説明

自動分析装置用アルカリ性洗剤、自動分析装置、および自動分析装置の洗浄方法

【課題】アルカリ性溶液に界面活性剤を配合した場合に見られる洗浄剤の曇点の低下を抑え、高い洗浄力を有する自動分析装置用のアルカリ性洗剤を提供する。
【解決手段】非イオン界面活性剤としてのポリオキシアルキレンアルキルエーテルと、炭素数1乃至3の第一級アルコールおよび第二級アルコールなどの曇点調整用有機溶媒とを含有するアルカリ性溶液からなることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動分析装置用アルカリ性洗剤、自動分析装置、および自動分析装置の洗浄方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動分析装置において、試料と試薬の反応液とが接触する反応管の洗浄には、アルカリ性溶液に非イオン界面活性剤を添加して洗浄力を高めた洗浄液が提案されている。非イオン界面活性剤として、洗浄力の高いポリオキシエチレンアルキルエーテルを用いることが提案されている(例えば、特許文献1参照)。オキシエチレンの付加モル数が異なるポリオキシエチレンアルキルエーテルの混合物を配合することもまた、提案されている(例えば、特許文献4参照)。
【0003】
こうした洗浄液は、界面活性剤の特性である曇点(温度を高めた際に白濁する温度)を有しており、自動分析装置内で発生する熱によって、洗浄液が白濁分離するなどの問題が生じる場合がある。なお、洗浄液の曇点を所定の範囲内に調節して、洗浄力を確保しようとした洗浄液が提案されている(例えば、特許文献2参照)。この場合には、曇点を使用温度付近に設定しているため、使用状態で洗浄液が白濁し不均一になっていると考えられる。また、反応セルに損傷を与えることなく洗浄効果を高めるために、有機溶媒で希釈した洗浄液が提案されている(例えば、特許文献3参照)。
【0004】
一般的に、界面活性剤を含有する洗剤は、曇点で白濁を起こす。曇点は、アルカリ度と界面活性剤種類、界面活性剤濃度によって決定されるが、蛋白質汚れに対する洗浄力を高めるべくアルカリ度を上げるためには、界面活性剤濃度を低く設定せざるを得なかった。自動分析装置内において使用する際には、アルカリ性洗剤は純水で希釈して用いられる。希釈後に所定濃度の界面活性剤を含有するために希釈倍率を抑えて、すなわち、アルカリ性洗浄液は10%程度の高濃度で使用されている。装置の処理能力があがると、洗浄液の使用量も増えて、洗剤の交換頻度が高くなる。洗剤容器を大きくすることによって、これを回避することができるものの、大型の洗剤容器は取り扱いが困難である。しかも、洗剤容器が大きくなると自動分析装置内における占有スペースも増加して、分析装置の大型化につながる。
【特許文献1】特許第3001082号公報
【特許文献2】特開2002−323504号公報
【特許文献3】特開2003−226893号公報
【特許文献4】特開2003−139781号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、アルカリ性溶液に界面活性剤を配合した場合に見られる洗浄剤の曇点の低下を抑え、高い洗浄力を有するアルカリ性洗剤を提供することにある。
【0006】
また本発明の他の目的は、洗浄部の大型化を回避した自動分析装置、およびその洗浄方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明にかかる自動分析装置用アルカリ性洗剤は、非イオン界面活性剤としてのポリオキシアルキレンアルキルエーテルと、曇点調整用有機溶媒とを含有するアルカリ性溶液からなることを特徴とする。
【0008】
本発明にかかる自動分析装置は、検体を保持するサンプラと、試薬を保持する試薬庫と、反応管を保持する反応ディスクと、前記検体と前記試薬を前記反応管に分注する機構と、前記検体と前記試薬との反応液を測定する測定部と、前記反応管を、アルカリ性洗剤水、酸性洗剤水、および純水を用いて洗浄する洗浄部とを具備する自動分析装置であって、前記アルカリ性洗剤水は、前述のアルカリ性洗剤を1〜3%の濃度に希釈したものであることを特徴とする。
【0009】
本発明にかかる自動分析装置の洗浄方法は、検体を保持するサンプラと、試薬を保持する試薬庫と、反応管を保持する反応ディスクと、前記検体と前記試薬を前記反応管に分注する機構と、前記検体と前記試薬との反応液を測定する測定部と、前記反応管を、アルカリ性洗剤水、酸性洗剤水、および純水を用いて洗浄する洗浄部とを具備する自動分析装置の洗浄方法であって、前記アルカリ性洗剤水として、前述のアルカリ性洗剤を1〜3%の濃度に希釈したものを用いることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、アルカリ性溶液に界面活性剤を高濃度に配合した場合にみられる洗浄剤の曇点の低下を抑え、高い洗浄力を有するアルカリ性洗剤が提供される。また本発明によれば、洗浄部の大型化を回避した自動分析装置、およびその洗浄方法が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態を説明する。
本発明の実施形態にかかる自動分析装置用アルカリ性洗剤は、非イオン界面活性剤としてのポリオキシアルキレンアルキルエーテルと、曇点調整用有機溶媒とを含有するアルカリ性溶液からなるものである。本発明者らは、非イオン界面活性剤の中でも、洗浄力がポリオキシエチレンアルキルエーテルと同等の洗浄力を有するポリオキシアルキレンアルキルエーテルに着目した。しかも、ポリオキシアルキレンアルキルエーテルは、80℃程度と高い曇点を有する。
【0012】
本発明の実施形態におけるポリオキシアルキレンアルキルエーテルとしては、例えば、下記一般式(1)で表わされる化合物を用いることができる。
【0013】
RO(CH2CH(CH3)O)x(CH2CH2O)yH (1)
上記一般式(1)において、Rは炭素数3乃至20のアルキル基であり、炭素数12のアルキル基が特に好ましい。また、xおよびyは、それぞれ重合度を表わす数値である。こうしたポリオキシアルキレンアルキルエーテルは、例えば、エマルゲンLS−114(花王(株)製)として市販されており、エマルゲンLS−106、エマルゲンLS−110、あるいはエマルゲンMS−110(花王(株)製)を用いることもできる。
【0014】
ポリオキシアルキレンアルキルエーテルは、2%(v/v)以上10%(v/v)以下の割合で用いることが好ましい。2%(v/v)未満の場合には、その効果を十分に得ることが困難となる。一方、10%(v/v)を越えて過剰に加えたところで、洗浄効果が顕著に高められるわけではない。ポリオキシアルキレンアルキルエーテルの配合量は、3%(v/v)以上6%(v/v)以下の範囲内がより好ましい。
【0015】
通常、非イオン界面活性剤の曇点は、アルカリ度が高まるにしたがって低下する。本発明者らは、特定の有機溶媒を加えることによって、ポリオキシアルキレンアルキルエーテルの曇点の低下を抑制できることを見出した。よって、本発明の実施形態にかかるアルカリ性洗剤には、曇点調整用有機溶媒が配合される。
【0016】
曇点調整用溶媒としては、炭素数1乃至3の第一級アルコールおよび第二級アルコールを用いることができる。具体的には、メタノール、エタノール、およびイソプロパノールが挙げられる。曇点の低下を抑制する効果が最も大きいことから、エタノールが最も好ましい。
【0017】
曇点調整用有機溶媒は、1%(v/v)以上10%(v/v)以下の割合で用いることが好ましい。1%(v/v)未満の場合には、その効果を十分に得ることが困難となる。一方、10%(v/v)を越えて過剰に加えたところで、曇点の低下を抑制する効果が顕著に高められるわけではない。曇点調整用有機溶媒の配合量は、2%(v/v)以上8%(v/v)以下の範囲内がより好ましい。
【0018】
本発明の実施形態にかかるアルカリ性洗剤は、上述したようなポリオキシアルキレンアルキルエーテルおよび曇点調整用有機溶媒をアルカリ性溶液に溶解することにより調製することができる。
【0019】
アルカリ性溶液としては、水酸化ナトリウムまたは水酸化カリウム等の水溶液を用いることができる。こうしたアルカリ性溶液は、蛋白質および無機物の汚れに対して有効であり、汚れを溶解分解する。また、アルカリ性溶液は、脱脂洗浄力が高く、蛋白質有機物、油脂類などの汚れに対しても有効である。しかも、アルカリ性溶液は、汚れを溶解分解するとともに、血清などに含まれる蛋白質の溶解性を高めるといった作用を有する。自動分析装置で用いられる検体(血液や尿)には、蛋白質や脂質が含まれており、試薬中にも、酵素などの蛋白質成分が多く含まれるものが増えている。
【0020】
これらを考慮すると、アルカリ性溶液のpHは11以上であることが望まれる。アルカリ性溶液は、濃度を調節して所定のpH範囲に規定することができる。
【0021】
本発明の実施形態にかかるアルカリ性洗剤には、次亜塩素酸ナトリウムおよび炭酸ナトリウムの少なくとも一方を添加剤として配合してもよい。次亜塩素酸ナトリウムを添加することによって、汚れ成分の可溶化反応性が高められ、炭酸ナトリウムは、界面活性剤の助剤として界面活性効果を高めるといった作用を有する。これらの添加剤は、0.1wt%以上5wt%以下の濃度で含有されていれば、その効果を十分に得ることができる。
【0022】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態にかかる分析装置の構成を説明する。
【0023】
図1は、本発明の一実施形態にかかる自動分析装置の全体構成を示す斜視図である。この自動分析装置は、被検試料の各種成分と反応する試薬を納めた複数の試薬ボトルを収納した試薬ラック11を設置可能な試薬庫12および13と、円周上に複数の反応管14を配置した反応ディスク15と、被検試料が納められた被検試料容器27がセットされるディスクサンプラ16とを有する。
【0024】
試薬庫12,13、反応ディスク15およびディスクサンプラ16は、それぞれ駆動装置により回動される。測定に必要な試薬は、試薬庫12あるいは試薬庫13の試薬ラック11に収納されている試薬ボトル17から、それぞれ分注アーム18あるいは分注アーム19を用いて反応ディスク15上の反応管14に分注される。
【0025】
また、ディスクサンプラ16上に配置されている被検試料容器27に納められた被検試料は、サンプリングアーム20のサンプリングプローブ26により、反応ディスク15上の反応管14に分注される。被検試料と試薬とが分注された反応管14は、反応ディスク15の回動により撹拌位置まで移動し、撹拌ユニット21により被検試料と試薬とが撹拌され混合液(反応液)が形成される。その後、測光系23は、測光位置まで移動した反応管14に対して光を照射して反応管14内の反応液の吸光度変化を測定することにより、被検試料の成分分析を行なう。分析が終了すると、反応管14内の反応液は廃棄され、その後反応管14は洗浄ユニット22により洗浄される。
【0026】
次に、洗浄ユニット22について詳細に説明する。図2は、当該自動分析装置における前記洗浄ユニット22を含む洗浄系のブロック図である。この図2において、自動分析装置の洗浄系は、アルカリ性洗剤の原液が納められたアルカリ洗剤ボトル30と、酸性洗剤の原液が納められた酸性洗剤ボトル31と、このアルカリ洗剤ボトル30に納められたアルカリ性洗剤の原液と純水とを混合してアルカリ性洗剤水を形成すると共に、酸性洗剤ボトル31に納められた酸性洗剤の原液と純水とを混合して酸性洗剤水を形成する洗剤ポンプ32とを有する。
【0027】
この洗浄系は、制御部(図示せず)の通電により、アルカリ性洗剤の原液,酸性洗剤の原液および洗剤ポンプ32で形成されたアルカリ性洗剤水や酸性洗剤水の流れを制御する電磁バルブ33,34を有している。なお、この図2に示す各電磁バルブ33,34等に付されている「NO(ノーマルオープン)」の記号は、その電磁バルブが、非通電時には開状態となっており、通電時に閉状態となる電磁バルブであることを示し、「NC(ノーマルクローズ)」の記号は、その電磁バルブが、非通電時には閉状態となっており、通電時に開状態となる電磁バルブであることを示し、「COM(共通孔)」の記号は、その電磁バルブが共通バルブであることを示している。
【0028】
洗浄ユニット22は、反応管14に対して高濃度水の吐出および吸引を行なう第1の洗浄ノズルユニット35と、反応管14に対してアルカリ性洗剤水の吐出および吸引を行なう第2の洗浄ノズルユニット36と、反応管14に対して酸性洗剤水の吐出および吸引を行なう第3の洗浄ノズルユニット37と、反応管14に対して純水の吐出および吸引を行なう第4,第5の洗浄ノズルユニット38,39と、反応管14内の残水の吸引を行なうサクションノズルユニット40と、残水が吸引された反応管14内を乾燥させる乾燥ノズルユニット41とによって構成されている。
【0029】
各ノズルユニット35〜41は、それぞれ上下機構35a〜41aを有しており、前記制御部24は、この上下機構35a〜41aを介して各ノズルユニット35〜41の上昇および下降を制御する。
【0030】
第1の洗浄ノズルユニット35および第4,第5の洗浄ノズルユニット38,39は、分岐管42,電磁バルブ43を介して、該各ノズルユニット35,38,39に純水を供給するための洗浄用ベローズポンプ44に接続されている。
【0031】
また、第1の洗浄ノズルユニット35は、高濃度廃液用ベローズポンプ45,46に接続されており、洗浄用ベローズポンプ44を介して反応管14内に吐出された高濃度水の廃液を、この高濃度廃液用ベローズポンプ45,46により吸引して廃液する。
【0032】
また、第4,第5の洗浄ノズルユニット38,39は、それぞれ分岐管47,48を介して真空ポンプ49,50(VP)に接続されており、洗浄用ベローズポンプ44を介して反応管14内に吐出された純水の廃液を、この真空ポンプ49,50により吸引して廃液する。
【0033】
第2の洗浄ノズルユニット36は、分岐管51および電磁バルブ33を介して前記洗剤ポンプ32に接続されると共に、分岐管48を介して真空ポンプ50に接続されており、洗剤ポンプ32を介して反応管14内に吐出されたアルカリ性洗剤水を、真空ポンプ50により吸引して廃液する。
【0034】
同様に、第3の洗浄ノズルユニット37は、分岐管51及び電磁バルブ34を介して前記洗剤ポンプ32に接続されると共に、分岐管48を介して真空ポンプ50に接続されており、洗剤ポンプ32を介して反応管14内に吐出された酸性洗剤水を、真空ポンプ50により吸引して廃液する。
【0035】
サクションノズルユニット40は、分岐管48を介して真空ポンプ50に接続されており、反応管14内の残水をこの真空ポンプ50により吸引して廃液する。
【0036】
そして、乾燥ノズルユニット41は、電磁バルブ52を介して真空ポンプ53に接続されると共に真空ポンプ54に接続されており、該各真空ポンプ53,54により反応管14内を乾燥させる。
【0037】
各反応管14は、この第1の洗浄ノズルユニット35から乾燥ノズルユニット41までの間を順に移動制御されることで、「高濃度水の吸引」→「純水の吐出・吸引」→「アルカリ性洗剤水の吐出」→「アルカリ性洗剤水の吸引」→「酸性洗剤水の吐出」→「酸性洗剤水の吸引」→「第1回目の純水の吐出」→「第1回目の純水の吸引」→「第2回目の純水の吐出」→「第2回目の純水の吸引」→「残水の吸引」→「乾燥」の順に各洗浄工程が施される。
【0038】
アルカリ性洗剤ボトル30には、上述したような本発明の実施形態にかかるアルカリ性洗剤が収容され、このアルカリ性洗剤を純水で1〜3%の濃度に希釈して得られたアルカリ性洗剤水によって、反応管14の洗浄が行なわれる。すでに説明したように、本発明の実施形態にかかるアルカリ性洗剤は、2%(v/v)以上10%(v/v)以下の濃度で非イオン界面活性剤としてのポリオキシアルキレンアルキルエーテルを含有することができる。このように高い濃度で非イオン界面活性剤を含有できるため、反応管の洗浄に用いる際には1〜3%という低い濃度に希釈することが可能となった。濃度が1%未満の場合には、十分な洗浄効果を得ることが困難となる。一方、3%を越えると、洗剤交換頻度が上がり、従来と同等の交換頻度にするには洗剤容器を大きくする必要がある。本発明の実施形態にかかるアルカリ性洗剤は、洗剤容器を大きくしなくても処理能力の向上に対応することができ、しかも十分に高い洗浄効果が維持される。
【0039】
さらに、本発明の実施形態にかかるアルカリ性洗剤は、装置使用条件下でも白濁や分離が生じないことから、アルカリ性溶液と界面活性剤とを別個の容器に保存する必要はない。アルカリ性洗剤の成分を別個の容器に保存した場合には、自動分析装置の洗浄系の構造が複雑になるものの、本発明の実施形態においては、こうした不都合も回避される。
【0040】
以下、具体例を示して本発明を説明する。
【0041】
(実施例1)
アルカリ性溶液としての1.2Nの水酸化ナトリウム水溶液に、非イオン界面活性剤としてポリオキシアルキレンアルキルエーテル4%(v/v)(花王エマルゲンLS−114)を添加し、さらに曇点調整用有機溶媒としてエタノールを加えてアルカリ性洗剤を調製した。エタノールの濃度は、2,4,6,8および10%(v/v)と変化させて調製し、得られたアルカリ性洗剤の曇点を測定した。なお、非イオン界面活性剤としてのポリオキシアルキレンアルキルエーテル単体(濃度3%)の曇点は88℃であった。
【0042】
エタノール濃度と曇点との関係を、図3に示す。比較のため、エタノールを配合しない以外は同様の処方で調製した洗剤の曇点も、図3に併せて示した。
【0043】
図3に示されるように、エタノールを配合しない場合、すなわち1.2N NaOH溶液中の曇点は、43℃であるのに対し、エタノール濃度が増加するにしたがって、曇点は上昇する。しかしながら、曇点の上昇には限界があり、エタノール濃度が10%(v/v)程度となると、ほぼ一定値に近づいている。
【0044】
(実施例2)
アルカリ性溶液としての1.2Nの水酸化ナトリウム水溶液に、非イオン界面活性剤4%(v/v)、炭酸ナトリウム0.2%、および曇点調整用有機溶媒としてエタノール10%(v/v)を配合して、アルカリ性洗剤を調製した。非イオン界面活性剤としては、ポリエチレングリコール、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンプロピレングリコール、およびポリオキシアルキレンアルキルエーテルを用いた。
【0045】
図1に示した自動分析装置を用いて擬似的な脂質汚れを洗浄することにより、各アルカリ性洗剤の洗浄効果を比較した。まず、血清とGOT測定試薬とを混ぜた反応液を反応管に収容し、40℃で1時間恒温して擬似的な脂質汚れを形成した。アルカリ性洗剤の使用濃度は1.25%として反応管の洗浄を行なった後、T−CHOの試薬ブランクを測定した。
【0046】
得られた洗浄液の脂質汚れに対する洗浄効果を、図4にまとめる。なお、図4中の界面活性剤1〜8は、それぞれ以下のとおりである。
【0047】
1:ポリエチレングリコール(東邦化学工業トーホーポリエチレングリコール400)
2:ポリオキシエチレンラウリルエーテル(1)(花王エマルゲン150)
3:ポリオキシエチレンラウリルエーテル(2)(花王エマルゲン147)
4:ポリオキシエチレンラウリルエーテル(3)(花王エマルゲン130)
5:ポリオキシエチレンラウリルエーテル(4)(花王エマルゲン123P)
6:ポリオキシエチレンポリプロピレングリコール(花王エマルゲンPP−290)
7:ポリオキシアルキレンアルキルエーテル(1)(花王エマルゲンLS−114)
8:ポリオキシアルキレンアルキルエーテル(2)(花王エマルゲンLS−110)
図4の結果から、非イオン界面活性剤としてポリオキシアルキレンアルキルエーテルを含有するアルカリ洗剤が、最も高い洗浄効果を有することが確認された。
【0048】
(実施例3)
非イオン界面活性剤としてのポリオキシアルキレンアルキルエーテルの濃度を1%(v/v)、5%(v/v)、および10%(v/v)に変更した以外は、実施例1と同様の処方によりアルカリ性洗剤を調製した。
【0049】
得られた洗剤の脂質汚れに対する洗浄効果を前述の実施例2と同様にして調べ、その結果を図5に示す。非イオン界面活性剤の濃度が2%(v/v)以上の範囲内であれば、良好な洗浄効果が得られることが、図5からわかる。
【0050】
(実施例4)
アルカリ性溶液としての1.2Nの水酸化ナトリウム水溶液に、非イオン界面活性剤としてのポリオキシアルキレンアルキルエーテル4%(v/v)、曇点調整用有機溶媒としてエタノール10%(v/v)、および次亜塩素酸ナトリウム0.6%を添加して、本実施例のアルカリ性洗剤を調製した。
【0051】
図1に示した自動分析装置を用いて微量蛋白質に対する汚れを洗浄することにより、本実施例のアルカリ性洗剤の洗浄効果を調べた。
【0052】
まず、サンプルとしてプール血清を用い、試薬としてイオン交換水を用いて、反応管を汚染させた。汚染後の反応管は、本実施例のアルカリ性洗剤を1.25%の濃度に希釈してなるアルカリ性洗剤水により洗浄を行なった。その後、サンプルとして0濃度のイオン交換水を使用し、試薬としてはuTP測定用試薬を用いてuTPを測定して、汚染程度を確認した。
【0053】
また、対照としては、界面活性剤を含有しない1N NaOHアルカリ溶液、および界面活性剤としてのポリオキシエチレンアルキルエーテルを含有する1N NaOHアルカリ性洗剤を10%の濃度で用いて、同様に蛋白質汚れに対する洗浄効果を調べた。10%濃度は、従来のアルカリ性洗剤の使用濃度に相当する。
【0054】
得られた結果を図6にまとめる。図6に示されるように、界面活性剤を含有しない1N NaOHアルカリ性洗剤の試薬ブランクの平均が11mg/dLであったのに対し、実施例のアルカリ性洗剤では、0.5mg/dLと洗浄効果が改善された。
【0055】
これは、界面活性剤を含有する1N NaOHアルカリ性洗剤を10%濃度で使用した際の洗浄結果とほぼ同等であり、使用濃度が低くても従来と同等の高い洗浄効果が得られることがわかった。
【0056】
(実施例5)
800テスト/時の処理能力の自動分析装置にアルカリ性洗剤をセットした場合について、洗剤容器の大きさおよび交換頻度を算出した。
【0057】
例えば、1.25%の使用濃度とするには、1回あたり10μLのアルカリ性洗剤を1000μLのイオン交換水で希釈すればよい。500mL入りのアルカリ性洗剤であれば次のように算出され、洗剤容器の交換は約2週間毎となる。
【0058】
500000÷800テスト/時÷5時間稼動/1日÷10μL/1回=12.5日
一方、使用濃度が10%の場合には、1回あたり100μLのアルカリ性洗剤を900μLのイオン交換水で希釈することとなる。洗剤容器のサイズが500mLと小さければ1.5日しか持たず、交換頻度が高くなってしまう。
【0059】
こうした理由から、従来の洗剤容器は、2Lサイズ240mm×135mm×80mm程度のものが使用されてきた。これに対して、本発明の実施形態にかかるアルカリ性洗剤を用いる場合、洗剤容器は、容量500mL、サイズ180mm×100mm×40mm程度のものを使用することができる。このように、洗浄部を大型化することなく洗浄効果を維持することが可能となった。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】本発明の実施形態かかるアルカリ性洗剤が用いられる自動分析装置の概観を示す図。
【図2】本発明の実施形態にかかる自動分析装置における洗浄系のブロック図。
【図3】エタノール濃度と曇点との関係を表わすグラフ図。
【図4】界面活性剤の種類による洗浄効果の比較を表わすグラフ図。
【図5】界面活性剤濃度と洗浄効果との関係を表わすグラフ図。
【図6】蛋白質汚れに対する洗浄効果を表わすグラフ図。
【符号の説明】
【0061】
11…試薬ラック、12…試薬庫、13…試薬庫、14…反応管、15…反応ディスク、16…ディスクサンプラ、17…試薬ボトル、18…分注アーム、19…分注アーム、20…ディスクサンプラ用分注アーム、21…攪拌ユニット、22…洗浄ユニット、23…測光系、24…プローブ、25…プローブ、26…サンプリングプローブ、27…被検試料容器、30…アルカリ洗剤ボトル、31…酸性洗剤ボトル、32…洗剤ポンプ、35…第1の洗浄ノズルユニット、36…第2の洗浄ノズルユニット、37…第3の洗浄ノズルユニット、38…第4の洗浄ノズルユニット、39…第5の洗浄ノズルユニット、40…サクションノズルユニット、41…乾燥ノズルユニット、42…分岐管、43…電磁バルブ、44…洗浄用ベローズポンプ、45…高濃度廃液用ベローズポンプ、46…高濃度廃液用ベローズポンプ、47…分岐管、48…分岐管、49…真空ポンプ、50…真空ポンプ、51…分岐管、52…電磁バルブ、53…真空ポンプ、54…真空ポンプ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
非イオン界面活性剤としてのポリオキシアルキレンアルキルエーテルと、曇点調整用有機溶媒とを含有するアルカリ性溶液からなることを特徴とする自動分析装置用のアルカリ性洗剤。
【請求項2】
前記アルカリ性溶液のpHは11以上であることを特徴とする請求項1に記載の自動分析装置用のアルカリ性洗剤。
【請求項3】
前記非イオン界面活性剤の含有量は、2%(v/v)以上10%(v/v)以下であることを特徴とする請求項1または2に記載の自動分析装置用のアルカリ性洗剤。
【請求項4】
前記非イオン界面活性剤は、アルキレンとしてエチレンおよびプロピレンを含むことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の自動分析装置用のアルカリ性洗剤。
【請求項5】
前記非イオン界面活性剤は、アルキルエーテルとしてラウリルエーテルを含むことを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の自動分析装置用のアルカリ性洗剤。
【請求項6】
前記曇点調整用有機溶媒の含有量は、1%(v/v)以上10%(v/v)以下であることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載の自動分析装置用のアルカリ性洗剤。
【請求項7】
前記曇点調整用溶媒は、炭素数1乃至3の第一級アルコールおよび第二級アルコールから選択されることを特徴とする請求項1乃至6のいずれか1項に記載の自動分析装置用のアルカリ性洗剤。
【請求項8】
検体を保持するサンプラと、
試薬を保持する試薬庫と、
反応管を保持する反応ディスクと、
前記検体と前記試薬を前記反応管に分注する機構と、
前記検体と前記試薬との反応液を測定する測定部と、
前記反応管を、アルカリ性洗剤水、酸性洗剤水、および純水を用いて洗浄する洗浄部とを具備する自動分析装置であって、
前記アルカリ性洗剤水は、請求項1乃至7のいずれか1項に記載のアルカリ性洗剤を、1〜3%の濃度に希釈したものであることを特徴とする自動分析装置。
【請求項9】
検体を保持するサンプラと、
試薬を保持する試薬庫と、
反応管を保持する反応ディスクと、
前記検体と前記試薬を前記反応管に分注する機構と、
前記検体と前記試薬との反応液を測定する測定部と、
前記反応管を、アルカリ性洗剤水、酸性洗剤水、および純水を用いて洗浄する洗浄部とを具備する自動分析装置の洗浄方法であって、
前記アルカリ性洗剤水として、請求項1乃至7のいずれか1項に記載のアルカリ性洗剤を、1〜3%の濃度に希釈したものを用いることを特徴とする自動分析装置の洗浄方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−2090(P2007−2090A)
【公開日】平成19年1月11日(2007.1.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−183458(P2005−183458)
【出願日】平成17年6月23日(2005.6.23)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【出願人】(594164542)東芝メディカルシステムズ株式会社 (4,066)
【出願人】(594164531)東芝医用システムエンジニアリング株式会社 (892)
【Fターム(参考)】