638(1990)、Vol.113,4252(1991)にFrechet等により記載されている)、パーセク型液晶モノデンドロン、デンドロン化ポリマーおよびそれらの自己集合高分子(Nature,Vol.391,161(1998)、J.Am.Chem.Soc.,Vol.119,1539(1997)にPercec等により記載されている)、ボルトロンHシリーズ樹枝状ポリエステル(PerstorpABから商業的に入手できる)が挙げられる。
【0034】
空孔形成剤としてのポリマーの好適な質量平均分子量は好ましくは2000〜100000、より好ましくは3000〜50000、特に好ましくは5000〜20000である。
【0035】
膜形成用組成物中の空孔形成剤の添加量は、全固形分に対して、好ましくは1〜50質量%、より好ましくは10〜40質量%、特に好ましくは20〜30質量%である。
【0036】
本発明の膜形成用組成物は密着促進剤を含むことが好ましい。
本発明に用いられる密着促進剤の代表的な例は、シラン、好ましくはアルコキシ・シラン(例えばトリメトキシビニルシラン、トリエトキシビニルシラン、テトラエトキシシラン、フェニルトリメトキシラン、アリルトリメトキシシラン、ジビニルジエトキシシラン)等のオルガノシラン、アセトキシシラン(例えばビニルトリアセトキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシラン)、およびこれらの加水分解物あるいは脱水縮合物、ヘキサメチルジシラザン[(CH33−Si−NH−Si(CH33]、または、アミノシラン・カプラー、例えばγ−アミノプロピルトリエトキシシラン、またはキレート(例えば、酸化アルミニウムを形成する点から、アルミニウムモノエチルアセトアセテートジイソプロピレート[((イソC37O)2Al(OCOC25CHCOCH3))]、アルミニウム・アルコキシド)などを挙げることができる。これらの材料を混合して用いてもよい。また、接着促進剤として市販されているものを用いてもよい。
【0037】
膜形成用組成物中の密着促進剤の添加量は、全固形分に対して、一般的には0.05質量%〜5質量%、好ましくは0.1〜2質量%である。
【0038】
上記膜形成用組成物をスピンコーティング法、ローラーコーティング法、ディップコーティング法、スキャン法等の任意の方法により基板に塗布した後、溶剤を加熱処理で除去することにより本発明の絶縁膜を形成することができる。加熱処理の方法は、特に限定されないが、一般的に使用されているホットプレート加熱、ファーネス炉を使用した方法、RTP(Rapid Thermal Processor)等によるキセノンランプを使用した光照射加熱等を適用することができる。
【0039】
本発明において、膜形成用組成物を基盤上に塗布した後に加熱処理することによって重合体を硬化させることが特に好ましい。例えば重合体中に残存する三重結合を後加熱時に重合させることによって、不溶不融化することができる。この後加熱処理の条件は、好ましくは100〜450℃、より好ましくは200〜420℃、特に好ましくは350℃〜400℃で、好ましくは1分〜2時間、より好ましくは10分〜1.5時間、特に好ましくは30分〜1時間の範囲である。
後加熱処理は数回に分けて行っても良い。また、この後加熱は酸素による熱酸化を防ぐために窒素雰囲気下で行うことが特に好ましい。
【0040】
本発明の膜形成用組成物を使用して得られる膜は、多様の目的に使用することが出来る。例えば半導体装置、マルチチップモジュール多層配線板等の電子部品における絶縁皮膜として好適であり、半導体用層間絶縁膜、表面保護膜、バッファーコート膜の他、LSIにおけるパッシベーション膜、α線遮断膜、フレキソ印刷版のカバーレイフィルム、オーバーコート膜、フレキシブル銅張板のカバーコート、ソルダーレジスト膜、液晶配向膜等として使用することが出来る。
【実施例】
【0041】
以下の実施例は本発明を説明するものであり、その範囲を限定するものではない。
【0042】
<実施例1>
米国特許4,918,158号明細書に記載の方法に従って、1,3−ジエチニルアダマンタンを合成した。次に、1,3−ジエチニルアダマンタン18.4をトルエン100mlと溶かして0℃に冷却し、ジイソブチルアルミニウムハイドライドをビニル基と等モル滴下した。3時間攪拌後、飽和塩化アンモニウム水溶液を200ml加えて、1時間室温で攪拌後分液した。有機層を濃縮し得られた粗生成物をシリカゲルクロマトグラフィーでヘキサンを溶離液として精製した。15gの1,3−ジビニルジアマンタンを合成した。
次に常法により、n−ヘプタン60ml、三塩化チタンAA80mg、ジエチルアルミニウムクロリド0.68mmolよりZiegler−Natta触媒を調製して、1,3−ジビニルジアマンタン3.5gを70℃で1時間かけて重合した。反応液をメタノールに添加して析出した固体をろ過した結果、2.0gの重合体(A)が得られた。
重合体(A)1.0gをシクロヘキサノン10gに室温で完全に溶解させて塗布液を調製した。この溶液を0.2ミクロンのテトラフルオロエチレン製フィルターでろ過した後、シリコンウェハー上にスピンコートし、この塗膜を窒素気流下ホットプレート上で250℃で60秒間加熱した後、更に窒素置換した400℃のオーブン中で60分焼成した結果、膜厚0.5ミクロンの均一な膜が得られた。膜の比誘電率をフォーディメンジョンズ製水銀プローバおよび横川ヒューレットパッカード製のHP4285ALCRメーターを用いて1MHzにおける容量値から算出したところ、2.49であった。また、MTS社ナノインデンターSA2を使用してヤング率を測定したところ、5.9GPaであった。
【0043】
<実施例2>
公知の方法で容易に合成できる4,9−ジエチニルジアマンタンから、実施例1の方法に準じて4,9−ジビニルジアマンタンを合成した。さらに実施例1の方法に準じて4,9−ジビニルジアマンタンの重合体(B)を合成して、塗膜を作成した結果、比誘電率2.44、ヤング率6.9GPaであった。
【0044】
<実施例3>
重合体(B)の10質量%のシクロヘキサノン塗布液を10g作った。この液に空孔形成剤として質量平均分子量13700のポリスチレン0.2gを加えて完溶させた。この塗布液を用いて実施例1と同じ方法で塗膜を作成した。膜の比誘電率は、2.30であった。またヤング率は5.8GPaであった。CSMインスツルメンツ社製ナノスクラッチテスターを使用して密着力を測定したところ、2.5mNであった。
【0045】
<実施例4>
実施例3と同じ方法で空孔形成剤が含まれた塗布液10.2gを作成した。
ビニルトリアセトキシシランに3倍モルの水を加えて、室温で10分間攪拌して加水分解と脱水縮合を行い、密着促進剤として部分縮合体を合成した。この縮合体10mgを塗布液に加え、完溶させた。こうして得られた塗布液を使用して実施例1と同じ方法で塗膜を作成した。比誘電率は2.30、ヤング率は5.8GPaであった。CSMインスツルメンツ社製ナノスクラッチテスターを使用して密着力を測定したところ、6.1mNであった。
【0046】
<比較例1>
特開2003−292878の製造例8の方法に準じて、1,3−ビススチリルアダマンタンを5g合成した。これをアニソールに固形分10%になるように塗布液を作成した。
この溶液を0.2ミクロンのテトラフルオロエチレン製フィルターでろ過した後、シリコンウェハー上にスピンコートし、この塗膜を窒素気流下ホットプレート上で150℃で1分間加熱した後、更に窒素置換した250℃のオーブン中で60分焼成した結果、膜厚0.5ミクロンの膜が得られた。膜の比誘電率を測定した結果、2.63であった。また、MTS社ナノインデンターSA2を使用してヤング率を測定したところ、3.3GPaであった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エチレン性二重結合とカゴ型構造を有する化合物を溶剤および重合用触媒の存在下で重合させて得られる重合体と塗布溶剤とを含有することを特徴とする膜形成用組成物。
【請求項2】
カゴ型構造がアダマンタンまたはジアマンタンである請求項1に記載の膜形成用組成物。
【請求項3】
空孔形成剤を含むことを特徴とする請求項1、2の何れかに記載の膜形成用組成物。
【請求項4】
密着促進剤を含むことを特徴とする請求項1〜3の何れかに記載の膜形成用組成物。
【請求項5】
式(I)で表される化合物が窒素原子を有さないことを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の膜形成用組成物。
【請求項6】
請求項1〜5の何れかに記載の膜形成用組成物を用いて形成した絶縁膜。
【請求項7】
請求項6に記載の絶縁膜を有する電子デバイス。

【公開番号】特開2006−241237(P2006−241237A)
【公開日】平成18年9月14日(2006.9.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−56131(P2005−56131)
【出願日】平成17年3月1日(2005.3.1)
【出願人】(000005201)富士写真フイルム株式会社 (7,609)
【Fターム(参考)】