説明

自動変速機の制御装置

【課題】 ニュートラル制御からの復帰時において、係合要素の耐久性を保ちつつ、係合ショックの発生を抑制する。
【解決手段】 ECUは、ニュートラル制御実行モードであるか否かを判断するステップ(S100)と、ニュートラル制御復帰モードであるか否かを判断するステップ(S200)と、ニュートラル制御復帰モード中にアクセルオンされると(S300にてYES)、ニュートラル制御復帰モード進行状況を検知するステップ(S400)と、ニュートラル制御復帰モードの初期であると(S500にてYES)、スリップスタートを禁止するステップ(S600)とを含む、プログラムを実行する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動変速機の制御装置に関し、特に、ニュートラル制御から復帰して車両を発進させる際の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
自動変速機に電磁弁を搭載し、外部から電気信号を入力して変速操作に関する変数、たとえば、変速段、油圧レベル、変速操作の時定数やタイミング等をECU(Electronic Control Unit)により調整する自動変速機が実用化されている。このようなECUにより自動変速機の運転状態を種々の状態へと確実かつ速やかに移行可能である。また、ECUには、CPU(Central Processing Unit)が組み込まれているので、プログラムにより制御が可能であるから、プログラムや種々の定数の変更を通じて、自動変速機の運転状態をきめ細かく設定すれば、車両の走行状態やエンジンの負荷状態に対応させて最適な性能を自動変速機から引き出すことが可能である。ここで、車両の走行状態とは、車速やステアリング操作、加速減速の頻度やそのレベル、路面状態等であり、エンジンの負荷状態とは、エンジンの回転数、スロットル開度、アクセルペダル踏み込み量、エンジンや自動変速機の入出力軸のトルク等である。
【0003】
さらに、自動変速機に内蔵された係合要素(クラッチやブレーキ)に供給される油圧レベルは、車両の走行状態やエンジンの負荷状態に適合させてきめ細かく調整される。このように調整することにより、変速ショックの抑制と係合要素の損耗の軽減を両立させて、速やかで円滑な変速を達成することができる。
【0004】
このような自動変速機は、エンジンとトルクコンバータ等を介して繋がるとともに複数の動力伝達経路を有してなる変速機構を有して構成され、たとえば、アクセル開度および車速に基づいて自動的に動力伝達経路の切り換えを行なう、すなわち自動的に変速比(走行速度段)の切り換えを行なうように構成される。一般的に、自動変速機を有した車両には運転者により操作されるシフトレバーが設けられ、シフトレバー操作に基づいて変速ポジション(たとえば、後進走行ポジション、ニュートラルポジション、前進走行ポジション)が設定され、このように設定された変速ポジション内(通常は、前進走行ポジション内)において自動変速制御が行なわれる。
【0005】
このような自動変速機を有した車両において、前進走行ポジションが設定されて車両が停止している状態では、アイドリング回転するエンジンからの駆動力がトルクコンバータを介して変速機に伝達され、これが車輪に伝達されるため、いわゆるクリープ現象が発生する。クリープ現象は、登坂路での停車からの発進をスムーズに行なわせることができるなど、所定条件下では非常に有用なのであるが、車両を停止保持したいときには不要な現象であり、車両のブレーキを作動させてクリープ力を抑えるようになっている。すなわち、エンジンからのクリープ力をブレーキにより抑えるようになっており、その分エンジンの燃費が低下するという問題がある。
【0006】
このようなことから、前進走行ポジションにおいて、ブレーキペダルが踏み込まれてブレーキが作動されるとともにアクセルがほぼ全閉となって車両が停止している状態では、前進走行ポジションのまま前進クラッチを解放させて、変速機をニュートラルに近いニュートラル状態として、燃費の向上を図ることが提案されている。
【0007】
このようなニュートラル制御といわれる技術や、車両が停止状態から速やかに発進する状態における制御技術などが多く開示されている。特に、トルクコンバータの入力側と出力側とを直結可能とするロックアップクラッチを制御して、入力側のポンプ回転速度(エンジン回転速度に対応)と出力側のタービン回転速度との回転差に応じて、そのロックアップクラッチの係合力を所定の状態にフィードバック制御し(スリップ制御し)、これによってトルクコンバータのスリップ状態を適正に制御して振動および騒音の発生を防止するととともに、車両の発進性能の向上を図るようにした技術が知られている。
【0008】
このように、高度な電子制御によって、ロックアップクラッチによる機械的な動力伝達とトルクコンバータによる動力伝達との動力伝達配分を走行状態に応じて、きめ細かく制御することにより、伝達効率を大幅に高めている。この制御においては、中間モード(ロックアップクラッチに微小な滑りを与えるスリップ制御)を低車速域まで広げて設定し、ロックアップ領域をより拡大するものである。
【0009】
特開2005−3193号公報(特許文献1)は、ニュートラル制御からの復帰時にロックアップクラッチをスリップ制御して、車両を発進させる車両用ロックアップクラッチの制御装置を開示する。この車両用ロックアップクラッチの制御装置は、ロックアップクラッチ付流体伝動装置をエンジンの出力側に有する車両において、ロックアップクラッチを制御するための車両用ロックアップクラッチの制御装置であって、ロックアップクラッチ付流体伝動装置の出力側には自動変速機が連結され、車両の停止時には自動変速機内の動力伝達経路を解放するための油圧式摩擦係合装置を解放するニュートラル制御手段と、ニュートラル制御手段による自動変速機の動力伝達経路の解放制御が実行されている間は油圧式摩擦係合装置の元圧を所定圧高めるが、解放制御が終了されると元圧を緩やかに低下させて復帰させる元圧制御手段と、車両の発進に際してロックアップクラッチをスリップ状態とするロックアップクラッチ制御手段とを含み、ロックアップクラッチの制御に用いられる制御油圧は元圧制御手段によって制御される元圧から調圧されることを特徴とする。
【0010】
この車両用ロックアップクラッチの制御装置によると、ニュートラル制御から復帰して車両が発進する際に、ロックアップクラッチ制御手段によりロックアップクラッチがスリップ状態とされるので、車両の発進時において、エンジンからの伝達トルクが、流体伝動装置を介して後段に伝達されるのに並行して、ロックアップクラッチを介しても後段に伝達されることから、流体伝動装置だけで動力を伝達する従来の発進時に比較して、車両発進時におけるエンジンの回転速度上昇が抑制されるので、良い燃費が車両発進時に得られる(以下、このように車両を発進させることをスリップスタートと記載する)。さらに、元圧制御手段により、ニュートラル制御中には所定圧高められていた元圧がそのニュートラル制御の終了に伴ってその元圧が緩やかに低下させられてニュートラル制御前の値に復帰させられることから、そのニュートラル制御直後の車両発進時においてロックアップクラッチ制御手段により、流体伝動装置のロックアップクラッチがスリップ状態となるように制御されるとき、そのロックアップクラッチのスリップ制御に用いる元圧の急変が防止されるので、その元圧の急変に起因するスリップ制御に乱れが好適に解消される。
【特許文献1】特開2005−3193号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、特許文献1に開示された車両用ロックアップクラッチの制御装置によると、ニュートラル制御からの復帰中にアクセルペダルが踏まれてもスリップスタートされる場合がある。ニュートラル制御からの復帰時においては、解放されていた前進クラッチ(入力クラッチやフォワードクラッチともいわれる)が係合される。この前進クラッチの係合初期にスリップスタートを実行すると、タービントルクが大きく変化してしまい、前進クラッチの係合特性が悪化する。これにより、係合ショックが発生するという問題や耐久性の問題が発生する。
【0012】
本発明は、上述の課題を解決するためになされたものであって、その目的は、ニュートラル制御からの復帰時において、係合要素の耐久性を保ちつつ、係合ショックの発生を抑制する、自動変速機の制御装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
第1の発明に係る自動変速機の制御装置は、車両の発進時に係合される係合要素を有する自動変速機を制御する。自動変速機は、ロックアップクラッチを備えたトルクコンバータと変速機構とから構成される。この制御装置は、前進走行ポジションで車両の状態が予め定められた条件を満足して停止した場合に、係合要素を解放するように変速機構を制御するためのニュートラル制御実行手段と、車両の状態が別途定められた条件を満足した場合に、係合要素を係合するように変速機構を制御するためのニュートラル制御復帰手段と、車両を発進させる際に、ロックアップクラッチを係合状態およびスリップ状態のいずれかの状態にするように、ロックアップクラッチを制御するための発進制御手段と、ニュートラル制御からの復帰状態を検知するための検知手段と、ニュートラル制御からの復帰状態に基づいて、発進制御手段によりロックアップクラッチを制御するか否かを決定するための決定手段とを含む。
【0014】
第1の発明によると、トルクコンバータからの出力トルクであるタービントルク(TT)は、エンジントルクTE(ポンプトルクTPと同じとする)およびトルクコンバータのトルク比t(t>1)を用いて、以下のように表わされる。ロックアップクラッチが解放状態である場合においてはTT=t×TE、ロックアップクラッチが解放状態でない場合においてはロックアップクラッチによる伝達トルクをTCとしてTT=t×(TE−TC)+TC=T×TE+(1−t)×TCとなる。このため、スリップスタートするときの方が{(1−t)×TC}の分だけタービントルクTTが変動する。タービントルクTTが変速機構への入力トルクになるとともに、車両の発進時に係合される係合要素であって、ニュートラル制御の実行時に解放状態とされ車両の発進時に係合状態にされる前進クラッチが後段に伝達するトルクになる。このトルクが前進クラッチが完全に係合するまでに変動すると、タービントルクTTが大きく変化した場合には前進クラッチが滑って磨耗しやすくなり、タービントルクTTが小さく変化した場合には前進クラッチが急激に係合されてショックが発生する。このため、検知手段によりニュートラル制御からの復帰状態(前進クラッチの係合状態)を検知して、前進クラッチが十分に係合していると判断されるとスリップスタートを許可するが、前進クラッチが十分に係合していると判断されないとスリップスタートを許可しない。その結果、ニュートラル制御からの復帰時において、係合要素の耐久性を保ちつつ、係合ショックの発生を抑制する、自動変速機の制御装置を提供することができる。
【0015】
第2の発明に係る自動変速機の制御装置においては、第1の発明の構成に加えて、決定手段は、ニュートラル制御からの復帰が初期状態であると、発進制御手段による制御を禁止するように決定するための手段を含む。
【0016】
第2の発明によると、ニュートラル制御からの復帰が初期状態であって前進クラッチが十分に係合していない場合にはスリップスタートを禁止して、タービントルクTTの変動による前進クラッチに与える影響を抑制することができる。
【0017】
第3の発明に係る自動変速機の制御装置においては、第1の発明の構成に加えて、決定手段は、ニュートラル制御からの復帰が初期状態を経過していると、発進制御手段による制御を実行するように決定するための手段を含む。
【0018】
第3の発明によると、ニュートラル制御からの復帰が初期状態を経過していて前進クラッチが十分に係合している場合にはスリップスタートを許可して、速やかに車両を発進させることができる。
【0019】
第4の発明に係る自動変速機の制御装置においては、第1の発明の構成に加えて、決定手段は、係合要素の係合状態に基づいて、ニュートラル制御からの復帰が初期状態であるか、初期状態を経過しているのかを判断して、ニュートラル制御からの復帰が初期状態を経過していると、発進制御手段による制御を実行するように決定するための手段を含む。
【0020】
第4の発明によると、車両の発進時に係合状態にされる前進クラッチが十分に係合していない場合には初期状態であると、前進クラッチが十分に係合している場合には初期状態を経過していると判断して、スリップスタートの許否を決定することができる。
【0021】
第5の発明に係る自動変速機の制御装置においては、第1の発明の構成に加えて、決定手段は、ニュートラル制御からの復帰を開始してから予め定められた時間が経過すると、初期状態を経過していると判断して、発進制御手段による制御を実行するように決定するための手段を含む。
【0022】
第5の発明によると、ニュートラル制御の復帰から前進クラッチを係合させるための油圧が供給され前進クラッチが係合されるが、この応答に遅れ時間が生じるので、ニュートラル制御からの復帰を開始してから予め定められた時間が経過すると、初期状態を経過していると判断することができる。
【0023】
第6の発明に係る自動変速機の制御装置においては、第1の発明の構成に加えて、決定手段は、タービン回転数が予め定められた回転数以下になると、初期状態を経過していると判断して、発進制御手段による制御を実行するように決定するための手段を含む。
【0024】
第6の発明によると、ニュートラル制御の復帰から前進クラッチを係合させるにしたがって、タービン回転数NTが低下するので、ニュートラル制御からの復帰を開始してからタービン回転数NTの変化を検知してタービン回転数NTが予め定められた回転数以下になると、初期状態を経過していると判断することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下、図面を参照しつつ、本発明の実施の形態について説明する。以下の説明では、同一の部品には同一の符号を付してある。それらの名称および機能も同じである。したがってそれらについての詳細な説明は繰返さない。
【0026】
<第1の実施の形態>
図1を参照して、本発明の第1の実施の形態に係る自動変速機の制御装置を搭載した車両について説明する。この車両は、FF(Front engine Front drive)車両である。なお、本実施の形態に係る自動変速機の制御装置を搭載した車両は、FF以外の車両であってもよい。
【0027】
車両は、エンジン1000と、トランスミッション2000と、トランスミッション2000の一部を構成するプラネタリーギヤユニット3000と、トランスミッション2000の一部を構成する油圧回路4000と、ディファレンシャルギヤ5000と、ドライブシャフト6000と、前輪7000と、ECU8000とを含む。
【0028】
エンジン1000は、インジェクタ(図示せず)から噴射された燃料と空気との混合気を、シリンダの燃焼室内で燃焼させる内燃機関である。燃焼によりシリンダ内のピストンが押し下げられて、クランクシャフトが回転させられる。なお、内燃機関の代わりに外燃機関を用いても良い。また、エンジン1000の代わりに回転電機などを用いてもよい。
【0029】
トランスミッション2000は、所望のギヤ段を形成することにより、クランクシャフトの回転数を所望の回転数に変速する。トランスミッション2000の出力ギヤは、ディファレンシャルギヤ5000と噛合っている。プラネタリーギヤユニット3000については、後で詳述する。
【0030】
ディファレンシャルギヤ5000にはドライブシャフト6000がスプライン嵌合などによって連結されている。ドライブシャフト6000を介して、左右の前輪7000に動力が伝達される。
【0031】
ECU8000には、車速センサ8002と、シフトレバー8004のポジションスイッチ8005と、アクセルペダル8006のアクセル開度センサ8007と、ブレーキペダル8008に設けられたストップランプスイッチ8009と、油温センサ8010とがハーネスなどを介して接続されている。
【0032】
車速センサ8002は、ドライブシャフト6000の回転数から車両の車速を検出し、検出結果を表す信号をECU8000に送信する。シフトレバー8004の位置は、ポジションスイッチ8005により検出され、検出結果を表す信号がECU8000に送信される。シフトレバー8004の位置に対応して、トランスミッション2000のギヤ段が自動で形成される。また、運転者の操作に応じて、運転者が任意のギヤ段を選択できるマニュアルシフトモードを選択できるように構成してもよい。
【0033】
アクセル開度センサ8007は、アクセルペダル8006の開度を検出し、検出結果を表す信号をECU8000に送信する。ストップランプスイッチ8009は、ブレーキペダル8008のオン/オフ状態を検出し、検出結果を表す信号をECU8000に送信する。なお、ストップランプスイッチ8009の代わりに、ブレーキペダル8008のストローク量を検出するストロークセンサを設けてもよい。油温センサ8010は、トランスミッション2000のATF(Automatic Transmission Fluid)の温度を検出し、検出結果を表す信号をECU8000に送信する。
【0034】
ECU8000は、車速センサ8002、ポジションスイッチ8005およびアクセル開度センサ8007、ストップランプスイッチ8009、油温センサ8010などから送られてきた信号、ROM(Read Only Memory)に記憶されたマップおよびプログラムに基づいて、車両が所望の走行状態となるように、機器類を制御する。
【0035】
図2を参照して、プラネタリーギヤユニット3000について説明する。プラネタリーギヤユニット3000は、クランクシャフトに連結された入力軸3100を有するトルクコンバータ3200に接続されている。プラネタリーギヤユニット3000は、遊星歯車機構の第1セット3300と、遊星歯車機構の第2セット3400と、出力ギヤ3500と、ギヤケース3600に固定されたB1ブレーキ3610、B2ブレーキ3620およびB3ブレーキ3630と、C1クラッチ3640およびC2クラッチ3650と、ワンウェイクラッチF3660とを含む。
【0036】
第1セット3300は、シングルピニオン型の遊星歯車機構である。第1セット3300は、サンギヤS(UD)3310と、ピニオンギヤ3320と、リングギヤR(UD)3330と、キャリアC(UD)3340とを含む。
【0037】
サンギヤS(UD)3310は、トルクコンバータ3200の出力軸3210に連結されている。ピ二オンギヤ3320は、キャリアC(UD)3340に回転自在に支持されている。ピ二オンギヤ3320は、サンギヤS(UD)3310およびリングギヤR(UD)3330と係合している。
【0038】
リングギヤR(UD)3330は、B3ブレーキ3630によりギヤケース3600に固定される。キャリアC(UD)3340は、B1ブレーキ3610によりギヤケース3600に固定される。
【0039】
第2セット3400は、ラビニヨ型の遊星歯車機構である。第2セット3400は、サンギヤS(D)3410と、ショートピニオンギヤ3420と、キャリアC(1)3422と、ロングピ二オンギヤ3430と、キャリアC(2)3432と、サンギヤS(S)3440と、リングギヤR(1)(R(2))3450とを含む。
【0040】
サンギヤS(D)3410は、キャリアC(UD)3340に連結されている。ショートピニオンギヤ3420は、キャリアC(1)3422に回転自在に支持されている。ショートピニオンギヤ3420は、サンギヤS(D)3410およびロングピ二オンギヤ3430と係合している。キャリアC(1)3422は、出力ギヤ3500に連結されている。
【0041】
ロングピ二オンギヤ3430は、キャリアC(2)3432に回転自在に支持されている。ロングピ二オンギヤ3430は、ショートピニオンギヤ3420、サンギヤS(S)3440およびリングギヤR(1)(R(2))3450と係合している。キャリアC(2)3432は、出力ギヤ3500に連結されている。
【0042】
サンギヤS(S)3440は、C1クラッチ3640によりトルクコンバータ3200の出力軸3210に連結される。リングギヤR(1)(R(2))3450は、B2ブレーキ3620により、ギヤケース3600に固定され、C2クラッチ3650によりトルクコンバータ3200の出力軸3210に連結される。また、リングギヤR(1)(R(2))3450は、ワンウェイクラッチF3660に連結されており、1速ギヤ段の駆動時に回転不能となる。
【0043】
図3に、各変速ギヤ段と、各クラッチおよび各ブレーキの作動状態との関係を表した作動表を示す。「○」は係合を表している。「×」は解放を表している。「◎」はエンジンブレーキ時のみの係合を表している。「△」は駆動時のみの係合を表している。この作動表に示された組合わせで各ブレーキおよび各クラッチを作動させることにより、1速〜6速の前進ギヤ段と、後進ギヤ段が形成される。
【0044】
B2ブレーキ3620と並列にワンウェイクラッチF3660が設けられているため、作動表に「◎」で示されているように、1速ギヤ段(1ST)形成時のエンジン側からの駆動状態(加速時)にはB2ブレーキ3620を係合させる必要は無い。本実施の形態において、ワンウェイクラッチF3660は、1速ギヤ段の駆動時には、リングギヤR(1)(R(2))3450の回転を防止する。エンジンブレーキを利かせる場合、ワンウェイクラッチF3660は、リングギヤR(1)(R(2))3450の回転を防止しない。
【0045】
トルクコンバータ3200は、入力軸と出力軸とを直結状態にするロックアップクラッチ3203と、入力軸側のポンプ羽根車3201と、出力軸側のタービン羽根車3202と、ワンウェイクラッチ3204を有し、トルク増幅機能を発現するステータ3205とから構成される。トルクコンバータ3200と自動変速機とは、回転軸により接続される。トルクコンバータ3200の出力軸回転数NT(タービン回転数NT)は、タービン回転数センサにより検知される。自動変速機の出力軸回転数NOUTは、出力軸回転数センサにより検知される。
【0046】
図3に示した作動表によると、摩擦要素であるクラッチ要素(図中のC1〜C2)や、ブレーキ要素(B1〜B3)、ワンウェイクラッチ要素(F)が、どのギヤ段の場合に係合および解放されるかを示している。車両の発進時に使用される1速時には、クラッチ要素(C1)、ワンウェイクラッチ要素(F)が係合する。これらのクラッチ要素の中で、特に、C1クラッチ3640を前進クラッチや入力クラッチやフォワードクラッチとも呼ばれ、図3の作動表に示すように、パーキング(P)ポジション、後進走行(R)ポジション、ニュートラル(N)ポジション以外の、車両が前進するための変速段を構成する際に必ず係合状態で使用される。
【0047】
前進走行(D)ポジションであって、車両の状態が予め定められた条件(アクセルオフかつブレーキオンかつブレーキマスタシリンダ圧が所定値以上かつ車速が所定値以下)を満足して停止状態にあると判定されると、C1クラッチ3640を解放して所定のスリップ状態にして、ニュートラルに近い状態にする制御をニュートラル制御という。
【0048】
本実施の形態に係る制御装置であるECU8000は、ニュートラル制御からの復帰時においてトルクコンバータ3200のロックアップクラッチ3206をスリップ状態にしてスリップスタートさせるが、C1クラッチ3640が係合されるまでの間においては、このスリップスタートを禁止することが特徴である。以下、この特徴についてフローチャートを用いて説明する。
【0049】
図4を参照して、本実施の形態に係る制御装置であるECU8000で実行されるプログラムの制御構造について説明する。なお、以下に示すフローチャートにより表わされるプログラムは、所定のサイクルタイムで繰り返し実行される。
【0050】
ステップ(以下、ステップをSと略す。)100にて、ECU8000は、ニュートラル制御実行モードであるか否かを判断する。車両が停止して、アクセルペダルが踏まれていなくて、ブレーキが作動している等の条件が成立するとニュートラル制御実行モードに入りC1クラッチ3640が解放される。ニュートラル制御実行モードであると(S100にてYES)、処理はS200へ移される。もしそうでないと(S100にてNO)、この処理は終了する。
【0051】
S200にて、ECU8000は、ニュートラル制御復帰モードであるか否かを判断する。車両が停止しているが、ブレーキが作動していない(ブレーキペダルが踏まれなくなった)等の条件が成立するとニュートラル制御復帰モードに入りC1クラッチ3640の係合が開始される。ニュートラル制御復帰モードであると(S200にてYES)、処理はS300へ移される。もしそうでないと(S200にてNO)、この処理は終了する。
【0052】
S300にて、ECU8000は、ニュートラル制御復帰モード中であってアクセルペダルが踏まれてアクセルオンにされたか否かを判断する。アクセルオンであると判断されると(S300にてYES)、処理はS400へ移される。もしそうでないと(S300にてNO)、処理はS200へ戻される。
【0053】
S400にて、ECU8000は、ニュートラル制御復帰モードの進行状況を検知する。C1クラッチ3640が解放状態からどの程度係合されたか否かが検知される。本実施の形態においては、その検知方法は特に限定されない。
【0054】
S500にて、ECU8000は、ニュートラル制御復帰モードの初期であるか否かを判断する。ニュートラル制御復帰モードの初期であると判断されると(S500にてYES)、処理はS600へ移される。もしそうでないと(S500にてNO)、処理はS700へ移される。
【0055】
以上のような構造およびフローチャートに基づく本実施の形態に係る自動変速機の制御装置であるECU8000により制御される車両の動作について、図5〜図7に示すタイミングチャートを参照して説明する。
【0056】
図5は、ニュートラル制御実行モードからニュートラル制御復帰モードを経て通常モードへ移行する際の、エンジン回転数NE、タービン回転数NTおよびC1クラッチ3640の係合圧(指示圧)の時間変化を表わしている。この図5はアクセルペダルが踏まれていない場合を示す(すなわち、エンジン回転数NEが変化していない)。時刻t(1)でブレーキ信号がオフになると(S200にてYES)、ニュートラル制御復帰モードに入りC1クラッチ3640の係合圧(指示圧)が、一旦初期係合圧まで上昇された後に定圧待機圧が維持されてその後一定の勾配で上昇されて、時刻t(2)でC1クラッチ3640の係合が完了して、ニュートラル制御復帰モードから通常モードになる。このとき、ニュートラル制御復帰モード期間においては、C1クラッチ3640の係合に伴い、タービン回転数NTが低下するとともに、トルクコンバータ3200の状態は、トルクを伝達する状態からトルクを伝達しないで滑る状態に変化する。
【0057】
図6は、図5に示すニュートラル制御復帰モード中にアクセルペダルが踏まれてスロットルが開いた状態(スリップスタートなし)を表わしている。たとえば、運転者が時刻t(1)でブレーキペダルを離した直後の時刻t(3)でアクセルペダルを踏んだ場合である。時刻t(3)からエンジン回転数NEが上昇する。時刻t(2)でC1クラッチ3640の係合が完了する。ニュートラル制御復帰モード期間においては、タービン回転数NTは、図5と同じように低下している。時刻t(2)以降において、トルクコンバータ3200を介してエンジントルクTEが変速機構(1stを形成)に伝達され所望のギヤ比で駆動輪である前輪に伝達され、車両が発進する。
【0058】
図7は、図5に示すニュートラル制御復帰モード中にアクセルペダルが踏まれてスロットルが開いた状態であって、スリップスタートありとスリップスタートなしの場合とを表わしている。ニュートラル制御復帰モード中に(S200にてYES)、アクセルオンになると(S300にてYES)、ニュートラル制御復帰モードの進行状況が検知される(S400)。ニュートラル制御復帰モードの初期状態であると判断されると(S500にてYES)、スリップスタートが禁止され(S600)、タービン回転数NTが実線で示すように変化する。なお、ここでは、ニュートラル制御復帰モードの初期状態が時刻t(2)まで続いていると想定する(時刻t(2)よりももう少し早い時刻までが初期状態であってもよい)。時刻t(2)になるとニュートラル制御復帰モードの初期状態でないと判断され(S500にてNO)、スリップスタートが許可される(S700)。これにより、スリップスタートなしの場合(時刻t(2)以降の点線のNT)に比較してタービン回転数NT(時刻t(2)以降の実線のNT)が早く立ち上がり発進性能が向上する。
【0059】
一方、従来のように、ニュートラル制御復帰モードの初期であっても、スリップスタートを実行すると(時刻t(4)でスリップスタート開始)、タービントルクTTが低下した場合には、C1クラッチ3640が急係合してショックが発生する(時刻t(4)以降の一点鎖線のNT)。また、タービントルクTTが上昇した場合には、C1クラッチ3640が十分にトルクを伝達できないまま滑って耐磨耗性が悪化する(時刻t(4)以降の二点鎖線のNT)。
【0060】
以上のようにして、本実施の形態に係る自動変速機の制御装置であるECUによると、ニュートラル制御からの復帰時であって前進クラッチが十分に係合されていない場合には、スリップスタートを禁止した。これにより、ニュートラル制御からの復帰時において、前進クラッチの耐久性を保ちつつ、係合ショックの発生を抑制することができる。
【0061】
<第2の実施の形態>
以下、本発明の第2の実施の形態について説明する。なお、本実施の形態における制御ブロック等は前述の第1の実施の形態と同じである。したがって、それらについての詳細な説明はここでは繰り返さない。本実施の形態は、前述の第1の実施の形態と一部が異なるプログラムを実行する。
【0062】
図8を参照して、本実施の形態に係る制御装置であるECU8000で実行されるプログラムの制御構造について説明する。なお、図4に示したフローチャートと同じ処理については同じステップ番号を付してある。それらの処理の内容も同じである。したがって、それらについての詳細な説明はここでは繰り返さない。
【0063】
S1000にて、ECU8000は、タイマ(タイマ設定値をTしきい値とする)をスタートさせる。S1100にて、ECU8000は、タイマのカウント時間TがTしきい値未満であるか否かを判断する。タイマのカウント時間TがTしきい値未満であると、すなわち、タイムアップしていないと(S1100にてYES)、処理はS600へ移される。もしそうでないと(S1100にてNO)、処理はS700へ移される。
【0064】
以上のようにして、ニュートラル制御の復帰から前進クラッチを係合させるための油圧が供給され前進クラッチが係合されるまでの時間をタイマで監視して、ニュートラル制御からの復帰を開始してから予め定められた時間が経過すると、初期状態を経過していると判断して、スリップスタートを許可することができる。そうでない場合には、スリップスタートを禁止して、前進クラッチの係合ショックを抑制するとともに、前進クラッチの耐久性を向上することができる。
【0065】
<第3の実施の形態>
以下、本発明の第3の実施の形態について説明する。なお、本実施の形態における制御ブロック等は前述の第1の実施の形態と同じである。したがって、それらについての詳細な説明はここでは繰り返さない。本実施の形態は、前述の第1の実施の形態と一部が異なるプログラムを実行する。
【0066】
図9を参照して、本実施の形態に係る制御装置であるECU8000で実行されるプログラムの制御構造について説明する。なお、図4に示したフローチャートと同じ処理については同じステップ番号を付してある。それらの処理の内容も同じである。したがって、それらについての詳細な説明はここでは繰り返さない。
【0067】
S2000にて、ECU8000は、タービン回転数NTを検知する。S2100にて、ECU8000は、タービン回転数NTがNTしきい値よりも高いか否かを判断する。タービン回転数NTがNTしきい値よりもまだ高いと(S2100にてYES)、処理はS600へ移される。もしそうでないと(S2100にてNO)、処理はS700へ移される。
【0068】
以上のようにして、ニュートラル制御の復帰から前進クラッチを係合させるにしたがって、タービン回転数NTが低下するので、ニュートラル制御からの復帰を開始してからタービン回転数NTの変化を検知してタービン回転数NTがNTしきい値以下になると、初期状態を経過していると判断して、スリップスタートを許可することができる。そうでない場合には、スリップスタートを禁止して、前進クラッチの係合ショックを抑制するとともに、前進クラッチの耐久性を向上することができる。
【0069】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【図面の簡単な説明】
【0070】
【図1】本発明の第1の実施の形態に係る制御装置を搭載した車両を示す制御ブロック図である。
【図2】プラネタリギヤユニットを示すスケルトン図である。
【図3】各ギヤ段と、各ブレーキおよび各クラッチの対応を表した作動表を示す図である。
【図4】本発明の第1の実施の形態に係る制御装置であるECUで実行されるプログラムの制御構造を示すフローチャートである。
【図5】本発明の第1の実施の形態に係る制御装置であるECUで実行された場合の各状態量のタイミングチャートを示す図(その1)である。
【図6】本発明の第1の実施の形態に係る制御装置であるECUで実行された場合の各状態量のタイミングチャートを示す図(その2)である。
【図7】本発明の第1の実施の形態に係る制御装置であるECUで実行された場合の各状態量のタイミングチャートを示す図(その3)である。
【図8】本発明の第2の実施の形態に係る制御装置であるECUで実行されるプログラムの制御構造を示すフローチャートである。
【図9】本発明の第3の実施の形態に係る制御装置であるECUで実行されるプログラムの制御構造を示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0071】
1000 エンジン、2000 トランスミッション、3000 プラネタリーギヤユニット、4000 油圧回路、5000 ディファレンシャルギヤ、6000 ドライブシャフト、7000 前輪、8000 ECU。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の発進時に係合される係合要素を有する自動変速機の制御装置であって、
前記自動変速機は、ロックアップクラッチを備えたトルクコンバータと変速機構とから構成され、
前進走行ポジションで前記車両の状態が予め定められた条件を満足して停止した場合に、前記係合要素を解放するように前記変速機構を制御するためのニュートラル制御実行手段と、
前記車両の状態が別途定められた条件を満足した場合に、前記係合要素を係合するように前記変速機構を制御するためのニュートラル制御復帰手段と、
前記車両を発進させる際に、前記ロックアップクラッチを係合状態およびスリップ状態のいずれかの状態にするように、前記ロックアップクラッチを制御するための発進制御手段と、
前記ニュートラル制御からの復帰状態を検知するための検知手段と、
前記ニュートラル制御からの復帰状態に基づいて、前記発進制御手段により前記ロックアップクラッチを制御するか否かを決定するための決定手段とを含む、自動変速機の制御装置。
【請求項2】
前記決定手段は、前記ニュートラル制御からの復帰が初期状態であると、前記発進制御手段による制御を禁止するように決定するための手段を含む、請求項1に記載の自動変速機の制御装置。
【請求項3】
前記決定手段は、前記ニュートラル制御からの復帰が初期状態を経過していると、前記発進制御手段による制御を実行するように決定するための手段を含む、請求項1に記載の自動変速機の制御装置。
【請求項4】
前記決定手段は、前記係合要素の係合状態に基づいて、前記ニュートラル制御からの復帰が初期状態であるか、前記初期状態を経過しているのかを判断して、前記ニュートラル制御からの復帰が初期状態を経過していると、前記発進制御手段による制御を実行するように決定するための手段を含む、請求項1に記載の自動変速機の制御装置。
【請求項5】
前記決定手段は、前記ニュートラル制御からの復帰を開始してから予め定められた時間が経過すると、前記初期状態を経過していると判断して、前記発進制御手段による制御を実行するように決定するための手段を含む、請求項1に記載の自動変速機の制御装置。
【請求項6】
前記決定手段は、タービン回転数が予め定められた回転数以下になると、前記初期状態を経過していると判断して、前記発進制御手段による制御を実行するように決定するための手段を含む、請求項1に記載の自動変速機の制御装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate


【公開番号】特開2006−250287(P2006−250287A)
【公開日】平成18年9月21日(2006.9.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−69616(P2005−69616)
【出願日】平成17年3月11日(2005.3.11)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】